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No.1071の一覧
[0] Fate/Liberating Night her codename is “Soldier”[G3104@the rookie writer](2007/05/14 02:57)
[1] Fate/Liberating Night her codename is “Soldier” vol.2[G3104@the rookie writer](2007/03/05 00:23)
[2] Fate/Liberating Night her codename is “Soldier” vol.3[G3104@the rookie writer](2007/03/05 00:24)
[3] Fate/Liberating Night her codename is “Soldier” vol.4[G3104@the rookie writer](2008/06/02 22:03)
[4] Fate/Liberating Night her codename is “Soldier” vol.5[G3104@the rookie writer](2008/06/02 22:10)
[5] Fate/Liberating Night her codename is “Soldier” vol.6[G3104@the rookie writer](2007/03/05 00:32)
[6] Fate/Liberating Night her codename is “Soldier” vol.7[G3104@the rookie writer](2007/03/05 00:33)
[7] Fate/Liberating Night her codename is “Soldier” vol.8[G3104@the rookie writer](2007/03/05 00:34)
[8] Fate/Liberating Night her codename is “Soldier” vol.9[G3104@the rookie writer](2007/03/30 00:27)
[9] Fate/Liberating Night her codename is “Soldier” vol.10[G3104@the rookie writer](2007/03/05 00:36)
[10] Fate/Liberating Night her codename is “Soldier” vol.11[G3104@the rookie writer](2007/03/31 05:11)
[11] Fate/Liberating Night her codename is “Soldier” vol.12[G3104@the rookie writer](2007/04/19 23:34)
[12] Fate/Liberating Night her codename is “Soldier” vol.13[G3104@the rookie writer](2007/05/14 00:04)
[13] Fate/Liberating Night her codename is “Soldier” vol.14[G3104@the rookie writer](2007/06/07 23:12)
[14] Fate/Liberating Night her codename is “Soldier” vol.15[G3104@the rookie writer](2007/09/28 08:33)
[15] Fate/Liberating Night her codename is “Soldier” vol.16[G3104@the rookie writer](2011/07/19 01:23)
[16] Fate/Liberating Night her codename is “Soldier” vol.17[G3104@the rookie writer](2008/01/24 06:41)
[17] Fate/Liberating Night her codename is “Soldier” vol.18[G3104@the rookie writer](2008/01/27 01:57)
[18] Fate/Liberating Night her codename is “Soldier” vol.19[G3104@the rookie writer](2008/08/15 20:05)
[19] Fate/Liberating Night her codename is “Soldier” vol.20[G3104@the rookie writer](2008/08/15 20:04)
[20] Fate/Liberating Night her codename is “Soldier” vol.21[G3104@the rookie writer](2008/08/16 04:23)
[21] Fate/Liberating Night her codename is “Soldier” vol.22[G3104@the rookie writer](2008/08/23 13:35)
[22] Fate/Liberating Night her codename is “Soldier” vol.23[G3104@the rookie writer](2008/08/19 14:59)
[23] Fate/Liberating Night her codename is “Soldier” vol.24[G3104@the rookie writer](2011/06/10 04:48)
[24] Fate/Liberating Night her codename is “Soldier” vol.25[G3104@the rookie writer](2011/07/19 02:19)
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[1071] Fate/Liberating Night her codename is “Soldier” vol.6
Name: G3104@the rookie writer 前を表示する / 次を表示する
Date: 2007/03/05 00:32
 冬の気配に冷やされた海風が川下から駆け上り、頬を掠めて髪を梳いてゆく。
 夜の闇に消えたランサーを追って、私は深山町と新都を結ぶ鉄橋の上まで来ていた。
 辺りは既に夜も更け、時刻は刻々と深夜に近づいている。ランサーとの前哨戦からは既に二時間が経っていた。
 ランサーの足取りを追い、敵マスターの正体を探る。私は凛からそう命令を受け、あの場を離れたが……私は既に知っている。あの男のことを。
 川の向こうに見える新都の高台に荘厳と、しかし威圧的に佇む教会の主。過去、かつて英霊だった私がシロウを助けに向かい、邂逅した黒い神父。
 恐らくこの世界のランサーの主もあの男だろう。
 ランサーの疾駆した魔力の残滓は、途中色々と進路を換えながら川の手前までで途切れ、追跡できなくなった。
 伊達に斥候をさせられていた訳ではない、と言ったところか。ランサーはその持ち前の機動力を活かし、短時間で追っ手を攪乱させる為に周到に遁走したようだ。
 右肩、両膝を撃ち抜いてやった筈だが、中々どうして大した脚力だと感服する。
 適当な頃合を見計らってランサーの追跡を諦めようと、余り成果は出ないと知りながら手近で尤も展望の良い場所に立ち、懐から双眼鏡を取り出し新都の方角を索敵してみる。

