魔法生徒ネギま! 第二十五話『運命の胎動』 眼が覚めると、ネギは体がやけに重く感じた。不安に心が揺らいでいた。今日、襲撃するのは敵の本陣なのだ。コンコンという音を聞き、顔を向ける。窓の向こうに、一本の杖が定期的に窓を叩いていた。 杖は昨夜の内に呼んであった。埼玉県から京都府への遠距離飛行をこなしながらも、杖は確りとネギの元に辿り着き、一晩中窓をコンコンと叩いていたのだ。呪文によって眠ったネギ達は全く気がつかず、慌てて窓に駆け寄ると、窓を開き、冷たい風を感じながら杖を部屋に向かい入れた。杖はネギの目の前で静止した。杖の中心部を掴むと、ネギはやわらかく笑みを浮べた。「長旅、ご苦労様」 抱く様にしながら、杖に頬を当て、ネギは深呼吸をした。僅かに、ネギの体は震えていた。「お父さん……」 どこに居るのかも判らない父親を思いながら、ネギは大き過ぎる杖を畳の上に置き、鞄の中を探った。小ポケットに入れておいた指輪を身に着け、三枚のカードを取り出した。 神楽坂明日菜、桜咲刹那、近衛木乃香。三人の仮契約の証であるカード。「私って、何しに麻帆良に来たんだろう。平和に暮らしていたエヴァンジェリンさんを怒らせて、千草さんを挑発して、明日菜さんを巻き込んで、木乃香さんを巻き込んで、小太郎を巻き込んで……。卒業試験の指令に応える所か、逆に危険に曝して……」 自分を嘲笑する様に呟きながら、溜息を零した。自分の体を見て気分が悪くなった。こんな事は初めてだった。馬鹿らしくなったのだ。女の体になってまで、ここに来て自分がやった事は何だったのかと自問して――。 寂しい、そう感じた。誰でもいいから縋りたいと…………。 午前七時半に、ネギは起きた明日菜、木乃香、刹那の三人と共にホテル嵐山の食堂に他のクラスメイト達と集まり正座をしながら号令を待っていた。新田とタカミチが今日の日程を話している。タカミチは僅かに顔つきが堅い事を、ネギ達は見抜いていた。真名の方は僅かに疲れが見えていたが、それでも超と談笑する余裕はあった。 古菲は緊張した面持ちをして、楓にからかわれていた。楓にしても、古菲の緊張を解しながら、体内の気を整えている。 明日菜はボーッとしている様子だが、頭の中では何度も茶々丸に教えてもらった事を反芻していた。今までの突発的な戦いと違い、自分達から仕掛けるのだ。少女達はそれぞれ緊張しながらも心を戦いに向けていた。 豪勢な食事を味気なく感じながら、ごちそうさまをすると、奈良へ向かうバスにクラスメイト達が乗るのを見ながら“自分達が居ない事を当然と思う”ようにカモが魔法を掛けた。認識阻害の応用だ。 タカミチは、騒がしい少女達を新田一人に任せる事に心苦しさを感じたが、残った少女達に顔を向けた。「それじゃあ、行こうか」 覚悟の有無を問う必要は無かった。タカミチが手配したもう一つのバスが来ると、そのバスの運転手にカモが幻術を掛けた。「これで、半日後まで適当に時間を潰して戻って来る筈ッス」 カモの言葉に頷くと、タカミチが最初に入り運転席に収まった。ネギが大き過ぎる杖を抱えながら入り、刹那は夕凪と七首十六串呂・イを手に袴姿でバスに乗り込んだ。その次に明日菜がハマノツルギを右手に入り、東風の檜扇と南風の末広を持った狩衣姿の木乃香が乗り込んだ後に、セブンリーグブーツを履いたまるで隠密の様に修道服で全身を隠した美空が乗り込んだ。 バスは、後ろがパーティースペースで中央に机があり、その周りに最後部席と窓枠より僅かに低い背の椅子が横に並んでいる。明日菜達は窓を開くと、カーテンを結んだ。バスを襲撃される可能性が高い事を考慮し、即座に外に飛び出す為だ。 カモが視覚防御の結界を張ると、それぞれ椅子に座り、何時でも戦闘出来る状態にした。バスは真っ直ぐに西に向かって走った。「改めて、総本山の地形について話しておきます」 刹那はそう言うと、総本山の周辺の地図を見せた。ネットで落とした衛星写真は総本山を写さないが、刹那が手書きで足りない部分を描き足したのだ。嵐山の山中に位置し、左右を丘に挟まれ、北に烏ヶ岳を眺め、南には地図の上に封印の湖と描き込まれていた。それぞれの丘、山、湖の上には色の違うサインペンでそれぞれに大きな文字が書き込まれていた。北の烏ヶ岳に黒で玄武。東の丘に緑で青龍砂、西の丘に白で白虎砂、そして南の封印の湖には赤で朱雀と書かれていた。「関西呪術協会の総本山は、風水魔術の“背山臨水を左右から砂で守る”というのを汲んでいます。京都の四神結界と同じ物を関西呪術協会に張る為にこの地に総本山は置かれているんです。京都全体の場合は、北の丹波高地を玄武、東の大文字山を青龍砂、西の嵐山を白虎砂、南にあった巨椋池を朱雀とされています。更に、総本山のそれぞれの地点に祠が置かれているのですが、犬上小太郎にはコレの破壊をお願いしてあります」 刹那の言葉に、アスナがキョトンとした顔で尋ねた。「すると……どうなるの?」「結界が崩れます。ただ、祠は結界内にあるので、結界に反応してしまう可能性のある我々には出来ない事であり、関西呪術協会の犬上小太郎と天ヶ崎千草にしか出来ない事なんです」 刹那は若干、視線をネギに送りながら応えた。ネギが僅かに俯くのを見て、胸を痛めながらも、刹那は最善の手を打ったのだと自分を励ました。「結界が崩れるタイミングは私が分かります。崩れた瞬間に結界内に突入します。犬上小太郎には、東の丘の祠を破壊してもらう手筈になっていますので、そのまま合流してもらい、総本山の正面玄関から一気に襲撃します」 地図の総本山の東側を指差しながら刹那が言った。「正面玄関って……、大胆不敵と言うか何と言うか……」 美空は刹那の大胆な作戦に呆れた様な、感心した様な顔で頬を苦笑しながら掻いた。「突入の際に、春日さんには敵の状況を探って来て頂きたいのですが……」 刹那が遠慮がちに言うと、美空は肩を竦めながら了承した。「分かってるって。戦闘開始になったら、私が出来るのは敵の翻弄だけだしね。本当は逃げたいけど、さすがにクラスメイト全員の命が懸かってる状況で逃走出来る程神経太くないから信用してちょ」 美空の戯けた調子の応えにフッと微笑を洩らしながら、刹那は頷いた。「天ヶ崎千草は?」「彼女には、突入時の援護をしてもらう事になっています。結界内に入る時に森の中に潜んでもらい、そのまま突入と同時に激突した時に、道を切り開き易くする為に――」 刹那がそう言った、丁度その時、タカミチがバスに備え付けられていたマイクで総本山の結界外周に到着した事を報せた。