「はぁ・・・・・・はぁ・・・・・・・!」京都が誇る観光名所の一つであるシネマ村。修学旅行でやって来た麻帆良学園の三年A組の“極普通の生徒”佐々木まき絵もまた、観光気分でシネマ村に訪れていた。だが現在、まき絵はある物から必死に逃げている。「ギャァァァァ!! だ、誰かァァァァァ!!」「ハハハハハッ! 俺様から逃げれると思ったかッ!」逃げても逃げても追いかけてくる追跡者。路地裏に逃げ込んだまき絵だが運悪く行き止まり。「あ~ッ! なんでいつも私ってついてないのォォォォ!? 一度でいいから良い事起きてよォォォォ!!」「追い詰めたぜ・・・・・・・さあ、“闇のゲーム”の始まりだ」低く唸るように声を出す追跡者にまき絵は震えながら振り返る。尖った髪の毛、見るからに凶悪そうな面構え、額には目の様な形がくっきりと出ている。そして左手に付けているおかしな装飾品。男は舌舐めずりしながらまき絵を御馳走のように視線を向ける。「俺様の名はマリク・・・・・・王の墓を守る者・・・・・・さあ俺様とのデュエルで死のダンスを踊らせてやるぅ・・・・・・!」「いやいやいやッ! デュエルディスクとか持ってないんでッ! 神様変な人に襲われていますッ! まき絵を助けてくださぁぁぁぁいッ!!」天に向かって祈りをささげるまき絵に、男はニヤリと笑う。「生憎だが神は俺の手中だ・・・・・・! 太陽神ラーの恐ろしさをその身で味わうがいいまき絵・・・・・・!」「のええッ! 名前覚えられたッ!」「まき絵、貴様に地獄の業火を体験させてやるぜ・・・・・・!」「名前連呼されたッ! もう誰でもいいから助けてぇぇぇぇ!!」とにかく誰か助けが来て欲しい、この男を倒してくれる様な勇敢な人を・・・・・・まき絵がそれを願いながら叫ぶと、彼女の願いが通じたのか、頭上からキランと光が「待ちな」「なにッ!」「あ、私の祈りが遂に・・・・・・へぶッ!」頭上から降ってくるその人物にまき絵が天に感謝しようとすると、まさかのその人物に思いっきり顔面を踏まれるまき絵。降って来た男は気にせずに彼女から下りて追跡者と対峙する。「俺の名は鬼柳京介、デュエルに飢えた死神、ここは俺が相手になってやる」「ほほう、まき絵を救いに来たのは神は神でも死神という事か・・・・・・!」「いやあの・・・・・・・誰?」追跡者に説明をした後、顔面をさすりながらまき絵はフラフラと立ちあがって、やってきた男を見る。白髪の長い髪を揺らしながら優雅に佇む青年、顔には黄色いマーカーが付いていて左手には追跡者と同じデュエルディスクが付けられている。「遊星達とはぐれて迷子になっちまってたら・・・・・・まさか俺を“満足”出来そうなデュエリストに会えるとはな」「中々生きの良い奴だなぁ・・・・・・その余裕に満ちた表情に絶望をうえ付ける事が出来るなんて嬉しくてしょうがないよぉッ! 闇のゲームは勝者は生き残り、敗者には死より残酷な罰ゲームが待っている・・・・・・お前が負けたらお前とまき絵には俺様特製の豪華ディナーを贈呈してやるぜぇ・・・・・!」「へらず口は今の内に叩いてるんだな、まき絵、後ろに下がってろ」「え、何で初対面の私の事みんな名前で呼ぶの・・・・・・?」舌を器用に回しながら恐ろしげなことを言う男に怯える様子もなく、青年は後ろにいるまき絵に指示。何故二人が自分の名前をそんな早く覚えられるたのかまき絵は疑問を感じながら素直に下がる。「お待ちかねのゲームの時間だ・・・・・・!」「さて・・・・・・俺を満足させて貰おうじゃねえか・・・・・・!」二人はデュエルディスクを取り出す。今、互いのプライドと命を賭けた決闘が始まる。「「デュエルッ!!」」「デュエルじゃねえよッ!」「ぐわぁッ!」と思いきや追跡者の男の後ろからゲームとは関係ない蹴りが飛んでくる。男めがけて蹴りを入れたのは白夜叉衣装からいつもの着物姿に戻っている坂田銀時。蹴られた男はその場でグルグルと回転して吹っ飛ぶ。「ったく、何本格的なデュエル始めようとしてんだよ・・・・・・一話まるまる終わっちまうじゃねえか」「痛い痛い・・・・・・へへぇ、デュエル中はプレイヤーに対する妨害行為は禁止だぞ・・・・・・」「うるせえよ、おまえちょっと来い。お前もここに口寄せされた妖怪だろ? ボコしてただの紙にしてやる」むんずと男の髪を掴んで銀時は引っ張って連行する。それに男は頭をおさえて声を上げた。「イダダダダッ! マジ痛いッ! 髪を引っ張るのを止めろッ! セットするのに何時間掛かると思ってるッ!」「はいはい、黙って歩けボケ、妖怪のクセに人間様になんだそのクチは」「俺様は妖怪ではないッ! 俺様は王の墓守りッ! そしてユニバーサル○ャパンを訪れに来た闇のデュエリストよッ!」銀時に髪を引っ張られながら男は邪悪な笑みを浮かべる。すると銀時は彼の髪を引っ張るのをピタッと止める。「ユニバーサル○ャパンはオメー、ここじゃねえよ、大阪だよ、ここシネマ村、京都」「なんだとッ! まさかスパイ○ーマンやジョー○はここにはいないと言う事かッ!?」仰天する男に銀時はしらっと「いるわけねえだろ、ほら大阪までの道のりが書いてあるパンフレット、あっちで売ってるから買ってこいよ」「ほ、本当かッ!? それは助かる、クックック・・・・・・待ってろウッ○ィウッドペッカーッ! 