激闘の末にアリカとの決着を付けた銀時。しかし戦いのダメージは浅くは無く。腹からおびただしいほどの出血が流れ出ていた。荒い息を吐きながら銀時はその場に膝をがくりと落とす。「クソ・・・・・・こりゃあ思ったより・・・・・・」「おい銀八ッ!」ずっと戦いを見守っていた千雨が銀時から預かった夕凪を持って、今にも壊れそうな橋を慎重に渡り銀時の方に歩み寄る。「大丈夫なのかよそれッ! し、死なないよなッ!」「耳元で喚くなこのツッコミメガネ・・・・・・俺の事より向こうで寝てるあやか起こしてこい」「でもお前の方が・・・・・・」「早く行けって・・・・・・」「・・・・・・わかった」顔に苦痛を滲ませながらも懸命にこらえて銀時は千雨の頭を軽く叩く。それに答えて少し心配気味だが、彼の指示通りに目の前で倒れているアリカをまたいで、急いで向こう側で倒れているあやかの方に向かって行った。「がはッ! がはッ!」「このままじゃと死ぬな貴様は・・・・・・」「誰のせいで死にかけてると思ってんだクソアマ・・・・・・」咳をする度に口から微量の血を吐く銀時に、まだ夜空を見上げているアリカがボソッと呟くと、銀時はすぐに悪態を突く。「お前傷を治せる魔法とか覚えてるか? 出来ればちょっとやって欲しいんだけど?」「生憎わらわはさっきいくつもある肉体強化の呪文をずっと同時に使用していた、もう魔力切れじゃ・・・・・・」「・・・・・・マジで?」「一種のドーピングじゃからわらわの魔力の消費も、肉体の損傷も回復するのが遅くなる・・・・・・つまりわらわは当分魔法も使えんし戦えんのじゃ・・・・・・」「ウソだろオイ・・・・・・このままだと俺死んじまうぞ・・・・・・」アリカの強さの源はいくつもある肉体強化の呪文を一度に同時に使用していた事から生まれていた。常人の魔法使いには出来ないが、元々多大な才能と魔力を兼ね備えている彼女だからこそ出来る芸当だ。しかしデメリットも生じて彼女は今、魔力も失い肉体も銀時との戦いで疲れ果てている。今の彼女は何もできないただの女性、それを知って銀時は酷く落胆する。一方、橋から下りて向こう側に辿り着いた千雨は、倒れているあやかを急いで抱き起こして頬を引っ叩いていた「いいんちょッ! さっさと起きろってッ!」「・・・・・・ん・・・・・・」「いいんちょッ!」「・・・・・・千雨さん?」ぼんやりと目を開けて虚ろな表情であやかは起きた。千雨はホッと安堵の表情を浮かべる。「いいんちょ・・・・・・よかった本当に・・・・・・」「・・・・・・なんで私、千雨さんに抱き締められてるんですの・・・・・・?」「細けえ事はいいんだよ・・・・・・」「・・・・・・はい?」一体何が何だか理解できていないまま千雨に急に強く抱きしめられてあやかはまだ眠そうな表情で首を傾げる。彼女を抱きしめたまま千雨は橋の上にいる銀時の方に急いで報告をした。「銀八ッ! いいんちょ無事だッ!」「・・・・・・」「・・・・・・銀八?」銀時に向かって嬉しそうに報告する千雨だが、それを聞こえた筈の銀時から返事が無い、ただ下にうつむいて息を荒げている。千雨はその不穏な気配に不安な表情になる。しかし彼女の不安をよそに更に銀時に不幸が襲いかかり始めた。「おい・・・・・・死にかけている貴様には悪いがもう一つ悪い事が起こるぞ」「バカヤロー、コレ以上ヤバい事なんてあるわけねえだろ・・・・・・」「もうすぐこの橋は壊れる・・・・・・」「はッ!?」倒れた状態で目の前にいるアリカの言葉に銀時は我が耳を疑う。だが確かに橋から嫌な音が聞こえてくる。橋を支えているロープが切れていく音。彼女の言う通りこの橋はさっきの戦いのせいで遂に限界を迎えてしまったのだ。「このままだと・・・・・・わらわと貴様は深い谷底に落ちて死ぬぞ・・・・・・」「呑気に説明してんじゃねえッ!」揺れる橋の上で銀時は言葉を吐き捨てた後、痛みを堪えて立ち上がり、急いで千雨達の方に行こうとするが、次の瞬間。後ろの方から橋を支える為の二本の重要な太いロープが同時に両方切れる音。「え? ぬおわぁぁぁぁぁ!!!」「銀八ィィィィィ!!!」後ろのロープが切れて銀時とアリカのいる場所が急に後ろに思いっきり傾く。このままだと暗い谷底にまっさかさま。