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No.1071の一覧
[0] Fate/Liberating Night her codename is “Soldier”[G3104@the rookie writer](2007/05/14 02:57)
[1] Fate/Liberating Night her codename is “Soldier” vol.2[G3104@the rookie writer](2007/03/05 00:23)
[2] Fate/Liberating Night her codename is “Soldier” vol.3[G3104@the rookie writer](2007/03/05 00:24)
[3] Fate/Liberating Night her codename is “Soldier” vol.4[G3104@the rookie writer](2008/06/02 22:03)
[4] Fate/Liberating Night her codename is “Soldier” vol.5[G3104@the rookie writer](2008/06/02 22:10)
[5] Fate/Liberating Night her codename is “Soldier” vol.6[G3104@the rookie writer](2007/03/05 00:32)
[6] Fate/Liberating Night her codename is “Soldier” vol.7[G3104@the rookie writer](2007/03/05 00:33)
[7] Fate/Liberating Night her codename is “Soldier” vol.8[G3104@the rookie writer](2007/03/05 00:34)
[8] Fate/Liberating Night her codename is “Soldier” vol.9[G3104@the rookie writer](2007/03/30 00:27)
[9] Fate/Liberating Night her codename is “Soldier” vol.10[G3104@the rookie writer](2007/03/05 00:36)
[10] Fate/Liberating Night her codename is “Soldier” vol.11[G3104@the rookie writer](2007/03/31 05:11)
[11] Fate/Liberating Night her codename is “Soldier” vol.12[G3104@the rookie writer](2007/04/19 23:34)
[12] Fate/Liberating Night her codename is “Soldier” vol.13[G3104@the rookie writer](2007/05/14 00:04)
[13] Fate/Liberating Night her codename is “Soldier” vol.14[G3104@the rookie writer](2007/06/07 23:12)
[14] Fate/Liberating Night her codename is “Soldier” vol.15[G3104@the rookie writer](2007/09/28 08:33)
[15] Fate/Liberating Night her codename is “Soldier” vol.16[G3104@the rookie writer](2011/07/19 01:23)
[16] Fate/Liberating Night her codename is “Soldier” vol.17[G3104@the rookie writer](2008/01/24 06:41)
[17] Fate/Liberating Night her codename is “Soldier” vol.18[G3104@the rookie writer](2008/01/27 01:57)
[18] Fate/Liberating Night her codename is “Soldier” vol.19[G3104@the rookie writer](2008/08/15 20:05)
[19] Fate/Liberating Night her codename is “Soldier” vol.20[G3104@the rookie writer](2008/08/15 20:04)
[20] Fate/Liberating Night her codename is “Soldier” vol.21[G3104@the rookie writer](2008/08/16 04:23)
[21] Fate/Liberating Night her codename is “Soldier” vol.22[G3104@the rookie writer](2008/08/23 13:35)
[22] Fate/Liberating Night her codename is “Soldier” vol.23[G3104@the rookie writer](2008/08/19 14:59)
[23] Fate/Liberating Night her codename is “Soldier” vol.24[G3104@the rookie writer](2011/06/10 04:48)
[24] Fate/Liberating Night her codename is “Soldier” vol.25[G3104@the rookie writer](2011/07/19 02:19)
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[1071] Fate/Liberating Night her codename is “Soldier” vol.9
Name: G3104@the rookie writer 前を表示する / 次を表示する
Date: 2007/03/30 00:27
 まだ群青が染め抜く天球の端、遠く東の空に薄い白光が混じり始める。
 次第に淡い朱に染まってゆく遠方に視線を向けながら、見張りにと登った屋根に腰掛け、私は一人、夜明けの風の中に佇み続ける。
 昨夜の戦闘で壊れた散弾銃の換えのパーツを魔力から生み出し、屋根上に突貫で拵えた作業台に士郎の土蔵から拝借した工具を持ち込んで、銃の修理をしながら昨夜の異常な事態を思い出す。
 名目上は見張りと言いながら、その実やっていることは自分の武器の修理だ。一人で考え事をしたい時は銃の分解整備をしながらの方が不思議と落ち着くからだ。
 生前からもう何千、何万回と無く繰り返してきた一連の整備作業は、もはや頭で考えて行う必要も無い。部品を手に取れば、その手に染み付いた経験が勝手に手を動かし分解、組上げてゆく。
 慣れたお決まりの作業工程をなぞってゆき、破損した弾倉筒を交換し、新しい銃床を取り付けてゆく。装填口にショットシェルを一発づつ静かに装填。イジェクションレバーを二度引き、手動で排莢させる。

