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No.8211の一覧
[0] 魔法生徒ネギま!(改訂版)[雪化粧](2019/05/20 01:39)
[132] 魔法生徒ネギま! [序章・プロローグ] 第零話『魔法学校の卒業試験』[我武者羅](2010/06/06 23:54)
[133] 魔法生徒ネギま! [序章・プロローグ] 第一話『魔法少女? ネギま!』[我武者羅](2010/06/06 23:54)
[134] 魔法生徒ネギま! [序章・プロローグ] 第二話『ようこそ、麻帆良学園へ!』[我武者羅](2010/06/06 23:55)
[135] 魔法生徒ネギま! [序章・プロローグ] 第三話『2-Aの仲間達』[我武者羅](2010/06/06 23:56)
[136] 魔法生徒ネギま! [第一章・吸血鬼編] 第四話『吸血鬼の夜』[我武者羅](2010/06/07 00:00)
[137] 魔法生徒ネギま! [第一章・吸血鬼編] 第五話『仮契約(パクティオー)』[我武者羅](2010/06/07 00:01)
[138] 魔法生徒ネギま! [第一章・吸血鬼編] 第六話『激突する想い』[我武者羅](2010/06/07 00:02)
[139] 魔法生徒ネギま! [第一章・吸血鬼編] 第七話『戦いを経て』[我武者羅](2010/06/07 00:02)
[140] 魔法生徒ネギま! [第一章・吸血鬼編] 第八話『闇の福音と千の呪文の男』[我武者羅](2010/07/30 05:49)
[141] 魔法生徒ネギま! [第一章・吸血鬼編] 第九話『雪の夜の惨劇』[我武者羅](2010/07/30 05:50)
[142] 魔法生徒ネギま! [第二章・麻帆良事件簿編] 第十話『大切な幼馴染』[我武者羅](2010/06/08 12:44)
[143] 魔法生徒ネギま! [第二章・麻帆良事件簿編] 第十一話『癒しなす姫君』[我武者羅](2010/06/08 23:02)
[144] 魔法生徒ネギま! [第二章・麻帆良事件簿編] 第十二話『不思議の図書館島』[我武者羅](2010/06/08 20:43)
[145] 魔法生徒ネギま! [第二章・麻帆良事件簿編] 第十三話『麗しの人魚』[我武者羅](2010/06/08 21:58)
[146] 魔法生徒ネギま! [幕間・Ⅰ] 第十四話『とある少女の魔術的苦悩①』[我武者羅](2010/06/09 21:49)
[147] 魔法生徒ネギま! [第三章・悪魔襲来編] 第十五話『西からやって来た少年』[我武者羅](2010/06/09 21:50)
[148] 魔法生徒ネギま! [第三章・悪魔襲来編] 第十六話『暴かれた罪』[我武者羅](2010/06/09 21:51)
[149] 魔法生徒ネギま! [第三章・悪魔襲来編] 第十七話『麻帆良防衛戦線』[我武者羅](2010/06/09 21:51)
[150] 魔法生徒ネギま! [第三章・悪魔襲来編] 第十八話『復讐者』[我武者羅](2010/06/09 21:52)
[151] 魔法生徒ネギま! [第三章・悪魔襲来編] 第十九話『決着』[我武者羅](2010/06/09 21:54)
[152] 魔法生徒ネギま! [第四章・麻帆良の日常編] 第二十話『日常の一コマ』[我武者羅](2010/06/29 15:32)
[153] 魔法生徒ネギま! [第四章・麻帆良の日常編] 第二十一話『寂しがり屋の幽霊少女』[我武者羅](2010/06/29 15:33)
[154] 魔法生徒ネギま! [第四章・麻帆良の日常編] 第二十二話『例えばこんな日常』[我武者羅](2010/06/13 05:07)
[155] 魔法生徒ネギま! [第五章・修学旅行編] 第二十三話『戦場の再会?』[我武者羅](2010/06/13 05:08)
[156] 魔法生徒ネギま! [第五章・修学旅行編] 第二十四話『作戦会議』[我武者羅](2010/06/13 05:09)
