弟子を殺めた神威。夜王鳳仙の器となったネギ。失意の果てに銀時との決着を望むアリカ。三人の関係は複雑に絡まりながら交差する。そして銀時もまたアリカに攫われたあやかを助ける為に彼女との戦いに興じる事を決意した。「じゃ、行って来るわ」屋敷の裏庭でしばらく立ち尽くしていた銀時だったが、そう言葉を残して千雨とカモ、そして地面に両手を突いているアスナの前を立ち去ろうとする。だが「・・・・・・・私を置いて行くなよ」「は?」「お前と“あの人”の戦いを見届けたいのもあるし・・・・・・いいんちょが攫われたんだ、私もお前について行く」「・・・・・・・死ぬかも知れねえぞ?」背中を向けて警告の様な事を漏らす銀時に千雨は一歩も引かずに逆に前に出る。「“友達”が危険に巻き込まれているのにこんな所でジッとしてられるか」「うわ、お前が友達って言葉使うの似合わねえな・・・・・・」「うるせえな、ほっとけよ・・・・・・・」頭を掻き毟りながら振り返って、自分の言葉に苦笑いを浮かべる銀時に、千雨はムスッとした表情で返す。いささか顔が赤い。「まあいいや、そんじゃあ行くぜ」「銀の兄貴、大丈夫ッすか・・・・・・」「ガキ護る事が教師の仕事だ、特にあいつは・・・・・・」不安そうに小さな体で近づいてくるカモに踵を返すと、銀時は千雨と共に雑木林の中へ入ろうとする。だがその時「なんでよ・・・・・・」「ん?」「なんでなのよ・・・・・・!」さっきまでずっと四つん這いになって落ち込んでいたアスナが、顔に涙の跡をつけて急に起き上がり銀時を睨みつける。「なんでアンタはいつも迷わずに行動出来るのよッ!」「神楽坂・・・・・・」急に大声を上げるアスナに千雨が心配そうに振り向くが、銀時は背中を向けたまま何も言わない。「ネギもわけわかんなくなっていいんちょもネギのお母さんに攫われてッ! 屋敷のみんなは大混乱だし木乃香の行方も分からないッ! どうしてこんな状況でもアンタはいつもまっすぐ前に歩いていけるのよッ!」「・・・・・・ツラ下げなきゃいいんだよ」「え・・・・・?」ぶっきらぼうに銀時が呟いた言葉にアスナは彼の背中を見る。振り向こうとせずに銀時は木刀を肩にかつぎながら口を開いた。「ツラ下げてたら前は見えねえ、さっさとツラ上げてテメーの大切なモンを護る事だけを考えて歩け」「・・・・・・」「そういう信念っていうのがよ、俺を迷わずに進ませてくれんだ」「・・・・・・アンタに大切なモンって何よ」「決まってんだろ」また頭を下げてうなだれるアスナに。銀時は彼女の方に振り返った。凛としたまっすぐな目だ「俺の武士道(ルール)だ」「・・・・・・」「こいつばっかりは絶対に誰にも譲らねえ」「天パ・・・・・・」顔を上げたアスナが深く考え込むのを見て、銀時はすぐに前を向く。「テメーのモンを護る為に何をするべきなのか、オメェも考えてみろよ、じゃあな」「あ・・・・・・」最後に手を振った後、銀時は千雨と一緒に雑木林の中へ消えて行った。残されたアスナはしばらく呆然とした後、深いため息を突く。「本当ムカつくわねあの天パ・・・・・・」「姐さん・・・・・・」「アイツのおかげで全部吹っ切れたのが更に頭に来るわ・・・・・・」「でも姐さん・・・・・・俺っち達どうすれば・・・・・・」「決まってんでしょ」「へ?」いつもの調子の口調に戻ったアスナが近づいて来たカモにしらっと答える。「私は天パやマヨと違ってか弱い乙女だからこんな事しか出来ないけど・・・・・・」「か、か弱い乙女・・・・・・そんなまさか・・・・・・姐さんまでおかしくなっちまった・・・・・・」「もう一度引き千切るわよその粗末な尻尾・・・・・・」怯えた目つきで体を震わすカモをジト目で睨みつけた後、アスナはすかさずポケットからある物を取り出す。「一応“あの人”の電話番号入ってるのよね・・・・・・ネギや木乃香の縁で」「誰かに電話するんですかぃ?」