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No.8211の一覧
[0] 魔法生徒ネギま!(改訂版)[雪化粧](2019/05/20 01:39)
[132] 魔法生徒ネギま! [序章・プロローグ] 第零話『魔法学校の卒業試験』[我武者羅](2010/06/06 23:54)
[133] 魔法生徒ネギま! [序章・プロローグ] 第一話『魔法少女? ネギま!』[我武者羅](2010/06/06 23:54)
[134] 魔法生徒ネギま! [序章・プロローグ] 第二話『ようこそ、麻帆良学園へ!』[我武者羅](2010/06/06 23:55)
[135] 魔法生徒ネギま! [序章・プロローグ] 第三話『2-Aの仲間達』[我武者羅](2010/06/06 23:56)
[136] 魔法生徒ネギま! [第一章・吸血鬼編] 第四話『吸血鬼の夜』[我武者羅](2010/06/07 00:00)
[137] 魔法生徒ネギま! [第一章・吸血鬼編] 第五話『仮契約(パクティオー)』[我武者羅](2010/06/07 00:01)
[138] 魔法生徒ネギま! [第一章・吸血鬼編] 第六話『激突する想い』[我武者羅](2010/06/07 00:02)
[139] 魔法生徒ネギま! [第一章・吸血鬼編] 第七話『戦いを経て』[我武者羅](2010/06/07 00:02)
[140] 魔法生徒ネギま! [第一章・吸血鬼編] 第八話『闇の福音と千の呪文の男』[我武者羅](2010/07/30 05:49)
[141] 魔法生徒ネギま! [第一章・吸血鬼編] 第九話『雪の夜の惨劇』[我武者羅](2010/07/30 05:50)
[142] 魔法生徒ネギま! [第二章・麻帆良事件簿編] 第十話『大切な幼馴染』[我武者羅](2010/06/08 12:44)
[143] 魔法生徒ネギま! [第二章・麻帆良事件簿編] 第十一話『癒しなす姫君』[我武者羅](2010/06/08 23:02)
[144] 魔法生徒ネギま! [第二章・麻帆良事件簿編] 第十二話『不思議の図書館島』[我武者羅](2010/06/08 20:43)
[145] 魔法生徒ネギま! [第二章・麻帆良事件簿編] 第十三話『麗しの人魚』[我武者羅](2010/06/08 21:58)
[146] 魔法生徒ネギま! [幕間・Ⅰ] 第十四話『とある少女の魔術的苦悩①』[我武者羅](2010/06/09 21:49)
[147] 魔法生徒ネギま! [第三章・悪魔襲来編] 第十五話『西からやって来た少年』[我武者羅](2010/06/09 21:50)
[148] 魔法生徒ネギま! [第三章・悪魔襲来編] 第十六話『暴かれた罪』[我武者羅](2010/06/09 21:51)
[149] 魔法生徒ネギま! [第三章・悪魔襲来編] 第十七話『麻帆良防衛戦線』[我武者羅](2010/06/09 21:51)
[150] 魔法生徒ネギま! [第三章・悪魔襲来編] 第十八話『復讐者』[我武者羅](2010/06/09 21:52)
[151] 魔法生徒ネギま! [第三章・悪魔襲来編] 第十九話『決着』[我武者羅](2010/06/09 21:54)
[152] 魔法生徒ネギま! [第四章・麻帆良の日常編] 第二十話『日常の一コマ』[我武者羅](2010/06/29 15:32)
[153] 魔法生徒ネギま! [第四章・麻帆良の日常編] 第二十一話『寂しがり屋の幽霊少女』[我武者羅](2010/06/29 15:33)
[154] 魔法生徒ネギま! [第四章・麻帆良の日常編] 第二十二話『例えばこんな日常』[我武者羅](2010/06/13 05:07)
[155] 魔法生徒ネギま! [第五章・修学旅行編] 第二十三話『戦場の再会?』[我武者羅](2010/06/13 05:08)
[156] 魔法生徒ネギま! [第五章・修学旅行編] 第二十四話『作戦会議』[我武者羅](2010/06/13 05:09)
[157] 魔法生徒ネギま! [第五章・修学旅行編] 第二十五話『運命の胎動』[我武者羅](2010/06/13 05:10)
[158] 魔法生徒ネギま! [第五章・修学旅行編] 第二十六話『新たなる絆、覚醒の時』[我武者羅](2010/06/13 05:11)
[159] 魔法生徒ネギま! [第五章・修学旅行編] 第二十七話『過去との出会い、黄昏の姫御子と紅き翼』[我武者羅](2010/06/13 05:12)
[160] 魔法生徒ネギま! [第五章・修学旅行編] 第二十八話『アスナの思い、明日菜の思い』[我武者羅](2010/06/21 16:32)
[161] 魔法生徒ネギま! [第五章・修学旅行編] 第二十九話『破魔の斬撃、戦いの終幕』[我武者羅](2010/06/21 16:42)
[162] 魔法生徒ネギま! [第五章・修学旅行編] 第三十話『修学旅行最後の日』[我武者羅](2010/06/21 16:36)
[163] 魔法生徒ネギま! [第六章・麻帆良の日常編・partⅡ] 第三十一話『修行の始まり』[我武者羅](2010/06/21 16:37)
[164] 魔法生徒ネギま! [第六章・麻帆良の日常編・partⅡ] 第三十二話『ボーイ・ミーツ・ガール(Ⅰ)』[我武者羅](2010/07/30 05:50)
[165] 魔法生徒ネギま! [第六章・麻帆良の日常編・partⅡ] 第三十三話『暗闇パニック』[我武者羅](2010/06/21 19:11)
[166] 魔法生徒ネギま! [第六章・麻帆良の日常編・partⅡ] 第三十四話『ゴールデンウィーク』[我武者羅](2010/07/30 15:43)
[167] 魔法生徒ネギま! [第七章・二人の絆編] 第三十五話『ボーイ・ミーツ・ガール(Ⅱ)』[我武者羅](2010/06/24 08:14)
[168] 魔法生徒ネギま! [第七章・二人の絆編] 第三十六話『ライバル? 友達? 親友!』[我武者羅](2010/06/24 08:15)
[169] 魔法生徒ネギま! [第七章・二人の絆編] 第三十七話『愛しい弟、進化の兆し』[我武者羅](2010/06/24 08:16)
[170] 魔法生徒ネギま! [第七章・二人の絆編] 第三十八話『絆の力』[我武者羅](2010/07/10 04:26)
[171] 魔法生徒ネギま! [第七章・二人の絆編] 第三十九話『ダンスパーティー』[我武者羅](2010/06/25 05:11)
