「ここが関西呪術協会の本山かぁ・・・・・・」「なんか出そうな空気ねぇ」ネギとアスナの前には神社によくある赤い門が大きくそびえ立っている。ネギとアスナ、そして使い魔のカモは銀時と土方のパーティから離れ、親書を渡す為に関西呪術協会の本部の前まで来たのだ。「兄貴、警戒は怠るなよ、東からの使者が歓迎されるかどうかはわかんねえぜ」「うん、アスナさんも気を付けて下さい」「危なかったらアンタ囮にしてすぐ逃げるわよ」「ハハハ、僕に背中見せたらどうなるかわかります?」「いや言わなくていいわ・・・・・・」笑顔で若干殺意のこもっているネギの発言にアスナが目を逸らして手を横に振る。逃げた瞬間背中を撃ち抜くとか、そんな物騒な事考えてるのではないかと、アスナが疑っていると、今度は口元だけに笑みを浮かべるネギ「冗談ですよ、アスナさんは僕が守ります、生徒を守るのが教師の務めですから」「え・・・・・・?」自分より年下であり背も低いネギに急にそんな事言われてアスナは少し動揺するも、すぐにネギからそっぽを向いてツンとした態度で一言。「フン、ガキのクセにませた事言ってんじゃないわよ・・・・・・」「姐さんひょっとして照れてるんすか? ヘッヘッヘ・・・・・・ぐへッ!」「このナマモノはいつになったら学習するのかしらね」ネギの肩に乗っかっているカモがいやらしい笑みを浮かべた途端、アスナが振りかえってパンチ一発。カモはそのまま砂利道に吹っ飛ばされる。「イテテ・・・・・姐さんと銀の兄貴ってなんで俺に対してこんなに・・・・・・うおッ!」「なんやこのナマモノ? 喋れるんか?」「ぬおぉぉぉぉ!! 尻尾を持つなッ! 千切れるゥゥゥゥ!!!」「あれ、君は・・・・・・」飛んで来たカモをヒョイと尻尾から吊り上げるニット帽を被った少年。ネギは突然やって来たその少年の事を知っている。「桂さんの所の・・・・・・小太郎君だよね?」「おおそうや、なんやお前等、ここに用があったんかい」「尻尾がァァァァ!! 俺っちのチャームポイントが取れるゥゥゥゥ!!」小太郎によって宙ぶらりんの状態にされているので尻尾に自分の体重が乗っかり、そのせいで尻尾に激しい激痛がカモを襲う。そんな彼を無視してネギと小太郎は関西呪術協会の本山の前で会話を始めた。「僕とアスナさんはここの本部に関東魔術協会からの使者として親書を渡しに来たんだよ」「へ~そりゃあご苦労なこっちゃな」「アンタは何でここに来たのよ?」「ん? 俺か?」ネギとは違い不審な物を見る様な目でアスナは小太郎に尋ねる。子供とはいえ攘夷志士の一人の仲間、油断はできない。まああの桂小太郎の仲間なので土方や刹那の様にそこまでアスナは警戒心は無い。「俺はヅラに会いに来たんや、アイツここに住んでるからな」「えッ! 桂さんが関西呪術協会の本部に住んでいるッ!? どういう事ッ!?」「おお、そういや言わんかったな、なんか異世界からここに来る時、偶然落ちて来た場所がここの関西呪術協会の本部なんやって、そのままここにちゃっかり住まさせてもらってるっちゅう話や」「そうなんだ・・・・・・桂さんと関西呪術協会の本部が繋がってたなんて・・・・・・」「兄貴ィィィィ!! 俺っちの“繋がってる”尻尾の方は千切れそうなんすけどォォォォ!!」悲鳴の様な声を上げて助けを求めているカモの声も聞こえていない様子でネギは難しい表情をする。そんな彼の顔を見て小太郎は歩み寄って一言。「別にここは危険やないで、あの嬢ちゃんを狙ってる関西呪術協会の女は、今はこことはなんも関わり持ってへん」「そ、それ本当ッ!?」「ああ、あの千草っていうネエちゃんは西洋魔術に個人的な怨み持ってるからな・・・・・・・」「怨み?」苦い表情をしながら小太郎が呟いた言葉にネギが眉を潜ませる。一体彼女は何故西洋魔術に怨みを持っているのだ・・・・・・・?