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No.1071の一覧
[0] Fate/Liberating Night her codename is “Soldier”[G3104@the rookie writer](2007/05/14 02:57)
[1] Fate/Liberating Night her codename is “Soldier” vol.2[G3104@the rookie writer](2007/03/05 00:23)
[2] Fate/Liberating Night her codename is “Soldier” vol.3[G3104@the rookie writer](2007/03/05 00:24)
[3] Fate/Liberating Night her codename is “Soldier” vol.4[G3104@the rookie writer](2008/06/02 22:03)
[4] Fate/Liberating Night her codename is “Soldier” vol.5[G3104@the rookie writer](2008/06/02 22:10)
[5] Fate/Liberating Night her codename is “Soldier” vol.6[G3104@the rookie writer](2007/03/05 00:32)
[6] Fate/Liberating Night her codename is “Soldier” vol.7[G3104@the rookie writer](2007/03/05 00:33)
[7] Fate/Liberating Night her codename is “Soldier” vol.8[G3104@the rookie writer](2007/03/05 00:34)
[8] Fate/Liberating Night her codename is “Soldier” vol.9[G3104@the rookie writer](2007/03/30 00:27)
[9] Fate/Liberating Night her codename is “Soldier” vol.10[G3104@the rookie writer](2007/03/05 00:36)
[10] Fate/Liberating Night her codename is “Soldier” vol.11[G3104@the rookie writer](2007/03/31 05:11)
[11] Fate/Liberating Night her codename is “Soldier” vol.12[G3104@the rookie writer](2007/04/19 23:34)
[12] Fate/Liberating Night her codename is “Soldier” vol.13[G3104@the rookie writer](2007/05/14 00:04)
[13] Fate/Liberating Night her codename is “Soldier” vol.14[G3104@the rookie writer](2007/06/07 23:12)
[14] Fate/Liberating Night her codename is “Soldier” vol.15[G3104@the rookie writer](2007/09/28 08:33)
[15] Fate/Liberating Night her codename is “Soldier” vol.16[G3104@the rookie writer](2011/07/19 01:23)
[16] Fate/Liberating Night her codename is “Soldier” vol.17[G3104@the rookie writer](2008/01/24 06:41)
[17] Fate/Liberating Night her codename is “Soldier” vol.18[G3104@the rookie writer](2008/01/27 01:57)
[18] Fate/Liberating Night her codename is “Soldier” vol.19[G3104@the rookie writer](2008/08/15 20:05)
[19] Fate/Liberating Night her codename is “Soldier” vol.20[G3104@the rookie writer](2008/08/15 20:04)
[20] Fate/Liberating Night her codename is “Soldier” vol.21[G3104@the rookie writer](2008/08/16 04:23)
[21] Fate/Liberating Night her codename is “Soldier” vol.22[G3104@the rookie writer](2008/08/23 13:35)
[22] Fate/Liberating Night her codename is “Soldier” vol.23[G3104@the rookie writer](2008/08/19 14:59)
[23] Fate/Liberating Night her codename is “Soldier” vol.24[G3104@the rookie writer](2011/06/10 04:48)
[24] Fate/Liberating Night her codename is “Soldier” vol.25[G3104@the rookie writer](2011/07/19 02:19)
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[1071] Fate/Liberating Night her codename is “Soldier” vol.5
Name: G3104@the rookie writer◆58764a59 前を表示する / 次を表示する
Date: 2008/06/02 22:10
「そっちがこないなら……こっちから行くぜ!」