貴様等のゲームを俺様が支配してやるぜッ!」高笑いしながら去って行く男の後ろ姿を見ながら銀時は疲れた表情で頭を掻き毟る。「んだよただの観光客かよ、間際らしい格好してんじゃねえよ・・・・・・・」ブツブツ文句を言いながら銀時は男と反対方向へ歩いて行ってしまう。路地裏に取り残された青年とまき絵はただ呆然と固まり、そして・・・・・・「・・・・・・満足できなかったから帰るぜ」「・・・・・・他作品からわざわざ御苦労さまです・・・・・・」去って行く死神デュエリスト鬼柳京介に、精神的にも肉体的にも疲れている表情のまき絵が一礼した。第五十五訓 昨日の敵は今日の友真撰組というのは悪即斬もいとわない武装警察だ。市民を守る為に日夜戦う組織、幕府を仇なす攘夷志士も無論捕縛対象。なのだが・・・・・・真撰組代理副長の沖田は今、帰って来たばかりの副長土方に、ある疑問を抱いていた。「土方さ~ん御無事で何よりです、俺心配しましたよ~」「・・・・・・全く心がこもってない棒読みの台詞をありがとな」「ところで一つ聞いていいですかぃ?」「なんだ、手短に話せ」何故一緒に行動していた刹那が彼におぶられて寝ているとか、何故木乃香が肩に傷を負っているのかと、様々な疑問が浮かぶが。一番妙な点は土方が“ある男”と一緒にいる事である。「なんで攘夷志士の桂の野郎を連れて歩いてるんですかぃ?」「・・・・・・」「まさか土方さん、近藤さんの恩を忘れて攘夷志士に寝返ったとか・・・・・・」「なわけねえだろッ!」土方の後ろで木乃香と一緒に立っているのは紛れもない攘夷志士、桂小太郎。真撰組が日々血眼にして捕まえようとしている攘夷志士の一人だ。「おい桂、まさかテメェ、自首しに来た訳じゃねえよな?」首を伸ばして桂に向かって喋りかける沖田。桂は腕を組みながら平然と答える。「誰が自首などするか、俺とこの男が一緒にいるのはただ一つ。打倒高杉の為の同盟だ」「同盟だと?」「土方さんや沖田さんが、桂さん達と喧嘩なんかせえへんで仲良うして、一緒に高杉さんを止める作戦や」桂の代わりに木乃香が笑いかけながら口を開く。すると沖田は目を細めて「土方さん、何言ってんですかぃこのガキ?」 「信じらねえと思うが娘っ子の言う通りだ・・・・・・俺達真撰組は、攘夷志士の高杉を倒す為に、攘夷志士の桂と同盟を結ぶ・・・・・・」「は? 土方さん正気ですかぃ?」「悪党を倒す為に悪党と組む。兵法でもそんなのあるだろ」「あ~土方さんがマヨネーズの多量摂取のせいでおかしくなっちまった」タバコの煙を吐きながら土方が言った言葉に沖田は呆れたようにため息を突く。そうこうしている内に、A組の生徒ののどか、夕映、ハルナも土方がいる事に気付いて走ってやって来た。「お帰り~・・・・・・はッ! なんで刹那さんおんぶしてんの土方さんッ!?」「スクープですぅ」「誤解してんじゃねえッ! コレは色々会った経緯を踏まえて成すべき結果であって・・・・・・っておいッ! 何携帯で撮ってんだクソガキッ! 殺すぞッ!」「おっといけねえ」「なんでお前も撮るんだよッ!」刹那を大事におんぶしている土方を見て驚愕しているハルナを尻目に、夕映とそれに便乗した沖田が写メを撮りまくる。それに土方が手を振りながら止めさせようとしてると、のどかが苦笑しながら「べ、別にそういう事じゃないんですよね・・・・・・・?」「そういう事でもああいう事でもねえよ、俺はお前一筋・・・・・・」タバコを咥えながら土方がのどかに随分と大胆な事を言おうとしたその時。「アハハハハッ! 銀時ッ! 妖怪はもう何処にもおらんかったぞッ!」「俺の所にもデュエリストしかいなかったよ」「あれ? 銀時さん、あの三人の女の子は?」「更衣所でまだ着替えてるよ、遅いから先に出ちまった」「アハハッ! いっちょ覗きでもするか銀時ッ!」「・・・・・・・目玉ほじるぞ」「ハハハ・・・・・・目がマジになっとるぞ銀時・・・・・・・」沖田達の後ろで合流している三人組を見て土方はふと止まる。一人は腐れ縁の仲である銀時だとわかるが、バカみたいに大笑いしている坂本とネギの親戚であるネカネの事を土方は知らない。「総悟、誰だアイツ等」「ん? ああ、旦那の知り合いらしいです」「知り合いだと?」「男の方は旦那と同じ偶然こっちの世界に来ちまったクチらしいですぜ」「てことは漂流者ってわけか・・・・・・?」写メを取りながら説明する沖田に土方が難しそうな表情をしていると、銀時達がふと土方に気付いてこちらへ近づいてくる。「あん? やっと帰って来たのかオメー、オメーがいない間妖怪騒ぎで大変だったぞコノヤロー、ん?」「おおヅラッ! お前そんな所で何しちょっと・・・・・・むぐッ!」「桂さ・・・・・・」土方に悪態をつく銀時はすぐに彼の後ろにいる桂に気付く。銀時同様それに気付いた桂とネカネは話しかけようとするが、銀時はすかさず二人の口を塞ぐ。「・・・・・・バカかお前等、あのタバコ吸ってるふてぶてしい奴とこのサディストは攘夷志士を取り締まる警察だっつうの・・・・・・こんな所でヅラと気安く喋ってみろ、知り合いだって奴等に勘付かれるだろうが・・・・・・」「あ、すみません・・・・・・」「めんどくさいのぉ、別にバレても問題ないんじゃなか?」