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No.10059の一覧
[0] ハルケギニアの舞台劇(3章・最終章)  【完結】 [イル=ド=ガリア](2009/12/04 20:19)
[42] 第三章 史劇「虚無の使い魔」  第一話  平賀才人[イル=ド=ガリア](2009/09/06 22:55)
[43] 史劇「虚無の使い魔」  第二話  悪魔仕掛けのフーケ退治[イル=ド=ガリア](2009/09/06 22:54)
[44] 史劇「虚無の使い魔」  第三話  悪だくみ[イル=ド=ガリア](2009/09/06 22:54)
[45] 史劇「虚無の使い魔」  第四話  箱入り姫と苦労姫[イル=ド=ガリア](2009/12/07 06:59)
[46] 史劇「虚無の使い魔」  第五話  アルビオン大激務[イル=ド=ガリア](2009/12/05 23:28)
[47] 史劇「虚無の使い魔」  第六話  後始末[イル=ド=ガリア](2009/09/06 22:54)
[48] 史劇「虚無の使い魔」  第七話  外交[イル=ド=ガリア](2009/12/04 20:19)
[49] 史劇「虚無の使い魔」  第八話  幕間[イル=ド=ガリア](2009/09/06 22:54)
[50] 史劇「虚無の使い魔」  第九話  誘拐劇[イル=ド=ガリア](2009/09/06 22:54)
[51] 史劇「虚無の使い魔」  第十話  夏季休暇[イル=ド=ガリア](2009/09/06 22:54)
[52] 史劇「虚無の使い魔」  第十一話  戦略会議[イル=ド=ガリア](2009/09/06 22:54)
[53] 史劇「虚無の使い魔」  第十二話  それぞれの休暇[イル=ド=ガリア](2009/09/06 22:54)
[54] 史劇「虚無の使い魔」  第十三話  遠征へ[イル=ド=ガリア](2009/09/06 22:54)
[55] 史劇「虚無の使い魔」  第十四話  侵攻前[イル=ド=ガリア](2009/12/05 23:32)
[56] 史劇「虚無の使い魔」  第十五話  闇の残滓[イル=ド=ガリア](2009/09/06 22:53)
[57] 史劇「虚無の使い魔」  第十六話  出撃[イル=ド=ガリア](2009/12/05 23:35)
[58] 史劇「虚無の使い魔」  第十七話  軍神と博識[イル=ド=ガリア](2009/09/07 00:24)
[59] 史劇「虚無の使い魔」  第十八話  魔法学院の戦い[イル=ド=ガリア](2009/09/06 23:15)
[60] 史劇「虚無の使い魔」  第十九話  サウスゴータ攻略[イル=ド=ガリア](2009/09/06 04:56)
[61] 史劇「虚無の使い魔」  第二十話  休戦と休日[イル=ド=ガリア](2009/12/05 23:36)
[62] 史劇「虚無の使い魔」  第二十一話  降臨祭[イル=ド=ガリア](2009/09/13 01:48)
[63] 史劇「虚無の使い魔」  第二十二話  撤退戦[イル=ド=ガリア](2009/09/13 01:52)
[64] 史劇「虚無の使い魔」  第二十三話  英雄の戦い[イル=ド=ガリア](2009/12/05 23:39)
[65] 史劇「虚無の使い魔」  第二十四話  軍神の最期[イル=ド=ガリア](2009/09/15 22:19)
[66] 史劇「虚無の使い魔」  第二十五話  アルビオン戦役終結[イル=ド=ガリア](2009/12/05 23:40)
[67] 史劇「虚無の使い魔」  第二十六話  それぞれの終戦[イル=ド=ガリア](2009/12/05 23:48)
[68] 史劇「虚無の使い魔」  第二十七話  諸国会議[イル=ド=ガリア](2009/09/19 22:04)
[69] 史劇「虚無の使い魔」  第二十八話  エルフ[イル=ド=ガリア](2009/09/18 06:07)
[70] 史劇「虚無の使い魔」  第二十九話  担い手と使い魔[イル=ド=ガリア](2009/09/19 08:02)
[71] 史劇「虚無の使い魔」  第三十話  シュヴァリエ叙勲[イル=ド=ガリア](2009/09/20 10:49)
[72] 史劇「虚無の使い魔」  第三十一話  スレイプニィルの舞踏会[イル=ド=ガリア](2009/09/20 10:41)
[73] 史劇「虚無の使い魔」  第三十二話  悪魔の陰謀[イル=ド=ガリア](2009/09/20 14:37)
[74] 史劇「虚無の使い魔」  第三十三話  アーハンブラ城[イル=ド=ガリア](2009/09/21 22:50)
[75] 史劇「虚無の使い魔」  第三十四話  ガリアの家族[イル=ド=ガリア](2009/09/21 08:21)
[76] 史劇「虚無の使い魔」  第三十五話  ロマリアの教皇[イル=ド=ガリア](2009/09/21 23:06)
[77] 史劇「虚無の使い魔」  第三十六話  ヨルムンガント[イル=ド=ガリア](2009/09/22 23:13)
[78] 史劇「虚無の使い魔」  第三十七話  編入生と大魔神[イル=ド=ガリア](2009/09/22 10:47)
[79] 史劇「虚無の使い魔」  第三十八話  楽園の探求者[イル=ド=ガリア](2009/09/22 23:32)
[80] 史劇「虚無の使い魔」  第三十九話  我ら無敵のルイズ隊[イル=ド=ガリア](2009/10/21 21:23)
[81] 史劇「虚無の使い魔」  第四十話  舞台準備完了[イル=ド=ガリア](2009/09/23 22:42)
[82] 史劇「虚無の使い魔」  第四十一話  光の虚無  闇の虚無[イル=ド=ガリア](2009/09/26 04:29)
[83] 史劇「虚無の使い魔」  第四十二話 前編 神の名の下の戦争[イル=ド=ガリア](2009/09/29 20:27)
[84] 史劇「虚無の使い魔」  第四十二話 後編 王の名の下の戦争[イル=ド=ガリア](2009/10/01 21:44)
[90] 最終章 終幕 「神世界の終り」  第一話  悪魔の軍団[イル=ド=ガリア](2009/10/01 22:54)
[91] 終幕「神世界の終り」 第二話 前編 フェンリル 第4の使い魔[イル=ド=ガリア](2009/10/04 08:05)
[92] 終幕「神世界の終り」 第二話 中編 フェンリル 貪りし凶獣[イル=ド=ガリア](2009/10/04 08:06)
[93] 終幕「神世界の終り」 第二話 後編 フェンリル 怪物と英雄[イル=ド=ガリア](2009/10/07 21:03)
[94] 終幕「神世界の終り」  第三話 侵略と謀略[イル=ド=ガリア](2009/10/08 18:23)
[95] 終幕「神世界の終り」  第四話 狂信者[イル=ド=ガリア](2009/10/08 18:25)
[96] 終幕「神世界の終り」  第五話 歴史が変わる日(あとがき追加)[イル=ド=ガリア](2009/10/09 22:44)
[97] 終幕「神世界の終り」  第六話 立ち上がる者達[イル=ド=ガリア](2009/10/09 22:45)
[98] 終幕「神世界の終り」  第七話 人が神を捨てる時[イル=ド=ガリア](2009/10/20 17:21)
[99] 終幕「神世界の終り」  第八話 串刺しの丘[イル=ド=ガリア](2009/10/18 02:40)
[100] 終幕「神世界の終り」  第九話 悪魔公 地獄の具現者[イル=ド=ガリア](2009/10/20 17:26)
[101] 終幕「神世界の終り」  第十話 アクイレイアの聖女[イル=ド=ガリア](2009/10/21 21:07)
[102] 終幕「神世界の終り」  第十一話 パイを投げろ![イル=ド=ガリア](2009/10/21 21:12)
[103] 終幕「神世界の終り」  第十二話 変動する時代[イル=ド=ガリア](2009/10/21 21:16)
[104] 終幕「神世界の終り」  第十三話 終戦の大花火[イル=ド=ガリア](2009/10/21 21:16)
[105] 終幕「神世界の終り」  第十四話 新時代の担い手たち(一部改訂)[イル=ド=ガリア](2009/10/14 21:01)
[106] 終幕「神世界の終り」  第十五話 パイを投げろ!inトリスタニア[イル=ド=ガリア](2009/10/17 06:50)
[107] 終幕「神世界の終り」  第十六話 王家の終焉[イル=ド=ガリア](2009/10/18 02:17)
[109] 終幕「神世界の終り」  第十七話 前編 終幕(エクソドス)[イル=ド=ガリア](2009/10/17 06:43)
[110] 終幕「神世界の終り」  第十七話 後編 終幕(エクソドス)[イル=ド=ガリア](2009/11/15 03:19)
[111] 終幕「神世界の終り」  最終話  そして、幕は下りる[イル=ド=ガリア](2009/11/15 03:25)
[121] エピローグ[イル=ド=ガリア](2009/11/27 22:24)
[122] A last episode  ”1000 years later”[イル=ド=ガリア](2009/11/29 09:37)
[123] あとがき[イル=ド=ガリア](2009/12/02 20:49)
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[10059] 史劇「虚無の使い魔」  第十六話  出撃
Name: イル=ド=ガリア◆8e496d6a ID:c46f1b4b 前を表示する / 次を表示する
Date: 2009/12/05 23:35

