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No.10059の一覧
[0] ハルケギニアの舞台劇(3章・最終章)  【完結】 [イル=ド=ガリア](2009/12/04 20:19)
[42] 第三章 史劇「虚無の使い魔」  第一話  平賀才人[イル=ド=ガリア](2009/09/06 22:55)
[43] 史劇「虚無の使い魔」  第二話  悪魔仕掛けのフーケ退治[イル=ド=ガリア](2009/09/06 22:54)
[44] 史劇「虚無の使い魔」  第三話  悪だくみ[イル=ド=ガリア](2009/09/06 22:54)
[45] 史劇「虚無の使い魔」  第四話  箱入り姫と苦労姫[イル=ド=ガリア](2009/12/07 06:59)
[46] 史劇「虚無の使い魔」  第五話  アルビオン大激務[イル=ド=ガリア](2009/12/05 23:28)
[47] 史劇「虚無の使い魔」  第六話  後始末[イル=ド=ガリア](2009/09/06 22:54)
[48] 史劇「虚無の使い魔」  第七話  外交[イル=ド=ガリア](2009/12/04 20:19)
[49] 史劇「虚無の使い魔」  第八話  幕間[イル=ド=ガリア](2009/09/06 22:54)
[50] 史劇「虚無の使い魔」  第九話  誘拐劇[イル=ド=ガリア](2009/09/06 22:54)
[51] 史劇「虚無の使い魔」  第十話  夏季休暇[イル=ド=ガリア](2009/09/06 22:54)
[52] 史劇「虚無の使い魔」  第十一話  戦略会議[イル=ド=ガリア](2009/09/06 22:54)
[53] 史劇「虚無の使い魔」  第十二話  それぞれの休暇[イル=ド=ガリア](2009/09/06 22:54)
[54] 史劇「虚無の使い魔」  第十三話  遠征へ[イル=ド=ガリア](2009/09/06 22:54)
[55] 史劇「虚無の使い魔」  第十四話  侵攻前[イル=ド=ガリア](2009/12/05 23:32)
[56] 史劇「虚無の使い魔」  第十五話  闇の残滓[イル=ド=ガリア](2009/09/06 22:53)
[57] 史劇「虚無の使い魔」  第十六話  出撃[イル=ド=ガリア](2009/12/05 23:35)
[58] 史劇「虚無の使い魔」  第十七話  軍神と博識[イル=ド=ガリア](2009/09/07 00:24)
[59] 史劇「虚無の使い魔」  第十八話  魔法学院の戦い[イル=ド=ガリア](2009/09/06 23:15)
[60] 史劇「虚無の使い魔」  第十九話  サウスゴータ攻略[イル=ド=ガリア](2009/09/06 04:56)
[61] 史劇「虚無の使い魔」  第二十話  休戦と休日[イル=ド=ガリア](2009/12/05 23:36)
[62] 史劇「虚無の使い魔」  第二十一話  降臨祭[イル=ド=ガリア](2009/09/13 01:48)
[63] 史劇「虚無の使い魔」  第二十二話  撤退戦[イル=ド=ガリア](2009/09/13 01:52)
[64] 史劇「虚無の使い魔」  第二十三話  英雄の戦い[イル=ド=ガリア](2009/12/05 23:39)
[65] 史劇「虚無の使い魔」  第二十四話  軍神の最期[イル=ド=ガリア](2009/09/15 22:19)
[66] 史劇「虚無の使い魔」  第二十五話  アルビオン戦役終結[イル=ド=ガリア](2009/12/05 23:40)
[67] 史劇「虚無の使い魔」  第二十六話  それぞれの終戦[イル=ド=ガリア](2009/12/05 23:48)
[68] 史劇「虚無の使い魔」  第二十七話  諸国会議[イル=ド=ガリア](2009/09/19 22:04)
[69] 史劇「虚無の使い魔」  第二十八話  エルフ[イル=ド=ガリア](2009/09/18 06:07)
[70] 史劇「虚無の使い魔」  第二十九話  担い手と使い魔[イル=ド=ガリア](2009/09/19 08:02)
[71] 史劇「虚無の使い魔」  第三十話  シュヴァリエ叙勲[イル=ド=ガリア](2009/09/20 10:49)
[72] 史劇「虚無の使い魔」  第三十一話  スレイプニィルの舞踏会[イル=ド=ガリア](2009/09/20 10:41)
[73] 史劇「虚無の使い魔」  第三十二話  悪魔の陰謀[イル=ド=ガリア](2009/09/20 14:37)
[74] 史劇「虚無の使い魔」  第三十三話  アーハンブラ城[イル=ド=ガリア](2009/09/21 22:50)
[75] 史劇「虚無の使い魔」  第三十四話  ガリアの家族[イル=ド=ガリア](2009/09/21 08:21)
[76] 史劇「虚無の使い魔」  第三十五話  ロマリアの教皇[イル=ド=ガリア](2009/09/21 23:06)
[77] 史劇「虚無の使い魔」  第三十六話  ヨルムンガント[イル=ド=ガリア](2009/09/22 23:13)
[78] 史劇「虚無の使い魔」  第三十七話  編入生と大魔神[イル=ド=ガリア](2009/09/22 10:47)
[79] 史劇「虚無の使い魔」  第三十八話  楽園の探求者[イル=ド=ガリア](2009/09/22 23:32)
[80] 史劇「虚無の使い魔」  第三十九話  我ら無敵のルイズ隊[イル=ド=ガリア](2009/10/21 21:23)
[81] 史劇「虚無の使い魔」  第四十話  舞台準備完了[イル=ド=ガリア](2009/09/23 22:42)
[82] 史劇「虚無の使い魔」  第四十一話  光の虚無  闇の虚無[イル=ド=ガリア](2009/09/26 04:29)
[83] 史劇「虚無の使い魔」  第四十二話 前編 神の名の下の戦争[イル=ド=ガリア](2009/09/29 20:27)
[84] 史劇「虚無の使い魔」  第四十二話 後編 王の名の下の戦争[イル=ド=ガリア](2009/10/01 21:44)
[90] 最終章 終幕 「神世界の終り」  第一話  悪魔の軍団[イル=ド=ガリア](2009/10/01 22:54)
[91] 終幕「神世界の終り」 第二話 前編 フェンリル 第4の使い魔[イル=ド=ガリア](2009/10/04 08:05)
[92] 終幕「神世界の終り」 第二話 中編 フェンリル 貪りし凶獣[イル=ド=ガリア](2009/10/04 08:06)
[93] 終幕「神世界の終り」 第二話 後編 フェンリル 怪物と英雄[イル=ド=ガリア](2009/10/07 21:03)
[94] 終幕「神世界の終り」  第三話 侵略と謀略[イル=ド=ガリア](2009/10/08 18:23)
[95] 終幕「神世界の終り」  第四話 狂信者[イル=ド=ガリア](2009/10/08 18:25)
[96] 終幕「神世界の終り」  第五話 歴史が変わる日(あとがき追加)[イル=ド=ガリア](2009/10/09 22:44)
[97] 終幕「神世界の終り」  第六話 立ち上がる者達[イル=ド=ガリア](2009/10/09 22:45)
[98] 終幕「神世界の終り」  第七話 人が神を捨てる時[イル=ド=ガリア](2009/10/20 17:21)
[99] 終幕「神世界の終り」  第八話 串刺しの丘[イル=ド=ガリア](2009/10/18 02:40)
[100] 終幕「神世界の終り」  第九話 悪魔公 地獄の具現者[イル=ド=ガリア](2009/10/20 17:26)
[101] 終幕「神世界の終り」  第十話 アクイレイアの聖女[イル=ド=ガリア](2009/10/21 21:07)
[102] 終幕「神世界の終り」  第十一話 パイを投げろ![イル=ド=ガリア](2009/10/21 21:12)
[103] 終幕「神世界の終り」  第十二話 変動する時代[イル=ド=ガリア](2009/10/21 21:16)
[104] 終幕「神世界の終り」  第十三話 終戦の大花火[イル=ド=ガリア](2009/10/21 21:16)
[105] 終幕「神世界の終り」  第十四話 新時代の担い手たち(一部改訂)[イル=ド=ガリア](2009/10/14 21:01)
[106] 終幕「神世界の終り」  第十五話 パイを投げろ!inトリスタニア[イル=ド=ガリア](2009/10/17 06:50)
[107] 終幕「神世界の終り」  第十六話 王家の終焉[イル=ド=ガリア](2009/10/18 02:17)
[109] 終幕「神世界の終り」  第十七話 前編 終幕(エクソドス)[イル=ド=ガリア](2009/10/17 06:43)
[110] 終幕「神世界の終り」  第十七話 後編 終幕(エクソドス)[イル=ド=ガリア](2009/11/15 03:19)
[111] 終幕「神世界の終り」  最終話  そして、幕は下りる[イル=ド=ガリア](2009/11/15 03:25)
[121] エピローグ[イル=ド=ガリア](2009/11/27 22:24)
[122] A last episode  ”1000 years later”[イル=ド=ガリア](2009/11/29 09:37)
[123] あとがき[イル=ド=ガリア](2009/12/02 20:49)
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[10059] 史劇「虚無の使い魔」  第二十九話  担い手と使い魔
Name: イル=ド=ガリア◆8e496d6a ID:c46f1b4b 前を表示する / 次を表示する
Date: 2009/09/19 08:02
 ハガルの月の第四週、才人が目覚めてからおよそ一月。


