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No.10059の一覧
[0] ハルケギニアの舞台劇(3章・最終章)  【完結】 [イル=ド=ガリア](2009/12/04 20:19)
[42] 第三章 史劇「虚無の使い魔」  第一話  平賀才人[イル=ド=ガリア](2009/09/06 22:55)
[43] 史劇「虚無の使い魔」  第二話  悪魔仕掛けのフーケ退治[イル=ド=ガリア](2009/09/06 22:54)
[44] 史劇「虚無の使い魔」  第三話  悪だくみ[イル=ド=ガリア](2009/09/06 22:54)
[45] 史劇「虚無の使い魔」  第四話  箱入り姫と苦労姫[イル=ド=ガリア](2009/12/07 06:59)
[46] 史劇「虚無の使い魔」  第五話  アルビオン大激務[イル=ド=ガリア](2009/12/05 23:28)
[47] 史劇「虚無の使い魔」  第六話  後始末[イル=ド=ガリア](2009/09/06 22:54)
[48] 史劇「虚無の使い魔」  第七話  外交[イル=ド=ガリア](2009/12/04 20:19)
[49] 史劇「虚無の使い魔」  第八話  幕間[イル=ド=ガリア](2009/09/06 22:54)
[50] 史劇「虚無の使い魔」  第九話  誘拐劇[イル=ド=ガリア](2009/09/06 22:54)
[51] 史劇「虚無の使い魔」  第十話  夏季休暇[イル=ド=ガリア](2009/09/06 22:54)
[52] 史劇「虚無の使い魔」  第十一話  戦略会議[イル=ド=ガリア](2009/09/06 22:54)
[53] 史劇「虚無の使い魔」  第十二話  それぞれの休暇[イル=ド=ガリア](2009/09/06 22:54)
[54] 史劇「虚無の使い魔」  第十三話  遠征へ[イル=ド=ガリア](2009/09/06 22:54)
[55] 史劇「虚無の使い魔」  第十四話  侵攻前[イル=ド=ガリア](2009/12/05 23:32)
[56] 史劇「虚無の使い魔」  第十五話  闇の残滓[イル=ド=ガリア](2009/09/06 22:53)
[57] 史劇「虚無の使い魔」  第十六話  出撃[イル=ド=ガリア](2009/12/05 23:35)
[58] 史劇「虚無の使い魔」  第十七話  軍神と博識[イル=ド=ガリア](2009/09/07 00:24)
[59] 史劇「虚無の使い魔」  第十八話  魔法学院の戦い[イル=ド=ガリア](2009/09/06 23:15)
[60] 史劇「虚無の使い魔」  第十九話  サウスゴータ攻略[イル=ド=ガリア](2009/09/06 04:56)
[61] 史劇「虚無の使い魔」  第二十話  休戦と休日[イル=ド=ガリア](2009/12/05 23:36)
[62] 史劇「虚無の使い魔」  第二十一話  降臨祭[イル=ド=ガリア](2009/09/13 01:48)
[63] 史劇「虚無の使い魔」  第二十二話  撤退戦[イル=ド=ガリア](2009/09/13 01:52)
[64] 史劇「虚無の使い魔」  第二十三話  英雄の戦い[イル=ド=ガリア](2009/12/05 23:39)
[65] 史劇「虚無の使い魔」  第二十四話  軍神の最期[イル=ド=ガリア](2009/09/15 22:19)
[66] 史劇「虚無の使い魔」  第二十五話  アルビオン戦役終結[イル=ド=ガリア](2009/12/05 23:40)
[67] 史劇「虚無の使い魔」  第二十六話  それぞれの終戦[イル=ド=ガリア](2009/12/05 23:48)
[68] 史劇「虚無の使い魔」  第二十七話  諸国会議[イル=ド=ガリア](2009/09/19 22:04)
[69] 史劇「虚無の使い魔」  第二十八話  エルフ[イル=ド=ガリア](2009/09/18 06:07)
[70] 史劇「虚無の使い魔」  第二十九話  担い手と使い魔[イル=ド=ガリア](2009/09/19 08:02)
[71] 史劇「虚無の使い魔」  第三十話  シュヴァリエ叙勲[イル=ド=ガリア](2009/09/20 10:49)
[72] 史劇「虚無の使い魔」  第三十一話  スレイプニィルの舞踏会[イル=ド=ガリア](2009/09/20 10:41)
[73] 史劇「虚無の使い魔」  第三十二話  悪魔の陰謀[イル=ド=ガリア](2009/09/20 14:37)
[74] 史劇「虚無の使い魔」  第三十三話  アーハンブラ城[イル=ド=ガリア](2009/09/21 22:50)
[75] 史劇「虚無の使い魔」  第三十四話  ガリアの家族[イル=ド=ガリア](2009/09/21 08:21)
[76] 史劇「虚無の使い魔」  第三十五話  ロマリアの教皇[イル=ド=ガリア](2009/09/21 23:06)
[77] 史劇「虚無の使い魔」  第三十六話  ヨルムンガント[イル=ド=ガリア](2009/09/22 23:13)
[78] 史劇「虚無の使い魔」  第三十七話  編入生と大魔神[イル=ド=ガリア](2009/09/22 10:47)
[79] 史劇「虚無の使い魔」  第三十八話  楽園の探求者[イル=ド=ガリア](2009/09/22 23:32)
[80] 史劇「虚無の使い魔」  第三十九話  我ら無敵のルイズ隊[イル=ド=ガリア](2009/10/21 21:23)
[81] 史劇「虚無の使い魔」  第四十話  舞台準備完了[イル=ド=ガリア](2009/09/23 22:42)
[82] 史劇「虚無の使い魔」  第四十一話  光の虚無  闇の虚無[イル=ド=ガリア](2009/09/26 04:29)
[83] 史劇「虚無の使い魔」  第四十二話 前編 神の名の下の戦争[イル=ド=ガリア](2009/09/29 20:27)
[84] 史劇「虚無の使い魔」  第四十二話 後編 王の名の下の戦争[イル=ド=ガリア](2009/10/01 21:44)
[90] 最終章 終幕 「神世界の終り」  第一話  悪魔の軍団[イル=ド=ガリア](2009/10/01 22:54)
[91] 終幕「神世界の終り」 第二話 前編 フェンリル 第4の使い魔[イル=ド=ガリア](2009/10/04 08:05)
[92] 終幕「神世界の終り」 第二話 中編 フェンリル 貪りし凶獣[イル=ド=ガリア](2009/10/04 08:06)
[93] 終幕「神世界の終り」 第二話 後編 フェンリル 怪物と英雄[イル=ド=ガリア](2009/10/07 21:03)
[94] 終幕「神世界の終り」  第三話 侵略と謀略[イル=ド=ガリア](2009/10/08 18:23)
[95] 終幕「神世界の終り」  第四話 狂信者[イル=ド=ガリア](2009/10/08 18:25)
[96] 終幕「神世界の終り」  第五話 歴史が変わる日(あとがき追加)[イル=ド=ガリア](2009/10/09 22:44)
[97] 終幕「神世界の終り」  第六話 立ち上がる者達[イル=ド=ガリア](2009/10/09 22:45)
[98] 終幕「神世界の終り」  第七話 人が神を捨てる時[イル=ド=ガリア](2009/10/20 17:21)
[99] 終幕「神世界の終り」  第八話 串刺しの丘[イル=ド=ガリア](2009/10/18 02:40)
[100] 終幕「神世界の終り」  第九話 悪魔公 地獄の具現者[イル=ド=ガリア](2009/10/20 17:26)
[101] 終幕「神世界の終り」  第十話 アクイレイアの聖女[イル=ド=ガリア](2009/10/21 21:07)
[102] 終幕「神世界の終り」  第十一話 パイを投げろ![イル=ド=ガリア](2009/10/21 21:12)
[103] 終幕「神世界の終り」  第十二話 変動する時代[イル=ド=ガリア](2009/10/21 21:16)
[104] 終幕「神世界の終り」  第十三話 終戦の大花火[イル=ド=ガリア](2009/10/21 21:16)
[105] 終幕「神世界の終り」  第十四話 新時代の担い手たち(一部改訂)[イル=ド=ガリア](2009/10/14 21:01)
[106] 終幕「神世界の終り」  第十五話 パイを投げろ!inトリスタニア[イル=ド=ガリア](2009/10/17 06:50)
[107] 終幕「神世界の終り」  第十六話 王家の終焉[イル=ド=ガリア](2009/10/18 02:17)
[109] 終幕「神世界の終り」  第十七話 前編 終幕(エクソドス)[イル=ド=ガリア](2009/10/17 06:43)
[110] 終幕「神世界の終り」  第十七話 後編 終幕(エクソドス)[イル=ド=ガリア](2009/11/15 03:19)
[111] 終幕「神世界の終り」  最終話  そして、幕は下りる[イル=ド=ガリア](2009/11/15 03:25)
[121] エピローグ[イル=ド=ガリア](2009/11/27 22:24)
[122] A last episode  ”1000 years later”[イル=ド=ガリア](2009/11/29 09:37)
[123] あとがき[イル=ド=ガリア](2009/12/02 20:49)
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[10059] 終幕「神世界の終り」  第七話 人が神を捨てる時
Name: イル=ド=ガリア◆8e496d6a ID:c46f1b4b 前を表示する / 次を表示する
Date: 2009/10/20 17:21
 ロマリアの“聖戦”によって怒りを爆発させたガリアの民は決起し、続々とリュティスへと集結していく。

