廊下を歩く彼女の足取りは非情に重々しく辛そうだった。握っている黒い刀からは禍々しい妖気を放っている、まるで疲労困憊の彼女を誘惑する様に。だが少女はグッと歯を食いしばってその力に屈せずに歩みを止めない。この呪いに抗い二度と魂を奪われないとある男に誓っているのだから。「約束してるんだ・・・・・・あの人と・・・・・・・」そして少女は、やっと自力でとある部屋の前に辿り着く。苛烈な激戦を繰り広げている大広間、向こう側から聞こえる悲鳴や、斬撃音、爆発音。自分の戦いが終わっても未だにここの戦いは終わってないとわかってもなお。少女は重い腕を上げて大広間の襖をあけた。左目に飛び込んできたのは“彼”が一人で無数の天人に向かって怒鳴り声を上げながら戦っている姿だった。「テメェ等ザコ風情が百人集まろうが千人集まろうがッ! この土方十四郎の首は取れねぇぇぇぇぇぇ!!」 人というよりまさしく『鬼の副長』という異名にふさわしい鬼の形相で、よってたかってくる天人達を刀で片っ端から殺していく。その刀の動きに迷いは無い。程なくして彼に襲いかかっていった天人達はあっという間に全滅してしまった。それを見た天人達はビクビクと怯えた目つきで腰を抜かしたまま這いずるように彼から逃げて行く。彼はそれを追わずに刀を鞘におさめ、ポケットからタバコを取り出して火を付けた後、彼女の方に背中を見せてゆっくりと口を開いた。「・・・・・・そっちは終わったのか?」「・・・・・・終わりました」「・・・・・・奴に勝てたのか?」「・・・・・・なんとか勝てました」タバコの煙を吐きながら、土方は制服が大量の血で染まっている刹那の方へ振り向いた。「ご苦労だったな・・・・・・・刹那」「ありがとうございます・・・・・・・」土方の言葉に思わず刹那は頭を下げた後、もう歩く事もままならない状態にもかかわらず、自分が持つ死装束を杖代わりにしてヨロヨロと彼に近づく。「すみませんこんなみっともない姿で・・・・・・」ボロボロになった状態でも律義に謝って来る刹那に、土方は自分から彼女に近づいていく。「テメェが謝る事なんざなんもねえ、俺の部下としてテメェは十分に戦った」「土方さん・・・・・・」「今はゆっくり休んどけ、後はもう俺達の仕事だ」「・・・・・・こんな状態でなければすぐに戦線復帰が出来たのでしたが・・・・・・」申し訳なさそうにへこんだ顔をする刹那の体には無数の切り傷があり、更に右瞼からはドス黒い血が流れている。それは全蔵に勝利するための代償だった。「目ん玉潰されたのか・・・・・・」「はい・・・・・・」「・・・・・・大丈夫かお前?」珍しく身を案じて来る土方の言葉に刹那はフッと微笑む。「心配しないで下さい、片目を失っても・・・・・・決心は揺るぎませんから」「・・・・・・・」裏など無い正直な一言、それを聞いた土方はしばらく黙った後、タバコの煙を天井に向かって吐く。「当たり前だろうが、片目失おうが片腕失おうがテメェは俺の部下だ。これからもずっとな」「・・・・・・」「俺から逃げようなんてしたらすぐにその場で粛清してやる、わかったな?」「・・・・・・はい」咥えていたタバコを手で持って自分の方に突き出しながら、土方はぶっきらぼうに宣言。そんな彼に刹那は感謝の念を込めて深々と頭を下げるのであった。すると・・・・・・「せ、刹那さんッ!」後ろから聞こえた慌ただしい少女の声、それに気付いた刹那ははっと振り返る。「のどかさん・・・・・・! こんな危険な場所にいて大丈夫なんですか・・・・・・!」「刹那さんこそ体がッ! 早く手当てしないとッ!」心配する刹那よりもっと心配した表情をしてるのは同級生である宮崎のどか。血相を変えて刹那に近づき、まじまじと彼女の傷だらけの体を眺める。「こんなになるまで・・・・・・」「・・・・・・どうやら心配かけていたようで、すみません・・・・・・」「いいんです・・・・・・あなたが生きて帰って来てくれただけで十分ですから・・・・・・」「のどかさん・・・・・・」優しさと温かみが伝わって来るのどかの笑みに刹那が思わずジッと見ていると、後ろから肩にポンと土方に手を置かれる。「のどか、コイツをとっつぁんと一緒に女中達の所に連れていけ、傷を手当てしてもらえる筈だ。敵はあらかた殺したしお前でも出来る」「は、はいッ!」指示を出した土方にのどかは彼の目を見て力強く頷く。彼女のそんな意外な姿に刹那は思わず目を丸くした。(何時の間にかこの人はこんなにも“強く”なっていたんだな・・・・・・)そんな事を考えていると、土方はのどかと自分に背を向けて腰の刀を抜く。「俺は残ったゴミを燃えるゴミに出してくる、じゃあな」「頑張って下さいね十四郎さん・・・・・・」「言われなくても俺はいつも頑張ってる」心配そうな顔をするのどかの方へ振り向かずに土方は手を振りながら春雨の勢力を潰しに行った。残された二人は黙ったまましばらく彼の背中を目で追う。「・・・・・・刹那さん」「・・・・・・なんですか」「・・・・・・ありがとうございました」「え?」「私や十四郎さん、他のみんなの為に戦ってくれて本当にありがとうございました」自分の傷付いた体を癒す様な安堵の笑みと、綺麗な澄んだ声でお礼を言うのどか。不思議と刹那は、その言葉を聞いて目頭が熱くなった。