銀時達の救援として京都にやって来たエヴァは、春雨の幹部である神威と戦っていた。後ろでアリカ、あやか、千雨が見ている中、かつては『闇の福音』と呼ばれていた彼女は一人の“バトルジャンキー”を前にして一進一退の攻防を繰り広げていた。助走を付けて跳んで来た神威の回し蹴りを、エヴァは両手で受け止めて反対方向に投げ飛ばす。勢い良くほおり投げられ、あわやそのまま神威は木に激突するのかと思いきや、体を上手く捻って両足で木の側面に着地し、そのまま一回転して地面にスタっと着地した。「気持ち悪い奴だな、ヘラヘラ笑ってばっかで、貴様には表情というのが・・・・・・ぬッ!」両腕を組みながら目を細めて話しかけて来るエヴァに対して神威は無言かつ笑ったまま走る。喋らせる余裕も与えてくれない彼に対してエヴァは一回舌打ちした後、突っ込んで来る神威に向かって右手をかざすと、すぐに右手から氷の弾丸がガトリングの様に発射された。しかし「!!」まるで神威はそれを予測していたかのように足で急ブレーキ、その勢いで上に上がり、下で氷の弾丸が飛んでいる中、優雅に空中を舞ってエヴァの背後に着地する。そして「がはぁッ!」「エヴァさんッ!」エヴァが振り向く前に神威は右手に持つ傘で彼女のどてっ腹を貫いた。その瞬間、周り一帯に彼女の血が飛び散る。「これでお終いか、つまんないや」「ぐ・・・・・・!」「エヴァッ! ウソだろ・・・・・・」傘をエヴァの腹から乱暴に引き抜きながら不服そうに神威が呟いているのを見て、千雨がショックを受けたように呆然と立っているとアリカが近づいてくる。「案ずるな」「え?」「ここで死ぬ様な奴じゃったら600年以上も闇の魔法使いとして恐れられていたわけなかろう」「でも腹にあんなデッカイ穴作って・・・・・・」「奴には人が必ずや一度は求めるであろう“許されざる力”を持っている」「許されざる力?」全く問題なさそうな顔で説明するアリカに千雨とあやかが困惑していると、そんな二人に向かって口から血を流しながら、エヴァが二ィッと口元に笑みを広げた。「神の意に背く力だ・・・・・・今からそれを見せてやろう」「あれは・・・・・・」「コウモリ・・・・・・」その瞬間エヴァの周りを漆黒の色をしたコウモリ達が鳴き声を上げながら取り囲む、その異様な出来事に千雨とあやかは理解不能の様子、神威でさえビックリしたように目を開けて口を開けている。そして「人が最も恐怖する出来事は『死』だ、だが・・・・・・」「「!!」」コウモリが途端にフッと消えた瞬間、そこにいたのは先程まで腹に風穴を開けて大怪我してた筈のエヴァが、完全回復してその場に不敵な笑みを浮かべながら立っていた。「吸血鬼である私にとっては『死』は最も恐れない出来事。死ぬ事など私にはあり得ないからだ」「なんで傷が消えて・・・・・・・」「奴は年は取る事も知らんし死ぬ事も知らん『真祖の吸血鬼』じゃ、肉体をどれだけ損傷してもすぐに元の姿に戻る。『不老不死』という奴じゃな」「そんな凄い力を持っていたんですかエヴァさんって・・・・・・」アリカの話に唖然としながらあやかはエヴァを見つめていると、しばらくして手をポンと叩いて千雨の方に話しかける。「だから何時まで経ってもあんなに小さいんですわね」「あ、そっか。不老だからずっとチビのまんまなんだ」「おまけに死なないから一生ちっこいまま生きて行かなければいけないんですわね」「それ聞くと泣きたくなるな、一生チビか。可哀想だなアイツ・・・・・・・」「頭まで子供のままですからね」「おい聞こえてるぞ・・・・・・・」自分の事をヒソヒソ声で話すあやかと千雨の方にエヴァはジロッと目を向ける。「お前等私が不老不死という化け物じみた能力を見て恐怖とか感じないのか・・・・・・」「失礼ですけど、その能力を持っているのがあなたですから全く恐くありませんの」「だな」「くッ! 恐怖で顔が凍りつく貴様等の顔が見たかったのに・・・・・・」何も感情が無い表情でこちらを見て来るあやかと千雨にエヴァは悔しそうにしながらそっぽを向き、改めて神威の方に向き直った。