そんな事はゴメンだと銀時は必死に手を伸ばしてかろうじてさっき切れたばかりの太いロープを片手一本で掴む。そしてもう片方の手を伸ばして何かを掴んだ。「絶対手ぇ離すんじゃねえぞッ!」「貴様・・・・・・! 何故わらわを・・・・・・!」腹からくる痛みを必死に耐えながら銀時がもう片方の手で掴んでいるもの。自分に重傷を負わせた筈のアリカの手だった。「チッ、やっぱこの体で二人分の体重は・・・・・・ぐッ!」「何をしているのかわかっておるのかッ! さっさと手を離せッ!」「うるせえ黙ってろ・・・・・・」手をしっかりと離さぬように強く握りながら、叫んでくるアリカに銀時は呟く。「あの世に逃げようたってそうはいかねえぞ・・・・・・」「銀時・・・・・・」「絶対にテメェを息子と正面から向き合わせてやる・・・・・・」手に汗がが出始め滑りそうになるも銀時は絶対にアリカの手を離さない。絶対に彼女を息子であるネギに会わす、それが彼の魂を動かす。そんな彼の姿を見てアリカはどうすればいいのかと途方に暮れていると、急に自分の体が上に向かって動き始めたのを感じた。千雨とあやかが女性の身でありながら急いで銀時達を救う為に橋のロープを引っ張っているのだ。「銀八ッ! 絶対落ちるんじゃねえぞッ!」「私が気絶してる間に何があったんですか全くッ! 千雨さんもっと力入れてッ!」「体育を『1』以外取った事が無い私にコレ以上力求めるなッ! ていうか腰に蹴り入れるな痛いッ!」「もっと腰に重心を保てという意味ですわッ!」「口で言えッ!」上で叫び合っている二人のおかげで銀時とアリカはどんどん上に上がっていく。なんとか助かる見込みが生まれた事に銀時がとりあえず安堵していると、手を繋いでいるアリカが困惑した顔で彼に口を開く「・・・・・貴様がいつも連れているあの者達は一体貴様のなんなのじゃ?」突然のアリカの質問に銀時は上を見上げたままボソッと呟いた。「・・・・・・教えねえ」第六十四訓 ただ愛のために場所変わり、ここは銀時達がいる山の頂上。湖が張り巡らされ、そこに設置されている謎の祭壇の目の前には卵の様な大きな岩が湖の中でそびえ立っている。そしてその祭壇の奥にある台に寝かされている少女。近衛木乃香だ。寝ている彼女の前で、高杉の部下の一人である千草が何やら祈祷を始めている。何を言っているのかさっぱりわからないが、鬼神復活の儀式であろう。だがそこにいるのは祈祷している千草と寝かされている木乃香だけではない。千草の後ろでは二人の男女が祭壇の手すりにもたれかけて立っている。一人は親玉である高杉、そしてもう一人は高杉に忠誠を誓う少女、アーニャの姿だった。「いつになったら鬼神は蘇るのよ・・・・・・」「・・・・・・知らねえよ」「それにあのいつもニヤけたツラしてる春雨の幹部は何処?」「いちいち俺に聞くなそんな事」どこか元気の無い表情のアーニャの問いかけに、高杉はそっけない態度で彼女に顔を背けてキセルを吸っている。そんな彼の姿にアーニャはもっと不安そうな顔を浮かべて最後の質問を尋ねた。「ネギが“ああなる”事をアンタは知ってたの・・・・・・?」「・・・・・・さあな」曖昧に返事をすると、高杉はアーニャを置いて千草と木乃香のいる方へ行ってしまう。残された彼女はしゅんとした表情でうなだれる。「ネギ・・・・・・」「小娘、この童の知り合いか・・・・・・・?」「!!」幼馴染の声としわがれた声が同時に聞こえ、アーニャはパッと声のした方に振り向く。何時の間にか自分のすぐ隣にその男は立っていたのだ。幼い顔立ちには似合わない鋭い眼光。ネギが死んだ事によって復活した夜王鳳仙の人格を持つネギの姿だった。「童の体を乗っ取ったこのわしが憎いか?」「当たり前よ・・・・・・! 占いでネギが死ぬ様な目に合う事はわかってた、けどまさかアイツ(神威)に殺されてアンタみたいな年寄りがネギの体を乗っ取るなんて・・・・・・!」「“年寄り”であろうともわしにかかれば貴様など一瞬に塵に屠れる・・・・・・小娘、言葉の使い方に気を付けろ・・・・・・」「・・・・・・」腕を組んで睨みつけてくるネギにアーニャは思わず後ずさりする。見た目は昔からよく遊んでいた幼馴染であるネギ。