銀時達との戦いが終わり数日後。高杉晋助とアーニャは今、イギリスのロンドンに帰って来た。実を言うと高杉が所持している『時空転移装置』を使えば何処へでも行ける。だが、特に目的もない今、慣れた土地にいる方が得策と考えたのだろう。アーニャと高杉の住んでいる屋敷の屋根上、そこで少女はある4枚のカードを並べた状態で座り虚空を見つめていた。「愚者と死神・・・・・・悪魔と世界・・・・・・・」ブツブツと呟くアーニャの表情には年頃の少女とは思えないほど険しい色が見えていた。そんな彼女の背後に着物を風でなびかせながら口にキセルを咥えるあの男が現れる。アーニャが盲信するほど執着している男、高杉だ。「お得意の占いにはなんて出たんだ・・・・・・」キセルから煙をプカプカと出しながら高杉はアーニャの方へ見下ろして尋ねる。彼女はいきなり背後に出て来た彼に動じずにボソッと呟く。「自由の象徴である『愚者』は破滅と死を司る『死神』と力を合わせ、堕落を意味する『悪魔』、無限を象徴する『世界』といずれぶつかる・・・・・・そう出てるわ」「へぇ・・・・・・」「『愚者』はアンタの幼馴染の坂田銀時、『死神』は私の幼馴染のネギ。そして『悪魔』は私、『世界』はアンタの事を指してるのよ・・・・・・」置かれた4枚のカードの意味とそのカードの存在が誰なのかを苦々しい表情で吐き捨てるアーニャ。どうやら占いの結果に納得がいかないらしい。「裏切りや混乱を招く者、欲に支配された者という解釈さえ出来る『悪魔』が私ですって・・・・・・」「・・・・・・」「アンタのカードの『世界』、これは無限の時、無限の完全、無限の総合、無限の行いの成就を意味して一見とても縁起の良い様に聞こえるけど・・・・・・下手すれば無限の苦刑、無限の死とか悪い方向にもなる意味も含まれてるのよ・・・・・・」「・・・・・・くだらねえ」不安そうにうなだれるアーニャを見て高杉はそうバッサリ言った後、彼女の隣に不機嫌そうに座った。「テメーでやった占いの結果にビビってんじゃねえ、お前はまだ半人前だろ」「そうだけど・・・・・・・」「半人前のお前がやった予知なんてたかが知れてんだ・・・・・・そんな事でいちいちビクついてたら前進むなんざ出来ねえよ」「高杉・・・・・・」そっぽを向いてキセルを吸う彼の姿を眺めながらアーニャは不思議そうに彼を眺めた後、久しぶりにフッと顔に笑みが浮かんだ。「そうよね、私まだ半人前なのよね。占いも魔法も、力も・・・・・・」「・・・・・・」「私がもっと力を持っていれば春雨の奴等を叩きのめす事が出来た筈なのに・・・・・・私がもっと力を持っていればママを救えたのに・・・・・・・私がもっと力を持っていればネギを護れたのに・・・・・・」「・・・・・・」「ねえ高杉」黙って話を聞いてくれている高杉、そんな姿を見てアーニャはギュッと彼の腕に両手で抱きつく「絶対私強くなるから、もっと力を手に入れて高杉の役に立てる様に頑張るから・・・・・・だからアンタの傍にいさせて、私、アンタさえいればこんな世界どうだっていいのよ・・・・・・」「・・・・・・ふん」「まだこんな半人前の子供の私だけど・・・・・・・一人前にも十人前にもなれるぐらい強くなる・・・・・・・」「・・・・・・勝手にしろ」自分の腕にしがみついて涙を流す彼女の顔を見て、高杉はぶっきらぼうにそう答える。(コイツといると感覚がズレちまう・・・・・・)長く一緒にいるうちに彼女の存在が高杉にとってはかなり異質なモノとなっていた。それがいったい何なのかは高杉自身も知らない事なのだが、彼にとっては苛立つ感情でしかない。高杉が頭を押さえて遠い昔に忘れていたこの感覚が一体なんなのかと考えていると・・・・・・「屋根の上で少女と日向ぼっこ、しばらく会わない内に随分と風変わりな事をする様になったでござるな、晋助」「ん・・・・・・?」「誰ッ!?」二人しかいないと思っていた屋根の上で聞こえる澄んだ男性の声。高杉は聞いた事のある声に振り返り、アーニャはすぐに近くに置いていた自分の居合い刀を持って後ろに向かって声を荒げる。そこにいたのは男性、サングラスを目に、シャカシャカと鳴り響いているヘッドホンを耳に付け、背中には三味線を差しているという奇怪な格好。この辺では絶対に見かけないであろう人物だった。「何処へ行ったかと思えばよもやこんな所に来ていたとは・・・・・・・さすがに想像の範囲外でござった」「ほう・・・・・・懐かしい顔が見れたモンだな」「高杉・・・・・・アンタ知ってるのこの男・・・・・・・?」ヘッドホンを取って男が呟くと高杉はニヤリと笑みを浮かべて立ち上がる。そんな彼の姿にアーニャは居合い刀を構えながら混乱した。この世界に彼の知り合いなどいない筈・・・・・・という事は。「ふむ、一見してまだまだ子供の様だがその男と対等に喋れるとは大したもの、少女、名はなんと申す?」「・・・・・・アンタこそ名乗りなさいよ、アンタ高杉の一体なんなのよ・・・・・・」唐突にこっちに向かって話しかけて来た男にアーニャはギロリと睨みつける。警戒は一切怠らないアーニャの姿に男はボリボリと頭を掻き毟った。「これは失敬、名を聞く前にまず自分が名乗ればならなかったでござる」丁寧にそう言った後、男は表情を変えないまま自己紹介を始めた。「拙者の名は河上万斉」アーニャに向かって名を名乗った後、万斉は核心を彼女に伝える「その男の仲間でござる」高杉が作った『鬼兵隊』のメンバーの一人で『人斬り万斉』という二つ名を持つ男。