「フン、まあつまり・・・・・・貴様の攻撃などではこの私を倒せないと言う事だ」「不死身か、聞いた事はあるけど実際に目で見たのは初めてだ・・・・・・」元に戻っているエヴァの姿を見て、ニコニコしながら神威は頷く。そして笑っていた目をゆっくりと開けて「でも本当に“不死身って不死身”なのかな?」「何?」「何百回、何千回も殺せば・・・・・・いつかその体も朽ちていくんじゃない? 無限に続く生なんてこの世に存在しないと俺は思うけど」「ほう、面白い事言うな、“アイツ”もそんな事を言っていた」自分なりの憶測を言う神威にエヴァはニヤリと笑う。「だったらこの私を何万回でも殺してみろ、貴様の様な若造に出来ればの話だがな」「こんな相手と戦えるなんてネ、やっぱりこの世界は面白い」腕を組んで睨みつけて来るエヴァに対して神威は傘を構える。相手が不死身だと知っても彼の辞書に恐怖という言葉は載っていない。相手が強ければ強いほど興奮する。それが夜兎族の本能だ。神威は笑みを浮かべながらエヴァに攻撃を仕掛けようとする、だがその時。「な、なんだよオイッ! こんな時に地震かッ!?」「こ、こんなに揺れる地震は今まで体験した事ありませんッ!」「これは・・・・・・!」突如、周りを覆う木がザワザワと不吉な音を立てて枝を動き始め、大地も強く揺れ始める。千雨とあやかが思わず抱き合って驚いている中、アリカは山の頂上に目を送る。山の頂上には神々しい光が降り注いでいた。神威は突然の出来事に動じずにアリカと同じく山の頂上に視線を送る。「ああ、やっと起きたんだ」「何が起きたのだ?」自分と同じように山の頂きにある光を眺めながらエヴァが呟くと、神威はニコッと笑いながら彼女に歩み寄っていく。「よそ見してるとまた死ぬよ?」第六十九訓 鬼が恐くて侍が務まるわけねえだろコノヤロービリビリと大地が揺れ、湖は大きく波を打って荒れている。それもその筈、この山の頂にはある魔物が目を覚ましたのだから「グオォォォォォォ!!!」リョウメンスクナノカミ、数多の国で暴れた強大なる力と体を持つ鬼神。彼の雄叫びを聞いた途端、銀時は両耳をおさえる。「うるせえ奴だな本当ッ! 寝起きのクセにメチャクチャ元気じゃねえかッ! 夏休み中のわんぱく坊主ですかコノヤローッ!」「あれがこの地に眠る鬼神・・・・・・木乃香殿の魔力を使って蘇ったリョウメンスクナノカミか、あそこまでデカイとは想像以上だ」「呑気な事言ってんじゃねえよッ! どうすんだよあんな化け物ッ! どうやってあんなモン倒して、しかもあそこにいる木乃香を助けれるんだよッ!」「俺が知るか」 「知っとけそれぐらいッ!」大きく振動する橋の上で体を揺らしながら銀時と桂が口論を始める。「こんな事なら木乃香殿をもっと厳重に警護しておけば良かった。あの年頃のおなごはみなデリケートだから少し距離を置く程度でいいと思っていたのに」「なにそのお固い考えッ!? ガキ相手に何気を使ってんだよッ! だからテメェは昔から女と付き合うのが下手なんだよッ!」「お前みたいなふしだら恋愛しか出来ない奴と一緒にするな。男はな、おなごに対しては紳士的にエスコートしなければならない、特に夫が最近家に帰って来なくて寂しい思いをしている妖艶な女性にな」「オメーのほうがふしだらな恋愛じゃねえかッ! この人妻フェチがッ!」「人妻フェチじゃない人妻ラブだ。 む?」転ばない様に何とかバランスを保ちながら叫び合っていると桂はある事に気付く。さっきまで自分と銀時の前に立っていた高杉の姿が何処にも無い。「何処行ったあの男・・・・・・」「高杉の事か、そういえばアイツ・・・・・・あッ!」眉をひそめる桂を見て銀時も高杉が何処へ行ったのかとキョロキョロ周りを見渡すと。何時の間にか高杉は自分達の後ろの方に行き、小太郎と神楽が倒したアーニャの方へ近づいてしゃがみ込んでいた。高杉はアーニャを両手で持ち上げた後、銀時と桂の方へ目を向ける。「俺は遠くから見物させてもらうぜ」「高杉ッ!」「もしかしたらコイツが今生の別れになるかもな、あばよヅラ、銀時。