七月三十日(2)
もはや単純作業と化した『実験』の帰り、白髪赤眼の少年の前には奇妙な面々が立ち塞がっていた。
最初の一人は白いシスター姿の少女だったか。愚かにも彼と真正面から激突した彼女は「無事では済まねェだろうなァ」と人事のように思いながら――奇妙な感覚を残し、予想外にも無事で無傷だった。
(――? 何で一般人と一緒にいやがるンだ?)
そしてこの少女を追ってきた学園都市の生徒が四人余り、先頭の長点上機学園の赤髪の少年には若干の見覚えがあり、記憶の片隅に引っかかったが、もう一人の方は嫌はほど見飽きた顔だった。
だが、同じ制服の他の生徒と一緒にいる当たり、普段と何かが違う。『実験』の為に生み出された彼女達が常盤台中学の一般生徒と交友があるとは考えにくい。
ならば――学園都市で最も優秀な頭脳は瞬時に正確無比の解答を導き出した。
「へェ、どうりで違和感あると思ったンだが――オマエがオリジナルかァ」
底知れぬ深淵に覗き込まれたかのように、彼女達の原型である御坂美琴に恐怖が走る。
「オリジナル? いきなり何を……!?」
ふと、御坂美琴は脳裏の片隅にあった疑問が浮かび上がる。
都市伝説にも似た噂だ。学園都市の超能力者、その第三位である『超電磁砲』のDNAを使ったクローンが製造されているという根も葉もない噂だが、それなのに他の生徒から良く聞かれる与太話を。
「アンタ、あの噂の事、何か知って――」
御坂美琴のその問いかけは、意図的か無自覚か、赤坂悠樹によって強引に遮られる。
「久しぶりだな。ま、お前は覚えてないだろうがね」
「いィや、その顔覚えてンぞ。そういやオレを前に敵前逃亡した腰抜け野郎がどっかにいたなァ?」
その二人が醸し出す殺伐さは以前に垣根帝督と相対した時と同じくらい酷い。
赤坂悠樹は目の前のどう考えても異常な少年とは初見ではなく、かなり因縁深いと御坂美琴と白井黒子に察知させる。
「第二位の野郎をぶちのめした。テメェへの挑戦権としては相応しい戦果だと思うがね?」
「ハッ、三下倒したぐらいで何いきがってンだァ? オレに敵わないから逃げた雑魚がよォ」
「何だ、その雑魚に下克上されるのがそんなに怖いのか? 自称学園都市最強の『一方通行(アクセラレータ)』」
ぴきり、と横から空間を歪めんほどの怒気を顕にする『かませ犬扱いの者』が若干一名居たが、美琴と黒子は彼こそが学園都市二三〇万人の頂点に立つ第一位である事に大いに驚く。
途中から物見遊山の如く、少し遠くから奇妙な女子生徒四人組が眺めていたが、一部には気にする余裕もなく、残りの超能力者の男子三人組には眼中にも入ってなかった。
「――最強さいきょうサイキョーってかァ? ホント不本意だぜ、未だに最強止まりってのはよォ」
心底納得がいかない。そういう風に一方通行は大袈裟に嘆いて見せる。
「学園都市には最高位のレベルが5しかねェから此処に甘んじてるだけなンだがなァ。そもそも、何でオレとテメェらが第一位とその他に分類されてンのか知ってるか?」
その他扱いに分類され、此処に居合わせた超能力者四人から笑顔が消える。
「其処に超えられない絶対的な壁があるからだ」
自分以外全て格下と見下す第一位の言動に他の超能力者達から盛大に顰蹙を買う。
第三位と第八位の取り巻きである白井黒子はハラハラするしかなく、第四位の取り巻きであるフレンダ、絹旗最愛、滝壺理后の三人は急降下する麦野沈利の機嫌に慄くしかなかった。
「其処ン処解ってンだろうな三下ァ……!」
「ああ、つまり挑まれるのが超怖い、頼むから何処かに去ってくれと言いたい訳だな。最強止まりの腰抜け第一位」