「ま、その話は歩きながら話そうかい、本部に親書渡しに行くんやろ? ほな一緒に行こか」「え? あ、うん、桂さんからも色々と話を聞きたいし」「げ、ヅラに会うの・・・・・・? なんかアイツ天パと同じ匂いがするのよね、正直なるべく関わりたくないというか」「関わりたくなくとも無理矢理絡んで来るで、アイツ」「やっぱめんどくさいタイプなのね・・・・・・」楽しそうに桂の特徴を教えてくれる小太郎に、アスナは嫌な顔をする。どうも異世界の人間とは自分と相性のいいタイプがいない。「ほら行くで、あとこれ返すわ、ホレ」「兄貴~~~ッ!!」「よっと」「ええッ!? むぎゅぅッ!!」小太郎がほおり投げて来たカモをネギはつい反射的に避ける。そのままカモは下に顔から鈍い音を立てて落ちた。「あ、兄貴・・・・・・いくらなんでも酷過ぎッス・・・・・・」「ごめん、つい前に神威とさんと試しにやった亀田流トレーニングのクセでつい」「俺っちはピンポン玉ですかぃ・・・・・・」地面に顔をうずめながら後頭部を掻いて謝るネギに弱々しくツッコむ。かくしてメンバーに桂の仲間である犬上小太郎を加入したネギとアスナは、遂に関西呪術協会の本部へと足を踏み入れる事になったのだ。第五十訓 絡まる糸はほどく気がなければほどけないネギ一行が本山へと入った頃、銀時とあやかも二人でシネマ村に着いていた。銀時の世界にある町、『江戸』と似通った建物や風景に銀時は目を見開いて辺りをキョロキョロと見渡す。「ふ~ん、着物着てる奴までいるよ、なんだ江戸とそっくりだなここ、久しぶりに江戸に帰って気がするぜ」「ウフフ、来て良かったですか?」「まあ暇つぶしにはなるわな」「素直じゃないですわね・・・・・・」満更でもない様子なのに正直に言わない銀時にあやかはため息をつく。まあ彼の性格は今まで一緒にいた期間で十分わかっているのだが(せめて二人っきりの時は素直になって欲しいですわね・・・・・・)あやかのそんな心情を知ってか知らずか、突然銀時は彼女の手を引っ張る。「きゃッ!」「とりあえず軽く団子でも食おうぜ、色々見てたら腹減って来たんだよ」「わ、わかりましたから、そんないきなり手を握らないで下さいませ・・・・・・!」手を強く握ってくる銀時に、あやかは周りの目を気にしながら彼に団子屋の前に引っ張られていく。そんな二人の姿を、建物の影からコッソリと覗いている少女が二人。「あいつ等のデート先“ここ”だったのかよ・・・・・・!」「い、いやぁ、さすがに私もこれにはビックリ・・・・・・! いいんちょがデート先に選んだのがシネマ村なんて予想できなかったよ、てっきり人目の付かないような場所に行くと思ってたのに」物影から顔を出している二人の少女は長谷川千雨と朝倉和美。二人はたまたまここに来ていたのだが、まさかこんな所であの二人に会えるとは夢にも思わなかったらしい。「まあ確かに・・・・・・いいんちょだったらもっと一般客がいない所行く筈だよな」「そうだよね・・・・・・でもここって江戸出身の銀さんなら好むかもしれないよ、自分の都合に合わせないでちゃんと相手の方が喜びそうな場所をチョイスするなんて・・・・・・いいんんちょの奴、マジで決める気だね・・・・・・!」「どうだかねぇ、ホレ、団子喉に詰まらせてやんの」「ええッ!」店の前にある腰かけに座って銀時が買ってくれた団子を食べていたあやかだが、隣に銀時が座っている緊張で思わず喉に団子が詰まらせてしまう。胸をドンドンと叩いた後、慌ててお茶を飲む彼女の姿に、千雨は呆れ、和美は苦笑する。「あの調子で告白なんて出来るのかよ・・・・・・」「ハハ・・・・・・健闘を祈るとしか言えないね・・・・・」ゼーゼーと息を荒げながら銀時に背中をさすられているあやかの姿を見て、二人は段々と心配になって来た。