<このWebサイトはアフィリエイト広告を使用しています。> SS投稿掲示板

SS投稿掲示板


[広告]


No.10029の一覧
[0] (旧題)ネギま・クロス31 叙事詩・少年と世界  第二章完結[宿木](2009/11/21 20:56)
[1] 「習作」ネギま・クロス31 プロローグその① 魔法教師の場合[宿木](2009/09/08 23:32)
[2] 「習作」ネギま・クロス31 プロローグその② 魔眼王の場合[宿木](2009/09/18 20:00)
[3] 「習作」ネギま クロス31 第一章《教育実習編》その一・前編[宿木](2009/07/06 19:10)
[4] 「習作」ネギま・クロス31 プロローグその③ 《神》と子供達の場合 [宿木](2009/07/12 00:46)
[5] 「習作」ネギま・クロス31 プロローグその④ 《必要悪の教会》の場合 [宿木](2009/07/07 23:15)
[6] 「習作」ネギま クロス31 第一章《教育実習編》その一・後編[宿木](2009/07/14 22:38)
[7] 「習作」ネギま・クロス31 プロローグその⑤ 戯言使いの場合 [宿木](2009/07/09 19:23)
[8] 「習作」ネギま・クロス31 その頃の世界情勢~UCAT編~[宿木](2009/07/14 22:30)
[9] 「習作」ネギま クロス31 第一章《教育実習編》その二・前編[宿木](2009/07/15 01:26)
[10] 「習作」ネギま・クロス31 プロローグその⑥ 管理局の白い悪魔の場合[宿木](2009/07/19 09:46)
[11] 「習作」ネギま クロス31 第一章《教育実習編》その二・後編[宿木](2009/07/15 01:27)
[12] 「習作」ネギま・クロス31 プロローグその⓪ 魔王と魔女と少女の場合[宿木](2009/07/09 19:42)
[13] 「習作」ネギま クロス31 第一章《教育実習編》裏舞台・表[宿木](2009/09/14 22:45)
[14] 「習作」ネギま クロス31 第一章《教育実習編》裏舞台・裏[宿木](2009/07/17 01:37)
[15] 「習作」ネギま・クロス31 その頃の世界情勢~億千万の眷属編~[宿木](2009/07/15 01:29)
[16] 「習作」ネギま クロス31 第一章《教育実習編》その三・①[宿木](2009/07/17 01:39)
[17] 「習作」ネギま クロス31 第一章《教育実習編》その三・①―裏[宿木](2009/07/18 00:37)
[18] 「習作」ネギま クロス31 第一章《教育実習編》その三・②[宿木](2009/07/18 00:38)
[19] 「習作」ネギま・クロス31 その頃の世界情勢~麻帆良大学部編~[宿木](2009/07/12 17:35)
[20] 「習作」ネギま クロス31 第一章《教育実習編》その三・②―裏[宿木](2009/07/18 00:41)
[21] 「習作」ネギま クロス31 第一章《教育実習編》その三・③[宿木](2009/07/18 00:43)
[22] 「習作」ネギま・クロス31 元ネタ辞典(組織・及び生徒)[宿木](2009/09/18 20:04)
[23] 「習作」ネギま クロス31 第一章《教育実習編》その三・③(裏)[宿木](2009/07/20 14:47)
[24] 「習作」ネギま クロス31 第一章《教育実習編》その三・④[宿木](2009/09/10 00:37)
[25] 「習作」ネギま・クロス31 その頃の世界情勢~仮面の反逆者編~[宿木](2009/09/10 00:40)
[26] 「習作」ネギま クロス31 第一章《教育実習編》その三・④(裏)[宿木](2009/09/10 00:47)
[27] 「習作」ネギま クロス31 第一章《教育実習編》その三・番外編[宿木](2009/09/10 00:52)
[28] 「習作」ネギま・クロス31 元ネタ辞典(登場人物編)[宿木](2009/09/18 20:21)
[29] 「習作」ネギま クロス31 嵐の前の静けさ・その一(表)[宿木](2009/09/10 00:55)
[30] 「習作」ネギま クロス31 嵐の前の静けさ・その一(裏)[宿木](2009/09/10 01:02)
[31] 「習作」ネギま クロス31 嵐の前の静けさ・その二(表)[宿木](2009/09/18 20:25)
[32] 「習作」ネギま クロス31 嵐の前の静けさ・その二(裏)[宿木](2009/09/18 20:27)
[33] 「習作」ネギま・クロス31 その頃の世界情勢~統和機構編~[宿木](2009/09/18 20:29)
[34] 「習作」ネギま クロス31 嵐の前の静けさ・その三(表&裏)[宿木](2009/09/18 20:32)
[35] 「習作」ネギま・クロス31 その頃の世界情勢~《乙女》と《福音》編~[宿木](2009/09/18 20:36)
[36] 「習作」ネギま クロス31 第二章《福音編》序章[宿木](2009/09/18 20:38)
[37] 「習作」ネギま クロス31 第二章《福音編》その一(昼)[宿木](2009/09/18 20:48)
[38] 「習作」ネギま クロス31 第二章《福音編》その一(夜)[宿木](2009/07/26 17:21)
[39] 「習作」ネギま クロス31 狭間の章・壱[宿木](2009/07/26 23:04)
[40] 「習作」ネギま クロス31 その頃の世界情勢~神殿協会(上の方)編~[宿木](2009/07/27 21:06)
