第四十二話 後編 王の名の下の戦争■■■ side:ギーシュ ■■■ 「ふう、“聖戦”かあ、やれやれだな、よくまあロマリアもこんな真似する気になるなあ」 これは僕。 「というか、『虎街道に潜む敵部隊を殲滅せよ』だもんね、随分と簡単に言うよ」 これはマリコルヌ。 「だけど、全部ルイズの予想通り、そっちのほうが驚きだよ僕は」 これはレイナール。 「そのルイズは今や“アクイレイアの聖女”か、我等を奴隷とし、こき使う魔女殿とは思えないな」 これはギムリ。 「そうね、その通りだわ」 これはルイズ、って。 「ルイズ! 何で君がここにいるんだ!? 先頭を歩いている筈じゃ!」 「“スキルニル”に任せて逃げてきたわ、だってまわりは聖堂騎士ばっかり。息が詰まって仕方ないもの」 悪びれもせず言うルイズ。うん、巫女の格好が驚くほど似会わない。 いや、容姿的にはこの上ない程いいのだが、全身から発せられる”こんな服今すぐ脱ぎ捨てたい”的なオーラが問題だ。 「あんた達の任務は『“アクイレイアの聖女”の詠唱を援護せよ』でしょ、だったら私がここにいて問題ないわ」 「いや、確かにそうだけど、あの例のカルロが率いるアリエステ修道会付き聖堂騎士隊や、その後ろの連隊も君の護衛だろう。問題があると思うんだが」 ルイズの『異端魔法』で完全な恥をかいた連中は、テファの『忘却』でその記憶は消されてる。 そうじゃなきゃ流石に“アクイレイアの聖女”の護衛なんて出来たもんじゃないだろう。 「問題ないわ、聖堂騎士団が何人死のうがどうでもいいことよ、彼らにとっては“聖戦”で死ぬことは祝福だそうだから。その意思を尊重してあげましょう」 魔女の笑みを浮かべるルイズ。こんなのが“聖女”とは、世も末だ。 「いや、しかし、流石に良心が痛むんだけど」 マリコルヌもそう言う。 「そう、だったら実際に見てみるといいわ。私はちょっと隠れるから、適当に話を合わせなさい」 そしてルイズが身を隠し、先頭にいた偽ルイズがこっちにくる。 「なんとも名誉なことだわ。あんたたちもそう思うでしょ?」 うーん、違和感の塊だ。 「名誉。名誉。ああ、名誉なことだね。なにせ“聖戦”まで発動されたからね」 言われた通り、適当に話を合わせる。 「そうよ! ああ、何て素晴らしいのかしら! 私達、聖なる国の、聖なる代表なのよ。驕り高ぶる異端共やエルフに、思い知らせてあげようじゃない」 ガリアの国内の感じじゃあ、驕り高ぶってるのはどう考えても聖堂騎士団の方だよなあ。少なくともガリアの保安隊は民衆から好かれていたし、期待されていた。 八百屋の店主と談笑しながら、『この地区は俺が守るぜ、任せな』と言えば、『不安があり過ぎるな、隊長さんに相談しよう』なんて返す感じだったし。 個人差は結構あるみたいだけど、保安官は民衆を守るために存在し、民衆もそんな保安官に依存するんじゃなくて、一緒に自分達の生活を守っていこうって感じだった。 特に、その上に存在する三花壇騎士団の団長達は民衆に好かれていた。 東薔薇花壇騎士団団長のバッソ・カステルモール。 南薔薇花壇騎士団団長のヴァルター・ゲルリッツ。 西百合花壇騎士団団長のディルク・アヒレス。 この3人はリュティスだけじゃなくて、あちこちの都市で有名だった。ガリアの民の為に戦う者達として尊敬されていた。 「風のスクウェア」のカステルモール団長は風竜、グリフォン、マンティコア、ヒポグリフを駆る部下を率いてガリア中を飛び回り。 「火のスクウェア」のゲルリッツ団長は、かの火竜騎士団を率いて、盗賊団が出たと聞けばそれを瞬く間に駆逐し。 「土のスクウェア」のアヒレス団長は、自分の足で都市のあちこちを見回り、最も親しみがある騎士として知られている。 全部を“ガリアの異端”としたら、彼らとも戦うことになるんだろう。 ハインツ曰く、『この保安隊もいつかは腐る。民衆に尊大な態度であたり、権力をかさに横暴を働く時がいつかは来る。だが、その日を出来る限り来ないようにするために、為政者は努力するんだ』らしいけど、今のガリアはそういった腐敗とは無縁みたいだ。 「随分と呑気だね」 これはマリコルヌ。 「何よ。浮かない顔ね」 「今どき、“聖戦”なんて発動されて喜ぶのは、神官どもに聖堂騎士くらいのもんさ。神と始祖ブリミルのためと言えば聞こえはいいが、聖地を取り返すまでは終わらない。まったく、一銭の得にもなりゃしないよ。僕達の先祖がどれだけ“聖戦”で、命や有り金をすったか教えてやろうか」 マリコルヌがそのまま続ける。 だけど、ルイズ相手にこういうことを言うのは、もの凄く違和感がある。マリコルヌの顔にも当惑した感じがある。 「なによなによ! 