 禍々しい魔力を漂わせる赤い槍を眼前で翻し、蒼い槍使いが地を蹴り襲い掛かる。
 遠方に燈る街火の他に目ぼしい明かりの無い校庭は暗く、かろうじて強い光を放つ月の光の下に、槍兵のシルエットだけが宙に描き出される。
 私は後ろに下がらせた凛の前に立ち、徒手空拳のまま彼と対峙した。ランサーが槍を振りかぶり飛び込んでくる。
 純粋なサーヴァントとしての能力で考えれば、私がランサーに適う筈はない。だが、私の記憶どおりならランサーにはある“制約”が存在する筈だ。
 彼のマスターに掛けられた『偵察任務』に徹させられる令呪の戒め。初見の相手には実力を出し切れず、必ず一度は撤退しなければならない呪い。
 この制約が無ければ、私がランサーに勝てる見込みなど無いだろう。幸い今宵は初見。
 私が彼を倒すには今が最大の好機だが、それでも果たして何処まで通用するか。
 今の私は剣士ではなく唯の一兵士。既に剣を手放し、王の責務を全うし、眠りに就いたこの身に在るのは只一つの奇跡と、最後の最後に望んだ夢の先で得た経験。
 この手に刻まれし“業”は、戦場を生き延びる為の術。敵を屠る術。
 人々を救い、在るべき平和を取り戻し、護れる為にと欲した、人として可能な限り修め続けた文武の才。
 神話の伝説に名を連ねる“英雄”を相手にするには些か力不足だろうが、私の人生を掛けて培った全ての業を以って、全力で挑まなければ生き残る事すら儘ならない。

「FN P90」

 真っ直ぐ彼を指差すように伸ばした右手に、使い慣れたPDWと呼ばれる短機関銃がすうっと虚空から滲み出るように実体を取り戻し現れる。
 掌の中に独特な形状を持つ合成樹脂製のグリップの感触を感じ取り、指先の向こうで怪しげに鈍く光る鉄(くろがね)の口腔が真正面に蒼き獣の脈打つ急所を捉えた。

「――――――!?」

 鉄の口蓋の奥に潜む獰猛な“牙”に本能で気付いたか、チッと舌を鳴らした彼は即座に槍を回転させ防御の姿勢をとる。その咄嗟の機転の何と疾(はや)い事か。
 遠慮など無用。仮にも大英雄を前に、今となっては軍人上がりの私如きが遠慮するなど無礼も甚だしい話と言う物だ。私は迷い無く、直ぐ様己の人差し指に力を込めた。
 ほんの一時、小さな炎の閃光が暗闇を押し退け辺りを照らす。サウンドサプレッサーを取り付けた銃口から飛び爆ぜる連続した破裂音が、広い校庭の大気を震わせる。
 高、低周波共に減衰されたその咆哮は事のほか弱弱しく、間の抜けた音のように聞こえた事だろう。
 控えめなマズルフラッシュと、ライフル弾に使われている速燃性無煙火薬特有の、湯気のようにすぐ霧散する白煙の中から、一気に三十発近い弾丸が槍兵に向けて放たれた。

「うおっうおおおおおおお!?!?」

 突然その身に襲い掛かる無数の矛先に驚き、獣のように吼えるランサー。
 如何に彼がその身に矢避けの加護を受けていようと、流石に音速を軽く超えるその全てをかわし、弾き落とすことは適わないだろう。
 そう思ったのだが……。

「っつぁっはあ!! テメエ、中々変わったモン持ってんじゃねえか!」

 ずしゃり、と鎧を擦り鳴らし地に降りる男。大地を力強く踏み締めながら上体を斜めに逸らし、構えを取る。
 ……なんと、『あれ』を殆ど裁ききったか!?
 流石に手足や肩口に数発は食らわせたようだが、どれも掠り傷程度で致命傷には程遠いダメージに過ぎない、甘かったか。
 やはりランサーを相手に私の持つ銃器だけでは口惜しいかな、飛び道具である為、どうしても決定打に欠ける。なんとか彼を退けられれば御の字か。
 内心は焦りが我が物顔で私の理性を蹂躙してゆく。だが、それは表情には欠片も出してはならない。相手に決して此方の不利を気取らせるな。

「ふう、矢避けの加護があるとは思っていましたが、まさかそこまで強いものとは……。流石ですね」
「手前ぇ、何故オレに矢避けの加護があることを知っている!?」

 ギラリと獣じみた気配を放つ眼に殺気を強く込め、睨んでくる。当然だろう、サーヴァントは基本的に有名な英霊が呼ばれる。
 その有名さは押しなべて、自らの弱点までも伝承の中に記されてしまっているのだから、自ずとサーヴァントは自らの正体を隠す。
 ソレを初対面でいきなり見破られては、流石に平静ではいられまい。