「ふぅ。さて、如何した物でしょうね。とりあえずあの場は、私は居た堪れなかったのでランサーを追う命に従って此処まで来ましたが……」

 誰にも聞かれる事など無い場所に一人立ち、誰に聞かせるでもなく呟いた。それは自問ともとれる胸中の吐露。
 赤く塗装された鉄橋のアーチの頂上に立ち、少し流れの強い夜風に髪を流して佇む。
 此処からざっと新都を見渡しても、見える物は向こう岸の新市街区に燈る街火だけ。
再開発とやらで、まるで雨後の竹の子の様に次々と生えた高層建造物(ビル)の林から漏れる人工の光が、煌びやかに双眼鏡のレンズに映り込む。
 それは傍目には酷く暢気で平和な光だ……。例え、今こうしている間も真っ当な魔術師とそのサーヴァントはこの街に住む者たちから生気を掠め取り、己が軍備を着々と進め始めているのだろうが、秘匿を第一とする魔術師の戦が都市の外観に影響を及ぼすリスクを負う筈も無い。

「はぁ。やはり無駄か……」

 街を隈なく観察するも、やはり特に収穫は無かった。
 比較的暖かい冬木市の冬とはいえ、その風はまだまだ身を切るように冷たい。
 だが、今この時ばかりはその冷たさも、沸騰しかかった激情を抑えてくれる涼しさに感じられて少し有難かった。
 実は、私は内心ではとても冷静では居られなかったのだ。例えそれが直接、彼の死に繋がりはしないと判っていても。
 判っている。あの傷が無ければ『エミヤシロウ』は英霊として、凛の宝石を触媒として彼女に召喚される事も無かったかもしれないのだから。
 あの場で仮に彼を救えたとして、『彼女に助けられる』事が無いまま彼が英霊の域に達したとしても、その生涯における縁の深さ故、同じように凛に呼ばれるかもしれない。
 だがそれでは呼ばれない可能性も無い訳ではない。そして私が知っている彼はこの宝石を彼女との縁とした彼だ。
 いわばあの宝石と怪我は“彼”の“彼女”との接点。
 だから私はそれを止める事も、やはり出来なかった。
 それでも、自分が愛する人が目の前で傷つけられるのは……たまらなく辛かった。

 ――アルトリア、衛宮士郎もあのアーチャーも、同様に私も、起源は『衛宮士郎』に違いは無いが、この世界の奴が必ずしも“座に記録された私”に繋がるとは限らない――

 勿論、それも判っている。それでも、彼もまた私が愛するシロウと根源は同じだから。
 それは英霊となっても尚、私と共に戦ってくれた貴方と根が同じだからです、シロウ。
 そしてアーチャー、彼も……。
 むぅ。と私の魂に宿る鞘の中で彼が渋った声をあげる。
 む、貴方は過去の自分を見て、まだ自分殺しの未練が残っているとでもいうのですか。

 ――その心配は無用だ。アレは既に“別人”であり、私との連続性は無い。私とてもう八つ当たりに縋る心算は無いよ、アルトリア。君に召喚された事で私は立ち直れた――

 その回答に満足し、私は胸中の懸念を解く。ならば私達がする事はただ一つだ。さて、そろそろ凛の元に戻らねば。
 既に通る車も絶え、シンと静まり返ったアスファルトの上に私は降り立ち、背後の深山町へ踵を返した。




第六話「兵士と剣士は邂逅する」




 遠坂邸の居間に我が主が帰ってから、時計の長針は既に二回りしていた。

「それにしても、アリアってば一体何処まで追跡してったのかしら?」

 彼女以外誰も居ないシンとした居間に、カチコチと時計の秒針が動く単調な音だけが規則正しく奏でられる中、暇は持て余したと言いたげに独り言が紡ぎだされる。
 これは悪い事をした。少し待たせ過ぎてしまったかな。

