第十七話 終章(エクソドス) 後編 ■■■ side:キュルケ ■■■ 「燃え尽きなさい!」 「『炎蛇』」 私とジャンの炎が“レスヴェルグ”を飲み込んでいく。 “反射”がかかってないから楽でいいわ。 「けど、数が結構いるわね」 「ふむ、このままでは少々きつそうだね」 二人ではちょっと厳しそう。 けど。 横から飛んできた大火球が“レスヴェルグ”に炸裂した さらに、竜巻が現れて次々に切り裂いていく。 「はあい♪ キュルケ、援軍に来たわよ」 「シーリア!」 「ミスター・コルベール、無事かい?」 「ガラ殿!」 翼人のシーリアと、リザードマンのガラ。 私達とはそれぞれ親しい人たちが来た。 「貴方の炎は凄まじいですな」 「そうでもないさ、破壊に使うだけでは意味がないからね。貴方のように、平和的な利用法を模索することこそが大切だろう。他の者達も、皆感心している」 そういえば、ジャンとガラで共同研究を進めるんだったかしら。 なんて思ってると。 「ねえシーリア、あれ、何かしら?」 空に異形の影が見える。 「あれは、空戦型のキメラだね、グリフォンやマンティコアとかの掛け合わせ。それから、ロマリア軍が使ってたペガサスの死体を利用したのも混じってるかな」 また、とんでもないのが混じってるわね。よくまあ、あんなのばっかり作るわ。 「まあ、こっちは全員飛び道具もちだし、問題はなさそうね。数さえいなければ」 100以上は軽くいるわね。本当に、全部今回の茶番劇で使い尽くす気なんだわ。 「いいや、問題ないさ。何せ、こっちには最強の狙撃集団がついてるからね。そのために、邪魔になる火竜騎士団や風竜騎士団は出動してないんだから」 そういえば、こっちの空戦部隊がいない。 その瞬間。 火炎弾と閃光弾(雷)が飛来して、空の怪物軍団を薙ぎ払った。 「とんでもない威力ね」 「流石は最強種族というべきかしら」■■■ side:ビダーシャル ■■■ 我は銃を置き、戦果を確認する。 リュティスにある戦艦停泊用の塔。ここに今我々エルフは陣取っている。 ここには『シャルル・オルレアン』号などの艦が停泊するスペースがあるが、今は狙撃部隊の陣地と化している。 「しかし、すごい銃だな」 我が撃ったのは“クトゥグア”(ハインツ命名)という新型の魔銃。 恐ろしく長い銃身を持ち、ハインツの世界で言う、“対戦車ライフル”をイメージしているとか。 しかし、人間には扱えない。使用する精霊の力が強力過ぎるため、十全の力を発揮できるのはエルフだけだろう。 「風」の精霊の力を最大限に発揮し、4リーグもの射程を誇る。そして、「火」の魔弾を炸裂させる。 着弾の瞬間を考慮し、精霊の力を解放するには高度の技術が必要とされる。“聖軍”が滅んでからというもの、我等エルフ15人はこの特訓をさせられたのだ。 「ほらほら、とっとと撃ちな! 敵はまだまだいるよ!」 この、エルネスタ殿によって。 「エルネスタ殿、あまりそいつらを焚き付けないでください」 元々エルフの中でも血の気が多い奴らだ。そのように叱咤激励しては……… 「はっはあ! 吹き飛べえ!」 「まだまだあ!」 「わが心眼に狂いはない!」 こうなってしまう。 このままではエルフに関して、間違った先入観を持たれてしまうのではないだろうか? エルフは銃器が大好きで、銃を握れば人格が変わり、狂ったように魔弾を撃ちまくる種族と認識されそうなのだが…… 「うん、“クトゥグア”は大体いいね、“イタクァ”の方はもう少しかな?」 炎の魔弾を撃ち出すのが“クトゥグア”、雷の魔弾を撃ち出すのが“イタクァ”。 どちらの威力も“イグニス”や“ヴァジュラ”を凌駕する。 人間と友好関係になるのはいいのだが、その結果、エルフ専用の強力な兵器を人間(シェフィールド)が開発したというのもどうなのだろうか? 人間の暴走を止めるにはいいのかもしれんが、下手するとエルフが暴走しそうで怖い。 「平気さ、こんなのは所詮舞台劇の大道具だよ」 心を読んだかのようにエルネスタ殿が告げる。 「大道具ですか?」 「そう、この魔弾一つ作るのに、エルフが一日は精霊魔法を使い続ける必要がある。しかも、特殊な加工が必要になるから集中力も使う。自然の精霊の結晶を使うよりも、最初からこれ専用に作った方が効率いいし、そうでもしないととんでもないコストになる。だけど、自然じゃない上に改造しまくってるから長期的な保存が利かない。要は花火と同じだね。祭りのために用意して、思いっきりぶっ放すだけさ」 なるほど、確かに兵器としてはあまり使えないな。 「それに、そのほうがいいもんさ。