[172] 魔法生徒ネギま! [第八章・祭りの始まり編] 第四十話『真実を告げて』(R-15)[我武者羅](2010/06/27 20:22)
[173] 魔法生徒ネギま! [第八章・祭りの始まり編] 第四十一話『天才少女と天才剣士』[我武者羅](2010/06/28 17:27)
[175] 魔法生徒ネギま! [第八章・祭りの始まり編] 第四十二話『産まれながらの宿命』[我武者羅](2010/10/22 06:26)
[176] 魔法生徒ネギま! [第八章・祭りの始まり編] 第四十三話『終わりの始まり』[我武者羅](2010/10/22 06:27)
[177] 魔法生徒ネギま! [第八章・祭りの始まり編] 第四十四話『アスナとネギ』[我武者羅](2011/08/02 00:09)
[178] 魔法生徒ネギま! [第九章・そして祭りは始まる] 第四十五話『別れる前に』[我武者羅](2011/08/02 01:18)
[179] 魔法生徒ネギま! [第九章・そして祭りは始まる] 第四十六話『古本』[我武者羅](2011/08/15 07:49)
[180] 魔法生徒ネギま! [第九章・そして祭りは始まる] 第四十七話『知恵』[我武者羅](2011/08/30 22:31)
[181] 魔法生徒ネギま! [第九章・そして祭りは始まる] 第四十八話『造物主の真実』[我武者羅](2011/09/13 01:20)
[182] 魔法生徒ネギま! [第九章・そして祭りは始まる] 第四十九話『目覚め』[我武者羅](2011/09/20 01:32)
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[8211] 魔法生徒ネギま! [第六章・麻帆良の日常編・partⅡ] 第三十四話『ゴールデンウィーク』
Name: 我武者羅◆cb6314d6 ID:87b1fc72 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/07/30 15:43
魔法生徒ネギま! 第三十四話『ゴールデンウィーク』


 深夜零時を過ぎた麻帆良学園。数多くの人が神木・蟠桃の前に集められていた。ただ一人、エヴァンジェリン・A・K・マクダウェルを除いて全員が魔法先生だ。
 エヴァンジェリンは瀬流彦、タカミチ、ガンドルフィーニ等と呼び出された理由に付いてアレコレと考えていた。
「やはり、侵入者の討伐任務を魔法先生だけに絞る事になったんだよ! 前々から進言していたんだ! 大学生ならまだしも、中学生や高校生に危険な任務をさせるのはどうなのかと!」
 熱く語るガンドルフィーニに、瀬流彦は肩を竦めた。
「そんな訳ないですって。今集まってるのは麻帆良の魔法先生全員ですよ? たったこれだけ。麻帆良全体のカバーが可能な人数かなんて、考えるまでも無いじゃないですか」
「それに、中学生、高校生と侮れませんよ、ガンドルフィーニ先生。刹那君や真名君、高音君、愛衣君他。皆、優秀な魔法生徒です」
 タカミチも瀬流彦の意見に続く。すると、ガンドルフィーニは険しい表情になった。
「しかし! 西との溝が埋まり始めている今、関西呪術協会の手を借りるという手もッ!」
「無理だろ、それは……。埋まったといっても薄っぺらい紙一枚分程度だぞ」
 エヴァンジェリンも肩を竦めながら言う。
「エヴァンジェリン君!!」
「な、なんだ!? というか、顔近いぞ!?」
 ガンドルフィーニは鼻息を荒くしながらエヴァンジェリンに迫った。
「君がアスナ君達を弟子にしたのは、最初こそ反対だったが、成績も上がり、キチンとした教育方針に乗っ取っている事を知った! なればこそ、君があの子達を可愛がっているのも分かる! なればこそ、学生である内は学業に勤しみ、友と語らい、人生を謳歌してから巣立って欲しいと思うだろう!? 思うだろうね!? 思っているだろうな!!」
「思う!! 思うからそれ以上来るな~~!!」
 眼を血走らせて両肩を掴んで鼻息荒く言うガンドルフィーニに、エヴァンジェリンは半泣きになっていた。正直怖かった……。
 ガンドルフィーニは冷静になってコホンと咳払いをすると謝罪した。
「いや、少し興奮し過ぎたね。すまなかった」
「いや……、教育者としての熱意が文字通り怖いほどに伝わりました……」
「教育者として……っていうか、人としてどうよって感じの絵面でしたけどね……今」
 タカミチの背中に隠れながら言うエヴァンジェリンを見て、瀬流彦は微妙に軽蔑の眼差しをガンドルフィーニにぶつけた。
 一方、タカミチは何だかプルプル震えながら自分にしがみ付いているエヴァンジェリンや辛辣な瀬流彦、異様に熱いガンドルフィーニに戸惑っていた。
「いや、三人共酔いが抜けきってないみたいだね~」
「あ、弐集院先生」
 コンビニの肉まんを食べながら歩いてくる小太りな男性にタカミチは挨拶をした。
「酔っ払っている……とは?」
「いやね、今日は一緒に焼肉店で飲み会をしてたんだけどね。その時に召集の話聞いてさ。そのまま忘れてついさっきまで飲んでたんだよ。いや~、召集の話思い出したのギリギリでさ。慌てた慌てた」
「またですか!? 最近多いですね……」
「いや~、飲み会の時はエヴァンジェリン君も大人の姿でしょう? 大人の時のエヴァンジェリン君って、かなりの美人だからね。その上、聞けばサウザンドマスターを一途に思い続けていると。一途に思い続ける女性というのはポイント高いよ」
「…………貴方の口から出て欲しくない言葉ですね……。貴方も酔ってます? っていうか、エヴァって人気あったんだ」
 腰にしがみ付いて、向こうでまた瀬流彦相手に持論を展開するガンドルフィーニをガルルルと獣の様に唸りながら睨むエヴァンジェリンを見ながらタカミチは心底意外そうに呟いた。
「おい、今失礼な事考えなかったか?」
 エヴァンジェリンがムッとなって睨んでくる。
「まさか。それより、そろそろみたいだよ。さっさと酔い覚ましなよ」
「まったく。昔はもっと素直だったのに……」
 グチグチ言うエヴァンジェリンを無視して、タカミチはやって来た近右衛門に視線を向けた。近右衛門が大きく咳払いをすると、それまでわずかにざわついていたのが一気に治まった。やがて、近右衛門が話を始め、皆が耳を傾けた。
「皆の者、よぉ集まった。さて、今宵皆を呼び出したのは“神木・蟠桃”の事じゃ」
 近右衛門の言葉にどよめきが起こった。神木・蟠桃、龍脈の力を汲み取り、麻帆良全体を覆う大結界の基点となっている不思議な樹木。もしも、この樹に何かあれば、麻帆良の結界が解かれ、麻帆良は危機に瀕する。緊張が走った。
「単刀直入に言おう。神木・蟠桃が龍脈の力を蓄えておるのは知っておろうな?」