心の中で「あ、またやりやがったコイツ」と白井黒子は開いた口が塞がらなかった。
そういえば御坂美琴と出遭った時も、其処にいる垣根帝督と出遭った時も、露骨に挑発して喧嘩売っていたなぁと他人事のように思う。
黒子は恐る恐る第一位の表情を覗き込んで見ると、人とは思えない悪魔が笑っていた。
「――どうやら、死にてェみたいだな」
「くだらねぇ御託並べてないでさっさと掛かってこいよ。今のテメェじゃ250年掛かっても指一本触れれないだろうがな」
最初は第三位、次は第二位、そして今回は第一位、徐々に段階を上げる災害規模は黒子の想像など遥かに超越する。
今の黒子に出来る事など、物見遊山気分で火山の噴火口にいる一般人らしき四人組に避難勧告を上げる事ぐらいだった。
「あ、うぇ……其処の貴女方、ひ、避難して下さい今すぐっ!」
「へぇ、面白い事になってるじゃない。第一位様による第八位の一方的な処刑なんて見物よねぇ……!」
女性が浮かべて良い表情じゃない、それほど歪んだ女王気取りの女性の顔を見て「あ、まずい。また変な人だった」と黒子は瞬時に後悔する。
まだこの彼女が第四位『原子崩し』である事を知らなかったが、黒子は無意識の内に他の超能力者(一方通行、垣根帝督、『心理掌握(メンタルアウト)』、削板軍覇、赤坂悠樹)と同様の変人である事を見抜いていたのは賞賛に価するだろう。
(こんな街中で戦ったらただですまないじゃない……!)
自分の過去の事は棚に上げて、このままでは御坂美琴視点で何の罪もない一般生徒が巻き込まれてしまうと危惧する。
第一位と第八位の私闘、それを自分一人では止めれそうにないと悟った美琴は、既に我関せずと観戦モードになっている垣根帝督に目をつけた。
「っ、ちょっとアンタ手伝いなさい!」
「あぁん? 何をだよ?」
「何って、この二人を止めるのをよ! こんな処で全力で戦ったら――!」
正直、前に敵対したばかりの垣根帝督と協力するのは癪だが、今の緊急性から手段は選べまい。こんな処で戦われては迷惑だ、その認識は共有していると信じている。
だが、此処まで切迫された事態とは裏腹に、帝督は美琴の顔を詰まらそうに一瞥し、嫌らしく笑う。
「別に何の問題もねぇだろ。肥溜め以下のクソ野郎どもが好き勝手に潰し合うんだ、むしろ大歓迎だ」
人として心底信じられず、すぐさま言い返そうとした美琴の言葉は、今度は別の誰かに遮られる。先程の女性としてアウトな顔をしていた女からだった。
「そうよねぇ、第二位のアンタには望む展開よねぇ。自分の力じゃ絶対勝てないんだから」
「……聞き捨てならねぇな、おい。誰が誰に劣るだって?」
「第八位如きに敗北した誰かさんがそれを言うの? ハハッ、笑わせんじゃねぇよ!」
ついに言動さえ崩れ、麦野沈利は下品に嘲笑う。
一方通行と赤坂悠樹という臨海寸前の爆弾が破裂しそうになっている中、今度は垣根帝督と麦野沈利という新たな爆弾が投入された。
御坂美琴にしても「あれ、何でこんな事になっているの?」という泣き言さえ吐きたくなるような事態にまで状況は発展していた。
「ちょっとちょっと! 何でアンタ達までやる気になってんのよ!?」
「ピーチクパーチク五月蝿ぇぞ売女ァっ! ゴミ以下の雑魚能力者が口出ししてんじゃねぇよォ!」
どの口からそんな汚い言葉が出るのか、というより未だに麦野沈利から超能力者と見られていない御坂美琴が心底慄く中、垣根帝督は美琴の方を見てにんまりと笑った。
まるで何か飛び切り最悪な悪巧みしたような邪悪な笑顔に美琴の背筋に悪寒が走った。
