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No.10793の一覧
[0] 天使を憐れむ歌 【ゼロ魔×エヴァ】【オリ設定の嵐】[エンキドゥ](2014/03/14 23:48)
[1] プロローグ 赤い海の畔で[エンキドゥ](2009/08/15 09:27)
[2] 第一話 召還[エンキドゥ](2013/03/09 22:48)
[3] 第二話 見知らぬ世界[エンキドゥ](2013/03/09 22:56)
[4] 第三話 2日目 その1 疑惑[エンキドゥ](2013/03/09 22:51)
[5] 第四話 2日目 その2 探知魔法[エンキドゥ](2013/03/09 22:54)
[6] 第五話 2日目 その3 授業[エンキドゥ](2013/03/09 22:57)
[7] 幕間話1  授業参観[エンキドゥ](2013/03/09 23:00)
[8] 第六話 2日目 その4 決闘?[エンキドゥ](2013/03/09 23:04)
[9] 第七話 2日目 その5 決意[エンキドゥ](2013/03/09 23:14)
[10] 第八話 3日目 その1 使い魔の1日[エンキドゥ](2013/03/09 23:09)
[11] 第九話 3日目 その2 爆発[エンキドゥ](2013/03/09 23:13)
[12] 第十話 虚無の休日 その1 王都トリスタニア[エンキドゥ](2013/03/09 23:18)
[13] 第十一話 虚無の休日 その2  魔剣デルフリンガー[エンキドゥ](2013/03/09 23:23)
[14] 第十二話 土くれのフーケ その1 事件[エンキドゥ](2013/03/09 23:40)
[15] 幕間話2 フーケを憐れむ歌[エンキドゥ](2013/03/10 05:17)
[16] 第十三話 土くれのフーケ その2 悪魔[エンキドゥ](2013/03/10 05:19)
[17] 第十四話 平和なる日々 その1[エンキドゥ](2013/03/10 05:21)
[18] 第十五話 平和なる日々 その2[エンキドゥ](2013/03/10 05:23)
[19] 第十六話 平和なる日々 その3[エンキドゥ](2013/03/10 05:24)
[20] 第十七話 王女の依頼[エンキドゥ](2013/03/10 05:37)
[21] 第十八話 アルビオンヘ その1[エンキドゥ](2013/03/10 05:39)
[22] 第十九話 アルビオンへ その2[エンキドゥ](2013/03/10 05:41)
[23] 第二十話 アルビオンへ その3[エンキドゥ](2013/03/10 05:43)
[24] 第二十一話 アルビオンへ その4[エンキドゥ](2013/03/10 05:44)
[25] 第二十二話 アルビオンへ その5[エンキドゥ](2013/03/10 05:45)
[26] 第二十三話 亡国の王子[エンキドゥ](2013/03/11 20:58)
[27] 第二十四話 阿呆船[エンキドゥ](2013/03/11 20:58)
[28] 第二十五話 神槍[エンキドゥ](2013/03/10 05:53)
[29] 第二十六話 決戦前夜[エンキドゥ](2013/03/10 05:56)
[30] 第二十七話 化身[エンキドゥ](2013/03/10 06:00)
[31] 第二十八話 対決[エンキドゥ](2013/03/10 05:26)
[32] 第二十九話 領域[エンキドゥ](2013/03/10 05:28)
[33] 第三十話 演劇の神 その1[エンキドゥ](2013/03/10 06:02)
[34] 第三十一話 演劇の神 その2[エンキドゥ](2014/02/01 21:22)
[35] 第三十二話 無実は苛む[エンキドゥ](2013/07/17 00:09)
[36] 第三十三話 純正 その1 ガンダールヴ[エンキドゥ](2013/07/16 23:58)
[37] 第三十四話 純正 その2 竜と鼠のゲーム[エンキドゥ](2013/10/16 23:16)
[38] 第三十五話 許されざる者 その1[エンキドゥ](2014/01/10 22:30)
[39] 幕間話3 されど使い魔は竜と踊る[エンキドゥ](2014/02/01 21:25)
[40] 第三十六話 許されざる者 その2[エンキドゥ](2014/03/14 23:45)
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[10793] 第十五話 平和なる日々 その2
Name: エンキドゥ◆37e0189d ID:92c06cc6 前を表示する / 次を表示する
Date: 2013/03/10 05:23