坂本によろしくな」「待ちやがれッ! 逃がすわけねえだろうがコラッ!」「そうだッ! まだ貴様との決着が・・・・・・!」こちらに背を向けてアーニャを両手で持ち上げながら去ろうとする高杉に慌てて銀時と桂が彼の方へ走ろうとすると「銀ちゃ~んッ! なにアルかあの化け物~ッ! デカくてキモいアル~ッ!」「ヅラッ! なんやねんアレちゃんと説明せいッ!」「ぐはッ!」「うぐッ!」スクナを見て驚いていたのか、神楽と小太郎が凄いスピードで突っ込みながら銀時と桂に抱きつく。無論、神楽が銀時に。小太郎が桂に。「ちょっとちょっとッ! お前等邪魔すんなッ! 俺は今からアイツの所へ・・・・・・!」「私を置いてあのデカ乳の女の所へ行くのねッ! 酷いわッ! 私はもうお払い箱ってわけッ!?」「お前は昼ドラに感化されてんじゃねえよッ! なんでこのタイミングであやかの所へ行くんだよッ! あ~クソッ! お前のせいでデカ乳=あやかっていう方程式が俺の中で生まれちまったじゃねえかッ!」自分の腰に顔をうずめながら嘘泣きする神楽に銀時は怒鳴り声を上げる。どうせまたテレビで覚えたセリフであろう。小太郎も桂の着物の裾を掴んで声を荒げる。「ヅラお前何処行く気やッ 行くんなら俺も連れてけッ!」「いや待てッ! 今は事を争うからお主と一緒には・・・・・・!」「つ、れ、て、け・・・・・・!」「こ、と、わ、る・・・・・・・!」無理矢理にでも行こうとする桂を小太郎は歯を食いしばって彼の裾を離さないよう踏ん張る。そんな事をしている内に何時の間にか高杉は何処かへ行ってしまった。一方、さっきまで夜王ネギと戦おうとしていたナギは、アルとエリザベスと共に目の前に現れたスクナを見上げていた。「オイオイオイオイ、現役の時はイケたけどよ・・・・・・」「今の私達でアレとタイマンやったらすぐお陀仏ですね」『無理ぽ』「ガァァァァァァ!!!!」「な、なんだよオイッ!」突然こちらの方へ顔を動かして目を光らせるスクナにナギが一歩後ずさりすると・・・・・・「グオォォォォォォォォォォォ!!!!!」「のわぁぁぁぁぁぁ!!!!」「走りますよエリザベスさん、当たったら即死ですからね」『当たり前だボケェェェェ!!!』口から放つは光り輝く破壊光線。ナギは悲鳴を上げながらアルとエリザベスを連れてまわれ右して急いで逃げに徹する。その間もずっと光線は追って来る。「ハッハッハ~ッ! サウザンドマスターと謳われていた英雄が必死こいて逃げ取るわ~ッ! これがスクナの力、ウチはついに英雄を超える力を手に入れたんやッ!」スクナの攻撃に全速力で逃げているナギ達を上から嘲り笑う千草。そんな彼女をつまらなさそうに見上げるのは先程までナギと戦おうとしていた夜王ナギ。「邪魔をしおって・・・・・・興が醒めたわ」彼が立っていた場所は祭壇だったのでスクナの攻撃の範囲外。夜王ネギは眼前でここまで来るために作られた橋が壊されていくのを眺めながら、腕を組んでフンと鼻を鳴らす。「まあいい、あ奴がコレに負ける程度だったらワシが戦うまでもないわ」逃げるナギ達の前に現れたのは銀時と桂達。「ん? 何でお前こっち来てんだよ段取りと違・・・・・・ってオイィィィィ!!」こっちに向かって走って来るナギ達に銀時がしかめっ面をするが、すぐ後ろについてくるスクナの波同攻撃を見て、急いで神楽を片腕で持ち上げて旋回してダッシュ。桂も小太郎と一緒に急いで逃げる。「なんだよアレッ! いきなりビーム撃ってくるとかボスキャラのクセに全然マナーが成ってねえよッ! ああいうモンは最後に撃つモンだろうがッ!」「俺に言うんじゃねえよッ! 挨拶がてら撃ってくるボスもいるだろッ! テイルズでもよくやってんじゃねえかッ!」「俺はドラクエ派だッ! テイルズなんてチャラついたモンに興味はねえんだよッ!」「おいテメェッ! テイルズナメると殺すぞッ! テイルズはゲームで初めて声優を取り入れるという斬新なシステムを導入した・・・・・・」「ドラクエでもテイルズでもFFでもいいですから喋る事より走る事を重要視してくださいね~」こんな状況になりながらも目の前でギャーギャーケンカする銀時とナギにニコッと笑ってたしなめるアル。