「それこそもっとめんどくせえ事になるだろうが・・・・・・・」坂本に向かって正論を述べた後、銀時は二人の口から手を離す。桂も三人の存在に気付いてるのかあえてこちらには視線を向けてこない、と思いきや「あ、ウインクして来たんですけど桂さん・・・・・・」「すげぇぶっ殺して~・・・・・・」時折、桂が銀時達の方にアイコンタクトみたいなウインクをしてくるので、銀時は平静を装いながら額に青筋を立てる。やはり桂も坂本同様、何処かネジが抜けてる。「にしてもなんでヅラがあいつと一緒にいんだ・・・・・・?」「銀さん、ただいま戻ってきましたわ」「んあ?」桂と土方が一緒にいる事に銀時が顎に手を当てて考えていると、不意に後ろから声を掛けられたので、変な声で返事をして振り返った。「お前等やっと来たのかよ」「銀さんはもう元に着物に着替えてたんですわね」「勝手に行きやがって・・・・・・」そこにいたのは私服姿の千雨とあやか、和美。あやかは別に文句はなさそうだが、銀時に置いてけぼりにされた事に千雨はご機嫌斜めの様子。しかし銀時はそんな彼女にだるそうに「男の着替えは早えんだよ、つうかお前等長すぎ、待ってられねえよ」「仕方ねえだろ、着物ってどうやって脱ぐのか全然わかんねえんだよ」「いや~千雨ちゃんは着物脱ぐのにかなり苦戦してたもんね」「・・・・・・ふん」「その一部始終を写真で撮ってあるんだけど銀さん見る?」「は?」「ってオイッ! ひ、人の許可なくそんなもん撮ってんじゃねえッ!」ニヤニヤしながら写真を取り出す和美に銀時は首を傾げ、千雨は顔を真っ赤にして怒鳴る。そんな事をしていると坂本が和美にヘラヘラ笑いかけながら「アハハハハッ! じゃあわしが見ようかのッ! ほぐッ!」「いい加減になさい・・・・・・」「ネカネさん・・・・・・わし、口から魂出たかとおもったぞ・・・・・」「出したらどうですか? 別に誰一人悲しみませんから・・・・・・・?」「ネカネさんはいつも恐いの~・・・・・・」渾身のストレートをネカネにダイレクトに腹にお見舞いされて、坂本が苦しそうに呻く。だがそんな彼を見るネカネの目はゴミを見る様な目つきに変わっている。物凄く機嫌が悪い証拠だ。「全くいつもふざけて・・・・・・」「冗談じゃ冗談、わしは子供を女としては見れんけ、アハハハハッ!」「・・・・・・」「銀さんどうかしたんですか?」「いや・・・・・・別に」ネカネに睨まれている坂本の笑い声が響く中、銀時はふと彼から目を背ける。不審に思ったあやかが尋ねるが、銀時はブルーな表情で首を振った。「そういや神楽と同い年だったなコイツ等・・・・・・ん?」ため息交じりにそんな事を言っていると、前方から妙な生物がこっちにドスドスと走って来ているのに気付いて、銀時は顔を上げた。「あれはもしや・・・・・・エリザベスか?」桂の仲間であるアヒルだかペンギンだかわけのわからない生物、エリザベスだ。『うぉぉぉぉぉ!!!』と書いてある手持ちのボードを持って、血走った目でこちらに走って来たのだ。それを見て和美はすっときょんな声を上げる。「UMAッ! 昨日、私に蹴りを入れたUMAだッ!」「エリザベスだろ・・・・・・銀八の知り合いだよ」「エリザベスッ!? 何そのふざけた名称ッ!?」「エリザベスはエリザベスですわ」「いや全然意味分からないんだけどッ!?」あの生物を知っている千雨とあやかが和美に名前を教えている頃、エリザベスは突然銀時達の前で止まった瞬間、大きくジャンプ、そしてそのまま銀時達と少し離れていた桂と一緒にいる土方のグループへ・・・・・・『天誅ゥゥゥゥゥ!!!』「総悟、次行く所は桂の・・・・・・ん? ぬおぉぉぉぉぉ!!」まだ眠っている刹那をおんぶしながら沖田に何か話している土方の所に、突然白いペンギンが空中から回転を付けながら蹴りをお見舞いしようと降って来た。土方はすぐに横に避けて間一髪で回避。『ち、外したか・・・・・・』「あ、あぶねえな何すんだテメェッ!」 「大丈夫ですか十四郎さん・・・・・・!」『桂さんは渡さねえぞゴラァッ!!』ボードに書いてある文字によると、どうやらエリザベスはかなりキレているらしい。驚いている土方にのどかが駆け寄っていると、桂はそんなエリザベスをなだめるように「落ち着くのだエリザベス、今はこの者達は俺の味方。一時の同盟を組んだいわば同志なのだ」『マジッすか桂さんッ!?』「俺達は高杉打倒の為、真撰組と和睦協定を結んだのだ。ゆえにエリザベス、この者達に危害を加えるな、まあ高杉の問題が終わったら潰しても構わんが、むしろ潰したい」『イエッサーッ!』「か、桂さぁ~ん・・・・・・・」本当は桂達と真撰組はこれからもずっと仲良くして欲しいと思っている木乃香なのだが、桂とエリザベスにはその気が無いらしい。そんな二人に弱々しく声を上げた後、木乃香はエリザベスの方へ顔を向ける。