友人とは時に衝撃的な出会いを果たす事がある。しばらく会わない内に相手が社会的な大出世を遂げていたり。あるいはとんでもないどん底に落ちている時。そしてこちらと対立する側として現れる時だってあるのだ幼馴染同士のネギとアーニャもまた、しばらく会わなかった内にいつの間にか『対なる存在』となってしまったのだ。「まずは話してあげるわ、数ヶ月前、私はある召喚魔法を唱えてみたの。まだ半人前の私には決してできない筈だったのよ? 面白半分だったのに・・・・・・」「・・・・・・・」「だけどその召喚魔法は成功してしまった・・・・・・それで来たのが高杉よ」「アーニャ・・・・・・てことは・・・・・・!」「そう、高杉をこの世界に呼んだのは私なのネギ、ここで起こっている事は全て・・・・・・元は私のせいで起こっている事なの・・・・・・」物語の発端を話ながらアーニャは鋭い目つきで近づいてくる。だが昔とは違う雰囲気を持った彼女の姿に、ネギは恐怖を感じ、地面に根を張ったように足が動かない。「でも別に後悔なんてしてないわ、むしろこれは神様が私に与えてくたチャンス・・・・・・だって私にとって一番欲しかったのが手に入ったんだもの」「何言ってるんだよアーニャ・・・・・・! 高杉さんは危険だって銀さんや桂さんも・・・・・・!」ネギの口から出て来た銀時と桂という名前にアーニャは鼻で笑って嘲笑する。「坂田銀時や桂小太郎の話なんかを、アンタ本当に真に受けてるの? あんな奴等、高杉の強さに恐れてるただの臆病者じゃない?」「なんやと・・・・・・!」「これは異世界の話だけど、攘夷戦争が終わって弱腰の幕府を壊そうとしてるのは高杉だけよ。桂も穏健派と言って戦わず、銀時に至っては過去を忘れて戦いから逃げてる男、ネギ、あんな奴等の事なんか聞いても耳に垢が溜まるだけよ」せせら笑いを浮かべて見下した態度を取るアーニャ。彼女の話を黙って聞いていた小太郎は、ある人物を卑下された事に反応して、奥歯を噛みしめながらアーニャの前に出た。「さっきから随分とイカれてる娘やなホンマ・・・・・・頭のネジが全部抜けてるんちゃうか・・・・・・?」「何? アンタとその女には用は無いんだけど? 目ざわりだからさっさと消えて頂戴」「お前に言われなくてもこっちから喜んで消えるわ、せやけどな・・・・・・」射殺すように睨んで来るアーニャを睨み返した後。小太郎は何の前触れも無しに突然彼女に向かって「お前を一発殴りたくなったッ!」「小太郎君ッ!」「ガキンチョッ!」アーニャに向かって拳を上げて突っ込んでいく小太郎に慌ててネギとアスナが叫ぶ。「目の前でヅラの事を臆病者呼ばわりされて・・・・・・こっちは腹わた煮えくり返ったわッ!」仲間である桂の事を見下された事に小太郎は怒りをあらわにしながら吠える。だが突っ込んできた彼に対してアーニャはつまらなそうに腰のベルトに装着されている刀を鞘ごとカチッと音を立てて外し「“臆病者の飼い犬”なんかに用は無いのよ」彼女が呟いた途端、小太郎と彼女が接触。だが何も起こらず、なんの音もせず。アスナからはただ小太郎がアーニャの横を通り過ぎただけの様にしか見えない。しかし隣で彼女と一緒に眺めていたネギには“見えて”いた。「そんな・・・・・・!」「どうしたのよネギ、何があったの?」「へ~、ネギ、私のが見えたの? 中々の動体視力じゃない」驚愕しているネギにわからなかったアスナが尋ねていると、アーニャは何事もなかったように嬉しそうに彼を見つめる。「私の“居合い”が見えるなんて、強くなったのねネギ」「何処でそんな剣術を・・・・・・」「チッ、油断した・・・・・・」「ガキンチョッ!」交差してアーニャの後ろにいた小太郎がアスナ達の方に振り返ると、彼の首には一本の短い細い赤筋が「あとちょっと回避が遅かったら、ホンマ首が飛ぶ所やった・・・・・」「ふ~ん、犬のクセによく避けたわね、まあいいわ」小太郎に向かってアーニャは小馬鹿にする言葉を振り向かずにぶつけた後、彼女はそんな彼をほっといて「こんなくだらないお遊びなんてやってないでもう行きましょ、ネギ」目の前にいるネギに優しく手を差し伸べるアーニャ、だがそんな彼女にネギはぐっと拳に力を込めながら、ゆっくりと口を開く。