夕食も終わり、いつものように入り口でルイズを待っていると、のっそりと学院長が現れた。
オールド・オスマンに会うと、たいがいの人が最初に抱く印象は背の高い人物である。といったところだろう。
シンジもまた、身長だけなら自分の父親並みだと思っていた。シンジの父、ゲンドウは190サント近い大男だったのだ。
しかしながら、その老メイジの顔には無数のしわが刻まれ、眼光鋭く、豊かに長く伸ばした髪もひげも真っ白だ。
いかにも歴戦の魔法使いと言う面持ちである。
片手にはスタッフと言われる長大な曲がり杖を持ち、マントではなく濃い緑色のローブを身にまとっている。正直、立っているだけでも絵になる人物である。

「よう、シンジ君。 探しておったのじゃよ」

件の『破壊の杖』の説明は、確かに今日の夕飯後に約束をしている。

「どうなさったんですか学院長。こちらから出向こうと思っていたのですが。それに、まだ夕食の時間ですよね」
「なぁに、わしは早食いじゃからな。ところでシンジ君。今日のことじゃが、君がこの「破壊の杖」について講義をしてくれると言うので、希望者を募ったところ、予想外に人数が多くてな、今更ダメとも言えんので場所を移したいのじゃが、良いかの」
「え、ええ、それは学院長の良いようにしてください。……ところでどこでやるんですか」
「なに、そこの「アルヴィーズの食堂」じゃ」
「ええと、僕は使い魔ですので、入るわけには行かないのですが」
「なんじゃい、ツマラン事を気にしておるのう。よろしい学院長たるわしが許可しよう。さ、これでよいかな」
「うーん、では皆さんの食事が終わるまで待っています」

不思議なことに、いまだに誰一人食堂から出てこないのだ。シンジはいつも、厨房の勝手口から出入りしているが、大概は早めに食事を終えた生徒たちを見かけるのに、今日に限って誰とも会っていなかった。

「食事なんぞ、みな終わっておる。講師の登場を待ちかねているのじゃ」

シンジは、このセリフで現状を把握するに至った。思わず天を仰ぐ。

「うわちゃー! な、何人ぐらいです」
「さて、生徒たちが270名ぐらいだったかのう。教師はわしを含め22名。それにたっての希望での、ミス・ロングビルも出席したいと言っておる」

それは学院内の使用人を除く、ほぼ全員と言うことである。

「勘弁してください。それにボクの説明なんて誰が本気にするんですか」
「なに、強制ではない希望する者のみじゃ。それになシンジ君。君はもう少し自分に対する評価を知ったほうが良いな」
「どう言う意味でしょう?」
「なぞの球体より現れ、伝説の使い魔のルーンを二つもその身に刻み。メイドの女性を助けるためドットとは言え、かの「青銅のギーシュ」をナイフ1丁であしらった。授業においては「錬金」の本質を見抜き。 さらに主人たるミス・ヴァリエールを助けるために、その爆発を不思議な力で押さえ込み。また、誰もが二の足を踏んだフーケ討伐に、たった一人で赴きこれをなした。
昨日は君のチェロの音が耳に残って夜眠れんと、何人かの生徒が「水」の生徒に睡眠薬を処方してもらっておったな。ちなみにわしもじゃ。
まだまだあるが、これだけでも唯の平民、いやさ、たとえメイジじゃろうともそう簡単に成せるものかよ。そして本人は、そのことをちぃーっとも鼻にかけとらん。まったく、わしの若い頃そっくりじゃ。
君、最近朝の洗濯場に異様にメイドが多いと思わんかね?みーんな君目当てじゃよ。 まったくうらやまけしからん」
「……ルーンに関しては、つけたのはルイズさんでボクのあずかり知らないことです。ギーシュさんは油断していただけでしょうし、フーケは捕まえられなかったし、チェロに関しては僕じゃなくチャック・ベリーって人が作曲した曲です。
メイドの皆さんは、最近いい天気が続いているから、そりゃ洗濯しておこうって思いますよ。他のことも、僕が偉いわけじゃありません。だいたい僕はルイズさんの使い魔で、体を張って彼女を守るのは当然でしょう」
「むっ」

(なるほどのぅ、ルーンをつけたのはミス・ヴァリエール嬢か。わしも耄碌しておったのう。彼の存在に目がくらんでおった。たしかに、呼び出したのも、ルーンを刻んだのも彼女じゃった。はてさて、彼女はいったい?)

