まえがき 長くなってしまったので前編と後編に分けました。 ちなみに、今回は茶番劇ですので全員はっちゃけてます。 そして、戦争でも、反乱でもなく、あくまで茶番劇なので死者もでません。 突っ込みどころ満載ではありますが、どうかご了承ください。 後編は今日の夜頃に投稿する予定です。--------------------------------------------------------------------------------------- 共和制ガリアが宣言されてから10日後、初代執政官イザベラ・マルテルの就任式が、リュティスの中央大広場にて行われる。 これが、新しい国家の正式な始まりであり、同時に、古い国家の終焉を示す儀式となる。 そしてこの日、ガリア王家の闇は全て潰えることとなる。 闇の管理者、ハインツ・ギュスター・ヴァランスの、最後の役目を果たす時がきた。第十七話 終章(エクソドス) 前編■■■ side:ハインツ ■■■ 俺は、闇の管理者としての務めを果たすため、ある場所を訪れた。 リュティスに住む市民の多くは中央広場に出向いており、ここ周辺に人影はない。 いや、平常時であっても、ここに気を払う者は皆無だったろう。 ここは闇の胎盤。 故に、もうそれは必要ない。 あらゆる狂気を詰め込んだ闇の結晶であったそこは、炎によって無に帰っていく。 既に、ヴィクトール候の屋敷の地下にあった。“フェンリル”となった怪物を作り上げた魔の研究所も、灰燼に帰している。 そして、ガリア各地に散らばっていた闇の技術も、北花壇騎士団の情報網によって悉く見つけ出し、俺の手で無に帰した。 “元素の兄弟”とかいう奴らも、その過程で殺しておいたのだったか。あれは確かベルフォール家を粛清した時だから、かれこれ3年前になるか。 かなりの時間を費やし、闇を狩ってきた。 そして、最後はその中心たるここだけ。 俺は地下室が炎に包まれるのを、ただ静かに見守っていた。 そして、しばし後、俺は炎に包まれてゆく闇の封印図書館を後にする。 地下から階段を上り、闇の底であるこの場所への入り口である壁を通り抜けたその刹那。 “それは此処に置いてゆけ” という声が頭の奥深くに響いた。その声は、少年の時に幾度か聞いたしわがれた低い声に似ていた。 俺は壁を振り返る。しかし、そこには何も無い。かつてそこに在った怨念や妄執も消えていて、ただ、地下からの熱気が昇ってくるのを感じるだけだった。 しかし、その声が響いた瞬間、俺の中から何かが抜け落ちたのが分かった。 それが何なのか、はっきりとは言えないし分からない。ただ、それはきっと俺という人間を形成する上で大きな要因となっていたもの。 それがはっきりと欠落した。だが、俺にはなぜかそれが、此処に残っていた闇からの祝福のような気がした。 ジョルジー男爵邸が炎に包まれている。 地下の炎は屋敷全体に広がり、その全てをその炎舌がなめている。 6000年の闇が燃えていく。全て余さず灰燼と帰していく。 これを見届けるのは俺の義務であり、俺以外に見届け人は必要ない。 炎はますます盛んになるが、闇の断末魔のようなものはそこから聞こえなかった。闇もまた、己の消滅を望んでいたのだろうか。 ついに門が焼け落ちた。 最後に、その焼け落ちた門の中に、名状し難い笑みを浮かべる2人の老人の姿を幻視した。 此処のかつての主ともう一人、あれは…… そして、俺は振り返る。 そこには、闇の結晶であり、俺の分身でもあるホムンクルス達が全員集合していた。 「さあ行くぞ、ガリアの闇たちよ。もう闇は必要ない。闇の歴史は、ここで終わるのだ」 ホムンクルス達は頷きを返し、それぞれの持ち場に散っていく。 そして、俺は仕上げの作業を行うために、自らの分身を数体作り出す。 