「アーニャ・・・・・・高杉さんは他人を口車に乗せて狡猾に操る事が出来る悪い人だって刹那さんや木乃香さんが言ってた、きっとアーニャも高杉さんに騙されてるんだよ・・・・・・」ネギの発言にアーニャはクスリと面白そうに笑う。「騙されてないわ、私はあいつがやってる事全部ひっくるめて正しいと思ってるの。そして私は・・・・・・・あいつの事を『希望の光』だと確信している」「希望の・・・・・・・光?」「そうよ」どういう意味なのか理解できていないネギにアーニャは笑みを見せる。狂気に満ちた笑顔を「春雨に復讐する為に高杉は私の・・・・・・! いえ私達の希望の光なのよ・・・・・!」「!!」「ふ、復讐ですって・・・・・・!」思いがけない一言にネギ、そして隣にいるアスナも目を思いっきり開く。忌々しい過去と向き合う時がやって来た第五十一訓 隠し事はバレてこそ意味がある後ろにいる小太郎と目の前にいるネギとカモ、アスナに聞こえるようにアーニャはゆっくりと昔話を始める。ネギと自分の人生を変えたあの6年前の惨劇を「私とネギがもっと小さかった頃、イギリスのとある村に住んでいた。小さくて大したモンもなかった村だったけど、ママや友達、知り合いのみんなが一杯いて楽しかった・・・・・・けど、突然アイツ等が私達の村を襲ったのよ・・・・・・」「異世界からやって来た宇宙海賊春雨と悪魔・・・・・・」「そうよ、アイツ等は村を焼き、悪魔は呪いで村の人達を呪いをかけて石化させ、春雨の連中は好き勝手暴れて大勢の人達を殺したわ・・・・・・! 私のママも呪いで・・・・・・友達や仲良くしてたおじさんやおばさんもみんな春雨の奴等に殺された・・・・・・!」「ネギ・・・・・・本当なの・・・・・・? 春雨ってヅラが言ってた悪い組織の事よね・・・・・・?」あまりにも残酷な話に、アスナは震えながらネギに尋ねる。彼はあの出来事を思い出して苦しそうな表情でコクンと頷いた。「はい・・・・・・・」「アンタ・・・・・・その年でそんな目に遭ってたなんて」「俺っちも初めて知りやした・・・・・・」「胸糞悪くなる話やな・・・・・・」アスナとカモが初めて聞いたネギの過去にショックを受けてる中、小太郎は苦々しい表情を浮かべる。村の住人を皆殺しにするなど、正気の沙汰ではない。「あの時は大変だったわ、私とネギもネカネお姉ちゃんは夜兎の星海坊主さんに助けられたけど、生き残ったのは私達三人だけ・・・・・・」「夜兎の星海坊主・・・・・・?」「僕とネカネお姉ちゃん、アーニャを春雨の連中から助けてくれた恩人です、神威さんと同じ夜兎族の一人で、僕の父さんの仲間だったそうです・・・・・・」「あ、兄貴、夜兎に助けてもらった事があるんですかい・・・・・!? 随分と変わった夜兎もいるモンッスね・・・・・・」ネギの肩に乗っかっているカモが口をあんぐりと開けて驚く。本来夜兎族は人助けという真似なんてしない筈なのだが・・・・・・星海坊主の説明をネギが終えたと同時にアーニャはまた話を続ける「幸い、学校と星海坊主さんのおかげで不自由ない生活は出来た、けど・・・・・・心の傷は残ったままだったのよ私は・・・・・・」「僕と一緒に学校を通っていた頃から・・・・・・?」「ええ、この手で春雨に復讐することばっか考えていたわ、ネギと楽しく勉強したり遊んでる時もずっと・・・・・・」「・・・・・・」「でも奴等がまた目の前にやって来るなんて保障は無い、それに私は例えアイツ等が来ても、アイツ等を殺す力も無い・・・・・・その現実を考えただけで胸が引き裂かれそうにな毎日だったわ・・・・・・ネギ、あなただってそうでしょ?」アーニャの問いかけにネギは下唇をぐっと噛みしめる。彼のそんな反応を自分の意見の同意と受け取ったのか彼女は満足そうに微笑む。「そうよ、あなただって心の中に春雨に対する憎しみはある筈、ネカネお姉ちゃんもきっと春雨の事を怨んでるわ」「ネカネお姉ちゃんも・・・・・・?」「私ね、春雨に村を襲われてママと一緒に逃げてた時見たのよ・・・・・・」一瞬言うのをためらうかのような動きをするアーニャ、しかしネギには言っておかなければならないという使命感が勝り、彼女はポツリと呟いた「ネカネお姉ちゃんの両親が春雨の連中に殺されたのを・・・・・・」「!!」