「うん、作動良好、問題無し」

 薬室に一発、弾倉に六発詰めフル・ロードにしてセフティを掛け、魔力に戻し格納する。
 サーヴァントの武器はメインであれサブであれ、大概それ自体が大いなる神秘の塊だ。
 その幻想の結晶が容易く破壊される様な事はまず無い。
 英雄達が持つような“特別な神秘の結晶”である武具、宝具と呼ばれるそれらは、破壊されれば通常、修復するのは膨大な魔力が必要となるし難しい。
 だが私の持つこれは凡庸な唯の現代兵器であるから、即物的で壊れやすい。だがその分、修復も容易に出来ているのだ。
 まあセイバーの聖剣のような、正統な宝具が容易く破壊される状況など考え難いが。

 空になった手にまた違う武器を取り出す。昨夜使ったG3‐SG1の整備に取り掛かりながら、誰に問いかけるでもない呟きを漏らす。

「昨夜の民家、不自然なほど人気が無かったのは何故……?」

 あの時、凛は防音の結界を張り損なっていた。にも拘らず周囲の民家からは誰一人として異常に気付かれなかったのか、一人も家から出てこなかった。
 いや、あの一帯の民家という民家から、人の気配というものが全く感じられなかった。
 私が奴に吹っ飛ばされ、塀を破壊して入り込んだ民家からも終始悲鳴の一つも無かった。
 あの戦闘の最中、番犬やペットの泣き声ぐらいあっていい筈だろうに、そんな動物達の気配さえしなかった。まるで其処にはもう誰も、何も存在しないかのように。
 まだ聖杯戦争が始まって間も無いが、既にこの街にはかつての私が経験した物とは違う異常が発生しているのかもしれない。

「一つ懸念材料が増えましたか。あの異様な静けさは心当たりが有る。でも、まさか現時点で既に存在するとは……」
 ――結論を急ぐな、今はまだ其を確かめるのが先決であろう――

 私の持つ鞘に取り込まれた“彼”が軽く諭してくる。全く、再び逢えた貴方が冷静沈着なあのアーチャーになっていたなんて驚きましたよシロウ。

「そうですね。とりあえずは索敵と現状把握が先だ。凛には申し訳ないですが単独捜査に走らせて貰いましょうかね」

 そう呟いた時にはもう東の空は明るく薄い朱に染まり、まだ目に映っても網膜を焼くに至らない鈍い茜色を放つ朝日が顔を出していた。
 機関部に油を差し磨きながらまだ淡く優しい曙の光を眺め、今日のこの後の事を考える。
 そろそろ士郎が起きてくる頃合だろうか。昨夜は戦闘の疲労からだろう、衛宮邸を拠点にする為、あの後もばたばたと凛の荷物を取りに寄ったりと動き回った皆は帰るなりばったり倒れて、そのまま寝てしまった。
 士郎は然程疲れる事は無かっただろうが、凛は私が無茶な魔力消費を行った為、結構な疲労になっただろう。
 セイバーはサーヴァントだから本来睡眠は必要としない。だが過去の自分同様マスターからの魔力供給が無い彼女は、魔力温存と肉体修復の為に睡眠をとらざるを得ない。
 自分はと言うとこの通り、四人の中で一番回復が早いのは私なのでこうして見張りに立っているというわけだ。
 ふと物音が聞こえた庭の方に目をやると、起きてきたのだろうセイバーが道場の方へ歩いていくのが見えた。




第九話「小隊は穏やかな朝を迎える」




 彼女はにわかに此方に気付いたようでおもむろに此方に振り向き視線を上げてくる。

「おはようございます、ソルジャー。私が寝ている間に何か変わった事は」
「ええ、おはようございます。そう警戒しなくて良いですよ、セイバー。特に異常はありませんでしたから」

 かるく挨拶を交わし、台に転がる工具を纏め、一足飛びに庭先に下りる。朝露に濡れた芝生がサクッと音を立て、冬の朝の寒さを主張する。
 だが着地の際に手に持っていた工具箱からガシャリと思いのほか派手な音が漏れ、芝生の音を掻き消した。しまった、誰かを起こしてしまうかもしれない。

「おっと、大きな音を立てる心算は無かったのですが」

 私の手に握られたアルミ製の箱を物珍しげに見下ろしながら問いかけてくる。

「上で何をしていたのです?」
「銃の修理ですよ。ほら、昨日の戦闘で破損してしまいましたから」

 空いた手にベネリM4を具現化して示しながら問いに答える。
 己の武器を簡単に直してしまえる事に些か驚かれたか、セイバーが目を丸くしている。

「驚いた、それは貴女の宝具ではなかったのですか? 宝具が破壊される事が無いとは言えないが、壊れた場合修復するのは非情に困難な筈……」
「そうですね、広義に考えれば宝具の一つと言えるかも知れませんが、これはただの武装に過ぎません。物が物なだけに相応の外力を受ければ壊れますし、またその代わり修理も容易なんですよ」

 なにしろ近代兵器は所詮消耗品にすぎない。コレはそういった性格を持つ物。
 人々の想念のような神秘なる力で生み出され、守護された彼女の持つ武具とは性格が一八〇度違う。