簡単に作れて、威力が大きくて、大量に人間を殺せる兵器なんかあってもいいことないさ。でも、それを求めちまうのが生き物だし、特に人間はその傾向が強い。だけど、そういう暴走を止めるために“知恵持つ種族の大同盟”はあるんだろ? だったら大丈夫、仲間を信じな」 確かに、信じることも大切か。強大な力は平和を守るためにもなれば、壊すことにもなる。自制こそが重要だ。 「何にせよ、ジョゼフの奴は化け物だね」 まあ、そこは共感できるが。 「あれと戦うくらいなら、“古の竜”とやりあう方がましってもんさ。強力だけど、暴走状態なら知性はないし。普段は戦闘を好まないから、戦闘技術が拙い」 この人はエルフなのに卓越した戦闘技能者だからな。 「ま、相性の問題でもあるんだけどさ。とにかく、お祭りなんだ。ここらで派手にやろうかねえ」 そして、エルネスタ殿は“クトゥグア”と“イタクァ”を両手に持つ。 ………そのように持てる長さではないはずだが、“反射”で重量を軽減しているのだろう。同時に、彼女の周囲に強力な障壁が張り巡らされる。 「こうでもしなきゃ反動だけで死んじまうからね。さあ、喰らいな、ヨルムンガント!」 強大な魔力が二丁の魔銃に集中していく、「火」と「風」・「水」の精霊が荒れ狂う。「土」は“反射”の維持にまわされている。 そして、二つの砲弾が撃ち出される。もはやそのように表現したほうが適当だろう。 それぞれの砲弾はヨルムンガントに命中し、我々が張った“反射”を簡単に突破し、一瞬で粉砕した。 その距離、およそ3リーグ。なんという技だ。 「あんたらの“反射”もまだまだだねえ」 「貴女が異常に強いだけだと思いますが」 私はため息をつきつつ、今度は“イタクァ”を構え、狙撃を続けた。 “花火”は撃ちつくしたほうが良いだろう。■■■ side:ティファニア ■■■ 私とマチルダ姉さんはヨルムンガントと対峙している。 本来のものとは少し違うみたいだから、私の『忘却』でも効果があるそう。 「大丈夫かい、テファ?」 「平気よ」 私は詠唱を始める。 「そうはさせるか、喰らえ!」 でも、ヨルムンガントから声と同時に魔法が飛んできた。 「甘いんだよ!」 けど、マチルダ姉さんの土壁がそれを防ぐ。 「なるほど、ヨルムンガントとホムンクルスを合体させたってのは、間違いないようだね」 「その通り、ハインツ様はミョズニトニルンではない故、分割制御は行えぬ、しかし、我らが融合することで、魔法を放つことすら可能となったのだ」 なんとなく芝居かかってる、本当に茶番劇(バーレスク)なんだ。 「貴様らに勝ち目はない! 潰れるがいい!」 「は、それはこっちの台詞だよ!」 ヨルムンガントが振り上げた足を、土の壁で支える。その間に、私は詠唱を完成させる。 『忘却』で彼にある、ヨルムンガントの操作方法に関する記憶を無くす。 こうすれば、動かすことは出来なくなるはず。 そして、ヨルムンガントは、全く動かなくなった。 「よくやったね、テファ」 「姉さんのおかげだよ」 「油断したなあ!」 「一体だけと思ったかあ!」 「キャアアア!」 そうしたら、後ろのほうから別の二体が現れた。 私はびっくりして転んでしまう。 そして、辺りに魔法が炸裂する。 「甘い、甘いわあ、一人倒しただけで油断するとはのお」 「くっくっく、さあ、その愚かさ、死をもって償うがよい!」 なんか、ノリノリなのね、なにせ、ハインツさんの分身だそうだし。 「貴様らああああああああああ!! テファに手を出すたあ! いい度胸だねえええええええええええ!!!」 だけど、それより早くマチルダ姉さんが暴走した。 「ね、姉さん! 落ち着いて!」 突然、巨大な金属製ゴーレムが現れた。その高さはとてつもなく高い。 「馬鹿な! 全長50メイル近くの巨大ロボット! デモンベインか!」 「ま、まずい! 全長25メイル程の破壊ロボにすぎぬ我らでは勝ち目はないぞ!」 いつから“ヨルムンガント”から“破壊ロボ”に名前が変わったのかしら? 「潰れなあああああ!!」 姉さんのゴーレムが大きく足を振り上げて、踵落としを叩き込んだ。 ヨルムンガント、いや、破壊ロボなのかな?は、一瞬で潰されてしまった。 「い、今のは、アトランティス・ストライク!!」 残ったほうが叫んでる。けど、もの凄く嬉しそうなのはなぜなのだろう? この前、巨人の人達の肩に乗ってはしゃいでいたあの子達と、同じ感じがする。 「し、しかあーし、これはどうかな!?」 破壊ロボが魔砲を構える。確か、“ウドゥン”だったかしら? 「喰らえ!」 そして、発射。だけど。 