近衛家の屋敷の大広間は現在、豪快な嵐が巻き起っている。援軍として参戦した真撰組達の介入により状況は一変。近藤率いる血気盛んな隊士達に春雨の天人達は苦戦を強いられていた。しかも真撰組だけではなくあの男の姿も・・・・・・「死ねぃッ! 虫ケラ共ッ!」「「「ぎやぁぁぁぁッ!!」」」「おおッ! さすがとっつぁんだッ!」左手に持つショットガンで三人の天人を撃ち殺す、まるで極道の様な風貌とグラサンを付けた男。近藤達真撰組を組織した人物であり、彼等をここに連れて来た本人、松平片栗虎だ。敵陣突破して豪快に天人達を切り刻みながら、近藤はとっつぁんの姿を見て驚く。しかしとっつぁんは不満げに鼻を鳴らした。「こんな奴等の相手するよりオジさんはあそこにいる綺麗なネエちゃん達を相手にしてぇよ、一人ぐらいケツ触ってもバレねえかな?」「アンタ本当に警察?」目の前で戦っている屋敷の女中達を眺めながら警察にあるまじき行為をしようかと考えているとっつぁんに近藤は軽くツッコむ。「これが終わったら俺が一緒に飲んでやるよ」「なんでお前みたいなゴリラのツラ見て酒飲まなきゃいけねえんだよ、酒がマズくなるだろうが」「ぐはぁッ!」悪態を突きながらとっつぁんは目の前にいる天人に向かって躊躇なくショットガンを放つ。天人の頭は一瞬で吹き飛び、周りの仲間もとっつぁんの存在に段々怯え始めたそれを見てとっつぁんは休憩とばかりにタバコを一本取り出して優雅に吸い始め、後ろにいる近藤に振り返らずに突拍子もない話を始める。「ところで近藤、テメェが連れ込んだ四人の一般市民、どっか行っちまったぞ」「何ッ! マズイな俺達と一緒に行動しろってちゃんと言ってたんだが・・・・・・」「そして近藤、オメーいつになったら結婚するんだ? 三十路近えんだからさっさと所帯を持て」「そっからその話にいく普通ッ!?」いきなり唐突に話の内容が変わった事に近藤がツッコミをいれるがとっつぁんはお構いなしに話を続けた。「で? どうなんだ?」「悪いけどまだそんな予定はねえよ・・・・・・お妙さんが全然その気じゃねえんだ」「いやお前結婚以前に付き合ってもねえじゃねえか、むしろ汚物の対象して見られるぞあの子に」「違う、お妙さんは自分の心に素直になれずに俺の前に巨大な壁を作ってるだけだ。それを俺が愛という名の熱い拳でブチ壊す」「近藤、その壁よく見ろ、テメェの拳を串刺しにする毒を仕込んだ剣山が突き出てるから」後ろで奮闘している近藤にさらりと返してとっつぁんはタバコの煙を天に向かって吐く。「オメーはどうしてそんなにオジさんを困らせるんだ」「ヒャーッ! 仲間の仇だぁッ!」「うるせえ」「ぎッ!」そして上を向いたまま近づいて来た天人を見向きもせずにまた撃ち殺す。悲鳴を与える隙も残さず瞬殺だった。とっつぁんは銃を下ろして耳の後ろを掻きながらどうしたもんかと悩む。こんな状況よりも近藤の未来の方が心配なのだ。このままだと彼がずっとお妙を追い求めていると一生独身の可能性がある。ていうか確実だ親の様な存在のとっつぁんはため息交じりに彼の方に振り返る。「諦めろ近藤、きっとまだ地球にはお前の事を好きになれるという悪趣味な女もいる・・・・・・」近藤の方に振り返った直後、とっつぁんは思わず口からタバコをポロっと落とした。おかしな光景が視界に入ったからだ。「おいゴリラ・・・・・・」「ああもうとっつぁんッ! 結婚の話はまた今度にしてくれよッ! 状況わかってるッ!?」「いやまずお前の状況の方がオジさん気になっちゃうんだけど?」「え? どういう意味それ?」こっちを見ずに次々と天人を斬っていく近藤を見て、とっつぁんは彼に向かって指差しながらポツリと呟く。「お前の背中、座敷わらし憑いてるぞ」「座敷わらし? とっつぁんこんな時に変な冗談止めてくれよ、ハハハ」いきなりおかしな事を言うとっつぁんに近藤は振り向いて苦笑いした後、一応自分の背中の方に顔を向ける。するとそこには・・・・・・何時の間にか自分の背中に張り付いていた夕映の姿が合った。「アレェェェェェ!? 何でユエユエ俺の背中に憑いてんのッ!? 軽くて全然気付かんかったッ!」「あなたにくっついていると落ち着くので」こちらに向かって驚いた様子で叫ぶ近藤に夕映は無表情で問題なさそうに口を開く。恐らくさっき前に近藤が彼女を助けた時に取り憑いたのだろう。