 時はブリミル歴6242年、年末はウィンの月の第一週、マンの曜日。


 トリステイン・ゲルマニア連合軍によるアルビオン侵攻がいよいよ開始されるその日。


 日付が変わった頃俺は陛下の下に向かった。


 アルビオンでの軍議があり、他にも様々なやることがあり、深夜くらいしか時間がなかったのだ。








第十六話    出撃







■■■   side:ハインツ   ■■■



 俺がこの時間に訪問することは事前に伝えてあるがそれ故に油断できない。


 また何か仕掛けてくる可能性が非常に高いからだ。



 ガーゴイル達はもうギニュー特選隊のポーズを取っていない、どうやら陛下はドラゴンボールには飽きたようだ。


 しかし別の本に嵌っている可能性はある。


 警戒は怠らない方が無難だ。




 そして俺はグラン・トロワの陛下の部屋に入る。







 すると陛下は部屋の中央に立ち、陛下を挟むように二つの等身大の物体がある。


 「あれは・・・土製ゴーレム?」


 何の変哲もないただのゴーレムだ、あれならドットでも作れるだろう。



 俺の声に反応したのか陛下が行動を開始する。



 「ペガサス流星拳!!」


 ドゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!


 その言葉と共に凄まじい速度で拳がゴーレムに叩き込まれる!


 『加速』によって極限まで速くなっている陛下の拳は既に音速を軽く超えている!


 秒間百発を超える拳打はまさに流星の如くゴーレムをバラバラにしていく!




 「ペガサス彗星拳!!」


 そう言って反対方向に拳を突き出す陛下。


 ドガアアアン!!


 ゴーレムは一撃で吹っ飛んでいく!


 だがあれは『爆発(エクスプロージョン)』だ、おそらく拳と同時に叩き込んだのだろう



 そして陛下の姿が消える!



 ガシッ!


