降臨祭の最終日はいつもと変わらぬように始まった。 降り続けた雪によってシティオブサウスゴータの街は銀世界となっている。 しかし、突徐として反乱が起こった。 兵から不満が上がっていたわけでもなく、上層部に内通者がいたわけでもなかった。 にも関わらず全軍の半数が反旗を翻したのである。第二十二話 撤退戦■■■ side:ルイズ ■■■ 「『解除(ディスペル)』!!」 私の『解除(ディスペル)』によって裏切った兵士達の洗脳が解かれ、彼らは正気を取り戻していく。 「ルイズ! 東からも数十人規模で向かってくるぞ!」 「分かったわ! あんたは南の退却路を維持して! まだ撤退が完了してない部隊が大勢いる!」 「了解!」 サイトは退却路の確保に向かう。 この反乱の正体を察してるのは私達くらいだろうから、どの指揮官も完全に混乱してる。 「いえ、その指揮官が操られている大隊や連隊も多い」 反乱軍も秩序だった連携がとれているわけじゃない、ただ単純な攻撃をしかけてくるだけ。 「とはいえ今日の朝まで味方だった連中に魔法や大砲をぶっぱなせるわけもなし、攻撃を防ぎながら退却するしか道はないわけね」 全く、ここまで大がかりにやってくるとは。 「とりあえずここの区域は確保しないと、大通りが制圧されたら退却そのものが不可能になる」 私は再び『解除』を唱え始めた。■■■ side:才人 ■■■ 「おらあ!」 俺はモンモランシー渾身の作品を放り投げる。 ジュワアアアアアアアア。 って感じの音を立てて『眠りの雲』が広がっていく。 「やっぱ屋外じゃそんなに効果はねえか」 それでも何十人かはぶっ倒れてる。 「あのゾンビ野郎共にゃあっち系は効かねえし」 涙が止まらなくなるような煙やむせる煙をだすのもあるが、どっちを喰らっても構わず突進してきやがった。 「女王様が誘拐された時のゾンビ軍団と同じ、違うのは死体か操られてる人間かだけで、切られようが蹴られようがお構いなしってとこは同じな訳か」 もっとも、一度死ねば蘇ることはねえだろうけどそんなわけにもいかんし。 「頼みの綱はルイズの『解除』だけってことか」 「ま、そうなるわな」 デルフが答える。 「だけどようデルフ、『アンドバリの指輪』ってのは何万人も操れるもんなのか?」 「さあな、俺もそこんとこは疑問なんだよ、確かに水精霊の秘宝の力ならそんだけのことは可能かもしれねえが、それを最大限に引き出すのは人間にゃあ難しいはずなんだがな」 デルフも気になってるみたいだ。 「つーことは人間以外なら出来るのか?」 「多分エルフとかなら出来ると思うぜ、だけどハルケギニアを統一して聖地奪還を果たすって言ってる『レコン・キスタ』にエルフが協力するわきゃあねえと思うがね」 そらそうだ。 「結局わけわかんねえ、ってことか」 「だなあ、とりあえずここは貴族の娘っ子が来るまで持ちこたえるしかねえわな」 「何か役立たずだなあ俺ら」 「しゃあねえだろ、ガンダールヴは戦闘員だからなあ、そういうのは担い手の担当さ」 俺はデルフを持って切り込んでいく。 こうなったら気絶させるくらいにぶん殴るしかねえ。■■■ side:ギーシュ ■■■ 「グラモン中隊! 全員揃ってるか!」 「駄目です中隊長殿、数十人ばかし足りませんや」 軍曹さんがそう答える。 この反乱は例の『アンドバリの指輪』ってやつの効果だろう。まさか都市一つを操れるとは思わなかったが。 「なあ軍曹、僕達は基本的に一箇所で宿営してたよな」 「まあそうですな、上からの指示で水場だけは定期的に変えてましたが」 ということは他の奴らが洗脳されてる可能性は低いな。 「よし、ここでしばらく待機する。全員かそれに近いくらいが揃うまでは防御に徹しよう」 反乱軍の攻勢はそれほど強くない、落ち着いて対応すれば被害は大きくならないはずなんだが。 