[157] 魔法生徒ネギま! [第五章・修学旅行編] 第二十五話『運命の胎動』[我武者羅](2010/06/13 05:10)
[158] 魔法生徒ネギま! [第五章・修学旅行編] 第二十六話『新たなる絆、覚醒の時』[我武者羅](2010/06/13 05:11)
[159] 魔法生徒ネギま! [第五章・修学旅行編] 第二十七話『過去との出会い、黄昏の姫御子と紅き翼』[我武者羅](2010/06/13 05:12)
[160] 魔法生徒ネギま! [第五章・修学旅行編] 第二十八話『アスナの思い、明日菜の思い』[我武者羅](2010/06/21 16:32)
[161] 魔法生徒ネギま! [第五章・修学旅行編] 第二十九話『破魔の斬撃、戦いの終幕』[我武者羅](2010/06/21 16:42)
[162] 魔法生徒ネギま! [第五章・修学旅行編] 第三十話『修学旅行最後の日』[我武者羅](2010/06/21 16:36)
[163] 魔法生徒ネギま! [第六章・麻帆良の日常編・partⅡ] 第三十一話『修行の始まり』[我武者羅](2010/06/21 16:37)
[164] 魔法生徒ネギま! [第六章・麻帆良の日常編・partⅡ] 第三十二話『ボーイ・ミーツ・ガール(Ⅰ)』[我武者羅](2010/07/30 05:50)
[165] 魔法生徒ネギま! [第六章・麻帆良の日常編・partⅡ] 第三十三話『暗闇パニック』[我武者羅](2010/06/21 19:11)
[166] 魔法生徒ネギま! [第六章・麻帆良の日常編・partⅡ] 第三十四話『ゴールデンウィーク』[我武者羅](2010/07/30 15:43)
[167] 魔法生徒ネギま! [第七章・二人の絆編] 第三十五話『ボーイ・ミーツ・ガール(Ⅱ)』[我武者羅](2010/06/24 08:14)
[168] 魔法生徒ネギま! [第七章・二人の絆編] 第三十六話『ライバル? 友達? 親友!』[我武者羅](2010/06/24 08:15)
[169] 魔法生徒ネギま! [第七章・二人の絆編] 第三十七話『愛しい弟、進化の兆し』[我武者羅](2010/06/24 08:16)
[170] 魔法生徒ネギま! [第七章・二人の絆編] 第三十八話『絆の力』[我武者羅](2010/07/10 04:26)
[171] 魔法生徒ネギま! [第七章・二人の絆編] 第三十九話『ダンスパーティー』[我武者羅](2010/06/25 05:11)
[172] 魔法生徒ネギま! [第八章・祭りの始まり編] 第四十話『真実を告げて』(R-15)[我武者羅](2010/06/27 20:22)
[173] 魔法生徒ネギま! [第八章・祭りの始まり編] 第四十一話『天才少女と天才剣士』[我武者羅](2010/06/28 17:27)
[175] 魔法生徒ネギま! [第八章・祭りの始まり編] 第四十二話『産まれながらの宿命』[我武者羅](2010/10/22 06:26)
[176] 魔法生徒ネギま! [第八章・祭りの始まり編] 第四十三話『終わりの始まり』[我武者羅](2010/10/22 06:27)
[177] 魔法生徒ネギま! [第八章・祭りの始まり編] 第四十四話『アスナとネギ』[我武者羅](2011/08/02 00:09)
[178] 魔法生徒ネギま! [第九章・そして祭りは始まる] 第四十五話『別れる前に』[我武者羅](2011/08/02 01:18)
[179] 魔法生徒ネギま! [第九章・そして祭りは始まる] 第四十六話『古本』[我武者羅](2011/08/15 07:49)
[180] 魔法生徒ネギま! [第九章・そして祭りは始まる] 第四十七話『知恵』[我武者羅](2011/08/30 22:31)
[181] 魔法生徒ネギま! [第九章・そして祭りは始まる] 第四十八話『造物主の真実』[我武者羅](2011/09/13 01:20)
