トリステインの害虫駆除もあらかた終了。 見せしめに何人か処刑したから。その他の連中も少しはおとなしくなった。 そして、ガリアからイザーク・ド・バンスラード外務卿が訪れ、トリステインとの条約についての交渉に入った。 その条件の中に、“蒼翼勇者隊”や“水精霊騎士隊”をガリアに招くことが盛り込まれていた。 要は、ロマリアで活躍した人間全員なんだけど。第十五話 パイを投げろ! inトリスタニア■■■ side:シャルロット ■■■ 私達のトリステインにおける活動もいよいよ最終段階。 …………とはいっても、私とサイトはデートしてただけだけど。 でも、幸せだった。だからいい。 「さあ皆、いよいよ最終計画の実行に入るわよ」 我等が司令官、ルイズが全員を魔法学院に収集していた。 ルイズ、サイト、キュルケ、私、ギーシュ、マリコルヌ、モンモランシー、ティファニア、マチルダ、コルベール先生。そして、水精霊騎士隊の20人。 全員、ガリアから招かれた人員だ。 「その前に最後の確認。この作戦以降、私達はガリアに行くことになるわ。別に二度とトリステインに来れないわけじゃないし、逆に国際的な活動も多くなる。“ネフテス”が住むサハラや、“エンリス”が住むエイジャ、そして、東方(ロバ=アル=カリイエ)にも派遣されたりするかもね」 私達は国際的な集まりでもある。 トリステイン人が多いけど、ゲルマニアのキュルケ、ガリアの私、アルビオンのマチルダ、エルフの血を持つティファニア、そして、東方のサイト(そういうことになってる)。 実際、東方にある二ヴェン国は、サイトの国の文化に近いとかどうとか。 「まあ、これはいっつも言ってるけど、最後は自分で行くかどうか決めて頂戴」 だけど、聞くまでもなく、皆の答えは決まってる。 「私はそもそもトリステイン人ですらないしね、ガリアだろうが変わらないわ」 キュルケならそうだろう。 「どうせ僕等は家督を継ぐわけでもないからねえ。トリステインの法衣貴族になろうが、ガリアの公務員になろうが、大して違いはないよ。結局は自分で稼ぐしかないんだから」 確かギーシュは四男だった。 「だねえ、だったら、ガリアの方が面白そうだ」 マリコルヌは次男だったかな? 「私は秘薬を開発出来て、さらに販路が広げれればどこでもいいわ。ま、ガリアが最適でしょうけど」 既に独自の販路を持ってたはずだけど、まだ広げる気みたい。 「私は、技術開発局に興味がある。あそこなら、私の夢が叶えられそうだからね」 コルベール先生ならそうだろう。あそこには彼の求める「火」の平和的な利用法が数多くあるらしい。 「私もガリアに行ってみたい。“知恵持つ種族の大同盟”の方々と、色んな交流がしたいから。それに、あの子達もいるし」 彼女ならきっと、色んな種族と解り合えると思う。 「テファが行くなら私も行くよ。あの子達の世話も、いつまでもハインツだけに押し付けるわけにもいかないしね」 それはいいけど、彼女自身の結婚は大丈夫なんだろうか? 「私にとってはそもそも故郷だから」 ガリアは私の故郷。だから何の問題も無い。 「俺は、シャルロットと一緒なら、どこまでも行くぜ」 凄く嬉しいことを、サイトが言ってくれた。 「やれやれ、相変わらずお熱いねえ、お二人さんは。ま、俺達にはそんな彼女もいないし、新たな出会いを求めていざ新天地へ」 これはギムリ、豪気な彼はトリステイン貴族の女性とは、あまり相性がよくないみたい。 …………ルイズやモンモランシーは別に考えた方がいい。逆に、付き合えてるギーシュが凄い。 「だねえ、ここまで来て行かないのは嘘だろう。どうせなら色んなところに行ってみたい」 レイナールも基本的に探究者タイプだから、興味があるみたい。 この二人の共通点は、フェンリルに冗談抜きで殺されかけたこと。ハインツがいなければ死んでいた。 …………もの凄い共通点。 そして、他の皆の意見も同じだった。 結局、この面子が生きるには、トリステインだけじゃ狭すぎるみたい。 