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No.10059の一覧
[0] ハルケギニアの舞台劇(3章・最終章)  【完結】 [イル=ド=ガリア](2009/12/04 20:19)
[42] 第三章 史劇「虚無の使い魔」  第一話  平賀才人[イル=ド=ガリア](2009/09/06 22:55)
[43] 史劇「虚無の使い魔」  第二話  悪魔仕掛けのフーケ退治[イル=ド=ガリア](2009/09/06 22:54)
[44] 史劇「虚無の使い魔」  第三話  悪だくみ[イル=ド=ガリア](2009/09/06 22:54)
[45] 史劇「虚無の使い魔」  第四話  箱入り姫と苦労姫[イル=ド=ガリア](2009/12/07 06:59)
[46] 史劇「虚無の使い魔」  第五話  アルビオン大激務[イル=ド=ガリア](2009/12/05 23:28)
[47] 史劇「虚無の使い魔」  第六話  後始末[イル=ド=ガリア](2009/09/06 22:54)
[48] 史劇「虚無の使い魔」  第七話  外交[イル=ド=ガリア](2009/12/04 20:19)
[49] 史劇「虚無の使い魔」  第八話  幕間[イル=ド=ガリア](2009/09/06 22:54)
[50] 史劇「虚無の使い魔」  第九話  誘拐劇[イル=ド=ガリア](2009/09/06 22:54)
[51] 史劇「虚無の使い魔」  第十話  夏季休暇[イル=ド=ガリア](2009/09/06 22:54)
[52] 史劇「虚無の使い魔」  第十一話  戦略会議[イル=ド=ガリア](2009/09/06 22:54)
[53] 史劇「虚無の使い魔」  第十二話  それぞれの休暇[イル=ド=ガリア](2009/09/06 22:54)
[54] 史劇「虚無の使い魔」  第十三話  遠征へ[イル=ド=ガリア](2009/09/06 22:54)
[55] 史劇「虚無の使い魔」  第十四話  侵攻前[イル=ド=ガリア](2009/12/05 23:32)
[56] 史劇「虚無の使い魔」  第十五話  闇の残滓[イル=ド=ガリア](2009/09/06 22:53)
[57] 史劇「虚無の使い魔」  第十六話  出撃[イル=ド=ガリア](2009/12/05 23:35)
[58] 史劇「虚無の使い魔」  第十七話  軍神と博識[イル=ド=ガリア](2009/09/07 00:24)
[59] 史劇「虚無の使い魔」  第十八話  魔法学院の戦い[イル=ド=ガリア](2009/09/06 23:15)
[60] 史劇「虚無の使い魔」  第十九話  サウスゴータ攻略[イル=ド=ガリア](2009/09/06 04:56)
[61] 史劇「虚無の使い魔」  第二十話  休戦と休日[イル=ド=ガリア](2009/12/05 23:36)
[62] 史劇「虚無の使い魔」  第二十一話  降臨祭[イル=ド=ガリア](2009/09/13 01:48)
[63] 史劇「虚無の使い魔」  第二十二話  撤退戦[イル=ド=ガリア](2009/09/13 01:52)
[64] 史劇「虚無の使い魔」  第二十三話  英雄の戦い[イル=ド=ガリア](2009/12/05 23:39)
[65] 史劇「虚無の使い魔」  第二十四話  軍神の最期[イル=ド=ガリア](2009/09/15 22:19)
[66] 史劇「虚無の使い魔」  第二十五話  アルビオン戦役終結[イル=ド=ガリア](2009/12/05 23:40)
[67] 史劇「虚無の使い魔」  第二十六話  それぞれの終戦[イル=ド=ガリア](2009/12/05 23:48)
[68] 史劇「虚無の使い魔」  第二十七話  諸国会議[イル=ド=ガリア](2009/09/19 22:04)
[69] 史劇「虚無の使い魔」  第二十八話  エルフ[イル=ド=ガリア](2009/09/18 06:07)
[70] 史劇「虚無の使い魔」  第二十九話  担い手と使い魔[イル=ド=ガリア](2009/09/19 08:02)
[71] 史劇「虚無の使い魔」  第三十話  シュヴァリエ叙勲[イル=ド=ガリア](2009/09/20 10:49)
[72] 史劇「虚無の使い魔」  第三十一話  スレイプニィルの舞踏会[イル=ド=ガリア](2009/09/20 10:41)
[73] 史劇「虚無の使い魔」  第三十二話  悪魔の陰謀[イル=ド=ガリア](2009/09/20 14:37)
[74] 史劇「虚無の使い魔」  第三十三話  アーハンブラ城[イル=ド=ガリア](2009/09/21 22:50)
[75] 史劇「虚無の使い魔」  第三十四話  ガリアの家族[イル=ド=ガリア](2009/09/21 08:21)
[76] 史劇「虚無の使い魔」  第三十五話  ロマリアの教皇[イル=ド=ガリア](2009/09/21 23:06)
[77] 史劇「虚無の使い魔」  第三十六話  ヨルムンガント[イル=ド=ガリア](2009/09/22 23:13)
[78] 史劇「虚無の使い魔」  第三十七話  編入生と大魔神[イル=ド=ガリア](2009/09/22 10:47)
[79] 史劇「虚無の使い魔」  第三十八話  楽園の探求者[イル=ド=ガリア](2009/09/22 23:32)
[80] 史劇「虚無の使い魔」  第三十九話  我ら無敵のルイズ隊[イル=ド=ガリア](2009/10/21 21:23)
[81] 史劇「虚無の使い魔」  第四十話  舞台準備完了[イル=ド=ガリア](2009/09/23 22:42)
[82] 史劇「虚無の使い魔」  第四十一話  光の虚無  闇の虚無[イル=ド=ガリア](2009/09/26 04:29)
[83] 史劇「虚無の使い魔」  第四十二話 前編 神の名の下の戦争[イル=ド=ガリア](2009/09/29 20:27)
[84] 史劇「虚無の使い魔」  第四十二話 後編 王の名の下の戦争[イル=ド=ガリア](2009/10/01 21:44)
[90] 最終章 終幕 「神世界の終り」  第一話  悪魔の軍団[イル=ド=ガリア](2009/10/01 22:54)
[91] 終幕「神世界の終り」 第二話 前編 フェンリル 第4の使い魔[イル=ド=ガリア](2009/10/04 08:05)
[92] 終幕「神世界の終り」 第二話 中編 フェンリル 貪りし凶獣[イル=ド=ガリア](2009/10/04 08:06)
[93] 終幕「神世界の終り」 第二話 後編 フェンリル 怪物と英雄[イル=ド=ガリア](2009/10/07 21:03)
[94] 終幕「神世界の終り」  第三話 侵略と謀略[イル=ド=ガリア](2009/10/08 18:23)
[95] 終幕「神世界の終り」  第四話 狂信者[イル=ド=ガリア](2009/10/08 18:25)
[96] 終幕「神世界の終り」  第五話 歴史が変わる日(あとがき追加)[イル=ド=ガリア](2009/10/09 22:44)
[97] 終幕「神世界の終り」  第六話 立ち上がる者達[イル=ド=ガリア](2009/10/09 22:45)
[98] 終幕「神世界の終り」  第七話 人が神を捨てる時[イル=ド=ガリア](2009/10/20 17:21)
[99] 終幕「神世界の終り」  第八話 串刺しの丘[イル=ド=ガリア](2009/10/18 02:40)
[100] 終幕「神世界の終り」  第九話 悪魔公 地獄の具現者[イル=ド=ガリア](2009/10/20 17:26)
[101] 終幕「神世界の終り」  第十話 アクイレイアの聖女[イル=ド=ガリア](2009/10/21 21:07)
[102] 終幕「神世界の終り」  第十一話 パイを投げろ![イル=ド=ガリア](2009/10/21 21:12)
[103] 終幕「神世界の終り」  第十二話 変動する時代[イル=ド=ガリア](2009/10/21 21:16)
[104] 終幕「神世界の終り」  第十三話 終戦の大花火[イル=ド=ガリア](2009/10/21 21:16)
[105] 終幕「神世界の終り」  第十四話 新時代の担い手たち(一部改訂)[イル=ド=ガリア](2009/10/14 21:01)
[106] 終幕「神世界の終り」  第十五話 パイを投げろ!inトリスタニア[イル=ド=ガリア](2009/10/17 06:50)
[107] 終幕「神世界の終り」  第十六話 王家の終焉[イル=ド=ガリア](2009/10/18 02:17)
[109] 終幕「神世界の終り」  第十七話 前編 終幕(エクソドス)[イル=ド=ガリア](2009/10/17 06:43)
[110] 終幕「神世界の終り」  第十七話 後編 終幕(エクソドス)[イル=ド=ガリア](2009/11/15 03:19)
[111] 終幕「神世界の終り」  最終話  そして、幕は下りる[イル=ド=ガリア](2009/11/15 03:25)
[121] エピローグ[イル=ド=ガリア](2009/11/27 22:24)
[122] A last episode  ”1000 years later”[イル=ド=ガリア](2009/11/29 09:37)
[123] あとがき[イル=ド=ガリア](2009/12/02 20:49)
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[10059] 史劇「虚無の使い魔」  第三十六話  ヨルムンガント
Name: イル=ド=ガリア◆8e496d6a ID:c46f1b4b 前を表示する / 次を表示する
Date: 2009/09/22 23:13
 ロマリアの教皇がトリステインを訪問。