怖気づいたの? あんたたち、それでもトリステイン貴族なの!? ここで手柄を上げて、女王陛下と教皇聖下の御覚えをめでたくしようと思わないの?」 生き残ることを最優先にする『ルイズ隊』の指揮官とは思えない言葉だ。 「全滅したら、誰が僕達の名誉を保障してくれるんだい?」 そこに件のカルロが登場。 「神が保障して下さる。神は全ての行いを見ておられるのだよ。“聖戦”で死ねば、その魂はヴァルハラに送られる。そこで神の軍列に叙されるのだ。これ以上の名誉があるかい?」 どうやら本気で言ってる模様。正気を疑うが、聖堂騎士ってのはそういうものなんだろう。 「カルロ殿のおっしゃる通りだわ。私達はここで死すとも護国の神となりて、天上から聖なる戦を見守るのよ。いつしか、“聖地”を取り返すの日の為に………」 「素晴らしい説教です。聖女殿」 狂信者か、まさにそのまんまだな。 「で、その偉大な聖女殿のご出陣なのに、教皇聖下はのんびり観戦かい? こないだは先頭に立って敵を粉砕するとかなんとか騒いでおられなかったか?」 ギムリがそう言う。すると、カルロと偽ルイズに杖を突き付けられる。 「不敬だぞ!」 「不敬よ!」 「そんなもんかね?」 悪びれないギムリ。うん、水精霊騎士隊はこんなのばっかりだ。 「聖下がその御身を危険にさらせるわけないじゃない! 聖下さえご健在なら、ハルケギニアは何度でも蘇る! そう、例えエルフに焼き尽くされてもね」 そんなことを言いながらまた先頭に向かう二人。 「どうだった? あれが聖堂騎士と“聖女様”よ」 隠れていた本物のルイズが姿を現す。 「うん、実にイカれてるな」 率直な感想を言う僕。 「確かに、弾よけにした方が良さそうだね」 マリコルヌも続く。 「ついでに身代りにもな、ヴァルハラに送られるんだからどんな死に方でも文句はないだろ」 ギムリも頷く。 「最初は民衆を操る為に作った宗教なんでしょうけど、嘘も数千年続けば本人達が一番信じる始末。元々の目的も褒められたものじゃないけど、それ以下があるんだから凄いものよ」 流石は“魔女”、言うことに容赦がない。 「ま、僕達は僕達のやり方で戦おう。皆、我等がモットーは!」 「「「「「「「「「「 『名誉を捨てろ、命の為に。 命を懸けろ、仲間の為に』!! 」」」」」」」」」」 全員が一斉に叫ぶ。 聖堂騎士におもいっきり喧嘩売ってるモットーだが、構いやしない。 「私達はそれでいいわ。無駄死には馬鹿がすることよ。生きて祖国に帰ることを第一にしなさい。そして、それ以前に、アクイレイアではティファニアがおいしい晩御飯を作って待ってるわ。そこに帰るのよ!」 「「「「「「「「「「 おおーー! 」」」」」」」」」」 これまた全員が賛同する。テファの料理はとてもおいしいのだ。 「そしてさらに! 今回の戦いで活躍が著しかった者には特大の恩賞を与えるわ!!」 「「「「「「「「「「 おおおおーー!!! 」」」」」」」」」」 さらにボルテージが上がる。 「その恩賞とは! ティファニアの胸にある魔法兵器を一度だけ思いっきり揉みしだいていい権利!! この私が確約するわ!!」 「「「「「「「「「「 うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオーーーーーー!!!!! 」」」」」」」」」」 聖堂騎士よりも凄まじい雄たけびを上げる隊員達。 うん、神の信仰に勝るのは、純粋なる欲望なんだね。 「我等がヴァルハラはそこにあるわ! さあ、楽園の探究者達よ! 今こそその真価を発揮しなさい!!」 「「「「「「「「「「 了解!! 司令官殿!! 」」」」」」」」」」 そして号礼が下された。 しかし、僕とマリコルヌだけは落ち着いている。なぜなら、ヴァルハラを守るあの大魔神を知っているから。 「なあルイズ、どうするんだ? 死んじゃうよ彼ら」 敵はあの大魔神、敵うわけがない。 「平気よ、ティファニアの魔法は『忘却』なんだから」 しれっというルイズ。うん、悪魔だ。 「“博識”と言いなさい。部下の士気を上げるために最善を尽くすのは司令官の務めよ」 「何で心が読めるのかね?」 不思議だがルイズなら出来そうだ。 「例のトンネルは出来てるんでしょ」 いきなり話題が変わる。 「ああ、僕とマリコルヌとモンモランシーで二日かけて作ったからね」 皆がアクイレイアに着く前から僕達はロマリアを密かに出発して、予想される主戦場にトンネルを作っておいた。 「流石ね、教皇は貴方達を舐め過ぎよ。虚無とガンダールヴ関連には最大の注意を払っていたけど、あいにく、『ルイズ隊』に虚無に頼るだけの無能はいやしないわ」 「実に嬉しいことを言ってくれるね」 「やった甲斐があったな」 マリコルヌも同意してくれる。 