近衛家の屋敷の前の壮大な敷地にはガヤガヤと賑やかな声が聞こえていた。それもその筈、そこには春雨と高杉の連合軍を退かせたメンバーのほとんどが集合いしているのだ。しかもそこには一段とその場にいる者を驚かせる江戸で作られた巨大な物体が・・・・・・「巨大時空戦艦ジャスタウェイD4C(ディーフォーシー)ィィィィィィィィィ!!!!」敷地の真ん中に威圧感と迫力満点でありながら、何処か抜けている表情をしている顔を持つ全長30メートルはあるであろうジャスタウェイを見上げて、松平のとっつぁんが全員に聞こえるような大きな声でその物体の名を叫んだ「大人数を一気に異世界へと運ぶ為に俺が作らせた最新科学の結晶体よッ! コイツがありゃあ俺達は何時でも多くの人材をこの世界に派遣可能だぜッ!!」「人の敷地内になんちゅうモンを勝手に置いてるんですかねこの人は?」誇らしげに説明をしているとっつぁんの後ろで、ここの敷地内の持ち主である近衛詠春は綺麗なスマイルを浮かべながらツッコミを入れていた。そんな彼等を傍から見ていたアスナは、彼等の目の前にある巨大な戦艦をふと見上げる。「・・・・・・あのふざけたツラはともかくD4Cってどういう意味?」「Dirty Deeps Done Dirt Cheap」後ろから意味深な言葉をペラペラと言う声を聞いてアスナは怪訝そうに振り返ると。一人で夕映がボーっとつっ立ていた。「夕映、アンタ何時の間にエジプト語話せるようになったの?」「英語です。意味は『いとも容易く行われるえげつない行為』。D4Cというのはそれを暗示してるんじゃないですか?」「なんでわかるのよ?」「ウルトラジャンプを読んでいる者は全員知っています。ちなみにウルトラジャンプは私の愛読書の一つです」相変わらず無表情で意外な事を言ってのける夕映に、アスナはジト目で彼女の方に首だけ振り返りながらボリボリと頬を掻く。「私、週刊少年ジャンプの方しか読まないのよね」「荒木大先生という神のいない週刊少年などもはやジャンプと呼べる代物では無いと思いますが?」「フン、まあ確かにあの御方がいなくなったのは痛いけど、アンタ『ギンタマン』という存在を忘れてるんじゃないでしょうね? アレはもはや神どころか邪神なんだからね?」「まだあんな落書きを載せているんですか週刊少年は? ていうかよくそんなモン読めますね、受け狙いで言ってるんですか? 笑えませんね、『もう中学生』のコント見てるぐらい笑えませんね」ブチィッという生々しい音がアスナの頭の中から聞こえた。グサリと突いてくる夕映の毒舌はアスナの怒りのボルテージをMAXにさせるのに1秒もいらなかった。「このアマァァァァァァァ!! お前の母ちゃん××だぁぁぁぁぁぁぁ!!!」「うわ~ッ! アスナ夕映に乱暴せんといて~ッ!」夕映の胸倉を掴んで掲げ上げ、ブランブラン振り回しているアスナを体調回復した木乃香が偶然居合わせて慌てて止めに入った。「せっちゃん一緒にアスナを止めてッ!」「わかりました」木乃香の呼びかけに隣にいた彼女の友人である刹那が心強く頷く。彼女の右目にはまだ白い包帯が巻かれている。「アスナさん落ち着いて下さいッ! 確かにその人に衝動的に殺意を持つのはわかりますが今はとりあえずおさえてくださいッ! ええもう本当に殺したいってのは物凄くわかるんですよッ! ムカつきますよねその人ッ! しかし今夜は真撰組の皆さんやお嬢様奪還を協力してくれた方達を送る為だけに私達はここにいるんですから無用な殺生は止めて下さいッ! 修学旅行が終わったら私も協力してその人一緒にぶっ殺しますからッ!」「あ~もうわかったわよ、しょうがないわね・・・・・・アンタとはいつか決着をつけてやるから覚悟しなさい」なんか恐ろしげな事をぶちまけている刹那だが、そんな彼女の説得を聞いてアスナは渋々夕映(終始無表情だった)を地面に下ろした。そんな彼女の姿を見て木乃香はホッとした後、アスナを説得してくれた説根の方へ目を向けた。「せっちゃん、さっきの本音がめっちゃ出とったんやけど? ていうかもうそっちが主役になってへんかった?」「・・・・・・いやだって・・・・・・」木乃香にそう言われると刹那は暗い表情で肩を落としうなだれ、自分の失った右目の部分を触る。「だってあの人、前々から散々私の事をバカにして・・・・・・しかも救護室でこの目の治療をやっていた私に向かって・・・・・・」『無くなった目玉の代わりにこのミカンでも入れてみますか? 地味なあなたでもキャラ立ち出来ますよ、ま、のどかには遠く及びませんが』・・・・・・・・・・・・・・・・・「取れた目ん玉の代わりにミカン入れてみるか?って普通言えますかッ!? てかなんでミカンなんですかッ! あんなもん目に突っ込んだら確かにキャラ立ちしまくりでしょうけど、アホの子決定じゃないですかッ!」