 その数はどんどん膨れ上がり、ガリア全体を巻き込む巨大なうねりへと成長していった。

 それは、6000年の歴史において一度も無いことであった。

 新教徒という実戦教義を唱える者達も存在してはいたが、大規模な決起へと至ったことは一度もなかった。

 しかし、民衆達は自分達の意思で“聖軍”を滅ぼすために立ち上がった。





第七話    人が神を捨てる時





■■■   side: イザベラ   ■■■


 ガリア王国王都リュティス。

 人口30万人を誇るガリア最大の都市でると同時に、ハルケギニア最大の都市。

 王政府が整備し管理を行っている主要街道、通称「大陸公路」の出発地であり、終着地となっており、シレ川、ルトニ川、エルベ川の3つの大河が合流するガリア最大の交易地。

 だけど、今ここに、都市人口を遙かに超える数の民衆が集まってきている。


 「ヒルダ、現在でどれくらいかしら?」


 「既に40万を超えています。予想は30万でしたから、かなり超えそうですね」

 私の補佐官であるヒルダはよどみなく答える。

 私は今、宰相としての仕事と北花壇騎士団団長としての仕事を同時に行っている。

 九大卿が義勇軍のための道路の整備や、宿泊場の確保、ついでに保安隊は暴発の抑制にも回ってる。

アドルフ、フェルディナンの二名は進行の指揮。彼らも民衆が暴発するのを抑え、押し合いへしあいの挙句、死者が出るようなことがないように務めている。魔法を空に撃ったり、空砲をぶっ放す程度は許可してある。

 アルフォンス、クロードの二名は遠隔地からの義勇軍を輸送し、エミールは義勇軍全体の食糧の確保と配給を行っている。

 アランはその他物資全般の確保と運営。それらを軍務卿がまとめ、その物資調達には暗黒街の八輝星も協力している。

軍需品を取り扱う“白筆公”、秘薬を扱う緑色卿、運送屋を営む橙色卿は特に大規模な協力をしてくれているし、その他の者も人脈や資金力を駆使して最大限の協力をしてくれている。