「お気になさらず続けて下さい」「いや気になるからッ! なんでこんな血飛沫舞う戦場で隊のリーダーが背中に座敷わらし背負って戦わないといけないのッ!? 早く下りなさいッ!」「イヤですぅ」「あらヤダこの子ッ! なんかヤモリの様に背中に張り付いて取れないッ!」「なんでお母さん口調なんですか」上着に張り付く夕映を近藤は必死に振り落とそうとするも彼女は一向に離れる気配は無い。敵と戦いながらそんな事をしている近藤を見てとっつぁんは顎に手を当てて顔をしかめる。「おいゴリラ、そのミッフィーみたいなちっこいガキ誰だ? まさかお前モテないからって遂に法を破る様な真似を・・・・・・」「いやとっつぁん誤解だッ! 俺とこの子はただの・・・・・・・」背中に張り付く夕映をとっつぁんの方に見せながら近藤が焦り顔で説明しようとする。しかしその前に彼女がとっつぁんの方に顔を前に出して・・・・・・「ただの夫婦です」「何ィィィィィィィ!! この腐れゴリラッ! テメェなんで俺に隠してたァァァァ!!」「ちょっと変な冗談は止めてぇぇぇぇぇぇ!!! このオジさん冗談通用しないからァァァァァッ!」あまり驚くリアクションが取らないとっつぁんが、夕映の電撃発言に口を開けて叫ぶ。後に彼女の発言により真撰組の中で大問題が発生するのだが、それは“もう少し”先の話であった夕映を背負った近藤ととっつぁんが戦いそっちのけで別の話題で話しあっている頃、未だ戦闘中の土方は援軍が来た事によって俄然やる気が出て来た。さっきまで疲労の影が見えていたも、高まる士気と共に何時の間にか疲れも吹っ飛んでしまう。「ぐあぁッ!」「二十六ゥッ!」「ぬべぇッ!」「二十七ァッ!」次々と斬り伏せていく春雨の天人達の返り血を浴びながら、土方は何人斬ったかを数えている。その形相はまるで鬼の様だ。「あふぅッ!」「二十八ィッ!」「フフ、仲間が来た途端、刀のキレが上がりましたね」「うぎゃぁッ!」「へ、そういうアンタも随分と派手に暴れ回るじゃねえか」近くで戦っている詠春から言葉を貰うと土方は口元に笑みを浮かべて返す。既にこの二人によってかなりの敵がやられている。詠春は突っ込んできた敵を一太刀で斬った後、彼に向かってフッと笑いかけた。「私も熱くなってしまったんですよ、絶望的な状況に味方が来てくれたんです、これほど心強い事はありません」「熱くなりすぎて無茶するなよ、アンタもいい年なんだろ」「なんのなんの、これを機会に現場復帰を考えるぐらいまだイケますよ」楽しげにそう言うと詠春は後ろからやってくる敵の気配に気付いて、瞬時に振り返って一閃。そのまま土方を置いて敵陣に斬りかかる。確かに剣の腕はかなり高い。自分の所の組織に欲しいぐらいだ。華麗な剣撃を見せる詠春を見ながら土方はそんな事を考えていると、横から不穏な気配が・・・・・・「三十ッ!」「ぬおぉぉぉぉぉ!!」いきなりこちらに向かって突き出して来た仲間である沖田の刀を土方は慌てて後ろに飛んで避けた。すると沖田は悔しそうに舌打ち。「惜しい・・・・・・」「何が惜しいだテメェェェェェ!!! 俺じゃなくて敵を斬れッ!」「いや、記念すべき三十人目は土方さんって決めてたんですけどねぇ。しょうがない、土方さんは五十人目にしまさぁ」「お前にだけは背中絶対任せねえからな・・・・・・」爽やかな顔で腹黒さを露出する沖田に対して土方が苦々しい顔を浮かべていると・・・・・・「呑気に喋ってんじゃねえッ!」「何ッ!」後ろから来る本物の殺気、慌てて振り返るとそこには猿、豚、河童の姿をした三人の天人が同時に刀を掲げてこちらに飛びかかって来る。仲間の援護が来たという安心感のおかげでほんの少し警戒心を解いていた所に思わぬ強襲。自分の油断が招いた事に土方は顔を苦ませながら、慌てて飛んできた天人を刀を斬り落とす。「テメェ等なんぞに殺されるかァッ!」「「ぐえぇッ!!」」二人は斬った、しかし三人目の猿の天人は他の二人より知恵と実力があったのか土方の一閃を避けて横に回り、瞬時にまたもや彼の背中を取る。「早い・・・・・・!」「土方さんッ!」「ここでくたばりやがれェェェェ!!!」「チィッ!」笑いながら刀を振り上げる天人に土方は首だけ後ろに振り向いて目を見開く。他の敵と戦いながら沖田は思わず彼の名を叫んだ。しかし叫び声だけでは彼を助けられない。こんな所で無様に死ぬのか?土方がそう覚悟した時。「はあッ!」「がぁ・・・・・・!」「な・・・・・・!」殺しにかかって来た天人が目の前で真っ二つに両断された。