 気付くと陛下に背後からはがいじめにされている俺。



 「ま、まさかこの技は!!」


 「ペガサスローリングクラッシュ!!!」


 「洒落になってねえええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!!」



 どうやら『加速』と『レビテーション』を組み合わせているようで、とんでもない速度で回転しながら上昇する俺達。


 担い手であり『加速』の影響下にある陛下はまだしも、生身の俺にはとんでもないGがかかり、ジェットコースターに乗っているようなものだ。



 「ぶつかる! ぶつかるううううううううううううううううううううう!!」


 天井にぶつかる瞬間!


 スッ


 俺達は天井をすり抜けた。




 どうやら『爆発(エクスプロージョン)』でグラン・トロワの天井の一部を事前に消滅させていた模様。


 そこを『幻影(イリュージョン)』で塞いでいたようだ。



 流石陛下、“虚無”を完全に使いこなしている。



 果てしなくしょーもない方向に。



 しかしそんなことも言ってられない。



 「落ちるうううううううううううううううううううううううううう!!」



 現在上昇時を超える速度で落下中。



 このままでは間違いなく死ぬ。



 俺は咄嗟に自分を中心に『毒錬金』を発生させ、陛下が危険を察知し離れる。


 「『レビテーション』!!!」


 なんとか『レビテーション』で急ブレーキをかける!



 ズザアアアアアアアアアアアアア!!



 ぎりぎりで着地に成功、しかし体中が悲鳴を上げている。


 おまけに咄嗟に使った『毒錬金』は俺自身でも耐性が万全とはいえないほど強力なものを使用したのでそっちの効果もある。



 「ゲホッ、ゲホッ」


 むせながらも何とか呼吸を整える。



 「神よ、私は美しい」


 変なポーズをとりながら呟く陛下。


 「陛下、それペガサスローリングクラッシュでやられた方が言っていた台詞です。しかも全裸で」


 ナルシストの先駆けとも言える偉大な台詞だ。


 ここから全ては始まった。




 「ギャラクシアン・エクスプロージョ・・・」


 「わあああああああああああああ!! それだけはやめてください!!」


 それはマジで洒落にならない!


 陛下の『爆発(エクスプロージョン)』ならこのグラン・トロワを吹き飛ばすことくらいは簡単に出来る!



 「まあよい、代わりにアナザー・ディメイションで異空間に飛ばしてやろう」


 そういって『ゲート』の詠唱を始める陛下。


 瞬間移動(テレポート)も出来るし、高速系の技は大体使えるはず。


 もう何でもありだなこの人。


 「『忘却』などの精神系もマスターすればさらに面白いことになるな」


 それは非常にまずい。


 鳳凰幻魔拳まで使いかねない。


 「陛下、お願いですからその辺はやめてください」


 そろそろ俺の身が持たない。


 「何を言う、お前は俺の遊び道具として生かされているだけの玩具に過ぎん、拒否権があると思うか?」


 「そろそろ謀叛を起こしていいですかね?」


 奴隷よ、今こそ立ち上がれ!


 「さて、では次の遊び相手はイザベラにするか? それともシャルロットにするか?」


 「ごめんなさい」



 土下座する俺。


 身内を人質にされてはなす術が無い俺だった。



 「冗談だ、いくら俺でもそこまで非道ではない」


 「いや、もう充分非道で外道で鬼畜だと思いますが」


 「最近新しいルーンの開発に成功してな、このルーンを刻めば俺の言いなりになる。全裸でリュティス中を疾走させることも可能だ」


 「申し訳ありません」


 土下座パートⅡ。


 「それで、いよいよアルビオンへの侵攻が始まるようだな」


 また急に本題に入る陛下。


 「ですね、この劇も大きな転換点を迎えます」


 ここは重大なポイントだ。


 「これまでの舞台はあくまで主演の周辺に限られていた。しかしここからはそうはいかん、国家というものが深く関わり、これまでのように伝説の力に頼るだけではすぐに立ち行かなくなる」


 「ですが、今の彼らならその心配はないかと、ルイズも才人も本当に成長しましたから、特にルイズの方は覚醒してからは別格ですね」


 予想以上の成長を遂げてくれた。


 「なるほど、お前の悪だくみも効果を上げているようだな。それで、主演達は『軍神』に勝てると思うか?」


 「そこまではまだ無理かと、彼らには戦う意思と力はありますが、それは“敵”に対してのみ。無能な味方というのは時に敵以上に厄介ですからね」


 トリステイン軍ではどうにもなるまい。



 「確かにな、そうして敗北すれば自ずと足りないものを自覚し、更なる段階へと成長する。それは正に英雄の特権だな」


 「まあ、英雄が戦死しないために影で支える必要はありそうですが、そこも少々厳しいですね」


 何しろ俺はゲイルノート・ガスパールでありアルビオン軍総司令官だ。


 一応ウェールズクローンのようなガスパール人形もあるが、ミョズニト二ルンではない俺は人形との意識の共有が出来ない。故に戦局を把握するために司令部に出来るだけいたい。


 「お前の“影”で監視するのは可能だろうが戦場ではそうはいかんだろうからな。しかし、心配することもあるまい。主演達はそう簡単には死なぬだろうし、“物語”の援護もあるだろう。主演が死んでは劇が成り立たぬからな」


 この世界を巨大な演劇場と見る陛下はそう言う。


 俺もこの世界を俯瞰して見ているつもりだが、そういった大局眼や時代の流れを読む力では俺は陛下の足元にも及ばない。


 「そうなって欲しいものです、俺個人としても彼らは大切な友人なので」


 「お前は守るものが随分多いな、しかもそれを余さず全部救おうとするのだから過労死するのは必然か」


 「いえ、その原因の半分は陛下だと思いますが」


 そこは間違いない。


 「それはどうでもよい、劇の準備は整っているのだな?」


 完全にスルーしたよこの人。



 「はい、アルビオン、トリステイン、ゲルマニアは当然として我がガリアも万全です。両用艦隊100隻の準備はあと2週間もあれば完了しますし陸軍5万も20日もあれば大丈夫です。それにウェールズ王子も目覚めて、今はリハビリをしながら艦隊指揮にあたってます」


