アルビオンでの内乱は終了。 勝者である『レコン・キスタ』は神聖アルビオン共和国となり、オリヴァー・クロムウェルを盟主とした新政府を樹立。 ここに始祖ブリミルが授けた三本の王権の一つが倒れた。 6000年間に一度もなかった出来事が起こり、歴史の流れは加速しつつ濁流となっていく。 しかし、アルビオン、トリステイン、ゲルマニアの間には不可侵条約が結ばれ、表面上の平和は訪れた。第七話 外交■■■ side:ハインツ ■■■ アルビオンでの後始末も終わり、俺は才人達の監視とガリアでの暗躍に戻った。 トリステイン王女アンリエッタとゲルマニア皇帝アルブレヒト三世の結婚式は翌月の一日、ニューイの月(6月)に行われる。 それに合わせて『レコン・キスタ』が奇襲を仕掛けるのだが、それまでは才人達は平穏なはずである。 しかし、物語は容赦なく進み、ルイズが結婚式の際の巫女役に選ばれた。 おそらく例のお姫が幼馴染を指名したのだろう。 そしてルイズの元には『始祖の祈祷書』と『水のルビー』が揃うこととなった、これらが“虚無の担い手”の覚醒に不可欠なアイテムなのだ。 うむ、相変わらず物語の御都合主義は凄まじい、陛下以外にも誰かが脚本を書いているんじゃないかと疑いたくなる。 歴史の流れとは幾万もの偶然が積み重なって生まれるという、これもそんな流れの一つなのかもしれない。 とはいえ、結婚式が重要なポイントならば、それまでは才人達に大きな動きはないだろうとタカをくくっており、一旦監視は引き上げ、本国の貴族の監視や粛清などに回したのだが。 甘かった。 主役とは思った以上に忙しいもののようだった。 「ハインツさん、それで何かいい仕事ないでしょうか?」 例によってシャルロット経由で才人から連絡がきた。 今回の依頼は「住み込みで働ける場所を紹介してくれないか」という何とも現実的なものだった。 何でも諸々の事情からルイズの使い魔をクビになり部屋から叩きだされたらしい。 部屋もなく、使い魔もクビになっては才人に生きる術は無い。 そこで彼は持ち前の切り替えの早さを発揮し、早速仕事探しに出かけた。(なんとその日のうちに) しかしそこで彼はふと思う、あのルイズのことだから気まぐれで戻って来いとか言いだす可能性もある。つーかその方が高い。 そうなったら学院内の人達だと、ルイズの爆発に巻き込まれることになるかもしれない。なので才人と仲が良いメイドのシェスタや料理長のマルトーさんを頼るわけにはいかず、彼はトリスタニアで住み込みの仕事を探すことにした。 その辺の配慮を出来るようになったの、彼の成長の証といえるかもしれない。 シャルロットのシルフィードに乗っけてもらってトリスタニアに着いた彼は仕事を探してみた。ハルケギニアの文字はシャルロットに習っており、ルーンの援護もあって覚えるのに然程苦労はしなかったそうだ。 しかし、見た目異邦人で、この世界の仕組みにまだ完全に馴染んでいない才人ではなかなかいい職が見つからなかった。 それも仕方ない。彼が普段居るのはトリステイン魔法学院、早い話が貴族学校。 この世界の一般常識を身につけるには王宮に次いで相応しくない場所であった。 「で、俺に相談してきた訳か」 「そうなんですよ、ハインツさんしか頼れる人がいなくて」 他にいないわけでもないと思うが、一番頼りやすいのは間違いなく俺だろう。 「それは構わんが、現在お前はどうしているんだ?」 「今はシャル・・じゃなかったタバサの所で厄介になってます、ですがいつまでもこのままというわけにもいかないんで」 追い出されてすぐ別の女のところに転がりこむとは、なかなかやるなこいつ。 しかしまあ、シャルロットはそういうのを気にしないから特に問題もないのだろう。 それに、イザベラなんか本部の大部屋で多くの男性職員と共に、“働け、休暇が来るその日まで”の空のビンを握りしめながら机に突っ伏して力尽きることが多い。 それに比べれば15歳の少女が自分の部屋で数歳違いの男の子と一緒に寝ることなどまだましだ。 哀れイザベラ、がんばれ17歳。 「ふむ、それで仕事だが、紹介しようと思えばいくらでもある。トリスタニアで働きたいなら大半の仕事を回せるぞ」 「本当ですか!?」 トリスタニアには北花壇騎士団支部があり、メッセンジャーが経営する店も多い。そこら辺のどっかで才人を雇ってもらうことなど、正に造作もないのだが。 「だけど才人、その場合ルイズの報復が恐ろしいぞ。下手すると公爵家の権力でお前を追いつめるかもしれん」 傍から見れば“使い魔に逃げられた主人”である、それに気付いたルイズが才人捕獲のためにあらゆる手段に出かねない。 「う、その可能性はありますね・・・」 才人もその辺は察することができるようだ、伊達に一月近く使い魔をやってない。 「だからさ、とりあえずトリステイン内部で根なし草の賞金稼ぎでもやってみたらどうだ」 「賞金稼ぎ、ですか」 才人が反応する、その響きに惹かれるものがあるようだ。 