アスナや銀時達から去った後、ネギは急いで大広間へと足を運んだ。銀時が言うには自分の親戚の姉的存在であるネカネ・スプリングフィールドがこの京都に来ていると言うのだ。「アーニャといい何処にいるかわからない母さんといい・・・・・・なんで僕の知り合いが一つの場所に・・・・・・」「誰かに仕組まれてるんじゃないですかい?」「わからない・・・・・・けど何かとてつもない嫌な予感が・・・・・・」肩に乗っているオコジョ妖精カモと話をしても明確な事は未だ分からない。不安と好奇心が入り混じる中、ネギは大広間の襖の前で急ブレーキして急いで開ける。「ネカネお姉ちゃんッ!」「ネギッ! あなたもここにいたのッ!?」人目もはばからずネギは大声でネカネの名を叫ぶ。彼女は振り返りネギの存在に気付くと、ビックリしたような表情をする。「ネカネお姉ちゃん・・・・・・」「ネギ・・・・・・久しぶりね」「お姉ちゃぁぁぁぁんッ!!」久しぶりに会えたネカネとの再会に疑問も不安も吹っ飛び、ネギは彼女の元へ両手を広げて普通の子供の様に走り寄って抱きつこうとする。だが「アハハハハッ!」「わぷッ!」「ネギッ!」「おんしがネカネさんがよく言っとったネギかッ! 写真で見るよりカワイイ奴じゃのうッ! アハハハハッ!」ネカネの前に突然現れ、突然抱きついて来た男にネギは一瞬混乱する。ネギに抱きついて来たのは坂本、ネカネからネギの話を少し聞いていたらしい。大笑いしながら坂本はネギの頭をグシャグシャさせなら乱暴に撫でる。しかしネギはしばらくして彼の腰をがっちりクラッチ、そしてそのまま・・・・・・「せぇいッ!」「ぐえぇッ!」「ネ、ネギッ!」上体をのけ反らして自分より背も体重もある坂本をバックドロップ。脳天を床に叩きつけられた坂本は呻き声を上げ、慌ててネカネが近寄って来る。「しばらく見ない内にたくましくなったわね・・・・・・」「色々あってね」「あ~やっぱりネカネさんの親戚じゃ~、躊躇なく暴力振るってきおった・・・・・・」乱暴に坂本をほおり捨てた後、ネギはニッコリと頬を引きつらせているネカネに笑いかける。そうしていると坂本が頭を手でおさえながらヨロヨロと上体を起こした。「親の顔が見たいぜよ・・・・・・」「・・・・・・お姉ちゃん、この黒モジャ頭の男って僕とネカネお姉ちゃんの家に住んでた男だよね?」「やっぱりあの手紙見たのね・・・・・・そうよ、この黒モジャ頭は坂本さんっていってね、銀時さんや桂さんと同じ異世界の人間なのよ」「ええッ! 銀さん達と同じッ!」坂本が異世界の人と知ってネギが驚いていると、もう復活した坂本がまた彼に向かって今度は後ろから抱きつく。「ヅラと金時はわしの友達じゃ~ッ! アハハハッ!」 「・・・・・・僕に触るな黒モジャのクセにッ!」「ぐふぅッ!」笑いながら両手を首に巻き付けてきた坂本に、ネギは額に青筋を立てて彼の腕を掴みそのまま一本背負い。受け身も取れずにそのまま坂本は顔面から床に落ちた。「この男が異世界の人なのはわかったよ、けどなんでネカネお姉ちゃんがコレと一緒に住んでんのッ!?」「いやその・・・・・・拾ったから仕方なく」「そんな捨て犬感覚で知らない男をホイホイ家に入れちゃ駄目だよッ! 男はみんな狼だって銀さんが言ってたよッ!」「だ、大丈夫よネギッ! この人私に手なんて一切出してないからッ!」弟同然のネギに物凄い気迫で怒られ、あたふたしながらネカネが答える。するとまたすぐに復活した坂本がすくっと立ち上がって「安心しろ坊主、わしはネカネさんの言う通り、おんしの大事なネエちゃんに手なんぞ出し取らん・・・・・・」「ほらね、大丈夫よネギ、心配しないで・・・・・・」「・・・・・・・」「まあ一緒にいるうちにいつか手を出しちゃうかもしれんがのッ! アハハハハッ!」「「おらぁッ!!」」「げほぉッ!」茶目っけたっぷりに笑っている坂本の顔面にネギとネカネが同時に右ストレートを叩きこむ。坂本はそのまま後ろに大の字に倒れてダウン。「ネカネお姉ちゃんッ! やっぱこんな男と一緒にいるなんて駄目だよッ! ダメ人間じゃんッ! もうダメ人間の見本ですって図鑑に載るぐらい完璧なるダメ人間じゃんッ!」