「さて、私と違って貴方の方はとても判りやすい。槍使いで全身にルーンの魔術を纏い、其処までの俊足を誇る英雄といえば、該当する者は限られると思いますが?」

 口調は努めて慇懃に、頭に血が昇り熱くなる相手とは対象的に余裕を持って涼しげに。
 私は不敵な笑みを出来るだけ意識して言葉を紡ぐ。勿論余裕なんてハッタリも良い所。
 ハッタリは思い切りの良さが肝要だ。遣るなら堂々と、大見栄を切ってしまえ!

「ちっ有名すぎるのも考えモンか。だが次は無えぜ? その武器は既に見切った!」




第五話「兵士は槍兵と対峙する」




「凛。すみませんが、校庭一帯に防音結界をお願いします。先ほどは銃声で騒ぎにならないよう配慮してサプレッサーを使用しましたが、サプレッサーはどうしても初速を犠牲にする為、僅かにですが弾丸の威力を下げる」
「判ったわ。Anfang(セット)――!」

 キィンと、大気を震わす現実の音ではなく、音のような『耳鳴り』を感じた。背後から凛が周囲に、銃声を轟かせぬように“防音障壁”を張り巡らせたのだ。
 いくら深夜の学校といえど、甲高さと良く響き渡る低音を合わせて掻き混ぜたような銃の発砲音は、この平和な日本の街には余りに異質すぎる音。
 夜中の学校敷地内とはいえ、周囲には住宅も存在するし、まだ誰かが不意に出歩いていてもおかしくはない時刻だ。
 それに、サプレッサーという物は基本的に消耗しやすく、調子に乗って使い続けれていれば、すぐに減音効果を保てなくなる。
 普通はマガジンニ、三本も撃てば換装が必要だが、七クラス中最速の相手にそんな隙を見せれば即、死に繋がる。今は使わずに済むならその方が遥かに良い。
 人目についてはならない魔術師、サーヴァント同士の戦いにおいては騒ぎを起こすような真似はするべきではない。
 何より無関係の人間を巻き込ませてはならない。それだけは非常に拙い。

「オーケー、防音は完璧! 良いわよアリア。思う存分暴れてやりなさい。貴方の力、今此処で私に見せて!」
「ふっ。Yes, my Master!」
「へっ。出来るか? 貴様の武器はもう見切ったと言った筈だぜ!」

 啖呵を切り、赤い槍が一足飛びに再び私の心臓目掛けて飛び込んでこようとする。

「元より貴方相手に飛び道具だけで勝てるとは思っていませんよ」

 まだマガジンには残弾が二十発ほど残っていたが、手にしたサプレッサー付きP90をマナの霧と化す。
 武器を掻き消した次の瞬間には既に、私の両手には白銀に輝く一振りの鋭利な大型ナイフと、黒々とした.45口径のセミ・オートが、艶消しされた鋼の鈍い光沢を見せていた。


「おらおらおらっどうしたぁ! 防ぐ一方じゃあ俺は倒せねぇぜ嬢ちゃんよ!?」

 槍の一撃が私の心臓、眉間、首筋の三点を狙って、正確に突きを繰り出してくる。
 私は重心を落とし、上半身を半身横に掠るか掠らないかという最小限の間合いの分だけ横に逸らして眉間と首筋へのニ撃をかわし、続けざまに心臓目掛けて繰り出される突きを左手に持つナイフの分厚く硬い腹で、横合いから逸らしいなして捌く。
 ナイフと槍がぶつかり合い火花が散る。ナイフがその接触面を斜めに逸らし、槍の竿の部分がナイフのブレード面を掠り、耳障りな金切り音を響かせる。
 この短剣は私が生前にこの国の呉まで赴き、現地の匠にわざわざ直談判で頼み込んで鍛造して貰った硬質で切れ味の非常に高い鋼のブレードだ。
 それも、刀芯部分では最大肉厚が二十ミリを超えるという、ちょっとした鋼鉄の塊。
 その刀身の短さによるバランスから、生半可な加重、応力では曲がりもしない。その上に自身の魔力で構造強化し、刃も魔力を纏わせてある。
 如何にランサーの突きが凄まじい破壊力だろうと、その直撃を真正面から受けでもしない限り、このナイフは砕けはしない。

