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No.8211の一覧
[0] 魔法生徒ネギま!(改訂版)[雪化粧](2019/05/20 01:39)
[132] 魔法生徒ネギま! [序章・プロローグ] 第零話『魔法学校の卒業試験』[我武者羅](2010/06/06 23:54)
[133] 魔法生徒ネギま! [序章・プロローグ] 第一話『魔法少女? ネギま!』[我武者羅](2010/06/06 23:54)
[134] 魔法生徒ネギま! [序章・プロローグ] 第二話『ようこそ、麻帆良学園へ!』[我武者羅](2010/06/06 23:55)
[135] 魔法生徒ネギま! [序章・プロローグ] 第三話『2-Aの仲間達』[我武者羅](2010/06/06 23:56)
[136] 魔法生徒ネギま! [第一章・吸血鬼編] 第四話『吸血鬼の夜』[我武者羅](2010/06/07 00:00)
[137] 魔法生徒ネギま! [第一章・吸血鬼編] 第五話『仮契約(パクティオー)』[我武者羅](2010/06/07 00:01)
[138] 魔法生徒ネギま! [第一章・吸血鬼編] 第六話『激突する想い』[我武者羅](2010/06/07 00:02)
[139] 魔法生徒ネギま! [第一章・吸血鬼編] 第七話『戦いを経て』[我武者羅](2010/06/07 00:02)
[140] 魔法生徒ネギま! [第一章・吸血鬼編] 第八話『闇の福音と千の呪文の男』[我武者羅](2010/07/30 05:49)
[141] 魔法生徒ネギま! [第一章・吸血鬼編] 第九話『雪の夜の惨劇』[我武者羅](2010/07/30 05:50)
[142] 魔法生徒ネギま! [第二章・麻帆良事件簿編] 第十話『大切な幼馴染』[我武者羅](2010/06/08 12:44)
[143] 魔法生徒ネギま! [第二章・麻帆良事件簿編] 第十一話『癒しなす姫君』[我武者羅](2010/06/08 23:02)
[144] 魔法生徒ネギま! [第二章・麻帆良事件簿編] 第十二話『不思議の図書館島』[我武者羅](2010/06/08 20:43)
[145] 魔法生徒ネギま! [第二章・麻帆良事件簿編] 第十三話『麗しの人魚』[我武者羅](2010/06/08 21:58)
[146] 魔法生徒ネギま! [幕間・Ⅰ] 第十四話『とある少女の魔術的苦悩①』[我武者羅](2010/06/09 21:49)
[147] 魔法生徒ネギま! [第三章・悪魔襲来編] 第十五話『西からやって来た少年』[我武者羅](2010/06/09 21:50)
[148] 魔法生徒ネギま! [第三章・悪魔襲来編] 第十六話『暴かれた罪』[我武者羅](2010/06/09 21:51)
[149] 魔法生徒ネギま! [第三章・悪魔襲来編] 第十七話『麻帆良防衛戦線』[我武者羅](2010/06/09 21:51)
[150] 魔法生徒ネギま! [第三章・悪魔襲来編] 第十八話『復讐者』[我武者羅](2010/06/09 21:52)
[151] 魔法生徒ネギま! [第三章・悪魔襲来編] 第十九話『決着』[我武者羅](2010/06/09 21:54)
[152] 魔法生徒ネギま! [第四章・麻帆良の日常編] 第二十話『日常の一コマ』[我武者羅](2010/06/29 15:32)
[153] 魔法生徒ネギま! [第四章・麻帆良の日常編] 第二十一話『寂しがり屋の幽霊少女』[我武者羅](2010/06/29 15:33)
[154] 魔法生徒ネギま! [第四章・麻帆良の日常編] 第二十二話『例えばこんな日常』[我武者羅](2010/06/13 05:07)
[155] 魔法生徒ネギま! [第五章・修学旅行編] 第二十三話『戦場の再会?』[我武者羅](2010/06/13 05:08)
[156] 魔法生徒ネギま! [第五章・修学旅行編] 第二十四話『作戦会議』[我武者羅](2010/06/13 05:09)
[157] 魔法生徒ネギま! [第五章・修学旅行編] 第二十五話『運命の胎動』[我武者羅](2010/06/13 05:10)
[158] 魔法生徒ネギま! [第五章・修学旅行編] 第二十六話『新たなる絆、覚醒の時』[我武者羅](2010/06/13 05:11)
[159] 魔法生徒ネギま! [第五章・修学旅行編] 第二十七話『過去との出会い、黄昏の姫御子と紅き翼』[我武者羅](2010/06/13 05:12)
[160] 魔法生徒ネギま! [第五章・修学旅行編] 第二十八話『アスナの思い、明日菜の思い』[我武者羅](2010/06/21 16:32)
[161] 魔法生徒ネギま! [第五章・修学旅行編] 第二十九話『破魔の斬撃、戦いの終幕』[我武者羅](2010/06/21 16:42)
[162] 魔法生徒ネギま! [第五章・修学旅行編] 第三十話『修学旅行最後の日』[我武者羅](2010/06/21 16:36)
[163] 魔法生徒ネギま! [第六章・麻帆良の日常編・partⅡ] 第三十一話『修行の始まり』[我武者羅](2010/06/21 16:37)
[164] 魔法生徒ネギま! [第六章・麻帆良の日常編・partⅡ] 第三十二話『ボーイ・ミーツ・ガール(Ⅰ)』[我武者羅](2010/07/30 05:50)
[165] 魔法生徒ネギま! [第六章・麻帆良の日常編・partⅡ] 第三十三話『暗闇パニック』[我武者羅](2010/06/21 19:11)
[166] 魔法生徒ネギま! [第六章・麻帆良の日常編・partⅡ] 第三十四話『ゴールデンウィーク』[我武者羅](2010/07/30 15:43)
[167] 魔法生徒ネギま! [第七章・二人の絆編] 第三十五話『ボーイ・ミーツ・ガール(Ⅱ)』[我武者羅](2010/06/24 08:14)
[168] 魔法生徒ネギま! [第七章・二人の絆編] 第三十六話『ライバル? 友達? 親友!』[我武者羅](2010/06/24 08:15)
[169] 魔法生徒ネギま! [第七章・二人の絆編] 第三十七話『愛しい弟、進化の兆し』[我武者羅](2010/06/24 08:16)
[170] 魔法生徒ネギま! [第七章・二人の絆編] 第三十八話『絆の力』[我武者羅](2010/07/10 04:26)
[171] 魔法生徒ネギま! [第七章・二人の絆編] 第三十九話『ダンスパーティー』[我武者羅](2010/06/25 05:11)
[172] 魔法生徒ネギま! [第八章・祭りの始まり編] 第四十話『真実を告げて』(R-15)[我武者羅](2010/06/27 20:22)
[173] 魔法生徒ネギま! [第八章・祭りの始まり編] 第四十一話『天才少女と天才剣士』[我武者羅](2010/06/28 17:27)
[175] 魔法生徒ネギま! [第八章・祭りの始まり編] 第四十二話『産まれながらの宿命』[我武者羅](2010/10/22 06:26)
[176] 魔法生徒ネギま! [第八章・祭りの始まり編] 第四十三話『終わりの始まり』[我武者羅](2010/10/22 06:27)