「ところで、今から何処へ? 奥の道場へでも向かうのですか?」
「ええ、少し瞑想をと思いまして。あそこは静謐で神聖な空気に満ちていて、瞑想には非常に良い場所です。貴女はこれから如何するのです?」
「私は工具を返しに土蔵まで。そうだ、忘れていました。貴女に服を渡しておかないと。流石にその格好で出歩くのは目立ち過ぎますからね」

 今の彼女は銀に輝く鎧を外し、下に来ている蒼いドレスのような軍装束姿。とても似合ってはいるが、流石に現代でその服装は人目を引きすぎる。

「確か昨夜の帰りに寄った凛の家から持ってきた服があるはずです。此方へ、確か居間に鞄ごと置きっぱなしになっていた筈ですから」

 促す私に判りましたと頷き後に続く彼女。居間に入るともう士郎が起きて朝食の準備に取り掛かろうとしていた。

「お、もう起きてたんだ。おはようセイバー、ソルジャー。二人とも朝早いんだな。朝食は今から準備するからもう少し待っててくれ」

 サーヴァントは基本的に食事を必要とはしない。等と言っても彼は納得しない事は良く判っている。

「あ、私の事はアリアと呼んでくれて良いですよ。ソルジャーなんて妙な名で呼ぶよりは自然ですから。その方が貴方の周囲の、無関係な人達にも怪しまれずに済むでしょう」
「ソ、ソルジャー! そんな簡単に真名を明かして良いのですか貴女は!?」

 突然の私の告白に目を丸くして驚くセイバー。彼女の驚きは尤もだ。サーヴァントなら真名はそのまま自分の弱点を晒すようなもの。
 伝説に残る英雄の彼らは当然の如くその弱点までも伝説にしっかりと伝え記されてしまっているのだから。

「別に真名ではありませんよセイバー。ただの愛称です。私の名前を省略しただけの簡単なものですよ。まあ尤も、私の真名などバレた所で誰も知る者など居ないでしょうが」
「……そう、なのですか? 確かに現代の武器を使う英雄なんて、私の知る限りにはいませんが」

 そう、この時代に私の名を知る者など居る筈が無い。何故ならこの時代、私はまだ生まれてもいないのだから。
 今の私はかの騎士王アーサー・ペンドラゴン、ルシウス・アルトリア・カストゥスではない。
 アルトリア・C・ヘイワード……イギリスの片田舎のしがない家の子。その名を一体誰が知りえるだろう。
 陸軍に入り、SASに入隊したのは元々、警察や軍関係の職が多かった家柄の影響かもしれない。

 私は私のいた世界での聖杯戦争を終え、聖杯に望んだ『歪んだ願い』を断ち切った。
 世界との契約を破棄し、コーンウォールで最後を向かえた私が、再びコーンウォールの地に生を受けるとは如何なる意志によるものだろうか。
 ……どうせ生まれ変わるなら、シロウと同じ国に生まれたほうが彼にもっと早く逢えたかもしれないのに。
 もっと早く生まれていれば……否、もっと早く私が、前世の記憶を完全に取り戻していれば、彼が彼方の地に斃れる前に再会できたかもしれないのに……
 いけない、不毛な考えは止めにしよう。忘れたかアルトリア、過ぎてしまった事は戻らないし、戻せない。戻してはならないのだ。
 かつての私はその過ちを犯し、国を衰退させてしまった過去のやり直しを聖杯に求めた。
 また過去を悔いていてはその考えを正し、悟らせてくれたシロウに申し訳が立たないではないか。

「……? どうしました、ソル……ではなかった、アリア?」
「あ、ええ。すみません、少し考え事をしていたものですから。アリアはあくまで仮の名に過ぎませんから、どうぞ遠慮なく呼んでください」

 台所から士郎が顔を覗かせながら応えてくる。

「ああ、助かるよ。どうもソルジャーとかセイバーって名前は女の子にはしっくり来ないし。いや、セイバーは凄く……らしいというか、似合ってるんだけど。そういやセイバーも本名じゃないんだよな?」
「はい。セイバーはクラス名です。ですがシロウ、申し訳ないのですが真名を貴方に教えるのを控えさせて欲しい」
「士郎君は一般の人間同様で魔力の耐性が低いですからね。敵に催眠魔術などを掛けられれば、貴方から情報を得られるのは容易いでしょうから妥当な線かと」

 私は台所に近い位置の壁に寄りかかりながらセイバーのフォローをする。セイバーはずっと横で台所で作業を続ける士郎から視線を外さず彼の言葉を待っている。

「ああ、判った。セイバーの真名は今は聞かない。確かに俺が敵の術に嵌まったらベラベラと喋りだしちまいそうだし。じゃあセイバーはセイバーのままでいいか。何処から見ても外人だし、名前はまあ、珍しいって程度でそう怪しまれる事もないだろ」

 そう言いながら此方を振り返り、何を思ったのか、ポカンと呆けた顔を作る士郎。
 私とセイバーが如何したのかと顔を見合わせていると――。
「それにしてもホント似てるよな二人とも。今なんか服装まで似てるから、まるで姉妹みたいだ」