彼との出会いによってアーニャの人生はまた一つ劇的に変わっていくのだろう。最終訓 後悔ない人生を場所変わってここは日本、麻帆良市。短い様で長く感じ、長い様で短く感じた奇妙な修学旅行が終わって数日後。麻帆良学園の生徒達の住む女子寮ではいつも通りの慌ただしい朝が始まっていた。「アスナ~早くせんと遅刻やで」「あ~はいはい・・・・・眠い、死にそう・・・・・・」自分達の部屋の前で木乃香がまだ部屋から出てこないアスナを急かす。常に登校時間のギリギリに起きるアスナ、今日も瞼を半分閉じた状態でだるそうに木乃香の前に現れた。「ん~・・・・・・アレ? ネギ何処行ったのよ?」「ネギ君ならとっくに学校言っとるよ、じいちゃんに呼ばれて修学旅行で起こった出来事をせっちゃんと一緒に報告しにいくんやって」グラグラ体を揺らしながら廊下を歩いているアスナと一緒に木乃香は今はここにはいない子供先生の説明をする。どうやらネギは学園長と話をする為に木乃香護衛役の刹那と一緒に自分達より一足早く学校へ行ったらしい。それにアスナは「ふ~ん」と特に関心の無さそうに返事をした。「アイツも大変ね、修学旅行であんな事あったのにもう教師の仕事と魔法使いの仕事やらなきゃいけないんて」「せやなぁ、銀ちゃんがいなくなっちゃったから自分が頑張らな思うて、張りきってるのかもな・・・・・・」「あのバカ天パみたいになりふり構わず突っ込みそうで恐いのよね・・・・・・前々から結構無茶する奴だったし・・・・・・」重い瞼を開けたり閉じたりを繰り返しながらアスナは彼の事を心配する様に呟く。「この前なんか、「ちょっと後ろ髪伸ばしてみます」とか言ってたのよアイツ、アレ絶対あの“ニヤケ面の師匠”を意識してるわよ、絶対髪おさげにする気よあのガキ」「別に無茶するのと髪型変えるのは関係ないんやない・・・・・・?」ぶつくさ文句を言うアスナに木乃香が苦笑しながらツッコんでいると、ふと一階に下りた所でとある生徒に出会った。長い黒髪をポニーテールにした髪型の背の高い女子生徒。アスナや木乃香と同じA組の生徒の大河内アキラが、女子寮入口のすぐ近くにある管理人窓口の前に立っていた。「何してるんのアンタ? 遅刻するわよ」「“新しい管理人さん”に用でもあるん?」「ああ、二人共、おはよう」やってきたアスナと木乃香にアキラは軽やかに挨拶をした後、管理人窓口の方に再び首を戻す。「実はとある事件があってここの新しい管理人さんに協力してもらおうと思って来たんだ」「事件ッ!? なんかあったんッ!?」事件と聞いて慌てふためく木乃香にアキラは難しそうな表情で答えた。「私がみんなに内緒で飼育小屋から“お持ち帰り”してしまった可愛い白ウサギが朝起きたらいなくなっていてね、窓を開けっ放しにして寝てしまったのが最大のミスだ、どうやら逃げ出したらしい」「いやそれ窃盗したアンタが原因でしょ、犯罪に身を染めて被害者面とかいい度胸してるわねアンタ」「的確なツッコミありがとう、神楽坂」「的確なストレートもぶち込むわよアンタ」アスナがツッコミまくった後、笑みを浮かべて礼を言ってくるアキラ。ここにいる生徒は誰一人まともなのがいないのか?そんな疑問を浮かべながらアスナは彼女をジト目で見つめ返す。管理人窓口の前でそんな事をしていると、先日来たばっかりの管理人がアスナより数倍だるそうな顔で窓口から顔を出した。「・・・・・・なんか用かガキ共?」ボサボサ髪に無精髭、室内なのに肌を隠すマントを着ている男。ここの女子寮人の管理人になったばかりの夜兎族、阿伏兎であった。「あ、阿伏兎さんおはよう」「・・・・・・テメーを攫おうとしていた男によくもまあそんなノーマルに挨拶出来るなお前・・・・・・」にこやかにこちらに手を振って挨拶してくる木乃香に阿伏兎は何か末恐ろしいのを感じる。意外とこの少女、ネギ並に器がデカイ。「・・・・・・・挨拶だけなら俺は部屋に戻るぞ、俺は朝食の準備で忙しいんだ」「あ、待って下さい、用があるのは私なんです、ちょっと管理人さんに協力してもらいたい事があって・・・・・・」「なんだよ、ったく・・・・・・なんで俺がガキの協力なんて・・・・・・」不満ありまくりな様子だが阿伏兎はとりあえずイスに座って、管理人窓口からアキラの方へ目をやる。一見かなり恐そうな風貌である阿伏兎にアキラは少したじろぎながらも恐る恐る彼に話をして見た。「実はここの女子寮で極秘でお持ち帰りした一匹のウサギが・・・・・・」阿伏兎に事件を経緯を伝えようとしたその時。アキラは何時の間にか阿伏兎が片手で持っているある物を見た。クリっとした赤い目の可愛らしい小さな白ウサギを・・・・・・阿伏兎は真顔でウサギの長い耳を持って宙ぶらりんにして持っていたのだ。「・・・・・・それはなんですか?」「・・・・・・俺の朝食、さっき裏庭で捕まえたんだよ」冷静に質問して来たアキラに阿伏兎もまた冷静に返した。どうやら朝食の準備で忙しいというのはこの可愛らしい白ウサギを・・・・・・「何処の民族の朝食ですかそれはッ!」「いや夜兎族の朝食だけど?」ウサギの命の危機にアキラが怒りの声を上げると、阿伏兎はさらっと答える。夜兎族は元々戦場に生きる民族なので基本食えると思ったら何でも食うのだ。「返して下さいッ! それは私が可愛いと思って最初に取ったウサギなんですからッ! 