「あの調子じゃあさすがに告白するステップまで踏めそうにないよ、いきなり足思いっきりグネってるもん・・・・・・私って千雨ちゃん派だけど、あれは可哀想だよ・・・・・・」「場所選びは良かったけど本人がアレじゃあな・・・・・・」「お前大丈夫か? 慌てて食うからだぞ」「ハァ・・・・・・ハァ・・・・・・す、すみません・・・・・・」銀時に背中をさすられながらあやかは苦しそうな顔で謝る。どうやらここまで来て、銀時と二人一緒にいる事によって緊張がピークに達したらしい。(こんな人が一杯いる中で銀さんと二人っきり・・・・・・無理です私、恥ずかしくて頭がどうにかなりそうですわ・・・・・・)「良くなったか? ったく年寄りでも無いクセに団子なんかで喉詰まらせて・・・・・・うぶッ!」「え?」落ち込んでいるあやかを見て銀時は呆れたように団子を口にほおばる。その瞬間彼はいきなり何かが喉に詰まったような苦しそうな表情になる。「!」「もしかして・・・・・・銀さんも・・・・・・?」「!!」「あ、お、お茶ですかッ!? はいッ」さっきのあやかの時と同様胸を叩いた後、即座に彼女に向かってお茶を求める銀時。あやかはすぐに持っていたお茶を差し出す、銀時はそれを奪い取るようにひったくり、慌てて一気に飲み干した。「・・・・・・あ~一瞬綺麗な川が見えた・・・・・・」「大丈夫ですか・・・・・・?」安堵のため息をつく銀時にあやかが心配そうに尋ねる、すると彼は彼女に向かって背中を向けて「まだちょっと苦しいんだよ・・・・・・悪いが背中さすってくれや」「ええッ!・・・・・・わ、わかりましたわ・・・・・・」男の背中を触ると言う事に恥ずかしさにあやかは少し強張るも、他でもない銀時の頼みなので緊張した様子であやかは彼の背中をさする。そんなおかしなコンビを見て千雨と和美はどんどん不安になる。「ダメだ、いいんちょもいいんちょなら銀八も銀八だ・・・・・・」「ハハハ・・・・・」二人の不安をよそに、銀時はその場からヨロヨロと立ち上がり、その後ろについてくるあやかと共に別の場所へと移動するのであった。団子屋を後にした銀時とあやか。二人はシネマ村を適当にブラブラ歩いていると、ふとある場所が目に入った。「銀さん銀さん、ここの更衣所は着物や様々な衣装を貸してくれるそうですの・・・・・・」「俺とっくに着物だから間に合ってるよ」「いや銀さんじゃなくて私が着物を・・・・・・それに着物以外にも衣装はあるだろうし、銀さんが着たがるような物もきっとありますわ、せっかくこんな所に着たんですし、ね?」緊張しながらも入りたそうに更衣所を指差すあやか、だが銀時はブスっとした表情であまり乗り気じゃない、あまりそういう事に興味無いのだ。だがここで無下に断るとなんか悪い気がするので銀時は仕方なそうにため息をつき「そんなに着物着たいなら付き合ってやるよ・・・・・・」「あ、ありがとうございますッ! じゃあ早く入りましょうか」「はいはい」彼女の手に引っ張られて銀時は更衣所へ入って行く。二人の一部始終をちょっと離れた所から隠れて見ていた千雨と和美は二人が中へ入った所を確認した。「いいんちょの奴こんな所に来たがってたのか」「着物かぁ、私達も着る?」「そうだなぁ・・・・・・ネットアイドルとしては今後のコスプレ衣装として試しに着てみるのも・・・・・・・」「アイドルがなんだって?」「い、いや別に・・・・・・」和美と会話中につい考えてた言葉が口に出てしまったので慌ててごまかす千雨。パパラッチの彼女にネットアイドルの事をバレてしまったら一巻の終わりだ。「つ、つうかまだ入れないだろ? ほら、いいんちょと銀八が中にいるし」「そうだねぇ二人がいなくなった後に借りに行こうか」二人でそんな事を会話していると、10分後「あ、銀さんといいんちょが出て来た」「何? 随分早いなアイツ等・・・・・・」まだ二人が中に入ってそんなに時間が経っていないのに銀時とあやかは衣装に着替えて更衣所から出て来た。