 あの王子様はもの凄い働き者なのだ。


 「トリステインの小娘と違いアルビオンの小僧は使えるようだな」


 「ええ、元々アルビオン空軍の大将をやってたわけですし、その辺の才能はかなりものです。ガリア軍でも彼に艦隊戦で勝てるとしたらアルフォンスとクロードくらいでしょう。もし『レコン・キスタ』の内戦のときに、彼が王子という立場に縛られず、最前線で戦っていればもう少し王国はもったでしょうね」


 王子であるが故に自由に動けなかったわけだ、その点はもったいなかったと言える。


 「だが王家が滅ぶのは変わらんか。当然だな、あの戦いは一人の能力で覆せるものではなかった。個人の武勇で一つの戦局は覆せても大局は揺るがん」


 それが真理、故に大局を支配する陛下は最強最悪の存在なのだ。


 「まあそれでも今回はやる気満々のようで、父の仇であるゲイルノート・ガスパールを打倒し、祖国を奪還するために寝る間も惜しんで活動してます。これは期待できますよ」


 その仇は俺なんだけど。


 「仇に期待されていているとは、何とも皮肉なものだな。俺が用意した脚本だが、やはり現実というものは面白い。本の中だけではどんなに精巧な脚本であっても意味は無い」


 そうして笑う陛下。


 この人が俺をおちょくって笑う時以外にこの笑いをするのは珍しい。



 「劇は中盤の山場にきたわけだ、演出家たるお前の役目は重要だぞ。全力を尽くして劇を成功させろ」



 「了解、我が主よ」



 そして、物語の中盤の大舞台がスタートする。















■■■   side:マザリーニ   ■■■



 私は今出撃していく祖国の軍を見守っている。


 トリステイン・ゲルマニア連合軍6万を載せた大艦隊がアルビオン侵攻のためにラ・ロシェールより出航していく。

 トリステイン・ゲルマニア大小合わせ参加隻数は500を数え、そのうち60隻は戦列艦であり残りは補給や運搬を行うガレオン船となっている。


 「まるで、種子が風に吹かれて一斉に舞うようですな」


 私は陛下に話しかける。


 「大陸を塗り替える種子です」


 陛下が淡々と答える。


 「白の国を青に塗り替える種ですな」


 アルビオンは白の国、そして我がトリステインは「水の国」であり青地に白の百合模様が王家の旗となっている。


 「負けられませんな」


 この侵攻は賭けであり最後の勝負だ、これで負ければ後は無い。


 元来トリステインは強国ではなく、メイジの比率こそ高いものの侵攻に向く国柄ではない。


 隣国のゲルマニアが我が国に攻め込みそれを迎撃するということは幾度となくあり、その度にラ・ヴァリエールはトリステインの盾として最前線で戦っていた。


 「負けるつもりはありませぬ」


 陛下はそう答えるが内心は不安に満ちているだろう。


 「司令官のド・ポワチエは大胆と慎重を兼ね備えた名将です、彼ならやってくれるでしょう」


 私はとりあえずそう言っておくが内心は全く逆である。


 彼は名将とはほど遠い。先々代のフィリップ三世の時代ならばせいぜい連隊長が限界だっただろう。


 もうしばらく後代の、若かったヴァリエール公爵やグラモン元帥が活躍した時代でも今よりはかなり上だった。その時代の軍士官ならばこの侵攻ももう少し楽観できたのだが。


 しかし今では、その程度の男に総司令官を任せねばならないほどトリステインには人材がいない。本来ならば侵攻など出来る状態ではないのだが、そうせざるを得ない状況に追い込まれた。


 「しかし・・・・・・・・あの男に勝てるでしょうか?」


 陛下が弱気を漏らす。


先程とは正反対の発言であり、本来なら王としては言ってはならぬ言葉だ。


しかし陛下を責める気にはなれない、私も同じ気持ちだからだ。


「アルビオン軍総司令官ゲイルノート・ガスパール。『軍神』の異名を持つあの男が最大の障害となるのは間違いないでしょうな」


 この男とオリヴァー・クロムウェルによってアルビオン王家は滅ぼされた、しかしクロムウェルは貴族のまとめ役であり実際に動いたのはゲイルノート・ガスパールの方である。



 最初に陛下の口からアルビオン侵攻が発せられたのは5か月近く前であり、陛下がアルビオンの間者の手によって誘拐されかかってより少し経った頃のこと。


 ウェールズ王子が生きており、陛下を誘拐するために利用されていたそうだが失敗に終わり、ゲイルノート・ガスパールによって殺された。


 陛下はその復讐の為に侵攻を決意なさったようで、私は当初反対だった。


 浮遊大陸へ侵攻するのは無謀極まりなく、空から封鎖し持久戦に持ち込むべきだと主張した。


 というのもアルビオンは食糧の自給は可能だが鉱物資源はやや乏しく、水産物は壊滅的だ。故に「風の国」と呼ばれるように豊富な「風石」によって大量のフネを空に浮かべ、通商を活発に行う貿易国家がアルビオンであった。


 故に戦争状態が長引きまともな通商が不可能となればアルビオンは干上がるものと私は予測した。


 しかし。


 「我が国土もゲルマニアも、あの男により何度も蹂躙されましたわ。民に目立った被害がないのが唯一の救いですが、このままではいつか滅ぼされてしまうでしょう」



 それを嘲笑うかのようにあの男の侵攻が開始された。

 恐るべき速さで艦隊の再編を完了させ、小規模の艦隊で軍需物資集積場を狙い、制空権を握ったまま一方的に我が方の物資を掠め取っていった。


 トリステインの艦隊の整備が終わる頃には既に10以上の集積場が壊滅し、国庫に大打撃を被った。


 さらに国中でアルビオンの戦列艦が目撃されたことで民の間にも動揺が走り、悪循環に陥りかけた。


 「それを打破するには最早この手段しかありませんでした、陛下、お辛い選択でしたでしょうが、よくぞご決断くださいました」


 そして、極めつけに首都トリスタニアがゲイルノート・ガスパールによって急襲された。ゲルマニアの援軍によってことなきを得たものの、トリステインは滅ぶかどうかの瀬戸際だ。