[41] 「習作」ネギま クロス31 第二章《福音編》その二(昼)[宿木](2009/07/28 21:25)
[42] 「習作」ネギま クロス31 第二章《福音編》その二(夜)[宿木](2009/07/29 17:50)
[43] 「習作」ネギま クロス31 第二章《福音編》その三[宿木](2009/07/31 01:27)
[44] 「習作」ネギま クロス31 狭間の章・弐[宿木](2009/07/30 20:06)
[45] 「習作」ネギま クロス31 第二章《福音編》その四(昼)[宿木](2009/07/31 16:36)
[46] 「習作」ネギま クロス31 第二章《福音編》その四(夜)[宿木](2009/08/01 18:57)
[47] 「習作」ネギま クロス31 その頃の世界情勢~上条勢力編~[宿木](2009/08/02 15:33)
[48] 「習作」ネギま クロス31 第二章《福音編》その五(表)[宿木](2009/08/03 14:56)
[49] 「習作」ネギま クロス31 第二章《福音編》その五(裏)[宿木](2009/08/04 14:32)
[50] 「習作」ネギま クロス31 第二章《福音編》 カーニバル(準備)[宿木](2009/08/05 22:32)
[51] 「習作」ネギま クロス31 第二章《福音編》 カーニバル 表舞台①[宿木](2009/08/16 04:07)
[52] 「習作」ネギま クロス31 第二章《福音編》 カーニバル 表舞台①(2)[宿木](2009/09/08 23:35)
[53] 「習作」ネギま クロス31 第二章《福音編》 カーニバル 表舞台①(3)[宿木](2009/09/08 23:36)
[54] 「習作」ネギま クロス31 第二章《福音編》 カーニバル 裏舞台①[宿木](2009/09/11 13:53)
[55] 「習作」ネギま クロス31 第二章《福音編》 カーニバル 表舞台②[宿木](2009/09/11 13:57)
[56] 「習作」ネギま クロス31 第二章《福音編》 カーニバル 表舞台②(2)[宿木](2009/09/14 22:46)
[57] 「習作」ネギま クロス31 第二章《福音編》 カーニバル 表舞台②(3)上[宿木](2009/09/14 20:43)
[58] 「習作」ネギま クロス31 第二章《福音編》 カーニバル 表舞台②(3)下[宿木](2009/09/14 20:37)
[59] 「習作」ネギま クロス31 狭間の章・参[宿木](2009/09/15 11:41)
[60] 「習作」ネギま クロス31 第二章《福音編》 カーニバル 表舞台②(4)[宿木](2009/09/16 19:23)
[61] 「習作」ネギま クロス31 第二章《福音編》 カーニバル 裏舞台②[宿木](2009/09/17 17:50)
[62] 「習作」ネギま クロス31 第二章《福音編》 カーニバル 表舞台③[宿木](2009/09/22 20:21)
[63] 「習作」ネギま クロス31 第二章《福音編》 カーニバル 表舞台③(2)[宿木](2009/10/06 21:20)
[64] 「習作」ネギま クロス31 第二章《福音編》 カーニバル 表舞台③(3)[宿木](2009/10/15 01:48)
[65] 「習作」ネギま クロス31 第二章《福音編》 カーニバル 表舞台③(4)[宿木](2009/10/15 01:47)
[66] 「習作」ネギま クロス31 狭間の章・肆[宿木](2009/10/16 00:01)
[67] 「習作」ネギま クロス31 第二章《福音編》 カーニバル 裏舞台③[宿木](2009/10/18 10:57)
[68] 「習作」ネギま クロス31 第二章《福音編》 カーニバル 表舞台④上[宿木](2009/10/26 01:04)
[69] 「習作」ネギま クロス31 第二章《福音編》 カーニバル 表舞台④中[宿木](2009/10/23 00:16)
[70] 「習作」ネギま クロス31 第二章《福音編》 カーニバル 表舞台④下[宿木](2009/10/26 01:22)
[71] 「習作」ネギま クロス31 第二章《福音編》 カーニバル 表舞台④(2)[宿木](2009/10/28 22:56)
[72] 「習作」ネギま クロス31 第二章《福音編》 カーニバル 表舞台④(3)[宿木](2009/11/06 00:46)
[73] 「習作」ネギま クロス31 第二章《福音編》 カーニバル 表舞台④(4)[宿木](2009/11/06 00:16)
[74] 「習作」ネギま クロス31 第二章《福音編》 カーニバル 裏舞台の舞台裏[宿木](2009/11/08 18:48)
[75] 「習作」ネギま クロス31 第二章《福音編》 宴の後①[宿木](2009/11/10 10:55)
[76] 「習作」ネギま クロス31 第二章《福音編》 宴の後②[宿木](2009/11/11 23:58)
[77] 「習作」ネギま クロス31 第二章《福音編》 宴の後③[宿木](2009/11/14 23:28)
[78] 「習作」ネギま クロス31 第二章《福音編》 宴の後④[宿木](2009/11/18 14:35)
[79] 「習作」ネギま クロス31 第二章《福音編》 福音は誰が為に[宿木](2009/11/21 21:05)
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