 ようやく本調子に戻った才人は強くなるために特訓を開始した模様で俺もそれに付き合っている。


 ルイズの方も家族サービスを終えてそろそろこっちに向かう模様。


 新章開幕である。






第二十九話    担い手と使い魔





■■■   side:ハインツ   ■■■


 「せえい!」

 才人が繰り出してくる斬撃をブレイドを付与した剣で受け止める。


 今の才人に手を抜くことなど出来るはずも無く、俺の最強の杖である骨杖で『ブレイド』を発生させて同時に可能な限り『フライ』を自分にかけて速度の向上を図る。


 流石に『毒錬金』を使うわけにもいかず、しかしその他の魔法ではデルフリンガーに悉く吸い込まれるので完全な接近戦となる。

 下手に魔法を組み合わせようとすれば逆に一瞬で倒されるのが落ちだ。


 「ふん!」

 才人の剣を弾き返す、才人の斬撃は恐ろしいほど速いがアドルフやフェルディナンのように重くはないので、一度鍔迫り合いにもちこめばこちらに分がある。


 体勢を崩した才人に一気に詰め寄り突きを放つ。


 しかし空振り、凄まじい速度だ。さらに速くなっている。


 「らあ!」


 「甘い!」

 結果、才人が攻め、俺が守るという展開がいつまでも続くこととなる。












 そして訓練終了。

 才人はスタミナ切れで現在大の字で草っ原に横たわっている。


 「す、凄いですねハインツさん。一回も入れられなかった」

 
 「そうは言うがな才人、一回でも決められたらその瞬間勝負は決まるんだ。それは欲張りってもんだぞ」

 俺はあちこちに切り傷があり、逆に才人は無傷。

 しかし今立っているのは俺。

 もしルールが“先に一撃を入れたほうが勝ち”だったら十回中十回才人が勝つのだが、“先に相手を戦闘不能にした方が勝ち”のルールなのでこっちの勝ちだ。

 傷の多寡では圧倒的に才人が優勢なのだが、これが実戦なら死んでいるのは才人の方になる。


 「でも結局スタミナ切れでぶっ倒れちゃいましたからね。あーあ、俺って弱いなあ」

 「そんなことはねえぜ相棒、お前さんは十分強ええよ、ただハインツの兄ちゃんがそれ以上の化け物だってことさ」

 慰めになってるのかよくわからないフォローをするデルフ。


 「なあデルフ、それは慰めになってるのか? というか化け物扱いは酷いぞ、これでも仲間内じゃあ6番目なんだから」

 こういった純粋な白兵戦では最強はアラン先輩だし、アドルフ、フェルディナン、アルフォンス、クロードも俺よりは強い。

 ま、あいつらと比較するのはどうかと思うが。

 この結果には相性も大きく関係している。才人は先の先、とにかく速攻で切り込んで一瞬で勝負を決めるタイプ。

 俺は後の先、ですらなく後の後。つまり毒を空気中に散布してあとはひたすら守勢に回るのだ。

 俺本来の戦い方ならば俺は『影の騎士団』最強なのだが、全員から“反則だ”の声を頂いた。


 俺達七人の中では、俺とエミールは守勢で、アラン先輩とクロードは攻守同じくらい。アドルフ、フェルディナン、アルフォンスの三人が攻勢。才人の戦い方は一番アドルフに似ているからその戦い方で俺に勝とうと思うならアドルフ並の攻撃力が必要になる。

