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No.10029の一覧
[0] (旧題)ネギま・クロス31 叙事詩・少年と世界  第二章完結[宿木](2009/11/21 20:56)
[1] 「習作」ネギま・クロス31 プロローグその① 魔法教師の場合[宿木](2009/09/08 23:32)
[2] 「習作」ネギま・クロス31 プロローグその② 魔眼王の場合[宿木](2009/09/18 20:00)
[3] 「習作」ネギま クロス31 第一章《教育実習編》その一・前編[宿木](2009/07/06 19:10)
[4] 「習作」ネギま・クロス31 プロローグその③ 《神》と子供達の場合 [宿木](2009/07/12 00:46)
[5] 「習作」ネギま・クロス31 プロローグその④ 《必要悪の教会》の場合 [宿木](2009/07/07 23:15)
[6] 「習作」ネギま クロス31 第一章《教育実習編》その一・後編[宿木](2009/07/14 22:38)
[7] 「習作」ネギま・クロス31 プロローグその⑤ 戯言使いの場合 [宿木](2009/07/09 19:23)
[8] 「習作」ネギま・クロス31 その頃の世界情勢~UCAT編~[宿木](2009/07/14 22:30)
[9] 「習作」ネギま クロス31 第一章《教育実習編》その二・前編[宿木](2009/07/15 01:26)
[10] 「習作」ネギま・クロス31 プロローグその⑥ 管理局の白い悪魔の場合[宿木](2009/07/19 09:46)
[11] 「習作」ネギま クロス31 第一章《教育実習編》その二・後編[宿木](2009/07/15 01:27)
[12] 「習作」ネギま・クロス31 プロローグその⓪ 魔王と魔女と少女の場合[宿木](2009/07/09 19:42)
[13] 「習作」ネギま クロス31 第一章《教育実習編》裏舞台・表[宿木](2009/09/14 22:45)
[14] 「習作」ネギま クロス31 第一章《教育実習編》裏舞台・裏[宿木](2009/07/17 01:37)
[15] 「習作」ネギま・クロス31 その頃の世界情勢~億千万の眷属編~[宿木](2009/07/15 01:29)
[16] 「習作」ネギま クロス31 第一章《教育実習編》その三・①[宿木](2009/07/17 01:39)
[17] 「習作」ネギま クロス31 第一章《教育実習編》その三・①―裏[宿木](2009/07/18 00:37)
[18] 「習作」ネギま クロス31 第一章《教育実習編》その三・②[宿木](2009/07/18 00:38)
[19] 「習作」ネギま・クロス31 その頃の世界情勢~麻帆良大学部編~[宿木](2009/07/12 17:35)
[20] 「習作」ネギま クロス31 第一章《教育実習編》その三・②―裏[宿木](2009/07/18 00:41)
[21] 「習作」ネギま クロス31 第一章《教育実習編》その三・③[宿木](2009/07/18 00:43)
[22] 「習作」ネギま・クロス31 元ネタ辞典(組織・及び生徒)[宿木](2009/09/18 20:04)
[23] 「習作」ネギま クロス31 第一章《教育実習編》その三・③(裏)[宿木](2009/07/20 14:47)
[24] 「習作」ネギま クロス31 第一章《教育実習編》その三・④[宿木](2009/09/10 00:37)
[25] 「習作」ネギま・クロス31 その頃の世界情勢~仮面の反逆者編~[宿木](2009/09/10 00:40)
[26] 「習作」ネギま クロス31 第一章《教育実習編》その三・④(裏)[宿木](2009/09/10 00:47)
[27] 「習作」ネギま クロス31 第一章《教育実習編》その三・番外編[宿木](2009/09/10 00:52)
[28] 「習作」ネギま・クロス31 元ネタ辞典(登場人物編)[宿木](2009/09/18 20:21)
[29] 「習作」ネギま クロス31 嵐の前の静けさ・その一(表)[宿木](2009/09/10 00:55)
[30] 「習作」ネギま クロス31 嵐の前の静けさ・その一(裏)[宿木](2009/09/10 01:02)
[31] 「習作」ネギま クロス31 嵐の前の静けさ・その二(表)[宿木](2009/09/18 20:25)
[32] 「習作」ネギま クロス31 嵐の前の静けさ・その二(裏)[宿木](2009/09/18 20:27)
[33] 「習作」ネギま・クロス31 その頃の世界情勢~統和機構編~[宿木](2009/09/18 20:29)
[34] 「習作」ネギま クロス31 嵐の前の静けさ・その三(表&裏)[宿木](2009/09/18 20:32)
[35] 「習作」ネギま・クロス31 その頃の世界情勢~《乙女》と《福音》編~[宿木](2009/09/18 20:36)
[36] 「習作」ネギま クロス31 第二章《福音編》序章[宿木](2009/09/18 20:38)
[37] 「習作」ネギま クロス31 第二章《福音編》その一(昼)[宿木](2009/09/18 20:48)
[38] 「習作」ネギま クロス31 第二章《福音編》その一(夜)[宿木](2009/07/26 17:21)
[39] 「習作」ネギま クロス31 狭間の章・壱[宿木](2009/07/26 23:04)
[40] 「習作」ネギま クロス31 その頃の世界情勢~神殿協会(上の方)編~[宿木](2009/07/27 21:06)