姉さんのゴーレムは、なんとジャンプして避けた。 「だ、断鎖術式一号ティマイオスと、二号クリティアスか!!」 凄い解説者風に聞こえる。 着地と同時に凄い地響きがして、その衝撃で石造りの家が何個も壊れてしまった。 「姉さん! ここはあんまり壊したらだめなんじゃ!」 と叫ぶけど、私も落ちてくる瓦礫を避けるのに必死で、それ以上出来ることはなかった だけど、落ちてくる砕けた家の石材が、姉さんのゴーレムの手元に集まっていく。 そして、大きな剣が形成された。 「ば、バルザイの偃月刀だと!」 また叫ぶ破壊ロボ。 「ぶった切れな!!」 そして、姉さんゴーレムがその破壊ロボを縦に真っ二つにした。 「はーはっはっは! 残りも全部バラバラにしてあげるよお!!」 私が『忘却』で止めたヨルムンガントも一瞬でバラバラにされる。 完全に暴走してるわ。 このままじゃ多分、姉さんによってリュティスの街は壊されてしまう。 私は姉さんを止めるために、『忘却』を唱え始めた。■■■ side:シェフィールド ■■■ 「やれやれ、とんでもないわね」 私はリュティス中に配置してある“アーリマン”によって全ての戦況を確認している。 だけど、あの巨大ゴーレムはとんでもないわ。 「ハインツの言うとおりだったわね。もしアルビオンで合流してから襲撃してたら、一瞬でバラバラにされてたわ」 『絶対にそれだけはいけません、触らぬ大魔神に祟りなしです。あの大魔神にはヨルムンガントですら勝てません。あれは世の理が通じない存在なんです』 『いいですか、愛の力は偉大です。あの陛下ですらイザベラに殺されかけたんですから。ティファニアに手を出すとはそう言うことです。仮に手を出すにしても、絶対にあの人の目が届かない場所でないといけません』 と、ハインツは言ってたけど、本当にそうだった。 なんかこう、勝てる気がまるでしないわ。 各地の面子は予定通りに動いている。大体何人か、もしくは二人一組で動いてるよう。 「けど、一人だけ単独行動がいる」 そして、それは今、三体のヨルムンガントと対峙している。 私は肉眼で見ようと思い、そこに向かった。 「はっはあ、良くぞ来た、“博識”のルイズ! 今日こそ決着をつけるとき!」 「我等三人に、たった一人で敵うかな?」 「貴様のその腸(はらわた)を食い尽くしてくれるわ!」 もう、完全にはっちゃけてるわ。 というか、ハインツ本人はともかく、こいつらとルイズは初対面よね。 「かかってきなさい」 悠然と構え、軽く笑みを浮かべながらルイズは杖を構える。その右腕は銀に光輝いている。 「小娘があ!」 そう叫びつつ一体が切りかかる。 けど、はずれ。 「何! 消えただと!」 『瞬間移動(テレポート)』で回避した、しかも。 「おい、頭上にいるぞ!」 そのヨルムンガントの頭上に現れた。 そして、右腕から伸びた刃を振り下ろし、刃が内部に食い込む。 装甲には“反射”がかかってるはずだけど、予め刃に『解除』をかけていたようね。 ただの鋼鉄が相手なら、あの刃はたやすく切り裂く、そういう風に作ったから。 「ヴァジュラ!」 そして、電撃が叩き込まれる。あの位置には制御中枢ともいえる「土精魂」があったはず。 「土」は「風」と「水」の組み合わせによって狂う。まあ、『錬金』で作ったゴーレムみたいに純粋な土や金属の塊なら意味ないんだけど。 高度なガーゴイル相手には有効な手段になりえるわけね。もっとも、中枢をピンポイントで攻撃する必要があるけど。 「おのれえ、よくも!」 いかにも三下ふうに叫びながらもう一体が突っ込む。 けど、また『瞬間移動』によって避けられる。 転移先は……口の中。 ヨルムンガントの口には「風石」を取り込むための穴が内部に続いている、そこを通った。 そして、そのヨルムンガントも動かくなり、ルイズが出現する。 「貴様! 何をした!」 「腸(はらわた)を喰い尽くしてやっただけよ」 『爆発』で「風石」を全部消滅させたわね。動力源がなくなれば動けなくなるのは道理ね。 「おのれ喰らええ!」 最後の一体が切りかかる。完全にやられ役な感じだわ。 ルイズは避ける、今度は『加速』かしら? 小さいルイズを補足するのはヨルムンガントにとっては難しい、私が使わない限りは対人兵器としてはあんまり向いてないから当然だけど。 「『念殺』!」 そして、ルイズの魔法が完成し。 「ナチスドイツに栄光あれえええええええええええ!!」 正体不明の叫びを上げつつ、ヨルムンガントは動かなくなった。 しかし、一瞬で三体のヨルムンガントを倒すとは、とんでもない娘ね。 