ま、ロマリアを併合した際の新規開拓などにおいて優先的に権利を得るという条件の下ではあるけど、こいつらが有能な商人で、王政府と深い協力関係にあるのも確かだから、別にここでの取引が無くても彼らに新規開発を依頼していたでしょうけど。

 「確か、既に近郊からは全部到着していたわよね。となると、全部で大体60万くらいかしら」

 60万の義勇軍がリュティスに集結することになるわね。未曽有の大軍団だわ。


 「はい、北花壇騎士団情報部も全力で情報収集に当たってはおりますが、何しろ南部での狂信者対策にも相当の人員を割いてますから」


 「確かにね、狂信者に殺される被害者は最小限に抑える必要があるわ。だからこそ、ハインツが“知恵持つ種族の大同盟”に協力を依頼したわけだし」

 けど、そこにはそれ以上の意味がある。

 ロマリアの狂信者の侵略と殺戮、それを止めたのが平民、メイジ、そして先住種族の混成部隊だったという事実。

 つまり、ガリアにとって敵はエルフではなくロマリア宗教庁。その意識が民衆レベルで浸透することになる。


 「既に、ファインダー、シーカー、メッセンジャーを通してその噂も流してあるのよね?」

 「はい、実際にはいるわけがありませんが、狂信者達に襲われたフランシュ=コンテ地方、リムーザン地方から駆けつけた義勇軍がいます。当然全員が情報部の者達ですが、彼らが狂信者から俺達を守ってくれたのはエルフだった。翼人だった。妖精だった。といった話をどんどん広めています」

 皆、指示通りに動いているわね。この状況下で、完全に指示が行き渡っているのはいいことだ。

 つまり、今のリュティスにはそういう噂が流れている。しかも数年かけてブリミル教や宗教庁に対する不満や不信感を広めてきたからその効果は絶大。

 エルフは悪魔なんかじゃなくて、教皇こそが悪魔。民から寺院税を搾り取るために、エルフを悪魔に仕立てあげている。という認識が広まっている。

 ま、教皇はそんなつもりじゃないんでしょうけど、実際に彼らがやられたことは重税を取られたことだけ。神の恩恵とやらは何も無かった。


 そして“聖戦”が起こった。民からさらに税金を搾り上げ、戦える者を“聖地”に送り込む狂気の戦。

 二千年近く前のガリアはそれの繰り返しで多大な国力を消費した。当然、ロマリアはそれ以上に。

 その結果、“聖戦”に反対した人々が作り上げたのがゲルマニアだってのに、ロマリアはまたそれを起こしてしまったというわけ。

 “虚無”なんてものが復活しなければそんなことはなかったのでしょうけど、復活したのもは仕方ない。“聖地奪還”の野望ごと叩き潰すだけ。

 「つまり、集った義勇軍にとって、先住種族は味方。狂信者が敵。という認識になっているのね」


 「はい、それと、ガリアを裏切った貴族達も同様です。義勇軍の方達は“侵略者を殺せ”、“売国奴を殺せ”、“教皇を殺せ”と叫んでますから。同時に、“王の為に”、“国の為に”、“仲間の為に”という声も上がっています」

 ロマリアとは別種の狂気というべきね、熱狂と言い換えてもいいけど。


 「そのために情報部は数年がかりで下地を整えてきたわけだけどね。効果は予想以上ね」

 まさか60万も集まるとは、それだけ、この世界の秩序に対する潜在的な不満は高かったということでしょう。


 「はい、ですが、彼らが自らの意思で立ち上がった結果です。多少、私達が後押しした部分もありますが、民衆というのは基本的に変化を好みません。今のガリアのように税金が安く、治安がいいなら尚更です。ですけど、それ故に、それを壊そうとする者に対する拒絶感は大きくなります」

 この子も大貴族出身なんだけど、家出した上に自力でしっかり生きてきた逞しい子だからね。金持ちなのも、ヒルダが自分で稼いだ結果だし。


 「そうね、アルビオン戦役の時なんかはトリスタニアの民衆の意見の中に、アルビオンが統治してくれた方が良くなるんじゃないか、という意見もあったそうね。戦争のために戦時特別税がかかってたから無理も無いけど。だけど、ロマリアが統治してくれた方がいいなんていう者は皆無。“聖戦”の為に重税をとられる挙句、息子達を“聖地”という名の“死地”に送り込まれることを望む者なんているわけがない」

 その辺はちょっと誇大広告にしてあるけど、現実と大差はないでしょう。

 過去の“聖戦”はそういうものであったと歴史が伝えている。それを学んだはずなのに、千年も経てば教訓を忘れてしまうものなのかしら。


 「大義の為でも、神の為でもなく、自分達の生活を守るために義勇軍は集いました。つまり、民は自分達のために神と戦う道を選んだわけです。まあ、何も与えず、奪うだけの神では信じる気持ちも失せるでしょうが」


 「確かに、そんなのを信じ続けるのはいないでしょうね」

 これまではそれ以外の生き方や、違う価値観が存在するということが知られていなかった。そして、そういった考えはロマリア宗教庁によって異端とされ、特権を失うことを恐れる貴族と強力に癒着していた。

 だけど、北花壇騎士団情報部の働きによって、少しずつ民衆レベルでそういった考えを広めていった。その為にハインツがロマリアの枢機卿を殺してロマリアとの連携を絶った。さらに、イザークの包囲網が完全にそれを抑え込んだ。

 そして、聖堂騎士から送り込まれる密偵は、“精神系”のルーンが刻まれた、あの青髭の親衛隊が悉く捕縛。そいつらは“ガルム”として再利用された。

 まったく、まさしく悪魔の手口だわ。


 「ですが、ここからが始まりですね。一筋縄ではいかないでしょうが、頑張りましょう」


 「確かにね、そこは私達の役目だから」

 これはあくまで最初の一歩。これから時間をかけてゆっくりと変えていく必要がある。

 多分、30年は軽くかかるでしょう。ラグナロクの後に生まれた子供達が、働き盛りになる頃になってようやく新しい世界に変わるくらいかしら?