一瞬の出来事に土方は我が目を疑う、詠春や女中達、他の隊士達もあっちで戦っているし、沖田も目の前で別の敵と戦っている。だが自分を殺しにかかって来た天人は今、刀によって斬り伏せられた。ここに残る事を許可しなかった筈の彼女によって「・・・・・・」「ハァ・・・・・・ハァ・・・・・・」「どうしてテメェがここにいる・・・・・・」「これで私も・・・・・・地獄行き決定ですね・・・・・・・」ゆっくりと土方は後ろに振り返る。そこには息を荒げながら血が滴り落ちている刀を持ち、顔についた天人の返り血を、刀を持ってない方の腕で拭う刹那の姿があった・・・・・・・。「なんでここに戻ってきた・・・・・・お前はあの小娘を助けに・・・・・・」「迷いましたがお嬢様の救出は桂に託しました、彼等と共に行くより、私は土方さんを護る為にここに・・・・・・」「バカヤローが・・・・・・」申し訳なさそうに項垂れる刹那の顔を見て土方は顔を手でおさえる。こんな事自分は望まなかった。「例え天人だろうが、お前がさっきやった事は人を斬った事となんも変わらねえんだぞ・・・・・・」「でもそうしないと・・・・・・土方さんを護れませんでした・・・・・・」「・・・・・・」「危なっかしいんですよ本当、なりふり構わず私達の盾になって傷付いて・・・・・・のどかさんにコレ以上心配かけてどうするんですか・・・・・・」項垂れたまま刹那が言った言葉に土方は難しそうな表情をしたまま黙りこむ。確かに今、彼女の力によって護られた。自分が護るべきだと思っていた彼女に・・・・・・・「だから決めたんです」顔を土方の方に上げて、刹那は決意が込められた目で彼を見る。「あなたと同じ場所に立ちたい」「刹那・・・・・・」「その為なら地獄だろうがなんだろうが、あなたの駒となり従います」紛れもない本気の表情だった。ジッとこちらの目を覗く少女の目。まだ年端もいかない彼女にこんなにも信頼されている、そんな事に土方は頭を掻き毟りながら疲れた表情で彼女を見下ろす。「ここまでオメーがバカだとは思わなかった・・・・・・」「すみません、けど私、お嬢様や土方さん、他のみんなを護れるなら『人斬り』と呼ばれようが構いません」「言ってる事わかってんのかお前?」「バカにしないで下さい」「・・・・・・ハァ~」ムッとした表情でキッパリと言う刹那に対して土方はため息を突く。「仕方ねえ、考えたってお前はもう極楽には行けねえだろうしな・・・・・・」「・・・・・・そうですね」「刹那」「はい」名を呼んだ後、土方は彼女の前に一歩出る。遠くを見渡すとまだまだ敵は残っている、一刻も早く殲滅させなければ・・・・・・。土方は敵の方に刀を構えて、刹那に向かって振り返らずに口を開く。「これからはもっとコキ使ってやるから覚悟しろ」「・・・・・・はいッ!」初めて自分を頼ってくれた土方に刹那は嬉しそうに頷く。しかし次の瞬間。「土方さんッ!」「ん? うおっとッ!」後ろから刹那が叫び声を上げたと同時に土方めがけて大量のクナイが飛んでくる。彼女の声でいち早く気付けた土方はすぐに刀で飛んでくるクナイの方を向いて全て叩き落とした。「危ねえ危ねえ・・・・・・・」「フン、仕留めそこなったか」「テメェはッ!」ツカツカとこちらに向かって足音を立てて近づいてくる者に土方はすぐに刀を構え直す。周りの天人とは全く違う匂いのする男、自分達と同じ人間だ。刹那は彼を睨みつけてチャキっと刀を構える。「服部全蔵・・・・・・!」「よう」「お前もここに来ていたのか・・・・・・」陽気に笑いかけて来る男の正体は、服部全蔵。青いコートの下からクナイを大量に取り出し、刹那、土方と対峙する。「高杉の命令で天人共の助っ人として遊びに来てね、ま、俺ぁコイツ等(天人)嫌いだからさっさと終わりにして千草の所に帰らして貰うぜ」「上等だ何度も邪魔しやがってッ! テメェなんざ俺が直々にぶった斬って・・・・・・!」「待って下さい土方さん」「あん?」刀を掲げて土方が全蔵に向かって血気盛んに叫ぶと、刹那が彼の前に出て手を上げて制止する。「この男は私一人でやります」「は? バカ言ってんじゃねえ、お前コイツに何度ボコボコにされてるかわかってんのか? まさかまたその高杉から貰った刀でおかしくなって勝とうとか考えてんじゃねえだろうな・・・・・・」またもや自分一人で全蔵と戦うと言う刹那に土方はウンザリした表情で止めさせようとする。