[182] 魔法生徒ネギま! [第九章・そして祭りは始まる] 第四十九話『目覚め』[我武者羅](2011/09/20 01:32)
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[8211] 魔法生徒ネギま! [第四章・麻帆良の日常編] 第二十一話『寂しがり屋の幽霊少女』
Name: 我武者羅◆cb6314d6 ID:87b1fc72 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/06/29 15:33
 1940年といえば、第二次世界大戦が激化する一方であった時代だった。当時、五摂家の当主であった“近衛文麿”は内閣総理大臣だった。この年の九月二十七日に日独伊三国同盟が締結され、正式に“日本”はこの世界を舞台にした大戦に参加したのである。
 この年、後に近衛家の当主となり、麻帆良学園の学園長となる近衛近右衛門が大切な存在を失った年でもあった。“相坂さよ”という一人の少女が居た。当時の連続殺人犯によって殺害され、現在の三年A組の教室で血塗れの状態で発見されたのだった――。


魔法生徒ネギま! 第二十一話『寂しがり屋の幽霊少女』


 この学校には幽霊が居る――、そんな噂は大体の学校に存在する。学校の七不思議の一つであったり、教室の隅や、体育館の倉庫にひっそりと潜んでいたり。だけど間違いなく、麻帆良学園本校女子中等学校の3-Aの教室には幽霊が居る。誰にも気付かれる事なく、数十年もの間この地に縛られる。そんな幽霊が――。

 実力テストから数日、エヴァンジェリンは教科書としていたドミニコ会異端審問官、ヤーコプ・シュプレンゲルとハインリヒ・クラーメルの共同著書である『魔女の槌』の内容を噛み砕きながら説明していた。魔法使いの歴史を知る事は精神的な意味や教養的な意味で意義がある事だ、と考えたからだ。
 だが、書物から目を離し、肝心の生徒に目を向けると、エヴァンジェリンの視線の先にはログハウスの一室の机の上に頭を乗せてグースカピーと鼾を掻く明日菜が居た。
 ピキピキと青筋を立てるエヴァンジェリンに慌てて刹那と木乃香、ネギが明日菜を起そうとするが、幸せそうな寝顔でベタな寝言を呟いている明日菜は全く目を覚まさず、いつもの様にエヴァンジェリンの拳骨が落ちる。涙声で抗議する明日菜にエヴァンジェリンが説教をするのは最早日常となっていた。基本的にエヴァンジェリンは戦闘訓練と勉強を平日は日にちで分け、土日は午前と午後に分けていた。
 肝心の修行内容はというと、明日菜はとにかく剣術を学ぶ事だった。神鳴流他、二天一流、伊藤派一刀流、巌流などの著名な剣術家のデータを持つ茶々丸が明日菜に合った剣術を新たに選別、創作して伝授している。毎日毎日同じ動作を数千単位で繰り返させ、最後の一時間で実戦練習をさせる。日曜日の午後は完全に模擬戦オンリーだ。明日菜の身体能力は常人の範疇に無く、ネギの魔力によるバックアップがあれば茶々丸と手加減していたとはいえ真剣勝負で互角に戦えるレベルなのだ。剣術をキチンと修めれば間違いなく化けるだろうというエヴァンジェリンとカモ、双方一致の意見だった。
 刹那の修行は基本的に三つで、それを時間を三等分して行っている。一つ目の修行は飛行訓練だ。翼を使って本格的に戦う業を身に付ける。修行の方法は至って簡単で、林の中を翔け巡るのだ。徐々に速度を上げていくのだが、全速力で翔け回るにはまだまだ先になりそうだというのが刹那のこの修行に対する感想だった。二つ目の修行は七首十六串呂と夕凪による変則多刀流の修行だ。基本的に本体である小太刀のイを使う二刀流の修行をして、更にロ・ハ・ニと数を増やした場合の戦術を研究するというものだ。飛行訓練の後の休憩という感じで考える作業だった。三つ目の修行は何故か座禅だった。刹那自身何をしてるのか分からないが、エヴァンジェリンは『心を無にしろ』としか言わなかった。何の為の修行なのか聞いても『試験的なものだから確証は無い』と言って答えてくれず、何となく疑わしく感じていたが素直に従っていた。
