修学旅行三日目の朝。日が昇り始めた頃、熟睡していた長谷川千雨はパチリと布団の中で起きる。「ふにゃ? いつのまに私寝てたんだっけ・・・・・・?」ムクリと腰を上げながら千雨はボーっとしながら考えていると、気付いてみたらいつも付けてた伊達メガネも外されて、結んでいた髪もとかれていた。「・・・・・・誰か私の事寝かしてくれたのか?」「おいチビそれ俺のだ、吐きだせボケェ・・・・・・」「ん?」誰がやってくれてたのかと考えていると、隣から班の生徒ではない声が聞こえたので千雨は素顔のまま横に目をやる。するとそこにいたのは「俺のパフェ食うとはいい度胸だなチビ・・・・・・罰ゲーム・マインドクラッシュだ、ヘヘヘ・・・・・・・」変な笑い声を出しながら寝言を言う坂田銀時が、千雨のすぐ隣の布団の中でくるまっていた。「ぎ、ぎ、ぎ、銀八ィィィィィィ!!!」「なんだようるせえな・・・・・・」彼女の叫び声で不機嫌そうに銀時も起きた。布団の中から顔を覗かせ銀時は千雨の方に目をやる。「お前こんな朝っぱらからデカイ声出すなよ・・・・・・」「な、何でお前が私の隣で寝てんだよッ!」「俺の部屋だからに決まってんだろ」「あ・・・・・・」布団の中から目だけを覗かせている銀時の返しに千雨はやっと思い出した。昨日の夜、銀時にありのままを告白して、そのまま疲れてウトウトしながら銀時の腕の中で寝てしまい・・・・・・「アァァァァァ!!!」「だからうるせえんだよメガネッ! ぶん殴られてえのかッ!」急に顔を真っ赤にして頭の上に両手を置きながら千雨が絶叫する。そんな彼女に遂に銀時がキレて布団から出て来た。「わ、わ、私・・・・・・昨日の夜・・・・・・」「ああ、そういえばお前に告られたな、アレはビックリしたわ」「そうだった、私ったら銀八の事好きだとかどうとか言いながら泣きじゃくって・・・・・・それで疲れて眠っちまったんだ・・・・・・」自分がやった事が今更になって恥ずかしくなり顔を両手で隠す千雨に、銀時は髪を掻き毟った後、彼女の肩に手を置く。「これからもよろしく」「・・・・・・それはどう捉えればいいんだ私・・・・・・?」解釈の仕方がわからない銀時の言葉に千雨が困ったようにリアクションを取っていると、そんな彼女を置いて銀時はまた自分の布団の中に潜り込んでしまった。「お前の好きにしろ、じゃあ銀さんもうひと眠りすっから、朝飯の時に起こしてくれよ、ハニー」「ハニーって呼ぶな気持ち悪いッ! 体中に鳥肌が立ったわッ! つうかいいんちょは何処行ったんだよッ! 昨日の夜ここにいただろッ!?」「あ~? あやかだったらお前が寝た後・・・・・・」布団の中で怒鳴ってくる千雨にめんどくさそうに銀時が説明しようとする。が、ふともう一つ思い出した事があった。千雨が眠りについた後あやかと二人で色々と喋ってた。そしてその内、彼女がどんどん自分に顔を近づけて・・・・・・「アァァァァァァ!!!」「なッ! お前もいきなりデカイ声出すなよッ!」「俺、お前が寝てる時にあやかと・・・・・・イヤァァァァァ!! 銀さんもうお嫁に行けないィィィィィ!!」「ちょっと待て冷静になれよッ! ・・・・・・私が寝てる時にいいんちょと何があったんだよ?」顔を両手で隠して布団の上でゴロゴロとのたうち回る銀時に、千雨が慌てて問いかけると。彼はピタリと止まって指の隙間から目を出した状態で額から冷や汗をかきながら千雨の方を見る。「お前が寝ちまった後・・・・・・」「いいんちょに何されたんだよ?」