「只今戻りました、凛」

 私は先ほどの呟きはとりあえず聞かなかったふりをして居間に入り、実体化する。

「お帰り、アリア。結構遅かったわね? まあ相手はクラス一の俊足を誇るランサーだし、仕方ないけど。それで、余り成果があるとは思えないけど、如何だった?」

 彼女は気だるそうにソファに背を預け、軽く片腕を額に乗せながらそう聞いてくる。

「そうですね。すみませんが逃げられました。成果があるとすればランサーのマスターは此方の街には居ない事が判ったぐらいでしょうか」
「そう……判ったわ。とりあえずご苦労様」

 凛が労いの言葉を掛けてくる。

「はい。余りお役に立てず申し訳ありません。ところで、凛。彼は如何されました?」

 私はずっと気がかりだった少年の事を聞いた。うっかり持ちな彼女の事だ、きっと彼を保護し忘れていることだろう。
 聖杯戦争は大抵の魔術師にとって“神秘の実現も可能と謂われる魔法の窯”を求める為の一世一代の賭けでもある。
 ならばこそ当然の如く神秘の秘匿を第一とする彼らにとって、この戦争は一般社会から完全に秘匿されなければならない。
 彼はそんな聖杯戦争の目撃者。それを口封じもせずに殺す事無く助ければ、生き延びた彼は神秘の漏洩を恐れる者達……つまり彼を殺そうとした敵や他の参加者から常に危険に晒される事になる。
 だから、助けたなら最後まで保護しなければ、衛宮士郎は間違いなく再び殺される。
 事実、過去の私の時――私が召還された時、彼は今にもランサーに殺されんとしている所だった。今思い返してもあの時は間一髪だったと思う。
 だから助けなくては。既に私が此処に居る事で、この聖杯戦争は既に私の知る流れでは無くなっているのだから。何かがあってからでは遅いのだ。

「とりあえず、蘇生は上手くいったわ。今思い出してもアレは奇跡的だったと思うけど。私は医学知識なんて大して持ってないし、酸素不足で脳死しかけてて、しかも心臓破裂して逆流する血液の内圧で損傷した血管を蘇生する――なんて繊細で器用な真似も到底出来ない。だから力技よ」

 力技であの傷を治せるなんてどんな才能だろう? といった疑問を自分自身で感じているのか、自慢げな言葉の割りにその目は自分の成果に訝しむ色を見せている。

「ただ膨大な魔力で強引に、切断された組織やら血管やら、神経やらを強引に繋ぎ合わせて修復しただけ」

 ただそれだけの事だ。と言うように言葉を切る。

「驚いたのはそれだけで何とか一命を取り留めた彼の冗談じみた生命力の方よね」

 最後にそう付け加えて彼女は口を閉じた。

「そうですか、それは良かった。では彼は、今はこの屋敷内に居るのですか? それとも、もう教会に? 当然保護してきたのでしょう?」

 私は内心その答えは判っていながらも、彼女に尋ねてみる。

「え? いいえ、そんな事してな……しまった。考えてみれば、あのままじゃあ片手落ちじゃない!!」

 凛は一瞬何の事かというような呆けた顔を見せ、即座に彼をあの場に『置き去り』にしてきた失態に気付いた。
 いつもの癖なのだろう、顔を掌で覆うように当て、狼狽した眼で虚空を見つめている。

「何でこんな単純な事に気が付かなかったのかしら……。ランサーがそんなヤツを――、生かして置くわけ無いに決まってる――!!」

 凛はぶつぶつと自己に埋没しながら呟いていたかと思うや、気だるそうに深々と沈み込んでいたソファから勢い良く立ち上がる。

「凛、あれからすでに三時間は経過している。間に合わないかもしれませんが、行くなら急ぎましょう」
「当然!! 今すぐ出るわよアリア。郊外にある大きめの武家屋敷よ!」
「了解(ラジャー)! 直ぐに向かいましょう!!」

 私達は深夜の住宅街へと駆け出した。


 青い兵士と赤い魔術師が夜を駆けていく。まるで静物画のようにシンと動きの無い景色の中を走る影が二つ、住宅街を一筋に縫って行く。
 深山町の住宅街、その建築様式が急に様変わりする境界線に位置する交差点の所までやってきた。
 ハァ、ハァ、と苦しそうに息継ぎをしながら私の後ろに少し遅れてついて来ている主。
 屋敷から此処まで、ずっと全力疾走してきた彼女はかなり息を切らしてはいるが、その瞳に宿る意志の光に微塵も揺らぎは無い。

