目の前に広がるは薄暗い闇、まるでこの先にある物を警告している様な不気味なしずけさと共に銀時、新八、神楽の初代万事屋トリオで山を徒歩で登って行く。しかし三人の周りは重い空間が漂っていた。「・・・・・・」「・・・・・・」「・・・・・・ぺッ!」「・・・・・・あのさぁ神楽ちゃん・・・・・・・」隣で睨んで来る神楽に思いっきり唾を吐かれても銀時は怒らずに丁寧に彼女に話しかける。額には彼女の吐いた唾がついていた。「どうしてそんなに機嫌悪いの? 銀さんに言ってみ?」「話しかけるんじゃねえヨ、ロリコン侍」「ロリコン侍ってさ・・・・・・・その言い方は酷いんじゃねえの? ねえ新八君?」額を拭いながら銀時は反対方向にいる新八に尋ねる。軽蔑の眼差しを刺す様に銀時にぶつけながら、新八はボソッと呟いた。「話しかけんなよ三股侍」「・・・・・・」二人揃ってこの態度、銀時はそのまま黙ってしまう二人の間で寂しそうに頭を手で押さえる。「いやさお前等さ・・・・・・しばらく会わない内になんか冷たくなってない? 銀さんは常にお前等の事を心配してたんだよ? 俺がいない間あいつ等どうやって暮らしてるのかなぁっとか、確かに久しぶりの再会だから恥ずかしいのは分かるよ? でももう少し暖かく接しようぜ? 俺達仲良し万事屋トリオじゃん? 壁を作るのは止めよう」「新八、ロリコン侍が何か言ってるアル」「本当だね、僕等をほったらかしにして女の子達とイチャついてたクセにね」「・・・・・・ちょっとここで一旦ストップ」真ん中にいる銀時を無視して彼の話を始める神楽と新八に、遂に銀時は足を止めその場で深いため息を突く。早く高杉や夜王の所に行かなきゃいけないのだが、こんなぎこちない空気で決戦の舞台に行く事なんて出来ない。「んだよテメェ等さっきからロリコンだとか三股だとか・・・・・・三股は認めるけどロリコンはまだセーフだろうが」「いやセーフじゃないでしょ、思いっきり“ちっこい女の子”いたじゃないですか、楽々アウトですよ、コレ以上無いくらいに誰もがアウトと言えますよ、世界中の人達の声が一つになるぐらいアウトですよ」「ああチビの事? アレはお前アレだよ、アイツ実は600歳だから、色々会ってずっとあの体のまんまなんだよ、600歳だからセーフです~、後の二人だって14だけど見た目が大人っぽいからセーフです~」「そんな大ウソ子供でも騙せねえよ・・・・・・・え?」半ばヤケになっている状態で銀時は新八に向かって両手を横に振ってセーフのポーズを取る。だが新八はボソリとツッコんだ後、彼が後に言った事に口をあんぐりと開けて驚愕した。あそこにいた三人の内二人の少女はまだ14歳だと・・・・・・・?「じゅ、14ッ!? あの二人神楽ちゃんと同い年だったんですかッ!? てことは・・・・・・ぼ、僕より年下じゃないですかッ!」「マジかヨッ! オメーずっと私の事そういう目で見てたアルかッ! マジキモいアルしばらく私に近づかないでッ!」「お前みたいなゲロ吐き娘に興味なんてこれっぽっちも持った事ねえよッ!」声を荒げる神楽に銀時は額に青筋を立てて怒鳴る。確かに彼は今まで神楽の事をそういう目で見た事は欠片も無い。「いいかお前等・・・・・・大事なのは中身なんだよ」「あんな金髪デカ乳娘なんてどうせ中身は脂肪だけアルッ!」「いやそれ胸限定だろ」隙あらば金髪デカ乳娘ことあやかに悪態を突く神楽に銀時は即座に返す。すると今度は新八が指を突きつけて「じゃあ銀さんッ! コレだけは言わせてもらいますよッ! あのメガネを付けた女の子は絶対ヤバいですッ!」「何がヤベえんだよ、どっちかつうとあの三人の中では比較的常識人だから問題ねえぞアイツ」新八の言っている事に銀時は口をへの字にして首を傾げる。言っている意味が理解出来ないらしい、新八はそんな彼に首を激しく横に振った。「だからあの子は危険なんですッ! 常識人かつツッコミというポジションッ! ほらッ! 彼女がいる限り僕の立場はどうなるんですかッ!?」「モブに降格だろうな、まあたいしたことじゃねえし別にいいんじゃね?」 「原作レギュラーがモブに落ちる事をそんな簡単にあしらうなッ! いいですか銀さんッ! 志村新八という希代のツッコミが地道に築いたポジションをッ! あの女の子はいけしゃあしゃあと奪い取ろうとしてんですよッ! 許せるんですかこんな外道な行いッ!」「新八、話の論点がズレてる」「ツッコミキャラどころかメガネキャラまで奪われたら僕なんにも残ってないじゃないですかッ! これからどう生きて行けばいいんですかッ! このままだと僕はマジでモブキャラになっちゃいますよッ!」