[41] 「習作」ネギま クロス31 第二章《福音編》その二(昼)[宿木](2009/07/28 21:25)
[42] 「習作」ネギま クロス31 第二章《福音編》その二(夜)[宿木](2009/07/29 17:50)
[43] 「習作」ネギま クロス31 第二章《福音編》その三[宿木](2009/07/31 01:27)
[44] 「習作」ネギま クロス31 狭間の章・弐[宿木](2009/07/30 20:06)
[45] 「習作」ネギま クロス31 第二章《福音編》その四(昼)[宿木](2009/07/31 16:36)
[46] 「習作」ネギま クロス31 第二章《福音編》その四(夜)[宿木](2009/08/01 18:57)
[47] 「習作」ネギま クロス31 その頃の世界情勢~上条勢力編~[宿木](2009/08/02 15:33)
[48] 「習作」ネギま クロス31 第二章《福音編》その五(表)[宿木](2009/08/03 14:56)
[49] 「習作」ネギま クロス31 第二章《福音編》その五(裏)[宿木](2009/08/04 14:32)
[50] 「習作」ネギま クロス31 第二章《福音編》 カーニバル(準備)[宿木](2009/08/05 22:32)
[51] 「習作」ネギま クロス31 第二章《福音編》 カーニバル 表舞台①[宿木](2009/08/16 04:07)
[52] 「習作」ネギま クロス31 第二章《福音編》 カーニバル 表舞台①(2)[宿木](2009/09/08 23:35)
[53] 「習作」ネギま クロス31 第二章《福音編》 カーニバル 表舞台①(3)[宿木](2009/09/08 23:36)
[54] 「習作」ネギま クロス31 第二章《福音編》 カーニバル 裏舞台①[宿木](2009/09/11 13:53)
[55] 「習作」ネギま クロス31 第二章《福音編》 カーニバル 表舞台②[宿木](2009/09/11 13:57)
[56] 「習作」ネギま クロス31 第二章《福音編》 カーニバル 表舞台②(2)[宿木](2009/09/14 22:46)
[57] 「習作」ネギま クロス31 第二章《福音編》 カーニバル 表舞台②(3)上[宿木](2009/09/14 20:43)
[58] 「習作」ネギま クロス31 第二章《福音編》 カーニバル 表舞台②(3)下[宿木](2009/09/14 20:37)
[59] 「習作」ネギま クロス31 狭間の章・参[宿木](2009/09/15 11:41)
[60] 「習作」ネギま クロス31 第二章《福音編》 カーニバル 表舞台②(4)[宿木](2009/09/16 19:23)
[61] 「習作」ネギま クロス31 第二章《福音編》 カーニバル 裏舞台②[宿木](2009/09/17 17:50)
[62] 「習作」ネギま クロス31 第二章《福音編》 カーニバル 表舞台③[宿木](2009/09/22 20:21)
[63] 「習作」ネギま クロス31 第二章《福音編》 カーニバル 表舞台③(2)[宿木](2009/10/06 21:20)
[64] 「習作」ネギま クロス31 第二章《福音編》 カーニバル 表舞台③(3)[宿木](2009/10/15 01:48)
[65] 「習作」ネギま クロス31 第二章《福音編》 カーニバル 表舞台③(4)[宿木](2009/10/15 01:47)
[66] 「習作」ネギま クロス31 狭間の章・肆[宿木](2009/10/16 00:01)
[67] 「習作」ネギま クロス31 第二章《福音編》 カーニバル 裏舞台③[宿木](2009/10/18 10:57)
[68] 「習作」ネギま クロス31 第二章《福音編》 カーニバル 表舞台④上[宿木](2009/10/26 01:04)
[69] 「習作」ネギま クロス31 第二章《福音編》 カーニバル 表舞台④中[宿木](2009/10/23 00:16)
[70] 「習作」ネギま クロス31 第二章《福音編》 カーニバル 表舞台④下[宿木](2009/10/26 01:22)
[71] 「習作」ネギま クロス31 第二章《福音編》 カーニバル 表舞台④(2)[宿木](2009/10/28 22:56)
[72] 「習作」ネギま クロス31 第二章《福音編》 カーニバル 表舞台④(3)[宿木](2009/11/06 00:46)
[73] 「習作」ネギま クロス31 第二章《福音編》 カーニバル 表舞台④(4)[宿木](2009/11/06 00:16)
[74] 「習作」ネギま クロス31 第二章《福音編》 カーニバル 裏舞台の舞台裏[宿木](2009/11/08 18:48)
[75] 「習作」ネギま クロス31 第二章《福音編》 宴の後①[宿木](2009/11/10 10:55)
[76] 「習作」ネギま クロス31 第二章《福音編》 宴の後②[宿木](2009/11/11 23:58)
[77] 「習作」ネギま クロス31 第二章《福音編》 宴の後③[宿木](2009/11/14 23:28)
[78] 「習作」ネギま クロス31 第二章《福音編》 宴の後④[宿木](2009/11/18 14:35)
[79] 「習作」ネギま クロス31 第二章《福音編》 福音は誰が為に[宿木](2009/11/21 21:05)
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[10029] 「習作」ネギま クロス31 第二章《福音編》 カーニバル 表舞台①
Name: 宿木◆442ac105 ID:075d6c34 前を表示する / 次を表示する
Date: 2009/08/16 04:07
 