「残りの5人は別に動いてるわ。今回は彼らが切り札で私達は囮。しっかりやるわよ」 「任せたまえ、囮は僕らの専門さ」 「そうそう、そこだけは譲れないね」 そうして、虎街道の入り口に到着する。 敵勢は未だに峡谷の中にいるらしく、ロマリア軍が入り口を包囲している。 「敵はゴーレムらしき全長25メイルほどの甲冑人形共です。全てで10体程ですが、どうにもならない程強力でして。先遣隊は悉く全滅、詳しい状況を知るために斥候隊を出してはおりますが………」 次の瞬間、“虎街道”の入り口から凄まじい轟音が連続して響く。おそらく榴弾が炸裂したんだろう。 「全滅のようです」 そして、ルイズ(偽)が先頭に立つ。 「誰か、私の前まで敵を引っ張ってきてちょうだい。一撃で片をつけるわ」 すると、さっきのカルロが顎で示す。 「僕達に、ここに飛び込めっていうのかい?」 「当たり前だ。我々は聖女殿を守らねばならん。君達では不可能な任務だ。だから可能な仕事を与えてやろうというのだ。感謝したまえ」 その瞬間、全員が杖を抜く。 「貴族に“死ね”というときは、それなりの作法があるんだぜ、糞坊主」 ギムリが殺気を出して言う。 「ちょっと、仲間割れをしてる場合じゃないでしょ!」 ルイズ(偽)が叫ぶ。 「諸君、杖を引っこめよう。ここで争ってても何にもならない」 「わかったら早くいきたまえ」 だけど、むかつく野郎には一言残しておかなければ。 「任務に赴く前に、正直なところを言ってもよろしいか」 「聞いてやろう」 「でははっきりと申し上げるが、僕は君達のやり方が気に入らない。そりゃ僕達はブリミル教徒だ。ハルケギニアの貴族だ。教皇聖下が聖戦とおっしゃるならば、従うしかないさ。だけど、僕はアルビオンで多少だが地獄を見てきた。威勢のいいことばかり叫ぶ連中は、いざという時にはからっきしだった。最後まで残って戦ってたのは火事場泥棒の不良軍人だった。だから、いまいち君達にはついていけないのさ。なんというのかな、そういうのは芝居の中だけにしておいてくれ」 「結構!」 顔を真っ赤にしてるね、度量が狭いことだ。 「よーし、皆、前進!」 そして僕達は虎街道に飛び込む。 中にはあのヨルムンガントが10体もいるという。 だけど僕達は生き残る。それに特化したのが我等『水精霊騎士隊』だから。■■■ side:マリコルヌ ■■■ 虎街道に入った僕達は堂々と前進する。 僕達はたったの22人だから隠れる必要はない。敵は小部隊には目もくれないだろう。 「いたな、さて、どうやってひきつけようか?」 ギーシュが考え込む。 「しかし、凄いな、あのゴーレム。跳んで戦艦を叩き落としやがった」 向こうには例のヨルムンガントが10体程見える。見つけるのは簡単だった。何しろ二体が手を合わせてもう一体がそこに乗り、ジャンプして空中のロマリアの戦艦を掴んで叩き落としたところだった。 あっという間に戦艦をバラバラにして、大砲や火薬を根こそぎ奪っているのだから、とんでもない性能だ。 「船から「風石」を取り出して食べてる。やっぱルイズの予想通り、「風石」を動力にしてたんだな」 「なあギーシュ、あれには魔法もなにも効かないんだろう?」 この中であれとの戦闘経験があるのはギーシュだけ、その情報は貴重だ。 「そう、あれにはエルフの“反射”がかかってる。どんな攻撃も弾き返してしまうんだ。通用したのはルイズの“虚無”だけさ」 「ってことは、俺達が魔法をぶっ放しても、こっちに注意を向けてくれるかね?」 ギムリが疑問を投げる。 「どう思うレイナール?」 ギーシュが隊長として、ルイズの副官役を務めるレイナールに問う。 「どうも何も、とりあえず出来る限りの魔法をぶっ放して、後は『フライ』で逃げまくる。こっちに来てくれればお慰み。そんなとこしかないんじゃないか?」 「まあ、そうか」 しかし、そこで僕の出番となる。 「皆、安心しろ。我等が司令官殿はそのために僕に秘策を授けてくれた。敵を100%誘導出来る秘策をだ」 僕は胸を張って告げる。 「本当か!」 「そりゃすげえ!」 周りから驚きの声が上がる。 「流石はルイズだな、マリコルヌ、それでいってくれ」 「了解」 隊長の指示に応え。僕は秘策を開放する。 風系統の『拡声』を使い、峡谷内に声を響かせる。 「おーーい! ガリアの年増淫乱女が! 少しは自分の年を考えて自重しやがれ! 自分より若い愛人が旦那様の近くにはびこって不安なのも分かるけどな! 諦めが肝心なんだよこの野腐れ売女! 手前みたいのは場末の酒場で●●野郎に●●して●●してやがれ!! この●●持ちの●●崩れの●●●●め! お前みたいな●●●●がここにいること自体が間違い何だよ●●●●!!」 