王国歴802年
それは、とても麗らかな春の日の午後であった。
私はお気に入りの岩の上に寝そべって、砕けた天蓋から降り注ぐ春の日差しを浴びながら、自慢の翼を広げて虫干ししていた。
眼下には、とても廃鉱山の迷宮奥深くにある場所とは思えないくらい、様々な木々や花々が咲き誇っており、花の蜜の香りに果物の芳醇な香りが辺りに漂い、とても甘く眠気を誘うのだった。
その果樹園の中央には、豪奢なテーブルが置いてあり、そこでは二人の女性が優雅にお茶を飲みながら談笑している。
「それでお母様、その王子様はどうなさなったのですか?」
「ふふっ。どうしたと思う?なんと次の日には、花束を持って彼女のところへプロポーズをしに行ったのよ!」
「プロポーズ…ですか?それはなんとも、ロマンのあるお話ですね」
「でしょう?あーあ、私も誰かさんにプロポーズされてみたいものだわ」
そう言って、意味ありげにこちらにチラリと目線を向けた。
「お母様は、お父様からプロポーズをお受けになったことはないのですか?」
「そうねぇ。クロールとはもう長い付き合いになるのに、不思議とそんな素敵な申し出を受けた記憶はないわねぇ」
嘆息し、そのまま紅茶に口を付ける。
“あー、カトレア。あまりルビーに変な話をしないように。そうでなくても、マリーが余計な話ばかりを吹き込んだせいか、おかしな知識ばかり増えて困っているんだ”
「あら、別に変な話でもないでしょう?素敵な、愛の話だわ」
「愛、ですか?」
見目麗しい女性に育ったルビーだが、しかし彼女はこの地龍の巣からほとんど出ることなく育ったため、その知識には偏りがあるのであった。
「そうよ、ルビー。あなたは、なぜ、私が人間の男と結婚もせず他に子供を作ったりもせずにこの歳まで生きてきたか、分かる?」
「……お母様が私のお母様であり、お父様が私のお父様だからでしょうか?」
少し考えた後、ルビーはそう答えた。
「あははっ。あなたって子は、面白い答えを言うわね。でも、そうね、あながち間違ってはいないのかも」
ルビーの答えを聞いて嬉しそうに微笑む。
「あなたなら当然分かるわよね、クロール?」
こちらに顔を向け、昔と変わらない挑戦的な目つきでカトレアは聞いてきた。
“さて、君が人間の男にまったくモテず、振られっぱなしだから、という理由ではないことだけは確かだろうがね”
「もうっ。こう見えて、私にお付き合いを申し込んでくる男性は未だに後を絶たないのよ?」
拗ねた顔を見せるが、あれは本当に拗ねている訳ではなくポーズだろう。
“それはすごい。まあ、君は昔から美人だったからな”
「お母様は確かに昔からお美しいです」
隣でルビーが何度も頷く。
「あなたはいい子ね、ルビー。でも、そうね」
もう背丈も大分大きくなったというのに、それでもカトレアは身を乗り出してルビーの頭を撫でた。
「私が人間の男と結婚したり、他に子供を作ったりもしないのは、私がしつこく執拗で頑固で諦めが悪く、そして一途な乙女だから、よ」
大事な告白をするかのように、そう言って微笑む。
“なるほど。しかし君こそ知っていたかね?私がこの穴ぐらに留まったまま他の場所に行こうとしないのは、私がしつこく執拗で頑固で諦めが悪く、そして一途な男だからだ、ということを”
「あら、そんなこととっくの前から知っていたわよ?」
カトレアは、こちらを見ながら得意げな顔をして答えた。
“なるほど。確かに、これは、愛の話、かもしれないな。しかしロマンはあるかね?”