 木乃香とネギは一緒に魔法の勉強中だ。木乃香は回復系統や結界系統などの後方支援型魔法使いを目指し、ネギは雷と風と光の攻撃魔法に加えてエヴァンジェリンの氷の魔法も教わりながら固定砲台型魔法使いを目指して勉強をしている。エヴァンジェリン直々に魔法を実演し、詠唱の意味を解説しながら二人にやらせる。
「いいかネギ・スプリングフィールド、私の後に唱えろ! サギタ・マギカ、連弾・氷の37矢!」
 エヴァンジェリンが氷の魔弾を放つのを見ると、ネギも杖を構えた。
「サギタ・マギカ、氷の37矢!」
 ネギの杖から氷の魔弾が放たれ、エヴァンジェリンの魔弾が軌跡を変えてネギの魔弾に迫る。
「『氷楯』!」
 エヴァンジェリンが障壁を張ると、ネギの魔弾を越えたエヴァンジェリンの魔弾が激突した。
「なんだそのチンケな魔法は!」
 エヴァンジェリンの言葉にネギはムッとなった。
「でも私は風の魔法が得意で氷の魔法は……」
「ばっくぁもぉ~~~~~んッ!!」
 言い訳をしようとするネギにエヴァンジェリンの雷が落ちた。心臓がバクバクし、涙目になってオロオロするネギに再び雷が落ちる。
「一々メソメソするんじゃない!!」
「ご、ごめんなさい!」
「お前の師匠は誰だ? この闇と氷の魔法を得意とするエヴァンジェリン・A・K・マクダウェルだな。もちろん、炎も風も貴様より使えるが」
「は、はい!」
「なのに弟子の貴様がそんなものでは師匠の私の恥じではないかーっ!」
「わ、わかりました頑張ります~~」
 ネギに魔法の練習を再開させてから、エヴァンジェリンは木乃香の方に顔を向けた。
「プラクテ ピギ・ナル 『火よ、灯れ』」
 木乃香は初心者用の玩具の様な杖を振り下ろした。杖先に小さな火が灯る。
「魔力のコントロールがかなり雑だな」
 エヴァンジェリンの言葉に木乃香がガックリと肩を落とした。
「僅かにだが魔力の流れを掴んでいるんだ。もっと、その流れを意識しながらやってみろ。今みたいに力任せじゃなくてな」
 木乃香はフィオナが襲撃して来た夜に明日菜を治癒する為に東風の檜扇に必死に魔力を流し続けた。そのおかげで、魔力の流れをなんとなくだが掴めていた。
「うん、わかったえ、エヴァちゃん」
 木乃香は素直に頷いて目を閉じながら自分の中の魔力の流れを感じる。
 エヴァンジェリンは二人に修行を続けているように言うと、刹那の下に向かった。
 刹那は座禅をしていた。心を無にする修行だ。
「巧く掴めよ桜咲刹那。一度タカミチの修行を見てやったからな。効率の良い修行方法は構築済みだ。第一段階を越せば、或いは手に入れられるかもしれん。究極技法……気と魔法の合一“咸卦法”が――」
 ニヤリと笑みを浮べると、遠くで爆音の鳴り響く明日菜と茶々丸の修行の場に目を向けた。
「後は神楽坂明日菜か。そもそも、アイツは何者なんだ? どう考えなくてもおかしい。あそこまでイレギュラーな能力を持った存在が自然発生するなど――。色々調べてみるか」

 それからしばらく経ったある日の出来事だった。
 ネギが明日菜、木乃香、刹那の三人と学校に来ると教室に入った途端にいつも通っている教室の筈なのに違和感を感じた。隣を見ると、木乃香も怪訝な顔をしている。
「どうしたの、木乃香、ネギ?」
 突然立ち止まった二人に、明日菜は首を傾げて尋ねた。刹那も眉を顰めた。
「いえ、何となく違和感があって」
「上手く言えへんねんけど……あれ?」
 ネギと木乃香の言葉に、刹那と明日菜は顔を見合わせながら首を傾げた。
「ほぅ、気が付いたか。元々、近衛木乃香はESP能力がかなり発達していたが、私の下での修行でそれが強化されたのだな。良い傾向だ。ネギ・スプリングフィールドも近衛木乃香の能力に引き摺られて強化されたんだろう。ずっと一緒に修行させて来たが、思わぬ副産物だ」
 後ろから入って来たエヴァンジェリンの言葉にネギを除く三人が首を傾げた。
『ESP……、つまり超感覚知覚は認知型の魔法能力の事なんです』
 席に向かいながら、念話でネギはESPについて三人に説明した。
