連合軍がロサイスを占領してからおよそ10日。 トリステイン軍はアルビオン軍が進軍していると予想しロサイス周辺に陣地を構築し迎え撃つ態勢を整えていたが完全に空振りに終わった。 結果、ただでさえ6週間分の兵糧しかないのに1週間半を無駄にしたわけである。第十九話 サウスゴータ攻略■■■ side:才人 ■■■ 「しっかしなあ、将軍達の無能っぷりもここに極まれりというか」 俺は今ルイズと同じ天幕にいる。 本来なら個人で天幕を与えられるのは連隊長以上の将官くらいだが、切り札の“虚無”であるルイズと、その使い魔の俺は結構な高待遇だ。 これで粗末な扱いだったらストライキを起こしているところだ。 「ま、予想はしてたけどね、だからといってここまでだと本当に頭が痛くなるわ」 ルイズも愚痴る。 何しろこのロサイスを占領してすぐの軍議にルイズも無理やり出席し、ゲイルノート・ガスパールが長期戦を企みロンディニウムに立て籠もるはずだと主張した。そしてここでぐずぐずせず兵糧がもつうちに一気に進軍すべきだと提案した。 「何せ敵の艦隊はまだ45隻近くが無傷なわけだろ、もし長期戦になったとしたら補給は出来るんかね」 それがルイズの発言の理由。 未だに艦隊が健在なアルビオン空軍はラ・ロシェールからの補給部隊を簡単に襲撃できる。つまりそれを防ぐためには連合軍の戦列艦を護衛につけなきゃならんから余計な「風石」を消費するし、陸軍援護の為の艦砲射撃ができなくなる。 だからルイズは補給を気にしなくていい今のうちに進軍して、敵の物資補給地を狙うかどっかの都市を占領するなりすべきだって提案したんだけど。 「出来なくはないけど難しいのは間違いないわ、とはいえ私がどんなに言っても将軍方は考えを変えなかった。ま、16歳の小娘に従うなんてプライドが許さないんでしょうけど」 「馬鹿かっつーの。じゃあさ、逆にお前がここで陣地を築いて進軍してくる敵を迎撃すべき、って提案してたらどうなってたんだ?」 逆の逆は表って感じで。 「そしたら“虚無”殿も賛成されているのだから間違いない。彼女は陛下が授けられた切り札だ。これはすなわち陛下の御意志である。とか言いだすでしょうね」 「反対したら陛下の威を借る小娘、賛成したら陛下の代弁者たる“虚無”殿ってか、アホらしくて付き合ってらんねえな」 もう勝手にやってろって気分になる。 けど、負けたらルイズの家族も死ぬことになるんだから、そういうわけにもいかねえんだけど。 「こうなったら戦略的な勝利は諦めるしかないわ、戦術的勝利を重ねてロンディニウムまで突き進むしかないわね」 「でもそれってものすげえ難しいんだろ? だって補給の不備とか兵の士気の低さとかの悪条件が重なった状態で戦わなきゃいけねんだから」 俺もルイズに付き合ってたらそういうことをだんだん覚えてきた。 「そりゃそうよ、でもそんな奇蹟みたいな真似をするしかもう方法がないのよ。幸い“虚無”があるから切り札は無いわけじゃない、とはいえ切り札一つで勝てる程、あのゲイルノート・ガスパールは甘くはないけど」 その敵が最大の問題なんだよな、今のところ俺達負けっぱなしだし。 「外に強力な敵、内に無能な味方、まさに内憂外患ってやつか」 大変だなあ。 「ま、だからこそ利用できるものは何でも使うわよ、次の目的地はシティオブサウスゴータでしょうから既にルネ達に偵察に行かせてるし」 ルイズが将軍方を半ば脅して、ルネ達第二竜騎士中隊を“虚無”直属の部隊として引き抜いてきた。 つまりあいつらの現在の上官はルイズであり、あいつらをどう使うかに関してルイズは独立した権限を持っている。 結果。 