「そうだ。オークとかの亜人をやっつけたり幻獣をやっつけたり、そういった活動をしながら報酬をもらっていくんだ。北花壇騎士団のフェンサーの仕事の多くはそれだから、その辺の仕事は俺から回せる」 「あ、それ良さそうですね」 「よし、じゃあ明日にでもトリスタニアにある“光の翼”、例の店だな。そこに来てくれ」 「了解です!」 そういうことで臨時フェンサーとして才人を雇うこととなった。 しかし翌日。 来たのは才人だけではなかった。 シャルロットはともかく、キュルケ、ギーシュ、そしてなぜかメイドのシエスタという訳分からん組み合わせだった。■■■ side:キュルケ ■■■ ハインツが珍しく呆然としてる。 まあ、いきなりこの面子が押しかけたらそれも当然かもしれないわね。 「やっほー、ハインツ、元気だった?」 「キュルケ、お前の仕業だな?」 あら、相変わらず鋭い。 「まあそんなとこよ、どうせだから宝探しも兼ねて皆で楽しもうってことになったの」 「いや、キュルケが強引に決めただけのような……」 「僕はいまだに何をやるのかすら知らされてないんだが」 「私は才人さんについてきただけで」 「楽しそう」 賛同してくれてるのはシャルロットだけ。 私は普段はタバサってこの子のことを呼ぶけど、二人きりの時とかはシャルロットって呼ぶことにしてる。 というのもこの子の優しいお兄様にそう頼まれたからだ。 私がハインツに出会ったのはもうかれこれ一年近く前になるから、この中ではシャルロットに次いで長いわね。 サイトはまだ1か月くらい、ギーシュとシェスタは一度会ったきり。 サイトがギーシュとの決闘の後、怪我して倒れた時に治してくれたのがハインツ。 その時ルイズは席を外していたから会ってない。そのあとなぜかもう一度来たハインツに、ギーシュとシエスタが会っている。 とんでもない謎の説明をして正体を煙に巻いたとは聞いたけど、それで押し通すのがハインツの凄いところ。そういう点はシャルロットも似てるけど。 「まあそういうことよ。で、貴方なら本物っぽい宝の情報とかも知っていると思ってね」 ハインツの仕事は大体聞いた、彼は聞かれたことには大体真実で答える。 普通に考えれば言えないようなことまで平気で話すのだが、ハインツ曰く。 「言うべき相手がどうかは選んでいる、お前がたまたまそうだっただけのことさ」 らしい。 この男は私が今まで出会った中で一番の変わり者。 シャルロット曰く、“異常者”。 正直、私が会った男の中で一切男性的な魅力がなかったのはこいつだけね。 女っぽいわけではない、子供っぽいわけでもない、言ってみればハインツらしい。 大人の人間を分けるなら、男、女、ハインツ、の3種類に分けるのが正しいというべきか。 だけど、シャルロットにとっては優しいお兄ちゃん。この子は絶対否定するでしょうけど、傍から見れば丸分かりなのよね。 だけど同時に敵でもあり、上司であり、目標でもあるという何とも複雑な兄妹なのよね。(正確には従兄妹) ま、そんなだから一緒にいて全然飽きないし、サイトが加わってからはさらに楽しくなった。ハインツには変人を引き付ける才能があるみたいね。 そういう私も結構な変わり者の一人だけど。 「ふむ、宝の場所ねえ、そういう場所はいくつか知ってるが。そうだな、お前達が持ってる地図とつき合わせてみよう。それでありそうな所は宝探しで、なさそうな所は幻獣退治をメインにいく。そうすれば本来の目的である金稼ぎに最も合う、報酬は俺から出すから」 「流石ハインツ、頼りになるわね」 「え、え、いいんですか?」 サイトは驚いてるわね、まさか報酬までハインツ持ちとは思わなかったみたい。 「問題ないわよサイト、ハインツは自分の利益にしながら人に善意で協力する天才なの。だから私達が幻獣退治でもすればそれは間違いなくハインツの利益になるわ。つまりは、持ちつ持たれつってことよ」 本当は違うけどね。結果的にそうなるけどそういう結果にする為に努力するのはハインツだから、圧倒的に彼の方が仕事が多い。 まあ、そういう仕事を自分でやりたがって過労死寸前になるのが、このハインツ・ギュスター・ヴァランスという男なんだけど。 私は色々と話し合うハインツ、サイト、ギーシュ、シェスタをシャルロットと一緒に眺めながら、今回の冒険は楽しくなりそうだと確信していた。■■■ side:ハインツ ■■■ そうして、才人達は“宝探し”に出かけた。 その宝の中には『竜の羽衣』も存在したようで、これもまた物語の一部なのだろう。 そうなると、アルビオンがとるべき行動も決まってくる。 陛下の方は今『ヨルムンガント』の本格的な製作にとりかかったらしく、今回の件は俺に一任されている。 とはいえ大まかな脚本はあり、どう演出するかを任されただけなのだが、それでも臨機応変に舞台を整える必要がある。 