「ユビキタス・デル・ウィンデ…………」 風の『遍在』、本来は「風」のスクウェアスペルであるため、「水」のスクウェアである俺には使えない。 しかし、今の俺にはそれが苦もなく行える。いや、正確には身体は悲鳴を上げているわけだが。≪回想≫ 「ハインツ、貴方、自分の身体がどうなっているか、理解しているの?」 ラグナロクが始まってより後、ロマリア宗教庁が滅んでから一週間ほど経過したある日、シェフィさんが技術開発局でそう尋ねてきた。 「まあ、なんとなくは」 俺自身、違和感というか、変調は感じていた。 「それでなお、普段と全く変わらないのは流石というべきか異常というべきか判断に迷うわね」 シェフィさんは呆れているようだ。 「貴方の身体、もう長くないわよ、それは自分でも理解しているでしょう」 「まあ、大体は、でも、何でシェフィールドさんに解るんですか?医療は貴女の専門ではなかったはずですが」 彼女は神の頭脳ミョズニト二ルン。生体関連が本領ではない。それ故に、首なし騎士(デュラハン)やキメラ、“レスヴェルグ”などの生体兵器は俺の管轄だったのだから。 「最近貴方、“スキルニル”を身代りに置いているでしょ、あれを調べたのよ。スキルニルは本人の血液を元に、その身体を再現する。だから、それに触れれば現在の状況が解るのよ」 なるほど、ミョズニト二ルンにはそういう力もあったのか、流石は“解析操作系”の頂点。 「それで、貴方の身体を調べたら、常に臨界稼働を続けているわね。ブレーキ何か存在せず、どこまでも加速だけを続けている。貴方の脳が限界を迎えるのも、そう遠い話ではないでしょう」 そう、その兆候はあった。 ラグナロクにて、巨大『ゲート』を起動させる際、彼女の代わりに数分間維持し、その後“ヨルムンガント”の軍団(レギオン)を操作したが、俺の魔力が尽きることはなかった。 そして、“血と肉の饗宴”作戦で使用した“ピュトン”。 本来3日程度の効力のはずが、いつまで経っても収まる気配が無かった。 つまり、今の俺は常に“ヒュドラ”を使い続けているのと同じということ、やがてはこれが“ラドン”となり、俺の脳は破壊されるだろう。 脳内麻薬が限界を超える速度と量で分泌され続けているのだ。終わるのはそう遠くない。 「それしか考えられないですね」 だから、俺は医者としてそう答える。そこは俺の専門だからな。 「あんたね、少しはあわてなさい。その状態でいつも通りというのはありえないわよ」 「まあ、それが俺ですから」 先天的な異常者、それは分かりきっていることだ。 「まあ、それはいいけど、貴方、そのまま進むつもり?」 「ええ、どこまでも走り続ける。俺はそういう風にしか生きられませんから」 走ってないと壊れてしまう。そして、壊れるまで走り続ける。 「そう、それが貴方の在り方なのね」 「ええ、変えようがありませんし、最後までそうあり続けるでしょう」≪回想終了≫ 「“輝く闇”、それが俺」 故に、やることは決まっている。 「さあ、最後だ。道化の魔神、“ロキ”が主催する、盛大なる茶番劇(バーレスク)を始めよう」 迎え撃つがいい、“百眼”よ。■■■ side:ヒルダ ■■■ リュティスの中央広場、ここに、100万近い民が集結している。 リュティスの人口は30万ですが、ガリアの首都圏であるイル=ド=ガリアの人口は約225万人。 それに、人口15万の“湖の街”ブレストを圏府とする北西のバス=ノルマン。 人口16万の“人形の街”ラヴァルを圏府とする西のクアドループ。 人口22万の“鋼の街”グルノーブルを圏府とする南西のマルティニーク。 人口21万の“街道の街”カルカソンヌを圏府とする南のロレーヌ。 人口20万の“ガリアの食糧庫”ロン=ル=ソーニエを圏府とする東のコルス。 