その事実にネギは驚愕する。彼の親戚の姉的存在であったネカネはそんな事一度も言わなかった。「あの人の両親は春雨に殺されていたのよあの時」「そんな・・・・・・! ネカネお姉ちゃんそんな素振り全く見せなかったのよ・・・・・・! てっきり悪魔の呪いでまだ石化状態にされてるだけだと思ったのに・・・・・・!」「私達に隠してたんだと思うわ、その事がバレたらあなたと私も悲しむと思って、私もアンタが悲しむと思って今まで言えなかった・・・・・・」「ネカネお姉ちゃん・・・・・・」ネカネの思いやりをアーニャから聞いてネギは握り拳に力を込める。まさか両親の死を隠したままあんなに気丈に振舞っていたなんて・・・・・・アーニャも悲しそうな表情を浮かべたまま、うなだれているネギに対して話を再開する。「私とネギ、ネカネお姉ちゃんも考えてる事は一緒の筈よ? 春雨は私達の親友達、知り合いを殺した仇。心に傷跡をつけたまま何も出来ないで、平和に生きて行く事なんて出来ないでしょ? だからあなたは現に力を求めている・・・・・・」「アーニャの言う通り、僕はまだ春雨の事を許そうとなんて考えていない・・・・・・僕達の人生を滅茶苦茶にした奴等・・・・・・でも」うなだれていたネギは顔を上げ、アーニャに向かって口を開く。「僕は春雨の連中を殺したくて力を求めたわけじゃない・・・・・・・父さんや銀さん、星海坊主さんの様に誰かを護れる力が欲しかったんだ」キッパリとアーニャに向かって宣言したネギ。殺す力ではなく護る力、ネギが本来欲していた力はそれだった。しかし彼女はそれを聞いて口に小さな笑みをうっすらと浮かべた。「そうね、だからアンタは神威から力を学んだ。周りのみんなを護るとかどうとか言って、アイツの殺しのスキルを会得していった・・・・・・」「アーニャも神威さんの事知ってたの・・・・・・・?」ビックリした様な表情でネギが聞いてきたので、薄ら笑いを浮かべていたアーニャが更に笑みを広げた。「ええ、だってアイツは一応、私達側の奴だから」「か、神威さんがそっち側・・・・・・!?」「ネギ、今あなたの敵には高杉と私、関西呪術協会の奴等だけじゃないのよ。高杉と同じく異世界から来た宇宙海賊春雨の幹部もここにいる、私達の仇がすぐそこに来てるの、そしてアンタは・・・・・・」アーニャはジリジリとネギに近づいて行く。怒りと憎しみ、そして喜びが混ざっているというなんとも異様な目をギラギラさせながら。「アンタはね・・・・・・春雨の幹部から戦い方を教わっていたのよ」長い沈黙が流れた。ネギはアーニャが言った事が理解出来ていないように固まる。だがしかし、他の二人と一匹は意味を理解していた。今までネギに戦い方を教えていた神威という男は・・・・・・・。村のみんなの仇である春雨の一人だったのだと。「そん・・・・・・な・・・・・・・」「アンタに戦い方を教えてたのは・・・・・・アンタの村を襲った組織の一人だったって事なの・・・・・・?」「てことは自分を憎んでいる相手にそいつは、何食わぬ顔で兄貴が強くなる事を手伝っていた事になるッスよ・・・・・・」「やってる事がホンマにどうかしてるで・・・・・・自分を殺すかもしれないガキに殺し方を教えるなんて・・・・・・」アスナとカモ、後ろでアーニャの動きを見張っている小太郎が神威の行動に戦慄を感じる。だがネギはまだ事態を掌握出来ていない様だった。「嘘だ・・・・・・神威さんが春雨の幹部だなんて嘘だ・・・・・・!」「嘘じゃないわよ」凝視して睨みつけてくるネギにアーニャはキッパリと返した。「理由はわからないけどアイツは元々アンタに会う為に麻帆良に行ったの、サウザンド・マスターの息子であるアンタを強くする為に。アイツがどうしてそんな真似をしたのかはわからないけど、そんな事どうでもいいわ」神威が何故ネギに鍛錬を施したのかはアーニャ自身もわからなかったようだ。そればっかりは彼しか知らないが、アーニャはそんなの考える事でも無いと首を横に振る。「私はアイツがアンタに戦い方を教えてると聞いた時、復讐の為の好機だと思ったの。春雨の連中が私達と同盟を組んでいると“思って”ここにいる、そして高杉が私の傍にいる・・・・・・」まるでいつも自分の事を気遣う姉の様にアーニャが優しく語りかけながら近づいてくる。