俺は侵攻作戦の段取りを決めるため、白の国へ向かった。■■■ side:ボーウッド ■■■ 私はヘンリー・ボーウッド。 アルビオン王国空軍の艦長を務めていたが、現在では神聖アルビオン共和国空軍総旗艦『レキシントン』号の艤装主任である。 艤装が終了したら艤装主任はそのまま艦長となることがアルビオン空軍の伝統であるためそれはもう確定事項だ。 そして今私は視察に訪れたアルビオンの最高権力者二人と話している。 「ふむ、なかなか順調のようではないか、これならば結婚式に余裕で間に合いそうだな」 そう呟くのは神聖アルビオン共和国初代皇帝兼貴族会議議長オリヴァー・クロムウェル。 この国の盟主である。 「ほう、この短期間でここまでの艤装を完了させるとは良い仕事だな。見事だ、サー・ヘンリー・ボーウッド」 感心したように声をかけてきた男がゲイルノート・ガスパール。 アルビオン軍総司令官であり、空軍、陸軍の両方を統括する国軍の要。 『鮮血の将軍』、『軍神』の異名を持つ男である。 「は、身に余る光栄であります」 「私からも礼を言うよ艤装主任。それに、錬金魔術師たちもよくやってくれているようだ。ミス・シェフィールド、あの新型大砲はどれほどの射程をほこるのだったかな?」 「トリステインやゲルマニアの艦隊が保有するカノン砲の1.5倍の射程を有します」 皇帝の秘書という女がよどみなく答える。 「ふむ、実に素晴しい、これで『レキシントン』号に敵う艦はどこにも存在しないな」 満足そうに頷く皇帝。 「クロムウェル、どれだけ兵器が優れていようがそれを扱う者が無能ならば何の意味もない。優れた指揮官ならば、旧型の艦で新型艦を打ち破る方法などいくらでも思いつける。そういう慢心こそが、敗北の温床となる」 厳しい評価を下すガスパール元帥。 皇帝を呼び捨てにする人物は彼をおいて他にいない。 「ふむ、確かにそれはそうだ。サー・ヘンリー・ボーウッド、君のように有能な将官の手で運用されてこそ、この兵器はその真価を発揮する。見事期待に応えてくれたまえ」 「は、非才な身ですが、全力を尽くします」 「ボーウッド、己の実力に自信があるならば誇れ、己こそが最優であると豪語してみせろ。例えそれほどの自信がなくとも卑屈になることはない。少なくとも、俺はお前の指揮官としての能力を高く評価している。そういった態度は褒められたものではないぞ」 「は、申し訳ありません」 私は謝罪する。 元々私は心情的には王党派であった。 上官であった艦隊司令が反乱軍へと就いたため私も『レコン・キスタ』の艦長として革命戦争に加わった。 軍人は政治に関与すべからずという意思を強く持っていたからであり、軍において上官の命令は絶対だったからだ。 しかし、無能な王を打倒し有能な貴族による合議制で国を治めるという『レコン・キスタ』の大義には賛同し難いものがあった。 その有能な貴族とやらが利権目当てで集まった烏合の衆に過ぎず、本末転倒もいいところだったからである。 だが、それを打ち破ったのがゲイルノート・ガスパールであった。 彼はそういった無能な貴族を次々に自らの手で処刑し、有能な者は爵位に問わず登用し、平民ですら軍高官に任じた。 反対意見は悉く力で抑えつけ、艦隊司令であった私の上官も彼に殺された、軍規に背き、略奪を行ったからである。 しかし、クロムウェルとは一度も意見が対立することはなく、それが現在のアルビオンの政治家と軍人の結束の象徴となっている。 そして私は自分の意思で革命戦争に加わるようになった。軍人とはいえ祖国の為を思うなら、自分の意見を政治家に叩きつけることも必要だと学んだからだ。 かといって必要以上に口を出す必要もない。軍人は政治家に従うべしという前提は忘れてはならない。しかし、盲目的に従えばよいというものでもない。 自分で考え、自分の意思で行動するということの意味を私は司令官より学んだ。 故にこれから私が口にするのもその教えに従えばこそである。 「しかし閣下、質問があるのですが」 「ふむ、何かね?」 「なぜ親善訪問に新型の大砲を積み込む必要があるのですか? いたずらに刺激するだけだと思いますが」 この『レキシントン』はトリステイン王女とゲルマニア皇帝の結婚式に国賓として出席する皇帝の御召艦である。そんなものに新型の兵器を積み込めば下手をすると挑発行為ととられかねない。 「その答えは簡単だ、これは親善訪問などではないからだ」 「それはつまり」 「うむ、トリステイン艦隊からの礼砲を実弾と称して、トリステインに侵攻する。これはそのための旗艦となる」 「そんな真似をするのですか! トリステインとは不可侵条約を結んだばかりではありませんか! このアルビオンの長い歴史の中で他国との条約を破り捨てた前例はありません!」 私は激情のあまり怒鳴りつける。 「それは違うぞボーウッド、これは侵略などではない」 しかし、司令官はそれを否定する。 