[177] 魔法生徒ネギま! [第八章・祭りの始まり編] 第四十四話『アスナとネギ』[我武者羅](2011/08/02 00:09)
[178] 魔法生徒ネギま! [第九章・そして祭りは始まる] 第四十五話『別れる前に』[我武者羅](2011/08/02 01:18)
[179] 魔法生徒ネギま! [第九章・そして祭りは始まる] 第四十六話『古本』[我武者羅](2011/08/15 07:49)
[180] 魔法生徒ネギま! [第九章・そして祭りは始まる] 第四十七話『知恵』[我武者羅](2011/08/30 22:31)
[181] 魔法生徒ネギま! [第九章・そして祭りは始まる] 第四十八話『造物主の真実』[我武者羅](2011/09/13 01:20)
[182] 魔法生徒ネギま! [第九章・そして祭りは始まる] 第四十九話『目覚め』[我武者羅](2011/09/20 01:32)
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[8211] 魔法生徒ネギま! [第九章・そして祭りは始まる] 第四十八話『造物主の真実』
Name: 我武者羅◆cb6314d6 ID:76577b36 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/09/13 01:20
第四十八話『造物主の真実』


 アルビレオ・イマの後に続き、エヴァンジェリンが屋上のドームの中に足を踏み入れると、そこは外観から想像したイメージとは掛け離れていた。薄暗い室内は壁に掛けられた燭台に照らされ不気味な空気を醸し出している。床には真紅の柔らかい絨毯が敷かれ、アンティークの家具がセンス良く配置されている。壁際には巨大な本棚がいくつもあり、そこには個人名らしきタイトルの書物が並べられている。
 部屋の内装を注意深く観察すると、陰陽道の術式が取り入れられた無数の結界や呪詛が仕掛けられている事が分かった。害意のある者に対して、この空間は城砦の如く堅牢に内部の者や物を護るだろう。エヴァンジェリンは密かに警戒心を強めた。
「お掛け下さい」
 部屋の中央にある大きなテーブルの周りに並べられたクッションの柔らかい見事な装飾の施された椅子にエヴァンジェリン達はそれぞれ座った。すると、レースのテーブルクロスが敷かれたテーブルの上に人数分のティーカップが現れた。
「私のお気に入りの茶葉――中国の浙江省の『九曲紅梅』です」
 アルビレオはどこからかティーポットを取り出すとエヴァンジェリン達のティーカップに向けて放り投げた。慌てるのどか達を尻目にティーポットは落下する事無く、空中を滑る様に移動すると、エヴァンジェリン達のティーカップに中身の紅茶を並々と注いだ。漂う香ばしい茶の香りに目を丸くしていたのどか達は思わず歓声を上げた。
 エヴァンジェリンが瞬きをすると、次の瞬間にはテーブルの上に大量の茶菓子やフルーツが並べられていた。
「どうぞ、好きな物を食べてください」
 人の良さそうな顔でお菓子を勧めるアルビレオをエヴァンジェリンは不審気に睨みながら紅茶を一口飲み、口を開いた。
「まず、ナギの事から聞こうか」
 エヴァンジェリンの開口一番の言葉にお菓子を取ろうとしていたのどか達の手が止まった。
「……いいでしょう」
 飲もうとしていた紅茶をテーブルに置き、アルビレオは深く息をすると語り始めた。
「単刀直入に言いましょう。ナギ・スプリングフィールドは生きています」
 息を飲む音が部屋の中に響いた。エヴァンジェリンとタカミチは大きく目を見開いた。
 ナギ・スプリングフィールドが生きている。ネギから六年前の雪の夜にネギがナギによって救われたという話を聞いてはいたが、どこか半信半疑であったのだと思う。
 アルビレオはナギと最も付き合いの古い仲間の一人だ。その口から発せられた言葉は確かな重みがあった。
 アルビレオは凍りつくエヴァンジェリン達の前に一枚のカードを見せた。その絵柄はエヴァンジェリン達もよく知る物だった。仮契約のカードだ。
「パクティオーカード?」
 螺旋を描く無数の本に囲まれるアルビレオの姿が描かれた仮契約のカードを和美は不思議そうに眺めながら呟いた。
「それが彼――ナギ・スプリングフィールドの生きている事の何よりの証です」
「どういう事ですか?」
 何故、仮契約のカードを見せる事がナギの生存の証となるのか、夕映は困惑した表情を浮かべながら尋ねた。
「これはお前とナギの仮契約のカードか」
「正解です」
「なるほどな……」
「え、どういう事!?」
 エヴァンジェリンが納得したように呟くのを聞き、和美は慌てて尋ねた。
「仮契約のカードをよく見てみろ。アルの周りに螺旋を描いている本。これはアルのアーティファクトだ」
「えっと、仮契約のカードにアーティファクトが写っているのが証拠なの……?」
 未だによく飲み込めないという表情を浮かべている和美達にアルビレオは無言で数枚のカードをテーブルの上に並べた。
「これが契約者が死者となった仮契約のカードです」
 和美達の背中に氷を押し付けられたかのようなゾクリとした感覚が走った。テーブルに並べられた仮契約のカードの数は十二枚。ナギとの仮契約のカードとは異なり、アーティファクトの図柄が無く、全体的な色調も薄暗くなっているように見える。
 契約者が死んでいるという証拠……。
「カードが生きている。それはつまり、ナギ・スプリングフィールドは間違いなく生存しているという事です」
「居場所は知っているのか?」
「……居場所は分かりません。ただ、生きている事だけは断言する事が出来ます」
「そうか……。生きているのか、ナギは……」
 エヴァンジェリンは安堵の溜息を吐いた。確証が得られた。
 エヴァンジェリンにとって、ナギは大切な存在だ。ナギに対して抱いた恋慕の情は紛れも無く本物であったし、友に囲まれている今があるのはナギのおかげだ。
 同時に恨んでもいた。長年、この地に縛り付けられてきた中で溜め込んだ怒りは簡単には消え去らなかった。生きて会う事があれば、殺さぬまでも仕返しの一つもしなければ気が済まない。
 だが、エヴァンジェリンが今、この瞬間に感じている安堵は恋慕の情からでも、怒りの念からでも無かった。
「…………ネギ」
 愛おし気にエヴァンジェリンの口から漏れたのはネギの名だった。ネギの父親が生きている。その事が堪らなく嬉しかった。
 ネギ・スプリングフィールドはどこか壊れている。彼女――――彼と敵として対面した時から気付いていた。病的なまでの自己犠牲。
 あの日、ネギは初め、自分の命を出会って間も無い少女達の為に捧げようとした。アスナの時とも違う。アスナもあの頃はただの普通の女子中学生だったが、会って間もない少女(ネギ)の為に命を掛けた戦いに臨んだ。しかし、あの時、ネギがしようとした事は違う。
 アスナのソレは勇気と正義感から来た行動だった。だが、ネギのソレは自己犠牲から来るものだった。なにしろ、ネギはあの時、戦おうとすらしていなかった。自分を理不尽な理由で殺そうとしたエヴァンジェリンに対してさえ、罪悪感を感じ、自分の命を捧げようとした。
 タカミチの後押しが無ければ、ネギはあの場でエヴァンジェリンの手で殺されていただろう。
 その原因は六年前の雪の夜の惨劇にあるのだろうが、それだけでは無いだろうとエヴァンジェリンは考えていた。