「それじゃあテメェが口出し出来ねぇんじゃねぇか? コイツより序列が低い雑魚能力者がよぉ」
「? ……へぇ、それじゃこの小便臭ぇ小娘が第三位の超能力者、常盤台の『超電磁砲』って訳か!」
「そ、そうよ。それが何よ……?」
麦野沈利の狂気の矛先が垣根帝督から御坂美琴に向いた。
一体何故、何でこんな目に遭っているのか、不条理だと思いつつも、美琴は精一杯の虚勢を張る。
「全く、何が第三位だ。能力研究の応用が生み出す利益が基準なせいでテメェが三位で私が四位? 此処でテメェをぶち殺せばそんなの関係ねぇって証明出来るよねぇ?」
今の彼女に比べれば、赤坂悠樹が超能力者の序列に対する感情は『少し文句がある』程度のものであり、普通は此処まで執着しないよねと美琴は沈利の鬼気迫る様子に圧倒されながら若干現実逃避する。
爆発を止める立場からいつの間にか爆心地に居た御坂美琴に助け舟を出したのは、予想外にも一方通行と相対している赤坂悠樹だった。
「其処の第四位の雑魚能力者、ピーチクパーチク喧しいぞ。空気読め。巻き込まれて現代芸術風味の愉快なオブジェになる前にさっさと退散した方が良いぜ?」
――否、助け舟ではなく、炎にガソリンだった。「爆心地は変わらず、災害規模は更に広がるようです」という無情なナレーションが聞こえるようだった。
「……あァ? 最下位のクソ雑魚は誰に物言ってるんだ?」
「こういう時でも自分の矜持が度し難くて困る。解らなかったんならもう一度言うけど、『貴方程度の能力者では死んでしまいますから早く離れた方が身の為ですよ』と。どうだ? ド低脳の雌猿でも理解出来るほど解り易かっただろ?」
悠樹は悦に入るように「いやぁ、オレって女に優しい男だねぇ」と自画自賛し、対する麦野沈利は――恐る恐る見て、美琴は後悔した。
末恐ろしい表情で麦野沈利は何かを言っていた。声は聞こえなかったが、何故だか知らないがこの時だけ口の動きで言っている事が解ってしまった。
『ブ、チ、コ、ロ、シ、か、く、て、い、ね』、と――。
きぃん、と地面のコンクリートが派手に破砕される音が鳴り響き、この場にいる全員が一斉に其方に振り向く。
「ったく、三下の分際でこのオレを無視とは良い度胸だなァ……」
爆発的に破砕されたコンクリートの極小の破片が舞う中、埃一つの付着すら許さない、他の超能力者と比べても圧倒的で絶対的な最強の権化が笑う。
「――ごちゃごちゃ言ってねェで全員で掛かって来いよ。テメェらも超能力者って言うなら、少しは愉しめるンだろうなアァ……!」
第一位の声明と共に戦禍は切って落とされ――学園都市の頂点に立つ、五人の超能力者による戦争は最初の一打で挫かれた。
「――?」
第一位『一方通行』にとっては正体不明の攻撃を自動的に反射して無傷だったが、その正体不明の攻撃がベクトル操作して反射した後も解析出来なかった事に頭を傾げる。
彼のベクトル操作は『自身が観測した現象から逆算して、限りなく本物に近い推論を導き出す』という究極的なまでに万能の感知能力だ。
それを用いても解き明かせなかった法則性に、動きを止めたのは当然の成り行きだった。
「痛ってぇな。少しムカついた」
第二位の垣根帝督もそんな事を言いながら無傷であり、予期せぬ襲撃者を睨みつけていた。
今回の正体不明の攻撃は単純に出力が足りなかっただけで防げたが、既存の現象を一つの物質だけで変質させる『未元物質』に触れても他と変わった反応を起こさなかった。
「……~~っ、今の何だったのよ!?」
第三位の御坂美琴は自身のAIM拡散力場たる電磁波によって正体不明の攻撃を察知し、寸前の処で躱す事が出来た。