「侵略ではない?」 「その通りだ、侵略とは敵の国土を我がものとする為に行うものだ。ならばなぜ動員する兵が僅かに3千なのだ?」 「それは・・・」 確かにそうだ。本当に侵略するつもりならば、3千などという小規模な軍勢を送り込むはずはない。軍を動員するにあたって兵力を小出しするのは愚の骨頂、ならば動員するのは3千ではなく3万のはず。 我がアルビオンの陸軍の数は5万、にもかかわらず他国への侵略軍が3千というわけはない。 3千では親善大使の護衛といっても通用する数だ、やや多すぎるのは否めないが。 「ではこの行動には一体何の意味が?」 「決まっている、宣戦布告だ」 「宣戦布告、ですか?」 「ああ、トリステインは小国だ。本来ならば不可侵条約など結ぶ必要はなかった。王党派を滅ぼした勢いをかってそのまま侵攻すれば容易く落とせただろう。しかし、それは出来なかった、なぜか分かるか?」 私は考える、確かにあのまま攻め込んでも小国のトリステインは難なく落とせただろう、しかしそれは出来なかった、その理由とは。 「ゲルマニアがトリステインに攻め込む可能性があった、からですか」 「正解だ。あの時点ではまだ正式に軍事同盟は締結されていなかった、故に我々がトリステインに攻め込んだとしても戦果をゲルマニアに奪われる可能性があった。あの不可侵条約は、両国に正式な軍事同盟を結ばせるための方便に過ぎん。そしてそれがなった今、宣戦布告をするというわけだ」 既に軍事同盟は締結されている。この段階ではアルビオンがトリステインに攻め込んでも、ゲルマニアはトリステインに侵攻し領土を奪うことはできない。かといってトリステインのためにアルビオンとの全面戦争に踏み切る義理もあるまい。 「しかし、宣戦布告というのにはいささか大がかりな気が致しますが」 「これは試しでもある。この程度で滅ぶような国ならば侵略する価値もない、王家もろとも灰にするまで。しかし、この程度の挨拶は切り抜けられるならば、侵略する価値はある。故にボーウッド、ある程度戦えば引き上げても構わん、その判断はお前に任せる」 流石は『軍神』、その発想は凡人の及ぶところではない。 しかし、気になることもある。 「小官が司令官となるのですか?」 「ガスパール、今回の作戦における艦隊司令官は貴族議会議員のサー・ジョンストンが受け持つことになっているが」 皇帝が訂正する。 「ああ、そうだったな、しかしボーウッド、俺はお前が艦隊司令官になるような気がしている。そのサー・ジョンストンとやらには会ったことがないので何ともいえんがな、くくく」 可笑しそうに笑うガスパール元帥。 一体彼は何を考えているのだ? 私はトリステインへの侵攻。いや、彼流に言うなら宣戦布告か。それよりも、彼の笑いの意味の方が気になっていた。■■■ side:ハインツ ■■■ さて、アルビオンのトリステイン侵攻準備は順調、このままいけば親善艦隊がそのまま奇襲をかけることができる。 問題はその後。多分才人がゼロ戦に乗って駆けつけるとは思うが、戦闘機では戦列艦は落とせない。 トリステインの戦列艦は全滅するだろうから、アルビオンの侵攻を防ぐにはどうにかして艦隊機能を削ぐ必要がある。 俺がやったように“下り、超特急”を使えば話は別だが、敵艦隊に毒を仕込む方法などあるまい。(あれは結局謎の食当たりとして処理された) そうなるとルイズの“虚無”が頼りだ。物語の流れを考えるなら、ここで虚無に覚醒して祖国を救うってとこだろう。 ロンディニウムにあった“始祖のオルゴール”を陛下に届けたところ、陛下が新たに得た魔法は『爆発(エクスプロージョン)』。 正確には爆発というより分解消滅といったほうがよさそうな代物で、どんな物質でも問答無用で原子レベルで崩壊させる規格外の魔法。 ルイズが現在起こしている爆発はこれの劣化品だろう、故に最初に覚えるのはこれだと陛下は確信しているらしい。そこばかりは虚無の担い手にしか分からないことだろうから、判断は陛下に任せる他は無い“爆発”なら使い手が望んだものだけを爆発させることも出来るようで、以前俺の肋骨だけを陛下の“爆発”で破壊されたことがある。 『アンドバリの指輪』を治療用に使わなかったら俺は死んでいたかもしれない。 だから戦艦の「風石」や砲弾だけを吹き飛ばすことも可能だろうし、多分ルイズにはまだ人間を吹き飛ばすことは出来ないだろう。(陛下なら容赦なく吹き飛ばす) しかし、ルイズが覚醒しない可能性もあるので常にあらゆる状況に備えて手を打っておく必要がある。 「やれやれ、裏方は大変だ」 そうぼやきつつも俺は“保険”をかけるために行動を開始するのだった。 結婚式までの時はあと1週間。■■■ side:マザリーニ ■■■ 「ガリア王の特使だと?」 その知らせを聞いて私は戸惑った。 