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No.10137の一覧
[0] 【完結】 とある第八位の風紀委員(ジャッジメント) とある科学の超電磁砲[咲夜泪](2011/04/03 00:37)
[1] 七月十六日(2)[咲夜泪](2009/07/23 00:54)
[2] 七月十七日(1)[咲夜泪](2009/07/23 00:57)
[3] 七月十七日(2)[咲夜泪](2009/07/23 00:59)
[4] 七月十七日(3)[咲夜泪](2009/07/23 01:03)
[5] 七月十八日(1)[咲夜泪](2009/07/23 01:08)
[6] 七月十八日(2)[咲夜泪](2009/07/24 23:56)
[7] 七月十八日(3)[咲夜泪](2009/07/30 01:06)
[8] 七月十八日(4)[咲夜泪](2011/02/24 02:41)
[9] 七月十九日(1)[咲夜泪](2009/08/20 14:59)
[10] 七月十九日(2)[咲夜泪](2009/09/11 02:15)
[11] 七月十九日(3)[咲夜泪](2009/10/30 02:56)
[12] 七月十九日(4)[咲夜泪](2009/11/19 02:04)
[13] 七月十九日(5)[咲夜泪](2009/11/29 02:48)
[14] 七月十九日(6)[咲夜泪](2011/02/24 03:30)
[15] 七月二十日(1)[咲夜泪](2010/01/09 02:32)
[16] 七月二十日(2)[咲夜泪](2010/01/14 03:01)
[17] 七月二十日(3)[咲夜泪](2010/01/18 03:55)
[18] 七月二十日(4)[咲夜泪](2010/01/21 10:47)
[19] 七月二十日(5)[咲夜泪](2010/01/24 18:51)
[20] 七月二十日(6)[咲夜泪](2010/01/27 22:06)
[21] 七月二十日(7)[咲夜泪](2010/01/28 03:42)
[22] 七月二十日(8)[咲夜泪](2010/01/28 21:04)
[23] 七月三十日(1)[咲夜泪](2011/01/23 03:59)
[24] 七月三十日(2)[咲夜泪](2011/01/25 03:49)
[25] 八月一日(1)[咲夜泪](2011/02/03 03:10)
[26] 八月一日(2)[咲夜泪](2011/02/10 01:12)
[27] 八月一日(3)[咲夜泪](2011/02/16 15:18)
[28] 八月一日(4)[咲夜泪](2011/02/17 03:34)
[29] 八月一日(5)[咲夜泪](2011/02/22 04:58)
[30] 八月一日(6)[咲夜泪](2011/02/28 03:43)
[31] 八月一日(7)[咲夜泪](2011/03/03 04:04)
[32] 八月一日(8)[咲夜泪](2011/03/30 03:13)
[33] 八月一日(9)[咲夜泪](2011/03/30 03:11)
[34] 八月一日(10)[咲夜泪](2011/03/30 03:09)
[35] 八月一日(11)[咲夜泪](2011/03/30 03:07)
[36] 後日談[咲夜泪](2011/04/02 04:33)
[37]  7月16日[咲夜泪](2012/07/17 00:50)
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[10137] 七月十六日(2)
Name: 咲夜泪◆ae045239 ID:ceb974ce 前を表示する / 次を表示する
Date: 2009/07/23 00:54


 七月十六日(2)


「君達みたいな見目麗しい女性と食事を出来るなんて男冥利に尽きるねぇ。あ、勿論嫌味だけど」
「……女々しい殿方ですわね」

 とあるファミレスにて、全力で不貞腐れる悠樹を含む四人、不機嫌な御坂美琴とツインテールの少女、花飾り全開の少女――白井黒子と初春飾利は一緒に食事していた。
 先程の一触即発の緊迫感とはまた違った、陰険でジメジメした空気が漂う。
 考えてみれば、超能力者二人が同席する異界じみた空間であり、この中では無力に等しい飾利はごくりと咽喉を鳴らす。注文した飲み物も緊張で咽喉に通らなかった。