「あいつら悲鳴上げてるぜ、ギンヌメール大隊長よりよっぽど人使い及び竜使いが荒いって」 あいつらは分散してシティオブサウスゴータに限らず周辺都市や物資集積場の偵察に行かされ、アルビオン軍の動向などを探らされている。 あいつらが集めてきた情報をルイズが分析して、ゲイルノート・ガスパールの次なる戦略を何とか予測しようと躍起になってる。 この辺がルイズの“博識”たる由縁何だけど。 「戦争よ、当然だわ」 「お前の場合、戦争じゃなくてもこき使う気がするんだけど」 「気のせいよ」 「かなあ?」 「そうよ」 まあそういうことにしておく。 「で、俺の役目は今まで通りでいいのか?」 「ええ、実践者のあんたは戦場で真価を発揮するから、それまでは休んでていいし、暇だったらピーチクパーチク五月蠅い連中を蹴散らしといて」 ルイズが単独で竜騎士中隊を指揮していることに不満を持つ奴らもおり、何かと嫌味を言ってくる。 「OK、問題にならない程度にしばいとくわ」 「ありがとう、あと、しばらくはこの天幕に入らない方がいいわよ、私が本格的な熟考に入るから邪魔者には『爆発(エクスプロージョン)』を問答無用で叩き込むわ」 実は俺も三日ほど前にそれで吹き飛ばされたばかりである。 「了解、とりあえずは近くをぶらついてるわ」 そして俺は付近の散策に出かけた。■■■ side:ルイズ ■■■ 「さて、敵が長期戦を狙ってきているのは間違いない、そのために敵がどんな方策をとっているかが問題ね」 私は紙に書きながら考えを纏める。 「ロサイスを放棄した以上、敵は空軍の主力をダータルネスに置いている。つまりそれは敵の主力は北部にあり、補給物資も大半がそちらにあることを意味している」 ルネ達に調べさせたところ、ロサイス周辺に存在する物資集積所はもぬけの空だった。 ロサイスはアルビオン最大の軍港なんだからその周辺に物資がないなんてあり得ないし、ロサイスは工廠の街でもあるから鋳造された砲弾なんかを蓄えておくのが当然。 「だけどそこが空だったということは事前に計画的に撤収を進めていたということ、連合軍がロサイスを占領してもその周辺で物資を一切調達できないようにするために」 現在ロサイスの職人達は連合軍に協力しているけどその材料は全部トリステインから運ばれたもの。 つまり労働力はともかく物質的には何も連合軍は得ていないということになる。 「その時点で敵に決戦の意思が無いって分かるのにね」 ロサイス周辺で決戦をするつもりなら、少なくともシティオブサウスゴータやレキシントンまでのどこかの補給所に兵を駐屯させて、大軍の動員するための準備を整えておくはず。しかしそれが行われておらず、その二つの都市までの道は完全にガラ空きとなっている。ということは敵が南部を完全に放棄していることになる。 「しかもシティオブサウスゴータには現在大量の亜人軍が駐屯中、そうなると焦土作戦も可能になるわ」 亜人の独断ということにして住民から食糧を取り上げることもできる。連合軍は解放軍の体裁をとっている以上軍需物資を住民に与えざるを得ない。 ただでさえ補給が問題なのにそんなことされたら非常に厄介なことになる。 「それを防ぐにはさっさと進軍して敵の徴発が完了する前に占領するしかなかったんだけど、今となってはそれも不可能」 だとしたら敵の物資を奪うという方法もあるけど。 「ロンディニウムに本隊が駐屯している以上それも不可能なのよね」 首都に本陣を置いている以上その周辺に物資は集中しているはず、先の戦いでダータルネスに数万規模の軍を簡単に派遣出来たこともそれを裏付ける。 敵の物資はロンディニウム周辺かさらにその北方にある、つまり敵本隊を破らない限り物資を奪うのは無理。 