「それは原因を知っていればこその話か、僕だって予備知識なしでいきなりこんな状況に放り込まれたら訳も分からずひたすら逃げてるだろうしなあ」 だからこそ予備知識がある友人は頼りになる。 「おーい! マリコルヌ!」 「なんだいギーシュ」 向こうからマリコルヌがやってくる。 補給の任を済ませた彼は僕の中隊で寝泊まりしていた。降臨祭だったので士官候補生が一人どっか別の場所で寝てても上官は文句を言わなかったそうだ。 「頼みがある。君の『遠見』で僕の中隊の連中を探してくれないか」 彼は“風上”のマリコルヌ、『遠見』にかけては定評がある。もっとも、最近は“空気穴”の方が有名になりつつあるが。 「おいおい無理を言うな、君の中隊の連中の顔なんて覚えてないぞ僕は」 まあそりゃそうだろう。 「大丈夫、一番みっともない格好をしててやる気なさそうな奴らを探してくれればいい、多分何人かずつで固まってると思うからそういったゴロツキ集団を探してくれ」 「なるほどな、よし、やってみよう」 「でさ、全員揃ったら可能な限りサイトとルイズを手伝ってやろう、何せ僕達は退却路に関してはなんの心配もないからな」 「確かに、どうせならやるだけやってみようか」 マリコルヌは『遠視』を開始する。 中隊長を任されたっていうか、逃げた士官の代わりに押し付けられた僕だが、どうせだからその権限を最大限に利用して使い魔のヴェルダンデを連れてきた。 中隊長ともなれば自分の使い魔を乗せるために船にスペースを確保することが許されるのだ。 そして、ヴェルダンデ、僕、マルコルヌのコンビネーションで覗き穴、もとい緊急脱出用トンネルを作っておいた。 断じて女性の着替えなんかを覗く為に掘ったのではない。 「本当に、世の中何が役に立つか分からないもんだな」 さて、どの程度持ちこたえられるかな。 退却が始まれば他の部隊は重装備を捨てていくだろうから、それらを頂けばかなり戦えるはず。 ゴロツキ集団が戦場で火事場泥棒をしてるようなものだけど、僕とマリコルヌが率いるならそんな部隊の方が合っている。 「こちとら着替えを覗いては女子達に追いかけ回されてる身だ。退却戦はお手の物さ」 ことその点にかけては僕とマリコルヌに死角は無い。■■■ side:ルイズ ■■■ 私とサイトは今現在ある宿屋で休息中。 「流石にしんどいわ、倒しても倒しても敵が湧いて出てくるってのは精神的にくるものね」 「こっちもキツイ、かなーり動き回ったからなあ」 サイトも疲れがあるみたいね。 「しかし迂闊だったわ。まさかこんなに大規模にやってくるとはね」 予想はしてたけどその規模が想像以上だった。 「まったく、よくまあこんな真似してくるもんだ」 サイトは呆れてる。まあその気持ちは分かるわ。 姫様が誘拐されかかった時の手口から考えると、クロムウェルがもつ“虚無”の力とやらで将軍クラスを洗脳してくる可能性はかなり高かった。先住の「水」の力だから井戸水に仕込むような方法もありえるので、連合軍の兵士は定期的に使用する井戸を変えるように命令されていた。 これは女王陛下の勅命だったから将軍達も異論はなくすんなり受け入れられた。そして一部が洗脳された時は私が『解除』で解くことになっていた。 私が連合軍の“切り札”であったのは『アンドバリの指輪』に対抗できる唯一の人材だったからでもある。 「私達は念のため『解除』をかけてから食事してたからね、治療役が洗脳されたんじゃ話にならないし」 「だけど多く見つもっても数百人くらいだと思ってたからなあ、まさか数万規模でやってくるたあなあ」 そこが完全に予想外だった。 