「……五月蝿いなー。折角第三位の『超電磁砲』と戦う機会が訪れたのに、邪魔入って興が削がれた上に黄泉川の説教フルコースと来た。やる気が皆無になるのは致し方無い事だろ?」

 注文したチョコレートケーキを食べる時だけ自然と破顔しながら、悠樹は心底退屈そうに喋る。
 因みにこれが八個目であり、幾ら甘い物は別腹だとしても食べすぎだった。
 本人曰く、能力を使えば脳を酷使して腹が減るので糖分を摂取しなければならない、という尤もらしい建前を立てている。

「解りませんわねぇ。貴方はこの学園都市で八番目に優秀な人間で、更には治安維持の活動を務める風紀委員ですのよ。今更順位如きに拘られても困りますわ」
「いいや、拘るね。男として生まれたからには最強の座を目指すのは至極当然だ。オレは風紀委員である前に赤坂悠樹という一人の人間で、そういう馬鹿な人種なんだよ。それが『過剰速写』って男なのさ」

 本人は格好付けているつもりだろうが、チョコレートケーキを頬張りながら言っても全然格好が付かない。
 何でこの不良予備軍が風紀委員をやっているのか、黒子がジト目で呆れている中、飾利は先程から抱いた疑問を口にしてみる事にした。

「その、何で『過剰速写(オーバークロッキー)』なんですか? 英語と仏語の組み合わせって変じゃありません?」
「さぁね。そればかりは名付けた能無しの研究者に聞いて欲しいわー」

 悠樹の何処かはぐらすような言い方に、飾利は妙な違和感を抱く。
 学校側が命名する能力名は念動力や発電能力、発火能力などシンプルなものが多い。
 この法則から考えれば、赤坂悠樹の能力名は単純に『多重能力』になる筈だが、御坂美琴の『超電磁砲』や学園都市最強の第一位『一方通行』など、学生自身が決めた名称で呼称されるケースがある。
 それならば赤坂悠樹の『過剰速写』は間違いなく後者、彼自身が決めた能力名でなければおかしい。
 もし、彼の言う通り研究者が決めた名称だとしても、超能力者の彼が気に入らなければ呼称を変える事ぐらい簡単な話だ。
 普通の感性を持つ者なら英語と仏語が組み合わさった歪な造語など気に入らないだろう。
 それなのに変えない理由は一体――飾利が思い悩んだ時、フォークを皿の上に置く音が響いた。
 目の前を見れば悠樹が八個目のケーキを完食し、紅茶を優雅に啜っていた。

「それでさっきのアレなんだけど――」

 そのタイミングを見計らってか、先程から沈黙していた美琴が喋りかける。
 さっきのアレ、とは彼が使った擬似的な超電磁砲の事である。威力から見ても手加減した本家にも及ばないソレは、されども美琴の視点から見れば重大な問題でもあった。

「さっきのアレ? ああ、本家本元に見られたか。でもまぁ全力で撃ってあの程度だ、君と比べれば児戯に等しいよ」
「当たり前ですわ。貴方の模倣如きがお姉様の超電磁砲に敵う筈ありませんわ」
「手厳しいな。まぁその通りなんだが、格下を片付けるには便利な火力なんでね。使う事ぐらいは許してくれ」

 まるで我の事のように誇らしげに笑う黒子を見て、美琴はこんなに本物を見る機会があったのに気づいてないのかと内心溜息を付いた。
 ――擬似的な、とはそのままの意味である。悠樹の超電磁砲はそもそも超電磁砲とさえ呼べない。
 悠樹は電流や電磁波や磁力などを一切使わず、全く異なる法則を用いて同じような結果を生み出したに過ぎない。これは電磁力線を目視出来る御坂美琴だからこそ観測出来た事である。
 偶々発電系の能力を使えないからの苦渋の応用なのか、それとも誰にも想像出来ない隠れた真実が潜んでいるのか。非常に気になる処だった。