「あの、どうかしましたか?」

シンジは急に黙り込んでしまった学院長を心配そうに見ていた。

「ほほ、いやなにミス・ヴァリエールはまた、随分と主人思いの使い魔を召還したと思ってのぅ。
良きことじゃ。 善哉、善哉」
「……」
「おっと、こうしてはおれん。ささ、生徒たちが待っておる。さあロバ・アル・カリイエ(東方)の彼方より召還されし小さき賢者よ、わがトリスティン魔法学院の生徒たちに、その深遠なる知識の一端をさずけたまえ」

オールド・オスマンは急に芝居がかった言い方で、シンジをアルヴィーズの食堂に連れ込んだ。



第十五話 平和なる日々 その2



「まーったく、あったまきちゃうわ、あのボケ老人!何も学院生全員の前で、やんなくてもいいじゃない!人の使い魔をなんだと思っているのかしら」

ルイズとシンジは、また魔法の練習のため、いつもより少し遠くの森にいた。

「そういえば、希望者を募ったって言ってましたけど、今日はずっと一緒にいましたよね。いつそんなことを?」
「今日の夕食前のお祈りの後よ。いきなり立ち上がって。こう言ったの。『今日の夕食後、わが学院の秘宝「破壊の杖」について特別講義を執り行う。強制ではないが希望するものはその場に残りしばし待て』ってね。そりゃみんな残るわよ」

ルイズは随分と怒っているようだ、自分の独占状態にしておきたかったシンジの知識を、わずかとは言え全学院生徒と教師たちに知られたのだから。

「ルイズさん、ボクの知識なんてそうそう役に立つようなものじゃありませんよ。一足飛びに結論だけでは応用も利きませんし、発展もしません。科学って言うのは、みんながあるていど知っていないと中々役には立たないものなんです」
「えっ、そうなの」
「はい、それに科学って実は自然現象にもっとも矛盾の少ない仮説をつけているだけなんです。科学は、そうそう断言はしないんです」
「ずいぶんと謙虚なのね」

まるで、私の使い魔のようだと言って、ルイズは笑った。

「ぼくが知っていることなんて、結局、昔の頭が良かった人が考えた結論を知っているだけですから。 それも断片的に。だから、今まで言ったことの証明も簡単には出来ません。それには大抵、長い長い観察とか実験を必要とするんです」
「へー、例えば?」
「そうですね、うーん。……この間、僕らがいるこの世界が地球って言う惑星で、それは銀河系の中にあって、そしてその銀河系も宇宙に浮かんでいる、唯の小さな銀河の一つだって言いましたよね。 
そしてその宇宙の大きさも宇宙が誕生したのが何年前なのかも、実はある程度わかっているんです」
「へえ、どうやって?」

そこで、シンジは立ち止まりルイズと共に空を見上げた。

「夜空に浮かぶ星座は、一定不変に見えますが実は少しづつ動いているんです。もちろん、少しづつと言っても僕らから見ればであって、現実にはものすごい速さです。そして、銀河同士はお互いに離れていく方向に動いています。それも、遠くの銀河ほど速いスピードで」

ルイズは、時折うんうんとうなずく。

「これだけ言うと、僕らがいる銀河系が宇宙の中心みたいに聞こえるけどそうじゃないんです。要は、ゴムひもを引っ張るようにあるいはゴム風船を膨らますようにこの宇宙は膨張し続けているんです。 だから……」
「伸びる前は縮んでいた。そうでしょう!」

得意げにルイズが答える。

「その通りです。だからいくつかの銀河を長い間観察して、その移動した距離を測ります。そして、何年前だったらその銀河同士は同じ位置にあったのかを計算するんです。そうして、宇宙の年齢は計られました」
「いくつなの」
「だいたい、百三十七億歳だそうです。そしてそれ以前はどういう状態だったのか良くわかっていません」

