才人が召喚されてから一週間。 ご期待に違わず彼は騒動を巻き起こしたようだ。 ギーシュ・ド・グラモンという土のドットメイジと戦って勝ったそうだが、まあ最初はこんなもんだろう。 ゆくゆくはスクウェアにも勝てるくらいになってもらわねば困るが、あせらずじっくり成長すればいい。 俺は才人に関しての報告をするためグラン・トロワに向かった。第二話 悪魔仕掛けのフーケ退治■■■ side:ハインツ ■■■ 「陛下、ハインツ・ギュスター・ヴァランス参りました」 「君の阿保面には心底うんざりさせられる」 「まだそのネタを引っ張りますか」 「死ねえ!」 と言いながら飛行石の結晶のような石を手に持ちこっちに向けてくる陛下。 シ―タの「皆逃げて!」がないところが悲しいところだ。 すると。 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ グラン・トロワの床が開いてその下には尖った石柱が無数にひしめいている! 「ああああああああああああーーーーーーーーーー」 落下する俺。 「はっはっはっはっはっはっはっはっはっは!」 ムスカ笑いをする陛下。 とりあえず『フライ』を唱えて上に戻る。 「ほう、私と戦うつもりかね」 陛下がそういうと周りからラピュタのロボット、ではなくガーゴイルが無数に出てくる。 「陛下、そろそろやめません?」 「そうだな、飽きた」 ガーゴイルが引っ込む。 一体何をやっているのかこの人は、グラン・トロワをまさかこんな風に改造するとは。 「何考えてこんなもん作ったんですか貴方は」 「いや、俺はこれをやってみたいと言っただけだ、作ったのはミューズだぞ」 「あの人は・・・」 愛する旦那の為なら、べた惚れ若奥様に不可能は無いようだった。 「大丈夫だ、金はそれほどかけておらん。ガーゴイルは借り物で、床の仕掛けは元々あった落とし穴を改装しただけだ。それにこの石はただの宝石だ」 これで費用をばかすか使っていたらぶっ殺すところである。 「王に対する不敬罪だな、打ち首とする」 「心が読めるんですかあんたは」 「虚無に不可能は無い」 本当に無さそうで怖い。 「なあに、多分俺はまだ『忘却』は使えんはずだ。だから俺がお前を拷問にかけてその記憶を消し去ったりなどは一切ないはずだ、多分お前の考え過ぎだろう。そのはずだ」 「なぜ、“はず”と“多分”が大量に使われているんでしょうか?」 恐ろしい予感が拭えない。 「ククククククククククククク」 笑う陛下、頼むからその笑いはやめて欲しい。 「さて、報告があるのだろう?」 いきなり切り替わる。 「はい、主演達に関しての報告です」 俺は現在宮廷監督官、陛下の近衛騎士団長、ヴァランス領総督、北花壇騎士団副団長、“知恵持つ種族の大同盟議長”、レコン・キスタ司令官などを兼任している。 ゲイルノート・ガスパールに関しては普段は身代わりの特注品を置いてあるので問題ない。 とはいえやることは多いので普段の主演達の監視は監視用ガーゴイルの“アーリマン”と、“影”にやらせている、“影”は元風のトライアングルの“ゼクス”を派遣した、当然“不可視のマント”付きである。 ちなみに“影”は全てドイツ語の数字の名前を用いており、“アイン”、“ツヴァイ”、“ドライ”はスクウェアの死体で出来ている、数字が少ないほど強力になる。 ホムンクルスの生成には純度の高い「土石」の結晶が必要になるので中々数は増やせず、どうせ作るなら有能な奴等を改造したいと思うのが人情である。 「ふむ、聞こう」 そして俺は彼らの報告を開始する。 「出だしは順調、だがこれから如何に試練を与えていくかが重要だな」 「そうですね、“物語”の援護があるでしょうから特に俺達が何もしなくても勝手に成長してくれるかもしれません。