気が付くと、そこは砂浜だった。
「…………」
打ち寄せる波にさんさんと照りつける太陽。
過去と未来を取り除き現在形のみで考えるととても気持ちの良い状況。
まて。
しかし生憎と人生というものは過去によって判断され、より良い未来を探すとか何とか。
ここで宇宙の真理について小難しく並べる気はさらさら無いが、それでもこのまま寝ているのは違うと思う。
とりあえず、時間軸的に切り離された現状について考える事がまず第一に必要とされることで、その為に頭を働かせる事はきっと有意義な使い方だろう。
簡単に言って、何故俺はここにいる?
俺は考えた。凄く考えた。
そしてついに原因となるイベントに行き当たった。
そうだ……嵐にあって船が沈んだんだ。
その結果がこれだよ!
答えに行き着いた俺はorzと砂浜に蹲った。正直全てがいやになる。
時代を先取りしてるね!
何て天の声を聞いた気がするが、気のせいだろう。
きっと疲れているだけだし、憑かれているのでなければそれでいい。
今上手い事言ったんじゃないか?
「クケケケケ……」
自画自賛している俺に合いの手が入ったりしたのだが、くけけ?
肯定なのか否定なのか。それすら分からない。
何だと、振り向いた俺は……そこにゼリーの群れを見た。
「はぐれ召喚獣!?」
しかも1匹2匹って規模じゃないぞ!
じゃあ何匹だろう。
1、2、3……。
何て数えているうちに囲まれてしまった。何やってるんだ俺。頭が悪いことは自覚していたが、コレはひどい。
ダメだ俺……早く何とかしないと。
そして、不味い事にというか当然なのだが海に投げ出されていながら武器など持っているはずも無く。むしろそんなものを後生大事に抱えていたら今こうして太陽の下に居ない。
居たとしてもそれは俺だった肉の塊か何かだ。
よって今の俺は無防備!
はぐれからすればカモがネギしょって来た状況。手ぶらだけどね。
「…………」
ややや、やばいって!
とりあえず足元に会った木の棒を拾って構えるが、とても弱そうだった。
ATK+5
なんて数値が頭を過ぎるが、正直今はそんなメタとかアホな話に付き合っている暇も余裕も無い。
じりじりと間合いをつめてくるはぐれゼリー達。
会わせて俺の脚も後ろへ後ろへと動くのだが、やがてそれも背後の岩が邪魔をした。
ゆっくり戦ってね! 的に俺の逃げ道を通せんぼする岩。心底殺意が沸いた。しかし殺意のままに岩を殴りつけても変換ミスで気の棒とかに変わらない限りは、木の棒の方が折れて終わりだろう。
そしてじわりじわりと包囲を縮めるはぐれ達、マジで怖いぞこの状況。
岩を背に、はぐれ達に鋭い視線を送りつつも、冷や汗が止まらない。
よろしくない。
ひどく宜しくない状況だ。
だから何とかする方法を考えなくてはいけないのだが。
「ケーッ!」
「そんな時間がどこにあるのかってのが問題だ!」
飛び掛るゼリーを棒で打ち返す。
しかし棒はあくまで棒であって。実は伝説の剣だったとか、1000年の時を越えてついに担い手と出合ったとかそういう設定は存在しなかった。
最後まで残しておけば最強の武器になることを知らずに売ったどこぞの木刀のように、もしかしたら何らかの潜在能力を持っているのかもしれないが少なくともそれは今ここで発現する事はないようで……結果として折れた。
3振りで、それはもうバッキリと。
「―――っ!」
だがしかし!
そんなことは想定の範囲内。
頭が宜しくないことは理解しているが、実はこの棒はエターナルウルトラスパイクソードだった! 何て今の状況で真面目に考えられるほど俺は馬鹿じゃないし人生舐めてない。
3振りで折れたと言う事は3回使えたという事。偶然拾った即席武器としては上々の成果だろう。
きっと木の棒の精も喜んでいる。
HAHAHAと笑いながらサムズアップする木の棒の精霊を幻視しつつ、俺は走り出した。
そう、木の棒のお陰ではぐれ達の包囲網に穴を開けることに成功したのだ!
よって走る、ひたすら走る。
小さい頃から野山を駆け回ったり(食料調達)海で泳いだり(食料調達)していた為体力には自信があるのだ。
その分学力の方は悲しい事になっているが……今必要とされている事は難しい問題を解くことではなく…………あれ?
はて? と首を傾げる俺の目に映ったのは離れた位置でたたずむ一匹のゼリー。
さて、突然だがここで『なぜなにサモナイ』始まるよ。
Q.どうしてあのゼリーは攻撃に参加しないのだろうか?