 ネギま クロス31 第二章《福音編》カーニバル・表舞台①


 午後八時。
 学園内の全ての電力が、限定された一部を除いて落ち。
 彼女を縛っていた封印が、消滅する。
 ――そして。


 それは、来た。
 例え、彼女のいたログハウスより、最も離れた場所にいた魔法教師ですらも、わかる。
 巨大な、だとか。
 凄い、などという、そんな形容詞では言えないほどの。
 圧倒的な、魔力。
 それが、まるで波動のように空間に伝わり。
 うねり、押し寄せ。
 奔流となって、現れ。
 皆の体に、叩きつけた。



     ○



 女子中学校校舎内。

 「こ、こいつぁ、マジで」

 肩に乗ったカモ君の声も震えている。
 僕でも。
 いや、魔法を知り、魔力をしる物ならば――悟ってしまう。
 嫌が応にも、悟らざるを得ないだろう。
 エヴァンジェリン・アタナシア・キティ・マクダウェルの、その実力を。
 僕は思う。
 父さんは――こんな相手に、勝ったのか。
 勝って、そして自らのメンバーに加えたのか。
 カモ君の調べて来た情報が、偽りなく真実であると理解する。
 彼女が、真の強者であることを、理解する。
 そして――今、僕の相手であることを、理解する。