しかしそうならない可能性もあるので何らかのイベントを設けた方がいいとは思います」 あらゆる可能性を考えておいたほうがいい。 「そう考えてな、実はもう脚本を作ってある」 そう言って本を投げてくる陛下。 タイトルは。 ≪怪盗“土くれのフーケ”退治、頑張れ少年少女たち≫・ ・・後半は見なかったことにする。 一応読んでみる俺。 「タイトルはともかく、内容は面白そうですね」 なかなか良さそう、ただし途中にあった才人とマチルダの18禁シーンはカット、なに考えてこの部分いれたんだろこの人。 つーか何で才人の相手がマチルダなんだ? 「そうだろう、細かい部分の演出や役者集めはお前に任せる、せいぜい上手く上演することだ」 「了解です」 俺はグラン・トロワを後にして技術開発局に向かう。 技術開発局。 ここは現在『虚無ゲート』の一大ターミナルになっている。 ガリアの主要都市、トリステイン首都トリスタニア、港町ラ・ロシェール、ゲルマニア首都ヴィンドボナ、その他の主要都市、アルビオン首都ロンディニウム、工廠の街ロサイス、軍港ダータルネス、古都シティオブサウスゴータ、交易都市レキシントン、宗教都市ロマリア、水の都市アクイレイア、城塞都市チッタディラ等など。 ハルケギニア各地の要衝を悉く繋いでおり、どの『ゲート』からも一度はここを経由しないと他の『ゲート』に入れず、万が一誰かがゲートをくぐっても、待機しているガーゴイルに取り押さえられる。 ぶっちゃけこの『ゲート』を利用するのは俺とシェフィールドしかいない。(元々俺を過労死寸前に追い込むために作られたので当然と言えば当然である) トリスタニアに向かうつもりで来たのだが、その前に一言いわねばならない相手がいる。 「おーい、シェフィールドさーん!」 一応敬語、この人怒らせると怖いのだ。 しかし無反応、どっかの部屋で研究に没頭しているのかもしれない。 「おーい、陛下の若奥様あーーーー!!」 「何かしら?」 シェフィールド登場、この呼びかけには必ず応える。 「何考えてグラン・トロワにあんなもん作ったんですか?」 単刀直入に訊く。 「別に、私は旦那様の望みを叶えただけよ」 誇らしげに答える、ちなみにこの人は陛下、ジョゼフ様、旦那様の三つの呼び方をする。 宮廷貴族の前とかなら陛下、イザベラとかならばジョゼフ様、そして陛下と俺の前では旦那様、なぜ俺の前でもなのかは謎だ。 ・・・惚気かもしれない。 「だからって限度っつーものがあるでしょ」 このまま進むと目からビームを発射するロボットを作ってヴェルサルテイルを破壊しかねない。 「私にとってはどうでもいいわ」 駄目だこりゃ、陛下との生活しか頭にない模様。 「はあ、まあいいです、俺はトリスタニアに行きますけど、クロさんの秘書役頼みますよ」 ゲイルノート・ガスパールは常にアルビオンに入れないので彼女のフォローが不可欠になる。 「解ったわ、貴方こそしくじらないようにね」 「了解」 俺はターミナルに向かう。 「ハインツ」 そしたら呼び止められた、この人はイザベラ様、シャルロット様、マルグリット様と、陛下の身内は敬称で呼ぶのに俺だけは呼び捨てなのだ。 「何ですか?」 「旦那様の犬として働けることを光栄に思いなさい」 そこまで言うか。 「せめて召使いとかにしていただけませんか?」 人間扱いくらいはして欲しい。 「旦那様の奴隷として働けることを光栄に思いなさい」 僅かにランクアップ、あながち間違いでもないが。 「はい、解放の日を目指して頑張ります」 この世界にリンカーンはいないのだろうか? そんなことを考えつつ俺はトリスタニアへ向かった。 トリスタニアのあるチクトンネ街。 