「襲撃は無かったね」 明日菜が言うと、ネギが頷いた。「このバス自体にも刹那さんとカモ君が色々と細工をしていますから、遠見では発見されなかったのでしょう。間違いなく、結界が崩れたら洗脳された神鳴流剣士や呪術師、サムライマスターが来ます。警戒して下さい」「うん」 ネギの言葉に、明日菜はハマノツルギを強く握り締めた。所有者の心に応える様に、ハマノツルギの眩しい輝きが更に強まった。爛々と輝き、明日菜の頭にチクリと痛みが走った。「痛ッ――」「どうしたん?」 木乃香が心配そうに尋ねると、明日菜は「なんでもない」と応えた。『呼んで……』 まるで、ノイズの酷いラジオから聞こえる様に、遠い場所から叫んでいる様な声が一瞬だけ響いた。 またあの声だ。明日菜は、ハマノツルギを握っていると時折聞こえる不思議な声を頭を振って掻き消した。今は、それどころではないと。 刹那は七首十六串呂を全刀展開し、空中に待機させた。それぞれの太刀が、刹那の気に呼応して僅かに震えると、まるで時間が静止したかの様にピタリと固まった。 裏切り者の神鳴流。見つけ出して必ず殺す。冷徹な表情の内に苛烈な炎を宿した刹那は、神鳴流を裏切り、木乃香に刃を向ける二刀流の神鳴流使いの剣士に対し憎悪と殺意を爛々と燃え上がらせていた。 木乃香は両手に東風の檜扇と南風の末広を持ちながら、父と子供の頃からよくしてくれた皆の事を思い、一刻も早く救い出したいと願っていた。そして、それとは別に心のどこかで激しい何かが渦巻いているのを理解していた。ハッキリとソレを怒りと断言する事は出来なかった。ただ、漠然と心の中に何かが渦巻いているのだ。 一瞬だけ、木乃香の眼差しが強くなり、そのまま小さく息を吸い吐いた。「お父様……」 顔を上げて、結界が消滅するのを待った。 タカミチは、神経を集中していた。「左手に魔力を、右手に気を集中させる……」 相反する二つの力を集中させる。左手に魔力を、右手に気を集め、結界が破れるのを待った。 美空は、肩を落としていた。本当ならば、こんな命を懸けた戦場になんぞ立ちたくないというのが本音だ。だが、さすがにクラスメイト全員の命が懸かってしまっては逃げられない。 数名程度なら逃げ出そうとも思うのだが……。それでも、完全に敗北すると確信すれば逃げるつもりだった。自分の命が第一であるし、刹那もそれは了承している。それにしてもと、美空は刹那を見た。「刹那も中々やるなぁ」 素直に感心していたのだ。ここまでの戦略と戦術を組み立てたのは、殆ど刹那だ。タカミチは手回しなどに奔走していて、策を練るのに口を出す余裕は無かったし、出す機会があっても出さなかった。「何か変だねぇ」 カモの様子もおかしいと感じていた。そもそも、最初の作戦の襲撃を待つというのも、カモの言葉を真っ直ぐに受け入れ過ぎたからだ。その後、コチラから攻める策について、カモは何も口出しをしなかった。「なぁんか、落とし穴がある気がするなぁ」 美空は逃走ルートなども総本山の偵察ついでに確認しようと決意した。 ネギは、一刻も早く結界の崩れるのを願っていた。それはつまり、小太郎が無事に任務を遂行した事を示すからだ。ネギは、小太郎がこの戦いに参加するのが嫌だった。仮契約を解除されたと聞いた時、最初に感じたのは寂しさだったが、不思議と怒りは感じなかった。 小太郎を、自分の戦いに巻き込みたくなかったからだ。それなのに、今再び同じ戦場に立とうとしている。それが、途轍もなく辛かった。だが、そう思いながらも、ネギの追い詰められた心のどこかが望んでいた。小太郎に会いたいと――。 同い年の男の子の友達は本国にも確かに居た。だが、自分をサウザンドマスターの息子として何処か特別扱いをしていた。本当の意味で、自分を一人のネギ・スプリングフィールドとして扱ってくれたのは、アーニャや金髪くらいのものだった。ネギは心のどこかで、小太郎を特別視していた。 一方その頃、真名達が奈良に到着し、皆が大仏見学をしている途中、警戒していた真名の目の前に男は現れた。冷たい汗を流しながら、目の前の男が放つ冷徹な殺意を受けながらも勇敢に笑って見せた。「神鳴流かい?」 真名が問い掛けると、答えも言わずに男は持っていた長い太刀を真名の首を刈り取らんと振るった。徹夜と、一晩中止む事無く攻撃してきた敵の相手に疲れていた真名は反応が遅れてしまった。「――――ッ!」 死を直感した直後、男と真名の間に一人の少年が割って入った。真名よりも少し背の低い、痛んだ金髪の少年だった。「ぼーっとしてちゃ駄目だぜ、ガングロ姉ちゃん?」 ニヒッと笑みを浮かべる少年に真名は跳躍して距離を取った。「警戒しないで欲しいぜー。俺はお前等の味方だぜ?」 怪しい、真名はそう思わずには居られなかった。目の虚ろな剣士から救ってくれた事には感謝する。だが、この状況で無条件に信じられる程能天気では無い。「さっきは助かった。素直に感謝しよう。だが、お前を無条件に信じるのは難しいな」「ま、そりゃそうだわな」 少年は呆気無い程簡単に認めた。「けどなー、そこの野郎はお前にゃ荷が重いぜ?」「なんだと?」 真名は視線を鋭くして少年を睨んだ。確かに迂闊にも初手は後れを取ったが、こんな虚ろな目をしている傀儡程度に負ける程弱いつもりは無い。だが、少年の言葉に真名は凍りついた。「その男は関西呪術協会の長、サムライマスター・近衛詠春だぜ?」「なんだと!?」 真名は眼を見開いて驚きを隠せなかった。言われてみれば、昔、紅き翼の写真が載っている雑誌を読んだ時に見た近衛詠春の姿に目の前の男は若干老けてはいるものの、かなり似ている事に気が付いた。 全く想像していなかった展開だ。想像出来る筈も無い。これは下策だと断言出来るからだ。敵の目的は、ほぼ全員が総本山に向かっている。ここに居る生徒達の存在意義など、ハッキリ言って人質程度だ。確かに、雪広財閥の令嬢も居るが、それで近衛詠春を差し向けるなど意味が分からない。人質にするならば、有効な策は数だ。こんな、一騎当千の単騎を向けるなど、意味が無い。それも、人質として使うには、タイミングが大切なのだ。こんな風に警護をしている人間の前に姿を現す理由は無い。 真名が戸惑っていると、その隙に、詠春が動いた。詠春の太刀が三日月の如き軌跡を描いて真名の首を刎ねようと迫る。「サムライマスターの相手は俺がするぜ。信じる信じないは勝手だがな、こいつの相手が出来るのは俺だけだ。現状な……」「――――ッ!?」 真名の首に迫った太刀が止められていた。