すぐ後ろからはドドドドドと盛大に橋を壊していくスクナの波動砲がどんどん迫って来る。そして今度は倒れている阿伏兎の意識を確認している新八と坂本とネカネに鉢合わせ。「あ、銀さん見て下さいッ! 僕等頑張ってコイツを倒し・・・・・・って何事ォォォォォォ!!!」「アハハ、ハ~ッ! デカイ怪物がビーム撃っとるぞ~ッ!」「本当こういう時でも笑っていられるあなたを尊敬するわッ!」新八が誇らしげに近づいて来た銀時に振り返った途端すぐにパニック状態。坂本は依然坂本だが「さっさと逃げろボケェェェェェ!!!」「ぎゃぁぁぁぁぁ!! 助けて僕の勇気が出る杖ェェェェェ!!」銀時達と一緒に逃げながら(阿伏兎はあのままにいしておくとヤバいので坂本がなんとか背負った)新八はここまで来る道中で拾った不思議な杖を強く握りながら泣き叫ぶ。そんな彼が持っている杖を見てナギは目を見開いた。「おまッ! その杖って・・・・・・・!」「このまま逃げてもいつか追いつかれちまうじゃねえかッ! お前ら一か八か一気に横に飛ぶぞッ! いっせーのッ!」ナギが新八に向かって口を開こうとした時に銀時が神楽を抱きかかえたまま全員に向かって横へ飛ぶよう指示。そして「せいッ!!」「くぎゅッ!」「くッ!」「とうッ!」「おおッ!」「よっと」『ちぇりおッ!』「ヒィッ!」「アハハッ!」「きゃッ!」銀時、神楽、ナギ、桂、小太郎、アル、エリザベス、新八、阿伏兎を背負っている坂本、ネカネの順に大きく横っ飛びする。スクナのビームはすぐ後ろを通り過ぎて雑木林に生える木を次々と消滅させていきながらやっと消えた。銀時は倒れた体を起こして頬を引きつりながらそんな光景を呆然と眺める。「アハハ、アハハハハハ・・・・・・・辰馬じゃなくても笑っちゃうよねこんな事・・・・・・」「う~銀ちゃんのせいで私、地面に顔ぶつけたアル・・・・・・」銀時に抱えられていた神楽は彼が横に緊急回避した瞬間、顔面を地面に激突。泥がついたかおをさすりながら悪態を突く。「あ~あ、何情けねえ事やってんだろ俺・・・・・・」「ていうかアンタ誰や?」上半身を起こしながら尋ねて来る小太郎にぼやいていたナギはジト目で彼の方へ目を向ける。「大英雄、ナギ様だよ。サイン欲しけりゃやるぞ坊主」「ああ、アルが言っとった『サウザンド・バカ』とか呼ばれていた奴か、生きてたんかい」「おお、お主が噂で聞いていた『サウザンド・アホ』だったのか、リーダーと新八殿がいる事にも驚いたが、まさかお主の様な男も助っ人としてやって来るとは」『サウザンド・マヌケ』「違いますよ皆さん『サウザンド・中二病』です」「殴っていいかテメェ等・・・・・・!!」桂パーティに向かって額に青筋を浮かしてナギが拳を振り上げていると。新八は持って来た杖を地面に突き立てて行きながら、震える体でなんとか銀時の方へ歩み寄る。「ぎぎぎぎぎ、銀さん、ななななな、何ですかあのエヴァンゲリオンみたいなのは・・・・・・」「ありゃあ昔からずっとここに眠っていた鬼だ・・・・・・どうやら高杉の仲間の奴がアイツを叩き起こしたらしい。さっきのビームだってあいつにとって挨拶みてえなモンだろ」体どころか声まで震えまくっている新八に銀時はスクナを眺めながら説明する。それを聞いて新八は口をあんぐりと開けて固まった。さっきの攻撃がほんの挨拶代わりだと・・・・・・?「ああああああんなのどうやって倒せっていうんですかッ!?」「そうだな」「いやそうだなってッ! 何そんな普通に言ってんですかッ! あんな攻撃やられまくったら僕ら確実に全滅ですよッ!」「新八、お前ここでタイマンであの巨人に勝ったらMVP確実だぞ? 凄いな~新八君は、さすが名ツッコミメガネ。よし逝ってこい」「倒せるわけねえだろうがッ! つうか完全に僕が死ぬ事わかってんだろッ!」死んだ目でスクナを指さして指示してくる銀時に新八は恐怖を忘れて大声でツッコむ。