 故にトリステインにはアルビオンに侵攻し大本を絶つ以外にとるべき道がない。


 たとえ陛下が戦争に反対であったとしてもこうせざるを得ない状況なのだ。


 しかし、奴の首都急襲によって、日和見の封建貴族や宮廷貴族が全て侵攻賛成派となったのも皮肉な話だ。

 ………いや、そのための首都急襲だったのかもしれぬ、あえて、我々にアルビオンへ侵攻させるための。




 「私の決断などあってもなくても変わらないようなものですわ。大変なのは兵士達でしょう、勇敢なアルビオン王党派の方達も成す術なく死んでいったのですから」


 ゲイルノート・ガスパールは戦争の天才、しかし厄介なのは彼だけではない。


 ウィリアム・ホーキンス将軍、ヘンリー・ボーウッド提督、オーウェン・カナン提督、そしてニコラ・ボアロー将軍。いずれもゲイルノート・ガスパールと共にトリステインへの侵攻作戦を展開した良将であり、特にボアローは3年前までトリステインのヒポグリフ隊の隊員だった男だ。


 隊長よりも腕の立つ男だったが下級貴族出身であったため、伝統を重んじるトリステインでは出世できず、ゲイルノート・ガスパールを慕っていち早く『レコン・キスタ』に参加し将軍にまで登り詰めた。


 他国人であっても有能であれば将軍に登用するというのが『レコン・キスタ』の方針であり、ワルド子爵が寝返ったものボアローの成功例があってのことだろう。


 トリステインを見限って離れた男が、今やアルビオンの将軍として立ちはだかるというのも皮肉な話だ。



 「ですが、侵攻が始まった以上、戦場の兵士達に我々がしてやれることはありません。その代りにやることはいくらでもありますがな」


 食糧の補給、軍費の調達と数えればきりが無いが、最大の懸念事項はガリアだ。


 ガリアは完全な中立を宣言し、それ故にどの国とも対等な関係で通商を行える。


 その結果アルビオンはガリアから鉱物資源や水産資源を高値で輸入し、トリステインは「風石」を大量に輸入することとなり、ゲルマニアも同様だ。


 我々が疲弊する中で唯一栄えるのがガリアであり、ガリアにはあの“悪魔公”がいる。


 彼の言葉がなければタルブでの勝利は無く、この状況は生まれていなかった。後に確認したところゲルマニアからの援軍も彼がゲルマニア皇帝アルブレヒト三世に提言した結果らしい。つまりこの状況は、彼がガリアの為に望んで作り出したものとも言える。


 ガリアにとっては戦争状態が続くことが望ましく、そのために何らかの干渉をしてくる可能性もある。


 正面にはゲイルノート・ガスパール、背面には“悪魔公”、我がトリステインは強敵に挟まれた状態となっている。


 “悪魔公”に関しては一切陛下の耳には入れていない、今の陛下にこれ以上の心労をかけるわけにはいかないからだ。


 「始祖ブリミルよ、どうかこの国をお守りください」



 そう神に祈れるのも陛下がまだ若いゆえだろう、私などロマリアの枢機卿でありながら神の存在など欠片も信じてはいない。


 神に祈るだけでは政治は出来ぬし民も救えぬ、そのようなものに縋るだけではトリステインはロマリアと同じ貧民窟の見本市になり下がろう。


 そうはさせぬためにも勝たねばならぬ、そのために僅か16歳の少女と17歳の少年を戦争の切り札として投入したのだ。


 人道的に許されることではないが、やらねば民が死ぬ。そしてあのゲイルノート・ガスパールの裏をかくためには伝説の力でも持ってくる他はあるまい。



 仮に天罰が下るとしてもそれは私一人だけでよい。陛下は光として民を照らし、私は王国を支える影であればよい。


 それが先王陛下よりこの国を託された私の役目だ。もっとも、アルビオンからの入り婿であった陛下が、ロマリアから出向してきた宰相にトリステインの未来を託したというのもおかしな話なのだが。





 私は様々な事柄に考えを巡らしながら、アルビオンに向かう艦隊を見つめ続けていた。













■■■   side:ハインツ   ■■■



 神聖アルビオン共和国首都ロンディニウム。


 そこに存在する軍本部にて現在作戦の最終確認を行っている。


 既にそれぞれの準備は完了しており、足並みが揃っているかを確認するために各司令官が一度集合したわけだ。


 「諸君、よく集まってくれた、時間も惜しいので早速本題に入る」


 全員が頷く、この状況で体面にこだわるような無能は今のアルビオンにはいない。


 「まず、ホーキンス、ロサイスの撤退は済んだな」


 「は、ロサイスの軍事施設および防衛機能は完全に撤収が完了しております。住民の動揺を抑えるために、指揮官はまだ全員が残り市議会の役員達と話し合いを続けておりますが」


 ロサイスは放棄することが既に決定している。


 敵軍をアルビオン深くまで誘い込み、糧道を伸び切らせ、疲弊したところを“ある作戦”で混乱させ一気に叩く作戦だからだ。


 「よし、会議が終わり次第お前ももう一度向かいこの手紙を市議会の重役に渡せ、オリヴァー・クロムウェルとゲイルノート・ガスパールの連名の文書だ」


 これにはロサイスが全面的にトリステイン・ゲルマニア連合軍に協力しても責任者を一切罪には問わないと書かれている。


 ロサイスは工廠の街であり職人が多い、故に彼らは注文された品を納入し金銭を受け取るのが生業であり、その相手がアルビオン軍だろうがトリステイン・ゲルマニア連合軍だろうが変わらない。