「凛。少しペースを上げましょう」
「ち、ちょっと待って。これでも魔術で脚力を強化して走ってるのよ?」

 確かに今彼女は魔術で脚力を常人を遥かに超えさせている。しかし彼女はそもそも魔力、体力の回復が万全ではない上に先の戦闘で両方疲弊している。
 凛は人並み外れた魔力の持ち主だが、今の彼女は魔力以上に体力が追いついていない。

「凛、つかまって下さい」

 私は今にも息切れしそうな彼女の傍まで寄り、彼女を背負い一気に塀、電柱と三角跳びの要領で蹴り飛ばし、民家の屋根に登る。

「サーヴァントの脚力の方が速いでしょう。私はクラス別で言えばランサーやライダーには程遠いですが、足には自信がある」

 私は足に魔力を廻し筋力強化を施すと同時に魔力放出も合わせ、一気に屋根伝いに武家屋敷までの直線コースを駆ける。

「ねえ、アリア。貴女、道順なんて知らないはずよね?」
「凛……。私が昨日、何を調べていたかご存知でしょう? 心配せずとも新都と深山町の地理は概ね把握しています」

 まあそんな物に頼らずとも、あの家の場所は決して忘れる事など有り得ないのだが……。
 先日の下調べが咄嗟の言い訳の役に立った。

「っ――サーヴァントのスピードって体感すると怖い物があるわね」

 背後から凛が、辺りを流れる景色に視線を這わせながら呟いてくる。まあ、普通の人間が生身のままで体感する速度ではないのだから無理も無い話ではあるが。
 真夜中の涼やかな風の中、普段見慣れないような屋根の上という高い視界から見下ろす街並みは何処か新鮮な感慨を覚えさせる。
 遠くに見える市街地の明かりも相まって、疾風のように流れる夜景はともすると本当に幻想的かもしれない。

「それにしても、女が女に抱えられるのもちょっと絵にならないかなー?」

 そんなことを言ってくる辺り、彼女には流れる夜景も然程ロマンチックな光景に映ってはいないのかもしれない。
 否、むしろその逆で、今彼女を抱えている私が逞しい男ではない為、絵にならないと思ったのだろうか。

「女同士で絵になられても少し困りますが……」

 内心で彼女との生前の記憶を思い出し、僅かに赤面しながら、自分にその気は無いと暗に込めて答える。だが……。

「まあ、お望みでしたら俗に言う“お姫様抱っこ”の状態で抱いて走りますが?」

と、少しばかりからかってみたくなってしまい、口に出す。

「え、ええっ!? いや、それは流石に……遠慮しておくわ」

 このくらいは細やかに復讐させてもらってもいいでしょう凛? 貴女にはシロウとの事で散々からかわれたのですから。

「貴女、今ちょっと嫌な笑み浮かべてない?」

 鋭いですね、やっぱり。 凛はどの世界だろうと勘の鋭さや人をからかう意地の悪さは変わらないのかもしれませんね。

「余り喋っていると舌を噛みますよ」
「そ、そうね。黙ってお…(ガブッ)!!」

 舌を噛むと忠告したのに凛はまだ喋ろうとして、やっぱり舌を噛んだ。

「――!! 痛ったあ~……」

 軽口ばかり言ってるからです。それは自業自得、良い薬だと思って反省して下さい。
 そんな気が抜けそうなやり取りをしているうちに目的地が近づいてきた。自然と気が引き締まる。
 ごくありふれた日本の戸建住宅が立ち並ぶ区画の先。
 結構坂道の多いこの住宅街でもかなり小高く、郊外にちかい場所に建つ武家屋敷。
 私が過去に召還され、彼と出合った運命の土地、衛宮邸。その武家屋敷の質素だが堅実な造りの門構えが視界に映る。

「凛、もうすぐ着きます。既にサーヴァントの気配がある。恐らくはランサーです。気を引き締めて下さい」
「オーケー、急いで!」


 時刻は既に午前零時、私達は屋敷の前に到着した。主だった住宅地から少し離れた郊外に近いこの屋敷の周囲にはこの時間、人気という人気は無い。
 吐く息が何故か白く踊った。にわかに風が出てきたらしく、辺りが急速に薄ら寒く冷え込んでゆく。
 私達の頭上を覆い尽くす暗い曇天は風に流され、暗雲が幾筋も帯を引き、夜空を斑な縞模様に描き変えてゆく。
 坂の上にある此処はしっかりと、今はまだ冬なのだと冷たい空気で私達の五感に訴えてくるかのようだ。

