この戦いの元凶の一人である天ヶ崎千草を倒した銀時達。そして今度は千草の最期の駒、リョウメンスクナノカミを倒す時が来た。「大将ッ! あのバケモンがあの二人に引きつけられている隙にこちらに体を思いっきり見せちょるッ! 撃つなら今じゃッ!」湖の上で銀時とナギがスクナに近づいて攻撃を避け続けているのを見て、珍しく陸奥が声を荒げて自分が背中を支えてあげている坂本の方へ叫ぶ。彼女と一緒に坂本の背中を支えているネカネも額から汗をかきながら、彼の方へ顔を向けた。「こんな距離から狙撃するなんて大丈夫なのッ!?」「こういうのは感覚でやるもんじゃッ! 陸奥ッ! ネカネさんッ! わしの体が動かんようにしっかり支えてくれッ!」「ええッ!」「気張るんじゃぞ大将、ここで外したら全ての計画が塵と消えるけえの」「そん時はそん時じゃッ! アハハハハッ!」力強く返事をするネカネと警告してくる陸奥に坂本は豪快に笑った後、グッと持っているリボルバー型の銃を握り、標準を合わせる。『山崩し』、山一つを楽に消し飛ばせるほどの威力を誇るこの銃ならスクナの弱点であるコアの箇所を破壊できるかもしれない。「ハロがいれば楽なんじゃがの・・・・・・」「アレはずっと前におんしが地球のキャバクラで、店の女に酒のノリであげてしまったじゃろうが」「アハハハッ! そうじゃったのッ! 元気にしとるかのハロはッ!」意味深な会話をする坂本と陸奥にネカネは口をへの字にして首を傾げる。「何を話してるんですかあなた達・・・・・・」「わかる人にはわかる、わからん人にはわからん話じゃ」「は?」ますます意味のわからない発言をする陸奥にネカネが混乱し始めていると、坂本は銃を両手で構え、サングラス越しに目を鋭く光らせながら暴れているスクナの心臓部分に狙いを定める。「この長う戦もコレで終わりじゃ・・・・・・」まばたきもせずに坂本はキッとスクナを睨みつける。そして「捉えたぜよッ!」坂本はターゲットが絶好のポイントに入った瞬間。一切の躊躇も見せずに引き金を引いた。その頃、銀時をおぶっていたナギはというと暴れまわりながらビームを乱射してくるスクナの攻撃を避けるのに必死だった。「うおッ! マジで今のはヤバかったッ!」「オメーしっかり避けろよッ! オメーがミスったら俺もおっ死ぬんだぞコラッ! テメェと仲良くあの世行くなんざ俺はゴメンだからなッ!」「うるせえな俺だってテメェなんかと一緒に死にたくねえよッ! つうかテメェ少しはおぶられている事に感謝し・・・・・・」自分の背中にしがみ付きながら抗議してくる銀時にナギが反論しようとした瞬間。「ゴォォォォォォォォォォォォ!!!!!」「ん? ってオイッ!なんだよアレッ!」「・・・・・・」突然スクナに胸に黒く巨大な稲妻が周り一帯に響き渡る様なド派手な音を立てながら直撃する。ナギはその光景を見て驚くが銀時はその稲妻が飛んできた方向に目をやる。数百メートル先で稲妻が放たれている山崩しの衝撃に歯を食いしばって耐えていると坂本と、それを懸命に支えるネカネと陸奥の姿が。「やるじゃねえか」遠くにいる三人を見てニヤッと笑った後、銀時はすぐにスクナの方へ顔を戻す。当たった箇所は狙い通りの心臓部分。山崩しの稲妻は雄叫びを上げるスクナの体に徐々に食い込んでいき・・・・・・「ゴガァァァァァァァァ!!!!!」心臓のある箇所で大きく爆発した。鬼神と言われ恐れられていたスクナもこの攻撃には顔と両手を上げて悲鳴を上げる。そしてすぐにナギと銀時の方にも強烈な爆風と爆音が襲いかかった。「くッ! すげえなコレッ! 落ちるなよッ!」「俺の事はいいからさっさとアイツに近づけッ! 最後の鉄槌をかましてやらねえとッ!」「ああ、わかってるぜッ!」向かってくる爆風に耐えながらナギは銀時を背中におぶったままスクナの方へ突っ込む。山崩しの直撃を受けたスクナはその場で口を開けたまま硬直、心臓の部分には巨大なクレーターが出来上がっていた。そしてスクナの体の中にある“アレ”が、出来上がったクレーターから大きく露出している。