「いいじゃんなれよもう」論点がどんどん変わっていく新八の話に銀時はうんざりした口調で突き飛ばす。神楽も彼に向かってムッとした表情で口を開いた。「誰がツッコミ役やろうがどうでもいいアルッ! 私はあの金髪デカ乳娘の方がヤバいと睨んでるネッ! アイツ絶対私のヒロインポジション奪う気アルッ!」「心配するな神楽、元々お前はヒロインポジション立ってないから」「お嬢様口調でキャラ作ってる感もムカつくアルッ!」「お前が言うなアルアルチャイナ娘」怒りの根拠が意味不明な神楽に銀時はつっけんどんに返す。どうやら二人共銀時の恋愛事情より自分の立場を心配している様だ。口やかましく吠える新八と神楽に銀時はやれやれとそっぽを向いていると「うるせえな・・・・・・落ち着いて小便出来ねえじゃねえか・・・・・・あ」「「「あ」」」銀時が向いていた前方の茂みの中からガサゴソと音を立てて。ついさっき前にネギを助けに行ってしまったナギがこちらに気付いた表情で現れた。彼の出現に新八と神楽も叫ぶのを一旦止めた。「ナギさん・・・・・・アンタまだこの辺うろついてたんですか・・・・・・?」「何でお前等ここにいんだよ? おい銀髪天然パーマ、あの薄気味悪い夜兎ともう決着着いたのか?」「助っ人が来たからそいつに任せたんだよ、問題ねえよアイツなら。つうかお前こそ何でここにいんだよ」茂みから出て来たナギに眉をひそめて銀時が尋ねると、ナギは頭を掻き毟りながら「茂みの中にいたんだから小便してたのに決まってんだろ、すげえ出てきて困った」「アンタどんだけ小便出るんだよッ! 数分前にしたばっかだろうがッ!」「もう小便ヒーローじゃなくてただの小便野郎アル」「うるせえな、出るモンなら出した方がいいだろうが」ドン引きしている様な目つきで睨んで来る神楽にナギはぶっきらぼうに返すと、銀時の方へ視線を動かす。「てことはお前等も頂上目指してここまで来たのか?」「そうだよ、さっさと行くぞバカ親父、声変わりした息子が待ってるぞ」「俺に指図すんな」命令口調が癪に障ったのかナギは不機嫌そうに銀時に返すと、歩きだした彼の一歩前に出る。「・・・・・・」それに対して銀時は無言で足を速めて彼の前へ出た。「・・・・・・何の真似だ天然パーマネント?」「え? 何の事?」「とぼけんじゃねえよ、何俺の前歩いてんだよ、お前は俺の後ろだ」「あ? 普通主人公が一番前だろうが、テメェが後ろだ」「いやお前が」「いやテメェが」「いやお前だってつってんだろバカ」「いやいやテメェが後ろだろうがボケ」互いにどちらが前を歩くかをゆずらないナギと銀時。後ろにいる新八と神楽はそんな二人を観客席から眺めるように見てると、銀時とナギの足が徐々に早くなっていく。そして・・・・・・「テメェは俺の後ろだっつってんだろうがトリ頭ァァァァァ!!」「オメーが俺の後ろだクルクル頭ァァァァァ!!!」「ちょッ! いきなり走らないで下さいよッ!」些細なことでいきなり徒競争を始める銀時とナギに新八が叫ぶも二人にはもう聞こえない。「あ~もうあんな所まで行っちゃって・・・・・・ん?」「どうしたアルか新八?」消えて行く二人に新八は呆れた後、ふとナギが出てきた茂みと反対方向の方に目をやる。神楽が彼に首を傾げていると新八は、茂みの中へと入っていきある物を見つけた。「なんだろうコレ・・・・・・まるで漫画とかでよく見る魔法の杖みたいだ・・・・・・」「そんな棒っきれ拾ってないでさっさと行くヨ新八、早くしないとあのバカコンビ見失っちゃうアル」「あ、待ってよ神楽ちゃん」新八が茂みから見つけた不可思議な杖に神楽はなんの疑問を持たず、すぐに銀時達の方へ行ってしまう。新八も慌ててその杖を持ったまま彼女を追う。目指すは夜王と高杉達がいる山の頂。第六十七訓 凛と咲く桜の如く美しくありけり銀時達が高杉達の所へ目指して突っ走っている頃。真撰組対春雨軍の戦いはいよいよ大詰めと迫っていた。「ホチャーッ!」「あぎッ!」前に立ち塞ぐ天人達に一切恐れもせずに飛び蹴りをかますクーフェイ。「ほい」「うぐおッ!」彼女が天人の一人をノックアウトさせたと同時に、一緒にこの戦場に赴いていた生徒、楓は別の天人の首を腕で締めつけて失神させる。「ふむ、宇宙海賊の実力はこの程度でござるか?」「じゃんじゃんかかってくるヨロシッ!」互いに背中を預けて余裕たっぷりに構える楓とクーフェイの姿に、周りを囲んでいるにも関わらず天人達は彼女達の強さに足がすくむ。