現在は、我がトリステインのアンリエッタ王女とゲルマニア皇帝アルブレヒト三世の結婚式の準備が佳境に入ったところだ。 当然この国の宰相である私の仕事も多くなり、既に全て白くなった髪がさらに白さを増しそうな勢いだ。 やれやれ、たまにでいいから休暇くらいほしいものである。 しかしそうも言っていられず疲れた体に鞭打ち政務に励んでいたが、そこにガリア王の特使が来たという報告があった。しかも密使ということである。 なぜこの時期にガリアが? という疑問が浮かぶが答えは出ない。ここはその特使の話を聞いてみるしかあるまい。 「お通ししろ」 私はそう答えると共に机の上の書類を片付ける。 やれやれ、これはまた徹夜になるな。 そして扉が開き、一人の青年が入ってくる。 年齢はおよそ20歳前後、190サント近くあろうかという長身、そして何よりガリア王家の血を引く証である深く蒼い髪、短髪ではあるがその色は間違えようが無い。 一見ただの優しそうな青年のような印象を受ける。しかし違う、彼が噂どおりの人物ならばそんなことは万に一つもありえまい。 「お初お目にかかります、トリステイン国宰相マザリーニ枢機卿。私はガリア王の特使であるハインツ・ギュスター・ヴァランス公爵と申します」 ガリアの宮廷を裏で牛耳ると噂される“悪魔公”、その人物の突然の訪問であった。 この人物について私が知ることはそう多いわけではない。 かつてガリアには六大公爵家と呼ばれる存在があり、それらの家の財力、軍事力はトリステイン王家を上回るほどであった。 我がトリステインの最大の封建貴族と言えばラ・ヴァリエール公爵家だが、爵位は同じでもその領地と財力には雲泥の差がある。小国の公爵と大国の公爵ではそれほど大きな違いがある。 しかし、この人物は11歳の時に自領を全て王政府に返還し、爵位のみの存在となる。だが、その後はジョゼフ王子の支援に回り、彼を次期王位に就けるためあらゆる陰謀をめぐらし、彼を後継者とした後、オルレアン公を暗殺し、ウェリン公、カンペール公を見せしめに焼き殺し、べルフォール公も反逆罪で粛清、そしてサルマーン家も反逆に到り鎮圧された。 結果、ヴァランス家以外の五家は悉く断絶となり、彼は現在ヴァランス領総督、宮廷監督官、王の近衛騎士団長を兼任し、宮廷の人事を思いのままにしているという。 また、ロマリアの枢機卿を切り殺した人物ともされ、神を恐れず刃を平然と向ける現在のガリア貴族で最も恐ろしい男。無能王を傀儡として裏で全てを支配する“悪魔公”というわけだ。 しかし、これらは全て噂でしかなく真実の程は分からない。また、ガリアの宮廷貴族は“悪魔公”のことを普段一切口にしようとしない、まるでその名を口にするのも恐ろしいと言わんばかりに。 また、ガリアの防諜機関は恐ろしい程に洗練されており、私が“悪魔公”の実態調査のために送り込んだ密偵は一人として戻ってこなかった。 つまり、私がこの人物について知るのは表面的な事実と噂のみ、彼がどんな人物で何を求めどういう行動理念を持つのか何も分からない。 こと外交において、相手の正体が分からないということほど恐ろしいことはないのだが、不利を承知で彼との会談に臨まねばならないようだ。 「丁寧な御挨拶いたみいる。しかし、ガリアの王位継承権第二位である貴公がわざわざ直接来られたのはいかなる事情があられたのですか?」 「まあまあ枢機卿、堅苦しい言葉遣いは無しにしてもっと気楽にいきましょう。今回は正式な訪問ではなく密使に過ぎないわけですから、貴方も20歳の若造相手に敬語を使うのめんどいでしょ?」 これはまた随分とくだけた言葉遣いの公爵だ。しかし違和感が無い、彼は普段からこういう口調なのかもしれないな。 「ふむ、それではお言葉に甘えよう。それで、ガリアの公爵がこの小国の宰相に何用かな?」 「ええ、少々きな臭い噂を耳にしたので、これは知らせておいた方がいいかと思いまして。ガリアの為に」 自分でガリアの為と言い切るとはな、なかなかの喰わせ者のようだ。 「そのガリアの為の忠告とやらを是非聞かせてもらいたいが」 「とりあえずこれがガリア王からの親書です。2分で書いたらしいので、汚い字は勘弁してくれ、だそうです」 また随分とふざけた親書だ、公式の場でそんなものを出せば国際問題になりかねんな。 私はその親書を受けとり内容を確かめる。 そこには驚くべき内容が記されていた。 「アルビオンが我がトリステインへの侵攻を計画していると」 「まあそういうことです。とはいえ確実な証拠とは言えないんですが、限りなく怪しいかと」 平然と言うヴァランス公、どうやら恐ろしい程の修羅場の経験があるようだ。 「その怪しい根拠とは?」 親書にはアルビオンが侵攻準備をしているとしか書かれておらず、具体的なことは一切ない、後はこの者に尋ねよということだ。 「今回の親善艦隊の旗艦『レキシントン』号。全長200メイルをほこるハルケギニア最大の巨艦ですが、この艦に最近新型の大砲が積み込まれたと。