 逆に連合軍にとって彼らの協力は不可欠だから彼らに危害を加えることもできない。


 故に守備兵を完全に撤退させても問題ないのだ。


 「ははっ!」


 「次に、ボーウッド、例の艦隊の準備は整っているな」


 「はっ、戦列艦5隻、そして例の艦隊30隻、出動準備は終えております」


 ボーウッドは連合軍の艦隊主力を迎え撃つ役割となっている。


 「よろしい、哨戒用の竜騎士隊も全て動員して構わん、可能な限り死者は出すな」


 「ははっ!」



 「そして、ボアロー、陸軍主力の布陣は完了しているな」


 「無論、3万5千の兵はダータルネスに配置してあります。今は潜伏していますが、敵の奇襲があれば一気に反撃可能です」


 敵は恐らくダータルネスに陽動作戦を仕掛け、本隊でロサイス攻略を狙うだろうと『影の騎士団』は結論付けた。


 本来ならもっともっと効果的な戦略があるが、補給、財政、士気、指揮官の能力、諸々を考えた結果この作戦程度が限界だろうということで全員の意見が一致したのだ。


 「敵は間違いなくダータルネスに陽動作戦を仕掛けてくるが、その規模は未知数だ。万単位の可能性は低いが、あり得ないわけではない。警戒は怠るな」


 「ははっ!」



 「最後に。カナン、艦隊主力は既に出航しているな」


 「はい、40隻の艦隊は現在分散しダータルネス近辺に潜伏しています。敵の分艦隊を捕捉し次第、包囲殲滅が可能です」


 「それはよいが、あせって出陣のタイミングを誤るな。敵の偵察隊などは無視し、戦列艦の撃滅に全力を注げ」


 「ははっ!」


 これで確認は終了。


 アルビオン軍はこれより迎撃を開始する。


 総司令官ゲイルノート・ガスパールは首都ロンディニウムに布陣し、司令部は動かさない。


 祖国防衛戦においては総司令官は動き回らずどっしりと腰を据えていたほうがよいのだ。



 「諸君! いよいよ開戦だ! 我等軍人が本領を発揮すべき時である! 己々が職分を全うし、決して功をあせるな! 無能な軍人とは己の力量も省みず失態を犯し、仲間を危機に陥らせる者である! 諸君らは実力本位の『レコン・キスタ』において最上位に君臨する将軍だ! 己の力を信じ、されど過信はせず、勝利の為に邁進せよ!」


 「「「「  ははっ! 」」」」



 「 我等が望むは勝利なり!! 」


 「「「「  勝利万歳!! 」」」」





 ここにアルビオン戦役が開始される。















■■■   side:才人   ■■■



 俺とルイズは現在ゼロ戦で『ヴェセンタール』号に着艦したところだ。


 女王様からの指示書には向かうべき艦の名前しか書かれていなかったが、俺達の存在を考えれば想像つく。


 おそらくこの船は総旗艦、竜母艦とかいう竜騎士を格納するために特化した船で大砲とかは積んでないそうだ。


 だからこそ広い会議スペースを設けることも可能だろうし、旗艦に必要なのは戦闘力よりも情報処理能力、配下の艦に以下に迅速かつ的確な指示を出せるかだ。



 なんでこんなことを俺が知ってるかっつーと、最近ルイズがやってる軍学講習(独学)に付き合わされてるからである。


 ま、この戦いでは俺も兵士として戦うことになるんだから軍学を知ってて損にはならないし、自分が生き残る可能性を上げるためにも必死に勉強したわけだ。


 そんなことを考えながらルイズと一緒に歩いてるとドアが開かれた。


その中は結構広い空間で、ずらっとお偉いさんの将軍っぽいおっさん達が並んでいた。


「アルビオン侵攻軍総司令部へようこそミス・“虚無(ゼロ)”」


そういうのは一番上座にいる立派なヒゲのおっさん。


「総司令官のド・ポワチエだ」


ヒゲ将軍と名付ける。


「こちらが参謀総長のウィンプフェン」


皺の深い小男、なんとなくだが“ジャムおじさん”と命名。


「ゲルマニア軍司令官のハイデンベルグ侯爵だ」


鉄兜をかぶったおっさん、“仮面の男”と呼ぶことにする。



 「さて、各々方。我々が陛下より預かった切り札“虚無”の担い手を紹介しますぞ」


 あっさりバラすヒゲ将軍。


 皆胡散臭そうな顔をしてる、ま、無理ねえけど。


 「タルブの空でアルビオン艦隊を吹き飛ばしたのは、彼女たちなのです」


 そういうと少しは関心を持った模様、現金なもんだな。


 そして軍議が再開された。











 軍議はかなり揉めてる。


 こっちは60隻、向こうは45隻、数ではこっちが有利だけどアルビオン艦隊は錬度が高い、こっちは新型艦が多いけど二国混成艦隊だし指揮系統の統一が取れるかどうか微妙。


 それに上陸地も問題。


 6万の大軍を降ろすとしたら南部のロサイスか北部のダータルネスに限られるそうだが、強襲で兵力を消耗するとロンディニウムを落とすための兵力が無くなっちまう。


 だから何とか奇襲がしたくて、そんためには『ダータルネスに上陸する』と思わせる陽動作戦が必要みたいだ。


 「どちらかに“虚無”殿の協力をあおげないか?」


 ある参謀が言う。


 「タルブで『レキシントン』を吹き飛ばしたように、今回もアルビオン艦隊を吹き飛ばしてくれんかね」



 ルイズはにっこり笑って平然と答える。


 「無理ですわ。あの威力の『爆発(エクスプロージョン)』を撃つには、余程の精神力を溜める必要があります。タルブの戦いよりまだ半年しか経っておりません。出来ないことはないかもしれませんが、確実とは言えませんし、アルビオン上陸後は私は無力な小娘になり果てますわ」