 その頃、私は48歳。うん、まだまだ生きてる。


 「ところで、本当に狂信者に襲われた人達も、義勇軍としてではないけど来てるのよね」

 「はい、ハインツ様がお連れになられているはずです」

 それも大きな布石、狂信者を見た人々、そして、それらから守ってくれた先住種族を見た人々の言葉は最後の一手となる。


 彼らもまたリュティス中で演説してくれている。


 『俺の妹は狂信者達に殺された! 悪魔はあいつらだ! 俺達を守ってくれたのはエルフだった!』


 『皆さん! お願いです! 僕の父さんの仇をとってください!』


 『王様が俺達と一緒に戦ってくれる! 王様の家来さん達は狂信者と戦って死んでいった! だから、俺達も戦おう!』


 南部の民を守るためにフェンサーや『ベルゼバブ』に死人が出たのも事実。

 1万を相手にした結果が100人程度の犠牲で済んだのは奇蹟的といえるけど、それでも犠牲は出た。

 けれど、そのおかげで多くの民が救われたわ。

 当然、家族を殺された人や、家や村を失った人々は王政府が全面的に援助する。そのための財源確保は2年前からカルコピノ財務卿がやってるし、内務卿もその方面を処理する部署を作ってるし、法務卿もそのために一部の法を改善してる。