きっと、ガリアでも足りない。どこまでも探検していきそう。 「そう、じゃあ全員了承ね。それじゃあ、最終計画の細かい打ち合わせに入るわよ」 ルイズがガリアに行く理由はたくさんあって、語るまでもないみたい。 「明後日、アルビオンのウェールズ王がトリスタニアを訪問するわ。これはお忍びじゃあないけど、私的訪問の色合いが強い。だから、大規模な歓迎式典とかはないわ」 トリスタニアでは、彼が来るということは誰でも知ってる。 「だけど、そこでとんでもない発表がされるわ」 それを知ってるのは一握り、王政府に仕える大臣ですら知らされていない者もいる。 つまり、そういう連中の未来は決まってる。すなわち左遷。 「姫様のご懐妊と、トリステイン、アルビオン連合王国を立ち上げるために、近いうちにラグドリアン湖で調印式が行われるという発表よ」 「「「「「「「「「「 おおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!? 」」」」」」」」」」 水精霊騎士隊の隊員は、これまで知らされてなかった。 「当然、姫様の相手はウェールズ王、アルビオン戦役後の諸国会議の際にヤッたらしくて、その時に出来たみたいね」 もうちょっとましな表現はないんだろうか。 「あれがハガルの月(2月)の半ばくらいだったから、もうかれこれ半年近く、そろそろ隠すのも限界よね。降臨祭の頃には、めでたく第一子誕生よ」 「「「「「「「「「「 うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!! 」」」」」」」」」」 今度は歓声、基本的に皆お祭り好きだから。 「だから、私達で盛大に祝うわ。トリスタニア市民全員を巻き込んで、大宴会を展開する」 「「「「「「「「「「 おっしゃあああああああああああああああああああああああああああ!! 」」」」」」」」」」 凄いノリ、よく見るとサイトも加わってるし。 「さらに、私達がトリステインの厄病神だとか考える馬鹿に鉄鎚を下すわ。私達の家族は心情的にはガリアに私達をやりたくないはず、けど、国家の為を考えればそれが最善。とはいえ、厄病神のように追い出されるのは流石に了承できないでしょう。かなり深刻な対立に発展しかねない」 確かに、害虫の半分くらいは排除したけど、まだまだ多い。 「だから、私達の手でそういう連中をぶっ飛ばして、その上でガリアに行きましょう。最早亡命に近いけど、王政府に喧嘩売るわけじゃないから問題なし。仮にあっても意味ないし、一たびガリアに入ってしまえば文句は言えなくなるわ。それなら、私達の家族も納得出来るでしょう」 あくまで、私達の意思でガリアに向かったことになる。 確かに、反逆者の亡命に近い。 「トリステイン最後の祭りよ、盛大にやろうじゃない」 「「「「「「「「「「 まっかせろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!! 」」」」」」」」」」 そして、作戦は実行される。■■■ side:モンモランシー ■■■ 本日の正午、昨日のうちに到着していたウェールズ王がマザリーニ枢機卿と共にトリスタニアに現れ、大発表を行った。 その発表には女王陛下は参加しなかった、身重の体だからね。 そして、彼らが王宮に引き返し、トリスタニアが予想外の朗報によって沸き立ってる今こそが、作戦決行の時。 作戦名、“大暴走”。 要は、ハインツがロマリアでやらかした“アレ”の再現ね。 水精霊騎士隊の連中は、あの時参加できなかったことを悔しがってたから、丁度いいわ。 そして、私の役目は当然、“ハインツ”の再現。 流石にあそこまでは無理だけど、平民が貴族にパイをぶん投げて、ワインをぶっかけるくらいは出来る。 トリステインは農業生産が豊かだし、あらかじめ軍需物資集積場から、兵士の慰安用のワインを大量に頂き、ついでに食糧も頂いてきた。 