だが刹那は彼の方へ向いて首を横に振った。「死装束の呪いにはもう絶対に負けません」「何だと?」「それだけは信じて下さい、私があなたを信じる様にあなたも私の事を」「・・・・・・」「迷いもためらいも全て吹っ切れました、悩んでばかりでウジウジしている私はもうここにはいません」凛とした表情でこちらに頷いてくる刹那の目を土方はジッと眺める。恐らく彼女がこの先自分の後をついていくと決めたのなら、もう普通の少女としては生きて行けないだろう。戦いに明け暮れる血生臭い舞台を見て生きていかなければならない。しかし彼女の目はそれも百の承知と言わんばかりに輝いていた。自分に想いを告白してくれたあの少女の様に・・・・・・・。「刹那」「土方さん」こちらの目を見て答えを待っている刹那に、土方は彼女の表情を見てゆっくりと頷いた。「死ぬんじゃねえぞ」「・・・・・・はい」その言葉は戦って来いという意味、刹那は彼に頷き返すと踵を返して全蔵の方に向き直る。その間に土方は彼女に背を向けて、向こうで戦っている沖田達の援護をしに走り去った。刹那と全蔵の周りにはもう誰もいない。「待たせたな・・・・・・」「いや待たせ過ぎだ・・・・・・やっぱりお前一人で俺の相手すんのか?」「そうだ」「あのな・・・・・・」やれやれと髪を掻き毟ると、全蔵は手に持つクナイをプラプラ揺らしながら刹那に向かって口を開く。「何度やったって、お前一人じゃ俺に勝てねえんだよ、それともあの化け物状態にでもなるか? そうすりゃ勝てるかもな、ヘヘヘ」「確かに私は今までお前に何度も醜態をさらした、それは認める。だが」「!!」突如刹那の背中から生えた大きな二つの翼に全蔵は思わず一歩引く。前見た時は黒き禍々しい翼だった。しかし今は真っ白に輝く美しき翼となっていた。「修羅の道をあの人と共に突き進むと決めた今、私はもう二度と歩くのを止めない」「ほう・・・・・・」翼を広げ、死装束を構える刹那の威風堂々の姿を見て全蔵はニヤッと口元に笑みを浮かべる。「やっとお前と“本当に”戦える気がするぜ、前もいいツラ構えだったが今はもっといいツラしている、醜面だったら口説いてるかもしれねえな」今までの彼女とは別人の如き姿に、全蔵は初めて彼女の事を“好敵手”として認めた。この戦い、決して避けられない。「決着を着ける。最後の勝負だ、服部全蔵」「来な、俺の全てを持って歓迎してやるぜ」互いに自分が頼るべき得物を構えて対峙する。二人の向こう側では天人や真撰組達ががむしゃらに戦っている姿があった。しかし二人にはもはや関係無い。ただ目の前の相手を決着をつける事だけに集中する、それだけが全て。第六十三訓 ただ愛ゆえに因縁があるのは刹那と全蔵だけではない。別の場所でもとある男女が決着を決める為に戦っていた。深く大きい谷底を繋ぐ為に作られたのだろうが、今は老朽化の進んでいる木製の橋。こんな橋の上で暴れては何時壊れてもおかしくない。だが二人は戦う、一人は仲間の力を、もう一人は己の力のみを信じて。銀時とアリカ、最終戦は次第に激化していく。「銀時ィッ!」橋の上という足の不安定な場所で、アリカは全く関係無く銀時に剣撃をお見舞いする。その一撃一撃は完全に彼を殺す事に力を注がれていた。常人の人間ではあっという間に横にスライスされるであろうアリカの一閃。だが銀時はそれを一歩後ろに飛んで凌ぐ。ほんのちょっぴり反応が遅れていたら間違いなく死んでいた。「この女・・・・・・!」「ふん」「オラァッ!」一歩後ろに飛んだ後、すぐにまた銀時はアリカに襲いかかる。手に持つ木刀を振りあげ、兜割りを彼女に向かって振り下ろした。アリカはそれをすぐに片手で持つ剣で防ぐ。しかし銀時の斬撃は重く、二人を支えている橋からミシミシと壊れそうな音を立ててアリカは少し沈む、橋は今にも壊れそうだ、だが戦いに集中している二人はそんな事一切気にしていない。ただ一撃一撃に全身全霊を込め刃を振るうのみ。橋の前で二人の戦いを見ている千雨は、彼から預かった夕凪を握りしめて必死に彼等の動きを目で追う。「一体どっちが優先なのかわかりやしねえ・・・・・・」平凡な生活をずっと生きていた少女にとって、生死を賭けた戦いを見る事などそうそう滅多に無い。思えば銀時に出会った時から自分の人生の歯車は勢いよく狂い始めた。しかし彼と触れ合った事に千雨は後悔などしていない。生きる事の本当の楽しさを彼は教えてくれた。