金色の光を放ちダイヤモンドの様な輝きを放つ2Mぐらいの球体。ナギと銀時はそれを見て確信する。「アレがコイツの動力源の“コア”か・・・・・・!」「ここまで“モロ見え”だと全然ありがたみ感じねえよ、オイ」「あん?」軽い冗談を言いながら、銀時は自分をここまでおぶってくれたナギに後ろから話しかける。「相棒、俺をあそこまで正確に投げれるか?」「やれって言うんなら簡単に出来るぜ」「じゃあいっちょ頼むわ」「あいよ」銀時の尋ねられた事にナギは快く返事をすると、すぐにおぶっている銀時の方に手を回して彼の胸倉を掴み。投げる態勢に入る。「全力でぶん投げるぜ、その勢いを生かしてあのコアを派手にかち割ってくれよな」「あったりめえだ、俺達十一人分の一撃。目覚めの悪い鬼にかましてもう一回寝かしつけてくる」最後の確認を取った後、ナギと銀時は数秒間制止したまま、動かなくなっているスクナを見据える。そして「コイツでッ!」「しめぇだァァァァァ!!!」背負い投げの用法でナギは全力で銀時をスクナのコアのある穴に向かって弾丸の様にぶん投げる。背中に差す野太刀、夕凪を抜きながら銀時は一気にコアの眠る穴に入っていき・・・・・・「チェストォォォォォォォォ!!!!」「グッ! グガァァァァァァ!!!!!」銀時の持つ夕凪が遂にスクナのコアを突き刺さったのであった。「ガァァァァァ!! ガァァァァァァ!!」「ぐぬッ! 動くんじゃねえコノヤローッ!」生命原であるコアを傷付けられた瞬間、スクナが意識を取り戻して銀時がコアに刀を刺してる状態で大暴れする。だが銀時は振り落とされない様、スクナの体に出来ている穴に両足を置いてふんばった。そしてそのまま夕凪をコアの内部に突き進ませていく。「さっさと壊れやがれェェェェェェェ!!!」「グオォォォォォォォォ!!!!」叫びながら銀時は夕凪をどんどんコアに突っ込んでいく。しかし「!!」ガキィン!という音を立てて突然夕凪が鞘から真っ二つに折れたのだ。元々は近衛詠春の刀であり、そこから刹那へそして銀時の元へやってきた刀だが、数多の激しい戦いのせいで遂に天寿を全うしてしまった様だ。だが銀時は一瞬驚いた表情をするもすぐに鞘だけになった夕凪を腰に差して、代わりになる“得物”を抜く。銀時の愛刀である木刀『洞爺湖』「押し込んだらァァァァァァ!!!!」刀身のみ残りコアに刺さっている夕凪に向かって銀時は洞爺湖でそれを一気に押し込んだ。銀時の意志に応えるかのように、折れた筈の夕凪の刃がみるみるスクナのコアの内部へ入っていく。「ゴガァァァァァァァ!!!!」「こんな所でくたばるわけにはいかねえんだよ・・・・・・!」耳をつんざくようなスクナの悲鳴を聞きながら、銀時は歯をむき出して木刀をぐっと力を込めて握る。「グオォォォォォォォ!!!!」「アイツ等残してッ! 死ぬわけにはいかねえんだコラァァァァァ!!!」夕凪と洞爺湖、二つの刀が力を合わせた攻撃にコアにヒビが入っていく。ピシピシと聞こえる鈍い音を聞いて銀時は全ての力を降り注ぐ。そして「万事屋銀ちゃんはッ! 永遠に不滅だァァァァァァ!!!!」雄叫びを上げながら銀時は木刀を最後の押し込んだ瞬間。リョウメンスクナノカミの生命原であるコアがガラスの様に弾け飛んだ。その瞬間、銀時は破壊したコアの衝撃波で後ろに思いっきり吹っ飛ぶ。「うおッ!」「グオォォォォォォォォォォォ!!!!!」最期の雄叫びが如く力の限り吠えるスクナの咆哮を聞きながら銀時は湖へまっさかさまに落ちていき・・・・・・「ぐぼッ!」頭から水の中に突っ込む、それと同時にスクナも巨体を両手を広げて後ろに大きな音を立てて倒れた。遂に銀時達は敵の切り札であったリョウメンスクナノカミを倒したのだ。しかし銀時は勝利に浸っている暇は今は無い。何故なら彼は・・・・・・「がはぁッ! え?ちょッ! ここ深ッ! 足届かねえじゃんッ! やべぇ死ぬッ! 溺れ死ぬッ! ヘルプッ! ヘルプアンドコミュニケーションッ!!」湖の中でバシャバシャと手を動かしながら銀時はパニックになりながら助けを求める。しばらくしてナギが空から降りてきて彼の方に手を差し伸べた。