「いや、そうじゃなくて――」

 美琴が興味津々な表情を浮かべて追究しようとする中――偶然居合わせたとある人物の一言で今までの事全てが意識の外に葬り去られてしまった。

「――げっ、ビリビリ中学生」

 全員の視線がその少年に集中する。
 其処にいた棘々頭の少年は何処にでもいそうな平凡な高校生であり、何処か幸薄そうだなと悠樹は失礼な第一印象を抱いたりした。

「ビリビリって言うな! 私には御坂美琴というちゃんとした名前があんのよっ!」

 テーブルを叩きつけ、怒りで髪から放電する様はまさにビリビリといった感じであり、的確な仇名だなと悠樹が同年代ぐらいの少年に感心する。
 その反面、棘々頭が同じ超能力者を此処まで白熱させる相手という事実に疑問を抱く。

「……何方様?」
「ま、まさかこの殿方が……!」

 美琴の隣に座る黒子には心当たりがあるようだが、悠樹は気づかずに己が思考の裡に内没する。
 超能力者はその突き抜けた実力差の御陰で、他の者と対等に付き合えないケースが多い。見下す見下さない以前にそういう意識が何処かにある。
 例えるならばいつでも踏み潰せる蟻みたいな矮小な存在に、人と同様の感情を抱けるかと問われれば否だろう。それと同じ感覚である。

「今日という今日は決着を――!」
「決着?」
「あ」

 悠樹が反射的に聞き返すと、美琴は眼に見えて錯乱する。頭を掻き毟り、「あぁ~!」と叫びながら不思議な踊りまでして取り乱している。
 その奇行を見た白井黒子と初春飾利の眼はまん丸になっていた。

(……決着? 第三位の『超電磁砲』が、何と?)

 赤坂悠樹は御坂美琴の事を過小評価していない。
 他に類を見ない複雑な能力ではなく、単純極まりない発電能力だけで第三位にいるという事実を額面以上に重く受け止めている。
 そんな彼女が自身と同等扱いしている相手の存在が心底信じられない。そんな化け物は学園都市でも第一位や第二位ぐらいしか居ない筈だ。
 激しく動揺する美琴を悠樹はまじまじと眺める。次に少年の顔を食い入るように見る。やはりただの学生にしか見えない。

「……其処の平凡極まりない一般学生の君、もしかして存在感が欠片も無い第六位だったりする?」
「んな訳あるかっ。上条さんは何処にでもいる平凡な無能力者です、はい」

 学園都市で八番目に優秀な思考能力を駆使して導き出した結論は、呆気無く否定される。悠樹は顔に出さないが、少し落ち込んだ。

「アンタの何処が何処にでもいる無能力者よっ! 二三〇万分の一の天災の分際でぇっ!」

 更にヒートアップする美琴の反応を見て、悠樹は益々解らなくなる。
 とりあえず、自分の目の前で公開処刑が行われるのは非常に戴けない。少年の安否は至極如何でも良いが、自分の面子に泥を塗られるのは死活問題である。
 悠樹は似合わないと思いつつも仲裁する事にした。

「……よぉ解らんが、とりあえず周囲を見て、それからオレの腕章見て冷静になってくれ。今日はこれ以上仕事しないと決めているのでな」

 黒子から「まだまだ仕事は山ほどありますよ!」などと突っ込まれるが、全力で無視する。
 上条という苗字の少年は「ほっ」と心底安堵した表情になり、美琴は「うっ」と不満の色が見え隠れするものの、自分がどれだけ人目に付く奇行をしていたか自覚してしまい、真っ赤な顔になって矛を収めた。
 その上条と名乗る少年の小市民じみた様子から、決着云々は直接戦闘とは別の事と、悠樹は個人的に解釈する。
 見た目に寄らず、ある分野で御坂美琴を打ち負かすほど優秀な一面があるのだろうか。そういう輩は自身の出身校に幾らでもいるが故に、悠樹はすんなりと納得する。

「さて、自分はそろそろ御暇させて貰うよ」

 もう今日は仕事しないと心の中で決めたのに余計な仕事をしてしまった、と悠樹は自己嫌悪に陥りながら席を立つ。
 ポケットから財布を取り出し、五千円札をそっと机の上に置いた。