「いや多分やけど、目が無くなってしもうたせっちゃんが落ち込まない為に言ったんやと思うで、あの子って素直じゃない所あるけど根はええ子やから、それにええやん元々せっちゃんアホやし」「・・・・・・色んな人に言われてるんですけどそんなに私ってアホですか・・・・・・?」「うん」「そうですか・・・・・・」サラッと言ってくる木乃香に刹那がショックを受けた様に呟いていると、そんな二人の方にボソボソと何は話しあっている男女の声が聞こえた。「おい千草、俺達どうなっちまうんだ・・・・・・」「まさか相手方にあんなに助っ人が来るとかないやろ・・・・・・ていうかなんでスクナがあんな連中に負けんねん・・・・・・負ける事なんて絶対あらへんと思っとったのに・・・・・・」「ダメだ人の話全然聞いてないわこいつ・・・・・・」一人の忍びと一人の魔法使いが背中合わせに一本の縄に縛られた状態でその場に座り込んでいる。江戸から来た元お庭番衆の全蔵、まんまと高杉に踊らされた千草だ。「江戸に強制送還、もしくはここで何らかの罪払いをしなきゃいけねえのかな・・・・・・」「あ、ウチをさらったりせっちゃんの目を取ったりした人」「ん?」自分の罪状の大きさを計算している全蔵の元に木乃香がトコトコ近づいてきた。昨日本気でぶつかり合った刹那も一緒だ。「傷の方は大丈夫なのか全蔵」「ああ、どっかのバカがくたばる寸前の俺を救護室まで運んでくれたからな」「死なせて化けて出てきてもらったら面倒だと思ったからだ」「ったく余計なことしやがって・・・・・・」右目を奪った自分に塩を送ってくれた事に全蔵が不機嫌そうな様子で悪態を突ていると、木乃香はおもむろに刹那の顔を心配そうに眺める。「ところでせっちゃん本当に今大丈夫なん? この人に右目取られたせいでせっちゃん、なんかフラフラ歩くようになってるんやけど・・・・・・」「いえ、問題ありませんお嬢様、まだ平衡感覚を掴めないだけですから慣れれば元の生活に戻れる筈です」ずっとフラフラしながら歩いている自分の事をずっと心配してくれていた木乃香を安心させるように刹那は彼女に笑いかける。木乃香もそれに「そっか」と嬉しそうな顔になると、人差し指を立てて彼女に注意をして置く「言うとくけど右目が無くてもウチはせっちゃんの事嫌いにならへんからな」「え?」「先にこう言わないとまた逃げるかもしれへんやろ?」「ああ・・・・・・」刹那がしかめっ面を浮かべると、木乃香はニコッと彼女に笑いかけた。「せっちゃんがどうなろうとウチはせっちゃんとずっと友達やからな」「あ、ありがとうございます・・・・・・このちゃん・・・・・・」「エヘヘ、昔のあだ名で呼ばれると嬉しいなぁ・・・・・・あ」「どうしたんです?」かつてのあだ名で呼んでくれた事に少し照れた表情を浮かべると、木乃香は刹那の後ろからやってくる人物を指差した。「桂さんや」「何ッ!」「なんだ、もうすっかり体調が回復した様だな木乃香殿」二人の元へやって来たのは攘夷志士、桂小太郎。腕を組みながら近づいてくる彼に木乃香は無邪気に手を振って、刹那は警戒心をあらわにする。真撰組側の人間である刹那にとっては攘夷志士である桂は本来なら敵なのだ。「何でお前がここにッ! ここには真撰組の人達がゾロゾロとッ!」「関西呪術協会と繋がっている俺をここの敷地内で捕まえる事など奴等には出来んよ、それに共同戦線での戦ったのだから、今日ぐらい奴等と同じ場所に立ってもいいであろう」「確かにお前にはお嬢様を助けてくれた借りがあるからな・・・・・・」桂の意見に刹那は苦々しい表情を浮かべた後、彼の横を仏頂面で横切る。「今は見逃す、それで借りはチャラだ。次会った時はお前は私が捕まえる」「いつでもかかってくるがいい、お主が真撰組側である限り、俺とお主は敵なのだからな」「当然、攘夷志士は例外なく全て土方さん達の標的だ、つまり私にとっても標的だ」そう言い残すと刹那は何処かへ行ってしまった。木乃香はというとそんな彼女の背中に目をやりながら不機嫌な表情になる。「もう・・・・・・桂さんがええ人ってわかってるのになんでせっちゃんと土方さんはあんなにわからず屋なん?」「俺には俺の正義がある様に、連中には連中の正義があるのだ。これっばかりはどうする事も出来んのだ木乃香殿」「む~」いささか不満がちな表情をする木乃香だが、桂の横顔を見てある事にハッと気付いた。「そういえば桂さんは土方さん達と一緒の世界から来たんやろ? もしかして土方さん達が用意したアレで帰るん?」「いや俺はここに残る、幕府の犬共がいる戦艦などで帰ったらすぐに牢獄入りだと目に見えてるからな、俺は別の方法で帰る事にする」「へ~ここに残るんや~なんかちょっと嬉しいかも」攘夷志士の身である桂は真撰組の人間達と一緒に帰る事など出来ない。それを知った木乃香は呑気に笑っていると、桂は腕を組んで戦艦を眺めながらボソッと呟く。