「ネ、ネギ落ち着いて、確かにこの人はダメダメ超人だけどいい所もあって・・・・・・」口をもごもごさせて倒れている坂本をチラチラ見ながら弁明しようとするネカネ。しかしネギにとってそんな事関係無い。「いい所があっても無くてもネカネお姉ちゃんが男と一緒に住むなんて絶対駄目だよッ! 麻帆良学園にいる時にある人に言われたんだ、僕がネカネお姉ちゃんが彼氏なんて作ったらどうしようって相談したら・・・・・・・」『どうしたらいいでしょうか?』『男の首の骨を反対方向に捻ればいいんじゃない? 死ぬから』『うわ~さすが神威さん』「って僕の親しい人が教えてくれたよッ! これ今やっていいッ!?」「ネギィィィィ!! なんであなたそんな危険な人と付き合ってるのよッ! 思考がアウトゾーンに思いっきり曲がってる人じゃないッ! すぐに縁切りなさいッ!」親指を立てて誇らしげに言うネギに、まずネカネは相談の結果以前に相談した相手に対してツッコむ。するとネギは顔をムッとさせて「僕と神威さんの前にまずネカネお姉ちゃんがその黒モジャと縁切ってよッ!」「いや私達よりあなたの方が先よッ! そんな危ない人の事を聞いちゃいけませんッ!」「確かに危険度Sだけど問題無いよッ!」「あるわよッ! この人より問題ありまくりよッ!」「そっちの方が危ないじゃんッ! あらゆる方向視点からして危険度SSランクの黒モジャじゃんッ! 絶対ネカネお姉ちゃんの事狙ってるよッ!」「ネギッ! この人の事を何も知らないクセにそんな事言うなんてッ! いい加減にしなさいッ!」「ネカネお姉ちゃんこそ神威さんの事なんにも知らないじゃんッ!」親戚同士声を荒げてギャーギャー口喧嘩を始めるネギとネカネの近くで、坂本は大の字で倒れながらため息を突く。「仲がええんじゃな二人共・・・・・・」「坂本の旦那、ちーす」「ん? おお、おまんは確か・・・・・・・」倒れている坂本の元にカモが彼の顔に近づいてくる。すると坂本は彼の存在に気付いて顔をほこらばせる「“カマ”ッ!」「“カモ”ッス・・・・・・それじゃまるで俺っち男が好き見たいんじゃないッスか・・・・・・」「アハハハハッ! そうじゃったそうじゃったッ! すまんのぉカマッ!」「相変わらず俺っちの名前覚える気無いッスよね・・・・・・」一度訂正してもまた名前を間違えるバカ丸出しの坂本にカモはもう諦めムードを漂よわせていた。ネギとネカネが合流した所でまもなく宴開始第五十七訓 酒は飲むモンであり飲まれるモンではないすっかり日も暮れて夜になったが、木乃香の実家である屋敷からは多くの人達の賑やかな声がワイワイと聞こえてくる。大広間にて一行の歓迎の宴が始まっているのだ。屋敷の女中達が豪勢な料理や酒を客達の前に持ってきて、楽器を用いて宴会ムードの音楽を漂わせる。だが先刻まで喧嘩していたネギとネカネは隣に座れど目も合わせず話もせず、黙々と目の前にある料理を食べているだけだった。二人の間にいるカモはどうしていいか困っている様だ。その光景を眺めていた千雨は隣にいる銀時に話しかける。「銀八、あの二人なんかあったの? 確か親戚同士で仲の良い筈じゃなかったか?」「オメー俺が何でも知ってると思うなよ、銀さんだって分かんない事がまだまだこの世にいっぱいあるんだから、あ~ここの酒うんめ~」「お前それで何本目だ・・・・・・飲み過ぎだよ止めろ」目の前にある料理を豪快に食いながら酒をガブガブと飲み干すのを、さっきからずっと繰り返している銀時は、すわっている目で横にいる千雨の方に振り向く。「ヒック・・・・・・」「お前酔ってるだろ・・・・・・・」「酔ってませ~ん」ヘラヘラ笑いながら答える銀時に千雨はやれやれと頭を掻き毟る。「こんな時に酔っ払いやがって・・・・・・」「だから・・・・・・酔ってねえつってんだろうがぁ~ッ!」「うわッ!」酔いの勢いに身を任せて銀時は千雨に突っかかってそのまま押し倒す。思わず顔を赤らめている千雨に、もっと顔を酔いで赤らめている銀時が四つん這いの状態で顔を近づけて来る。「酔ってねえ・・・・・・ヒック」「ちょっとッ! 