 どこまでも自信満々に言うルイズだった。


 「そんな不確かな兵器は“切り札”とはいわん」


 その男は落胆した様子で首を振る。


 「あら、これは異なこと。たかが16歳の小娘に頼らねば、艦隊戦一つ勝利することが出来ないんですの? だとしたらアルビオンに上陸出来てもその後の展開は見えてますわね」


 「何だと?」


 「確かに不確かな兵器は“切り札”とは言えないかもしれません。ですが、一撃で敵艦隊を何度も滅ぼせる兵器があったのなら、どんな無能な将軍でも勝てますわ。それこそ平民風情でも。しかし、例え不安定な兵器であっても、それを最大限に使いこなし、最大の戦果をあげるために作戦を練るのが参謀なのではありませんか? それが出来ないのであればただの凡将。名将とはとても言えませんわね」


 もの凄く言いたい放題のルイズ。


 「貴様! ガキ風情が我等を侮辱するか!」


 「あら? そのガキ風情を頼りに作戦を立てているのはどこの誰でしたかしら? 奇蹟の光で敵艦隊を全て吹き飛ばすなんて、それこそ子供でも考え付きそうですわね」


 激昂する将軍に対してあくまで余裕なルイズ。


 「ぬ、ぐぐぐ・・・」


 「まあそれはともかく、ド・ポワチエ司令官、ダータルネスに敵を吸引するならば効果的な魔法はあります。『爆発』程は精神力を消費しないので、上陸後も支援は可能です」


 総司令官に直接言いだすルイズ、すげえなこいつ。


 「その魔法とは?」



 尋ねるヒゲ将軍。


 ルイスがその『魔法』についての説明を始める。


 さっきまで疑い半分だった周りの将軍も今は真剣に聞いている。



 「なるほど、上手くいけば敵を吸引できますな」


 頷くヒゲ将軍、ジャムおじさんや仮面の男も同じく。



 「ですが、私個人としては不安が大きくありますし、もっと別の作戦を採るべきだと思います。“ダータルネスに陽動部隊を派遣してロサイスを空にさせ奇襲を仕掛ける”。いくら“虚無”を組み込むとはいえ作戦の概要はそういうことですから、敵が優れた人物ならば見破られる可能性が高いかと」


 この発言に参謀連中が反応する。


 「では、“虚無”殿はどうすればよいとお思いで?」


 厭味ったらしく言う野郎が一人。


 「敵が思いもしない所を突くのがよろしいかと、例えばスカボローやミルトン、ミドルズといったロサイスに割と近い港にです。そこなら敵の守備隊も少ないでしょうから、楽に破れると思います」



 「馬鹿な、その港の規模では6万の大軍を降ろすことなどできん。軍学を知らぬ小娘が出しゃばるな」


 その野郎が勝ち誇ったように言う。


 流石に“切り札”に対して言い過ぎのようで、ヒゲ将軍が叱責しようとするが、その前にルイズが続ける。



 「ですから一つの港に全軍を降ろす必要はありません。三か所の港に一万ずつ上陸させ、アルビオン本土で合流した後背後からロサイスを襲えばよいのです。そして彼らを目的地に降ろした分艦隊は再び空に戻り、本体と合流してロサイスに進撃します。流石のアルビオン空軍といえど、軍港が敵軍に襲われている状況では背後が気になり、いつもの錬度を保てないでしょう。それならば正面決戦でも十分勝機はあるかと」


 理路整然と言うルイズ。


 さっきの野郎は黙り込む。


 そう、艦隊決戦には陸戦要因はまるで役に立たない、ならばその遊兵を如何に利用するかがポイントだ。


 戦場で遊兵を作らないというのは基礎中の基礎だそうだ。


 先に小規模な港に陸戦部隊だけを幾つかに分けて降ろし、敵国内で合流した後、艦隊と連携してロサイスを挟撃する。


 まずは拠点を確保してそれから上陸、という常識を逆手に取った作戦だ。


 ルイズはこの1ヶ月間こういった様々な作戦をひたすら考え続けていた。


 故に“博識のルイズ”。


 だが、この作戦には大きな問題がある。


 「ううむ、確かに面白い作戦ではある。しかしタイミングが少しでも狂えば、敵に各個撃破の好機を与えることになる。残念だがその作戦は採用できんな」


 と言うヒゲ将軍。


 そう、この作戦は陸軍と空軍にそれ相応の錬度と高度な連携が求められる。


 ゲイルノート・ガスパールを頂点としたアルビオン軍ならそれが可能でも、陸軍はゲルマニア主体、空軍はトリステイン主体という歪な連合軍ではそれは非常に難しい。


 まして総司令官がこのヒゲ将軍ではなおさら。


 と、ルイズがぼやいていた。


 「まあそれは仕方ありませんわ。他にも幾つか作戦案はありますが、どれも小娘の脳から出た妄想でしかありませんので、将軍方にお聞かせできるようなものでもありません。私はダータルネスの陽動作戦に全力を尽くしましょう」


 そうしてルイズは立ち上がる。


 「虚無の詠唱にはそれ相応の準備が必要ですので、今から自室にて瞑想に入ります。具体的な作戦が決まりましたらお知らせください」


 そう言い残して出口へ向かう俺達。




 しかし退室間際で振り返って言う。


 「皆様、歴戦の勇者である貴方がたに今更言うことではないかもしれませんが、決してゲイルノート・ガスパールを甘く見ないでください。私はタルブにてアルビオン艦隊を吹き飛ばしましたが、彼はそれすらも予測していたように後続の艦隊を準備しており、半数の艦隊とほぼ全員の士官をアルビオンへ帰還させることに成功しています」