「帰るのは坂本と・・・・・そして銀時だな」「えッ! 銀ちゃんがッ!」銀時の名を聞いて木乃香は驚く。確かに彼も桂達と同じあちら側の世界の住人だが・・・・・・「当然帰るだろう、江戸にはあいつを待っている人たちが大勢いる、そんな連中を裏切ってここに永住するなど奴が絶対にするわけがない」「そんな・・・・・・だって銀ちゃんウチ等の教師やのに・・・・・・」悲しそうな顔をしてうなだれる木乃香に目をやりながら、桂は彼女に向かって話しかけた。「あいつの住む世界はここではないのだ、わかってくれ木乃香殿、あの男もきっとお主等と別れるのはツライに決まっている筈だ」「・・・・・・」何も言えずに押し黙る木乃香の肩を桂は優しくポンと叩いた。「出来るなら、笑ってアイツを見送ってくれ」「ウチはええけど・・・・・・いいんちょと長谷川さんとエヴァちゃんが・・・・・・・」いつも銀時と一緒だったあの三人、彼女達は一体どうするのだろうか・・・・・・木乃香の頭の中で不安と心配が募る中別れの時間は刻々と迫っている。第七十六訓 出会いもあれば別れもある 経験するたびに人はより成長していく「うわ~ッ! なになにこの物体ッ! すっごいデカイ上にすっごいアホ面ッ!」「これが異世界の芸術ッ! よっしゃあ漫画のベスト資料ゲットォォォォォォ!!!」テンションMAXで生徒二人が巨大戦艦ジャスタウェイD4Cの前ではしゃいでいる。一人はその戦艦をカメラで激写している朝倉和美と、二本の触角の様なアホ毛をビンビンと跳ねながら興奮している早乙女ハルナだ。「いや~コレは生徒のみんながビックリする一大事・・・・・・いや駄目かコレってこっちの世界のじゃないし・・・・・・でも一応私の思い出として何枚か撮って・・・・・・ん?」「ん? ああすみません」独り言をつぶやきながらカメラを撮りながら和美は後ろに下がっていると、誰かの背中に軽く当たってしまう。一体誰?と和美は撮るのを止めて後ろに振り返ると、そこにはメガネを付けた地味な青年が申し訳なさそうにこちらに謝って来た。「え~と・・・・・・銀さんと同じ世界の人かな? 着物着てる所からして?」「あ、はい。初めまして、銀さんの所で万事屋として働いている志村新八です」「えッ! 君が銀さんがよく言ってたあの新八君ッ!? へ~本当に見た目地味~」「いや初対面の人にいきなり地味っておかしいでしょ・・・・・・」近づいて来てしげしげと観察してくる和美に新八は少し顔を赤らめながらツッコミを入れた。「地味でヘタレでツッコミしか能が無いダメガネって銀さん言ってたけど、こう見ると普通の人じゃん」「あの天パ野郎、僕の事をどんな風に説明してやがんだ・・・・・・ってうわぁッ!」まだここに姿を見せていない銀髪の男に新八が悪態を突いていると、突然彼の手を取って和美が両手で強く握る。いきなりの彼女の行動に新八は驚いた声を上げる。「私も一応銀さんの所の万事屋メンバーなんだ。てことは新八君は私の先輩って事になるんだ~、住む世界は違うけどよろしくね~」「ははははは、はいッ!」「あれ? どうしたのなんかすっごい汗かいてるけど?」「ななななななんでもありましぇんッ!」「?」かなりきょどっている態度で額からダラダラと汗を出している新八に和美は彼の手を離した後首を傾げる。彼女は新八の事をまだよくわかっていないのだ。彼は昔から同世代の異性と接する機会は神楽を除いてほとんどないのに、いきなり現れた和美に手を握られたので、思春期真っ盛りの彼の頭の中はパニック状態になってしまったのだ。(うおぉぉぉぉぉぉ!!! いきなり手を握るという高ランクの技をいきなりしてくるなんてこの人何考えてるんだッ! こちとら柔らかい女の人の手なんて触ったの久しぶりなんだよチクショーッ!)「どったの? なんか汗が凄い事になってるけど? どっか痛いの?」(あれ? この人よく見ると・・・・・・・)頭の中で必死に叫んでいる新八に和美が心配そうな表情で顔を近づける。そんな彼女に新八は両手で頭を押さえながらハッとする。(め、めちゃくちゃカワイイィィィィィィィィ!!! コレ以上無いというぐらい僕のタイプだッ! やばどうしよッ! 好きになっちゃうかもッ! 会ったばかりの女の子好きになっちゃうかもッ! いや待てぇぇぇぇぇぇぇ!! お通ちゃんがいるんだッ! 僕にはお通ちゃんがいるんだッ!) 新八の体の中で激しい電流が駆け巡る。改めて気付いたのだ、目の前にいる和美は物凄くスタイルもいい上に美人だと(江戸だったらこんなカワイイ子見つけるなんてドラゴンボール探すより難しいっていうのにッ! もうここドラゴンボール散らばりまくってるじゃんッ! 神龍何体出せるんだよこの世界ッ!)「大丈夫? 目の焦点が合ってないよ?」「だ、大丈夫大丈夫ッ! ちょっと寝不足なだけッ! 僕、思春期だからさッ! 布団の中に入っても変な事考えちゃって中々寝れないんだよ本当ッ! アハハハッ!」