私が最初にかっぱらったんだから私の物ですッ!」「あんなにいたんだから一匹ぐらいわけねえだろッ! 今からコイツを丸々唐揚げにするんだよッ!」「そんな大胆悪質お手軽クッキングとか止めて下さいッ! アマゾンでやってくださいアマゾンでッ!」ヒクヒク髭を揺らして自分の身に起こる事になんの不安も感じていないウサギを揺らしながらアキラに調理の許可を取ろうとする阿伏兎だが、当然小動物を愛してやまないアキラが許すわけないわけで阿伏兎から強引にウサギを奪おうとする。「私のですッ!」「俺の朝食だッ!」「きゅ~」「あ~ん止めて二人共~ッ! そのまま引っ張ったらウサギが引き裂かれる~ッ!」両者譲らずにウサギの引っ張り合いを始める阿伏兎とアキラを、木乃香が慌ててウサギを助ける為に止めに入る。そんな光景を見ながらアスナは眠そうに大きな欠伸をした後、必死にウサギを引っ張っている阿伏兎の方へ目を向けながらポツリと呟いた。「ネギの奴も便利なモン連れて来たわね・・・・・・なんだかんだでウチの生徒と仲良くやっていけそうじゃない新しい管理人」そのネギはというと今は彼女達より一足早く刹那と一緒に麻帆良学園に着いていた。学園長に呼ばれて彼の部屋に来た二人は修学旅行で起こった出来事を一通り説明し終えた所である。「・・・・・・っとまあこんなわけで、学園長から預かった親書は父さんとの戦いが原因で跡形も無く残ってませんでしたけど、詠春さんはちゃんと関東と関西の和睦の手筈を整えると言っていました」学園長の机の前で説明を終えたネギに学園長はイスに座りながら満足そうに頷いた。「うむ、まあいいか。婿殿に話をつけて来たならそれはそれで君の功績じゃ、そんな困難な状況下で任務を全うできたことは立派じゃぞネギ君」「いや~僕死んでたんであんまり活躍できなかったですよ?」「一回逝った事を「いや~ちょっと寝てたんで」みたいに言うの止めてくんない?」後ろ髪を掻きながら笑いかけるネギに学園長は即座にツッコミを入れた後、彼が手に持っているある物に興味を示した。普通の一般的な傘より一際大きく頑丈そうな日傘だ。「ところでネギ君、君が持っとるソレはなんじゃ?」「ああこれはウェールズにいるネカネお姉ちゃんに頼んで送って来てもらった物です、僕の恩人から預かっている傘でして、今日届きました」「ほう、じゃがこんな晴れた天気に傘など必要ないぞ?」腕を組んで尋ねて来る学園長にネギは「ハハハ・・・・・・」と苦笑した。「どうやら僕の中にいる鳳仙おじいちゃんの夜兎の血が僕の血に混じったみたいなんですよ、魔法使いの血と夜兎の血が混ざった状態になってしまいまして・・・・・・」「なんじゃと? てことは君の体をめぐる血には夜兎の血が半分流れているというのか?」思わぬネギの追加報告に学園長は気難しそうな表情をする。魔法使いの血に夜兎の血が混じるという前例は過去に一度も無い。だがもし夜兎族の血が流れているのであればその特性もネギの体に・・・・・・・学園長の推測が正解だと言う風にネギはコクリと頷いた。「はい、今じゃ夜兎の人達の様に太陽の光を浴びれなくなってしまって・・・・・・・死にはしませんが、体が重くなるし息苦しくなる様になってしまいました」「そうか、そりゃあ大変じゃの・・・・・・ワシだったら絶対にゴメンじゃ」「だからこうして朝と昼は傘を常に持っていないと駄目になっちゃいまして・・・・・・でもこの傘は父さんの杖に負けないほど素晴らしい武器ですし、日の光が浴びれなくなってもその分夜兎特有の力も見に付けましたから僕は全然平気です」「ポジティブじゃの~、ま、ワシだったらは絶対にゴメンじゃ」「なんで二回言ったんですか?」ネギの体の構造が普通の人間とかなり変わっている事に学園長は二度拒絶した後、イスにもたれてネギにボソッと呟いた。「それぐらい嫌なんじゃ、だって日焼け出来ねえし」「え? 日焼けする気ですか学園長? それ以上日の光を浴びたら干からびて死にますよ、元から干からびてますが」「ワシはミミズかよ、クビにすっぞガキ」真顔でさらりと酷い事を言ってのけるネギに学園長はイスにもたれて天井を眺めながら言葉を返した後、態勢を戻して今度はネギの隣にいる刹那の方へ目を向けた。「それにしてもお主も大変じゃったな刹那君、右目を失うというのは剣士でもあり女性でもあるお主には・・・・・・」「御心配無用です」心配そうに声をかけて来た学園長に刹那はキッパリと返事をする。彼女にはもう右目は無い。その代わり右瞼の上には黒い眼帯が巻かれていた。「片目が無くなろうとも私は私である事に変わりはありません、これからも木乃香お嬢様をお守りします」「ほう、なんか知らんが今のお主、前より随分とたくましく見えるぞ?」「土方さんや白夜叉のおかげです」「土方? あ~ここにしばらくいてくれたあの男か、確か銀八と一緒に異世界へ帰ったんじゃったな・・・・・・あ」剣の腕だけでは無く精神的にも強くなっている刹那が力強く頷くと、学園長は彼女が世話になっていた男を思い出す。そしてもう一つ、“自分が一番望んでいたもの”が実現した事も思い出した。「どうしたんですか学園長?」「フェッフェッフェ・・・・・・そういえばあの忌々しい銀八が異世界に帰ってしまったんじゃったな」学園長はイスを回転させながら不気味な笑い声を上げる。「ワシの支配する学校に我が物顔で横暴の限りを尽くした銀八め。