ガリア最大の穀倉地帯であり、同時に、ガリアの中心といえるこれらからたくさんの人達が集まっているのですから、この人数も当然といえましょう。 17日前に始まり、1週間続いた終戦記念祭には200万もの人間がガリア中から集まりましたから、それに比べれば半分です。 そして今、イザベラ様が中央広場の壇上に立ち、集まった民に対して演説を行っています。 その姿は凛々しさと美しさを兼ね備え、まさに、指導者に相応しいオーラを放っていらっしゃいます。 天から愛されたとしか思えぬ美貌と肉体を持つ、陛下の娘なのですから、これも必然のこと。 並の男ではイザベラ様の近くに寄ることすら敵いません。というか、私が許しません。 イザベラ様の隣に立つのはハインツ様だけでよいのです。もし、色目を使う男でも現れようものならば、生まれてきたことを後悔させてあげましょう。 ガリアの闇を受け継いでいるのはハインツ様だけではありません。私、マルコ、ヨアヒム、この3人もまた、ハインツ様ほどではないにせよ。闇の外法を保有しております。 ハインツ様と共に、ガリアに散らばる闇を狩ったのは私達。これだけは、イザベラ様には知らせておりません。 イザベラ様はガリアの将来を背負って立つ御方。影に徹するのは我等が使命。 闇が滅ぶとも、国家が存続する限り、影は残ります。 我等はガリアという国家の影、それが北花壇騎士団なのですから。 そして今、最後の闇が解き放たれる。 突如、怪物たちの喚声がリュティス中に響き渡る。 「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ッ!!!!」 そして、その声は徐々にですが、こちらに近づいてくる。 集まった民は混乱する以前に呆然としていますね。 「反乱です! 反乱が起こりました!!」 そこに、声が響き渡る。 声の主は、アルフォンス・ドウコウ大将。 『拡声』を使わせればガリアはおろか、ハルケギニア随一でしょう。 もっとも、普段はそれを“カラオケ大会”などに使用しているようですが。 「何者ですか?」 イザベラは、全く動じず、帯然として問われます。 「“悪魔公”です。彼が、異形の怪物たちを率いて反乱を起こしました。執政官殿と、貴女を支えるここに集った民を殺し尽し、ガリア王として君臨するつもりのようです」 一見筋が通ってますが、なぜ今来たばかりの彼がそんなことを知っているのかと、冷静に考えれば疑問が残ります。 しかし、状況は民が冷静でいることを許しません。 凄まじい轟音がリュティス中に響き渡ります。 恐らく、炎の魔砲“ウドゥン”をヨルムンガントが一斉に放ったのでしょう。目標はヴェルサルテイル。 東の空が、一瞬で赤く染まります。 この時、宮殿には誰もいませんでした。王家が役目を終え、共和制が始まるこの式典の日に、王宮が空となるのは当然でありましたから。 ちなみに、金目のもの、芸術作品、政府の資料などなど、そういった品は事前に全て移動させてあります。 あそこはまさに、空、だったわけですね。 「大変だ! ヴェルサルテイルが燃えている!」 「悪魔公だ! あいつがやったんだ!」 「ガリアをどうする気だ! 全部自分のものにする気か!」 「そうはさせるか! ここは俺達皆の国だ!」 「そうだ! 悪魔公一人の為の国じゃねえ!」 「悪魔公を倒せ!」 「ガリアを守るんだ!」 これらは皆北花壇騎士団ファインダーの諸君ですね。相変らす扇動が上手い様子でなにより。 民達は一気に沸き立ち、ヴェルサルテイル向けて駆けだそうとする者も現れますが。 「皆の衆! 静まりなさい!!」 イザベラ様の一喝が、それを静止させました。 「まずは落ち着くのです! 