 それでは才人に勝ち目がない。“勝つつもり”で戦う才人と“殺すつもり”で戦うアドルフでは殺気が違う。相手を冗談抜きで殺す覚悟で挑まないのでは『影の騎士団』に勝つのは難しい。


 そういうわけで俺は才人の猛攻をひたすら凌ぎ続け、ガンダールヴの力は持続性がないので先に才人がぶっ倒れた。


 「うへえ、ハインツさんで6番目なんですか」


 「だが才人、戦い方を工夫すればお前はあっという間に俺を追い抜くと思うぞ」

 “ガンダールヴ”は最上級のルーンであり、なおかつ身体強化系の頂点だ。人間が持つ特殊チャンネルとでもいうべきものを“魔法”に合わせている俺達メイジが肉弾戦で“身体強化”にチャンネルを合わせている才人達に敵う道理はない。

 つまり才人にはまだ無駄が多いということ。


 「そうですか!」

 目を輝かせる才人。


 「ああ、簡単に言えばお前はまだ無駄が多いんだ。動きに無駄は無いんだが、その他の部分で無駄がある」

 普通の人間にはあり得ない無駄なんだが。


 「その他の部分?」

 首を傾げる才人。

 「お前の筋力はかなり高くなってる。剣のふり方も見事だし重心移動なんかも一切問題ない。つまり普通に動く限りでは理想的と言っていいんだが、ルーンマスターの真骨頂は普通じゃない戦い方にある」


 「普通じゃない戦い方、ですか」


 「お前は“ヒュドラ”を使ってガンダールヴの力を最大限に引き出したろ、その反作用として2週間近く寝込んでさらに3週間くらいは全力の戦闘が不可能だったわけだが」


 「はい」


 「つまりそこがガンダールヴの容量の限界ってことだ。底なしのように見えてやっぱり人間だからな、どっかに限界はあるもんだ。エネルギー保存の法則は容易に揺るがない」

 もっとも、担い手の方はそれを突破することも可能である。あの悪魔なんか物理法則を片っ端から無視してるし。

 『レビテーション』や『フライ』も思いっきりニュートンに喧嘩売ってるわけだが、その持続時間などはやはり限界があり、等価交換の原則は揺るがない。精霊の力を借りる先住魔法も効率は系統魔法と比較にならないがやはり消費するものは消費する。

 だが、“虚無”だけは別、あれは本人の精神力を直接使っているのではないらしい。エルフの言葉を借りれば精霊の力そのものを消滅させているとか。

 つまりは核分裂のようなものだ。

 核分裂が僅かな質量からとてつもない程膨大なエネルギーを引き出すように、この世界にある系統魔法や先住魔法の源となる何か(先住の種族にとっては精霊)、それそのものを消滅させる代わりに極大のエネルギーを取り出す。


 効率は最大と言っていいが、回復が不可能で世界全体でみれば力は減っていく一方。系統魔法も先住魔法も結局は水の如く世界を循環するわけだが、“虚無”だけはその名の通り消滅させる。

 エルフにとっては世界を破滅させる“悪魔の業”に他ならないわけだ。


 とまあ、この辺が陛下の虚無研究で導き出された結論らしい。


 「だから、それをいかに効率よく運用するかがポイントだ。例を言えば、相手に近づくときには下半身に集中してルーンの力を発動させる。相手に切りかかる時は上半身に集中、てな感じでな。もっとも剣を振る時は全身の筋肉を使うからそう簡単にはいかないが、ルーンの強弱をつけることでこれまで以上の動きができるはずだ」


 実は北花壇騎士団フェンサー第三位の男がそれを実現している。

 彼は身体強化系のルーンのエキスパートで、“魔銃使い”と呼ばれており、才人と同じく武器を持つことで身体能力が強化される特性を持つが、その武器は銃器に限られ、武器の特性を解析する力も無い。


 しかし、身体強化を“目”、“肘”、“腰”、“肩”などに集中させることで狙撃に特化したり、“脚”に集中させて高速で動きながら撃ったりと、ルーンの力を自由自在に操っている。

 それが“ガンダールヴ”で可能になればおそらく才人は白兵戦最強の存在になる。


 「なるほど」

 感心している才人。

 「そうなれば普通の人間には不可能な動きも可能になる。走りながらいきなり直角に曲がったり、地に伏せながら高速で突進したり、果ては空中で二段ジャンプしたりな。そういう戦い方が出来れば一気に戦術の幅も広がる」

 今の才人の動きはあくまで人間の延長。全身を等しく強化してるから“速い人間の動き”になる。しかし、身体強化を自在に操れば四足の獣のような動きも出来る。現にフェンサーの何人かはそれを行っている。


 「だからまずは武器を握ってもルーンを発動させないように特訓してみるといい、簡単に言えば悟空が瞬間的に戦闘力を上げて、スカウターに悟らせなかったのと同じ感じだな」


 「凄い分かりやすい例えですね」


 「そして瞬間的に上げた戦闘力をさらに、ピッコロの魔貫光殺砲みたいに一点に集中させる。これならラディッツにも勝てるわけだ」


 「ってことはハインツさんがラディッツですか?」


 「いや、そこまでは離れていないな、お前がドドリアで俺はザーボンくらいだと思うぞ。やり方を上手く工夫すれば勝ち目もあるって感じだ」

 我ながらもの凄い例えな気がするが。


 「うーん、もうちょいましな例えはないですかね?」

 才人も不満があるようだ。


 「そうだなあ、うーん、悟天とトランクスみたいなもんかな。一応トランクスの方が強いけど実際はほとんど変わらないって感じか?」


 「あ、それなら分かります。戦い方次第で悟天はトランクスに勝てるわけですね」

 分かってもらえたようでなにより。


 「んじゃま、訓練はこのくらいにして、俺達にはやることがあるぞ」

 子供達の相手をしてやらねば。


 「俺はしばらく動けそうにないですけど」

 確かに力を使い果たしたからな。


 「じゃあお前はテファの手伝いに回れ、悪がきどもは俺が相手しよう」


 「了解しました」



 さて、今日は何で遊んでやるかな?