 それは魔法先生達にとっては常識だった。一同が頷くのを見て、近右衛門は続けた。
「その力が、今年、極大に達し、樹の外へと溢れ出してしまう事が分かったんじゃ。世界樹の大発光というのを聞いた事があるじゃろう?」
「【世界樹をこよなく愛する会】とやらの“世界樹発光量観察記録”とやらが麻帆良スポーツに載ってたな」
 エヴァンジェリンが言うと、刀子が手持ちの資料を開いて口を開いた。
「資料によりますと、22年に一度の周期で世界樹を中心に、【世界樹広場(ここ)】と【麻帆良大学工学部キャンパス中央公園】、【麻帆良国際大学附属高等学校】、【フィアテル・アム・ゼー広場】、【女子普通科付属礼拝堂】、【龍宮神社神門】の六つの地点で魔力溜まりが出来上がり、麻帆良全体の魔力濃度は通常時の数十倍に跳ね上がり、大変危険な状態になる模様です」
 刀子の報告に魔法先生達はざわついた。
「本来ならば来年がその周期だったんじゃが、今年は一年早まったらしくてのう」
「危険とは具体的には……?」
 魔法先生の一人が尋ねた。少しやつれた様子の黒髪の男だ。
「膨大な魔力は人の心に作用する。例えば、億万長者になりたい、世界征服がしたい、などの即物的な願いは無理じゃが……」
「じゃが……、なんだ?」
 エヴァンジェリンがもったいぶる近右衛門にイラついた声で先を促した。
「……ほれ、世界樹の下で告白すると叶うという噂があるじゃろ?」
「それがどうし……嘘だろ?」
 エヴァンジェリンは顔を引き攣らせた。見れば、他の魔法先生達も凍り付いている。
「元々、この噂には根拠があってのう……。21年前や43年前の大発光の時に実際に告白を世界樹の力で成就させてしまったケースがあってのう……。もはや呪い級の威力なんじゃよ」
「……マジか?」
「…………うむ、人の心を永久に操ってしまうなどとは魔法使いの本義に反する事じゃ」
「確かに色々な意味で危険ですね……」
 瀬流彦の言葉に誰もが頷いた。好きでもない相手を好きにさせられるとしたらゾッとする話だ。
「刀子君」
 近右衛門が刀子に説明を促した。
「ハイ。【学園七不思議研究会】並びに【学園史編纂室】の研究及び【オカルト研究会】と【世界樹をこよなく愛する会】の世界樹発光現象の観測により、一般生徒の間でもかなり真実に近づかれています。ネットの書き込み等により調査を行った結果、生徒達の噂の浸透率は男子34%、女子79%です。本気で信じている人は少ないと思いますが……」
「なるほど……、占いや迷信好きの女生徒を中心に実行したがる生徒は多いでしょうね」
 やつれ気味の魔法先生が言った。
「更に問題なのが大発光が起こるのが麻帆良祭の最終日なんじゃ。その一週間前後も危険でのう。諸君には先程刀子君の言った六ヶ所の魔力溜まりで生徒達が告白をするのを阻止して欲しいんじゃ」
 気が進まない。全員が思った。告白するには勇気が居る。せっかく勇気を出して好きな相手に思いを告げようとしたのにそれを阻止するなどいい気分の筈が無い。
「学園長、一つよろしいですか?」
「なんじゃ?」
 手を上げて発言したのはシスターシャークティだった。
「何故、魔法生徒達を呼ばなかったのですか?」
 シスターシャークティの言葉に、多くの魔法先生が近右衛門を見る。皆、この事についてはとくに気になっていたのだ。聞いた情報では、別に魔法生徒に隠す必要性は見られなかった。
 近右衛門は小さく息を吐くと口を開いた。
「この学園の文化祭は生徒の自主性を重んじておる。魔法生徒もまた生徒じゃ。文化祭に集中してほしいんじゃよ。特に一年に一度の事じゃしのう。それに、告白を阻止するなど普段の魔物退治などとはかってが違うしのう」
 言われて見れば尤もた。今回のは相手が異形では無い。多くは同じ学び舎の仲間だろう。仲間が思いを遂げようとするのを邪魔するのは自分達以上に気が進まない事だろう。
 魔法先生達は近右衛門の言葉に頷いた。
「私も魔法生徒の筈なんだがな」
 エヴァンジェリンは恨みがましい目で近右衛門を睨みつけた。学園祭中、ネギ達と一緒に回ろうと楽しみにしていたのだ。
「別に三日間ずっと拘束したりはせんよ。さすがに麻帆良祭中は人が多く、対処にかなりの人員を割く事になるじゃろうがシフト制にするわい。お主は麻帆良祭の準備期間の間手伝ってくれ」
「むぅ……」
「そう言えば、お主はタカミチ君や瀬流彦君にたかっておるそうじゃのう?」
「うっ……。な、何が言いたい?」
 近右衛門の意地悪そうな笑みにエヴァンジェリンは忌々しげな目付きで睨んだ。
「なに、お主、麻帆良祭中のお小遣いがそんなにないのではないかのう?」
「うぅ……」
 図星だった。弟子の為に張り切って教材を取り揃えたばかりで今現在、エヴァンジェリンは金欠だった。
「今回の仕事を受けてくれるのであれば、給料を弾ませてもらうぞい?」
「ぐぬぬ……。人の弱みに付け込むとは……この狸爺ぃ!!」
 エヴァンジェリンが喚き立てるのを好々爺のように笑って近右衛門は無視した。
「ふむ、では今宵の件は以上じゃ。各々、シフト表を後日配るでな、それに合わせてパトロールするように。では、解散!」
 近右衛門が去り、魔法先生も散り散りになる中で、険しい表情をしたエヴァンジェリンがタカミチを捕まえた。人気の無い場所を探してエヴァンジェリンがタカミチを連れ込んだ。
「何なんだい? エヴァ……」
 訝しむタカミチに、エヴァンジェリンは周囲に人の居ない事を確認した。
「あの話をどう考えた?」
「あの話って、さっきの学園長の話かい? なんというか、気が進まないね」
 タカミチが返すと、エヴァンジェリンは盛大な溜息を吐いた。
「な、何だいその溜息は!!」
 タカミチはムッとして怒鳴る。二人っきりの時、エヴァンジェリンの前でどうしてか子供っぽい所を見せてしまう。それは、タカミチが少年時代からエヴァンジェリンを知っており、一時期は師弟の関係でもあった事に所以している。
 咸卦法を修得する為に手伝いをしてくれたのがエヴァンジェリンだったのだ。エヴァンジェリンにとっても、タカミチは最初の弟子であり、特に眼を掛けているのだ。タカミチのガッカリな反応にエヴァンジェリンは失望感を漂わせた。
「どうしてこんな麻帆良祭間近の今になっていきなりあんな話をし出したのかって事だ」
「え? そりゃ、最近になって分かったからじゃ……」
「22年周期と言ってただろう! ある程度予測は出来た筈だ。こんな直前じゃなくな」
「……確かに少し妙だね。何か事情があったのかな?」
「それもあるだろうが……。もしかしたら、あの爺ぃ、また何か企んでるのかもしれんぞ……。警戒が必要だな……」