何故かわからないが二人の息は荒く、逃げるように出て来た感じだ。「な・・・・・・何で“アイツ等”がいんだよ・・・・・・!」「まさかあの人達もシネマ村に来てたなんて・・・・・・思わずすぐに着替えて出てきてしまいましたわ・・・・・・」その場で疲れたように息を荒げた後、深呼吸して落ち着き、改めて二人はふとお互いの着ている服に目が入った。特に銀時はあやかの事を食い入れるように見つめた。「お、お前・・・・・・!」「ど、どうでしょうか・・・・・・?」恥ずかしそうに銀時に向かって着物姿を披露するあやか。咲き誇るような桜の花びらがくっきりとよく出ている模様、透き通るようなピンク、実に彼女らしい着物だった。あやかの着物姿を初めて目のあたりにした銀時はしばし目を見開いていると、ハッと我に気付いてすぐに目を逸らす。「ま、まあ悪くねえな・・・・・・」「そうですか? 時間が無くて舞子さんみたいなカツラを被れなかったのが少し残念ですけど、やっぱ着物は黒髪の方が合いますし・・・・・・」「いや金髪でもそれはそれで味があって文句ねえよ・・・・・・」「本当ですか? あ、ありがとうございます・・・・・・」目を合わせないでボソリと銀時が呟いた言葉に、あやかは照れながらも頭を少し下げる。ふとあやかも銀時の着ている衣装を見る。もっとも彼の服装は彼女が選んで着させて上げたのだが「銀さんもその衣装どうですか? なんか本当に戦場で戦ってたような姿ですわよ?」「その表現は100%当たってるよ、だってお前この格好・・・・・」改めて自分の服装をチェックする銀時。白い大きな羽織に白い額当てが特徴を表現していて他にも様々な物を付けているが今の姿はどう見ても・・・・・・(思いっきり攘夷戦争の時の俺の格好じゃねえか・・・・・・)透明な窓ガラスが傍に合ったので銀時はそこで自分の姿を眺める。腰に偽刀だけではなく木刀も差している所と、背中に夕凪を差していなければ完璧昔の自分の姿のままである。(まさかまたこの格好になるとは夢にも思わなかったな・・・・・・)「あの、変でしたか・・・・・・? 銀さんらしくするよう色々、素材を集めて合わせてみたんですけど・・・・・・やっぱり私のセンスじゃ・・・・・・・」「いやお前のセンスはピカイチだから、これ完璧表現出てるよね? 背中から変な汁が出るぐらい出てるよね? 今というより昔の銀さんだけどかなり表現されてるからね?」「え? そ、そこまで良かったですか・・・・・・?」「銀さん検定があったらお前に銀さん一級を与えたいぐらいだ」「ありがとうございますッ!」自分の姿をまだ見ている銀時に向かってあやかは嬉しそうに声を上げる。見たわけでもないのに攘夷戦争時代の銀時の格好を偶然とはいえそのまま表現するとは・・・・・・これには彼も彼女に感心するしかない。「なんかこう見てると昔の自分に会った様な気がして気味悪いな・・・・・・んじゃ、ま、他にも色々と巡ろうかお姫様よ」「お、お姫ッ!?」「なんかそれっぽいだろ今のお前、行くぞ」「ああッ! お、お待ちになってお侍様ッ!」「いやキャラは作らなくていいから」自分なりの姫様キャラを作るあやかに銀時はツッコんだ後、二人で一緒にどっかへ行ってしまう。二人の後ろ姿を千雨はボーっとして眺めていた。「やっぱいいんちょって着物姿も綺麗だなぁ・・・・・・」「ねえ千雨ちゃん、今の内にここ入って着替えようよ、早く早く~」「うるせえな・・・・・・わかったから背中押すなよ」着物姿のあやかをみて感想を呟いている千雨の背中を押して、彼女を更衣所に入れようとする和美。千雨は表面的にはめんどくさそうにするが内面では和美同様一度着物を着てみたいと思っていた。一体どんなもんなのかと期待を胸に千雨は和美に押されながら中へ入ってみると・・・・・「のどか、似合ってるな~土方さんが見たら顔赤らめてぶっ倒れるかもしれへんで?」