 「行くわよ、ネギ」

 「……ええ、明日菜さん」

 それでも、僕は目に進んだ。
 もう、進むしか道が無い、とも言える。
 ここで引いたら、それこそエヴァンジェリンさんは――僕から興味を失うだろう。
 だけれども、彼女の興味だとか、あるいは自分の実力だとか、そんな事はどうでも良く。
 僕は、想う。
 ここが、戦場なのだから。
 僕が、戦場に、ここにいるのは――自分の意思を示すためなのだから。
 逃げてはいけない。
 なのはさんが、かつて僕に言った。


 『逃げたら――君は、二度と杖を持てなくなる』


 その通りだ。
 ここで逃げたら――僕は、一生それを引きずるだろう。
 自分の目標を、自分で否定することになるだろう。
 僕は答えた。
 本当の魔法は、ほんの僅かでも良い、勇気なのだと。
 ならば、僕は前に進むのだ。
 その勇気を振り絞って。
父さんや、目指す領域にいる人達の後を追えるように。
 僕の意思は、決まっている。
 エヴァンジェリンさんが、僕の前に試練として身を捧げるならば。
 それに答えるのは、一つ。
 エヴァンジェリンさんに、負けを認めさせること。
 カモ君の言った推測が、僕も正しいと思う。
 だからこそ。
 ――僕は、彼女の意思を、砕いて見せよう。
 自分の意思で、彼女に勝って見せよう。
 そんな時。


 「ケッ、随分トマア、楽シソウナ精神ヲ感ジルジャネエカ」


 上から、声と共に斬撃が降ってきた。



     ○



 停電時。
 大浴場・「涼風」にて。

 「あ~電気消えちゃったよ。……亜子、見つかった?」

 「……う、いや、あらへんな」

 そんな会話をしている、明石裕奈と和泉亜子。
 二人がここにいるのは、ひとえに友人・まき絵の頼みの為である。
 大河内アキラは何をしているのかと言えば――なにやら、大停電の日に頼まれた仕事があるらしい。ゴメンと言われて、断られたのだ。
 まき絵が持っている――何でも知り合いから貰った、貴重な銀製の代物(常に持ち歩いている)を、この辺りで落としたと言う話を聞いた裕奈と亜子は――こうして、停電までそれらを探していた。
 そのまき絵は、と言うと。

 「………………」

 一心不乱に探しており――一言も、言葉を話さない。

 「まき絵~?どう?」

 そんな裕奈の言葉にも反応せず。

 「……まき絵?」

 亜子の声にも、答えず。
 一心不乱に。
 否。
 何も動かず。
 先程までは動いていた筈の肉体が――まるで、硬直してしまったかのように、動かずに。
 それは――止まっていた。

 「――?……まき絵?」

 流石に、おかしいと気が付いたのか。
 亜子がまき絵に声をかけ。

 「――っ!ダメ!亜子、下がって!」

 咄嗟に――野性的な勘で、裕奈の上げたその声に。

 「え?」

 振りむいた亜子の首筋に――。
 まき絵の八重歯が突き刺さった。



     ○



 走る。
 闇の中の失踪は、危険だが――魔力の供給で、眼の力が上がっているからだろう。
 走るのに苦労はしないが――しかし。
 体が重い。
 走る明日菜にしがみ付く塊が、体の動きを拘束しているからだ。
 纏わりつくのは、布と綿とが詰まったただのぬいぐるみだが。