人様がいる前で何危ない事やろうとしてるんですかッ!」「違うっていいんちょッ!」 「私も混ぜて下さいッ!」「なんでそうなるんだよッ! おい銀八早く離れろッ!」「うおっと」銀時の隣にいたあやかが怒ったように声を上げると、慌てて千雨は彼女にツッコミながら右手で銀時の顔を押し上げて上体を起こし、何とか彼を引き離す。しかし彼女に押された銀時はそのまま後ろに倒れてあやかの方に・・・・・・「きゃあッ!」「ん? なんかマシュマロみたいな感触が頭に二つ・・・・・・」「ぎ、銀さん・・・・・・それ私の胸・・・・・・」「胸?」勢い良くあやかの方に倒れた銀時はそのまま彼女の胸の中へ頭から落ちる。そんないきなりの銀時の行動にあやかは息を荒げながら顔を頬を赤くさせると、酔い潰れている銀時は再び思いがけない行動を「きゃッ! ぎ、銀さん何を・・・・・・!」「相変わらずデケェオッパイだなオイ、片手でやっと掴めるぐらいだぜ、ほら」「あ・・・・・・こんな人前でダメです銀さん・・・・・・」「オメーの方が危ねえよッ!」完璧に酔っている銀時があやかの胸に顔をうずめながら突然片手で揉みだす奇行に走ったので千雨が彼の後ろ襟を引っ張って強引に引き離した。あやかは顔を真っ赤にして両手で自分の頬を触る。「こんな積極的な事をされるなんて・・・・・・」「恥ずかしがってるわりには嬉しそうだなおい・・・・・・銀八、お前ちょっと横になってろ」満更でもなさそうに照れているあやかをジト目で視線を送った後、千雨は支えてるおかげでかろうじて座れている銀時に寝とけと指示。彼女の指示に銀時は意外にも素直に従った。「そうさせてもらうわ気持ち悪いし・・・・・・少し経ったらすぐに起こしてくれや、よ」「ってなんで私の膝を枕代わりにすんだよッ!」「カー・・・・・・・」「もう寝やがった・・・・・・」自分が正座している所に銀時がコテンと両膝に頭を置いてそのまま一瞬で寝てしまう銀時に千雨は複雑そうな顔をする。あやかは彼の寝顔を眺めながら「疲れてたんでしょきっと」「こっちだって疲れてんだよ、勝手に私の膝の上で寝やがって・・・・・・」「あら? じゃあ私が代わりましょうか?」意地の悪い笑みをしながらあやかは千雨に問いかける。すると千雨は仏頂面で「・・・・・・いい、このままにして置く・・・・・・」「フフ」「何笑ってんだよ・・・・・・」両膝に銀時を寝かせながら呟いた千雨の言葉にあやかは思わず口を押さえて笑ってしまう。そんな彼女を千雨はブスっとした表情で睨む。「言っとくけどこれは仕方なくてだな・・・・・・」「はいはい、あれ? 銀さんのお酒まだ残ってますわね、そういえば千雨さんが銀さんに告白できたお祝いがまだでしたしね、一杯どうです?」「わ、私はお酒なんて・・・・・・」「将来的にはお酒飲めるようにならないと、銀さんと一緒に飲めませんわよ?」「・・・・・・」なんか妙に茶化してくるあやかに千雨はしかめっ面を浮かべる。対してあやかは優雅に微笑んで手に持っているお酒を彼女に見せた。宴はまだ続く。銀時がお酒で千雨の膝の上で寝入っている頃、土方も酔い潰れそうになりながらも飲んでいる。フラフラと体を揺らしながら酒をコップに入れてすぐに飲み干す、既に彼の目は焦点が合っていない様子だ。「う~・・・・・・のどか、もう一本出せ」「駄目ですよもう・・・・・・十四郎さん目が完全にイってます・・・・・・」顔もすっかり赤くなっている土方に隣に座っているのどかが心配して注意すると、土方は隣にいる男の方に目をやる。「バカヤロー、桂のヤローに負けてたまるか」「フッフッフ、まさか鬼の副長とこんな対決をする日が来るとは・・・・・・おえ」「桂さんも死にそう・・・・・・」のどかも目をやると本来なら敵同士である土方の隣に座っているのは攘夷志士、桂小太郎。彼もすっかり出来上がっており、不敵に笑いながら時々口を手でおさえる。そんな姿に隣に座っている彼の仲間の一人である犬上小太郎が、頭についてる犬耳をピコピコさせながら疎める。