 “ESP(extrasensoria perception)”は多くの魔法使いが備えている能力であり、他人の心を読んだり、特定の魔力を感知したり、観察されている事を逆に感じ取ったり、近辺の人間の気配を感じ取ったり、霊的な存在を感じ取ったり、幻術を見破ったり、術者の存在とその位置を特定したりと、実に様々な超感覚知覚の事を言うのである。
 ESPと称される認知型の魔法能力は様々な事物を生成させたり、変動させたり、消滅させたりする作用型の魔法能力に比べずっと地味だが、とても重要且つ基本的な魔法能力なのである。
『今、こうして念話をしていますけど、通常、念話はESPでしか感知出来ない霊的な媒体を相互に発し、また捉える事で成立するんです。今こうして出来ているのはパクティオーカードが本来はESPでしか感知出来ない霊的な媒体を知覚させてくれているから出来るんです』
「おい、そろそろ授業が始まるぞ」
 タカミチが入って来て、エヴァンジェリンがネギに言った。説明は粗方終わっていたので、ネギは念話を切った。明日菜はまだ上手く理解出来ないらしく、首をしきりに傾げているのが見える。
 エヴァンジェリンはネギに悪戯っぽい笑みを浮かべながら小声で囁いた。
「お前達二人が存在を感じた事で、奴の感知難易度が大幅に下がった筈だ。このクラスは素質のあるのが多いからな、面白い事になるぞ」
「え? それって、どういう……」
 ネギがエヴァンジェリンの言葉について詳しく聞こうとすると、タカミチが大きく咳払いをした。私語を慎みなさい、という無言の圧力を感じて、ネギは已む無くエヴァンジェリンに聞くのを諦めたが、エヴァンジェリンは尚も可笑しそうに笑みを浮かべていた。その笑みはどこか嬉しそうだった。
 明日菜を無視してエヴァンジェリンはさっさと机に座ってしまった。

 その日の放課後、朝倉和美は一日中付き纏った違和感が拭いきれなかった。
「何なのよ、この違和感」
 イライラと机を叩きながら髪を掻き毟り、和美は舌を打った。気になる事は追求せずに入られない性分である和美は、付き纏う違和感に苛立ちが隠せなかった。
「何なの……?」
 いつも持ち歩いている自慢のカメラを片手に、夕闇に染まる教室に和美は戻ってきていた。
「何か、何が、何処に?」
 教室中にシャッターを切る。隅々まで撮影し、眼を細めて嘗め回すように教室中を眺め回す。
「何処かに違和感がある筈。何処に――」
 次々にフィルムに部屋の様子を納めていく。
 寮に急いで帰ると、すぐさま同室の桜子に適当にただいまを言って黒いカーテンで暗室を作り、写真を現像した。和美はデジタルカメラも常に持ち歩いているが、基本的にはフィルムカメラを使っている。デジタルの写真は合成が可能であり、紛れもない真実を写せるのはフィルムカメラだけだと信じているからだ。
 慎重に液に浸し、徐々に写真の現像が完了する。現像が終了すると、和美は暗室を出て居間に戻った。
「ねぇ、どうしたの和美ぃ?」
「ちょっと待って……」
 首を傾げる桜子に頭を下げながら、和美は現像した写真を次々に確かめていく。そして――。
「これっ!」
 一枚の写真にソレは写っていた。
「って、何コレ!?」
 和美は素っ頓狂な声を発した。驚いた桜子が横から覗き込むと、あまりの衝撃に声も出せずに固まってしまった。
「し、心霊写真だ~~!!」
 そこに写っていたのは――火の玉を漂わせ、恐ろしげな表情を浮べる学生服を着た幽霊だった。

 翌日、その写真を使って和美は新聞を作り上げた。恐ろし気な写真の掲載された新聞の一面に麻帆良学園本校女子中等学校の生徒達は大はしゃぎだった。
 常に胸躍るイベントを渇望している中学生達にとって、幽霊の存在は素晴らしく魅力的な若い力の発散の矛先となった。怖がる鳴滝姉妹を柿崎美砂と椎名桜子が面白がって心霊写真を見せつけ、綾瀬夕映は黒酢トマトという怪しい飲み物飲みながら真剣な表情でマジマジと写真を見ていた。
「あれは本物だと思うのです。何と言いますか――リアリティがあるです」
「わ~ん、私幽霊とが苦手なのに~。あんなの写さないでよ和美!」