少年の持つ鉄の扇によって――。「お前は何者だ?」 真名が尋ねると、少年は悪戯っぽく笑みを浮かべて言った。「お前のクラスメイトの友達だ。お前は他の仲間と連絡を取って警戒しろ!」 言うが早く、少年は再び振り被った詠春の斬撃を回避すると、背後に回ってそのまま、詠春の脇腹を蹴り飛ばした。 真名は即座に反転すると、携帯電話で全員にメールを送った。合流し、サムライマスターの襲撃を伝えると、全員が表情を凍らせた。「敵は何を考えているでござる!? サムライマスターをコッチに寄越すなど……」 楓は、風の噂で聞いたサムライマスターの伝説を思い出し蒼白になった。魔法については知らないが、それでも世界の裏側に僅かに触れている楓は、コチラの世界の神鳴流については知っていた。そして、その現・長である近衛詠春、旧姓青山詠春の実力も伝え聞いていた。 曰く、雷鳴を纏う剣は山を両断し、曰く、豪風を纏う剣は海を分断させると言う。疾風迅雷、抜山倒海。風の如く疾く、雷の如く迅い。力は山を抜き、技は海を倒す。「サムライマスターが襲来したのはいいとして、今、サムライマスターはどこネ?」 超は訝しげに周囲を見渡しながら尋ねた。真名が正体不明の少年の話をすると、楓と古菲は怪訝な顔をしたが、超だけは納得したような顔をした。「なるほど、その金髪頭は味方ヨ」「なに? どういう事だ!? あの金髪頭について、何か知っているのか、超?」 真名が問い詰めるように聞くと、超は首を振った。「直接は知らないヨ。でも、心当たりはあるネ。昨日、刹那達が京美人と食事をしてた時、実は盗み聞きしていたネ」「盗み聞き……」 真名達は悪戯っぽく笑みを浮かべる超に呆れた視線を向けた。「それで?」「その時、あのオコジョ君が言ってたネ。金髪のネギの学友の日本人の話を。その日本人は凄腕の陰陽師で天ヶ崎千草曰く、総本山で近衛詠春に何かを進言し、意見を通したと」「つまり……、あの少年は占拠された関西呪術協会の陰陽師であり、それなりに長に影響力を持つ者……という事でござるな?」 楓の言葉に超は頷いた。「なるほどな、となると、サムライマスターがここに来た理由はあの金髪頭が目的の可能性があるな」「どういう事でアルか?」 話に付いていけないでいる古菲がしきりに首を傾げながら尋ねた。「サムライマスターにも影響力を持つ程の凄腕の陰陽師。それを足止めする為に送り込まれたと考えられる。だが……」「その金髪頭の少年は何故ここに居るのか、カ?」 超の言葉に真名は頷いた。「それにあの金髪頭がオコジョ君の言っていた金髪や天ヶ崎千草の言っていた金髪と同一人物だという確証も無い」「とりあえず、今は味方という事にしておいた方が良さそうでござるな」「そのようだな……」 楓の言葉に真名達は周囲を見渡しながら頷いた。「アイヤー、何だかやばい気配がそこらじゅうからするアルよ」 ムムム、と難しい顔をしている古菲に楓は肩をそっと叩いて、穏かに笑みを浮かべながら言った。「古菲殿。拙者達の役目はそう難しい事では無いでござるよ。只、クラスの皆を護る。それだけでござる」 楓の言葉に、真名はニヒルに笑みを浮かべ、超もニャハ~ンと笑みを浮かべ、古菲は「分かり易いアル!」と笑みを浮べた。「単純明快だ。私達はそうはいかないだろうが、皆には修学旅行を最後まで何も知らずに楽しんで貰おう」 真名の言葉に、楓、古菲、超は確りと頷いた。 宮崎のどかは戸惑っていた。明日菜や木乃香、刹那、美空、タカミチ、そしてネギの六人がバスに乗っていない事に気がつき、夕映にその事を話してもそれが当然の様な返事しか返って来なかったのだ。ハルナや他の友人達に尋ねても同じだった。 いち早く外に抜け出して、不安になった心を落ち着かせようとベンチに座っていると、胸の奥が熱くなった。「なんだろう……」 直後、突然目の前に一冊の本が現れた。「え!?」 のどかは目を見開いた。見覚えのある本だった。それは、以前に見た夢の中に出てきた本だったのだ。「違う……アレは夢じゃなかった……?」 目の前に、確かに本は存在していた。分厚く、水面の様に揺らめく青銀の輝きを持つ四つ角に銀の細工をあしらった表紙の本だ。本は鎖で閉じられていて、中央の禍々しい髑髏のアクセサリーによって封印されていた。のどかは恐る恐るその髑髏に指を近づけると、声が響いた。「宮崎!」「本屋さん!」 声の主は朝倉和美と相坂さよの二人だった。さよの人形を抱えながら駆け寄ってくる和美に驚いたのどかはそのまま髑髏のアクセサリーに触れてしまった。『Έχει εγκριθεί η έναρξη ακολουθίας. Ο σύζυγός μου και η μητρική γλώσσα θα μεταφραστεί σε γλώσσα σας.』 アクセサリーがバチンと音を立てて粉々になり、鎖が弾け飛んで、光の粒子へ変ると、ページが一枚だけ開き、機械の音声の様な声が響いた。同時に、本のページに文字が刻まれた。「何語……? っていうか、大丈夫、宮崎!?」 和美が心配そうに声を掛けると、のどかはゆっくりと頷いた。「これって何なの?」 和美が尋ねると、のどかは戸惑い気に本に顔を向けた。「よく……分かりません。前に、ネギさんと一緒に図書館島を歩いていた時に迷い込んだ場所で貰った本だと思うんですが……、夢だと思ってたのに」 のどかの説明がいまいちよく理解出来なかったが、次の瞬間、本のページが再び開いた、と同時に、再び機械の様な女性の声が響き渡った。言葉は本のページにも現れた。『日本語への言語の変更を完了しました。マスター登録はこれで終了になります。続けて、現在の時刻を世界標準時間から東経135度49分16秒、北緯34度28分23秒の現地点における時刻を算出……完了。AM11時46分35秒より1分15秒後に敵勢力による攻撃を確認しました。マスターへの危険レベルが一定ラインを超えた事により、自動防衛機能により強制起動しました。これより、敵勢力による攻撃性魔術の防御術式を生成します……完了。術式系統“陰陽術”の術式名“焔―飛燕”に対し、水の属性障壁“水盾”を作成します。……申し訳ありません。マスターの魔力が足りずに作成に失敗しました。残り20秒ですが、退避して下さい。効果範囲は30mですのでお急ぎを』 長々と説明する声に合わせて、本のページに文字が並び、幾重もの記号や不可思議な文字が並んだ。和美とのどかは疑問符を浮べながら、この本は何を言っているんだろうと悩んでいると、ふと和美が顔を上げた先に、炎の塊が近づいてきているのを見た。 