「多分大元の水源に仕込んだんでしょうね、井戸を変えても広範囲に仕込まれたら意味ないし、あの対策は井戸に毒が投げ込まれるような状況を想定して立ててたから」 私の『解除』で解ける数には限りがある。流石に数万は不可能ね。 「ここはもうもちそうにねえな、ギーシュとマリコルヌの中隊が結構踏ん張ってくれてるけど、それも限界が近そうだ」 予備知識があったのが功を奏したんでしょうね。 だけど何でマリコルヌもいるのかしら? 「もう昼近いけど防衛戦は崩壊寸前、総司令官のド・ポワチエとゲルマニア軍司令官ハイデンベルグ侯爵は戦死。参謀総長のウィンプフェンが街外れに臨時の司令部を置いてるけど持ち直すのは不可能ね」 「んな情報どこで知ったんだ?」 「ルネ達よ、第二竜騎士中隊には空から情報収集してもらってるの。彼らは全員無事だったし、どうやら竜は洗脳されてないみたい。竜騎士が洗脳されても竜は頭がいいから意思がない主人の命令には従わないようね」 「だから敵の攻勢がそんなにきつくねえのか」 「ま、他にもいくつか理由はあるけど、それでも戦線崩壊は時間の問題ね。そろそろ総退却に移らないと被害が増える一方よ、サイト、信号弾準備」 休憩はここまで、また遊撃戦の始まりね。 「了解、全員集合の合図でいいな」 「それでいいわ」 私達は屋上に出る。 中隊長のルネを先頭に第二竜騎士中隊の面々が降下してくる。 「ルネ、状況はどう?」 「もの凄く悪い、君達が防いで回った区域以外は完全に破られた。何しろ指揮系統が完全に混乱しているからな」 やっぱ最悪みたいね。 「確認しておくけど、敵の攻勢が強い部分にむらがあるでしょ」 そこは重要。 「そうみたいだ、一部分が強くてあとは緩やかって感じだな。じゃなきゃとっくに軍全体が崩壊してる」 なるほど、だったら方法もあるわね。 「アッシュ、街外れの司令部に行ってウィンプフェン総司令官に伝言をお願い」 アッシュはルネの副官、ウィンプフェンは現在総司令官になっているはず。 「内容は?」 「女王直属特殊護衛隊隊長“ゼロ”より総司令官へ、シティオブサウスゴータの戦線の崩壊は時間の問題、至急ロサイスへ撤退されたし、殿軍は“ゼロ”と第二竜騎士中隊で受け持つ故」女王直属特殊護衛隊隊長ってのはこの戦争の為の架空の役職ね。 「分かった!」 飛んでいくアッシュ。 「おいルイズ! 僕達で殿軍をやるのか!?」 叫ぶルネ。 「大丈夫、あんた達は私とサイトを運ぶのと、これまで通り情報収集にあたってくれればいいわ」 それで十分。 「ルイズ、どうすんだ?」 訊いてくるサイト。 「いい皆、簡単に説明するとおそらく敵のメイジが数万の兵士を洗脳してる。私はそれを解除できるけど一度に数十人が限界、普通にやったら意味がないから最大効率で解除していくわよ」 「どうやって?」 これもサイト。 「いい、洗脳してるとはいっても敵はただ単純に攻撃してくるだけで複雑な戦術はとっていない。つまりそのメイジが直接操作しない限りそれほど脅威じゃないわ、だから直接操作されてる部隊を優先的に解除してやればいいのよ」 「でもどうやって判断するんだ?」 これはルネ。 「それは簡単、敵の攻勢が一番強いところよ、第二竜騎士中隊が空から見張ればそれがどこかはすぐわかるわ。あとは私とサイトをそこに降ろしてくれれば十分。私が解除したら敵は別の部隊を操作するでしょうから私達もまたそれを潰していく、後手後手になるけどこの際仕方ないわ。先手を打とうにも洗脳してる人物が誰か皆目見当つかないし」 一気に説明する私。 「なるほど、だけどどうやって洗脳を解くんだ?」 ルネが訊いてくる。 「それはトリステインの国家機密に属することだからあんたたちには話せないわ、下手に知ると王宮から消されかねないから、そこは私達女王直属特殊護衛隊に任せなさい」 「わ、分かった」 そしてサウスゴータ撤退戦が開始される。