「釣りはいらんよ。我ながら己が矜持だけは度し難いものだ」




「……全く、お姉様も何であんな類人猿と……!」
「白井さん落ち着いて。こういう時は深呼吸が一番ですよ」

 白井黒子は怒り心頭で、初春飾利は苦笑しながら帰宅していた。
 黒子の焦燥は止まらない。飾利は内情を知らないから平然としていられるが、あの少年――上条当麻は御坂美琴が一ヶ月前から追い回している人物だ。
 前々から美琴が無意識の内にその殿方との諍いを楽しんでいた節があったが、今日本人を見て確信する。アレはあらゆる意味で危険だと黒子は直感する。

「あれ、赤坂さん?」

 如何に盛り付いた類人猿を美琴から引き離すか、黒子が内心暴走していた時、完全に眼中から消えていた人物の名が飾利の口から出る。

「へ?」

 飾利の視線の先を追えば、其処には何処にでもある公園があり、四人の小学生の中に赤坂悠樹が混じっていた。
 いや、混じるというよりも最大の違和感として目立っていた。

(……まさかあの暴走超能力者、無垢な子供達に危害を加えるのでは……!?)

 どう見ても一緒に子供達と遊ぶような性格はしていない。むしろ無力な子供達を率先して甚振るような悪癖を持っていた、としても然程不思議ではない極悪人である。
 黒子が最大限に危惧する最中、悠樹は砂山から砂で固めた長身の棒を掴み取り、立ち茂る樹木に向かって殺人的な突きを繰り出し――枝に引っ掛かって取れなかったボールをぽんと突き落とした。
 落ちたボールを拾った子供達の笑顔が眩しい。退屈気に立派な風紀委員をやっている悠樹を遠巻きから見て、黒子は恥ずかしげに顔を伏した。

「あれですよ、普段素行の悪い不良の人が雨の中で子犬に餌をあげる的なイベントですよ。好感度アップです!」
「……確かにあの殿方の気性を考えたら意外性あるイベントですが、誰が惚れる女の子役なんです?」
「えーと、白井さん?」
「……う~い~は~るぅ~!」
「じょ、冗談ですってばー!」

 飾利とど突き漫才をしながら、少しは見直した黒子だったが――途端、彼の居た場所が大爆発して炎上した。

「――!?」

 二人は絶句する。悠樹自身の安否など心配するまでもない。心臓に銃弾を撃たれても平然とし、果てには核兵器にすら無効化するとされるのが超能力者という怪物の次元だ。
 問題なのは彼の周囲に居て大能力者級の破壊に巻き込まれた、無力に等しい四人の小学生だった。
 二人の脳裏に最悪の結末が過ぎる。既に八人の被害者を出した連続虚空爆破事件でも死者は出ていないが――。

「――白昼堂々仕掛けやがって。待ても出来ないのか最近の駄犬は」

 悪態を突く声は背後から鳴り響く。
 瞬時に振り向けば、其処には鬼の如く歪んだ苦悶を浮かべた赤坂悠樹が居た。
 右腕と手で無理矢理二人抱え、左手で一人の後ろ袖を掴み、最後の少年は悠樹の目前で唖然としている。少年の著しく乱れた後ろ袖から、歯で食い噛んで連れてきたと思われる。

「いつの間に背後にっ……空間移動(テレポート)まで使えるのですか!?」

 黒子は自身で言って、即座に否定する。
 空間転移系は三次元の座標から十一次元への座標へと特殊変換する為、膨大な演算を必要とする。
 平常時ならまだしも、発動に時間が掛かり、集中力が欠けるとすぐに使用不可になる繊細な能力故に、突発的な出来事に対処出来ない。それは学園都市で八番目に優秀な彼をもってしても覆せぬ条理である。
 その証明か、または黒子に知らぬ法則があるのか、悠樹は身に走る激痛を必死に我慢するように眉間を限界まで顰め、軋みが上がるほど歯を食い縛っていた。