 「――こっの」

 明日菜は、前方に湧き出た――影から生み出されるように現れるぬいぐるみを、蹴り飛ばす。

 「邪魔!」

 魔力供給された人間の蹴りは――例え素人でも、岩を砕くほどの威力を出す。明日菜ほどの体力と、今現在は彼女は走っている最中だ。加速力で、その威力は跳ね上がっている。
 振りぬかれた左足が、ぬいぐるみに直撃し――簡単に吹っ飛ぶが。
 ぬいぐるみは――布なのだ。
 蹴られても衝撃を吸収し、空気抵抗で遠くに飛ばされる事もなく。
 ある程度宙を飛んだら、そこで地面に落下し――土や砂で汚れただけで、起き上って来る。
 そうして、幾度も幾度も飛びかかり。
 避けきれなかったぬいぐるみが、体から離れない。
 しがみ付いているだけならばともかく。
 視界を塞ぎ。
 髪や服を引っ張り。
 そしてなにより。

 「鬱陶しい!」

 精神的に、凄く屈辱感を味わうのだ。
 麻帆良の女子中学校と、明日菜達の住む寮、そして図書館島の位置関係は――以前木乃香が話していたが、正面から見た場合、中央・右・左の順になる。より正確には――中心角が開いた大きくVの字型に近い物だと思えば良い。
 字の両端に位置するのが図書館島と寮であり――この二つを結ぶ通りの一つが桜通りである。明日菜達がいるのは中学校から寮へと向かう道路だった。

 「ええいっ!」

 叫ぶ明日菜は、ミイラウサギのぬいぐるみを街灯に叩きつけて振り落とし。
頭上、ネギを見る。
 上空ならば被害は少ないかと思ったが――しかし、相手は、そう甘くなかった。
 夜空に、何かが煌く。
 明日菜でも、辛うじてあることが解る位。
 月にかかっているからこそ、眼を細めてやっと視認できるそれは――

 「……糸」

 正確には糸では無く、絃だったが。
 空中には――無数の糸が走っていた。



     ○



 夜空。月光の下。
 進路方向を塞ぐように張り巡らされた糸は、まるで蜘蛛の巣のようだった。

 「カモ君!――これって!」

 下降と上昇を繰り返し、回避する。僕の動きを拘束するためだけの糸だ。飛べない明日菜さんには人形が迫り――僕には、この無数の糸が迫る。

 「ああ……確か『人形遣い』は、周囲数キロの絃を自在に操れるって、聞いたことがありやすぜ」

 一本一本が、裁縫の糸より細いくらい。カモ君が言うには――本当ならばピアノ線レベルにもできるらしいので、つまりは手加減されているのだろう。
 細くて軽いから、当たっても全く支障はないけれども――スピードを落とせないのだ。
 なぜなら――

 「ケケッ!トロトロシテルト追イツイチマウゾ?」

 壊れた笑いのまま、追いかけてくるキリングドールがいるからだ。
 おそらく、僕を消耗させるための存在。
 体験してみれば判るけれども――追跡される事は、凄く神経を使うのだ。疲労が貯まる。
 殺されないけれども――捕まったら、おそらく相応に恐ろしい事をされるだろう……というのは、協力してくれた凪さんのコメントだった。
 果たして何をされるのか、それは教えてくれなかったけれど……耳打ちされた明日菜さんが、赤くなったり青くなったりしていた以上。きっと危険なことなんだろう。
 左右に飛んで、正面の糸を回避し――

 「兄貴避けろ!」

 その声に咄嗟に、上昇する。
 さっきまでいた空間を通り過ぎ、ダンッ!と音を立てて、路上に大きなナイフが突き刺さる。
 気を抜けない理由がこれだった。
 時折、捕まるのとは別の意味で危険な、大振りの刃物を投擲してくるのだ。
 遠くから、じっくりと――獲物をいたぶるように。