しかしその実態は数多の戦いでどんな敵であろうと殲滅し続けた夜兎最大の暴君。その事実はアーニャにとって大変ショックなものだった。「どうしてこうなるのよ・・・・・・私はネギと一緒に奴等を・・・・・・」目の前にいるネギには聞こえぬよう、アーニャはうなだれたままポツリと呟いていると、ある男が祭壇の方に向かってくる。アーニャが憎む春雨に所属している一人、夜兎族の一人である阿伏兎だ。彼がこちらにやって来ると千草達の方にいた高杉が彼に歩き寄る。「何かあったか?」「・・・・・・お客さんだ」「ん?」阿伏兎が目をやった方向に顔を向けると、ここからずっと先に桂一派と坂本一派の姿があった・・・・・・「もうここに来たの・・・・・・!」「フ、こりゃあ、大変だ・・・・・・」驚いている様子のアーニャに対して高杉は嬉しそうに笑みを浮かべる。まるで二人が来る事を待ち侘びていた様な。「銀時の姿はねえか・・・・・・残念だな久しぶりに四人揃うと思ったんだが・・・・・・」そう言って高杉は楽しげに笑みを浮かべながら歩きだす。「アーニャ、阿伏兎、お前等も来い、邪魔されたらたまんねえしな」「・・・・・・わかったわ」「あいよ、久しぶりに奴と戦えそうだな・・・・・・ん?」「阿伏兎・・・・・・貴様もここに来ていたのか」高杉の誘いに素直に頷いてすぐに彼の元へ行くアーニャを見て、阿伏兎も彼等の後をついていこうとしたが、ふとこちらに視線を送って来るネギに気付いた。「これはこれは、まさか本当にガキの体を奪って復活しちまうとは思いもしませんでしたよ“夜王殿”」「ほう、わしだという事をよくわかったな」「アンタの弟子から話は聞いていたんでね、それに姿は変われど声と目つきはアンタそのものだ」目の前にいる子供が夜王とすぐに察知した阿伏兎は呑気な調子で語りかける。こんな小さな子供があの鳳仙だというのは少し意外だが、見た目以外は夜王そのものの威厳を漂わせている。「生き返った気分はどうですか夜王鳳仙殿?」「最悪だ、わしは現世に興味などとうに失せておる、こんな所にいてもわしにはもう何も無い」「そうですかい、ま、この世界も悪くないんでなんか楽しい事が見つかるといいですな」ひょうきんな態度でネギに向かって笑いかけた後、阿伏兎は彼を残して高杉の方に行った。彼が言った事を頭の中でもう一度再生させてフンと鼻を鳴らす。「・・・・・・この世界にわしの欲望に応えれる者はおらん・・・・・・」ネギが不満げにしている頃、高杉はアーニャと阿伏兎を連れて桂と坂本達と対峙していた。「久しぶりだな、ヅラ、坂本・・・・・・」「高杉・・・・・・!」「アハハハハッ! 久しぶりじゃのう高杉ッ! 元気にしとったかッ!?」「この人が・・・・・・」遂に目の前に現れた高杉を前に、桂は目を見開き、坂本は呑気に笑う。彼の隣にいたネカネは初めて見た高杉の姿に驚くが、彼の隣にいた人物を見て更に驚いた。「アーニャッ!」「・・・・・・・」「やはりあなたはその人に・・・・・・・」「親を殺されたアナタならわかってくれると思った・・・・・・」「!!」「だけどやっぱり、誰もわかってくれない様ね・・・・・・」悲しそうにポツリと呟いた後、アーニャは腰に差す刀をネカネに見せつける。「ならば戦うまでよ」「アーニャ・・・・・・」「下がっときやネエちゃん、このガキには色々と借りがあるんや」うつむくネカネの前に桂の仲間である小太郎が前に出てアーニャを目の前にして拳を鳴らした。「女だろうが容赦はせえへえんで」「桂小太郎の仲間のアンタ程度じゃ私に勝てないわよ・・・・・・」「そいつはやってみればわかるやろ」アーニャの挑発に小太郎は微笑で返す。静かに対峙する二人。それを見ていた阿伏兎も坂本の方に視線を泳がす。「じゃあ俺はそこの男かね? 前に一度やり合ったが決着は着いてないかったからな・・・・・・」「アハハハハッ! 誰じゃったかのおんしッ!?」「あ~あ忘れちゃってるよこの人・・・・・・・」どうやら阿伏兎の事をすっかり忘れているらしい。豪快に笑い飛ばす坂本に阿伏兎が呆れたようにため息を突く。「じゃあ“今度は”その体にキッチリ刻みつけてやるか、夜兎族と戦う事がどれだけ無謀だという事を・・・・・・」「坂本さん・・・・・・!」