「ヅラ、もう飲むの止めろや、こんな所で吐かれたら最悪や」「ヅラじゃない桂だ・・・・・・うぷ、真撰組に負けてたまるか・・・・・・もう一杯」「無理や、自重せい」桂が手に取ろうとした酒の入った瓶を小太郎は即座に取り上げる。すると桂は苦しそうに目を細めながら呟く「この勝負に勝たなければ日本の夜明けは見られぬぞ・・・・・・」「これ以上飲ませたら夜明けじゃなくてゲロを先に見る事になりそうやからイヤや」「侍がゲロなど吐くわけ・・・・・・! うッ! 無理無理無理ッ! ちょっと厠行って来るッ!」「俺も・・・・・・限界だッ!」「十四郎さんッ!」「言ってる傍から吐くんかいッ!」突然胃からこみあげて来た吐き気に遂に限界を感じ、桂は突然立ち上がってダッシュで厠まで走る、土方ももう駄目だと彼と一緒に大広間から出て行く。「ったく・・・・・・いい年こいて酒に飲まれるなドアホ・・・・・・お前も飲むの止めろや、結構飲んでるやろ」あぐらを掻きながら小太郎は隣でガバガバと酒をんでいるエリザベスに注意する、しかし彼は一気に酒を飲み干した後、澄んだ表情でボードをヒョイと掲げて小太郎に見せる。『うるせえクソガキ』「なんやとッ!」『酒の味もわかんねえ青二才は一生コーラでも飲んでな』「ぐッ! こんなモン楽勝で飲めるわッ! よこせッ!」言いたい放題言われすぐに闘争本能を燃やした小太郎は、エリザベスが持っているジョッキに入ったビールを横からかっさらう。するとそれをみたのどかが慌てた様子で叫ぶ。「ダメッ! 未成年はお酒飲んじゃだめだよッ!」「知るかそんなのッ! こんな妖怪アヒルに負けられるかッ!」「お酒は子供が飲む物じゃないのッ! 飲んじゃ・・・・・・・あ」のどかの注意も聞かずに小太郎ジョッキを片手にグイッと一気飲み。ビールはぐんぐん彼の口の中に吸い込まれていき、最後には全部無くなってしまった。ビールが無くなり空になったジョッキをエリザベスの前に大きな音を立てて置いた後。「アカン・・・・・・頭クラクラする・・・・・・」「あッ!」ろれつの回っていない様子で頭をおさえながら小太郎は呟いた後、バタンと後ろに倒れてしまった。すぐにのどかが彼に近寄る。「大丈夫ッ!? しっかりしてッ!」「アハハ・・・・・・」目を回しながら倒れている小太郎にのどかが何度も叫ぶが返事は出来ない様子。そんな小太郎の姿を見た後、エリザベスは勝ち誇ったようにボードを掲げる。『雑魚が』のどかが小太郎を介護しているその頃。「オイ、テメェ等これはどういう真似でぃ」「もちろん、沖田さんがのどかに手を出さないように防衛網を張っているに決まってるじゃん」彼女の席の隣ではハルナと夕映がのどかっそちのけで宴会を堪能していた。間に沖田を挟んで・・・・・・「安っちい防衛網だ、こんなんで大将の首を守れると思ったら大間違いだぜ」「なにをーッ! 私達の事ナメてたら痛い目に・・・・・・へぶッ!」のどかを守る為に両手を広げるハルナに沖田は問答無用に無表情で顔面にパンチをお見舞いする。「テメェ等見たいな小便臭いガキ共じゃ、雑兵にもならねえよ」「女の子の鼻に思いっきり一発入れるなんて・・・・・・」「ハルナ、いい加減この男の性格を覚えたらどうですか?」「やば、鼻血出て来た・・・・・・」口からエビの尻尾を出しながら夕映はハルナへ指摘するが、ボタボタ出て来た鼻血を慌ててティッシュで拭いている彼女は聞いていない。そんなハルナを見ながら沖田はだるそうにフンと鼻を鳴らす。「付き合ってらんねえや」「ちょっと何処行くのッ!? まさかのどかの所へ行くんじゃないでしょうねッ!」「ションベン」席から立ち上がった沖田に鼻にティッシュを詰めながらハルナが叫ぶと、彼は一言だけ残してそそくさと大広間を後にしてしまった。「ホント、あんな部下を持ったあの人も大変だよねぇ・・・・・・いつもどうやって対策してるのかな?」「近藤さんがですか?」「土方さんの方に決まってるでしょ・・・・・・」「それじゃあ興味無いです」「アンタねえ・・・・・・・」ハルナが近藤の話をしようとしているわけではないとわかると、すぐに夕映はそっぽを向いてムシャムシャと口に咥えていたエビを口の中に入れていく。