そして、虚無の担い手は集結を開始し、物語は最終局面へと向かい始める。


 トリステインの担い手はアルビオンの担い手を迎えるためにウェストウッド村へ向かった。








第三十六話    ヨルムンガント







■■■   side:ルイズ   ■■■


 私達は現在ロサイスに来ている。

 メンバーは私、サイト、キュルケ、タバサ、ギーシュの5人。

 というのもシルフィードで来たのでこれ以上多くは来れなかったからだ。


 ハインツから借りたワイバーンは最近ではマリコルヌ愛用になってるけど、やっぱり風竜の速度には勝てないので今回は来ていない。

 ま、今回はティファニアを迎えにいくだけだから、そんなに大人数で行っても意味がないとうこともある。


 これに先立って私はトリスタニアに呼ばれ、マザリーニ枢機卿と共に姫様と話していた。



 ≪回想≫


 「以上が、教皇聖下がおっしゃった内容です。貴方方はどう思われますか?」

 教皇が提示した話の内容を私と枢機卿に話した後。姫様はそう訊ねた。


 「私は、危険が大き過ぎると思います。確かにそれが成ればハルケギニアに平和が訪れるやもしれません。しかし、エルフが拒否した場合は何と致します? 結局は戦争となりましょう。そして“始祖の虚無”があったとしても、そもそも始祖ブリミルはエルフに勝てなかったわけですから。勝機があるとは思えませんな」