ブルドンネ街がトリスタニアの表の顔ならチクトンネ街は裏の顔、いかがわしい酒場や賭博場なんかが並んでいる。 しかし、リュティス暗黒街に比べれば天国である、これはトリステインが平和な国であり安定していることを示しているが、それだけ首都が小さく闇が少ないということでもある。 ガリアは豊かさではハルケギニア最大でありその首都はハルケギニア最大の都市だがそれ故に孕む闇も大きい、もっとも、そこには王家が孕む闇の深さも関係していたのかもしれない。 俺は今ここにある“モノ”を調達するために来ている。 リュティスでは既にこれを調達するのは難しくなっており、ここなら簡単に見つかるだろうし、脚本の内容を考えるとトリステインの方がいい。 すると。 「誰か助けて!」 ちょうど良く女性の悲鳴が聞こえてきた。 俺は“獲物”を確保するために声がした方向に走った。 しばらく後のトリスタニア支部。 人形制作を終えた俺は“デンワ”で本部を呼び出した。 「こちらは北花壇騎士団フェンサー第二位ロキ、本部、応答願う」 しばし待つと返事が来る。 「副団長ですね、用件はなんですか?」 「フェンサーの“フーケ”に、今日の夜10時にトリスタニアのチクトンネ街にある“月夜の深酒”亭というメッセンジャー経営店の二階に来るよう伝えてくれ」 「了解です」 「頼んだぞ“ザイン”」 ザインは“参謀”の中でも珍しく真面目なほうだ、他のやつらだったらこの数倍の時間がかかる。 さて、マチルダが来る前に脚本の例の18禁シーンを削除しておくことにする。 現在23歳で婚期を逃し気味なマチルダにこんなものを見せたら俺が殺されかねない。・ ・・ひょっとしてそれを狙って陛下はこのシーンを入れたのか? 俺は悪魔の脚本の裏の真実をあえて考えないことにした。■■■ side:マチルダ ■■■ コンコン。 私は扉をノックする。 「はーい、今開けまーす!」 中からとても副団長とは思えない返事がくる。 ガチャッ。 「お久しぶりです、北花壇騎士団フェンサー第十一位、班長、“土くれのフーケ”殿」 「こんばんは、北花壇騎士団フェンサー第二位、副団長、ロキ殿」 まずは挨拶。 「あり、俺の渾名は呼んでくれないんですか?」 「あんたの渾名はたくさんありすぎて全部いってらんないのよ」 “毒殺”、“粛清”、“悪魔公”、“死神”、“闇の処刑人”、まだまだたくさんある。 共通点はどれももの凄く物騒ということぐらいか。 見た目だけなら優しそうな青年にしか見えないが、これで千を超える人間を殺してるっていうんだから世の中分からないものだわ。 「それはそうと、テファは元気ですか?」 「二週間くらい前に会って来たけど元気だったよ。子供達が遊びたがってたから、あんたも近いうちに言ってやりなよ」 あの子達はハインツにとても懐いているし、それはテファも同じだ。 テファにとってハインツは唯一と言っていい年の近い異性のはずだがそういう認識はないだろう。というかハインツの方がありえない、あの子の巨大な胸を見てなんの反応もしないのは男として終わってると思う。(後に知ったが本当に終わっていたそうだ) そういうわけでテファの中では 大人の男性 = ハインツ となっているので少々危険かもしれない。世の中の男達はテファを見れば大半は興奮して暴走しかねない、それだけあの子の胸はありえない大きさを誇っている。 自分よりかなり小さな子、もしくはハインツしか男を知らないあの子が不憫でならない。 「そうですね、明日にでも行ってきますか」 「早っ」 「思い立ったらすぐ行動が我が信念なので」 というよりこいつはそれだけで生きているんじゃないだろうか? 「それで、わざわざ私を呼んだ理由は何なんだい?」 まさか世間話というわけではないでしょ。 