「そうよ、いつも偉そうにしてるんだからたまには仕事させないと・・・・・・」だるそうにそう言うとアスナは携帯に登録されているある人物の名前にカーソルを合わせてボタン押す。すぐに携帯に耳を付けるアスナ。何度も鳴るコール音、早く出ろと言わんばかりにイライラしながらアスナは携帯を耳に押しつける。そして『はいもしも~し、超偉くてモテる学園長じゃけど何か用? つうか誰?』電話をかけた相手はこの状況ではあまりにも意外な人物であった。第六十二訓 仲間を信じて顔上げて歩け銀時達とアスナが次々と行動を始めている頃。桂達もまた、攫われた木乃香を救う為に山を登っている所だった。しかしその中に一人だけ腑に落ちない表情を浮かべる者が最後尾をトボトボと歩いていた。「土方さん・・・・・・・」「なんやもうさっきから~、ヅラ、このネエちゃんがさっきから土方さん土方さんずっと呟いてるんやけど~?」最後尾を歩きながらさっきからブツブツと呟いている刹那に嫌気がさしたのか、前を歩いていた小太郎がしかめっ面で一番前にいる桂に話しかける。すると呼んでも無い筈の男が振り返ってくる。「小太郎君がヅラヅラ言うのと同じですね」「お前は黙っとれドアホ」桂の隣にいたアルが楽しそうにこっちを見て来たので小太郎はすぐにめんどくさそうに返すと、ちゃんと呼んだ対象である桂の方が立ち止まってこちらに振り返ってくれた。「刹那殿、そんなにあの男が心配なら戻ればいいのではないか?」「私は・・・・・・お嬢様の盾だ。お嬢様がさらわれたと思われる今、助けに行かないでどうする・・・・・・・」「ふむ、では木乃香殿とあの男、お主にとってどっちが大切なのだ?」「それは・・・・・・」突然急な質問をしてくる桂に刹那は困ったように口ごもる。そんな事明確に答えられない、両方とも自分にはかけがえのない人物だ。「木乃香殿はきっと救える、俺の仲間は頼りになるからな。余計な者も数名混ざっているが・・・・・・・」桂はチラッと坂本とネカネの方に目を向ける。二人共同時に首を傾げた。自覚は無い。「・・・・・・とにかく木乃香殿は問題無いだろ。しかしあの男はどうだろうな、今まさに多くの敵と少数で対峙している、俺が察するに死ぬ危険性も高い」「・・・・・・私はあの人に直接お前の所に行けって命令されたんだ、今更戻れるわけないだろ・・・・・・」「だったらウジウジ悩むなやホンマ、見てるこっちはイライラすんねん」「なんだと・・・・・・」軽く舌打ちする小太郎に刹那はキッと顔を上げる。すると彼はフンと鼻を鳴らして彼女に声をかける。「迷い道があっても構わず突っ込んでみ、そうすりゃ自然に答えが出るモンや」「・・・・・・・」「俺はそうコイツに教えられた」不意に小太郎は桂を指差す。すると桂は眉をひそめて「そんな事言ったか?」「いや忘れてるんかいッ!」「全く記憶にない、過去より未来を見る、それが侍だ」「もうええわボケッ!」全く覚えてない様子の桂に小太郎が叫んでいると、刹那は顎に手を当てて考える。その場に立ち止まって迷うより、まずはなりふり構わず突っ込んでみる・・・・・・「桂小太郎・・・・・・」「む?」「本当に木乃香お嬢様を救えるのか・・・・・・」「侍として誓おう、木乃香殿は俺達が助ける。侍は一度した約束は決して破らん」「そうか・・・・・・」腕を組みながら凛とした表情で頷く桂の顔を見て刹那はまだ安心していない表情で彼に口を開ける。「私は・・・・・・攘夷志士という連中は例外なくみんな嫌いだ、桂小太郎、当然お前の事も嫌いだ」「ケッ」『こっちもお前の事嫌いだっつーの』「二人共そんなにふてくされないで下さいよぉ」刹那の言葉に桂より反応して侮蔑の混じった視線を彼女に送る小太郎とエリザベスをアルが朗らかに制する。桂は黙って刹那の話を聞いていた。