シンジがそこまで話すと、背中の剣がカタカタ鳴って飛び出てきた。

「相棒は、スゲエ物知りだね。久しぶりに退屈がまぎれて面白かったよ。よかったら、もっと話してくんな」

そうして、夜空に光る星はみな太陽(恒星)であるとか、他の銀河は遠すぎて、見ようと思ったら大きな望遠鏡が必要だとかの話を続けた。


一方その頃、学院長は白い口ひげを鼻血で赤く染めていた。

「むぷう、ら、らんといふひひき(知識)」

学院長の最近の日課であるシンジウォッチングである。鼻を押さえているため少々発音がおかしい。
そしてもう一人。

「きえー、お姉さま。あたしの背中で鼻血をたらすのはやめて欲しいのね。きれいな体を汚さないで欲しいのねー!」
「うりゅはい、らまって飛んで、気づかれる」

タバサとその使い魔たる風竜、シルフィードであった。風メイジは、聴覚に優れる。学院長と同じく、シンジの話の内容に興奮し、おもわず鼻血が出てしまったようだ。
デルフは上空の一人と一匹に気づいていたが、主人と相棒がよい雰囲気だったし、危険な相手ではないと判断したため放置していた。

「へっへへへへへ」

デルフが急に笑い出した。

「どうしたのさ、デルフ?」
「いやー、平和だと思ってよ。天気はよくて風は気持ち良い、ご主人と相棒は仲がいい、おいらは相棒の背中で退屈を嘆くっと、こういうのも悪かぁねえ。ほんとによ、悪かぁねえなって思ってな」

「……季節は春、時は朝、歩く道には朝露満ちて。雲の中には雀たち、枝を這うのはカタツムリ。 神様は何時も空から下界を見下ろす。なべて世は事も無し、かい」

ルイズがきょとんとした顔で、シンジを見ていた。デルフが自分とシンジが仲がいいと言ったところで、照れ隠しに怒ろうとした時、シンジが急に詩を朗読し始めたのだ。

「相棒は詩人だね。 こうなんつーかハートに来るね」
「『春の朝』って言う詩なんだ。どんなことがあろうと世の中は変わらず回っていくって意味だと思うけど、今のデルフの心境はこんなとこじゃない」
「おお、そうか!詩をささげてくれたのか!6千年伝説やってたが、詩を貰ったのは初めてだ!かー、うれしいじゃねえか!ありがとよ、相棒!」
「ほほほ、何を言っているのよ、ぼろ剣の分際で。今のはご主人様たる、このあたしに捧げられた物よ。身の程を知りなさい!!」
「え、え、い、いや、だって相棒は俺の心境を語ってくれたんだぜ。ご主人様とは言えこいつはゆずれねえ」
「おほほほほ、溶かされたいのかしら?それとも折られたい?」
「ひでえ!相棒、なんとか言ってくれ」

話を振られても、困ったような笑顔を返すしかない。
ルイズの平和なる日々は続く。使い魔たるシンジを召還してから、本当に何もかもがうまく回っている感じだ。

近いうちに行われる使い魔品評会にはトリスティン王女、アンリエッタ姫様がお忙しい仕事の合間をぬって行幸されることが決定された。主役たる2年生はもちろんのこと、1年生、3年生のみんなも杖を磨き、使い魔の躾、訓練に余念が無い。学院の生徒たちはみな、美しい王女様を一目みたい、また、お目に止まりたいとがんばっている。それはルイズも一緒である。

品評会用の訓練の基本は、名前を呼んで応えさせる事、主人を見分けること、簡単な命令に従わせること。特技の披露はその後だ。
だが、言葉を理解するシンジには先の三つは今さらであり、特にやることも無い。
むしろ、シンジの演奏にあわせ杖を振らなければならないルイズのほうが訓練しなければならないのだが、どうも指揮者を甘く見ているようである。





教室の扉が開き、ミスタ・ギトーが現れた。生徒たちは一斉に席に着き、神妙にしている。
長い黒髪に、漆黒のマントをまとったその姿は、いささか不気味であり、冷たい印象をまとっている。本人も解ってやっている所があり、ありていに言えば若いことで生徒に嘗められないための演出である。
二つ名は「疾風」。併せて「疾風のギトー」と自らを称している。