空軍で奇襲をかけようにもダータルネスに敵艦隊がいる限りそれも不可能、せいぜい発見されて迎撃されるのが落ちね。 後手に回った時点で南部での戦略的敗北は決まったようなもの、こうなった以上そこは諦めるしかない。 「そうなるとロンディニウムでの決戦が最大の山場となる。シティオブサウスゴータには補給路確保のために5千くらいの兵は残す必要があるから決戦に動員可能な兵力はやや少なくなる」 連合軍は恐らく5万~5万5千、アルビオン軍は5万、本拠地で戦うアルビオン軍は兵を分散する必要が無い。 空軍も同様、連合軍は45隻、アルビオン軍も45隻、完全に対等な条件で決戦に臨むことになる。 「そうなると錬度で勝り補給路が短いアルビオン軍が圧倒的有利、連合軍は補給路を気にしながら戦わなくてはならない」 それにアルビオン軍の総司令官はゲイルノート・ガスパール。連合軍はオリビエ・ド・ポワチエ。 どう考えても勝ち目が無いわ。 「やっぱり決戦において切り札の“虚無”をどう使うかが最大のポイントになる。そのためには決戦まで出来る限り精神力は温存しておきたいんだけど」 とそこへ。 「やあ、貴女が噂のミス・ヴァリエールだね」 何か変なのが入ってきた。 「消えなさい、私は忙しいの」 「これはつれないお言葉だね、僕はロマリアから新たな美を探しにきたんだけど。そう、貴女のように美しい方に出会うために・・・」 ドガアアアアアアン! 「はぶごべ!」 吹っ飛ぶゴミ、うん、ある程度『爆発』をコントロール出来るようにはなったわね。 「おいルイズ! どうした! 何があった!」 サイトが駆け込んで来る。 「ゴミを始末しただけよ、片付けといて」 「あーあ、被害者2号が出たか。ご愁傷様、タイミングが致命的に悪かったなお前」 そう呟きながらサイトはこげた塊を引きずって出ていく。 「さて、となるとシティオブサウスゴータ攻略をどうするかね、空軍の艦砲射撃はそれほど期待できないから城壁を破るために代わりの手段が必要になるわ」 逆に言えば城壁さえ片付ければあっさりと落とすことも出来るわけだ。 「ここはケチらず一気に片付けて士気を大いに震わせるべきかしら?」 私はその後も数時間、あらゆる状況を考えながら有効な攻略手段の検討を続けた。■■■ side:ハインツ ■■■ アルビオン首都ロンディニウム。 ハヴィランド宮殿の白ホールにて円卓を囲み神聖アルビオン共和国の閣僚や軍人が集まり会議を行っている。 円卓の座席は以前と大体変わらず、12時に盟主オリヴァー・クロムウェル、6時に軍総司令官ゲイルノート・ガスパールが座り、1,2,3,4,5には政治家貴族のトップたちが座り、7時にヘンリー・ボーウッド提督、8時にオーウェン・カナン提督、9時にウィリアム・ホーキンス将軍、10時にニコラ・ボアロー将軍。 しかし11時の席が空いている。 「諸君、よくぞ集まってくれた、会議を始める前に訃報を伝えねばならん」 そう言って切り出すオリヴァー・クロムウェル。 「ワルド子爵がトリステイン魔法学院へ襲撃をかけたが敵の反撃を受け命を落とした。同朋の死は悲しむべき事実だが我々は前に進まねばならない」 「その必要はあるまいクロムウェル、奴は自らの無能故に命を落とした、ただそれだけだ。『レコン・キスタ』に女子供に敗れるような無能はいらぬ、そのような者は死ねばよいのだ」 それを辛辣に評するゲイルノート・ガスパール。 将軍達も同意見の様子、生粋の軍人である彼等には女生徒しかいない魔法学院を襲ったあげく、生徒と教師の反撃に遭い死んだ男など同情どころか顧みる価値すら無いのだろう。 