 自我が芽生えた時から両親が居ない。子供にとって、それがどれほど辛い事か想像する事も出来なかった。エヴァンジェリンも少なくとも十歳の誕生日までは両親の愛に囲まれていた。
 祖父である魔法学校の校長や従姉弟の女性、幼馴染、友人は居ただろうが、最後の最後で頼れる存在がネギには居ないのだ。
 ネギは六年前の雪の夜の惨劇の事で大きな後ろめたさを感じていた。従姉弟の女性は発狂し、記憶を消され、幼馴染の少女は両親を失い、祖父は故郷を奪われ、友人達も大切な者を失った。その原因はネギの存在にあった。それは疑いようも無く、ネギ自身も嫌という程理解していた。
 誰に対しても後ろめたさという壁が立ちはだかる中で家族という心の拠り所の無い幼い子供が多くの人の死を背負いながらどうして心を強く保ち続けられるというのか……。
 親になれるなんて思い上がっていた訳では無い。それでも、少しでも頼れる存在であろうとしてきた。ネギもエヴァンジェリンに対しては少しだけ頼ろうとし始めている。だけど、やはり心の壁が立ちはだかる。ネギの敬語を聞く度にその事を強く実感させられる。
 もし、ナギが本当は死んでいたとしたら……。あの雪の夜、ナギがネギを助けたという話がネギの夢物語であったとしたら……。その事をエヴァンジェリンはずっと考え続けていた。
 だから、小太郎と接する時のネギを見た時、エヴァンジェリンは歓喜していた。インモラルではあるものの、ネギが犬上小太郎という一人の男を愛し、頼る姿が羨ましく、そして、嬉しかった。
「……生きてるなら、早くネギに会わせてやらないとな」
 エヴァンジェリンの言葉にアルビレオは虚をつかれたような表情を浮かべた。
 アルビレオはエヴァンジェリンにナギの生存の話をすれば歓喜し、子供の様に飛び回り、何故、自分を迎えに来ないのかと怒り、表情を千変万化させる事だろうと内心では悪戯っぽい笑みを浮かべていた。
 エヴァンジェリンの穏かな微笑みはあまりにも優しく、初めて見る表情だった。
「驚きましたね」
「何がだ?」
「貴女がその様に微笑むとは……」
 真顔で呟くアルビレオにエヴァンジェリンはムッとした表情で返した。
「うるさいぞ。それより、手掛かりも無いのか?」
 アルビレオは黙って首を横に振った。エヴァンジェリンは舌を打つと紅茶を一気に飲み干した。苦味の少ない香ばしい香りが漂う紅茶も今は味気無く感じた。
「ただ……」
 アルビレオは口元に僅かに笑みを称えると言った。
「彼は失踪する直前、とある目的がありました」
「とある目的……?」
「完全なる世界――――そのトップ、造物主を倒す事です」
「ちょっと待て」
 エヴァンジェリンは眉を顰めた。
「造物主はナギが倒した筈だろう」
 エヴァンジェリンの言葉にアルビレオは静かに首を振った。
「確かに、大戦の終わり、“墓守人の宮殿”で確かにナギは造物主の当時の肉体は滅ぼしました」
「当時の……?」
 アルビレオの意味深な言葉にエヴァンジェリンは眉を顰めた。言葉の意味を口の中で転がし、不意に恐ろしい推論が頭の中に閃いた。
「まさか、造物主は――――ッ!?」
「ヘルメス・トリスメギストスの如く、造物主もまた、転生する力を有しているのです」
「て、転生!?」
 あまりにも突拍子の無い言葉にそれまで黙って話しの流れに耳を傾けていた和美は仰天した。
 転生。本や昔話でしか聞いた事の無い言葉だ。死後、輪廻を巡り、人は転生する。だけど、悪い人間は転生しても人間にはなれず、畜生に堕ちるとされている。だから、悪い事をしてはいけないと和美は子供の頃に祖母から聞いた事があった。
「造物主は決して吸血鬼のように不死の存在ではありません。ですが、彼は不滅の存在なのです」
「なら、造物主は生きているのか!?」
 エヴァンジェリンは背筋がゾクリとした。一つの世界を滅ぼしかけた魔王。英雄によって滅ぼされた筈の存在が実は生きている。その上、例え、肉体を殺しても、その魂は死する事無く、新たな肉体に転生する。そんな自分以上の怪物が存在する事に本能的に恐怖を感じた。
 だが、同時に納得出来た事もあった。修学旅行の時やネギを襲った襲撃者の事だ。エヴァンジェリンはこれまであの二つの事件――一つは狂言だったわけだが――は完全なる世界の残党が引き起こしたものだとばかり考えていた。
 だが、考えてみればおかしな話だ。絶対的な権力を持ったトップを突然失われれば、組織というものは簡単に瓦解する。それが十年以上も存続し、明確な意思を持って動いているとなれば、そこに強大な権力を握る存在を感じずには居られない。それが元々のトップであったのならば納得のいく話だ。
「生きています。ですが、無事では無いでしょう」
「どういう事だ?」
「ナギが最後に消息を断った地がどこだかご存知ですか?」
「確か、イスタンブールだったな?」
 エヴァンジェリンは確認するようにタカミチに視線を流した。タカミチが頷くのを見ると、エヴァンジェリンは視線をアルビレオに戻した。
「イスタンブールはこの“旧世界(ムンドゥス・ウェトゥス)”における完全なる世界の活動拠点です」
「イスタンブールが!? つまり、ナギは……」
「完全なる世界が旧世界にも活動の範囲を広げているのは分かっていました。私達も襲われましたしね」
 アルビレオの言葉にエヴァンジェリンはハッとした顔でタカミチの顔を見た。タカミチは暗い表情で肩を落としていた。
 タカミチの師匠――ガトウ・カグラ・ヴァンデンバーグはアスナを護り、完全なる世界の構成員と戦い、その命を落とした。
「情報を集める内にイスタンブールの魔法協会が乗っ取られていると知り、ナギは単身で乗り込んだのです」
「ナギが単身で……?」
「イスタンブールの魔法協会が敵の手に落ちていると分かった時には私はもう戦う力が残っていませんでした。今も、この魔素に満ち溢れた空間に居るおかげでこうして動き回れる事が出来るのです」
「怪我か病か?」
「……そうですね、病気といえば病気なのでしょう。今ならば麻帆良全体の魔素の濃度が上昇していますから、外を出歩く事も出来るでしょうが、平時であれば少し歩くだけで体中の魔素が足りなくなり、この身は原型を留めて居られなくなります」
「呪いか!?」
「いえ、元々、私は旧世界ではまともに生きられない体なんですよ。ナギと契約していたからこそ、彼の魔力で私はこの旧世界にありながら動き回り、魔法を行使する事も出来ましたが……」
「つまり、ナギの奴に置いていかれたわけか……お前も」
 エヴァンジェリンは深い溜息を吐いた。嫌な奴と嫌な共通点を見つけてしまった。
 アルビレオはどこか嬉しそうに微笑むと「お揃いですね」と言った。エヴァンジェリンは心底嫌な顔をしながらペッと唾を飛ばした。
「まったく、下品ですね。そんな事ではタカミチ君に嫌われてしまいますよ?」
「うるさい!」
 エヴァンジェリンが顔を赤くして怒鳴ると、タカミチは苦笑いを浮かべながら「からかわないでくださいよ」と言った。
「さて、他に聞きたい事はありますか?」
「完全なる世界の事。造物主の事。ネギの村を襲った者の事。聞きたい事は山程ある。全部答えてもらうからな」
「おやおや、盛り沢山ですね。では、一つずつお答えしていきましょう」
 アルビレオは紅茶を一口だけ口に含むと語り始めた。