「や、止めてよ木乃香・・・・・・」「「・・・・・・はい?」」着物姿で待ち合わせ室でワイワイはしゃいでいる近衛木乃香と宮崎のどかの姿があった。場所は変わりシネマ村のとある建物の屋根の上。そこにはある三人組の姿があった。「ここに例のお嬢ちゃんがいるのはホンマか?」「ふ、元お庭番衆最強の忍びと言われた俺の情報だぞ、抜け目はねえ」「そうか」「ここにあのお侍さんもいるんかなぁ・・・・・・」関西呪術協会の陰陽術師、天ヶ崎千草と彼女の雇った忍びであり、銀時と同じ世界の住人、服部全蔵。そして若くして二刀の使い手の月詠が屋根の上からシネマ村を眺めていた。「いると思うぜ、向こうだってみすみすあの娘っ子を奪われないよう護衛を周囲に固めてる筈だ。さて、どうする千草」「決まってるやろ、誰が相手になろうが全て蹴散らす、今度こそ木乃香お嬢様をさらわんと高杉の奴にマジでウチら殺されるで」隣で寝そべって少年ジャンプを読みながら尋ねて来た全蔵に千草は若干焦りの入った口調で返す。高杉晋助の元で二度も失敗してはどんな目に遭わされるのやら・・・・・・「考えるだけで恐ろしいわ・・・・・・全蔵、今回はマジで捕まえるで」「わかってるつうの、俺もそろそろ覚悟を決めたんでね」「ほう、そんなら異世界の忍びも遂に本領発揮という事か・・・・・・」「そうらしいな、俺もそろそろ我慢の限界だ」いかにも悪役らしい笑みを見せてくる千草に、全蔵はジャンプを置いてニヤリと笑う。「遂に俺のケツに住みつく悪魔、痔を手術する日を決めたぜ」「フッフッフ、これで長年全蔵を苦しめた痔もいよいよ・・・・・・ってアホかぁぁぁぁ!!! なんや痔の手術決めたってッ! 覚悟って手術する方の覚悟ッ!? そんな覚悟欲しがっとらんわッ! ウチが欲しいのは木乃香お嬢様を奪う為に戦う覚悟やッ!」「あ、ワリぃ、医者から手術をやる前はしばらく運動控えろって言われてるんだよね俺」「そんなん知るかボケェッ!! つうかこんなクソ肝心な時に何病院通ってんねんッ!」真顔で手を横に振って戦う事を拒否する全蔵に千草は屋根の上で大声を上げて怒鳴りつける。彼女にとって全蔵の痔などどうでもいい存在だ。「ったく、テメェは痔になった事ねえからわかんねえだろうけどよ、そりゃもう歩くのもままならない地獄の様な痛みがケツに襲ってくるんだぜ、俺もうそろそろ地獄に通うの嫌なんだよ、ブサイクだらけの天国行きてぇんだよ」「一生痔で苦しんでろドアホ・・・・・・」「痔ってどんなんどすか~? ウチもかかる可能性ありますか~?」「いや若い子はならねえんじゃねえの? これはアレだから、運命に選ばれてしまった哀れな罪人、もしくは漫画家がかかってしまう病気であってだな、まあ少し長くなるがつまり・・・・・・」「いたいけな子供になんちゅうモン教えようとしてんねんお前はッ!」興味津々に目を輝かせている月詠に全蔵がゆっくりと痔について説明をしようとすると、千草のかかと落としが彼の頭に直撃。「もうこんなくだらん話は終いやッ! さっさと木乃香お嬢様を奪う準備をするでッ!」「いや準備も何も、春雨の幹部の奴等はとっくにそれぞれどっか行っちまったぜ」「フン、アイツ等はウチの事甘く見てるからな・・・・・・自分達で勝手にやろうと考えてるんやろ・・・・・・」頭をさすっている全蔵に千草は苦々しい表情をする。元々自分や春雨も高杉を総大将とする集団だが、あちらの連中は千草の事をずっと下に見ている。高杉も彼女の事は下っ端扱いだ。「今に見てろや・・・・・・最後の最後にアイツ等にウチをナメとった事を後悔させたる」「ま、頑張れよ、俺は病室でお前の健闘を祈ってるわ」「ドサクサに入院する事暴露したやろッ! 絶対逃がさへんぞッ! お前は一生ウチの元で働けッ! いいなッ!?」