■■■ side:才人 ■■■ 「ルネ、向こうの部隊がぼろぼろになってるぜ」 「今度はあっちか、ルイズ」 ルイズに確認をとるルネ。 「あっちに向かって、サイト、信号弾はまだある?」 俺は手持ちを確認する。 「あと4発しかねえ、ルネ、持ってるか?」 「いや、僕は持ってないけど確かフェルナンが持っていたと思う。今度拾いに行く時までにもらっとくよ」 「頼んだぜ、あれがないとお前達に合図が送れねえからな」 そして俺達は激戦地に向かう。 「ラアアアアアアアア!」 ガッ!ゴッ!ガッ! 俺の役目はひたすら突っこんで敵の注意を惹きつけること、そしてルイズが『解除』をぶっぱなす。 「相棒! 銃兵だ! 右に跳べ!」 デルフの言葉を頼りに思いっきり横っ跳びする。 ガガガガガガガン! ついさっきまでいたところを弾丸が通過していく。 ヒュヒュヒュヒュ! 俺は仕掛けボウガンに切り替え銃兵に連射する。 「突っ込むぜデルフ!」 「応よ! 索敵は任せな!」 そして短槍隊に突っ込む。 「『解除(ディスペル)!』 その時、ルイズの『解除(ディスペル)』が炸裂する。 「相棒! 合図だ!」 「了解!」 俺は信号弾を込めた銃を引き抜いて上空へ撃つ。 敵は無力化しているのでそのままで待つ。 「サイト、まだいける?」 ルイズが訊いてくる。 「あと4,5回ってとこか、流石にキツくなってきた」 最初の頃はもっと楽に動けたんだけどな。 「そう、もう2時頃だし洗脳を受けてない部隊の大半は退却済み、あと2,3回やったら私達も退きましょう」 「サイト! ルイズ!」 そしてルネが降りてきた。 俺達はルネの愛竜ヴィルカンに乗って上昇する。 「さーて、次はどこだ?」 俺が次の場所を探していると。 「ルイズ! サイト! アレを見ろ!」 ルネが急に叫んだ。 「何だ、って、あれは!」 「アルビオン竜騎士隊!!」 北から200騎近い竜騎士隊が向かってきている! 「アルビオン軍の先遣部隊ね、ということは本体もかなり近くまできているってことだわ」 「最悪のタイミングできやがったな」 なんつう野郎だ。完全に時間まで調整してやがる。 「ルイズ、どうする、こっちは10騎しかいないからとても太刀打ち出来ないぞ」 ルネがそう言う。 「サイト、ルネ、パターン4に移行するわよ」 そしてルイズは詠唱を始める。 「分かった」 俺は全員集合の合図を打ち上げる。 「ヴィルカン、上昇だ」 ルネも竜を上昇させる。 「『幻影(イリュージョン)!!』 ルイズの『幻影』が発動し、200騎近い竜騎士隊が作り出される。 「これで敵の竜騎士隊は吸引できるわ、私達は退却するわよ」 ルイズがそう指示を出す。 「あの幻影はどれくらい持つんだ?」 俺は一応確認する。 「私がこの場にいなくても30分は余裕でもつわ、その間に最高速で逃げましょう」 「分かった、僕達が乗ってるのは皆風竜だからな、一度距離を離せば追いつかれっこない」 第二竜騎士中隊は戦闘じゃなくて哨戒や護衛がメインだから全員風竜に乗ってる。戦闘がメインの奴らは普通火竜に乗る。 ま、最初の任務がダータルネスの陽動作戦だったから当然なんだが。 「俺達に出来るのはここまでだな、ああーー疲れた」 気が抜けたら一気に疲れが出てきた。 「朝から6時間以上戦ってたからね、私も疲れたわ」 ルイズもぐったりしてる。 「だけど、敗走してんだよな俺ら」 その事実が重い。 「今は出来ることをやるしかないわよ、これ以上兵力を失ったら再起を図ることもできなくなるわ」 すげえなこいつは、この絶望的な状況で再起戦のことを考えてんのか。 「まったく、お前には敵わねえよ」 「後ろ向いてるよりゃよっぽどましよ、悲壮感は私達には似合わないし」 「だな」 そうして俺達はロサイスに向かった。