「絶対にお前を捕まえてやろうと思っている、しかし土方さんとお前が平和協定を結んでいる今、お前と私は仲間だ・・・・・・」「・・・・・・」「仲間として・・・・・・お前に託す」握り拳をグッと固くした後、刹那は踵を返して桂達に背を向けた。「木乃香お嬢様を・・・・・・絶対に救ってくれ・・・・・・」「・・・・・・無論だ」背中を向ける刹那に桂もまた彼女に背を向けた。そして両者共に反対方向へと進みだす。桂達は木乃香のいる所へ、そして刹那は・・・・・・・地獄へ堕ちる事になるであろう修羅の道へ土方は大広間にて次々と湧いて出て来る春雨の部隊達を殲滅せんと奮闘していた。何人斬ったのかも忘れ、周りは血の海。そろそろ体力もマズい。「クソッタレ・・・・・・」「私も・・・・・・さすがにこれだけの数が相手だと疲れて来ましたね・・・・・・」「桂の野郎共がいなくなっただけでこんなにシンドくなるとはな・・・・・・」疲労の色が見え始めている土方の顔を見て詠春も額の汗を拭いながら頷く。呼吸する暇もないこの状況で会話をするのもやっとだ。土方は必要最小限に口を開いた後、すぐにまた目の前にいる敵を斬滅する。「ぐあぁぁぁぁぁ!!!」「コイツ等一体何処から来てんだ・・・・・・拠点を叩かねえとどんどん出て来るぞ」「山の中じゃないですかぃ?」「何?」いきなり隣に出てきて敵を瞬殺していく沖田が、血に塗られた刀を払いながら呑気そうに土方に話しかける。「連中が山から下りて来るのが見えたんでね、多分桂が向かった先に奴等の巣が」「てことはあいつ等が早くしねえと、こっちにゾロゾロと・・・・・・」「ずっとリアル無双プレイでさぁ」互いに背中を向けながら体力どころか現状もとてもマズイ事になってしまっている事に土方は舌打ちする。だが沖田は相変わらず全く動揺していない表情で「仕方ねえ、ここは俺の“秘密兵器”を使うしかねえか、」「秘密兵器だと?」「ええ、本当は“土方さん暗殺要員”として働かせようとしてたんで土方さんには隠しておきたかったんですが」「そうか、今俺もお前の暗殺要員が欲しくなった、あの女(千鶴)ならお前殺せるか?」「“アレ”は誰の言う事も聞かないと思いますぜ、土方さんの命令なんて聞くわけないでしょう」妙な会話を楽しみながら、沖田は懐から携帯を取り出す。そんな彼の姿を見て土方もピンとある事を思い出した。「そういえば・・・・・・」沖田が携帯で会話するのを見て土方も携帯を胸ポケットから取り出す。あの男の存在をすっかり忘れていた。ただでさえ影の薄い男なので仕方ないがバッタバッタと斬り伏せながら土方は携帯を耳に当てる。急いでこの状況を彼にも伝えねば・・・・・・土方や沖田と同じ真撰組の一人である山崎退は、彼等の現状も知らずに3年A組が泊まっている旅館で平和に勤しんでいた。「副長も沖田隊長も・・・・・・旦那達まで何処行ったのかな~・・・・・・」一人自室にてポツンと風呂上がりの浴衣姿で、コーヒー牛乳を飲んでのんびりしている山崎。独り言をつぶやきながらイスに深々と座り、ため息を突いている。「でも正直あの人達がいない方が世の中幸せ・・・・・・・ん?」本人達がいないのをいい事に好き勝手ぼやいていると突然テーブルに置いてあった携帯が鳴りだす。山崎はコーヒー牛乳を一気に飲み干した後、携帯に手を伸ばす。「なになに、楓さん? それとも風香ちゃんと史伽ちゃん? 夏美ちゃんかな? もしくはまき絵ちゃん? いやもしかして学校にいる茶々丸さんかな・・・・・・」顎に手を当てて考えながら次々と候補を上げていく山崎はとりあえず携帯を手に掴む。意外にも地味に色んな生徒と交流しているのだ、正直上司の土方より彼の方が生徒との交流は深い。山崎は携帯のボタンを押して耳に当てる。そして・・・・・・『山崎ィィィィィィィ!!!!』鼓膜を破りかねないその声に山崎は思わず携帯から手を離して気絶しそうになった。