 そのまま彼が繰り出してくる槍を両手のナイフと銃の背でいなし、弾き、叩き逸らして捌き、かわし続ける。
 この程度、まだ彼の本領の域には程遠い。今ばかりは、彼に手加減の呪いを掛けた彼の主に感謝したい所だ。
 ……もっとも、彼のマスターは私が感謝を贈るなど考えられぬ相手だが。

「ちぃ、中々やるじゃねえか嬢ちゃんよ!!」
「ふふっまだこの程度、貴方の本気ではないでしょう」

 何合、いや十何合目になるのか数えるのもうっとうしくなる程刃を交わし続けている。
 そろそろ頃合か、彼の突きは次第に速度を上げ、そろそろ目で追うのも難しいほどになってきた。
 口では涼しげに見せているが、既に私の方は徐々に限界が近づいてきている。これでも彼の本来のスピードではないのだから流石、七クラス中最速というだけの事はある。
 突き出される槍を片手のナイフでいなし、彼が突きをいなされターゲットから離れた槍に力を込め、逸らされた軌道を強引に引き戻しそのまま横薙ぎに振るう。
 間合いをずらされ空を切る槍。間合いを外した際、私はほんの僅かにそのバランスを崩した。

「もらった!」

 その隙を見逃さず好機とばかりに攻める槍兵。
 即座に翻り、また一歩踏み込んで真上から全力で大振りの一際力強い一撃を振り下ろしてくる。だが……

「ここだ!」

 その一撃を、尤も力の乗った渾身の一撃を私は待っていた!!
 脳天を狙われた激しい一撃を、十字にクロスさせた銃のフレームと、ナイフのナックルガードでがっしりと受け止める。
 その渾身の一撃に込められた力の余りに、衝撃を受け止めた膝、肘、背骨、全身の関節が軋みを上げる。
私の足元からズシンと巨大な塊が激突したような地響きが上がった。

「ぐうっ!!」

 強烈な一打が全身にその衝撃を奔らせる。その激痛に思わず呻きが漏れた。だが、痛みなど今は構ってなど居られない。
 衝撃を全身のバネで地面に逃がし、槍を挟み込む用に抑えて頭上から横手に逸らす。
 ナイフの鍔で槍を抑え、その槍の上を滑るように引き抜いた銃口を槍に押し当てる様に素早く突きつけ、触れる瞬間に引き金を引き絞る。
 もはや此処しかない。私が彼に接近戦で有利に立てる今のうちに、この場の主導権を握るには今、この機会を逃して次は無い!!
 耳を劈くような騒々しい火薬の咆哮と共に銃口が火炎を噴く。如何に矢避けの加護があろうとも、それは槍にまでは及ばない。
 槍は斜めに弾かれ、手にした槍から伝わった衝撃によって痺れる手に槍兵の顔が歪む。
 敵に体勢を直させるな、このまま一気に叩き込め!

 銃口はそのまま槍の内側を滑り、畳み込むように零距離から追撃の五連射を槍の腹に叩き込む。
 狭い銃身内を灼熱の奔流に押し流され、音の速さに届きそうな勢いで銃口から飛び出す五つの鉛の牙と、荒れ狂い爆ぜる灼熱が上げる咆哮の音叉。
 赤い槍にその全てをまともに受け、硬い鋼同士が打ち合わされる時に発する、錐の様に鋭い音が夜の校庭に甲高い合唱を響かせた。
 構え直す暇も無く明後日の方向に弾かれる彼の紅い槍。その間も私は足を緩めず一気に踏み込み、ランサーの間合いの内側に潜り込む。