「そうなんだ・・・・・・こんな私でも・・・・・・役に立てたんだ・・・・・・」右瞼から出て来た一滴の黒い滴が彼女の頬をつたう。それが血なのか涙なのかは誰もわからない。第六十八訓 バクチダンサー真撰組対春雨もいよいよ大詰め。局長である近藤は刀を掲げて隊士達全員に聞こえるぐらいの声量で激を飛ばしている。「お前等ァッ!! ザコ一匹残すんじゃねえぞぉッ!!」「「「「「おおーッ!!!」」」」」その言葉を聞いて隊士達は群がる春雨の天人達に襲いかかる。士気の上がった真撰組と、彼等の到着、はたまた腕の立つ少女達の登場により士気が下がっていた春雨の兵隊はその怒涛の攻撃に押され始める。「ひ、ひるむなぁッ! ここから我々の力を見せつけ・・・・・・ぐべッ!」兵をまとめる隊長格の風貌漂うサイの顔をした天人が吠えた瞬間、一人の少女によってあっけなく首を飛ばされた。元仲間の月詠によって「す、すみませ~~ん!」「このガキィ! うぐッ!」血に濡れた刀を払った後、何故か申し訳なさそうに謝ってくる月詠に、殺された仲間の仇打ちとして別の天人が刀を振り上げるも、突然自分の腰に大量のクナイが刺さったので思わず顔に苦痛を滲ませる。だが彼が苦しんでいる間に「とぉーッ!」「おぼろげッ!」「うぎッ!」何者かによって顔面を思いっきり蹴飛ばされ、天人は月詠の上に倒れてダウン。潰された月詠は涙で顔をぐしゃぐしゃにしながらガクッと気絶した。蹴飛ばした本人は床に着地した後、すぐに後ろに振り向く。「援護サンキューアル楓」「なんのなんの、戦場では助けあいが肝心でござるから」親指を立ててガッツポーズを取るクーフェイに、後ろにいた楓は陽気に笑いかける。この二人、命を賭けた戦いに身を置いているにもかかわらず、戦いを楽しんでいるように見えた。しかしそんな能天気な二人に天人達はすっかり激昂したように襲いかかる。「コイツ等俺達の事完全にナメきってやがるぜッ!」「こうなったらプライドもクソもねえッ! 一人ずつで襲うのではなく袋にして殺せッ!!」「ヒーハーッ!」異様な姿をした天人達が一斉にクーフェイと楓を殺そうと走り出す。だが「うごッ!」「あげべッ!」「ぶつぶッ!」「ぬこぉッ!」「ぐがッ!」「あふッ!」「・・・・・・あれ?」テンポよく銃声が鳴る度に一人ずつ天人が倒れて行く。何時の間にか一人になってしまった兵はキョロキョロと周りを見渡すと。「一つの場所に突っ込む兵など、狙撃手にはただの的にしか見えない」「げッ!」「あの世で出直してこい」「ごばッ!」スナイパーライフルの銃口をこちらにむける龍宮の姿が。彼女と目が合った瞬間、天人は成すすべなく眉間を撃ち抜かれた。「数だけ揃っててもこの状況では頭の回転も上手く回らないんだろな敵も」「相変わらずの腕前でござるなぁお主は」「救い料一億万円、ローンも可」「相変わらず金にがめついでござるなぁお主は」「この不景気にこそ金を溜めとかなきゃいけないだろ」「ハッハッハ、友情より金でござるか、まったくお主は本当に最低でござる」真顔のまま冗談では無い口振りでジッと見て来る龍宮に楓は口を開けて笑う。彼女の対応はなんとなく心得ている。二人でそうこうしていると、天人達を蹴散らしながらこちらに突っ込んで来る侍の気配が。「テメェ等が狙う大将はこの俺だぁッ! 大将首が欲しかったらこの近藤勲を討ち果たしてみろッ!」「「「ぐわぁぁぁぁぁ!!!」」」豪快に天人達を切り刻んで突き進んで来るのは、真撰組局長の近藤。彼が近くにやって来た途端、龍宮は咄嗟に目を細める。「この近くに動物園もあるのか? ゴリラが脱走して暴れてるぞ」「うむ、すぐに檻に閉じ込めなければ、まずはバナナでおびき寄せて」「誰がゴリラだぁッ!」誤解している二人に近藤は倒れている敵に止めを刺しながらツッコむ。するとそんな彼にさっきまで遠くにいたクーフェイが近づいて来てすぐに構えた。「勝負アルゴリラッ!」「だからゴリラじゃないってッ!」またもや彼女にゴリラ呼ばわりされてしまい近藤はウンザリした表情で突き返す。「ていうかさぁ君達よく考えてよッ! ゴリラが刀なんて持つわけないだろッ!」「はッ! そういえばそうヨッ! さては人間の様な知性を兼ね備えたインテリゴリラだったアルなッ!」「そこまでいってんならもう人間でいいじゃんッ! ゴリラじゃなくて人間としてカウントしてくれよ俺をッ!」冗談では無くマジで仰天しているリアクションを取るクーフェイに近藤は必死な声で叫ぶ。一応彼にも人間としてのプライドはある。「やんなっちゃうよなぁチクショウ・・・・・・・」「別にあなたがインテリゴリラだろうがただのゴリラだろうが私は大丈夫ですよ」「君が大丈夫でも俺自身はそれを認めたくないから・・・・・・」両手を自分の首に回してぴったりくっついている夕映に近藤は疲れた調子で返しながら、彼女が言った事に少し引っ掛かる。「あれ? ていうか大丈夫って何が・・・・・・?」「あなたが何者であろうが私はあなたの全てを受け入れるって事です」「受け入れるってどういう意味・・・・・・? ひょっとしてちょっと前にとっつぁんと会話してたアレってマジ? え? 違うよね?」変な汗をダラダラと流しながら近藤の顔に焦りの色が見え始めるも、夕映は黙ってそっぽを向いてしまう。