「見事だったわ、“博識”殿」 「ああ、局長、見てたのね」 ルイズは技術開発局に来て以来、私をそう呼ぶ。 「正確には元局長かしらね、これからは貴女が引継ぎなさい」 「ジョゼフとハネムーンに行くんだったかしら? まあいいけど、こっちは私たちに任せなさい」 うん、頼もしいわ。 「しかし、ヨルムンガントを瞬殺するとはね」 「逆ね、瞬殺するしかないのよ、あれ相手に長期戦をやるなんて愚行の極だわ。やるんなら最初から全力で一気に決める。怪物相手にはそれが一番いいんだから。それに、こっちもかなり消耗したしね」 なるほど、まさに、“英雄”と“怪物”の戦いなのか。 「最初のは制御中枢を狙ったわね。けど、よくわかったわね。あれの場所は個体ごとに違うはずだけど」 「貴女の設計に穴はなかったわ。けど、それを仕上げたエルフは完璧とはいえなかった。あの部分だけ僅かに“反射”が強くかかってたわよ。“精霊の目”を持つ私には見破ってくれといってるようなものね」 そう、なるほど。 「けど、よくあれをこの短時間で理解したわね。それに、“精霊の目”も自分用に新たに作ったのね」 「設計図があるなら、それを解析するのは造作もないわ。“博識”の名に懸けてね」 ルイズの本質は理論者。ハインツがそう言っていた。 「で、最後の『念殺』っていうのは、貴女独自のアレンジかしら?」 「ま、簡単に言えば『幻影』の超強化版ね。相手の脳に膨大な情報を流し込むことで、脳細胞、ホムンクルスの場合は中枢かしらね、それを破壊するんだけど、同じ人間相手にしか使えないのが問題点だわ。これじゃあ暗殺魔法にしかならないし、力技だから効率も悪いし、テファの『忘却』はあんなにスマートなのにね」 対人間用魔法、ね。 「私が操るヨルムンガントには意味ないわね。ホムンクルスと融合してるあれだからこそか。貴女の本領はまさにそこにあるのね。相手の特徴を把握し、それに最も適した戦術を構築する。そのために膨大な知識を持ち、それを用いてあらゆる状況を打破する。故に“博識”」 「今回は相手の設計図がわかってたからね、対処法は簡単に考え付くわよ。やっぱ、ヨルムンガントのほうがやりやすいわね、フェンリルはもう相手にしたくないわ」 あれは、私には作れない、旦那様とハインツ渾身の力作だもの。 「けど、ホムンクルスってあんな性格だったかしら? 少なくともアインはあんなんじゃなかったけど」 「ああ、あれね。なんでもハインツが書いた台本を暗記したらしいわよ。最後の茶番劇(バーレスク)だからって、思いっきり劇っぽくしようとか言いながらはしゃいでたもの」 旦那様も一緒に書いていたのは内緒。 「ったく、しょうも無いとこばっかにこだわるんだから。そんな暇があったら少しは自分の将来についてでも考えればいのに」 その感想だけは皆同じようね。 「まあ、あれに何を言っても無駄よ。あれに影響を与えられるとしたら、イザベラ様かシャルロット様くらいね」 ハインツが守りたいのはその二人だけだそうだから。 もっとも、今では違うみたいだけど。姫君を守るのは勇者の役目だから。 「まあそうでしょうね。ところで、あのフェンリルを作った馬鹿の片割れは、遊びまわってるようだけど?」 「言葉を慎みなさい、リュティス市民の安全を確保するために働き続けているのよ。私が“アーリマン”によって得た情報を旦那様に送り、あの方は『瞬間移動』でリュティス中を巡り、怪物を倒しているのだから」 あの方一人で、貴女方全員以上の働きが出来る。 「まあ、確かにそうみたいね。私のほうにも色んな連絡は来るんだけど。何でも、北のほうで“タキシード仮面”を名乗る男が現れて、ヨルムンガントを二体撃破。南ブロックに“ダース・ヴェイダー”を名乗る黒い仮面、というか全身黒尽くめの男が現れて、“フォース”とかいう謎の力でヨルムンガント三体を潰したとか」 「ああ、それは『重圧』ね。虚無魔法の一つで、対象空間の重力を自在に制御するとか。“ペガサス・ローリングクラッシュ”もこれを応用してるそうよ」 「ふーん、“虚無”って、時空系が多いわよね。『瞬間移動』、『時空扉』、『世界扉』、『加速』、『重圧』。どれも時間や空間を操るのものだわ。『忘却』や『幻影』といった精神系もあるし、『解除』や『爆発』みたいな消滅系もあるけど」 「確かに、結構系統だってきたわね」 徐々にだけど、分かってきた部分もあるよう。 「で、さらに、西ブロックには“グレート・サイヤマン”を名乗る、やっぱり仮面を被った男が現れて、ヨルムンガントを“かめはめ波”で倒したとか。