「居る。ソルジャー、この魔力はヤツよね」

 そう凛が問いかけてくる。

「ええ、間違いありません。ただちに踏み込みますか?」

 私が彼女に指示を仰いだ丁度その時、突然屋敷の中から目も眩みそうなほど強い白光が閃き――最後の一人が召喚された。

「うそ――」

 そう呟き、凛が呆けてしまっている。

「凛、しっかりして下さい。どうやら召喚されたサーヴァントとランサーが中で戦闘を始めたようです」

 屋敷の塀の向こうからは幾度も堅い金属同士を叩き合わせる甲高い音が響いてくる。
 この剣戟の音は、間違いない……私だ。
 この時代、この世界でも“彼女”は召喚されたようだ。聖剣の主、騎士の王。幾合も続いた剣戟を交える音が止み、ランサーが屋敷から飛び出してくる。
 その顔は少し嬉々としてにやりと歪んでいた。

「今のは、ランサー!?」

 私の後ろで凛が逃げた影の正体に気付き驚きの声を上げる。

「凛、周囲に防音結界を…!」

 私はこの後に待ち受ける展開に多少既視感を覚えていた。
両手に一対の武装を取り出し、後ろで結界を張り終えた凛に銃のグリップを握る手の甲で合図し後ろに下がらせる。
 その直後、流れる雲が月を遮り、周囲に刹那の闇を落とす。その一瞬の闇の中、塀を飛び越え、青の装束と銀の甲冑に身を包んだ騎士が頭上に翻った。
 ――いけるか――!?

 銀の騎士は自身に掛かる重力までその剣に上乗せした重い一撃を振るってくる。
 私は両手にした銃の下部レールとナイフを交差させ、剣戟を全力で受け止めた。
 ガキンッと耳障りな衝突音と同時に、互いの武器に纏わせた魔力同士が反発しあい電光のような火花が撒き散る。

「ぐぅっ!」

 力任せに振るわれる見えない刀身。だが、かつて自分自身が持っていた物だから、その詳細も全て理解している私には余り不可視の効果は無い。
 だが、存外な膂力で振るわれた刃を受け止めた腕は一気に曲がり、力に押されジリジリと刃が降りてくる。
何故なら受け止める瞬間、力を受け流すように膝、肘、腰、及び全身を緩衝材として屈伸させたからだ。
 真っ正面から力任せに止めようとしては、幾ら魔力で強化されていてもこの武器が耐えられない。
 それにやはり筋力で到底適わない。何とか力の向きをずらして逃がし受け止めるも、余りに強すぎる膂力に圧され、不可視の刃先が額を掠める。
 その切っ先が触れた前髪から、はらりとニ、三本の金糸が切れ落ちる。
 このままでは確実に力負け、この剣に両断されるのは時間の問題。一瞬でも気を緩めればたちどころに切り伏せられる。
 銀の騎士は初手が止められて即座に切り返し斬撃を繰り出すかと思ったが、此方の腕力を見透かしたか、このまま圧せると確信したらしい。
 技でなんとか持ち込んだ力の均衡も直に破られる、私に出来る手立ては限られていた。
 ――成功するかどうか、保証は無いが…!
 胸中で意を決し、右手の銃を内に傾け力の支点をずらす。自然に、受け止めていた刀身が抵抗の弱くなった右側にその軌道をそらし、勢いよく右肩口に喰らい付いた。

「ぐ、づっ!」

見えない刀身が鎖骨の上に食い込み、肉を抉る。激痛は今は無視しろ、今受け止めた両手を緩めては力任せに切り裂かれる!
 騎士がその持ち前の直感でこの状況が何かおかしいと感付き、既に刀身の半分は完全に肩に食い込ませた剣を引き離しに掛かる。