これは全てルイズから教えられた内容だ。 間違っても“アクイレイアの聖女”が口にする言葉じゃないと思う。 結果、砲弾が一斉に飛んできた。 「風魔法!!」 僕と風メイジ7名が一斉に『エア・シールド』を張って、飛んでくる弾をそらす。 「効果抜群だな! 全部こっちに来たぞ!」 「つーか言い過ぎだろあれは! 敵さんものすげえ怒ってるぜ!」 「なんかもの凄い速度で走ってる! 下手すりゃ追いつかれるぞ!」 僕達はわめきながら『フライ』で逃げまくる。 「はっはっは! 相変わらずルイズはやることが過激だなあ!」 その中で笑ってるギーシュ、うん、大物だよなあ。 「確かにそうだね、実に面白いや!」 僕も僕でテンションが高まってる。 「おわああああああああああああ!!」 敵が葡萄弾を撃って来た。小さな弾を何発も吐き出す散弾の一種だ。 「大丈夫か!」 「あたってない! でもやばかった!」 「流石、アルビオンの艦隊戦を生き抜いたのは伊達じゃないね」 「悪運強いよなあ、僕ら」 そんなこんなで逃げ続けるが、ギーシュは肩に散弾を一発喰らった。 「平気か? ギーシュ」 「問題ない。諸君! このまま飛ぶぞ! あの光に向かって飛べ!」 向こうには虎街道の出口が見える。僕とギーシュはやや速度を緩め、殿を受け持つ。 しかし、ヨルムンガントは徐々に距離を縮めてきてる。 「このままじゃ追いつかれるな、マリコルヌ! やるぞ!」 「了解!」 僕達はモンモランシーの新薬を大量に投下する。 早い話が煙幕で、なんの効果も無い普通の煙だが、吹き出る煙の量は半端じゃない。 ヨルムンガントは大量の煙幕に包まれ、一時的にだが進軍が止まる。 「今のうちだ! 駆け抜けるぞ!」 「応!」 殿だった僕達も当然煙幕の中にいる。これはあらゆる方向に凄まじい速度で広がる煙だから仕方ない。だけど空中で展開したので地上にはまだ煙はきてないし、そもそも煙だから下にはあんまりいかない。全長25メイルもあるヨルムンガントは視界を奪われるが、2メイルもない僕達はそれの影響を受けずに行ける。 だが。 「やっぱ最後に頼りになるのは自分の足だねえ!」 「地獄のマラソン開始だ!」 飛んでも周りが見えなくて危険だから走ることになる。低空飛行は精神力の消耗が激しいのだ。 「走れマリコルヌ、豚の意地を見せろ!」 「喧嘩売ってんだね君は!」 悪態をつきながらひたすら走る。 まあ、精神力を温存するって意味もあるんだけど。 そして5分くらい走り続け。 「ルイズゥウウウウウウウウウウ! 来たぞぉおおおおおおおおおおお!」 「栄光のゴールは今ここに!」 僕達はゴールにたどり着く。 既にヨルムンガントは後方100メイル近くまで近づいている。全長25メイルの巨人の歩幅を考えれば一瞬の距離だ。人間で考えれば8メイルくらいなんだから。 「『爆発(エクスプロージョン)!!』」 先頭にいた二体がルイズの『爆発』に包まれる。 「やったか?」 あのカルロって野郎もいた。 だけど、ヨルムンガントは無傷で立っていた。 「くたばりなさい!! 青臭い小娘が!!」 大魔神もかくやという怨念めいた声がヨルムンガントから発せられ、砲弾がルイズに叩き込まれる。 粉々に吹っ飛ぶルイズ(のスキルニル)。 やっぱあの言葉は言いすぎだったみたいだ。 「甘いわねミョズニト二ルン、それはスキルニルよ」 本物が爆炎を小規模な『爆発』で吹き飛ばして現れる。 その姿は“アクイレイアの聖女”というよりも、“アクイレイアの戦乙女”と言った方がしっくりくるなあ。 「お久しぶりねえ、トリステインの“虚無”。こうしてお会いできる時を楽しみにしてたわ。つい十分程前からねえ」 どうやら、さっきの言葉はルイズの発案だということに気付いてるみたい。 「残念ねえ、前回と違って装甲の内部や骨格系にも“反射”の“焼き入れ”を施してあるのよ。その強度はガルガンチュアとは比較にならない、表面の“反射”は“虚無”で消し飛ばせても下の装甲はどうにもならないのよ」 「うわぁああああああああああああ!」 カルロが逃げた。口ほどにもないなあいつ。 隊長が逃げたから周りの聖堂騎士も遁走する。ルイズの周りにいるのは僕とギーシュだけ。 「総員! ルイズを援護しろ!」 あちこちの穴から水精霊騎士隊の隊員が顔を出して魔法を飛ばす。強力な相手には、変幻自在のゲリラ戦こそが有効。 だから前もってここを主戦場にするためにトンネルを掘っておいたんだから。 誰かが戦いだせば、それに呼応するのが軍隊というもの。周囲のロマリア軍も一斉に射撃を開始して、数十発の砲弾がヨルムンガントに叩き込まれる。 