「しかしガスパール元帥、彼が我等の同志であったことは変わりませぬ、せめて弔いの言葉くらいはかけてやって下さいませんか」 そう言うのは政治家貴族の一人、彼らは優秀な官僚達と違って土地をもっているからここにいるに過ぎない。 つまり失敗をすればあっさりとゲイルノート・ガスパールに殺される運命だ、ここにいる5人以前に円卓に座っていた者達は全員彼によって殺されたのだ。 「下らん、無能者に与える言葉など必要ない。国家に必要なのは優秀な人材だ、必要不可欠な人材ならばともかく、あの程度の男など何人死のうが問題は無い。この戦は篩にかけるいい機会でもある」 あくまで傲然と言い放つゲイルノート・ガスパール。 「そうだな、空いた席はとりあえずそのままとしておき、この戦にて戦功著しかった者に与えるとしよう」 盟主クロムウェルがそう決める。 実力で成果を挙げた者にそれ相応の地位を与える、それこそが実力主義の『レコン・キスタ』の方針だ。 「それで、ガスパール総司令官、敵軍を上手くロサイスに上陸させることには成功したようだが、今後の展開はどのようになっているのかな」 「それについてはホーキンスに一任してある、ホーキンス!」 「はっ! 敵は10日間をロサイスにて空費しました。そして次なる攻略目標はシティオブサウスゴータであるとの確認が取れております」 そこで一旦区切る。 「ふむ、具体的な策は?」 「ガスパール総司令官の指示により既にサウスゴータ地方以南の軍需物資は全てロンディニウム北方に移動させており、そちらは既にボアロー将軍とボーウッド提督によって完了しております。シティオブサウスゴータ周辺の物資も小官の部隊によって移送はほぼ完了、住民の大半はレキシントンなどの付近の都市や街へ避難、もしくは村落へ疎開させております」 よどみなく答えるホーキンス、彼らはこの10日間も休むことなく働き続けていた。 「素晴らしい、敵が上陸しておる状況でよくぞ秘密裏にそこまで行動できるものだ」 褒めたたえるクロムウェル。 「カナン提督が空より敵を包囲しているからこそです。敵が制空権を確保しているのはラ・ロシェールからロサイスまでの空域に限られますので本土ではまだこちらが有利かと、全てはガスパール総司令官の温存策の成果とも言えます」 ボーウッド提督が敵艦隊に痛撃を与え、カナン提督が艦隊で包囲する。このコンビネーションがしっかりとれているからこそだ。しかもボーウッドはその後南部の物資の輸送にも着手している。 本当に働き者なのだこの4人は、そして必ず成果を残す。 「そこまで済めば後は容易い、先遣隊として派遣した亜人軍の暴走ということとしてシティオブサウスゴータに残った住民から食糧を取り上げる、残っているのは裕福で金持ちの奴等のみだからな、丁度良い薬となろう」 そしてゲイルノート・ガスパールが引き継ぐ。 一般の平民や貧しい者は疎開し、財産を抱える者はシティオブサウスゴータに残った。連合軍との交渉材料を持つ彼らは占領されても大丈夫だとタカをくくっているわけだ。 「成程、そうなれば連合軍は食糧を供出せざるを得ぬ、食糧がなければ本隊が待ち構えるロンディニウムへ侵攻することなど不可能となるな」 状況をまとめるクロムウェル。 「唯一問題があるとすれば住民の大半を疎開させた故に食糧の損害はそれほど大きくはないということだが、それも既に手を打ってある。カナン!」 「はっ! 既に三隻の補給船の拿捕に成功しております、我が艦隊は無傷ですので至るところに出没し補給船を襲撃することが可能となっております。つまり、敵の予想より補給物資の量は少なくなり到着も遅れることとなります」 そのために艦隊を温存したのだ。