「甘い。折角捕まえた手を離すと思いますか?」

 痛みを噛み殺し、やせ我慢にも見えそうなほどの笑みを浮かべ相手の心理を揺さぶる。

「――――っ!」

 見えなくとも確実に刀身はあるのだから、止めてしまえば掴むことだって可能。
彼女が剣を引き戻そうと力を逆にかけた一瞬の隙を逃さない。息を一瞬で吐き出すと同時に全身のバネを弾かせ、剣を引き戻す力に重ねて、両手の武器で絡めた刀身を押し返す。
 彼女が咄嗟にその力に抵抗しようと込める力を利用し、絡めた刃先を揺らし力の向きを明後日に向け剣を横に捌く。
彼女の武器は剣。体術も会得しているだろうが、体裁きの心得はかつての自分よりは今の自分の方が高い次元にある。
 元より、溢れる魔力に頼り力任せに、常人離れした筋力で叩き付ける事が出来た過去とは違い、今の身は魔力など碌に無い唯の人間となった自分。
 当然かつての戦法が使えるはずも無かった私は、彼同様に人の身で到達できる業の極みを目指す他に、守りたい者を守れる術を持たなかった。
 だから体術では負けはしない、かつての自分の“人としての力量”は判っている。それを凌駕する事を目標に頑張ったようなものだったから。
 是は“英霊”としての彼女に勝つための業ではない。“人”としての彼女を制する戦法。
 如何に英霊とて元は人間。人間ならばこそ生前から残る“人間であるからこそ”対応出来ない習性がある。
 私は剣を横に捌き、右手の銃身下部レールマウントの切り欠きで刀身を引っ掛けたまま制しておき、武器を捌かれ無防備になった懐に踏み込み、左手に持ったナイフの刃を頚動脈の位置にぴたりと這わせる。

「くっ――このっ!?」

 銀の騎士が首筋にナイフが触れるか触れないかというところでにわかに声を上げ、信じられぬほどの反応速度で上半身を反らし後ろに飛び退いた。
 私と騎士の距離が開き、仕切り直すかのような立ち位置になる。

「……ぷはっ、ふう。全く、直感だけで完全に動きを読まれてはたまりませんね」

 私は一連の動作の間止めていた息を吐き切り、そう言って右肩の痛みを堪え深呼吸する。
 まるで数分は息を止めていたような倦怠感が全身に襲いかかる。実際止めていた時間はほんの一~二秒にも満たないだろうが。

「仕留め損なったか、だが次はないぞ?」

 銀の騎士が再び構えを取り、今にも切りかかろうとしたその時――。

「セイバーッやめるんだ!!」

 少年の声が響くのと時を同じくして、月を覆い隠していた雲が流れ、月光が二人の姿を照らしだした。


 幽玄な月明かりの下に顕わになった二人の英霊。その姿に驚きの声が響く。

「な――――!?」

 その声は誰の声だったか。目の前の騎士か、後ろに守っている凛か、それとも騎士を止めに来た彼女のマスターである少年の物か。
 恐らくその全員が同様の声を漏らしていたのだろう。その場で唯一人、無言だった私を見つめ、三者が一様に唖然とした表情を見せていた。

「セイバー、驚くのはもうそのくらいで。とりあえずこの場は剣を収めてもらえませんか」

 両手の武器を解除し、素手になって姿勢を正し、そう問いかける。

「うそ、なんで? なんでそんなに似てるのよ貴女達!?」

 一番最初に呆然自失状態から立ち直った凛が第一声に一番の疑問点をぶつけてくる。

「問おう、貴女は一体……何者だ?」

 剣の騎士、セイバーが私の姿を上から下まで隈なく怪訝な目で見つめながら聞いてくる。

「っ……セイバーが、二人?」

 彼女のマスターとなった、凛が救った少年。衛宮士郎が見たままの感想を、率直に口にしてくる。
 只々、自分に向けられた三つの視線と肩の傷が痛い。まあ肩の傷は既に宝具の力により殆ど修復されてきているが。
 彼らが怪訝に思うのも無理は無い。私と彼女の違いは、その服装と見掛けの年齢(とし)の差程度のもの。
 それは彼女が蒼い生地に金糸の刺繍で装飾された、ドレスのような戦装束の上に、銀のプレートメイルを纏った鎧姿に対し、此方は襟や袖口など、部分的に金糸で淵縫いされた蒼染めのトレンチコート。
 その下には白のYシャツに黒のウェストコート。下半身は濃紺色のタイトパンツに靴底の頑丈な軍用ブーツ。
 この姿は生前好んで着ていた服装で、死ぬ間際にも着ていた物だ。尤も、今は右肩からの出血が白いシャツと蒼いコートに赤黒い染みを広がらせていたが。
 SASを除隊し再び……いや、転生してからは初めての冬木の街に還ってきたあの時の服装のまま……。
 年相応に成長したため若干背高く、女性らしくはなったが髪も眼も、肌の色も同じなら顔の造作まで同じだったのは、その魂に刻まれた姿なのだろうか。