「企み……ね。反論出来ないけど……」
「少なくとも、あの爺ぃは何かを隠してる感じだった」
「よく分かるね……」
「付き合いが長いし、経験上な」
 エヴァンジェリンは溜息を吐いた。
「あの狸爺ぃが何考えているのか気味が悪くて仕方が無いぞ!」
 エヴァンジェリンがガーッと怒鳴ると、タカミチはやれやれと肩を竦めた。
「エヴァは子供達が心配で仕方無い様子だね」
「な!?」
 タカミチがニヤニヤしながら言うと、エヴァンジェリンは口をパクパクさせた。
「だって、学園長の企みを心配するっていうのはそういう事だろう? 京都の時の事なんかを考えたらね……」
「お、お前なんかもう知らん!! 何だ、最近のお前は!! 昔は素直に私の言葉に何でもはいはい答えてた癖に!!」
 エヴァンジェリンは顔を真っ赤にして憤慨すると、タカミチから顔を逸らした。タカミチは煙草をポケットから取り出すと火をつけた。
「子供はやがて大人になるんだ。あの子達だってそうさ……」
「――――ッ!? そ、それは…………」
 タカミチの言葉がエヴァンジェリンの胸を締め付けた。眼を逸らしてきた訳じゃない。何度も向き直って、何度も納得して、何度も溜息を吐いた。
 それでも、昔は自分を慕っていたタカミチから吐き出された言葉はエヴァンジェリンに焦燥感と悲しみと怒りを同時に膨らませた。
「けど、成長しても変わらないモノだってあるよ」
「……………………」
 肩を震わせるエヴァンジェリンに、タカミチはニコッと笑みを浮かべた。
「僕は、エヴァが好きだよ」
「…………は?」
 あまりの事に、それまで胸の中を渦巻いていた感情が抜け落ちた。目を丸くし、一気に顔が熱を発した。
「なななななな、にゃにを言ってるんだお前は!?」
 顔を真っ赤にしながら顔だけタカミチに向けるエヴァンジェリンに、タカミチは愉快そうに笑った。
「ああ、違うよ。そうじゃない。僕が言ったのは、エヴァは僕にとって偉大な師匠で、大切な……そう、大切な人だって意味だよ」
「大切な……?」
 キョトンとするエヴァンジェリンに、タカミチはクスリと笑った。
「僕がこうして立っていられるのも、師匠に少しでも近づけているのも、エヴァが居るからさ」
 すると、タカミチはエヴァンジェリンの脇に両手を差し入れて、高い高いをする様にエヴァンジェリンの華奢な体を持ち上げた。エヴァンジェリンを見上げる様にしながら、タカミチは満面の笑みで言った。
「僕は、いつだって貴女を尊敬してますよ。僕にとっての憧れです。偉大な英雄達と肩を並べる僕の自慢の師匠。僕は貴女を愛してる。それに、ネギ君やアスナ君、木乃香君や刹那君だって、エヴァを愛してるんだ。分かってるだろ? 君は色んな人に愛されてる。なら、心配しても恥しがる必要なんて無いんだよ。だって、皆もエヴァを心配してるんだから。エヴァに何かあったらどうしよう。エヴァに幸せになって欲しい。一方通行なんかじゃないんだからさ。あんまり不安にならないでくれよ」
 冷たい雫が頬を撫でた。頬を流れ落ちる綺麗な雫に意を解さずに、タカミチはそっとエヴァンジェリンを降ろすと、ポケットからハンカチを取り出して、ソッとエヴァンジェリンの目元を撫でた。
「不覚だ。…………弟子に泣かされた」
「弟子として、師匠から一本取れて誇らしいよ」
「馬鹿…………」
 そのまま、エヴァンジェリンが落ち着くまで待ってからタカミチは口を開いた。
「折角だし、一緒に飲みに行かないかい?何時もどおり、僕の奢りだからさ」
「……当たり前だ。高いの奢らせてやる」
「お手柔らかに」
 ニッコリ笑みを浮かべるタカミチと、目元をハンカチで隠しながら、口元に小さく笑みを称えてエヴァンジェリンは夜の街へと歩き出した。心に温かいナニカが溢れ出して、頭の中から近右衛門への不信感が抜け落ちてしまった。
 ただ、最初の教え子との親睦を、二人揃って潰れて茶々丸に介護されるまで飲み続けて深めるのだった――。

 ゴールデンウィーク中のある日の早朝、紅蓮の如き赤髪、ルビーを思わせる真紅の瞳、彫刻の様な横顔。他とは異質な空気を纏う、百人の通行人が老若男女を問わずに振り返らずにはいられない程の絶世とも言える美貌を持つ少年が麻帆良市内を歩いていた。
「おや」
 視線の先に此方を歩く二人の少女を見掛けて唇の端を吊り上げた。甘く微笑むと、何時の間にか少年は二人の少女の背後に立って、魅惑的な声を響かせた。
「お忙しいかな? お嬢さん方」
 唐突に声を掛けられた二人は目に見えてギクリと体を震わせた。金髪の少女と少年のよりも薄い赤髪の少女だ。恐る恐る二人が振り返ると、少年は悪戯心を芽生えさせて一瞬で二人の少女の前に現れた。周りに居る人はそれが“自然な事”だと認識している様で、誰も気にも留めない。振り向いても誰も居ない事で不審気な顔をしながら二人の少女が顔を前に向けると、少年は魅力的な笑みを浮かべて挨拶した。
「お久しぶりだな」
「お前――ッ!?」
 エヴァンジェリンは少年の顔を見て絶句した。
「アイゼン…………さん?」
 ネギも目を丸くして現れたアイゼンを見た。五百年を生きた古血。戦神として名を馳せた吸血鬼が目の前に現れたのだ。ネギは知らず息を呑んでいた。
「そう警戒するな。別に、とって喰ったりはせん」
「お前はとことん信用の置けん奴だからな。そのくらい、自覚はあるだろう?」
「無礼な奴だな。まあ、年長者という事で許してやろう」
「クッ…………、相変わらずだな」
 不遜な態度を取って、無礼な発言をするアイゼンにエヴァンジェリンは苦虫を噛み潰した様な顔をした。ネギの方は、以前会った時と若干イメージの異なるアイゼンの態度に違和感を覚えたが、エヴァンジェリンの言葉を聞いて、此方が素なのだろうと納得した。
「で? …………お前は何をしに来たんだ?」
 エヴァンジェリンがぶっきらぼうに尋ねる。一刻も早く会話を切り上げて退散したいという思いと、警戒すべき相手の目的を聞かなければならないという考えに揺れている様だ。
「別に、ここの者に危害を加えるつもりはない」
「戦闘凶のお前の言葉を信じろと?」
「ああ、信じろ。信じる者は救われるぞ? ここに来たのは用事があったからだ」
「用事? なんだそれは?」
「ま、お前に話す程の事じゃない」
「お前……」
 アイゼンの物言いに機嫌を悪くするエヴァンジェリンにネギは慌てて宥めた。
「エヴァンジェリンさん、喧嘩は駄目ですよ。それに、そろそろガンドルフィーニ先生達との約束の時間じゃないですか?」
 怒った様に言うエヴァンジェリンにネギは腕時計を指し示した。時計は三時を指していた。
「おっといかん。今日は弐集院の奴が上手い中華料理店を見つけたらしくてな。そこで飲む事になっているのだ」