「はぁ~・・・・・・白ペンギンさんも桂さんと同意見なんやな・・・・・・」「白ペンギンさんではないエリザベスだ」『ちーす』「そうそう、エリザベスやったな」軽い態度で接してくるエリザベスに木乃香が頷いていると『惚れるなよ』「いや別に惚れへんから・・・・・・」『惚れろよ』「え、ど、どっちなん・・・・・・?」突然変な事を言って来るエリザベスに木乃香が反応に困っていると、桂とエリザベスを初めて見たハルナと夕映は木乃香が仲良く話しているのを見て興味本位で近づいて来た。「ねえねえ木乃香、このウザったい長髪の人とこのナマモノは何?」「変な人と関わるなとあれほど言ってるの・・・・・・」「ああ、こっちの男の人が桂さんでこっちの白ペンギンがエリザベス、悪い人やないから大丈夫よ」「悪い人だと思って心配してるわけでなく、変な人だから心配しているんですが・・・・・・・」簡単に桂とエリザベスを紹介する木乃香に夕映がボソッとツッコんでいると、木乃香は桂の方に振り返って今度は夕映達の方を紹介する。「桂さん、こっちとあっちにいる子達はウチの友達で、背の高い方がハルナで低い方が夕映、それであっちで土方さんと話しているのがのどか」「ほう、木乃香殿の学友か」顎に手を当てながら二度頷くと、桂は夕映とハルナの前に一歩出る。「俺の名は桂小太郎、天人共を駆逐する為に立ちあがった攘夷志士だ」「いやそんなん言っても夕映達はわからんから・・・・・・」いきなり攘夷志士と名乗る桂だが、夕映達がわかるわけないとすかさず木乃香がツッコむも桂は更に話を続ける。「攘夷志士というのはだな、真撰組やという幕府の手先を華麗に退け、江戸を支配する天人達を正義の元に鉄槌を下し、虐げられていたか弱き市民を救う。ま、いわば攘夷志士と言うのは救世主(メシア)だと覚えておいてくれ」「だからわからへんって・・・・・・それに真撰組を馬鹿にせんといてよ・・・・・・」「悪いが木乃香殿、例え一時の同盟を結んでいようとも真撰組は俺達の敵である事に変わりはない」「う~ん・・・・・・」きっぱりと言われては木乃香もグウの音も出ない。桂と真撰組は長年戦っている敵同士、おいそれと簡単に仲良くなれるわけないのだ。するとそんな桂に夕映はジッと見つめる。「真撰組の連中と仲悪いんですか?」「おおそうだ、俺ぐらいの革命家になるとああいう輩が必死こいて捕まえようとするのだ。いやはや困ったものだ、ハッハッハ」「ほう」土方達の方へ向きながら嘲るように口を開けて笑う桂を見て夕映はいつもの無表情で彼に視線を送る。(てことは近藤さんの敵ですか・・・・・・仲良くは出来ませんね)「木乃香、この変な生き物一体何なの? 中に人とか入ってないよね?」「ウチもようわからへんのよ、でも桂さんとは仲良しやから心配ないって」「いや、私はその桂さんの事も正直怪しい奴だと思ってるんだけど・・・・・・・」夕映が桂にある印象を抱いていると、木乃香とハルナはエリザベスの方に近づいてジロジロと眺める。どうみても怪しい、だが奇想天外な三年A組の生徒である二人にとってはあまり仰天するわけでもない。しばらくしてハルナがフッと笑いエリザベスに手を差し伸べる。「でもこんなカワイイ女の子達と仲良く出来るなんてアンタも儲けもんだね、特に私と、よろしくエリー」友好的な握手だとハルナが笑いかけて手を出すと、エリザベスはジーっとその手を見て、その次にハルナをジーっと見る。そして数秒間眺めた後『せい』パシンとエリザベスがハルナの手を思いっきり弾いた。「・・・・・・え?」いきなりの拒絶にハルナが頬を引きつらせながら固まっていると、エリザベスの真っ暗な口の中から、赤い光が二つ。「・・・・・・調子ぶっこいてんじゃねえぞ不人気メガネ、ミンチにすんぞ・・・・・・・」・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・エリザベスの口の中から放たれた見知らぬオッサンの声に、ハルナは呆然と立ち尽くしかなかった。「はぁ? 同盟軍?」5人の侍と一人の女性、一匹の珍獣とたくさんの女子生徒達というなんとも奇妙なグループは今、ある場所へ向かう為に駒を進めていた。桂と銀時は少し離れて前方を歩いている土方達から聞こえないよう、二人でコソコソと会話をする。「そうだ、真撰組と俺達が合わせればより強固な力になると木乃香殿が提案してくれてな、ゆえにこの様な状況になっているのだ」「江戸ではあり得ねえタッグだな。まあ別にお前等が同盟とか結束の力とかやんのはいいんだけどよ、こっちに迷惑かけんなよ」「高杉を倒すまでの間奴等に協力するだけだ。銀時、お前にも色々と働いてもらうぞ、」「ヅラ、そういうのが迷惑っていうんだ」「ヅラじゃない桂だ」馬鹿真面目な桂とめんどくさそうな銀時がやり取りを交わしていると、後ろから二人に向かって坂本が二人の肩に手を回して抱きついてくる。「いや~三人揃うなんて久しぶりじゃの~ッ! これで高杉の奴がいれば完璧なんじゃが、とりあえず今日は三人でパァ~っと昔話しながら飲み明かそうぜよッ!」「おいヅラ、この空気の読めないバカに八つ橋食わせてやれ、死ぬほど」「八つ橋などもったいないコンクリートで十分だこんな男」大笑いしている坂本に両サイドにいる銀時と桂は疲れた表情で無視する。いくらこの二人といえど彼と比べればまだマシな方・・・・・・・?