 「――はあっ……カモ君、明日菜さんは」

 息を吐いて、尋ねる。
 糸が――きちんと集中すれば、回避できるように張ってあるのが、巧妙だった。左下から抜け、右下へ上昇し。

 「ラス・テル・マ・スキル――」

 前方、魔法の矢を射出し。
 それぞれを互いにぶつけて相殺させ。
 その余波で、糸を切断し。
 乱れた空間を、一気に渡り――上昇する。
 建物は、つまり糸の接地面が多い。
 できれば障害物の無い、空が良いのだが。
 あまり離れると――今度は、明日菜さんに全ての目が向くのだ。
 息を整えるくらいしか、高く飛んでいられない。

 ――違う。

 息を整えるくらいの時間を、与えているのだ。
 遊ばれているのである。

 「……っ無事でさあ」

 前方と左右を僕が、後方と明日菜さんを見るのがカモ君の役目だ。
 身体能力が上がっているし、運動能力が高い明日菜さんだ。僕は一瞬、安堵するけれども――

 「気イヌイテンジャネエヨ、ガキ」

 その一瞬の緩みを狙って、人形が数十もの刃物を投擲する。どこから取り出したのか分からないけれども――。
 殺到する銀色の群れは下から伸び――。

 「――っく!」

 回避した僕は、いつの間にか巻き付いた数十以上の糸で、強引に地上に牽引され。
 下降を余儀なくされる僕に――。
 今度は、先ほどの刃物が落下し、雨のように降り注ぐ。

 「《風よ――》!」

 「ネギ!」

 僕に並走する明日菜さんの、二人に。

 「《我らを!》」

 突風を与え。
 刃の群れを吹き飛ばし。
 強引な加速で、引き離すが――再び、糸とぬいぐるみの攻撃だ。
 そうやって何回か繰り返す。
 何回目だったか。
 桜通りに並行する、道路の一本で明日菜さんと並走した際に、

 「ちょ、っと……これ、本格的に、やばい、わよ」

 そんな風に、言われる。
 体力では無い。
 千日手の様な。そんな、精神的な攻撃が大きいのだ。
 僕はまだしも――明日菜さんには、特に。
 喧嘩でも無く、そもそもこれは――エヴァンジェリンさんにとっては――ただの前座なのだろう。
 搦め手で、精神を消耗させる……やることに、容赦が本当に無かった。
 寮が見えてくる。
 ようやっと――だ。
 ここまで来るのに、十五分以上かかってしまった。

 「マア、ココマデハ来タカ」

 後ろで、人形が凶悪そうに笑って。
 おそらく、ケラケラと笑っているのが、雰囲気で判る。
 そして。

 「ソレジ――」



 フッ――と。
 人形の声が消えた。



 振りむいた先にあるのは、ただの夜の空だけ。
 さっきまで何かを話していたあの存在は――居なくなっていた。



     ○



 チャチャゼロの現状を、最初に状況を正しく認識したのは、ウィル子だった。

 「マスター」

 『……何が』

 通信から聞こえる声に、ウィル子は簡単に一言を言う。

 「チャチャゼロさんが、生徒と対峙しています」

 『……生徒。――3-Aの?』

 「ええ……」

 『……状況は』

 「今、ルルーシュさんにも送ってますが――これは……絃ですね」

 エヴァンジェリンが生み出した糸を、逆に利用している存在がいると言う事か。

 『――誰、が?』

 その問いに答えようとしたウィル子の耳に――聞こえてくる、曲。
 チャチャゼロに、ネギの追跡を断念させた――否。
 おそらくは――相手が、チャチャゼロを糸で引っ張り上げ、そして糸を利用された事で――チャチャゼロが、邪魔をするなとその相手に言ったのだろう。
その相手が、笛を吹いているのだ。

 「これは――」

 ネット上でも、噂として流れている、死神の伝説があった。
 神出鬼没、その人が最も美しく輝いている時に殺しに来ると言う存在は――例え夜でも、口笛を吹く。
 どこか物悲しい――アレンジされた。
 ニュルンベルグのマイスタージンガー。
 ドイツが作曲家ワーグナーの超大作を象徴する、名曲。
 それを聞きながらもウィル子は、ヒデオに、口笛を吹く「彼女」の名を言った。