「な、なんなんだこのガキ共はッ!」「こんな事はありえんッ! 我等春雨がこんなたかが小娘如きに劣勢を強いられるなどッ!」「たかが小娘だと?」「ぐッ!」背後から鋭い殺気を感じた天人は咄嗟に振り返るがその直後、彼の心臓を黒い弾丸が貫く。屍となった彼の目の前には銃を持って優雅に構えている龍宮の姿が「残念ながらお前等が目の前にしている者はたかが小娘と決めつけられるレベルでは無い。特に私はお前等をなんの躊躇もせずに殺せるヒットマンだ」「き、貴様・・・・・・!」「我々の同胞を殺してタダで済むと思うなよ・・・・・・!」じりじりと怒りの表情をあらわにして近づいてくる天人達。だが龍宮は問題なさそうに銃を持ってない方の左手でポケットから手榴弾を一個取る。「タダでは済まないか」「「「「「!!!」」」」」手榴弾に付いているピンを器用に口で抜く。「それはよかった」「や、止め・・・・・・・!」ピンを床に吐き捨てた後、前方の天人達に向けて龍宮は野球のボールの様に手榴弾を投げる。そして投げた手榴弾にすっと彼女は銃を向ける。「タダより恐いモンは無い、そうするのも、そうされるのも」「うわぁぁぁぁぁ!! ぶべしッ!!!」天人が叫んだ瞬間、その場一帯に銃音と爆音が鳴り響く。手榴弾は叫び声を上げた天人の目と鼻の先で勢いよく爆発し、周りにいた仲間も巻き添えにした。だが彼女は無反応のまま、平然と他の天人達に銃を突き付ける。「悪いが早く済ませたいんだ」右手には小振りなハンドガンにして強力なデザートイーグル、そして何時の間にか左手にはかなりカスタムされているスナイパーライフルを持っていた。「私はお前等の顔なんかより先生の顔が見たい」あの死んだ魚の様な眼をした銀髪天然パーマを思い浮かべながら彼女は引き金を引く。三人の少女達が屈強な天人兵に対して善戦している。そんな光景を見て鬼の副長、土方はタバコを咥えながら後ろで疲れ果てている隊士達の方に振り返った。「テメェ等ッ! ガキ共がああやって戦ってるんだッ! 大人としてッ! 真撰組の隊士としてテメェ等がやる事はなんだッ!」「そうだ・・・・・・女子供の前でこんな無様な姿は晒せねえ・・・・・・」「俺達真撰組の剣はまだ折れちゃいねえ・・・・・・」土方の一喝を受けて倒れていた隊士達が次々と起き上がる。彼等もまた侍、魂が腐らない限り戦うと近藤と土方に誓っているのだ。そんな彼等を見て土方は腰に差す刀を抜いて思いっきり振り上げる。「春雨の軍団、そしてあそこにいるガキ共にも俺達の凄さを見せつけてやれッ!!!」「「「「「オオォォォォォォ!!!!」」」」」」怒鳴るように叫んだ土方の号令に隊士達は一斉に刀を振り上げ、敵陣の方に向かって走りだす。彼等の後姿を見送った後、土方はふとある人物の方に目をやる。「アンタは大丈夫か? その分だともう足腰立たねえ状況だと思うが」「ええ全くその通りです・・・・・・いやはやお恥ずかしい・・・・・・」「長・・・・・・」土方に声を掛けられたのはこの屋敷の持ち主である木乃香の父親、近衛詠春。先程まで戦っていたのだがとある理由で今は女中の一人に肩を持ってもらわないと立つ事も出来ない。「ぎっくり腰です・・・・・・やはりこの年で無茶は出来ませんね・・・・・・」「長は神鳴流の達人です、しかし今ではすっかりオッサンになってしまったので腰が弱くなり、長い戦いは出来ないのです」「自分の雇い主をオッサン呼ばわりしないで下さい、傷付くでしょ」「ったくしょうがなねえな」自分の肩を持っていてくれている女中に詠春がツッコんでいるのを見ながら土方は口からタバコの煙を吐く。「アンタはもう見学してろ、こっからは俺達真撰組が締めに掛かる」「ありがたいですね・・・・・・申し訳ございませんが私は安全な所で待機させてもらいます」「ああ」辛そうな顔で詠春は土方に頭を下げた後、女中と共に何処かへ行ってしまう。残された土方は咥えているタバコをプッと捨てる。「さてと、俺も行くか」握る刀に力を込め、土方は隊士たちのいる敵陣へゆっくりと歩いて行った。士気が下がった春雨の部隊。そこを見逃さずに土方の号令を受けた真撰組の隊士達は一斉に斬りかかった。そして彼等だけでは無く、ある男に服従されて逆らう事が出来ない少女も「うわ~ん、なんでウチがこんな事~~~」「ぐぎゃぁッ!」泣きそうな声を上げながら天人達を次々と斬り伏せて行くゴスロリ少女。沖田によって倒され、沖田によって調教され、沖田によってここに呼ばれ。元は彼等、春雨側の方で会った月詠だ。