「では授業を始める」

教室中が、空気が圧縮されたような重い雰囲気に包まれた。
その様子を満足げに眺め、ミスタ・ギトーは言葉を続けた。

「戦いにおいて、もっとも有利な系統は何か……」
「虚無じゃないんですか?」

ミスタ・ギトーの言葉に割り込んだのはキュルケである。

「虚無は伝説の系統ではあるが、歴史の狭間に消え、今もってその威力、効果のほどがわかっていない。その担い手もまた現実に存在しない以上、比較の対象にはならないだろう」
「で、あるのなら、それはもちろん「火」に決まっていますわ」

キュルケは不適な笑みを浮かべて言い放った。

(彼女は確か、学生としては数少ないトライアングルだったな)

「ふむ、それはなぜなのか。 ぜひともご教授願いたい」
「あら、すべてを燃やしつくせるのは、火と情熱。 そうじゃございませんこと?」
「残念ながら、そうではない」

ミスタ・ギトーは、自然な、しかしすばやい動作で腰に差した杖を引き抜くと、言い放った。

「火はむしろ、対魔法戦においては弱い系統に属する。このクラスの火系統の諸君、全員立ちたまえ」

三十人の生徒のうち、九人ほどが立ち上がる。

「ミス・ツェルプストー、君はトライアングルだったな。 よろしい、君が魔法のとりまとめを行い。全員でこの私に『火』の魔法をぶつけてきたまえ」
「「「ええー」」」

キュルケら火系統の生徒たちはぎょっとした。 いきなりこの先生は何を言うのだろう。

「どうしたね、『火』の諸君。君たちは戦闘が得意なのだろう?」

挑発するような、その言葉。

「火傷じゃ、すみませんわよ」
「ああ、有名なツェルプストー家の赤毛の由縁を見せてもらおう」

キュルケは眼を細めて、この挑発に乗った。そして、いつもの小ばかにしたような笑みが消える。
立ち上がった生徒全員で、Vの字型に陣形を取る。扇の要はもちろんトライアングルのキュルケだ。

「みんな、呪文はフレイムボール、中心核は私の杖先1メイル、2人ずつ時間差で注ぎ込んで。いいわね!」

全員、頷く。みな自分の系統には自信を持っているのだ。特に「火」系統の生徒にはそれが顕著である。それを『弱い』と断じた、この男を許すわけにはいかない。
幸いこの教室は石で出来ている。飛び火しても火事になることは無いだろう。最悪、窓から飛び出せばいい。天気がいいので窓はすべて開いている。

ちらりと、ミスタ・ギトーを見れば、あくびをしていた。おそらくはポーズだろうがむかつくのは止められない。

胸の谷間から自身の杖を引き抜き、キュルケの炎のような赤毛が、風も無いのに揺らめき次の一瞬でブアッと膨らんだ。
杖を構えた、呪文はすでに詠唱中である。
杖の先、1メイルほどに小さな火の玉が現れる。残りの八人はその火の玉めがけ自分の精神力と共に火の魔法を発現させる。
火の魔法は比較的合流させやすい。たちまちのうちに人など一瞬で飲み込みそうな大きさになる。
他の生徒たちは、すでに教室の端に非難済みだ。
キュルケは手首を回転させた後、右手を胸元にひきつけ炎の玉を押し出すしぐさをした。

「1・2の3!」

すでに、フレイムボールではない、トライアングル一人、ライン三人、ドット五人の全力全開。威力はハーフスクエアクラス、魔法による火炎放射だ。うなりを上げて押し寄せる炎の大蛇。 しかしギトーは避けるしぐさも見せずに、ある呪文をつぶやいた。ギトーの杖先3メイルほどだろうか、そこに見えない壁があった。目に見えない空気の壁、しかしながら例えスクエアクラスのエアシールドだろうと九人の炎である。
加えて九人が合同で魔法を張っているため、かき消しても、かき消しても津波のように炎が襲ってくる。
しかしながらミスタ・ギトーは涼しい顔でこの炎の大蛇を受け止めている。
30秒ほど過ぎた頃だろうか。キュルケはふいに炎の放射をやめた、ある一線からどうしても炎が前に進まないのだ。炎が止まっているわけでも、風で押し返されているわけでもない。
そう、例えるなら目に見えない穴が開いており、そこに炎がすべて吸い込まれていく感じである。
そして、不承不承と言った態で両手を挙げたのだ。だが、魔法が止んでも、ミスタ・ギトーは油断なく目の前の火メイジたちを睨んだままだ。