「・・・・・・唇奪われた」「あ~なんだそんな事かよ、別に大した事・・・・・・エェェェェェェ!!!」いきなりの事実に立ち上がる程驚く千雨。自分が寝てる時にあやかが銀時にキス?彼女がそこまで積極的に、なおかつ自分が近くで寝てる状態でそんな事をやってのけたのか? 「なんでいいんちょお前にキス出来たんだよッ! あいつあんなに奥手だったのにッ!」「知らねえよッ! 俺今日どうゆうツラであいつに会えばいいんだよォォォォ!! 教えてハニィィィィィ!!」「ハニー言うなボケェェェェ!!!」まだ生徒達が寝静まっている頃、銀時と千雨は朝っぱらから部屋の中で大騒ぎだった。修学旅行、運命の三日目が始まる。第四十九訓 人の道それぞれ「どうしたんやまき絵と裕奈? 目の下にすんごいクマ出来てるで?」「・・・・・・」「・・・・・・」朝食を済ませ、今日は私服で自由行動できる日なのでこれからどうするか1階のロビーで話している3年A組。その中で昨日の夜行ったゲームの途中で新田先生に捕まり、罰を受けたまき絵と裕奈が、一睡も寝てない状態でボーっと立っていた。同じ班の亜子に聞かれたので、まき絵と裕奈は機械の様に同時に彼女の方へ顔を向ける。「・・・・・・新田の奴に朝までミニ四駆作りさせられてた・・・・・・」「しかも塗装とか肉抜き、チェーンアップまで・・・・・・目をつぶるとシャイニングスコーピオンのボディがまだ見える・・・・・・」「はは、それは災難やな・・・・・・」まき絵と裕奈の行った新田流の罰ゲームに、亜子はひきつった笑みを見せる。生徒に対してそんな事が出来る教師がいるこの学校は一体・・・・・・亜子がそんな事を考えていると、まき絵は隣にいる裕奈に横目で睨みつける。「それもこれも私を裏切って逃げた裕奈のせいで・・・・・・」「うるさい疫病神・・・・・・あんたのせいでこっちも不幸になったじゃない、どうしてくれんのよ・・・・・・」「んだとコラ・・・・・・・」「やんのかコラ・・・・・・」「ちょ、ちょっと二人共口調変わっとる~」お互い覇気のない表情で喧嘩を始めようとするまき絵と裕奈に慌てて亜子が止めに入った。ちなみにゲーム参加者ではないが突然参戦してきた千鶴も彼女達と同じく新田先生に捕まり、キツイ罰ゲームを食らっていた筈なのだが「あの二人は元気ないのに、なんでちづ姉はいつも通り元気なの・・・・・・・?」「貴重な体験が出来て面白かったわ~」「へ~、なんかちづ姉って地球が突然爆発しても普通に宇宙空間で泳いでそう・・・・・・」新田先生の罰ゲームさえも効いてない様子でお日様みたいに笑ってる千鶴を見て、夏美は心の底から彼女の事を認めた。『完全無敵』と「どうしたんせっちゃん? 目の下にすんごいクマ出来とるで?」「・・・・・・」一階のロビーに集まっていたアスナ達の班の中で、刹那が寝不足の状態で何も無い壁をジッと見ていたので、心配そうに木乃香が話しかける。すると刹那はゆっくりと首を動かして「・・・・・・何でもありませんよお嬢様」「すみません僕、木乃香さんじゃないんですけど」「・・・・・・こりゃあ重傷ね」木乃香の方に向くのかと思いきや何故かネギの方に向かって話しかける刹那。虚ろな目で何処か呆けてる彼女にけだるそうな表情でアスナは何が原因なのかを察知する。「大方、マヨと本屋ちゃんがくっついたから相当ショック受けてるんじゃない?」「そうやなぁ、朝食の時にハルナがみんなに言いふらしてたもんなぁ、その後ハルナ、土方さんにシメられとったけど」アスナと木乃香の会話に刹那はピクリと反応してムスッとした表情で振り返る。