そして極めつけ、最もヴェルサルテイルに近い東ブロックに“マスク・ザ・斎藤”を名乗る変態が現れて暴れまわったとか。これを遊んでる以外のどういう表現をしたらいいのかしら?」 “かめはめ波”は『爆発』、“マスク・ザ・斎藤”については私も知らない。 「ちなみに、次は“仮面ライダー”ね。“ハンティング・ホラー”という魔法兵器に乗って、ヨルムンガントを突き抜ける予定だそうよ。そして、最後は“アンパンマン”。究極の必殺技、“アンパンチ”を受けて吹き飛ばない相手はいないわ」 「やり過ぎよ、あんたらは」 「これでも抑えてるそうよ。その気になれば、私と同調してリュティス中の存在を把握して、生物だけを全て『爆発』で消滅させることも出来るとか。“セルの尻尾”とか、“クトゥルーの呼び声”とかいう技らしいけど」 「…………………」 流石に絶句してる様子。 「あれについては深く考えない方が良さそうね。それで、死者は出てないのね?」 「何人かやばそうなのもいたけど、『アンドバリの指輪』クラスの水の結晶で治したそうね。水中人に感謝しましょう」 作ったのはエルフだそうだけど。 「じゃあ、後は最後の戦いだけか。やっぱり、決着をつけるのはあの二人ね」 「それはそうでしょう。あの二人こそが、最後の敵を倒すヒーローとヒロインなのだから。“悪魔公”を倒すのは“イーヴァルディの勇者”と“蒼き風の姫君”の役目よ」 ハインツの脚本なのだから、そうとしかなりえない。 「勝ちなさい。サイト、シャルロット。愛の力で兄馬鹿をぶっ飛ばしなさい」 ルイズの応援が、リュティスの夜空に響いていた。 …………そういえば、もう夜なのね、祭りが終わるのは早いものだわ。■■■ side:ハインツ ■■■ ヴェルサルテイルが炎に包まれ、王家の象徴が燃え尽きていく。 まあ、財務卿の魂の叫びの結果ともいえるわけだが。 俺はここにいる。そして、あいつらを待っている。 誰が来るかは事前に決めていない。誰が来るかは分からない、早い者勝ち。 だが、俺はあいつらを待っている。他の奴らも粋な連中だから、その辺は解っているだろう。 そして、待ち人はやって来た。 「よく来たな、才人、シャルロット」 「はい、来ました」 「ここで、決着をつける」 二人とも万全のようだな。戦士にとって万全とは、ある程度の敵と戦い、僅かに消耗した状態だ。 車と同じ、最初からエンジンを全開にすることは出来ない。燃料は多少消費するが、その状態こそが万全なのだ。 だが、今の俺は違う。常に全力疾走、機能は加速だけ。 既に痛覚は機能していない。味覚も無い。内蔵も消化器官などの戦闘に不必要な部分は全て停止している。 代わりに、心臓、肺、筋肉、神経、脳、それらは異常に発達しているようだが。 正直、こいつらが間に合わない可能性すらあったからな。 「そうか、では、約束を果たすとしようか」 俺はわが分身たる“呪怨”を右手に構え、左手の骨の杖に魔力を込める。 「私が貴方を倒したとき、一人前と認める」 「そう、それが一つ、だが、もう一つある。なあ、才人」 俺は才人の方に視線を向ける。 「はい、今日こそ、それを果たします」 「?」 シャルロットは知らない、まあ、当然だ。 「俺はこれでも、シャルロットの兄のつもりでな。果たせてきたかは微妙なところだが、それでも兄だった。だからこそだ、才人、俺より弱いやつに、妹はやらんぞ」 「はい、ですから、貴方を倒して、シャルロットを貰います」 「!?」 シャルロットの顔が真っ赤になってるな。うむ、よきかなよきかな。 「そういうわけだ、この茶番劇(バーレスク)もいよいよ終幕。だが、これはもう、国家も王家も関係ない、俺たちの戦いだ。兄と、妹と、その恋人と、これもまた、人間が人間である限り、逃れられない宿業かねえ」 「俺はシャルロットが好きです」 「私も、サイトが好き」 よーし、舞台は整った。 「では、始めるぞ、兄馬鹿を打ち破り、結婚して見せろ。さあ、わが弟子たちよ、今こそ師匠を超えられるか?」 「超えます、シャルロットのために」 「超える、サイトのために」 そして、最後の戦いが始まる。■■■ side:シャルロット ■■■ ハインツは、強い。 私たちの戦いではトライアングル以上の魔法はありえない。そんな魔法を唱えている間に、切り殺される。 人を殺すならばラインスペルで十分、だから、相手と戦いつつ、それを素早く唱えることが必要。 今のハインツはおそらくヘクサゴン。 右腕の骨の杖で、多分「ライン」分の『フライ』をかけて、サイトの速度に対抗している。 それ以上にサイトは速いけど、ハインツの剣技は本来専守防衛、その守りを突破するのは容易じゃない。 