「泳げねえのかよお前ッ!」「がはッ! がはッ! あ~死ぬかと思った・・・・・・・」ナギの手をすぐに掴んだ銀時は、息を荒げながらようやく安堵の表情を浮かべた。「終わったのか・・・・・・?」「お前が終わらしたんだろうがカナヅチ・・・・・・ったく、ぶっ倒れたスクナの上に下ろすぞ、そこで休んどけ」「ん? ああ、てか誰がカナヅチだコラ」水びだしになって疲れている表情を浮かべている銀時はナギに悪態を突いた後。彼にそのまま運ばれて大の字で倒れているスクナの上に来ると自分で飛び降りた。「コイツもう動かねえよな・・・・・・」「心配あるめえよ、このままずっと放置してたらコアが再生して蘇るかもしれねえが、詠春の奴がコイツをまた元通りに封印し直してくれるだろうし」「そいつは良かった、俺はもう二度とこんなバケモンと戦いたくない」「俺から見ればお前の方がバケモンだ、鳳仙倒したのってお前だろ?」スクナの右足部分にドカッと座って休んでいる銀時にナギが尋ねると、銀時は口をへの字にしてだるそうに口を開いた。「あんなんただの袋叩きだ、今俺達がやった事と変わんねえよ、俺だけの力じゃどうにもならなかった」「お、意外に謙虚な所があるんだなお前」「うるせえよ」無愛想な表情で突っ返してくる銀時にナギはケラケラと笑い飛ばす。なんとなくだが銀時という男がどういう人間なのかわかってきた。そしてナギは彼へ背中を見せて歩きだす。「お前はそこで休んでろ、今度は俺が戦う番だ」「何? なッ!」「・・・・・・お前にだけいいカッコさせられねえよ」座った状態のまま銀時はスクナの頭部に立っている“ある人物”に目を見開いた。ナギは“彼”に向かってコツコツと足音を立てて行きながらスクナの体の上を移動する。腹の部分にナギが到達した瞬間、その男は頭部から降りてこちらへ歩み寄っていく。「くだらん余興は楽しかったか、ナギ・・・・・・?」「やれやれ、まさかラスボスが実の息子なんて悪い冗談だぜ・・・・・・」見た目は正真正銘自分の息子。だが中身は死してなお自分の家族を引き裂く暴君。夜王ネギ、口元に笑みを浮かべる息子を目の前にして父親であるナギは乾いた声で笑った。本当の最終決戦はここからなのだ第七十一訓 その長き続く因縁に終止符を下ろせ銀時達のいる山の頂から少し下山した場所。春雨の幹部、神威と闇の福音、エヴァンジェリンは未だ戦いを行っていた。「まさかここまでタフだとは思わなかったな・・・・・・」「ハハハ、こんな長い戦い久しぶりだネ」「まだ疲れの色も見せないか・・・・・・・私と渡り合えるなんてコイツもかなりのチートだな・・・・・・・」楽しげに笑っている神威に向かってエヴァは呆れたようにため息を突く。さっきまでずっと一進一退の攻撃を繰り広げて来たが。エヴァの魔法は神威にかすり傷程度しか作れず。神威の攻撃を食らっても吸血鬼のエヴァはすぐに肉体再生。終わりの見えない長い戦いがずっと続いていた。「すげえなコレ・・・・・・コレが銀八がいつも見ている“世界”か・・・・・・」「戦いの世界・・・・・・あの人も今頃・・・・・・」静かに対峙している神威とエヴァに顔を向けながら。二人の戦いをずっと観戦していた千雨とあやかポツリと呟き、山の頂の方へ顔を上げる。すると山の頂にあった光が突然フッと消えた。「あれ? 何があったんだ?」「光が消えましたわね・・・・・・・銀さん達に何かあったんでしょうか」「むしろ光ってた事自体異常だったからな・・・・・・・その光が消えたとすると・・・・・・」「光を出す存在が無くなったという事じゃな」山の頂に目を凝らして眺めている千雨とあやかに向かって後ろから彼女達と一緒にここに残ったアリカが冷静に口を開く。「もしかしたら銀時とナギがスクナを倒したのかもしれん」「マジかよッ!」「てことは銀さん達が高杉さん達に勝ったんですわねッ!」「俺がどうしたって・・・・・・・?」「「「!!」」」アリカの話を聞いて千雨とあやかが表情をほころばせていると、突然低い声がこちらに向かって聞こえて来る。