「終わり、と思ってよいかね『火系統』の諸君」

指揮官たるキュルケが手を上げてしまった以上、他の全員も降参せざるを得ない。
それに、トライアングルのキュルケはともかく、他のドット、ラインの生徒たちはキュルケの魔法圧とでも言うべきものに引っ張られ、30秒ほどの短時間にもかかわらず精神力を根こそぎ持っていかれてしまった。何人かは立っているのがやっとの態である。キュルケ自身もそれがわかったのでやめたのであるが。

「ご苦労だった諸君、では着席したまえ」

何事も無かった様にそう言い放ったミスタ・ギトーに、キュルケは再度噛み付いた。

「何をしたんですの、先生」
「落ち着きたまえ、ミス・ツェルプストー。皆が着席したら説明するよ」

壁際に張り付いていたほかの生徒たちも、席に戻り少しばかりざわついていた教室も1分ほどで静かになる。

「さて、先ほど火の系統が弱いと言ったのは訂正しよう、素晴らしい威力だった。詠唱の早さも、温度も申し分ない。魔法の選択も悪くなかった。風とは一瞬で過ぎ去るもの、したがってあのような連続攻撃には対処しにくいのが風の弱点でもある。
しかしながら火の攻撃魔法の恐ろしさは、その温度にのみあるのではなく、術者による魔法の操作力にあると私は考えている。もっともこれは水の攻撃魔法にもいえることだが」

そこで、ミスタ・ギトーは重々しく咳をした。 

「諸君、断っておくが魔法系統には貴賎は無い。ただ、状況その他において有利不利があるだけだ。地面の上の土メイジ、雨中や水辺での水メイジ、いずれも厄介で恐ろしい存在だ。
だが、どの魔法系統もそれぞれに恐ろしさがあり、弱点がある。
中でも火系統は恐ろしさが感覚でわかるため、最強というよりは最恐の系統だろう。だが無論、人は怖いもの恐ろしいものをそのままにはしておかず、研究され調べつくされる。
私は今、火に関する知識を応用しただけだ。もちろん、君たちはこんな今さらな講義を聞きたい訳ではないだろう。私は今、魔法を3つ、同時発動させた」
「……不可能ですわ」
「なに、そうでもない。 まずはこれだ」

そう言って、ミスタ・ギトーは一歩横に移動した。だが、そこから動かずにいた。 

「「「「おおおおおおお」」」」

生徒たちにどよめきが走る。ミスタ・ギトーが二人に増えたのだ。

「これが「風のユビキタス」、スクエアの秘術の一つだ。ただの『分身』ではなく意思と力を持ち魔法も使える。その存在距離は精神力に比例する。これが一つ目で、この魔法はこれで終わり。二つ目は偏在にエアシールドをかけさせ、三つ目は……」

そこで言葉をとぎり、ちょっと考えた後、

「……君らへの宿題としよう。なに一年生の基礎の復習だ。風のドット魔法だよ。何人かはわかっただろうが、けして真似はするなよ。火魔法の恐ろしいところは直接火に触れる事ばかりではないのだから」

静かになった生徒たちに満足しながら、なおもニコリともしないミスタ・ギトー。

「何か質問は?」

一斉に手を上げる生徒たち、それを順に杖で指していく。大方は案の定「風のユビキタス」、通称『偏在』への質問だった。

「魔法原理はどうなっています?」
「なに少々複雑なエアハンマーだ、「風」を4つ使っているが基本はそう変わらんよ。ちなみに、いわゆる土ゴーレムとは似て非なる物だ」
「先生は何体ぐらい同時に出せます?」
「出すだけなら、七体ほど、それなりに動かそうと思ったら三体。そして、実戦となると二体が限界だな。 無論、訓練により操作数は増やすことができるが」
「他人の顔になったり、動物になったり出来ますか?」
「結界を自分に押し付けることで型を取っているため、自分以外にはなれんよ。この時、精神力も付与するからなおさら無理だな。その代わり、今自分が身に着けているものはそのままコピーが出来る。服とか、持ち物とかだな。おおっと、財布の中身は変わらんぞ、支払おうにもコインから手を離したらそのコインは消えてしまう。要は見た目だけということだ。
ちなみに、座っている椅子ぐらいならこの偏在にてコピーできるがそれ以上になるとたぶん無理だ。 既存の魔法力学を越えることになる」