「ネカネ殿から色々と聞かしてもらったが、相変わらずらしいなお前は」「おう、わしは何処の世界にいようとも坂本辰馬じゃ、アハハハハッ!」「ガンダムの世界にでも行ってくれよ頼むから」ウンザリした表情で銀時が坂本に呟いていると、桂の隣にネカネが不安そうに歩み寄ってくる。「ところで桂さん・・・・・・あの生き物は大丈夫なんですか? なんかあの目見てると吸い込まれそうなんですけど・・・・・・」ネカネが後ろを指差すとそこにいるのは生徒達の後ろで『俺の後ろに立つな』と書いてあるボードを持つ、キリッとした眉毛と目をしたエリザベスの姿が。後方の護衛要員らしい。それを見て桂は安心させるようにネカネに口を開く。「心配ない、エリザベスは何があっても俺を裏切らない最高のパートナーの一人と言っても過言では無い、あと結構チャーミングだろ」「は、はぁ・・・・・・」真顔でチャーミングだと言われてネカネは困惑した様子で苦笑する。やはり桂もまた坂本の仲間だから少しどこかおかしい彼女がそんなことを考えていると、坂本もエリザベスの方に振り返る。「あの生物と会うのも久しぶりじゃな、ヅラと仲良くやっとるようで安心したぞ」「そういえばお前がエリザベスを拾って来たのだったな」「あの生物って、あなたが桂さんに渡したんですか?」「ヅラが喜ぶと思ってのアハハハハッ!」元々エリザベスと桂が会った経緯は、坂本が桂の所にエリザベスを勝手に置いていった事から始まったのだが、坂本はすっかり他人事の様子で笑い飛ばす。結果的には桂もエリザベスと上手くやっている様だからいいのだが・・・・・・桂と坂本がネカネと会話を交わしている頃、銀時は彼等から離れて後方にいるあやか達の方に移動する。ふとあやかが彼の方へ向くとその目はいっそう生気が失われていた。「ヅラとアイツのダブルセットなんて・・・・・・キャラ濃すぎて腹壊しそうだわ」「そこに銀さんも混じってトリプルセットですわね」「ダブルバカバーガーと一緒にすんな」「一緒だろ? イダッ!」あやかと会話していると右からやってきた千雨が余計なひと言。銀時はすぐに彼女の頭にげんこつを入れる。「俺はあいつ等よりはノーマルだ」「それだと普段はアブノーマルって意味になるぞ・・・・・・」「うるせえよ、つうか何でお前等ついて来てんだよ、危ねえから帰れ」頭をさすっている千雨にぶっきらぼうに銀時がそう言うと、後ろにいる和美が口を挟む。「何が危ないのかは私あんまわからないけど、万事屋として私達は銀さんが何処へ行こうがついてくよ」「そうですわ、例え江戸へ行こうが宇宙の果てまで行こうが、何処までも銀さんについて行きます」「・・・・・・」和美とあやかにそんな事まで言われて無下に断る事が出来ない、銀時はしかめっ面をしてもう一人の万事屋メンバーである千雨の方を向くと「私はお前が死んで地獄に行ってもついていく」「お前もかよ・・・・・・」「当たり前だろ」「真顔で言うな・・・・・・」キッパリと言われて銀時はハァ~とため息を突いた後、首を横に振る。気付かない内にここで生まれた新万事屋軍団も、いつのまにか自分が思ってるよりずっと固い絆で結ばれている様だ。「新八と神楽に何て言おうかねぇ・・・・・・・」江戸へ帰ったら彼女達もついてくるのだろう。その時に旧万事屋メンバーにどう説明すればいいのか、“様々な事”を踏まえて大いに悩む銀時であった。後方で銀時があれこれ考えながら歩いてる頃、前方にいる土方グループは木乃香の指示のまま目的地へと歩いていた。刹那はまだ眠っているが彼女の制服はちゃんと木乃香が袋に入れて持ち歩いている。「こっちこっち、この奥を歩いていけばもうすぐ着くで~」「・・・・・・なんで桂の目的地をお前が知ってんだ?」「桂さんと話してる時に居場所聞いたんやけど、実はそこってウチも知ってる所なんよ、えへへ~楽しみやな~」土方の疑問に私服姿に着替え終えたばかりの木乃香が朗らかに答えるとスキップしながら先へ進む。肩に傷を負っているにもかかわらずその足取りは軽い。「土方さん、こりゃあ桂とあのガキの罠って可能性もあるんじゃないですかぃ」「バカかお前、あの娘っ子が桂とグルなわけねえだろ」「こ、木乃香はそんな人じゃありません・・・・・・!」疑惑の目で木乃香を見る沖田に、刹那をおぶっている土方とのどかが否定すると、沖田は目をキランと輝かせのどかの方に近づく。「え? じゃあどういう人なののどかちゃん? 俺が髪の毛引っ張ってる間に答えてみろ、早く答えねとブチッといくぜ」「い、痛いです~ッ!」「総悟ォォォォォォ!!!」容赦無しに痛さに悲鳴を上げるのどかの髪の毛をむんずと掴んで引っ張る沖田に土方が思いっきり怒鳴る。すると沖田はすぐに彼女の髪から手を離し、のどかはすぐに土方の元へ泣きついた「十四郎さ~んッ!」「どうしてお前はいっつもいっつもこいつを・・・・・・!!」「すみません土方さんの女と分かってもね、そのガキの反応が面白くて面白くて」「お前の苦手な女呼ぶぞコラ・・・・・・」「あ、それはマジで止めてくだせぇ」千鶴の存在が出ると無表情ですぐに手を横に振る沖田。彼女の反応は沖田の求める物と反対方向の物だ。