だけど、無傷。 僕とギーシュは砲弾の欠片からルイズを守るのに専念する。ルイズは既に本命の詠唱を開始している。 あちこちから魔法がとぶ。しかし、氷の矢も、風の刃も、火球も、電撃の光も、ヨルムンガントには何の効果も無い。 「うわあああああああああああああああ! 化け物だあああああああああああああああ」 まずは兵が逃げて、それを止めるべき騎士や士官も逃げ出していく。 「やれやれ、根性ないねえ。アルビオンでの連合軍もそうだったけど、威勢がいいことを言うやつから真っ先に逃げていくなあ」 ギーシュが呆れてる。 「まったくもってその通り、神の為に死を恐れず戦う神の戦士が聞いて呆れる。あんなんじゃあヴァルハラにはいけないなあ。神様から門前払いをくらうよ」 今残ってるのは僕達と、トンネルでゲリラ戦を展開する水精霊騎士隊の隊員達だけ。あとは全員逃げた。 「さあて、“博識”。随分と面白い挨拶をしてくれたわよねえ」 ヨルムンガントから女性の声が響く、どうやら虫を蹴散らしたことで、少しは気が晴れたみたいだな。 「あら、図星だったかしらこの淫売。もう結構な年なのは間違いないでしょ?アルビオンで最初に会った時に、“歳くったおばさん”って言葉に敏感に反応してたものねえ、この●●」 ルイズ、頼むから“聖女”の格好でそういう言葉を言わないでくれ、歴代の“聖女”の人達にもの凄い申し訳ない気持ちになってくる。 「ま、『爆発』が効かないのは想定済みよ。まさか、前回あっさりとやられた弱点を抱えたままくるわけないしね。もしそのまま来てたら逆に尊敬するわよ、私」 「お褒めにあずかり光栄ねえ、だけど、前の言葉はどういう意味かしら?」 声にまた怒りが宿る。うん、女って怖い。 「言葉通りよ、この●●。あんたみたいなあばずれじゃあ私には勝てないってことよ。何せこっちは清らかなる処女(おとめ)なんだから。“アクイレイアの聖女”と、腐れ●●●の●●●●じゃあ勝負にならないでしょ?」 いや、そういう意味じゃあないと思うんだけど。 そういえば、『ルイズ隊』の処女ってもうルイズだけか。 キュルケは学院に来る前からああだし、モンモランシーもギーシュと二、三回やってるそうだし、この度めでたく、タバサとサイトも卒業したらしいし。 やれやれ、童貞は僕だけか。寂しいもんだなあ。 ルイズも男に関しては処女のはずだけど、もう一つの方面の噂が広がってるし。なにせ、ルイズが纏うことを許されてるマントには、トリステイン王家の紋章が刻まれてるけど、“百合”なんだよなあ。 「そう、踏み潰されたいようね小娘」 「おあいにく様、やれるもんならやってみなさい!」 ルイズが既に長期間の詠唱を終えて開放するだけだった魔法を解き放つ! 「『幻影(イリュージョン)』!!」 そして、『聖女隊』が降臨する。■■■ side:モンモランシー ■■■ 「やれやれ、前代未聞の光景ね」 私は“長槍”の内部で呟く。 今いるのは私、サイト、タバサ、キュルケ、コルベール先生。 サイトは砲撃手、コルベール先生は操縦士、タバサはシルフィードと視界を共有して、3次元的に敵との距離を測る索敵役。 私とキュルケで砲弾を込めたり、その他もろもろを担当している。 もともとこの“長槍”は複数の人数がいないと動かせない代物だそうだから、人数的にはちょうどよかった。 熟練なら4人でもいいそうだけど、私達は素人だしね。 「いやー、ありえねえな、数百人の“聖女”かよ。しかもどんどん増えてるし」 サイトも呆れてる。 あれが今回のルイズの切り札、『聖女隊』。 『幻影』で自分の分身を大量に作り出し、敵も味方も含めた広範囲の人間の脳に情報を叩き込む。 結果、ヨルムンガントの周りには鼠のように“聖女”が纏わりつくのよね。 「夢に出てきそうな光景ね、蟻の穴から“聖女”がわらわら出てくるんだから」 キュルケですら呆れてる。 ギーシュ、私、マリコルヌで掘ったトンネルは20を超える出入り口があり、そこから“聖女”が次々に湧き出してきてる。 まさに蟻の如く。 穴の中を覗けば“聖女”がぎっしり詰まってるはず。 もっとも、ヨルムンガントと人間のスケールだと鼠でしょうけど。 「だがまあ、これでミス・ヴァリエールは心配ない。彼女を潰すには敵も全てを動員しなければならないだろう」 「殲滅の好機」 この作戦は『潰せるものなら潰してみろ』が基本。 二体じゃあ潰す数より増える数の方が多いから、残りを動員するしかない。 そしてそこを、この“長槍”で叩き潰す。 「よーし、やったろうぜ、皆」 そして、サイトが一発目をぶち込む。■■■ side:シェフィールド ■■■ 「やれやれ、見事なものね」 相変わらず予想もしない手段をとってくる。