 教皇は自分を現実主義者だと言っていたそうだけど、枢機卿は比較にならないほど現実的だわ。


 「それに、サハラに軍を送り込むことはアルビオンへ遠征軍を送り込む以上に厄介なことです。虚無の担い手がいても彼らを守るために相応の防衛力が必要になります。それがなければ暗殺されて終わりです。しかし、今の我々にそのような金はありませんし、民にこれ以上の負担はかけられません。聖地を得ても資源も金も食糧も手に入りませんからな」

 確かに、ただ理想に縋るんじゃなくて、具体的な方針を示し、祈るだけでは救われないという意思を持ってことに臨むのは現実的といえるかもしれない。

 だけど、枢機卿は国庫のこと、食糧のこと、そして民意をまず第一に考える生粋の政治家。なんでこの人が枢機卿なんてやってるのかしら?

 「ルイズ、貴女はどう思いますか?」


 「私は教皇に直接あったわけではないので、彼がどういう人物であるかに関しては断言できません。しかし、賛同は出来ません。仮に聖地を奪還したところで、姫様が勇気づけて回った民は喜ぶでしょうか? そのためにまた重税がかかることを歓迎するでしょうか? 私はそうは思いません」

 ゲイルノート・ガスパールの侵攻があった際、辺境の民は恐怖に怯えていた。そして姫様は彼らを励まし続け、トリステインを守るためにあの男を打倒することを誓った。

 しかし、彼らに再び無理を強いて、聖地を奪還しても彼らは喜ばない。何せ辺境の農民は魔法の恩恵も神の加護も受けてはいない。それがなくても生きられる土地だから。


 それがロマリアとトリステインの最大の違い、トリステインは水が豊かで作物が豊富。ゲルマニアやアルビオンに輸出出来るくらいの生産力がある。

 都市国家連合だったゲルマニアはちょっとそこが弱かった。しかし、元々は一都市国家だったゲルマニアが出来たのは1000年近く前、そして連合して帝政ゲルマニアとなったのは300年近く前。その頃からツェルプストーとヴァリエールは争ってるけど、徐々にゲルマニアがトリステインを圧倒し始める。

 都市国家から領邦国家に変化するにつれて、そういった弱点が克服され、魔法にあまり頼らない技術によって進歩していった。

 アルビオンもやや鉱物資源に乏しいけど、農耕や林業は割と盛んで、自給は出来ている。


 ガリアは別の意味で論外、「土の国」であり広大な国土を持つあの国はハルケギニア最大の食糧生産を誇り、人口比だけで考えてもハルケギニアの半分の食糧はガリアで生産されている。

 ぶっちゃけ、この国が無くなればトリステイン以外の国の食糧はかなりきつくなる。自給は出来ても緊急用の備蓄が出来ないのだ。


 そして、ロマリア連合皇国、この国は水に乏しく食糧生産が低い。というよりも目立った産業が無い。

 元々人間に限らず先住種族すらあまり住んでいなかった土地で、そこで生きるには人々は魔法の恩恵に頼り、より集まって生きるしかなかった。

 結果、水場の近くに都市国家ができてそれらが群立する体制となり、それをロマリア宗教庁が信仰の下にそれをまとめ、ロマリア連合皇国となった。

 だから人々は神に縋る。神がもたらした魔法の恩恵に縋るのだ。そうしなければ生きられなかったから。

 結果、神官は絶対的な存在となり、彼らを侮辱するものは神と始祖ブリミルを侮辱するだのという、非常にふざけた理論が成り立つまでになってしまった。


 だから、ロマリア以外の土地では“聖地”は別に必要な存在でもなければ、心の拠り所でもない。

 誰もが夢は見るけど、夢と現実は違うということを誰でも知っている。


 だけど、ロマリアの現実は厳しい。

 ロマリアの街は貧民窟の見本市であり、ハルケギニア各地から難民が“光溢れる国”におしかけるも仕事は無く、その日の食糧さえ手に入らない隣で、着飾った神官が談笑しながら歩いていくという。だから夢に縋りたくなる。


 それに比べたらガリアは天国だったわね。

 ハインツの組んだ旅程でガリア各地都市を通って来たけど、治安の良さがトリステインとですら比較にならなかった。保安隊という治安維持専門の軍から独立した機関があり、護民官という制度があり、駅馬車や行商人は護衛を格安料金で依頼することが出来る。

 税金も安く、悪徳官吏も少なく、大陸公路という大街道が整備され交易は盛ん。農業生産も豊か、工業、林業、水産業も問題なく鉱山開発も進んでる。そして街は清潔。さらには驚いたことに公衆浴場まで存在した。

 ハインツに聞いたところ。“知恵持つ種族の大同盟”の人達の協力によって先住魔法を組み込むことで実現したらしく、あのミョズニト二ルンもそのための技術開発をしたという。

 だからハインツはガリア王に反旗を翻さないのでしょうね。他国にとってはともかく、ガリアの国民にとってジョゼフ王は名君でしかないのだから。


 だけど、気になることもあった。ガリア王政府の税金が安いことと反比例するように寺院税が高いらしく、どこの街でもブリミル教寺院に対する不満の声が聞かれた。それに、ガリア全体で新教徒の数が増大しているらしい。

 彼の“悪魔公”はブリミル教嫌いで知られているそうだけど、ハインツが何かやってるのかしらね?


