かつての師、神威との再会を果たしたネギで会ったが、その出会いは緊迫したムードを漂わせていた。神威は銀時や裏切りアーニャの所でもなく自分の所へ誘う為にネギの近くにやってきたのだ。「僕が神威さんの所へ・・・・・・?」「俺はね、弱い奴には興味が無い」相変わらず不気味な笑みを浮かべながら、神威は驚愕しているネギの方へ近づいて行く。「でも強くなりそうな子には興味がある」「・・・・・・」「こんな所で才能を腐らせなくてもいいんじゃない? 俺ん所にいればもっと強くなれるよ? 君には素質がある、お侍さんや父親を超える素質が」「神威さん・・・・・・」「ん?」小さな声を漏らすネギに神威は無邪気に首を傾げる。するとネギは顔を上げて「いくら神威さんの誘いでもお断りします」「あれれ、どうしてかな?」「・・・・・・」クスッと笑いかける神威に少しビクッと反応しながらもネギは彼に向かって勇気を振り絞る。「僕が欲しいのは誰かを殺す力じゃない」「・・・・・・」「僕が欲しいのは生徒のみんなや他の人達を“護れる力”、色んな人の為に力を使いたいんです。神威さんについて行ったら、生徒のみなさんや銀さん達にも会えなくなりますし・・・・・・それじゃ意味が無いんです」「ふ~ん、なるほどね」「だから僕は・・・・・・神威さんと一緒に行く事は出来ません」「よく言った兄貴・・・・・・!」自分より強大な力を持つ神威に対して啖呵を切るネギに対してカモが遠くからガッツポーズを取っているが、神威は両手を後頭部に回し、ネギに向かって優雅に微笑んでいる。「思ったより自分の考えが持ててるんだネ、やっぱり君の事は嫌いじゃない」「え?」「さて・・・・・・」何を言っているのかさっぱりわかっていないネギに対して、神威は両手で拳をポキポキと鳴らし始める。その動きだけでネギは彼が何をしようとしているのか想像ついた。「久しぶりにやろうか? 今までとは違い俺は本気で君を殺すつもりだよ、だって・・・・・・」神威は拳を構えてネギと対峙する。その場に足踏みしながらもう完全に戦う事しか考えていない。「誘いを断った以上、俺達はもう敵同士だろ? それ以上もそれ以下も無い」「神威さん・・・・・・でも僕はまだ神威さんの事・・・・・・・」「早く構えなよ、一瞬で決着が着いたらつまらない」「・・・・・・」子供の様に催促して来る神威に何か言いたげな表情をするも、魔法使いの主武器である杖を背中に差したままネギは構える。神威に教えてもらった技、それが教えてくれた本人に通用するかどうかはわからないが、“あの術”ではないと彼とまともに戦える事なんて出来ない。「30%解放・・・・・・」「そう、俺は君と楽しみたいんだ、師も弟子も関係なくお互いが全力を出して潰し合いをする・・・・・・」目の前にいるネギが禁術を発動した時に神威は本気で来ると知って嬉しそうにする。そして瞼を開けネギに対して妖艶な笑みを浮かべた。「本当の殺し合いって奴をさ・・・・・・」「!!」放たれる巨大な殺気にネギは肌で感じて戦慄した瞬間、神威は彼に向かって距離を詰め。「ぐうッ!」「兄貴ッ!」一発の拳がネギの腹に思いっきり入る。たった一発の拳、しかしそれが夜兎族の拳となるとトラックでも突っ込んできた様な威力と匹敵するほど大きなものである。ネギは衝撃で体を宙に浮かせて後ろに吹っ飛ぶ。カモが後ろから悲鳴の様に叫ぶが、すぐにネギは体を回転させて下に着地。そして今度は自分から神威の方に襲いかかる。鋭い目つきで走って来るネギに神威は頬笑みながら口を開く。「そう、俺が何者でも君にはもう関係ない」「こうなったら・・・・・・40%解放ッ!」突っ込んできたネギと同時に神威も拳を振る。周りに大きな音を立ててお互いの拳は相手の顔面に入った。神威はネギの右目に入れ、ネギは神威の頬に入れる。「人を殺す事に理由なんて必要ない・・・・・・」相討ちの状態から神威は一歩引いて、即座に握り拳を解いて手刀に変え、それを見たネギもすぐに構えを変えた。「まだまだ死なないでよ?」