自分の名を叫ぶあの声、間違いなくあの人だ。山崎は落とした携帯を拾い上げて恐る恐る耳に当て直す。「もしもし・・・・・・ふ、副長ですか・・・・・・」『当たり前だろうがッ! おい山崎すぐにこっちに来いッ!』「え?」『現状況で宇宙海賊春雨の軍勢に襲われているッ! それに敵の親玉はあの高杉だッ!』「えぇぇぇぇぇ!! なんすかそれいきなりッ! なんでそんな状況になってんですかッ!? 俺が楓さん達と大阪行っている間に何があったんですかッ!」『ゴチャゴチャ行ってねえでさっさと来いッ!』「わ、わかりましたッ!」 電話越しに土方にどやされて山崎は慌てて浴衣姿のまま刀だけを持って部屋を出る。時間も時間なので人の気配は全く無い。「けどそこ何処なんですかッ!? 俺今旅館にいるから時間かかりますよッ!」『飛べ山崎ッ!』「飛べませんよ俺ッ! 改造人間じゃあるまいしッ!」無茶な要求をする上司に山崎が即座にツッコみながら廊下を走る。とにかく一旦外に出なければ、電話の向こうから天人の叫び声や刀で斬る音が聞こえて来る。冗談じゃないのは確かだ。「とりあえず何処なのかだけを教えて下さいッ! 俺今からすぐにそっちに・・・・・・・ぬほッ!」『おいどうした山崎ッ! 山崎ィィィィィィ!!!』土方が叫ぶ中、山崎は何かに足をつまづいて倒れていた。「イテテ・・・・・・」腰をさすりながら山崎は上体を起こす。すると後ろから何者かの声が「どうしてそんなに慌ててるでござるか?」「へ・・・・・・?」山崎は混乱した様子で後ろに振り返る。そこにいるのはさっき自分の足を取った人物と思われる楓と「なんか困ってるなら私達に話すアル、力になるヨ」「報酬さえ払えば助けてやっても構わないぞ」楽しそうにこちらに手を振るクーフェイと、壁にもたれて腕を組んでいる龍宮がいた。一方、アリカとの決着を付ける為に雑木林の中を歩いていた銀時は、後ろに千雨を連れて歩きながら、やっとある場所に出られた。アリカと約束をした場所深く暗い谷底が下で待ち構えている長い橋だ。銀時は木刀を持ったままその橋に近づくと、その橋の真ん中に彼女は既に立っていた。「来たか・・・・・・」「あやかは?」「・・・・・・あそこじゃ」橋の真ん中に立つアリカが後ろに指をさす。見ると雑草の生い茂っている地面に目をつぶって横たわっているあやかの姿が「いいんちょッ!」「あの者を救うにはこの橋を渡ることは必定、ゆえに橋に立つわらわを倒す事も必定じゃ」「なんも関係無い筈のいいんちょまで巻き込みやがって・・・・・・!」銀時の隣にいる千雨はアリカに対して嫌悪感を込めた目つきで睨みつける。しかし彼女にそんなの全く通用しない。愛する者を失ったアリカの心は完全なる闇へと変貌してしまった。「さあわらわの前に来るがいい銀時・・・・・・お主との戦い、これで最後じゃ・・・・・・」「銀八・・・・・・」あの冷たい目に戻っているアリカに指示されて銀時は橋にゆっくりと近づく。千雨も不安そうに彼の後をついていくが、銀時は橋の前に来た途端ピタッと止まり、背中に差してある夕凪を鞘ごと引っこ抜く。「千雨、こいつ持っててくれ」「え?」「必要ねえからよ」「お、おい銀八ッ!」ぶっきらぼうに千雨に向かって夕凪を投げると、彼女が驚いている様子をよそにミシミシと鈍い音が鳴る橋を歩いて行った。銀時の持っている武器は木刀である洞爺湖のみ。近づいてくる彼に向かってアリカは苛立つような顔を見せる。「ナメておるのか貴様・・・・・・木刀だけでわらわと戦えるじゃと・・・・・・」「テメェなんざこれ一本で十分だ」「おのれ・・・・・・」静かに、そして冷静に挑発してくる銀時にアリカは手に持つ金色の剣にグッと力を込める。しかし銀時もまた、腹の奥底では怒りに満ち溢れている。「人のガキに手を出しやがって・・・・・・覚悟は出来てるんだろうな・・・・・・」「あの女の事か・・・・・・ふん、もしや惚れているのか貴様?」