 「確かに、教皇の言うことが実現できれば救われるものはいるかもしれません。でもそれが全てではありません。少なくとも私は聖地なんかあっても嬉しくありませんし、そう思う人は他にもいるでしょう。そういった人達を異端とみなして排斥するロマリア宗教庁こそが、人々が争う原因の一つを担っていると思います」

 本当に平和を目指すならば、異端などという言葉を使うようでは話にならない。

 自分以外の者を全て“始祖の虚無”によって排斥する理想なんて、ただの災厄でしかないのだから。

 それに、彼らが異端とみなす先住魔法によってガリアは発展を続けている。ロマリアは自分で自分の首を絞めているようなもの。新たな魔法に頼らない技術が出来れば、それを異端として排除する。そうしなければ自分達の特権を維持できないから。

 結果、ロマリアはハルケギニアで最も難民が多い国となっている。一部の特権階級の豪華な生活の為に。

 ま、トリステインもあんまり他国のことを言えないんだけど。


 「ルイズ、貴女はそう思うのですね。しかし、争いを無くすにはどうすればよいのでしょうか?」

 姫様は迷ってるのね。教皇の考え自体にはそれほど賛同していないようだけど、反対するなら対案を出すのが政治家の役目。その対案が見つからないのでしょうね。

 少なくとも教皇は自分が信じる正義とそのための道を示してきた。それを拒否するというのならこちらが目指す道を示す必要がある。


 「無くす必要はないと、私は思います」

 それが私の考え。


 「争いを無くす。それはつまり完璧を目指すということ。それは集結点であり、そこの先が存在しません。だから私はより良い世界を目指したいです。今よりは次の代が幸せであるように、そのさらに次の代はもっと幸せであるように。だから私は至高を目指し、神の世界を実現するための“虚無”ではなく、自分で育て、次に伝えていく知識と技術を選んだんです」

 “虚無”は6000年間存在しなかった力。つまりは偶発的な天災と同じ、火山の噴火のようなもの。

 だけど、あらゆる知識は伝えることが出来る。選ばれた誰かだけの力ではなく、皆が共有し、さらに高めることが出来る。

 “虚無”の力は私やティファニアにしか分からない。けど“博識”として、戦術のことでサイトと話す事も出来るし、秘薬のことでモンモランシーと話すことも出来る。政治のことでマザリーニ枢機卿と話すこともできる。


 私は孤独でいられるほど強くはない。選ばれた聖人は寂しいのよ。

 それよりは知識に縋るだけの凡人でいい、凡人だって皆で集まれば伝説以上のことだって出来る。私はそれを証明してみせる。

 だから私は“博識”なのだ。


 「“博識”のルイズ殿の言う通りですな。陛下、我々の代では不可能でも、陛下とウェールズ王との間に出来る子供の代に希望を託すことが出来ます。しかし、神の力に縋るだけではそれは不可能です。失敗すればまた救世主が現れるまで6000年待ち続けることになるのですから」

 枢機卿もそう言ってくれる。

 そう、結局は教皇の理想は虚無が現れた、という偶然に縋ったものでしかない。彼らにとっては神の祝福であり、与えられた使命なんでしょうけど、残念ながら私はそうは思えない。