「ほう、中華か。いいじゃないか」
「ああ、中華はあまり食べないからな。少し楽しみだ」
 鼻歌を歌いだしそうなエヴァンジェリンに苦笑すると、アイゼンはそれじゃあ、と言ってネギの手を取った。
「借りるぞ。ここの地理は分からんからな。案内しろ」
 ズルズルとネギを引き摺りながら片手を振ってアイゼンは勝手に歩き出した。
「え? え? え? え~~~!?」
 ネギが訳が分からずに悲鳴を上げている。
「おい待てコラッ!!」
 慌ててエヴァンジェリンが静止を呼びかけるが、アイゼンは余裕な態度で自分の腕時計を見せた。
「時間はいいのか?」
 ニヤリと何とも腹の立つ笑みを浮かべながら訪ねる。エヴァンジェリンはキレそうになったが、飲み会に遅れるのは拙い。何が拙いか、遅刻した者は必ずその日のターゲットなのだ。何度も何度も連続する一気コール。その末路は悲惨なものだ。前に瀬流彦が書類整理の為に遅刻した時、トイレに閉店時刻まで篭る事になり、帰る途中も何度も吐いて惨めな姿を曝した。訳の分からない歌を歌いながら。
 嫌過ぎる!! 奴等は加減をしらない。吸血鬼だから大丈夫だろうと、女である自分にも容赦しない気がする。帰る途中に道端に自分の吐瀉物を撒き散らすなど、冗談じゃない。そんな醜態を晒したら生きていけない…………。
「ネ、ネギに手を出してみろ。全力を持って貴様の息の根を止めてやるからな」
「ほれほれ、さっさと行ったらどうだ?」
「しかし…………」
「あ、あの……エヴァンジェリンさん。私なら大丈夫ですから行って下さい! やっぱり、遅刻とかはいけないと思いますし。アイゼンさんは悪い人じゃないと思うので」
 ネギの言葉に、エヴァンジェリンどころかアイゼンまでも目を丸くした。不意にアイゼンは噴出した。
「クク……ハハハハハハ!!」
 唐突に笑い出したアイゼンに、エヴァンジェリンとネギは顔を見合わせた。
「ああ、何もしない。我が祖・火神(アグニ)の名に掛けて誓おう」
「始祖に誓う事がどういう事か分かってるな?」
 エヴァンジェリンがジロリとアイゼンを睨みながら尋ねた。
「当然だ。血族は始祖への誓いを違えん」
 エヴァンジェリンは鼻を鳴らす。
「妙な真似はするなよ?」
「さっさと行け。時間が迫っているんじゃなかったのか?」
 エヴァンジェリンは舌を打つと、ネギに耳打ちした。
「いいか、何かあったら悲鳴をあげるんだぞ」
「俺は痴漢か…………。さっさと行け」
 呆れた様にシッシと手を振ってアイゼンはエヴァンジェリンをまるで羽虫の様に追い払った。そのまま、ネギはアイゼンに引き摺られる様に麻帆良市内を案内させられた。すると、困った事が起きた。
「す…………、凄いですね」
 ネギは半ば呆れた様に呟いた。歩く先々でアイゼンが通るとその非常識とも言える様な絶世の美貌のおかげで男も女も関係なく振り向き、何時の間にか人だかりが出来てしまったのだ。
 アイゼンは自然な動作で周囲の人々を蔑むと、近くにあった眼鏡屋に目を付けた。
「眼鏡を買うんですか?」
「うん? それ以外にこの店には何かあるのか? それならそれで興味深いな」
「い、いえ! 無いです…………」
 アイゼンはニヤリと俯くネギを面白がる様に見ると、さっさと店の中に入ってしまった。ネギも慌てて後を追う。アイゼンを見ていた人だかりは残念そうにしながらもそれぞれの目的の為に散らばった。何人かの一瞬で魅せられてしまった熱烈なファンと、一部の少女を除いて――。
 店の中には高級ブランドから安物までありとあらゆる眼鏡のフレームが並んでいた。入って来た二人に即座に店員がお薦めや新製品の売込みをしようと近づくが、アイゼンは「邪魔だ」と言って店員を転ばせてしまった。
 まるで、道端に落ちている石ころを偶然にも蹴ってしまった様な感覚で。ネギは慌てて店員に手を貸して謝罪をすると、店員は許してくれたが、ネギは腰に手を当ててアイゼンに注意をした。
「アイゼンさん! 人を転ばせて謝らないのはよくないですよ!」
「転ばせた? …………ああ、さっきのか。邪魔だったからどかしただけだが?」
「!?」
 ネギは思わず目を見張った。アイゼンはたったいま転ばせた相手の事を既に綺麗サッパリと忘れていたのだ。まだ店員が何とか製品を勧めようとしているのだが、完全に無視している。やがて、店員も諦めた様子でレジに戻ってしまった。
「何を怒ってるんだ?」
 険しい表情を見せるネギにアイゼンは肩を竦めながら尋ねた。
「分からないんですか?」
 ムッとなって尋ね返すと、アイゼンは面白がる様にニヤリと笑った。ただの人の分際で自分にこういう“イケナイ”話し方をする人間はもう滅多に居ない。寧ろ新鮮に感じたのだ。
「分かった分かった。すまなかった。これでいいか?」
「私に謝っても仕方ないです!」
 悪びれた様子も見せずに茶化した様に謝るアイゼンにネギは余計に腹が立った。初対面とはいえ、幾らなんでも非常識過ぎると憤慨しているのだ。
「そう腹を立てるな。そもそも、俺は睨んだだけだ。それで勝手に転んだのは奴の方だぞ」
「え…………? で、でも!」
「第一、買い物をしてやればそれで奴は満足する。それでいいだろう?」
「でも…………」
 納得のいかないネギにアイゼンはクッと笑みを浮かべた。
「機嫌を直せ。もうしないと誓ってやる」
 アイゼンは言いながらネギの頭をポンポンと軽く叩いた。ネギはアイゼンの手を振り解いて溜息をついた。どうにも常識が自分とは違うらしい。
 アイゼンはしばらく沢山の眼鏡を眺めていた。黒縁の太いフレームの眼鏡や、赤い縁の眼鏡、小さい丸眼鏡。不思議な事に、誰が掛けてもおかしな事になりそうな眼鏡であっても、アイゼンの双貌に重なると全く別の物に変化してしまったかの様に違和感が無くなった。とにかく、どれもこれもがとても良く似合うのだ。
「おいネギ、これはどうだ?」
 アイゼンは何時の間にかネギを呼び捨てにしながら、細い銀色のフレームの眼鏡を掛けて見せた。ネギは思わず見惚れてしまった。眼鏡が、アイゼンの恐ろしい程に整った美貌の別の側面の魅力を引き出したのだ。当て嵌められる言葉はすぐには見つからなかった。ただ、そう…………あまりにもセクシーだった。
 ネギはさすがに口に出すのを躊躇った。だが、ネギが何を思ったのかがアイゼンにはお見通しの様だった。ネギが黙ったままでいると、勝手に満足した様に会計に持って行ったのだ。店を出て、ネギが何故眼鏡を買ったのかを尋ねると――「変装の為だ」と言った。
 逆効果だ。そう、ネギは確信していた。何せ、魅力のオーラが色や形を変えただけで、その強さは全く変わっていない。男性すら見蕩れているのだから、アイゼンが人の注目を浴びないようにする為には顔全体を覆い隠す必要があると、ネギは思った。と、またしてもネギの心を読んだかの様に、アイゼンは眼鏡を外し、さっきの店で一緒に買ったらしい同じフレームの赤い色眼鏡を掛けた。