千雨とあやか、そしてアリカが慌ててそちらに視線を向けると。「なんか聞こえると思って来てみたら・・・・・・・女子供がこんな所でなにうろついてんだ・・・・・・」「高杉晋助・・・・・・・! 貴様何故こんな所に・・・・・・・!」「えッ! この人があの・・・・・!」「高杉・・・・・・てことはコイツが銀八と戦っている相手の親玉・・・・・・!」妖艶な女性の着物を着飾り左目に包帯を巻く一人の男。そして両腕には赤髪の女の子を抱えている。銀時達が最も倒さなければいけない男、高杉晋助がニタリと笑みを浮かべながら茂みの中から現れた。高杉は驚く三人に一瞥した後、ふと神威とエヴァの方へ目を向ける。「神威、どうやら鬼神はやられちまったようだぜ」「あり? もうやられたの? つまんないなぁ」笑顔のままそんな事をぼやく神威に高杉は両腕に赤髪の少女、アーニャを抱えたままフッと鼻で笑う。「拍子抜けだぜ全く。最強の鬼神だと聞いたから協力してやったのによ、結局は俺には必要ねえモンだった様だ」「ふ~ん」「貴様は高杉か・・・・・・」「ん?」神威と話している最中、突然鋭い口調で話しかけて来る声が聞こえたので高杉はそちらに目をやる。神威の相手をしているエヴァが目を細めてこちらを睨みつけていた。「桜咲刹那の一件以来だな・・・・・・・」「・・・・・・銀時にくっついてた吸血鬼か」見た目からは到底思えないほどの威圧感を放ってくるエヴァに高杉は笑みを浮かべたまま見据えると、彼女は彼が両手に見知らぬ少女を抱きかかえている事に気付く。「なんだそのガキは? そんなガキが貴様の仲間か?」「テメェには関係ねえ事だ」「フン」素っ気なく返してくる高杉にエヴァは意地の悪い笑みを見せた。「成程、貴様にもそういうものがあるのか・・・・・・・」「くだらねえ推測してんじゃねえ、コイツにはまだ利用価値があるから生かしておいてやってるだけだ」「そうだったんだ、俺はてっきりアンタはその子の保護者かなんかだと思ってたよ、アンタはいつもその子と一緒だったし・・・・・・・」「あ・・・・・・?」会話に割り込んで来た神威の方に目を動かして睨みつける高杉。自分とアーニャはそんな関係では無いとその目がものがたっている様だった。神威は高杉に目を開いてニヤッと笑った後、ゴソゴソとポケットからある物を取り出しエヴァの方へ振り向いて“それ”をポイと彼女の目の前に投げ捨てる。アリカの首に付いている首輪型の爆弾を取り外す為に必要な鍵だ。「悪いけど俺は行かなきゃいけない場所がある。もう十分楽しかったしそいつはあげるよ」「ん? なんだこの鍵?」「じゃあネ」「っておいッ! 何処へ行くつもりだッ! まだ私と決着をつけてないだろッ!」さっきまで好戦的に戦っていたにも関わらず、急に自分との戦いを放棄して何処かへ行こうとする神威にエヴァは慌てて叫ぶ。すると神威はいつも通りにニコニコした表情で振り返り。「鬼さんが死んじゃったら後は“あの人とあの子”があの男と戦う番だ。俺にとってそれだけは見逃せない」「あの人とあの子・・・・・・・?」「君と戦えて楽しかったよ、それと・・・・・・」首を傾げているエヴァに向かって笑いかけた後、チラッと神威はアリカの方へ目を動かす。「アンタに一つ教えて上げる」「なんじゃ・・・・・・・貴様などと喋りたくないから手短に言え・・・・・・」物凄い不機嫌そうな表情をするアリカに神威はフフンと笑う。「これから起こる戦いを、アンタは絶対に立ち会わなきゃいけない」「・・・・・・どういう意味じゃ・・・・・・?」「父親の力だけじゃあの子を救う事は出来ない。母親のアンタも必要なんだ」「・・・・・・」意味深、そして不可解な事を言う神威をアリカはジッとみる。一体この男は何を考えて・・・・・・「神威、貴様は何を企んでいるのじゃ・・・・・・? お主の目的はあの子を利用して夜王鳳仙を復活させる事だけじゃなかったのか?」「俺はハナっから一つの目的をやり遂げる事しか考えていない」目を見開いて神威は不敵に笑う。