ガリア義勇軍60万によってロマリアの“聖軍”は全滅し、ガリアから侵略者は一掃された。 その死体は“悪魔公”の命令によって串刺しにされ、血の丘が出来上がった。 2万人に及ぶ串刺し死体が延々と続く丘は腐臭を放ち始め、まさに地獄と化していた。 だが、“悪魔公”の惨劇はそこで終わらず、更なる地獄が作り出された。第九話 悪魔公 地獄の具現者■■■ side: アラン ■■■ 『ガリア全土より集まった義勇軍、王家への忠誠篤き王政府軍、カルカソンヌ市民、そしてガリアへの忠誠を示した諸侯軍に告げる。これより数時間後に陛下が到着なされる。総員で持って出迎えるため、皆、串刺しの丘へ集うべし』 ハインツからとんでもない命令が飛んだ。 あの血と臓物の腐臭に満ちた、串刺しの丘に100万もの人間を集めるというのだ。 何でも、腐敗を早めるための薬も撒いたらしく、すでに串刺しの丘は正視できない地獄と化している。 『カルカソンヌ市民のうち、病人の介護などを行う者、怪我人、赤子の世話をするもの。そのような動けない理由がある者は参列せずともよい。しかし、王政府軍、義勇軍、諸侯軍は全て参加せよ。逆らう者は王家への反逆者と見なす』 実に上手いな、その口上はロマリアの狂信者達と同じものだ。 “我等に逆らう者は異端とみなす” それが奴らだった。悪魔公の下では、それが“王家”に変わるだけで、本質的には変わらないということだ。 今の民衆ならばそれに気付ける者も多いはず、布石は確実に打たれている。 そして、90万近い人々が“串刺しの丘”へと集った。 そこはまさに地獄、自分達が何を行ったかを見せるものでもあり、このまま狂気が進んでいれば、ロマリアで何が起こったのかを簡単に理解できるものでもある。 だが、何よりも恐ろしいのはそれを平然と指示した“悪魔公”。 軍人ですら直視できない地獄だ。元々一般人だった義勇軍や、カルカソンヌ市民にはきついどころではない。トラウマになるものもいそうだ。 『さて、よくぞ集った。これから陛下をお出迎えするわけだが、陛下がご到着なさるというのに、このようなゴミが散乱したままでは不敬というもの。そこで、掃除をすることとした。同時にちょっとした余興も兼ねている。これまで諸君らはよく働いてくれたからな、まあ、娯楽の一環だと思ってくれ』 これを“娯楽”と言い切るか。 そして、“掃除”が始まった。 ヨルムンガントが30体現れた。これらへの「風石」の補給はアルフォンスとクロードが運んできた物資から昨日済ませたらしいが。 そして、その一つにハインツが乗り、ヨルムンガント達は、串刺し死体を踏みつぶし始めた。 それは、人が蟻を踏み潰す光景に似ていた。 いや、大きさ的にはもう少し大きいか、害虫と言った方がいいかもしれん。 “悪魔公”は、駆除した害虫の死体を踏み潰しているというわけだ。 臓物がブチまかれ、骨が砕かれ、脳漿が飛び散る。 腐臭はさらに増し、あたりを包んでいく。 周囲を見渡すと、失神した者も多いな。まあ、全て悪い夢だったと思って忘れた方が良いとは思うが。 1万のガーゴイルも現れ、ヨルムンガントが踏み潰した死体や杭を1箇所に集めていく。 腐肉と骨と、臓物と血を材料とした。大きな山が築かれていく。 『はは、ははは、あはははははははははははははは』 “悪魔公”の笑い声と、人間が潰される音だけが、惨劇の丘に響き渡る。 『あはは、あはははは、あははははははははは』 その笑い声は、とても無邪気なものだった。 憎しみなどは一切なく、嘲笑ですらなかった。 ただ楽しいから笑う。純粋な笑い声。“娯楽”を楽しんでいるだけの。 子供は時に残酷だ。 虫の死骸を集めて、踏み潰したりもする。 この笑い声はまさにそれと同じ。自分と同じ人間を殺しているのではなく、下等な生き物をちょっとした楽しみとして潰しているだけ。 これが出来るのは、この世にハインツくらいだろう。 ハインツは、子供達と無邪気に遊び回っている時の顔と、人間をバラバラにする時の笑顔が同じという、先天的な異常者だ。 壮絶な過去や、憎しみ、復讐といったものでは、これは不可能だ。無邪気に笑うことは出来ない。 そして、それ故になによりもおぞましい。 恐怖劇(グランギニョル)とは、よく言ったものだ。 そして、しばらくの時間が過ぎた。 長かったような気もするが、短かったような気もする。 だが、全ての串刺し死体は残さず踏み潰され、その肉片と杭は1箇所に集められ、巨大な山を築いている。 血の丘に君臨する死骸で出来た山。まさに地獄の光景だ。 『さて、掃除は大体完了した。最後に、ゴミをまとめて焼かねばならんなあ』 そして、空から一体のガーゴイルが降りてくる。 