「・・・・・・まだ死ねませんよ・・・・・・50%・・・・・・!」互いに相手に言葉を呟いた後、神威とネギは一気に距離を縮めて手刀による『刀の無い斬り合い』が始まる。両者の手刀は今はナイフの様に鋭く、それを弾きながら突き刺そうとし、突き刺そうとしながら弾く。本気の殺し合い、そしてあまりにも早すぎる二人の動きに、傍観しているカモは「ヤベェ、マジでヤベェ・・・・・・」一歩も引かずにただ無心に避ける、突き刺す、殴る、蹴るを繰り出していく神威とネギに、ただ呆然と決着を見守る事しか出来なかった。第六十訓 死ネギと神威が屋敷の一番高い所で戦っている頃、大広間にて詠春や生徒達と合流を果たした土方一派。彼等もまた、夜襲を仕掛けて来た春雨の軍勢と斬り合いに勤しんでいた。「チィッ!」「うぎゃぁぁぁぁ!!」「斬っても斬ってもキリがねえ・・・・・・ちっとは休ませろ・・・・・・」「ぐげぇぇぇぇぇ!!」「私も年なので少々疲れて来ましたよ・・・・・・」大広間に乱入してくる大群の天人達を斬り伏せて行きながら土方と詠春が背中を合わせてダルそうに会話する。どうやら敵はここを集中に攻めて来ているらしく、魔術を扱える女中達の手を借りても数が違いすぎるのだ。「娘が心配です、一体何処へ行ったのやら・・・・・・」「連中はあの娘っ子が目的だ、殺しはしねえと思うがこの状況じゃあ捕まった可能性は高い」「やはりそうですか・・・・・・」苦々しい表情で詠春がうつむいたその時「では俺が木乃香殿を助けに行ってこよう」「「ぐあぁッ!!」」「え?」二人の会話に割って入って来たのは、ついさっき一太刀で二人の敵を瞬殺した桂、全く疲れている表情もせず詠春に提案する。「鬼はこの辺に封印されているのであろう、恐らく木乃香殿はそこにいる」「ええ、この屋敷の裏にある山の奥に確かに鬼神リョウメンスクナノカミを封印している大岩が・・・・・・」「裏山か、封印を解かれる前に木乃香殿を救わねば・・・・・・」「一人で大丈夫ですか? 向こうだって素直に返そうとはしない筈ですよ」「案ずるな、俺には仲間がいる」春雨の軍勢を相手にしながら桂がチラッと後ろに振り返る。彼が見る先には小さな体を駆使しながら戦っている小太郎、両手にボードを持って大暴れしているエリザベスと、5人の天人を相手にしてたった一つの呪文を放ち一瞬で消滅させるアルの姿が。「ヅラッ! どっか行くんなら俺も連れてけッ!」『抜け駆けしてんじゃねえぞクソガキッ!』「ザコ相手はもう疲れました、あなたと一緒に行く方が楽そうでいいです」意気揚々と同行に参加する姿勢を見せる三人に桂はフッと笑って詠春の方に振り向く。「ひとクセある奴等だが俺にとっては頼もしい侍だ」「なるほど、これなら問題無いですね」「アハハッ! ヅラッ! ならわしも行くぞッ!」「坂本・・・・・・?」詠春と桂の所に笑いながら天人から奪った刀を持って坂本が近づく。後ろには天人の軍勢を掻い潜って必死に彼について来たネカネの姿が「こんなバカ騒ぎをやらかした張本人の高杉の奴に久しぶりに会いたいんじゃ・・・・・・あいつは昔からお調子者じゃから一言いわんとわからんきん・・・・・・」「・・・・・・ふん、お調子者で済むかこんな事が・・・・・・まあいい、来るなら来るがいい、弾避けにはなる」急に真顔になって話しかけて来る坂本に桂は無愛想についてくるのを許可する。すると坂本は何時も通りに戻って二カッと嬉しそうに歯を見せて笑った。「ほんにお前は話が分かる奴じゃの、ヅラ」「ヅラじゃない桂だ」周りが大騒ぎしている中、自分の肩に肘を乗せて馴れ馴れしい態度をしてくる坂本に桂がぶっきらぼうに返していると、それを見ていたネカネも彼に口を開く。「私も一緒に行かせてください、この人が何かしでかすかもしれませんし危険で離れられません、それに私もちゃんとした魔法使いの一人です、治癒呪文を覚えているのであなた達の力になれます」「なるべく悟れぬよう少人数で行きたかったんだが仕方ない・・・・・・坂本、お前が守ってやれ」「おうッ! わしに任せろッ!」