「結果から見れば似たようなものだ。――黒白、信号弾で避難命令。もう一人と一緒にガキの避難を」
「わたくしの名前は白井黒子です。何で黒が先なんですかっ! それにアレ使うと始末書を書かなければいけませんから、貴方のを使って下さいまし!」
「忘れたから言ってるんだよ。さっさとしろ」

 燃え盛る炎の中から堂々と出てきた下手人を苛立ちを籠めて睨みながら、悠樹は手で急かす。
 黒子が葛藤した後、周囲の安否には引き換え出来ないと決断し、スカートのポケットに入っている小型の拳銃のようなものを取り出し、真上に向けて引き金を引く。
 上空に撃ち放たれた金属筒は瞬時に目映い閃光となって消える。この学園都市に生きる者ならば誰もが知っている避難命令、戦闘による流れ弾に当たりたくなければ即座に逃げろ的な意味が込められている。

「……大丈夫ですの? 何なら、わたくしも参戦しますが?」

 恐らく赤坂悠樹は、四人の子供を無傷で救出した奇跡の代償を何らかの形で受けている。
 それなのに戦闘を行うという事態に、黒子は心配そうに案じ、それを包み隠すように小馬鹿にするような口調で「手は必要か?」と問う。
 当然、その意図は悠樹にも伝わった。伝わったが、答えは最初から変わらない。

「誰に物言ってんだ? オレは天下無敵の超能力者だぜ。格下相手に、ハンデが幾らあっても不足なんだよ」

 不利だろうが窮地だろうが、その程度で悠樹は不遜を崩さない。黒子は強く笑い返し、自らの仕事を務める事にした。

「さあ、皆様此方へ。急がず迅速に避難しますわよ!」
「お姉さん達に着いて来て下さい!」

 悠樹は額を右手で押さえ、指の隙間から黒子と飾利が子供達を避難誘導する光景を眺めつつ、正面を見据える。
 手を離して眼下に曝した悠樹の表情は、いつもの如く唯我独尊で余裕に満ち溢れていた。

「――で、こんなにクソ暑いのに近寄らないでくれる? 非常に迷惑なんだけど。年中暖房状態の発火能力者クン」

 炎から現れたのは細身の男だった。乱雑に染めた金髪は伸びっぱなしで、歪に捻じ曲がった精神が顔に出たような醜悪な面構えだが、その能力の規模以外は何処にでも居る不良だった。

「ケッ、今のは単なる挨拶代わりだよ。久しぶりだな『過剰速写』、遭いたかったぜェ」

 金髪の男は狂暴な振る舞いで嫌らしく哂う。
 まるで知己のような物言いに、悠樹は首を傾げる。

「誰?」
「アン? 忘れたなんて言わせねェぞ。テメェに病院送りにされた恨み――」
「自分に酔い痴れながら長々と無駄話か? テメェの猿並に衰退した脳みそでも理解できるよう簡潔に言うと、一度忘れたどうでも良い事なんて二度と思い出せない性質なんだよ。だから聞いているんだが――ああ、別に答えなくて良いよ、最初から覚える気無いし」

 一瞬、我を失いそうな憤怒が金髪の男の思考を埋め尽くし、しかし、寸前の処で冷静に立ち戻る。
 危うく以前の二の舞を演じる処だった。以前も金髪の男は赤坂悠樹に挑発され、怒りに身を任せて猪突猛進してしまい、よりによって発火能力で返り討ちにされるという屈辱的な敗北を演じてしまった。

「っっ! ハッ、その手には乗らないぜ。挑発して此方の平常心を奪うってか? そんなセコい手に頼らざるを得ない力不足の第八位様に心底同情するぜ」
「なるほど。正々堂々不意討ち噛ます奴の言う事は違うな、三下の小者くぅん」

 悠樹は哂う。腹を抱え、身体を〝く〟の字に曲げて、声を出して嘲笑い続ける。
 ぷつん、と何かが切れる音が金髪の男の中で響き、無意識の内に溢れた熱波が爆ぜるように空間を焼く。
 急激な気温の上昇に、悠樹は「暑い」と不機嫌そうに目を細めた。