■■■   side:才人   ■■■



 「しかし、ハインツさんは凄いよな、俺、あんな考え方したことなかったぜ」

 俺は歩きながら背中のデルフに言う。

 「確かに、ああいう考え方は初めてだねえ。武器を使うためにあえて人間が使い魔だってんのに、それに人間外の動きをさせるってのは逆転の発想だな」

 だけど、効果的ではありそうだ。


 「しかし相棒、最近やたらと気合入ってるねえ」


 「そう見えるか?」


 「ああ、目覚めてからずっと頑張ってる感じがするぜ、なんかこう、“強くなりたい”って感じがビンビン伝わってくんだよ」

 剣のくせにそういうところが鋭いんだよなあこいつ。


 「やっぱあれかい、7万への突撃か?」


 「まあな、結局失敗してハインツさんに助けられたわけだろ、だったらこのままじゃ終われねえよ」

 次こそはってやつだ。


 「つってもな、もう7万に突撃することなんざねえだろ、つーか、5万を突破しただけでもものすげえと思うがね」

 まあそうかもしんねえけどさ。


 「でもやっぱ悔しいんだよ、目標が達成できなかったことには変わりねえからな。もし次に何かと戦う機会があったら今度が絶対に負けねえ、これはもう男の本能ってやつだ」


 「なるほどねえ、だけど今はもう一つの本能を抑える方に全力を尽くすべきだと俺は思うけどねえ」


 「? どういうこと」


 「きゃっ」

 「おわっ」


 デルフに問いかけようとしたら誰かにぶつかった。そういや前見てなかった。テファとぶつかっちまったみたいだ。




…………つーかこの体勢って、もの凄いまずいんじゃ。


 当たってる。当たっているのです神様。テファが持つ最終殲滅兵器が俺の腕にあたっているんです。引き離さないとまずいとは思っているんですけど、俺の意思に反して腕が動いてくれないんですよハイ。


 「サ、サイト、大丈夫? ごめんなさい前見てなくて」


 うん、テファは本当に優しいなあ、この状況でも俺に気遣ってくれるなんて。

 だけどもしこの光景をマチルダさんに見られたら…………


 「うわあああああああああああああああああああああ!!」

 咄嗟に飛び退く俺。


 「きゃっ!」

 驚くテファ、本当にごめん。


 「はあ、はあ、はあ」

 何とか呼吸を整える。今俺の頭に浮かんだ光景はあまりにも恐ろし過ぎるものだった。


 「おおー、すげえ、すげえぞ相棒。やっぱあれかね? 性欲よりも生存本能の方が人間は強いもんなんかね?」

 うっせえこの駄剣。


 「だ、大丈夫サイト?」

 やっぱり心配そうな表情をするテファ。うん、テファじゃなくても今の俺の様子を見たら心配してくれそうな気がする。


 「だ、大丈夫。もの凄く恐ろしい怪物を想像してしまっただけだから」

 駄目だ、勝てる気がしない。

 あれに挑むくらいなら7万に突っ込む方が百倍ましだ。

 何せあのハインツさんがなす術なく蹂躙されたのだ。



 ある時。

 「しっかし、これでマチルダさんはいかず後家決定ですかね、頑張れ生涯独身」

 と、うっかり口を滑らせたハインツさんに大魔神の怒りが炸裂した。


 そこには全長40メイルはありそうでしかも表面が金属光沢を放っている怪物ゴーレムが君臨していた。

 そしてそれを操る大魔神の顔は名状し難きものであった。


 ハインツさん曰く。

「巨大ゴーレムは重すぎて自重で崩壊してしまうから、密度は軽くて案外もろいものなんだ」

らしいんだけど、その怪物はそんな常識を問答無用で超越していた。


 圧倒的な暴力の前にハインツさんになす術はなく、全身の骨が砕かれる大怪我を負った。

 テファの治療がなければ死んでいたと思う。


 その日から、俺は決してマチルダさんを怒らせる事だけはすまいと心に誓った。自分が生き残るために。



 「お、恐ろしい怪物?」


 「い、いや、気にしなくていいから。あ、そうだ。今日は俺が年少組の相手することになったから」


 「本当? 助かるわ。実はさっきマチルダ姉さんから連絡がきてね、今日の夜頃には帰れそうだって言ってたの。だからおいしい料理を作ってあげようと思って」

 マチルダさんは一週間くらいいなかった。何でもウェールズ王子、いや、ウェールズ王と重大な話があるとかでロンディニウムに出かけて行った。

 どうやら話は済んだみたいだ。

 「そりゃ楽しみだ。わかった。子供の相手は俺がやるから、テファは料理に専念してくれ」

 悪いが俺は料理なんか手伝えない。そう考えても足手まといになるだけだ。だったら出来ることをやるほうがいい。

 それに、テファの料理はもの凄く上手で、魔法学院のマルトー料理長と戦っても甲乙つけがたい接戦になりそうなのだ。


 「お願いするわね」

 そしてテファは森の方に歩いていく、多分料理に使う香草か果物を採りに行くんだろう。


 「さて、俺も俺の仕事をするか」

 俺は家の方に歩いていく。
















 俺は現在固まっている。

 年少組が本を読んで欲しいというので本を手に取ったのだが、その内容が俺の想像の斜め上を行っていた。

 ちなみに8~10歳くらいの元気な連中はハインツさんが外で相手をしている。あの人は散々仕事をしてたまに暇になったときにやってきて俺の訓練の相手をしてくれて、さらに腕白なガキ共と思いっきり遊びまわっている。

 …………一体いつ寝てるんだろ?