「マチルダさんの結婚活動のお手伝いでもしようかと」 「しばくわよ」 「すいません」 一度殺そうかしらこいつ。 「それはともかく、マチルダさんが狙ってるのは“破壊の杖”でしたよね」 「まあそうだけど別に急ぎじゃないわよ、ここの秘書としての条件も悪くないから仕事が終わっても残るつもりだし」 当初はあの糞ジジイが散々セクハラしてきたが、ハインツに頼んであらゆる社会的な弱みを握った後はピッタリ止んだ。「あのことをバラしますわよ」が決め台詞になっている。 こいつがどうやってその情報を掴んだのかは聞いてないし、聞かない方が精神衛生上いい気がする。 「それに、あんたが学院の実質的な経営者だってのも大きいわね。いざとなっても色々根回しが効きそうだし」 こいつと私でトリステイン魔法学院の金の流れは全て掌握している。 金を出所はこいつで、私は学院長の秘書としてそういう書類を管理しているから職員の給料まで把握できる。 メイド、衛兵、料理人などの中にも多数のメッセンジャーやシーカーがいるそうなので、学院はいわば北花壇騎士団の出城ともいえる場所だ。トリステイン内部における活動拠点としてはここ以上は無い。 「その“破壊の杖”に関してなんですが、少し頼みたいことがありまして」 そう言ってハインツが本をよこす。 「何これ?」 「脚本です、読んでみてください」 そう言われて私はその本に目を通す。 「随分手が込んでるけど、これが例の担い手の嬢ちゃんと使い魔の坊やのための“物語”ってやつかい?」 あのルイズとかいう女生徒はテファと同じ虚無の担い手なんだそうだ。 「それのちょっとした追加要素ってとこですかね。いらないかもしれませんけど、必要かもしれないって感じです」 「ふーん、まあ私としては手伝わない理由はないわね。“破壊の杖”がそういうものなら盗む意味もないし、一応宮仕えの身だしね」 北花壇騎士団に所属する身としては副団長の頼みを聞かない訳にはいかないだろう。 それに、これが例の計画のための布石の一つなのだとしたらそれこそ断る理由が無い。 「ありがとう、マチルダさん」 「いいってことさ、例の計画にはこっちも期待してるからね」 ハインツ達が計画しているブリミル教破壊作戦。 詳しい内容はまだ知らされてないが、その一環としてあの『レコン・キスタ』も作られたそうだ。 私にとっては希望ともいえる計画だ、ブリミル教が存在する限りテファは本当の自由を手にすることができない。 エルフの血を引いているという理由だけで異端審問にかけられて殺される可能性が高い。 それに、ハインツが議長をやっているという“知恵持つ種族の大同盟”、それにエルフが加わってくれればあの子にとってこの世界は素晴らしいものになるだろう。 逆にブリミル教が蔓延っているままでは、永遠に他人の目を気にしながら生きることになる。 私はそれを覆すためなら悪魔(ハインツ)に手を貸すことも厭わない。 もっともハインツ曰く、「自分はもっと格上の悪魔にこき使われる下級悪魔に過ぎない」そうだけど。 一体どんな化け物がいるんだか。 「そっちも順調に進んでます、俺達にとっては3年以上も準備してる大作戦ですから」 ハインツが楽しそうに言う。 「ま、とりあえず任せな、上手くいったら連絡するよ」 そして私は“月夜の深酒”亭を後にした。■■■ side:ハインツ ■■■ マチルダに脚本を渡してから数日後。 脚本は現在順調に進行中。 ルイズ、才人、キュルケ、シャルロットの4人が夜に外で何かやってる時を見計らい、マチルダに宝物庫を30メイルもの攻城用ゴーレムでぶっ壊してもらって“破壊の杖”を盗み出してもらった。 事前に俺が“ヒュドラ”を使った状態で宝物庫内部の『固定化』を『錬金』で打ち破っておいたので宝物庫の壁はもろくなっていたのである。 