この少女の思惑は一体・・・・・・「なあ夕映ちゃん、もしかして俺の事・・・・・・」「近藤さん」そっぽを向いたまま夕映は近藤に口を開く。「言わなくてもわかってますよね? 私があなたの事をどう思っているか?」彼女の言ったその一言に近藤は声も出ずに絶句の表情をする。(マ、マジでェェェェェェェェ!?)「楓、ゴリラがすんごい顔してるぞ」「威嚇でござろうか、ていうかなんで背中にリーダー(夕映)をおぶっているのでござるかあのゴリラは」「あッ! きっと保存食にして食べる気アルッ!」近藤の表情に対して3人娘は呑気にそんな事を話していた。するとそんなグループに一人の男が「近藤さん助けに来たぞ、隊士の奴等の調子はどうだ?」やってきたのはタバコを口に咥えている土方。近藤は彼を一瞥した後、すぐにそっぽを向く。「ああ、アイツ等は絶好調だけど、俺は迷走ルートに突入しててさ・・・・・・」「何を今更、アンタはいつも迷走してるだろ」近藤の一言に土方は即座に返す。だが近藤は彼の方に焦り顔で振り向いて「いや今日はマジで物凄く迷ってるんだってッ! このままだと永久にラビリンスの底から抜け出せねぇッ!」「訳わかんない事言ってんじゃねえよ・・・・・・男ならビシッと決めろ」「いやいやいやッ! ビシッと決めるべき道がねえから困ってんだよッ! 」「?」何をそんなに悩んでいるのか見当もつかない。迷える子羊ならぬ迷えるゴリラと化している近藤に、土方が首を傾げていると・・・・・・「副長ォォォォォ!! 避けて下さぁぁぁぁぁいッ!」「あ?」聞いた事のある声がしたので土方はそちらにめんどくさそうに目を向けるまっすぐ得体のしれない紅い光線が天人達を飲み込みながらこちらに飛んで来た。「ってうおぉぉぉぉぉぉ!!!」すぐに頭を抱えて避ける土方。後少し反応が遅ければどうなっていた事やら。土方は声とレーザービームが飛んで来た方向に向かって伏せた状態で吠える。「あ、あぶねえだろうがッ! 一瞬走馬灯が見えたわッ!」「申し訳ございません土方さん」「ん?」「何ぶん敵を一掃する事に専念していたので貴方達の存在を忘れていました」持っているレールガンから硝煙を出しながら丁寧に謝った後、光線を打った本人は無表情のまま土方の方に歩いて来た。前に一度やり合った事のある生徒、絡操茶々丸。そして彼女の後ろには何故か仲間である山崎が、肩に不気味な人形を乗っけて頬を引きつりながら後頭部を掻いている。「だ、大丈夫ですか副長・・・・・・」「・・・・・・山崎、何でお前は浴衣着てんだ、何でこの女がここにいんだ、何でこの女とお前が一緒にいんだ、そして何でこの女は俺に向かって大砲ぶっ放したんだ・・・・・・・!」「ほ、本意で狙ったわけじゃないですから・・・・・・・」両手を振って睨んで来る土方に山崎は誤魔化し笑いをするも、彼の肩に乗っかっているチャチャゼロがまたいらん事を「ケケケケ、死ンデネェンダカラギャアギャア騒グンジャネエヨ」「おい山崎ィ・・・・・・! お前腹話術使えたのか、何俺に向かってふざけた態度取ってんだコラ・・・・・・!死ぬ気か?」「えぇぇぇぇぇぇ!? 違いますよ今のは俺じゃなくてこの人形本体がッ!」誤解されてしまった山崎は、立ち上がって物凄い形相で睨んで来る土方に慌てて話をしようとするが、やはりチャチャゼロが「ソウダゼ俺ハ山崎ダ、頭悪ソウナクセニヨク見破ッタナ、コノチンピラヤロー、ケケケケケケ」「山崎ィィィィィィ!!!」「ヒィィィィィ!! だから違うんですってばァァァァァ!!」山崎の肩に乗っかっているチャチャゼロが生きているのを知らない土方は彼に向かって拳を振り上げ一気に接近する。悲鳴を上げながら山崎は思わず両手で顔をおおい隠した。だがそんな彼の目の前に突如、茶々丸が入って来る。「待って下さい」「は?」すかさず突っ込んで来る土方にレールガンをガコンと向けた。「どういつつもりだテメェッ!」「私は山崎さんに仇なす敵を掃討する事を任務としています。もしあなたが山崎さんに危害を加えた場合、あなたを敵と判断し攻撃させていだきます」「ええッ! 茶々丸さん俺の上司に何言ってんのッ!? ねえ何言ってんのッ!?」「上等だコラッ! またその首刎ねてやるッ!」そうする事も辞さない表情をする茶々丸に山崎がツッコんでいる間に頭に血が上っている土方は刀を振りあげて戦闘態勢に入るが。それを見ていた近藤は夕映を背中におぶりながら慌てて止めに入る。「おいトシ落ち着けッ! こんな所で味方同士でやりあってどうすんだッ!」「味方もクソもねえッ! 俺に生意気な口叩く奴は誰であろうとぶっ殺すッ!」「頭に血が昇ると本当言ってる事がバカそのものですねあなたは」「よぉぉぉぉしデコ助ッ! やっぱお前を最初に斬っていいかッ!?」「待ってトシッ! この子はきっとアレだッ! 今流行りのツンデレなんだきっとッ! ツンの次はデレがあるぞ絶対ッ! お妙さんと同じなんだッ!」「コイツとあの女にデレ成分なんかねえよッ! “ツンツン”じゃねえかッ! つうかツンデレブームはとっくに過ぎてるだろッ!」 茶々丸より先に夕映の方を斬ろうとする土方に近藤が必死に落ち着かせようと説得するも、一向に通じない。すっかり戦いを忘れてそんな事をしていると・・・・・・「ぐわぁぁぁぁぁ!!」「ほげぇぇぇぇぇ!!」「ぶべらばぁぁぁぁぁ!!」「ん?」