 そう何かに感心したようにしみじみとした口調で、私達二人に対する率直な感想を口にしてくる。そういえば今彼女は蒼い装束、私も蒼いコート姿で金糸の装飾が入っているのも同じ。共通点が多いのは誰の眼にも明らかだ。
「まあ年齢的には正しいかもしれませんね。肉体年齢的には私は二十三歳ぐらいですから。彼女とは十歳近く違って見えるでしょう」
「え、二十歳超えてたのかアリアって。確かにその落ち着いた物腰は大人びて見えるんだけど、外見は十八歳ぐらいかと思ってた。あ、まさかセイバーも? 見た目は俺より年下かと思ってたんだけど……?」
 この肉体は私が死んだ当時のままだから二十三歳の筈だが、些か童顔だからだろうか、十八の娘に見えたらしい。嬉しくない訳は無いが、少し複雑な気分だ。
 魂の年齢となれば、彼女が生きた年数に転生後の二十三年間が加わるから私は四、五十代といっても過言ではないし……いけない、自分を卑下してどうする。

「ええ、私はこれでも三十年近く生きています。肉体は十五の頃を境に成長、老化を止めているのです」
「ええっやっぱりセイバーまでそうなのか!?」
「士郎君、彼女は英雄の一人ですから当然、英雄としての人生を既に終えています。ですがサーヴァントは英霊の最盛期の肉体を持って召喚されるのです。ですが士郎君、私はともかく、女性に年齢を聞くのは失礼に当たりますから気をつけたほうが良いですよ。まあセイバーがそれを気にするとは思いませんが」

 とは言っても士郎は事、魔術関係、特に聖杯戦争の仕組み等の知識は無いに等しいからセイバーが未成年の少女だと思ってしまうのも無理は無い。
 大体、普通誰だろうと、セイバーの容姿を見て当人が列記とした成人だとは思うまい。
 それほど彼女は幼く、可憐な姿をしているのだから。

「うわ、吃驚してついうっかりしてた。ご免セイバー、俺がデリカシー無さ過ぎた」

 謝る士郎に心底不思議そうな顔で首を傾げてセイバーが問う。今の彼女には自身が女である事など意味を持たないから、士郎の気遣いを理解することは難しい。

「何故謝るのです? シロウ、私はサーヴァントであり戦う為の道具だ。道具に男も女もありませんから貴方が気にする必要は無い」

 かつての私なら言いそうな台詞だと、私は胸中で苦笑いを堪えた。生前から男と性別を偽って生きて来た騎士王の彼女には、自身を女性扱いされる事は慣れていない。
 対して私はといえば生前、前世の記憶を取り戻せたのは十の頃だったし、その後も職務はともかく、実生活は普通に女として生きた。
 だから士郎にきちんと女性扱いしてもらえるのは、例えこの身がサーヴァントになろうと正直嬉しい。

「それより、朝食の支度なら手伝いますよ士郎君。何でも仰って下さい」
「ああ、ありがとう。でも気持ちだけ頂いとくよ。台所は俺の管轄なんだ」

 やっぱり人には任せる気がないか。人に頼らない彼らしい。でも凛が起きてきたら間違いなく交代制を押し付けてくるでしょうね。
 おっと、そうだ忘れるところだった。セイバーに服を渡さないと。

「それじゃ、朝食までに貴女の着替えを用意してしまいましょう。さあ、セイバー。此方ですよ」
「あ、はい。その鞄ですね?」

 居間の隅に固めて置かれていた大きめのボストンバッグを担ぎ、セイバーを空いている和室の一つに誘う。確か士郎の隣の部屋が空いていた筈だ。
 目的地に着き、ボストンバッグから昔私が渡されたのと同じ白のブラウスと紺のタイトスカート、下着一式を渡す。
 コレは最初から凛に頼んでセイバー用に宛がってもらった服だ。やっぱり私が貰ったのと寸分の違いも無かった。

「はい、これに着替えて下さい。質素で大人しい服ですけど、貴女には良く似合うと思いますよ」
「ありがとう。とりあえず着替えてみます」
「それじゃ、何かあれば呼んでください。私は居間にもどって朝食の手伝いをしてきます。そろそろ凛も起こした方がいいでしょうし」

 気がつけば時計の針は七時前を指していた。衛宮邸ではごく普通の時間、いや寧ろ遅い位の時間だ。
 朝に弱い凛のことだ、きっとまだ寝ていることだろう。まあ昨夜が昨夜なだけに疲れていただろうから、もう少し大目に見てあげてもいいでしょう。
 そう胸中で結論付けて私は居間に戻った。ただ後に少しだけそれを後悔することになったのだけれど。

「士郎君、煮付け用の皿はこれで良いですか?」
「ああ、悪いなアリア……さん。無理に手伝って貰わなくてもいいのに」
「ふふっ呼び捨てで結構ですよ。何かしていないと落ち着かないので。だから気になさらないで下さい」