 最初からそうしろと言いたかった。それでも、美しさが滲んだが、瞳が隠れたおかげでどうにか道行く人々の注目は少しだけ薄れた。様々な場所を巡る内に、ネギの中でアイゼンの人となりが少しずつ分かってきた気がした。とにかく高慢で鼻持ちなら無い筈の態度をとる。それなのにそれがとても自然な事の様に思える。善人とはいえないものの、悪者とも思えなかった。
 日が暮れ始めると、ネギは空腹を感じた。すると、またしてもアイゼンは心を読んだかの様に見事なタイミングでネギを食事に誘った。
「もしかして、アイゼンさんは心が読めるんですか?」
 恐る恐る尋ねると、アイゼンはニヤリと笑みを浮かべた。
「そうだ、と言ったらどうする?」
「やっぱり!?」
 ネギは慌てて何も考えない様に無駄な努力をした。すると、次から次へと人には知られたくない思いや記憶、考えが止め処なくあふれ出した。知られたくない考えを必死に隠そうとしているのに、逆にあふれ出してしまい、ネギは涙目になった。アイゼンはそんなネギの姿に満足した様に鼻を鳴らした。
「冗談だ。顔を見て、後は動作で考えを推測しているに過ぎん」
 心底面白がる様に笑みを浮かべるアイゼンに、ネギはうう~、と睨んだ。
「まあ、やろうと思えば出来るがな」
「どっちなんですか!?」
「さてな。人間の心なんぞ、覗いてもつまらんがな」
 肩を竦めると、アイゼンはさっさと歩き出してしまった。
「あ、待って下さい!」
 慌ててネギが追いかける。到着したのは小さなレストランだった。内装は落ち着いた雰囲気で、若干薄暗いが清潔感のある店だった。アイゼンは扉を開くと、押えたままネギを招き入れた。ネギは流されるままに店内に入る。どうにも落ち着かなかった。アイゼンがどこの国の人なのか分からないが、何時の間にか自分がエスコートされている様な状態だった。今だって、ドアを開けて、自分を先に入らせた。まるで、エスコートされるべき女性の様に扱われて気分が悪かった。更に気分が落ち込んだのは、一瞬、それが自然な事の様に思ってしまったからだ。
 そういえば、そろそろ薬を飲まないといけないな、と思いながら背後にアイゼンが立つのを意識した。何故だか動悸が早まる。
 店は未だ早い時間だからかそう混んではいなかった。案内係は女性で、アイゼンを値踏みする様な目つきをしていた。それがどういった理由なのかは今日一日の経験でネギにも簡単に察しがついた。わざとらしいくらい愛想良くアイゼンを迎え入れる。ネギにも愛想を良く接するが、もしかして兄妹と思ってるんじゃないだろうか? と自分の赤髪とアイゼンの赤髪を比べながら思った。
「二人だ」
 魅惑的なアイゼンの声は、まるで言霊の様に魅惑の魔力が宿っているらしい。案内係の女性を“クラクラ”させた。女性は、フロアの一番混雑した場所に案内した。場所を集中させれば、運んだりするのに楽だからだろう。
 ネギが席に座ろうとするが、アイゼンは嫌そうな顔をして女性に顔を近づけた。まるで、何をしても許されそうな魅力的なスマイルと共に甘い声色で女性に静かな席に案内するよう命じた。案内された席を拒否するなんて何様だ、とも思ったが、煙草の煙が近くまで漂ってきたので、場所の移動はネギにとっても行幸だった。
「かしこまりました」
 またしても“クラクラ”させられた女性店員は操られるマリオネットの如く忠実にアイゼンの望んだ席に案内させられた。ついたてを回り込んだボックス席の並ぶ方に向かう。どれもからっぽで、他の席から死角になっている場所を案内された。
「パーフェクト」
 輝くような笑みを浮かべ、密やかな発音で呟くと、ネギに座る様顎で席を指し示した。思わずぼうっとさせられた女性は「えっと」と、目をしばたたかせて頭を振った。
「すぐにお冷とメニューをお持ちします」
 よろよろした足取りで去って行った。
「そういうの…………やめた方がいいと思います」
「そういうの? 何の事だ?」
 思わず呆れてしまった。自分の行動がどういう結果を導いているか理解していないのだ。
「今みたいな…………。その……、相手をクラクラさせる事ですよ」
 ネギが自分で言いながら恥しくなっていると、アイゼンは面白そうに口を開いた。
「俺が相手をクラクラさせてる? 面白い表現だな。だが、自分の魅力を武器にするのは基本だ。しかし……、そういう表現をするからには、お前も俺にクラクラさせられたのか?」
 掌に顎を乗せながら目を蛇の様に細めて尋ねるアイゼンに、ネギは答えなかった。丁度、お冷を女性がメニューと共に持ってきた事を口実に話を切り上げた。女性は自分で理解しているのだろう。一番自分が魅力的に見える角度をアイゼンに向けながら、黒髪を耳に掛けながらメニューを開いてアイゼンに寄越した。
「お飲み物はどうなさいますか?」
 女性はネギに見向きもしていなかった。完全にアイゼンの虜になってしまっている。アイゼンはといえば、女性のそんな仕草に見向きもせずにネギに自分のを決めろと催促する。
「オレンジジュースで…………」
「俺はコーラを頼む。コーラとオレンジジュースだ」
 アイゼンが注文をすると、時間を置かずに女性が飲み物と共に籠に入ったプロシュットを巻いたグリッシーニを運んで来た。
「注文はお決まりですか?」
 女性はあくまでもアイゼンに聞いた。
「先に頼め」
 アイゼンに促されてメニューに目を落とす。
「えっと……、じゃあ、マッシュルームのラビオリと、シーザーサラダ、それに真鯛のカルパッチョと田舎風ミートソーススパゲティを」
「意外と食べるんだな」
 面白がる様に言うアイゼンの言葉にネギは何故だか恥しくなった。
「俺は仔牛の香草焼き、鴨のソテーに、エスカルゴ。それと、キノコと八種類のチーズのリゾットを頼む」
 店員が熱っぽい視線を向けながら去って行くと、アイゼンは水を口に含んだ。
「今日は中々に愉快だった。感謝するぞ」
「え? あ、いえ……そんな…………」
 唐突のアイゼンの礼にネギは戸惑ってしまった。結局、訳も分からずつれまわされただけで、案内の役に立ったとも思えないし。アイゼンはからからと笑った。
「あの馬鹿も傑作だったが、お前も見所があるぞ。この俺を相手に怯まずに付き合える人間なんぞ、そうそう居ないからな」
「馬鹿…………?」
「ああ、ナギ・スプリングフィールドの事だ」
「!!」
 ネギが目を見開くと、アイゼンは水を再び口に含んだ。
「前も話したと思うが……聞きたいか?」
 アイゼンが足を組んでネギを観察する様に見つめながら尋ねた。
「聞きたいです!!」