その辺は当然ギーシュ、マリコルヌ、マチルダが担当。 トンネル掘りの技能を最大限に生かした結果ね。そのためにあいつらは活動を続けてきた。 もうあいつらは立派な大盗賊だわ。 そして、『影の騎士団』にならって、水精霊騎士隊で大量のパイを作り上げ、それにはタバサとキュルケも協力した。 コルベール先生は脱出用の『オストラント』号を準備。 テファはパイの味付け、どうせだから、おいしくしようということになったのよね。 そして、ガンダールヴの能力を最大限に発揮し、サイトが走りまわってパイをあちこちに配る。 ルイズも『瞬間移動(テレポート)』で配りつつ、『幻影』を都市全体に展開。 “騒ぎまくる市民”を大量に作り出し、民衆の騒ぎを助長する。 そして、トリスタニアは大混乱に包まれた。 やや抑え気味ではあるものの、“血と肉の饗宴”はここに再現されたわけね。■■■ side:ギーシュ ■■■ 「はっはあ! 投げろ投げろお!」 僕達は現在王宮に乱入、そこら辺にいる貴族に手当たり次第パイを投げる。 本来食い止めるべき銃士隊や、マンティコア隊も実はグル。 ルイズの指示によって、彼らも暴発してる。 ま、彼らも日頃から糞貴族へのストレスは溜まってたということだね。 衛士達も次々に反乱勢に加わっている。 しかし、僕の望みはそんなところにはない! 「何としても! 女王陛下に一番にお祝いを申し上げるのだ!」 そして、僕は限界以上の力を発揮し、駆け抜ける。 思い出せ! フェンリルと戦った時のあの感覚を! あの時の力を今ここに! 「はあああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」■■■ side:マルコルヌ ■■■ 「うおおおおお!! どけえええええええええ!!」 なんかうざい貴族をとりあえず吹き飛ばす。 僅かにギーシュに先を行かれている。なんとしても追い抜かねば。 他の連中はまだ入り口付近。ギムリとレイナールは結構進んでいるみたいだが、まだまだ。 「僕は“風上”のマリコルヌ! 負けてなるものか!」 女王陛下の下へ! 何としても、一番にお祝いを申し上げるのだ! あの時の感覚を思い出せ! フェンリルの巨大鉄塊を吹き飛ばしたあの感覚を! 僕なら出来る! 僕なら出来る! 「飛ばせ飛ばせ飛ばせええええええええええええええええええ!!」■■■ side:才人 ■■■ 「シャルロット、そっちはどうだ?」 「あらかた吹っ飛ばした」 俺達は宮廷貴族を殲滅中。 といっても、ワインをぶっかけて、パイを喰らわせて、ついでにふっとばすだけだけど。 これはルイズも同じ役を担ってる。水精霊騎士隊の連中や、ギーシュ、マリコルヌに言ったところでお構いなしに暴走するのは目に見えてたからな。 「ま、暴走してるのは俺達も同じか」 「私達も行こう」 大体片付けたからな。 「そうだな、俺達も女王様の下へ、お祝いを言いに行くか!」 「ええ!」 そして、俺達も駆け抜ける! 速度で俺達に勝てると思うな!■■■ side:コルベール ■■■ 「やれやれ、若者のパワーは凄い」 「まあ、確かにねえ」 私とミス・マチルダで『オストラント』号の発進準備中。 ちなみに、ミス・ティファニアと混ざるので、ミス・サウスゴータとは呼んでいない。 「どこまでも暴走しそうだね、ハインツの影響を受けたのかねえ」 「いえ、これは彼らの本質だと思いますよ、基本的に騒ぐのが好き何でしょう」 まあ、これからに時代を担うのならば、それくらい活気があったほうが良さそうではある。 「ところで、パイは焼き終えたそうですが、ミス・ティファニアはどうしているんです?」 水精霊騎士隊の諸君は、思いっきり王宮に突撃したそうだが。 「あの子なら、厨房で料理してるよ。この作戦が終わったら、全員欠食児童になってるだろうからね」 確かに、パイは全部投げるから腹は満たされない。 