「俺にもイジメがいのあるガキとそうでない人間がいましてね、後者は例の女で、前者はのどかちゃんですから」「女の敵ですね、そんな子供じみた真似ばっかしてると一生結婚なんてできませんよあなた」「あ?」「ちょ、ちょっと夕映、この人にその言い方はマズイって・・・・・・」土方と会話をしている途中でいきなり食ってかかって来た同行者の夕映に、沖田は振り向きざま睨みつける。ハルナに咎められ、沖田の刺す様な視線が来ても負けじと夕映は仏頂面で言葉を返した。「あなたみたいな子供とニコチンマヨネーズなんかを部下にして、上司は大変苦労してるでしょうね」「おいおいなんだテメー、なんかウザそうなチビガキだと思ってたが予想通りだなオイ、俺に文句垂れるとはいい度胸してんじゃねえかコラ」「おい、あのガキどさくさに俺の事も馬鹿にしなかったか?」「き、気のせいですよ・・・・・・」前を歩きながら土方とのどかがそんな会話をしていると、夕映の方に振り向きながら沖田は腰に差す刀をチラつかせる。「忠告しておくが俺は強気な態度で噛みついてくるガキも調教対象なんだぜ、メス豚になりたくなかったら口に気を付けるんだな“クソチビ”」「そんな事したらあなたの上司に・・・・・・む」挑発的な笑みを残して土方の方へ戻る沖田の後姿に向かって、夕映がまた何か言おうとしたその時、ハルナが彼女の口を慌てておさえる。「夕映頼むから黙って、マジでお願い・・・・・・・じゃないと今日あの人にボコボコにされてた女の子みたいになっちゃうよ・・・・・・・?」「むぅ・・・・・・」ハルナに言われて夕映はまだ不満ありげな表情で黙りこくる。言いたい事は言うのが彼女の性格なのだが、噛みつく相手が今度ばかりはかなりタチ悪い。「・・・・・・近藤さんに会ったら全部言い付けてやるですぅ」「近藤さん? あ~あのゴリラみたいな人だっけ? 記憶に残りやすい人だから覚えちゃったよ」一回だけ面識があるのでハルナが近藤の顔を見て思い出し笑いしていると、夕映が即座に反応して彼女を見つめる。「ほほう、いくら親友のあなたでも近藤さんは渡しませんよ、ハルナ」「いや物凄くいらないんだけど、全力で蹴るから・・・・・・え? ていうかそれどういう意味?」「そういう意味です」済んだ瞳で言われた事にハルナの思考が止まる。もしや・・・・・・「え? てことは・・・・・・・アレ? ごめんちょっと状況の整理が出来ない・・・・・・夕映があのゴリラと・・・・・・ちょい待ち、ないよね?・・・・・・そういうのないよね・・・・・・・!?」次第に動揺していくハルナは恐る恐るこちらに振り向かずに先に行ってしまう夕映に尋ねる。すると彼女は振り向かずに一言「安心するですハルナ、結婚式には一応呼んであげますから」「whatッ!? え、夕映ちょっと結婚とかそれ以前に考えなおしてッ!! それは無理ッ! 絶対無理ッ!」「フ、あの人とのどかは応援したのに私と近藤さんには反対とは、取り残される危機感に必死ですねハルナ」「いやいやいやいやいやいやッ!!!」負け組を見下すように勝ち組の笑みを作る夕映にハルナは全力で首を横に振る。確かに危機感は持っているがそれは自分ではなくて彼女にだ。「あのね“ユエユエ”ッ! 私は土方さんとのどかは全力で応援できるッ! けど夕映とあのゴリラは絶対駄目だってッ! いくらラブ大好きな私でも異議ありだよッ! ラブ臭どころかあの人、オッサンの臭いしかしないよきっとッ!」「いいえバナナの臭いもあるはずです」「バナナの臭いあったらそれこそ完璧なるゴリラじゃんッ! 完全究極体ゴリラモスじゃんッ! ねえ止めようよ夕映~、今ならまだ引き返せるって~」「なんでそう反対するんですか・・・・・・・誰に反対されようと絶対に止めませんから」「あ~~、夕映がゴリラに毒された~」「うるっさいですねぇ・・・・・・・」背中を掴んで来るハルナに夕映にやや不機嫌の混じった声で突き飛ばすと、彼女は両手で頭をおさえ上空に向かって叫んだ。それに夕映はブツクサ文句を言いながら先を歩く。『美女と野獣』という恋物語はあるが、この恋物語はそれ以上にきつく険しい道のりである事をまだ夕映は知らない。一方刹那をおぶり、のどかを連れて歩いている土方は、一緒にいる沖田から「自分がいない間、なにか会ったか」と話をしていた。だが沖田の口から想像だにしないファンタジーな話が出て来た事に土方はリアクションに困る。「妖怪大戦争だぁ・・・・・・?」「ええ、“ツッキー”が大量に呼びだした妖怪が町の中を暴れ回ってこっちは大変だったんですぜい、旦那方とガキ共がよく働いたおかげですぐに鎮火できやしたが」自分がいない間そんな事があったのかと土方がしかめっ面をしてたが、ある疑問が生まれたのですぐに沖田に尋ねる。「いや待て、ツッキーって誰だ?」「忘れたんですかぃ土方さん、俺達を待ち伏せてたメガネを付けたくぎゅボイスのガキですよ、月詠だからツッキー、俺が付けやした」「・・・・・・なんで敵に向かってそんな親しげなアダ名つけてんだ」「敵? ああ敵でしたねそういえば」「は?」