女の子である和美にはわからない様な事を言ってごまかすと、ようやく落ち着いて来た新八はため息を突いてうなだれる。(ハァ~・・・・・・・教師やってた銀さんはこんなカワイイ生徒の和美さんと一緒にワイワイ楽しんでたんだ・・・・・・そう思うと、あの人に沸々と殺意が芽生えて来る・・・・・・)顔を赤らめながらチラッとキョトンとしている和美の方へ目を向けながら、新八は銀時に忽然としない苛立ちを覚えていると、彼の元にまた別の生徒が・・・・・・「朝倉~、誰と話してんの?」「ああ、この人は銀さんの仲間の新八君、私と同じ万事屋メンバーなんだよ」さっきまでジャスタウェイに興奮していたハルナが、和美が誰かと話している事に気付いてやってきたのだ。和美は簡単に新八の事を説明してあげると、彼女はいきなりしかめっ面になって目を細める。「銀八先生の仲間? この人が?」興味津々に新八を観察していた和美と違って、ハルナは胡散臭そうな目つきで新八を眺める。しばらくしてハルナは新八からプイッと顔を背けると面白くなさそうに呟いた。「ボツ」「は、はぁッ!? ボ、ボツってなんすかいきなりそれッ!?」「だって見る限り全くなんの個性も無いじゃない、モブキャラでももうちょっとマシなのいるわよ? 唯一の個性と呼べる存在がメガネだけ、しかもそれさえも私と長谷川さんに被ってるし、あまりにも地味過ぎて笑えないわこりゃあ、アンタはこの世界に来ちゃいけない人間だったのよ」「んだとォォォォォォォ!!!」鼻で軽く笑って見せるハルナに新八は激怒の表情に。好意を持ってしまった和美の目の前でここまで言われて黙っていられる筈がない「アンタなんかが僕にいちゃもんつける権利なんてないだろッ! どうしてアンタみたいな人にいきなり僕のキャラとしての存在全てを否定されなきゃいけないんだッ! 担当かアンタはッ!」「朝倉~、こんな地味ツッコミダメガネに付き合ってないで、土方さん達の所に行かない?」「人の話聞いてねえしッ!! ウザッ! このメガネ、ウザッ!」自分の熱い主張を無視して和美に向かって話しかけているハルナに、新八の怒りは頂点に。するとハルナはだるそうに彼に振り返って対峙する。「私はなんの個性も無いその辺の石ころと同じぐらいの地味なキャラなんかどーでもいいのよ、私が興味あるのは漫画の資料になるほどの濃いキャラだけ、背景と混ざっても違和感ないダメガネはさっさと自分の世界に引きこもってなさい」「うっさいわ不人気メガネッ! もう一人のメガネとは天と地の差ぐらい人気の差があるの知ってんだぞッ!」「あああッ! 一番気にしていた事をよくもッ! ていうかアンタだって不人気メガネじゃないのッ! もう一人のメガネとアンタの差もメチャクチャ・・・・・」「フハハハハハハッ!!」「「ん?」」ハルナが新八が互いに相手に悪意のあるコメントを述べている途中にいきなり上機嫌な様子の高笑いが。新八とハルナは同時にそちらに振り返ると・・・・・・・「どすこぉぉぉぉぉぉいッ!!!」「「もげらぁッ!!!」」今までに見た事のないほどのテンションが有頂天に達しているエヴァが笑いながらハルナと新八の顔面に飛び蹴りを入れた。二人が仲良く後方に吹っ飛んで倒れるとエヴァはスタッと地面に着地した。「不人気メガネコンビ如きが私の前に立つなッ! 身の程を知れッ! ハ~ハッハッハッ!!」「おいチビ~見てるこっちが恥ずかしくなるから止めろ」「丸で体中を縛りつけていた鎖が全て断ち切られた様な感覚・・・・・・遂に忌々しいナギの呪いが解けたぞ~ッ!」両手を上げてガッツポーズを取っているエヴァの元に背中の夕凪をプラプラさせて坂田銀時がけだるそうにやってくる。どうやら長年支配していた呪いがナギによってようやく解呪されたらしい。すぐに万事屋メンツである長谷川千雨と雪広あやかも彼の後ろからやって来た。「子供思考なのも呪いのせいだと思ってましたがどうやら関係無かったようですわね、いつものエヴァさんですわ」「フフフフフ、雪広あやか。今の内に好き勝手ほざいていろ、そしてこれから自分の身に起こる苦痛と恐怖に身を悶えるがいいわッ!」やって来た早々自分に向かってジト目で呟くあやかに、エヴァは不敵な笑みを浮かべながら指を差す。「今までよくも散々子供扱いしてきたなッ! だがそれも今日までッ! 呪いを解けた私の力で貴様を死ぬほど泣かしてやるッ!! 貴様にはそれなりの償いをしてもらわないと私の気持ちがおさまらんッ! 覚悟するがいいッ!」意気揚々とあやかに向かって宣言するエヴァ、今まで彼女にはずっと子供扱いされていた事で相当恨みを抱えていたらしい、だがそんな彼女の両肩を銀時が後ろから強くおさえる。「おいチビ、言っとくけど俺の許可が下りない限り魔法使うんじゃねえぞ」「何ッ! ちょっと待って銀時ッ!」 「だから今も使うな。