それは何かをハインツに手渡した。 「土」メイジの俺は『遠見』を使えないので、それが何かは確認できない。 「クロード、あれは何だ?」 故に、傍らにいたクロードに尋ねる。 「短剣ですね、柄の部分に赤い宝石が埋め込まれています。およそ、直径1サントほどの」 間違いなく、例の「火石」だな。 『皆の者、一旦ここから離れよ。ゴミの山から半径500メイル以内にいるものはこの“レーヴァテイン”によって悉く焼き尽くされよう』 その言葉に従い、観客は離れていく。失神した者は担がれていく。 というより、この丘から逃げたいというのが本音だろう。 そして、血と腐肉の山から皆が離れ、“悪魔公”が空から“レーヴァテイン”とやらを死骸の山目がけて投下する。 火焔地獄が出現した。 「凄まじい威力だな」 「ええ、たった1サントの「火石」で直径1リーグを灰に出来るそうですが、本当にそのままですね」 大火球は死骸の山のみならず、血の丘も全て焼き尽くす。 炎が全てを包み込み、血も腐臭も何もかもを無に帰していく。 そして、炎が消えた時、そこには何も残っていなかった。 2万人の人間の死体は、一瞬でこの世から消え去ったのだった。 そして、そこに大艦隊が現れる。 サン・マロンで寝返っていた両用艦隊は“聖軍”の全滅の報を受けて全て降伏。 総旗艦『シャルル・オルレアン』号に陛下を乗せて。120隻の大艦隊が到着した。 極大の炎によって、地上の地獄は消え去り、そこに空の大艦隊が現れる。 演出としては最高の出来なのだろうな。 炎によって浄化された丘にジョゼフ陛下が竜に乗って降り立ち。その傍らには宰相にして第一王女であるイザベラ殿下もいる。 それを、臣下の礼をとったハインツ・ギュスター・ヴァランスが出迎えた。 そして、3人の王族によって、“聖敵”の全滅と、ガリアの勝利が宣言された。■■■ side: ハインツ ■■■ さて、惨劇は終了したが、まだまだやることはある。 俺、陛下、イザベラの3人はカルカソンヌの行政府のある部屋にいた。 「とりあえず、山場の一つは終わりましたね、陛下」 「ああ、御苦労だった」 「あんたはやり過ぎよ、カルカソンヌの市民は蒼白になってたわよ」 まあ、そこは仕方ない。 「大丈夫、水中人の人達なら心の傷に良く効く薬を知ってるから」 「そう言う問題じゃないでしょ」 「まあ、後始末はお前が全部やれ」 陛下は相変わらず全部押しつける気のようだ。 「ですがまあ、この3人が揃うことってあるようでないですよね」 「言われてみればそうだな。お前を介してしか、俺とイザベラの間で言葉が交わされることは滅多にない」 「家族としては問題ありね」 「王族とはそういうものだ」 「ま、それもあと少しで終わりですけど」 ラグナロクもそろそろ中盤。 「だとしても、これの娘ってのは悪夢でしかないわよ」 「それは酷いぞ、我が娘よ。お前には愛を込めて大量の仕事を贈っているではないか」 「あたしを過労死させる気かい」 「いや、過労死させるのはハインツだ」 「俺ですか!」 まあ、近そうではあるが。 「それはそうと、これからが問題だ。裏切った封建貴族は全滅した。当然その領土は全て没収となる。ここにガリア貴族領は消滅するわけだ」 「その辺の管理は私の管轄ね」 「生き残りや、血縁者の処置は俺にお任せを」 適材適所だな。大体は“プリズン”にぶち込むが、殺すのも相当数に上るだろう。 「これから1か月あまりはそれに費やす。と同時に、義勇軍を解体し、ロマリア侵攻軍と地方巡視隊に再統合する。ティエール、レセップス、ドウコウ、ストロースの4名は前者、カステルモール、アヒレス、ゲルリッツには後者を編成させる。1月もあれば十分だろう」 流石陛下、全員の能力を完全に把握した上で、その下の者達がどれくらい動けるかまで計算している。 「地方巡視隊の主な役目は、安全の確保というよりも、“知恵持つ種族の大同盟”の方々をその目で確認することですか?」 「そうだ。こっちはさっさと出発させ、分散して南部を通らせる。各地の村に派遣させれば、彼らと触れ合うことになる。と同時に、帰り道も兼ねる。そのためにクロムウェルが記録をとっていたのだからな。それによって、ガリア各地に彼ら先住種族の生の姿が伝わることになる。民衆によってな」 なるほど、一切の無駄がない。クロさんの苦労も実るわけだ。 義勇軍の食糧を確保するのも一苦労だからな、エミールが頑張ってはいるが。それに、ロマリアの民に配る分もあるし。 「ってことは、そっちが大体9割くらいね。志願制になるから、ロマリア侵攻にいくのは6万くらいかしら?」 まあ、そんなとこかな。 「だろうな。先陣を切って突撃した奴ら。あいつらがロマリア侵攻軍になるだろう。