「勝て銀八ッ! いいんちょを救う為にッ!」聞こえるかどうかはわからないが千雨は夕凪を握りしめながら心の底から願うように叫ぶ。目の前では銀時とアリカの激しい接戦。木刀と剣は何度もぶつかり合い、お互い歯をむき出して仕留めようと目が血走っている。そして木刀と剣が勢いよくぶつかった所で、銀時とアリカは両手に得物を持ってつばぜり合いを始める。「何故貴様は戦う度に強くなる・・・・・・! 最初剣を交えた時はわらわの方が圧倒的に・・・・・・!」「俺が強くなってんじゃねえ、テメェが弱くなってんだ・・・・・・」「なんじゃと・・・・・・・!」「迷い怯えた剣なんかじゃ・・・・・・一生かかっても俺には勝てねえよ」「何を根拠にッ!」両手に力を込めてアリカは剣で銀時と木刀ごと空中に弾き飛ばす。銀時は難無く空中で後転して橋の上に着地。すぐにアリカの元へ再び走り「喧嘩は刀だけでやるもんじゃねえんだぜッ!」「くッ!」突っ込んできた銀時が仕掛けた技はなんと前蹴り、まさかの体術にアリカは少し驚くも、すぐに剣でそれをガードする。だが銀時は蹴りをガードされたと同時に右手に持つ木刀に力を込める。「コイツをどうだッ!」「効くかそんな棒きれッ!」こちらに向かって突き出して来た木刀をアリカは身を屈めて間一髪で避け「調子に乗るなッ!」「うおッ!」腰を屈めたままそのまま体当たりをお見舞いする。一本足で立っていた銀時はバランスを崩し、そのまま後ろに仰向けに倒れ、アリカはすかさず彼の上に乗って馬乗り状態になる。息を荒げながら冷たい目で見下ろしてくるアリカに、銀時は不利の状況にもかかわらず苦笑いをする。「俺は人妻に押し倒される趣味はねえんだけどな」「まだ余裕を持っているとはの・・・・・・」冷徹な視線を送った後、アリカは右手に持った剣を銀時めがけて振り上げる。「苦しみも与えず一瞬で済ませてやろう・・・・・・」「銀八ッ!」アリカに乗られて身動きが出来ない状況の銀時を見て千雨は思わず彼の元に行こうと足を進めようとする。だが「来るんじゃねえッ!」「でも・・・・・・!」「ったく落ちたらどうすんだよ・・・・・・」「え?」全く殺される事を恐れていない様子で喋る銀時に千雨は口をポカンと開けた。そしてふと彼の言葉が少々頭に引っ掛かる。落ちたらどうする・・・・・・・?「なあ母ちゃんよ」「・・・・・・・」「ちいとばかし揺れるぜ、しっかり掴まってな」「なッ!」何時の間にか銀時の左手は橋を固定する為に何本もあるロープの一本を握っていた。彼の首めがけて剣を振り上げていた状態でアリカはそちらの方に目を向ける。「まさかッ!」「言っただろ」ニヤリと笑ったまま銀時はぐっと握ったロープに力を込める。そして「喧嘩は刀だけでやるもんじゃねえッ!」引っ張った瞬間ブチッと音を立ててロープは簡単に切れる。その瞬間、バランスを失った橋がガタンと勢いよく左に傾き、刀を持っていたアリカもグラグラと揺れる橋に思わずバランスを崩しだす。「おのれッ! 小癪な真似を・・・・・・はッ!」その隙を見逃さず、銀時は瞬時に上体を上げて木刀を近距離にいるアリカに振り上げる。すぐに顔を下げて木刀を避けるが、今度は銀時の左腕が首に向かって伸びてくる。「ぐッ!」「絶望的な状況こそに最大の勝機はある」「がはッ!」「ガキの頃、俺がある男に教わった言葉だ」一気に首を絞めに掛かって来る銀時にアリカの顔には焦りと苦痛の色が同時に窺える。このままではマズイ、そう察したアリカは、力任せに彼の左腕を引き離してすぐに立ち上がって引き下がる。銀時も彼女は立った瞬間にバランスの悪い橋にすぐに立った。「仕留めそこなったな」「ゲホッ!ゲホッ! 奇抜な戦法の次は大胆な力技・・・・・・よくそんな事を咄嗟に考えれるものじゃ・・・・・・」「慣れてるんでね」首を押さえながら咳をするアリカに銀時は耳の穴を小指でほじりながらフッと鼻で笑う。攘夷戦争時代に白夜叉と称された侍、坂田銀時にとってこんな戦法朝飯前であった。「こちとら死にたくねえんだ・・・・・・・お前だってそうだろ・・・・・・」「死が恐いだと・・・・・・? ふ、生憎、わらわにそんな感情とうに無い」「何?」「もうこんな世界に用など無い、正直、貴様に殺されて死ぬのも悪くないと思うておるのじゃぞ?」冷たい表情でボソッとアリカが呟くと、銀時は木刀を下げた状態で彼女に一歩だけ歩み寄る。