正直、相手にしてて飽きないから、何度でも戦ってみたくなるわね。 だけど、油断すればあっさりとやられる。それほど“博識”は厄介な敵になっている。 「それに、聖戦の旗印にもなってるわね」 ヨルムンガントは広域の聴覚探知を行える。そして、敵の会話と思われる部分だけを拾うことが出来る。 『援軍感謝、あの悪魔のような甲冑人形を破るとは………貴官の所属を述べられたし!』 『トリステイン王国、水精霊騎士隊!』 『了解! お頼み申す! 旗が無くては士気に関わる! これを掲げられよ!』 そして、聖戦旗が“長槍”に掲げられる。その隣には『ルパン三世参上』って書かれてるそうだけど。 『教皇聖下万歳! 連合皇国万歳!』 『諸君! 注目! 我等が聖戦に、トリステイン王国より強力な援軍だ! 憶するな! 始祖の加護は我等にあり』 「さて、これで私の戦略目標は達成できた。残りのヨルムンガントは6体。どうせだから、もう一つ試練を与えてみましょうか」 私はヨルムンガントに指示を出す。 「どう乗り切るかしらね?」■■■ side:才人 ■■■ 「サイト、敵が飛んでる!」 「何だって!」 シャルロットからの報告はとんでもなかった。 俺は照準器で確認するが、確かに飛んでる。しかも速い。 「多分、体内の「風石」を砕いて風の力を一気に開放している。焼き討ち船もそういう手段で特攻する」 「片道覚悟の玉砕戦法ってわけか、となると、敵の狙いは……」 一個しかねえな。 「ヨルムンガントを質量兵器として落とすつもり。この“長槍”といえどあの質量が空から降ってきたらひとたまりもない」 「だろうな、コルベール先生、後退してください。敵が寄ってくる前に全部撃ち落とします」 「了解だ」 「キュルケ、モンモランシー、装填のペースを上げてくれ、撃ちまくる」 「任せて」 「了解よ」 そして、後退しながら撃っていくが、あと二体になったところでかなり近くにまで接近された。 「まずい、サイト」 何とかもう一体は撃ち落としたが、残り一体に頭上の死角に入られた。 「皆、脱出しよう。一体くらいならなんとかなる」 ここでこだわっていても仕方ねえ。 だけど。 風竜が現れてヨルムンガントを射程内に放り投げる。 「あれは、ジュリオの風竜か?」 とんでもねえ力だ。 「ヴィンダールヴの力で強化されてる。その上、今のヨルムンガントは限界まで『レビテーション』で軽量化されている。だからこそだと思う」 「なるほどな、そうでもなきゃ無理か」 そして、「風石」が尽きて落下したヨルムンガントに止めをぶち込む。 そして、ヨルムンガントは全滅。俺達はルイズ、ギーシュ、マリコルヌと合流する。 「見事だったよサイト、流石副隊長」 「ああ、かっこよかったぜ」 ギーシュとマリコルヌが祝ってくれるが、ルイズは沈黙してる。 「どうしたルイズ?」 「ちょっと気になることがあるの、あんたらも警戒は緩めないでおきなさい」 ルイズの表情は険しい。 「見よ! 驕り高ぶるガリアの異端共は殲滅したぞ! 始祖の加護は我にあり!」 この前ルイズにやられてた奴が呑気に叫んではいるが。 「あいつら、なんかしたっけ?」 「さあね?」 ギーシュとマリコルヌも呆れてる。 「サイト?」 シャルロットが声をかけてきた。 「ルイズがまだ警戒は解くなってよ、あいつが言うんだから間違いねえだろ」 「分かった」 そして俺達はそのまま待機する。 だけど、予感がする。 俺の左腕がなんかざわめいている。 能力を発揮している状態のヴィンダールヴやミョズニト二ルンに会った時にも、似たような感じがしたが、それとはケタ違いのざわめきだ。 「一体、何が始まるってんだ?」 俺は周囲を警戒しながら、妙な予感を抱いていた。■■■ side:ハインツ ■■■ 「見事だな」 その一言に尽きる。 ヨルムンガントを悉く撃退し、そこに至るまでの策も完璧と言っていい。 「流石は“博識”、もはや、まともな手段では太刀打ちできんなあ」 だが、個人ではどうにもならない力もある。最終作戦ラグナロクはまさにそれだ。 「ふむ、聖戦で死んだ者はヴァルハラに召され、そこで神の軍団に加わるという。正に、オーディーンが率いる英霊達と同じ。ヴァルキュリアがいないのが欠点だが」 彼らが神の軍勢ならば。 「こっちは“ロキ”が“ヨルムンガント”と共に来たわけだ。少し役割は違うが、あの“長槍”はさしずめ、神の槍“グング二ル”といったところか」 こちらは悪魔と巨人の軍勢。正にラグナロクそのままに。 「そして、“グング二ル”では“フェンリル”には勝てん。あれを倒すには英雄が必要だ」 さあ、どうなることやら。 