16年間の剣術修行だけでは到底あんなのにタイマンで勝てるわけがない。そんなコントやっている頃、スクナの頭部の上で眠っている木乃香と共に浮いている千草は、数百メートル先にいる銀時達連合軍の慌てっぷりを見て満足げに笑う。一時はどうなるかと思った作戦だが、スクナを手に入れた今、勝利はこっちのモノだと確信したのだ。「これで西洋の連中から親の仇を取れるで・・・・・・どうや異世界の脆弱な侍共ッ! そして過去の功績にすがりつく英雄ッ! まずはアンタ等にこの鬼神の恐ろしさをたっぷりと時間かけて見せつけてやるわッ! すぐには殺さへんからありがたく思いなはれッ! ハ~ハッハッハッハッハッ!!!!」甲高い声を上げて千草は連中に向かって挑発した後高笑い。スクナの力に随分とご満悦の様だ。だがかなり遠い場所にいてスクナを見ている銀時達には彼女の挑発は遠過ぎて耳に入らず、ただ突然上を向いて笑っている彼女の姿しか見えなかった。「オイいきなりアイツ笑いだしたぞ、気持ちワル」「多分僕等のこんな姿を見て悦に浸ってるんじゃないですか・・・・・・?」「なんだと、それはムカつくな。おい辰馬、お前も笑い返してやれ」新八の話を聞いた後、銀時はすぐに阿伏兎の下敷きになっている坂本の方へ振り向く。それに応えるかのように坂本の黒いサングラスがキラーンと光った。「よ~し見ちょれ・・・・・・・・アハハッ!! アハハハハハハハハッ!!!! アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッ!!!!!」「うるさいッ!!」「はうんッ!!!」千草に対抗する為に坂本は今までより熱を入れて笑い声を上げるが、すぐに隣にいたネカネが彼の頭を一発ぶん殴る。頭に大人一人分の拳ぐらいのコブが膨れ上がったまま坂本はバタンと気を失った。銀時はそれを見てすぐにそっぽを向き、だるそうに隣にいるナギにスクナの事について尋ねる「お前等の世界の化け物だぞ、どうやって倒せるか知ってんだろ?」「俺はああいうデカイ奴を相手にする時はいつも力押しだ。昔と違って魔力が随分と減っちまった今の俺には無理だけどな」「そんなモン俺達だって無理だわ、真っ向からあんなのに勝負挑もうなんざ自殺行為もいいとこだ」すくっと立ち上がり銀時とナギは鬼神に対して難しい表情をして目を細める。スクナはさっき一発だけビーム撃った後から一向に動かない。恐らくこちらを余裕で殺せると千草がわかってじっくりいたぶるつもりなのだろ。「クソ、せめてあのデカブツの弱点でもわかりゃあ色々と作戦が練れるのによ」「・・・・・・しばらく俺が寝てた間に大変な事が起こってんな・・・・・・」「あん?」聞き慣れない声が聞こえたので銀時は後ろに振り返る。気絶している坂本の上に乗っかっている無精ひげを生やしたボサボサ頭の男。神威の部下、つまり銀時達の敵である阿伏兎が息を吹き返したのだ。目をぱちくりとさせながら彼はスクナをジーっと見つめる。「あれがリョウメンスクナノカミか・・・・・・資料に書いてあった説明より随分とデケェな、おいアンタ等、このままだと俺も奴に殺されるかもしれねえ。いい情報をやるよ」「なんだよ」「奴を止める方法さ」「何?」疲れた表情をしている阿伏兎に近づいて銀時はしゃがみ込んで彼に口を開く。「お前等春雨は、高杉の仲間だろ? いいのかそんなモンをバラして」「同盟こそ結んではいるが、お互い仲間だとは思った事もねえだろうよ俺達とアイツは。実は元々あの化け物は俺達が封印を解いた後すぐに回収する事をやろうとしてたんでね。おたく等の介入のおかげでおじゃんになったが」「んなこと企んでたのか?」「攘夷志士の高杉があんなの手に入れたら俺達天人の脅威になりかねん、手を組んでるフリして横からかっさらうつもりだったのさ」思いも寄らぬ話に銀時が眉をひそめると、阿伏兎は坂本の上から下りて立ち上がり、更に銀時に向かって話を続ける。「奴を殺す事は出来ねえが、奴の体の機能を停止する方法が一つだけある」「体の機能を停止?」