僅かに怒りの色が見えた「マジで言ってんのかそれ・・・・・・」「当然じゃ」銀時の問いかけにアリカは静かに剣を構える事で答える。まだ戦う気らしい「貴様と戦って死ぬ、例え貴様に勝ってもここで自害する気じゃ、もう生きる意味も無い・・・・・・ならばわらわはここで死を選ぶ」「そんな・・・・・・・」本気の表情で平静に言うアリカに銀時の後ろで見守っている千雨は彼女に対して悲しそうな表情になる。自ら死ぬ事を望んでいるなんて・・・・・・銀時はアリカの前にもう一歩前に出る。「・・・・・・ネギの奴はどうする気だ・・・・・・・」冷静に言いながらも少し言葉に震えがある、彼女の自分勝手な考えを聞いたせいで。刺す様に睨んで来る銀時。しかし彼に対してアリカは唇を噛みしめた後、意外にもニヤッと笑った。「あの子はもう助からないに決まっているじゃろ」「テメェ・・・・・・」「夜王、神威、阿伏兎、高杉、春雨の軍隊。これらを相手にするのに貴様等の軍勢だけでは到底足元にも及ばん、もう決まっておろう、あの子が二度とこの世に戻って来れない事を」「それでも親か・・・・・・」「親じゃと・・・・・・?」揺れ動く橋の上でバランスを取りながら、アリカは銀時に対して。嘲り笑いを浮かべた。「あの子の親などもう何処にもおらぬ」「!!」「父親は自らの存在を取りこんだ男に殺されたしの。母親はこのザマ、死んでるも同然じゃ」遂に親としての感情も捨てた。自暴自棄に陥っているアリカに銀時は全身を震わせる。「アイツの事も考えないで勝手にほざきやがって・・・・・・・」一歩ずつしっかりと踏みながら、銀時は目の前に立ちはだかるアリカに近づいて行く。「アイツの代わりに・・・・・・俺がテメェをぶん殴る」「銀八・・・・・・」感情を押さえながら銀時がアリカの方に歩いて行くのを見て、千雨は思わず彼の背中に向かって名を呟く。終わりが近づいているの悟ったように「女だからって手加減しねえ・・・・・・・親の道を踏み外した外道のツラに・・・・・・思いっきり入れてやる・・・・・・」「・・・・・・」木刀を持って歩いてくる銀時にアリカは剣を構えた状態で対峙する。冷たい目つきと笑みを浮かべて「無理じゃな、わらわの最期の舞台無惨に散るのは貴様の方じゃ」「やれるもんなら・・・・・・やってみやがれェェェェェ!!!」片手に持つ木刀を振りかぶった状態で銀時は叫び声と共に突っ込む。対峙するアリカも彼に向かって剣を振りかぶって走る。次の瞬間、壊れかけた橋が激しく振動するほどの衝撃波が二人の間から発生する。金色の剣と木刀は全く互角の力でぶつかり合っていた。「テメェはアイツの母親だろッ! なんで助けれるって信じねえんだッ!」「わらわはもう母親ではないと言ったであろうッ! わらわは金鬼姫ッ! ただ機械の様に数多の敵を手にかける殺人鬼ッ! それ意外にもう何も無いッ!」「うるせえッ!」ガキィンという鈍い音と共に両者の得物が同時に弾かれる。つばぜり合いから一転、銀時とアリカは息をする隙も無いほどの激しい剣撃戦を始めた。「例え聖人だろうが極悪人だろうが親は親だろうがッ! お前少しはアイツの気持ちをッ! 親として息子のあいつの気持ちを理解しようと思った事はねえのかッ!」「知った風な口を叩くなッ! 貴様に何がわかるッ!」火花を散らせながら銀時とアリカは得物を振るう。己の本当の気持ちと共に、己の伝えたい事共に。「アイツから逃げんじゃねえッ! 例えテメェが血に汚れていようが・・・・・・そんな事で親を見捨てる様な腐った奴じゃねえんだよアイツはッ!」「黙れッ! 罪人の母親なんて息子にとっていない方がマシじゃッ!」「それはテメェの勝手な考えだろうがッ! アイツに直接聞いたのかそれッ!」「!!」「何もわかってねえのはテメェなんだよッ!」上へ下へと木刀と剣を何十回も交えながら銀時はアリカに目をむき出して怒鳴る。「つまんねえ意地張ってアイツから逃げるのはもう止めろッ! アイツは親の顔さえ覚えてねえッ! 親の温もりさえ覚えてねえよッ! けどなッ! どんな奴だろうが親ってのは大切な存在なんだよッ!」「黙れと言っているであろうッ!」感情のままにアリカは剣を両手に持って力を注ぎ、銀時の頭に振り下ろす。銀時はすぐに両手で木刀を持って防ぐ。しかし彼女の一撃はかなりの重さだ。苦しそうに歯を食いしばってその攻撃に耐えながら銀時はアリカの方に顔を上げる。