「しかし、平民が貴族にパイを投げるとは、凄いものですなあ」 「本来だったら処刑だね、でも、それをするための貴族も“ハインツ”の影響で騒ぎに加わってる。どうしようもないねありゃ」 それが“ハインツ”の凄いところだ。 止めに入る者もワインを浴びれば騒動に加わってしまう。 魔法で鎮圧しようにも、パイとワインが相手では、そんな気も失せてしまうだろう。 「まったく、彼はよく考える」 ハインツ君は本当に自由な発想をする。だからこそ、彼らの先駆者たりえるのだろうが。 「ガリアに着いたら、私も先住種族の方々と協力し、様々な技術を編み出したいものだ。「火」も、もっと平和的に様々な活用が出来るはず」 公衆浴場だけに限らず、温めることに関して、色んな応用が利くはずだ。 新しい時代が、すぐそこまで来ている。■■■ side:マザリーニ ■■■ トリスタニアの街のみではなく、王宮も最早、大宴会場と化していた。 「よかったですな陛下、貴女のご懐妊を皆が祝ってくれています」 「というよりも、私をだしに騒ぎまくっているだけのような気もするのですが」 まあ、そうだろう。 陛下は妊娠したことで、最近は机仕事以外は行っていない。 第一子誕生は、国家の最優先事項であるからだ。御身体を大切にせねば。 まあ、外国の脅威があるわけでもなし、陛下が出かける必要もないのだが。 それに。 「でもまあ、僕達の婚約を祝ってくれているんだ。ここは素直に喜ぼう」 これからは、ウェールズ王がそれを行うこととなる。 「左様でございましょう、さて、誰が最初にたどり着くやら」 “蒼翼勇者隊”と“水精霊騎士隊”は現在ここ目指して進撃中。 誰が最初に陛下にお祝いを申し上げるかで、競争しているようだが。 「うーん、僕としては、“イーヴァルディの勇者”殿かと思うんだが。ボアローやホーキンスが彼を絶賛しているからね」 彼は7万に突っ込み、5万を突破したという話だったか。 その際、彼に深手を与えたのがボアロー将軍、止めを刺したのがホーキンス将軍。 流石の勇者も、有能なる指揮官が相手では分が悪かったようだ。 「私は、ルイズに賭けましょうか。あの子は今や、トリステイン最強の戦士ですから」 とんでもないことだが、事実でもある。 何でもあの“烈風”カリン殿にも勝ったらしい。最早、トリステインで彼女に勝てる者はおるまい。 しかし、彼女の本領は“博識”。その智謀にこそある。 故に、トリステインに巣食う害虫の排除に貢献してくれたのだ。 そうしてしばらく待っていると、廊下を走ってくる音がした。 どうやら、一人目が到着した模様。 「一番乗りイイイイイイイイイイ!!」 そう叫びながら飛び込んで来たのは、ギーシュ・ド・グラモン。 予想外の伏兵だったな。 「女王陛下! ウェールズ王! ご結婚! おめでとうございます!!」 まだ婚約なのだが、まあ、大差はないだろう。 「そして陛下! ご懐妊、おめでとうございます! トリステイン国民として、これ以上の喜びは、モンモランシーに愛を囁かれた時くらいしかありません!!」 そこに自分の彼女を挟むとは、大物だな。 「ええ、ありがとうございます。ギーシュさん」 あくまで、陛下は個人として礼を言っているのだな。 本日は無礼講、そして彼らはガリアに行く、なればこそか。 「ああ、陛下に名前を覚えてもらえるとは! 何という幸福! これに勝る幸福は、モンモランシーとヤッてるときくらいしかありません!」 それを陛下の前で言い切る貴殿が凄まじいな。 せめて、キスしている時くらいの表現にしておけないのだろうか。 「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」 と、そこに窓から二番手が飛び込んできた。マリコルヌ・ド・グランドプレ、これまた予想外の人物だ。 「女王陛下あ! ご結婚! おめでとうございます! ウェールズ王とお幸せに!」 「はい、ありがとうございます!」 笑顔で答える陛下、本当に嬉しいのだろう。 