もし、躱す事が出来なかったのなら――其処で伸びている第四位と同じ羽目に遭っていただろう。
「む、麦野っ! 突然倒れてどうしちゃった訳!?」
第四位の麦野沈利はこの正体不明の攻撃に対応出来ずに直撃し、一人だけ意識を失っている。
今はフレンダを初め、『アイテム』のメンバーが看病しながらこの場を逸早く離脱する算段を立て、機会を今か今かと焦燥しながら窺っていた。
「いきなり酷いな、軍覇。前のオレなら結構痛かった処だぞ」
「腕を上げたようだな、悠樹。しかし、これは一体どういう状況だ?」
そして第八位の赤坂悠樹も当然の如く無傷であり、その正体不明の攻撃を行った第七位の削板軍覇に文句を一つぶつけていた。
「学園都市最強の超能力者である『一方通行』への宣戦布告さ。それを見届ける観客は豪華絢爛だったがな」
一人気を失ったが、今この場は学園都市の八人しかいない超能力者が六人も勢揃いしている。恐らく今日という日は学園都市始まって以来の事件に数えられるだろう。
「ハッ、また怖気付いたのかァ?」
「焦んなよ、近々直接赴いてやるよ。テメェが御執心の高尚な実験中にもでもな」
ぴくり、と一方通行の表情が一変し、詰まらげに唾を吐き捨てる。
彼は無言でこの場を後にし、赤坂悠樹は御坂美琴と白井黒子を無言で引き連れ、この特異地点から後にする。
「あ、危なかったですわ。危うく第七学区が地図から消える処でしたわよ……」
「……本当にね。何でアンタも含めて、超能力者には性格破綻者が多いのよ……?」
今の短時間だけで二人の精神は限界まで消耗したと自覚する。溜息一つ付きながら、先行する悠樹に文句の一つや二つ叩きつけようかと思った時、彼はぴたりと立ち止まり、真剣な表情で二人を見据える。
「……御坂、第一位『一方通行』の能力はベクトル操作であり、アイツはありとあらゆるベクトルを自動的に跳ね返す無敵の鎧『反射』を常時展開している」
聞かれてもいないのに第一位『一方通行』の能力の説明に入り、「君の代名詞である『超電磁砲』でも反射され、通用しないだろうよ」と悠樹は皮肉げに笑う。
何を言いたいのか、御坂美琴はむっとしながら一瞬で悟る。遠まわしに、何が何でも『一方通行』とは戦うなという忠告なのだと。
「……それじゃ、アンタはどうやってその『反射』を攻略するのよ?」
「『反射』と言っても何が何でも全て反射している訳ではない。無意識の内に有害と無害のフィルタを組み上げ、必要の無いモノだけ選んで『反射』しているのだから『無意識の内に受け入れている』ベクトル方面から攻撃を加えれば良い。垣根帝督の『未元物質』ならそれで一度は攻撃を通す事が可能だろう」
「一度は?」
「二度目は無いという事だ。アイツはあんな反則的な能力さえオマケ程度にしかならない、学園都市最高の頭脳の持ち主だ。ベクトルを逆算され、瞬時に能力の法則を掌握されるだろうな」
赤坂悠樹でさえ外部の特殊な演算機能である『幻想御手』に頼らなければ判明出来なかった事を、一方通行は個人で軽々とこなす。
それは覆しようの無い地力の違いを吐露するようなもので、それでも『一方通行』との決着を付けようとする悠樹の身を白井黒子は危惧した。
「流石は学園都市最強の超能力者、伊達ではないという事ですわね。……ですが、それでは赤坂さんでも勝ち目が万の一にも無いという事では?」
恐らくは、一方通行も垣根帝督と同じ類の人間だ。人を殺す事への忌避感は欠片も無く、小石を蹴っ飛ばす感覚で人を殺せる人間だと。
そんな人間に勝負を挑み、敗北するという事は死と同意語だ。