「私は別にそんな事気にしてませんから・・・・・・」「おいおい神鳴流のお嬢ちゃんよぉ、そんな顔で言われても俺っちはもうわかってんだよ、あの二人がくっついたのが気に食わないんだろ、ヘッヘッヘ」ニヤニヤ笑いながらネギの肩に乗って茶化してくるオコジョ妖精、カモ。刹那はそんな小動物をジト目で睨みつける。「ネギ先生、そのナマモノを惨殺する許可を」「いやまあ別にいいんですけど、ここで殺ったら生徒達の目に入るのでちょっと勘弁してくれませんかね?」「兄貴ィィィィ!?」笑顔で言うネギに悲痛な叫びを上げるカモ。基本ネギは自分の生徒や使い魔でさえ容赦しない。そんな事をしている頃、ネギ達の近くでは刹那がずっと気になっている二人、土方とのどかが修学旅行三日目の予定を決めていた。その様子を刹那はじっと見る。「あ、あの私、シネマ村って所に興味あるんですけど」「シネマ村? なんだそりゃ?」「京都の観光スポットの一つです、映画やドラマとかで撮影に使用されるセットがそのまま公開されている所らしくて、まるで映画の世界に入ったような気分になれると夕映から聞いたんです、十四郎さんが他に行きたい所がないならここに行きたいんですけど・・・・・・」「ふ~ん退屈しなさそうだな、別にいいぜ」「あ、ありがとうございますッ!」「・・・・・・」前よりも仲良く見え、なおかつのどかが土方を名前で呼んでいる。そんな光景を不機嫌そうに刹那が見ていると、二人の所に怪しい影が現れた「土方さ~ん何処行くんですかぃ、俺も暇なんでついて行っていいですかねぇ?」「ひ・・・・・・!」出て来たのは昨日のゲームでお騒がせしていた土方の部下のである沖田総悟だった。彼が現れた途端周りの生徒は一斉に逃げ出す。恐らく彼がどんな人間なのかを昨日のゲームでわかっているのであろう。一番の被害者であるのどかも彼が来た途端短い悲鳴を上げる。「沖田さん・・・・・・」「総悟テメェ、あんなに手ひどくやられてたクセにもう復活しやがったか・・・・・・」「しやがったってなんですかぃ、まるで俺が復活したのが嫌そうな言い方ですね」「当たり前だろうが、どうせお前またコイツにちょっかいかけんだろ?」「人聞きの悪い事言わないでくれやせんかね? 俺がいつの土方さんの女をイジめようとしたんですかぃ」「か、刀でグリグリしないで下さ~い・・・・・・」「現在進行形でやってるだろッ!!」しらばっくれる沖田だが、鞘に収まった刀の先っぽで嫌がるのどかの頬っぺたをグリグリしている。土方はすぐに彼の手から刀を取り上げた「ったく相変わらずテメェは・・・・・・もうそいつにつきまとうな、さもねえと俺が今度こそたたっ斬るぞ」「わかりやした、もうしませんぜ」「ふえ、ほ、頬っぺたツネらないで~・・・・・・」「だから言ってるそばからやってんじゃねえかコラッ!」今度は素手でのどかの頬っぺたを思いっきり引っ張りだす沖田に、土方は怒声を浴びせる。すぐに彼からのどかを引き離して自分の後ろに置いた。「どんだけサディストなんだテメェは」「残念ですがねえ土方さん、俺は手足もぎ取られようが、首を飛ばされようが、絶対にのどかちゃんをイジメ抜くという固い決意を持っているんでさぁ」「その執念は一体どっから出てくるんだお前、その執念深さをもっと別の所に行かせ頼むから」ニヤリと笑ってみせる沖田に土方が呆れたように口を開く。まあ彼は絶対に聞かないとわかっているのだが「昨日は“あの女”のおかげで邪魔されやしたが、どうです土方さん? ここでいっちょ再戦でもしますかい・・・・・・」そんな事言うと沖田が邪悪な笑みをしながら近づいて来る。