もうネギとアーニャの距離は手を伸ばせば届く位置に達していた。後ろの小太郎は彼女がどう出るか慎重にうかがう。「ねえネギ、私と高杉と一緒に春雨を倒しましょ? アンタが神威の事をどう思っていても、アイツは私達の敵、殺さなければいけない敵なの・・・・・・」「・・・・・・・出来ないよそんな事」「何言ってるの?」「神威さんが例え春雨の一人だと知っちゃっても・・・・・・僕はあの人と一緒にいる時間が長すぎて・・・・・・例えちょっと恐くて物騒でも、時々鍛練中にマジで殺しにかかって来たり、自分の仇だった組織の一人でも・・・・・・僕にとって神威さんは大切な人なんだ・・・・・・」アスナが心配そうに見つめる中、ネギは悲しそうにうなだれる。まだ年端もいかない少年には春雨の連中を殺す事なんて出来ない。ましてや親しかった“彼”を殺す事など。そんなネギの姿を見てもアーニャは鋭い目つきで少し声を荒げる「神威はアンタが思ってるほど綺麗な奴じゃないわよ、何考えてるか分かんない奴だけどそれだけは言えるわ、あんなヘラヘラ笑ってる奴・・・・・・」「・・・・・・」アーニャに言われてもネギは黙ったままだ。しばらくしてそんな彼にアーニャはゆっくりと手を差し伸べる。刀を持っていない方の右手で「高杉の所へ行きましょうネギ、これから私がアンタに色々と教えて上げるから、こんな所にいてもアンタは強くなれないわ」「アンタ・・・・・・!」笑みを浮かべながらネギを自分の所に引き抜こうとしているアーニャにアスナが一歩前に出て身構える。が、アーニャは即座に彼女を横目で睨んで「私の近くにそれ以上近づいたら首が飛ぶわよ?」「く・・・・・!」「後ろのアンタも手に持ってる札を捨てなさい、この女が死んでもいいなら別だけど」アスナが悔しそうに下がると今度は後ろにいる小太郎にも振り向かずに警告する。それを聞いて小太郎はしかめっ面で手に持っていた式神を呼び寄せられるお札をポケットにしまった。「ネエちゃんもっとそいつから離れとけや・・・・・・魔術師でもあらへんクセに・・・・・・」「う、うっさいわねッ!」「そこのネギの肩に乗ってる小動物も消えなさい」「何言ってんでぃコンチクショーッ! お、俺っちが尻尾が無くなっても兄貴に対する忠誠心は無くならねえッ!」 取れた尻尾を両手で刀の様に持ってカモはネギの肩に乗っかったまま立ち上がって構える。が、威勢は良いのだが物凄く震えている。「き、斬れるもんなら斬ってみやがれッ! お、お、俺っちの尻尾はダイヤモンドも斬り裂くんだぜッ!」「本当にいいのかしら・・・・・・? 尻尾どころか腰から下まで無くす事になるわよ?」「・・・・・・すんませんでした・・・・・・」「アンタねえ・・・・・・」殺気のある目でアーニャに睨まれた瞬間、カモが持っていた尻尾はへにょと情けなく折れる。すぐに謝ってネギの肩から飛び降りる彼の姿に、アスナは呆れたようにため息をついた。もう自分とネギの周りには誰もいない、アーニャは改まって彼に手を差し伸べる。「行くわよネギ」「僕は・・・・・・行けない」「え?」「高杉さんのやってる事が正解だとは思えない・・・・・・」ネギに拒絶された事にアーニャは目を大きく開いて意外そうな表情を浮かべる。「ネギ、アンタまさか・・・・・・春雨をこのまま身勝手にさせる気なの・・・・・・?」「・・・・・・・僕の力の使い道はみんなを護る為なんだよ」「・・・・・・」「復讐するために得た力じゃないんだ・・・・・・」首を横に小さく振って誘いを断るネギ。自分の力は己の為ではない、仲間の為なのだ。彼に断られてショックを受けたような表情をした後、アーニャは深いため息をつく。「しょうがないわね・・・・・・“コレ”をまだアンタに言うのは早いと思ったんだけど・・・・・・」「アーニャ?」「アンタ、両親の顔・・・・・・覚えてる?」虚空を見つめる様な目つきをしながら首を傾げた状態で尋ねてくるアーニャにネギは少しゾクッと恐怖で背筋が凍りつくも、フルフルとまた首を横に振る。