 完全なる世界。魔法世界の大戦を裏から操った犯罪組織。メンバーは殆どが造物主によって生み出された人ならざる人。その組織力は強大であり、各国の上層部にも手を伸ばし、ある時は弱味を握り、ある時は洗脳し、ある時は甘い言葉で誘惑し、国を操った。
 幾つかの自衛ギルドが討伐に乗り出したがその数は増える一方。旧世界においてもその組織としての力は健在であり、イスタンブールを初め、各国の名のある組織に既に潜り込んでいる可能性が高い。
「とんでも無いな……」
 エヴァンジェリンは完全なる世界について話を聞く内に薄ら寒いものを感じていた。まるで寄生虫のように忍び寄り、国の頭を操る。この旧世界にまでその魔の手を伸ばしているのだとすれば、下手をすれば第三次世界大戦などという事態も有り得るのではないだろうか。
 和美達も顔を青褪めさせながら聞いていた。
「奴等の目的は分かっているのか?」
「魔法世界人の救済。それが彼らの目的です」
「……は?」
 エヴァンジェリンは呆気に取られた表情で凍りついた。
 恐ろしい悪の組織としてのイメージと救済という言葉にどうしても繋がりを感じられなかった。
「魔法世界は一つの大きな問題を抱えているのですよ」
「問題?」
「魔法世界というものがどういうものなのか、そこが鍵です」
「……ああ、そうか。なるほどな。そういう事なら、抱えているという問題も分かるし、造ったのが造物主とやらならば、大量殺戮を行う理由も推論が立つ」
 エヴァンジェリンの言葉に和美達は驚き、タカミチは数日前に入院していた時の事を思い出していた。
「お聞かせ願えますか?」
 エヴァンジェリンは深く溜息を吐いた。前に自分が少ない情報の中で推察した説が真実味を帯び始めていたからだ。
 ただの戯言のつもりで口にした悪夢のような仮説が真実なのだとしたら、これほどの悪夢もそうはないだろうとエヴァンジェリンは自嘲した。
「魔法世界は火星にある人造世界。1908年代に発表された『人造異界の存在限界・崩壊の不可避性について』。創造神の創造した造物主。修学旅行の最後にアスナが語った造物主の言葉――『貴様もいずれ、私の語る”永遠”こそが“全て”の“魂”を救い得る唯一の次善解だと知るだろう』。それにあの馬の語った事。それらを全て集約すれば答えは簡単に導く事が出来る」
 エヴァンジェリンはさきほど以上に深い溜息を吐いた。
「魔法世界は滅ぶんだろう? そう遠くない未来に」
「さすがですね」
 アルビレオが認めると、エヴァンジェリンは頭が痛くなった。
「そうなれば、魔法世界から旧世界へと魔法世界の人々が逃げ出すだろう。それは戦争の幕開けと同義だ。世界大戦なんてレベルじゃない。魔法の力を行使する火星人と近代兵器の力を行使する地球人の宇宙大戦だ」
 エヴァンジェリンは思わず笑ってしまった。チープなSF小説のような展開だ。住処が無くなった宇宙人が新天地を目指し、地球へやって来る。移住を拒む地球人を宇宙人は武力によって従えようとする。
「ど、どうして!? な、なんか話の展開についていけてないけどさ……。その、魔法世界が無くなるって言うなら、普通にこっちに移住させてあげればいいだけじゃん。なんで、戦争なんて……」
 和美の言葉に夕映が首を振った。
「和美。百人や二百人なら和美の言う事も尤もです。様々な国が協力し合えば、そのくらいの人数ならば何とか受け入れる事も出来るかもしれないです。でも、魔法世界に人はどれ程居ると思いますか? 少なくとも一億は下らないでしょう」
「正確に言うと12億人以上だな」
 エヴァンジェリンが捕捉すると夕映は溜息を吐いた。
「ただでさえ、移民の受け入れには問題が数多く存在するです。それが十二億人以上ともなれば……」
「そ、そりゃあ、十二億人なんて凄い数だけどさ、それでも……」
「移民にはメリットも確かにありますが、デメリットも大きいです。あまりに多くの移民を受け入れれば下手をすれば受け入れた国が滅びてしまう可能性もあるです」
「ほ、滅びるって……いくらなんでも大袈裟じゃない?」
「大袈裟じゃないです。いいですか、和美。移民にはそれほどの危険性があるんです。少子化の進む国ならば労働力を確保出来ますし、異国の文化を取り入れる事で国を発展させる事も出来ます」
 ですが、と夕映は言葉を切り、表情を引き攣らせた。
「デメリットはとても大きいです。まず、あまりに多くの移民を受け入れれば、権利問題や就職問題が起こるです。移民にも参政権を与えるべきだという意見は必ず出るでしょうし、企業が安い賃金で働かせる事が出来る移民を受け入れ、就職出来ない国民、失業する国民が増加する可能性は十分にあります。移住して来た移民が犯罪を起し、治安が悪化する可能性もあるですし、移民による内政干渉は十分に有り得る可能性です」
 夕映は紅茶で喉を潤して言った。
「それにですね、今もこの世界の中だけでさえ移民に関する問題は常に発生していて、これ以上移民が増える事に殆どの国が難色を示しているです。この上、異世界から十二億もの移民がやって来るなど、どこの国も受け入れようとはしないと思うです。なにせ、受け入れようと考える国は少ないでしょうし、下手に少数受け入れようとすれば無理にでも受け入れ容量以上の移民が流れ込む可能性もあるからです。それに異世界人というのも問題です。異世界人……そんなSF染みた存在が身近な存在になる。それを容易く受け入れられる人がどれほど居るでしょう? 恐らくは差別が横行するでしょうし、問題も次々に持ち上がるでしょうね」
 夕映が並べ立てる移民の難しさに和美は何も言えなくなった。無責任に受け入れればいいじゃないかと言った数分前の自分が恥しくてたまらなかった。
「そのデメリットを無視して、無理に移民をしようものなら、一般人だけではない。この世界の魔法使い達も反発するだろう。同情する者も出るだろうが、無理な移民は侵略と同義だ。戦争に発展する可能性はかなり高い」
 エヴァンジェリンの言葉に和美達は顔を青褪めさせた。
 戦争。現代の日本の子供にはあまりにも馴染みの無い言葉だ。終戦から半年以上。戦争など、遠い国の話だと考えていた。
 もしも、魔法世界の住人がこの世界にやって来る事で戦争の火蓋が落ちたなら、この日本は無関係で居られるのだろうか? そんな僅かな希望も抱く事は出来なかった。この世界のどこに居ても、その戦争から逃れる事は出来ないだろう・
「だから、造物主は魔法世界の住民を皆殺しにしようとしたんだろう?」
 エヴァンジェリンの口から発せられた言葉にのどかとさよは悲鳴を上げた。二人に抱きつかれた和美と夕映も恐怖に引き攣った表情を浮かべている。
「み、皆殺しって……」
「つまりは、遠くない未来に避けられない悲劇を回避する為に自身が造り出した世界を終わりにしようと考えたわけだ。それなら、戦争を引き起こし、数々の悲劇を起した理由にもなる。戦争というのは確実に人が死ぬからな。一人や二人じゃない。千人、一万人、一億人……。だけど、紅き翼の活躍で完全なる世界のトップが倒され、魔法世界は紅き翼を中心に一つになってしまった。戦争が終結してしまい、死すべき人々が互いに憎しみ合い、殺し合うという効率的な未来図は白紙となった。だから、今度はこの旧世界に拠点を移したんじゃないのか?」
「どういう事……?」
「つまり、この世界で犯罪組織として有名になろうと考えているわけだ。強大な力を振るう悪の組織。それに対抗するにはどうすればいい?」
「対抗する為の力が必要……という事ですね?」