今度来たらワシの真の力を見せて二度とワシに逆らえんようにしてやる、グフフフ・・・・・・」「・・・・・・なんでこんな人が学園長になれたんでしょうか?」「それは誰もわからない事でしょうねきっと・・・・・・・」下品な笑みを浮かべながらクルクル回っている学園長に刹那とネギが疑念を抱いていると、ふと刹那もまた学園長と同じくある事を思い出した。もっともこれはネギに関わる事だが「そういえばネギ先生、生き別れになっていたご両親にせっかく会えたのに、二人は土方さんや白夜叉と同じく江戸へ行ってしまったんですよね?」「ああ、はい。なんでもここに残れない事情があるとかで、ま、ちょっとここに顔出す事ぐらいは出来ると言ってましたよ」ネギの両親であるアリカとナギは今、銀時達と同じ江戸に住んでいる。住む世界は別になってしまった、しかしネギは特に気にしていない様子でフッと笑う。「きっと銀さん達と一緒に、夫婦仲良く暮らしてる筈でしょうねあの二人は・・・・・・」その夫婦はというと現在、江戸にあるかぶき町の『スナックお登勢』の二階に住んでいた。無論そこは銀時の家である。今ではリビングでいつもダラダラとくつろいでいる二人を万事屋従業員である新八はよく見かける。「・・・・・・アンタ等いつまでここに住む気ですか?」「う~ん、わかんね」勝手に転がり込んで居候している夫婦の旦那の方であるナギに新八が冷たく尋ねると、ナギは全く動じずにソファに偉そうにふんぞり返りながら答えた。「元々ここは俺んチだし」「・・・・・・・銀さんにいつも「さっさと出て行けこの寄生虫夫婦が、この家でタマゴなんて産みつけたらお前等ごと燃やすからな」って言われてるのにアンタ等・・・・・・」「そうそうムカつくよなアイツ、ホント何様だよ」「アンタらこそ何様だよ・・・・・・王様か、王様と女王様気どりか?」新八にツッコまれながらもウンザリした表情で銀時に文句を垂れるナギ。すると彼の向かい側のソファに神楽と一緒に座っている妻のアリカが新八とナギの話に口を挟む。「よいではないか、別に減るモンじゃなかろうに」「“アネゴ”の作った卵かけごはんうんめぇぇぇぇぇぇ!!!」「いや食費とか部屋のスペースが大幅に減ってんですけどッ!? ていうかなんで神楽ちゃんにご飯上げてんですかッ!?」新八が気が付いた時にはアリカは何故か神楽にどんぶり一杯ぶんの白米に卵を二つ乗せた特大卵かけごはんを御馳走している。それをうまそうにすぐに食べ尽くすと神楽はアリカに方に向かって「こんな上手い卵かけごはんを食わしてくれるならアネゴはずっとここに住んでいいアルッ!」「ふむ、そうか、いつでも馳走するぞ。ていうかそれぐらいしかわらわは作れんがな」「餌付けしやがったよこの人ッ! 何時の間にか神楽ちゃんもアネゴって呼んじゃってるしッ! マダオな旦那よりずっと世渡り上手だッ!」嬉しそうにする神楽の表情から見てすっかりアリカの事を気にいっている様だ。アリカが彼女の頭を撫でている姿を見て、新八はアリカの策略に舌を巻く。「ダメだ神楽ちゃんは、美味しいモン食べさせてもらうとその人への警戒心ゼロになるんだよな・・・・・・このアリカさんって人、天然そうに見えて計算高い」「は~? 食いモン貰えば懐くのかよ、さすがあのハゲの娘だ、子育てがなってねえぜ」「それアンタが言える資格ないですよ」子育てに関しては全く出来ていないナギに新八がジト目でツッコミを入れた後、ふとナギとアリカの姿を見てある違和感に気付く・・・・・・・。「そういえば二人共・・・・・・9歳の子供持ってる割には若すぎませんか? 見た目どう見ても20代前半ぐらいに見えるんですけど、ぶっちゃけ年いくつなんですか二人は?」「禁則事項だ」「禁則事項じゃな」「何で今までこの物語で数々のネタばれをやってきたあなた方がそこだけ伏せるんですか・・・・・・別にいいですけど」両者キッパリと言いたそうにない様な反応を見せるので新八はすぐに折れてため息を突く。(まあ魔法使いだから見た目だけ年を取らない魔法とか薬でも使っているのかもしれないな・・・・・・)新八がとりあえずそう推測していると、今度はナギの方から彼に向かって質問が飛んでくる。「ところで新八よぉ、あの『真撰組』とかいう奴等が異世界に行ける準備が出来たとかそいういう報告まだ来てねえのかよ?」「え? いやまだ聞いてませんけど?」「んだよおい~、使えねえ連中だな」新八の返事にナギはガックリと首を垂れる。ここからネギ達のいる世界にまた行くには真撰組、いやその上にいる松平のとっつぁんの力が無いと行く事は出来ない。だが今の所、とある都合で異世界にはまだ行ける状態では無いらしいのだ。「前に土方さんからここの世界と異世界を繋ぐのにはまだまだ時間がかかるって言ってましたね、どうやら僕等がここに来る時に使ったあの巨大戦艦で次元に大きな歪みを作ったせいでパイプ状のトンネル空間、『ワームホール』が壊れたらしいんですよ。だから土方さんや近藤さんが上司の人に異世界同士を繋ぐまた別の新しいワームホールを探してくれって頼みこんでる所なんです」新八の解説にナギは目を細める。ただの一般市民である彼が何故そこまで真撰組の内部事情に精通しているのだろうか「新八、お前やけに詳しいな?」「い、いやッ! 僕ももう一回異世界に行ってみたいんで土方さんから詳しく聞いてるんですよッ! それに銀さんもあっちの世界に行きたがってるしッ!」