[10029] 「習作」ネギま クロス31 第二章《福音編》 カーニバル 裏舞台①
Name: 宿木◆442ac105 ID:075d6c34 前を表示する / 次を表示する
Date: 2009/09/11 13:53
 

 ネギま クロス31 第二章《福音編》カーニバル・裏舞台その①


 停電の裏で。
 人知れず、幾つもの想いと思いとが重なり合っている。
 表に出る物もあれば、表に出ない物もあるだろう。
 だが、世界を彩るのが人間である限り――それらは、必ず存在するのだ。



     ○



 「そう言えば」

 仕事場の後輩、夏目萌に声を掛けられて、明石裕也――通称《教授》明石は訊き返す。

 「どうかしたかい?」

 「《教授》、若い時は実は結構魔法が強かったって言う話を聞きましたよ?――何で調査関係の仕事に回ったんですか?」

 今回の大停電において。
 電子関係者は、全員別の場所に置かれている。
 上空を飛ぶUCATの機竜からの情報整理が、そのメインだ。
 中央制御室は。なにせ、人間としては文句なしに最高峰の技術者たちが――それこそ、電子精霊などを使わずとも、学園の技術者たちの上を行く人材が――本気でぶつかり合っているのだ。電子精霊も邪魔だと言われてしまった。

 『下手に出して逆に相手に所有権奪われたら迷惑だし』

 それが今現在中央制御室の主と化している、かつて《死線の蒼》と恐れられた、小柄な少女の言葉だった。

 「ああ。……どこで、そんな事を?」

 「いえ。噂……です。只の」

 どうやら、本当にそれは、何かの拍子で入手した情報だったらしかった。

 「――まあ、ね。事実だよ」

 

 
 十年ほど前のことだ。
 《闇の福音》が麻帆良にやってきた際に生じたトラブルに、魔法使い関係者に被害が出た事件がある。
 実質的な被害は決して大きくは無かったが――しかし、確実に被害が出たことは事実であり、そして被害を受けた人々にして見れば、事件の大小は関係が無いだろう。
 《福音》に責任はあるのか――仮にそう問われた時に。
 結論から言ってみれば、関係は無かった。発端ではあったかもしれないが、しかし所詮は切欠でしかなく、彼女の来訪によって陰謀が顕在化しただけである。
 むしろ、彼女がやってきたからこそ表に出た、陰謀であったと言えるのかもしれない。
 世間一般では、誘拐事件と言われているが――そんな生易しい物では無い。
 間違いなく――国家の勢力が、一枚かんでいた。