 ネギが反射的に答えると、アイゼンはニヤリと笑った。
「ま、今日は付き合わせたからな。駄賃代わりに聞かせてやろう」
 丁度、店員の女性がシーザーサラダを運んで来た。取り皿を二人分二人の前にそれぞれ置くと、女性は去って行った。アイゼンは何故か気に入らなかったらしく鼻を鳴らし、ハサミで二人分に分けた。ネギは礼を言うとシーザーサラダに手をつけずにアイゼンの口が開くのを待った。
「喰え。そんなに緊張する必要は無い」
 アイゼンに促されてネギはサラダに手をつけた。アイゼンもサラダを口に入れた。
「奴と最初に会ったのは奴がガキの頃だ。お前と同じくらいだったか」
 アイゼンが語りだすと、ネギは黙って話しを聞入った。
「奴は当時、気に入らないからという理由で、魔法学校の教師を殴って、退学になったらしくてな」
「え!?」
 ネギは思わず声を上げてしまった。尊敬する父が教師に手を振るって退学になったなど信じられなかったのだ。
「これは、奴自身が自慢気に語った事だぞ」
「じ、自慢気に…………ですか」
 ネギは少しだけガックリとしてしまった。教師を殴った事を自慢するなんて、恥しい事だろうに、と。
「奴は、魔法学校を中退した頃から放浪の旅に出ていた」
「ちょっと待ってください!! その頃って、私と同じくらいだったんですよね!?」
「そうだ。その当時、既にかなりの力を持っていたからな。お前も、その歳で決戦クラスを使うのだから、人の事は言えんだろう?」
 ニヤニヤしながら聞いてくるアイゼンに、ネギは返す言葉が見つからなかった。確かに、信じられない思いだったが、よく考えてみれば、魔法学校の卒業後の修行でそういう事をする事もあると聞いた事がある。
「奴は強い奴を求めていた。俺にも覚えがある。とにかく、自分の力を試したい。自分の力を高めたいと望んだ」
「アイゼンさんも…………ですか?」
 ネギは信じられないという目でアイゼンを見た。スマートでクールな雰囲気のアイゼンと、強い奴を求めて修行の度に出るなんていう、一昔前の漫画の主人公の様な暑苦しいイメージと重ねるのは難しかった。
「吸血鬼というのは、転化したてはとても弱い。己の固有能力と魔法を鍛える事が必須なのさ。エヴァンジェリンだってそうだぞ。奴は、転化後僅か十年で【闇の魔法(マギアエレベア)】という、自分だけの固有能力(スキル)を作り上げた。そうでもしなければ、転化したての吸血鬼は容易く人間に狩り殺されるからだ」
「あ…………」
 ネギは思わず俯いてしまった。何となく、後ろめたい気持ちになったのだ。落ち込んでしまったネギに構わず、アイゼンは話を続けようとしたが、丁度サラダを食べ終わり、ネギにはラビオリを、アイゼンには香草焼きを店員がそれぞれ運んで来た。
「昔、俺はエヴァンジェリンに挑んだ事がある」
「エヴァンジェリンさんにですか!?」
 ネギは顔を上げて驚いた。
「奴は転々と住居を変えていた。暗黒大陸を住処にしていたが、当時の吸血鬼ハンターが奴を追い詰め、堪らずに南海の孤島にレーベンスシュルト城を築いて住処を移動させたらしい」
「南海の孤島に…………ですか」
 ネギはエヴァンジェリンの辛い過去を聞いて哀しくなってきた。間違いなく、辛かったに決まっているだろう人生を送ってきたエヴァンジェリン。その過去は想像以上に壮絶なものだ。
「現在は、南海大帝が棲み処にしていると聞くがな」
「南海……大帝?」
 聞きなれない単語だった。
「そういうのが居るのさ。で、奴がその南海の孤島に拠点を移してしばらくした頃に、俺が奴に挑んだ。ま、結局勝負はつかなかったがな」
 ネギはラビオリを食べつくすとオレンジジュースを啜った。直ぐに店員が来て、別の料理を運んで来た。アイゼンの前にはエスカルゴが置かれ、周りにはガーリックトーストが並べられている。見た事も無い料理で、興味を引かれた。
「食べるか?」
 アイゼンはそんなネギの考えを読んだ様に、ガーリックトーストにエスカルゴを乗せて、たっぷりとオリーブオイルを塗りたくって渡してくれた。
「あ、ありがとうございます!」
 口に入れると、何となく貝に似ている気がした。香ばしくてとても美味しかった。
「おいしい…………」
 思わず呟くと、アイゼンはクッと笑った。
「話を続けよう。ナギが俺の拠点に挑んで来たのは、旅立ってからそう時間を置かない頃だった。傑作だったぞ。ガキがたった一人で俺に挑んで来た時はさすがに愚かだと思った。だが、奴は面白かった」
 アイゼンは懐かしむようにナギとの初対面の時の様子をネギに語り聞かせた。ナギの間抜けな一面を聞くとネギは苦笑いを浮かべた。それから、ネギとアイゼンは他愛無い話をしながら残りの食事を片付けた。どれも驚くほど美味しく、ネギはまた来ようと心に決めて、支払いをしようと立ち上がった。アイゼンが伝票を取ろうとする前に掠め取った。怪訝な顔をするアイゼンに、ネギは頭を下げた。
「お父さんの事、教えてくれてありがとうございました」
「別に構わん。話の肴にしただけだ」
「でも、お父さんの話が聞けて良かったです」
 そう言って、ネギは支払いを済ませた。店を出ると、アイゼンは何とも苦々しい表情を浮かべていた。店を出るときにネギに支払わせているのを変な目で見られたからだ。質が悪いのは、ネギが完全に善意で行った事だからだ。
「フェアじゃないぞ、まったく」
 ネギは電話が掛かってきたらしく、アイゼンに断って電話をしている。キャロからだった。電話を終えたネギに、アイゼンはネギのおでこをトンッと人差し指で叩いた。目を白黒させるネギに、アイゼンは言った。
「一つだけアドバイスだ。親父の影を追い過ぎるなよ」
「…………え?」
 そう言うと、手を振りながらアイゼンは去ってしまった。ネギは困惑しながら呼び止めようとすると、不意に後ろから抱きつかれた。心臓が爆発するかと思う程驚くと、そこに居たのはチア部の三人組だった。ネギは三人の“何としても避けたい誤解”を避ける為に満腹だと言うのにカフェテリアでパフェを食べながら一時間を費やさなければならなかった――。

 ゴールデンウィーク最後の日、
 真っ暗な闇の中で、一筋の光が視界に映った。
「ひ……かり? ――ッ!? 声が、声が戻ってる!!」
 あれから何日歩いたのか分からない。心が壊れそうになった。だけど、それも一時だけだった。狂うというのは、簡単な事じゃないらしい。それとも、自分は既に異常なのかもしれない。只管に死を望んだりもしたが、本心は違った。だからこそ、生きている。五感が閉じられた状態。その時に、思い出したのは自分を忘れるなという言葉だった。
『ワイは、ワイ…………』
『私は、私…………』