最も、名前は解放軍となるがな」 解放軍、確かにそうなるな。 「それでは、王軍は3つに分かれますね。義勇軍6万と共にロマリアへ行く部隊、狂信者の襲撃を受けた地方を巡視しつつ解散する義勇軍を統率する部隊、そして、各地の貴族領にいって、屋敷とか財産を接収する部隊」 「最後の部隊には目付も必要ね、フェンサーはそっちに回しましょう。ヨアヒムとマルコに任せれば問題ないわ」 「そこは北花壇騎士団に任せる。それが専門だからな。後は流動的だな、ここで決めても状況によっていくらでも変わるだろう」 ま、大局は動かないだろうけど、細かい部分はいくらでも変わるか。 「当然、各部隊の補給はアラン先輩と、エミールですね」 「軍務卿もそろそろ動けると思うわ。少しはゆとりが出来るでしょう」 九大卿は優秀だからなあ。 ガリア全体が大きく動いたから、通常体制に戻るには、やはり1か月は必要だ。イザベラと九大卿なら問題ないだろうが。 「ロマリアの仕込みはイザークに任せればいい。ある意味、お前と最も近い人種かもしれんな」 まあ、基本は違えど、やってることはあんまし変わんないな、俺とあいつは。 「あと、もう一つある。これがお前達を集めた最大の理由だ」 そして、陛下は俺とイザベラにある指示を与えた。■■■ side: ギーシュ ■■■ 僕達は現在、火竜山脈を越えている真っ最中。 かなり厳しい山道だ。 「しかし、急な道だねえ。よくこんなところに作ったなあ」 ディジョン、ボース、ラルハイ、モンテス、ラ・クロットと各鉱山都市を経由してここまで来たわけだけど。ガリアは驚くほどに治安が良かった。もうちょっと東ではロマリアの狂信者が暴れ回ったとかいう話だけど、そいつらも瞬く間に全滅したとか。 ガリアの盗賊達は王政府がどれだけ強大かを骨身にしみて理解しているようで、ロマリアの敗北を誰よりも先に悟っていたのか、これを機に暴れることもなかったみたいだ。 そんなことをすれば殲滅が待ってるだろうし、このガリアでは犯罪なんかしなくても、生きるのに不自由はしないみたいだし。 「火竜山脈以南にも民は住んでいる。文化は少しガリアと異なるけど、一応ガリアの国民になっている。アーハンブラ城があったオート=ルマン地方も似たようなものだけど」 タバサが解説してくれた。流石にガリアのことには詳しいなあ。 「でも、これならそんなに知られていないルートってのも頷けるな。普通だったら火竜街道や虎街道を使うよな」 確かにサイトの言うとおり、わざわざロマリアに行くのにこっちを使う奴はいないだろう。 「この先には特に都市や街があるわけじゃないんだろう。だったら尚更だね」 マリコルヌも同意する。この坂道を歩きながら平然としてる。うん、体力ついたよなあ僕ら。 「でも、ここよりちょっと南に住む人達は傭兵としてベルフォールに行くのも多いらしいから、交流がないわけじゃないのよ。それに、そこには特殊な精霊石があるらしいし、これもあんまり知られてないけど」 だけど、一番驚きなのはルイズだ。彼女、普通に歩いてる。 ずっと北花壇騎士として戦ってきたタバサはともかく、ルイズはつい最近まで公爵家の三女だったはずなんだけど。 ちなみにシルフィードは大量の荷物を持ってるから人は乗せてない。山道で馬車は使えないし。数頭の馬に荷物を乗せて、皆歩くことになるんだけど。 「貴女は元気ねえ、私はちょっときついわよ」 キュルケですらちょっと疲れ気味。 「胸に余分なものはついてるからよ」 「いや、その理屈で行くと私はどうなるのよ?」 モンモランシーが反論。彼女もちょっと疲れ気味だな。 「モンモランシー、疲れたら僕が背負ってあげるよ」 「却下、あんたじゃすぐに潰れるでしょ」 「ぐはっ」 崩れ落ちる僕。 「タバサはサイトにおぶってもらいなさい。サイトとヤッて以来、少し成長した胸を押し付けるのよ。サイトは興奮して今夜貴女を押し倒すわ」 「ぶはっ!」 「何で知って!」 反応する二人、相変わらずだなあ。 「いやあー、羨ましいねえ、彼女持ちは、げっへっへ」 そしてマリコルヌが狂い出す。 「止めろ、皆」 「「 了解 」」 ギムリとレイナールが後ろから殴る。メイジなのに肉体行動だなあ。 この二人はフェンリルとの戦いでまさに死にかけた組だ、ギムリなんて真っ二つだったし。 水精霊騎士隊も逞しくなったなあ。 「テファ、疲れたら言うんだよ」 「ま、まだ大丈夫よ」 テファは森の中で育った方だから意外と体力はあるけど、やっぱり小柄で細身だからきついものがある。 胸だけはなぜか爆発してるけど。 「疲れたら僕が背負おう!」 「いいや! 僕にお任せを!」 「何を言っている、貴様らには無理だ!」 