「どんな事をしてでもあの子を強くさせる事、俺がやりたいのはそれだけだ」「あの子を一度殺す事もか・・・・・・」「必要だったから、『死』を覚えればあの子は己の限界を超えて新しい力を手にいれられる。屈強なる強さを求めるならそれ程の代償を払わないといけない。ただ戦い方を教わって手に入れる強さなんてたかが知れているだろ? 『与えられる』より『奪い取る』ってネ」「・・・・・・成程、それが貴様の持論じゃったか・・・・・・馬鹿げていて言葉も出てこない」「わかってもらわなくていいよ、俺は俺のやり方、俺の育て方がある」そう言って神威は呆れた目つきでこっちに視線を向けるアリカに手を振った後、山の頂の方へ踵を返した。「俺は先に行ってるよ、あの男の戦いも見たいからネ、鳳仙の器となったあの子とどう戦うか見ものだ」「神威ッ!」「ちゃんと来てよネ、“お母さん”?」無邪気に微笑みながら神威は茂みの中へ飲み込まれるように行ってしまった。残されたアリカは呆然と彼が行った方向を見送る。「わらわには理解出来ない・・・・・・奴がそこまでしてあの子を強くさせようとする事が」うつむきながら小さな声でアリカが呟いていると、傍から気味の悪い男の笑い声が。「・・・・・・じゃあ俺はそろそろ帰るとするか、こんな所にいても時間の無駄だしな」「高杉・・・・・・」「そのガキ共と一緒にいる所から見て、どうやらテメェは春雨から手を切ったらしいな。ま、見逃してやるよ、お前さんへの興味はもうねえからな・・・・・・」目の前にいるアリカに向かって高杉は相変わらずの不気味な笑みを浮かべる。もはや彼女の存在など眼中にないらしい。「神威からお前の事を聞いたからわざわざここに呼んでやったのに、テメェは飛んだ期待外れだったぜ・・・・・・」「貴様の様な獣に期待を持たれても嬉しくもなんともない」「クックック・・・・・・そうかい」キッパリと宣言して睨みつけて来るアリカに高杉はニヤニヤしながら視線を返す。神威もそうだがこの男の考えもわからない・・・・・・アリカがそう肌に感じていると、高杉の方は千雨とあやか、そしてさっき神威が投げ捨てた鍵を拾って首を傾げているエヴァの方へ振り向いた。「こんな奴等連れてきてもただの足枷にしかならねえ、銀時は相変わらずバカだなぁ」「お前があいつの何を知ってんだよ・・・・・・」「あ?」「千雨さん・・・・・・!」嘲り笑いを浮かべ自分達をただの『足枷』と称して来た高杉に、あやかの制止を振り切って千雨が目をキッとさせて睨みつける。「お前がアイツの幼馴染だとか戦友だったとかどうでもいいんだよ、コレ以上アイツに近づくな。今アイツの隣にいるのは私達なんだよ」「クックック・・・・・・コイツは傑作だぜ」「お前・・・・・・!」「千雨さん落ち着いて・・・・・・!」笑い飛ばされた事に腹が立った様子で、千雨は思わず彼に一歩歩み寄ろうとするもあやかが慌てて彼女の肩を持って止める。すると高杉は笑うのを止めて千雨の方へ顔を上げた。「何も知らないクセに調子乗るんじゃねえよガキ」「!」「幼馴染だとか戦友だとか、そんな言葉で表せられるようなモンじゃねえんだよ俺達は」さっきまでの不気味な笑みから一転して禍々しい眼光を光らせる高杉。それと共に伝わって来る殺気。千雨はそんな彼にゾクッとする恐怖感を覚える。「アイツの隣にいるのがお前等だ? バカも休み休み言え、アイツの隣にいるのは今も昔も変わっちゃいねえ。アイツの隣に立っているのは・・・・・・“あの人”ただ一人だ」「あの人・・・・・・?」あの人を知らない千雨はそれを聞いて眉をひそめる。するとあやかは顎に手を当てながら前に銀時と二人でファミレスで聞いたある男を思い出した。「もしかして・・・・・・親がいなかった銀さんを拾って育ててくれた人ですか・・・・・・?」「・・・・・・テメェ何処でそれ知った?」「前に銀さんと一緒にいる時に話がチラッと、詳しくは言いませんでしたが・・・・・・」「フン」恐れながらも面と向かって口を開いたあやかに、不機嫌そうに高杉は鼻を鳴らした。