 例え純粋な善意であっても、意見が食い違うこともあるのだから。


 「そうですか、そうですね。確かに教皇聖下は人々の為に全てを捧げている方です。ですが、彼に全てを押し付けて成り立つ世界が良いものであるはずがありませんね」

 彼は全てを背負うつもりなのかもしれないし、その理想は気高いものだ。

 でも、私は自分で背負いたい。それに親しい人を支えるくらいは出来る。それで十分だと思うのだ。

 皆がそれを出来ればいつか平和が来るかもしれない。多分来ないでしょうけど、それでも諦めず目指し続ければいい。


 というか、たった6000年で諦めるのは根性なさすぎよ。60000リーグを歩いて旅するつもりで、最初の6000リーグでへばって竜に乗ろうとするのと変わんないわ。

 「ですが姫様、ガリア王に注意が必要なのは間違いありません」

 ガリア王に対して防衛策を練るのは悪いことじゃないわ。


 「そうね、アルビオンの担い手は魔法学院に通わせる手筈だったわね」

 これは元々決まっていたこと、そのためにハインツとマチルダは活動してたんだから。


 「ええ、それで姫様、私達で迎えにいこうと思ってます。例のミョズニト二ルンの襲撃がある可能性がありますから」


 「気をつけてください、貴女は大切な友人なんですから」


 「分かりました。それと枢機卿、この前提案した治水工事の件ですけど」


 「おお、そういえばそうでしたな。適役が見つかりましたぞ、後は資金面ですがそれは財務卿に任せれば問題ないでしょう」

 別の議題について話し出す私達。


 「あの? 二人共? 女王を介さずに勝手に国政を進めないで欲しいんですけど」

 姫様から突っ込みが入るけど気にしない。最近姫様はちょっと働きすぎなのよね。




≪回想終了≫






 「ところでルイズ、お前大丈夫なのか? 今“虚無”が使えないんだろ?」

 サイトから心配そうな声がかかる。


 「まあね、ビダーシャルと戦う時にかなりの力を消費したから、しばらく戦闘は困難ね」

 それは事実。虚無の精神力が溜まるには相応の時間が必要。


 ……………………………そういうことにしておきたい。


 もの凄く嫌な仮説があるんだけど、それが現実だったら私は自分を抑えられる自信が無い。


 「そんなんでミョズニト二ルンに襲われたらどうすんだよ」


 「問題ないわ、“大砲”としての役割が果たせなくても“指令塔”としての役割は果たせるわ。私の最大の武器は魔法じゃなくてこの頭脳なのよ。敵の弱点を見抜くことも出来るし、味方に的確な指示を出すことも出来る。それに敵が虚無を使ってきたら、見抜けるのは私しかいないんだから」

 虚無に縋るのは良くないけど、事実は事実として認めなきゃいけない。

 敵に回したら厄介極まりない系統なんだから、備える必要はあるわけよ。


 「うーん、それもそうか」

 サイトも戦術的な思考が得意になったわね。


 「役割は変わらないわ、あんたは“切り込み隊長”、キュルケは“移動砲台”、ギーシュは“工兵”、タバサは“遊撃兵”、そして私は“司令塔”。この布陣で行くわ」


 「貴女が狙われたらどうするの?」


 「ギーシュの穴に隠れるわ、その為にヴェルダンデを連れてきたんだから」

 シルフィードに咥えられてきたヴェルダンデ。


 「確か最初は咥えられる位置にマリコルヌが入る予定だったんだったね」

 そう、その予定だったけどあまりに哀れだったからヴェルダンデになった。


 「いくらなんでもそりゃひでえだろ、マリコルヌにだって人権はあるんだからよ」


 「鬼畜」

 このカップルの息はピッタリね。


 「だからやめてあげたんだから問題ないでしょ?」


 「あのね、私達が説得しなかったら実行してたでしょ貴女」

 まあそうだけど。


 「とりあえず、こっからは馬で行くわよ、シルフィードも疲れてるでしょうし」

 ロサイスからは馬で行く予定だった。

 ちなみにマチルダは子供達の引っ越しのために三日前に出発してる。


 そして私達はウェストウッド村に向かった。











■■■   side:シェフィールド   ■■■


 私は今“ヨルムンガント”と共にアルビオンに来ている。


 任務は担い手達への最期の試練といったところと、ヨルムンガントの試験運転。

 普通に考えればアルビオンの担い手と合流した後に襲うべきなのだけど、ハインツの進言で取りやめになった。

 曰く

 『絶対にそれだけはいけません、触らぬ大魔神に祟りなしです。あの大魔神にはヨルムンガントですら勝てません。あれは世の理が通じない存在なんです』

 らしい。

 要はアルビオンの担い手には、あのマチルダがいるから手を出すな、と言いたいようだけど。たかがメイジ一人でこのヨルムンガントに勝てるとは思えなかったのだけど。


 『いいですか、愛の力は偉大です。あの陛下ですらイザベラに殺されかけたんですから。ティファニアに手を出すとはそう言うことです。仮に手を出すにしても、絶対にあの人の目が届かない場所でないといけません』

 と力説するハインツには鬼気迫るものがあったので合流前での襲撃に切り替えた。


 「しかし、なんであいつが関わると悉く茶番劇になるのかしらね?」

 アーハンブラ城にしてもそう。後で詳細を聞いた感じではビダーシャルとシャルロット姫の間には、なんか微妙にほのぼのとした空間が形成されていたとか。


 間違いなくハインツのあの本のせいね。


 「ま、その辺はあいつらしいと言えばらしいし、それに」

 恐怖劇(グランギニョル)が始まればそんなことは言っていられない。ハインツは“悪魔公”としての本領を発揮するでしょう。


 「“あれら”を作れる感性はどうなっているのかしらね?」

 よくまあ、あんなおぞましいものを平然と作れるものだわ。

 ガリアの6000年の闇の研究の中の一部は技術開発局に応用されているけど、大半はハインツ一人が管理している。


 私も少し見たけど、とても耐えられないようなものだった。

 『デミウルゴス』はその知識の結集なのだ。聖人研究所とやらはあの技術を完成させるためにどれだけの屍を積み上げたのか?