「僕がまだ赤ん坊の時に、僕の母さんが一人でネカネお姉ちゃんの家に僕を預けに来たのはお姉ちゃんから聞いてるけど・・・・・・それっきり母さんと父さんも行方不明として扱われて、僕は二人の顔さえ知らないよ・・・・・・」「そう、やっぱりね」「何でそんな事を突然・・・・・・」全く関係ない話が唐突に来たのでネギが困惑していると、アーニャはさみしそうな表情を浮かべながらゆっくりと口を開いた。「私、アンタの母親と会ったのよ、ここで」「なッ!!!!」「・・・・・・神威の奴に正体を聞かされて驚いたわ」さっきから彼女の話には驚かせられっぱなしだったが、今回の話は一番驚くニュースだった。アーニャは行方不明だった筈の自分の母親と会った。しかもこの京都で「な、なんで母さんがここにいるの・・・・・・」「実はアンタの母さん・・・・・・」ネギに向かってアーニャは隠し事を話すように声を潜ませる。だがその時だった。「おやおやぁ? こんな所で小太郎君は何やってるんですかぁ?」「お、お前ッ!」不意にアーニャの後ろから男の声、彼女は話を中断してバッと振り返る。そこにいたのは彼女にとって招かれざる客だった「子供達だけで内緒話でもしてるんですか? 私も混ぜてくれませんかね?」「アルビレオ・イマ・・・・・・!」「え、誰?」「い、いえ僕も知りません・・・・・・」「何処の二枚目の兄ちゃんッスか?」小太郎と同じく桂小太郎の仲間の一人のアルが突然現れた事にアーニャは歯ぎしりするが、ネギとアスナとカモは彼の事を知らない。するとアルは呑気そうな口調でアーニャと三人に向かって「クウネル・サンダースですよぉ、一応偽名使ってんですからそっちで覚えて下さい、ねえ小太郎君」「あ、頭撫でるなボケェ~・・・・・・」「おや? 桂さん以外の人には撫でられたくないんですかぁ?」「ちゃうわアホ~・・・・・・」「なんでアンタがここに・・・・・・! あの女の術でここには結界が張られてる筈・・・・・・!」「ああ、それでしたらこの人がパパッと消してくれました」「何ですって?」嫌がる小太郎の頭を無理矢理撫でながらアルはヒョイと横に動く。するとそこにはもう一人別の男が立っていた。彫の深い顔と知識と威厳が伝わる様な風貌と眼鏡、袴を着て左手には鞘に収まっている長い野太刀。「初めまして、関西呪術協会の本部の長である近衛詠春です、ここで好き勝手暴れては困りますね、お嬢さん」「チッ・・・・・・! よりにもよって呪術協会の長が来るなんて・・・・・・!」「あなたが関西呪術協会本部の長・・・・・・!」「何アレ渋すぎッ! 私のめっちゃタイプッ! 結婚したいッ!」「姐さん・・・・・・」招かれざる客として現れた二人目の人物は桂の居場所を提供している近衛詠春。関西呪術協会本部の長が現れた事にアーニャは苛立つように舌打ちし、ネギは驚き、アスナは狂喜し、カモはそんな彼女を見て引いていた。「アル、ネギ先生や他のみんなを連れて私の本部へ行け、私はこの子の相手をする」「相手をする・・・・・・は! まさか詠春ってロリコンだったんですか・・・・・・・! これは衝撃的な事実ですね・・・・・・」「つまらん冗談など言ってないで早く行けぇッ! 私に斬られたいのかッ!」真面目に悩んでそうな表情をするアルに詠春は怒鳴りつける。アルはそれを聞いて仕方なく渋々と彼の言う事に従う。「ま、人の趣味は色々ありますからね・・・・・・ではそこの二人も早くこっちに来て下さい」「でも僕は・・・・・・」「ネギッ! まだ私との話は・・・・・・!」慌ててネギを取り押さえようとアーニャは彼に手を伸ばす。が、彼のローブを掴もうとしたその瞬間、ネギは思いっきり何かに引っ張られ彼女の目の前から姿を消す。「あのガキンチョはカッコいいオジ様に任せるわよッ!」「ア、 アスナさんッ!」「俺っちの事も忘れないでくだせぇ~ッ!」「くッ! なんてすばしっこい女なの・・・・・・!」ネギの後ろ襟を掴んでアスナは猛スピードでアルの方に急いで逃げる。カモも必死にそれに追いつこうと大事な尻尾を持ったまま二本足で走る。アーニャが気付く頃には彼女達は刀の範囲外まで走り、すぐにアルと小太郎の元へ辿り着く「ねえ、そこのホモっぽいのッ! 私達何処まで逃げればいいのッ!?」「あ、わかっちゃいました?」「エェェェェェ!! アンタマジでガチホモッ!?」爽やかに笑いながらぶっちゃけるアルにネギを片手で持っているアスナは一緒に走りながら驚く。