近藤の話なら食いつくが土方の話など彼女にとっては心底どうでもいいのだ。「なんでアンタみたいな子があのゴリラに惚れたのかさっぱりわかんないよ・・・・・・」「男は見た目だけじゃなくて中身ですよハルナ」「いや中身もダメだった様な気がするんだけどあの人・・・・・・」「あの人の中身の奥底さえ見抜けぬとは、ハルナ、あなたに男を語る資格はありませんね」「ちょっとッ! 土方さんや銀八先生に吐いてる様な毒を友人の私にも吐かないでよッ!」「すみません、ちょっと腹が立ったので」毒舌攻撃を仕掛けて来た夕映にハルナが非難するも、夕映は全く悪びれる様子もなく黙々と口の中にナマコやらクラゲやら変な物を好んで食べ始める。そんな彼女にハルナは重いため息を吐く。「どんだけゴリラ信者なのよ・・・・・・ていうか相変わらず変なモン食べるの好きだね」「あげませんよ」「いらないから・・・・・・」キッと睨んで来る夕映にハルナは全く興味無さそうに首を横に振った。そんな事をしていると彼女の後ろから顔を真っ赤にさせた酔っ払いの男がやってくる。「アハハッ! なんで飲んでないんじゃ~ッ!」「え~と・・・・・・夕映、このグラサン付けた変な人って坂本さんって言うんだっけ?」「知りません」尋ねて来たハルナに夕映は興味無さそうに首を横に振ると、すっかり出来上がっている坂本はハルナと夕映の真ん中に立って大笑い。「そうじゃ坂本辰馬じゃ~ッ! おまん等もっと飲めぇッ! アハハハハッ!」「いや私達未成年なんで・・・・・・」「あっち行って下さい」ハルナはぎこちなく笑みを作って追い返そうとするが、夕映は遠慮なく冷たく突き放す。しかしそんな夕映の背後から別の人物が突然抱きついてくる。「ユエユエ~一緒に飲もうよ~、こんな事普通では滅多にない事なんだからさぁ~?」「・・・・・・何やってんですか朝倉?」「え~? アメリカ式ハグ、アハハハハ」抱きついて来たのが和美だと気付くと夕映は後ろに振り返る。顔をほんのり赤くしてヘラヘラしている和美がそこにいた。「・・・・・・もしかしてあなた酔ってるんですか?」「酔ってないよ~酷いよユエユエ~」「いつもよりウザいその絡み方、それに酒臭い・・・・・・あなたやっぱり飲んだでしょ?」「ウザくないし臭くないよ~、そんな酷い事言わないでよユエユエ~、私泣いちゃうよぉ?」「あ~ウザいし臭い、ウザ臭いです・・・・・・頼むからこの男の人と一緒にどっか行って下さい」笑ったり泣きそうな顔したりして抱きついてくる和美にイライラした様子で夕映がグイッと引き離す。どうやら彼女、酒を少し飲んでしまったらしい。やたらと夕映に絡みつこうとする和美を観察してハルナは納得したように頷いた。「やっぱ朝倉の奴って絡み酒だったんだ・・・・・・」「アハハ~じゃあ私は~?」「え? ってアスナッ!」今度は自分の方に誰かが抱きついて来たのでハルナは後ろに振り返る。見ると和美同様顔を真っ赤に染め上げたアスナは目をトロンとさせて笑いかけて来る。「私は何なのよ~? 早く教えなさいよゴキブリのクセにぃ」「アンタも飲まされたの・・・・・・・? アンタも絡み酒よきっと、それに誰がゴキブリよ誰が・・・・・・」「そっかぁ“カラミティ”かぁ~、私カラミティだったんだ~アハハ~」「いやカラミティじゃなくて絡み酒だって・・・・・・」何がおかしいのやら天井を見上げながらヘラヘラ笑っているアスナを見て、ハルナが段々心配になって来ていると、突然アスナの目がギラリと光り「落ちろォォォォ!!」「ぐむッ!」何処から取り出しのか突然片手に酒の入っている一升瓶を握りしめて、それをハルナの口に思いっきり突っ込むアスナ。口元には狂気の笑みが広がっている。「オラオラオラオラァァァ!!」「げほッ! ちょっと夕映助け・・・・・・! むぐぅッ!」隣にいる夕映に助けを求めようとするが、アスナは容赦なく彼女の口に酒を無理矢理飲ませて行く。それから一升瓶の中が空になるまで飲まされたハルナは口からポフッと湯気を出した後、すぐに顔が赤くなってきた。焦点も合っていない親友の姿に、夕映はクラゲをクチャクチャと噛みながら首を傾げる。