「ありがとうございます」ため息交じりに桂がネカネの同行も認知すると、坂本が胸を張って自信満々に叫ぶ隣で、ネカネが桂に一礼する。これで6人、木乃香救出チームのメンバーは決まった。しかし彼女の事を心配で気に病んでいる人物が詠春以外にもう1人いた。現在、土方と一緒に春雨の兵達を相手にしている木乃香の親友である桜咲刹那だ。「・・・・・・」「お前も桂達と一緒に行ってこい、あのガキのダチなんだろ?」「え? でもそれでは土方さんが・・・・・・」黙ったまま桂達の方へ目を向けている刹那達に気付いたのか、土方はタバコを口に咥えながら話しかける。それに刹那は口をモゴモゴさせて何か言いたげな表情をするが、土方はそんな彼女を見下ろして。「問題ねえよテメェが抜けても、さっきから一人も斬ってねえだろお前」「はい・・・・・・やはり天人といえど私は・・・・・・」こんなに大勢の敵がいる中、刹那が刀を振っているのはわかるが全て峰打ちだと言う事に土方は気付いていた。しかしそれが普通だ、例え天人でも殺す事なんて中学生の女の子には荷が重い。「殺せねえならこんな所にいても邪魔なだけだ、さっさと桂の所へ行っちまえ」「土方さん・・・・・・でも私・・・・・・」「命令だ、早く行け」「・・・・・・は、はい」冷たい土方の言葉に刹那はしゅんとしたまま、桂達の方へ向かった。残された土方は彼女の方へ振り向かずにフンと鼻を鳴らした後、目の前にいる敵を片っ端から斬り伏せる。「おぼぉッ!」「ざばぁッ!」「ぎぇおッ!」「はがぁッ!」「・・・・・・人斬りの俺は間違いなく地獄に行く」4人の敵を走りながら肉塊に変えて行く土方は刀を振り抜いた状態でボソッと呟いた。「・・・・・・地獄にまでついて来られたらいい迷惑だ」タバコの煙を吐きながら土方は天井を見上げる。彼女には自分と同じ罪を背負わせたくない。のどか達は今、大広間の奥の詠春の自室にて隠れている。10畳ぐらいの広さで何処か薄暗い感じの部屋だ。部屋の外から聞こえる叫び声や悲鳴、何かが斬られる音や爆発する音、それらを耳に入れながらいつ敵がこの部屋に入って来るのかと恐怖していた。「大丈夫かな十四郎さん達・・・・・・」「外はどんな地獄絵図なんだろ・・・・・・」「気になるなら出て行ったらどうですかハルナ? 漫画の参考になるかもしれませんよ?」「・・・・・・」仏頂面で血生臭い戦場に行ってこいと催促してくる夕映をハルナはジト目で振り向く。少なくともこの状況で友人に対して言う事じゃない。「私が書く作品に北斗の拳みたいな世紀末なシーンは無いから行っても無駄、だったら朝倉が行けば? スクープ間違いないんだから撮ってくればいいじゃん」「ハハハ・・・・・・呑気に写真撮ってたら土方さんに怒られそうだからいいや」苦笑しながら和美は手を横に振って拒否すると、ハルナは今度、のどかの方へ顔を向ける。「じゃあのどかは? 土方さんの戦いぶりを目に焼き付けてくればいいじゃん」「え、えええッ! 絶対邪魔になるから無理だよッ!」ハルナに向かってのどかが激しく首を横に振ると、それを見ていた夕映が軽蔑のまなざしでハルナの方へ口を開く。「友人に対して死ぬかもしれない場所に行けと言うなんて・・・・・・あなたそれでも人間ですか? 最低です」「オイコラァァァァ!! さっき私に似たような事言ってた奴は何処のどいつだッ!」指差して夕映に向かって矛盾点をツッコむハルナ。だが夕映はそれを華麗にスルーする。4人の生徒で緊張感のかけらも無さそうにゴタゴタしているが、ここには5人目の生徒も一緒にいた。さっきここにやってきたアスナが部屋の端っこでボーっと体育座りしている。「・・・・・・」「ん? どうしたのアスナ、いつも騒ぎまくってるアンタが珍しい」「いやちょっと・・・・・・ネギの奴が心配なのよ・・・・・・」「ああ・・・・・・」不安そうに話しかけて来た和美にアスナは覇気のない表情で呟く。大広間にネギの姿は無かった、なら彼は今何処に・・・・・・和美も彼女の気持ちを察したのか隣に座ってため息を突く。