 まったく、あの青髭はよくここまで綿密に考えられるもんだわ。

 ま、あいつは大局を考えるけど。実際に行うのは私達。実働部隊の総指揮はハインツだし。支援部隊の総指揮は私が執っている。
 

 「さあ、仕事を進めましょうか。休んでる暇なんかありゃしないわ」

 私の仕事量は過去最大になっている。最終作戦なのだから当然だけど。


 「そうですね、ここばかりはお止めしません。私達も走り続けましょう」

 ヒルダも笑みを浮かべらながら頷く。


 間違いなく、ここからの短い期間が私達の人生にとって最大の意味を持つ時間になる。

 ラグナロクに参加しており、指揮官となっている者達も、それを肌で感じているでしょう。

 だから、ここは遠慮なし、ブレーキなしで突っ走る。

 ただし、ハインツだけはいつもと変わらない。あいつは常にそうだから。


 まったく、少しは私の為の時間も作りなさい、あの鈍感。










■■■   side: クロムウェル(クロスビル)   ■■■


 私は今リュティスを囲む城壁の門にいる。

 「名前と出身地と職業をおっしゃってください」

 「ロルテール出身のアルバンだ。樵をやってる」

 このやり取りをもう何回繰り返したか。


 このラグナロクの為に各地から義勇軍が集まってきている。しかし、その全てが一般の民なので、つまりは働き手が減っているということも意味している。

 だから、どの地方からどのくらいの数が来たのか、彼らはその後どうしたのか、そういったことを把握しないと。ラグナロク後の統治に支障をきたす可能性が高い。

 故に、集まった義勇軍の人々の名前と出身地と職業を記録しておく必要があり、後と比較して照合出来るようにしておくのだけど。

 ここで最大の問題がある。集まった人達の大半は字を書けないのだ。


 字を書ける人達には用紙を配って記入事項を書いてもらえばいい。しかし、それが出来ない者には口で聞いて、答えを記録するしかない。


 そのために、ガリア各地の都市、街、村の名前が書いてあるリストが作られており、それに名前と職業を記入していくことになるのだが。

 祈祷書以上に分厚いそれに答えを聞きながら記入していくのでは時間がかかり過ぎる。いつまで経っても行列は進まないという事態になってしまう。

 かといって、答えをそのまま無地の紙に記入していくのも時間がかかる。


 そこで、ハインツ君が提案したのが、私が全て記憶すること。

 とりあえず名前と出身地と職業を述べてもらったらすぐ通ってもらう。そして次の人が来て、同じように言っていく。

 ただ覚えるだけならば時間はかからない。私は記憶力しか取り柄が無い男だが。それに関してなら自信がある。

 そして、後で全て記入すればいい。


 しかし、流石に数十万は無理だし、対応するのが私一人では効率が悪すぎる。


 故に、今、私は200人いる。

 私のスキル二ルが200体作られ、リュティスを中で受付を行っている。

 ハインツ君命名、『クロムウェル分身大作戦』だそうだが、効果的ではありそうだ。


 スキルニルは血を吸うことで本人の分身を作り出し、その記憶、能力をコピーする。ただし、魔法を再現することは出来ないらしい。

 けど、私はそもそも魔法を使えないので問題ない。そして、必要なのは記憶力、これはスキルニルにも受け継がれる。

 これによって、集まった義勇軍の情報を個人単位でまとめることが可能になるわけだ。


 もっとも、数は、それぞれにカードを配ることで把握し、どの地方からどのくらい来たのかは大体は分かっているそうだ。

 私の役目はラグナロクの後に効果を発揮する。

 これもハインツ君に言わせると、『縁の下の力持ち』だそうだ。


 しかし、私の取り柄を生かして彼らの手伝いが出来るなら、それは喜ばしいことだ。

 私だけではない、宰相殿も、九大卿の方々も、軍部の方々も皆一丸となって働いている。


 彼らと共に働けることだけでも、私にとっては誇りに思える。そして、新しい時代を築くことに僅かでも協力できるのなら、これ以上は無い。


 「頑張ってくれ、ハインツ君、宰相殿、私も頑張るよ」








■■■   side: ハインツ   ■■■


 そして、リュティスに義勇軍が全て集結した。

 その数は約60万、ガリアの総人口は約1500万だから、25人に1人はここに来たということになる。

 とはいっても総人口は女性、子供、年寄りも含めた数だ。だから、壮年の男性や、若者など、動ける者はほぼ全てがここに集ったと言える。


 「何とも壮観なものだな」

 俺は今も火竜騎士団を率いてリュティス上空に待機している。あちこちを扇動して回ったから、他の竜には疲れが見られる。

 だが、俺が乗るランドローバルは“無色の竜”、火竜を上回る飛行速度を持ちながら、体力では地竜に匹敵する。


 ≪確かに、凄まじい数だ。これらを全て主達が集めたのか≫

 「そうだな、苦労したぞ、ここまでやるのは。4年がかりの大作戦だったからな。まあ、まだ終わっちゃいないが」

 集めるだけでももの凄く苦労したが、これを有効に利用しないと意味がない。まさに金と食糧の無駄になる。


 ≪しかし、たった10日で集結するとは、どんな英雄にも出来ぬ偉業と言うべきか≫

 「そうだな、どんな英雄だろうと、一人の力じゃこれは出来ん。万に達する人間が力を合わせたからこそ出来る、人間の奇蹟だな」

 義勇軍の決起から、総軍集結までに要した時間は僅かに10日。

 国土卿らが大陸公路を整備していたこと、宿場が用意されていたので義勇軍に進軍の疲れがさほど無かったこと。アドルフ、フェルディナンが統率していたこと、遠隔地は空海軍の船でアルフォンスとクロードが運んできたこと。

 そして何より、食糧や水、テント、燃料、飼料、ついでにビールやワインにいたるまで、これらをエミールとアラン先輩が用意したことが最大の要因。

 ほぼ一日中歩き続けて、たらふく食って、ビールやワインを飲めて、寝る為の指定されたテントなどがあるんなら、士気はどんどん上がっていく。兵站輜重というのはそれ故に最重要なんだ。


 このために費やした金は相当のものだが、これには封建貴族を大量に粛清した際に接収した、莫大な財産とかを充てている。

 元々封建貴族共が民衆から搾りとったものだったから、民に還元するのは当然とも言える。

 ついでに、寺院税がなくなるからその辺の無駄もなくなる。要は、今までのシステムが一部の特権階級のためだけのシステムで、国家全体を効率よく運営するためのものじゃなかっただけの話し。

 陛下が考案し、イザベラと九大卿で進めてきた改革や政策は一部の権力者に、金が溜まり過ぎないようにするシステムだ。

 金が溜まろうが、そいつらがしっかりと社会に還元すればいいんだが、欲の皮が突っ張った貴族にそんな気があるわけもなく。見栄のためとかのしょうも無いことに費やしてきた。

 しかも、それで潤う連中が貴族と癒着し、さらには坊主とも結びついて、それを非難する者は“異端”とするなんていう実にふざけた機構がまかり通っていた。


 が、貴族の方の大半は、先に悪魔の炎によって焼き尽くされた。暗殺や粛清は俺の役割だ。

 そして、そこからの金で、最終作戦は行われる。腐った貴族や腐敗した宗教庁に止めを刺すために。この世界の歪んだ価値観を変える為に。

 ある人間にとっては世界は歪んでいるのではなく、今までこそが正しい在り方なんだろうが、そんなものは知ったことか。

 気に入らないものはぶっ飛ばす。それだけだ。


 ≪彼らもまた、この世界に不満があったわけだな。そうでもなければこれほどの数が集まることはあるまい≫


 「確かに、60万だからな。潜在的な不満はずっとあったんだろう。しかし、“魔法”や“神”という存在によってずっと抑えつけられていた。一度その蓋をはずしてやればこうなる、ということなんだろう」

 気に入らなかったのは俺達だけではなかったようだ。

 まあ、どちらにしても俺のやることに変わりはないが、これによって勇気づけられる者もいるだろう。普通の人間は、皆と違うということに拒否感を持つからな。

 『影の騎士団』とかの異常者集団は別としてだが。当然、陛下も。


 ≪それで、これからどうするのだ?≫


 「当然、彼らの力のよってカルカソンヌにいる侵略者を撃ち滅ぼす。民衆の力によってだ。神を滅ぼせるのは人だけだからな。悪魔が滅ぼしても意味は無い、別の神が据えられるだけだ」

 彼ら民衆による義勇軍こそが、“神を滅ぼす軍団(レギオン)”の本隊。神を滅ぼすための人間の軍勢だ。


 まあ、いずれは似たような宗教がまた出来るだろうが、それはその時に生きる奴らがなんとかすればいい。

 それに、エルフのビダーシャルさんとか、ジャイアントのトゥルカスさんならまだ生きてるかもしれないし。そうならないように彼らが手を貸してくれることを願おう。


 ≪そのために、ここまで回りくどいことをしたわけか≫


 「その通り、ただロマリアに大軍を送って全てを破壊するのでは何も変わらない。ただ侵略者が出来上がるだけ。それは過去の焼き増しだ。その上、他国から非難を受けることにもなるな。陸軍の中にはそれが分からず、すぐにロマリアに兵をだそうなんていう馬鹿もいたが、そいつらはアドルフとフェルディナンが黙らせた」

 陸軍の改革も完全に済んだわけじゃないからな、ここで一気に篩にかけるチャンスでもある。

 ≪そんな馬鹿は他にもいたのか?≫


 「ああ、王政府の法衣貴族もまだ完璧というわけじゃない。時代遅れの遺物も少しばかり残ってる。大半は抹殺したんだけどな。ロマリアに侵略させることはない、先に教皇を殺すべきだなんてほざく馬鹿もいたんだ。まったく、暗殺では時代が進むことはない、ということくらい解れと言いたかったな」


 ≪暗殺と粛清を司る主殿が言うと、説得力があるな≫


 「そう、俺が何人殺そうが時代は進まない。新しい時代を作るのは国を動かしていくイザベラや九大卿だ。今、ロマリアの教皇を暗殺したところで何が変わる? ただ混乱が起こるだけだ、それも全く意味が無い混乱だ。民衆が立ち上がって、ロマリア宗教庁を否定しないと意味がない」