「アイツはともかくお前があそこに行く必要なんてあんの?」「ほ、ほらッ! あの時はドタバタしてゆっくり異世界を堪能できなかったんでッ! ちょ、ちょっと観光に行ってみたいな~と思いましてッ!」顔を赤らめて慌てふためきながら説明する新八にその場にいる三人が怪しむ様な視線を送る。実の所、観光に行く事より新八にはある目的があるのだ。(あ、あっちに行けばまたあの子に会えるかもしれないし・・・・・・・)あの子というのは新八が少しだけ会話をした和美の事。どうやら彼の中で小さな恋心が芽生えつつある様だ。そんな新八にナギは怪しむ視線を送り続けた後、ふと天井を仰いでため息を突く。「ったくよぉ、何でもいいからさっさとあっちに遊びに行かせろよ税金泥棒」その税金泥棒こと真撰組のいる屯所では、業務に復帰した土方がいつもの様にタバコを咥えて(全域禁煙令は土方が異世界へ行った直後にとっつぁんが限界になって撤廃したらしい)隊士達に命令していた。「よし、それじゃあそのちまたで度々出没している筋肉ゴリラダルマ男とかいう変質者を早急に捕まえるんだ、犯人は一人、即刻しょっぴいてやれ」「了解です副長ッ! ところで俺等の姐さんはいつ来るんですかッ!?」「結婚式の準備はどうすればいいんスかッ!?」「早く行けェェェェェェェェェ!!! ぶっ殺すぞッ!」余計な事を聞こうとする隊士達に土方は声を荒げて叫んだ。隊士達が去った後、土方は口から煙を吐きながら疲れた表情を浮かべる。「アイツが来るとかそれ以前にまだ結婚とかそんなの決まってねえだろうが・・・・・・」「ハッハッハ、こんなむさ苦しい所に可愛らしい女の子が来るかも知れないと思ってアイツ等も随分士気が上がったな」「そんな簡単に言わないでくれ近藤さん・・・・・・」後ろに立って笑いかけて来る局長である近藤に、土方は振り返って注意する。すると近藤は彼に向かってビシッと自分を親指で指して「ついでに俺の嫁さん候補のおかげで隊士達が血気盛んになっているのも事実だ、トシ、まさか俺とお前の嫁さん候補が真撰組に絶大なる力を持つとは思いもしなかったな」「・・・・・・近藤さんの場合は隊士達に反対されてからだろ?」「・・・・・・うん」冷静に指摘してきた土方に近藤は少し寂しそうに返事をする。そう、彼の嫁さん候補である夕映は土方の嫁さん候補であるのどかと違って隊士達からほぼ100%の割合で反対されている。「イイ子なんだけどな~・・・・・・・」「イイ子でもあの口の悪さは問題だろ」「いやあれはあの子なりの照れ隠しでッ!」「それは無え、俺がどれだけアイツに毒舌吐かれたか知ってんのか?」近藤なりに夕映を援護するが土方はすぐにバッサリ。間違いなくあれは彼女が幼少のころから積み重ねて来た性格だ。「ま、アンタがずっと惚れてるあの女と結婚出来ればこの問題も鎮圧出来るんだけどな」「くッ! まさか夕映ちゃんとお妙さんのどちらかを選ぶ事にならなきゃいけないなんてッ! モテる男はツライぜトシッ!」「あの女は全くアンタに興味ねえんだけどな」ちょっと目を光らせてキメ顔を作る近藤に土方が手に持った灰皿でタバコの火を消しながらツッコミを入れていると。「ご、ご主人様のご報告です~~~、最近夜中にスナック街に出現しているデカ筋肉ゴリラは、どうやらジャックバウアーみたいな声をしているという情報が入りました~~~・・・・・・」「ああそうか御苦労・・・・・・・」襖をあけてげんなりした表情で現れた月詠に土方は返事をした数秒後・・・・・・「ってオイィィィィィィ!! お前あっちの世界にいた戦闘狂娘じゃねえかァァァァァァ!! どうしてここいんだよッ!」「・・・・・・・ご主人様に無理やり連れてこられたんどす・・・・・・・」「はッ!? てことはお前あの戦艦の中にいたのッ!?」「はい~~ご主人様に脅されて、無理矢理冷蔵庫の中に・・・・・・・」叫んで来た土方に無気力な表情で月詠はコックリと頷くと、その後ろからタイミング良く沖田が登場。「近藤さ~ん、何時になったらまた異世界に行けるようになれるんですかぃ? 俺のメス豚製造計画がこのままだとおじゃんになっちゃいまさぁ」「オメーはまだ増やすつもりかッ!」「いや、こいつクズ過ぎて使えねえんですよ土方さん、最低でもあと2体ぐらい持ってかねえと」「うう~~~ウチは役立たずでなんの使いモンにならないゴミ以下のクズどす~~~」「なんかどんどん進行が進んでるだけどッ! 前と全然キャラ変わってんじゃねえかッ!」突然沖田にかしづいて泣きながら自虐的なセリフを吐く月詠に土方はあまりの変貌ぶりに驚いた。それにしてものどかや夕映より早くこの屯所に女性がやってくるとは・・・・・・といっても“女性”とは扱われてないが「ウチの屯所に変なの連れて来んじゃねえよ・・・・・・」「ですってよ近藤さん、ということであのガキここに連れてくのは無理みたいなんで諦めてくだせぇ」「オメーに言ってんだよサドプリッ!!」腕を組んで近藤に話しかけている沖田に土方はズバッとツッコミを入れる。まさか彼が月詠も連れて来るとは予想外だった、幸いもう一人のメス豚は連れて来てない様だが。「ったく・・・・・・もしここにのどかが来たらお前だけは絶対にアイツの5M以内に入れさせねえからな」土方はそう警告した後ポケットからタバコの箱を取り出すが、入っている筈のタバコが切れてしまっている事にチッと舌打ちした。