私達が最優先になすべきことは、“悪魔公”を倒すことではありません! リュティスの市民をここに避難させることです! いくら敵を倒そうとも、民が犠牲となったのでは意味がありません!」 その言葉は、沸騰していた民衆に理性の光を取り戻させたようです。 「そして、戦うのは軍人の務め、民を守るのは保安官と騎士団の役目。皆さんの心意気はまことに嬉しく、感謝の言葉もありません。ですが、命を無駄にしてはいけません。貴方達、民こそが、このガリアを支える根幹なのですから」 今のガリアはそうなのです。王族一人の為に何百人もの平民を犠牲にしても構わない、といった価値観ではありません。 「ですが、家族が心配な人達もいるでしょう。そういった方々は、護民間や保安官と共に各家庭へ向かってください。しかし、行くことを許すのは20歳以上、50歳以下の男性に限ります。子供、老人、そして女性はここに留まり、決して市街に向かわないよう。兵士達はこれを堅く守らせるように」 ですが、行動を起こす気概がある者達を抑えつけるのも逆効果、条件付きで許すべきでもあるのでしょう。 「皆さん! 今こそ、ガリアは真価を問われています! たった一人の男の欲望によって、全ての民が巻き込まれることを許すべきではありません! 私は戦います! 国家と民と守るために! そして皆さんは、己の世界、自分の家族を守ってください! 新しい世代へ世界を託すために!」 そして、大茶番劇の幕が上がりました。 ちなみに、ヴェルサルテイルを燃やしたことにはいくつか理由があります。 まず一つ目、王家の終わりを象徴すること。王宮こそが王家の象徴でしたから、それが破壊されることには大きな意味があります。 二つ目、“悪魔公”の暴虐を分かりやすく示すこと。 ハインツ様曰く、 『阿房宮を焼き払った“西楚の覇王”にあやかろう。ここは盛大に燃やすべき』 とのことです。 三つ目、これが最大の理由なのですが。≪回想≫ ゲルマニア侵攻が目前に控えた頃、カルコピノ財務卿がイザベラ様の執務室を訪ねてきました。 ちなみに、私は宰相としてのイザベラ様の補佐官も行っております。 「宰相殿、例の件ですが、やはり、不可能です」 「そう………まあ、予想はしてたけど」 イザベラ様の表情はややすぐれませんね、これは王家の恥部とも言えますから仕方ありませんが。 「そもそもヴェルサルテイルは王族、というよりも、ロベスピエール三世陛下の愛妾達のために建てられたような宮殿です。機能性というものがまるでありません。巨費をつぎ込んだ挙句、放置された区画すらたくさんあります。それを、美観を損ねるなどの理由で庭園にしたり、狩猟場にしたりと、まさに、王族の贅沢の象徴のようなものですから」 財務卿の言葉には熱がはいってますね。 「そうよ、だからこそ、教訓として残しておきたいところでもあるんだけど」 「ですが、採算が合いません。一般に公開したり、空いているスペースを利用して博物館にしたり、その他、あらゆる利用法を考えました。あらかた取り壊し、一部を残す方法も考えました。ですが! どの方法を持ってしても、国庫に凄まじい負担がかかるのです! その額なんと200万エキュー!」 恐ろしい大金です。六大公爵家が存在した頃のガリアの国内総生産が36億7000万エキュー程、現在ならば48億4000万エキュー程になっています。ちなみに、ヴァランス領は1億8000万エキュー程から、2億7000万エキュー程になったとか。流石は陛下が最初に統治なされた土地です。しかも、鉱物資源が半端じゃありませんし、最も早く先住種族と協力した産業が始まった土地ですし。 とはいえ、総生産であって国家予算ではありませんから、たったそれだけのために費やせる金額ではありませんね。 ちなみに、下級官吏の年給は500から800エキュー程です。 