生徒の一人が調子に乗って、こんな質問をした。

「もし、先生がサボって『偏在』に授業をさせたらわかりますか?」
「君は今、どちらがしゃべっているのかわかるかね?」

一瞬静かになった後、教室がざわつく。当然喋っている方、すなわちとどまっている方のギトー教諭が本体だと思っていたのだ。
皆、目を凝らして二人のミスタ・ギトーを見る。違いがわからない、だが、魔法で作り出した分身がしゃべるとは思いもよらなかった。

「今……、話されている方が本体ではないのですか?」

生徒が疑問を口にすると、今まで黙っていた方のミスタ・ギトーはついっと杖を下から上に向け振った。
ぼふん、と音を立て喋っていたほうのミスタ・ギトーが掻き消える。

「この偏在だが、やってみるとわかるが恐ろしく効率が悪い代物だ。一体を作り出すのにも、結構な精神力を消費する。戦闘ともなると内部にある精神力をどんどん消費するため5分がいいところだ。一時的に魔法の蛇口を増やしているだけだからな。何であれ、真に無敵の魔法系統など存在しないということだ。一つあるとすれば、それはどんなことにも対応する知恵と知識がそれに相当する。諸君、実践的だの応用だの言っていないで、基礎をきちんと身に着けたまえ。応用はその先に存在するものだ」

ミスタ・ギトーはそう言って話を締めくくった。





授業が終わり、皆、教室から出て行く。もちろんルイズとその使い魔も。

「すごいですね。 偏在って言ってましたっけ。 それに火を防いだあの魔法、なんだったんでしょう」
「あら、珍しいわね。 あんたが知らないなんて言うなんて」

ニヒヒと笑顔を作る、魔法知識ぐらいはこの使い魔の上を行かねば面子が立たない。

「うーん、空気から酸素を除いたのか、真空の壁を作ったかどちらかだとは思うんですが、魔法ってそこまで出来るんですか?」

ルイズはそこまで聞いて、なんだ、魔法の名前がわからなかっただけかと思い返した。

「あれは「サイレント」よ、自分や任意の場所に薄い真空の層を作って音を遮断する魔法。 
先生がお作りになったのは、真空の層を厚くして前面に大きく展開させたのよ。輻射熱をそれで防いで、直射熱はご自身が展開したエアシールドで防いだわけよ」
「えー! 真空の層で自分を覆うって危なくないですか」
「本当なら指先一つで壊れるようなものだし、完璧に覆っているわけではないからそこまで心配はいらないわ」
「うーん、本当に器用ですね」
「あの先生はスクエアよ、誰もがあのレベルで使えるわけじゃないわ」
「それで、話は変わりますが、来週の品評会でやる曲は決まりましたか?」
「名前は忘れたけど、あんたがよく弾いてるアレがいいわ、落ち着いていてキレイな旋律の……、時間も大体3分ぐらいでぴったりだし」

バッハ無伴奏チェロ組曲第1番のプレリュード(前奏曲)部分である。

「あれですか、うーん」
「なになに?なんか不満?」
「アレは、まだちょっと練習中で・・・」

どこを、どうつついても完璧にしか聞こえない演奏である。シンジ自身よく演奏していることから、自信のある曲なのかと思っていた。もっともルイズにはわからない、シンジのあるいは音楽家のこだわりなのかとも思ったが、

「命令よシンジ。自信が無いのなら当日までに完璧に仕上げなさい。ううん、姫様もお見えになるのだから、ハルケギニア史上最高の演奏をしなさい。 いいわね!」

シンジは、(無茶を言うなあ) と溜息をついた。





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