 まあ、考えが古く、貴族が特権階級、そして魔法が全て、なんていう価値観しか持たないやつには分からないだろうが。


 かといって、そいつらとも分かり合えないわけじゃない。ビアンシォッティ内務卿なんか普通に名門貴族の出だが、“穢れた血”であり、暗黒街出身でもある外務卿のイザークと完璧な連携をとっている。

 内務卿と外務卿、全く正反対の出身なのに、驚くほど息があっている。

 つまり、生まれに全てが縛られることなんてことはあり得ないってことだ。“虚無”ですら、テファみたいな奇蹟の存在がいる。

 マルコ、ヨアヒム、ヒルダの3人もいい例だ。“穢れた血”と大貴族の令嬢が一緒に仲良く仕事してる。


 要は、そいつ自身の目が濁ってるかどうかだ。しかも、他人と言葉を交わすことでその濁りを取り除くことなんて結構簡単に出来る。


 水精霊騎士隊の連中や、ギーシュ、マリコルヌ、モンモランシー、そしてルイズもそうだろう。

 才人達と関わることで、あいつらは自分らしく生きている。生き生きしてる。

 だが、そういう機会がありながらも、あえて自分を古き価値観に押し込め続ける奴もいる。トリステインの貴族にはそういうのが多いし、魔法学院の教師陣にも多い。


 ま、そこは時間が解決してくれる。馴染もうとしない奴は窓際族になっていくだけだろう。


 ≪しかし、新しい時代が来た時、主殿はどうするのだ?≫


 「さあな、まだ考えてないよ」

 人間世界から闇が無くなることはない。北花壇騎士団は続いていくことだろう。国家を支える上でこういった機構は必須とも言えるからな。

 だが、そこに俺がいる必要もないだろう。あいつらなら十分やっていけるはずだ。


 さて、どうするか。と言いたいところではあるが、それ以前の問題な気もする。


 その時、俺は生きてるかねえ。


 ≪何か、主殿がとんでもないことを考えている気がしたのだが?≫


 「気のせいということにしておけ、それより、そろそろ陛下の演説が始まる」


 リュティスの中央部に作られた大広場に60万の義勇軍と、それを整理するための6万の王政府軍が集っている。

 30万ものリュティスの市民も、“コードレス”によって陛下の声を聞けるようになっている。要は、リュティスの中に陛下の声は響き渡るのだ。

 保安隊はガリア各地に散っている。守る者がいないと民が不安になるからな。

 そして、30体のヨルムンガントもまた整列している。それはまさに、神を滅ぼす終末の巨人というべきか。

 ヴェルサルテイルは中央から離れているから、民衆を集めるのには向かない。そのために中央に巨大な広場が作られた。これは町奉行みたいな感じで、都市に関する庁を新設して作らせた。


 『よくぞ集ってくれた、ガリアの勇者達よ。祖国を想い、家族の安寧を願う気高き諸君が昼夜を問わず歩き続け、侵略者からガリアを守るために馳せ参じてくれたこと、真に嬉しく思う。まずは礼を言わせてほしい』

 王が民に礼を言うということも、これまで非常に少なかったことだな。


 『ロマリアの教皇は我等を“聖敵”として“聖戦”を発動した。そして、この“聖戦”はエルフより聖地を奪還するまで決して終わらぬ。奴は己の野望の為に、ハルケギニア全ての民を犠牲にしようとしている』

 野望うんぬんはともかく、他は事実だな。

 「「「「「「「「「「  ふざけるなあ!!  」」」」」」」」」」

 「「「「「「「「「「  教皇を許すなあ!! 」」」」」」」」」」

 数十万の民が一斉に叫ぶ、陛下は一旦演説を止め、熱狂が収まるまで待つ。


 『俺はそれに断固として反対した。ガリアの民をそのような暴挙に巻き込むわけにはいかぬ。だが、奴はそれに納得せず、このガリアそのものを“異端”としたのだ。そして、神の名の下の侵略と殺戮を開始した』


 「「「「「「「「「「  神だと! 神が何をしてくれた!  」」」」」」」」」」

 「「「「「「「「「「  俺達から奪うばかりの神のくせに!! 」」」」」」」」」」

 また熱狂が起こる。

 ちなみに、最初に叫んでるのはファインダーである。こういう場面で数百人が一斉に叫ぶと、それは瞬く間に全体に広がる。大衆扇動の基本だ。


 『悲しいことに、既に被害は出ている。狂信者が殺戮を開始し、我が民は殺された。我が軍は敵をカルカソンヌにて止めているが、それより南に存在する地方では狂信者が暴れ回っている。ガリアを裏切り、諸君らをロマリアに売った封建貴族と共にな』


 「「「「「「「「「「  裏切り者を許すなあ!  」」」」」」」」」」

 「「「「「「「「「「  売国奴を殺せ!! 」」」」」」」」」」

 そろそろ、ボルテージが上がってきたな。


 『だが! これ以上の犠牲は出さん! 我が民をこれ以上殺させはせん! そのために俺は精鋭部隊を民達を救うために送り出した! そして、教皇が語るエルフは悪魔であり、それを倒すことこそが神の意志などというものは、奴らが己の欲の為に作り上げた偶像に過ぎん! なぜなら! 狂信者達からガリアの民を救うために協力してくれた者こそが、他ならぬエルフなのだ!』