「俺なら何百リーグでも歩けるぜ!」 「俺なら走れる!」 「俺は飛べる!」 水精霊騎士隊の連中が一斉に詰め寄る。うん、下心が爆発だ。 「そう、死にたいようね、貴方達?」 まずい、大魔神が降臨する! 「異端魔法その3」 「あんぎゃあああああああああああああああ!」 「ぐるわああああああああああああああああ!」 「ぷるぎゃあああああああああああああああ!」 「ぎええええええええええええええええええ!」 しかし、その前に魔女の鉄槌が落とされた。 よく見るとギムリとマリコルヌも混ざってるな。 「全く、馬鹿やってんじゃないわよ」 惨劇を起こして平然としてるルイズ。 「ミス・ヴァリエール、少しは加減した方が良いと思うのだが」 良識派のコルベール先生が諌める。 「平気です。軽く岩に潰されただけですから」 彼らの脳内では圧死してるわけか。 「いやー、ルイズは恐ろしいな」 サイトの言葉は全員の想いだろう。 「ところでサイト、僕は思ったことがあるんだが」 「何だ?」 「タバサの胸は本当に大きくなったのかね?」 「ぶはっ!」 噴き出すサイト。 「何で俺に聞くんだよ! つーかそんなこと聞くんじゃねえよ!」 「タバサ以外で、それを一番知ってるのは君だろう」 「い、いや、あれ以来やってねえよ」 うん、何とも分かりやすい回答だ。単純だな。 「意外だね、君の欲望に従って貪りつくしていると思ったのだが、そう、あえて未熟な果実を好む君の性癖の赴くままに」 「お前、俺を何だと思ってやがる」 「という冗談は置いておいてだ」 これ以上続けるとタバサに串刺しにされかねない。 「冗談かよ」 「いや、僕やマリコルヌの戦いって、いつもこんなんばっかだと思ってね」 実に不思議なことだが。 「こんなんばっか?」 「化け物と戦う。逃げ回る。最後に撤退。この流れさ」 「あー、そういやそうだな」 「アルビオンでは戦争だってのにオーク鬼と戦った。そして今回はヨルムンガントに加えて、あのフェンリルだ。いきなりグレードがとんでもなく上がったけどね」 本当、生きてるのが奇蹟なくらいだ。 「で、最後にトンネルで撤退と、宿命なのかな?」 「君は7万に突っ込んだり、戦車でヨルムンガントを撃破したりもしたが、僕達はなぜか化け物オンリーだ。普通に軍隊や騎士っぽく戦ったのは、ルイズの地獄の特訓くらいだよ」 「あれか、確かに」 水精霊騎士隊が出来てから、ルイズが考えた内容で訓練を始めたんだけど、その内容は鬼だった。 金属鎧を着て学院5周とか、あり得なかったと思う。当然『フライ』や『レビテーション』はなしで。 メイジがやることじゃないだろう。 「何、あの軽い訓練のこと?」 「あれを軽いと抜かすかお前は」 「鬼教官、ここにありだね」 ま、そのおかげで僕達はフェンリルと戦って生き残ることが出来たんだろうけど。 ちなみに、その鬼教官も一緒に訓練してた。信じられない光景だったけど。 とゆーか、この一年くらいでルイズも成長してる。身長は160サントくらいになってるよね。 遅れてきた成長期、ってやつなのかな? 「必要なのは、いざという時の度胸と根性よ。フェンリルとの戦いでは、魔法が上手く使えようが意味無かったでしょ」 「まあ確かに、何の意味もないねえ」 「あれをデフォルトに考えるのもどうかと思うけどな」 水精霊騎士隊として最初に経験した実戦、本格的な戦いの、最初の敵がフェンリルってのはもの凄いな。 まあ、全員がアルビオン戦役で実戦経験がある連中だったから、殺し合い自体は初めてじゃなかったけど。 「だけど、アクイレイアに着いた後も、まだ戦いはあるのかい?」 「多分ね、もっとも、相手は人間よ」 怪物相手じゃないのか。 「身体が縦に真っ二つにされなきゃ何でもいいぜ、横だから助かったからな」 そこにギムリが復帰。凄いブラックユーモアだ、 「そうだね、足がもげるくらいなら平気さ」 レイナールもぶっ飛んでる。あの体験は特殊だったからなあ。 「まあ、とにかく、まずはこの山が敵よ。皆で乗り越えましょう」 「うーす」 「了解」 「分かった」 「OKさ」 そして、僕達の山越えは続く。■■■ side: outとある士官 ■■■ 僕は両用艦隊に所属する『ヴィラ』号の甲板長を務めるヴィレール少佐。現在はストロース中将の指揮下にある。 この“聖敵”を撃滅した戦いは“ラグナロク”と呼ばれるものだそうだけど、その戦いによって恐らくストロース中将は大将に昇進するだろう。 艦隊司令官であった元帥のクラヴィル卿はロマリアに寝返り、ガリアの民をロマリアに売ったという。 だけど、そこには疑問が残る。彼は王政府に忠実な人物であったはず。それにガリアに30年以上仕えてきた人物だ。 