「ま、生きてるんじゃない? あの子たくましいし」「・・・・・・でも、何か嫌な予感がするのよ・・・・・・」「嫌な予感?」髪を掻き毟りながらアスナは高杉の言っていた言葉を思い出す、ネギが死ぬ事を暗示させる不吉な言葉だった・・・・・・「やっぱり・・・・・・!」「ちょ、ちょっとアスナッ!? 何処行く気ッ!?」いてもたってもいられなくなったアスナは、立ち上がって部屋の襖に手をかける。戦場である大広間へ向かおうしている事に気付いて和美は慌ててアスナの方へ駆け寄る。「今行ったら自分が死ぬよッ!? ネギ先生の事は銀さんや土方さんに任せておけばいいじゃんッ!」「間に合わないかもしれないのよ・・・・・・! それじゃ」「あッ! アスナッ!」切羽詰まった表情で和美に向かって口を開いた後、アスナはすぐに襖を開けて混乱ひしめく大広間へ突っ込む。襲いかかって来る天人達を自慢の脚力で避けて行きながら、アスナは大広間から出て行ってネギを探しに行ってしまった。その光景を顔だけ部屋から出して見ていた和美は「おったまげた・・・・・・やっぱり肝っ玉が座ってるわあいつ・・・・・」「そこに隠れてたか人間ッ!」「げッ!」アスナの後姿を眺めながら和美が感心するように頷いていると、彼女が首だけ出している事に気付いたのか天人の一人が大剣を持って走って来る。和美が突然の出来事に硬直している隙に、天人はどんどん近づいてくる。「死ねェェェェ!!!」「ひッ!」泣きそうな顔で和美が短い悲鳴を上げて目をつぶった瞬間「が、がぁぁぁぁぁぁ!!」天人の背中から一本の日本刀が出て来る「獲物一点に集中してると怪我するぜい、こういう風にな・・・・・・・」「沖田さんッ!」天人の後ろからいつもより声の低い喋り方をする沖田に気付いて和美が声を上げる。腹から大量の出血を出し、口からもブクブクと赤い泡を吐いた後、天人はバタリと倒れ、二度と動かなくなる。沖田は天人が死んだ事を確認すると周りに気を付けながら首だけ出している和美の方へ近づいた。「なに隠れてる場所から首だけ出してんだオメー、その首すっ飛ばされたいのか? なんなら俺がすっ飛ばしてやろうか?」「いや違うからッ! 一緒にいたアスナっていう女の子がここから出て行ってネギ先生の事探しに行っちゃったんだよッ!」「はぁ? こんな状況で外出るなんざクレイジーにも程があるぜぃ」話の経緯を和美から聞いて沖田は呆れながら舌打ちした後、後ろへ振り向く。大広間にいる敵はまだゾロゾロと湧いて出て来る。ここを自分が留守にするわけにはいかない。「悪いがそのガキ一人の為にここから離れるわけにはいかねえ、生きて帰って来る事を祈るんだな、あばよ」「お、沖田さんッ!」素っ気なく言葉を残した後、沖田は行ってしまった。残された和美は渋々首を部屋に戻す。「まあこの状況なら仕方ないよね・・・・・・せめてもっと味方がいてくれたら・・・・・・」「大丈夫ですよ、約束してるんです」「え、約束?」圧倒的兵力の差を覆す方法は無いのかと和美が頭を悩ましていると、夕映が問題なさそうに口を開く。「助けを呼べばすぐに駆けつけるって、あの人が約束してくれたんです」「あの人って?」夕映が言っている事がよくわかっていない和美に対し、ハルナは凄く嫌そうな顔を浮かべる、「夕映もしかして・・・・・・」「ええ、もちろんあの人です」「来るわけないじゃん・・・・・・」「いえ、彼は必ず来ます」確信しているかのように夕映が自信満々に頷く。「近藤さんは必ずやってきます」「・・・・・・誰?」近藤を知らない和美は思わず目が点になった。土方達と別れた銀時は今、アリカとの三度目の戦いを屋敷の裏庭で興じていた。あやかと千雨が後ろで見守る中、銀時は木刀と野太刀を振り回し、アリカは一本の剣で対応する。火花が飛び散る程の激しい刃のぶつかり合い、だが二人共そんな戦いを繰り広げながら何処か冷めた表情をしている。「・・・・・・子供に会いに行かねえのか?」「・・・・・・」「こんな事やってねえでよ・・・・・・」「・・・・・・黙れ」喋らせぬように放ってくるアリカの殺気に銀時は怯まずに応戦する。