「チィッ!!」

 槍の死角に侵入を赦してしまった失態に毒吐いたか、舌打ちしながら弾かれた右半身に残るモーメントを利用し体を軸にして勢いを増した左足で膝蹴りを放ってくる。
 懐に潜り込んだ私から間合いを離そうと繰り出される膝。だがその反撃は此方の狙い通りなのだ。
 私の鳩尾目掛けて下から突き昇る膝を両手で組んだ掌底で受け、膝蹴りの力を利用して一気に膝を踏み台にして飛ぶ。
 勢いを殺された膝を更に硬い靴底で思い切り蹴り飛ばし彼の頭上に翻る。夜闇の中で僅かな星明りと街火に浮かんだ蒼いコートが風に遊ぶ。
 彼の肩に銃を握ったままの右手を突き、それを支点にして頭上で倒立の姿勢のまま、一八〇度反転する。

「っのアマ! 舐めんじゃねえ!!」

 ランサーが弾かれた衝撃に痺れながらも再び手にした槍を振るってくる。彼の槍も私の銃と同様、魔力で編まれた物ならば彼方に弾き飛ばそうと直ぐその手に戻る。
 頭上の私をその槍で叩き落とそうとする。だが甘い。彼の槍の軌道を読んでいた私は頭上で反転するタイミングを合わせて、横薙ぎに振るわれてくる赤い槍の腹目掛けて身を捻り、回し蹴りを叩き込み止める。

「なっ!?」

 次の瞬間には私は槍兵の後ろに着地し、その首筋にナイフを回すと同時に右手の銃が乾いた咆哮を六つ吐き出す。

「グゥッ!!」

 右肩の付け根にニ発、両膝を後ろから、左右二発づつの計六発分撃ち抜き、槍を無力化させた。
 そしてチャンバー内に一発だけ残弾を残し、遊底に『闇夜の鷹(ナイトホーク)』と刻印を打たれた、鉄(くろがね)の光沢を放つ銃を後頭部に付き付けた。

「チェックメイトです。アルスターの光の御子クー・フーリン」

 私の言葉に獣の殺気を滲ませた眼を見開き眼前の男、ランサーのサーヴァントが呻く。

「チィッ……貴様やはりオレの真名を」

 ランサー、クー・フーリンがギリッと歯を軋ませながら渋面を覗かせる。

「ええ、存じています。如何でしょう、此処はひとまず引いてもらえませんか?」

 私は説得のチャンスは今しか無いと踏んでいた。その私からの提案にランサーが呆れるように驚きの声を上げる。

「はあ!? 何すっとぼけた事言ってんだ? 俺を殺せる絶好のチャンスじゃねえか」

 そう、確かにこの状態は傍から見れば明らかに此方が有利。だが、ランサーの声は観念した様子も自棄になった感じも一切無い。
 つまり、まだ奥の手があるのだ。

「そうですね。確かに今は紛れも無い好機だ。だが、私は貴方に借りがある。それは貴方が知る由も無い事ですが。だから私は、此処で貴方に借りを返したい」
「俺に借り? アンタ、生前何処かで俺と会ったのか? 否、知らんな。一体俺に何の借りがあるか知らんが、アンタみたいな美人なら俺が忘れる筈は無いんだがな……?」

 それは当然だろう。私が彼と出会ったのは生前より更に過去の話だ。此処とは違う時間の流れを辿る、無数の世界の一つでの話。

「なに、案ずる必要はありませんよ。貴方が覚えている筈の無い話です。今はそんな事は如何でも良い。もう一度だけ言う。この場は引いて貰いたい。私としても、様子見でワザと手を抜かさせられ、実力が出せない弱みに付け込んで容赦無く撃ち抜くのは、余り気が進まないのです」

 ランサーの横顔が更に渋面を濃く滲ませる。

「ちっ、何でもお見通しかよ手前ぇ……全く、何モンだ嬢ちゃんよ? まあいいさ。そこまでコケにしてくれちゃ黙ってられねえな!」

 そう毒づき、彼はルーン文字を刻み一瞬でその間合いを離した。恐らく跳躍の文字でもあったのだろう。
 くっ、しくじった。あのまま大人しく退いてくれれば良かったのだが……。
 距離にして数メートル、一見には彼の槍の間合いからも外れている。だが彼の“宝具”にこの程度の間合いの開きは関係ない。