「ただのデクの棒にするって事よ、あの娘っ子の魔力を注ごうが何しようが、それをやっちまえばリョウメンスクナノカミはまた何年もの長き眠りに入るだろうな」「・・・・・・どうすれば出来んだ?」「どうせ無理だと思うが教えてやるよ。なんせ俺を二度も負かしたアンタ等だからな」不気味な笑みをすると阿伏兎はゆっくりと銀時に顔を近づけて口を動かした「一度だけしか言わねえから耳垢かっぽじってよく聞けよ。奴の弱点は体の中にあるコアだ、その箇所は・・・・・・」銀時はジッと彼の話す言葉を絶対に聞き洩らさない様に専念する。そして「心臓の部分だ」「心臓?」「そこに奴の動力源であるコアがある。あの巨大な体に大きな穴でも作り、コアを露出させろ。そこからアンタ等の剣なり魔法なりと注ぎこみ、上手く損傷を与えれば奴の動きも直に止まる」「あんのムキムキの体に穴開けろってか・・・・・・」「言っとくが奴の体は例え大砲でも傷一つ付かない。逃げようとしても無駄だ、あの化け物はコアを潰さない限りずっと追ってくる」「・・・・・・」顎に手を当て無言になって考えている銀時に阿伏兎はニヤッと笑みを浮かべた。「さあどう選択する? 戦って死ぬか、逃げて死ぬか? 難しく考えさんな、どっち道死ぬ運命なんだよアンタ等は」 死に方の選択肢を選べと笑いかけて来る阿伏兎に対し、銀時は考えている状態からおもむろに顔を上げ、“いつの間にか阿伏兎の後ろに潜んでいる人物”の方を視界の中に入れながら彼に口を開いた。「情報あんがとさん、じゃ、もう眠っていいぞ」「え?」「そいッ!!」「おぐッ!!!」「ってオイィィィィィ!!」銀時が言った瞬間、いきなりネカネが阿伏兎の頭を後ろから拾ってきた岩でぶん殴った。再び白目をむいて坂本の隣にドサッと倒れた後、阿伏兎は頭に坂本同様大きなタンコブが出来る。突然起こった出来事に思わず新八が銀時の方へ近づいた。「情報貰っといてそりゃないでしょアンタ等ッ!」「いいんだよ実際はコイツ敵だから。倒し方さえわかればもう用済みだ」「その外道極まりない思考でよくアンタ主人公気どれるなオイッ! ていうかアンタも極当たり前の様にこの男を二度もぶっ倒さないで下さいッ!」うんうんと頷きながら勝手に自己解釈する銀時に新八はツッコんだ後、すぐ様ネカネの方にもツッコミを入れる。すると彼女は真顔で「わかりました、じゃあ三度目からはちゃんと殺します」「あのすみませんッ! 僕等本当に悪に立ち向かう側の人間なんですかッ!? お腹真っ黒な連中ばっかなんですけどッ!?」彼女の腹黒い返答に新八は周りに向かって叫びだす。確かにここにいるメンバーは何処か従来の正義のヒーローとは物凄くかけ離れている。だが彼の訴えを聞いたアルは頬笑みながら話しかける。「いいじゃないですか黒くても。悪に立ち向かう側が正義とは限りませんよ、汚れの無い綺麗な連中でも、ちょっと薄汚れてる連中でも凄く汚い連中でも、何かを救おうと思う心があればその人は侍にも英雄にもなれます、魂さえ綺麗ならそれでいいんです」「おお、なんかこの中で唯一まともっぽい人がいい事言った・・・・・・」アルの話に新八が感心したように頷くが、すぐにアルは銀時の方へ視線を移し「でも私は“ある汚れ”を知らない無垢な体も大好きです、そしてその体に色々と教えてあげるのも」「こっち見んなホモ」「一番まともかと思ったら一番危ない人じゃねえかッ!! やっぱダメだ僕達ッ! こんなダメ人間軍団じゃあんなモンスターに勝てるわけないッ!」冗談とは思えない口調で銀時に話しかけているアルを見て新八は両手で頭をおさえて叫ぶ。こんなメンバーでスクナに勝てるわけない。新八がそう思った時だった。「あっちこっち探しとったが・・・・・・こんな所におったんじゃな、“わし等の大将”は」「え?」ザッザッと雑草を踏みながらやってくる人の足音が・・・・・・足音と共に聞こえて来たのは訛りが混じっている女性の声、新八がキョトンとして声が下方向に振り向くと、銀時もすぐさまそちらに顔を向ける。「誰だ?」