■■■ side:ハインツ ■■■ 「いやいや、見事なものだ」 俺は『遠見』で彼らが乗った風竜が南西に飛んでいくのを見守っている。 「そうは思いませんか? シェフィールドさん」 後ろに振り返りながら彼女に尋ねる。 「確かにそうね、この状況でよくぞここまで冷静かつ的確な対応をとれるものだわ」 ついさっきまで部隊の操作をしていたからかやや疲労感が声から感じられる。 ちなみにマチルダは里帰りの真っ最中、今頃テファや子供達に囲まれてることだろう。 「でしょう、彼らの成長は凄い速度ですよ、俺もこの短期間でここまで成長するとは思ってませんでしたから」 彼らの成長速度は予想をかなり上回っている。 「そう、それならわざわざ部隊を操作した甲斐があったというものかしら」 俺達はシティオブサウスゴータに存在する『ゲート』を使って直接ここにやってきた。 そしてシェフィールドが『アンドバリの指輪』と同質の宝石の力を発揮し連合軍の半数を操った。さらに俺の指示で部隊を小隊や中隊単位で操作してもらい都市制圧を効率よく進めてもらった。 しかし、ルイズはその攻勢の違いからシェフィールドが直接操作している部隊とそうでない部隊を見分け、『解除』で効率よく敵を無力化していった。 「まあ、万が一に備えて竜騎士隊を動員しておいてよかったということか」 アルビオンの竜騎士隊は数や質においてハルケギニア最強ともいわれる。 破壊力と総数なら火竜山脈を抱えるガリア竜騎士隊が勝るが、風竜の数ではアルビオンが勝る。流石は“風のアルビオン”。 ちなみに竜騎士隊の派遣を命令したには当然ゲイルノート・ガスパールである。 「さて、あとは特にやることはないのかしら?」 「ええ、じきにアルビオン軍本隊がここに到着します。ゲイルノート・ガスパールとオリヴァー・クロムウェルは1万の兵と共にここに残り、ホーキンスとボアローの二将軍がそれぞれ2万ずつを率いてそのまま前進します。反乱軍はその中軍に編入させるので」 前軍はボアロー率いる2万、中軍は反乱軍3万、後軍はホーキンス率いる2万、合計7万の大軍となる。 そしてロサイスを奪還し次第、ゲイルノート・ガスパールとオリヴァー・クロムウェル、さらには円卓に座る政治家貴族達も全員が向かい、ボーウッド提督とカナン提督は45隻の戦列艦を率いて撤退する連合軍を追撃することとなっている。 そこに、予想外の敵が現れるわけだが。 「そう、なら後は“アレ”を起動させるくらいね、もう操縦には慣れたかしら?」 「ええ、何せ自分の分身ですから一発で慣れました。もっとも、反動が少々キツイですが」 「当然ね、本来なら私(ミョズニト二ルン)でもないと操れないような代物よ、それを操作できるように貴方の脳に“土精魂”の欠片をを埋め込んだんだから」 これもまた6000年の闇の技術の一端である。 もっとも埋め込んだのは俺の“スキルニル”であり、地球の外科手術を応用したので副作用は少ない。 「本当に感謝してますよ、そうしないと劇の中盤の山場がいい感じで終わらないんで」 もっとも脚本は陛下の担当で、俺は演出担当だが。 「そう、ならここからは私も観客として見物させてもらうとするわ、皇帝の秘書の役割も終了したしね」 「そういや、クロさんはもうヴェルサルテイルですか?」 「ええ、『ゲート』でもう行ったわ、今頃イザベラ様から今後の説明でも受けているんじゃないかしら」 イザベラは“イザベラ様”なんだよなあ。 「何か文句でもあるの?」 「いいえ何にもありません」 なんでこの主従は俺の心が読めるんだ? 「そう、後は貴方の役目よ、アルビオン戦役の最終局面、楽しみにしてるわ」 「ま、任せておいてください」 いよいよ最終局面、大どんでん返しの始まりだ。