「……良いだろう。思い出せないなら嫌でも思い出させてやる。尤も、今のオレは大能力者の範疇じゃねェッ! 第八位のテメェを余裕でぶっ倒す事で、オレが九人目の超能力者になった事への証明とするッ!」

 極限まで両掌を握り締め、歯軋りするほど食い縛り、怒張する鬼の形相をもって射殺さんばかりに凝視する。
 その尋常ならぬ殺人的な視線を悠樹は正面から見据え、果てには鼻で笑って見下す。

「このオレを登竜門扱いとは舐められたものだ。一人盛り上がっているところ悪いけどさ――超えられない壁があるから大能力者(テメェ)と超能力者(オレ)って分類されている訳なんだが、その点、理解してるぅ?」
「何時までも見下してんじゃねェッ!」

 金髪の男は自身の足元を全速で踏み抜き、比喩ではなく爆発しての超スピードで突撃し、それを悠樹は正面から向かい撃つ。
 急激に力をつけた大能力者と超能力者の末席、その闘争の火蓋が盛大に切って落とされた。




「オラオラァ! 存分に味わいなっ!」

 子供の避難を初春飾利に任せ、白井黒子が再び現場に戻ってきた時――戦いは一方的になっていた。
 金髪の男が掠っただけで灰燼と化す地獄の炎を存分に撒き散らす。大規模な火炎放射から空間指定の爆破まで織り交ぜて繰り出し、尚且つ際限無い弾幕は面制圧の爆撃そのモノだった。公園の遊具などは既に原型すら留めずに融解して全滅する。

「チッ……!」

 この地獄の中で唯一原型を保っている赤坂悠樹は押し寄せる猛火の、あるか無いかの極僅かな隙間を瞬時に見極め、綱渡りのような紙一重で潜り抜けて行く。
 飛び散る汗が空中で瞬時に蒸発する煉獄の中、回避行動しか出来ず、手詰まりとなっていた。

(――まずいですわ。やはり赤坂さんの動きが鈍い。あの安全装置の外れた火炎放射を紙一重で避け続けても、余波で焼かれて程無く力尽きてしまいますわ……!)

 暴虐の極みたる炎は金髪の男を中心に渦巻いており、近寄っただけで焼き尽くされる陽炎の処刑場と化している。
 まるで太陽に近づくが如く無謀な試みだと、白井黒子は戦慄する。超能力者に対してこれほど圧倒的な実力差を見せながら、何故大能力止まりなのか、黒子は猛烈に疑問視する。
 何かしら致命的な欠陥があるからなのか。もしあるならば其処から活路を見出せるが、発火能力の演算は複雑な空間移動と比べて非常に簡潔であり、現に金髪の男は自身の炎を完全に制御している。その線は薄いだろう。

(それとも、前回の身体検査(システムスキャン)後の短期間で、急激に力を……?)

 論点がズレたと、黒子は首を振って思考を戻す。問題はあの暴走発火能力者をどうやって制圧するかである。
 あれを相手に接近するのはほぼ不可能――ならば、と思い至ったのは悠樹も同じだった。
 一際大きい炎の放射を躱した直後、悠樹はポケットから金属の球体を取り出すと同時に宙に放り投げ、全力で蹴り上げた。
 御坂美琴が手加減して音速の三倍、には到底届かないものの、苛烈に加速した金属の球体は飛翔の際に生じた余波だけで炎を跡形無く吹き飛ばし、本体の金髪の男を一直線に目指す。

「ぬァアめェるなアアァアアァ!」

 金髪の男は超人的な反応速度で両手を目前に突き出し、限界まで圧縮した白炎をもって擬似超電磁砲を受け止める。
 その瞬間に生じた衝撃で融解していた地面が深く罅割れたが、拮抗状態は一瞬で終わる。金属の球体の外縁が崩れ、呆気無く溶けて跡形も無くなる。金髪の男は安堵の息を零し、勝ち誇ったように笑った。

「計測してねェから摂氏何度かまでは解らんがよォ、今のオレなら本家の超電磁砲すら着弾前に焼き尽くせるぜェ!」

 御坂美琴の超電磁砲なら反応すら出来ずに吹っ飛んでいる、と黒子は金髪チンピラの思い上がりに苛立つが、悠樹のでは通用しない。

(……困りましたわね。ただでさえ動き回って照準が付け辛いですのに、金属矢(ダーツ)も通用しなさそうですね……!)