「もうイヤや~、あの人の恐怖の下で生きるのは~~~」「ウダウダ言ってないでさっさと仕事しろクズがッ!」「ひゃいんッ!」ぼやいている月詠の背中を何処から持って来たのかムチで引っ叩くのは、彼女と同じ境遇でありながらその状況を甘んじて受け入れているメス豚一号こと、柿崎美砂であった。「う~痛い~~~・・・・・・・」「ご主人様が頑張って戦っているのに何やってんのよッ! 口じゃなくて体を動かしないこのクソメガネッ!」「お前もな」「ん?」ヒリヒリする背中をおさえて泣いている月詠に向かって吠える美砂の頭をむんずと鷲掴みにする手。彼女達のご主人様である沖田総悟であった。「テメェもさっさと仕事しろ」「え? それどういう意味ですかご主人様・・・・・・のふッ!」「「「ごはぁッ!!」」」美砂の頭を鷲掴みにしたまま沖田は乱暴に天人達の方に目掛けて彼女をぶん投げる。その勢いで美砂は三人の天人を巻き込んで吹っ飛ばした。「使えねえなあのメス豚、爆弾でもくくりつけて奴等もろとも吹っ飛ばしてやろうか?」「ご、ご主人様~~ウチもう限界~~~! 帰らして~~~!」「・・・・・・この俺からその限界以上の苦痛を味わいてえのかメス豚弐号・・・・・・」「す、すみません~~!!」泣きじゃくる月詠に沖田がギロリと睨みつけると彼女はすぐに謝って敵の方に向き直って二刀の刃を振るう。間違いなく彼の目はマジであった。一種のトラウマを抱えている月詠が春雨相手と戦っているのを見た後、沖田は彼女に背を向けて一息つく。「こんな事ならもうちょっといい手駒を手に入れとけばよかったぜ」「こんな状況で・・・・・・!」「ん?」「何考えてんのよアンタはッ!」沖田のぼやきにツッコミを入れたのは突然彼の目の前にいる天人をかかと落としでKOして現れたアスナであった。「ていうかボサっとしてないでコイツ等倒しなさいよッ! アンタ達の仕事でしょッ!」「うるせえよエテ公、俺はサルよりゴリラ派なんだ。日光に帰れメスザル」「キーッ! もうアッタマ来たッ! この・・・・・・!」言いたい放題言われてアスナは堪忍袋がブチ切れて拳を振り上げて突っ込む。それに対して沖田もニヤリと笑って「上等・・・・・・」持っている刀を光らせ彼女めがけて走る。そして「うおらぁッ!」「あらよっと」「「うぐわぁぁぁ!!!」」アスナは沖田の背後から迫っていた天人を拳でぶっ飛ばし、沖田もアスナを後ろから襲いかかっていた天人目掛けて刀を振りおろして斬殺。出会って間もないにも関わらず上出来のコンビネーションだった。「中々やるじゃねえかメスザル、ご褒美に俺の調教リストに入れてやろうか?」「何がご褒美よサディストバカッ! 体が勝手に動いただけよッ! よく覚えてないけど、遠い昔に誰かに喧嘩の仕方を教えてもらったような気がするのよね・・・・・・」お互いに背中同士をくっつけた状態で沖田は口に笑みを浮かべて呟くと、アスナは彼の方へ向かずに叫んで、そして自分が何故こんな事が出来るのかと首を傾げる。「それにしても、なんでアンタなんかと一緒に戦わなきゃいけないんだか・・・・・・」「戦ってるのはそっちが勝手にやってる事じゃねえか。戦いのプロは俺達だ、素人はすっこんでな」「フン、誰がアンタの命令なんか聞くもんですか、私の事は私で決めるわよ」「この俺が直々に警告してやってるのに、死んでも知らねえぜぇ」「こんな所で死ねないわよ、絶対アンタより長生きするんだから」悪態を突き合いながら沖田とアスナは周りを囲んでいる天人達に向かって構える。「これ終わったら殺してやるからなサル」「その言葉そっくり返すわよドS」そう言い残して二人は反対方向に走った。反りの合わない二人は天人達を相手に立ち向かう。沖田とアスナが戦っていると、二人とは少し離れた場所で、大将である近藤は他の隊士達や楓達援軍を連れて来てくれた山崎と共に戦神の如く敵を殲滅していた。「かかれーッ!! 女子供相手に遅れを取るんじゃねえぞお前等ァッ!」「了解です局長ッ!」「アイツ等の戦いぶりを見て俺等も黙っちゃいませんよッ!」自分が先陣を取って近藤は隊士達を鼓舞しながら目の前の敵を次々と斬り伏せて行く。彼の剣の腕も土方や沖田に引けを取らないほど強い。更に荒くれ者の隊士達を一つにまとめ上げられる技量とカリスマ性を兼ね備え、何より誰にでも対等に接する近藤の姿は隊士達の誰もが認める大将なのだ。「さすがは俺達をまとめられる唯一のお方、局長のおかげで敵は総崩れだ。アレ?」「オイ、局長の背中・・・・・・・」「なんか憑いてね?」