「テメェに言う筋合いなんかねえよ・・・・・・」あやかを傷付けられた事が彼の逆鱗に触れた様だ。木刀を突き出して構える銀時にアリカはギロっと睨みつける。「貴様はナギと何処か似ているな・・・・・・」「死んだ旦那と見比べられてもこっちは全然嬉しくともなんともねえよ」互いに対峙して一定の距離を保つ銀時とアリカ。周りは恐ろしいほど静かだ。聞こえるのは風の音とその風で揺れる木の枝の音。橋の前に立っている千雨の荒い息。「銀八・・・・・・」体を震わせて息を荒げ、この緊迫した空気に耐えられそうにない様子だが、彼から預かった夕凪を持って千雨は懸命に祈る。ただ一つ、銀時の勝利を「勝って・・・・・・・いいんちょと私の為・・・・・・みんなの為に・・・・・・!」夕凪を持つ両手に力を込め、千雨は心から必死に彼の健闘を祈り続ける。そして戦いの火蓋が切って落とされた。「これがわらわ達の・・・・・・! 最後の戦いじゃ銀時ッ!」右手に持つ金色の剣を構え、アリカは銀時に向かって走ると、銀時もまた無言で木刀を構えて前に突っ込む。木刀と剣が激しい音を立ててぶつかる。その衝撃に壊れんばかりにきしめく橋、しかし二人に橋が壊れるなどそんな心配する余裕などない。「貴様が死ぬか、わらわが死ぬか・・・・・・今ここで決するッ!」鍔迫り合いの状態でアリカは銀時に向かって歯を食いしばって吠える。白夜叉と金鬼姫。ついに二人の因縁の戦いがここで終結する。銀時とアリカの最終戦が始まったちょうど、詠春の自室にいた夕映達は天人達に隠れているのがバレてしまい、押し寄せて来る天人達を入って来させまいと必死に抵抗していた。「人間だぁッ! この結界が張られてる部屋の中に人間のガキが隠れているぞッ!」「シャ~ハッハッ! 殺しちまえ~ッ! 地球人のガキは柔らかい肉だから上手いんだぜぇッ!」「腹減った所だし食っちまおうぜッ!」「夕映ぇぇぇぇぇぇ!! 私達食われるぅぅぅぅぅ!! このままじゃ朝マック感覚で食われるよぉぉぉぉぉ!!!」襖の向こう側から聞こえる天人達の会話にハルナが汗を垂らして襖を閉めながら、後ろにいる夕映に叫ぶ。すると彼女は冷静に「食われたくなかったら絶対にそこ開けないで下さい」「そんな事言ったって・・・・・・私とハルナの力じゃ防ぎ切れないよ~・・・・・・」ハルナと一緒に襖を開けさせまいとしている和美が弱気な発言を漏らす。すると夕映はとなりで怯えているのどかの手を取って「のどか、今の内にこの窓から逃げましょう」「ゆ、夕映・・・・・・それはちょっと・・・・・・・」「ハルナと朝倉の犠牲を無駄にしてはいけません」「「勝手に殺してんじゃねぇぇぇぇぇ!!!」」彼女達が死ぬ事は決定事項だと言う風に話す夕映にのどかがどう反応していいか困っていると、汗を流しながら奮闘しているハルナと和美が同時にツッコむ。しかし夕映は相変わらずスル―して部屋の窓に手を伸ばす。が「ヒャァァァァァ!!」「!!」「きゃッ!」突然見た事のない様な奇怪な姿をする天人が、窓を割って入って来た。驚く夕映と怯えた声を出すのどか。二人を見て刀をユラユラと構えながらスキンヘッドのチンピラみたいん天人が舌舐めずりする。「ヒエッヒエッヒエ・・・・・・窓から入って来て悪いなぁ・・・・・・」「う・・・・・・」「恐いよ夕映ぇ・・・・・・」泣きそうな声を上げるのどかを夕映はかくまうように前に出るも正直彼女自身も恐怖でどうにかなりそうだった。体を震わせながらも“いつも通り”の自分を装う。「あ、あなたみたいな化け物・・・・・・ぜ、全然恐くも何ともないです・・・・・・すぐにここにあの人達が助けに・・・・・・」「バカかお前、この部屋に入るにはあの襖開けるしかねえだろ・・・・・・開けたらお前等の仲間より先に俺達の仲間が来るぜ・・・・・・」「う・・・・・・」体にまとわりつく恐怖感が拭えない夕映はいつもみたいに素早く口で人をあしらう事が出来ない。