「大丈夫でさぁ土方さん、ツッキーは俺が倒しました、それに『二度と俺に刃を向けない』よう“言い聞かせて”おいてるんで」言い方が少し引っ掛かるが、とりあえず沖田が言うには彼女はもう倒したので問題無いらしい。一応のどかにも聞いてみるかと土方は彼女の方へ向くが慌ててのどかはすぐに顔を伏せる。その反応によっぽど月詠に恐ろしい事を沖田がしたのは確かだと理解した。「・・・・・・まあ敵が一人減ったんなら文句はねえな」「う、う~ん・・・・・・もっと・・・・・・」「あれ? 十四郎さん、刹那さんが・・・・・・!」「ん? やっとお目覚めか?」背中でモソモソと動き出した刹那に気付いたのどかが慌てて指をさす。やっとこさ起きたのかと土方が彼女の寝顔を見ようと後ろに振り返ると「もっと・・・・・・この卑しいメス豚の私を思いっきり罵ったりぶったりして・・・・・・・」「どんな夢を見て出てくるうわごとだそれッ!」「そうよ銀さん私をもっと・・・・・・あれ? 土方さん・・・・・・?」「起きたか・・・・・・とりあえずどんな夢見ていたかは聞かない事にする」「聞くのも恐いですしね・・・・・・」呆けた顔で起きた刹那に土方とのどかはとりあえず夢の事は聞かない事にする。あの男の名前が出た事が少し気になるが・・・・・・「随分と長い間眠ってた様ですね私・・・・・・」「せっちゃんッ! やっと起きたんッ!?」「はい・・・・・・心配かけて申し訳ございませんお嬢様・・・・・・それに土方さんも」「ふん」喜ぶ木乃香と素っ気ない態度の土方に謝ると、自ら彼の背からすぐに下りる。「色々と助けてくれて・・・・・・本当に感謝します土方さん」「別にそこまで感謝される事なんざやってねえよ」「そういやこのガキが倒れた理由とかも聞いてませんでしたねぇ、なんかあったんですかい?」「実はその・・・・・・」後頭部を掻き毟りながら質問してくる沖田に、おぼつかない足取りで歩きながら刹那が素直に本当の事を言おうとした。だがその前に・・・・・・「大したことじゃねえ」「え?」「ちょっと疲れて寝ちまっただけの様だ、ハタ迷惑なモンだぜ全く」「土方さん・・・・・・・」「・・・・・・ふ~ん」刹那が本当の事を沖田達に告げる前に土方がその話しを強引に流す。そんな彼を黙って刹那は見つめるだけ、沖田はというと、半信半疑だというような目で彼に視線を送る。しかしすぐにそっぽを向き。「“大したことじゃねえ”ならそれ以上聞きやせんよ俺も」そう言い残して沖田は三人から離れて後ろにいる銀時達の方に行ってしまった。「あいつ少し感づいてるな・・・・・・別にいいが」「土方さん・・・・・・私」沖田の方へ振り向きながら土方が目を細めていると、刹那がドギマギしながら話しかけようとするが、上手く声が出せない。代わりに土方が先に口を開く。「お前の話は後で全部聞かせてもらうからな、高杉会ってる件についてもその刀についても、ガキのクセに俺に秘密作るなんざ100年早えんだよ」「・・・・・・わかってます、隠しててすみません。あと・・・・・・」立ち止まって頭を深々と下げた後、刹那は土方に向かって顔を上げる。「私の事を本当に気遣ってくれてありがとうございます・・・・・・」「・・・・・・謝るか感謝するかどっちかにしろ」「はい・・・・・・」ぶっきらぼうに土方に言われても、刹那は口に少し笑みを作りながら彼の後についていく。その光景に非情に焦っている少女がいるのも知らずにのどかは慌てて土方と刹那の二人から離れて夕映とハルナの方に助けを求める様に駆け寄る。「どどどどうしよう・・・・・・夕映!」「ピグ○ットの真似ですかそれ?」「いや違うよ・・・・・・ほらあの二人・・・・・・」のどかが前方を震えた指をさす、少し前を歩いている土方と刹那だ。だがそれを見ても夕映は無表情で眺めるだけ。「別に刹那さんがあの人について行ってるだけじゃないですか、何をいまさら焦ってるんですか、刹那さんなんてのどかの敵じゃありません、ていうかもうのどかが勝ってますし」「で、でもさっき、ちょっとあの二人いい雰囲気だったような気がして・・・・・・」不安そうに指と指と突き合わせながらボソボソと呟いているのどかに対して、夕映は「は?」と首を傾げる。「いい雰囲気? あの二人がですか?」「う、うん・・・・・・確証は無いけど・・・・・・・」「私は問題無いと思うんですけどね、あの人はすっかりのどかの魅力にメロメロですし」「恥ずかしい事言わないでよ夕映・・・・・・・」 しれっとした表情でとんでもない事を言ってのける夕映にのどかが顔を赤面させながらツッコんだ後、さっきから黙りこくってるハルナの方へ意見を聞く。「ねえハルナはどう思う? ハルナはそういうのに敏感だからわかるよね?」「本当ごめんのどか・・・・・・今ちょっと夕映のおかげで頭が一杯で・・・・・・」「夕映?」頭を手でおさえながらいつもみたいな覇気を失っているハルナにのどかが不審に思っていると彼女の元気を失わせた張本人の夕映がさらっと答える。「私が近藤さんと結婚するって教えてあげたら、いきなり親でも無いクセに反対だ反対だとか連呼して、終いには私の頭がおかしいだとか正気じゃないだとか言って来るんですよ? ハルナのクセに何言ってるんだか」「そんな事があったんだ、へ~・・・・・・」夕映の説明にのどかがようやく理解したように頷いてしばらく間が空いた後。