、親善大使を乗せる船にしては、少々ものものしい気がしますね」 確かにそれは怪しい。しかし、証拠となる程でもない。 「それは気になるが、砲艦外交といえばそのままだな」 「確かに、ゲルマニアやガリアでも過去幾度となくやってきたことです。しかし、その親善艦隊で秘密裏に軍事演習を行うというのは、いかがなものでしょうか。それも、わざわざトリステインから一番遠いダータルネス近辺で」 それは最早怪しいという段階を通り越している。真実ならば、確実にトリステインに侵攻するつもりだろう。 「なるほど、それが本当ならば間違いはあるまいな。しかしなぜ君がそれを知っているのかな?」 「我がガリアの諜報機関は他国を圧倒しております。この程度の機密を探りだすなど、造作もありません。枢機卿、かつて私に密偵を送り込み、誰も帰らなかったことを知る貴方ならばそれが理解できるのでは?」 非常に小賢しいな、それをあえて引き合いに出すか。 「それは道理ではある、しかしそれをトリステインに伝える理由は何故かな?」 「簡単です。トリステインとアルビオンに潰し合って欲しいからです。そのためにはあっさりとトリステインが滅んでは困るので、その辺での利害関係は一致すると思いますよ。まあ、トリステインが優勢になれば今度はアルビオンに肩入れするかもしれませんが」 ここまで本音をぶちまけるとは、いや、これすらも本音ではないのかもしれん。つまりは判断不能ということ、そして危険が分かっていてなお、こちらには踏み込む以外の選択肢がない。そうしなければトリステインは滅ぶ。 全く、なんとも忌々しいことだ。 「では君の言葉は話し半分に聞いておくとしよう。私も忙しいのでね、用が済んだのなら帰りたまえ。君の主人にはよろしく伝えておいてくれると助かる」 ここで会談は打ち切るべきだ、向こうはもう語ることはないだろうし、こちらから情報を求めたところでまともな答えが返ってくるはずもない。 それに、やらなければならないことが増えた。 「ではこれで失礼しますね。ですが、最後に一つだけ」 「何かな」 「ゲルマニアは結構頼りになりますよ、救援を求めるのは悪いことではないと思います」 最後に意味深な言葉を残して彼は去った。 「まったく、“悪魔公”とはよく言ったものだ」 私は一人呟く。 あれは確かに尋常ではない、しかもどこまでも自然体であった。 つまりあの者にとっては親しい者と雑談に興じることも、こういった外交の場で話すことも等価ということ。 何万人もの人間の命が左右される会談においてそのような精神状態で臨めるなど、およそ考えられることではない。 一体どれほどの修羅場をくぐれば、あの若さであのような者ができあがるのか。 それが我がトリステインとガリアの最大の違いなのかもしれん。 あの者はこのハルケギニアに一体何をもたらすのだろうか? 私は漠然とした不安にとらわれながら、艦隊司令のラ・ラメー伯爵と会談するための準備を始めた。■■■ side:ハインツ ■■■ さて、片方は片付いた、後はもう片方のみ。 先程話した内容は全て真実、親善艦隊が軍事演習を行ったのも本当。 もっとも、その場で艦隊司令官のサー・ジョンストンは演習の最中にかかわらず「アルビオン万歳! 神聖皇帝クロムウェル万歳!」などと叫び、それを見たゲイルノート・ガスパール(俺)によってその場で首を刎ねられた。 結果、サー・ヘンリー・ボーウッドが艦隊司令官となり、トリステイン侵攻の総指揮を執ることとなった。 これなら無駄にタルブ村が焼かれたりすることもあるまい。竜騎兵に対する手は打ってあるから、それがなければただの砲弾の無駄遣いになる。 生粋の軍人ならば、そんな無益な真似は間違ってもしない。まして上官がゲイルノート・ガスパールならば尚更だ。 軍人が死ぬのは御愛嬌、戦争である以上死者が出るのは避けられない。ならば如何に少ない犠牲で、かつ、民間人に被害が出ないように終わらせるかを考えるべき。 戦争なんてそもそも起こさなきゃいいのだが、そういうわけにもいかないのが辛いところである。 俺はそのための手を打つためにもう一つの訪問地へ向かった。 帝政ゲルマニア首府ヴィンドボナ。 ゲルマニアは大勢の領邦貴族が連合して作り上げた国家である。 よって皇帝は基本世襲であるが、誰を次の皇帝にするかは選帝侯達の会議によって決まる。 現皇帝アルブレヒト三世は勢力争いの果てに選帝侯の支持を取り付け、実力でもって皇帝となった人物で、親族はそのほとんどが塔に幽閉されている。 言ってみればガリア六大公爵家が次代の王を会議で決めるようなのもので、違うのは先代の皇帝が死んでから決められるという点だろうか。 まあそんな訳で、ある一族が皇帝の座を独占し続けることはないため、ゲルマニアは新旧の交代が目まぐるしく、常に新しいものを取り入れようという気風がある。 