しかし彼女の問いかけに今度は流すように「私がノーマルかアブノーマルかは置いといてさっさと行きましょう、この奥を走り抜ければ本部までもうすぐですから」「気になる所を適当にはぐらかされた・・・・・・」「あいつとまともに話しようしても無駄やで、ヅラと同じ電波系やから」「ヅラといいコイツといい、あの変な生物といい・・・・・・アンタも大変ね」「・・・・・もう慣れたわ」小太郎と苦労話しながらアスナはアル達と一緒にネギを連れてアーニャから逃げる。「アーニャ・・・・・・」「お母さんの事、聞きそびれたわね・・・・・・・」「はい・・・・・・」アスナに片手で掴まれてる状態で会話しながらネギは一度後ろに振り返る。こちらをじっと殺気を込めて睨みつけてくるアーニャが立っている。その光景を最後に、出口に達した瞬間目の前は光に包まれ何も見えなくなった。残されたアーニャは、ネギを連れ去られた事に怒りで体をワナワナと震わせながら、足止め役として残っている詠春を睨みつけていた。「どうして私とネギの邪魔を・・・・・・! 私はあの子を高杉の所に連れて行くのッ! そこをどいてッ!」「いやぁ・・・・・・さすがにそれは出来ないな・・・・・・」命令口調で叫んでくるアーニャに詠春は困ったように苦笑する。すると彼女は持っている刀を鞘から抜いて刃を彼の前に突き出す。「ガキだからって甘く見るんじゃないわよッ! 刀の使い方ならこっちだって心得てるのよッ!」「ふむ・・・・・・その刀、かなり細工されてるね、それに君からではなく刀からの方が巨大な魔力を感じる」「・・・・・・」「まるで君が刀を使ってるのではなく、刀が君を使っているみたいだ」「うるさいッ!」「おっと、危ない」淡々とした解説を詠春がしていると、アーニャは突然その刀で襲いかかってくるも。全く動じず詠春は持っていた野太刀を鞘から抜かずにそのまま彼女の刀を受け止める。「くッ!」「コレでも昔、アルやサウザンドマスターの仲間をやっていてね、年を取って随分腕も衰えたが神鳴流としてはまだ現役だよ」アーニャがどんなに刀に力を込めても詠春はビクともしない。圧倒的力の差、それを理解したアーニャは悔しそうに彼から一歩下がる。「過去の英雄がシャリシャリ出てくるんじゃないわよ・・・・・・!」「それもそうなんだね・・・・・・けど君達がやらかそうとしてる事は長として絶対に阻止しなければならない。“鬼神復活”は君の言う復讐とやらには必要な事なのかい?」刀を持ったまま構えている詠春の問いかけにアーニャはフンと鼻を鳴らす。「鬼神を手に入れれば高杉の力はもっと強くなる、春雨を潰すにはもっと力が必要なのよ」「なるほど、狙いはあの人が言っていた宇宙海賊とやらか・・・・・・ま、残念ながら私はどんな理由であれ君の意見には賛同できないだろうな」メガネをカチリと上げ、前にいる復讐心の塊の様なアーニャを遠い目で見据える。「大事な娘を危険にさらそうとしている輩は例え女子供でも、私は容赦しないよ」「・・・・・・」ジッと見てくる詠春にアーニャは黙ったまま睨み返すだけ、衰えても未だ目の前の男は仏にも鬼にもなれるのだ。しばらくして、アーニャは苦々しい表情をした後、クルリと詠春の方に背を向けた。「・・・・・・一旦引かせてもらうわ」「そうしてくれると助かるよ、女の子と喧嘩なんてしたら娘に顔向けできないしね」刀をカチャンと鞘におさめてアーニャは目の前から去ろうとする。それに詠春が安堵の笑みを浮かべていると、突然彼女が首だけ振り返ってこちらに視線を向けた。「娘の事が心配なら早く会いに行ったらどう? こうしてる間にとっくに“私達の物”になってるかも知れないわよ?」「ああ、それなら心配ない。あの子には刹那がついてるし、それにあの人もいる」「あの人?」自信ありげに言った詠春の言葉にアーニャは疑問を感じると、彼はフッと笑って呟いた。「狂乱の貴公子という侍さ」シネマ村のとある道。普段は何て事ない道なのだが今日の観光客は少し異様な光景を目のあたりにした。道のど真ん中に青いゴミ箱がポツンと置いてあるではないか。「木乃香殿を早く探さねば、しかし真撰組がいる可能性もあるし堂々と道を歩けん、俺はやどうすれば・・・・・・」ゴミ箱の中でボソボソと男の独り言が聞こえるのがより一層周りの人を不気味にさせる。