ドSは一度負けてもすぐに蘇る。だが・・・・・・「あら? 昨日の人?」「う・・・・・・」突然後ろから聞こえた女性の声、それが耳に入った途端沖田は物凄く嫌そうな顔をする。昨日たまたま現れたにも関わらず、沖田に深い傷口を作った人物である千鶴だ。「大丈夫でしたかぁ? ロビーのソファでずっとうなされてましたけど?」「・・・・・・じゃあ土方さん、また・・・・・・」話しかけられても千鶴の方へ絶対に振り向かず、沖田は逃げるように早歩きでどっか行ってしまった。彼にとって千鶴は唯一の苦手な女性、絶対に関わりたくない相手なのだ。「おかしいわね、私何かしちゃったかしら? 待って下さ~い」「今度から総悟に襲われそうになったらあいつの所に行け、すぐに追っ払ってくれる」「はい・・・・・」自分がやった事に気付いていない様子で逃げる沖田を追いかけて行く千鶴を、親指で指差しながら土方はのどかに向かってアドバイスする。沖田の天敵、千鶴。この二人の関係性をキッチリと覚えなければのどかと土方がそんな事を考えている頃、さっきまで他の女子達と話していたハルナと夕映が戻って来た。「やあやあ、二人共ラブラブの様子で・・・・・・おぐッ!」「殴るぞ」「言う前に殴るっていうお決まりのパターンをやらないでよ・・・・・・」ヘラヘラ笑いながら声をかけて来たハルナの頭にゲンコツを一発。ちなみに土方は朝からずっとハルナが他の生徒に自分とのどかの関係性をバラすので何度も殴っている。「イタタタ・・・・・・コブ何個出来たんだろう」「照れ隠しが殴るとはいやはや暴力的です」「その発言はゲンコツより刀の方を所望してるのか、ああ?」頭をおさえて痛がっているハルナを見ながら夕映はポツリ。その言葉に土方は反応してひと睨み。だが沖田同様、彼女には彼の脅し文句は通用しない「全くすぐに斬りたがりますねあなたは、本当にのどかはこんな人でいいんですか?」「ほ、本当は優しい人なんだよ、それに頼りになるしカッコいいし・・・・・・」不意に夕映に話しかけれたのでのどかは彼をぎこちなく援護する。彼女なりに土方の事を本当に好きなのだと夕映は「ふ~ん」とよく分からない反応で納得する。「・・・・・・私はこんな暴力的なニコチンヤンキーより、もっと温厚で器のデカイあの人の方が一兆倍マシだと思うんですけどね・・・・・・」「何か言った夕映?」「人の趣味もそれぞれって言ったんです」「・・・・・どういう意味?」夕映の意味深な発言に首を傾げるのどか。時々彼女が何を考えているのか親友の自分でもわからない時があるのだ。一方そんな彼女達の姿をまだ刹那は見ていた。何かに思いっきり八つ当たりしながら「ぐぐぐ・・・・・・」ソファの上に座って腹立つ心を静める為に刹那はソファにガブリと思いっきり噛みついている。「何で旅館のソファ噛み千切ろうとしてんのお前?」「はッ!」 後ろから声をかけられたので、刹那は我に返って後ろの振り向く。そこにいたのはいつもと変わらない着物を着て、腰に木刀、背中には自分の愛刀の夕凪を差している銀時がいた。「なんだ白夜叉か」「なんだ白夜叉かじゃねえよ・・・・・・」呆れたように言葉を返しながら銀時は彼女の隣に座り、さっき刹那が見ていた方向に目をやる。「あ~なるほどねぇあれが原因か、俺も最初ガキ共から聞いた時ビックリしたよ。