大人一人が都市で一年過ごすのに費やす金が、大体100エキュー程ですから、一家を支えるには十分ですが。 つまり、3000人近い下級官吏の年給に匹敵するのですね。 「現在も!ここを維持するためだけに500万エキューもの費用が使われているのです! しかも! これですら陛下の代になってから、ガーゴイルなどを利用し、余分な部分を削った上でのことです! 先王陛下の時代で1800万エキュー! 先々代のロベスピエール三世の時代には、4900万エキューもの大金が維持費だけに使用されていたのです! 平民を舐めてんですかこの野郎!」 魂の叫びですね。財務卿は貴族の血こそ引きますが、大商人の出身であり、平民に近い方ですからね。 それでも、暗黒街出身で、“穢れた血”であるイザークに比べれば、真っ当な存在と言えますが。まあ、あれが異端過ぎるのでしょうけど。 ちなみに、九大卿ですら年給は大体5000エキュー程度、封建貴族の男爵よりもかなり少ないわけですね。 もっとも、彼が動かせる国の金はそれこそ数億エキューに達するわけですが、個人ではそういうわけにはいきません。 そう考えると、個人で数百万エキューを動かせるハインツ様はまさに別格なのですね。 「少し落ち着きなさい、気持はわかるけど」 「これが落ち着いていられますか! 我々財務省がどれだけ苦労しているか! そりゃあ、陛下の政策のおかげで予算には余裕がありますが、それでも! ラグナロクの運営費を組む上で我々が費やした時間と労力は並大抵ではありません! それ以上に無理をなされている宰相殿やハインツ殿に言うのは大人げないとは思いますが! 凡人には限界があるんです! 私は凡人ではありませんが!」 最後のは自身の誇りであり信念ですね。そうでもなければ九大卿は務まりません。 その分野にかけては己こそが最優である。この心なくして頂点に君臨することはかないませんから。 「確かに、財政の無駄を少しでもなくそうと、睡眠時間を削って苦労してる貴方達に喧嘩売ってるわね、これは」 その辺は共感できる部分が大いにあるんですね、実に悲しいことですが、イザベラ様はまだ18歳なのに。 「というわけで、焼き払ってください。金目の物や美術品は全部回収し、後に売り払いましょう。特に、これから開始される東方交易に使用すれば丁度いいかと」 流石、その後の展開までも考えているのですね。 「そうね、そうでもするしかないか。無駄しかないんじゃ残す意味ないし」 まあ、それしかありそうもないですね。 「お願いします。でなければ、財務省の職員がいつか放火に及ぶでしょう。そうでなければ私が」 血の涙が見えますね。 「それだけは回避したいわね。まあ、ハインツと相談してみるわ」 こうして、ヴェルサルテイル宮殿が焼き払われることは決定したのでした。≪回想終了≫ とまあ、何とも悲しい理由で焼き払われることとなったのですが、それはヴェルサルテイルに限りません。 リュティスは歴史ある街ですので、結構無駄な区画や、不要な建物が多くあります。 しかし、それらの所有者にとっては先祖から受け継いだものだったりするので、なかなか手放そうとはしません。 そこで、少々外道ではありますが、“悪魔公”反乱の際にそういった建物などを焼き払うこととなりました。もちろん、失った方々に対する補償は万全。そこも、財務省の管轄ですが。 ヴェルサルテイルの維持費がなくなるだけでも、その補償にあてるには十分でしょうし。そうでもしないと、都市の効率がいつまでたっても悪いままです。 そして、多くの建物がなくなれば、必然、公共事業も増えますし、石工、大工などの仕事も増えます。そうなれば彼らが肉体労働を行うための食べ物を売りに来る商人も増え、足りない労働力を補うために失職してる者達を雇うことも出来ます。