 そこで一呼吸置くルイズ。


 「ですから、虚無を得てなお倒しがたい強敵であるのは間違いありません。重ねて言いますが、決して侮ることなきようよろしくお願いします」


 そしてルイズと俺は作戦会議室を出た。















 「ふう、緊張したわ」


 歩きながら呟くルイズ。


 「そうか? とてもそんな風には見えなかったけどな」


 「そりゃそうでしょ、内心の緊張を表に出してどうするのよ。ああいう連中はおべっかを使うことと相手の気持ちを察することには長けているんだから、用心深くいく必要があるのよ」


 そう説明するルイズだが、将軍がそんな技能ばっか持ってるのはどうなんだろう?



 「しっかしお前も言いまくったなあ、どう考えても喧嘩売ってるぜあれ」


 「当然よ、こっちは切り札の“虚無”なんだから。相手がどう思ってても私を追い出すことはできないし、“陛下が授けた切り札”を侮辱することは陛下を愚弄することと同義である、って言ってやれば簡単に黙るわよ。もっとも、そんな必要もなかったけどね」


 笑みを浮かべるルイズ。


 「お前、詐欺師とかでも生きていけるんじゃないか?」


 本気でそう思う。


 「それも悪くないかもしれないわね」


 笑顔で応じるルイズ、本当に変わったなあこいつは。


 「だけど、将軍達があれじゃあ厳しい戦いになるわね。私が考えた他の作戦案も言うだけ無駄、それを実行に移せる能力がないんじゃ机上の空論にすぎないし、それにギーシュやマリコルヌからの報告じゃあ王軍の士官不足も相当だっていうし、こんなんでまともな戦いになるのかしら?」


 「学生士官のギーシュが中隊長をやらされるくらいだからなあ、戦う前から負けてる気もするけど、それでも勝たなくちゃいけねえんだよなあ」


 何とも難しい話だ。


 「今更言うのも変だけど、あんたまで付いてくることなかったのよ?トリステインの公爵家出身の私はともかく、あんたはトリステイン人ですらないんだから。ハインツに頼めばゲルマニアだろうがガリアだろうが、どこでも生きていけるでしょ」


 それはそうだ、それにハインツさんも一回はそう言ってくれた。


 だけど俺は断った。


 「けどさ、お前は戦うんだろ?」


 「ええ、私は戦うわ」


 ルイズはきっぱりと答える。


 「それはお前の家族のためだったよな」


 「そうね、『レコン・キスタ』は平民に厳しいわけじゃないから、征服されても平民にとってそんなに苦しいことにはならないかもしれない。実力主義だから、グラモン家やモンモランシ家なら無事で済むかもしれないし、彼らの実力次第で軍士官とかになれるかもしれないわ」


 それは以前7人で話し合ったときにも確認した。


 「だけどヴァリエール家は無理。王家に近すぎる。例え王家を潰しても、ヴァリエールが無事なら王政復古の可能性が強く残る。共和制を掲げる『レコン・キスタ』が見逃すことはあり得ないわ。何しろ姫様のゲルマニア皇帝との婚姻が決まった際、お父様に一時期王になってもらってはどうか、何て意見もあったそうだから。当然お父様自身が速攻で却下したけど」


 「ならさ、俺が一人逃げて無事でも、お前とその家族は死んじまうってことだよな」


 「ま、トリステインが負けたらそうなるでしょうね」


 それならやることは決まっている。


 「俺は友達とその家族の命が懸ってるのに一人逃げるつもりはねえよ、それにギーシュやマリコルヌだってトリステインのために戦ってるんだからな、あいつらを見捨てて逃げられるかよ」


 俺はこっちの世界に来てたくさんの人に世話になった。


 そして夏休みに入ってからはあちこちに行って色んな人に会った。


 貧しくても毎日を一生懸命生きている人達が大勢いた。


 「だから俺も戦う。ここで見捨てて一生後味悪い思いをして生きていくのは真っ平御免だ」


 そんな気持ちを抱えたまま地球に帰ってもその後自分に自信を持って生きられない。


 そんなのは文字通り死んでも御免だ。


 「そう、あんたが自分の意思で決めたんなら私からは言うことは無いわ。けど、一つだけ約束なさい」


 「なんだよ」


 「絶対死なないこと、必ず生きて帰りなさい。あんたが死んだらタバサが悲しむわ」


 !?


 「って、何でタバサ限定なんだよっ」


 思わずどもる。


 「さあて、なぜかしらね?」


 含む様に笑うルイズ、最近キュルケに少し似てきた気がする。



 「つーかお前はどうなんだよ」


 「私? 私は死ぬつもりはないわよ。私の家族は私を愛してくれてるし、私もあの人達を世界で一番愛してるから、大切な人を悲しませるような真似はしないわよ」


 これまた自信満々に言うルイズ。


 「家族に黙って戦場に来てる時点で既に悲しませてる気がするんだが?」


 そう思うのは俺だけか?


 「それはそれ、これはこれよ」


 平然とのたまうルイズ。



 「ま、それはもういっか、戦場でごちゃごちゃ言っててもしゃあねえし、艦内の探検にでも行っかな」


 俺は早足で歩きだす。


 「そう、私は寝てるわ、さっきの会議で疲れちゃって」


 ふわあ、とかわいい欠伸をするルイズ。


 「俺は座ってただけだからな、じゃあ行ってくるわ」


 「行ってらっしゃい」





 そして俺は艦内の探検に出かけた。






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