だが彼のそんな大きく頼もしい背中にいる一人の少女を見て隊士は一斉に我が目を疑った。最初にその疑問を突いたのは唯一旅館の浴衣姿である山崎。「あの~局長、一つ質問していいですか・・・・・・?」「なんだ山崎ッ! ていうかなんでお前浴衣なんだッ!」「あ、すみません着替えてる暇も無かったんで・・・・・・そんな事より局長」敵を倒して一旦刀を振るのを止めた近藤の背中に山崎は頬を引きつらせながら指をさす。「なんでその子、背中におぶってんですか・・・・・・?」近藤の背中にはさっきからずっとしがみついている夕映の姿がある。彼女の事を知っている山崎にはその光景は不思議でしょうがない。だが彼女をおぶる近藤は「ク、クレーンゲームで取った人形だッ! あまりにも愛着が湧き過ぎて持って来てしまったッ!」「嘘つけぇッ! そんな無愛想なツラした人形誰が欲しがるんだよッ! つうか俺その子知ってるからッ!」「無愛想とは失敬な、特になんの特徴も無いあなたよりはマシです」「思いっきり人形が喋ってるんですけど局長ッ! しかも俺の存在概念にケチつけて来る憎たらしい言葉を込めてッ!」こちらに振り返って失礼な事を吐き捨てる夕映を指差しながら山崎が叫ぶが、近藤はキッパリと「お喋り機能だッ!」「ねえよこんな相手に対して失礼極まりない事を発言する人形はッ!」山崎は即座に額に青筋を立ててツッコむ。「なんで俺達の大将が背中に女の子背負って戦ってんですかッ! しかもよりによってその子をッ!」「いやだってよ・・・・・・はッ! 山崎ッ!」「え?」困った表情で頬を掻いていた近藤だが、咄嗟に山崎に向かって血相を変えて叫ぶ。山崎もその叫びに一瞬きょとんとするが、すぐに背後から殺気が迫っているのを感じる。「幕府の犬がぁッ!」「しまったッ! ぐうッ!」「山崎ッ! この野郎がッ!」「ぎゃはッ!」隙を突いて背後から襲いかかって来た天人の剣に山崎は避けようとするも、左腕を斬りつけられてしまう。近藤は山崎を斬った天人に向かって走り、あっという間に瞬殺すると慌てて山崎の方に駆け寄る。「大丈夫か山崎ッ!」「イテテテテ・・・・・・大丈夫です、思ったより傷は深くないっぽいですから」確かに本人の言う通り山崎の腕はさほど深く斬られてはいない。だがかなりの出血だ、この状態で戦うのは難しい。「俺に構わず先に行って下さい・・・・・・・」「バカヤローそんな事出来るかッ! お前等一旦山崎を安全な場所へ移動させるぞッ!」「わかりました局長ッ!」腕を押さえて痛みをこらえている山崎に近藤は一喝した後、すぐに隊士達の方へ指示を出す。だが次の瞬間。「その任は皆様の代わりに私がやらせて頂きます」「え? うおわぁッ!」「うおッ!」女性の声と共に豪快な音を立てて山崎と近藤の間に何者かが落ちて来た。巨大なレールガンを持った機械人形、絡操茶々丸だ。「貴方達は、引き続き敵の殲滅の対処をお願いします」「何者だアンタ、見る限りからくりの様に見えるが・・・・・・・オイ山崎ッ! このからくり娘の事は知っているかッ!?」「え、ええ・・・・・・でも茶々丸さんって確かここに来れなかったんじゃなかったけ?」「色々会って援軍としてここに来れました」「あ、そうなんですか・・・・・・」短絡的に返す茶々丸に山崎が返しに困っていると、近藤は両腕を組んで彼女に話しかける。「本当に山崎の事を任せていいのか?」「はい、元より私は援軍として来ているのですから。あなた達の助けになる為に行動するのが私の義務です」「ようしわかった、お前等ッ! 山崎は彼女に任せて俺達は敵陣を突きに行くぞッ!」強く頷く茶々丸の目を見て近藤はニヤッと笑った後、隊士達の方へ振り向いて再び号令をかける。「いいんですか局長ッ! こんな見ず知らずの女に山崎を任せてッ! 相手が女だろうがからくりだろうが春雨の野郎共は容赦しませんぜッ!」十番隊隊長の原田が茶々丸の方を怪しむように眺めるが近藤はフンと鼻を鳴らす。「この世界の奴等は俺達の世界の奴等と負けないぐらいクセ者ぞろいだ、俺はそれに賭ける」「だけどよ局長・・・・・・」頑なに信じる近藤だが、原田はまだ腑に落ちない。山崎の友人である彼にとって、初めて出会った茶々丸に託すのは少し不安なのだ。だがそこに近藤の背中にしがみついている夕映が彼の方に振り向いて目を細める。「局長の命令を聞けないんですか、つべこべ言わずに大人しく従いなさい丸坊主」「局長・・・・・・何様なんすかそのガキ・・・・・・・?」