補給船が狙われればその護衛に戦列艦を動員する必要があるので、その間ロンディニウム侵攻は不可能となる。 「つまりは降臨祭が終わる頃までは敵軍はシティオブサウスゴータに足止めされるというわけか、見事我が注文に応えてくれたなガスパール総司令官。この条件ならば我が“虚無”が最大限に力を発揮する」 その言葉にゲイルノート・ガスパール以外の全員が反応する。 「閣下、それはどういうことでありましょうか?」 質問する貴族A。 「何、諸君等は詳しいことを知る必要は無い、どうしても知りたければガスパール総司令官に訊くとよい」 そう返答するクロムウェル。こいつらにそんな勇気があるはずが無い。 「では会議を終了するとしよう、戦争は我等の思惑通りに進行しておる。ガスパール総司令官、引き続き指揮は任せた」 「了解だ。戦争は我等が本分、その点において抜かりは無い」 そして全員が退出していく。 皇帝の執務室にて。 「徐々に終わりが近づいていますねえクロさん」 呑気に話しかける俺。 「書類作りもあらかた済んだよ、疎開先の情報も記載されているから戦後の処理は問題ないと思う」 笑顔で応じるクロさん。 「このシティオブサウスゴータの処置が最大の難関でしたからねえ、本当に彼らはよくやってくれてますよ」 あの4人がいることは本当に大きい。 「彼らがそのまま健在ならばウェールズ殿も問題なく統治していけるだろうな、それに官僚達も非常に優秀だ。流石はハインツ君がスカウトした者達だ」 クロさんのアルビオンにおける役目も大体終わっている。だから最近ではゆとりが出てきた模様。 「ま、そこは俺の取り柄ですから譲れないとこですね、後はシェフィールドさん待ちです」 「そういえば彼女を最近見ないが何をやっているのかな?」 尋ねてくるクロさん。 「ちょっと東方(ロバ・アル・カリイエ)まで出かけてあるものを取りに行ってます、降臨祭が始まる頃には帰ってくるでしょう」 「あるもの?」 「それはこういうものでして・・・」 クロさんに説明する俺。 「成程、確かにそうしないと将来とんでもないことになるね」 「でしょう、向こうのは効果こそ同じですが由来は別だそうなのでそういう心配はないそうです、皇室は困るでしょうけど」 そこは気にしない方針で。 「ははは、遠い未来国交を結ぶ際に謝っておくよう言い伝えておくかね」 「それもいいですね」 そんな感じでいつも通りのほほんと過ごす俺達だった。(しかし俺はすぐに『ゲート』で飛んで帰り副団長やその他の仕事をこなさないといけない)■■■ side:才人 ■■■ ぷぎ、ぷぎい! 「おらあ!」 ドスドスドス! 速射性の特殊ボウガンから次々に矢が飛んでいきオーク鬼の首や口の中に突き刺さる。 ハインツさんが作ってくれた毒を持ってきているので、矢にはそれを塗りこんであり、掠っただけでも相当のダメージになる。 「やれやれ、きりがねえな」 俺は現在シティオブサウスゴータで亜人達相手に遊撃戦を展開している。 というのも今回のシティオブサウスゴータ攻略戦ではあんまり艦隊が動員出来なかったので、ルイズの『爆発(エクスプロージョン)』で城壁を破壊したことが原因だ。 最初の一発目は問答無用の力技で一画を丸ごと消し飛ばして、そこから大勢の軍が突入した。 それで勢いづいた連合軍は次々に部隊が突入していき、ルイズはその後「土」のスクウェアと協力しながら城壁の継ぎ目やここさえ内部から崩せば城壁が倒壊するという部分をピンポイントで爆破していった。まるでビルの爆破解体のプロのような手口だった。 