「さて、ヘイムダルの役割の合図を“ロキ”が送る訳か、ある意味流れ通りだな」 俺は懐からあるマジックアイテムを取り出す。 それはサイコロ、これに『錬金』をかけて振ることで、本部にある装置が作動する。 「“ギャラルホルン”よ、今こそ鳴り響け」 本部のイザベラの下にあるその装置が“ギャラルホルン”。 “百眼”の下にあるのも演出の一環だな。 俺がこのサイコロを振ることで、イザベラは“ギャラルホルン”を吹き鳴らす。 まさしく、いつでも“ロキ”を見張る“ヘイムダル”の如く。 「賽は投げられた」 さあ、ラグナロクの始まりだ。■■■ side:ジョゼフ ■■■ ギャラルホルンの角笛が高々とヴェルサルテイルに響き渡る。 それはすなわち、ガリアが第一級厳戒態勢に入ったことを意味する。 本来ならば大臣が集まり、情報を整理し、協議を重ねた末に戦時体制というものはとられ、その脅威の度合いによって警戒レベルは決定される。 しかし、これだけは例外。 これの発動が可能なのは王か、その代理人たる王太子。現在の状況ならばイザベラがそれにあたる。 そして、それらがいないか、動けないときは、王族を除いた王位継承権の中で最上位の者がそれを代行する権限を持つ。すなわち、ハインツ・ギュスター・ヴァランス。 今回の動員は王位継承権第一位と第二位の連名によるもの、一度これが発動された以上。何人足りとも異論は許されず、王の下に集う。 既に、王政府に仕えるものは悉くヴェルサルテイルに向かっている。そして、武官の代表、文官の代表は皆、玉座の間に集う。 文官の頂点である九大卿。 エクトール・ビアンシォッティ内務卿。 ニコラ・ジェディオン法務卿。 イザーク・ド・バンスラード外務卿。 ジェローム・カルコピノ財務卿。 アルマン・ド・ロアン国土卿 ヴィクトリアン・サルドゥー職務卿 アルベール・ド・ロスタン軍務卿 アルフレッド・ド・ミュッセ保安卿 ギヨーム・ボートリュー学務卿 そしてその首席補佐官達、その中にはオリヴァー・クロムウェル(クロスビル)の姿もある。 軍を現在統括する者達。 陸軍副司令官代行、アドルフ・ティエール中将。 陸軍総司令官代行、フェルディナン・レセップス中将。 空海軍総司令官、アルフォンス・ドウコウ中将。 空海軍副司令官、クロード・ストロース中将。 後方勤務本部総長、アラン・ド・ラマルティーヌ大将。 後方勤務本部副長、エミール・オジエ中将。 アルビオン戦役と、両用艦隊の反乱を経て、この者らの役職にも変化が生じている。 そして、ガリアの騎士団を統括する者達。 東薔薇花壇騎士団団長、バッソ・カステルモール。 南薔薇花壇騎士団団長、ヴァルター・ゲルリッツ。 西百合花壇騎士団団長、ディルク・アヒレス。 一応保安省に属すが、軍務省において軍籍を持つ身でもあり、半ば独立した機構として存在している。 そして、最後に玉座に間に入ってきた者達。 北花壇騎士団副団長補佐官、ヨアヒム・ブラウナー。 北花壇騎士団副団長補佐官、マルコ・シュミット。 北花壇騎士団団長補佐官、ヒルダ・アマリエット。 こいつらが自分で決めた姓を名乗ることが許されるのは、ラグナロク以降のことだが、気の早いことだ。 そして、その者らを従えて堂々と歩いてくる。 ガリア王国宰相 兼 北花壇騎士団団長、イザベラ・ド・ガリア。 ここに、ガリアの重鎮は全てが玉座の間に集結した。 ロマリアで既に戦端を開いている。ハインツ・ギュスター・ヴァランスのみを例外として。 「陛下、ハインツ・ギュスター・ヴァランス公爵より、最終作戦の発動要請がまいりました」 イザベラは臣下の礼をとり、宰相として俺に報告する。 「そうか、いよいよ時がきたか」 俺もまた王として応える。 ここに集った者達は皆戦う理由を持っている。 九大卿やその補佐官達の大半はガリアを動かす政治家であるが故に。 三騎士団長は民を守り、民を脅かす外敵を撃ち滅ぼすことを信念としているが故に。シャルルの忠臣であったカステルモールも、“ガリアの民の為”に、俺に従っている。 そして『影の騎士団』。こいつらは生粋の戦人であるが故に。時代に愛された戦場の申し子として、その本分を全うするだろう。 最も強い理由を持つ者が、マルコ、ヨアヒム、イザークの3人。 “穢れた血”として生まれ、ただそれだけで暗黒に突き落とされ、この世界の忌み子とされた者達。 マルコとヨアヒムの家はその後、“悪魔公”によって滅ぼされたが、イザークは自らの手で父とその血縁を秘密裏に皆殺しとし、バンスラード侯爵家を断絶させた。 そして、その協力を王家に依頼する代償として、外務卿として働いている。 理由は異なるが、その立ち位置はハインツ・ギュスター・ヴァランスとよく似ている。 