全蔵は千草の叫び声をやかましそうに耳を塞いだ後、すぐに脇に置いていたジャンプを拾って読書タイムに「やなこった、俺は醜面の女が好きなんだ、べっぴんさんのアンタには興味ねえ、用が済んだらとっとと元の世界に帰る手段でも見つけるさ」「腹立つぅぅぅぅぅ!! 西洋魔術に復讐し終わったら、ホンマ呪い殺したるからな・・・・・・!」「へいへい」彼女が高杉の計画に加担した動機を知っている全蔵はジャンプを読みながらため息交じりに呟いた「復讐ねぇ・・・・・・」「両親を戦争で失った? それで西洋魔術に復讐を?」「そやそや、千草のネエちゃんの目的はあくまで両親を殺した西洋の魔術師達への報復。難儀な話やなぁ」シネマ村から遠く離れた関西術師本部の本山、カモを肩に乗せたネギ、アスナと小太郎は話をしながらまだ歩いていた。「自分の復讐の為に木乃香さんや僕達を巻き込んでるってわけか・・・・・・」「俺はあのネエちゃんはとは結構会ってたけど、そんな他人を利用して悪どい事出来る人間には見えなかったんやけどな・・・・・・どっちかつうとありゃあ悪役としても小物や」「小物って・・・・・・」「てことは兄貴、親玉の高杉がやっぱ元凶っちゅう事ッスね」「う~ん、まだ詳しい事はよくわかんないからその推論が正しいのかどうか・・・・・・」小太郎とカモの話に難しそうに悩むネギ。はっきり言って謎だらけの今、何が正しいのか分からない。ネギがどうしていいのか困っていると、後ろで歩いているアスナが息を荒くしながら話しかけて来た。「ネギ・・・・・・まだ着かないの?」「うわぁ、随分と死にそうですねアスナさん、止め刺しましょうか?」「・・・・・・これ以上歩いても着かなかったら頼むわ・・・・・・」「何物騒な会話してんねん・・・・・・・でも確かに気が付いてみれば・・・・・・」疲れてヘトヘトの状態のアスナにネギは輝くような笑顔で戦慄する一言。小太郎はそんな彼にジト目でツッコんだ後、立ち止まって周りを見る。奥まで続く長い通路、左右は奥が見えないほど雑木林がある。小太郎はしばし周りをグルリと見た後、眉間にしわを寄せた。「こんなに長い通路やないでここ・・・・・・前来た時はもっと短かった筈や」「どういう事よそれ・・・・・・」「あかん、なんか敵さんの術法にかかってるかもしれへん・・・・・・」「ええッ! じゃあもしかして僕達ここに閉じ込められたんじゃッ!?」「そこまではわからんけど、この空間は敵さんがやったっちゅうのは確かや」小太郎の結論にネギは驚いたように声を上げる。さっきからずっと無限に続く通路、こんな事するのは恐らく本部へ行かせないようしている敵の仕業。小太郎の推論にネギが顎に手を当てて考えていると、彼の肩に乗っかっているカモをアスナがヒョイと掴む。尻尾から「イデデデデデデデッ!!」「アンタ、結構魔法とかの知識あるわよねッ! だったらこの通路がなんでこうなるのかわかるでしょッ!?」「イデデッ! 俺っちは陰陽道の術式系統はあまりわかりやせんッ! ていうか尻尾から持たないでくだせえッ!」「知らないわよッ! こっちは疲れてんだからさっさとこっから脱出する方法見つけさないよッ! このナマモノォォォォ!!」「ちょォォォォォ!! 姐さん尻尾握ったまま振り回さないでェェェェ!!」疲れているにも関わらずアスナはカモの尻尾を握ったまま縦に高速回転。ネギ達の周囲でカモの絶叫が響く。だがしばらくしてブチ、という嫌な音と共にカモが地面に思いっきり叩きつけられた。「ふべしッ! イッテ~これで二回目ッスよ全くいきなり離すなんて姐さん酷いッス・・・・・・」「あ」「へ? どうしたんスか?」「尻尾」「尻尾?」何かに気付いたように口を開けてカモ指さすアスナ。尻尾がどうかしたのかとカモが振り返ってみるとそこにはいつもお尻についていた尻尾は無く、代わりに噴水の様に血が噴き出す。「オォォォォォ!! 俺っちの尻尾ねぇぇぇぇぇ!!!」「ここにあるわよ、ほら」「姐さぁぁぁぁぁんッ!!!」