 でまあ、まだ小さい4~6歳くらいの相手は普段テファがしてて、今はマチルダさんのお迎え用の料理を作ってるから俺が代わりをやってるんだが、その本が問題だった。


 『三匹の子豚   (狼殺しの秘策)』


 タイトルは問題ないのだが副題がとんでもなかった。

 つーかこんな本を作る存在を俺は一人しか知らない。このハルケギ二アにハルケギニア語で書かれた地球の童話なんてもんがあるわけなく、絶対あの人が作ったに違いない。


 「待てよ、ってことは」

 本棚を見るとやはりあった。


 『白雪姫   (その智謀と覇道)』

 『シンデレラ   (国取物語)』


 この二冊はシャルロットの部屋にもあった。シルフィードはかなり気にいっているようだが、元ネタを知っている俺にとってはとんでもない話だった。

 ちなみにシルフィードが韻竜であることは『ルイズ隊』の面子は知っている。


 「しかもこれ、表紙がものすげえし」

 『三匹の子豚』の表紙は、巨大な鍋を三匹の子豚が囲み狼を煮殺しているシーンだ。どう見ても魔女の暗黒サバトにしか見えない。


 『白雪姫』の表紙は甲冑を着込み、右手に剣を掲げた勇ましい女王が祖国の旗を左手に持ち、丘の上に立っている絵だ。いってみれば風の谷のナウシカのクシャナ殿下のイメージ。


 『シンデレラ』は王子様(王様かもしれない)が玉座に座り、その後ろに宮廷魔術師のごとく灰色のフードを被ったシンデレラが控えている。どうみても王子を裏で操る陰謀家にしか見えず、『シンデレラ(灰被りの娘)』の意味が絶対違う。


 「『三匹の子豚』が1巻、『シンデレラ』が2巻、『白雪姫』が3巻ってことは、まだあんのか?」

 もの凄く嫌な予感がするが、せめて子供達に読んでやれそうな本を探すため他の棚も探す。


 すると。


 第4巻 『桃太郎   (略奪者の最期)』

 表紙は鬼の子供が数人がかりで桃太郎を槍で串刺しにしているところ。
 

 「完全に桃太郎が略奪者で復讐される側になってるし」




 第5巻 『狼と七匹の子ヤギ   (母の復讐果てしなく)』

 表紙は母さんヤギが包丁を握りしめながら血の涙を流しているところ。その周りには子ヤギ達の体の一部が散乱している。


 「普通に子ヤギは狼に喰い殺されて、その復讐に母が暴走する話になってるな」




 第6巻 『醜いアヒルの子   (狂気が産んだ異形の落とし仔)』

 表紙はどっかの実験室っぽい空間、大鍋やら標本やらがあちこちにある。


 「完全にキメラ(合成獣)だよなこれ」




 第7巻 『浦島太郎   (老いてなお気高きその魂)』

 表紙は浦島太郎らしい老騎士が、乙姫と思われる女王の前で臣下の礼をとっているシーン。


 「浦島太郎は王国にずっと仕え続けた重臣なんだな、これから戦争にでも行くのか?」




 第8巻 『サルカニ合戦   (種の生存をかけた最後の闘争)』

 表紙はまさに最終戦争。両軍が正面からぶつかり合う名場面。


 「個人レベルの合戦じゃねえんだな、国家どころか種族の命運がかかってる」




 第9巻 『親指姫   (未熟児を救った奇蹟の医療)』

 表紙には妊婦さんとお医者さんと産婆さんがいる。


 「もう完全に別物だよなこれ、最新の医療で未熟児が救われた話になってるし」




 第10巻 『ジャックと豆の木   (農業改革への道)』

 表紙には広大な農地と実り豊かな作物が描かれている。


 「農業技術者の成功譚だな、プロジェクトXのテーマが聞こえてきそうだ」




 第11巻 『赤ずきん   (鮮血淑女)』

 表紙には狼とその腹を内部からぶち破って出てくる真っ赤な手が描かれている。(やたらとリアルに)


 「これはやべえだろ! どう考えてもR15指定だぞ! つーか何でこんなに内臓がリアルなんだよ!」


 これまでの本はあくまで絵本だから血の描写とかは詳細ではなかった。しかしなぜかこれだけは写真の如くリアルだ。


 どう考えても子供の教育に悪い。つーか最悪。


 「これで全部か、まともな絵本が一つもねえな」

 でも、テファはこれまでこれを子供達に読んでやってたってことか?

 つーかハインツさんはなに考えて作ったんだ?


 「『親指姫』と『ジャックと豆の木』はともかく、他はやべえだろ、特に『赤ずきん』」

 絶対に猟師は出てこないと思う、だって自力で出てきてるし。



 俺は絵本を読んでやるのは諦め、別の手段を探すことにした。












■■■   side:ティファニア   ■■■


 「お帰りなさいマチルダ姉さん」


 「ただいまテファ、お、随分豪勢な料理だね」

 マチルダ姉さんは微笑んでくれる。頑張ったかいがあったわ。


 「姉さんが帰ってくるって聞いてから一生懸命作ったの、その間はサイトに子供達の世話はお願いしたんだけど」

 そういえばサイトから変な話を聞いた。


 「ねえマチルダ姉さん、サイトが言ってたんだけど。ハインツさんが持ってきてくれたあの絵本は問題あるのかしら?」

 ちょっと過激な部分もあるけど、基本的に皆いい話よね。


 「うーん、少なくとも副題と表紙には問題があるね。中身は案外まともなんだけど、あの二つがやたらと不気味だからね」

 確かにそうかも、子供達はもう慣れてるけど初めてみた人なら驚くかもしれない。
 

 「ま、それより私達も食べようじゃないか、このままだとあの子達に全部食べられそうだよ」

 マチルダ姉さんが帰って来たと同時に子供達が凄い勢いで食べ始めてる。


 「こらー! 貴方達! ちゃんとお祈りをしてから食べなさい!」

 私達は神様じゃなくて自然や精霊に祈ってる。

 神様はあの子達もマチルダ姉さんも私も救ってくれなかった。だからハインツさんが、祈るならこっちの方が断然いいってことで始めたところ、いつの間にか定着していた。


 「ま、大目に見てやりなよ。しかし、“いただきます”に“ごちそうさまでした”か、もの凄いシンプルだけど分かりやすくていいね」

 マチルダ姉さんもそう思っているみたい。私もこっちの方が好き、だって色んなものに感謝の気持ちを表すことが出来るから。


 「そうね、それにサイトももう食べてるし」

 子供達と一緒にサイトも勢いよく食べてる。


 サイトは私がエルフの血を引いてるからという理由で怖がらなかった。

 初対面のときから普通に接してくれた。それが私にとっては何よりも嬉しかった。


 「相変わらず元気だね、でも、あの坊やはいい子だよね」


 「ハインツさんのおかげで色々な人が友達になってくれたけど、初対面で怖がらなかった人間はサイトが最初だったわ」

 アイーシャさんは大切なお友達だけど、ヨシアさんは最初に少しだけ私を恐れていた。すぐに親しく接してくれるようになったけど、やっぱり人間にとってエルフというのは無条件に恐れてしまうものなのだろうか。