 「“輝く闇”ね」

 それを操るハインツという男の異常性。あれを見ながら日向で微笑むことが出来る。


 「まあ、私には私の役割がある」

 私はミョズニト二ルン。あらゆる魔道具を操る。


 「さあ、ヨルムンガントの出撃よ」

 とはいっても完成品ではない。

 ガルガンチュアは『レビテーション』で自重を軽減していたけど、ヨルムンガントは“反射”でそれを行う。


 これならば「風石」の消費は移動用にだけ使えばいいので燃費が大幅に良くなり、さらに耐久性も向上した。


 しかし、関節のねじれなどに対処するには、組み上げる段階で“反射”をかける必要があるので、ガルガンチュアをベースにしたのではそれに対処できない。

 だから、現在数十体のヨルムンガントを全力で組み上げているけど、そっちにはもう少し時間がかかる。


 「だけど、試すならこれで十分」

 私はヨルムンガント(試作型)を操り、担い手の下へ差し向けた。












■■■   side:才人   ■■■


 アルビオンに入って二日目。

 一度ルイズと一緒にミョズニト二ルンと戦ったミレルドの街で一泊し、ウェストウッド村に向かう。


 ややゆっくりペースなのは、合流前に襲って欲しいからだそうだ。


 「なあルイズ、敵はやっぱし来るのか?」


 「可能性は高いわ、せっかく守りが堅い魔法学院を離れてくれたんだから、襲いたいのが人情でしょ」

 平然と言うなあこいつは。

 まあ確かに、ルイズやモンモランシー、そしてコルベール先生で色んな罠を張ってるらしい。俺達水精霊騎士隊の面子もそのために穴掘ったり壁になんか細工したりさせられてる。

 今の魔法学院はなんかもう一種の要塞じみた感じになってるし。


 「あんただってそうでしょ、タバサが部屋で服着てなかったら襲いたくなるでしょ?」


 「ぶっ!」

 何つー例えするんだこいつは!


 「確かにそうだね、モンモランシーが裸でいたら絶対押し倒すよ僕は」

 こいつもこいつで答えてんじゃねえよ。


 「あーら、いいのサイト? このままじゃギーシュに先越されるわよ?」

 キュルケもからかってくるし。


 「………………………………」

 シャルロット、頼むから恥ずかしさと期待が混じったような眼で見ないでくれ。俺の理性が持ちそうにない。


 「私は“虚無”の担い手、つまり神の代弁者よ。そして昨日、神のお告げを聞いたの。『やっちゃえやっちゃえ』、だって」

 んな腐れた神がいてたまるか。


 「お前らもう少し緊張感持てよ」


 「何を言ってるんだねサイト? 僕にそんなこと出来るわけないじゃないか。30分も持ちやしないよ」

 威張るなギーシュ。


 「そうよ、気楽に行ったほうがいいわ。メリハリは大事よ」

 今はその中の緊張すべき時だと思うんだが。


 「私が警戒する」

 ありがとうシャルロット。

 「ああーシャルロットはかわいいなあ、今日の夜ベッドに連れこんで、あんなことやこんなことをしたいなあ。今日から俺のものだぜ、げっへっへ」

 「何言ってやがる手前は!」

 「あんたの心を代弁しただけよ」

 この野郎。


 「あらあら、サイトったら鬼畜ねえ」

 「うむ、流石の僕でもそこまではできないなあ」

 こいつら、いつかしめる。


 「………………………………」

 だから頼むから恥ずかしそうにするなシャルロット。


 「シャルロット、好きだ。抱きたい」

 この野郎いいかげんに。


 「えっ?」

 そこにいたのは、俺?


 「スキルニル!」

 キュルケが叫ぶ。


 「総員! 戦闘態勢! パターン3!」

 ルイズの号礼がかかる。

 一度合図があれば俺達はこれまでの馬鹿な会話は一切忘れる。それが『ルイズ隊』だ。


 「シャルロット!」

 「うん!」

 俺とシャルロットは左右に分かれ、ルイズの護衛はギーシュに任せる。ヴェルダンデが地中を進んでるはずだからギーシュの指示次第ですぐに隠れることは出来るはず。

 移動砲台のキュルケは後方に下がる。


 「あらあら、相変わらず統制がとれてるのね。“博識”の直属部隊は」

 俺の人形から女の声が出てくる。ものすげえキモイ。


 「ミョズニト二ルンね、久しぶりじゃない」

 ルイズが応じる。


 「なかなか面白そうな会話をしてたから、混ざらせてもらおうかと思ったのだけど」

 だったらあんな台詞言うんじゃねえよ。


 「サイトのスキルニル。大方アーハンブラ城で血液を回収したのかしら? サイトだけが血を流すほどの怪我をしたからね」

 そういやそうだった。ビダーシャルの放った石礫で額が切れたんだった。


 「鋭くて何より、シャルロット姫を奪還された屈辱の地ではあったけどね。あの忌々しいハインツにも逃げられたし」

 ハインツさん、今もガリアで普通に活動してるらしい。


 「貴方達も微妙な関係よね、国内のことに関しては協力する関係だし。アルビオンへの工作とかでも協力関係にあったわけでしょ。なのに私達に関することでは敵対してる」


 「国家間の関係に近いのよ、私達とハインツ達はね。ある部分では協力するけど、ある部分では敵対する。互いに利用し合う関係でもあり、互いに殺し合う関係でもある。だけど、相手が生きていてくれた方が互いに都合が良い。そして互いに自分の利益を最大にするために策を練って実行に移す。厄介な関係であることは否定しないわ」