「クソ、タバコ切れちまった・・・・・・・仕方ねえ山崎に買いに行かせ・・・・・・あ」「どうしたトシ」自分が言っている事で何かに気付いた土方に近藤はどうしたのかと尋ねる。土方は彼の方へ振り向いて、今までずっと忘れていた事を報告した。「山崎、あっちに忘れた」忘れられていた山崎、彼が今何処で何をしているのかというと。案の定、麻帆良学園で清掃員兼雑用係をやっていた。「閉門10分前で~す、生徒の皆さんは早く門をくぐってとっとと各々の教室に向かって下さ~い・・・・・・」ゾロゾロと麻帆良学園の門の中に入っていく女子生徒達に向かって、ジャージ姿の山崎はメガホンを使い門の横に立って覇気のない声を出す。土方達に忘れられてまたここに残る事になってしまった山崎、顔はやつれて、明らか死んでいる表情を浮かべていた。「チクショウ、まさか寝ていた隙に局長達が江戸に帰っちまうなんて・・・・・・旦那も帰っちまったらしいし、一体俺はどうすればいいんだ・・・・・・誰でもいいから迎えに来いよコノヤロー・・・・・・」「おはようございます、山崎“様”」「ああ、おはよう茶々丸さん、え? 山崎様?」すっかりやさぐれてしまっている状態の山崎の所に生徒である茶々丸が声をかけて来た。山崎はすぐに我に返って返事をするが彼女の自分に対する呼称に変化が・・・・・・「俺の事はいつも山崎さんって呼んでたのになんで様付け?」「私自身分かりません、ですが何故か山崎様を呼ぶ時は山崎様と呼ぶ様にと私の電子頭脳がそう命令しているんです山崎様」「ああ、うん。別にいいけど山崎様連呼すんの止めて、凄く恥ずかしいから」茶々丸にツッコミを入れていると山崎はようやく元の顔に戻る。確かに江戸に帰れないのは残念だったがここの世界も悪くはないのだ、(ま、別に一生帰れないというわけじゃないし、しばらくここにいてもいっか)「そういえば銀時様や真撰組の皆様はあちらへお帰りになられたというのに山崎様はここに残られたんですね」「あ、うん・・・・・・誰かが起こしてくれなかったせいでね・・・・・・」突然尋ねて来た茶々丸に山崎はぎこちない笑みを浮かべる。すると彼女はいつも通りの無表情のままポツリと「山崎様が元の世界に帰れなかったのは残念だと思いますが、誠に失礼ですが私個人としては何故か少し嬉しいと思っています」「へ? なんで?」「わかりません、何故こんな事を考えたのも何故こんな事を山崎様に言ったのかも。恐らくバグかなんらかのプログラムミスが発生して私の電子回路が故障している可能性があるのかもしれません」「ハハ、なんか知らないけど大変なようだね」「はい、今度葉加瀬さんに頼んでチェックしてもらいます」茶々丸自身もわからない感情、それがなんなのかは誰にもわからない。それに対して特に深く考えていない山崎は気を取り直して彼女に話しかける。「そういえばよく一緒にいる旦那の嫁さんは何処行ったの?」「マスターはとっくに教室へ行っている筈です、私はここに来る前に朝ごはんの片付けなどをやっていたので、それにしびれを切らしたマスターは一人で学校の方へ走っていきました」「え? あのいつも旦那と一緒に遅刻ギリギリで来てた子が?」「マスターは銀時様のおかげで随分とお変わりになりました」茶々丸と山崎が言っている女の子の事はエヴァの事。彼女が真面目に学校に早く来ている事に山崎が少し意外だという風に声を上げると、茶々丸はふと麻帆良学園の方へ目を向けた。「今頃、初めて出来たご友人達と仲良く教室ではしゃいでいる頃かもしれません」ここは麻帆良学園中等部、3年A組の教室の中。「ハァ~・・・・・・・」「のどか、アンタ元気ないわよ? 朝ごはんも食べてなかったし土方さんに会えないからってしょげてんじゃないわよ?」「う、うん・・・・・・」「私も近藤さんに会えなくて食事ものどに通りません」「夕映、アンタは朝っぱらから白米三倍余裕で平らげてたじゃないの・・・・・・」波乱の修学旅行からいつもの日常生活に戻ったのどか、ハルナ、夕映がそんな会話をしている後の方の席ではエヴァが腕を組んで同級生である一人の生徒に話しかけていた。「その木刀をよこせ長谷川千雨」「だから駄目だつってんだろ、私が銀八に預かったもんなんだから」「ぐぬぬぬぬ・・・・・・! どうしてアイツはこの私ではなく長谷川千雨に大事な木刀を託したのだ・・・・・・!」「知らねえって、アイツが帰ってきた時に聞いてみればいいだろ?」悔しがるエヴァに対して素っ気ない態度で返しているのは千雨、彼女は今自分の席に座って両腕で大事そうに銀時から預かった木刀を抱きかかえている。一日中こうしており彼女が木刀を持っていない時など誰も見ていない。「この木刀は絶対に離せねえからな」「クックック、ならばしょうがない・・・・・・闇の福音の牙を貴様の喉に味あわせてやる・・・・・・」「おやめなさい、恥ずかしいったらありゃしませんわ」「なんだとッ!?」断固として拒否する姿勢を見せる千雨にエヴァは口の中にあるちっちゃなキバを光らせると、後ろから彼女をたしなめる声が。エヴァはすぐに振り返ると、そこにはしかめっ面を浮かべているあやかが立っていた。髪型がポニーテールからロングに戻っている。「結局ただ“噛みつく”だけでしょ? 全くこれだからおチビさんは・・・・・・・」「いい加減子供とかガキとかチビとか止めろッ! 