約束だぞ絶対に忘れんなよ、お前は“俺のモン”なんだからな」「ぐぐぐぐぐ・・・・・・・」確かにちょっと前に彼女は自分の全ては銀時のものだと約束した。しかし納得のいかない表情を浮かべるエヴァはあやかを指さして銀時に抗議する。「それでは私が今からやる『雪広あやかめがっさ昇天劇場』が出来ないではないかッ! 私がどれだけアイツに屈辱を受けていたのかわかっているだろお前もッ!」「もしアイツに魔法でも使ってみろ、お前とは金輪際口聞かねえからな」「く、口聞かないッ!? そんなのイヤだぞ私はッ!」「だったら俺の許可が下りない所でテメーの力を使うな。ガキのお前に魔法なんざ使われたら迷惑極まりねえんだよ」「う~~~~~~・・・・・・・」悔しそうに口をつむぐエヴァ、ようやく解放された力で好き勝手暴れたかったのに銀時にくぎを刺されてはそんな事出来ない。仕方なく力を使うのを諦めたエヴァは恨めしそうにあやかの方にチラッと振り返る。するとあやかは挑発とも取れる笑みを浮かべて「早く私を泣かしてくれませんか? 泣き虫お子ちゃまのエヴァさん?」「う~~~~~うがぁぁぁぁぁぁ!!!」「ええッ!?」あまりの悔しさに目に涙を溜めながら、エヴァは両手を突き出してあやかに突進する。よもや彼女が泣きながら襲いかかってくるなんて想像していなかったあやかは絶句の表情を浮かべた。「あなたどんだけ子供なんですかッ! 恥ずかしくないんですかそんな姿を晒して・・・・・・イタッ!」「うぐ~ッ! うぐ~ッ!」こちらん向かって叫んでくるあやかに向かって、我を忘れているエヴァは飛びかかり、彼女の頭めがけて吸血鬼特有の鋭い牙を光らせそのままガブリと噛んだ。「イタタタタタッ! あ、頭に噛みつくの止めて下さいッ!」「私は子供じゃないッ! 私は闇の福音と呼ばれ人々から恐れられていた偉大なる悪の魔法使いだッ!!」「悪の魔法使いがこんな小学生みたいな真似するわけないでしょッ! 人の目があるんですから離れて下さいッ! 私にまで恥をかかせないでくださいッ!」「うるさい私は正真正銘の不死の吸血鬼、エヴァンジェリンだッ! 銀時を護る牙なのだッ!」「その牙で私の頭やら腕に噛みつかないで下さいッ!」 体中に噛みついてくるエヴァにあやかが痛みをこらえながら怒鳴りつける。エヴァはエヴァ、あやかにとって彼女というのは『本当にイザという時には頼りになるかもしれないけど普段は泣き虫で幼稚なちっちゃな子供、反抗期の娘的な存在』という印象なのだ。「銀さんはどうしてこんな子供と三回もキスを・・・・・・私とは二回しかしてませんのに・・・・・・・」「子供って言うなッ!」「イタッ! もういい加減にしなさいッ!」ため息を突いてぼやいていらエヴァが今度は腕に噛みついてきたので、あやかは遂に完全に怒って左腕に噛みつく彼女の頬を思いっきりもう一方の手でぐに~と引っ張る。「このおチビッ!」「うるひゃい妖怪デカパイ女ッ!」「何やってんだか・・・・・・」レベルの低い喧嘩を始めているエヴァとあやかに千雨は呆れている視線をぶつけていた。「毎度毎度コイツ等も飽きねえよなぁ・・・・・・ん?」一人で呟いている千雨の足元に倒れた二人組が。それに気付いた千雨は不審そうに眺める。「・・・・・何してんだお前等? 大丈夫か?」「フンッ! アンタみたいな人気メガネに同情の言葉なげかけられてもこっちは傷付くだけなのよッ!」「何をやっても人気が貰えない僕達に対して哀れみの目なんけ向けんじゃねえッ! 勝者の目かッ! 勝者の目で見下しているのかッ!?」「いや本当に大丈夫かお前等の頭・・・・・・?」いきなりガバッと立ち上がって自分に向かって叫んでくるハルナと新八に、千雨が素っ気なく返していると、今度は和美が両手を上げたまま彼女に向かって「千雨ちゃ~んッ! 会いたかったよ~ッ!」「うわッ! いきなり抱きついてくんじゃねぇッ!」和美はテンションの赴くままに千雨を強く抱きしめた。それを銀時はボーっとした表情で見つめる。「お前等って全然タイプ違うのに結構仲良いよな」「まあね、私は千雨ちゃんの恋をアシストすると同時に一番の友達だから。千雨ちゃ~ん、銀さんとキスとか出来た~? あと子供出来た~?」「その一番の友達との会話の話がいきなりそれかッ! 出来るか両方ッ! 特に後者ッ!」「私ね~、千雨ちゃんと銀さんの子供をこの手で抱きかかえるのが夢なんだ~」「他人の子供抱きかかえる計画立てる前にまず自分の子供を抱きかかえるプランを練れッ!」ベタベタくっつていくる和美にいつも聞いてくる話しの内容に千雨はウンザリした表情で返す。彼女と会ったらいつもこれだ。(コイツの事嫌いじゃないから別にいいんだけどよ・・・・・・毎度毎度これじゃあ身が持たねえよ)抱きついてくる和美の嬉しそうな顔をチラッと見てそんな事を千雨が考えていると。今度は銀時に向かって走り寄ってくる生徒の姿が「せんせぇぇぇぇぇぇぇぇいッ!!!」