「フフ、ネカネさん・・・・・・」こちらに近づいてくる阿伏兎に坂本の隣にいるネカネが心配そうに彼を見ると、坂本はサングラスを上に上げながらニヤッと笑い。「夜兎ってなんじゃ?」「うわ・・・・・・底知れないバカね本当・・・・・・」あまりにもバカすぎる坂本にネカネは思いっきり軽蔑のまなざしを彼に向けている頃、高杉と桂は腰に差す刀に手を置いて立っていた。「ヅラ、久しぶりにやるか・・・・・・」「ヅラじゃない桂だ」腰の刀を抜き両手に持って高杉を睨みつけながら、桂は後ろにいるエリザベスとアルにささやき声で話しかけた。「・・・・・・エリザベス、アル殿・・・・・・俺達が戦いを始めたらその隙に急いで祭壇に行き木乃香殿を救出して来てくれ・・・・・・」『アイアイサー』「エリザベスさん、会話してるのバレますよ」『マジで?』手持ちボードを掲げて返事をするエリザベスにアルがサラリとツッコミを入れる。幸い高杉は見ていないようだが・・・・・・「俺達を結ぶ糸がこんなにも切れねえか・・・・・・こりゃあ銀時が来るのも時間の問題だな、お前もそう思うだろ?」高杉も腰の刀を抜き不気味な笑みを見せつける。それに対して桂は面白くなさそうに刀を構える。「一刻もこんな絆は早く切りたいものだな、特に高杉、俺は誰よりもお前と一番関わりたくない。だが・・・・・・」刀を構えながら桂は高杉へ一歩前に出て、目を細める。「もし目の前に立ちはだかるなら、俺はいつでもお前を斬れる覚悟を持っている・・・・・・」「クックック・・・・・・俺もだ」「お前を斬るのは俺か銀時、幼馴染である俺達のどちらかがやるべきなのだ」「まだ俺の事幼馴染だと思ってくれるのか・・・・・・銀時もそうだが相変わらずお前も甘いな・・・・・・」「フン、この甘さがお前をそこまで変えてしまったのかもな・・・・・・」「そうだな・・・・・・!」桂との会話の途中で一瞬だけ真顔なるがすぐに狂気の笑みを浮かべ、高杉は桂に向かって走る。二人の刀は激しい音を立てて豪快にぶつかった。「簡単に死ぬなよヅラ・・・・・・!」「お前こそな・・・・・・!」山の頂にて一つのケジメを取る戦いの火蓋が今切って落とされた。高杉が動き始めたその頃、千雨とあやかはようやく銀時とアリカを救出。急いで二人は、腹を押さえてその場に倒れ込む銀時に駆け寄る。「銀八・・・・・・」「しっかりして下さい銀さん・・・・・・」「イテテテ・・・・・・」出血を止める為に銀時はなんとか手で押えるが一向に止まる気配は無い。それをみたあやかはすぐに銀時の後ろに回って後ろから抱きしめる様な感じで自分の手を彼の手の上に重ね、背中の方にもある傷穴を自分の体で塞ぐ。「無茶ばかりして本当に・・・・・・」「綺麗な手と服が汚れちまうぞ・・・・・・・」「あなたの血ならどんなに汚れても構いませんわ・・・・・・」「あのな・・・・・・」強く後ろから抱き締めて来るあやかに銀時は疲れた表情でため息を突いた。なんか恥ずかしい。銀時がそう考えていると、目の前にいる千雨は彼等の姿を見て居心地の悪さを感じたのか、複雑そうな表情で立ち上がり踵を返す。「じゃあ私・・・・・・助けがいないかちょっと周り探って来る・・・・・・」「おいおい大丈夫かよ、ここら辺一帯は春雨の天人共が一杯いるって真撰組の奴等に聞いたぜ」「そうですわ千雨さん、もし貴方まで取り返しのつかない事になってしまわれたら私・・・・・・」「心配すんなよ、危なくなったらすぐ戻るからさ・・・・・・」銀時とあやかの不安をよそに千雨は雑木林の中へ入って行ってしまった。「あいつって、意外と度胸あるんだよな・・・・・・」「・・・・・・銀さんの為だから当たり前ですわ」「いい部下を持って銀さんは幸せモンだよ・・・・・・・」そう呟いた後、銀時は両足を伸ばして後ろで介抱してくれるあやかの方に重心を傾けた。もう座る事さえもキツイらしい(目がかすんできた・・・・・・早くなんとかしねえと・・・・・・)「傷を付けたわらわが言うのもおかしいが・・・・・・」「あ?」「・・・・・・すまなかったな・・・・・・」銀時が目を開けるのもツラくなって来た頃、助けられた時からずっと黙っていたアリカがようやく重い口を開いた。悲しそうな表情でこちらに頭を下げる彼女に銀時がどう言っていいか困っていると、あやかの方はキッと彼女を睨みつける。