 あの超絶的な威力で連射出来るのも本家の利点であるが、一投一投に全力を費やしている悠樹の擬似超電磁砲では単発が限度なのだろう。
 状況は何一つ変わらず、最大の切り札が無駄骨に終わった分、絶望が増す。

「ハハッ、どうしたどうしたァ! 逃げるしか出来ないってかァ!」

 調子に乗った金髪の男が更なる追撃を加えようとした時、それより疾く悠樹は自身の指先をぱちんと小気味良く鳴らした。

「……!?」

 瞬間、さっきのお返しとばかりに、金髪の男の全周囲から複数の爆発と炎の放射が乱れ飛ぶ。爆心地にいた男は咄嗟に反応出来ず、理不尽な炎の渦に消えた。

「さ、流石は『過剰速写』と名乗るだけありますわね。しかし、幾らなんでもやりすぎじゃ――」

 態々先程の攻撃と類似した発火能力で仕留める当たり、多重能力者としてのポリシーなのだろうかと黒子が楽観視した途端、急激に炎が渦巻いて上空に解き放たれ、無傷同然の姿で金髪の男は同じ場所に立っていた。

「おっと、同じ手は通用しねェぜ」

 余裕綽々の金髪の顔を見て、黒子は息を呑んだ。
 男の能力は単純な発火能力の域ではない。考えてみれば、男は自身の周囲を在り得ないほど燃焼させていた。普通の発火能力者でそんな真似をすれば、自分自身が焼け死ぬか、酸欠で倒れているかの二択である。
 そうならない理由もまた単純で、空間全域の熱量及び燃焼を掌握するほど強大な――超能力者に匹敵する演算能力を持っている証明に他ならない。

「クク、何だ何だァ、超能力者ってのはその程度なんかァ? それとも第八位が特別に弱いってか? ああ、オレが強くなり過ぎたって線も多いにあるよなァ。アッハッハハハ!」

 最早、悠樹に打つ手はあるまい。金髪の男は全身全霊をもって狂喜乱舞する。
 あの時受けた屈辱と鬱憤を倍にして返せる。敗北を認めた悠樹の情けない表情を、今か今かと待ち侘び――されども、悠樹は在り得ない表情を浮かべていた。


「――で、その程度?」


「……は?」

 突如、脈拍も無く出てきた言葉を金髪の男は理解出来なかった。超能力者に匹敵すると自負する思考能力をもってしても何処からそんな言葉が飛び出すのか、理解に苦しむ。
 悠樹は退屈そうに、見飽きた玩具をどうやって処理するか悩む、そんな無慈悲な眼で金髪の眼を射抜いていた。それは絶対的強者の憂鬱だった。

「出し惜しみしているのならば早く出せ。攻守交代した時点で瞬殺確定なんだからさぁ」

 此処まで圧倒的な実力差を突きつけたのに、悠樹はそれが余裕と言わんばかりに侮って見下している。
 ――出遭った当時と同じように、悠樹の眼に自分の事など最初から映っていない。他の有象無象と同じ程度にしか、見られていない。

「――っざけんじゃねェ! 人が親切に手加減してりャいい気になりやがって! 望み通りぶっ殺してやる、誰だか判別出来ねェぐらい無惨な焼死体にしてやるぜェエエエエェ!」

 完全にぶち切れた金髪の男は自身の両手を天に掲げる。
 途端、膨大な炎の渦が巻き起こり、球体状に圧縮していく。昔の漫画で他の者の生命力を略奪して撃ち放つ必殺技があったなと、悠樹は気怠く欠伸をしながら思い出す。
 炎は限界を知らず、際限無く膨らんで行く。十数メートル先から肌を焼く小型の太陽を見て、敵方の惑星吹っ飛ばした必殺技の方が的確かと一人淡々と違う部分を分析する。