 「あんた、ハインツのこと忘れてる。まあ、あいつを人間ってカテゴリーにいれていいかどうかは微妙だけどね」

 笑いながら言うマチルダ姉さん。そういえばハインツさんも人間だった。


 「私、すっかり忘れてたわ。だってハインツさんはハインツさんなんだもの」

 ハインツさんはどういう人かと聞かれても、ハインツさんだとしか答えられないと思う。


 「確かに、あいつはあいつだね、それ以上でも以下でもない。だけど、どこいったんだいあいつ?」

 そういえば見当たらない、さっきまではいたはずなのに。


 「料理の追加だーー! 思いっきり食えーーー!!」

 そう言いながらハインツさんが台所からやってきた。大皿に料理が山盛りになってる。

 子供達は目をキラキラさせて喜んでるわ。


 「また随分でっかいねありゃ、つーかあんなのどこで覚えたんだか」


 「確か、“暗黒街”っていう場所で酒場のマスターをやってる時に覚えたっていってたわ」

 私にはよく分からない場所だけど、ハインツさんは10歳くらいの時からそこで色んな仕事をしてたって言ってた。


 「またもの凄いねそりゃ、まあ、あいつは何でもありだから今更驚かないけどね。さ、私達も食べようか」

 そして私達も席について皆と一緒に食べる。




 私は今幸せだって心から言える。けど、この子達もいつまでも子供のままではいられないし、広い世界を見せてあげたいと思う。

 それに私自身も見てみたい、そしていつか、ハインツさんやマチルダ姉さんのように色んな人達の手助けをするために働きたい。


 私はエルフと人間のハーフとして生まれたけど、だからこそ出来ることもあるはず。

 母の故郷である東の土地を見てみたいし、エルフの人達とも話してみたい。


 今はまだ守られることしかできないけど、いつかは私も守る立場になりたい。そしてあの子達もまたそうなってくれると嬉しいと思う。


 私はこの揺り籠の森の中で過ごしながら、いつかそういう未来が来てくれることを祈っていた。














■■■   side:ルイズ   ■■■


 私は現在ロサイスの街にいる。


 ここに来る前にトリスタニアに寄って姫様にアルビオンにサイトを迎えに行くということを話したら、それ専用に船を出してくれた。


 どうやら諸国会議の際にホーキンス将軍からサイトのことを聞いたらしく、サイトを『シュヴァリエ』に叙勲する予定だという。

 「ま、それに相応しい活躍をしたのは間違いないわけだし」

 サイトはこの世界の人間じゃないけど帰るための方法はハインツが調べる、というか研究しているらしい。

 何でも古代のマジックアイテム中には“虚無”を封じたアイテムもいくつかあって、その中に『門の鏡』というものがあったそうだ。

 その解析が済めば、あとは私の協力次第でサイトを向こうに送ることも、またこっちに呼び寄せることも可能になるとか。

 「呼び出したのが私なんだから、私が送り返せるのも道理」


 そういうわけでサイトが帰る方法の探求も確実に進んでいるよう。サイトも最短2年、最長5年はかかるって言われてたそうだから特に意見はなさそう。

 それに、私が虚無に目覚めたことで実践段階に進むのが容易になり、おそらくあと半年もあれば十分だろうと言っていた。


 「ま、タバサがこっちにいる以上、一旦里帰りしたらまた戻ってくるでしょうけど」

 だから『シュヴァリエ』になることも問題ない。そういう風に実力がある者はどんどん登用しないと組織が腐るしね。


 ちなみにその腐った組織の代表といえたウェインプフェンはしっかり地獄に送っておいた。今頃家財を全部失って路頭に迷ってるころでしょうね。

 あいつの保身の為にサウスゴータ撤退戦で死んだ者の命が無駄になったんだから、当然の報いだわ。


 「さて、目指すはウェストウッド村ね」

 私はハインツからサイトのことは聞いている。

 7万の大軍に突っ込んだサイトがどうなったのか、その後どうしていたのかもしっかりと聞き出した。

 あいつもそのへん律義というか、細かく教えてくれたし。


 「ま、それはそれとして、網にかかるかしらね?」


 確率は3割くらいか、だけど張るには十分な確率。こっちには賭けても減るものがないんだからどんどん張るべき。


 そして私は街道を馬で駆けだした。













■■■   side:シェフィールド   ■■■


 ロサイスから25リーグほど離れた場所にあるミレルドの街。

 今ここにトリステインの担い手がいる。


 使い魔を迎えに行くためにウェストウッド村へ向かうなら、必ずここで一泊するはずだと思ってたけどその読みは正しかったようね。


 「さて、どの程度成長してるかしら?」

 私が彼女を見たのはサウスゴータの撤退戦の時。

 その時に既に相当な使い手に成長していたけど、あれから2か月近く経っているからさらに成長していてもおかしくない。


 「いえ、虚無魔法そのものはそれほど優れているわけではないわね、だけどその運用が桁外れに上手い」

 今は“虚無(ゼロ)”ではなく“博識”と名乗ってるそうだけど、“虚無”の方が余程戦いやすい相手ではあるわ。


 「だけど、私とて神の頭脳“ミョズニト二ルン”。そう簡単に破れると思わないことね」


 私はガーゴイルを起動させる。

 最初はアルヴィーやスキルニル程度で済まそうかと思っていたけど、相手はあの“博識”。侮ることは危険と考え“カレドウィヒ”や“ボイグナード”も動員することにした。


 「虚無は強力なれど詠唱に時間がかかる。そんな暇があるかしらね?」

 旦那様の『加速』が使えるなら話は別だけど、現在彼女が使えるのは『爆発』、『解除』、『幻影』のみ。
 

 「どこまで戦えるか楽しみね」