 裕奈が涙目で抗議するが、和美は瞳を輝かせながらニヤリと笑った。
「このスクープはマジ! 本気と書いてね。幽霊は居た。調べはついてるの! 出席番号1番相坂さよちゃん!!」
「相坂さん……ですか?」
 後ろに居たネギが尋ねると、和美はクルリと一回転してポケットからノートを取り出した。
「そっの通り~! 1940年に15歳の若さで死んだ女の子」
「それが、この幽霊写真なん?」
 ネギの隣の木乃香が驚いて目を見開きながら尋ねた。
「間違いないよ。調査した限り、この幽霊の目撃談は少ないけど確かにあったわ」
 そう言うと、和美はポケットから一枚の写真を取り出した。
「学年の名簿にあったのを拝借したんだけどさ。こんな娘」
 どれどれ? と明日菜達が写真を除きこむと、そこには少し青っぽい長い銀髪の穏やかな表情を浮べる可愛らしい少女の写真だった。制服が今のとは違い、少し古いデザインだった。
「わぁ、可愛い娘ねぇ」
 明日菜が言うと、あやかも横から覗き込んだ。
「あらまぁ、何て可愛らしい。先程出席番号一番と言われましたわよね、朝倉さん?」
 よくぞ聞いてくれました!と和美は大袈裟に頷いた。
「その通り! この娘の席は私達の教室に未だあるのよ!」
 教室に行くと、和美は自分の隣の席で一番前の列の一番左の行の机を指差した。
「今迄なんでか誰も触れてこなかったけど、あたしの隣が何で空席なのかって不思議に思わない?」
「そう言えば、確かにこの席って今迄触れてこなかったというか……。不思議と気にならなかったと言いますか――」
「なんでなんやろ?」
 あやかは戸惑う様に和美の隣の席を見つめながら言うと、木乃香も不思議そうな顔をしながら首を傾げた。
 その瞬間だった。突如、教室が揺れ始めたのだ。地響きが轟き、教室中の机や椅子が浮き上がり始めたのだ。空気が張り詰めた直後に弾け、少女達はパニックを起した。
 悲鳴が響き渡る。“騒がしい霊(ポルターガイスト)”の発生に、少女達は恐怖した。直前の朝倉和美の発行した相坂さよの心霊写真と、今現在進行形で発生している有名過ぎる霊障を結びつけるのは容易かった。全速力で教室から出ようとする少女達は押し合いになってしまっている。
「本当に、幽霊。アハッ、とんでもない特ダネだわ!」
 カメラを構えながら、獰猛な獣の如き鋭い目をしながら撮影していく。
「クク……、力の制御が出来ていないらしいな」
 教室の後ろの扉の僅かな隙間から中を覗き、エヴァンジェリンは愉快そうに笑みを浮べた。
「もしかしたら、こんなチャンスは二度と訪れないかもしれんぞ? 頑張れ」
 そう、呟いたエヴァンジェリンの顔はどこまでも真摯だった。ネギと刹那、木乃香、明日菜の四人は外に逃げ出そうとする少女達を掻き分けてなんとか中に残る事が出来た。暴れ狂う机と椅子の嵐は教室を破壊し続けている。
 黒板には椅子がめり込み、窓ガラスには『お友達になって下さい』という文字が何故か真っ赤なナニカで所狭しと書き込まれていた。
「ネギ、アレはやばくない?」
 あまりにも危険な香りが芳醇過ぎる教室の惨状に、明日菜は涙目で震えながら尋ねた。
「お友達――、殺して私達を幽霊にする気か!?」
「そういう意味のお友達なの!? いや~~~~!!」
 刹那の戦慄の表情を浮べての言葉に、明日菜は頭を抱えて悲鳴を上げた。さすがの明日菜もそんなお友達はお断りだ。
 朝倉和美はカメラのシャッターを切り続けていた。何度も写真を撮って画像を確認すると、徐々に和美は確信を持ち始めた。
「やっぱりこの娘――」
 そこには、泣きべそをかきながら両手を振り回したり、頭を下げたりしている相坂さよの姿が映しだされていた。
「さよちゃん!」
 和美は大きく息を吸うと、幽霊の名を叫んだ。明日菜、刹那はギョッとして和美を見た。和美はカメラのシャッターを何回か切ると、ある誰も居ない方向に緊張気味に口を開いた。
「そこに……、居るの?」
 和美の声に反応した様に、和美の視線の先の更に先のカーテンが僅かに揺れた。
「居るんだね。ねぇ、お友達が欲しいの?」