十日前から募る不安を気取られないようにしつつ、白井黒子は一方通行との決着を「やめといた方がいいのでは?」と遠回しに言う。
「――だから、アイツとは真正面からやり合わなければ意味が無いんだよ」
その時の悠樹の眼を見て、黒子は何も言えなくなる。
その視線の先には何も無い、遥か彼方の虚空を睨んでいた。
「あのクソッタレの早漏野郎ォ……!」
「ま、まぁまぁ落ち着いて麦野……ひっ!」
あれから目が覚めた麦野沈利は荒れに荒れ果て、彼女を宥めようとして失敗したフレンダは恐怖の余りに言葉の呂律が回らなくなり、絹旗最愛はとばっちりを食らわないように滝壺理后と後ろに退いていた。
(うーん、今更第八位の人以外に攻撃された、なんて超言えませんよねぇ)
今、怒り狂う麦野沈利を気絶させた張本人は第七位の削板軍覇なのだが、彼女は彼の事を目撃しておらず、更には三人も彼が超能力者であると気付かなかった為、怨念の矛先は全て第八位の赤々悠樹に向けられる。
その八つ当たりとしてフレンダが犠牲になっているのは『アイテム』内では別に珍しい事では無かった。
「滝壺」
「大丈夫、あの場に居た能力者のAIM拡散力場は記憶した」
復讐の舞台はいつでも整えれる。その優越性から若干冷静さを取り戻した麦野沈利は、とりあえずこの怒りをフレンダで発散させようと結論付ける。
ガタガタ震えて命乞いをするフレンダを眺めながら、どんなお仕置きをするか、沈利は楽しげに考え出したのだった。
その夜、赤坂悠樹はとあるバーの席に座っていた。
熱々のコーヒーに砂糖を何杯もぶち込む最中、隣席に座った金髪のサングラスの男は見慣れても嫌になる光景に溜息吐きながら話を切り出した。
「――聞いたぜ。第二位をぶっ倒したってな」
「それなりに手強かった」
「お前が相手を賞賛するとは並じゃなかったみたいだな」
表面上は友好的だが、基本的にこの情報屋との関係は淡白だった。
彼が『安倍晴明』という解り易い偽名を名乗り、学園都市の内部から外部までと、多重スパイの真似事をしているのは赤坂悠樹も承知している。
新鮮な情報を得る為に自身の情報もある程度奪われる。それを理解した上で被害より利益が上回る限り泳がせ、彼自身もそれを理解している。
「ほらよ、ヤツの近況だ」
「……はっ、随分派手に殺ってるようだな。第一位様は」
頼んでいた資料を読んだ都度にライターで焼いて処分していく。
一方通行が関わる計画『絶対能力進化(レベル6シフト)』の経過を見る限り、八千後半の実験まで消化し、外で実験が行われるようになるのは時間の問題だった。
最後の一枚まで見終わり、焼き終えた時、金髪の男は厳重に包まれた封筒を悠樹の眼下に投げ捨てる。
「……? それは?」
「一つ忠告する。悪い事言わないから見ずに燃やせ」
「情報屋が言う台詞じゃないな」
悠樹は構わず封筒の封を破り捨てる。
「コイツは破滅への片道切符だ、確かに忠告はしたぞ」
念を押すような言動に違和感を抱きつつも、悠樹は資料を早読みしていき――直後、能面の如き無表情(ポーカーフェイス)が完璧に崩壊した。
「――くく、あはは、ははははは。こりゃ傑作だ。まさか此処までやるとは、いや、やれるとは思ってもいなかった」
砕け散った器から零れ落ちたのは純粋なる憎悪、赤坂悠樹はこの油断ならぬ情報屋を前に、初めて生の感情を晒け出した。
「いいねぇ、胸にじーんって来たよ。じーんと。ホント――ああもう、今のこの感情は言語化すら出来ないねぇ……!」
「早まるな、と言っても遅いか」
「賽を振ったのは奴等だ。それに少しだけ予定を前倒しするだけの事だ」