「親がいない子供の事、テメェは考えた事あんのか・・・・・・・」圧し掛かって来る重圧に銀時は耐えながら彼女に向かって話しかける。「父ちゃんと母ちゃんと手を繋いで楽しそうに笑ってる自分と同い年ぐらいの奴を・・・・・・羨ましそうに眺める事しか出来ない子供の事・・・・・・考えた事あんのか・・・・・・」徐々にアリカの剣を上に押し上げながら銀時は彼女を睨みつける。「母ちゃんに抱きしめられたくても抱きしめてもらえない子供の気持ちを・・・・・・テメェは考えた事あんのかァァァァァ!!!!」「黙れェェェェェ!!!!」後ろにいる千雨にも聞こえるほどに吠える銀時にアリカは自分の手元に剣を引く。そして一瞬で彼の腹にめがけて「終わりじゃッ!」「うぐぅッ!」「ぎ、銀八ッ!」銀時は自分の腹に強烈な痛みが走るのがわかった、その拍子に手に持っていた木刀を離してしまう。アリカの剣が自分の腹を思いっきり貫いたのだ。しかし銀時は痛みに耐えてまだ彼女を睨みつける。「親の仕事は親となった時から死ぬまであんだよ・・・・・・・! 道を歩くのはアイツだ・・・・・・けどそれを見守るのは親の仕事だッ!」「貴様、腹を貫かれてもまだ・・・・・・!」腹を思いっきり貫かれているにも関わらず銀時は貫く剣を抜く所か、逆にアリカの方に歩み寄って行った。腹や口から滴り落ちる血を気にせずに銀時は驚いて動けないアリカだけを見つめる。「テメーの所の息子はまだちっこいガキだッ! せめて・・・・・・アイツが親になる瞬間まで・・・・・・」「!!」銀時は木刀を落とした方の右手で拳を固く握って振り上げる。その形相はまさに夜叉。それを見てアリカは全身が金縛りになったように動けない。そして「テメーのガキが親になる時までッ! 親としての仕事を果たしやがれェェェェェ!!!」右手に全神経の力と思いを込めて、銀時はアリカの顔に向かって拳を振るった。それはもう昔の話。まだアリカがナギと一緒に江戸で住んでいる頃の話だ。今、一人で両手に赤子を抱きかかえたまま、着物姿のアリカは自分達の住んでいる家の下にある『スナックお登勢』に足を運んでいた。「まさかあのダメ亭主が人の親になっちまうとわねぇ・・・・・・大丈夫かぃ?」「なんとかなるじゃろ、これで奴が少しは仕事熱心になるといいんじゃが」「無理だね、あれは根っからのぐうたらだよ」アリカがため息を突いて喋っているのはスナックの亭主、お登勢。目の前に小さな赤ん坊を抱きかかえて席に座っている彼女に考慮して、今はタバコを吸っていない。「で? その子のぐうたらな親父は今何処だい?」「うむ、最近開店したばかりのオカマバーの店主に捕縛された。今頃精を出して仕事に励んでいる頃であろう」「本当に不安だね、そっちの仕事ばっかやらせるとそっちに目覚めるって事は無いだろうね」「別に奴がオカマになろうが、わらわは一向に構わん」「いや子供の方は泣くと思うよ私は」澄ました表情で別に夫がどうなろうが知ったこっちゃない態度のアリカにお登勢はさらりとツッコむと、彼女が抱きかかえている赤子に目をやる。「ちょっと私にも抱かしてもらえないかい?」「落とさないなら構わんぞ」「誰が落とすかい、こう見えてかぶき町の赤子を数えきれないほど手に持ってんだ、アンタより上手だよ」 そう言ってお登勢はアリカが両手で差し出した赤子に手を伸ばして器用に抱きかかえる。父親と同じ髪の色、目は母親とそっくりだった。「なんだかんだで可愛いもんだね」「当然じゃ、わらわの子じゃぞ」「でも父親みたいにさせるんじゃないよ、あんなのに育ったら将来ロクな大人にならないからね」「わかっておる」赤子をあやしながらお登勢が注意するとアリカは何度も縦に頷く。余程父親みたいな人間に育って欲しくないのであろう。そんな彼女に対してもお登勢は口を出す「父親がああなんだから母親のアンタがしっかりしないと駄目だよ、未だに私が見て無いと料理や家事さえまともに出来ないんだ。これを機会に一人でやれるよう覚えな」「う、うむ・・・・・・」ぎこちなく返事をするアリカを見てお登勢は少々不安そうな顔をする。本当に大丈夫なのだろうか・・・・・・「私にコレ以上世話かけさせるんじゃないよ、こっちはアンタ等家族の面倒事に付き合わされる程ヒマじゃないしね」「確かにお主には何かと世話になっておるな・・・・・・ところでお登勢、一つ頼みごとがあるんじゃが」「アンタさっき私が言った事聞いてなかったのかい?」