絶対茶化してやろう」「まさかのどかさんが土方さんとそんな関係になるなんて・・・・・・こんな大変な時期によくもまあぬけぬけとあの娘は・・・・・」しかめっ面でのどかを眺めながら声をひそめて文句を言う刹那に、隣にいる銀時は面白い物を見るかのようにニヤッと笑う「お~嫉妬心燃やしちゃって~、お兄ちゃんを知らない娘に奪われたヤンデレ妹気分ですかコノヤロー」「べ、別に嫉妬なんてしてない・・・・・・!」ムッとした顔で刹那は否定するが、銀時は「へいへい」と言って、これっぽっちも信じてないような態度で手を振る。「俺の時みたいに今度はあのガキを闇討ちするとか考えるなよ」「やるわけないだろ・・・・・・ところで白夜叉」「あん?」「お前の隣に雪広さんが座ってるぞ」「え? アァァァァ!」「お、おはようございます・・・・・・」刹那が自分の後ろを指差したので銀時がすぐに振りかえると、いつの間にかあやかが緊張したようにちょこんと座っていた。顔を少し赤らめながら銀時に挨拶、だが突然現れたので銀時はソファの上で驚いて飛び上がる。「おまッ! なんの気配も出さずにいきなり隣に出てくんじゃねえよッ! ソリッド・スネークかッ!」「すみません・・・・・・あれ? 銀さん、千雨さんは?」「あいつならトイレだよったく・・・・・・」千雨の事を聞かれ銀時は自分の肩を揉みながら答える。すると、タイミングよくトイレから帰って来た千雨が銀時達の所へやって来た。銀時の隣に座ってるあやかを見た途端しかめっ面になる。「いいんちょ、お前昨日私を銀八の所に放置して部屋戻っちまっただろ?」「・・・・・・すみません、ちょっとあの場から逃げ出したい事があったのでつい・・・・・・」申し訳なさそうに謝るあやかにため息をついた後、彼女の隣に座ってポツリと「銀八とキスしたからか?」「ど、ど、どうしてそれをッ!!」「コイツから教えてもらった」「銀さんッ!!」千雨がすぐさま銀時に向かって指を差すと、あやかは怒ったように彼に向かって立ち上がる。彼女の反応に銀時は後頭部を掻きながらごまかすように「い、いやぁ実は口がキム・ヨナの如く華麗に滑っちまってさ・・・・・・ハハ」「どうしてそう大切な事をよりにもよって千雨さんに・・・・・・!」「私は別に気にしてねえよ」「え?」銀時に向かって歩み寄るあやかに千雨は仏頂面で呟く。思わず彼女を見てあやかは目を丸くする。「私、千雨さんの好きな人とキスしたんですよ?」「元々銀八の事好きだって言ってたのはいいんちょだろ、だったら私の事なんか気にせずにさ、頑張ってくれよ、いいんちょだったら私、全然文句ないからさ」「千雨さん・・・・・・」好きになった人が同じなのに千雨は意外にもあっさりとしていた。彼女に応援されて少々複雑な気持ちがあるものも千雨に向かってあやかは強く頷く。「わかりました、今日中に銀さんの・・・・・・子供作りますッ!」「「何でだよッ!!!」」いきなりのぶっちゃけ発言に千雨と銀時が同時に立ちあがってすかさずツッコミを入れる。そんな三人の姿を遠くから見るように眺めながら刹那は「3人共仲良いんだな・・・・・・それに比べて私は土方さんに名前さえ呼ばれない・・・・・・」基本土方は彼女の事を「お前」と「コイツ」と「ガキ」としか呼ばない。刹那が今最も気にしている事である。それらの事を思い出して刹那はガックリとうなだれるのであった。数十分後、銀時はある事について相談する為にとある大きな一室にて、何人かの生徒と教師、関係者を集めた。(本来なら山崎も来る筈だったのだが、同居人の双子と楓に拉致されて何処かへ行ってしまった)関西呪術協会の連中、春雨、そして高杉がいる筈の京都。