 私の家は決して裕福な方では無かったから、家事は何時も家族全員で分担していた。
 中でも料理は親も兄も酷かったから、もっぱら私が買って出ていたので、腕の方は多少は自信がある。
 庶民は働かなきゃ食べていけませんからね……あれ? ひょっとして私、苦労性になってしまったのでしょうか。

「さてと、そろそろ凛を起こしてあげないと……あ、凛!」
「あ、おはよう遠さ……か?」

 居間に幽鬼のような足取りで入ってきた凛に、挨拶をかけた士郎がピシッと石化したように固まる。しまった、私とした事が迂闊過ぎた。
 時刻は七時過ぎ。まだ凛は起きてこないだろうと思っていたのだが、意外なことに今日はまともに起きてきたようだ。
 でも相変わらず朝が弱い凛はものすごい形相で髪もボサボサ、普段の麗しさなど何処に行ったのかというほど酷い有り様。
 しまった、士郎に彼女のこんな姿は見せるべきじゃなかった。私がフォローしていれば彼女のイメージを守ってあげられただろうに。
 ともかく過ぎてしまったことは仕方が無い。今すぐ彼女を正常に戻す為に成すべき事をしよう。

「う~、ぎゅうにゅう~。ぎゅうにゅうをちょうだい~~~」
「はいはい、凛。ほら、牛乳ですよ」

 私は急いで台所から牛乳パックとグラスを持ってきてグラスに注いだ牛乳を凛に手渡す。
 焦点の定まらない目のまま、無言で凛はグラスを受け取り、ぐいっと一気に飲み干してゆく。相変わらず豪快な飲みっぷりだと思う。

「んっぷは。ありがとアリア。お陰で頭も少しシャッキリしたわ」
「はい。凛、目が覚めたなら洗面所で顔を洗って髪を梳かしましょう。そんな格好を士郎君に見せたままで良ろしいんですか?」
「うわっちゃ、士郎居たの!? み、み、見た? 見て無いわね!? いい、貴方は何も見てなかったの! 判ったわね!?」

 朝の失態を士郎に見られてしまったことに気付いた凛が大慌てで、士郎に今見たことは忘れろと無茶な要求を捲し立てる。
 当の士郎はというと、目の前の凛のあまりの豹変ぶりに、思考が追いつかなかったのか目が虚ろで、何処かショートしてしまったロボットのように硬直している。
 うん、直視したくない現実だとは思いますが、何も思考をショートさせるほど驚かなくても良いんじゃないでしょうか。
 まあ、無理もないですか。確か貴方も言ってましたっけ、あれは百年の恋も冷めるとか。

 ――ああ。確かに言ったな。それより早く彼女をなんとかしてやってくれアルトリア。少し不憫でならん――

 勿論判ってますよ。判ってますから、そんな哀れむような声を出さないで下さいシロウ。
 士郎はまだショートしたままで、壊れた機械のようにぎこちない動きと、アクセントがおかしい日本語で答える。

「ア……アア、ナニモミテナイヨ。トオサカ」
「あ、あはは。とにかく洗面所ですよ凛! さっさと身支度を済ませましょう!!」
 足早に私は凛を連れて洗面所に駆け込んだ。


「日曜なんだからもう少しゆっくりしたっていいと思うけど?」

 そう声を掛けてくるのは士郎だ。どうも私が忙しく家事を手伝っている事を申し訳無く思ったのだろう。私に休んだらどうかと尋ねてくる。
 朝食は既に済ませた。何とか普段の凛に立ち戻らせた彼女は案の定、食事当番を交代制にしようと言い出した。部屋を借りて世話になるのだから、そのくらいはするという意思表示なのだろう。
 しかしやはり彼女らしいというか、早々に士郎の用意した朝食に対して俄かに握り拳を固めガッツポーズを取る始末。料理の腕は勝ったと息巻く。
 今朝は貴女やセイバーに気を使って、得意分野ではない洋食にしてくれたというのに。
 負けん気が強いのはいいけれど少し大人気無いと気付いて欲しい。
 そんな彼女はどうやら、早朝の失態は忘れる事にしたらしい。今は衛宮邸に自分の簡易工房をこさえようと、屋敷中を引っ掻き回している。
 私が今何をしているのかといえば、様はその凛が引っ掻き回した後の片付けだ。どうせ片付けるなら、これから世話になるのだからと掃除を買って出たのだ。

「いえ、お気遣い無く。これから此方で世話になるのですから、家事も分担して手伝いましょう。その方が早く終わりますよ」
「そうか? すまないな、それじゃお言葉に甘えるよ」
 軽く笑みで答えを返す。さて、客間からクッションを強奪していったアカいカイジュウの通り過ぎた跡を直しに行きますか。
 おっとそうだ、今日の予定を伝えておこう。