「オレをコケにして情けを掛けた事、後悔するぜ? 食らいな、我が必殺の一撃をよ!」

 途端、ゴウッと辺り一帯の魔力(マナ)が彼の槍に吸い込まれるように収束してゆく。
 やはり使うか。あの槍は“刺し穿つ死棘の槍(ゲイ・ボルク)”。
 放たれればソレは確実に『心臓を貫いている』という結果を導かんと、そこに至る為の直前の事象を捻じ曲げて『心臓を貫く』為の事実を捏造してしまう。
 それは因果率を改竄出来るという反則的な呪いの槍。
 拙いな。あれを防ぐ手が無い訳ではない。考えられる手は二つある。だが、正確に言えばその一つは『その場凌ぎにしかならない』かもしれない一手。そう、私の鞘だ。
 使えば確実に防げるだろうが、彼の槍が秘める最大の脅威はその因果を逆転させてしまう呪いの性質にある。
 例え五つの魔法であろうと寄せ付けぬ絶対の護り。だが、それはこの世界からの干渉を阻む“城壁”でしかない。それは槍に宿る『心臓を貫いている』という結果を生み出さんとする呪いを“阻む”事は出来ても“打ち破れる”物ではない。アヴァロンの展開が解けた直後にその呪いがまだ健在であれば、槍は私の心臓を確実に貫くだろう。
 私の鞘の展開が解けるのが先か、彼の槍の呪いの持続力が尽きるのが先か。或いは鞘が解ける前に彼を倒せば、槍も呪いも共に消えるかも知れないが……残念ながらその確信は無い。何れにしろ分の悪い賭けだ。
 二つ目も、使えばそれは確実に自らをも傷つけ、破壊する諸刃の剣。例え無事防げたとしても、槍が私に届かなかろうと関係なく、無傷とは行かない。
 何より、どちらも今使うには余りに魔力を食いすぎる。それはまだ完全に回復しているとは言えない凛から魔力をごっそり奪う事になる。
 まだあちこちで様子見をしているだろう他のマスター達への警戒を考えれば、彼女を今消耗させるのは避けたい所だが……贅沢は言ってられない状況か。
 ――貴方なら如何します? そう私が己の内に居る“彼”に相談をしかけたその時――。

「誰だ――!!」

 目の前で構えを取る槍兵の声が耳に届いた。ランサーの振り返った先、校舎の方から誰かが慌てふためき逃げていく足音が聞こえる。
 しまった、まだ誰か校舎内に残っていたのか! 拙い、ランサーは即座に目撃者を消しに飛び出した。

「凛!! 彼を追います。ランサーは目撃者を消しに行ったに違いない!」
――アルトリア、あれは俺だ。心配ない――

 私の内から彼がそう一言、心配するなと教えてくれた。だが、だからと言って、放ってはおけない。

「え、ええお願い! 私もすぐ追うから急いで!!」

 凛の声を聞くが早いか、私はもう走り出していた。


「遅かったか……」

 左胸から夥しい血糊を流し、血の池に横たわる学生を眼前に、足を止めていた私の後ろから凛がそう呟き駆け寄ってきた。

「申し訳ありません。ランサーには逃げられました」

 私は徐に倒れている彼の傍に屈んで彼の容態を確認した。左胸に刺し傷、ランサーの槍で一突きにされたのだろう。
 床には彼の物と思われる血糊がべったりと、派手に血の池を描いている。

「この少年は此処まで何とか逃げてきて、此処で彼に刺されたのでしょう」

 私は凛にそう報告しながら彼の傷に手を当てて、微かな“鞘”の魔力を探り当てた。
 凛に気付かれぬように、細心の注意を払って微弱な魔力を流す。彼が絶命しないように最低限の魔力を送ってから立ち上がり、静かに凛の後ろに下がる。