「オイオイなんなんだあのガキ・・・・・・局長にくっついてるばかりか俺等に命令しやがったよ・・・・・・」「スッゲー上目線じゃね? まるで自分が上司だと言わんばかりにスッゲー上目線じゃね?」夕映の毒舌に原田が額にピキッと青筋を立てると後ろにいた二人の隊士もヒソヒソと彼女の事で会話している。非情に空気が悪くなった事に気付いた近藤はそんな彼等の声も無視して、額に汗をかきながら夕映をおぶったまま前方に向かって走る。「お、お前等俺に続けぇぇぇぇぇ!! 誰一人遅れを取る事は許さんぞぉぉぉぉ!!」「ちょッ! 待って下さいよ局長ッ!」「まだアンタの背中にくっつているガキの事聞いてないんですけどッ!?」「聞こえない聞こえないッ! な~んも聞こえませ~んッ!!」後ろから原田を初め隊士達の声が聞こえてくるが近藤はそれもスルー。そんな彼の後姿を見て仕方なく山崎の事や夕映の事は諦めて、原田達は彼の後に着いて行く事にした。残った山崎は出血する腕をおさえながら茶々丸と共に呆然と見送る。「どうしたんだ局長・・・・・・?」「怪我の方は大丈夫ですか山崎さん?」「ん? ああ、それほど重傷じゃないから大丈夫だよ」「・・・・・・そうですか」「?」ホッと一安心するかのような表情をする茶々丸に山崎は首を傾げる。常にポーカーフェイスの彼女がこんな表情をするのは珍しい。「それではお手数ですが、私の背中にあるバックパックを開けてもらえないでしょうか?」「え? それなら全然お安い御用だけど?」山崎の疑問も知らずに茶々丸は背中を見せて丁寧にお願いしてくる。それを素直に聞いて山崎は彼女の背中にあるランドセルの様なバックパックを怪我していない方の右手でカチャっと開けると・・・・・・「ケケケケケッ!」「うわぁぁぁぁぁッ!!」開けた瞬間、いきなり飛び出して来た小さな人形に山崎は驚きのあまり尻餅を突く。しかもこの人形、茶々丸にバックパックに収納が出来たのが不思議なくらい自分よりずっとデカイ剣を持っていたのだ。「オ~、ヨウヤクシャバノ匂イヲ嗅ゲタゼ」「ちゃ、茶々丸さんッ! 何この人形ッ!?」「私の姉のチャチャゼロです」「姉ぇぇぇぇぇぇ!?」茶々丸の言葉に山崎は彼女の差し出した手を取って立ち上がりながら思いっきり驚く。まさか彼女にこんなちっこい姉がいたとは・・・・・・山崎がそんな事を考えながら驚いていると、茶々丸の姉、チャチャゼロは巨大な剣を振り回しながら彼の方へ振り向く。「何ダコイツ? 殺ッチマッテイイノカ?」「ダメです姉さん」「イイジャン殺ラセロヨ」「ダメです姉さん」「随分と物騒なお姉さんだね・・・・・・」「すみません」駄々っ子みたいにごねながら剣を振り回すチャチャゼロに山崎が感想を呟くと、茶々丸は律義に謝る。「こんな姉ですが護衛としては申し分ない腕を持っています」「本当に・・・・・・? すっごい不安なんだけど・・・・・・」「ゴチャゴチャウルセエナ、殺スゾコラァ」「メチャクチャ不安なんだけど・・・・・・こっちに向かって凶器光らしてんだけど・・・・・・」「大丈夫です」山崎の不安をよそに、乱暴に剣を振り回しているチャチャゼロに視線を送りながら茶々丸は縦に頷いた。その自信は何処から来るのやら・・・・・・山崎が更に不安になっていると、茶々丸はそんな彼に口を開いた。「ただいまから山崎さんを安全な場所へ移動させるという任務を開始します。まずは山崎さん」「あ、うん」「腕を損傷しているあなたは私と姉さんの後ろに常にいてください。戦闘は私達でやりますので問題はありません」「ケケケ、使エネエ奴ハ大人シクシテナ」「・・・・・・」茶々丸と、彼女の肩に乗っかっているチャチャゼロにそう言われると山崎は無表情で黙る。しばらくして彼は負傷した腕を押さえながら首を横に振った。「悪いけどそれは出来ない」「・・・・・・え?」「そんなデッカイ武器を軽々と持ってこんな危ない所に来ちゃうんだし、君とその人形の実力が相当だってのはわかってるよ、けどね」負傷していない方の右腕で山崎は持って来た刀を鞘から抜く。「俺はこれでも局長や副長、沖田隊長達と同じ真撰組の隊士なんだ。女の子の後ろで隠れるなんて無様な真似は出来ない」「・・・・・・・」「左腕が使えなくなってもまだ右腕はある。俺はまだ戦える、君と一緒に」「山崎さん・・・・・・」キリッとした表情でまっすぐに目の前で戦っている隊士達や天人を見つめる山崎の姿に、茶々丸はボソッと呟いた。「・・・・・・侍とは不思議な生き物ですね」「ハハハ、バカな生き物でしょ?」