 そういうわけか、言ってみれば国家間の石油の奪い合いみたいなもんか? 俺達が石油で。


 「まあとにかく、あいつのせいでずっとアルビオンの担い手に接触出来なかったからね。貴方達の後をつけさせてもらったのよ。まあ、ここまでくれば後は道案内もいらないし」

 やっぱりこいつはテファも狙ってやがるのか。


 「あいにく、それは出来そうにないわよ」

 ルイズが平然と答える。


 「あら、どうしてかしら?」


 「純粋な戦力の問題よ、私とサイトだけにすら勝てなかったあんたが私達に勝てるかしら?」


 「確かに、ちょっときついわね。けど、これを見てもそう言えるかしら?」

 すると、森の奥から何かが出てきた。

 いや、出てくると言うよりも。木々をなぎ倒して迫ってくる。


 「な、なんだねあれは!」

 「なーんかとんでもないのが来たわねえ」

 「騎士人形?」

 皆それぞれの反応をしてる。


 「でけえ、なんだこりゃ」

 現われたのは、全長20メイル以上はある巨大な騎士人形。

 鋼鉄の鎧を着込んでる上、身長と同じくらいはありそうな巨大な剣を持ってやがる。


 「これはね、ヨルムンガントと言うのよ。先住魔法と虚無の技術、その二つが合わさることで生まれた奇蹟の産物よ」

 今度はその騎士人形のほうから声が聞こえてくる。よかった。正直、気が気じゃなかった。


 「また変なもんつくるわねあんたは、こんなん作るくらいなら公衆浴場でも作ってなさいよ」


 「あれもあれで作るのには苦労したのよ。もっとも、働かせたのは主にハインツだけどね」

 ハインツさん、こいつにもこき使われてんのか。

 つーか、これと公衆浴場が同じ技術で作られてるのって、やだな。

 俺達みんなで入って来たけど、結構気持ち良かったし。


 「さて、これに勝てるかしら?」


 「温泉人形如きに負けはしないわよ」

 そして、戦いは始まった。








■■■   side:シャルロット   ■■■


 「『エア・ストーム』!」

 「『フレイム・ボール』!!」

 私とキュルケが同時に「風」と「火」を放ち、巨大な炎壁を作り出しヨルムンガントを包み込む。

 事前にギーシュが『錬金』で大量の油を浴びせていたのだけど。


 無傷。

 「ありゃ頑丈なんてもんじゃないわね」

 「厄介」

 私はトライアングルスペル、キュルケも炎の3乗で放ったはずだけど一切効果が無い。トライアングルの土ゴーレムだったら黒焦げになって倒壊してるのに。


 「直接『錬金』をかけることも出来やしない、正直お手上げだなあ」

 ギーシュも呆れてる。


 ちなみにサイトは一人で切り込んでる。あのヨルムンガントはあれだけの巨体にも関わらず凄まじく敏捷な動きをするのでまともに戦えるのは速度に特化したサイトか私だけ。

 「シャルロット、貴女も行った方がいいわ。火力で押すのが不可能な以上、私はサポートに徹する。ギーシュ、あんたはルイズの護衛に徹しなさい」

 「ありがとう、キュルケ」

 そして、私も『フライ』でヨルムンガントに挑みかかる。



 「シャルロット!」

 「加勢する」

 私とサイトは二人でヨルムンガントを引き付ける。

 「注意しろ、とんでもなく堅いぞ」

 「こりゃあ、あれだね、エルフの“反射”がかかってんだな」

 デルフリンガーがそう答える。

 「本当?」

 「間違いねえな、だが、大量に使ってるからか、鎧には刃は届いてる」

 「実際に切れねえんじゃ話になんねえけどな」


 私は『拡声』を唱える。

 「ルイズ、このヨルムンガントには“反射”が使われている」

 多分ルイズならこれだけで対処法を見つけ出す。


 すると、ヨルムンガントが投げナイフを放って来た。

 「シャルロット!」

 「うん!」

 私達は互いに足を合わせて蹴り出す。

 そして私は『フライ』で、サイトはガンダールヴのルーンを足に集中させることで一気に距離を放す。


 「なかなか粘るわね、だけど、いつまでもつかしら?」

 ミョズニト二ルンの声が響いていた。









■■■   side:ルイズ   ■■■


 「ルイズ、このヨルムンガントには“反射”が使われている」

 その情報があれば十分、大体の原理は把握できた。


 あれは“反射”を自重の軽減に用いている。そうでもなきゃ鋼鉄製の巨大人形なんて作れるわけがない。

 『レビテーション』を発生させる装置を仕込んでる可能性もあるけど、それではあそこまでの柔軟な動きは不可能なはず。特に、横移動は。


 となれば、手段は一つ。


 私は詠唱を開始した。










■■■   side:才人   ■■■


 「ちっ、なんて動きだ!」

 このヨルムンガントは動きの敏捷性が半端じゃねえ、しかも歩幅が大きいから間合いを放すこともできやしねえし。

 キュルケとギーシュが『レビテーション』でそこらに足場になる石を浮かべてくれなかったら、今頃俺は潰されてるかあの巨大な剣で粉々にされてる。


 シャルロットは自由自在に飛び回れるが、その間は強力な魔法は使えない。

 「やばいな、相棒」

 このままじゃジリ貧だ。


 そこに。


 「『解除(ディスペル)』!!」

 ルイズの魔法が炸裂した。


 ヨルムンガントの動きが突然鈍くなる。

 「ルイズ! お前、魔法使えたのか!」


 「敵を欺くには先ず味方から! とはいえ、あんまりないのは確かよ!」