 そして、陛下の『幻影(イリュージョン)』が上空に展開される。

 空に巨大な映像が作り出される。

 範囲はリュティス全域、そこに存在する人間はその映像を見ることが出来る。

 そこには確かに映っていた。村に襲いかかる狂信者達、そして、それを打ち破る者達が。


 狂信者に切り込むルーンマスター。

 村を風の壁で守りつつ、魔法を飛ばすメイジ。

 “反射”にて全てを弾き返し、圧倒的な自然の力で狂信者を倒すエルフ。

 炎を自在に操り、狂信者を焼き払うリザードマン。

 村の住民を逃がすために飛び回る翼人と妖精。

 土の壁を作成し狂信者を防ぎつつ、人々を避難させる土小人、レプラコーン、コボルト。

 巨大な岩と小さな石で狂信者を撃ち倒すジャイアントとホビット。

 疾風の如く駆け抜け、狂信者を切り裂くケンタウルス、ライカン。

 人間の薬師と協力しながら、「水」で人々を治し続ける水中人。


 しかも、シェフィールド開発の“テープレコーダー”によってその音声まで聞こえている。

 ちなみに、例に漏れずコストは馬鹿高い。しかし、この映像にはそれが不可欠であり。それだけの金をかける価値がある。

 これらの映像や音声はシェフィールドが“アーリマン”などを用いて集めたものだ。


 狂信者は叫んでいる。

 「殺せ!殺せ! 全てを殺せ!」

 「悪魔を滅ぼせ! 生かすな!」

 「焼け! 焼き払え! 殺し尽せ! 異端は元より、ブリミル教の信徒でありながらエルフと通じた背信者どもだ! 神の御意志に背き、異端共と誼を通じた悪魔共だ! 生かしておくな!」

 「殺せ! 殺せ! 異端を殺せ!」

 「神に仇なす悪魔を滅ぼせ! より多くの悪魔を殺した者に神は恩寵を与えられる!」

 「奪え! 奪え! 神の恵みを貪る異端共から、神の糧を取り返すのだ!」

 「始祖ブリミルが祝福を与えし、このハルケギニアを汚染する悪魔を殺せ!」


 それに立ち向かう者達も叫ぶ。

 「ここは通さねえ!」

 「絶対に死守しろ! 突破されるな!」

 「怪我人がいる! 早く!」

 「早く避難して下さい!」

 「行くんだ! ここは僕達で防ぐ!」

 「狂信者を通すな! 命がけで食い止めろ!」

 「行くぞ! 狂信者をぶちのめせ!」



 これらは当然全てではなく、一部に過ぎない。が、リュティスに集った民に“聖戦”を知らしめるには十分すぎる。


 『神というものは、狂信者達が己の為に作り上げた偶像に過ぎん! 確かに、我が祖に当たる始祖ブリミルは、このハルケギニアに魔法をもたらした。しかし! それは神の恩寵ではない! 始祖ブリミルが研究を重ね、己が手で作り出したものだ! それを神のものだと偽称する奴らこそがハルケギニアに災いをもたらす敵である! その証拠に! 俺は神など欠片も信じていないが、この“虚無”の力を扱うことが出来る! “虚無”も魔法も、神の力ではない、人間の力だ!』


 「「「「「「「「「「  おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!  」」」」」」」」」」

 熱狂が爆発した。


 『故に、我等はエルフやその他の種族と共に戦うことが出来る。共に生きることが出来る。始祖ブリミルは彼らを異端などとは言っていない。奴らが勝手に捻じ曲げ、祭り上げたに過ぎん!』

 これは仮説に過ぎないが、その可能性は高い。

 何しろ、6000年前の剣も、それに近いようなことを言っていたのだから。


 『俺はここに宣言する! ガリアは神を信じ、神の為にある国ではなく、民の為にある国となる! 異なる種族とも共存し、互いに助け合い、交流しながら生きていく。古き偽りの神の教えを捨て、新しい国家となるのだ!』


 「「「「「「「「「「  おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!  」」」」」」」」」」


 共和制ローマが、初代皇帝アウグストゥスの下で帝政ローマとなった時も、こんな感じだったのだろうか?

 時代が動いているというのをリュティスにいる全員が感じているだろう。




 『ガリアの民を守るため、新しい国家を築くため、ロマリアの侵略者を滅ぼすのだ! そして、その為の道を今ここに示す!』

 そして、陛下が詠唱を開始する。


 その詠唱が始まると共に、熱狂がどんどん収まっていく。

 これまで叫んでいた者達は、皆、沈まりかえり、集中して陛下の詠唱を聞いている。


 それは、異様な空間だった。

 60万のもの人間が身じろぎ一つせず、一人の人間の詠唱を聞き続けている。

 恐ろしい程に静かだ。その中を虚無のルーンを響きだけが流れていく。


 そして、詠唱が完成した。


 現われたのは光り輝く巨大な門。

 確かに光ってはいるが、目を焼くような眩しさは無い。

 高さは50メイル近くあり、幅は500メイルもあろうか。


 そしてそこに、大量の影が飛んでいく。


 それらは鏡を抱えた飛行用ガーゴイル、“スプリガン”と“ガエブルグ”だ。

 総数3000ものガーゴイルが、その巨大な『ゲート』を取り巻いていく。

 そして、それらは連携し、一斉に鏡を起動させる。


 あれは、俺が各地の移動に使う『ゲート』を固定している鏡と同じもの。

 それをガーゴイルに持たせ、神の頭脳“ミョズニト二ルン”の力によって一斉に起動させたのだ。


 いかに陛下とはいえ、あれだけ巨大な『ゲート』では数分が限界だろう。

 だが、それをミョズニト二ルンが補完することで、1時間近く維持することが可能となる。


 これが、ガリアの虚無の担い手と、その使い魔の力。

 担い手と使い魔の力が完全に融合した時、これほどの現象を可能にする。


 『ゲート』が開く先はカルカソンヌ北方10リーグ。60万の大軍が一気に敵の前に出現することになる。

 これほどの大軍が隊列を整えるにはそれなりの時間と距離が必要なので、この位置となったわけだ。



 『皆の者、あの門を超えた先はカルカソンヌである。そこにはガリアの民を殺し尽す狂気の軍隊が展開している。そして、ガリアの民を狂信者に売った売国奴もそこにいる』

 陛下の声が静かに響き渡る。


 『だが、あの門をくぐるかどうかは自分の意思で判断せよ。あの門をくぐれば戦いは避けられん。死ぬ危険性もある。戦うのは軍人の役割だ、ここにいる6万の兵士だけでも侵略者を撃ち滅ぼすのは不可能ではない』