「いえ、己の生き方をずっと全うできる素晴らしい生き物だと思います、銀時様や貴方も」「そ、そう・・・・・・」茶々丸にそんな事を言われるとは思ってなかったのか、山崎は後ろ髪を掻き毟りながら思わず顔を赤らめて苦笑する。すると、茶々丸の肩に乗っかっていたチャチャゼロがピョーンと彼の肩に飛び移って「照レテンジャネエヨ」「おごッ!」「ケケケケケ」頬に思いっきりワンパンチ。肩の上でケラケラ笑うチャチャゼロに山崎は頬をさすりながらしかめっ面をしていると、茶々丸は突然前方に向かって持っていたレールガンを片手で構える。「アームストロングサイクロンジェットアームストロング砲、発射開始10秒前」「え? 何やってんの茶々丸さん? ていうか名前長くないその武器?」いきなり自分の得物を構え出す茶々丸に山崎が恐る恐る尋ねると彼女は構えたまま彼の方へ振り向く。「山崎さん、一生に戦うと言ってくれた事感謝します。ですから私も、貴方の為に出来る限りの事をさせて頂きます」「それはありがたいけど・・・・・・・何する気?」「まずは・・・・・・」持っているレールガンがどんどん光を帯びて行く。山崎はそれを心配そうに見つめる中、茶々丸は彼に向かってさらっと答えた。「出来る限り敵を一掃させます」「・・・・・・へ?」山崎が口をポカンと開けた瞬間。茶々丸が持っていたレールガンの発射口が紅く光った。そして「チャージ完了、発射します」「「「「「「「「「「ギャァァァァァァァ!!!!!」」」」」」」」」」」」「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」地響きの様な轟音を立てて、前方で戦っていた天人を一瞬で赤い光でかき消してしまった。レールガンが発射態勢に入っている一方、松平のとっつぁんはショットガン片手に戦闘に参加できない少女達の護衛役を買って出ていた。「ぶるわぁッ! 何人たりともトシの花嫁に指一本触れさせねえぞッ!」「おおッ! すげえぜこのオヤジッ! 見た目通りの凄腕ヤクザだぜッ!」 襲いかかって来る天人をあっという間にハチの巣に仕上げるとっつぁんの豪快な銃術に、彼の後ろで避難していた和美の肩に乗っているカモが狂喜乱舞していた。しかし「ぬおわぁッ!」「何事ッ!?」「すっごいビーム飛んで来たッ!」豪快に名乗りを上げていたとっつぁんに向かって巨大な赤い光線が飛んでくる。とっつぁんは咄嗟にしゃがみ込んで回避。ハルナと和美は大げさなリアクションで紅い光線を見て叫んだ。「危ねえ危ねえ・・・・・・俺の頭取ろうとはいい度胸じゃねえか・・・・・・」「だ、大丈夫ですか・・・・・・?」頭をおさえて砲撃が飛んできた方向を睨みつけるとっつぁんにのどかは心配そうにしゃがみ込む。するととっつぁんは彼女の方へ向いて「市ぃ・・・・・・この信長の心配をする前に自分の心配をしたらどうだ・・・・・・?」「い、いや・・・・・・ここでは市じゃないんですけど兄さん・・・・・・・」「あ、声優ネタッスか?」「のどか、アンタはボケちゃダメよ。この世界で唯一のまともキャラなんだから・・・・・・」意味深なかけあいをするとっつぁんとのどかをみて和美の肩に乗っかっているカモがポンと手を叩くと、隣にいるハルナがジト目でボソリと口を入れる。そうこうしている内に、さっきまで天人達と戦っていた土方が彼女達の方へ走り寄って来た。「オイとっつぁんッ! さっき砲撃がそっちに飛んできたが大丈夫かッ!?」「おおトシ、安心しろオメーの花嫁はまだ生きてるぜ」「花嫁じゃねえつってんだろ・・・・・・!」立ち上がった後、のどかの後ろ襟を掴んで土方に方へ突き出してくるとっつぁんに土方はイライラした調子で返す。「ったく・・・・・・ま、そいつが無事なら俺はそれで構わん」「あの、十四郎さん・・・・・・」「ん?」「刹那さんの方は・・・・・・大丈夫なんですか・・・・・・?」「・・・・・・あいつか」懐からタバコを取り出して口に咥えた土方にのどかは不安そうに尋ねる。さっきから刹那の姿が何処にも無いのだ・・・・・・。土方はタバコを咥えたまま上を見上げる。「まだ戦ってんじゃねえか・・・・・・・?」「助けに行かなくていいんですか・・・・・・・?」「そんな無粋な真似はするか、アイツは一人の侍としてあの男と戦うと決めたんだ」「・・・・・・」「心配すんな」顔をしゅんとして頭を下げるのどかの頭を土方は安心させるように手を置く。「すぐにいつものバカ面ひっさげて帰って来る」確信してる様に土方はのどかにに向かって頷いて見せる。「なにせこの俺の直属の部下だからな」それは彼なりの彼女に対する敬意だった。