「それ以上余計な詮索すんじゃねえぞ、お前等如きが知っていいお人じゃねえんだ」「ほう、獣のお前でも敬意を払う人間がいるのだな」高杉の態度から見て『あの人』とは銀時はおろか彼にとっても大切な存在らしい。それを察知したエヴァは、彼に対して何の恐怖も感じずに嘲笑を浮かべる。「あの銀時を拾った人間か・・・・・・フフ、一体どんな奴だったか興味深いな。ま、あの男を育て上げたのだから相当の人間、もしくは変わり者なのだろうな」「・・・・・・・吸血鬼」「私の名前はエヴァンジェリン・A・K・マクダウェルだ」吸血鬼とだけ呼称された事にムッとした表情でエヴァが自分の名前を名乗ると、高杉はギロリと彼女を睨みつけながらニタリと笑う。「・・・・・・ここで死にてぇのか・・・・・・?」「!!」今までのとは比べれらい程の殺意が向けられた事にエヴァの表情はこわばる。神威の放つ殺気とは違う、こちらの方は禍々しく、そしてドス黒い。常人の人間なら向けられただけでその場で崩れ落ちる程の威圧感さえ覚える。(私が吸血鬼と知っていてもなお、この男は絶対に殺せるという自信を持っているのか・・・・・・)自惚れでも虚勢でもない。本当に自分を殺そうとしている鋭い眼光。何百年も生きて来たエヴァでさえそんな男に言葉が出なかった。しばらくして高杉はアーニャを両腕に抱きかかえながら自分の着物の裾から突然おかし物を取り出した。野球ボールぐらいのサイズであり、機械物が所々に付けられた鮮やかに輝く蒼色の石・・・・・・・「お前等と会話していても時間の無駄だ。俺はとっとと退散させてもらうとするぜ」「なんだそれは・・・・・・?」今まで見た事のない物体にエヴァが不審そうにそれを眺めていると、アリカはボソッと小さな声で高杉に尋ねる「もしや・・・・・・春雨の『物体転移装置』か・・・・・・・?」「御名答・・・・・・さすが春雨の幹部だな・・・・・・」「物体転移装置?」「わらわも詳しくは知らんが・・・・・・現実に存在する場所、そこに行きたいと念じるだけでその場所に転移出来る装置じゃ」「んなッ!? そんなモンがこの世に実在するのかよッ!」アリカの説明を聞いて千雨が仰天する。そんな漫画やアニメの世界にある様なアイテムが実在するだと?「わらわもなんでそんな高性能な物が春雨が持っているのかわからん・・・・・・何故かは最近、春雨はまるで遠い“未来”から来たような高度な文明の物を数多く所持するようになったのじゃ・・・・・・」何故春雨があらゆる場所を自由自在に行けるという“遠い未来からの贈り物”の様な物を所持しているのかは、春雨の幹部であるアリカでさえわからない。高杉はそんな彼女達の反応を見て満足げに笑うと踵を返してアーニャと共に何処かへ行こうとする。「コイツのおかげで俺は何処へでも逃げれるってこった。お前等、銀時によろしく伝えておいてくれ、今度は俺達にもっとふさわしい舞台で派手に暴れようぜってな」「待てッ! 銀時にとって一番の障害である貴様を逃がすわけにはいかんッ!」「クックック・・・・・・」「おいッ!」歩き去ろうとする高杉に向かってエヴァは慌てて彼に近づいて手を延ばすも。高杉は笑い声を残しながら煙の様にフッと消え、エヴァの手はスカッと空を切るだけだった。「逃がしたか・・・・・・・くッ!」「・・・・・・・あんな奴が銀八の・・・・・・」みすみす逃がしてしまった事にエヴァが悔しそうに地面を蹴ッ飛ばすと、千雨は歯がゆそうに呟く。一般人の自分でもわかる、あの男は危険過ぎるのだ。だがそんな二人とは違い、あやかはある一つの事に疑問を抱いていた。「あの人が両腕に抱き抱えていた女の子は一体何者だったのでしょう?」「高杉によって狂気と憎しみに染まってしまった哀れな少女じゃ」「・・・・・・・それってどういう意味ですか?」尋ねて来たあやかにアリカは山の頂へ目を向けながらそっと話しかける。「あの男は人の心を操るのが長けている。親を失った少女一人を洗脳して自分の道具にする事など容易であろう」「そんな・・・・・まだあんなに小さい子でしたのに・・・・・・」「情もクソもあるわけなかろうあの男に、例え女子供であろうが利用できる者は徹底的に利用し、使えなくなったら即斬り捨てる。