「ウェールズう! 陛下を不幸にしやがったら承知しねえぞこらああ!!」 うむ、完全な不敬罪だ。 「ああ、この身にかけて、アンリエッタを幸せにしよう」 ウェールズ王も誇らしげだ。 「ウェールズ様………」 顔を赤くする陛下。 そこに。 「きゅいきゅいきゅーい!」 「それいけシルフィードお!」 「『エア・シールド』!!」 天井のステンドグラスを破って三番手が到着。どんどん登場が派手になるな。 しかも、扉、窓、天井と、全員違う場所からだ。 飛び散った破片で怪我をしないよう、『エア・シールド』も同時に張っている。素晴らしい連携だ。 「あ! 女王様! ウェールズ王子!」 「今は王だよ、サイト君。いや、“イーヴァルディの勇者”殿」 ウェールズ王は親しげに話しかける。 「女王陛下、ご結婚、おめでとうございます」 「ありがとうございます。シャルロット殿」 こちらも意外と仲がよさそうだ。相性がいいのかもな。 「女王様と、お幸せに」 「ああ、君も彼女とな」 「同じ姫でも、私が一足先ですわね。“蒼き風の姫君”」 「すぐに追いつく、待ってて」 うむ、なんかこう、友人同士のカップルという感じだな。いっそ、同時に結婚式を挙げるのもいいかもしれん。 さらにそこへ。 「あんたら、早いわねえ」 『瞬間移動(テレポート)』を用いて、“博識”殿が現れた。 「ルイズ!」 「姫様。幼馴染として、お祝いに駆けつけました。ウェールズ王とお幸せに」 この二人は親友なのだな、いつまでも。 「はい、幸せになりますわ」 「ついでに、トリステインの民も一緒に幸せにして下さい」 そこで王の責務も取り上げるか。 「貴女らしい言葉ね」 「そりゃあもう、王たるもの、自分の幸せを求めて民をないがしろにするようじゃあ、論外ですから」 それを気楽に言える友人というのも、珍しい存在だな。 「頑張るわ」 「こっちも、出来る限り尽力します。トリステイン国内にいることだけが、国に尽くすことでもないので」 確かに、ガリアの中枢にトリステイン人が食い込むことも、生き残り戦略の一つなのだから。 「凄い会話だねえ」 「ルイズらしいけど」 「幼馴染へのお祝いとしてはどうなんだろうな」 「まあ、アンリエッタは嬉しそうだよ」 「親友」 こっちも色々な感想があるようだ。 そしてその後、どしどしと残りが詰めかけてきた。 「それでは姫様、私達はガリアに向かいます」 皆を代表して“博識”殿が言う。 「ええ、お気をつけて」 「近いうちにまた会えるだろう」 ふむ、今の国際情勢ならば、そうなる可能性は高いな。 「枢機卿、トリステイン国内の貴族の掌握はお願いします」 「任された。貴女とその仲間で作り上げた組織、有効活用させていただく」 “水底の魔性”は有力な手駒となる。 「ええ、後は頼みます」 そして、彼女等は『フライ』で、やってきた『オストラント』号へと乗り込んでいく。 “イーヴァルディの勇者”殿は足で跳んだが。 「「「「「「「「「「 女王陛下ああ!! 困ったことがあれば! いつでもご連絡を! 僕達! 地の果てからでも駆けつけまーーす!! 」」」」」」」」」」 「皆さん! お元気で!」 「皆! ありがとう!」 そして、彼らは去って行った。まさに新時代の風の如く。 「しかし、行動力の塊のような者達ですな」 彼らが去った後、私はウェールズ王に話しかける。 「そうだね、王という立場がなければ、僕も彼らと共に冒険してみたかったな」 「ですが、それはお諦めを、貴方はこれより、このトリステインをも背負われるのですから」 「やれやれ、パリーが二人に増えた気分だな」 パリー卿か、彼とは気が合いそうな予感がするな。 「私も手伝いますわ、ウェールズ様、二人で国を支えていきましょう」 ウェールズ王と、アンリエッタ王妃。 このお二人こそが、“ラグドリアン王国”の柱。 そして、今、陛下に宿っている命が、その次の世代を担っていく。 その時には私はいないだろうが、せめて、その道標を作れるよう、全霊をかけて国家に尽くそう。 