二人が揉み合っている中突然、複数の天人が白目をむいて彼等の方に飛んできた。土方はいきなりの出来事に天人が飛んできた方向に目をやると・・・・・・目を赤く光らせて漆黒のオーラを放っているアスナと沖田が敵陣を睨みつけている「女の子達の一大イベントである京都・修学旅行を邪魔する悪い子は・・・・・・」「だ~れ~だ~・・・・・・」「ひえぇぇぇぇぇ!!!」「お助け~ッ!!」怯えまくっている天人達に悪役の様に近づいてく二人を見て近藤はハッとする。「あ、あれは妖怪『祇園囃子(ぎおんばやし)』ッ! 京都で修学旅行を楽しんでいる女子生徒達に迷惑行為をするチャラ男をこらしめる古の妖怪だッ!」「いや違うと思う」近藤の説明にすぐに土方のツッコミが入った。無論、そんなものではなくただの荒れに荒れているアスナと沖田である。だが近藤はこれが好機とばかりに刀を抜いて二人の後に続く。「京都の神が舞い降りたぞぉッ! 勝利は我等の手にありいけぇーッ!!」「山崎さんの敵を全て根滅させて頂きます」「オレノ獲物~ケケケケケ」「二人共絶対に俺の仲間には攻撃しないで下さいよッ!」敵陣を総崩れにしていく沖田とアスナに続いて近藤も暴れ出すと、茶々丸とチャチャゼロ、そしてそれを心配そうに追う山崎が彼の後を追う。土方もそれを見てため息を突いた後、最後の仕上げをすると言わんばかりに彼等の方に歩きだす。「どいつもこいつも・・・・・・この俺に向かってナメた態度取ってんじゃねえぞコラァァァァァァァ!!!」春雨の集団に向かって土方は突っ込んで持っている刀を血に染め上げる。天人との長き戦いも遂に終わる時が来たようだ。敵の軍勢さえも覆し優勢的な真撰組。だが一方、山の頂にいる桂達は春雨の兵とは比べられないほどの強さを持つ敵達に苦戦を虐げられていた。「こ、このアマッ! ちょこまか跳び回ってないで正面からかかってこいやボケェッ!」ひょんな事から桂の仲間に入っている犬上小太郎は、自分の周りで高速に動きまわりながら攻撃を行ってくる一人の少女に向かって罵声を上げる。こちらも数奇な運命で高杉と出会ったアーニャ、彼女は小太郎に無表情のまま腰に差す刀を鞘から抜く。「ホンマ可愛げの無いガキ・・・・・・うぐッ!」悪態を突く暇も無く小太郎は飛んで来た刃を上体をのけ反らして避けようとするも右膝を勢いよく斬られて血を流す。彼女の攻撃方法は居合いで戦う抜刀術。高速な攻撃スピードと翻弄する動きに小太郎はまともに相手に出来ないのだ。「・・・・・・どっちが可愛くないガキよ、さっさと死になさい」「へ、コソコソ逃げ回って攻撃するようなチキン娘に殺されるかドアホ」「なんですって・・・・・・!」「やっぱ飼い主の高杉がおらんと一人じゃ何も出来ないんか?」「この・・・・・!」笑みを浮かべて小太郎が軽く挑発してやるとアーニャは歯をむき出して乱暴に斬りかかって来る。どうやら無感情なのは上っ面だけで、中身自体は軽く突けばすぐに素に戻るらしい。(・・・・・・こりゃあ挑発に乗って自分で墓穴掘るタイプやな・・・・・・)鋭かった動きに更にスピードを入れて跳び回っているアーニャを見て小太郎は目を細める。スピードこそは前よりも凄いが、少し無駄な動きが目立つ。その隙を取れれば・・・・・・。(あのガキの動きを止めれるのは簡単や、けど俺一人で決定打を打ち込められるか・・・・・・止められるのも恐らく一瞬やぞ・・・・・・)状況を考えながら小太郎は上から降って来たアーニャの居合いを必死に避ける。彼女の持つ刀が紅色に光りスピードがどんどん上がって来ている。まるで刀自身が意志を持っているかのような動きに小太郎は額から出る汗を拭う。「アカン、策を考えている間にこのままじゃあの変な刀に斬り殺されるな・・・・・・」他の者は別の敵を相手にしてこちらを救援する事なんて出来ない。ましてや『助けを呼ぶ』という事をする自体自分のプライドが許されないのだ。小太郎とアーニャが静かに戦っている頃、その近くではアーニャとは正規の仲間では無い阿伏兎と、かつて攘夷志士として桂や銀時、そして高杉と同じ飯を食べていた坂本辰馬が傘と剣を交えて戦っていた。徐々に阿伏兎の傘が坂本が死んだ天人から拾った刀を砕かんと押し込んでいく。「本当によぉ、俺とまともに戦えるとは大したモンだなお前さん」「ハハハ、これでも昔は攘夷志士じゃけぇ・・・・・・・おまん等天人との戦いは日常茶飯事でやっとったわ」「オイオイオイ、俺をアンタ達が今までに攘夷戦争で相手にしていた天人共と一緒にするなんてヒデぇな」「ぐぐぐ・・・・・・!」ゆったりとした口調のまま阿伏兎は力をぐっと入れて辛そうにしている坂本の持つ刀にピキピキとヒビを入れていく。そして「ぬおッ!」「坂本さんッ!」刀はガラス細工の様に音を立てて割れる。坂本は驚きながらも飛んでくる刀の破片を腕で受け止めて、急いで後ろで見守っていたネカネの方に後退する。「やっぱ化け物じゃのコイツ・・・・・・・アハハハ」「そんな化け物とずっと持ち堪えているあなたもかなり化け物じみてるわよ、ほら治癒魔法で傷を治さないと」「すまんのうネカネさん」こんな状況でもふざけた調子で笑っている坂本に呆れつつも、ネカネは両手を彼に近づけて治癒魔法を放つ。先程刀の破片が刺さった腕があっという間に元に戻った。