 和美の問い掛けに答えるように、真っ赤な文字が窓ガラスに浮かび上がった。
『お友達が欲しいです』
 かなり恐ろしげなオーラを放つ文字だったが、和美は特に気にする事も無かった。
「なら、私が友達にねってあげる! だから、姿を見せて!」
 和美の言葉に、それまで黙っていた明日菜達が目を剥いたが、和美は譲らなかった。
「姿を見せて、相坂さよちゃん」
「朝倉! ヤバイって、連れて行かれちゃうって!」
 明日菜がギャーギャーと騒ぐが、和美は完全に無視を決め込んだ。ショックを受ける明日菜を尻目に、和美は再び姿の見えないさよに声を掛け続けた。
「姿を見せてよ。さよちゃん!」
 ジャーナリストとしての知りたいという欲もあるが、和美が抱いているそれよりも大きな思いは別の気持ちだった。
「ずっと……隣の席だったのにね」
 知らなかった。気付いてすら居なかった。デジタルカメラの画像に視線を落とす。涙を流しながら必死に自分をアピールする少女の姿があった。
 話がしたかった。ずっと、教室で一人で誰にも気付かれずに居た少女。
「お願い、姿を見せて!」
 和美の悲痛な叫びに、木乃香はネギの耳元に囁いた。
「ネギちゃん、魔法でなんとかならへん?」
 木乃香は視線を真っ直ぐに和美の少し前の空間に向けていた。
「何とかしてあげたいです。でも、そういう魔法は詳しくなくて……」
 ネギは焦れた表情を浮かべながら言った。ネギも何とかしたかった。ネギと木乃香には見えているのだ。涙を流しながら、和美に自分の姿をアピールしている少女の姿が――。
 そこでネギはハッと思い出した。それは、魔法学校の魔法学の授業だった。大抵の生徒がぼーっとしていたり、内職をしていたり、居眠りをしているようなつまらない授業だったが、ネギはちゃんと聞いていた。
 ある日の授業の内容は精霊などの霊的存在についてだった。
 霊的存在は、その存在を人が感じればそれだけ力を増す。例えばの話、精霊にとって“名”は特別な意味を持つ。精霊は本来、この世のあらゆるモノの守護たる存在。だが、本来、姿形を持たぬ故に名も無き存在なのである。人間は姿無き精霊の存在を感じ、信じ、その想いが絆となり精霊に力を与えるのだ。名を授かるという事、それ即ち存在を認められるという事。精霊が成長する為の第一歩とされている。
「存在を人が感じる事――それが、精霊……、霊的存在と人との絆となるって聞いた事があります」
「存在を感じる……」
 呟くと、ネギと木乃香は和美の隣に立った。
「ウチも話がしたい、さよちゃん!」
「私も一緒にお話がしたいです、さよさん!」
 名前を呼ぶたび、相坂さよの姿がネギの目にハッキリとしだした。和美の眼にもおぼろげな存在を感じ取る事ができた。
 和美はニッと笑みを浮べると、さよの名前を叫んだ。その姿に、刹那と明日菜も頷き合ってさよの名前を呼んだ。
「さよちゃん!」
「さよさん!」
 中の様子を伺っていた少女達も、恐る恐る中に入って来た。勇気を振り絞り、あやかが大きく息を吸ってさよの名を呼んだ。名前を呼ぶ度にさよの姿が実体化していく、その事に気が付くと誰も彼もがさよの名前を呼んだ。
 名前は個の存在を肯定するモノだ。名前を呼ばれる、それは、存在を認められている事に他ならない。現れたのは、泣きじゃくる一人の少女だった。
「違うんです~~。ちょっと気付いてもらおうと思って頑張ったら机とか椅子が飛び上がっちゃったんです~~」
 手をブンブンと振り回しながら叫ぶさよに、教室中で息を飲む音がした。和美はニッコリと笑みを浮べた。
「ごめんね、気付くの遅くなっちゃって」
「ふえ?」
 さよが両手で眼を擦りながら顔を上げると、和美はさよの目の前で膝を折った。
「私の名前は朝倉和美。ねぇ、友達が欲しいんだよね?」
 和美が尋ねると、さよは驚いた様に眼を見開いた。
「私が見えるんですか?」
「うん!」
 和美が肯定すると、信じられないとさよは瞳を潤ませた。
「わ、わわわ私……えーと、あのっ! 他の人とお話しするの……幽霊になってから初めてで! だって今迄どんなに霊感の強い人でも私の事気が付いてくれないし、地縛霊だからここから動けないし、えっと、えっと!」