「そういう事さ。魔法世界の人口を旧世界に移民させる事がギリギリ可能な数まで減らせないのなら、今度は旧世界が移民を受け入れざる得ない状況に追い込むしかない。つまり、魔法世界人を戦闘兵器として無理矢理受け入れさせようというものだな」
 エヴァンジェリンが話し終えると、パチパチと拍手の音が聞こえた。音の方に顔を向けると、アルビレオは穏かな笑みを称えたままエヴァンジェリンに拍手を送っていた。
「見事ですね」
 アルビレオが言った瞬間、ガタンと大きな音がした。和美が椅子を蹴り立ち上がっていた。
「ほ、本当なの!? そ、そんなのヤバ過ぎるじゃん! こ、こんなとこで話してる場合じゃないよ! は、早く警察とか自衛隊に電話しなきゃ!」
 あまりの話に恐慌状態に陥った和美にエヴァンジェリンは冷静に「落ち着け」と言って、椅子から立ち上がると和美に近寄り、そのオデコにデコピンをした。
 キャンと可愛い悲鳴を上げながらよろめく和美にエヴァンジェリンは言った。
「落ち着け。あいつはまだ『見事ですね』としか言ってないだろう」
「でも……」
「まずは紅茶を飲め。不安に思うなという方が無理かもしれんが……」
「ううん。ごめんなさい……」
 しょんぼりした顔で肩を落とし、椅子に座る和美にエヴァンジェリンは小さく息を吐きながら頭を優しく撫でた。
「それで?」
「……申し上げ難いですが、おおまかな概要としては貴女の言った通りです」
 アルビレオの言葉に和美が肩をビクつかせた。和美だけではない。のどかや夕映、さよも皆怯えた顔をしている。
「現在、既に幾つかの信頼の置けるギルドとこの情報を共有し、事に当たっています。肝心なのは情報を限られた者だけが握った上で完全なる世界が表舞台に現れる前に全てを終わらせる事です」
「そのギルドについては教えてくれるのか?」
「残念ながら、ここでは無理ですね」
 エヴァンジェリンが舌を打つと、アルビレオは空になったティーカップに紅茶を注いだ。
「次に造物主についてですね」
 場に緊張が走った。造物主、全ての元凶、悪の組織の親玉。
「造物主とは神の子です」
「……まさか、キリストの事じゃないだろうな?」
「違いますよ。文字通りの意味です。ソフィアが言っていたでしょう? 造物主は創造神より生み出された者だと」
「創造神の娘……アマテルか?」
「惜しいですね。正確にはアマテルの父。つまり、云われにある創造神がイコール造物主なのです」
「神の子が神を名乗っているわけか?」
「自分から名乗ったわけではないようですが、恐らくはウェスペルタティア王国の歴史家が箔を付けるためにそのようにしたのでしょう。大して間違っているわけではありませんし」
 アルビレオは紅茶を一口飲んだ。
「創造神……サラは彼の者に名を与えましたが、その名が何であったのかはさすがに分かりません」
「サラ? ちょっと待て、造物主を生み出した創造神には名があるのか!? そもそも、創造神とは何なんだ!? よく考えたら、造物主以上にわけがわからんぞ! 惑星一つを人の住める地に帰る魔術なんぞ、人間の限界を遥かに超越している!」
「それが出来るだけの力を有していた古の魔術師。それが創造神の正体ですよ」
 エヴァンジェリンは少しの間言葉を発する事が出来なかった。一つの惑星を塗り替える程の力を有した魔術師。長い時を生きる絶大な力を持つ存在、造物主を創造した存在。
「どんな化け物だ、そいつは……」
「ただの女の子だったそうですよ」
「ただのって、そんなわけないだろ。化け物なんて表現も生温いぞ」
「本当にただの女の子だったそうです。優しく、穏やかで、とても美しい、だけど強大な力と類稀な知恵を持っていた……。彼女はソロモンの末裔なのです」
「……ソロモンと来たか」
「ソロモンの叡智を受け継いだサラは魔法使いを廃絶しようとする教会の手から魔法使いを救おうと考え、魔法世界を作り、世界の管理者として造物主を生み出したのです」
「とんでもない魔女だな……。ところで、もう一つ聞きたい事が出来た」
「何でしょう?」
「ソフィアが言っていた七人の王と鏡身。造物主はそれ以外には造らなかったのか?」
「さすがですね。ええ、造りましたとも。王が従えるべき民を」
「あ、あのぉ」
 和美が恐る恐る手を挙げた。
「どうしました?」
「えっと、あんまりよく分かってないんだけどさ。えっと、創造神? が魔法世界を造ったのは地球の魔法使いを移住させる為なんだよね?」
「ええ、その通りです」
「ならさ、どうして民を作る必要があったの?」
 和美の質問にエヴァンジェリンが答えた。
「簡単な話だ。民というのを奴隷と置き換えるといい」
「ど、奴隷!?」
「奴隷が嫌なら、命令に従順な労働力とでも考えればいい。ただ、呼吸が出来て、歩き回れるだけの場所。娯楽も無い。食べ物も無い。水も無い。そんな場所に来たがるのはよっぽど切羽詰った奴等だけだ。それこそ、常に命を狙われ、ギリギリまで追い詰められ、もう逃げられるならどこでも良いって具合にまでなって初めてな」
「つまり、旧世界から人が移住出来る環境を作る為の労働力を造ったのですね……」
 夕映が言うと、アルビレオが頷いた。
「七人の王――パラティオ、アヴェンティネ、カエリア、エスクリネ、ヴィミナル、クイリナル、カピトリネ。そして、アマテル。八人の王に従うように造物主は民を造り出しました。今では亜人と呼ばれる動物や幻想種の特徴を持つ人々を」
 それを聞いたエヴァンジェリンは今迄以上に深い溜息を吐いた。
「つまり、下手をすると魔法世界の亜人が全てこの世界の敵に回る可能性があるって事か?」
 エヴァンジェリンが言うと、アルビレオはクスリと微笑むと首を振った。
「それは無いでしょう。そんな事が出来るなら、造物主はとっくに命じていますよ。魔法世界の亜人に対して――――『自害せよ』と」
 和美達が息を飲む音が聞こえた。エヴァンジェリンは小さく安堵の息を吐いた。
「最初は造物主に造られたただの人形だった。確かにそうです。ですが、ただの人形ではなくなった。魔法世界に移住した魔法使い達の数は初めはそう多くなく、魔法使い達は亜人達と共に生きました。そして、中には愛を育む者も居ました。人形と人のハーフが生まれ、更にその子供が生まれ……。やがて、人の血は濃くなり薄くなりを繰り返し、造物主の操り糸が解き放たれた。まあ、だからこそ、造物主は次善の策に頼らざる得なかったようですが……」
「最善なのは自害を命じ、亜人を悉く抹殺し、純血の人間を旧世界に戻す事……か?」
「それは次善の最善といったところですね。そうではありません。造物主にとっての最善は一時的に亜人を封印状態にし、純血の人間を旧世界に戻し、火星を再び人の住める土地に変え、亜人達を解き放つ事でした。犠牲になる者も無く、まさに最善と言えたでしょう。ですが、それが不可能であると分かり、造物主は苦しんだのでしょうね。救えば自分の手で大量の犠牲者を生み出す事になり、救わなければそれ以上の犠牲が生まれる。まさに悪夢の二択ですよ」
 エヴァンジェリンは鳥肌が立つのを抑え切れなかった。怖気が走る。大量の犠牲者。言葉にするととても安易に聞こえるが、実際には十億人以上の命。
「造物主は選択したのか……? ただ、何もせずに滅び行く世界から目を逸らさずに……。自分の手で自分の生み出した者達の子孫を殺し尽くす事を……」
「ええ、選びました。選び、実行して、その計画も頓挫した」