「せめて最後だけは見取ってあげるわ……」

 私と入れ替わりに凛が少年の前に立ち、その姿を目にして何かに脅えたように驚く。

「うそ、冗談やめてよね……なんだってアンタが」

 凛はどうやら以前から彼を知っていたらしい。

「……ああもう、あの子がどんなに悲しむか……」

 きっと桜のことだ、倒れている彼にとって家族同然の友人。彼女のことは生前の記憶、そのまた更に過去の記憶から知っている。
 そして凛と彼女の間柄を私は英霊になる前の新たな人生において知った。自分の生き別れた妹が懇意にしている少年。
 それが今自分の目の前で瀕死の重傷を負っているのだ。きっと今、彼女の相当頭の中はぐちゃぐちゃに混乱していることだろう。
 私に代わって、彼女が彼の体に触れ、傷を診ていく。
 常識的に診れば辺りに飛び散った血糊の量、傷の位置からして通常、致死は免れない。
 だが……。

「あれ? 傷の割には、まだ息はある……! アリア、貴女コイツに何かした!?」

 奇跡的にまだ息を残していた彼の容態に気付いて、驚きに目を丸くして騒ぐ凛。

「いいえ、私はこれと言って何も……。彼はよほど運が良かったのでしょう。ランサーが慌てたのか、何か事情があったのかは知りませんが、どうやら生死の確認までは行わなかったようですね」

 すみません、凛。実は少しだけ『何か』はしました。もっとも、してもしなくても“鞘”の力で彼はまだ後数刻は息を持っていたでしょうが。

「これならまだ助かるかもしれない……一か八か!! でも……いや――ええいっ!! だからなんだってのよ馬鹿っ!」

 彼女は何かの逡巡を振り切ったらしい。手にした大きな宝石を握り締めながら、彼女はその宝石に込められた魔力を開放した。

「……ああ、やっちゃった」

 その場にポトリと落とした紅い大きな宝石の首飾りが、少年の横で多少何かが軽くなったような輝きを放っていた。
 彼女はその宝石に籠められていた膨大な魔力を使い、ランサーに穿たれた胸の刺し傷を修復、魔力で損傷した臓器の一部を一時的に代用し、彼を死の淵から救い上げた。

 ――そうか。だから貴方が凛に召喚された媒介が『この宝石』だったのですね。
 ――そうだ――

 私は彼の答えを聞き、自分のブラウスの下に首から下げている、同じ形をした宝石を服の上からそっと撫でる。
 それはかつて、自分が凛から譲り受け、彼の召喚に使った物。
 そして自らが最後を迎えた“あの時”までずっと肌身離さず持ち続け、彼と共に英霊の座に記録された私にとってもこれは、私と“彼”と、“彼女”とを繋ぐ縁(えにし)。
 その縁が故、私は再びこの時代に、凛に召喚されたのだろう。

『折角、折角再び出会えたっていうのに……まだ話し足りない事だって一杯あるのに……。どうして、またすぐに私の前から居なくなるっていうのよ貴女はっ!!』

 今際の際に、妙齢になっても尚凛々しく美しい顔をくしゃくしゃにして、瞳に涙を溢れさせながら私を見取ってくれた彼女の顔が脳裏に蘇る。
 ――ごめんなさい、凛。私も何時までも貴女達と話し、笑い、共に歩みたかった。
 たった数週間しか時を共にしなかった“私”の事を覚えていてくれた貴女は、あの頃とはまったく存在の異なる人の身に生まれ変わったのに、訪ねていった私が“セイバー”だとすぐに理解してくれましたね。あの時は本当に嬉しかった。
 貴女と再び会えたというのに、また昔のように短い思い出だけ残し、目の前から去ってしまう事が心苦しかった。
 もしまたいつか逢えるなら、と……儚い望みだと思いましたが、まさか“この時代”の貴女と再会する事になろうとは。
 貴女と彼女は起源は同じでも“別人”だとはいえ、これも運命の悪戯でしょうか。

「アリア、ランサーを追って頂戴。もう足取りを掴むことは出来ないかもしれないけど。せめて相手のマスターが何者かぐらい、情報掴めなきゃやってられないわ」
「了解しました、凛」

 私はそう答え、手遅れとは思いながらもランサーの魔力の残滓を探り、単身夜の街へと飛び出した。


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