「落ち着きなって。さよちゃんがここに居るって、私は今感じてるからさ」
 カメラを下げて、和美は確りとさよの瞳を捉えた。
「さよちゃん、相坂さよちゃんはここに居る! 私の目の前にちゃんと居るって分かってるよ」
 ニッと笑みを浮べながら和美はさよに触れようと手を伸ばしたが、手はさよの体をすり抜けてしまった。
「あ……」
 手を戻して俯く和美に、さよはニッコリと笑みを浮べた。
「あの、つまり私が言いたいのは――気が付いてくれて、とっても嬉しいです!!」
 フワッとした、柔らかな優しい笑みだった。
「私もさよちゃんに会えてとっても嬉しいよ」
 ニッコリと笑みを浮べて言う和美に、さよは俯いた。
「その……ほ、本当ですか? こんなに暗くて存在感の無い私なんかに?」
 白い天冠を着けて火の玉を漂わせながら自信無さ気に涙目で尋ねるさよに和美は苦笑した。
「あはは……」
「す、すいません私なんかもう死んだ方が……」
「いや、もうさよちゃん死んでるし……。意外とテンション高いね」
 呆れた様な口調で言うが、声の調子や和美の表情は心底面白がっている様子が誰の眼にも見て取れた。落ち着いたさよと和美が話している様子を三年A組の生徒達は固唾を呑んで見守っていた。
「じゃあ、皆に気付いて欲しくて頑張ったらポルターガイストが発生しちゃったと……」
「はい……ごめんなさい」
「いやいや、さよちゃんが謝る事じゃないよ。むしろ、私は面白いモノ見せてもらえてラッキーって感じだったし」
「私、もう誰かに気付いてもらえるのなんて諦めてたんですが、最近このまま成仏しちゃったら淋しいなって考える様になったんです」
「じょ、成仏ね……」
「はい、せめてこの世の思い出……作ってから成仏したいって。昨日の夜に和美さんが写真を沢山撮ってて、今日の朝になったら私の写真が新聞に載ってたから、それで……」
「それで頑張ったらこうなったと……」
 タハハと笑いながら和美が辺りを見渡すと、壁や天井に机や椅子がめり込み、窓ガラスはほぼ全壊していた。
「あれ?、でも、生きてる時の記憶とかもあるんでしょ?」
 和美が尋ねると、さよはどよ~んとした空気を発しだした。
「それが、あまりにも長く地縛霊してるんで忘れちゃいました。何で死んだかも……」
「そうなんだ……」
「そんな私なので、この世での思い出って何も無いんです。友達作ったり、部活したり、恋をしたり……。だから楽しい思いで一杯作ってあの世に行けたらなぁって」
「さよちゃん……」
 和美はさよの言葉の節々から感じる淋しさを感じ取って胸が痛くなった。無性に抱き締めてあげたくなった。出来ない事に対する苛立ちが湧き上がる。
「友達になろうよ」
「え……?」
「私だけじゃないよ。立って、さぁ」
 触れないと分かっていながら、和美は手を差し伸べた。恐る恐る立ち上がったさよは、ニッコリと笑みを浮べるクラスメイト達に眼を見開いた。
 緊張で声が震えてしまいながら、確りと一言一言噛み締めるように口を開いた。
「わたし、みなさんと……楽しい思い出が欲しいです! 私と……と、友達になってください!!」
 さよの声が教室中に響いた。
「もちろんOKだよ」
 和美が片目を閉じながらニカッと笑みを浮べて言うと、ネギも明日菜も木乃香も刹那もあやかやのどか、夕映達、三年A組の生徒達は頷いていた。
「私達だって、友達一人でも多い方が楽しい思いで作れるとおもうしね」
「み、みなさん。ありがとうございます。ありがとうございます……和美さん」
「良かったね」
 頭を下げるさよに笑いかける。
「でも、どうしよっかこの教室の惨状……」
 誰かの呟きに、少女達は呻いた。片付けるのは並の労力では無いだろう。
 その後、教室の片付けに追われる少女達にさよが謝る姿を羨ましげに見ていたら明日菜にサボるな! と言われて箒を持たされるエヴァンジェリンの姿があった。


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