「ナギが造物主を滅ぼしたからか……」
 それは何て皮肉な事だろう。世界を救った英雄の行為が世界を救おうとした邪神の希望を打ち砕いた。
「その事をナギは知っているのか?」
「知っていますよ。それを裏付ける証拠もありますし」
「なら、ナギはどうして造物主を再び滅ぼそうとしたんだ?」
「単純ですよ。純血では無い人々を救う為です。その為に既に動いている者も居ます」
「さっき言っていたギルドの者達とかがか?」
「ええ、それだけではありませんが――。さて、次はネギ君の村を襲ったのは誰か? これはもう察しがついているのではありませんか?」
「その口ぶりからすると、知ってるんだな?」
「ええ、造物主によるものでは無いとだけ言っておきましょう。完全なる世界がネギ君に危害を加えるという事は殆ど有り得ませんし」
 アルビレオの言い方にエヴァンジェリンは不審を覚えた。
「……どうしてそう言えるんだ?」
「幾つか理由はありますが、まあ、それは今度にしましょう」
「お、おい!」
「そろそろ、外は夜になっています。貴女はともかく、寮住まいの彼女達は家に帰さなければ」
 エヴァンジェリンは咄嗟に時間を確認した。時刻はいつの間にか夜の七時を回っていた。そんなに長い時間を過ごした感覚は無かったのだが、どうやら話に集中し過ぎていたらしい。
 それに、エヴァンジェリンはアルビレオが和美達を返したがっているように思えた。
「最後に一つ答えろ」
「何でしょう?」
「どうして、このタイミングで私達にこれらの話を聞かせたんだ?」
 それはずっと抱いていた疑問だった。唐突に現れ、一握りの人間しか知らず、知ってはならない情報を伝えた理由。
「一つは貴女がこの地を去る前に話しておくべきだと考えたからです。このままでは、貴女は完全に行方を晦ますでしょう? そうなると、色々と不都合がありまして……」
「不都合?」
「まあ、それは追々お話しますよ。それと、彼女達にお聞かせした理由は……」
 アルビレオは和美達に顔を向けた。和美達はビクリと肩を震わせながら不安そうな顔でアルビレオを見た。
「最後の選択肢を与えるためです」
「最後の選択肢?」
 和美が首を傾げた。
「これが本当に最後の分岐です。魔法の存在など知らず、日常の生活へ戻るか、これ以後、起こるであろう大きな戦いに巻き込まれるか」
「どういう意味ですか?」
 夕映は無意識に身構えながら尋ねた。
「貴女達は一般人です。ただ、少し魔法の存在を知り、非日常に足を踏み入れたばかりの。今ならばまだ引き返せます。ですが、ここからは完全に後戻りの出来ない非日常の世界となります。何故なら、恐らく、近い内に大きな戦いが起こる。ネギ・スプリングフィールド、アスナ・ウェスペリーナ・テオタナシア・エンテオフュシア、近衛木乃香。彼女達は争いの中心に引きずり込まれるでしょう。彼女達の意思に関らず」
「ネギちゃんやアスナと木乃香が……? な、なんで!?」
 大切な仲間が大きな戦いの渦中に巻き込まれる。和美は椅子を蹴って立ち上がり血相を変えて叫んだ。
「彼女達は特異な存在ですからね。例え逃げても運命は彼女達を決して逃さない。これが本当に最後の選択です。今ならばいどのえにっき……光輝の書との契約を断つ事が出来ますし、逃げる事も可能です。どうしますか? 戦いの道を選びますか? 日常の中で幸せに生きていきますか?」
 アルビレオの問い掛けに和美達は直ぐには答える事が出来なかった。簡単に答えの出る問い掛けでは無い。和美と夕映、のどかの三人はつい最近まで普通の女子中学生だった。
 アスナや木乃香のように生まれが特別なわけでも無く、この非日常にしがみ付かなければいけない理由も無い。本来であればさっさと逃げる選択肢を選ぶべきだ。
 答えを濁す理由は単純だった。友達が危ない目に合うと分かっていながら、本当に自分達だけが逃げてもいいのだろうか、そんな後ろめたさだった。
「後ろめたさでこの非日常に残ろうなどとは思わないで下さいね。それは、彼女達にとっても迷惑な事です」
 和美達の心を読んだかのように、アルビレオは言った。エヴァンジェリンとタカミチも同意見なのか、口を挟む事は無かった。
 残るべきではない。ただの好奇心で踏み込んでいいレベルを遥かに越えている。安い同情心で踏み込んでいいレベルを遥かに越えている。
「私は残ります」
 言ったのは、のどかだった。
 この中で一番臆病で、一番心優しく、一番かよわい存在。その彼女が残ると言った。タカミチは驚いた。アルビレオはほうと感嘆の声を発した。エヴァンジェリンはやはりな、と思った。
 宮崎のどかはこういう少女なのだとエヴァンジェリンは既に理解していた。
「残ります。残って、ネギさん達の力になります。力が足りないなら力を付けます! 同情や後ろめたさが無いなんて言えません。でも、それでもネギさんやアスナさん、木乃香を助けたいんです。こ、これが私の意志です!」
「意志……と来たか。説得するなら任せるぞ。のどかは案外頑固だ」
 エヴァンジェリンは心底愉しげに笑いながらタカミチとアルビレオに言った。
「エヴァ、君は説得するつもりがないのかい?」
 タカミチが尋ねると、エヴァンジェリンは鼻で笑った。
「無茶言うなよ。結局、のどかは一度決めたら覆さないし、のどかが決めた時点で和美達の意志も決定してるよ。だからこそ、あの馬はあの子を認めたんだろ」
 宮崎のどかは普通の少女だ。臆病で優しいただのか弱い少女だ。
 だが、図書館島でネギと共に光輝の書の試練を受けた時、躊躇い無くネギを救おうとしたように、本の話をすると止まらなくなってしまうように、のどかは一度決めた事や自分のしたいという欲望に誰よりも忠実だ。その意志は驚く程強固で、そんな彼女を周囲は助けずには居られない。
 ある種のカリスマのようなものなのかもしれない。健気でか弱い少女が決めた事を為そうと頑張る姿は周囲を動かす力がある。
「しょーじき、即効で決められなかったのが我ながらむかつくわ」
「最初はただの好奇心だったです。でも、今はそれだけじゃない。それに、世界の危機なんでしょう? さすがに、他人事で居られる程、神経図太くないですよ」
 和美と夕映の言葉にタカミチは小さく溜息を吐いた。担任である自分以上にエヴァンジェリンは彼女達を理解していた。
「さよさん、貴女はどうです?」
 アルビレオはさよに顔を向けた。人形から抜け出し、さよは人の身となってニッコリと微笑んだ。
「勿論、皆さんと同意見ですよ」
「さすがですね……」
 アルビレオはそう言って微笑むと右手を軽く振るった。すると、和美達のそれぞれの背後の空間に水面がゆらぐように波紋が広がり、豪奢な扉が現れた。
「皆さんの寮の部屋に繋げてあります。長々と申し訳ありませんでした」

 アルビレオは和美と夕映、のどかの三人にお土産を渡すと、それぞれを寮に返した。後に残ったのは、アルビレオ、エヴァンジェリン、タカミチ、そして、相坂さよの四人だった。
 アルビレオは和美と共に寮に帰ろうとするさよを呼び止めた。呼び止められたさよは不安そうな顔をしてエヴァンジェリンに助けを求めるように顔を向けている。
「どういうつもりだ? さよを呼び止めたのは……」
「あまり手間は取らせませんよ。一言だけ」
 アルビレオは悪辣な笑みを浮かべるとさよに向かって言い放った。