そして何より、ハインツはサイトの動きをよく知っている。どんなに速くても予測されては互角がせいぜい。 だから、ハインツの体勢を崩すのは私の役目。 しかし、ハインツは左腕から自在に魔法を放ち、私の魔法を迎撃する。 私はスクウェア、ハインツの残りもスクウェア、そこは互角になる。 ……………こうした、戦術的な思考方法を教えてくれたのも、ハインツ、貴方だった。 『理解したか? これが俺とお前の力の差だ、たかが12歳の小娘が死線をくぐった程度で追いつけるほど北花壇騎士団副団長は甘くはない』 『いいか、もし暗殺者としての戦い方を目指すなら殺気は消せ、そして先程のような軽い挑発に乗るようでは論外だ、どんな時でも冷静に、そして容赦なく躊躇なく一息で殺す、威嚇などはするな、攻撃するなら心臓か頭を狙え』 それが、最初の教え。 だけど、本当に色んなことを教えてくれた。 『戦いにおいて相手の特性や強さを測ることは基本だ。これができないやつから死んでいく。特にフェンサーは単独任務がほとんどだから仲間の助けはない、自分の力で生き延びることになる』 そう言いつつも、貴方は私に“アイン”をつけていた。 『戦闘スタイルに関しては、お前は戦術を練ってそれに従って行動するタイプだな。アドルフとフェルディナンは知ってるよな? あいつらみたいのは直感で戦う。相手の都合なんかお構いなしで、自分の攻撃をひたすら叩き込む。あれも一つの究極形といえるな』 ハインツの仲間も彼に劣らずもの凄かった。いや、純粋な戦闘能力ならハインツ以上だった。 『クロードやエミールとお前は近い、特にクロードは「風」の使い手だから、一度教えを乞うのもいいだろう。あいつの“風喰い”はとんでもないがな』 そうして、様々な戦闘技術を学んだ。 貴方がいてくれたから、私の心は復讐に囚われることはなかった。強引にこじ開けるように、貴方は私の檻を破壊した。 『父さま! 見て見て! 私、凄い技を覚えたのよ!』 『では、父さんにその技を見せてごらん、シャルロット』 父さまが生きていた頃、そんな風景が日常だった。 『今からタバサが、父さまに素敵なダンスを披露するわ』 私は“タバサ”という人形を魔法で動かしてダンスをさせていた。 『お見事! お見事! たいしたものだねシャルロット! 父さんにだってそこまで繊細に、人形を操ることなんてできないよ』 そんな、幸せな日々だった。 その幸せな日々は終わってしまったけれど。 『ハインツ、新しい魔法ができた』 『早いな、もうか、この前教えたばっかりだったと思ったが』 ハインツは、『ライトニング・クラウド』、『エア・ストーム』、『エア・スピアー』、『アイス・ストーム』などのトライアングルスペルを私に見せて、覚えるこつを教えてくれていた。 「『エア・ストーム』」 私は集中して魔法を放つ。 『流石、たいしたもんだな。こと「風」の熟達度では俺より早いな。うむ、見事だぞ、わが妹にして一番弟子よ』 私の頭を撫でながら、ハインツはほめてくれた。 終わってしまったものもあったけど、私は、家族を全て失ったわけじゃなかった。 『ねえハインツ? シャルロットは大丈夫、危険はない?』 『あのな、賭博場を潰すなんて任務のどこに危険があるんだよ』 『いや、逆にこう、陰謀があったりとか』 『そんなのがあったら俺が排除してる。どんなイカサマだろうが“精霊の目”を持つあいつなら簡単に見破れる。つーか、もうそれは終わったぞ』 『あれ? そうだった?』 『忙しすぎて呆けたんじゃないか?』 私は、ハインツの“不可視のマント”を被って隠れていた。 『どーよ、愛されてるな、シャルロット』 『……………』 父さまは殺され、母さまは心を失ったけど、兄と姉が、私をいつも見守ってくれていた。 けど、私はもうそれを卒業します。 好きな男性(ひと)がいるんです。 私を好きだと言ってくれた男性(ひと)がいるんです。 ……………私を、優しく抱いてくれました。 だから、私はサイトと一緒に生きていきます。私がサイトを支えて、サイトに私を支えてもらいます。 貴方はイザベラ姉さまを支えてください。私も支えますし、出来る限り手伝います。 けど、やっぱり、イザベラ姉さまを一番に支えるのは貴方しかいないと思います。 だって、イザベラ姉さまが頼るのは、世界で貴方だけなんですから、ハインツ。 私はサイトと一緒に貴方を超えます。貴方がイザベラ姉さまを全力で支えられるように。 「はああああああああああああ!!」■■■ side:才人 ■■■ ハインツさんは強い。 