「そうだ、士郎君。私は午後から少し用事で外に出ますから」
「ん? ああ。もう偵察に出るのか?」
「ええ、まあ。それ以外にも少々。これからの下準備といった所です。セイバーにも伝えておいてください、彼女なら道場に居ますよ」
「ああ、判った。遠坂も一緒なんだよな? なら問題ないさ。ちょっとセイバーの所に行ってくるよ」

 そう言い残し踵を返す士郎に手を振り見送る。さて、今日はまだ他の勢力も派手には動かない筈。網を張るには既に遅すぎるが出来る限りの策は取ろう。
 だが、とりあえず今は凛が引掻き回していった客間の片付けを済ませよう。そう思って部屋の中を一瞥し、溜息が漏れる。はあ、凛は片付けが下手ですね本当に……。
 時計の針が正午に近づく頃、ようやく片付けを終えて居間に戻る。室内には既に先客が二人、士郎とセイバーだ。
 何故か妙にぎくしゃくしている士郎は、大方私が渡した洋服に着替えたセイバーを妙に意識してしまい困っているのだろう。
 居間に入った私に一足遅れて凛が顔を出すなり口を開く。

「士郎ー、ビーカーとか持って無い?」
「遠坂、普通の家は大抵は実験道具なんて無いぞ。分度器ぐらいなら勉強用の小さいのがあるけど……それより遠坂、今朝からなんか違和感があったんだが今判った。何時の間に下の名前を呼び捨てにしてるんだ」

 そういえば今朝起きてきたときからそう呼んでいましたね。

「えっそうだっけ? 名前で呼ばれるのは嫌? なら呼ばないけど」
「いや、別にどっちでも構わないけど……」
「そう? じゃ良いじゃない。士郎、魔術師なら道具ぐらい揃えなさいよね?」

 凛はまだ離れに借りた部屋を改造する気のようで、色々と士郎の家にありそうな物を物色しようと企んでるようだ。

「凛、器具は昨日あらかた持ってきた筈でしょう。何か忘れ物でもあったのですか?」
「それがねー、さっき机の上の本をどかそうとした拍子に肘が当たって、ビーカー落っことして割っちゃって……代わりになる物ないかなって」
 はあ、出ましたか凛のうっかりが。器具は昨夜の時点では持てる最低限しか用意して来なかったから予備なんて無い。

「それでは丁度良い。凛、私も少し用意したい物がありますし、買出しに出ませんか」
「お、もう出るのか。昼メシはどうする? 今から用意するんだけど」
「じゃあ食べてからにしましょう。買出しは午後からにしましょ、アリア」

 昼食の当番はローテーションにするのでは無かったか? 確か朝食は士郎が作ったので次は凛か私の筈だ。

「あ、すみません。交代制だから昼食は私か凛の担当ですね。如何しましょうか凛?」「じゃあ私やるわよ。って、そういえば中華用の材料が無いわねー。じゃあ今回はアリアに任せるわ」

 私達は会話を交わしながら台所に赴き材料を見繕う。

「了解しました。和食でよければ」

 冷蔵庫の中身を確認するとホウレン草が一束残ってる。塩鮭の切り身もあったので焼き鮭を主皿にホウレン草のおひたしでも作って、腑と若布の吸い物といった所だろうか。
 焼き海苔があったので軽く炙って磯部巻きを作っても良いだろう。後は、卵で出汁巻きでも作ろうか。

「貴女、ホントに英霊? 和食でよければって……見た目はどう見ても白人なのに、妙に日本人臭いわね」
「あはは、よく言われましたよ生前も。いわゆる日本フリークってやつですか」

 前世の記憶があやふやだった子供の頃でもその印象はあまりに強かった為か、生前の私はシロウとの繋がりが強い“日本”の様々な物、文化に強く惹かれ、貪るようにそれを学び求めた。
 気がつけば周囲からは疑いようのない“日本好き”と思われるようになっていたのはいうまでも無い。

「ほんと、器用な物ね。包丁も菜箸の持ち方も完璧。貴女、下手な日本人よりよっぽど様になってるわ」
「クスッ褒めても何も出ませんよ、凛。もうすぐ鮭も焼けますからお皿を用意して貰えると助かります」
「はいはい」

 手元からトントンとホウレン草に包丁を入れる音を響かせる私の後ろで、凛が盛り付け用の皿を用意してゆく。
 塩鮭が焼ける香ばしい臭いが漂う中、程なくして朝食の準備は完了した。

**************************************************************

「どうぞお召し上がりください」
「「「頂きます」」」

 アリアが用意してくれた昼食に、各々が箸を進め始める。
 美味しそうな香りを放つ鮭や吸い物、鮮やかな緑を添えるおひたしに士郎とセイバーが挑む様子をそっと視界に収めながら自分も鮭をほぐして一口放り込む。