「そろそろ思い出してあげてくださいね。でないと、彼は……。おっと、これでは二言になってしまいますね。私からの用件は以上です」
「あの、それってどういう……」
「その続きは、貴女が忘れている事を思い出した時にお話しますよ。今、語っても貴女を混乱させるだけでしょうから」
「で、でも!」
「では、そろそろお引取り下さい」
 そう言って、アルビレオは指を鳴らすと、さよの体は淡い光に包まれ、空中に浮いた。
「え、え、え!?」
 戸惑い驚くさよの体は和美の通った扉へ滑る様に移動した。扉は自動的に開き、その向こうへとさよの姿は消えていった。
「お、おい!」
 エヴァンジェリンは慌ててアルビレオを止めようとしたが、さよの通った扉は勢い良く閉まってしまった。
「お前、何考えてるんだ?」
「私は彼女とも知らない仲では無いもので、後悔をさせたくないだけですよ」
「なんだ、生前のさよと知り合いだったのか?」
「ええ、生前にお会いしたのは友人繋がりで一度だけですがね」
「その友人と言うのは?」
「才気に溢れた少年でした」
 タカミチの問いにアルビレオはどこか懐かしむような口調で答えた。
「そんな事よりも本題に移りましょうか、キティ」
「キティって呼ぶな! で、本題?」
「用件は二つあります。一つ目はキティ、私達の計画に協力して下さい」
「計画って言うのは、さっきの話の絡みか?」
「ええ、色々と動いてもらいたいのですよ。なにせ、もう時間があまりありませんから、信頼が置け、かつ、強い力を持つ仲間が必要なのです」
「はっきり言っていいか?」
 エヴァンジェリンは欠伸を噛み殺しながらアルビレオを睨みつけて言った。
「胡散臭い」
「どこがですか?」
「全部だ。そもそも、さっきの話を本気で信じてるなんて思ってないだろうな?」
「おやおや、信じてくれているものだろうと思っていたのですが?」
「嘘付け……。そもそも、惑星結界の話からして論外だろ」
「何故ですか?」
「お前な、幾ら何でも、惑星サイズの結界を人間一人が張れるわけないだろ!」
「と、言いますと?」
「魔力の問題だ。私が見てきた中で最高クラスの魔力を持っている木乃香でさえ、全ての力を使い果たしても精々、麻帆良一体を包み込むのがやっとだ。それも、一日持てば僥倖って所だな。少なくとも、人造世界の限界を迎える以前に、篭められた魔力が尽きる」
 エヴァンジェリンの言葉にアルビレオは愉しげに微笑んだ。
「確かに、一人分の魔力では不可能でしょうね」
「なら、さっきの話はやっぱり――」
「一人の魔力ならば――ですが、一人分の魔力だけで惑星結界は張られたわけではありません」
「協力者でも居たというのか?」
「人ではありませんがね」
「なんだ、ソロモンの末裔と言ってたが、七十二柱の悪魔の力でも借りたと言うのか? それじゃあ、創造神というよりも魔王じゃないか」
「違いますよ。確かに、いくらか悪魔の力も借りましたが、それよりも更に強大な者の力を借りたのです」
「更に強大な者……?」
「地球ですよ」
 アルビレオの言葉にエヴァンジェリンは直ぐに反応する事が出来なかった。
 地球。自分達が今生きている惑星の名前。エヴァンジェリンは足元に視線を落とした。
「馬鹿を言うな! 地球の力を借りるだと!?」
「そうおかしな話ではありませんよ。陰陽師や魔法使いも使うでしょう、龍脈に流れる地球の力を――」
「あっ――」
 エヴァンジェリンは思わず間の抜けた声を発してしまった。地球の力というあまりにも突拍子も無い言い方をされ、簡単に導けるはずの答えが見えていなかった。
「魔法世界にはいくつものゲートが存在します。ですが、それは本来の用途とは異なる使い方なのです。キティ、何故、この地球が“魔法世界(ムンドゥス・マギクス)”に対し、“旧世界(ムンドゥス・ウェトゥス)”と呼ばれているか、その理由は知っていますか?」
「そもそも、魔法世界と旧世界は百年ちょっと前まで互いの存在を認識していなかったからな。そんで、魔法中心に成長した分化を持つ魔法世界は旧世界の魔法使い達にとってはまさに新世界であり、魔法世界の魔法使い達にとっては御伽噺の中でのみ伝えられる旧世界であったから……だったな?」
 魔法世界との交流が始まった一世紀前――――1890年前後はまさに魔法使いにとっての激動の時代であったと言える。
 エヴァンジェリンの持つダイオラマの魔法球や幻想世界幽閉型巻物に始まり、様々な魔法具が旧世界に流れ込み、仮契約の制度が旧世界に根付いたのもこの時代が始まりだったとされている。
 麻帆良学園が建設されたのもこの年の前後であり、様々な国に魔法使いの施設が建造された。それまでは迫害される一方だった魔法使い達が組織を作り、秩序が生まれた。
 エヴァンジェリンが指名手配されたのもこの年だ。危険な思想の魔術師や吸血鬼などの危険生物に指定された魔物の討伐が始まり、数少ない龍種や魔族も悉く捕獲、もしくは殺害された。
 アイゼン・アスラの同属――火神・アグニの血族を始め、殆んどのは吸血鬼の血族がこの時代に魔法使い達と大きな戦を行い、滅んでいった。エヴァンジェリンやアイゼンを始め、今の時代に生き残っている吸血鬼や魔物達は運が良かったとも言える。
 エヴァンジェリンは苦い記憶を思い出しながらアルビレオの言う、ゲートの本来の用途について考え、一つの結論に至った。
「ゲートは本当は地球の魔力を火星――即ち、魔法世界に送る為の経路だったという事か?」
「その通りです」
 エヴァンジェリンの答えにアルビレオは満足そうに微笑んだ。
「創造神――サラは地球の龍穴……その中でも極めて強い力を持つ地に火星へと続く経路を築きました。そして、火星に地球の魔力を組み上げる術式を施しつつ、惑星全体を覆う巨大な結界を構築しました。それが、魔法世界の始まりです」
「……そうか」
 エヴァンジェリンは嘆息した。一見、突っ込み所が満載なように見えて、その実、アルビレオの話には隙が無い。否定しようとしても、直ぐに返されてしまう。
 アルビレオが言っている事は事実なのだろうか、エヴァンジェリンは舌を打った。
「最後にこれだけ聞かせろ」
「なんでしょう」
「仮に、仮にだぞ? お前の言う事が全て正しいのなら、お前……いや、お前達は本当に魔法世界と旧世界、両方を救えるのか? その保証は?」
 エヴァンジェリンは聞いた。それが最大にして、もっとも根本的な疑問だった。
 もし、アルビレオ達の計画が確実なもので無いのなら、造物主を倒す事は必ずしも正しいとは思えない。
 旧世界と魔法世界が戦争となり、両方に多大な死者が発生する事は最悪の結末だ。音速を超える速度で飛行する戦闘機、地球の裏側からでも正確に飛来し、強大な威力を発揮するミサイル。今の時代、魔法が科学の力に対して圧倒的だとは思えない。
 魔法と科学がぶつかり合えば、この世界は地獄に変わるだろう。互いの生きる場所を賭け、最後の最後まで戦い続ける事になるだろう。逃げ場など無く、平和に生きる者達の多くが理不尽に殺される事になるだろう。
 造物主はそれを防ごうとしている。確かに、やり方は凶悪だ。エヴァンジェリンでさえ、怖気が走る程に冷酷だ。だが、それが間違っていると誰が断言出来る? 今、誰かが動かなければ、未来は地獄なのだ。
 確実に魔法世界と旧世界を救える方法があるのならばともかく、僅かな希望に縋り、確実に最悪の結末を防げる方法を実行する必要悪たる存在を打倒する事が本当に正しいと言えるのだろうか?