それが、先王陛下よりこの国を任された、私の誓いだ。 ちなみに、余談ではあるが、この日の大騒動は記念日となり、平民も貴族も無礼講で騒ぐ祭日となる。 太陽のように明るく朗らか笑う祭り、“太陽祭”と呼ばれるようになる。 この日だけは、どんなことをしようとも不敬罪にならないため、平民にとってはよいストレス解消となろう。 “太陽祭”は新しい国家ラグドリアンの象徴的な祭りの一つとなるのであった。■■■ side:ルイズ ■■■ 「皆! やり残したこと、置き忘れたものはないわね!」 私は、まだ騒いでる皆に確認する。 「ないよー!」 「ばっちり!」 「ふられてきたぜ!」 「彼女が欲しい!」 「サイトとギーシュが憎い!」 うん、やり残しはなさそうね。 「よし! では皆の者! 準備はいいな!」 「「「「「「「「「「 いつでも! 」」」」」」」」」」 「「「「「「「「「「 どこでも! 」」」」」」」」」」 さあ、いざゆかん! 「それじゃあ! 出発よ!」 そして、『オストラント』号はガリア目指して出発した。 ガリア領内に入ると、馴染みの竜騎士隊が現れた。 「タバサ、一応『遠見』で確認して」 「了解」 多分、彼らだと思うけど。 「間違いない、カステルモールの東薔薇花壇騎士団」 やっぱりね。 「出迎えに彼らを寄こしてくれるなんて、粋なはからいね」 「あ、カステルモールさんだ」 サイトもガンダールヴの力を目に集中させたわね。 消耗するから長時間の使用には向かないそうだけど。 流石に風竜は速い、すぐに『オストラント』号と接触した。 「トリステインの方々、お迎えにあがりました。私は東薔薇花壇騎士団長のバッソ・カステルモールといいます」 「久しぶりね、カステルモール」 アーハンブラ城を脱出した時以来かしら。 「おお、これは“博識”殿、再会出来て光栄です」 彼もまだ若いのよね。確か、23歳くらいだったかしら。 マチルダとくっつけるのも、ありかもね。 「カステルモールさん、お久しぶりです」 「元気だった?」 「サイト殿に、シャルロット様。お変わりないようで」 この二人とは特に親しかったわね。 「さて、これよりは我等が案内いたします。旅程はハインツ殿が組んだそうですので、退屈はしないかと」 やっぱりあいつの差し金ね。 そして、私達は国境の街、アンボワーズで降り、彼らの案内を受けつつ、リュティスへ向かった。 リュティスに着くまでに、世界の色んな変化が実感できた。 まず、貴族がいない。 封建貴族が全滅した今、司法特権をもつ者がいない。全ての国民が王政府の法のみに従うことになる。 これまでは自領ではなにをやっても許されるようなものだったけど(北花壇騎士団の粛清がなければ)、建前ですらもそれが不可能になった。 だから、貴族=国家に仕える者、でしかなくなっている。しかも、貴族=メイジは既に成立していない。 多くの平民が登用され、新聞の発行も始まったとか。 これは、人や鳥を用いて、色んな場所に情報を書いた紙を配る制度で(有料)、“他者感応系”のルーンマスターが多くこれに従事してるとか。 こういうのはメイジの魔法よりも、ルーンの方が向いている。つまり、役割に応じて、メイジとルーンマスターがそれぞれの領分で活躍している。 サイト曰く。 『ほんとに、地球とは違う方向を目指してんだな。どの方法もほとんど自然とか、生物の力を利用してる。すげえクリーンだ』 らしい。 向こうの世界はどうなのかと聞いてみると。 『効率は、こっちよりも圧倒的にいいよ。世界の反対側にすぐに情報が届くくらいだからな。けど、なんかこう、不自然なくらいに発達してて、いつか自滅しそうなんだよな』 過ぎたるは及ばざるがごとし、ってやつかしらね。 それに、護民官や、保安隊にも“魔銃”の配布が始まったみたい。 まだ“魔弾”の量産体制が全然なってないから、銃はあっても弾がないんだけど、脅しにはちょうどいいみたいね。 