 基本的には。
 『学問の世界』は、中立である。
 ER3にしても、アウルスシティにしても、そして魔法関係にしても――基本は中立である。研究成果を求める組織とは商売関係であるし、結果さえ出す事が出来るのならば――基本的に宗教には寛容。仕事を仕事として割り切ることが可能ならば、大体どんな世界とも渡り合えるだろう。
 ただ――時折。本当に時折、いるのだ。
 そういう、均衡やら協定やら、暗黙の了解やらを無視して行動に移り、それでいて周囲からの攻撃を受けても中々倒れずに、被害を撒き散らす組織や人やらが。
 明石裕也が、前線に出る事を諦めたのが、そんな組織を相手にしての――事件だった。
 十年前に行動を起こしたのは――アジア関係には影響を与える、人身売買のブローカー。
 それ自体は珍しくは無い。
 昨今、都会の中での行方不明者・疾走者・自殺者等の何割かはそういう関係に巻き込まれているのだから。
 世界各国……と言うほどに、巨大では無かったが、少なくともアジアにある程度の影響を持っていた、新参者の組織だった。
 巨大で歴史を持つ組織は、長続きしている分――人脈や、貸し借り、損得、長年の経験、協定やルールを把握している。
 だが、十年前の犯人達は違った。
 よりにもよって――関係者一同が、絶対に手を出さない学問・裏社会『魔法世界』に手を出したのだから。
 魔法使いは、決して弱い存在では無い。
 防御さえ敗れなければRPGの直撃も防げるだろうし、魔力があり、技術を持てば、たった一人で戦艦や軍隊すらをも相手にも出来るだろう。
 余計な正義感さえ出さなければ、秘密裏に敵組織をゲリラ戦・潜入工作で壊滅させることも十分に可能なのだから。
 結論として。
 相手組織は壊滅した。
 壊滅して、その利益は――大陸各国の由緒正しい闇社会に分配され、中にはきっと吸血鬼の餌になった物もいただろう。
 だが――しかし。
 誘拐事件の被害者の内、帰って来なかった者がいる。
 人身売買の名の通り――幾人かは、すでに大陸に消えていた。
 その瞬間のことを、彼は――今でも覚えている。
 本気で、人間に殺意がわいたのは、後にも先にもあれきりだった。
 なぜならば。


 被害者の中には――彼の娘の名もあったのだから。


 結局のところ――彼女が発見されたのは、事件から半年程後のことだ。
 世界で最も治安が悪いと言われる――死にぞこないの集まる街でだ。
 発見したのは、タカミチだった。
 タカミチ以外の人材では、おそらく危険だったのだろう。
 親切……では無かったものの、それなりに義と情とをわきまえた組織に拾われて。
 そこで、彼女は――たったの半年間で、彼女は変わっていた。
 徹底的に、変わってしまっていた。
 普段の中では決して窺い知ることが出来ないが――彼女の眼は、もはや生者の目ではなくなってしまっている。
 地獄を見た……歪んだ死者の目だ。自分の生に、そして命に興味を持たなくなってしまった。
 日常に生きていても――その性質は、もはや変わることが無いだろう。
 心の内に――拭いようのない、決して消える事のない、闇夜に潜む地雷の様な、圧倒的な煉獄を宿してしまっている。
 龍宮真名と同じように。彼の娘もまた、戦場を知っているのだから。

 (本当に)

 彼は、眼鏡で表情を隠しながら、息を吐く。
 ――因果な世界だと思う。
 今が停電中では無く、手元に煙草があったら、間違いなく吸いつくしていただろう。
 人間が存在し、そして闇が存在する以上。何処かで誰かがその闇の犠牲となるのは、どうしようもないことなのだと、理解している。
 だからこそ――彼もまた、もはや『魔法使い』という存在の正義を信じてはいない。何所まで言っても、人間である以上――そこには、正義も悪も、人間の数だけ存在すると言う事を――心に、刻み込まれたのだから。
 『魔法使い』の存在を、否定する気はない。そこまで偉いとも思ってはいないが、正義などは――もはや信じられなくなった。
 大事な娘が壊れてしまったそのことに。
 もはや、取り戻すことの出来ないその思い故に。
 そしてそれを知ってもなお――娘の境遇に、同情し手を差し伸べることしかできない自分自身に。
 自分自身の正義が、保てなくなった。
 明石は、想う。
 自分は――弱いのだ。
 《赤き翼》どころでは無く――タカミチ・T・高畑や学園長のように、世界の闇を知ってもなお、自分自身の為につき進めるほどに強くなかった。
 妻を亡くし、娘が変わってしまって以来。
 彼に出来る事と言えば――せめて、今のこの学園を。娘の住む、この地の短い安息に協力することしか出来ないのだから。