大声を上げて銀時に猛スピードで突っ込んで来たのは、彼専用ストーカー、龍宮真名だ。ここに来てようやく会えた銀時に龍宮は雄叫びを上げながら和美の様に両手を水平に上げ・・・・・・「何も言わずに抱いてくれぇぇぇぇぇぇぇ!!! はぬすッ!」バカ丸出しの発言をして襲いかかって来た龍宮の頭に。容赦なく銀時の鉄拳が振り下ろされ、彼女は石畳の床に思いっきり頭から直撃した。「ハァハァ・・・・・・! この痛み・・・・・・・最高だ・・・・・・・!」「もういい加減死んでくんねえかなお前? ホント10円上げるから死んでくんないかな? もうお前を視界に入れるという事だけでこちとらだるくて仕方ねえだよ。おら」「おぐッ!」ヘブン状態に陥っている龍宮を見下ろして教師とは思えない暴言を吐いた後、彼女の頭を思いっきり足で踏みつける銀時。「ストーカー女は一人でもウザくてやってられねえんだよ、あっちにもいてこっちにもいるとかどんだけ俺はストーカーに好かれる性質なんだよ。テメェ等まとめてこの世から消えてくれよ、地獄落ちてくれよ」「もっと・・・・・・もっと踏みながら罵ってくれ・・・・・・! ああ、興奮してきた・・・・・・!ムラムラしてきた・・・・・・! 私をもっと虐めてくれせんせぇぇぇぇぇいッ!!!」「ダメだ銀八、そいつ変態だから何やっても逆効果だわ・・・・・・・」グリグリと頭を踏まれてもなお歓喜の絶叫を上げる龍宮を千雨はドン引きした目で銀時に忠告しておく。まさかここまで彼女の中にあるドM属性が進行していたとは・・・・・・「重症だな、治る見込みなしだわこりゃあ」「千雨ちゃんッ! まさか銀さんに踏まれる龍宮を羨ましく思ってるッ!? ダメだよそっち方向はッ!」「ねえよバカッ! あんな人間として最底辺の人生なんか私はエンジョイ出来ねえッ!」緊迫感のある声で呼びかけて来る和美に千雨がすぐにツッコミを入れていると、銀時に近づくもう一人の人影が「白夜叉、帰って来た途端それか・・・・・・・」「あん?」龍宮を踏みつけている銀時の前に現れたのは先程桂と木乃香の前から去った刹那。銀時は足元にいる彼女のルームメイトを踏んづけながら顔を上げた。「よう、ってお前、右目に包帯巻いてどうした? まさか・・・・・・」「戦いの中で失った、それだけだ」当たり前の様にさほど重要視していない口調で話した刹那に銀時はハァ~とため息を突いた。「そんな短絡的に言うんじゃねえよ、お前目玉片っぽ取れちゃうなんて今後どうするんだよ」「右目が無い状態でも戦える戦い方を身につけるさ」「ふ~んお前にしちゃあ珍しいポジティブ思考だな」「・・・・・・私がいつもネガティブ思考みたいな言い方だな」「あったりめえだろ、ネガティブじゃなきゃ俺をあんな理由で襲わねえよ」「・・・・・・だから傷口に塩を塗るのを止めろ・・・・・・」「塩じゃねえ、俺が塗ってるのはマヨネーズだ、お前の好きな」「どっちでもいいから止めてくれ・・・・・・あと別にマヨネーズは好きじゃない」自分としてはあまり思い出したくない出来事なのにサラッとほじくり返して来た銀時に、刹那がイヤな顔を浮かべると彼の足下で後頭部を踏まれたまま顔面を地面にめり込ませている龍宮がその状態で口を開いた。「先生、刹那はきっと一種の悟りを得たのさ、例え右目を失っても護りたい者を護る事だけが自分の中の一番の幸福だと。私がこうやって先生に踏まれ罵倒される事こそが人生の中で一番の至高の幸せと悟った様に」「お前のと一緒にだけはするなッ! ていうか戻って来い龍宮ッ! まだお前はこっちの世界に帰って来れるッ!」「戻るだと? むしろお前がこっちに来い刹那、お前にはきっと才能がある、天性のドM才能が、その声がお前を物語っている」「あるかッ!」何を根拠に言っているのだと刹那は銀時に踏まれたまま普通に喋りかけて来る龍宮に叫んでいると、銀時はそんな彼女をジッと見た後、何かに気付いたように背中に差してある一本の刀を鞘ごと抜いた。刹那の愛刀であった夕凪だ。「おいさっちゃん、じゃなかったせっちゃん。預かってたもん返すぜ」「今私を誰と間違えたんだお前・・・・・・ってうわッ!!」刹那がジト目で銀時の方へ振り向いた直後にかつて使っていた夕凪が彼女の方に乱暴に飛んで来た。「コ、コレは夕凪・・・・・・・どういう事だッ! これは私がッ!」「もう十分だろ、俺が預かる必要なんかもうねえ」「何・・・・・・?」慌てて両手で夕凪を受け止めた刹那に、銀時は話を続けた。「刀はあるべき所に戻るのが一番だ、そいつはお前の刀、お前が持つべき刀なんだよ」「だが私の腕はまだお前の実力には程遠い・・・・・・」「大事なのは剣の腕なんかじゃねえよ」夕凪を受け取る事に躊躇を見せる刹那に、銀時は口元に小さく笑みを浮かべながら自分の胸を親指で差した。「コイツだ」「・・・・・・・」「オメーはもう俺なんかよりも立派な侍になれる侍だ、だからその刀はテメェに返す。