「こんな事しかでしか役に立てなくてごめんなさい・・・・・・」「アハハハ、十分じゃけ。ネカネさんはそうやってわしから離れずに立っておればそれでええ」「え?」元通りになった腕で胸の内側ポケットから銃を取り出す坂本にネカネは口をポカンと開けると彼はすぐに振り返る。「わしはアンタみたいな綺麗なネエちゃんが傍にいるだけで幸せじゃ」「・・・・・・・バカ」「アハハハハッ!」思わず顔を赤らめてしまうネカネに坂本はゲラゲラと笑い飛ばしながら、阿伏兎の方に振り返る。「やっぱりわしはこのピストルの方が似合っとるの、そうじゃろ?」「ふぅん、前みたいに俺の隙を突かねえと弾丸は当てられねえぜ?」「ハハハハ、まあなんとかなるじゃろ」銃口を突き付けられても全く動じない阿伏兎に向かって笑みを浮かべながら、坂本は持っている銃の重みを確かめる。(残り3発か・・・・・・)刀だけではなく銃の扱いにも長けている坂本は、自分の愛銃の残り弾数を重さだけで察知する。(3発だけで勝てる相手かの・・・・・・? どうにか向こうの動きを止めれればいいんじゃが・・・・・・)「何柄にも似合わずに考えに浸ってんだアンタッ!」「ぬッ!」計算に夢中になっていた坂本に向かって阿伏兎は一気に近づいて横薙ぎに傘を振るう。我に返った坂本はそれをかかんで避け、咄嗟にそのまま前転して阿伏兎の両足の間をすり抜ける。そして阿伏兎の背後に行けた坂本はすぐに立ち上がって彼の背中に銃口を向けるも、坂本が引き金を引く前に阿伏兎は後ろを取った彼の方に振り返り、目でギロっと睨みつけながら持っている傘に力を込める。「うおらぁッ!!」「おっと」目にも止まらぬ速さで阿伏兎は傘を坂本の方に乱暴に振る。坂本はかろうじて避けるも、銃を持っていた右腕は少しかする。「俺の後ろを取れたのは褒めてやろう、だが一つ教えてやる、夜兎にとって敵が正面から来ようが背後から来ようが関係無い、範囲に入ったらすぐに殺せるよう勝手に体が動いちまうんだ」「こいつはマズイの・・・・・・」不敵な笑みを浮かべる阿伏兎に坂本はしかめっ面を見せた。右腕にはスパッとかまいたちの様に斬られた傷が出来ている。「坂本さん・・・・・・・」不安そうに見つめているネカネの視線に気付きながら坂本はニヤッと笑った。「死ぬかもしれんの・・・・・・」小太郎と坂本が苦戦を強いられている中、彼等の大将である桂は同じく総大将である高杉と刀をぶつかり合わせていた。互いの実力はほぼ互角、何十回、何百回刃を交えても終わりが見えてこない。「引け高杉ッ! 俺達の世界どころかこの世界さえも破滅に導く気か貴様はッ!」「おうよ、俺が生むのは破壊だけだ。それ意外に何もいらねえ」「愚かな・・・・・・! 高杉ッ! 貴様の思い通りにはさせぬぞッ!」会話を交えながら桂は刀を高杉の頭上目掛けて振り下ろす。高杉はそれを笑みを浮かべながら刀で受け止めた。「ヅラァ、テメェにはこの世界を護る義務なんざねえだろ? どうして俺の邪魔をする」「例えどんな世界、どんな者であろうと信念を持って護る者が侍だッ! 俺は命をかけて救ってみせるッ! ここにいる者も、同じ江戸に住む者も、そしてお前も・・・・・・!」「俺も救おうってか、相変わらずバカだなお前も・・・・・・」つばぜり合いの中必死に話しかけて来る桂にニタリと笑い返した後、高杉は彼の刀を弾き返して一歩下がる。「悪いが俺は救いなんざいらねえ、俺が欲しいのは獲物を狩る牙だ」「あの少女もお前の牙か・・・・・・まだ年端もいかない小さな子供だぞ・・・・・・?」「・・・・・・さあな」一瞬だけ笑みが消えて、何か思いつめた表情をする高杉だが、すぐに元の表情に戻す。「くだらねえ事言ってねえでさっさと俺を倒したらどうだ? 早くしねえと・・・・・・」高杉は余裕気に笑いながらクイッと自分の後ろを親指で指差す。「鬼が目を覚ますぜ・・・・・・?」「く・・・・・・」そこには銀時とネギの教え子である木乃香を祭壇で祀って儀式を行っている千草の姿が。そして彼女を止めようとしているエリザベスとアルの前には思いもよらぬ者が立ちはだかっていた。「こんな所にいたのか貴様・・・・・・星海坊主も味な真似をする・・・・・・」「まさか“ここで”あなたと再会できるとは・・・・・・」桂の仲間であるアルは今、エリザベスと共に千草を止める為に祭壇の前へと来ている。祭壇の周りが手薄になっている今こそ好機、しかしその考えは過ちだった事に今更気付いた。何故なら突如目の前に現れた男はここにいる誰よりも強いであろう人物なのだから。「この威圧感にその喋り方は何処の世界を探してもあなたしかいませんよ・・・・・・」「フン、鋭さは相変わらずの様だな・・・・・・」そこにいるのは友人の息子である筈のネギ・スプリングフィールド。だが彼から放つ強大な殺気と風貌はとても子供が出せるレベルでは無い。アルは一歩下がってその獣の様な目をする少年に戦慄を感じながらゆっくりと口を開く。「夜王鳳仙・・・・・・私の友人の息子の体を奪って現世に帰ってきたという事ですか?」「バカな弟子のおかげでな」体を乗っ取られ夜王鳳仙となっているネギは面白くなさそうにアルを見据えながら、自分が付けていた小さなメガネを外してグシャリと手で握りつぶす。「もうこの体はワシの物、この体の持ち主を救うにはワシを殺すしか方法は無い」「あなたを殺す? 