「大丈夫ですかハルナ?」「はひょん? なんでゴワスか?」「・・・・・・大丈夫じゃなさそうですね」「大丈夫だっぷりん~」「こりゃあ重傷です、手遅れかもしれませんね」和美やアスナ同様の笑みを広げるハルナを夕映はジト目で眺める。すっかり酔っ払いになってしまった様だ。「酔うのは結構ですが私には絡まないで下さいよ」「おまんは飲まんのか~? 酒はうまいんじゃぞ~?」「飲みません、もしかして朝倉とアスナさんに酒を飲ませたのってあなたですか?」「アハハッ! ネカネさんが相手にしてくれないけ~、わしは一緒に楽しんでくれる同胞が欲しかったんじゃ~、アハハハハッ!」「なんというはた迷惑な男・・・・・・・」笑いながら事情を説明する坂本に夕映は呆れたような視線を送っていると、和美、アスナ、そしてハルナも酔っ払って彼と意気投合している。「坂本さ~ん、ユエユエのノリが悪いよ~」「黒モジャ~私カラミティなんだって~、で、カラミティって何?」「坂本ちゃ~ん・・・・・・なんだっけ?」「細かい事なんぞ気にせず飲め飲めぇッ! 同じ席で酒を飲み合えば友達じゃ~ッ! アハハハハッ!!」「「「アハハハハッ!!」」」「う~もう嫌ですこんな連中・・・・・・」坂本を中心とした酔っ払い四人組の笑い声に夕映が限界だという様に歯ぎしりした後、すぐに立ちあがって、のどかの方に急いで避難した。気絶している小太郎の隣でボーっと座っているのどかの隣に夕映は座る。「助けて下さいのどか、バカが四人もいて困ってるんです」「・・・・・・・」「のどか?」「・・・・・・んだよ」「・・・・・え?」親友の夕映に対してのどかはギロッと横目で睨みつけてくる。その姿に夕映は一瞬別人か?と思ってしまうほどであった。「のどか・・・・・・ですよね?」「当たり前だろ・・・・・・ヒック」「の、のどか? もしかしてこの人達みたいにお酒を飲んだんじゃ・・・・・・」「あ? ジュースしか飲んでねえよ」いつもと違い荒っぽい口調で喋るのどかに夕映は嫌な予感を感じる。すると案の定のどかが手に持って見せて来たジュースと言う物は・・・・・・「どうみてもジュースだろ、ヒック」「のどか、それって・・・・・」『それ、俺のチューハイじゃね?』「チューハイって・・・・・・やっぱりお酒じゃないですか・・・・・・・」のどかの隣で顔を赤くして倒れている小太郎に、めんどくさそうにうちわを振って涼ませてあげているエリザベスはボードを上げて夕映に報告する。どうやらのどかはエリザベスが持ってきたチューハイをジュースと間違えて飲んでしまったらしい・・・・・・「のどか、それジュースじゃなくてお酒・・・・・・ってのどかッ!」「あん? うっせえなどうした」「な、なんでタバコなんて口に咥えてんですかッ! そんなもんお酒以上に体に毒ですッ! すぐに捨てなさいッ!」ちょっと夕映が目を離していた隙にあろうことかのどかは土方が置いていったタバコを一本口に咥えてライターでを火を付けて吸い始めている。慌てて夕映が珍しく声を上げて叫ぶが彼女は夕映に向かって目を細め呟く。「タバコ吸おうが吸わねえがこっちの勝手だろうが」「未成年で喫煙するなんて何考えてんですかッ!」「知らねえよんな事、ゴチャゴチャ言ってると殺すぞ」「そんな・・・・・・・! あの純粋無垢でいつも優しいのどかがまるであのチンピラニコ中のように私に向かって殺すと・・・・・・」自分の話も聞かずに口からタバコの煙を吐き出しているのどかの姿に、ショックを隠しきれない夕映は壁にもたれかける。「夢なら覚めて下さい・・・・・・」バカ騒ぎしている坂本達やすっかり荒れているのどかを見て、目の前で起こっているこの現実に夕映は逃避するかのように体育座りして顔をうずめた。だが未だ宴は終わらないのだ。夕映が現実逃避しているそんな頃。空には月が昇り下にある雑木林からは虫やカエルの鳴き声が聞こえてくるそんな風情を、関西呪術協会の長である近衛詠春は一人窓から眺めていた。「あれ? あなたは宴会行かないでんですか?」「ん?」後ろから呼びかけて来た声に詠春は反応して後ろに振り返る。