 「《教授》?」

 黙りこくってしまった彼に、後輩の眼鏡の少女が尋ねたその声で。現実へと引き戻される。

 「いや……昔のことをね」

 思い出していたよ、と言って――彼は、寂しそうに笑う。
 眼鏡で表情を隠したまま。
 彼は、娘を想う。

 (あの子は、二度と元には戻らないだろう……)

 今でも時折、闇を孕んだ目をすることがある。
 クラスメイトとなった時のことだ。あの《闇の福音》に、彼は言われた事がある。

 『明石はまだ青い。……覚悟や経験とは、まったく別の――命の価値に関する部分でな』

 まあマシな人間だ、と彼女から評価を受けた明石は。

 『精々、鍛えさせて貰う――文句は無いな?』

 そんな風に言われて、頷いた。
 少なくとも自分には不可能なのだ。
 そして――彼女が、決して無慈悲で冷酷な存在では無いと、彼は知っている。
 だから、今とは言わない。
 ネギ・スプリングフィールドと共にいること一年で、何かしらの変化が合ってくれるのならば。
 それは、きっと歓迎すべきなのだろう。
 そして――今の娘に、情報を送る。
 侵入した何者かに操られた、佐々木まき絵を止めるべき奮闘する、娘に向かって。


 父親として出来る事など、もう彼には、それ以外には殆どないのだから。



     ○



 麻帆良の上空で。
 闇の中、迷彩を展開して飛行する一体の龍がいる。
 青い色に、鋼の体を持つ、巨大な竜。5-thGの生き残り――《雷の眷属》である。

 [――ヒオ。西方十時の方向に侵入者を発見した]

 『はいですの。……原川さん』

 「ああ。今連絡をいれた。ガンドルフィーニが向かうらしい」

 彼らの仕事は――役に立たない電子系監視システムの代役である。
 なにせ、この《雷の眷属》はもはや数少ない5-thGの生き残りだ。機竜の名に恥じぬ性能を持っている。
 内蔵された機構を稼働させれば、例え概念空間だろうと結界が展開されていようと、ある程度以上の情報を手に入れる事が出来る。
 あの7-thGの四龍兄弟を相手にしたときでもそうだった。
 現状、この機竜は、おそらく今現在駆動している麻帆良の機械の中で、トップクラスに有効な物だろう。
 夜空を、自在に――とまではいかないが、それなりに自由に飛び回っている機竜は――。

 [ヒオ]

 そんな風に、声を掛ける。

 『なんですの?サンダーフェロウ』

 [麻帆良の女子中学校周辺で概念空間が展開されたぞ。3-Aの彼女だと思うが]

 『そう……ですか。――どうしましょう、原川さん』

 「任せておけ」

 原川の言葉は簡潔だった。

 「心配ならば映像くらいは見ても良いだろうが、あちらは彼女達に任せておけ。――下手に内部に介入してUCATの立ち位置を危険に晒す訳にもいかない。それに」

 原川は、一回言葉を切る。

 『それに――なんですの?』

 「いや。……譲れない仕事は、誰にでもある物だろう」

 『はあ、例えば?』

 「お前の世話をするのが、俺の仕事であるように――彼女達の仕事をするのが、あの流氷と牢獄の担い手だろう」

 [原川。……お前は時折、殺し文句をさらりと言うな]

 「そうか。気にするな」

 ヒオからは悶えている感覚が伝わってくるが、原川は無視をする。この程度以上のこと。具体的に言うならばロリコンの謗りを受ける事を覚悟した上での「夜」のアレヤコレヤなど出来る訳もない。まあ、あの全竜交渉での面々の中では、最もまともなカップルだろうと思っている原川であるが。
 それはともかく。

 「もしも俺ならば、そこで手を出されたくはない。それはお前もそうだろう?ヒオ・サンダ―ソン」

 『そうですね。……はい、そうです。同じ目的の人以外には、あまり出しゃばって欲しくないですのね』

 そういうことだ。
 何も――そう、言い方は悪いが、事情を知らない部外者が口を出しても良いのは。
 それ相応の覚悟を持っている者だけなのだから。
 そして、今の彼らは、それが出来る状況にはない。
 映像を見ながら、ヒオが言う。