「赤坂さん! 何を悠長に欠伸してやがりますかッ! 早く攻撃をっ、そんなもの放たれたら貴方どころか周囲一帯が吹っ飛びますよ!?」
「ったく、身近に御坂美琴がいる癖にまだそんな事抜かすか。黙って見てろ」

 必定の破滅を前に、悠樹は背伸びしながら笑う。

「――今日は特別サービスだ。超能力者が超能力者である所以、存分に見せ付けてやるよ」

 臨海を迎えた恒星は、躊躇無く撃ち放たれた。

「死ねエエェエエエエェエェ!」

 悠樹はその場から動かずに、左手だけを前に差し出して正面から受け止めた。
 幾らなんでも無謀すぎる。黒子は悠樹の死を確信し、金髪の男は自らの勝利を確信した。

「ひゃはは、あはあはははあはははは!」

 能力者による災厄は、もう止められない。黒子が絶望した矢先、空気の膜を音速を超えて叩きつけるような轟音が鳴り響いた。

「――へァ?」

 金髪の男の顔が凍りつく。それもその筈だ。生涯で最大最高の一撃が跡形も無く掻き消え、冗談のように右拳を突き出す悠樹の姿があったからだ。
 まるで拳一つで破ったと言わんばかりに、頬を吊り上げて嘲笑っていた。
 ――怪物。男が無意識の内に一歩退いた時、数十メートル離れていた筈の赤坂悠樹は目と鼻の先に突如現れ、更には右腕を大きく振り被っていた。

「ま――!?」

 待て、という静止の言葉すら紡げず、拳は腹部に突き刺さる。自身の一撃を打ち砕いた破壊力を身を持って痛感する事となり、幸運な事に途中で意識が途切れた。
 ダンプカーで跳ねられたかの如く二十メートル以上吹き飛び、地面を転がり続けた果てに仰向けで大の字に倒れて止まった。

「相変わらず手加減出来ないな」

 死んでいなければ大丈夫か、と悠樹は結論付ける。脳裏に過ぎるのはどんな患者でも治療してしまうカエル顔の医者だった。

「大丈夫です、の……?」

 黒子が駆け寄り、犯人の身のついでに悠樹の負傷状況を尋ねるが、悠樹の方は平然としていた。
 良く見れば、赤坂悠樹は火傷一つ負っていなかった。それどころか制服に至っても煤けた部分すらない。
 これは金髪の男と同じく熱量操作の御陰なのか、巨大な炎を消し飛ばした風力操作らしき能力の一端なのだろうか。
 幾らなんでも『多重能力』の一言だけでは説明出来ない。黒子は身に湧いた不信感を拭えなかった。

「それにしてもこの短期間で、良く此処まで力を付けたものだ」
「……忘れた事は二度と思い出せないのでは?」
「失礼な、大能力者以上は基本的に覚えている。こういう煽り耐性の無い馬鹿は挑発しただけで思い通りに動いてくれる。現に被害は公園だけで済ませたぞ」

 確かに人的被害が出なかったのは幸いだが、爆心地の公園は再起不能なぐらい破壊し尽くされている。まともに整備しても、雑草一本生え茂るかどうかの惨状である。

「……はぁ。最後に聞きますけど、何で貴方のような人間が風紀委員やってますの?」

 後始末の事で頭を痛くしながら、黒子は純粋に湧いた疑問を問い掛ける。
 悠樹は悩む素振りさえ見せず、晴れ晴れとした笑顔で答えた。

「権限を盾に犯罪者どもを問答無用で吹っ飛ばせるからに決まってるだろ」

 何を当然な事を言ってるんだ、HAHAHAと悠樹は豪快に笑う。
 いつの日か、この準犯罪者を取り締まらなければなるまい。更に痛む頭を抱えながら白井黒子は決心したのだった。





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