政治や机仕事は、ルーン族(平民)にも出来るんだから、魔法族(貴族)はそういった産業を支える技術者になっていってるみたいね。魔弾の生産はメイジにしか出来ないし。 混血だったらどっちの分野に進むかで、逆に選択の幅が広がる。 発揮できる力には限界があるけど、戦争じゃないんだから、それほど強大な力は必要ない。 要は、半分半分の血で、“他者感応系”のルーンを半分しか発揮できなくても、鳥と連絡をとりあって、新聞を配達することは出来るわけね。(この場合、人間の指示によって、鳥があちこちに配る) 他にも、色んなところでそういったことが、試験的に始まってるみたい。 私達がリュティスに至るまでに巡ってきたところは、そういった新しい試みの、最前線といえる場所だった。 “身体強化系”は力仕事に向いてる。猟師、漁師、樵なんかには最適ね。他にも、荷物運びとか色々あるけど。案外力を使うから、料理人やメイドとかも向いてるのよね。 “他者感応系”は動物との連携、つまり、畜産や酪農に向いてる。もっとも、食肉加工には死ぬほど向いてないけど。だから、その辺は別の人間の役目で、彼らは動物が病気になったりとか、そういうことを察知する方に力を使う。馬や幻獣の世話をやらせるのが一番かしら。 “解析操作系”は道具を扱うのが得意だから、製造、建築、さらには製本とか、そういう作業に向いてるわね。服とかを作る職人にもいいかもね。 そして「火」の使い手は、とにかく工業部門で力を発揮する。燃料の割合とかを感覚的に理解できて、調合表が必要ない彼らの効率は他と比較にならない。目で見て正確な温度もわかるしね。 「水」は当然医療分野、薬師、医者、その辺は水メイジなしには回らない。医療を支える重要な役割ね。 「風」は運送全般を担当してる。特に、航空関係には彼らの力が不可欠。動物はルーンマスターの方が得意でも、船を操作するにはやはり「風」メイジの力が最適、『フライ』や『レビテーション』も得意だし。 「土」は鉱業関係に多いし、材料関係にも多い。石、鉄、青銅など、作るのには「火」が必要だけど、仕上げは彼らの役割だから。建設関係でも、“解析操作系”と協力してるみたいね。 これらはほんの一握り、サルドゥー職務卿が色んな活用法を実現させ、その人材育成に、ボートリュー学務卿が全力で取り組んでいるという。 世界は、新しいものに変わりつつある。 そして、リュティスに着いた私達は、その象徴といえる建物に向かった。 技術開発局。 私が目指すものはここにあり、同時に、世界を繋ぐ架け橋でもある。 「よーうお前ら! 久しぶりだなあ! 来るのを待ってたぞお!」 底抜けに明るい声で、ハインツが出迎えた。 「ハインツさん!」 サイトが笑顔で近寄ってく。 「ふふ、こうして会える日がくるなんてね」 技術開発局局長、シェフィールドもいた。 「そうね、最初に会った頃は、思いもしなかったわ」 完全に敵同士だったからね。 そして、いるのはそれだけじゃない。 「こうして、友人として会えることを嬉しく思う。この出会いを、大いなる意思に感謝する」 ビダーシャルもいた。そして、各種族の代表の人達もいる。 「うわー、凄い面子だなあ」 「翼人、リザードマン、コボルト、水中人、レプラコーン、土小人、ホビット、ジャイアント、ライカン、妖精、ケンタウルス、そしてエルフかあ」 ギーシュとマリコルヌも感心してるわね。 「それだけじゃないわよ、吸血鬼までいるんだから」 すると、小さな女の子が現れた。 「エルザ」 タバサとは顔見知りみたいね。 「まったく、あんたの兄貴をどうにかしてよ。かよわい少女を一晩中こき使うのは、どうかと思うんだけど」 「貴女は吸血鬼」 「うん、そうなんだけどね、最近その自信が無くなってきたわ。やっぱ、一番怖いのは人間だわ」 吸血鬼なのに随分くだけてるわね。 「テファ、久しぶり」 「アイーシャさん!」 翼人のきれいな人がテファに呼びかける。 