だがしばらくしてそのゴミ箱に果敢にも近づく一人の男が・・・・・・「おおッ! ネカネさんおっかしいモンが置いてあるぞッ! なんか入ってそうじゃの~アハハッ!」「変な物に触らないで、特にあなたが触ったらなお危険になるんだから・・・・・・」「アハハハハッ! 心配せんでよかッ! 何が入ってるか確かめるだけじゃいッ!」(腹の立つ声と腹の立つ笑い声だな・・・・・・はて? 何処かで聞き覚えが・・・・・)ゴミ箱の中にいる者が知り合いの男と被るその声に首を傾げていると、突然ゴミ箱のフタがパカッと開いて上から光が降り注ぐ。「宝物でも出てこ~いッ!・・・・・・・ありゃ?」「ん?」・・・・・・・・・・・・・・・・ゴミ箱を開けた男とゴミ箱の中にいた男が目を合わせ数秒間固まる。そして「アハハ・・・・・・アハハハハッ! 宝物が入ってると思うたらヅラが入ってたわッ! 傑作じゃッ! アハハハハッ!」「坂本ォォォォォ!!!! き、貴様何でこんな所にいるッ!?」「高杉だけかと思うとったらおまんもこっちにいたかぁッ! 本当わし等は腐れ縁じゃのッ! アハハハハッ!」黒いパーマのグラサンの男、攘夷志士として戦っていた侍の一人、坂本辰馬がゴミ箱の中にいたかつての戦友である桂小太郎が驚いてる様を見て、思わず天を仰ぎながら大笑いしている。彼と一緒に行動しているネカネ・スプリングフィールドは何事かとジト目で首を傾げた。「本格的にイカれたのかしら・・・・・・?」『おまけ』話はネギがアーニャと遭遇した所から始まる。シネマ村にて千雨と和美は銀時とあやかのデートの尾行がてら、江戸風の衣装に着替えられる更衣所に入ってみた。するとそこで思わぬグループに遭遇する。「・・・・・・お前等もここに来ていたのか?」「うん、さっきいいんちょと銀ちゃんにも会ったで」「だから銀さん達逃げるように出てったんだ・・・・・・」待ち合わせ室に腰かけていたのは同じ生徒である木乃香とのどか。二人共綺麗な着物を着て他のメンバーが着替え終わるのを待っているらしい。「長谷川さんと朝倉も着物着替えにきたん?」「ああ、そうだけど・・・・・・」「でもさ、二人共着物姿似合うよね、写真撮っていい?」「えへへ、そんなん言われると照れるわぁ」「わ、私は別に似合ってませんから・・・・・・!」自前のカメラを持って写真を撮ろうとする和美に木乃香とのどかは恥ずかしそうに手を横に振る。ちなみに木乃香の方は濃い赤と黒を混ぜた着物を着て、のどかはというと・・・・・・「ねえ、千雨ちゃん、本屋のあの格好ってさ、何かに似てるよね」「極道の女みてえだな」「ええッ!?」のどかの着ている着物はほぼ黒でそこに紫色が薄く入っている。千雨が漏らした感想にのどかは口を開けて驚く。どうやら彼女自身でそういう狙いでやったわけではないらしい。「そんな恰好に見えるんだ・・・・・・夕映におススメされたから変だとは思ったけど・・・・・・」「アイツのおススメを素直に聞くなよ・・・・・・」「まあ旦那が極道見たいなもんだしいいんじゃない?」「だ、旦那さんでもないし、極道じゃないよ十四郎さんは・・・・・!」笑いながら茶化してくる和美にのどかは顔を赤らめて否定する。4人でそんな事をしていると女性陣の方がゾロゾロと戻って来た。「着替え終わったよ~、あれ? 長谷川さんと朝倉も来てたの?」「早乙女、お前の格好何・・・・・・・?」「んん? 柳生十兵衛だけど?」出会いがしらに質問してきたハルナに千雨は逆に質問する。彼女が着てる物は女性用の着物ではなく、腰に刀を差した男性用の袴姿、しかも左目に眼帯を付けている。「九じゃなくて十だからね」「そういう発言は止めろ・・・・・・」「ああ、せっちゃんやっぱ似合っとるな~」「そ、そうですか?」変な事を言う笑って言うハルナに千雨が小声で呟いていると、木乃香が一緒に同行している刹那の服装を見て感激している。青と白の羽織り、背中には誠の文字が浮かんでいる。その格好はまさに・・・・・・「ホンマ、新撰組の美少年剣士見たいやわ~」「美“少年”ですか・・・・・・複雑ですね」「オイオイオイこの作品でその格好はマズイだろ、新撰組っておま・・・・・・」「あれ? 