「私が何者でも構わないでしょう。私は凛のサーヴァント。ただそれだけです。それよりもセイバー、此方からの休戦の申し出は受けて貰えないのでしょうか?」

 暫く私に見入って自分の世界に旅立ってしまっていた三者は各々はっと現実に立ち戻る。
 そこで衛宮士郎が私の主に気付き、驚愕の声をあげた。

「っまさか……遠坂、遠坂なのか!?」
「ええ、奇遇ね。今晩は衛宮くん」

 凛はもう既にショックから立ち直ったのか、いつもの猫を被り直した態度を取り戻して彼に対応している。
 いや、凛の性格からして内心まだ動揺は残っているだろう。だが今は聖杯戦争中、人に弱みを見せる訳にはいかない彼女にとって、その程度の取り繕いは容易い。

「意外だったわ、貴方。まさか魔術師だったなんてね」

 凛が内心の怒りさえ含めて冷ややかな声色で告げる。恐らく彼は今、心中で身震いしたのではないだろうか。

「えっ? と、遠坂。一体なんで俺が魔術を使えることを知ってるんだ!? って謂うか、そもそも遠坂も魔術師だったのか!?」

 彼が唯一人事態を飲み込めず驚き続ける中、セイバーは己が主に物言いたげにしていたが、マスター同士の会話の中に口を挟めず戸惑っている。
 やれやれ、ここは助け舟を出さないといけないか……。

「凛。どうやら彼はこの聖杯戦争の事をまるで知らないようです。どうでしょう、此処はひとまず休戦し、彼に自分が置かれた状況を理解させて差し上げては?」
「ん、そうね。っていうかソルジャー、貴女肩に深手を負ったでしょ! 早い所魔方陣に戻って治療しなきゃ……あれ? 傷はもう塞がってる、貴女治療魔術なんて使えたの?」

 私の傷が殆ど塞がって治りかけている事に驚き、凛がそう聞いてくる。

「いえ、私も簡単な魔術程度は扱う事が出来ますが、治療に特化したものは有りません。これは私の持つ特殊能力の一つだと思って下さい、その分魔力は消費しますが」

 その私の特殊な力を見て何か思い当たる節があったか、セイバーが考え込むように顔を伏せる。

「どうかしらセイバー。私達からは貴方の無知なマスターに私がこの聖杯戦争についての知識を教えてあげるわ。それを交換条件に休戦しましょう?」

 思案顔をしていたセイバーにも了承を取り付ける。

「いいでしょう、魔術師(メイガス)の判断基準は等価交換と聞く。条件が等価なら不確定要素が多い謀略を犯すリスクは望まない。今はその行動原理を信じましょう。マスター、判断は任せます」
「ん、ああ。俺はそれで構わないよ。正直サーヴァントだのマスターだのと言われても、俺には何がなんだかさっぱりだから助かる」

 セイバーは凛からの休戦協定に承諾し、マスターである彼が最終決定を下してくれたので胸中でホッと胸を撫で下ろす。

「決まりね。それじゃあ衛宮くん、悪いけど上がらせてもらうわね」

 セイバーの承諾が取れるや、家主である彼の許可も聞かず先にそう告げて、凛は入口の門構えを潜って屋敷内に入っていってしまった。
 呆気に取られ、慌てて彼が後を追い家に入っていく。いまだ私への警戒を緩めないセイバーはまだ門の前に立ち尽くし、私を監視している。

「さて、それじゃ私達も入りませんか、セイバー? 心配せずとも、彼に危害を加える事はありませんよ」

 そこでようやく彼女も剣を納め、闘志を抑えて私を屋敷の中に誘う。

「……。いいでしょう、ですが妙な真似をすれば容赦はしない。覚えておくことです」

 私の時はアーチャーを即斬り倒し、引かせてしまったのだが。あの当時の私でも、此処まで警戒心が強かっただろうか。
 私の姿が彼女の警戒心を疑心で更に強めてしまったのかもしれない。
 過去の自分と、何もかもが同じである“別人”の彼女に警戒の念を抱かれながら、私は懐かしい門を再び潜った。


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