僕だって愛国心では負けるつもりはないが、やはり、王国の為に戦ってきた年月は僕みたいな若い士官とは比較にならない。 だから、何か理由があったのではないかと思う。 確かに最近の空海軍は若い僕達と、古い人達が対立してきた。 クラヴィル卿を筆頭にする保守派と、ドウコウ中将、ストロース中将を中心とする革新派といえばいいのか。 僕たちみたいな若いのは皆ドウコウ・ストロース組についていた。まあ、だからこそこの若さにも関わらず少佐になれているんだけど。 けど、それを理由に彼らがガリアを裏切るとは考えにくい。国を裏切ってしまったら、彼らの家族はどうなるというのか。 そのくらい考えていたはずだし、ジョゼフ陛下は彼らに特別な罰を与えるつもりはないとか。 中将達も、クラヴィル卿に対して何か思うところがあるわけじゃないみたいだ。もっとも、反乱を起こしたのは確かだから、軍籍を剝脱されるのは避けられないだろうけど。それでも、投獄された上に一家離散みたいな状況にはならないだろう。だから、何よりも怪しい人物がいる。 「皆の者、ロマリアの侵略者共は全滅した。しかし、これで終わりではない。ロマリア宗教庁がある限り、何度でも“聖戦”は繰り返される。その根を絶つために、ロマリアを灰燼と化すのだ」 今現在、王政府軍と義勇軍の前で演説を行っているヴァランス公。この人物だ。 彼の言ってることは筋が通っているようにも聞こえるけど、そこまでする必要はないように思える。 自分達と違うからって、皆殺しにするんじゃあ、“聖戦”と変わらないじゃないか。 ジョゼフ陛下は言ったはずだ。これからは皆が協力して平和に生きていく時代が来るって。ガリアはそういう国家になるって。民の為の国家になるんだって。 確かに、ガリアの民の為になるかもしれない。けど、その為にロマリアの民を皆殺しにしていいわけがないだろう。 「ここに集った者達は“神を滅ぼす軍勢”だ。我々の力をもってすれば、ロマリア宗教庁など容易く破壊できる。そして、いずれは全てが統一され、平和が訪れる」 それは、ゲルマニアやトリステインやアルビオンも、併合するということじゃないか? そんな必要はないだろう。彼らがガリアに戦争を仕掛けてきたわけじゃないんだから。 「驕った神ではなく、これからは人間の時代だ。我らこそが世界の中心になる。そして、永遠の平和をもたらすのだ。その第一歩として、神を信じるあの国を焼き尽くすのだ」 それは教皇の考えとどう違うんだ? ブリミル教徒がガリア国民に変わっただけで、何も違わないんじゃないのか? 「待ちなさいヴァランス公。それには及ばないわ」 そこに、ヴァランス公を止める人物が現れた。 ガリア王国第一王女であり、宰相を務めるという、イザベラ殿下だ。 彼女に関する話は不思議なほどに伝わってこないけど、あの陛下の娘で、宰相を任されているんだ。凄い人物なんだろう。 「イザベラ殿下、それには及ばないとは、どういう意味ですか?」 「言葉通りの意味よ。確かに、ロマリア宗教庁がこの世界にとってよくない存在である。それは間違いないでしょう。しかし、それとロマリアの民を殺すことは別です。彼らを虐殺することは許しません」 殿下は言い切った。ヴァランス公、いや、“悪魔公”の暴虐を認めないと。 「それは、我がガリアを侵略した狂信者共を許すということですか、それでは奴らに殺された者の無念はどうなるのです?」 「狂信者は許すべきではありません。しかし、彼の大半は既に滅びました。ロマリアに残っているのは難民や罪のない一般市民ばかりです。ブリミル教を信仰している。ただそれだけです。それだけの理由で殺すなどもってのほかです」 そうだ、彼らには罪はないだろう。 「だが、あの偽りの神を信じる者達が第二の狂信者にならないという保証は無い。ここは将来の災いの芽を刈り取るべきでしょう」 「狂信者になるという保証もありません。そもそも、狂信者を作り出したのはロマリア宗教庁。そこさえ無くなれば狂信者が生まれる道理はありません。貴方がやろうとしていることは、ただ無用な血を流そうとしているだけです」 「ならば、ガリアの民が流した血は、何によって贖われるのです。我々がロマリアの民のために働く義理などどこにもない」 「血を血によって贖い続けるのならば、古い世界と何ら変わりません。このガリアは新しい国家へと変わっていくのです。異なる種族との共存ができるのならば、異なる宗教との共存も出来ます。そもそも、ブリミル教自体は邪悪でも何でもないのです。それを利用した者達がいただけで、宗教自体を否定する理由にはなりません。ですから、そこに困窮している者達がいるならば、手を差し伸べるべきでしょう」 イザベラ殿下は凄い、流石は陛下の娘だ。 