元は聖戦に反対した者達が作り上げたという由来を持つためブリミル教の影響が最も少ない国家で、そのため魔法に頼らない冶金技術にも優れ、技術開発局ほどではないが、実践的な魔法の研究も盛んである。 しかし、平民でも金があれば領地を購入して貴族になれ、官職につくことも自由なので、メイジの絶対数はそれほど多くない。よって魔法研究の分野ではガリアには遠く及ばない。 その分平民主体の陸軍の数は多く、国土でもガリアと同等の大きさを誇るので軍事力という点ではガリアに次ぐ大国である。 中央集権制ではないため、各地の領邦貴族は互いに協力しながらも警戒し合い、それぞれが強力な軍を持っている。 それ故に動員の速度はトリステインとは比較にならないが、空海軍はそれほど強力ではない。 空海軍の整備には統一された権力機構が必須であり、また、ガリア両用艦隊がそうであるように、空海軍が強力になると皇帝軍と諸侯軍の間の戦力差が開いてしまい、諸侯にとっては嫌なことになる。 よって、皇帝の権力独占を防ぎたい諸侯としては、空海軍の増強に中々賛成したがらず、皇帝は各諸侯の利害関係の調整の為の権力は持つが、絶対的なものではない。 そういった経緯からゲルマニアの空軍は錬度も数も優れているとはいえず、艦隊戦ではアルビオンに勝ち目がないのである。 いくら陸軍と国力で圧倒していても制空権を握られてはやりにくく、まして相手は浮遊大陸だ。 なのでゲルマニアとしてもトリステインの空軍には一定の利用価値があり、トリステイン・ゲルマニア連合艦隊ならばアルビオンに抗しえるのである。 ゲルマニアがトリステインを簡単に併呑できる力を持ちながら、あえてそれをしないのは、アルビオンに対する防波堤として利用したいからである。 併合してしまうとトリステインは分裂して領邦貴族の一員となるので、これまでのようなトリステイン空軍を維持できなくなってしまうのが、最大の理由であった。 とはいえ、アルビオンに全部とられるくらいなら自分達で貰ってしまおうと考えるのも当然で、そういった理由で軍事同盟が締結されるまではアルビオンはトリステインに侵攻しなかった。 ゲルマニアはゲルマニアでそういう理由があり、それで皇帝と王女の婚姻ということになったのだが、その準備をしているウィンドボナを俺はガリアの特使として訪れ皇帝への面会を申し出た。 「お初お目にかかります、ゲルマニア皇帝アルブレヒト三世閣下。私はガリア王の特使であるハインツ・ギュスター・ヴァランス公爵と申します」 マザリーニ枢機卿の時と同じ挨拶から入る俺。 「ふむ、噂は聞いておる。何でもガリア宮廷では“悪魔公”として恐れられているとか」 尊大な態度な皇帝、王家の臣下であったマザリーニ枢機卿とは異なりこの人には国家の頂点にいるという立場がある。 「ははは、私も有名になったものですね。しかし、そういうことなら皇帝閣下も同じなのでは? 私は親族を皆殺しに、皇帝閣下は親族を塔に幽閉なされた。これは似た者同士といって差し支えないと思いますが」 「ははは、 親族を皆殺しときたか、これは一本取られたな。流石は政争と簒奪の国ガリア。わずか11歳で親族を粛清する者がいようとは、6000年の歴史は伊達ではないな」 暗に俺の経歴は知っていると言っているようだ、まあ、それはどうでもいいことだが。 「私の話は置いておきましょう、我が主ガリア王ジョセフ陛下より親書を預かって参りました」 そして俺は例の手紙を差し出す。 「ふむ」 それを読むアルブレヒト三世。 しばし時が過ぎ。 「なるほど、面白いな、しかしこれがどうしたというのだ?」 鋭い反応だ、流石に己の実力でゲルマニアをまとめ上げ、皇帝として君臨しただけのことはある。 「閣下とアンリエッタ王女の婚姻がアルビオンの侵略によって崩されるかもしれませんが、よろしいのですか?」 俺はあえてそう言う。 「別に構わん。あの小娘は政治の道具に過ぎん。それにアルビオンがトリステインを滅ぼすというのならば、それも構わん。その間に我等は軍備を整え陸続きのトリステイン、いや、その場合アルビオンの属領に攻め込めばよい」 それは道理、攻め込むならばともかく防衛に徹するならばゲルマニアの艦隊でもアルビオン艦隊に抗する程度は出来る。それにアルビオンがトリステインを制圧すれば、それはガリアと国境を接することを意味し、ガリア両用艦隊への備えが必要になるということだ。 そうなればゲルマニアの陸軍でアルビオン軍を叩けばよい、陸続きのトリステインへの侵攻はゲルマニアの独壇場となるだろう。 しかし。 「ですが閣下、もしトリステインが勝ったらなんとなさいます?」 俺は問う。 「何だと?」 怪訝な顔をするアルブレヒト三世、その可能性は考えていなかったようだ。 「お主はトリステインごとき小国が、アルビオンに勝利できると思っておるのか?」 あえて小国というのは彼の不満の表れかもしれない。