で、常にスクウェアクラスのメイジが傍にいる以上俺がルイズと一緒にいても何の意味も無いので、ルネ達竜騎士中隊と一緒にシティオブサウスゴータに降下して現在遊撃兵として行動している。 俺のルーン“ガンダールヴ”は速度に特化してるのでこういった単独行動も結構得意だったりする。もっとも仲間と一緒に戦ってコンビネーションで攻める方が何倍も効率いいけど。 「そういや、シャルロットやキュルケ達は大丈夫かな?」 ルイズの予想では魔法学院への襲撃がある可能性が高かったので彼女等は迎撃のための準備をしていた。 大丈夫だとは思うけど一抹の不安は拭えない。 「ルイズはああ言ったけど、俺だってシャルロットが死んだら悲しいなんてもんじゃねえよ」 とにかく今は生き残ることを最優先に、全部は生きて帰ってからだ。 「かかってきやがれオーク共! 伝説の使い魔のお通りだ!」 「お、ようやく出番か! やったろうぜ相棒!」 俺はボウガンから一番信頼できる得物であるデルフに切り替える。 「突撃!」 「かましたれえ!」 俺達は共に突撃していく。■■■ side:ギーシュ ■■■ 僕は現在ド・ヴィヌイーユ独立大隊の第二中隊の中隊長としてシティオブサウスゴータ攻略に参加している。 本来なら学生士官に過ぎない僕が中隊長をやらされるなどあり得ないのだが、このド・ヴィヌイーユ独立大隊が寄せ集めの余り者部隊なのと王軍の士官不足によってこうなった。 「ま、任されたからには頑張るしかないわけだけど」 ぷぎ、ぷぎい! 突進してくるオーク鬼の足元に土製の腕が出現し転ばせる。そして連鎖反応で後続も転んでいく。 「第一小隊、撃て!」 ガガガガガガガガン! 倒れるオーク鬼。 「第二小隊、撃て!」 ガガガガガガガガン! 続けて撃ちこまれる弾丸の雨、流石のオーク鬼もたまらず倒れていく。 「驚きましたぜ中隊長殿、学生さんの割には随分慣れていらっしゃる」 補佐してくれてる歴戦の軍曹さんがそう言う。 「まあちょっとした経験があってさ、亜人退治には慣れてるんだけど」 『ルイズ組』は様々な幻獣や亜人達と戦ったが「土」メイジである僕はグリフォン、マンティコア、ヒポグリフなどの空を飛ぶ幻獣とは相性が悪い、結果オーク鬼、トロール鬼などといった亜人との戦いが多くなった。 モンモランシーと一緒に戦って10匹くらいまとめて焼き殺したこともあるし、他にも様々なシチュエーションで戦ったので一番倒しやすい相手ではある。 しかし。 「せっかく戦場くんだりまでやって来たってのに、やってることが夏季休暇中と変わんないってのはどうなんだろう?」 ついついそんなことを考えてしまう。 すると。 ザシュザシュ! さらに後方のオーク鬼達が次々と切り裂かれていく。 「風のトライアングルメイジかな? いや、あれは!」 振るっているのは杖じゃなくて大剣、しかも珍しい黒髪。 「サイト! サイトじゃないか!」 「おうギーシュ! 生きてたか!」 うん、実にサイトらしい切り返しだ。 「ああ、悪運強く生き残ってるよ、もっとも、マリコルヌには少々劣るが」 「あ? あいつ何かあったのか?」 首を傾げるサイト。 「彼が士官候補生として乗っていた戦列艦は焼き討ち船の体当たりをもろに受けて空中で四散したらしい、彼はその直前に一か八かの空中ダイブを試み『フライ』で何とか隣の戦列艦にたどり着いたそうだ」 「ものすげえな」 感心するサイト。 「しかもその途中砲弾が何度もかすめていったと言っていた、よくまあ生きてたもんだよ」 「悪がき世にのさばるって感じかね」 「うむ、そんなところだろうな」 ぼろくそ言う僕達。 「さーて、まだまだ敵はたくさん残ってるし、あんまし無駄話してる暇もねえな」 「応ともよ相棒、さっさと片付けちまおうぜ!」 