「頭を下げても銀さんの傷は治りませんわよ、魔法使いのあなたなら傷を治す事ぐらい出来るんじゃないですか?」「無理じゃ・・・・・・わらわにもう魔力はこれっぽっちも無いし動く事もままならない・・・・・・助けになれなくて本当にすまん・・・・・・」「・・・・・・」弱々しくうなだれるアリカの姿を見て、あやかはもうそれ以上追及なんて出来なかった。仕方なくあやかは銀時の方に首を戻して、彼の意識が途絶えないよう顔を近づけて懸命に話しかける。「銀さんまだ意識ありますか? 目の前に死神とかいませんわよね?」「お前しか見えねえ・・・・・・」「ま、まあ銀さんったら・・・・・・こんな時にそんな嬉しい事言って下さるなんて・・・・・・」「いや別に口説き文句じゃねえから・・・・・・」顔を赤らめて嬉しそうに微笑むあやかに銀時は瀕死の状態ながらもすぐにツッコむ。“そういう訳”で言ったわけじゃない。あやかは銀時の腹の傷口を両手で押さえ、背中の傷口を自分の身で押さえながら。彼に顔を近づけて必死に介抱を続けた。「あなたは本当に自分の体を大切にしませんわね・・・・・・」「そういう性分だからな」「私はともかく千雨さんに心配ばっかかけちゃダメですわよ・・・・・・」「・・・・・・考えとくわ」「全く・・・・・・」曖昧に返事をする銀時にあやかは少々不満げな顔をするもすぐにクスッと笑みを浮かべる。「本当におかしな人・・・・・・私達が何言ってもその身が傷付いてまで私達を護ろうとして戦ってくれる・・・・・・私、あなたよりバカな人見た事ありませんわ、アスナさんよりバカですわ銀さんは」「バカレッド以上かよ、なんか泣きたくなってきたんだけど」「でも・・・・・・」更に強く銀時を抱き締めながらあやかは彼に微笑んだまま口を開いた。「そんなあなたが大好きですわ」初めて目を合わせながら彼女の言ってくれた言葉に銀時はどうしたもんかと彼女から目を背ける。「・・・・・・こんな時にサラッとぶっちゃけんじゃねえよ、反応に困るだろ」「旅館で私の気持ちは先に教えましたでしょ、あなたの事が好き。ぶっきらぼうでいつもけだるそうにしてるけど、時々誰よりもカッコよくなるあなた、全部ひっくるめて大好きなんです」「・・・・・・」「好きすぎてどうにかなっちゃいそうな事ばっかりあったんですわよ、なのに鈍感なあなたはいつもスル―して・・・・・・でもそんな鈍感な所も、また可愛くて好きです・・・・・・」「あの、あやかさん・・・・・・そんな言われると恥ずかしくなるんだけど・・・・・・ほら、人の目があるし・・・・・・」顔を赤らめた状態で鼓動を激しくしているあやかに銀時は苦笑したまま、チラッとこっちをずっと凝視しながら座っているアリカの方に目を送る。するとアリカはすぐにパッと顔を横に背けた。「わ、わらわの事は気にするな・・・・・・そのまま二人で続けてくれ・・・・・・」「変に気を遣ってんじゃねえぞコラ・・・・・・俺はコイツに押されるとなんにも出来ねえんだよ・・・・・・」意外にも空気を呼んでくれるアリカに銀時が悲痛な声で訴えると完全に熱の入っているあやかは彼女の言う通りに更に銀時を強く抱きしめる。「銀さん・・・・・・」「お前まだ酒が残ってんじゃねえか・・・・・・?」「酔ってません正真正銘の素面ですわよ、告白は大胆になる事が肝心なんです、だからその・・・・・・告白の記念としてキスしていいですか・・・・・・?」「も、もう勝手にしてくれ~・・・・・・」「で、では遠慮なく・・・・・・」そう言うとあやかは目をつぶって自分の唇を銀時の唇に押しつける。銀時は疲れもあるので抵抗もせずに仕方無くそのまま受け入れた。彼が何度も口から血を吐いていたので、銀時との二度目のキスは血の味が口の中に染み渡る。あやかはそう感じながらずっと彼と唇を押し当てた。隣で「わらわは何も見ていない、わらわは何も見ていないのじゃ・・・・・・」という声がするのも無視して。しかし彼女のそんな幸せの一時もそんなに長く続かなかった。前方の雑木林の奥からガサゴソと揺れている音が聞こえる。あやかはすぐに銀時との接吻を止めてそちらを不審そうに見つめた。