シャルロットの魔法を左腕で防ぎながら、右腕一本でデルフを防いでいる。 「デルフ、我慢しろよ」 「相棒、アレ前みたいに怨念を感じねえんだ。でも、代わりにその怨念を収束したっつか、支配したって言うか、とにかくより不気味なモンになってやがる、だが、ここで引いたらデルフリンガー様じゃねえ、任せな!」 ハインツさんが俺に魔法を撃たないのは、デルフの能力を知ってるからだ。 その代り、自分の身体能力の強化にだけ魔法を使ってる。だからこそ、俺は正面から切り込むことが出来る。 だけど、破れない。 ガンダールヴの力は最大限に発揮しているが、今のハインツさんもそれに劣らず暴走状態にある。 ならば、もっと速く! もっと強く! それが俺だったはずだ! そうして戦っていると、分かったことがあった。 どうして俺は強くなろうと思ったのか? どうして誰よりも速くなろうと思ったのか? 答えは簡単だった。ハインツさんよりも強く、ハインツさんよりも速くなりたかったからだ。 大好きな女の子の兄であるこの人に。 『私はシャルロット、これから会う人の前ではそう呼んで、それ以外ではタバサと呼んで』 『やあ、初めまして、俺はハインツ・ギュスター・ヴァランスだ、気軽にハインツと呼んでくれ』 俺がこの世界に初めて来たとき、最初に会った人達はこの二人だった。 それ以外の人間は、俺を人間と認識してなかったからな。 いきなり訳分からない異世界に放り込まれて、使い魔にされて、どうしたらいいかも分からず、ただ流されようとしてた俺を、二人が導いてくれた。 …………それに、最初に会った時のシャルロットの笑顔は反則だった。 もう、あの時に俺はやられてたんだと思う。 シャルロットの表情が豊かで、笑顔があんなに素敵だったのは、ハインツさんとイザベラさんのおかげなんだろう。 シャルロットは一見無表情のようで、実に表情豊かなんだ。俺はそれをキュルケから教えてもらった。 それに、とても純粋な心を持っていて、自分の容姿とかも実は結構気にしてるかわいい女の子だ。 要は、ルイズとは正反対ということなんだが。 あいつも、最初はああじゃなかったはずなんだが、いつの間にかおかしな進化を遂げて、今じゃあ最強の怪物になってる。 『まあ、困ったことがあったらいつでも連絡してくれ、その時はシャルロットに言えば俺に繋いでくれるから』 『ありがとうハインツさん、でも俺、なんのお礼もできませんよ?』 『別にいいさ、そうだな、強いて言うならシャルロットの恋人にでもなってやってくれ、こいつ友達一人しかいないからな』 ハインツさんには何気ない一言だったかもしれないけど、俺にとってはこの世界の一番の目標になったようなもんだ。もっとも、その時は気づいてなかったけど。 だから、俺は強くなりたかった。 『ハインツさん、自分より強い相手に勝つにはどうすればいいですかね?』 『まず、相手が誰であれ基本的にデルフと協力して戦うこと、お前はまだ魔法使いとの戦いに慣れてないからどんな魔法がくるのか詠唱から予測できない、戦闘を生業にするメイジや傭兵には必須の技能なんだが、いきなりやれと言われても無理があるだろう』 『そこで経験豊かなデルフの出番、デルフが相手の魔法の種類とか発動のタイミングとかを見きってくれるだろうから、お前はその声に従って動けばいい、疑わずに相棒を信じること、そして相棒の声を聞く余裕を常に持っておくこと』 『あとは相手の虚を衝くことだな、簡単な手段としてコショウを小さい袋に詰めてそれに紐を通して簡易的なスリングにして投げる、それを武器と認識すればガンダールヴのルーンが発動するだろうから正確にしかも剛速球で投げれるはずだ、相手が咄嗟に弾いても中からコショウが炸裂して相手を苦しめる、メイジなんて連中は普段厨房に立たないからコショウに対する免疫はまるでない、一発で魔法が唱えられなくなる』 『あとは小型のナイフとか包丁とかを隠し持って置いて、いきなりデルフを敵に全力で投げつける、相手はまさか主力の武器を投げてくるとは思わないからびっくりして対応が遅れる、そこでナイフを握って速力全開で回りこんで接近戦で切りつける、接近戦なら一番強いのはナイフだからな、相手が魔法を唱える前に勝負がつく』 『いいか、メイジの最大の欠点は魔法が絶対だと盲信してるところだ、だからそれ以外の予想しない手段で来られると対応が遅れる、その一瞬の隙で勝負を決めるんだ、お前は速度に特化してるはずだから持久戦よりそういう一撃必殺の短期決戦のほうが向いてるはずだ』 その教えを受けて、俺はあのヒゲ野郎を倒した。 