かつての仲間であり戦友のアルビレオ・イマが微笑んで立っていた。「結構面白楽しくやってるっぽいですよ? さっき桂さんと真撰組の人が猛スピードでトイレに向かって走ってましたが」「いや・・・・・・どうも“ある事”が気がかりで今は楽しめる気分じゃないんだ」「娘さんとそのご友人なら私が治癒魔法で治してあげましたが?」「その事じゃない、『彼女』の事だ」「ああ」神妙な面持ちで話しかけて来る詠春の顔を見て、アルは誰の事で悩んでいるのか理解する。彼の隣に立ち、一緒に窓から風景を眺めながらアルは呟く「アリカ・スプリングフィールドの事ですか・・・・・・」「・・・・・・あの御方が何故『春雨』という異世界の組織に入り、なおかつ何故我々に刃を向けるのか・・・・・・なんでこんなこんな事になったのかさっぱりわからない」「それは私も同感です、夫のナギは死んだと彼女は言っていましたが、果たして本当の事なんでしょうか」「どうかな、少なくともあのちゃらんぽらんが死ぬとは思えない」顎に手を当てながら考えながら詠春が呟くと、アルは窓から見える雑木林に向かって目を凝らしながら口を開く。「“鳳仙”が相手ならわかりませんよ、魔法世界を食らいつくそうとした暴君と言われた彼ならナギを殺せる実力は十分にあります」「夜王か・・・・・・正直あの男の事はあまり思い出したくないな・・・・・・」「ハハハ、魔法世界の住人はみんなそう言うでしょうね」「ナギが最後に会ったのが夜王だとしたら、殺されている可能性もあるというわけか・・・・・・」難しい表情で頷いた後、詠春はしばらく黙りこくる。かつての仲間であった二人が自分達の知らない所で何があったのだろうか・・・・・・「困ったもんだよ全く・・・・・・」「ナギ・スプリングフィールドは行方不明、妻のアリカ・スプリングフィールドは宇宙海賊になってここに来ている、そして息子のネギ・スプリングフィールド君は幼馴染と仲間によって板挟み状態。本当トラブル尽くしの一家ですねぇ」他人事のように話してくるアルに詠春は急に老けた様にため息を突く。「今度は一家総出で私に悩みの種を作るかナギの奴・・・・・・」「そういう男なんだからしょうがないですよ、今度会ったら色々文句言ってやったらどうですか?」「そうさせてもらうよ・・・・・・む?」窓際に肘掛けているアルに詠春は頷いた後、ふと人の気配を感じ、前方の曲がり角に目を凝らす。「・・・・・・そこにいるのは誰かな?」「ああ、すんません」警戒しながら詠春が呼びかけると、意外にも隠れていた人物はすぐにヒョイと顔を出した。「ちょいと聞きたい事あったんすけど、なんか話し中だったのでここで待機してやした」「ん? 君は確か真撰組の・・・・・・?」「“副長”の沖田です、この屋敷やたらとデカくて厠が何処にいるかわかんなくてねぇ、教えてくれませんかぃ? 早くしねえと漏れそうなんでさぁ」頭を掻き毟りながら沖田が仏頂面で詠春に訳を説明する。どうやらトイレが何処にあるかわからず困っているらしい。なんだそんな事かと理解した詠春はすぐに彼にトイレの場所を教える。「トイレなら一階ごとに何個も置いてあるよ、ここから一番近いのはあっちだね」「あざーす、あー漏れる漏れる」丁寧に説明してくれた詠春に軽く会釈した後沖田は颯爽と彼とアルの前を横切って行ってしまう。沖田の後姿を眺めながらアルは唐突に呟く。「もしかして私達の話を聞いてたんじゃないですか?」「さすがにそれは無いだろ、彼は江戸の人間だ。ナギやあの御方の事など知っている筈ないし、聞いても意味が無いだろ」「・・・・・・でも何か妙に引っ掛かる表情だったんですよね彼」沖田が消えるまで怪しんでいる目つきで彼を眺めるアル。詠春は違うと言うがどうも彼に変な違和感を覚えた・・・・・・「さっきの仕種、わざとらしい演技に見えた様な気がしたんですけど・・・・・・」「お前は時々疑り深い所があるな、それより一緒に宴会を見に行ってみるか? 