俺は水のスクウェア、風、土はトライアングル、火はライン相当なので、“ヒュドラ”を使えばスクウェアの『固定化』も打ち破れる、それに『錬金』は俺が最も得意とする魔法である。 そしてルイズ達にゴーレムに乗ったフードを被った人物を目撃させ、次の日、学院長秘書のロングビルとしてある情報を持ち帰ってもらった。 宝物庫前では教員とルイズ達が集まって事実確認をしていたようだが、そこにロングビルが到着し、こう告げた。 「近くの森で猟師が使用してる小屋や廃屋などに、最近フードを被った男が出入りしているのが目撃されていたそうです。フーケかどうかは分かりませんが、ひょっとしたら盗んだ品の隠し場所程度に利用しているかもしれません」 まあこんな感じの内容を伝えてもらった、王宮に知らせて魔法衛士隊を派遣するには時間が無いタイミングで。 怪しい個所は4か所あり、一番フーケがいそうな場所は“炎蛇のコルベール”が一人で、その他二つは教師が3,4人ずつで当たり、一番確率が低そうな廃屋は生徒達ということになった。 各チーム一人は使い魔を学院長オールド・オスマンの下に残しておき、もしフーケを発見した場合、残りのチームがオスマンの指示のもと援軍に駆けつけ包囲網を構築する手筈になり、ルイズチームはキュルケの使い魔であるフレイムが残っている。 この辺の編成はオスマンとコルベールでやったようで、流石に別格といえる。 まあ、俺が経営者として学院の非常時対応マニュアルを作成して、オスマンはそれに従って行動しただけなのだが、マニュアルがあっても実際に人員を配置できるかどうかは個人の力量次第なので十分学院長に相応しい実力は備えているようだ、元魔法研究所実験小隊隊長のコルベールは言わずもがなである。 そして現在。 ルイズ、才人、キュルケ、シャルロット、ロングビル(マチルダ)の5人の班は廃屋で“破壊の杖”を発見し、フーケのゴーレムに襲われているところである。 ロングビルは付近の偵察に行っているのでここにはおらず、4人でゴーレムと戦っている。 既にキュルケがオスマンに連絡をしたので、後は“破壊の杖”を持って撤退し援軍と合流すればよいのだが、当然ゴーレムが易々と逃すはずもなく、追いかけまわしている。 しかし、才人が“破壊の杖”でゴーレムを吹き飛ばし、ゴーレムは跡形もなく砕けちった。 “破壊の杖”の正体は地球から流れてきた兵器で、俺には詳しい名前は分からないがパンツァーファウストのような兵器である。戦車でも一撃で破壊しそうだ。 才人は俺から“場違いな工芸品”について聞いているので特に困惑はないようだった。 で、ゴーレムを倒した4人は喜んでいるが、ここからが本番。 「手前ら! 武器を捨てな! さもねえとこいつの命はないぜ!!」 そう言いながら黒いフードを被った若い男がロングビルを人質にしながら姿を現す。 「「ミス・ロングビル!」」 「「フーケ!」」 4人が同時に叫ぶ。 「へ、そういうことよ。せっかく“破壊の杖”を盗んだいいが使い方が分からなかったんでな、あえて付近の農民にここに入っていく俺の姿を見せたんだが、ここまであっさりいくとはな」 自分からあっさり情報を吐くフーケ、実に悪役らしい。 「だが、流石は“破壊の杖”とか言うだけのことはあるな。俺のゴーレムを一撃で破壊しやがるとは、大したもんだ」 4人は杖や剣を捨てる、ロングビルが人質にとられているからだが、シャルロットとキュルケの表情には余裕が見える。 この二人はフーケの勘違いに気付いたのだろう。 「さあ、さっさと“破壊の杖”を渡しな、解ってると思うがもし変な真似をしたらこいつの命はないぜ?」 フーケはロングビルの首に左腕を回し、右腕で杖を持っている、この状態では人質のロングビルが“破壊の杖”を受け取ることになる、しかし、それ以前の問題がある。 “破壊の杖”を持って来た才人もロングビルの持っているものに気付いて笑みを浮かべる、布石は整った。 「何やってやがる、さっさと、ゲフッ!」 突然石の塊がフーケの背中に直撃し、その隙にロングビルがフーケから離れる。 「オラアアアアアア!!」 ゴキイ! 才人が“破壊の杖”を振りかぶって思いきりフーケの頭を殴る。 あーあ、死んだかなありゃ。 「ミス・ロングビルが杖を持っていることに気付かないなんて、相当の阿保ね」 「同感」 「あ、そういうこと」 キュルケが呆れ、シャルロットも同意し、ちょうど位置的に死角になってたルイズも理解する。 「多分私がマントを着けていないので平民だと思ったのでしょう、魔法学院でマントを着けないのは平民だけですから」 ロングビルが締めくくる。 そして、コルベール教員を筆頭に他の探索隊も駆けつけ、フーケは御用となった。 その夜、ちょうど『フリッグの舞踏会』というパーティーが開かれている中、俺とマチルダはマチルダの私室で脚本の無事終了を祝って乾杯していた。 「お疲れ様~」 「あんがとさん」 二人してワインをあおる、こうしてこの人と飲むのも久しぶりである。 「しかし、細かいとこまで完全に脚本通りだったね、よくあんなに上手くいくもんだ」 感心するマチルダ。 「そこはマチルダさんの名演技のおかげですよ。まあ、最大の要因はちゃんと“フーケ”を用意したところでしょうか」 「そうそう、そこだよ。私と同等の「土のトライアングル」なんてどこで見つけてきたんだい? しかもあいつは自分をフーケって名乗ってたし」 そこには当然種がある。 「いいえ、あいつはただの「土のドット」ですよ。チクトンネ街の路地裏にいたゴロツキを改造しただけです」 この前女性を襲っていた野郎だ。 「ぶっ!」 ワインを盛大に噴き出すマチルダ。 「か、改造って、なにやったんだいあんた」 「まずはこれです」 そう言って指輪を見せる。 「これは?」 「『アンドバリの指輪』というマジックアイテムを元に作り上げた、その模造品『アムリットの指輪』です。死体を人形にしたり人間を操ったりできますが、本家と違って普通の人間には効きません」 「普通の人間?」 「ええ、まず毒薬を飲ませて思考能力を限りなく下げるんです。その状態で使うと傀儡として操れます。今回は“自分はフーケである”という、偽の記憶を植え付ける毒も併用しましたが」 「そこまでやるかい」 呆れるマチルダ。 「あと、“ラドン”を注入しました」 「ラドン?」 「“ヒュドラ”の強化版でして、ランクを二つ上げることができます。これを使えば「土のドット」も「土のトライアングル」になるわけです」 「へえ」 「ただ、効果時間が無制限で副作用もその分強力になり、3日くらいで体が限界になって死にます」 「ぶっ!」 また噴き出すマチルダ。 「大丈夫です、“土くれのフーケ”として捕まった以上待っているのは極刑ですから、それが獄中で謎の変死を遂げるだけです。“フーケ”としての罪は全部偽物が負ってくれるわけになりますから、良かったですね」 「なんか、凄く悪辣な計画に加担した気がしてきた」 「敵を騙すにはまず味方からって言うじゃないですか」 「限度ってもんがあるでしょ」 つまり、宝物庫を破壊したゴーレムはマチルダが作り、その時のフードを被った人物もマチルダ。 しかし、廃屋でゴーレムを作ったのは“ラドン”を打ち込んだ例の人形で、俺がそれを『アムリットの指輪』で操っていたわけだ、そして人形はフーケとして捕まり“ラドン”の副作用で死ぬ、死人に口なしだ。 とまあ、こんな感じで悪魔仕掛けのフーケ退治は終了したのだった。追記 8/31 一部修正