■■■   side:ルイズ   ■■■


 ウェストウッド村へ行く途中立ち寄ったミレルドの街で私は一泊し、明日の朝出発することにした。


 アルビオンの街は街道からやや離れた地点にあることが多く、支道がそれらを繋いでいる。


 で、夜になって妙な空気を感じて、待つのも相に合わないのでこっちから向かうことにした。



 「こんばんはお嬢さん、夜道の一人歩きは感心しないわね」

 黒いフードを被ったいかにも怪しい人物がいた。


 「あら、女性なのは貴女も同じでしょう? もっとも、貴女のように美しければ逆に気後れして手を出せないかもしれないけど」

 世辞じゃなくて本当にそう思う。なんかこいつ、エレオノール姉様と似た雰囲気を感じるし。


 「嬉しいことを言ってくれるわね、それで、用件は何かしら?」


 「先に話しかけてきたのはそっちでしょう、もうボケが始まったの?それとも見かけによらず歳くったおばさんなのかしら?」


 ブチッ、という音がした。聞こえるはずはないんだけどそういう確信がある。


 「そう、死にたいようね小娘」


 「あらあら、近頃のおばさんは短気で嫌ねえ、そんなんだといき遅れるわよ?」

 エレオノール姉様のように。


 しかし、相手は一転、冷静になる。

 「ふ、ふふふ、甘いわよ小娘。真実の愛の前にはそんなものは微塵の障害にもならないのよ」


 もの凄い誇りに満ちた言葉ね、だけど悪役っぽい格好で言われても説得力が無いわ。


 「あっそ、じゃあ話を戻すわ。貴女確か、この街の入り口あたりでアルヴィーを使った大道芸をやってたわよね。なんで神の頭脳“ミョズニト二ルン”たる貴女がそんなことをやっているのかしら?」

 顔が引きつってる。どうやら少しは動揺したみたいね。


 「貴女、随分と物知りなのね」


 「“博識”と言ってほしいわね、てゆーか貴女、隠す気ないでしょ」

 思いっきり額にそのまま書いてあるもの、見破ってくださいと言ってるようなものだわ。


 「そう、私が虚無の使い魔と知っているのなら、私の目的も分かるんじゃなくて?」


 「想像はつくけどあくまで想像でしかないわ。それに、事実ってのはいつだって物語よりありえないことが多いもの。自分の中で勝手に真実を固定して思考を硬化させることは悪手もいいところよ」
 
 常に心は冷静に、心の天秤は常に真中に置いておかないと正確に測ることなんてできやしない。


 「ふ、ふふふふふふふふふふふふ。素晴らしいわ貴女、合格よ。ご褒美に少し遊んであげるわ」

 合格、ね。随分ふざけた言い草だけど、ここはのるのが一番かしら。


 「イサ・ウンジュー」


 『爆発』で吹っ飛ばすけどそこにあるのはアルヴィーのみ。


 「神の頭脳ミョズニト二ルン、能力は魔法具を自在に操ること。厄介ね」

 こういう手合いは奇襲を受けた時点で退却するに限る。


 「そうよ、降参でもするかしら、“水のルビー”と“始祖の祈祷書”を差し出せば見逃してあげてもよくてよ?」


 「燃やしたわよ」


 「は?」


 「だから燃やしたの、あんなの存在する方が毒だわ。あんなもんがあったせいで偽物の始祖の祈祷書が何冊も出て権力者にいいように利用される結果になったんだから。まったく、始祖ブリミルは阿呆だったのかしらね?」

 さて、どうでるかしら。


 「ふふふふ、貴女は本当に面白いわね。でも、そうなると貴女の命の代替えになるものはないわね」


 「いいの? 私が死んだら虚無の担い手が一人減るけど」

 それでも躊躇わず殺せるなら答えは一つ。


 「構わないわ、貴女が死んでも代わりはいるもの」

 なるほど、大体想像ついたわ。


 「『幻影(イリュージョン)』!!」

 数体の自分の幻影を作り出しその隙に逃げる!


 「な!」

 まさかいきなり逃げるとは思ってなかったみたいね。


 宿屋の裏手に繋いでおいた馬の所まで戻り、あとは一気に街を駆け抜ける。




 しかし、それは阻まれた。


 「随分手の込んだ真似をするわね」

 街を出たすぐには数十体ものガーゴイルがいた。


 槍や剣を持っているのが半分、もう半分は弓や銃を持っている。


 「ふふふ、そう簡単に逃げられると思っていたのかしら?」

 そしてそいつらを率いるのもミョズニト二ルン。


 「貴女、双子だったのかしら?」

 答えは分かりきっているけどあえて問う。


 「まさか、答えは分かりきっているでしょう」


 「スキルニル。血を吸わせることで本人の姿、記憶、能力をそのまま継承できる古代に作られた魔法人形。だけどメイジの血を吸わせても魔法を再現することはできず、古代の王達は平民の剣闘士などの血を吸わせ戦争ごっこを楽しんだと言われてるわね」

 そのくらいは誰でも知ってる。


 「流石に“博識”を名乗るだけはあるわね、そう、ミョズニト二ルンである私はスキルニルに自分の能力を再現させることが出来る。つまり、私が何人もいるのと同じことね」

 自慢げに言うミョズニト二ルン。

 「嘘はいけないわよ。使い魔のルーンの力には限りがあるわ。“自分の能力をコピーできるようにスキルニルを操る”という行動をとれるのは本体のみでしょう。つまり、本体が一度に操れる限界数しか分身を作り出すことは不可能よ」

 こっちも“ガンダールヴ”を召喚した身。ルーンの限界くらいは熟知してる。


 「本当、厄介ね貴女。やっぱりここで死んでもらおうかしら」

 そして周囲のガーゴイルが起動する。


 「随分強そうなガーゴイルね」

 私は銃をとりだしながら言う。


 「ええ、近接戦闘型の“カレドウィヒ”に遠距離戦闘型の“ボイグナード”。どちらも本来の戦闘能力はそれほどでもないけど、ミョズニト二ルンが操れば強力な手駒と化すわ。そんな旧式の銃一つではどうにもならないわよ」