 何つう野郎だ。


 「いい! あいつは“反射”で自重を軽減してる! だから右膝の関節部分を集中的に解除したわ! それだけで敵の機動力は半減する!」

 なるほど、流石は“博識”。


 「で! 左足はいけんのか!」


 「分かんない! この虚無ってのはふざけたことに残りの精神力が正確に把握出来ないのよ! 何て使い勝手が悪い能力かしら!」

 そこで文句を言われても。

 「なんとか方法を考えるわ! それまで粘りなさい!」


 「応よ! 行くぜシャルロット!」

 「待って」

 すると、シャルロットに止められた。


 「どうした?」

 「目をつぶって」

 「は?」

 いったい何を言って。


 と思ってたら、キスされてた。





 「ん、んん、ん、んちゅ」

 しかも舌を絡めての濃厚なキス。舌が吸い上げられてる。


 シャルロットが首に腕を回して強く抱きしめてくる。身体が密着して体温を感じる。


 今はこんなことをしてる場合じゃねえ!


 とは頭では分かっているんだが、俺は無意識にシャルロットを抱きしめて、自分から舌を絡めてた。

 だって仕方ないじゃん、好きなんだから。


 目の前にヨルムンガントがいるんだけど、なんかこう、どうしようもなかった。



 「貴様らああああああああああああ!! 人が必死に対処法を考えている時に何をやっているrrrrrrrrrrrrrrrr!!! 司令官を舐めてんのかあああああああああああああああああああああああああああaAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!」

 しかし、大魔神の怒りによって我に帰った。


 「ルイズの『爆発(エクスプロージョン)』が来る。逃げよう」

 口調は冷静だけど、顔が真っ赤なシャルロット。かわいいな。


 「だな、そうすっか」

 俺はシャルロットを抱えたまま離脱する。離す時間がもったいなかった。ていうのは建前で、離したくなかったからだ。

 今の俺は誰よりも速く動ける自信がある。だって背後には怒れる大魔人がいて、腕の中には好きな女の子がいる。

 これ以上速く走れるシチュエーションはねえ。


 「くたばれえええええええええええええええええええええええええええええええ!!! ブリミルうううううううううううううううううううううううううううううううう!!!」


 なぜか最後に始祖ブリミルに怒りが向けられ、ルイズの極大の『爆発』が炸裂した。












■■■   side:ルイズ   ■■■


 ヨルムンガントを吹っ飛ばした後、私達はウェストウッド村に向かったけど、その間、私のはらわたは煮えくりかえっていた。


 「まったく、なんてふざけた魔法かしら! 私に喧嘩売ってるとしか思えないわ!」

 怒りが全然収まんない。


 「ま、まあルイズ落ち着いて、敵を倒せたんだから結果オーライじゃないか」

 私はギーシュを思いっきりぶん殴る。

 「ぎゃぼっ!」

 要はただのやつあたり。だってギーシュだし。


 「全然良くないわ、何なのアレ! 怒ればその分魔力が増すとかふざけてんの! そりゃあある程度は感情で威力が増減するのは当たり前だけど、それでも一度に出力できる量が変わるだけで容量は変化しないはずでしょう!」

 それが理、精神力の容量自体が変化するわけじゃない。


 「なのに! 精神状態によってどこまでも無制限に威力が上がるとかあり得ないでしょ! どこの御都合主義よ! 研究者を舐めてんの!」

 ああもういらつく、論理ってのは一足す一が二になるから成り立つってのに、それがなきゃただの混沌じゃないの。


 「だ、だけどねルイズ、もうそれは仕方ないんじゃ」

 キュルケが言うのはもっともだけど、納得出来るもんじゃない。


 「私が一番ムカつくのわね、そのことに対してムカついてるとまた精神力が溜まっていくことなのよ! 何なのこれ、完全な悪循環じゃない! 虚無を撃つためにずっとこの精神状態でいろって言うの! 私に!」

 虚無がふざけた魔法であることにムカつき、それによって精神力が溜まることにムカつき、そのムカつきによって更に力が上がることにムカつき、どこまでも続く負のスパイラル。

 ブリミルってのはよっぽどいい根性してんのね、たった今を持ってして、奴を滅ぼすことを心に決めたわ私。


 「る、ルイズ、とりあえず落ち着け」


 「何、盛り犬? 恋人との熱いキスはさぞかし嬉しかったでしょうね、喧嘩売ってるのかしら? たっぷりと調教してあげるわよ、私の犬」


 「ヒイ!」

 怯えるサイト、うん、しばらくはこいつらを弄って気を静めるとしよう。


 「シャルロット、貴女もよ。私は貴女が大好きよ、今度一緒にベッドで寝ないかしら? サイトよりも早くにね、ふふふ」

 「!?」

 これまた怯えるシャルロット。あえて本名で呼んだのが恐怖感を与えるようね。


 「ルイズ、それはまずいわ。昔の貴女ならともかく、今の貴女が犬って言うのは洒落になってないわ」

 キュルケですら引いてるわね、ようやく落ち着いてきたわ。


 そして放置されるギーシュ、これはもう運命ね。


 私はウェストウッド村に着くまで、怯えるかわいい小動物二人を弄りながら怒りを発散することにした。




 



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