アリカも雑木林に向かって身構えるが、あやかとの一息に身をゆだねていた銀時はグッタリしている。「千雨さんでしょうか・・・・・・」「いや・・・・・・これは複数で歩いている音じゃ・・・・・・しかも鎧を付けてる音も聞こえる・・・・・・」「ここに来て何回唇奪われてんだよ・・・・・・しかも神楽とタメの奴と・・・・・・」「銀さんお静かに・・・・・・・」ぼやき始める銀時に向かってあやかはすぐに彼の口を手で押さえる。目の前の雑木林から聞こえる足音がどんどんこちらに近づいてくる。しかもアリカの言う通り複数の足音。そして・・・・・・「血の匂いがプンプンすると思ったら・・・・・・」「俺達春雨のブラックリストに載ってる銀髪の侍じゃねえかぁ・・・・・・」「しかも奴は重傷の様だぜぇ、こりゃあチャンスだぁ・・・・・・」「こ、これが・・・・・・」「チッ! 春雨の天人共か・・・・・・!」雑木林の中から現れたのは身の毛のよだつ程奇怪な姿をした三人の春雨の天人。血の匂いに惹きつけられ、どうやらここの場所が奴等に特定されてしまったようだ。初めて見た天人達にあやかが強張っていると、銀時は彼の手を振り払い立ち上がろうとする。「お前ら下がってろ、アイツ等の狙いは俺だ・・・・・・・」「ちょっと銀さんッ! その体で何する気ですかッ!」「こんな傷たいしたこと・・・・・・ぐうぅッ!!」「銀さんッ!」作り笑いを浮かべてすぐに立ち上がろうとするが、銀時の膝はすぐに折れる。灼熱の様な痛みが全身に襲いかかり、一瞬その痛みで意識が飛びそうになった。それを見てあやかはすぐに彼の元に近寄り、アリカは春雨の天人達を前にしてヨロヨロと起き上がって近づいた。「こいつはわらわの獲物じゃ・・・・・・・貴様等は邪魔するな・・・・・・!」「あ? テメェは『金美鬼』じゃねえか、随分と弱っている様だな・・・・・・」「春雨の幹部として命令するッ! 今すぐここから立ち去れッ!」刺す様に睨みつけて啖呵を切るアリカ。だが春雨の先頭にいる鎌を持った天人は弱っている彼女と銀時の姿を見てニタリと笑みを浮かべた。「そうはいかねえ、こちとら目の前に“二つ”も御馳走があるんだからな・・・・・・」「な・・・・・・!」「春雨を脅かす銀髪の侍も、前から気に入らなかったテメェをここでまとめて殺すのも悪くねえって事だよ」「まとめてあの世に送ってやるぜぇッ!」どうやら銀時どころか仲間であるアリカさえも殺そうと連中は企んでいるらしい、三人が一斉に武器を構えるとアリカがぐっと歯を食いしばる。「この下衆共・・・・・・!」「なんとでも言いやがれ、おらッ!」「ぐぎッ!」弱っているアリカの腹に先頭にいた天人が前蹴りを彼女に腹に浴びせる。その場で崩れ、腹を押さえて苦しそうに咳をするアリカ。更に今度は別の天人が彼女の頭を強く踏みつけた。「ヒャ~ハッハッハッ! なんだそのザマはッ! いつもの威勢はどうしたんだッ! ああッ!?」「くそ・・・・・魔力があればこんな奴等に・・・・・・ぐッ!」「オラオラどうした金美鬼ッ! もうくたばっちまったのかッ!」 「ぐうッ! ぐはッ! ごふッ!」「ネギ先生のお母様・・・・・・! もう止めて下さいッ!」頭の次は何度もアリカの背中を笑いながら踏みつける天人にあやかは銀時を抱きかかえながら悲痛な声で叫ぶ。そして一旦銀時を地面に寝かせ、傍に落ちてあった彼の所持品である野太刀、夕凪を拾う。「さもないと私が・・・・・・!」「止めろあやか・・・・・・! そいつ等はお前みたいなガキにやられる様な連中じゃねえ・・・・・・!」「私だって銀さんみたいに誰かを護る事だって出来ますわッ!」「あやか・・・・・・」「もう護られてばっかりなんてイヤなんですッ!」銀時に向かって声を上げた後、あやかは恐怖に怯えながらも夕凪の鞘を抜いて、目の前でほくそ笑む天人に向かって刀を構えた。「ほう、ガキのクセに俺達に一人で盾突くってか・・・・・・?」「おもしれぇなこのガキ・・・・・・殺しがいがあるぜ、ヒッヒッヒ・・・・・・」「こ、こ、この二人は私が護ります・・・・・・!」声も震わせ身も震わせ、されと目には一点の曇りも無い。手に持つ夕凪はカタカタと音を鳴らして震えているが、あやかは勇気を振り絞ってグッと強く握り「か、かかってきなさいですわコノヤローッ!!」