冗談きついですねえ私には荷が重すぎますよそれは・・・・・・」目の前にいるネギの目つきはあの時の鳳仙そのもの。現役でも一人では勝つ事さえ出来なかったのに、ブランクがある今ではとても勝てる可能性など見つからない。額に汗をかいて珍しくアルが動揺していると後ろにいるエリザベスが遠慮がちにボードを上げる。『俺ってもしかして場違い?』「ええ、素晴らしいほど場違いです」「来い、あの時殺せなかった貴様をこの体を使って殺してやる」エリザベスとアルの会話を無視して、“夜王ネギ”は子供と大人の声が混じった声で二人と対峙した。「あの少年が何故・・・・・・」「クックック・・・・・・あれはもうガキじゃねえよ」苦虫を噛んでいる様な表情をする桂に高杉は戦闘中にも関わらず腹を押さえて笑う。「俺と同じ獣だ・・・・・・」「高杉、あの少年に何をした・・・・・・・」「俺は何もやっちゃいねえさ、やったのはアイツの師匠とそのまた師匠だ」「・・・・・・どういう事だ?」「どうでもいいだろ、お前には何も関係ねえ話だ。俺にだって関係ねえ話だしな」両肩をすくめて話を中断させた後、高杉は持っている刀を肩に掛ける。「さっさとやり合おうぜ、こんなムダ話しているヒマもねえんだろ?」「・・・・・・」刀で肩をトントンと叩きながら高杉は不敵な笑みを浮かべている。桂もそれに無言で応えて刀を構える。だがその時だった。「待て待て待て待てぇぇぇぇぇ!!!!」「ん?」「この声は・・・・・・・」その場一帯に響き渡る様な大きな叫び声、高杉と桂は咄嗟にそっちの方に目をやる。銀髪の侍・・・・・・坂田銀時が木刀を持ったまま猛スピードでこちらに向かって走って来る。しかも後ろにいるのは・・・・・・「新八ッ! 神楽ッ! テメェ等わかってんなッ!」「はいッ!」「おうよッ!」後ろにいるのは万事屋として長年苦楽を共にしている志村新八と神楽、三人は短い会話を終えるとすぐに三手に別れる。神楽は右に曲がって戦っている小太郎とアーニャの方へ。新八は左に曲がって坂本と阿伏兎の方へ。そし銀時は・・・・・・・「高杉ィィィィィィィィ!!!」まっすぐに走ってすぐさま高杉と桂の方へ。「来たか銀時ッ!」「クックック・・・・・・これで四人揃ったな」現れた銀時に桂が驚いたように叫び、高杉は持っている刀をギラつかせる。そして額に青筋を立てている銀時の持つ木刀と高杉の持つ刀が激しい音を立ててぶつかった。「同窓会に遅れて悪かったなぁ高杉・・・・・・! その代わり俺が派手に盛り上げてやるよ・・・・・・!」「いいねえ、早く俺を楽しませてくれよ、銀時・・・・・・!」激しいつばぜり合いをくり返す銀時と高杉。そんな二人の幼馴染を見て、桂は刀を持ったまま天を見上げた。「あの世にいる“あの人”はこんな俺達を見てどう思っているのだろうか・・・・・・」銀時と高杉が剣を交えた頃、神楽は小太郎とアーニャの方へ突っ込んでいた。「うおらぁぁぁぁ!! ってどっちが悪い奴だコノヤローッ! 両方ともぶん殴っていいのかッ!? アアンッ!?」「あっちやあっちッ!」「新手ッ!?」猪の様に突っ込んで来る神楽に小太郎はアーニャの方を指さして叫ぶ。すると彼女の出現に驚愕したアーニャはとっさに構えるが「チッ!」「悪いなガキ、一瞬だけ動き止めさせてもらうで」「このッ! チンケな術で邪魔するんじゃないわよッ!」小太郎が掌から放って来た魔力の気弾にアーニャは驚きながらそれを刀で撃ち落とす。いざという時に隠していた小太郎の魔術の一つだ。彼女がその気弾に注意を注いでいる隙に神楽はぐんぐん彼女の方に迫っていく。「ぬおぉぉぉぉぉぉ!!」「誰だか知らないけど私は高杉と一緒に行う夢が・・・・・・!」気弾を全て撃ち落として神楽の方へ向いたアーニャが何か言おうとするがその前に神楽は彼女を攻撃範囲に入れ・・・・・・・「知るかボケェェェェェェ!!!」吠えながら右手に持つ傘では無く、左手による拳での一撃をアーニャの頭にお見舞いする。「が・・・・・・・は・・・・・・・」その一撃の痛みに耐えかねてアーニャは意識を失った状態で前頼みに倒れた。彼女を見下ろして神楽は地面にペッと唾を吐く。「小便臭いガキが、私に勝てるなんて一兆年早いアル」「いや一兆年は長過ぎやろ」神楽がアーニャの方へ向かって行ったと同時に、新八もまた別の方向へと走っていた。吉原で出会った阿伏兎と、上司の友である坂本、新八は一気に彼等の方へ突っ込む。「坂本さんッ! アンタこんな所にいたんですねッ!」「おおッ! 銀時の所のツッコミメガネッ! なんじゃあの女の子(千雨)にポジション奪われてリストラになったと思っとったわッ! アハハハハッ!」「奪われてねえよッ! 現役バリバリのツッコミメガネだッ!」こちらを見て思いっきり笑い飛ばす坂本にツッコミを入れた後、新八は阿伏兎と彼の間にすかさず入り、目の前に立つ阿伏兎に持っている木刀を構える。「コイツ生きてたのか・・・・・・・坂本さんッ! 僕に出来る事ありますかッ!」「じゃあ悪いがアイツを“一瞬だけ”でええから止めてくれんかの?」「わかりましたッ!」少しの躊躇も見せずに新八は、かつて吉原で戦った事があり、全く相手にされなかった阿伏兎に真っ向から挑んでいった。それに阿伏兎は二カっと笑った後、右手に持つ傘を振り上げる。