他にも、色んな要素が絡み合い、リュティスはより良い街になります。 要は、イザベラ様とハインツ様、そして九大卿で立案した、大規模な行政案みたいなものなのですね、この反乱は。 そういった行政的な思惑や、様々な事柄が絡み合いつつ、大茶番劇(バーレスク)は開幕となったわけです。■■■ side:カステルモール ■■■ 「いいかお前ら! 俺たちの役目は民の安全を確保することだ! 間違っても名誉のためだとか武勲のためでもねえ! どんなに強大な敵の首を上げようが、どれほどの大軍を打ち破ろうが、民を犠牲にしたら何の意味もねえぞ! 俺たちは騎士だ、軍人じゃない。軍籍は持つが、それでも軍人じゃないんだ。戦うことが本分ではあるが、それは民を守るためだ! いいか! 一人の犠牲者も出すな!」 「「「「「「「「「「 おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!! 」」」」」」」」」」 アヒレス殿の号令が響き渡り、花壇騎士団の騎士たちはそれぞれ持ち場につく。 我等の任務は中央広場に集った民の安全を確保すること、そして、市街から避難してくる民を誘導し、混乱の抑制に務めることにある。 もし怪物が接近してきたら、迎え撃つことも任務ではあるが、その可能性はほとんどないだろう。 「しかし、我々はいつもこうですね」 大体専守防衛、まあ、騎士たるものそうあるべきではあるのだが。 「まあそうだよな、“聖軍”を倒すために集結した時も、俺らの役目はカルカソンヌ防衛軍の指揮と、民の混乱を抑えることだったな」 号令をかけ終えたアヒレス殿が答える。 「攻撃的な部分はアドルフとフェルディナンの担当だ。適材適所というやつか」 ゲルリッツ殿も似た感想のようだな。 中央広場に集った民衆にはそれほどの混乱は見られない、王軍や保安隊への信頼が大きいのだろう。それに、若者や壮年の男性は市民を避難させるために市街地へ出発した。当然、護民官や保安官と共にだが。 「俺たちは騎士だからな、民を守ることが第一だ。敵を殲滅するのは軍人に任せて、やることをやろう」 「そうですね、それに、他の方々にこれが出来るかどうか、不安が残ります」 「確かにな、特にアドルフなどにやらせても絶対に途中で突撃するな。これはもう決まりきったことか」 我々は自分達の役目を果たす。 そして、他の者達もそれぞれの役割をこなす。 これは茶番劇(バーレスク)なのだから、それも当然だな。■■■ side:アラン ■■■ 「アラン先輩! ダリハ地区、避難完了です!」 「ドミノ地区もOKです! クロードのやつはさらにアルコン地区に向かってます!」 それぞれから連絡が入ってくる。 俺達の役割はリュティス市街に残る市民達を中央広場に避難させると同時に、その障害となる化け物を駆除することにある。 特に避難はアルフォンス、クロード、エミールの3人が担当し、指揮は俺。そして。 「おらああああああああああああああああああああああああああああ!!」 「師団長に続けええええええええええええええええええええええええ!!」 「死ねこらああああああああああああああああああああああああああ!!」 まあ、残りの担当は言うまでもないか。 「アドルフ! 少しは範囲を考えろ! そこは燃やしていい建物ではないぞ!」 フェルディナンが怒鳴っているようだな。まあ、あいつがいれば少しは暴走も収まるか。 ちなみにこれらは“デンワ”ではなく“コードレス”で通信している。互いの部隊はそれほど離れていないので、これでも通信範囲内なのだ。 今回の“悪魔公反乱”という最終演目。盛大なる茶番劇(バーレスク)では奇蹟的に死者が出ないことになっている。 