彼らが戦うのはこの世界そのものを破壊するために、自分達のような者をこれ以上生み出させないために。 ヒルダが戦うのは主人であるイザベラの為、クロムウェルが戦うのは恩義ある友人の為。 そしてイザベラ。我が娘はガリア王家に巣食う闇を破壊するために、あの“輝く闇”と共に戦うのだろう。 皆戦う理由はそれぞれなれど、全ての者に共通点がある。 それは、王の名の下に、ガリア王の臣下として戦うということ。 「皆の者、ついに時は満ちた。最終作戦ラグナロク。発動の時である」 シャルルよ、ついにその時が来たぞ。俺達の悲願を果たす時がきた。 お前はいつも言っていたな。『僕達でこの国よくしていこう』、『この国をよくしていかなくてはならない』と。まるで、希望を胸に秘めた“イーヴァルディの勇者”のように。 自分のことしか考えることができず、虚無の闇に囚われていた俺と違い、お前は気付いていたのだろう。いや、気付かないはずがない。この国が腐っていたということを。この世界そのものが腐っていたということを。人々の暮らしは変わらず続いているというのに、肝心の土台が腐り果てていた。そしてお前はそれを変えようとしていた。 お前が王を目指したのも、元々はそのためだったはずだ。当時の俺は外界に関心がなかったからな。仮に父が早くに病死して、無難に王になっていたところで、碌な王にはならなかっただろう。お前の判断は正しかった。 だが、結局はお前も闇に飲まれ、俺と同じ場所に落ちてしまった。そして俺はお前を殺してしまった。 ならば、俺が引き継ごう。たった二人の兄弟なのだからな。幼少の頃、まだ世界を知らない子供二人が夢見た理想を、俺の手で実現させてやる。 しかし、俺はお前にはなれん。“ガリアの光”、“慈愛の君”と呼ばれたお前と違い、俺は民の為に戦うことは出来ん。そういう存在なのだ。 故に、俺は俺だけの王道を示そう。お前を殺して得た血塗られた王道だ。“虚無の王”として、俺は俺のやり方で、このガリアを良き方向へ導こう。 「これより我等は、墜ちた神世界を滅ぼす軍団(レギオン)となる。あらゆる罪も、あらゆる罰も、神ではなく己で背負うのだ。邪魔する者は悉く殺せ、罪なき民を生かしたくば、罪ある者をすべて殺せ。その判断は神ではない、俺がする。ガリアに仇なす罪人を裁くのは、神ではなくこの俺、ガリア王ジョゼフだ!」 「「「「「「「「「「 ははっ!! 」」」」」」」」」」 俺の王道は覇道ではなく、民の為の求道でもない。 トリステインの小娘やアルビオンの小僧ならば、先祖から受け継ぎし己の国と、そこに生きる民の為に戦うだろう。 ゲルマニアの皇帝ならば、民の率いる覇者として、人々の願望の象徴として君臨し、先頭に立って戦うだろう。 しかし、俺は違う。俺の進む道は他者の影響によって変わることが無い。全ては俺が考え、俺の為に俺が成す。 シャルル亡き今、俺の王道を変える存在はどこにもいない。全ては俺の意思によって成る。世界で最も傲慢なる絶対者。それが俺であり、それ故に神とは相容れぬ。 己が渇望の為に神を滅ぼす。正に悪魔というわけだ。 故に、ここに集う者は俺の臣下だが、唯一対等の立場で戦う者が存在する。 ハインツ・ギュスター・ヴァランス。 あいつもまた究極的に傲慢。世界の全てに対し、己の意思によって是非を定める。 『二柱の悪魔』とは、我が娘ながらよく表現したものだな。 「力ある者は武器をとれ! 知恵ある者は筆をとれ! 闘う意思のある者は、皆すべからく玉座の下に集うべし! 世界を滅ぼす軍団(レギオン)となり、我が分身となりて神を殺せ! ここに! 矢は放たれた!」 「「「「「「「「「「 ヴィヴラ・ガリア!! ヴィヴラ・ジョゼフ!! 」」」」」」」」」」」 さあ、いよいよ始まりだ。 英雄達の活躍は終わり、これより始まるは“恐怖劇(グランギニョル)”。 その開幕が切って落とされた。 「出陣」 ここに、ラグナロクは発動された。自らの意思で王に従い、己の戦う理由に準じて戦い、あらゆる罪悪を己で背負う、人間の戦いだ。王の名の下、神を滅ぼし世界を壊す、最終戦争が始まったのだ。---------------------------------------------------------------あとがき三章が終わり次は最終章となります。ここよりは恐怖劇となり、"輝く闇"と"虚無の王"はその本領を発揮していきます。かなり急な展開となりますが、もともとここから始まって、それに理由をつけるために書いてきたssなので、当初の予定通りでいこうと思います。それと、この話を読んでくれている方々、感想を下さる方々、ご指摘をくださる方々に、この場を借りて感謝をいたします。