国力ではトリステインを遙かに凌駕するゲルマニアだが、始祖ブリミルの直系ではないために国際的な立場では三国より格下とされる。 故に彼は皇帝陛下ではなく皇帝閣下なのだ。 国力でさらに上を行くガリアはともかく、トリステインやアルビオンより格下に扱われるのは屈辱以外の何ものでもないだろう。 「まあ、普通に考えれば難しいでしょうね」 俺はそう答える。ここで“虚無”のことを明かすわけにはいかない。しかし、その他のカードがある。 「ならばなぜその可能性を考える?」 さらに問うアルブレヒト三世。 「アルビオン侵略の事実をトリステインが察知していたとすればどうでしょう? 奇襲をかけたアルビオンが逆に奇襲を受ける、そうなればトリステインが勝利する可能性もあります」 「お主」 どうやら気付いたようだ。 「そうそう、私はマザリーニ枢機卿とも個人的な交友がありましてね、この事実を酒を飲みかわした際にでも漏らしてしまったかもしれません。私は酒に弱いものでして、酔った時のことを覚えていないのですよ」 俺はそう話す。 「なるほど、それならばトリステインが勝利を収める可能性も出てくるか。くくく、お主は噂どおりの男だな、“悪魔公”とはよく言ったものだ」 「ですが閣下、そうなるとゲルマニアにとっては面白くありませんね。トリステインが困窮している時に援軍を出さなかったのでは、同盟に背くことになる。これからの同盟関係において、トリステインに優位を与えることになってしまいます。その小娘にも逃げられるかもしれません」 その方が俺達にとっては都合がいい。 「そう仕組んだ張本人がよく言うわ。それで、お主はどうしたいのだ?」 「別に。私はただゲルマニアの誇り高き皇室が、濁った血を取り入れるのが不憫に思えただけです」 これは俺の本心でもあったりする。 「何?」 「ゲルマニアは実力第一の国、魔法が使えずとも実力と金があれば貴族になることができる。それは素晴らしいことだと思います。しかし、実力はあっても権威が無い。それを補うために始祖の直系の血を取り入れるというのは、一見理にかなっていますが、ブリミルごときの血にそれほどの価値があるでしょうか?」 「ガリアの公爵とは思えぬ発言だな。しかし、お主らしいとも言えるのかな? 確かお主はロマリアの枢機卿を切り殺したとか聞いておるが」 「ええ、無能なくせに神にすがって他者を見下す下衆など俺は大嫌いなので。貴方だってそうじゃないですか? どうせなら全部実力で奪った方が面白い。神なんかに与えられた王権ではなく、自分の力で手に入れた実権の方が、ずっと価値があると思いますよ」 俺は口調を本来のものに戻す。 「ほう、それがお主の本心か」 感心したように呟くアルブレヒト三世。 「そうです。アルビオン王家とてたった二年で潰えたわけですから、最早ブリミル教の時代は終わりに向かっているということ。ならばゲルマニアがその滅びにわざわざ加わることもないでしょう。ですが、それはそれとして、トリステインにとりあえず援軍を送っておくのはいいことだと思いますけどね」 仮にトリステインが勝っていても援軍を送ったという事実があればトリステインに優位を与えることはない。そうでなければトリステインと協力してアルビオンを撃退すればよい、どちらにしてもゲルマニアに損失は無いのだ。援軍を出さずにいるよりは余程いい選択となる。 そしてこの皇帝がそれに気付かないわけがない。 「なるほど、お主の言うことにも一理あるな。くくく、まさかガリアの公爵にして王位継承権第二位のお主からそのような意見が飛び出すとは、まさに神と始祖に刃をむける悪魔よな」 「ええ、何せ“悪魔公”ですから」 そして笑い合う俺達。 「さて、用事は済んだので俺は帰りますね」 「ふむ、次は敵同士か」 「さあ、それはどうでしょう?」 そして俺はアルブレヒト三世の下を去った。 彼の言ったことは正しい、いつかガリアとゲルマニアはブリミル教亡き後のハルケギニアの覇権をかけて争うことになるだろう。 これは個人の野心がどうとかいう問題ではなく、時代の変わり目ならば絶対に避けられないことだ。 ならばその犠牲者出来るだけ少なくし、俺が気に入らない奴だけに負債をまとめて押し付けるのが俺のやり方。 この場合は当然ロマリア。ゲルマニアはこれからのハルケギニアの在り方を象徴する国家だと思う。 しかし惜しむらくは力不足、残念ながらブリミル教をぶっ壊すまでの力はない。 ならばぶっ壊すのは俺達が担当し、活気あるゲルマニアには再建の役割を担ってもらいたい。 ま、これまた俺個人の考えでしかないのだが。 とりあえず次回の劇の準備はこれにて終了、後は主演達の活躍を待つばかり。 舞台はタルブ。 敵はアルビオン艦隊。 さて、トリステインの虚無の主従は国を救うことができるか。 一応保険はかけたものの、願わくば主演の大活躍で終わって欲しいものである。