図々しくまた何か頼みこもうとするアリカにお登勢はウンザリした表情で彼女に目をやる。「言っとくけどガキが生まれようと今月分の家賃はキッチリ取り立てるよ」「いや家賃の事ではない、家賃の相談は明日する」「おい」アリカがキッパリと答えるとお登勢は短く返す。しかしアリカはそんな彼女が抱きかかえる自分の子を指差して話を続けた。「その子の名前を・・・・・・お主に決めて欲しい」「ちょっとアンタ、それ本気で言ってるのかい? 名前を決めるのは普通親だろ?」「何から何までお世話になったお主にこそ、この子の名前を決めて欲しい」「そんな事言ってもねえ・・・・・・・」「頼む」「ったく・・・・・・こういう面倒事はもうごめんだよ」身を乗り出して頼み込んで来るアリカの目を見て無下に断れないと思ったお登勢は、とりあえず名前を付ける事を承諾した後、周りになにかいい名前を付けるキッカケの物は無いかと見渡す。するとある物が目に映った。カウンターの端っこに置いてある食材が入っているスーパーの袋。自分がさっきスーパーに買い出しに行った時にあそこに置いたものだ。お登勢はそのなかにある食材の一つをジッと見てピンと思い浮かんだ。「『ネギ』って名前はどうだい?」「・・・・・・ネギ?」予想だにしなかった名前にアリカは首を傾げる。何故そんな名前なのかと疑問を感じながら彼女はふとお登勢が見る方向に視点を移した。スーパーの袋の中からあらゆる食材の中で、一本のネギが元気よく飛びだしている・・・・・・・「お登勢・・・・・・お主もしやあそこにあるネギを見てその名前を・・・・・・・」「ちょうと親父の名前は『ナギ』だしね、覚えやすくていいだろ?」「なんじゃそれはッ! そんな安易にわらわの子が一生使う名前を決めるなッ!」「名前なんてほんの些細な事で生まれるモンなのさ、それに私はただ親父と名前が似てるからってだけで決めたわけじゃないよ」立ち上がって抗議してくるアリカにお登勢は赤子に向かって笑いかけながら口を開く。「ネギってのは育てるのはかなり難しくてね、一年かけてじっくり愛情込めて世話しないと立派に成長出来ない。少しでも怠ったらそのネギはまっすぐに生きられずにすぐ枯れちまう」「・・・・・・」「ガキと同じさ、親が愛情込めてちゃんと世話してあげればその子はまっすぐに育つ、親がその子に愛情を注がなければすぐに枯れちまうんだ」赤子の頭を撫でながらお登勢は黙って聞いているアリカの方に目をやる。「テメーの子供を育てるのは難しい。親のアンタにも常にそれを覚えて欲しいし、アンタみたいに親になるであろうこの子にも受け継いで欲しいと思ってね、そういう意味を込めてネギって名前に決めたのさ」「・・・・・・なるほどの・・・・・・」名前の由来を聞いてアリカは少々戸惑いながらも縦に頷いた。そう言われると別に不満でも無くなったし、むしろいい名前なのかもしれない。「子は愛情を注ぎこんでこそ成長する、その意味を込めてネギ・・・・・・悪くないの」「親父には相談しなくていいのかい?」「する必要も無い、わらわはお主が考えた名が気にいった、その名がいい」「そうかい、じゃあ私がこの子の名付け親になるって事だね」満足げに笑みを浮かべるアリカにお登勢はフッと笑った後、抱きかかえる赤子の方に目をやると、赤子も目の前の自分をキョトンとした目で見つめ返す。「今日からアンタの名前は『ネギ』だ。親の愛情を受けてまっすぐにノビノビと成長するんだよ」「バブー」「フフ、もう返事が出来るなんて凄いじゃないか」赤ん坊らしく答えた“ネギ”にお登勢が嬉しそうに微笑んでいると、それを眺めていたアリカがある事に気付く。「お登勢」「なんだい」「ネギが物凄い量のおしっこをお主の両腕にひっかけておるぞ」「バブブ~」「このクソガキィィィィィィ!!!」昨日の事の様に覚えている数年前の出来事を思い出しながら、橋の上で仰向けに倒れているアリカは夜空に浮かぶを星達を眺めていた。「あの時決めた筈なのに・・・・・・あの子をちゃんと育てる事が出来なかった・・・・・・」左頬の痛みのせいなのか、それともこんな自分が情けなくてしょうがないのか、アリカは目から一筋の涙を流す。それを銀時は腹から出る血を押さえながら黙って見下ろしていた。「母がこんなに弱くなければ・・・・・・すまん、ネギ・・・・・・」星空に向かって泣きながら謝るアリカ。銀時も星を見上げながらボソリと呟く。「あいつに直接言えよ・・・・・・母ちゃん」