私も少し小腹がすいて来た」「・・・・・・ん? ああいいですよ」あまり深く考えていない詠春はアルを宴会へと誘う、彼は素直に頷いて一緒に宴会場所へと足を運ぶ「娘さんとその友人も全快して今頃着いてる筈ですし、それにしてもあなたの娘さん母親似で本当可愛らしいですねぇ、父親に似なくて本当良かった」「当たり前だ私の娘が可愛くないわけがない」「おや皮肉が通じませんでしたね・・・・・・」親バカっぷりを見せつけて来る詠春にアルが苦笑していると、詠唱は鋭い目つきで彼を睨む。「アル、万が一娘に手を出したらただじゃ済まさんぞ・・・・・・」「出すわけないでしょ、考えた事もありません」「何? 銀河系一可愛い私の娘に手を出そうと考えないとは・・・・・・」きっぱりと否定したアルに信じられない物を見る目つきで詠春は呟く。「やっぱりお前、男が好きなのか・・・・・・・」「・・・・・・どうしてそういう結論になるんですかね?」娘を持つ父親というのは全員こうなのか?宴会所へ向かいながら詠春にホモ疑惑を持たれたアルは、そんな疑問がふと頭の中に浮かぶのであった。一方、アルと詠春から去って行った沖田は廊下を歩いていると突然ピタッと止まり、後ろを向いて誰もいない事を確認する。トイレはもうとっくに済ませてあるのだから行く必要が無い。ふと懐にしまっている手帳を取り出してパコっと開け、そこに書いてあるメモを見つめ、何かを確信したかのように沖田は小さな笑みを口に浮かべた。「まさかとは思ったが・・・・・・ビンゴだぜ」沖田の手帳に書いてあった言葉はただ一つ『依頼人、ナギ・スプリングフィールド。依頼内容、行方不明者である妻のアリカ・スプリングフィールド(調教不可→やっぱ可)の捜索』「女は宇宙海賊春雨の一員やってんのか・・・・・・通りで見つかんねえわけだぜ」先ほどのアルと詠春の会話を最初からずっと聞いていた沖田はナギとアリカの現状をはっきりと分かった。ナギはここでは行方不明者、そして妻のアリカは自分の世界では有名な犯罪組織の一員なのだ。「さて、どうしたもんかね・・・・・・お」手帳をしまって沖田は腕を組み歩きながらどうしようかと考えていると、突然彼の胸ポケットにしまっている“ある物”が音を立てて震え始める。沖田はそれをすぐに取り出した。「タイミングいいな、さすが近藤さんだぜ」取り出したのはこの世界に来るために使ったジャスタウェイ型転送装置。沖田は笑みを浮かべながら転送装置の頭の先についている赤いボタンをポチっと押し、転送装置に向かって話しかける。「もしも~し」『ガーガー・・・・・・おおようやく繋がったッ! 心配したぞ総悟ッ!』転送装置から聞こえて来るノイズと共に男の声も聞こえて来る。その声を聞き沖田はすぐに誰だかわかる。「すみません近藤さん、ちょっとゴタゴタが続きましてしばらく連絡取れませんでした」『なに気にするな、色々とそっちも大変なんだろ。それより例のモンが遂に動かせるようになった、これで俺、いや隊士の奴等もすぐにそっちに行ける筈だ、高杉と春雨に好き勝手に異世界で暴れてもらったら困るからな』沖田は向こうの世界に周りのメンバーから隠れて前々から何回も通話をしていたのだ。当然向こうの連中もこっちの状況を全て知っている。そして今、通信相手の近藤の朗報を聞いて沖田はニヤッと笑う。「そいつはいいや、近藤さんがいれば敵無しだ」『フ、お前等だけで楽しませてたまるか、こっちもしばらく派手な事やってねえんだ。久しぶりに暴れさせてもらうぜ』「へへ、ここの世界の奴等がビビっちまうぐらい暴れてくだせぇ。それより近藤さん、さっきちょっとした情報を偶然聞いちまったんですがねぇ・・・・・・」『ん? どうした?』周りをキョロキョロ見渡した後、沖田は転送装置に向かって呟く。「・・・・・俺達の世界で魔法使いとかなんとか名乗ってる『ナギ』っていう男いましたよね・・・・・・」『ああいるな、今は万事屋の所で二代目やってる奴だろ?』「ええ実は今から俺が言う事、あの男にも教えといて下さい、知りたがっているでしょうし」『え? なんで?』理解していない様子の近藤の声を無視して、転送装置に向かって口を近づけた後、沖田はゆっくりと口を開く。「あの男のカミさんの場所と今何やっているかが分かりました」