「最初の所もう一回言ってッ!?」衝撃的過ぎた冒頭の部分に、のどかが軽いパニックになった。数分後、総勢15人の大グル―プは遂に目的地の前へと到着した。しかし入る前に・・・・・・その豪華で巨大な門を見てメンバーは入る前に唖然とする。「なんちゅうデカイ入口だ・・・・・・」「お嬢様ここって・・・・・・」「うん、桂さんがここに住んでたんやって」「なッ! 桂がッ!」タバコを咥えてその門を見上げている土方の横では木乃香が刹那に説明して上げている。すると、噂をすればなんとやらと桂とエリザベスが二人の前に一歩出た。「ようやく着いたな、ま、俺の場合戻ってきたと言うべきか」『ただいま』「桂ッ! なんで攘夷志士のお前が私達と一緒に行動しているんだッ! それにこの場所をなんでお前がッ!」呑気に見上げている桂に向かって刹那は噛みつくように叫ぶ。すると今初めて彼女の存在に気付いたように桂は腕を組んで横に目をやる。「ようやく起きたかせっちゃん殿、お主が寝ている間に色々と話が進んでな、わけあってお主等と行動している、詳しい話はそこでタバコ吸ってる男にでも聞いてくれ」「せ、せっちゃん殿・・・・・・!?」「木乃香殿から色々とお主の話を聞かせてもらってな、ハハハハ」「ま、待てッ!」そのままエリザベスを連れて先へ行ってしまう桂に、慌てて刹那が後を追う、木乃香も一緒だ。「あいつら勝手に行きやがって・・・・・・」「どうするんですかぃ土方さん」「今更引き返せねえだろ、総悟、刀を抜けるようにしとけ」「言われなくてもわかってまさぁ」腰に差す刀を握りながら沖田はけだるく返事をする。土方も腰の刀に手を乗せる。未だ罠と言う可能性もゼロでは無いからだ。「抜かるなよ、総悟」「へいへい」刀を構えたまま土方と沖田はダッシュ、そのまま門の中へと入って行ってしまった。残されたのどかは呆然と彼を見送る。「十四郎さんが行っちゃった・・・・・・」「私達も行きますか」「うん・・・・・・そういえば夕映とハルナってなんでここに来たの?」「興味本位というのもありますが・・・・・・」門へ向かいながら歩いている時に、話を一旦区切った後、のどかの方へ向いてボソッと「・・・・・・もしかしたら近藤さんに会えるんじゃないかという予感がしまして」「そうなんだ・・・・・・夕映って何時の間にあの人の事・・・・・・」「反対だからねッ! 私は反対だからねッ!」「あなたにそんな事言われても私は揺るぎません」「のどか~、アンタもなんとかしてよ~」「わ、私・・・・・・!?」急に叫んでくるハルナに夕映は相手にもせずにさっさと先へ進んでしまう。ハルナに後ろから抱きつかれながら困ったように口ごもっているのどかも、彼女と一緒に門の中へと入って行った。その後を坂本が楽しげにネカネの手を引っ張ってついていく。「アハハハハッ! なんか面白そうな所じゃの~ッ! ネカネさん突撃じゃ~ッ!」「はいはい」疲れた調子で言葉を返すと、坂本に手を引っ張られるがまま中に入って行く。和美も二人と一緒に門の中へ突撃し、振り返って銀時達の方に手を振る。「銀さんも中に入ろうッ! なんか面白そうなのが一杯あるかもしんないよッ!」「あなたのテンションとその思考って・・・・・・なんとなくこの人と似てますね」「えええええッ!?」ネカネに言われた事に和美は口を開けてショックを受けるが、そのままガックリ頭を下げてトボトボと彼女の後をついて中へと入って行った。残されたのは銀時とあやかと千雨のみとなった。「・・・・・・」「どうかしたんですか銀さん?」「早く中に入ろうぜ」中へ入ろうとせずに黙って門を眺める銀時に、あやかと千雨が言葉をかける。しばらくして銀時は顔をまっすぐ向きながら、二人に向かって口を開いた。「ここから俺と一緒にこの先行ったら、二度と帰ってこれない可能性もあるんだぜ」「え?」「なんだよ急に・・・・・・」「帰るなら今の内だ、それでもしつこく俺と一緒に行くって言うなら・・・・・・何が会っても俺はお前等を護る」何処か遠い目をしながら銀時が呟いた後、三人の周りに沈黙が流れる。そして「わかりきった事を聞かないで下さい・・・・・・」フッと笑った後、あやかは銀時の左手と手を繋ぐ。「どこまでもついていくって、さっき言ったじゃねえかバカ」しかめっ面を浮かべた千雨は銀時の右手と手を繋ぐ。「銀さんがいる所に私達ありです」「心の底からお前とずっと一緒にいてえと思ってるんだ、何言っても絶対に離れねえからな」「お前等・・・・・・」彼女達はこの先どんな危険があっても自分から離れない、これからもずっと一緒だ。両手を二人に手を繋げられた状態で銀時はその手のぬくもりと同時にそれを感じた。「最初はただのガキだと思ってたのによ・・・・・・」自分の中で出て来た感情に銀時は思わずニヤッと笑ってしまう。生徒でもなく万事屋の仲間としてでもなくもっと別の感情が二人を通じて生まれた事に気付いた。厳密に言うと三人だが「行くか」「はい」「おう」銀時と手を繋いだ状態であやかと千雨は先へ進む。心に秘めている想いと一緒に。門の上から見える赤く光る夕日がやけに眩しい