それだけだ」「・・・・・・いいのだろうか、私がこの刀を使って・・・・・・」両手に持つ夕凪を見つめながら刹那がそんな事を呟いていると、銀時は龍宮の上から足を下ろして、踵を返して彼女達とは反対方向に歩いて行く。「いいも何もそいつは元々オメーの刀だろうが、じゃあな、ちゃんとそいつは返したぜ」「あ、白夜叉ッ!」「先生ッ! 延長を頼むッ!」龍宮の変態丸出しの発言も銀時はスル―して、何処かへ行ってしまった。残された刹那はジッと手に持つ夕凪を眺める。「この刀は果たして私が持つべきものだろうか・・・・・・」「おや刹那、こんな所で何やっているのかな?」「お、長ッ!」後ろから呼びかけて来た男の声に刹那は慌てて振り返る。自分が慕っている近衛木乃香の父親であり、自分にとっても親同然の存在である近衛詠春だ。「木乃香を見なかったかい? さっきから何処にも姿が見えないんだ」「お嬢様が・・・・・・・?」「やはり式神ゴキブリ1万匹、式神ハエ3万匹ををあの子の周りに配置しておけばよかった・・・・・・」「止めて下さい、本当に止めて下さい」過保護のあまり恐ろしい事を企む詠春に刹那は真顔で否を唱えた。無論、間違いなく木乃香のトラウマになるからだ。「トイレにでも行かれたんじゃないですか?」「それならいいんだが・・・・・・ん? それは夕凪かね?」「え? あ、はいそうです」娘の行方に頭を悩ましている途中に詠春は刹那が懐かしい物を持っている事に気付く。夕凪、それは刹那が持つ前に彼が昔自分と共に数多の戦を経験した愛刀だ。「私の刀を君に預けて正解だった、君は今回の戦で片目を失ってまでもよく貢献してくれた、心から礼を言わせてもらうよ」「いやその・・・・・・実はこの刀は私はこの戦では使って・・・・・・」「ちょっと見せてくれないかい?」「あッ!」申し訳なさそうに刹那が説明しようとする前に、詠春は彼女の手から夕凪を取る。その何年ぶりかの愛刀の感触に、詠春は思わず顔をほこらばせた。「やはりこの刀は素晴らしい、きっとこれほどの名刀は世に数本あるかどうかだろ。君もこの刀を使える事に誇りを持ちなさい」「は、はい」「どれ、この刀の美しい刃でも久しぶりに見てみるかな・・・・・・・」詠春は鞘におさまる刀身を見ようと鞘を手に持って抜こうとする。そして次の瞬間。ポンと鞘を抜け、そこにはポッキリと折れ、ちょびっとしか残っていない刀身が現れた。きっと今なお綺麗で刃こぼれ一つない刃を拝めると思っていた詠春はこの光景に時が止まった様にフリーズする。刹那も何故夕凪の刃が無いのか混乱している様子だ。「こ、これはどういう・・・・・・ま、まさか白夜叉ッ! アイツこの刀をッ!」「・・・・・・説明してもらえますかな刹那?」「へッ!?」「私の愛刀をこんな無残な格好にさせた経緯を私が知りたいのだが?」「ち、違いますッ! これは私がやったんじゃなくてッ!」完全に疑っている目つきで睨みつけて来る詠春。神鳴流最強の剣士と謳われていた彼の凄みのある眼力に刹那は怯えながらも必死にわけを説明しようとする。だが愛刀を折られて怒りに満ち溢れている詠春は彼女の話をハナッから信じようとしない。「なるほどこの私の前でしらばくっれるのですか、侍の風上にも置けませんね」「えぇぇぇぇぇぇ!! 本当にコレは違うんですッ! 私じゃなくて白夜叉がきっとやったんですよコレッ! 夕凪を折ったのは私じゃなくて白夜叉ですッ! 私は悪くありませんッ! 悪いのは全部白夜叉なんですきっとッ!」まだ自分がやったんじゃないと連呼する刹那に向かって詠春はギロリと目を向ける。「こんの駄鳥がぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」「うごッ!」問答無用に夕凪の鞘で刹那の頭を兜割りする詠春。その痛みに怯んだ刹那をすぐに足払いして倒し、馬乗りになって昨日の時の様に拳によるラッシュをかけまくる。「私の刀をよくもポッキンしやがったなァァァァァ!!! 右目を取って政宗様気どりかッ!? なれるわけねえだろこのカスがッ! ボケがッ! チキンがッ! 家畜にも劣るクソドリがァァァァァァ!!!」「いぎッ! おづッ! ほ、本当に私じゃないんですッ! ばさらッ!!」キャラが激変して本能のまま殴りつけて来る詠春に刹那は涙ながらに訴えるも返事は鉄拳による制裁のみ。そんな光景を龍宮は真顔で地面の上で寝転がった状態で眺める。「こういうシチューションで私も先生とやってみたいものだ、フ、考えただけでムラムラしてきた」「気持ち悪い事言ってないで助け・・・・・・なぐッ!」「とっとと死にやがれッ! 死んだ後は焼き鳥にして式神ゴキブリのエサじゃボケェッ!」アホな事を言っている龍宮に刹那は必死に助けを求めようとするも、詠春のフルボッコタイムは止まらない。