 結局の所、どうやら自分は自分でも知らなかった事実だが…………生き汚いらしい。足で確りと地面を蹴り、外に出た。ほぼ同時だったらしい、真横には、入った時と同じ様に一緒に修行をしていた相手が居た。
「修行、完了だな。気付いてるか? お前達、見違えたぞ」
 目の前に現れたのは土御門だった。小太郎は、一発殴ってやろうかな、と思ったが、それ以上に自分の事に驚いた。掌を上にして、魔力を集中させると、驚くほど簡単に練る事が出来た。狗神の存在も、それまで以上に強く知覚出来る。それどころか、全身の感覚が強まった気がした。風の気配や、水のせせらぎ、光の香り、土の強さ。それらが、まるで手に取る様に分かった。
 和美も、自分の中に在る“力”をハッキリと感じる事が出来た。漠然とではない。ハッキリと、力の鼓動が分かるのだ。両手を広げてみると、自分を取り巻く“風”を感じ取る事が出来た。
「なに…………コレ!?」
 和美が思わず目を見開くと、土御門は満足そうに頷いた。
「これが、死を体感した者だけが得られる“超感覚”だ」
「超…………感覚?」
「何や、それ?」
「お前達は、洞窟の中で確かに感じた筈だ。完全なる無を――死、そのモノを」
 和美と小太郎は頷いた。音も光も触感すらも無い状態。それは、想像を絶するほど辛いものだった。
「擬似的な死を体感したお前達は、それでも自分を失わなかった。それこそが、その超感覚を得る手段だ」
「だから、何なの? その……超感覚って」
 土御門のもったいぶった言い方にイラつきながら和美が尋ねた。
「要は、“研ぎ澄まされた感覚”だ。五感と魔力や気を感じる第六感が強まっているのを感じるだろ?」
 二人が頷くのを見て土御門は満足そうに笑みを浮かべた。
「小太郎、和美、コレに狗神とさよちゃんを憑依させてみろ」
 そう言うと、土御門はナニカを小太郎と和美、二人に向かって放り投げた。慌てて掴むと、小太郎の手には、材質の分からない白い球体が連なった数珠が握られ、和美の手には小さなブローチが握られていた。
「なんやコレ…………ッ!?」
 小太郎は思わず目を見開いた。
「骨!?」
「そうだ。小太郎のは魔狼の骨で作った数珠だ」
「魔狼の…………骨?」
「正確には少し違うが間違い無く最強の名を冠する存在の骨だ」
 小太郎は自分の掌に視線を落としながら魔狼の骨を見つめた。
「ねえ、私のはなんなの?」
 和美が尋ねると、土御門は手で制した。
「その前にだ。ほれっ!」
 土御門はどこからか真っ黒なモノを取り出した。
「って、位牌!?」
 和美がその位牌を見て素っ頓狂な声を上げた。そこには、『奪等院武資粛卯童女』と書かれている。裏には、『昭和十五年十二月二十四日 歿』、『俗称 相坂さよ』、『享年 十五才』と並べて書かれている。そこから、突然真っ白な光と共にさよが現れた。
「和美さん!!」
 幽霊の状態のさよが和美に抱きつこうとして和美を通過してしまった。
「うひゃん!?」
 すると、和美はまるで冷水を浴びせられた様な寒気を感じた。
「あ、ごめんなさい!!」
 慌ててさよが謝ると、和美は大丈夫、と言って何とか笑みを作った。
「これはさよちゃんの位牌だ。位牌は、元々は古来の習俗と仏教の卒塔婆が合わさったモノで、霊の寄り代とされている」
「グッスリ眠れました!! 私、もうずっと“眠る”なんてした事なかったので、すっごく嬉しかったです~!」
「ね、眠ったの!?」
 和美はもう何に驚けばいいのか分からなかった。というか、位牌の中でグッスリ眠るというのはどういう感じなのだろうかと疑問に思った。同時に、やはりさよは幽霊なんだなと理解して切なくなった。
「はい! もう、グッスリです~」
 ふよふよと浮かびながら両手を枕に寝る様な仕草をするさよに、和美はそっか、とだけ言った。
「で、これは何なの?」
 和美が聞くと、土御門は呟く様に言った。
「さよちゃんの遺留品だ。当時のな…………」
「当時の!? って、遺留品ってどういう事!?」
 形見ではなく、遺留品という言葉に和美は引っ掛かりを覚えた。だが、強く追及する事が出来なかった。どうしてだか、土御門が泣きそうになっている気がしたのだ。それが女の勘なのか、超直感なのかは分からない。ただ、土御門にとって、何か触れられたくない傷の様な気がした。
「当時のさよちゃんを俺は知っていた。それだけだぜぃ」
 弱々しそうに感じた。ただ、その言葉の意味は何となく分かった。さよは不思議そうに首を傾げているだけだった。生前のことに興味が無いのだろうかと疑問に思ったが、何も言わなかった。
「ま、いつか話してやるさ。それより、早速憑依してみろ」
 土御門に促され、小太郎と和美はそれぞれに渡された品に狗神とさよを憑依すさせる事にした。研ぎ澄まされた超直感によって、狗神を強く感じながら、右腕に嵌めた魔狼の骨の腕輪に狗神の力を流し込んでいく。途端に、小太郎は恐怖に駆られて術式を解いた。
「な、何や!? 今のは!?」
 小太郎はゼェゼェと息をしながら腕輪に目を落とした。まるで、得体の知れない何かが現れる様な気がしたのだ。その横で、和美もさよに掌を向けながら、前に人形に憑依させた時と同じ様にブローチにさよを招き入れた。すると、一瞬の間に不思議な映像が見えた。
「え――――ッ?」
 それは、古い家の光景だった。それは、古い校舎の光景だった。全く知らない場所の風景が一瞬の間に過ぎ去って行った。そして、一瞬だけ恐ろしい光景が見えた。
 真っ赤な世界。死体が並んでいる。泣き崩れる少年の姿があった。泣き崩れる女性の姿があった。泣き崩れる男性の姿があった。泣き崩れる少年少女の姿があった。
 それが、さよの死に纏わるブローチの記憶だったのかもしれない。ただ、あまりにも場面の切り替わりが早すぎた。元の世界に戻ると、そこにはさよが立っていた。薄くて向こうが見える幽霊ではない。色白の薄い空色の髪の少女。相坂さよが確りと自分の足で立って、目の前に居た。
「さよちゃん…………?」
「ハイッ! 相坂さよです」
 さよはニッコリと眩しい笑顔を和美に向けた。土御門が息を呑んだ音が聞こえた。
 もしかして、と和美は思った。一瞬映った光景の中で、特に印象に残った少年。何処か、土御門に似ていると思った。もしそうなら、もしかしたら自分に試練を与えたり、さよ人形を与えたりしたのは、それが理由なのかもしれない、と思った。
『ああ、別にそれでもいいや』
 和美はニッカリと笑みを浮かべた。こうして、友達に触れる事が出来る。それなら、利用されたくらい、どうだっていい。それに、間違い無く自分は強くなれたのだから――。


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