本のページを見た。「――――ッ!?」 和美はのどかを右手に、さよを左手に抱えると全力で走り出した。文屋として、毎日走り回っているおかげで、明日菜、美空に次ぐスピードを誇る和美だったが、人間一人を抱えて走るのは辛かった。だが、何とか炎が地面に着弾する前に効果範囲の外に出る事が出来た。「って、この馬鹿本! 普通に逃げられるんなら最初に逃げろって言いなさいよ!」 あの炎は何なのか、そもそもお前は何だ。沢山聞きたい事はあったが、それ以上に、走れば逃げられるのに長々訳の分からない事を言った挙句に失敗したとか言い出した謎の本に、和美は怒りをぶちまけた。『謝罪方法を検索……2,590,000件がヒットしました。この内、最も効果的と思われる謝罪方法を実行します。……テヘッ』「……舐めてるの? ねぇ、舐めてるの? てか、謝る気ないでしょ!」 和美は、バスを降りた時から様子のおかしかったのどかが心配になり、のどかが何かを聞いている様子だったので、夕映やのどかが何かを尋ねていたクラスメイト達に何を尋ねられたのかを聞いた。すると、明日菜達がどうして居ないのかと問われたらしい事が分かった。 何を当たり前の事をと思うと、さよが不思議そうに言ったのだ。『そういえば、どうして明日菜さん達いらっしゃらないんでしょう?』 当たり前でしょ? と言うと、さよが『どうして当たり前なんですか? 居ない理由が分かりません』と言われ、和美も当たり前だと思うのに説明できないという矛盾を覚えた。すると、当たり前では無い事にも気がつき、さよと同じく、そんな事を聞いていたのどかに話を聞きたくなってのどかの行き先を聞いて外に出たのだ。 すると、のどかの目の前に突然本が現れて、それをのどかが触ろうとしていた。咄嗟に、直感で触るなと叫ぼうとしたが、遅かった。開いた本は、訳の分からない事を言うと、逃げろと言い、逃げた後には炎の塊が地面に直撃し、爆発したのだった。 頭の中は混乱していた。訳の分からない本と謎の炎。すると、巫山戯た謝罪のつもりらしいむかつく『テヘッ』をやらかした本が再び声を響かせた。『再び、敵性魔術師による魔術の発動を確認しました。マスターは魔術師としての適正が低いので、防御術式を発動できません。逃げて下さい。効果範囲は先程の倍の――、迎撃が行われました』 再び、和美とのどかに逃げる様に言う本は、唐突に発言を取り下げた。それと同時に、拳銃の音が響いた。爆発の音と、今の拳銃の音に驚いた人々が徐々に集まりだした。「こりゃぁ、ちょいっと不味いっぽいねぇ」 両手にのどかとさよを抱えたままの和美が呟くと、唐突に誰かに抱えられて凄まじい重力に襲われた。しばらく呼吸が停止していると、目を開けた瞬間に和美は息を呑んだ。 そこは東大寺の天井だったのだ。「ここって……。って、楓!?」 自分を抱えている人物の顔を見て、和美は驚愕した。「いやぁ、まさかのどか殿と和美殿まで魔術サイドとは思わなかったでござるよ」「魔術サイド?」 楓の洩らした単語に、和美は咄嗟に食いついた。楓は「これは失言でござったか……」と困り顔をしたが、和美は鋭い眼差しで楓に迫った。「ねぇ、あの炎は何だった訳? それに、さっきのって銃声? そもそも、魔術サイドってどういう事?」 和美はのどかを抱えたまま楓を問い詰めた。抱えられているのどかは「はにゅ~~」とか「助けて~~」とか騒いでいるが、和美は全く気付かなかった。「それは……」 楓が言い辛そうにしていると、楓の携帯が鳴った。「ちょっと済まないでござる」 楓は和美に頭を下げると、携帯を受けた。「ああ、真名でござるか。あい分かった」 携帯を切ると、楓は和美に向き直った。「失礼!」 再び、和美が何かを言う前に和美の手からのどかを掠め取ると、右腕にのどかを、左腕にさよを抱いた和美を抱えて楓は跳んだ。その間に、何発かの銃声が響いた。「ど、どうなってるの~~~~!?」 和美は思わず叫んでいた。のどかはあまりの事態に目を丸くして固まっている。さよは「はわわ~~、ジェットコースターみたいです~~」と乗った事も無いだろうに大はしゃぎだった。 楓がスタッと着地したのは、奈良公園の中心部だった。「ちょっと、楓説明しなさいよ!」 解放された和美が不満全開で怒鳴るが、楓は和美を尻目に、どこからか飛来した千本をキャッチした。「隠密も居るでござるか。しからば、『影分身の術』!」 右手で印を切ると、楓の姿がぼやけ、一瞬にして数十人の楓が現れた。「え、ええ~~~~!?」 和美とのどか、さよはあまりの事態に仰天して叫び声を上げた。「ちょっと待ってるでござるよ。掃除するでござるから」 そう言うと、数十人の楓は一瞬で跳び去り、木々の合間に消えてしまった。「ど、どうなってるんですか~~?」 のどかが怯えた様に和美を見上げた。「和美さん、怖いです~~」「あぁ、よしよし二人共。大丈夫よ~、怖くない怖くない。私が護ってあげるからねぇ」 和美は怖がる二人の不安を取り除こうと、そう言ったが、現状を全く把握しきれていないのが歯痒かった。「ってそうだ! ちょっと、馬鹿本!」 和美はのどかの隣でフヨフヨ浮いている本を怒鳴りつけた。『馬鹿本ではありません。私は、あらゆる魔術、呪術、神秘の解釈や教理を統合、整合化させ、天使や悪魔の術式すらも考察可能な超高性能魔導書“光輝の書(ゾーハル)”です』「変な名前」 和美は素直に思った事を口にした。『……でしたら、この機会に是非とも覚えて下さい』 人間なら青筋を立てているのだろうという口調で光輝の書は言った。「安心して、もう覚えたから」『……そう言えば、何かをお聞きになりたいのでしたね。あ~っと……?』「朝倉和美よ」『ああ、何とも地味で面白みの無い名前ですね。印象の薄い根暗そうな貴女にピッタリです』「……ああ、そう。なら、是非ともこの機会に覚えて下さいませ」『ご安心を、もう覚えました』 のどかとさよは、バチバチと、光輝の書と和美の間に火花が飛び散っている様な幻覚が見えた気がした。お互いに、「燃やしてやろうか? このバカぼんが」『私を青い着物を着た少年と間違えないで下さい。全くこれだから漫画脳のお子ちゃまは』等と嫌味を言い合っている。「け、喧嘩は駄目ですよ~!」 さよがトテトテと止めに入る。「そ、そうです。えっと、今何が起きてるのか分かりませんけど、いがみ合ってる場合じゃないです」 のどかも二人の間に入って止めようとした。すると、光輝の書は掌を返した様な態度になった。