二本の刀を器用に動かし、なんとかアリカを止めようとする銀時だが、彼女の底知れぬ戦闘力の高さに悪戦苦闘していた。そんな時だった。あやかと千雨の元に走り寄って来る一人の生徒が「いいんちょッ!」「アスナさんッ! あなたどうしたんですかこんな時にッ! 皆さんと一緒じゃなかったんですかッ!?」いきなり廊下を走ってやってきたアスナにあやかが困惑の色を浮かべる。アスナは彼女の前で息を荒げながら深呼吸した後、すぐに顔を上げた。「ハァ・・・・・ハァ・・・・・・ネギ見なかった・・・・・・?」「ネギ先生?」「見てねえぞ」 彼女からネギの事を尋ねられてわけも分からない様子であやかと千雨は首を横に振る。その反応にアスナは胸を押さえながら「早くアイツに会わないと・・・・・・大変な事に・・・・・・え?」「上から凄い音が聞こえますわ・・・・・・」「何だよコレ・・・・・」アスナが呟いた瞬間、上から何かを壊すような大きな音が聞こえて来る。異変を察した三人は慌てて、庭に移動して上を見上げる。「ネギッ!」「ネギ先生が戦ってますわッ!」見るとなんと屋敷のてっぺんの屋根の上でネギと神威が戦っているのだ。屋根の上を疾走しながら何度もぶつかり合っている。だが明らかにネギが劣勢の状態、体中から血を流して息が荒い。そんな状態のネギを見てあやかは思わず口を押さえる。「ネギ先生・・・・・・・!」「これがアイツの言ってた事だって言うの・・・・・・・」「銀八ッ! 大変だッ! ネギ先生が・・・・・・!」血相を変えて銀時に振り向いて千雨がネギの事を言おうとしたその直後。上ではもはや瀕死ともいえる状況のネギに神威が追いうちの如く彼を横に蹴っ飛ばす。屋根の上からネギがこちらの方へ降って来る。「ネギッ!」アスナが叫んだと同時にネギは屋敷のてっぺんから裏庭に大きな音を立てて激突。落下地点は銀時とアリカがいる所の10M先だった。戦いに集中していた二人も思わず何事かとそちらへ振り向く。しかし周りに土ぼこりが立ち起こる中、ネギはまるで痛みを感じない様にむくりと立ち上がった。「ハァ・・・・・ハァ・・・・・・」「ネギ・・・・・・アンタあそこかた落ちたのになんで生きてるの・・・・・・?」「ネギ先生ッ!」「90%まで解放したのにこの差・・・・・・そろそろ意識が・・・・・・」「おい・・・・・様子がおかしいぞ・・・・・?」ブツブツと何かを呟いているネギはアスナ達や銀時達の事にやっと気付いていたのか、キョロキョロと周りを見渡す。そしてふとアリカの方へ顔を向けた突然降って来たネギの存在に当然アリカもたじろいだ。(前に奈良でぶつかった女の人・・・・・・あの人敵だったんだ・・・・・・)「ネ、ネギ・・・・・・!」「なんでテメェが上から降って・・・・・・!」わけもわからず混乱しているアリカと銀時の所に、屋根の上から神威が下りて来る。彼の手には何故かグッタリしているカモが握られていた。「俺が落としたんだよ」「お前・・・・・・!」「久しぶり、お侍さん」「神威ッ!」ネギの数メートル前に着地した神威は銀時とアリカに向かって笑いかける。そして手に持っていたカモをポトッと地面に落とす。「この子一人をあそこに残してたら可哀想だったからさ」「こ、腰が・・・・・・」「あれ? ちょっと強く握り過ぎちゃったかな?」苦しそうな表情で腰をおさえながらカモは神威の前から一目散に逃げ出してアスナの方へ向かう。「姐さん・・・・・・マジでヤベぇ・・・・・・ネギの兄貴あのままだとアイツに・・・・・・」「ナマモノッ! 一体どういう事なのよコレッ!」「あの男が神威です、前に聞いたでしょ・・・・・・兄貴の師匠の夜兎族の男です・・・・・・」「あ、あいつが神威・・・・・・・!」全身を震わせながらカモはアスナに教える。あの男が神威、ネギに戦いを教えた人物であり、夜兎族。そして春雨の幹部でもある。「神威ッ! 一体この子に何をしたのじゃッ!」「別に、アンタには関係ないでしょ」「!!」