「フラフラ勝手に部下を置いて何処かに言ってしまうバカ大将の・・・・・・」目の前にある枝や葉っぱを掻きわけながら銀時達の前に一人の女性が現れた。道中合羽に三度笠、人狂風の衣装を来た彼女の正体は「世話をしちょる者じゃ」「お前・・・・・・!」「陸奥さんッ! 何処行ってたんですかッ!?」「は?」現れたのは坂本の作った組織、快援隊で働いている陸奥。前に遭った時の様にポーカーフェイスの顔を向けて来る彼女に銀時が目を見開いて驚いていると、隣にいる新八が異世界に彼女がいる事に驚きもせず話しかけた。銀時は「?」と首を傾げる。「何でお前コイツが異世界に来てるのに驚かねえんだ?」「この人も坂本さんを探す為に僕や神楽ちゃん、ナギさんと一緒に真撰組の人達と同行させてもらってたんです」「ああ、なるほどね」新八に説明に銀時が納得したように頷いていると、陸奥は坂本の方に近づいてしゃがみ込む。「ずっと前から一人でフラフラと歩いてこの男を探しとったんじゃが、ようやく見つけたと思ったらなんで頭にタンコブ作って倒れてるんじゃ?」「わかりません、ミステリーです」「いやアンタのせいでしょ・・・・・・つうかこんなモンミステリーでもなんでもねえよ」疑問を感じる陸奥にネカネがキッパリと言うのに対し、新八がボソッと呟く。ちょっと前に彼女が坂本の頭をぶっ叩いて気絶させたのはその周りにいる者全てが知っていた。「さっさと起きんかい大将」「あふんッ!」「うッ! 男として一番のウィークポイントを・・・・・・!」「ヒデェ、女ってのはどうしてああいう悪魔の様な事を平気で出来るんだよ・・・・・・」倒れている坂本の金的に向かって陸奥は普通に蹴りを入れるので銀時とナギが自分の股間を押さえながら呟くと、蹴られた本人の坂本は呻き声を上げながらフラフラと立ち上がった。「なんじゃあ・・・・・・? なんか金玉から電流が流れてる様な痛みがあるぞ?」「わし等にコレ以上迷惑かけるとほんに“ふぐり”(金玉)潰さしてもらうぜよ」「ん? おおッ! 陸奥ッ!」知り合いの女性の声が聞こえたので振り返ると懐かしい顔がそこにあった。坂本は急に上機嫌になって痛みを忘れて彼女の肩を片手で強く叩く。「久しぶりじゃのう陸奥ッ! 元気にしとったかッ!?」「何が元気にしとったかじゃ、部下達を放置してこんな所で遊び呆けてるとは腹を斬る覚悟は出来取るんか大将?」「アハハハハッ! おまんはいつも冷たいのうッ! 再会を祝って酒でも飲もうぜよッ!」「おんしと一緒に飲む酒なんて飲めるもんじゃなか」「凄いやこの人・・・・・・陸奥さんがここの世界にいる事になんの疑問も抱かない」冷たく陸奥に突き返されてもヘラヘラ笑いながら怒りもせずに驚きもしない坂本を新八が呆然と眺めていると陸奥はおもむろに坂本の耳を掴む。「イテテテテテッ!」「さっさと元の世界に帰るぜよ大将、こんな所で油売っとるヒマなんぞアンタにはないけ」「い、いや陸奥ッ! ちょっと待っちょれッ! 元の世界に帰る前にどうしても片付けて置かなきゃいけんモンがあるんじゃッ!」「なんじゃ? また変な問題事に首でも突っ込んでるんか?」怪訝そうな表情で耳をグイグイと引っ張ってくる陸奥に坂本は痛がりながら湖の中にいる怪物の方を指差す「アレじゃアレッ! あの化け物倒さんとこっちの世界がマズイ事になってしまうんじゃぞッ!?」「ん? なんじゃアレ? 生き物か?」「あ、あれは・・・・・・」坂本の耳から手を離して、数百メートル先にいるスクナを見ながら陸奥は首を傾げると、さっきからずっと坂本と彼女のやり取りを黙って眺めていたネカネが恐る恐る彼女に口を開く。「この世界に眠っていた強力な力を持つ鬼です、アレを倒さないとこの場所がすぐに火の海に・・・・・・だからもしかしたらその人の力が必要になるかもしれません・・・・・・すみませんがその人と元の世界に帰るのはもうちょっと待ってくれませんか?」「おまんは誰じゃ?」「ここでその人を拾って世話をしていたネカネ・スプリングフィールドです」「いや世話ってネカネさん・・・・・・」さらりと自分に対して酷い事を言うネカネに対して坂本は苦笑する。