私が幻術使えばあの銀時でさえイチコロのナイスバディになれるんだぞッ!」「ナイスバディって・・・・・・今頃そんな言葉使う奴いねえぞ」エヴァの言葉遣いの古さに千雨が唖然とした表情を浮かべていると、あやかはエヴァを見下す様な目でフンと鼻で笑い。「魔法を使わないと銀さんに愛されないって事ですわよそれ?」「なッ! 違うぞッ! 小さい私でも銀時はきっと愛してくれるッ!」「オホホホホ、必死に言い訳しているあなたの姿は相変わらず滑稽ですわね」「う~~~~~ッ!!」嘲笑を浮かべるあやかにエヴァは地団駄を踏んで悔しがっていると、後ろで千雨がすぐに呼びかけた。「泣くなよ」「ko,こんな事で泣くかッ!」エヴァはすぐに否定するが彼女の目にはうっすら涙がもう溜まっている。このパターンは大体エヴァが大泣きする時のパターンだ。付き合いの長い千雨はよく知っていた。「お前よくそんなに泣けるよなぁ・・・・・・」「ホントですわ、嫌な事があったらすぐに泣いて・・・・・・泣けば自分の思い通りになるとでも思ってるんですか? 銀さんに何時も言われてましたわよね? そんなんだからいつまで経ってもちっちゃいちっちゃいお子様なんだって」「うるさいッ! 私が泣くのは、お、お前と銀時がすぐに私を泣かす様な事言うからに、き、決まってるだろッ! ヒックッ!」「いいんちょもう止めとけ。嗚咽してる、コレ以上突っつくと破裂するぞエヴァ」声が震え嗚咽を交えながら喋っているエヴァの姿を見て千雨があやかへ話しかけると、ウンザリした表情であやかはため息を突いた、「銀さんみたいに上手くいかないんですわよね・・・・・・」「アイツもよく泣かすけどな・・・・・・・ていうかアイツが原因で泣くからな大体コイツは」「あ、そういえば千雨さんも告白の時と最後のお別れの時に泣いてましたわよね?」「バ、バカッ! このタイミングで恥ずかしい事思い出させるなッ! あん時は感極まってつい・・・・・・」いきなりそっちに振られるとは想像していなかった千雨は顔を真っ赤にして木刀を強く抱きしめて恥ずかしそうに目を逸らす。するとそんな事を話している所に約束通りあの生徒が・・・・・・「そうそう、私もあの時はさすがに泣きそうになったよ、千雨ちゃんはいつもツンツンしてるけどやっぱり銀さんと別れるのが寂しいんだな~とか思っちゃったり」「あら、朝倉さん」「お前はホント何の前触れも無しに出て来るんだな・・・・・・・」「この私でさえ朝倉和美の気配がわからなかったぞ・・・・・・」何時の間にか三人の真ん中に現れた和美に、千雨とエヴァが怪訝そうに見つめているとあやかは彼女に話しかける。「朝倉さんって何かと千雨さんを押しますわよね・・・・・・」「う~ん、私は恋愛毎が苦手っぽい女の子を応援するのが好きなタイプだからね~」「自分は恋愛事なんてやった事ないクセに・・・・・・」「だって興味無いもん」「あっさり言うなよ・・・・・・」笑いながらそう言う和美に千雨はジト目でツッコミを入れる。予想通りの答えだがそこまで元気に言われると逆に心配になって来た。「お前だって人を好きになる事だってあんだろ?」「異性として好きになるって事? いや~まだ無いかな?」 「お前な・・・・・・」「今は千雨ちゃんと銀さんがいかにラブラブなれるかって事しか考えてないし」「あっそ・・・・・・」二カッと笑いかけてきた和美に千雨はハァ~と深いため息を突いて呆れていると。おもむろに和美は教室の窓から見える空を見上げてボソッと呟いた。「銀さん、いつ帰ってくるんだろうね?」「・・・・・・すぐに帰ってくるとは言ってたけどな」「ま、すぐに帰って来ないと絶対に許しませんわね」「当たり前だ、もし来なかったら召喚魔法で無理矢理にでも呼び戻してやる」和美の呟きに三人は一緒に空を見上げながら各々の言葉を漏らす。「なんか唐突に帰ってきそうだな銀八の奴・・・・・・」「銀さんは人が驚くのを見るのが大好きな人ですから」「私達の想像を遥か超えた先の事を平気でやってのけるが銀時だからな・・・・・・」一人の男を思い浮かべながら、三人は空は雲一つない綺麗な快晴の空を見上げる。和美は三人を眺めながら愉快そうに、そして嬉しそうに笑った。「モテる男はツライね~銀八先生、早く帰ってきて可愛い嫁さん三人を喜ばしてあげなきゃね」「ちくしょ~、玉でねえ、全然出ねえよ。あっという間に玉が飲みこまれていくよ、ふざけんなコレ壊れてんじゃねえか?」「ムカつくよな~、コイツ等絶対に俺等貧乏人を見下してるんだよ、俺等の少ない金を吸い取って悦に浸ってるんだよ、ひでえよ、俺達マダオに救いは無いのかよ? どうあがいても絶望とか死にたくなってくるよ」ここはかぶき町のとあるパチンコ店内。椅子に座って目の前にあるパチンコに悪態を突いているのは銀髪天然パーマの男、坂田銀時。腰に木刀は差していないその彼の悪友であるグラサンがトレードマークのまるで駄目なオッサン、通称『マダオ』こと長谷川泰三が彼に相槌を打っていた。財布は両方ともほぼ空だ。「あ~あ、こりゃあ今回も駄目だな・・・・・・それにしても、また銀さんとこうやってパチンコに行けるとは思わなかったな。てっきり俺、銀さん死んだと思ってたのに」「人を勝手に殺すんじゃねえよ、あ、リーチ」「ていうか銀さん何処行ってたの? ここ最近姿が無かったじゃねえか」「ちょっくら長期の仕事でな・・・・・・“ガキの子守り”とかやってたんだよ」長谷川さんにだるそうに返事をしながら銀時はパチンコを動かしていた。