勇ましく応じるデルフリンガー。 「君の剣は相変わらず勇ましいね。僕も、うかうかしてらんないな」 僕も杖を握りしめ気を引き締める。 「とはいえ敵は亜人ばっかだからな、秩序だった反撃をしてるわけじゃなさそうだし、大局的にはもう決してるのかな?」 彼の指摘はおそらく正しい。 「多分ね、近いうちに掃討戦や残党狩りに移行しそうだ、だが油断は禁物だな。人間と違って疲れを知らないから同じ気持ちで挑むと手痛い反撃を喰らう」 「流石は専門家、頼りになるな」 そう評してくれるサイト。 「まあね、夏季休暇の体験が戦場で役に立つというのも変な話だけど」 「いいじゃねえか、生き残る可能性が高いに越したことはないだろ? モンモンもよっぽど安心できるだろうしな」 「彼女はモンモランシーだ、いいかげん覚えたまえ」 すると上空から竜騎士が二騎飛来してくる。 「お、ありゃジルベールとセブランか」 「竜騎士だね」 サイトと知り合いとは意外だ。 「今はルイズにこき使われてる可哀そうな奴らだけどな、あちこちに運んでもらってるんだ」 「なるほど、そうやって遊撃兵をやっていたのかい」 遊撃兵といえばシルフィードに乗ったタバサが浮かぶ、うん、似たものカップルだな。 「どうせ乗るなら、タバサの後ろに乗って腰に手を回したりしたいんじゃないかサイト」 「そりゃそうだ、あれでなかなか柔らかくて、って、何言わせてるんだよ!」 「いや、そこまで言えとは言ってないが」 完全に自爆だ。 「まあ頑張ってきたまえ、僕も死なない程度に頑張るから」 「じゃあな、占領が完了したらどっかで落ち合ってあいつら竜騎士中隊と一緒に酒盛りしようぜ、あいつらも俺らと同い年なんだ」 「それはいいな、楽しみにしておくよ。ルイズにこき使われる者同士、話が合いそうだ」 そしてサイトは竜の背に乗って違う場所に飛んで行った。 「さて、こっちもこっちでやるか、グラモン中隊! 北側に移動するぞ、短槍隊を先頭にゆっくりと前進、鉄砲隊はその後に続きながら弾込めを忘れるな、いつでも撃てる態勢は整えたままのんびり行こう、亜人相手に焦っても仕方ない」 僕は僕に出来ることに専念するとしよう。■■■ side:ハインツ ■■■ 年末はウィンの月の第4週、中日であるイングの曜日。連合軍によるシティオブサウスゴータ解放宣言がなされた。 現在俺はゲイルノート・ガスパールとして部下から報告を受け取ったところである。 シティオブサウスゴータは陥落し、亜人軍は全滅したと報告書には記載されている。 「大体予想通り、こっちの予測より2日程遅かったが問題は無い」 既に侵攻が開始されてから3週間余りが経過しており、元々6週間分しかない上シティオブサウスゴータで食糧をさらに減らした連合軍はこのままでは進軍は不可能。 無茶すりゃ出来なくもないが残りはあと一週間分程度しかないはず、一週間近く戦っていた兵士に休息をとらせる必要があることを考慮すると4日程度しか猶予が無い。 流石にたった4日で5万の軍と45隻の戦列艦を擁するアルビオン軍本隊を撃破するのは無理がある。いくら無能な将軍でもそれくらいは分かるだろう。 今から1週間後に新年となり、降臨祭は10日程続くからその間に休戦を申し込むことはできる。連合軍も受けざるを得ないだろう。 「そして降臨祭の最後の日こそが例の作戦の決行日となる。アルビオン戦役最終章の開始だ」 その時主演達がどのような選択をするか? それが最大のポイントとなるだろう。 「『軍神』の最期の時も近い、ラストくらい盛大に盛り上げるとするか」 俺はそう呟き、休戦期間中に将軍達に指示すべき事柄をまとめ始めた。