 なるほどね、量産型でもこいつが操れば強力な兵器に早変わりするわけね。

 つまり、主人に権力や財力がなければ無力な使い魔。何せマジックアイテムは高いから。

 けど、主人が権力、財力を共に備えていた場合、最も厄介な使い魔となる。


 「おあいにく様、どんな兵器でも使い方次第で最強の武器になるのよ」

 私は“ガンダールヴ”の上官なんだからその運用を考えるのは私の役目。


 私は銃を空に向けて撃つ。


 「信号弾? 無駄よ、今この街の付近に治安維持用の部隊は存在しない、夜盗が出ようが幻獣がでようが誰も助けにはこれない」

 そりゃそうでしょうね、襲いやすいようにあえてそういう場所に来たんだから。


 「これはただの景気づけよ、私が貴女をぶっ飛ばした後は片付け役が必要だもの」

 そして『爆発』の詠唱を始める。


 「間に合うとでも思ってるの、やりなさいガーゴイル」

 周囲から一斉にガーゴイルが襲ってくる。

 私は粉々にするんじゃなくて遠くへ吹き飛ばす程度の『爆発』を連続して放つ。


 「あら、粋がってた割にはもう防戦一方ね」

 ミョズニト二ルンには余裕がある。この状況を続けていれば先に体力が尽きるのはこっちの方だからね。

 こいつらはそんなに上等なガーゴイルじゃないから操るのには苦労しないはず。つまりあいつにとってはただ観戦してるに等しい。



 「くっ」

 徐々に包囲の輪が縮まっていく、四方から一斉に襲いかかられたら防ぎきれないわ。


 「さて、割と粘ったけどここまでのようね」

 敵も飽きてきたみたいね。だけど、準備が整ったのはこちらも同じこと。


 だって反応してるもの、“共振の指輪”が。


 「いいえ、負けるのはそっちのほうよ」

 私は堂々と言い放つ。


 「どうしてかしら?」


 「そりゃあ当然、あんたが私を舐め過ぎたからよ!」

 その瞬間、『神速』が吹き抜けた。


 あっという間に十体近いガーゴイルが腰から両断される。

 「な、ガンダールヴ! なぜここに!」

 私は即座に『解除(ディスペル)』の詠唱を始める。


 「なーに言ってやがる! 俺は『ルイズ隊』の切り込み隊長だぜ! 司令官が大砲をぶっ放すまで前戦で敵を食い止めるのが役目なんだよ!」

 堂々と言い切るサイト。だけど、そろそろ『ルイズ隊』っていう仮の名前じゃなくて正式名称を決めた方が良さそうね。


 「く!」

 “ボイグナード”が一斉に撃つけどサイトには当たらない。馬鹿ね、狙うなら動かない私でしょうに。ま、冷静な判断力を奪うためにサイトが奇襲をかけたんだから、そうなってもらわないと困るんだけど。


 ミョズニト二ルンは咄嗟に周囲に“カレドヴィヒ”を集結させてサイトから身を守ろうとするけど、それは意味のないこと。

 既に詠唱は完了した。


 「今だルイズ! ぶっぱなせ!」

 この連携はサウスゴータで嫌になるほどやったからね、タイミングを完璧に合わせることなど造作も無いわ。


 「『解除』!!」

 司令塔であったスキルニルの起動が解除され、それに伴って周囲のガーゴイルも機能を停止していく。
 

 ここに勝敗は決した。













■■■   side:才人   ■■■


 「で、あいつは一体何だったんだ?」

 ウェストウッド村に馬で向かいながら俺は隣を並走するルイズに尋ねる。


 「虚無の担い手を狙う輩の一人よ、もっとも、予想以上の大物がかかったようだけど」


 「どういうこった?」

 俺がルイズから手紙を受け取ったのはつい半日前。

 そこにはこう書かれていた。


≪女王直属特殊護衛隊隊長“ゼロ”より通達。汝はただちにロサイスとウェストウッド村中間に位置するミレルドの街に可能な限り迅速に向かうこと。その地に着いてよりは“ゼロ”との合流を第一とし、その為のアイテムを同封する≫


 とまあ、受け取った時はまた戦争が始まったのかと思った。


 「要はね、私達はアルビオン戦役で散々暴れたでしょ、あんたなんか一人で7万を止めたわけだし。だから私達の力を利用しようとして何者かが接触してくる可能性も考えられた。そしてもし接触してくるとしたらこのアルビオンで接触してくる可能性が高かった。流石に魔法学院に戻られたら手だしはしにくいからね」


 「それでわざわざお前が一人で来たのか?」

 相変わらず無茶する奴だ。


 「そうよ、ロサイスまでは軍艦で来たけど、その後は一人で馬に乗ってきたわ。ま、あんたと合流できるように策は打っておいたから問題なかったし」


 「それそれ、どうやって俺に手紙を送ったんだ?」

 いきなり手紙が届いてマジでびっくりした。


 「伝令用ガーゴイル“リンダーナ”よ、コルベール先生の研究室にはそのために『ルイズ隊』全員の血液が保管してあったでしょ。それを仕込んであんたのもとに届けさせたのよ」


 「そういやそうだったけか、だけど、よく時間ぴったりに届いたな」

 まさに完璧なタイミングだった。


 「当然よ、出したのはロサイスからだもの」


 「は?」


 「私がラ・ロシェールからロサイスに出発する際に学院にいるモンモランシーに伝書フクロウを飛ばしたの。直ちに私宛に“リンダーナ”を飛ばせって、血を仕込むのは水メイジのモンモランシーが一番得意だからね」

 なるほど、ん、それでも問題ないか?


 「なあルイズ、“リンダーナ”って一度血を記憶したら忘れるまでかなり時間がかかるんじゃなかったけ?」

 確か一か月くらいは。

 「簡単よ、私の『解除』で初期化したの。そして、“リンダーナ”が私に持って来たのがあんたの血液で、それを新たに仕込んで“共振の指輪”を持たせたのよ」

 流石はルイズ、計画に無駄が無い。

 “共振の指輪”ってのは対になってて、遠く離れてると青くなって、近くなると赤くなっていくという指輪で、戦場で仲間と合流するときなんかに使う。幻獣退治を二人一組でやってるときは大抵これを使っていた。

 もっとも、アルビオン戦役では俺とルイズは一緒に行動してたから使ってなかったけど。

 この指輪はその名の通り近くにあると振えるので常に持っていたい品じゃない。


 「なるほどな、それで信号弾を撃った訳か、あの信号弾の意味は」


 「パターン2。司令官を囮にして敵をおびき寄せ、その敵を殲滅する。よく覚えてたわね」


 「当然だろ、嫌になるほど叩き込まれたからな。今となっちゃあルネ達とのいい思い出だけどさ」

 ルイズによって俺達は信号弾の種類を叩き込まれた。間違えたら『爆発』で吹っ飛ばされるというオマケつきで。


 「私の厳しい指導も役に立ったようで何より」


 「厳しいって自覚はあったのかよ」

 それであえて続行するとは、恐ろしいやつだ。


 「当然よ、さて、あんたには言っておくことがあるわ」

 そしてルイズは悠然と構えて言う。



 「街道の死守命令を見事果たしたその功、見事だったわ、よく生きて戻ったわね」


 「お褒めにあずかり光栄です。隊長殿」


 そして俺達は再会したのだった。







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