すると向かいのパチンコの台からボーナス確定のBGMと猛々しい大声が「ハッハッハッハッ!!! ラカンフィーバァァァァァァァァ!!!!」「チッ、うるせえな、誰だよ向こうで騒いでる奴」「こういう小さなパチンコ店ってのはさ、各々個人で戦う遊び場所なんだから、ああやって一人テンション上がって喜んでる奴ってマナーがなってねんだよ」「なに勝者の気分で喜んでるの?って感じだよな、「勝った俺を見て」とかアピールしてもこっちは自分の台しか見えねえんだよボケ、マナーなってねえ奴にパチンコの女神様は一生降臨しねえんだよ、ん?」長谷川と一緒に向かいにいる人物に文句を垂れながら、銀時はパチンコを動かしていると、ふと画面上に揃った二つの7の隣に7がやってくる。そして・・・・・・スリーセブンが揃った。その瞬間、パチンコからボーナス確定という意味の大音量のBGMが流れる。「来たァァァァァァァ!!! 銀さんフィーバァァァァァァァ!!!!」「アレェェェェェ!? さっき言ってた俺達の言葉は何処行ったのッ!? 速攻ティッシュに包んで捨てたッ!?」「うるせえ負け組ッ! テメェはずっと生物の最低辺コースを走り回ってろッ! 勝ち組の俺は今からパチンコの女神様と合コンだッ! いよ~し銀さんフィーバァァァァァァァ!!!」「ひでえよこの人ッ! 数か月前とまるで変わってないよッ!」 さっきまでとは打って変わって狂喜乱舞する銀時に長谷川がツッコんでくるのに叫び返して銀時は勝利の雄叫びを上げ続ける。すると向かいのパチンコ台からまた叫び声が「ラカンフィーバァァァァァァァ!!!」「銀さんフィーバァァァァァァァ!!!」それに銀時はすかさず対抗。「ラカンフィーバァァァァァァァ!!!」「銀さんフィーバァァァァァァァ!!!」「ラカンフィーバァァァァァァァ!!!」「銀さんフィーバァァァァァァァ!!!」「ラカンフィーバーだっつってんだろ誰だ急に俺様の邪魔する奴はッ!!」「銀さんフィーバーだっつってんだろコノヤローッ!!」「銀さん、顔も見えない向かいの人と喧嘩すんなよ・・・・・・」叫び声が怒鳴り声に変わり銀時は席から立ち上がって向かいにいる筈であろう人物と喧嘩している。それに長谷川はボソッと口を挟んだ。「ここは同じ店でパチンコやってる同士なんだから仲良くやろうって? 多分、向かいにいる人は声からして休暇を取ったジャックバウアーだ、24時間走り回ってんだからここでは休ませてやろうぜ?」「ケッ!」 長谷川になだめられて銀時は苦々しい表情を浮かべながらもとりあえずドカッと自分の席に座り直す。「しょうがねえ、今はジャラジャラ玉が出まくって気分がいいから許してやっか」「銀さん後で飲み屋で奢ってくれよな」「ああ、奢る奢る、うっひょーすげえ玉が出て来る」気を取り直して自分のパチンコ台を見てみると銀色の玉が大量に出てる。これは年に一度あるかどうかの大当たりだ。「ヘッヘッヘ、さっきまで股を閉じて全然入らなかった場所に、今はガバガバ開いて入れ放題だぜ。いや~お堅いタイプかと思いきや実はかなりの淫乱だなコイツ」「銀さん、その下ネタはマズイって、マジでヤバい」ニヤニヤ笑いながらパチンコを眺めている銀時に、長谷川はタバコを咥えながら冷静に一言。すると、彼の台にも遂にチャンスが「来たッ! ラストリーチッ! マダオフィーバーまでもう少しだッ!」「おお、やったじゃん長谷川さん、けどリーチで浮かばれんなよ、淫乱プレイが出来るのはまだ先だかんな」「いや淫乱プレイが目的みたいに言うなよッ! 俺は純愛な子が好みなんだからッ! 来いッ! 今度こそ俺をマダオ卒業に導いてくれッ!」両手を合わせて必死に祈る長谷川、これでミスったらまた一文無しに戻ってしまうからだ。そんな光景を見ながら銀時はふとある事を思い出した。「・・・・・・そういやここで俺はチビのせいであっちの世界に飛ばされたんだよな・・・・・・」自分の台で玉が出ているのを確認しながら銀時をポツリと呟く。「アイツ等元気にしてるかな・・・・・・チビはいつも通りワガママ言ってそうだな、あやかは今頃ガキ共を上手くまとめてんだろうな、千雨は・・・・・・あいつまだネットアイドルやってんのか?」「来る・・・・・・! 来る・・・・・・! 俺は勝利への階段を昇っている筈だ・・・・・・!」隣で長谷川がパチンコを凄い形相で睨んでいるのを無視して銀時はボーっと玉が出るパチンコを眺めている。「早く帰ってツラ見せねえと、アイツ等にまたボコられそうだな」出て来る銀玉をドル箱で回収しながらそう呟く銀時の隣では。気高いラッパ音のファンファーレ。大当たりのBGMが鳴りだした。「き、来たァァァァァァァ!! マダオフィーバァァァァァァァ!!!」「なあ長谷川さん、今日ここに呼んだのはさ、ちょっと報告したい事があってよ」「なんだよいきなり~、今からパチンコの女神様とダンスする所なのによ~。へへへへ」大当たりが確定して泣くほど大喜びしている長谷川に銀時がおもむろに話しかける。完全に舞いあがっている長谷川は全く聞く様子も無さそうにパチンコからジャラジャラと玉が出て来るのをニヤニヤしながら眺めている。そんな彼を見ながら銀時はパチンコのカウンターに肘を突き。自分のこれからの人生を報告した。「俺、結婚するわ」満面の笑みを浮かべていた長谷川は自分のパチンコ台に頭から突っ込んだ。