そのために、市民を避難させる順序、怪物が出現する場所、部下の配置をどうするかなどは『影の騎士団』と九大卿で散々話し合い、宰相やハインツ、それに“博識”の彼女も参加して、練りに練っている。そして、混乱した市民がどう行動するか、それを自然と操作するためにあちこちに道路工事の看板を立てたりなどなど、裏工作も北花壇騎士団の協力を得て行った。 そして、破壊して構わない建物、絶対に残すべき建物の選定も済んでおり、市街担当の者達は全員それを頭に叩き込んだ。 アドルフもこういうことを覚えさせれば、士官学校三席の真価を発揮するのだが、熱くなるとそんなことはお構いなしに暴走するから意味がない。 「まったく、後始末にあたる俺やエミールの苦労も少しは考えろ」 だがまあ、最後の祭りだ。少しくらいは大目に見てやるべきか。 今のリュティスはまさに巨大な舞台となっており、あちこちに劇を効率よく進めるための仕掛けが施されている。 「まさに茶番劇だな、しかし、最後なのだ。盛大にやろうではないか」■■■ side:マルコ ■■■ 「砕!!」 「飛燕刀! 6連!」 ヨアヒムの魔弾が次々に炸裂し、僕の刃が敵を切り裂いていく。 今回の北花壇騎士団フェンサーの役目は遊撃部隊。全員が散って、それぞれで戦っている。 市街地に残っている市民の多くは、実はファインダー、シーカー、メッセンジャーだったりする。 どこに避難すればいいか、どの道を通ればいいか、予め分かっている者達を大量に配置することで、大勢の人間が逃げる方向に向かうという民衆心理を利用しているわけだ。 これにより、千人程度の人員で、数万の誘導が可能になる。内側から誘導するというのも効果的な手段だ。 ま、完璧じゃないけど、残りは『影の騎士団』率いる軍隊や、三騎士団長の騎士団や保安隊に任せればいい。特にそれには数が必要だから。 それらに比べれば少数精鋭のフェンサーは、リュティスに散らばる怪物たちを狩りつくすのが役目となっている。特に、一番数が多い首なし騎士(デュラハン)の掃討が主な仕事になる。 こいつらは“ラグナロク”で殺した狂信者や、私腹を肥やしてた聖職者、そして封建貴族の死体を使ってハインツ様が急ピッチで作り上げた死体人形。 もっとも、2万人はカルカソンヌで串刺しにして、潰して、燃やしてしまったから使えなかったけど。 「はっはあ! 弱い! 弱いぜ糞があ!」 「元が元だ、仕方ないさ」 僕達はリュティスに点在する北花壇騎士団のアジトを繋ぐトンネルを使用し、神出鬼没に暴れまわっている。 ここは僕達の庭だ。たとえ目をつむっていてもどこに何があるのかなんてわかりきっている。 こと、リュティスの市街戦において、僕達以上に素早く動けるものは存在しない。 「だが、やっぱ背中を任せて戦うならお前だな、相性良すぎてびっくりするぜ」 「確かに、何も言わなくても相手が次に何をするか分かるってのは便利だね」 僕達の戦闘スタイルは異なるけど、根本的な戦術的思考がまったく同じ。 当然だ、二人ともハインツ様に習い、ハインツ様の影たらんとして、独自の技術を発展させたのだから。 「お、団体様が来やがったな」 「結構な数だ、数百はいるなあ」 首なし騎士の本隊とでもいうべき連中だろう。基本的にリュティス中に分散してるけど、塊は存在しているはずだ。 「こっからは飛ばすぜ、マルコ、お前も使うのか?」 「当然、“聖戦”の時は使わなかったからね」 僕の担当は寺院襲撃だったから、指揮するのが大半で、戦うことはほとんどなかった。 だから、全力での戦闘は久しぶりになる。 「よっしゃ、全開放!」 「“悪魔の腕”展開!」 僕達は“ヒュドラ”を使い、背中に背負った箱を展開する。 ヨアヒムの背中の箱には、大量の魔銃と魔弾が収納されている。 