「お! 結構いい味付けだな」
「ほう、これは……」

 二人同時に声を漏らす。特に士郎には意外だったのだろう。
 士郎はどこから見ても白人の彼女が和食の味加減を心得ていたことに驚きの声を漏らし、セイバーは言葉短く、だが明らかにその料理に驚きを覚えている。そして、私も……。

「う……貴女、和食の方が上手いじゃない。なんでよ」

 そうだ、私に作ってくれていた料理は大体洋食中心の献立ばかりだった。味はまあ、悪くは無かったけれど。
 いい塩梅に焼けて、口の中にほっくりとした食感を与える焼鮭。塩加減も良く、辛すぎず薄すぎず。吸い物もちゃんと昆布と鰹の出汁が出ていて美味い。出汁巻きも出汁の旨味が良くわかる。うん、認めよう。確かに美味い。
 彼女から和食で良いかと聞かれた時、あの容姿で何故に和食を好んで選ぼうとするのか疑問に思った。
 てっきりここが士郎の家だから、和食の方が良いと判断しただけかと思って勝手に納得していた自分は愚か者だ。
 もっとも、そんな考えは彼女の調理姿勢の良さを見た瞬間、間違いだったと改めたけれど……まさかこんなに巧いなんて予想外よ。

「う~……見てなさいよ、晩御飯は絶対腰抜かさせてやるんだからね!」
「はいはい、期待させて頂きますよマスター」

 私の宣戦布告も朗らかに微笑みながら、簡単に返してくる我が従者。ええいくそっ何で彼女はこんなに余裕綽々なのかっ!?

「驚いたよ、料理結構巧いんだなアリアって。俺より少し味付けは濃いけど、出汁巻きは上手かったよ」
「私も驚きました。私もてっきり貴女は同郷だろうと思っていたので、その……失礼だが食事には期待していなかった。ですがこれは美味しい。欲を言えば、私はシロウの作ってくれた朝食の味付けの方が好みですけれど」

 素直に褒める士郎と妙に詫びるセイバー。はて、アリアってやっぱりセイバーと同郷なのだろうか?
 二人の言葉にも彼女は笑顔を絶やさず答える。

「ありがとうございます。確かに故郷の食文化は私もあまり擁護できません、セイバー。だから私は料理を勉強したんです。ええ、私も士郎君の味付けの方が好みですね。久しぶりに思い出しました」
「え、久しぶりってどういう事よ?」

 それは妙だ、アリアは一昨日の晩に私が呼び出したのだ。何故、昨日出会ったばかりの士郎の味が久しぶりなのだ?

「あ、いえ。そういう意味ではなく、私の料理の師匠の味付けを思い出したという事です。士郎君の味付けに良く似ていました」 
「へえ、どんな人なんだアリア?」

 興味に釣られての士郎の問いにアリアは懐かしそうな表情で、義に厳しく、そして非常に優しい人でしたと何故か頬を僅かに上気させて答えた。
 その時小声で――。

「その人に直接教われた訳じゃなく、ただ私が目標にしていただけですけどね……」

 という呟きを漏らしていたが、聞き取れたのは私だけだったのだろう。その時の彼女の表情は酷く儚げで、もの哀しげな微笑だった。
 一体何を思っての感傷か私は知らないし判らない。だが、アリアの視線が士郎に注がれているのは何故だろう?
 そんな私の心中など構わず食事は進む。

「セイバー、おかわりはいるか?」
「あ、でしたらお茶碗を此方に……はい、どうぞ」

 セイバーの茶碗を受け取り、慣れた手つきで御櫃からご飯を装っていくアリア。さっきから自分が食べるより皆に給仕している姿ばかり目に付く気がする。
 まあ、彼女もちゃんと食べているようだから別に心配はしていないけど。

「申し訳ない、感謝します」

 それにしてもよく食べる、一体その小柄な体躯の何処に入っていくのだろうと不思議に思えてしまうのはセイバーだ。
 もう茶碗の中身が空になった彼女は、三杯目のご飯をアリアから受け取って食べている。
 健啖家、という言葉は彼女のためにあるような気さえしてしまう。そんな彼女の食べ方を見ていてふと気付く。

「ほんっと、似てるわね~……」

 いや、本当に驚いた。何に驚いたって、彼女の食事姿勢にである。普段から無口なほうではあるが、食事中はほぼ無言。
 無心に一途にご飯を口に運んでは、こくりこくりと頷きながら食べている。そう、その姿は誰かさんにそっくり。
 その言葉に私の視線を追った士郎が気付き、アリアのほうを振り返る。

「あ……本当だ」
「? どうしました、士郎君?」

 士郎の言葉に気付くまではセイバー同様に、コクコクと頭を揺らしながら食事していたアリアが何事ですかと疑問を返す。
 人の事には余計なほど鋭いのに、何故か自分の事には妙に鈍いのよねアリアって。
 自分の食事中の癖はどうやら自覚していないらしい。はぐらかす士郎を特に気にもせず自分の食事に戻っている。
 ただ彼女は給仕に忙しく動いている為か、その食事量はセイバーの半分くらいしか食べていない。いや、それでも大の男一人前分ぐらいは食べているけれど。

「凛、お茶は要りますか?」
「ええ、お願い」

 丁度喉を潤したい欲求に駆られてきた所だったのでもらう事にしたが、そんなに気を使ってくれなくてもいいのに。ほんと、何から何まで庶民っぽい英霊さんだこと……。

「悪いな、アリア。さっきから給仕させてばかりで。俺がするから後はゆっくり食べなよ」
「ありがとう。でも別に苦じゃありませんから」

 士郎が代わると申し出てもかわらず、セイバーや私の世話を焼くアリア。流石は年長者、と言う事なのかしら?