自慢の尻尾が無くて絶叫しているカモにアスナは呑気そうに手に握っている彼の尻尾を見せる。どうやら振り回していたら切れてしまったらしい「どうするんすかコレッ! 俺っちの可愛い尻尾が俺っちから融合解除しちゃったじゃないッスかッ!」「いいじゃん、元から必要あるわけでもないしこんなモン、人間はこんなモン無くても元気に生きていけるのよ」「あるでしょッ! オコジョにとって尻尾は大事ッ! つまりこれあってこそ俺っちでしょッ!!」「安心して、食べる部分があればアンタはギリギリ存在価値あるから」「俺っちの存在価値ってギリギリ食用ッ!? 」尻尾の部分から血を発射しながら泣き叫んでいるカモに、アスナはだるそうに彼の取れた尻尾を目の前でプラプラさせながら酷い言葉を浴びせる。そんな事をやっている一人と一匹を見て小太郎は頬を引きつる。「おい子供先生、お前のペットの尻尾取れたで・・・・・・」「いや~元から必要あるわけでもないし問題ないよ」「お前もあのネエちゃんみたいな事言うんやな・・・・・・」同い年ぐらいの少年のさりげない一言に、小太郎が若干恐れ始めていると、突然何かに気付いた。「・・・・・・ん?」「どうしたの?」「人がこっち来る気配を感じるんや・・・・・・」「あ、本当だ・・・・・・」人の気配に気付いた小太郎は100Mぐらいまで続いている奥の通路に目を越す。ネギも一緒に奥に向かってジッと見つめる。アスナとカモも二人を見てとりあえず静かになる。しばらくしてコツコツと音を立てて歩いてくる足音が奥から聞こえてきた。「誰だろう、敵かな?」「かもな、そっちの方が確率が高いしな・・・・・・」「でも足音の重さからして子供ぐらいだよ?」「お前そこまでわかるんかい・・・・・・」ネギの洞察力と気配の読みに小太郎はジト目で見て内心驚く。そんな所まで気が付くのか・・・・・・小太郎がそんな事を考えている間に足音はどんどんこっちに近づいてくる。すると小さな人影少しずつ見えて来た。「やっぱり僕達とそう変わらない子供だ・・・・・・ローブを付けた子供」「何モンや・・・・・・?」「気味が悪いわね・・・・・」「俺っちの尻尾・・・・・・」アスナから返してもらった尻尾を持って泣きながら見つめるカモを覗いて、他の三人は近づいてくる子供に目を凝らす。ぼんやりとした人影は徐々にはっきりと映り、その次はより鮮明に姿が見えるようになった。ネギ達とその子供の距離がぐんぐん近くなる。30M20M15M5M・・・・・・3M「そこで止まれや」小太郎が命令するように鋭く放った一言に、ローブを付けたその子供はピタッと止まった。この距離なら十分相手の姿が観察できる。漆黒のローブ、顔はフードに覆われて見えない、しかし身長はネギや小太郎とは対して変わらなかった。だが腰の部分に装着してある日本刀からはかなりの威圧感を感じる。装着している子供より長いのだ。「なんやこのガキ・・・・・・あんな自分より長い刀で戦うつもりか?」「・・・・・・」「どうしたのよ、ネギ」「あの子供・・・・・・僕知ってる様な・・・・・・」「なんですって・・・・・・?」「プッ」「え?」隣で目の前にいる子供を凝視するネギの言った言葉にアスナは目を細める。すると目の前でだんまりしていた子供が意外にも含み笑いをした。「相変わらずトロいわねアンタは」「その声・・・・・・!」ネギは聞いた声に誰なのかとや気付いて目を見開く。その反応にフードの下からバカにするように歯をニンマリと出しながら「全く、顔隠してるぐらいで幼馴染のレディを忘れるなんて、アンタそれじゃあ一生紳士になれないわよ」その子供は頭に被ってるフードをそっと取った。「やっぱアンタは私がついてないとね」「アーニャッ!」「俺っちの尻尾~・・・・・・・ん? ええッ!?」ちょっと昔に別れたばかりなのに何処か懐かしく感じる再会。