「むう」 悪魔公には反論できないみたいだ。 「ですが、ロマリアをこのまま放置できないのは確かでしょう」 「それはそうです。軍隊を派遣する必要はあるでしょう。ですが、それは侵略軍としてではなく、解放軍としてです。恐らく、ロマリアにいる飢えた者達は暴走し、自国の民をも襲いだすでしょう。我々は、力無き民を救うために駆けつけるのです。決して、皆殺しにするためではありません」 「陛下が、それをお認めになると?」 「逆に問いましょう、陛下が虐殺をお認めになるとお思いですか?」 悪魔公は沈黙する。そうだ、陛下が認めるはずがない。 そもそもこの集会にしたって、陛下が認めているかどうかも怪しい。 「まあいいでしょう。そこまで言うならば、貴女のやり方で行くとよい、宰相は貴女なのだ、私はそれに従うとしましょう」 悪魔公が折れた。 「ええ、私はガリアの民のために最善と思うことをします。その方法は貴方とは異なるかもしれませんが」 イザベラ殿下は、ガリアの民の為に。 「ですが、ロマリア宗教庁を滅ぼすことは、私にやらせていただく。これは、既に陛下から許しをいただいている」 「相手が狂信者ならば、止めるつもりはありません。しかし、その為に空海軍を貴方の指揮下に置くことは許しませんし、陸軍にしても、軍の運用は司令官に任せることです」 「なぜ、私が指揮官では何か問題でも?」 「貴方がクラヴィル卿をロマリアに侵攻させた、という話があるのですよ。無論、噂に過ぎませんが、王政府内で若干の動揺が見られます。ここは、無用な混乱を抑えるために、貴方は無用な干渉をせず、それぞれの司令官に任せるべきでしょう」 悪魔公がクラヴィル卿にそんな命令をしたのか!? 「そうですか。まあ、いいでしょう。ですが、教皇の首は、私が上げますよ」 「どうぞ、彼がガリアの民を蹂躙したのは事実ですから」 そして、悪魔公は去っていった。 「ガリアの国民の皆さん! これより、ロマリア解放軍の編成と、ガリアの地方巡視隊の編成を行います! 説明は各軍の司令官によって受け、自分の意思で行動してください! 殺戮も戦争もするべきではありません! 話し合いで解決するに越したことはないのですから!」 そして、イザベラ殿下の言葉が、集まった全員に伝えられた。■■■ side: イザベラ ■■■ 「お疲れイザベラ、俺の名演技はどうだった?」 「30点」 私は評価を下す。 「随分酷いな」 「最初の方はまあよかったけどね、私が登場してからがちょっと甘かったわよ。もうちょっと悪魔公っぽさを出さないとダメよ」 悪いわけじゃないけど、ちょっと負の感情が足りない感じがしたわね。 「うーむ、役者の道は長く険しいな」 「いつから役者を目指したのよあんたは」 「今」 「あっそ」 こいつはいつも、思いつきで行動するから。 「だけどね、素直に引きすぎたというか、年下の小娘に反論されて、自分の考えを否定されたわけでしょう。もうちょっと殺意というか、憎しみというか、そういうものがあってしかるべきよ」 “悪魔公”なんだから。 「ああ、そりゃあ無理だ」 「何でよ」 「俺が守りたいのはお前だからな。殺意とか憎しみとか向けるのは無理だし」 !? こいつは、なんでそういうことをさらりと言うのよ! 「そうは言ってもあんた、色んなものを守ろうとしてるでしょ、過労死寸前まで」 平静を保ちつつ言う。まったく、あの腐れ青鬚の陰謀を思い出すわ。 「あれは守ろうとしてるだけだ。守りたいわけじゃない。守りたいってのは、俺がそうしたいってことだろ。相手が別に助けて欲しくないなら、俺は別の奴を助けに行くが、お前やシャルロットは別だ。何が何でも助ける」 うん、そこでシャルロットの名前も出てくるのはいいことだわ。 「じゃあ聞くけど、私とシャルロット、どっちかしか助けられなかったらどっちを助ける?」 私なんて言ったらぶっ殺す。 「聞くまでも無いだろ、シャルロット、それしかない」 「その理由は?」 「お前がそう望むからだ。シャルロットも同じように望むだろうが、そこは姉の特権。妹は守られなければならない」 流石、私のことをよく分かってる。 「そうよ。けど、あんただったらその選択もしないでしょうね」 こいつだったら、当然やることは一つ。 「ああ、絶対に両方助ける。どんな法則でも捻じ曲げる。神だろうが悪魔だろうが邪魔するならぶっ殺す。何を犠牲にしてもな」 真っ先に自分を犠牲にしそうだけど。 「相変わらず自分勝手ね」 「まあそうだが、悪魔じゃあないな。今の俺は人間よりなのかな?」 あら、こいつが自分を人間だって言うなんて珍しい。 