 『これは……水、ですのね』

 「ああ。吸血鬼の弱点だな」

 《雷の眷属》は策敵を続けている。

 『P-rzって……プリズン、の意味でよろしかったのですのよね?』

 「ああ。そうだな。純粋に相性が良い。彼女が展開した2ndGの概念は――名前が力を持つ世界。――彼女の名前から考えれば、水を操って当然だろう」

 何せ彼女は――大河を冠しているのだから。
 例えば。
 会話こそ少ないが、彼女の父親が技術者だということは知っている。
 前線では無かったが、中線とも言うべき部分で、彼女はあの最終決戦を生き抜いたのだから。
 だから、特に心配することもない。
 原川は、映像を消して《雷の眷属》からの情報を整理する。


 全竜交渉部隊とは――言わずとも良い。そう言う、仲間だ。



     ○



 前衛を葛葉刀子に任せ、後衛で砲撃を放つ。

 「メイプル・ネイプル・アラモード」

 佐倉芽衣にとって――魔法とは、即ち道具である。
 かつては、確かに先輩である高音・D・グッドマンのように、魔法使いという存在に憧憬を覚え、そして人を救うべくあるのだと言う考えを持っていた。
 だが――今は違う。
 確かに、救える人を救おうとするのは人間として当然であるだろうし、救わずに逃げるのはどうかとも――思うのだが。
 今の芽衣にとっては、魔法と言うものが便利で会っても、しかし依存をして良いものであるとは思えなくなっている。
 詠唱をし、発動する。

 「赤き焔」

 紅蓮の光球が相手に直撃し、爆発と共に吹き飛ばす。加減はしてあるから死にはしないだろう。
 卒業をした、アメリカでのこと。
 ジョンソン魔法学校において――魔法使いという存在が、決して正義の味方では無いと言う事を、教えられたのだ。
 偶然、偶然にやってきた――アメリカの対妖魔特殊部隊。エンジェルセイバーの青年。
 リュータ・サリンジャーに。



 魔法学校は基本的に安全だ。
 だが――しかし、全てが全て清廉潔白と言う訳では無い。
 麻帆良とてそうなのだから、アメリカの状態とて、推して知るべきであろう。
 芽衣が、リュータに出会ったのは――とある事件でのことだ。
 いや、言い方を変えるのならば、それは事故か、あるいは災厄と言うべきか。
 アメリカの魔法学校を襲ったのは――人為的な災害だった。
 実地研修中の魔法学校生、芽衣達のいたクラスはその日――たった一体の魔神によって壊されたのだ。
 クラスメイト30人の内、生存者は僅か三分の一。
 だが何よりも芽衣の心に傷跡を残したのは。


 魔法学校を存続させるために、魔神の襲来があったことがごく一部を除いて秘匿され、そして――無かったことにされたと言う事だった。


 芽衣は腰元から、一丁のサバイバルナイフを取り出す。
 これは、その魔神を退治してくれたエンジェルセイバーの備品だ。あちらを経つ時に、こっそりと渡されたものである。
 事件以降。
 芽衣は――現実を知った。
 考えてみれば当然のことだ。魔法使いや其れに類するものが、秘匿されると言うならば――そこで、仮に事故・事件等で死者が出た場合、極普通に情報操作をされ、そして始末されるのだと。
 魔人や吸血鬼、そして魔神――そういった、人間以上の存在が関わった事件は、特に厳重に。まるで封印されるように、片付けられる。
 現に。この学園において、ジョンソン魔法学校での事件を、きちんと把握しているのは――学園長と、タカミチ・T・高畑と。そして、彼女自身が話した……例えば、エヴァンジェリン・A・K・マクダウェルであったり、ルルーシュ・ランぺルージであったりのみだろう。
 芽衣は、それ以来――魔法を手段・道具として見るようになった。
 死んでしまったクラスメイト達は――交通事故で死んだと発表されている。彼らの家族でさえも、それ以上のことを語ろうとはしない。
 表に出そうとしないのことを、至極当然であると受け入れている。
 芽衣にとって、それは――気味が悪かった。
 芽衣とて、もはや中学生だ。理屈はわかる。表に出すわけにいかないと言うのも、十二分に把握している。
 だが、しかし。
 ならば――そうやって死んで行った者たちの意思は、どうなるのだ。
 どこに、消えて行ってしまうのだ。
 運が悪かったのはそうだろう。実力が無かったのも、仕方が無かったのだろう。
 だが、事件そのものすらも隠蔽してしまう意味は、何所にある。
 芽衣が今、ここで生きているのは――本当に、運が良かっただけなのだ。
 死ぬ前に、エンジェルセイバーがやって来てくれたと言う、ただそれだけの話なのだ。
 無謀にも魔神に向かって行った男子も、逃げまどい泣き叫び死んで行った少女も、囮になって時間を稼いでくれた教師も、皆。芽衣にとって――大事な友人だったのだ。
 その死が隠されてしまう。
 消され、失われてしまう。
 彼らのいた意味は、意思は――生き延びた芽衣にしかもはや解らないだろう。
 あの事件で生き延びて、それでもなお、魔法世界に関わっている人間は――彼女一人なのだから。
 佐倉芽衣にとって。
 故に、もはや魔法とは道具である。
 自分自身が生きるための、手段である。
 正義の味方であるつもりはない。ただ、自分と、自分が本当に守りたい人間だけを――守れるようになれれば、それで良い。
 そうやって生きる事が出来るように、助けてくれた彼らにこっそりと、しかし容赦なく鍛えられて。
 その選別として、このナイフを譲り受けた。
 塚の部分には、確かにサインが刻まれている。
 リュータ・サリンジャーと、ジョージ・レッドフィールドの名前が。