「あるわよ。このホールが一杯になるくらい、ね!」
そう言って、両手を一杯に広げて、いつものあの笑顔を見せる。
「なるほど。確かにロマンがあります、お母様」
うんうん、と頷きながらカトレアに追従する娘。
仲睦まじい彼女たちの姿を見ると、私はそれだけで幸せになれるのだった。
「何をこんな真っ昼間から恥ずかしい話をしているのかしらね、貴方たちは」
うんざりした顔で、そうぼやきながら音もなく現れたのは、出会った頃とまるで変わらない少女のままの姿のマリーだった。
“おや、マリー。君が昼間に姿を見せるのは珍しいじゃないか”
「そうかしら?それに、夜に来ると、貴方との逢瀬を邪魔する不届きな輩が現れるのですもの」
手に持っていた日傘をその場でクルクルと回しながら答える。
「それは誰のことを仰っているのでしょうか、マリー様。お帰りの出口でしたらあちらにありますが、マリー様。早く帰って美容健康のために早寝早起きでもしていたらいかかでしょうか、マリー様」
ルビーはそう言って、憎々しげな目つきでマリーを見つめる。
「貴女はいつまで経ってもあたくしに懐こうとはしませんわね。まるで番犬みたいですわ」
「そうよ。ダメよ、ルビー。何度も言っているじゃない、こんな性悪女の相手をしちゃダメだって」
たしなめるように言っているが、言っている内容は火に油を注ぐようなものである。
しかし君たち二人も、いつまで経っても憎まれ口を叩くのをやめようとはしないな。
「言ってくれますわね?でも、いいのかしら。あたくし、知っているのよ」
「何をよ?」
不敵な顔をして微笑むマリーに、怪訝そうな顔でカトレアは聞き返した。
「貴女、最近人間の冒険者たちから“グランマ”って呼ばれているそうじゃない」
「わあぁーーっ!それを言うなぁぁーっ!」
立ち上がり、聞きたくないとばかりに耳を塞ぐ。
そんなカトレアの豹変ぶりに、ルビーも目を丸くしていた。
「“グランマ”、ですって?貴女の年を考えたら似つかわしい呼び名ですわね?」
「あーーーあーーー聞きたくない聞きたくない聞きたくなーいーー!」
耳を塞いだまま、大声で叫び始めた。
“まぁ、落ち着け、カトレア。そんなに気にしなくても君は今でも十分美しいままだと思うぞ”
「そうよねっ!そう思うわよねっ!私だってちゃんと肌年齢とか気をつけて生きてきたんだもの!」
と言うか、美しい、という単語だけは聞き取れるのだな。
「ですが、お母様はこちらにいらっしゃる間はいつも食べては寝て食べては寝てゴロゴロしているだけなのですが…」
「あなたが見たお母様は幻よ、ルビー。そう、幻なの。本当の私じゃないのよ」
ルビーの両肩を掴み、洗脳するかのように呟き続ける。
「大体、あなたたち卑怯なのよ!マリーもルビーも!ヴァンパイアだかドラゴンハーフだか知らないけれど、女ならちゃんと年を取って勝負しなさいよ!」
マリーとルビーを指差し、ついには訳の分からないことまで言い出してしまった。
「そう言われましても、お母様」
「そうよ、そんなことあたくしに言われてもねぇ」
こればっかりは、しょうがないのである。
永遠を生きる不死者たるマリーは当然のこと、龍とのハーフであるルビーも、一定期間までは身体も成長していたのだが、それを過ぎると全く身体の成長をストップさせ、そこからほとんど年を取らなくなってしまったかのように見えるのであった。
これも龍の血の影響だろうか?
今現在、ルビーの外見年齢は大体18歳前後である。
「はあっ。こうして私だけ老いていって、一人寂しく死ぬんだわ…」
しくしくしく、と泣き真似まで始めてしまった。
「ふんっ。そうやって泣き真似なんかしても、誰も同情しませんわよ?」
テーブルに突っ伏したカトレアを冷たく見ながら、悪態を吐くマリー。
しかし。
“そうは言っているが、本当は寂しいんだろう、マリー?”
「んなっ!?」
びっくりした様子でこちらを振り返る。
カトレアも、泣き真似を止めてこちらを見ていた。
“この間、昔と比べてカトレアの力が老いたのか、本気の喧嘩ができなくなって面白くない、と私にぼやいていたではないか。せっかくできた喧嘩友達だったのに、と”
「そ、そ、それはっ!内緒のお話だと言ったじゃありませんの!それを本人の前でバラすだなんて!」
アワアワと慌てた様子で日傘を振り回しているが、そのままじゃ日光が当たるぞ?
「へーえぇ。そうなんだぁ」
獲物を見つけた猫のように目を細めて、カトレアがマリーに抱きついた。
「ちょっとっ!」
「んもう、マリーちゃんてば。寂しいのなら寂しいとちゃんと言ってくれればいいのに。素直じゃないんだからぁ」
「~~~~~っ!」
顔を真っ赤にし、カトレアを振りほどこうと、マリーはますます日傘を振り回し始める。
しかし、なかなか新鮮な絵面だ。
いつもはカトレアがマリーにからかわれてばっかりいるものな。
などと、何かの魔物のようにマリーに抱きついて離れようとはしないカトレアに、それを振りほどこうと必死になって身体を動かしているマリーの微笑ましい様子を見ていると、ルビーがこちらに静かに近づいてきた。
「お父様」
“ん、なんだね?”