「そこが疑問形なのが気になるけど、あの惨劇をやった後に、自分は悪魔じゃないっていうのはどういうこと?」 「ああ、あれとは完全に無関係。つーかあれは人間なら誰でも出来る。人間が狂えばあんなのは朝飯前だ」 人間の狂気には果てがない、6000年の闇を作り出すくらいに。 「確かにそうかもね、それが人間の恐ろしいところだって、あんたはよく言ってるし」 じゃあ、別の意味ってことね。 「ああ、以前お前が言ったよな。『あんたは誰よりも冷静に人間の命を天秤にかけれるくせに、天秤の片側に載るものが命以外になれば誰よりも馬鹿になるのよ』って」 「確かに言ったわね」 こいつはそういう奴。 「それは今も変わらんが、秤に乗せるのが、人間の命になる場合が変わったんだ」 「それはつまり」 「お前やシャルロットの場合、天秤が壊れる。要するに、代わりがないってことだ。人間ってのはそういうもんだろ。本当に大切なものなら、世界と引き換えにしてでも助けたいって」 まあ、そうでしょうね。 「だけど、実際にそうなったら、大切な者を選ぶ人間はいないわよね。だって、世界がなくなったら結局皆死ぬんだし」 だからこそ仮定なんだけど。 「それでもだ。例え仮定の話でも、俺がそうしたいって、思うんなら、天秤は機能しない。俺にとっては、世界よりお前らの方が大事だってことだからな」 「そうね、あんただったら、仮定でも冷静に秤にかけてたものね。どんなに大事な宝石でも、その価値は決まっていた」 だから、人間よりなのね。相変わらずとんでもない価値観だけど、悪魔とは違う。 だって、神と悪魔は全ての人間に対して平等だから。 「あんたでも、変わることがあるのね」 「俺自身驚きだよ、本当に、愛の力は偉大だなあ」 だから真顔で言うんじゃないわよ。こっちは内心恥ずかしいってのに。 だから、こっちからも言ってやることにした。 「ねえあんた。このラグナロクが終わったら、特に何をするか決めてないのよね」 「まあな、今は走ってるけど。その後どうするかは決めてないな」 こいつは現在にしか生きられないし、走り続けることしかできない。だから、自分の未来を考えないのね。 「じゃあ、終わった後は、私のために生きなさい」 だから、私と一緒に歩きなさい。 「ああ、それはいいな」 即答したわね、考える時間なし。 まあ、私も思いつきで言ったようなものだからいいけど、これって、普通に考えて結婚の申し込みのようなものよね。 もしこれが散々考えて悩んだ挙句の告白だったら、こいつを張っ倒してるわ。 「随分あっさり答えるわね」 こいつらしいけど。 「俺はお前が好きだぞ」 だから! 普通に言うな! 恥ずかしいのよこっちは! 思わず顔を伏せる。 「イザベラ」 すると、声を掛けられた。 「なに、んっ」 気付くと、キスされてた。 とても優しい、そんな感じのキス。 長いのか、短いのか、よく分からなかったけど、とても幸せな気分なのだけは分かった。 そういえば、こいつからされたのは初めてかしら? そうして、気付くと互いに離れていた。 「一緒にいような」 「そう思うんだったら、不能は治しなさいね」 一生処女は嫌よ、私。 「うーん、どの技術が一番適してるかな?」 やっぱ普通にあったのか。 「ま、そこは急がなくていいわよ。10年は子供作れないし」 流石に忙し過ぎて、子育てなんてできっこないし。 「それもそっか、とりあえずは、ラグナロク完遂に向けて頑張ろう」 「そうね、やることはまだまだ山積みだわ」 あの青鬚が、『新時代を担う者達がやるべきだ』とかほざいて、大量の仕事を回してきたから。 私達はいつものように、揃って仕事地獄に立ち向かうのだった。 働け! 休暇(子供)が来るその日まで!■■■ side: ヒルダ ■■■ 「く、くくく、ははは、ふははははははははははははははは!!!!! はーっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっは!!!!!」 私は歓喜の笑い声を上げる。 「ついに! ついに! ついに! この時が来た! どれほど待ちわびたことか! イザベラ様にお仕えして早5年! どれほど、どれほど待ち望んだか! 来ました! ついに来ました! 我が悲願ここに成就せり!!」 ああ、何て素晴らしい日でしょう! この日のために、私はこれまで生きてきた! 「シェフィールド様! 貴女が作りし、完全隠密型ガーゴイル“ニンジャ”(陛下命名)は素晴らしい!あのハインツ様ですら全く気付かないのですから! この輝かしき瞬間を! この目で見届けることが出来ました! ああ! 感謝してもしきれません!」 この“ニンジャ”にはあらゆる隠密機能が搭載されている。 “不可視のマント”のような迷彩機能は当然として、完全消音、熱遮断、さらには『加速』を逆に行うことで『減速』を行い、周囲との時間軸をずらすことさえ可能とするとか。 素晴らしい! 素晴らしいです陛下! 貴方は素晴らしい! 掛け値なしに素晴らしい! まあ、当然それらの機能を発揮するには訓練が必要であり、“解析操作系”のルーンは必須となりますが、それも問題ありませんでした。 私の家は元々ガーゴイル作りを得意とする家でした。このガリアは魔法先進国であり、特にガーゴイルの開発には力を入れており、多くの貴族の家が伝統の技を保有してまいりました。まあ、シェフィールド様の技術に比べれば大幅に劣るものではありましたが。 当然魔法本位の考えであり、“ガーゴイルを作れねば人にあらず”といった実に馬鹿げた考えにとりつかれた愚かな家でしたし、私の興味は経営や、情報管理などにあったので思いっきり肌に合わず、家出することにしましたが。 ですが、私の魔法の才能はそっち方面であったことは確か、その点だけは感謝していますよ。 それに、金こそありましたが、魔法の血は徐々に薄れている家でしたし、ハインツ様が言うには、遺伝学上、近親相姦を繰り返しでもしない限りは、魔法の血は薄れていくものだとか。それ故に、純血を保持する王家は君臨してこられたわけです。 故に、私も“セカンド”のルーンを刻むことが出来た。魔法の血は70%くらいで(ハインツ様が診断した)、トライアングル相当ですので、マルコやヨアヒムには劣りますが、“解析操作系”のルーンマスターが登場するまでは、ガーゴイルの操作はメイジの専売特許だったわけですので、その部分と組み合わせれば十分力を発揮します。あの二人も己の魔法とルーンの力を組み合わせることで、戦っているわけですし。 当然、イザベラ様は王家の血を持っており、その血は100%魔法の力。ですが、“虚無”の予備であったためか、系統魔法がほとんど使えません。 しかし、何かが無いということは、何かがあるということ、イザベラ様は陛下に次ぐ優秀な『ルーン・エンチャスター』。北花壇騎士団フェンサーのルーンは全て、イザベラ様によって刻まれたものなのです。 ルーン技術自体は陛下が作り、“精神系”が刻まれた親衛隊や“ネームレス”など、陛下でなければ刻めない高度なものも存在しますが、“ファースト”も、“セカンド”も、イザベラ様に刻めないものはありません。将来的には魔法装置で刻めることを目指すそうですが、流石にそれはまだまだ先のこと。 故に、イザベラ様は北花壇騎士団団長。今やほとんどの騎士がイザベラ様の叙勲を受け、誓いのルーンを刻んでいるのです。今の北花壇騎士団には80%以上の純度を持ち、「スクウェア」に至れる魔法の血を持つ者はハインツ様くらいしかおりませんし。 ですので、私はこの“ニンジャ”を扱える。私の能力はガーゴイルを用いた諜報に特化しており、“アーリマン”などの監視型などは手足のように操れます。 そう、全てはこの時の為に! どれほどこの日を待ち望んだか! イザベラ様とハインツ様が結ばれるこの日を! 流石に今のハインツ様では肉体的に結ばれることは不可能ですが、話を聞く限りでは不能を治すことも不可能ではない模様。ああ、今からその時が楽しみです。その為の準備も進めねば! 私の役目はリュティスにイザベラ様がご帰還なさるまでの、代行可能な仕事を処理することですが、これだけは並行して進めねば、ええ、例え、“ヒュドラ”を使うことになろうとも。 しかし、私の読みは当たりました。イザベラ様とハインツ様の仲が進展するとすれば、このラグナロクしかあり得ないと確信しておりましたとも。 神よ、やはり貴様がイザベラ様とハインツ様の仲を邪魔していたのですね。貴様が滅んだ今、お二人が結ばれたことが何よりの証拠。 まあ、ハインツ様が悪魔である以上、それもいたしかたなかったのかもしれませんが。 ですが、神よ、貴様が邪魔だったのは間違いありません。貴様が存在する限り、ハインツ様の意思は貴様を滅ぼすことに向けられ、イザベラ様だけに向かうことはなかったでしょうから。 それこそが、私が神を滅ぼす軍団(レギオン)に加わった理由。 イザベラ様の恋路を邪魔する者は、この私が決して許しません。どんなものでも排除します。ええ、それが神であろうと王であろうと。 まあ、陛下と私はその点において、同志といえる間柄なのですが。 だが、神は滅んだ。最早、お二人を邪魔する者は存在しない。 後は、ロマリア宗教庁を滅ぼすだけみたいですが、神が滅んだ今、最早意味がないもの。 イザベラ様とハインツ様の結婚記念です。華々しく散るのがよいでしょう。 そう、滅びるなら、せいぜい華麗に滅びればいいのです。