 「メイプル・ネイプル・アラモード」

 芽衣は呪文を唱える。
 これを決めたのは、向こうの学校だった。


 それを知る者は、もはやいない。



     ○



 学園の一角で。

 「♪~~」

 フンフン、と鼻歌を歌いながら、たたずむ女子が一人。
 周囲には無数の流血。
 散乱した屍。
 そして、鋏であったり、ホチキスであったり、コンパスの針であったりがある。
 ザクザクと、幾つもの死体に突き刺さっている。
 その内の何体かは、頭と体が分かれてしまっている。
 それを行った凶器は、彼女の人工の手の内でクルクルと回転していた。
 この鋏が何であり、そして彼女がどのような存在であるかを知る者ならば――殆どが近付かないだろう。
 近づくとしたらそれは、彼女よりもよほど腕の立つ存在か、あるいは彼女の同族か。
 それか、鋏の名の通り――《自殺願望》の者だけだろう。
 少女の名前は零崎舞織。
 徹頭徹尾、理由無く人を殺す性質を持つ、最も忌み嫌われる殺人一家の最新の娘である。

 「えらく汚れてますが、大丈夫ですか?ゼロさん」

 そんな風に、彼女の見る先には――《泡》によって飛ばされた、一体の人形がいた。
 《福音》の配下・殺戮人形そのままのチャチャゼロである。

 「マアナ」

 同じように、ファルシオンを楽々と振り回す人形である。
 ブンブン、クルクルと二つの音を交差させながら、二人は麻帆良と外の境界線付近を、ふらふらと歩いている。
 目的は――まあ、あえて言うならば侵入者の排除なのだが。
 しかし、そう簡単には出会えない。

 「暇ですね~」

 「ソウダナア」

 両者とも。
 チャチャゼロは当然として舞織も、自分自身が人間であるとは思っていない。
 舞織は――あの人類最強に、存分に完膚無きまでに叩きのめされて以来(それはもう橙色のおかげで満足に動けないくせに、顔面入れ墨の兄と二人で責めて行って、片腕で戦闘不能に追い込まれたくらいに負けたのだ。)己の為に殺す事は無くなっている。しかし、そこは零崎。あの最強も、ある程度までは事情を知って、組んでくれている。
 正当な理由がある場合のみ――まあ、何とか許可を出してくれた。
 それは例えば、家族に手を出された時だとか、正当防衛であったりだとか――もしくは、きちんとした契約の上であったりだとか。
 そんな物に制限されているのは、正直――殺す事が無いと息苦しい、生粋の殺人気にとっては不服なのだが。しかし、家族を危険にさらし、そして一賊全滅の危機を自分たちから呼び出すのもどうかと思う。

 「あ、化け物発見ですね」

 「ソウダナ」

 目の前に――召喚されたと思しき、鬼がいた。
 外見と言い体格と言い、普通の女子……いや男子であっても戦慄を覚えずにはいられないだろうが、あの人類最強や、そこまでとは行かなくとも『殺し名』の人材と比較して見れば、全然ザコである。

 「♪~~♪」

 「ケケケケケ」

 軽い鼻声と、笑い声で――共に、簡単に始末していく。
 舞織の――細い足から飛び出た大鋏が、容易く鬼達を切断し、チャチャゼロの刃が切り刻んでいく。
 ザシュリザシュリと血飛沫が舞う。
 ドスリドスリと突き刺さる。
 クルクルと鋏が回る。
 グルグルと大刃が踊る。
 月下の元、舞い踊る二人は――鬼たちよりも、ほよど恐ろしい怪物だった。