『申し訳ありません、マスター』 のどかは、素直に謝る光輝の書に戸惑った。「い、いえそんな。というか……貴女はえっと?」 誰ですか? というのもおかしく感じるし、何ですか? というのは失礼な気がして、のどかはどう聞くか迷った。とにかく、本が宙に浮いていて、尚且つ喋るなど常軌を逸しているとしか言いようが無い。「もしかして……、麻帆良の新しい技術とかですか?」 のどかが首を傾げながら苦笑いを浮べて尋ねると、光輝の書は青銀の輝きを強めた。『いいえ、私は科学技術による存在ではありません。あらゆる宗派の原典とも呼ばれる“モーゼのトーラー(旧約聖書の五書)”の註解書にして、善悪、両性具有理論、セフィロト、天使、悪魔、魔術、呪術、あらゆる神秘を内包した魔導書です』「魔導書……? それって、魔法使いとかそういう話ですか?」 のどかは僅かに疑いの眼差しを向けながら尋ねた。以前、図書館島で謎の部屋に入った時は、好奇心に頭がいっぱいになったが、さすがに突然私は魔導書ですなどと、本に言われても信じられない。 既に、本が宙に浮いて話しかけてるという状況も十分に信じられないが――。「のどか~~~~!!」 すると、遠くから綾瀬夕映の声が響いた。「夕映!?」 必死に駆け寄って来る親友にのどかは目を見開いた。汗だくになり、前髪が広いおでこにくっついてしまっている。夕映は、和美の様子がおかしい事が気になり、和美の後に外に出ていたのだ。 すると、外に出た瞬間に爆発が起こり、次の瞬間には銃声が響き、楓が東大寺の屋上に上がるのが見えたのだ。そして、そのまま跳び去った方角に向かって我武者羅に走り続けていたのだ。「だい……丈夫、なのですか、のどか!?」 ゼェーゼェーと息を吐きながらも、親友に大事は無いかを尋ねる夕映に、のどかは涙腺が緩みそうになった。「というか……なんで本が浮いてるですか!?」『私は光輝の書(ゾーハル)です。以後、お見知りおきを』「しかも喋ったです~~!?」 そのまま、再び状況は混沌(カオス)と化した。「全く、このままでは麻酔弾が無くなってしまうな」 既に、何百発も迫り来る呪術師や剣士にヒットさせている。幸いなのは、操られている呪術師や剣士は、判断力が鈍いらしいという事だ。ただ、真っ直ぐにコチラに向かってくるので、真名にとって対処は楽だった。 だが、それも数が多ければ疲弊する。そもそも、徹夜明けで既に疲労困憊の真名は集中力が途切れかけていた。麻酔弾も、持ってきた二千発を既に大方使ってしまっている。 深夜中攻めてくる者達に使い続けていたのだから当然だ。現在、超がそれとなく誘導し、クラスの皆を楓と古菲が守り易いように一箇所に固めさせている。 大仏などの説明を聞かせているのだ。撃ち洩らしを楓と古菲が迎撃している。スコープの先、遥か遠方の奈良の町では、あの金髪の少年がサムライマスターと戦闘している様子が見えた。 あまり、魔術の隠匿に力を注いでいるとは思えない敵の仕業にしては、近衛詠春には姿が見えない様に魔術が掛けられていた。そのせいで、真名はサムライマスターに接近を許してしまったのだから、それが理由だったのかもしれない。 金髪の少年も自分の姿を一般人には見えない様にしているらしい。一般人が見れば、突然突風が吹き、地面が抉れ、壁に亀裂が走るという異様な光景に映った事だろう。 既に、総本山の方の作戦は始まってかなり経つ筈だ。「なるべく、早めに終わらせてもらいたいな」 そう呟くと、再び真名はスコープを覗き込んで呪術師や神鳴流を狙撃し続けた。「あん? どうして、サムライマスターを向こうに差し向けたか?」 現在、奈良に居る生徒達に向けた神鳴流、及び呪術師達以外の四分の一を侵入者の迎撃に向けている。アイゼンは、炎の遠見の魔法でその様子を眺めていた。フェイトは、そんなアイゼンの考えが読めずに尋ねた。「そうだよ。サムライマスターを向こうにやる必要は無かった」「向こうに厄介なのが居るんだ。その証拠にサムライマスターは互角の戦いをさせられているだろう? それに、現に奴をサムライマスターと戦わせていても、数で押している呪術師や神鳴流共は残った数人に防ぎ切られている。奴をコッチに寄越させるのは上策ではない」「あの少年は何者なんだい?」 フェイトは金髪頭の少年とサムライマスターが戦っている光景を見て訝しんだ。「油断のならない奴さ」 アイゼンは口元にニヤついた笑みが浮かべた。アイゼンは以前纏っていたローブを脱いでいた。美しく整った顔立ちに長い濡れた様に艶めく睫。切れ長の眼に浮かぶ紅蓮の炎を思わせる真紅の瞳。死人を想わせるかの様な白磁の如き肌は、見る者をゾッとさせる。線の細い体つきだというのに、アイゼンには弱々しいという言葉が似合わなかった。真紅の血を思わせる赤髪は僅かにウェーブがかかった長髪だ。 煙の出ない炎の先を見つめながら、アイゼンはフェイトに顔を向けずに口を開いた。「これは、ゲームだ。敵を完全無欠の敗北に陥れる為のな。実際、俺かお前のどちらかが出れば、戦いは終了するだろうさ。だが、それでは面白くないだろう?」「な!?」 フェイトは絶句した。これまで、散々策を練る必要があると言いながら、普通にやれば勝利が揺るがないから遊んでいるなどと言っているのだ。それこそ、逆に敗北の可能性を作っているのではないかという疑いを隠すことは出来なくなった。「勘違いするな。ゲームと言ったが、所詮はワンサイドだ。勝利は決定している。ならば、その勝利までの過程で遊んでいるまでだ。奴等を疲弊させ、最大戦力を抑え込み、最後の最後で全軍を投入して囲む。俺とお前が戦う事になったらゲームは負け。戦わずに勝利すれば勝ち。つまり、そういう事だ」 フェイトは、アイゼンの言葉に溜息を洩らした。人の命をゲームの駒にして遊んでいるのだ、この男は。洗脳した兵士に戦わせ、自分は高みの見物。まるで、テレビゲームだと、フェイトは思った。人形を操り、迫り来る者達を迎撃させる。自分は一切手を汚さず、一切労力を消費せず。「それに、これならばお前がお姫様を傷つける事も無くなるだろう?」 その言葉に、つい自然と笑みを浮べている事にフェイトは気がついた。自分が、姫様と戦いたくないと思っている事をお見通しなのだ。そして、その為にも、こんな回りくどい作戦を講じてくれたのだ。 内心、密かに感謝の意を零しながら、フェイトは部屋を出て行った。出て行ったフェイトの閉じた襖を眺めながら、アイゼンは嘲笑の笑みを浮べていた。「さて、ここまでは完璧だ。後は、あの女だな。総本山でならば、召喚が可能な手筈だ。