赤髪のツインテールとツリ目をして、いつものツンとした態度を取るまだあどけない少女ネギの幼馴染であり同じ学校の卒業生、一つ年上のアーニャだった。ネギと尻尾を抱いているカモが驚いたように叫ぶが、初対面のアスナと小太郎は首を傾げる。「アーニャ?」「誰やそれ?」「イギリスで一緒に学校を通っていた僕より一個上の幼馴染ですよッ! でも確かアーニャはフランスで占い師をやってるって言ってたよね? なんでここにいるの?」「ふふん、ちょっとばかし大事な用があってね、それでアンタを驚かせる為に内緒で来ちゃった」困惑しているネギにアーニャはニコリと笑みを見せる。だが彼女の腰にあるベルトに装着している長い日本刀、あれは一体・・・・・・「久しぶり、ネギッ!」「う、うん・・・・・・」元気そうに挨拶してくるいつものアーニャにネギはぎこちなく頷く。変だと感じているのはネギだけではなくカモも同じで、取れた尻尾を左脇に挟んだまま、ネギの肩に乗っかって耳打ちを始める「兄貴・・・・・・あの嬢ちゃんは確かイギリスの学校で一緒だった幼馴染っすよね・・・・・・? 少しおかしくありませんかい・・・・・・?」「僕もちょっと変だと感じてるんだ・・・・・・アーニャがなんで京都にいるのか、なんでこの閉鎖されてる空間に入って来れたのか・・・・・・それにあの刀・・・・・・」「もしかして、俺っち達を錯乱する為に用意した、敵の幻術って可能性があるんじゃないですかぃ?」「幻術ッ!?」ネギが思わず叫んでしまった一言にアーニャはムスッと不機嫌そうな顔を浮かべる。「誰が幻術よッ! 私は占い師としてフランスで活躍するアンナ・ユーリエウナ・ココロウァッ! そしてボケでチビのネギの世話係であるアーニャよッ!」「う~ん、そのキツイ口調は確かにいつものアーニャだ・・・・・・」「それにあれは幻術やないで、紛れもない実体や」昔から変わっていない彼女の態度を見てネギは苦笑しながらうんうんと頷く。小太郎も彼女の事を実体だと察知したようだ。だが謎が全て解明されたわけではない。ネギは思い切って彼女に疑問をぶつけてみた「ところでアーニャはどうしてこんな所にいるの? ここは今危険だよ? それに腰にそんな長い剣差してちゃ駄目だよ、ここには危ない連中がいるんだから」「あー大丈夫よ、問題ないわそんな小さな事。それよりさ・・・・・」ネギの注意も小さい事と称して軽く受け流すアーニャはすぐに話を変える。その時彼女の声のトーンが突然低くなった。「今日はネギにちょっと一緒に来て欲しい所があるのよ・・・・・・」「来て欲しい・・・・・・所?」アーニャの周りの空気が変わった。ネギがそれを察知したと同時に、アーニャはゆっくりと顔を上げる。その顔は、先ほどのあどけない少女の顔とはまるで別人だった。「高杉の所よ・・・・・・」「「「「!!!!」」」」アーニャの言葉にそこにいた一同は耳を疑う。高杉、それはネギ達の敵である男の名なのだ。きっと聞き間違えたんだと思ったネギは声を震わせながら問いかける「ご、ごめん・・・・・・もう一度言ってくれないかな・・・・・・」「高杉晋助」「!!」「私達の世界とは違う世界では、攘夷志士の中で最も過激な部類に入ると呼ばれている男。ネギ、一緒に高杉の所に行きましょ。大丈夫、わたしがついてるから・・・・・・」「ど、どうしてアーニャがその人の事を・・・・・・!」今度はちゃんと確信のある口調で返してくるアーニャ、しかも彼女と昔からの友人であったネギでさえも今まで見た事のない妖艶とした笑みで。「アンタも・・・・・・私と高杉と同じ側の人間の筈なのよ・・・・・・そうでしょネギ・・・・・・!」「そんな・・・・・・! アーニャ、何で君があの人を・・・・・・!」ネギは混乱しながらアーニャから思わず後ずさりするも、彼女も狂喜に駆られた目をしながら歩き出す。ベルトに装着している刀を揺らしながら。絡まっていた糸はやがて一本の糸となる