そして、強くなろうしながら、宝探しにいったり色々やった。 アルビオンでは7万に突っ込んだけど、結局はハインツさんに助けられた。 その後、ウェストウッド村でハインツさんと特訓したな。一回も勝てなかったけど。 『だが才人、戦い方を工夫すればお前はあっという間に俺を追い抜くと思うぞ』 『簡単に言えばお前はまだ無駄が多いんだ。動きに無駄は無いんだが、その他の部分で無駄がある』 『お前の筋力はかなり高くなってる。剣のふり方も見事だし重心移動なんかも一切問題ない。つまり普通に動く限りでは理想的と言っていいんだが、ルーンマスターの真骨頂は普通じゃない戦い方にある』 『だから、それをいかに効率よく運用するかがポイントだ。例を言えば、相手に近づくときには下半身に集中してルーンの力を発動させる。相手に切りかかる時は上半身に集中、てな感じでな。もっとも、剣を振る時は全身の筋肉を使うからそう簡単にはいかないが、ルーンの強弱をつけることでこれまで以上の動きができるはずだ』 『そうなれば普通の人間には不可能な動きも可能になる。走りながらいきなり直角に曲がったり、地に伏せながら高速で突進したり、果ては空中で二段ジャンプしたりな。そういう戦い方が出来れば一気に戦術の幅も広がる』 そうして、俺は新しい戦い方を模索した。それによって、アーハンブラ城ではシャルロットを助けることができた。 本当に、この人は俺の目標であり、師匠だった。 強くなろうとした理由は我ながら呆れるほど単純だ。シャルロットが好きだったから。好きな女の子の兄貴よりも強くなって、その人に認めて欲しかった、それだけだ。 だから、俺は貴方を超えます。これからは俺がシャルロットを守ります。 俺がシャルロットを世界で一番愛しています。それだけは、貴方にも負けません。 だって、貴方の担当はイザベラさんですから。 シャルロットは俺が支えます。だから、貴方はあの人と一緒に幸せになってください そうでないと、シャルロットも幸せにはなれません。あいつは優しいですから。 俺とシャルロットは貴方を超えます。貴方が、シャルロットのことを心配しなくてもすむように。「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」■■■ side:ハインツ ■■■ 「はああああああああああああ!!」 確かに、さばけるはずだった。 シャルロットが放つ『エア・ハンマー』に、俺の『エア・ハンマー』をぶつけることで相殺する。 これまで幾度となくやってきたことであり、今回もそうなるはずだった。 才人とシャルロットが二人で最初に俺のところを訪ねてきた時も、そうした覚えがある。 だが、シャルロットが放った『エア・ハンマー』はこれまでのどれよりも強力だった。 俺の本領は「水」、シャルロットは「風」。しかし、ラインスペルならばそれほど差は出ない。 本人の精神力などによって、そのくらいは簡単に変化する。その差こそが、俺とシャルロットの差だった。 今、シャルロットは俺を超えた。ほんの僅かだが、それでも超えたのだ。 そして、その僅かが、俺の反応を一瞬遅らせる。「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」 才人の速度が上がる。これまでのどれよりも速く。 俺は“呪怨”で迎撃する。出来るはずだった。 シャルロットの魔法が僅かに俺の体勢を崩しておらず、才人がこれまでのどの時よりも速くなければ。 ほんの刹那、間に合わなかった。 脳が限界を超えて暴走している俺は、その光景を時が停滞しているかのように感じていた。 陛下の『加速』の最中こういう世界にいるんだろうな、などと、そういったことを考えながら。 そして、デルフリンガーが俺の胴体を斜めに切り裂いた。 心臓から内臓にかけて、全部持っていかれるほどの、深い傷だ。 だが、痛みは感じない。そもそも、この戦いが始まる前から俺に痛覚などありはしない。 「見事だ」 その感想しかなかった。 それほど、美しい連携だった。 以心伝心、二人の絆の強さがよくわかる。 互いに心から信頼しあってなければ、これはありえないだろう。 己の思うがままに突き進み、己の肉体を崩壊させながらも進み続けた“悪魔公”は“イーヴァルディの勇者”と“蒼き髪の姫君”の愛の絆によって敗れた。 これからは、“ガリアの勇者”、“ガリアの姫君”とも呼ばれるだろう。 「本当に、お前らは仲が良いな」 そうして、これ以上ない満足感に包まれながら。 ハインツ・ギュスター・ヴァランスの肉体は、その機能を停止した。