すると陸奥はそんな彼女に無表情のまま「ほう」と呟いた。「そうじゃったか、わしは一応この男の部下をやっちょる陸奥じゃ、ウチの大将の面倒を見てくれて礼を言う」「・・・・・・陸奥さんはその人と本当に上司と部下の関係なんですよね・・・・・・?」「・・・・・・どういう意味じゃそれ?」「い、いえ!」意味深な質問に陸奥が目を細めるとネカネは慌てた様子で首を振る。陸奥はしばらくそんな彼女の態度を不審そうに見つめた後、坂本の方に振り返る。「という事はつまり、“アレ”を倒さんとアンタは元に世界に帰りとうないという意味じゃな?」「当たり前じゃろ、ネカネさんがいる世界に、あんな危ないモン置いたまま帰れる程わしはアホじゃないけ」「ふむ、じゃあ早急に対処しよう、さっさとおんしには元の世界に戻って溜まってる仕事をやってもらわなぁいかんからの」「そげん簡単に言うな陸奥、あんなバケモンどげんすればいいのか銀時とヅラもわからんのじゃぞ」無表情を崩さず淡々と話を続ける陸奥にさすがに坂本が呆れた調子で話しかけると、彼女は懐からゴソゴソとある物を取り出す。「何柄に似合わず弱気になっとんじゃ大将、わしはもしもの時の為にいつもコイツを持ってるんじゃ。対巨大エイリアン用に作られた天人達が開発した破壊兵器・・・・・・」取りだした物を陸奥は坂本や他の連中に見せる様に前に出す。一見、ただのメカメカしいだけのリボルバータイプの黒い銃にか見えないのだが・・・・・・「『山崩し』、見た目はこげんちっぽけなピストルじゃが、中には無数のエネルギーが蓄えられていて容易に山一つ破壊できるという天人が作った最新兵器じゃ。値段もその名の通りコイツと弾一発で山一個ずつ余裕で買えるぐらいの代物ぜよ」「何ィッ! おまん何時の間にそんな凄いモン買ってたんじゃッ!?」そんなおっかない物を日常的に持ち歩いていたと知って坂本は陸奥に向かって驚くが、彼女はしらっとした表情で「歩く危険物のアンタに教えるなんちゅうそげん馬鹿な真似出来るか」「アハハハハッ! そういえばそうじゃのッ!」「そこは認めるんですか・・・・・・・」陸奥に言われた事にケロッとした表情で笑い飛ばす坂本にネカネが呆れたようにため息をついていると、銀時が興味深げに陸奥の方へ近づいて行く。「そのピストルの中に入ってる弾の数は?」「一発じゃきん、二発も三発も買える程さすがにウチは余裕を持っとらん」「一発か・・・・・・けど一発で山吹っ飛ばせるぐらいの兵器ならいくら奴のたくましい胸板でも・・・・・・」彼女が持って来た銃ならこの状況を打開出来るかもしれない。銀時は腕を組んで頭を下げた状態で黙りこくる。そして「これしかねえか・・・・・・おいテメェ等、今から重要な事を言うからよく聞いとけよ」「おっと、遂にあなたから私への告白イベントですね、長かったですね~」「ねえよバカ、お前にはヅラルート一択だけだ」「残念ですが桂さんには既に小太郎君というメインヒロインがいます」「さっきから何変な会話をしているのだお主等は」「蹴落としてお前がヒロインになれ、俺の見解によるとヅラはお前に惚れてる」「銀時、斬り殺されたいのか?」「あの、気持ち悪い会話してないでさっさと話進めませんか銀さん?」BLトークを普通に始めている銀時とアルに向かって桂と新八が小さな声で呟いていると、銀時は頭を掻き毟りながら話題を元に戻した。「あの“エセエヴァンゲリオン”を倒す、その為の作戦プランを考えたからお前等各々の役割を覚えてくれ」「え・・・・・・まさか銀さんッ! アレに勝てる方法思いついたんですかッ!?」「当たり前だろ、今まさに俺等“オーシャンズ11”の結束の力を試す時が来た。見せてやろうぜ“虎の威を借る狐”に」驚く新八に銀時は自信満々に頷き、数百メートル先に立っているスクナの上で、こちらに嘲笑を浮かべる千草の方へ向いてニヤッと口元に笑みを広げた。「侍と魔法使いが力を合わせりゃ鬼だろうが魔王でも倒せるってな」もはや何処の世界の人間だろうが関係ない。同じ志を持った11人の絆が今繋がる。