「じゃあまずはッ!」「テメェから殺してやるッ!」「ヒャッハーッ!」睨みをきかせながらあやかが吠えると、三人の天人は一斉に鎌や刀、棍棒を持って襲いかかって来る。涙目になりながらもあやかは逃げずに夕凪を構える。(この人を護れるなら私は・・・・・・)あやかは真っ向から向かってくる敵と対峙する。だが次の瞬間。「「オラァァァァァァ!!!!」」「「がふぅッ!」」「な、なんだぁッ! なんだテメェ等はッ!」「・・・・・・え?」いきなり両サイドにいた天人が何者かに後頭部から一撃を食らって速攻で撃沈。リーダー的存在であった天人は突然の出来事にその場で足を止め慌てた様子で周りを見渡す。倒れた天人の近くに立っていたのは銀時でもアリカでもない。「誰だか知りませんが、そこのダメ人間を護ってくれてありがとうございます」「こっからは私達の出番ネ」「あ、あなた達は一体・・・・・・!」呆然としているあやかの方へ笑いかけるメガネを付けた少年とチャイナ服の少女。彼女は混乱している様だが銀時はハッと顔を上げる。「お、お前等・・・・・・!」「全く、久しぶりに会いに来たのになんですかその格好は・・・・・・ま、どうせまた無茶したんでしょうけど」「女の子に守られるなんてカッコ悪いアル、それでも侍かヨ」いつも通りの悪態をついてくる少年少女に銀時は思わず痛みも忘れて立ち上がる。江戸で常に顔を付き合わせていた二人が、今目の前に立っている・・・・・・・「どういう事だよ一体・・・・・・どうしてお前等がここに・・・・・・!」「銀八ッ!」「銀さんッ! 千雨さんが戻ってきましたわッ!」銀時が髪を掻き毟りながら理解に苦しんでいると、助けを呼ぶ為にメンバーから抜けていた千雨がこちらに向かって走って戻ってきた。「ハァ・・・・・・ハァ・・・・・・! やっぱり私より先にこっちに着いてたんだコイツ等・・・・・・」「もしかして千雨さんがあの人達を・・・・・・?」「適当に山の中彷徨ってたら偶然出会ってよ、誰だか知らなかったんだけど私、無我夢中で助けてくれる人探してたから・・・・・・とりあえず事情を説明したんだけどそしたらすぐにすっ飛んで行きやがった・・・・・・アイツ等何モンだ、お前の事知ってる見たいな感じだったぞ・・・・・・?」「・・・・・・・」息を荒くさせながら千雨は説明するが、銀時はまだ頭を掻き毟りながら混乱している様だ。千雨はふと天人と対峙している二人の少年少女の方に目を向ける。「あれ? よく見ると二人しかいねえじゃねえか?」「何?」「あの男何処行ったんだ?」「は? 男?」首を傾げる千雨に銀時は眉をひそめる。あの二人と一緒にいた男?一体誰の事言っているのだ・・・・・・?「おい千雨、男ってどんな奴だ?」「ん? 赤髪でローブを着た20代ぐらいの男だけど?」「・・・・・・誰?」「だから知らねえって、けどなんかネギ先生と似てたな」「ネギ先生と・・・・・・」「似てる・・・・・・?」千雨の情報に更に謎が深まっていく。ネギとよく似た男・・・・・・? 何故そんな人物があの二人と一緒に・・・・・・銀時とあやかが深く考え込んでいると、さっき天人にやられていたアリカがフラフラした足取りで彼等の方にやって来た。「そ、それはまことか・・・・・・?」「え? そ、そうだけど・・・・・・」「まさか・・・・・・いやそんな事絶対にありえぬ・・・・・・あの男は既に死んで・・・・・・!」急にしどろもどろになって首を何度も横に振るアリカ。そんな彼女を銀時が不審そうな表情で尋ねようとすると・・・・・・「おい、そこの鎌持ったオッサン」「ぬッ! 今度は誰だぁッ!」「俺が誰だって? 生憎、低俗な小悪党に名乗る名前なんざ持ち合わせてねえよ」突如上から聞こえる男性の声。呼ばれた天人が声がした方向へ見上げる。一本の木の上にローブをなびかせ立つ男。月の光による影で顔はよく見えない。だがメガネを付けた少年とチャイナ服の少女はそんな彼に顔を上げて呼びかける。「あれ? 何処行ってたんですか」「いやちょっと、こっち向かう途中で草むらで小便してた」「おい小便男、さっさとこっち下りてこいヨ、そんな所でカッコつけて恥ずかしくねえのか」「んだよッ! ヒーローはこういう高い場所でクールに決めるのがセオリーだろうがッ!」