 熱狂は冷めている。義勇軍は今、考えている。自分がどうするべきかを。


 『進めとは言わん。退けとも言わん。自分の意思で決めるのだ。ここで進まずともとがめはせん。本来諸君らの役割はガリアという国家そのものを支えることにある。田畑を耕し、家を建て、魚を獲り、商品を売ること、それらも国を支えることなのだから』


 義勇軍は自分の意思で決める。戦うか、退くか。

 軍人が戦うのは当然。彼らはそのために王政府に仕え、特権をもっているのだから。


 故に、民衆が自らの意思でどう選択するか、それこそが重要になる。


 んだけど。



 「一番乗りりりりりいいいいいいいいいいいいいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!」

と叫びながら『ゲート』に向かって爆走する馬鹿が一人。




 ………………アドルフだった。



 「あの馬鹿! 軍人が行っても意味無いだろ!」


 ≪いや、事前に説明しておかなかった主殿が悪い、あれの気質を考えればこれは当然だ≫


 「う、確かに…………」

 アドルフには釘を刺しておくべきだったか。


 が、馬鹿は一人だけじゃなかった。


 「師団長に続けえええええええええええ!!」

 「遅れをとるなあああああああああああ!!」

 「進めえええええええええええええええ!!」

 と叫びながら同じく突っ込む馬鹿達。

 間違いなくアドルフの直属隊だ。


 つーか、未だに師団長って呼ばれてるのか、一応副司令官のはずなんだが。


 だが。


 「俺達も行こうぜ! 軍人の人達が俺達の為に戦ってくれてるんだ! ここで手伝わないでいつ手伝うんだ!」

 「そうだな、俺達じゃ大したことは出来ねえが、何か出来るはずだ!」

 「これまで守ってくれてた人達に恩を返そう!」

 「行こうぜ!」

 「おお!」


 特に若くて元気そうな連中が『ゲート』に向かって駆けだした。


 「若者に後れをとるな! 死ぬんだったら年配の役目だ!」

 「そうだ! あいつらには新しい時代を生きてもらわないとな!」

 「よーし! 行こう!」


 それに続いて、やや年齢が高い中年連中も続く。


 後は、言うまでも無い、全員が『ゲート』に向かって駆けだした。



 「ま、結果オーライかな?」


 ≪相変わらず詰めが甘いな、主殿は。そして、その後始末の為に、過労死寸前まで駆け回ることとなる≫


 「やかましいわ」

 全部当たってるだけに悔しい。














■■■   side: シェフィールド   ■■■


 私が目を覚ますと、陛下に抱き止められていた。


 「御苦労だったな、ミューズ、お前のおかげで全軍は『ゲート』を通過したぞ」

 それは、私にとってこの上ない言葉だった。

 この方に必要とされること、この方の唯一無二の存在となることこそが、私の願いなのだから。


 「私は、気絶してしまったのですね」


 「ああ、『ゲート』の維持時間が50分を超えたあたりでな、その頃には、数万を残すのみとなっていたが」

 あの巨大『ゲート』を維持するには私と陛下、両方の力が不可欠だった。

 陛下が『ゲート』を作り出し、私のガーゴイルがそれを留める。

 だけど、そこで私が力尽きてしまったということは。


 「陛下、御無理をなさったのですか?」

 陛下に相当の負担がかかったということになってしまう。


 「まあ、流石の俺もいささかきつかったな、この後はしばらく休ませてもらおう。だが、妻が倒れるまで働いていたのだ、夫が根性を見せんわけにもいくまい」


 「!?」

 顔が真っ赤になるのが分かる。

 面と向って妻と呼ばれたのは、初めてではないだろうか。


 「それに、負けず劣らずの無理をした馬鹿もいる」

 無理と言えばあいつね。


 「ハインツですね」


 「ああ、お前が作った“解析操作系”のルーンと同等の威力を発揮する魔法装置があっただろう」


 「はい、私がヨルムンガントを制御する際に用いていたものです。あれならば、それ以外の人間でもヨルムンガントを制御することが可能ですが」

 今回の作戦では私が『ゲート』を維持するだけで限界となることが分かっていたので、ヨルムンガントの制御はハインツが受け持つこととなっていた。

 “反射”こそ発揮できるものの、ヨルムンガントの持ち味である、複雑で素早い動きはおそらく不可能。踏み潰す、握りつぶすといった単純な動作が限界になる。

 つまりは、“反射”付きゴーレムとなる。


 「あれをな、鏡を持つガーゴイル達に向けて使ったのだ。あいつは、残りの数分間をな。そして、なおも最後にはヨルムンガントを動かし、『ゲート』をくぐって行った。俺が一人で維持していたのはヨルムンガントが通過する間だけだ」


 「なんという無茶をするのですか…………」

 もはや自殺願望があるとしか思えない。


 「俺も、無茶をするということに関してはあいつに敵わん。流石は“輝く闇”といったところか。っと」

 一瞬、陛下の身体がふらつく。


 「陛下!」


 「問題ない、ふう、流石にきついようだな」

 そして、陛下は座り込む。


 辺りはとても静か、66万もの人間がいなくなったのだから当然ではあるけれど。


 「すぐにイザベラが来るだろう。カルカソンヌには、あいつも共に行くこととなっているからな」

 あの方もかなり無理をなされているはず、まあ、ハインツ程ではないにしろ。


 「それでな、ミューズ、一つ頼みたいことがあるのだ。かわいい娘のために、一度くらいは父親らしいプレゼントでも贈ろうと思ってな。そこで、お前の力を借りたいのだ」


 「はい、何でございましょう」

 私は陛下に必要とされる喜びを噛みしめながら、陛下の“頼み”を聞いていた。
 



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