「こんな所でもお前さん達に会えるとはな、感動の再会をしたいのも山々だが・・・・・・」「うおぉぉぉぉぉぉ!!!」「残念ながらそちらさんはさっさと俺とお別れしたいらしいなぁ・・・・・・」突っ込んで来る新八に阿伏兎は振り上げた傘にぐっと力を込める。そして「元の世界では無くさっさとあの世に帰りな坊主ッ!」手加減もせずに渾身を込めた一撃をお見舞いせんと、阿伏兎は傘を振り下ろす。だが新八は怯まずに右手に持っていた木刀ではなく、左手に持つ“不思議な物”を両手にに持ってガードする。「ふんぬらばッ!!」両手を、全身に重くのしかかって来る阿伏兎の一撃、新八はそれを歯を食いしばって止める、何故ここに来る前に拾っただけの棒きれでガードしようとしたのか新八自身も分からない。ただこの杖を持っているととても勇気が湧いて来たのは確かだ。そしてその新八に、まるで杖は応えるかのように(俺の一撃を食らっても折れないだと・・・・・・・! なんだこの棒っきれ・・・・・・!?)「んごぉぉぉぉぉぉ!!!」どれだけ力を入れてようが全く折れない杖、それに対して驚愕する阿伏兎だが。「足止め御苦労さん」カチャっと銃口が向けられた音に思わず顔を上げる。そこには銃をこちらに向けて静かにたたずむ坂本の姿が「狙い撃つぜよ」「・・・・・・あり?」置かれた状況に意外にもあっさりとした言葉を呟く阿伏兎に向かって。3発の黒い弾丸は音を立てて飛んで行った。「ぐ・・・・・・がはぁッ!」鉛玉は見事に阿伏兎の体に3発とも命中。口から血を噴き出した後、阿伏兎はその場に片膝を突く。「ウソだろオイ・・・・・・俺が同じ相手、しかもちっぽけな人間に二度も苦汁を飲まされるだと・・・・・・何かの冗談だろ?」「急所を当てたのにまだ生きとる。ほんに丈夫な奴じゃの~」「生憎俺はやわな人間とは体のつくりが違うのさ・・・・・・」体に空いた三か所の穴から血を流しながらも阿伏兎はニヤリと笑ったまま立ち上がる。坂本もそれには呆れ、新八も杖と木刀を持ったまま目を見開く。「化け物だ・・・・・・!」「へ、ちとツライがまだお前等を殺す事は出来・・・・・・」辛そうにしながらもそれを隠す様に笑みを浮かべながら、阿伏兎が傘を構えようとしたその時・・・・・・ドゴッという鈍く生々しい音を立てて、阿伏兎の後頭部に彼の頭ぐらいの岩が直撃した。・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・いきなりの出来事に新八と坂本が唖然としていると。「マジかよ・・・・・・」阿伏兎は白目をむいてフラ~ッと前にドスンと大きな音を立てて前に倒れた。「・・・・・・あれ? なんか倒しちゃったんですけど・・・・・・・」「・・・・・・誰が岩なんて投げたんじゃ?」「坂本さんッ!」「あ」気絶しているのか死んでいるのかわからない状態の阿伏兎を見下ろしながら、新八と坂本が口ポカンとしているとネカネが坂本の方に走り寄る。「大丈夫ですか、私、あなたの助けにならないかと思って咄嗟に投げたんだけど・・・・・・」「え? ネカネさんがこの重そうな岩投げたんけ?」縮こまった態度のネカネがボソッと呟いた言葉に、坂本が今はパックリ二つに割れているが先程阿伏兎をKOさせた岩を指差すと、彼女は恥ずかしそうにコクンと頷く。「何をしたらいいのかわかんなくて・・・・・・とりあえず大きな岩を見つけてそれを思いっきりこの男に向かって・・・・・・」「いや思いっきりわかってますよね、完全にこの男の息の根止めようと思って投げましたよね?」ネカネとは初対面だが新八はすぐに頬を引きつらせながらツッコミを入れる。まさかこんな女性があの大男に止めを刺す事になるとは・・・・・・・「やっぱ何処の世界のおなごも強いのう、アハハハハッ!」「その一言で片づけてんじゃねえよ・・・・・・」万事屋が三人の敵相手に奮闘している頃。アルとエリザベスはそれにさえ気付かずに夜王ネギを前にして緊迫した状態で固まっていた。「そのままジッとして動かぬつもりか・・・・・・?」「エリザベスさん、あなたアレ相手に戦えますか?」『シリアスバトルなんて出来ねえよッ!』「ですよね」ペンギンだかアヒルだかわかんない恰好でこんな所にいる事態が不自然なのに、こんな強敵を相手に戦える筈がない。「やはり私が・・・・・・」一人でやるしかない、アルはそう決心して両手を彼の方に突き出して構える。が「よせよ、そいつは俺の獲物だ」「・・・・・・・ん?」「子を助けるのは親の義務だ」「!!」昔から何度も聞いた事がある懐かしい声が上空から聞こえて来る。アルは急いで顔を上にあげると「久しぶりだな、アル。それと死に損ないのクソジジィ」「ナギッ!」「ナギ・スプリングフィールドッ!」『誰?』数年の時を経ても変わらない姿のまま、優雅に宙に浮いているのはサウザンドマスター・ナギ・スプリングフィールド。エリザベスは彼に向かってクエスチョンマークを付けるが友であるアルと因縁深い夜王は突然現れた事実に驚いていた。「ナギ・・・・・・あなた生きてたんですか? てっきり死んだかと・・・・・・」「勝手に決め付けんな、お前も姫さんもどうして俺をすぐ殺したがるんだよ、俺がそう簡単に死ぬと思ってたのか?」