「すみません、小便って言ってる時点で既にヒーロー路線から脱線してます」「早く下りてくるアル小便ヒーロー」「誰が小便ヒーローだッ! ああもうお前等のせいでグダグダだよチクショウッ! 下りればいいんだろ下りればッ!」男は半ばヤケクソにそう叫ぶと、木の上からこちらにバッと飛び降りる。下にいる天人を下敷きにして「ばおッ! き、貴様ぁッ!」「あれまだ生きてる、えい」「ギャァァァァ!!!」下敷きにした天人に更に手から電撃を放って追い打ち。天人は絶叫を上げた後すぐにバタッと倒れた。「もうちょっとカッコよく登場したかったんだけどなぁ俺・・・・・・」ボリボリと頭を掻き毟りながらため息をついた後、男は倒した天人の上から下りた。銀時達はそこで初めて彼の顔を見た・・・・・・千雨とあやかは彼の事はよく知らない。だが銀時とアリカは彼の顔を覚えている。特にアリカにとって彼は・・・・・・「そんな・・・・・・」「お前・・・・・・!」「「?」」男の姿を見て驚愕している銀時とアリカに彼の事を知らないあやかと千雨は首を傾げていると。千雨の言う通り赤髪でローブを着た、ネギによく似ている風貌をしている男は、さっき助けに来てくれた二人の少年少女を連れてこちらに近づいてくる。「迎えに来るのが遅れて悪かったな、アリカ・・・・・・」「ナギ・・・・・・お主生きていたのか・・・・・・」死んでいた筈の男が目の間に現れ、アリカは思わず目から一筋の涙を流す。そんな彼女を、“一人の夫”として男は強く抱きしめた。「やっとアンタに会えた・・・・・・」「バカ者・・・・・・こんなに待たせおって・・・・・・」死んだと思われていたアリカの夫でありネギの父親。サウザンドマスターことナギ・スプリングフィールドだった。あやかと千雨はその事実に大変驚いていた。「ナギッ!? ナギってもしかして・・・・・・ネギ先生のお父様のッ!? お亡くなりになってたんじゃないですかッ!?」「えッ! これあのネギ先生の親父ッ!? マジでッ!?」「ああ、そうだよ・・・・・・それであいつ等が・・・・・・・」銀時は二人の会話にしんどそうな表情で入って来ると、ふとネギの父親であるナギが連れて来た二人の方に顔を向ける。すると二人は彼にゆっくりと笑いかけた。「迎えに来ましたよ、銀さん」「相変わらずのアホ面アルな」少年の名は志村新八、少女の名は神楽。かつて江戸にいた頃銀時が家族同然に付き合っていた万事屋メンバーの二人だ。久しぶりに対面できた二人に銀時が思わずフッと笑う。そしてそのまま後ろにバタリと倒れ、白目をむいて意識を失った。「銀さん死んじゃイヤァァァァァ!!!」「ヤベェそういえばコイツ死にかけてたんだッ! おい銀八ッ! 銀八ィィィィィ!!!」「ちょっとッ! 久しぶりに会ったのになんでいきなりぶっ倒れてるんですかッ! ナギさん早く何とかして下さいッ!」「あ、ごめん後にして」「おいこのトリ頭ァァァァァ!! イチャついてないでさっさと銀ちゃん治せやコラァァァァ!!!」感動の再会も束の間、一瞬にしてその場は完全にパニック状態となった。場所は大きく変わってここは麻帆良学園。すっかり夜になった今、生徒はおろか教師さえも帰宅して、学園全体は暗闇に閉ざされている。ただ一つの部屋を除いては・・・・・・学校で一番の権力者を持つ者がいる『学園長室』だけは唯一明りが付けられているのだ。「トホホホホ、なんでワールド級に偉い身分のワシがこんな目に・・・・・・こうなったらタカミチ君を呼んで・・・・・・・あ、ダメじゃ自分探しの旅に出ててしばらく帰って来ないんだっけ? もうクビにすっかな~アレ」学園長室で独り言をつぶやきながら、机に座ってペッタンペッタンと何かにハンコを押す学園の最高責任者である学園長の姿があった。「ていうかこれしんど過ぎじゃね? もうちょっと楽な方法無かったの? ハァ~、孫の命が助かる前にワシが天に昇るかもしれんのぉコレ・・・・・・」ブツブツとぼやきながら学園長は周り一帯に山の様にドッサリある紙一つ一つにハンコを押していく。学園長がハンコを押している紙には短くこう記されていた。『エヴァンジェリンの京都行きは学業の一環である』