面白くなってきたな」 起き上がり、拳を握り締めながら、アイゼンは凄惨な笑みを浮べた。アイゼンは瞳を閉じると、念話を送った。返ってきた返事に、舌を打つ。「手間取っているのか。少し、時間を稼ぐ必要があるな。――月詠、来い」 アイゼンは、目の前に炎を爆発させた。炎は部屋のあちらこちらに飛び散るが、どこにも焦げ跡一つ付かなかった。そして、爆発した炎の跡に、月詠の姿があった。「はわ~、お呼びどすか~?」 のんびりした口調の月詠に、アイゼンは鼻を鳴らした。「出番だ。道を開く。全力で奴等と交戦しろ」 命令を下すと、アイゼンは腕を掲げ、人差し指と中指を真っ直ぐに伸ばした。その先に、炎のゲートが構築され、襲撃者の姿が映し出されていた。月詠は、ようやくの戦いに狂気的な笑みを浮べた。「行って来ます~」 振り返りもせずに、月詠は二刀を持って炎のゲートを駆け抜けた。その瞳は、興奮のあまりに白目と瞳の白と黒が逆転していた。 気を爆発させ、畳を吹飛ばした月詠を鼻で笑いながら、アイゼンは四散した畳や舞った埃を炎で焼き尽くし、炎球を浮べて戦場を眺めた。「手筈は整った。炎と樹、風と氷、そして、大地の力。その五つの力が揃わねばならん。月詠が上手く時間を稼げは良いが……さて」 残りのクリアすべき条件は、たったの三つ。「それまで、お前はせいぜい遊んでいろ」 炎の球が映し出す光景は、近衛詠春と金髪の少年の激突の様子だった。 奈良の町を眼にも留まらぬ速度で疾走する二つの影。まるで、DNAの螺旋構造の如き動きで交差する度にけたたましい激突音を響かせ、空気を破裂させ、大地を抉り、壁を粉砕し、窓ガラスを割り、それでも尚、人々にその存在を気付かせない。 “サムライマスター・近衛詠春”の握る退魔に特化した特殊銀製の刃を持つ太刀と金髪の少年の扇が金属音を響かせながら互いを斬り裂かんと互いを攻め立てる。両者は無言のまま刃と扇を振るっている。高層ビルの壁を蹴り、一気に駆け上がりながらも何度も激突しながら屋上へ上がり、そのまま落下しながら斬り付け合い、互いの刃が激突した衝撃で距離を離す。「縛!」 少年は右手で刀印を結び呪文を唱える。詠春の周りを風が取り巻き、まるで水飴の中に落とされたように詠春の動きは鈍った。「必神火帝! 萬魔拱伏!」 呪文を唱えた少年の刀印を結んだ右手に炎の刃が生まれた。少年が右手を振り下ろすと、炎の刃が詠春に向かって飛んた。詠春は気を爆発させ、自身を捕らえていた風の縛りを弾き飛ばし、太刀を振上げて炎の刃を切り裂いた。そのまま神速をもって迫り来る。神速の太刀を振るう。その一撃一撃が奥義や秘剣、技となっている。 曰く、達人は動きの全てがこれ技となり得る。あらゆる武術に共通する極意であり、無駄な動きを一切排除し、全ての動きが必殺への導となる。気を乗せた必殺の技、命を仕留めんとする必殺の業。急所を的確に狙い、首を刎ねようと攻め立てる。 金髪の少年はそれを時に閉じた扇で防ぎ、時に開いた扇で流し、時に術を持って迎撃した。「更に腕をあげたようだな」 少年は満足気に笑みを浮かべると、虚空を蹴り、一気に距離を離した。 詠春の太刀に気が集中するのが見える。「斬岩剣・弐の太刀――!」 少年は今度は受けずに回避した。少年は知っていた。弐の太刀と呼ばれる神鳴流の奥技は防御を超えて敵を切り裂く必殺の剣である事を――。「弐の太刀」 避けた瞬間に再び聞こえる悪魔の声。次々に振るわれる弐の太刀による神鳴流の技を少年は只管回避に徹した。「実際に戦うのは初めてだが……」 少年は額から冷たい汗を流した。人間の枠を遥かに越えた存在。人は、それを怪物という。だが、近衛詠春は、既に怪物の枠にすら当て嵌まらない。 通常攻撃が防御不可能な斬撃など悪夢のようだ。斬空閃・弐の太刀を回避し、少年は詠春の背後を取った。背後からの至近距離での一撃、それを詠春は事も無げに切り裂いた。 白目と瞳の色が反転した眼光を詠春は少年に向けていた。「これは……焚き付け過ぎたか?」 更に動きにキレを増す詠春に少年は顔を引き攣らせた。「つまり、以前にネギさんと共に図書館島で見つけた不思議な空間で手に入れた本が実は魔法の力を秘めた本だった……と?」 夕映がいつもは半分くらい閉じている目をパッチリと開き、好奇心に満ちた瞳をキラキラとさせながらのどかに尋ねた。のどかは、親友の可愛らしい反応につい苦笑しながら頷いた。「そうみたい」「うう……、どうしてその事を今迄黙って居たのですか~」 瞳を潤ませて尋ねる夕映に、のどかは困った顔をした。「私も夢だと思ってたの。だって、あの時は泥だらけだった服が綺麗になってたり、あの空間から出たら、入った時間と殆ど変化無かったりで、現実感が無かったから……」 のどかの言葉に、夕映は興奮した顔で光輝の書(ゾーハル)を見つめた。「でも、感動です! この様な、非日常的な存在がこの世に存在するなんて! 私は、今猛烈に感動しているです~!」「夕映っち、大興奮だね」 顔を火照らせながら大はしゃぎしている夕映の様子を微笑ましげに眺めながら、和美はクスクスと笑った。「でも、私も魔法の本なんて感動です~~!」 お人形のさよが両手を上げて感動をアピールしている。「いやいや~、そもそもさよちゃんの存在自体が結構非日常的だからね? そこんとこ自覚してる?」 幽霊で、しかも人形に憑依しているさよの存在が非日常的でなくて、何が非日常的なんだと和美は苦笑いを浮べた。「それにしても光輝の書(ゾーハル)ですか、聞いた事はあったのです。確か、バヒルの書という、カバラ神秘思想の道を切り開いた書物をモデルに記された書だとか。それにしても、実際の魔法の本は喋るのですね! 凄いです! 感動です!」 夕映があらん限りの言葉で褒めちぎると、光輝の書(ゾーハル)は喜んでいるかの様に青銀の輝きを強めた。『ムフフ~、魔法の本ではなく魔導書なのですが、そこはいいでしょう。夕映さん、綾瀬夕映さん。マスターのお友達にこんなにも理知的な方が居て安心しました。どこぞの地味な赤毛猿とは大違いですね』 盛大な毒をナチュラルに吐く光輝の書(ゾーハル)に、和美は目元をピクピクとヒクつかせた。何が悲しくて本に馬鹿にされなければならないんだ、と。いい加減、燃やしてやろうかと思った瞬間、光輝の書(ゾーハル)の声が響いた。『現地点より西に300m先、敵性魔術師の存在を感知しました。現状、味方と思われる隠密、狙撃手、拳法家、陰陽師は各々の戦闘に従事している為、コチラへの救援が不可能であると思われます。