うっすら涙目になって息を荒くする。恐い・・・・・・生まれて初めて殺されるかもしれない危機感に夕映はその場に崩れ落ちそうだった。「ひ・・・・・・」「まずはテメェから殺してやる・・・・・・」刀をゆらりと振り上げる天人に夕映は懸命に涙をこらえる。「ゆ、夕映ぇぇぇぇぇ!! あれ?」「襖の向こう側にいた敵の声が消えた・・・・・・」襖を閉めていたハルナが目を見開いて叫ぶが和美と一緒にふとある事に気が付く。さっきまで結界の張った襖を開けようと躍起になっていた天人達の声が消えた・・・・・・「ゲヘヘヘ・・・・・・死ねぃ・・・・・・」「た、助けて下さい・・・・・・」近づいてくる凶悪な天人を前にして、初めて放つ弱気な言葉、そして夕映は震えながら必死に願う。「死ねェェェェェェェ!!!」「夕映ッ!」無情にも天人は刀は夕映に振り下ろす。悲鳴のように叫ぶのどかの声も聞こえず夕映はあの男の姿を思い浮かべ目をつぶり・・・・・・「助けて下さいッ! 近藤さぁぁぁぁぁんッ!!!」その時ハルナと和美が閉めていた襖がいとも簡単に蹴破られた。「「うわぁッ!!」」「な、なんだ?」暗闇の部屋に差す一筋の光、今まさに夕映を殺そうとした天人は思わずそちらに目を向ける、だが次の瞬間。「き、貴様は・・・・・・・! おげぇッ!!」目にもとまらぬ速攻、天人はいきなり部屋に入って来た“男”により一瞬で首を刀で飛ばされた。天人の最期の叫び声に夕映はハッと目を開ける。するとそこにいたのは・・・・・・・「あ・・・・・・」「約束したからな」侍の魂である刀を鞘におさめ。土方や沖田と同じ服装。夕映よりずっと背が高く屈強な体。そして表裏も無い優しそうな微笑みと、まっすぐな目。「助けを呼んだら俺はどこからでも駆けつけるってな」「こ、近藤さん・・・・・・」夕映が唯一心おきなく接する事のできる異性。真撰組局長、近藤勲の登場だった。彼が目の前に現れたとわかった途端、緊張がほぐれたのか目から出る涙も気にせずに、夕映は泣きながら彼の腰に抱きついた。「来てくれるって・・・・・・絶対来てくれるって信じてました・・・・・・」「恐い思いさせて悪かったな、本当はもっと早く来れたんだが・・・・・・」「いいんです・・・・・・あなたが来てくれた事だけで私はもうそれでいいんです・・・・・・」抱きついて来た夕映の頭を手でポンポンと叩きながら謝る近藤に、夕映は嗚咽しながら嬉しそうに呟く。夕映の後ろにいたのどかも彼女の姿を見て安堵したように微笑むが、ハルナと和美はいきなり出て来た近藤に唖然としていた。「こ、近藤さん・・・・・・夕映の言う通り本当に来たよ・・・・・・」「なんでゴリラみたいな人と夕映が抱き合ってるの・・・・・・・何コレ?」「朝倉も変だと思うわよね、やっぱり夕映とあの人じゃ・・・・・うおッ!」「どうしたのハルナ? ひゃあッ!」二人で近藤と夕映の事で会話しながらふと襖の開いた後ろに振り返ってすっときょんな声を上げる。そこにあるのはさっきまでここをこじ開けようとしていたと思われる三人の天人の無残な姿であった。既に息は無く、三人共々刀で斬りつけられた跡がある。もしや目の前にいる男が宇宙海賊の三人を相手に・・・・・・「さて、再会の喜びに浸っている場合じゃねえんだった。夕映ちゃん、ちょっくら仕事して来るわ」「ぐす・・・・・・仕事ですか・・・・・・?」「なあにすぐ終わるさ、俺達真撰組が下衆な奴等に遅れは取らんよ」そう言い残して近藤はまだ泣いている夕映を離し、腰に差す刀を握って優しい顔からキリッと目つきを鋭くさせて指揮官の顔になる。まだ驚いているハルナと和美の二人を横切り、部屋から出た近藤は大広間を見渡せる高台に立って深呼吸して・・・・・・「一人残らず討ち取れぇいッ!!!」