「こんな時に母親の真似事なんて笑わせる、家族を捨てたアンタにそんな資格なんてない」「く・・・・・・」痛烈な神威の一言にアリカはすぐに黙ってうなだれる。一方ネギはというと彼が言った言葉の意味が上手く掴めなかった。「母親の真似事・・・・・・?」「・・・・・・」「何言ってるんですか神威さん・・・・・・」「・・・・・・」「答えて下さいッ!」口から血を流しながらも必死に神威に向かって叫ぶネギだが、彼は黙って笑ったまま。何も言わない神威に苛立つようにネギは重傷の状態で拳を構える。だがその時「ネギ・・・・・・・」「え?」 “彼女”の声が突然耳に入って来た。ネギは拳を構えたまま、彼女の方へ振り向く。「もう止めろ・・・・・・止めるのじゃ・・・・・・」両手を地面につけて泣きそうな声を上げているアリカにネギはキョトンとしたまま固まる。「お主のそんな姿・・・・・・わらわはもう見たくない・・・・・・」「・・・・・・あなたは一体何者・・・・・・」消え入るような声を出しているアリカにネギはジッと彼女を見る。「・・・・・・全てを捨てたと思っても、お主だけは捨てる事が出来ない・・・・・・」「・・・・・・どうして僕の事を知って・・・・・・」呟いているアリカにネギは近づこうとすると、後ろから神威がはニコッと笑って現れた。この時を言う時が来たという風に「母親だからに決まってるだろ」「・・・・・・え・・・・・・・?」神威の一言にネギは一瞬時が止まった様な感触を覚えた。しかし彼が言った事がずっと頭の中ででリピートされている。母親・・・・・・あそこにいる女が・・・・・・両手を地面について泣きそうな女が・・・・・・自分の事を心配してくれているあの女が・・・・・・「そ、そんな・・・・・・」「アリカ・スプリングフィールド・・・・・・そんな名前だったっけ彼女」「あの人が僕の・・・・・・!」食い入るようにネギはアリカを凝視する。自分を生んでくれた母親が今、目の前にいる。「あなたが・・・・・・」「・・・・・・」「そうなんですよね・・・・・・・」「・・・・・・」「母さ・・・・・・!」ネギは彼女に一歩一歩近づいて両手を差し伸べようとする、が突如肉を貫く生々しい不快音がその周りにいる者達の耳に入った。「母親との感動のご対面・・・・・・」「神威・・・・・・さん・・・・・・・!」「俺からの・・・・・“最期”のプレゼント、気にいってくれたかな?」「がはッ!」「さようなら・・・・・・俺の小さなお弟子さん」自分の息子に何が起こったのかアリカは気付いて呆然と立ち尽くす。口から大量の血を吐きだしたネギの後ろにいるのは、いつもの様に微笑んでいる神威の姿、そして彼の右腕は・・・・・・ネギの心臓がある箇所をいとも簡単に貫いていた「ネギィィィィィィ!!!!」アリカは半狂乱になってネギの方に走り寄る。神威が彼から生々しい音を立てて自分の腕を引き抜いた瞬間、ネギはまるで抜け殻の様に地面に倒れた。アリカはすぐに彼を抱きかかえる。「・・・・・・冗談だろオイ・・・・・・・」「そうよ・・・・・・ウソ・・・・・・でしょ・・・・・・・?」目の前に起こった現実に銀時とアスナはショックを隠せず放心状態になる。カモも何が起こったのか事態を把握できていない程、頭を抱えてパニくり、あやかも口を両手で隠して、一緒に見ていた千雨と一緒に体を震わせる。「頼むお願いじゃ・・・・・・・! この子を・・・・・・この子を・・・・・・!」ネギを抱きかかえたアリカは必死に彼に向かって治癒呪文をかけようとするが。真っ赤に染まった右手をペロリと舐めながら、神威がアリカに宣告する。「無理だよ、もう死んでいる」「うう・・・・・・うわぁぁぁぁぁ!!!」瞼を開けない息子を両手に抱え、アリカは夜空に向かって銀時達の前で涙を見せて泣き叫んだ。彼女の姿を見て、銀時はぐっと奥場を噛みしめる。「神威ィィィィィィィ!!!!」両手に握る刀に力を込めて銀時は叫ぶ。腹の奥底から湧きあがる怒りのみが彼を動かす。遂に果たした親子の再会は残酷な形でピリオドを迎えたのであった。しかしネギの死がまた新たな始まりを生む。