羽織りに人の名前が書いてあるで?」「『土方歳三』って書いてますね、なんかこの名前に惹きつけられて思わず選んでしまいました」「偉人の名前まで出すなよ、ゴチャゴチャするだろ・・・・・・」羽織りの前襟に書いてある名前を口走る刹那に千雨がボソッとツッコミを入れる。すると刹那とハルナと一緒に出て来た夕映も自分の格好を千雨に見せる。刹那と同じ“新撰組”の格好で、羽織りを誇らしげに広げる。「私のは『近藤勇』ですぅ」「お前等本格的にあの連中潰す気か・・・・・・?」「いえ、どちらかというと応援してますよ、一人だけですが。それ以外は別に潰れてもいいです」「へ?」千雨に意味深な発言を残した後夕映は刹那の方へ向いてさっきのように羽織りを両手で持って広げる。「近藤勇は土方歳三の上司なんです、と言う事で私の命令は素直に従って下さい刹那さん」「なんでそうなるんですか・・・・・・」「腹切って死んで下さい」「涼しい顔でそんな事言わないで下さい・・・・・・」サラリと切腹を申しつける夕映に刹那がジト目でツッコむ。そんな事をしていると、男性陣の二人も帰って来た。彼女達と一緒に行動している“真撰組”の土方と沖田だ。「オラオラオラァッ! 新撰組のお通りでぃッ!」「一番着たら間際らしい奴等が着ちゃってるし・・・・・・!」真撰組ならぬ新撰組の格好を着て現れた沖田と土方に、千雨がすかさず身を乗り出す。 すると沖田は青い羽織りをなびかせながら彼女に近づき「俺の名は“沖田総司”、新撰組の一番隊隊長だ」「よりもよって同じ人の羽織り着てるよこの人・・・・・・本当何がしたいのお前等、何をゴールにして生きてんのお前等?」「心配しなくて大丈夫でぃ、土方さんはこれっぽっちも問題ない奴のを着てるんでね」「問題ない奴って誰だよ・・・・・・」ツッコんでくる千雨に沖田はニヤリと笑って後ろでタバコを咥えている土方を指差す。彼も刹那達と同じ新撰組の格好なのだが・・・・・・。千雨が疑問に思っていると、土方はタバコを咥えながら自分の着ていた羽織りの裏を自信満々にバッと千雨の方にめくる。そこに書いてあった名前は・・・・・・『ミッ○ーマウス』「アウトォォォォォォォォ!!!! 色んな意味あらゆる事全部含めてアウトォォォォ!!!」親指を突き出して千雨は思いっきり叫ぶ。だが土方はフンと鼻を鳴らして。「俺の隊士にはこいつの名前はいなかった、よってこれは何も問題はねえ」「いや問題あるだろッ! 問題ありすぎじゃねえかッ! よりにもよってなんで地上最強のキャラクターを・・・・・・ってオイッ! よく考えてみればなんで新撰組の格好なのにそのキャラクターの名前載ってんだよッ!」「そりゃお前、ミッ○ーが新撰組だったからに決まってるだろ」「普通にミッ○ー言うなッ! なわけねえだろッ! あいつは浦安にある巨大テーマパークのドンだよッ!」 冷静にとんでもない事を言う土方に呆れたようにつぶやく千雨。すると沖田が両手に描写出来ない代物を持ってきた。「土方さん、これもあったんで頭に被ってくだせえ、そうすれば完璧にミッ○ーになれますぜ」「そんなの誰が被るか」「オイィィィィ!! なんだそのモザイクの塊ッ!? 完璧それアレだろうがッ! 巨大テーマパークで女性がよく被るアレだろうがッ!」 沖田が持っているモザイクの塊を千雨が慌てて取り上げて捨てる。何処にあったのだろうか・・・・・。「マジで『D』に潰されたいのかアンタはッ!」「うるせえ小娘だな、じゃあミ○ーの方だったら良かったって事か?」「なわけねえだろぉぉぉぉぉぉ!!!」「土方さんって結構ボケるんだね・・・・・・」「うん・・・・・・」若干引き気味のハルナがのどかに話しかける。あまり見ない土方の姿にのどかも立てに頷いた。「おいなんでテメェが近藤さんの奴着てんだ、殺すぞ脱げ、つうか脱いでも殺す」「いやですぅ」「なんで揉めてるんやそこの二人?」「なんか譲れない事でもあるんじゃないですか・・・・・・?」土方と千雨が話してる近くで、理由は分からないが沖田が夕映と揉めている。木乃香と刹那はその意外な組み合わせに疑問を感じる。ネギ達がどういう状況なのかも知らず、千雨達はシネマ村でおおいにはしゃぎまくっていたのであった。