けど、僕は『錬金』で刃を作り上げ、“身体強化系”の“上半身強化”ルーンの力で投擲するスタイルだから、武器を格納する必要はない。 しかし、それだけでは魔銃を空中に展開し、連射するヨアヒムに連射性で劣る。二本の腕だけでは投げれる数に限界がある。 ならば、腕を増やせばいい。 “博識”のルイズが持つ銀の腕、“アーガトラム”のように、強力な腕を追加すればいいだけ。 だけど、失った腕の代わりはともかく、増やすのは脳に膨大な負担がかかる。 故に、“ヒュドラ”を使い、脳が暴走状態にあるこの時のみ展開できる奥義。当然、苦痛はとんでもないけど。 しかし、ハインツ様の影たる者、この程度の無茶が出来なくてどうする。 僕の背中の箱から8本の腕が飛び出す。ちなみに長さは左右対称で4組ごとに異なる。振りかぶるスペースは必要だから。 同時に、骨針が背中に食い込む、これは、完全に肉体と融合することで力を発揮する。 「おーおー、相変わらずとんでもねえ光景だな」 「そっちこそ、魔銃が大量に空中に浮かんで、発射と装填を繰り返すなんて、悪夢だよ」 僕達は互いに軽口を言い合う。 悪魔の“影”たる僕ら、なら、悪魔らしく戦おう。「喰らいやがれエエエエエ!!! トリガアアアア! ハッピイイイィィィィ!!!!」 「飛燕刀! 32連! “千手羅刹”!!」 魔弾の雨と、刃の雨が降り注ぐ。 さあ、最後の大茶番劇(バーレスク)。盛大に盛り上げよう!■■■ side:モンモランシー ■■■ 私、ギーシュ、マリコルヌの役目は“レスヴェルグ”の駆除。そのために既にマリコルヌが囮としてあいつらをおびき寄せている。 「そろそろ来る頃かしら?」 「多分ね、マリコルヌなら平気さ」 私達は罠を張って待ち受ける。この布陣はもう御馴染ね。 「しかし、僕達はいっつもこうだなあ、あの“レスヴェルグ”は人間とオーク鬼の混ざりものだろう? 因縁でもあるのかな?」 「さあね、私達は3人とも前世でオーク鬼に喰い殺されたんじゃないかしら?」 そうとしか考えられないくらい、オーク鬼退治ばっかりやってるわね。ま、ロマリアではサイクロプスも相手にしたけど。 けど、だからこそやりやすい。既にオーク鬼が好む匂いを発する薬品は散布してあるし、これが“レスヴェルグ”にも有効なのは確認済み。 「囮到着だよおー! 後はまっかせたー!」 逃げて来たマリコルヌにも余裕があるわね。まあ、ヨルムンガントやフェンリル相手に囮を散々やってきたわけだしね。 それに、今回の“レスヴェルグ”は飛び道具を持ってないし、鎧に“反射”もかかっていない。 移動力や攻撃力が少し高いオーク鬼と思えばいいわ。 「よし! 飛ぶんだ、“紅の豚”!」 「飛ばない豚はただの豚よ!」 「誰が豚だああああああああああああああああああああああああ!!!」 と叫びつつも『フライ』を使って飛翔するマリコルヌ。流石は「風」メイジね。 “レスヴェルグ”は体が大きく、しかもそんなのが大量にやってきたわけだから。 当然、床が抜けて落とし穴にはまる。そして、その中には油が充満してる。『錬金』でこれを作るのも慣れたものね。 「『着火』」 ギーシュがとどめを放り込む。 “レスヴェルグ”は一気に燃えて、哀れ焼き肉になりましたとさ。 「サイクロプスは意外とおいしかったけど、流石にこれは食べる気になれないわね」 「人間も混じってるからねえ、人喰いにはなりたくないなあ」 しかし、市街に思いっきり穴を開けちゃったわね。 「ここは大丈夫な地区よね?」 「そのはずだよ、ヴェルダンデが掘るときに確認したから」 ま、仮に問題あっても、後始末は私達の役割じゃないし。 「次にいきましょうか」 「そうだね」 「今度はお前達が囮役をやれよ」 私達は同時に答える。 「「 嫌 」」