今後ここで何をするべきなのかをみんなで対策と行動するのかを決める為だ。「は~い、では今日一日の方針を決める重要な会議を始めま~す」「いよッ! 待ってやしたッ!」「黙れ食材」「しょ、食材ッ!?」銀時がここに呼んだ一人のネギ、彼の頭に乗っかっているカモに向かって銀時は睨みつける。別にカモはただ盛り上げようとしただけなのだが。そんな小動物をほっといて銀時は淡々と話を続ける「え~会議を始めるその前に、皆さんにご紹介させなきゃいけない人を紹介します」「異世界で真撰組の副長やってる沖田で~す」「誰が副長だ誰が・・・・・・」土方は小さな声でツッコむ中、銀時の隣に座っていた沖田が一同に軽く頭を下げる。千雨やあやかは彼とはここで初対面、だが昨日の夜にテレビで彼の奇行を観ていたアスナは不機嫌そうにフンと鼻を鳴らす。「本屋ちゃんをつけ狙う変態でしょ」「土方さん言われてますぜ」「お前だッ!」タバコを口にくわえながら沖田に向かって叫ぶ土方。二人のいつもの掛け合いは終わり、銀時は話を続ける。「んじゃ、まずは今の状況を言う、わけのわかんねえ事企んでる敵がわんさかいる、いつ襲われるかわかんねえ、以上、さあお前らどうする?」「状況説明短・・・・・・」短絡的に説明した銀時に千雨が呟いていると、沖田は腕を組みながら銀時に話しかける。「土方さんに聞きやしたが、攘夷志士の桂や高杉、春雨の野郎共が潜伏してるんでしたよね確か、しかもなんかえげつない力を持ったここの娘っ子を狙ってるとか」「はい、それに関西呪術協会の人達も木乃香さんを狙ってるんです」「木乃香?」ネギが言った言葉に沖田は目を細める。ここにきて数日しか経っていない彼は彼女の事を知らない。すると本人である木乃香が勢い良く手を上げた。「あ、ウチです」「ふ~ん、テメェが高杉が狙ってるガキか・・・・・・」沖田は彼女の顔をジロジロと見ながら感想を一言。「のどかちゃん程じゃねえがイジメたくなる面構えだ」「ええッ!?」「アンタ木乃香には手を出すんじゃないわよッ!」「例え土方さんの仲間であってもお嬢様を傷付けさせる真似は許しませんッ!」ぶっちゃける沖田に反応して木乃香の両サイドにいたアスナと刹那が、彼に対してすぐに身を乗り出す。すると沖田は無表情で銀時に「旦那ぁ、あの頭の悪そうなガキ共どうにかしてくれやせんかねぇ?」「きび団子でもやれば家来になるんじゃねえの? 猿と鳥だし」「いつも思うんだけど本当銀八の世界の奴等ってロクな連中いないよな・・・・・・」「ええ・・・・・・」銀時に相談を持ちかける沖田を見て千雨とあやかがそんな事を会話していると、意外な人物が銀時に向かって手先を震わせながら手を上げた。土方の隣に座っているのどかだ。「あ、あ、あの・・・・・・銀八先生・・・・・・」「なんだよ」「すみません・・・・・・あの私、土方さんと行きたい所があるんですけど・・・・・・ダメですか?」「あ? 別にいいけどそん時は木乃香とこのガキも連れてけ、連中の狙いは木乃香だからな、せっちゃんだけじゃ護衛としては物足りねえしここはマヨネーズ侍が必要だ」「は、はい、わかりました・・・・・・」恐る恐る意見を述べるのどかに、銀時はとりあえず条件付きで了承する。だがそれに対してのどかは少し残念そうな顔をする。隣に座る土方は彼女の気持ちを察して口を開いた。「このゴタゴタが済んだらいつでもオメェと二人だけで何処へでも行ってやる」「十四郎さん・・・・・・」「旦那、俺も今日は土方さん達について行っていいですかぃ?」「え?」