     ○



 あの人形が消えたあと。――僕と明日菜さんは大浴場を目指す。
 いきなり消えた理由は分からない。
 でも、息を整えるのにも――冷静さを取り戻すにも、都合が良かったのは確かだ。
 エヴァンジェリンさんの膨大な魔力にかき消されていて、ほとんど分からないけれども。
 あちこちから、普段は抑えられているだろう魔力が感じられる。
 これも――停電の、影響なのだろう。
 他にも思う事はあるけれども――今は、エヴァンジェリンさんの事が、最優先だ。
 そんな風に考えながら。
 僕は箒を、女子寮の外を回るように露天風呂に向ける。
 明日菜さんを乗せて飛ぶのは……何故だか難しいけれども、とにかく浴室に向かう.。箒に乗せてゆっくりと上昇し――開いた廊下から中に入り、音をたてないように。

 ――いや。

 そうじゃない。
 冷静に注意を払えば、わかる。
 明日菜さんが、息をのんで。

 「ネギ……ここ、もしかして」

 静かすぎる。
 そう言う事を言いたいのだろう。

 「大丈夫、です」

 やったのが誰なのかは分からないけれども――以前の、桜通りの様な不気味さでは無い。むしろ、もっと静かな、眠りに誘うような静けさだ。
 明日菜さんを床に下ろし、僕も歩く。
 明かりの消えた建物は、皆寝静まっているのか――それともこの結界の効果によるものなのか、異様なほどに静かだった。
 涼風の湯までは、ほんの数分のはずなのに。まるで迷宮に入ってしまったかのように、長く感じる。
 その時。


 「      」


 遠く響く、澄んだ――。
 子守唄が。
 聴こえた様な気がして――。
 とっさに振り向くけれども。
 一瞬。


 小柄な、臙脂色のケープを纏った女の子が見えた――。


 気がした。
 よく見たら、誰もいない。
 誰も、いなかった。
 気の勢ではないのだろうけれども――僕には、見えない。
 明日菜さんも――気が付いたのだろう。僕と同じ用に反応したけれども彼女も、やはり何も見えなかったようだった。

 「……あまり長居しない方がいいわね。……行くわよ」

 「……ええ」

 今の歌声が――きっと、この結界を生んでいるのだろう。エヴァンジェリンさんの仲間かどうかは分からないけれども……これは、きっと無関係な人に被害を出さないための方法だ。
 階段を上がり、大浴場に。
 引き戸に手を掛ける。
 この中に、エヴァンジェリンさんがいる。
 一瞬、躊躇したけれども――明日菜さんが、僕に手を重ねてくれる。
 そうして。
 目で、互いに合図をして――中に入る。


 その時。


 図っていたかのように、タイミングよく。
 バリィィン――と扉の一枚ガラスが砕けて。
 僕も明日菜さんも身構えるけれども。
 入り口にいた僕と明日菜さんの前を横切り。その影が――飛んでくる。
 視界、右から左に横切ったそれは、紛れもなく人の形をしていて。
 脱衣所の壁に激突し、どう考えても破壊したという表現で、籠を巻き込みながら埃を飛ばし。
 続けて、その影に重なるように、飛んできて追突するもう一方の影。
 起きあがりかけた、最初の影に追突し、二人揃って木の山に埋もれる。
 僕も明日菜さんも、油断をせずに構えているけれど。
 壊れた木材の山の中から。

 「……ったあ」

 頭に手を当てて、軽く振って。
 予想外の人物に。僕と明日菜さんは動きを止めた。
 よろよろと、起き上ったのは――。

 「ゆ、ゆーな、……さん?」

 出席番号二番の――明石裕奈。
 そして。

 「……まき絵、力……強すぎるねん」

 出席番号五番の――和泉亜子だった。




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