「何者かが迷宮をこちらに近づいて来ています」
“ふむ”
ドラゴンハーフであるルビーも、龍と同じく常人離れした聴覚を持っているのだが、しかし。
“大丈夫。私も気付いているさ。それに、ルビー。お前もまだまだ修行が足りないな”
「何がでしょう?」
首を傾げて、私を見つめてくる。
“足音を聞いて、それが誰のものなのか判別できるようにまでならないと、まだまだ一人前とは言えないなぁ”
岩から顔を少し乗り出し、私は愉快そうに笑う。
「お父様は分かるのでしょうか?」
“もちろんだとも。ほら、カトレアのお迎えが来たようだ”
「師匠っ!やっぱりここで油を売っていたんですね!」
そう言って地龍の巣に入ってきたのは、まだ若い人間の青年であった。
長身に見合わない少し童顔めいた甘いマスクの持ち主で、さぞかし女性にモテることだろう。
と言うか、聞くところによると実際にモテるらしいが。
「おが?」
「はら?」
いつの間にか木陰で取っ組み合いの喧嘩を始めていたカトレアとマリーは、二人して相手の口を両手で一杯に引っ張っていたので、変な声を上げるのだった。
「まったく…。今日は夜に定例会議があるからちゃんと午後にはギルドに来てくださいよと、あれだけ姉さんにきつく叱られていたじゃないですか」
ため息を吐きつつ、こちらに歩いてくる好青年。
「あー、いやー、ごめんごめん。だって、私、あんなつまらなくて堅苦しい会議になんて出たくないのよねー」
ばつが悪そうに、カトレアは頭をかきながら弁明する。
「師匠…、そのサボり癖は直してください」
嘆息するその様子も様になっているこの好青年の名前は、ウィル・レッドライトという。
彼は別にカトレアの若いツバメ、という訳ではなく、彼女の一番弟子なのである。
外の世界で何をしてきたのか知らないが、カトレアは今や冒険者ギルドの大幹部の一人なのだそうで、そんな彼女に弟子入りしたいと願う若い冒険者たちが後を絶たないらしい。
しかし、当の本人は、イヤよそんなめんどくさいこと、と断り続けてきたらしいが、そんなカトレアに初めて弟子入りを認めさせたのが、このウィル君なのである。
何でも彼は、昔幼い頃に姉弟揃ってカトレアの世話になったことがあったらしく、それ以来カトレアに憧れていて、彼自身が冒険者になった後もずっとカトレアに弟子にしてくださいと付きまとい続けたのだそうだ。
最初は断っていたカトレアも、ウィル君のしつこさについに折れて、晴れて一番弟子になったという訳である。
「あのー、いつもすみません。師匠がご迷惑をかけて」
ウィルはこちらを向いて非礼を詫びる。
私の姿を見ても全く驚かないのは彼がもう何度もここに来たことがあるからなのだが、しかし、最初に私の姿を見た時にも彼は驚くことはなく、そればかりかすっげーと興奮した様子を見せていたので逆にこちらが驚いたりもしたのだった。
“なに、気にすることはない。彼女とは君が産まれるよりも前からの付き合いなのだからね”
「ちょっとー。今誰か私の歳の話をしなかった?」
まだ先程の話を引き摺っているのか、目を細めてこちらを睨むカトレア。
「い、いえっ。そんな命知らずなことはしてないっス」
両手を胸の前でぶんぶんと振って否定を表しているが、ウィル君、その返事は墓穴だ。
「ちょっと、それは一体どういう意味よ?」
「いやっ、別に深い意味ではなくっ」
「その深い意味がどういった意味なのか詳しく教えてもらいたいものだわ」
うふふふ、と笑いながらウィル君ににじり寄る。
しかし、まあ、ここらで助け船を出してやるか。
“落ち着け、カトレア。ウィル君は迎えに来てくれたんだろう?大人なら、ちゃんと仕事をしなさい”
「そ、そうですっ。お願いしますよ、師匠。ウチの姉さんが師匠がいなくてカンカンでして」
「あー、しょーがないわねー。ミーちゃん、怒ると怖いからなー」
顔を緩めて、やれやれと頭をかくカトレア。
そんな彼女を見て、ウィル君は露骨にほっとした様子を見せていた。
普段、どんな弟子の教育方針なのか是非聞きたくなるような光景である。
「もう行かれるのですか、お母様?まだ、私が栽培したとっておきの茶葉を試されてはいないのですが…」
ルビーは、少し寂しそうな顔をする。
「私だって、あなたが作ってくれたお茶を飲みながらもっとお話をしていたかったわ。だけど、クロールが言う通り、大人だから仕事をしなくちゃならないのよね」