「やあマチルダ、久しぶりだね」 「あんたも元気そうだね、ガラ」 こっちも顔馴染みの模様。 「あ、マリード、この前の秘薬、出来たかしら?」 「おお、モンモランシーか、せっかちじゃのう。まだ後1週間はかかるぞい」 「もうちょっと急ぎなさいよ」 「老人に無理を言うでないわ」 こっちにも顔馴染みがいたわね。水中人代表のマリードは800歳の長老。 “水底の魔性”で扱ってる秘薬を提供してくれたのも、実は彼。 「やっほー♪ キュルケ、元気だったかい?」 「あらシーリア、新しい男の味はどう?」 「うーん、まあまあかね。性欲は高いけど、もうちょっとこう、品が必要だよ」 「あの店じゃあ限界があるでしょう、今度、別の店にいってみましょうか」 「賛成、こればっかは、ハインツは全くあてになんないからねえ」 「そうねえ」 こいつらがどこで出会ったのかは、考えない方が良さそうね。多分、タバサ救出の際でしょうけど。 ま、そんな感じで皆和気あいあい、色んなことをしゃべっていると。 「シャルロット!」 また、一人の人物が現れた。 「イザベラ姉様!」 タバサを抱きしめるイザベラ、この二人を揃ってみるのは初めてね。 確かに、姉妹だわ。こうして見ると、それがよくわかる。 「お帰りなさい」 「ただいまです」 あの子にとっては、家族がいる場所が、帰る場所なのね。 「彼氏が出来たんでしょ?」 「………はい♥」 頬を赤くしながら頷くタバサ、うーんラブリー。 「サイト、だったわよね?」 「あ、ああ」 少し緊張気味のサイト。 「シャルロットの姉のイザベラよ。この子を守ってくれて、ありがとう」 「あ、いえいえ」 こういう時に気の利いたことが言えないのが、サイトなのよね。 「ちなみに、浮気したら殺すわよ♪」 素晴らしい笑顔、そして究極の殺意。相反するはずの二つが、完全に融合していた。 「は、はい! それはもう!」 直立不動で答えるサイト、ま、するわけもないけど。 「相変わらずの姉馬鹿だな」 「あんたも同類よ、兄馬鹿」 話しかけてきたハインツに切り返す。 「ま、それはともかく、丁度いいタイミングだったぞお前ら。いよいよ、舞台劇の最終演目が始まるんだ」 「例の、大集会だったかしら?」 ガリアでは今、多くの民がリュティスに集まってる。 これは強制じゃなくて、即位記念式典みたいに、来たい者は来い。っていうものだけど。 戦の終結を祝うと共に、ガリア王から国民全体に重大発表があるとか。 「ああ、1か月くらい前から既に各地に告知はしてたからな、続々と集まって来てる」 一月前ということは、告知した時は、ロマリアとの戦争の終わりを祝う予定だったわけね。 今回は、ゲルマニアとの友好条約を結べたことのお祝いも兼ねてるとか。 「ここに来るまでにも、そういった人達がたくさんいたわね」 結構な数だったわ。 「ああ、“聖軍”を打ち破る義勇軍に参加した者には報酬が与えられたからな、それをパーっと使って来るのが多いみたいだ。今のガリアなら生活にゆとりがあるのが多いからな」 「なるほど、それほど無理しなくてもリュティスに来れるわけね」 それに、治安がいい、駅馬車が安い。大都市と大都市を繋ぐ、空の定期便も出てる。 本当に、新しい国になってるわね。 「そういうことだ。いよいよ最後の茶番劇(バーレスク)が始まる。当然、ここにいる皆はその参加者だ」 「主催は、あんたとガリア王ね」 それしか考えられないし。 「ああ、ちょっくら危険もあるから、その辺の覚悟も済ませておいてくれ」 「もうちょっと抑えなさいあんたらは」 どこまで派手にやる気だか。 「まあ、そこは6000年に一度祭りだ、大目に見てくれ。お前達は死者が出ないように、あらゆるバックアップを頼む。当然、『影の騎士団』率いる王軍や、三騎士団長が率いる花壇騎士団や保安隊も総動員。全員揃っての壮大な最終幕だ」 「ま、最後だし、それもいいかもね」 そして、役者はリュティスに勢ぞろい。 いよいよ、ハルケギニアの舞台劇も、終幕が降りる時がきた。