それが高杉晋助、人の皮を被った獣じゃ」「ひどい・・・・・・」高杉の話を聞いてあやかは酷く悲しそうな表情うつむく。あの少女も、ただ彼に利用されているだけの存在なのだろうか・・・・・・?あやかがそんな事を考えていると、突如アリカが彼女達三人の方へ顔を向けた。「それでお主等はこれからどうするのじゃ? ここで銀時の帰りを待つか? それともわらわと共にあそこへ行くか?」そう言ってアリカは山の頂を指差す。あそこにはきっと銀時達やナギもいる。「神威の言う事を聞くのは非常に癪じゃがわらわはあそこへ行く。夫と息子があそこで待っているのじゃ、妻として母親としてわらわも行かなければ」「私も一緒に行く、ここで銀八の帰りを待ってるなんて苦痛以外の何物でもねえからな・・・・・・」「私も行きますわ、銀さんがあそこにいるんですもの。エヴァさんももちろん一緒に行きますわよね?」「・・・・・・・」「エヴァさん?」アリカの誘いに千雨は髪を掻き毟りながらだるそうに呟く。あやかも彼女と一緒に頂きへ登る事を賛成し、後ろにいるエヴァに振り返って話しかけるが、彼女は持っている黒い鍵を手でクルクル回しながらジーっと見て聞く耳持たずだった。「何故あの男は私にこんなものを差し出したのだ? 一体何の鍵なのだこれは?」「何やってるんですかエヴァさん、それは彼女の首輪を外す為の大事な鍵ですわ、変にいじらないで下さい、壊れたらどうするんですの」「貴様は相変わらず腹が立つな雪広あやか、いつ貴様は私のお母さんになった・・・・・・で? 誰の首輪を外すというのだ?」刺々しいあやかの言い方にエヴァがブスっとした表情で睨んだ後、鍵をブラブラさせたまま口を開く。するとアリカが少し手を上げたまま彼女に近づいて行った。「ああ、わらわじゃ。礼を言うぞエヴァ、お主がいなかったら神威から鍵を奪えなかったかもしれんからな」「ん?」「どうした?」やってきたアリカを見てエヴァは思いっきり怪訝そうに彼女を見つめる。そんな彼女の態度にアリカが首を傾げていると・・・・・・「何故アリカ・スプリングフィールドがこんな所におるのだ・・・・・・?」「・・・・・・・まさかお主、わらわとずっと一緒にいたにも関わらず気付かなかったのか・・・・・・?」「うむ、乳のデカイ女がいるという気配はあったのだがな」真顔のままそんな事を平気で言うエヴァにアリカはハァ~と重いため息を突いた。「昔から何も変わっておらんの・・・・・・・」「うむ、私はいつだって私だ」誇らしげに胸を張るエヴァにアリカは言葉も出ない。数十年ぶりに出会った吸血鬼は肉体的にも精神的にも全く変わっていない様だったエヴァやアリカ達が山へ登り始めた頃、その頂上では今まさに因縁の戦いが始まろうとしていた。銀時達がやっとの思いで倒したスクナの上に立つのはナギと、その息子のネギの体を奪っている夜王鳳仙だ。それを近くの岸で他のメンバー達と一緒に眺めていた新八は目を見開く。「やっと化け物を倒したのに今度は一体・・・・・・それにあの子、なんだかナギさんに似ている・・・・・・」「そりゃそうですよあの子はナギとアリカ姫の大事な一人息子のネギ君なんですからね」「息子・・・・・・! ってあの人子供いたんですかッ!?」「ナギだって結婚してるんですから子供ぐらいいますよ」何時の間にか隣に立って説明してくれたアルに新八はすぐに彼の方へ向いて驚く。アルはさらに話を続けた。「今彼の中に宿る魂はナギの息子のネギ君の魂では無いですけどね、あれは間違いなく夜王鳳仙、見た目が変わってもあの強大な覇気はどうみても彼の物です。夜王、もしくはそれに近しい人物が何かしらの術をネギ君に施して、彼の肉体を奪ってこの世に蘇った・・・・・・そんなシナリオですかね?」「鳳仙・・・・・・! 銀さんが倒すまでずっと吉原を支配していたあの夜兎の事ですかッ!? ど、どうやってあの鳳仙が蘇ったんですかッ!? それにどうしてあの人がナギさんをッ!?」「蘇った方法はわかりませんが、彼がナギを怨んでるのは昔、ナギと戦って苦渋を飲まされた事が魂胆でしょうね。