「普段サボってばっかりの癖に、よく言いますわね」
カトレアとの取っ組み合いで乱れた髪を直しながら、マリーが茶々を入れる。
「そこ、余計なこと言わない!」
「ふんっ」
露骨に目を反らすマリーだったが、何だかんだ言って、この二人はこう見えて仲が良いのだろう、きっと。
「師匠、本当にもう時間が…」
ウィル君が申し訳なさそうにカトレアに話しかける。
「分かってる。また今度すぐに来るから、その時にあなたのとっておきの紅茶を楽しませてちょうだい」
ね?とルビーに向かってウィンクをして、微笑みかけた。
「はい。お待ちしております、お母様」
高級レストランの給仕のように、ルビーは綺麗なお辞儀をして別れの挨拶をする。
「それじゃあ、私はもう行くけど、私がいないからって変なことしないでよね、マリー」
「くだらないこと言っていないで、さっさとお行きなさいな」
しっしっと手を振りながら、マリーは応じた。
「もうっ。…それと、クロール、ありがとう。あなたが作ってくれたお茶も美味しかったわ」
カトレアは岩肌に寝そべっている私を見上げて、言った。
“気に入ってくれたようで何よりだ。しかし、あれは、煎れてくれたのはルビーだよ。葉を作ったのは確かに私だがね”
「分かっているわよ。それじゃあ、行ってくるわ」
まるで自分の家から出かけるような気軽さで、カトレアは手を振った。
幸せそうな笑みを浮かべながら。
「バイバイ」
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王国歴817年
私は地龍の巣の入り口の岩壁に魔力を流し込み、内部構造を操作する。
私の魔力によって壁の内部の岩や砂が蠢き回るのが感じ取れ、そして――。
轟音と共に、岩肌が崩れ、入り口は土砂によって完全に埋もれてしまった。
“これでよし、と”
これでもう、この地龍の巣に誰かが入ってくることもないだろう。
永遠に。
「お父様」
声に振り返ると、そこには一人の少女が佇んでいた。
空色の髪に、海色の瞳。冷たさを感じる程に整った顔立ちをしていて、男性よりも高いのではないかと思われる長身。
そして、その素肌に所々生えている、綺麗な鱗。
私の自慢の娘、ルビーである。
“ああ、こっちは終わったよ。そっちはどうかね?”
龍の血の影響か、彼女の外見年齢は18歳前後で止まったままであり、長い年月が過ぎてもそれ以上成長することはなかった。
彼女の寿命は我々龍と近いものなのかもしれない。
「こちらも終わりました」
そう答えるルビーの背後に見えるのは、まるでこの世の楽園のような風景である。
透き通るように澄んだ水が流れ出る泉の周辺には、様々な甘い香りを漂わせる果物の木々が立ち並んでおり、それらを囲うように色とりどりの美しい花々が咲き誇っていた。
ここには一切の諍いも、争いも、暴力もなく、平和そのものである。
そんな楽園の中心には、一つの石碑が建っている。
黒曜石で加工されて出来たその石碑は、黒光りする地肌に傷一つなく、また、未来永劫傷付くこともないかのようであった。
私は、その石碑に近づいて、小さく呟く。
“………これでもう、私のことをクロールと呼んでくれる者は一人もいなくなってしまったよ”
その石碑にはこう書かれていた。
――我が生涯で最愛の人、カトレア・コーンフィールド。
クロール・ロックハートの魂と共に、ここに永遠に眠る――
水が流れる音、木々の葉がさざめく音を聞きながら、私は長い間その石碑を見つめていた。
「………お父様」
そっと、誰かが私の背に小さな手の平を置く。
「ルビーは、ずっと、ずっとお父様のお側におります。だから…」
“ああ、分かっている。分かっているとも”
そう言って、私は目を瞑る。
そうすれば、瞳の奥にあの輝かしい青春の日々が目まぐるしく映し出される。
私を叱っているカトレア。
私に怒っているカトレア。
私に笑っているカトレア。
私の青春は常にカトレアと共にあった。
カトレアがいなくなった今こそ、あの騒がしく輝かしい青春の日々は終わってしまったのだ。
“分かっている。分かっているよ、カトレア”
私は生きなくてはならない。
君が居なくなったこの世界でも。
私は生き続けるのだ。
“――――――――~~~~~っ!!”