1.様子を見ている。
2.多対1は騎士道に反していると考えている。
3.仲間になりたそうな目でこっちを見ている。
「3! 3がいい!」
4.特殊能力「遠距離攻撃・水流」を持っている。←正解。
引きつる俺に全く構うことなく、ゼリーは体を光らせた。
その柔らかそうな身体から魔力が流れて……。
まずい……死んだかも。
流石にコレだけで死ぬほどの攻撃力は持っていないだろうが、乱戦で足をとめられる事を考えれば結果は同じだ。
その事は理解しているが、既に勢いの付いた身体は止められない。
あ、走馬灯。
よく聞く話だが、唐突に世界がゆっくりと流れ、脳裏に孤児院のみんなの姿が映った。皆笑っていた。
具体的に言うと m9(^Д^) こんな感じ。
皆、嘲笑って……何か違う気がする。
まぁいい。折角だからここでプロフィール的なところの説明をしておこう。
すでに、何を考えているのか自分でも意味不明。
しかし体同様走り出した思考は止められない止まらない。
まず、気が付いたら親が居なかった幼少期。コレは俺の故郷が余り治安的に宜しくないところだったので珍しくは無かった。
多くの子供同様に孤児院に入り面白苦しい毎日を過ごした。
そして、残念な事に召喚術に素養が無かったので剣の腕を磨いた幼少期。ちなみに召喚術に素養があるとその時点である程度人生勝ち組、蒼なり金なりに就職できる、可能性がある。俺たちの中で金の派閥が一番人気だった。お金って大事だよね。
もっとも、そんな事は関係のない俺は日々剣に打ち込んでいたのだ。生憎と剣のほうも才能があるとはいえないという悲しい現実が口を開いて待っていたのだが、それでも召喚術よりはましだった。
学もコネも金も無い子供が生きていくためには何らかの力を持つしかなかったので。それだけは必死に磨いたものだ。
そんな俺がようやく就いた職業が帝国軍の兵士A。
士官学校なんて出ているわけがないのでバリバリの前線任務につく……予定だった。
そして、赴任先に向かう途中の船が沈没して今に至る。
…………って、いくらなんでも遅すぎやしないか?
こういう時特有の体感時間が長くなる現象かと思ったのだが、それでも遅すぎだろ。
怪訝に思って現実に目を向けた俺は。
「やぁ!」
身の丈ほどの大剣を振るう銀髪の少女の姿を見た。
「あれ?」
と、呟いている間に少女はゼリーを1匹また1匹と確実に屠っている。
よく分からないが、ナニアノフク。
上はパジャマで下は布キレ。とても10代と思われる女の子が着る服じゃない。
一目で分かる。
只者じゃない。
俺はせんりつした。
再び「なぜなにサモナイ」始まるよ!
Q.この女の子は誰でしょう?
1.通りすがりの痴女です、放置しましょう
2.脱ぐと強くなるザンバーな人の2P色。
3.実はカッコイイ主人公は自らの命の危機に瀕してついに召喚術に目覚めた。
「大丈夫ですか?」
はぐれを一掃した少女が駆け寄ってくる中、でもそんなの関係ねーと俺は叫ぶ。
「3! 今度こそ3でFA!」
「は?」
それは己の魂を込めて叫びだったが現実は今回も非情だった。
4.偶然通りかかった人。←正解。
「…………」
いや待て。
よくよく考えてみると凄く運が良かったんじゃないか?
この少女が俺が召喚した人じゃなくても……ていうかこんなコを召喚する事自体拙い気がする。
嫁を召喚とかありえんでしょ、常識的に考えて。
そんな奴とはお近づきになりたくないね、物理的にも精神的にも。
あははははは、と笑いながら「でも真面目な話、そんな奴いないよなー」と的確にフラグを立てたりする。
「あ、あの……頭を打ったりして」
「どういう意味だ」
「ごめんなさい、てっきり」
そう言って笑う少女の笑顔は綺麗だったが、残念ことにその前の言葉が綺麗じゃなかったので俺は騙されない。
「てっきり」の後になんと続けるつもりだったのか凄く気になる。
「べ、別に助けて欲しかったワケじゃないんだからな!」
「え?」
「いや、何でもない忘れて」
最近こういう言い回しが流行っていると聞いたのだが……やはり田舎者には扱いきれないという事か。
「えーと、ありがとう?」
「何で疑問系なんですか?」
「ありがとうっ!」
「怒るの!?」
落ち着け俺。
むしろ何やってるんだ俺。
少し精神的にたがが外れている気がする。
「落ち着け、まだ慌てる状況じゃない」
「は、はぁ」
当面の危機は去ったとは言え船が沈没、俺遭難。
さて、ここから得られる答えとは?
というか絶対死んだことにされてるよな。
ようやくゲットした仕事だが……ハッキリいって絶望的な状況だ。
「俺もうだめだ、何もかもがいやになった……」
「えぇ!?」