 エヴァンジェリンは鋭い視線を向けながらアルビレオの答えを待った。
「救えます」
 アルビレオは言った。
「その根拠は何だ? 確実性も無く、曖昧なものなら、私はどう動くか分からんぞ? お前が話さなければ良かったと思う選択をするかもしれない」
 エヴァンジェリンの言葉にタカミチがギクリとした表情を浮かべたが、エヴァンジェリンは無視した。
 アルビレオは小さく笑みを浮かべると言った。
「簡単な話なんですよ。まず、何故、造物主が戦争などという大規模な事件を起す必要があったのか、分かりますか?」
「早々に数を減らすためじゃないのか?」
 エヴァンジェリンが言うと、アルビレオは首を振った。
「いいですか? 造物主は魔法世界がいつの日か滅びる事を知っていました。なら、手段など幾らでもあった筈です。例えば、出生率を下げさせるとかですね。そのくらいであれば、造物主の力があれば不可能では無かった筈ですし、殺人などという手段に訴えずとも、時間の流れの中で魔法世界の人々を減らす事は可能な筈です」
「だが、それだと時間が掛かるだろ」
「そうです。ですが、彼にはその時間が十分にあった。ならば、何故、この方法を取らなかったのか? 簡単ですよ。本当ならばもっと時間があったからです」
「どういう事だ?」
「ゲートですよ」
「ゲート?」
「本来、地球から魔法世界へ魔力を供給する経路であったゲート。それが本来の使い方では無い誤った使用法により、歪みが生じた。その為に魔法世界の崩壊に向かうリミットが早まってしまった」
「待て、じゃあ何か? 魔法世界が滅ぶのは……」
「ええ、人造異界の存在限界による崩壊。その原因とされている空間維持結界の術式の劣化具合――――即ち、惑星結界の劣化具合は調査の結果、まだかなりの余裕があると分かりました。現在直面している崩壊の危機の原因は魔力の不足によるものです。もって、あと十年あまり」
「ゲートが原因だとすると、異変が起きたのはこの百年以内というわけか……」
 つまり、時間が無かったのだ。造物主には。
「“経路(ライン)”を“門(ゲート)”に使用する事でこのような事態になるとは造物主にも予想外の事だったのでしょう。故に対処が後手に回ってしまった」
「なら、さっさとゲートを本来の用途に変えれば良かったじゃないか!」
 エヴァンジェリンが言うと、アルビレオは首を振った。
「そう簡単にはいきません。当時、魔法世界の在り方そのものに対する認識が魔法世界、旧世界双方に殆ど浸透していませんでした。つまり、魔法世界はこの状態が当たり前だと考えられていたのです。魔法世界と旧世界の交流により、ゲートの重要性は瞬く間に大きなモノになり、ゲートを閉じるという一番容易く、一番確実な方法を造物主は取る事が出来なかったのです」
「何故だ!? 無理矢理にでも閉じてしまえば!」
「造物主は常に世界に不干渉を貫いていました」
 激昂するエヴァンジェリンにアルビレオは冷静に告げた。
「つまり、造物主はその存在を既に造物主の手から解き放たれた魔法世界の人々に全く認知されていなかったのです。故に、彼の言葉に耳を貸す者など一人も居ませんでした」
 エヴァンジェリンは反論した。口で駄目なら拳で分からせれば良かったじゃないかと。
「彼の一番の失態はソレですよ。彼はその選択をする事が出来なかったのです。長い時の中で只管に世界に対して不干渉を貫いて来た事で咄嗟に人々に対して暴力を振るう事が出来なかったのです。それが更に事態を深刻化させた。時間が徐々に無くなっていき、造物主は追い詰められました。その結果……彼はあの大戦を引き起こしました」
「そ、そんなの本末転倒じゃないか!?」
 エヴァンジェリンは思わず呆れてしまった。
「ええ、まったくです。だが、彼には他に道が無かった。人々は時を追うごとにゲートの重要性を噛み締め、あらゆる手段を用いてゲートを放棄するように仕向ける造物主の意向を無視しました。武力も財もゲートの重要性の前には敵わなかった。そして、造物主の思惑とは裏腹にゲートを放棄させようと目論む造物主の存在を知り、他国がゲートを放棄していく可能性を恐れた大国の王達は互いを牽制し合い、まとまり始めました」
「それがメセンブリーナ連合とヘラス帝国か……」
「そうです。造物主の世界を救おうという策は悉く裏目に出たわけです。そして、いよいよ時間が無くなり、彼は魔法世界人の大量虐殺という最悪にして唯一の救済案に縋ったのです。皮肉な事に大国にゲートを放棄させようと策を弄した経験が彼に戦争の黒幕に相応しい力を齎した」
「まるで道化だな……」
 エヴァンジェリンはアルビレオの話に気が滅入っていた。世界を救おうと奔走する神は救おうとした世界に拒絶され、拒絶された時に学んだ事が救おうとした世界を滅ぼす力になった。
「まったくです。経路を護る為、経路の上に始まりの王達の国を築いた事。それからして裏目に出ているわけですから……」
「それで、お前達の策ってのは? 大体の推測はついているが……」
「ええ、造物主に出来なかったゲートの放棄による経路の修復。並びに魔法世界のある火星のテラフォーミングです。まあ、テラフォーミングの実現性に対する確証が得られたのはつい最近ですが……」
「テラフォーミング?」
「人為的に惑星の環境を変化させて、人類の住める星に改造する事だよ」
 タカミチが教えるとエヴァンジェリンは首を傾げた。
「そんな事が可能なのか?」
「可能だそうですよ。未来からの客人によると」
「……は?」
 エヴァンジェリンはアルビレオを可哀想なものを見る目で見た。
「本当アルよ、エヴァンジェリンさん」
 すると、背後から聞き覚えのある声が聞こえて来た。振り向くと、そこにはクラスメイトの少女の姿があった。
 中国からの留学生――超鈴音はニヤリと笑みを浮かべながらそこに立っていた。



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