「・・・・・・それもそうですね」小馬鹿にした調子で笑い返すナギを見て、アルはフッと笑う。見た目も性格も、まるで昔と変わっていない。「さてと・・・・・・」ナギは首を動かして自分の息子であるネギの方へ振り向く。最も今の彼はナギの息子であって息子ではない存在なのだが。「しばらく見ない内にこんなに成長してたんだな、俺の息子は・・・・・・・」「フフ・・・・・・フハハハハハッ!!」遠い目で見つめて来るナギに対して夜王ネギは大きな声で高笑いをする。出会う事はもう無いと思っていた男が、こんなにも早く自分の前に現れたのでは。彼にとってこれ以上嬉しい事は無い。「ハハハハハハハッ! これが貴様とワシの天命かッ! 今初めて現世に蘇った事に喜びを感じるぞナギ・スプリングフィールドッ!!」「そうかい、俺は全然嬉しくねえがな、人のガキの体奪いやがって・・・・・・」「ワシが望んだのではない貴様の息子が選んだ道だ・・・・・・!」 「この野郎・・・・・・!」笑みを浮かべる夜王ネギを目の前にしてナギはぐっと下唇を噛む。彼の笑みが昔、自分に屈辱を浴びせた時とそっくりだったからだ。「さあワシと戦え、ワシを殺せば貴様の息子が現世に還って来れる・・・・・・そして貴様と戦うそれこそがワシの今生の本願ッ!」「言われなくてもやるに決まってんだろうが・・・・・・! すぐにあの世に返してやるぜッ!」拳を鳴らしながらこちらに笑みを浮かべて立っている夜王ネギに悪態を突いた後、ナギは後ろにいるアルに話しかける。「手を出すなよアル、これは俺とアイツの因縁だ」「それは良かった、私はあの男と戦いたいなど滅相もありませんから」『俺も』「アル・・・・・・なんだよこの生き物」「エリザベスさんですよ」「いやエリザベスってなんだよ」ニコッと笑って隣にいるエリザベスを説明するアルにツッコんだ後、ナギは再び宿敵へと首を戻した。間もなく何十年も前からあった二人の因縁が終わる戦いが始まる。だがその時だった。「ハッハッハ」パチパチと両手を叩く音とバカにする様な笑い声に夜王ネギとナギはそちらに視線を向ける。夜王の後ろで鬼神復活の儀式を行っていた千草だ。「まさか死んだと思われていたサウザンドマスターと夜王が鉢合わせするとはな、そんなえらい熱い展開に水を差すようで悪いんやけど、ちょっとしたニュースがあるんでよろしいでっか?」「失せろ小悪党が・・・・・・ワシとこの男の邪魔をするな・・・・・・」完全に見下した目で睨みつけて来る夜王ネギに思わず千草はビクッと一歩下がるも、負けじと彼に向かって口を開く。「フフフ・・・・・・・さすがは魔法世界を食い荒らした夜王鳳仙、見た目がガキになってもホンマ迫力あるわぁ、けどなぁ」企み笑いをした後、千草はばっと右手を横に上げる。「“コイツ”も負けてへんで」「「「!!!」」」『揺れる揺れる!!』彼女が手を上げたのがまるで合図だったかのように周り一帯にゴゴゴゴゴと大きな振動が発生する。そこにいた四人は何事かと驚き、ナギは千草の方を視線を向けるも、そこに彼女の姿は無い。「ここやでサウザンドマスターさん」「何してんだあの女・・・・・・?」上から声が聞こえたのでナギは顔を上げると、そこには眠っている木乃香がフワリと浮かせたまま、一緒に千草も宙に浮いているではないか。「アンタ等がドタバタしていたおかげでこっちは鬼神復活の儀式が終わった、これでウチの本願も叶うっちゅう事や」「鬼神復活の儀式・・・・・・? 鬼神ってまさか・・・・・・?」「リョウメンスクナノカミ、あなたが現役時代に詠春と一緒に倒したと言われている伝説の鬼ですよ・・・・・・」「なんだとッ!」アルの報告にナギが驚いていると、地面はどんどん揺れが大きくなっていく。無論、この揺れは高杉や銀時達の方にも感じていた。「これはッ!」「オイオイオイなんかヤベエ事になってねえかコレッ!?」自身の様な揺れに不穏な気配を感じた桂に高杉とつばぜり合いをしながら銀時は叫ぶ。すると高杉は笑みを浮かべながら「・・・・・・・これが俺が欲しかった牙だ」「牙・・・・・・まさか鬼神かッ!」銀時と刃を交えていたにも関わらず桂の答えを聞いた瞬間、高杉は小さな声で呟く。「御名答」「っておいッ!」「銀時ッ! アレを見ろッ!」「あん? なッ! なんじゃありゃッ!」刃を交えていた状況から、高杉は一歩下がって彼等から離れる。その瞬間、祭壇の方から何か大きな物が湖の中から少しずつ起き上がっていくのが見えた。それはまさしく鬼の様な風貌をした怪物。翼を持ち、前と後ろには二つの顔、金色に光った体は60Mぐらいの大きさを誇っている。しかもそんな鬼の頭上では生徒である木乃香が眠った状態で千草と共に浮いているのだ。「木乃香殿ッ!」「あのガキ・・・・・・チッ!」桂が指差した方向に木乃香が見えた瞬間、歯がゆそうに銀時が舌打ちすると、高杉は満足そうに笑いながら彼を見据える。「さて、お手並み拝見といこうじゃねえか」「グオォォォォォォォォ!!!!!」高杉が粒いたと同時に彼の後ろにいるリョウメンスクナノカミが耳が痛くなるほどの咆哮を上げる。「“テメェ等が”勝つか、それとも“俺が”勝つか。祭りもそろそろクライマックスだ・・・・・・」狂気を帯びた高杉の目には一点の迷いも無かった。リョウメンスクナノカミ、銀時達が危惧していた猛り狂う鬼神が遂に目覚める。