星々が輝く夜空が天から見下ろし、春だというのに寒々とした風がなびく中。刹那と全蔵は今、近衛家の屋敷の頂上に立っていた。この二人の戦いは大広間の敷地ではどうにも収まらなかった様だ。「ハァ・・・・・ハァ・・・・・・まさかこんな所まで移動するハメになるとは・・・・・・」「お互い戦いに集中し過ぎて周りが見えなくなっちまってた様だな・・・・・・」屋根の上でバランスを取りながらも肩で息をして限界が来ている刹那に全蔵は呑気に呟く。彼も疲れている様だが表情には出さない。「お庭番衆として長年幕府を支えていた事がある俺でも、こんなに長い戦いは初めてだ」「そうか・・・・・・だが」背中に生える白い翼をヒラリヒラリと動かしながら、刹那は全蔵に向かって両手に握る死装束を構える。「この戦いももう終わる・・・・・・・」「その様だな・・・・・・」刹那の言葉に全蔵は両手に持った二つのクナイを構えて答える。長きに渡ったこの戦いも、遂に終わる時が来たのだ。「あの世で俺を怨むなよ」「それはこっちの台詞だ・・・・・・」互いに武器を構えて一定の距離を取ったまままま静かに見つめ合う。そして「行くぜぇぇぇぇぇぇ!!!」「うおぉぉぉぉぉぉ!!!」同時のタイミングで二人は相手に向かって突っ走る。全蔵はクナイ持ったまま滑るように、刹那は力強く咆哮を上げながら自らを呪わんとする妖刀を持って。「勝つのはッ!」「私だッ!」二つの影は勢いよくぶつかる。鉄の音を鳴らしながら、二人の武器は擦れ合って火花を散らした。「手裏剣で私の刀を止めれると思ったら大間違いだぞ・・・・・・!」「そうだな、クナイ“一本”じゃ数秒止めれるのがやっとだ」「!!」笑みを浮かべてくる全蔵の表情を見て刹那は表情をハッとさせた。両手で振り下ろした刀を今止めているのは、彼が右手に持つ一本のクナイのみ。確か全蔵が持っていたクナイは二本の筈・・・・・・「だがその数秒で・・・・・・!」「しま・・・・・・!」「テメェから大事なモンを奪えるッ!」ドスの効いた声をしながら全蔵は左手に持つクナイを光らせる。刹那がそれに気付いた時には二本目のクナイは右目に強く突き刺さっていたのだ。「ぐッ! ぐわぁぁぁぁぁ!!!」「どうだお嬢さん・・・・・・目玉を潰された感覚は」右目から流れる大量の血、それと共に灼熱の様にやってくる痛みに刹那は思わず雄叫びを上げる。今まで味わった事が無いほどの激痛、頭がどうにかなりそうだ。全蔵は彼女の右目にクナイを食いこませながらニタリと笑みを浮かべる。このままクナイを脳の方に押し込めば刹那は死ぬ。長い戦いもこれで終わりだ。だが「ぐぅッ!!」「何ッ!」正気さえ失ってもおかしくないぐらいの痛みがあるにも関わらず、刹那は刀から右手を離して自らの右目に突きささるクナイを持つ彼の左手を勢いよく掴む。そして残った左目で全蔵を睨みながら刹那はその手を「がぁッ!」「くッ!」力を振り絞って横に払う。その拍子に全蔵の持っていたクナイは横に吹っ飛び、クナイに突き刺さっていた自分の眼球も一緒にえぐられて飛んでいった。「光を半分失ってもッ!」「!!」「私にはッ!」残った左目で全蔵を睨みつけながら、刹那はすぐに両手で死装束を握り直して残った力を振り絞る。全蔵が持っていたクナイはピキピキと鳴りだし・・・・・・ガラスの様な音を立てて割れた「護るべきものがあるんだッ!」その瞬間、刹那は全蔵の左肩から腰までを袈裟がけに斬る。「なんてこった・・・・・・」数秒後、全蔵は両手を広げ。「お前さんの勝ちだ・・・・・・刹那・・・・・・・」「全蔵・・・・・・」体から大量の血を噴水の様に流しながらバタンと倒れた。武器も失い、重傷を負った彼にはもう戦える術は残されていない。刹那はさっきまで右目があった箇所を手で押さえながら呆然と彼を見下ろす。「目を奪った俺を怨むか・・・・・・・?」「・・・・・・右目が無くなってもまだ私には左目が残っている・・・・・・それに両耳もあるし鼻もある・・・・・・戦いにおいてこんな支障は微々たるものだ・・・・・・」「へ、どんだけ前向きなんだよお前・・・・・・」なんの問題も無さそうに喋る刹那に思わず全蔵は口元に小さな笑みを浮かべる。口から滲み出る血を手で拭った後、全蔵はそんな彼女にゆっくりと口を開いた。「楽しかったぜ・・・・・・」「私も・・・・・・お前と戦えた事を誇りに思う」互いに認め合った二人の苛烈な戦いは。「恥ずかしい事言ってんじゃねえよ、バーカ・・・・・・・」ようやく終わりを迎えた