――敵性魔術師の数が増加、逃走は不可能であると判断しました』「な!? じゃあ、どうすんのよ!」 逃げられない。光輝の書(ゾーハル)のその言葉に、和美は眼を見開いて激昂した。人形のさよも、非肉体労働派ののどかと夕映も喧嘩ですら無理だ。それも、魔術などという得体の知れない力を振るう者相手に戦えなどと冗談じゃない。舌を打つと、和美はのどか達に顔を向けた。「のどか、夕映、さよちゃん。三人は逃げて。何とか、私が囮になるから」 和美は限られた選択肢の中から即座に最善の手を選び、決断を下した。並みの精神力ではない――。 そう、全滅するか、一人が囮になって、残りの三人が生き残るかだ。囮になった者が生きられる保証は無い。囮になれるのは、自分しか居ない。迷いなどなく、朝倉和美は決意した。敵陣のど真ん中に駆け出そうとする和美の手を、誰かが握った。「――――ッ!?」 和美が顔を向けると、必死な顔でしがみ付くのどかと夕映、さよの三人だった。「何考えてるですか!」「囮なんて、死んじゃうじゃないですか!」「馬鹿な事言わないで下さい、和美さん!」 夕映とのどか、さよは怒りに顔を歪ませていた。「だ、だって、このままだと皆危険なんだよ!? 囮になって、一人が敵の注意を引かなきゃ」「なら、私がやります!」「なら、私がやります!」「なら、私がやります!」 三人が同時に叫び、和美は肩をガックリと落としながら溜息を吐いた。「あのねぇ、三人じゃ直ぐに殺されて終わっちゃうわよ。徒競走クラス三位の私しか出来ないの。分かって!」「分かりません!」 三人の言葉が再び重なった。「殺されるってなんですか! そんなの、和美にさせる訳にはいかないです!」 夕映が涙目になりながら必死に和美に抱きついて止めようとしたが、和美は苦笑し、次の瞬間に夕映の体を蹴っ飛ばした。「ひゃんっ!」「夕映!?」「夕映さん!」「ごめんね。ちゃんと逃げてよ? じゃなきゃ、私、無駄死になっちゃうし」 地面に転がる夕映を助けようと和美からのどかとさよが手を離した隙に、和美は走り出した。到底、夕映達では追いつけない速度で。「待って、待ってください、和美さん!」 さよが必死に叫ぶが、既に和美の姿は木々の合間に消え、ゾッとする様な殺意が爆発した。夕映とのどか、さよは戦慄した。 死ぬ、このままでは間違いなく和美が死んでしまう。そう本能が直感し、和美の死に様を幾通りも幻視させた。『一つだけ手段があります。時間は残されていないでしょう。現在、和美さんは何とか逃げていますが、保って数分。マスター、夕映さん。この場で決断して下さい。日常を捨て、友を救出するか、友を捨て、日常を続けるか』 光輝の書(ゾーハル)の言葉に、ハッとなった。そんな事、考える必要も無かった。二人の声が重なる。「助ける!」 光輝の書(ゾーハル)は微笑んだ気がした。『了解しました。綾瀬夕映さんの魔術師適正が一定ラインを超えています。現状を覆す為に、マスターは綾瀬夕映さんと仮契約を施行して下さい。それにより、綾瀬夕映さんの魔力を使い、魔導書の力を発動します。この場で最も適切な魔術を発動し、朝倉和美さんを救出します。それでは、仮契約の術式を展開します。魔法陣の上に立って下さい』 光輝の書(ゾーハル)の言葉が終わると同時に、地面に仮契約の魔法陣が光の帯によって構築された。のどかの僅かな魔力を使い、光輝の書(ゾーハル)が発動したのだ。「どうすればいいのですか?」『契約は数秒で終了しますが、仮契約の際に干渉を行いますので、キスをしたら、しばらく離れないで下さい』「はっ!?」 今、コイツ何言いやがりました? 二人はとても他人に見せられない表情で硬直した。『時間がありません。仮契約には、契約の精霊に誓いを立てなければなりません。キスをして下さい』 反論を聞く暇も無いのだと言外に告げる光輝の書(ゾーハル)に、夕映とのどかは真っ赤になりながらも魔法陣の上に立った。お互いにお互いの顔をまともに見れなかった。 まさか、親友とキスする事態になるなど、数分前まで想像もしてなかったのだ。親友とキス。それも、女同士でだ。だが、迷っている時間は無い。質問をしている時間すら惜しいのだ。一秒毎に朝倉和美が死ぬ可能性が高まる。そんな未来は断固として拒否する。二人は迷いを破棄した。自分達を護ろうと、即座に囮を買って出た和美を放って、自分達の倫理などに構ってはいられない。「のどか……いきます」「うん」 二人はゆっくりと口を合わせた。柔らかい感触に身震いする。感じた事の無い感触だった。相手の唇が熱を持っている様な感覚だった。数秒――キスをしながら、お互いの間に確かな絆が生まれるのを確かめ合った。『仮契約の術式に干渉開始。これより、“光輝の書(ゾーハル)”を宮崎のどかのアーティファクトに割り込み登録します。……完了。ご苦労様でした』 光輝の書(ゾーハル)が終わりを告げると、寂しさを感じながら二人は離れた。さよは二人の口付けに淫靡さを感じなかった。生まれる筈もない、二人は自分が最も親しくしているいつも自分を護ってくれる一番大きな存在を助ける為に唇を合わせたのだ。 胸の中には、感謝の念が広がった。光輝の書(ゾーハル)のページが開かれる。『マスター・宮崎のどかとその主、綾瀬夕映との間のラインを確認。これより光輝の書(ゾーハル)の設定を変更します。尚、安全装置(セーフティー)の解除は現在不可能となっており、条件が成立しない限り、二度と設定を変更できません。それでは、魔導書の魔力の供給源を綾瀬夕映に、魔導書の所有権並びに使用権を宮崎のどかに、魔導書の魔術発現対象を朝倉和美にセットしますがよろしいですか?』 光輝の書(ゾーハル)の言っている意味は殆ど理解出来ていなかった。それでも、一刻も早く友を救いたい。その思いが、一瞬の迷いも許さなかった。「よろしいです。だから、はやく和美さんを助けて下さい!!」『All right.』 その瞬間、夕映が身悶え始めた。「夕映!?」「夕映さん!?」 のどかとさよが夕映に駆け寄ると、光輝の書(ゾーハル)が輝き始めた。『現在、綾瀬夕映さんから魔力を供給されています。魔力の流れは性感に似た感覚なので、慣れない方はしばしばそうなりますが、問題はありません』「せいかッ!?」 のどかとさよは絶句してしまった。 森の中に突入した朝倉和美は舌を打った。命を代価にしても、三人が逃げるまでに相当な時間を稼ぐ必要がある。それに、和美はみすみす殺されてやる気は無かった。十分に時間を稼げば即座に逃げ出す気だった。