その頃からナギと夜王は深い因縁があるんですよ」「・・・・・・復活した夜王の目的はナギさんを倒す事・・・・・・しかもあの人の息子の体を使って・・・・・・」夜王とナギの決して切れなかった長き因縁。それを知った新八はあまりにも非現実的な話に頭がこんがらがる。死んだ人間が蘇る・・・・・・憎んでいる相手の息子の体を巣にして二人の話しを傍で聞いていた神楽はスクナの上で対峙している親子を眺めながら彼等に口を開く。「てことはアイツはテメーのガキと戦う為にあそこに立ってるアルか?」「神楽ちゃん?」「そうですね・・・・・・中身が夜王であれ肉体は自分にとってかけがえのない息子。本来なら戦いたくないでしょ彼だって父親なんですから」「・・・・・・」アルの話を黙って耳に入れる神楽。父親と息子の命を賭けた戦い。彼女にとってそれは思い入れのある事だからだ。「だが父親だからこそ息子と戦わねばならない時もある」「ヅラ・・・・・・」思いつめた表情をする神楽に桂が腕を組みながら一歩歩み寄った。「ナギ殿は少年を殺す為に戦うのではない、救う為に戦うのだ。それが血の繋がった家族の絆というもの。この戦いはナギ殿にとって絶対にゆずれない戦いになのであろう、俺達他人が首突っ込める事ではない」「桂さん・・・・・・てことは僕達はここで黙って見てる事しか・・・・・・」「それしかないかもしれんな・・・・・・」悔しそうな表情で尋ねて来る新八に桂は難しい表情をする。これはいわばナギと夜王ネギの一騎打ち。自分達が足を踏み込んではいけない戦いだ。するとさっきまでナギの話をしていたアルが新八が手に持っているある物に気付く。「その杖・・・・・・何処で拾ったんですか?」「え? これはこの山登る時に茂みの中から拾った物ですけど?」「・・・・・・・ふむ」新八が持っている杖を眺めながらアルは面白い物を見つけたように無邪気に笑った。「どうやら影ながらあの人の力になれるかもしれませんね、私達全員の絆が」夜王の器となったネギと、父親であるナギは静かに視線を逸らさずに対峙していた。これは一対一の戦い、周りにいるのは黙って座っている銀時のみ。父親としてのケリを着ける為に、ナギはグッと歯を食いしばった。「ネギよぉ、お前はやっぱ俺の子だな。厄介な奴に好かれちまう所は俺そっくりだぜ」「貴様の息子はわしの中にいる・・・・・・」バサッとローブをなびかせ夜王ネギはナギに向かってせせら笑う。「救いたければわしを殺せ、それ意外に貴様の道はない・・・・・・」「ケ、言われるまでもねえっつうの。すぐにあの世にまた帰してやるぜ」キッと夜王を睨みつけた後、ナギは拳にグッと力を込めた。逃げる道など無いし逃げる必要も無い。自分で決めた運命を乗り越える為に自分はここに来たのだから。「・・・・・・一人で大丈夫なのかお前?」「手助けなんざいらねえよ、コイツは俺一人で決める」後ろにいる銀時に話しかけられてもナギは振り向かずにキッパリと言う。「ネギがこうなっちまったのも俺の罪だ、だから俺の罪は俺以外の奴には背負わせない。俺だけの力でコイツをぶっ倒す」「・・・・・・」「お前等にコレ以上世話かけさせられねえんだよ・・・・・・」そう言い残すとナギは神妙な面持ちをしている銀時を残して前に進んだ。「テメーのケツはテメーで拭くモンだろ?」目の前に立つは恐らく今まで自分が戦った中で最も困難を極めるであろう相手。夜王ネギ。最も大切な存在と最も強敵な存在が融合した存在。ナギは両手に電撃を溜めながら夜王ネギはポキリと拳を鳴らしてニヤリと笑う。そして「うおぉぉぉぉぉぉ!!!」スクナの頭部に立っている夜王ネギの方へナギは雄叫びを上げながら走った。「今日ここで貴様との因縁の鎖は断ち切られる・・・・・・かかってこいナギッ!」「テメェとの腐れ縁はここで終わりだッ! 夜王ッ! テメェは俺がぶっ倒すッ!」両手を大きく開いて待ち構える夜兎の王にナギは飛びかかる。ここで全てを終わらせる為に・・・・・・最終決戦が遂に火蓋を切って落とされた。