私は廃鉱山が崩れ落ちるほどの大音量で咆吼をあげた。
そして、今では私の体長よりも遙かに大きくなった翼を力一杯広げて、羽ばたかせる。
“さあ、乗れ、ルビー!この魂の牢獄から出発するぞ!”
「はいっ、お父様!」
満面の笑みで、ルビーはぴょんと私の背に飛び乗る。
上を見上げる。
崩れた天蓋からは、雲一つない青い青い空が見えている。
私はいつもそこから天を見上げるばかりであった。
まるでこの地に縛り止められていたように、私はずっとこの深い穴ぐらで過ごしてきた。
しかし、私には。
蒼穹の空へと飛び立つ力強い両の翼がある!
翼の羽ばたきを徐々に大きくしていく。
これが初フライトだ。
“ルビー、今度はどんなところに住みたいかい?”
私は笑いながら大声で尋ねる。
「はい、お父様!いつも空を見上げてばかりいたので、今度は空から見下ろせる程高い場所がいいです!」
ルビーも何が楽しいのか、笑いながら大声で答える。
“いいだろう!行くぞっ!”
そうして私は空へと飛び立つ。
懐かしくも甘く切ないあの日々をここに置き去りにして。
彼女との思い出なら、いつもいつまででも、私の胸の中にある。
そして、決して消えることはないだろう。
二章・おしまい
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読む必要のないあとがき
ここで終わりにしても良かったのですが、一応、この後の話もあるにはあります。
なので、途中で飽きたりしない限り、以後、不定期掲載、予定。
掲示板にて指摘のあった誤字は直しておきました。
多謝。
あと、設定が分かりにくいとの指摘がありました。
今後この手の世界設定等を作中で説明する予定はないので、蛇足だとは思いますが、こちらで補足説明しておきます。興味ない人は読み飛ばし推奨。
指摘のあった、土竜→モグラと読めることは狙って書いたのですが(主人公が鉱山の奥深くに住む予定だったので)、確かに紛らわしかったかな、とは思いますので、今後ひょっとしたらアドバイス通り地竜に直すかもしれません。未定。
あと魔物についてなのですが、人を食べた動物が必ず魔物になる訳ではなく、人を食べた獣の中から極々稀に魔物が産まれることがある、という設定です。
そして、人を食べて魔物となった場合、通常“魔物側”の自我が産まれるのであって、“人間側”の自我が産まれることはほとんどありません。
と言うのも、作中でも少し触れましたが、あくまで人の知識を吸収して魔物化するのであって、人間の人格まで吸収する例というのは全くないからです。
まあ、主人公の例は主人公補正ということでご勘弁を。
以上のことから、あえて自分の身体を動物に食べさせて魔物に転生を図ろうなどと奇特なことを考える人はまずいない、という訳です。
それと、賢い動物であればあるほど本能的に人を食べてしまうと自分が魔物になってしまうかもしれなことを知っているので、この世界においてはそれらの動物は滅多に人を食べようとはしない、という設定です。
なので、火竜は確かに獰猛ではありますが、人を食べて殺すことはしません。引き裂いて殺すことはあったとしても。
そして、龍の神格化についてなのですが、竜は賢い動物で、人を食べることは滅多にしないことから(竜は食物連鎖の上位に存在する動物なので、そもそも飢えること自体珍しいのです)、ただでさえ人を食べたとしても魔物化する確率が低いのに、さらに竜が魔物化して龍へと変化する確率は極端に低い、と言えます。
だから、そもそも龍はその個体数が絶対的に少ないのです。
せいぜい昔話に出てくるくらいでして、初めは魔物扱いだったものが、その強大さから恐れられるようになり、お伽噺として何世代も伝えられてきた結果、いつしか畏怖の対象から畏敬の対象にまでなった、という訳です。
が、そもそも龍は個体数が極端に少ないので、実際に見たことがある者は少なく、お伽噺で聞いたことはあるけれど、見たこともないものを恐れるのもなー、という人も多く、龍が尊ばれているといっても、それはある種の土着宗教みたいなものでして、信仰しない人にとってはあまり尊ばれない、という設定でした。
以上。
こういった設定を作中で違和感なく説明できていれば良かったのですが、全くの力不足でした。
申し訳ない。
では、読了多謝。