 そのまま和やかな空気に包まれて昼食は終わり、士郎達が片付けを始めた昼過ぎの居間で一人、お茶を片手にまどろむ。

「凛、もう少ししたら片付きますから。片付けが終わったら新都までご一緒お願いします」
「ん~、判ったわ。もう仕度は出来てるからちゃっちゃと終わらせなさいね」

 ふと気になって、テレビの電源を入れる。士郎の家のテレビは年代物だから、幾ら私が機械音痴だといっても使える。
 ちゃんと電源と書かれているスイッチを押せばいいだけだもの。ええい、古代人とか原始人とか言うな! 人を馬鹿にするんじゃない!!
 確かに、エアコンの操作は判らなくて士郎を呼び出したりしたけど。
 だって最初に本体見てもスイッチ見当たらなかったし……リモコンは最初、ボタン一杯有りすぎて混乱したんだもの……。
 チャンネルを回し、午後のニュースが飛び込んできた所で止める。
 地方局の報道番組の中で取り上げられている事件、事故の中に、それはあった。

『深山町民集団失踪事件』

 ニュースの題字にはそう書かれていた。チャンネルを回してみると全国ネットのワイドショーにまで、地方の小さな一事件程度の扱いだが取り上げられている。
 その内容は主にあの住宅地周辺の住民が一晩で消え去ってしまっていた事。
 そして、私達が戦った場所は謎の破壊跡として、事件との関連性を疑われているといった物だった。
 私は思わず毒づく。

「やっぱり、住民は一人も居なかったんだ。でも、何故?」
「これは、昨日の場所ですか、凛」

 縁側に腰掛けて瞑想していたセイバーが戻ってきて画面を覗き込む。テレビに気付いたのだろう、士郎とアリアも台所から戻ってくる。
 私の背後から画面を覗き込みながら、アリアが口を開いてくる。

「やはり騒ぎになってしまいましたか。謎の集団失踪……。やはり昨夜の民家には、人は既に居なかったのか。原因も手段も一切不明。これは拙いですね。暫くの間は報道関係者やフリーの記者が街の中に溢れかえるでしょう。はあ、こうなっては目立つ行動は控えなければ……まったく、面倒な事になりましたね」

 画面を覗き込むなり眉間に皺を寄せ、現状を把握した彼女は難しい顔をしながら、こめかみに手を当て考え込んでしまう。
 何について考えているかは聞くまでも無い、今後の私達の偵察活動や聖杯戦争そのものにおいての事だ。
 事件がマスメディアに報道されてしまったことで、特ダネを血眼になって求める報道関係者といった一般人が増えてしまった。
 人目を避けて行われる私達の聖杯戦争において、第三者に対する警戒度が跳ね上がってしまったのだ。

「ちょっと綺礼に文句言ってやらなきゃね。情報操作すら満足に出来てないじゃない!」

 私は畳を蹴り一足で廊下に飛び出し古めかしい黒電話に飛びついた。
 怒りを抑えて手早く番号を回し、教会にいる監督官、言峰綺礼に電話をかける。
 緊張感の無い無機質な呼び出し音を聞く事数回、あの威厳に満ちた好きになれない声が受話器から聞こえてくる。

「はい、こちら言峰教会……なんだ、凛か。どうしたかね? まさか四日目でリタイヤするなどとは謂うまいな?」
「馬鹿言ってんじゃないわよ! 何よあのニュースは!? 報道規制どころか、情報操作すら碌になってないじゃない!!」

 一気に受話器に向けて捲し立てる。電話線の向こうの綺礼はまったく声の調子も崩さず、いつもの調子で淡々と語ってくる。

「そう言うな。情報操作は問題ない。というかだな、今回の件は他に情報操作しようもないのだ。報道が見つける前に事態を把握出来なかったのは拙かったが、変にもみ消せば不自然さが目立ってしまうのでな」

 受話器越しにいけしゃあしゃあとのたまうエセ神父。ああっこめかみの奥にイライラが募る!

「あの周辺は実際に昨晩、恐らく君らが戦闘を行う少し前だろう。住民が一瞬にして消えたのだ。文字通り、掻き消えた。消えるその一秒前まで、普通に生活していたままの生活感を家の中に残してな」

 その言葉に、一瞬気が遠くなった。


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