「「「「「オォォォォォォォォ!!!!」」」」」「うわぁッ! ひ、土方さん達と同じ服装の人が一杯ッ!」「どういう事コレッ!? どういう事コレッ!?」恐る恐る顔を部屋の外に出したハルナと和美が見た光景は、土方や沖田や近藤と同じ真撰組の服装をした集団が天人達と戦っている姿だった。あまりにも急な出来事にハルナと和美がパニくっていると、近藤は振り返らずにフッと笑う。「安心しろ俺達は助っ人だ、真撰組はか弱き民衆を護る為の組織、異世界だろうがそれは変わらん」ゆっくりと語った近藤にハルナは頬を引きつらせて一歩下がる。「え・・・・・・なにこのゴリラ・・・・・・最初会った時とキャラ違うじゃん・・・・・・気持ちワル・・・・・・・」「いやちょっと何それッ!? なんでいい事言ったのに気持ち悪いって言われなきゃいけないの俺ッ!? ていうかゴリラじゃないしッ!」「あ、それだわ」「それだわって何ッ!?」何故かハルナにドン引きされたので、さっきとは打って変わって慌てた様子で近藤は振り返る。だがその反応にハルナはホッとしたように一安心。彼女にとってこっちの姿の方が『近藤勲』というキャラクターなのだから。一方、思わぬ援軍が現れた事に一番驚いているのは彼女達では無い。同じ真撰組隊士である土方十四郎その人であった。「な、なんでテメェ等がここに来てんだァァァァァ!!!」「元副長ッ! お久しぶりですッ!」「元副長ッ! 久しいッスねっ!」「元副長ッ! 髪切った?」「誰が元副長だ現副長だボケッ! テメェ等まとめて切腹にしてやろうかッ!!」戦いながらも嬉しそうに笑いかけて来る隊士たちに土方は唾を飛ばしながら叫ぶ。すると後ろにいる沖田がポンと彼の肩に手を置いて。「まあまあ、落ち着いて下さいよ“元土方さん”」「元土方ってなんだよ・・・・・・未来永劫、輪廻転生後も俺は土方一本だ・・・・・・・」「それでも元副長ってのは変わらないんですけどね、何て言ったって俺が副長ですから」親指で自分を指差す沖田を見て土方はタバコに火を付けながら深いため息を突く。「やっぱテメェの入れ知恵か・・・・・・ていうか何であいつ等がこの世界に・・・・・・」「ああ、俺が呼んだんです」「なんだと・・・・・・・?」「実は俺達の世界で大人数を運べる巨大な転移装置を作りましてね、それでコイツ等こっちに来たんでさぁきっと」「お前俺になんの報告もせずにコソコソとそんな事してやがったのか・・・・・・」「何言ってんですかぃ、どうして現副長のこの俺が、いちいち元副長のアンタに報告しなきゃいけねえんですかぃ」しれっとした表情で話す沖田に土方はタバコの煙を吸いながらイライラしたように髪を掻き毟る。「俺がこの状況から生きて江戸に帰ったら、絶対お前隊長に戻れよ・・・・・・もしくは腹斬れ」「生き残れたらですけどね、まだ勝てるかどうかもわかってないですぜ土方さん?」「生き残れるに決まってんだろ」「後ろから俺が土方さんの背中をグサって」「お前が言うとマジに聞こえるから止めろ・・・・・・」カオスな会話を終えた後、土方はタバコの煙を吐きながら沖田と一緒に敵陣に刃を向ける。「真撰組だ、悪いが縄かける余裕なんざねえ、一人残らず殲滅させてやる」「泣く子も黙る武装警察の総出で歓迎されるなんて中々ねえぜ。ラッキーだなお前等、みんな仲良くあの世に行けるぜぇ・・・・・・」「な、なめやがって・・・・・・」「援軍が来たからって調子に乗るんじゃねぇぇぇぇ!!」10人はいるであろう春雨の兵隊が一斉に土方と沖田に襲いかかる。その時、二人は笑みを浮かべ刀を妖しく光らせた。「どっちが何人斬れるか勝負するか総悟・・・・・・!」「いいですねぇ、それでどっちが上なのかその身に教えてやりまさぁ・・・・・・!」突っ込んで来る軍勢に土方と沖田は真っ向に挑む。春雨対真撰組。異世界を超えた二つの勢力が今まさにぶつかる。