ちなみに実際の所夕凪を折ったのは刹那じゃなくて銀時である。その銀時はというと、今は集団から少し離れた所にある人目の付かない茂みの中をザッザッと草根を踏みながら歩いている。その訳とは「もうそろそろツラ出してくれてもいいんじゃねえか?」誰かに尋ねる様に銀時が呟くと、彼の背後にある一本の木の裏からある少女がピョコンと顔を出した。詠春が探していた彼の娘である木乃香。「えへへ、やっぱバレてたん?」「俺がここに来た時からずっと俺の事をつけてただろ? フラグか? 遂に俺はお前のフラグも立てちまったのか? どうしよう俺、さすがに4人は無理なんだけど?」「そんなんちゃうって~」可愛らしく舌を出す木乃香の方に銀時は冗談を言いながら振り返る。木乃香は笑い飛ばした後すぐに思い悩んだ表情を浮かべて、銀時を前にして何を言おうかと躊躇する。「え~とな・・・・・・・その・・・・・・・」「俺の周りに他のガキ共がいると聞けなかったモンでもあるのか?」「ああ、やっぱ銀ちゃん鋭いなぁ・・・・・・」銀時の推測はズバリ的中だった。木乃香は彼に向かって苦笑した後、彼に向かって歩きながら思い切って尋ねてみる。この先の彼の道を「銀ちゃんは・・・・・・これからどうするん?」「・・・・・・」もし桂が言っている事が正しければ・・・・・・・。しかし木乃香の頭の中ではもっと別の答えを期待していた。この世界に残って生徒達と一緒に楽しく暮らすと・・・・・・不安そうに見つめてくる彼女の目を、銀時はまっすぐに見据えたまま口を開いた「帰る」表裏も無い銀時のまっすぐな言葉がその茂みの中で静かに木乃香に聞こえた。「俺は元々あっちの世界の人間だ、あっちにはこんな俺でも待ってくれる奴等がいるからよ、だから帰らなきゃいけねえんだ」「そんな・・・・・・・それじゃあ万事屋のみんなはどうするん・・・・・・」ショックで震える声を必死に抑えながら喋る木乃香に向かって、銀時は頬をボリボリと掻きながら答えた。「・・・・・・・ここに置いてくに決まってんだろうが」「!!」「あいつ等まだ学生だからな、あやかと千雨には家族もいるし。そう簡単に江戸に連れて言っちゃマズイだろ、だから俺は一人で帰る」「何言ってるんッ! あの三人がどれだけ銀ちゃんの事を好きかわかってんのッ! それに生徒の私達を置いてどっか行っちゃうなんてあんまりやッ!」素っ気ない態度で簡単に言う銀時に木乃香は腹が立ったのか珍しく声を荒げて叫んだ。だが銀時はなだめるように彼女の頭をポンと手を置く。「俺があっちへ行ったらこっちに戻って来ないとでも思ってんのか?」「・・・・・え?」「まず俺が江戸に戻ったらそうさな・・・・・・・かぶき町の奴等の場所回って伝えることだけ伝えとかねえとな」木乃香の頭から手を離した後、銀時はある“一定の方向”に話しかける様に口を開いた。「ちょっくら遠い所行って来るからしばらくここに帰って来れないってな」「銀ちゃんそれって・・・・・・!」「あっち行ったらまずはご近所周り、そん次は真撰組の奴等に頼んでここの世界に戻ってくる。けどな、言っとくけど俺はここに墓作らねえぜ」ニヤニヤ笑いながら銀時は木乃香の方に向き直った。「俺がここにいる期間はお前等が卒業するまでだ、それまではお前等ガキ共と付き合ってやる、光栄に思えよコノヤロー」「そうなんや・・・・・・・よかった、もう銀ちゃんと一生会えへんかと思った・・・・・・」「あ~あ、最初はお前等みたいなガキ共なんざと教師ごっこするなんてやってられねえって思ってたのによ・・・・・・」踵を返してその場に木乃香を残して立ち去りながら、銀時はまたある方向を見つめたまま口を開いた。「今じゃ教師ごっこも悪くねえなって思うんだよ、お前等見てると・・・・・・・」そう言い残すと銀時はまた来た道を戻って他のみんながいる所へ行ってしまった。それを満足そうに笑ったまま木乃香見送ると。銀時が何回か視線を送った方向へ話しかけた。「よかったなぁみんな、銀ちゃんあっち行ってもすぐに帰って来るって」そう言った瞬間、木の裏からボロボロと数人の人影が「あ~あ、絶対銀八にバレてたよ私達・・・・・・・なんでアイツあんなに鋭いんだよ、恋愛には鈍感のクセに・・・・・・いやそれは私もだけどさ・・・・・・・」「エヴァさんが泣いたからいけないんですわよ、まったく耳元でメソメソして・・・・・・」「だ、だってアイツ帰っちゃうんだぞ~? 短期間といはいえ私を置いて行っちゃうんだぞ~?」「我慢しようよエヴァちゃん、すぐに帰って来るって言ってたんだからさ・・・・・・」木の陰から次々と盗み聞きしていた万事屋が出てきた。千雨とあやか、涙目になっているエヴァ、そんな彼女をなだめる和美。4人の生徒が仲良く話している姿を眺めた後、木乃香は笑みを浮かべながらまた銀時が去った方向へと目を向けた。「いつになるかわからんけど、この子達をちゃんと連れ帰ってあげて