だが、森の中に入った瞬間にその思考は脆くもやぶれさった。炎、氷、雷、光、水、闇、雷、風、あらゆる属性の魔法が和美に絶え間なく襲い掛かる。 森の中で、木々が壁になってくれなければ、即座に醜い死体を曝す事になるのは必定だった。「これが……魔法。興味はあるけど……」 取材をしている暇は無かった。只管に木々の合間を抜けながら、それでも敵に諦めさせない様に気をつける。撒いてしまって、三人の下に向かわれては本末転倒だ。 どのくらい走っただろうか。時折石を投げては注意を向けて走り続け、和美は汗だくになり息が切れていた。僅か三分。それだけでも、全速疾走しながら、常に緊張感を持ち、集中を切らせずにいれば、並みの女子中学生としては破格の能力といえる。 強靭な精神力による支えであった。友を護る、その為だけに命を投げ出す。自分の命を軽んじたのではない。ただ、信念に従っただけだ。人の命は軽くは無い。人の命は数では無いが、例え九を助ける為に一を犠牲にしたとしても、助かった九には犠牲になった一の命と同等の重さがそれぞれにあるのだ。 その一の犠牲を自分に当て嵌める。斬り捨てられる側に回る事は、普通の精神では出来ない。それを為す事が出来るから、朝倉和美はさよを守護霊に出来て、あまつさえ、常時人形に憑依させていられるのだ。元より破格の器を持つ少女。それが、朝倉和美という人間だった。『念話の応答が可能でしたら、心で話して下さい』 唐突に響いた不思議な声は、あの腹の立つ魔導書だった。だが、何故かそれが自分の気持ちを鼓舞してくれた。『念話って……これでいいの? よく、アニメで見るけど出来てるかな?』『完璧です。これより、貴女に力を与えます。敵を解析した結果、敵性魔術師は洗脳されている可能性があります。そして、貴女の秘めている可能性。それを前提に、魔力供給源である綾瀬夕映の魔力の生命維持に必要な限界までの魔力を利用した場合における最適な術式を選定しました。マスター・宮崎のどかと、その主、綾瀬夕映は貴女を助けると決断しました。ですから、貴女も決断して下さい。彼女達を護り続けると。既に、貴女達は元の日常には帰れません。ですが、それを知った上で、彼女達は決断しました。貴女はどうしますか?』 言っている内容は何となく理解出来た。「馬鹿……」 小さく呟いた。恐らく聞こえてるだろうに、光輝の書(ゾーハル)は何も言わなかった。迷う理由は無い。心にあるのは感謝の気持ちだった。 何となく理解出来る。日常から切り離されたのだと。だって魔法だ。そんな物、この科学社会において完全に異端だ。そんな世界に足を踏み入れたのだからしょうがない。 何よりも、そんな世界に引き返すチャンスを棒に振って自分を助けようとしている二人の期待に答えずに、何が朝倉和美かッ! 心は燃え盛る業火の如く熱せられた。『力を頂戴! 日常? 非日常にこそ、面白いスクープはあるってもんよ! 二人を護れ? 護ってやるわよ!』『All right.術式発動――身体強化・速度増強。走ってください。もう、貴女は誰にも追いつかれません』 フワリと、体が軽くなるのを感じた。不思議な気持ち良さに、こんな状況だと言うのに腰が抜けそうになる。必死に全身を愛撫するナニカに耐え、和美は気付いた。「息が整ってる。それに……力が漲ってる!」 走り出した。それはまさに疾風の如き速さだった。和美の姿が霞んで見える程の、通り抜けた跡に突風が巻き起こる程の超スピード。明日菜や強化したネギすらも追い越してしまえる程の誰にも負けない速さだった。だが、体は傷だらけになった。あまりの速度に、体を制御出来ていないのだ。視界も風の強さに目を開けられない。謝って転ぶと、すさまじい土煙を上げて大地を抉った。「痛ッ!」 和美は涙眼になるが、起きた現象に比べてダメージは驚くほど少ない。『術式を追加します。動体視力、反応速度を強化。風の障壁を展開します。これで、速度を出しながら制御し視界を確保出来る様になると思います』『最初からやってよッ!』『……テヘッ』 和美はプルプルと肩を震わせながら心を落ち着かせた。覚悟を決め、再び駆け出すと世界は一変した――。 眼を開くことが出来た。空気の壁を感じない。体が自由に動く。一瞬にして100mを行って戻って来ると、和美はその力を自分のモノにしていた。「凄い……。これが、あの馬鹿本の力ッ!?」『馬鹿本ではありません……。これより、残りの綾瀬夕映の魔力から貴女に飛翔能力と魔術をダウンロードします。ただし、この作業には脳にかなりの負荷がある為、戦闘終了後は丸一日覚醒出来ないでしょう。ダウンロード直後も、脳は混乱しているでしょうから、術の発動だけを意識していて下さい。残りのサポートは私が行います』 和美は溜息交じりに首を鳴らした。片目を閉じながら大きく息を吸う。『んじゃ、夕映とのどかとさよちゃんに伝言よろしく。ありがとね』『All right.術式のダウンロードを開始します』 直後、凄まじい耳鳴りが起きた。視界が二重三重四重五重にぶれていく。世界が反転し、色彩が狂った。 耳が痛い、眼が痛い、喉が痛い、頭が痛い、骨が痛い、鼻が痛い、腕が痛い、肩が痛い、足が痛い、股が痛い、足が痛い、指先が痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い。 どれだけの時間が経ったのか分からない。『――終了です』という言葉だけが聞こえ、その瞬間に脳裏にあったのは、術式の発動。ただそれだけだった。他は一切考えられない。何で発動するのか。何を発動するのか。自分は誰なのか、ここはどこなのか、自分とは何なのか、この言葉はなんなのか、言葉とはなんなのか、この思考は誰の思考なのか、誰とは誰?誰って何?分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない――。 和美はただ、何かに導かれるままに手を伸ばし、何かに導かれるままに何かを喋り、何かを使い、意識を失った――。夕映とのどかの泣き声が聞こえた気がした。 無事だった。それだけで、心は温まった。その様子を、遠くから見守る影があった。「さすがだな。さよを任せるに値すると踏んだが、あれは破格だな。助けるまでもなかったか……」 詠春と戦っている最中の筈の金髪の少年だった。少年は遠見の魔法を消すと、念話を送った。『悪いな、遅くなって。準備は完了だ。ああ、奴さんの召喚の手筈は整ってるぜ』 次の瞬間、金髪の少年は詠春共々その姿を跡形も無く消し去った――