 「ところで、ゼロさん……。私と一緒に行動して、楽しいですか?」

 「マアナア……オ前ト一緒ダト、妙ニ獲物ガ多イカラナ。……アア、ゴ主人カラノ許可ハ貰ッテルカラナ。今日ハモウ、スキ勝手ニ遊ンデ良イトサ。……サア、次ハドッチニ行ク?」

 「じゃあ……右に曲がりましょうか。なんとなく相手が多くなりそうです」

 「ヨシ」

 おそらく。
この大停電においても、普段とやっていることが最も変わらない一人と一体であった。



     ○



 レレナ・パプリカ・ツォルドルフは、視界の中で、少年と《福音》とがぶつかり始めたのを確認する。
 同時に、神楽坂明日菜と、絡繰茶々丸の戦いが始まったことも。
 勝ち目は――正直、薄いだろうと思っている。
 だが、どんな結果になるにせよ、あの少女と少年には――大きな経験となるだろう。

 「頑張ってくださいね」

 呟く。
 レレナの役目は、見届ける事だ。
 そして《福音》の意思と行動を――伝える事でもある。
 それが仕事である以上、介入することは出来ないし、してはいけないだろう。
 女子寮の屋根から、飛びあがった少年達を見る。
 彼女がいるのは、女子中学校校舎の屋根の上だ。夜目が効く彼女ならば、支障はない。
 彼女が麻帆良にきて――十日間。
 長い様で、短い期間だった。
 これが終わった後――どうなるのかは、まだ判らないが。
 しかし、とても、楽しい十日間だった。
 エヴァンジェリン、茶々丸、ネギ、明日菜、霧間凪……この十日間で、色々な人に関わった。レレナは、ほんの僅かに懐かしみ。
 そうして。

 「あれ?」

 彼女は、そこで気が付いた。
 おかしい。
 彼女の役目は、基本的に監視だったはずだ。
 ハーフではあるけれども、「カンパニー」から送られてきた調停役であり、基本的に中立の立場にあり……そして、この事件を見届ける事こそが、仕事だったはずだ。
 学園の誰からも攻撃を受ける義理は無いし、よしんば恨みを買った覚えもない。
 まして――いまは、吸血鬼の性質もあるのだ。

 「……え?」

 あまりにも、それは唐突だった。
 軽い、あまりにも軽い衝撃故に、何か起きたのかはさっぱり分からなかった。
 レレナ・パプリカ・ツォルドルフ。現在は「吸血鬼」と「人間」と関係を結ぶ、「カンパニー」の調停役に就く女性。

 「な、んで」

 ならば何故――



 私が、背後から刺されているのだ?



 ゴボリ、と血がせり上がり、口元からこぼれて行く。
 わからない。
 体の中心を貫通するそれは、おそらくはナイフだろう。
 黒の僧服に、鮮血が染み込んでいく。

 「どう、や、って?」

 もう一度言おう。
 彼女は――吸血鬼の性質でもあるのだ。
 ハーフの性質故に、吸血鬼の弱点は効果を大きくはもたらさず、そして肉体や感覚器官は――人間よりも向上している。
 それなのに。
 相手は、レレナに気が付かれることなく――行動を終わらせていた。
 傷口は熱く。
 刃は、ひどく冷たく。
 足から力が抜ける。
 解らない。
 判らない。

 「誰、が」

 こんな事を、したと言うのだ。
 ドサリ、と地面に倒れたレレナは、チャリン……と、胸の十字架が鳴った音を聞く。
 横づけになった顔が、地面に付く。
 右目で、自分の背後にいるであろう人物を見る。

 「!?」

 その人物の――顔を見る。

 (何、で!?)

 なぜだ。
 わからない。
 頭の中が、混乱する。
 何故。
 どうして。
 何故、ここにいるのだ。
 レレナを後ろから刺したその人物は。



 そこにいるはずのない人物だったのだから。



 何が起こっているのか。
 分からない。
 ワカラナイ。
 ドクドクと、倒れた体から、赤い血が流れ出て行く。
 閉じかけ、霞む視界の中――レレナを刺したその人物は。



 にこり、とレレナの知るそのままの顔で笑った。



 そしてレレナは意識を失った。




 停電の裏で。
 陰謀が、動き始める。


前を表示する / 次を表示する
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

SS-BBS SCRIPT for CONTRIBUTION --- Scratched by MAI
0.03073787689209