「許す」「えぇぇぇぇぇ!?」自分も土方達の所に行くと名乗り出た沖田に銀時はすぐに許可する。のどかにとって最も恐い男と一緒にいなければならない。その事に思わず彼女は叫び声を上げた。「戦力はあった方がいいからな」「まあ仕方ねえな、総悟がいれば連中とも上手く戦える、こうなったらハルナとデコ助も呼んで来い、もしテメェがあいつに襲われそうになったらあの二人を囮にしろ、いいな」「そんなぁ・・・・・・」「へ、ガキ共と一緒にこの世界を観光出来るなんてな、仲良くしようぜのどかちゃん・・・・・・」「け、結構です~・・・・・・」口に笑みを浮かべてこっちを見る沖田にのどかが首を小さく横に振る。一体何を考えてるのやら、想像するだけで恐ろしい。のどかが恐怖に怯えていると、今度はネギが銀時に話しかけた。「銀さん、僕も今日絶対に行かなきゃ行けない場所があるんですけど?」「絶対? 何処にだよ?」「関西呪術協会の本部です、とりあえずこの親書を渡しに行かないとマズイかなと思いまして・・・・・・」「あ~そういえばジジィから頼まれてたんだよなそんな事、めんどくせえな・・・・・・」懐からネギが取り出したのは一枚の手紙。学園長が関西呪術協会の長に渡すようネギに命じた親書だ。木乃香の事で夢中になっていたのですっかり銀時はそっちの事を忘れていた。「こっちの親書より敵は木乃香さんを狙いに行く可能性が高い今、さっさと渡しに行った方がいいですよね、上手く行けば協会の人の助けも貰えるかもしれませんし」「まあ、そうかもしれねえけど、危ねえじゃねえか?」心配そうに尋ねてくる銀時に、ネギは笑って返す。「僕一人でなんとかなりますから心配しないで下さい、僕一人のせいで戦力をさく事は出来ません」「ちょっとちょっと、アンタまさか一人でそこ行く気?」一人で行くと主張するネギに隣に座っているアスナがしかめっ面で会話に入ってくる。するとネギの頭にいるカモが胸を張って「俺っちがいますッ!」「・・・・・・アンタ一人じゃ不安よ、私もついていくから」「シカトッ!?」カモを華麗にスルーしてアスナはネギに身を乗り出す。だがネギはそんな彼女に不安そうな表情で「でもアスナさんは普通の生徒さんじゃないですか、万が一にも敵が出てきた時は下手したら大怪我するかもしれませんよ・・・・・・」「アンタと違って魔法は使えないし、マヨや刹那さん見たいに剣で戦ったりする事は出来ないわ、けど頑丈さは誰よりも凄いと思ってるから私、足手まといにはならないわよ」「けど・・・・・・」「お子ちゃまのアンタが一人で京都ぶらつく事自体無理でしょ、はい決定」「・・・・・・アスナさんって時々銀さんみたいな強引さがありますよね」「うっさいわね」自分のペースで話を進めて自分の都合に合わせる。アスナと銀時の意外な共通点にネギが気付いていると、その銀時がまた話を進めている。「んじゃ、バカレッドはネギと一緒に行くとして、木乃香はお前等に任せる、いいな?」「依存はねえ、総悟とコイツがいれば問題ねえしな。連中は前の時の様に最低でも三人がかりで来る可能性がある、だったらこっちは三人いればまともに戦える筈だ」「ま、本屋ちゃんとデートしながら木乃香の護衛も頼むわ」「黙れ三股白髪頭・・・・・・! ん、ていうかちょっと待て、そういえばお前は何すんだ、お前が何をするかこっちは聞いてねえぞ?」まだ銀時が何をするのかを聞いていない。それに気付いた土方が彼に口を開く。すると銀時は自分の膝に頬杖を突きながら初めて気づいたように「あ」と声を出す。「そういや俺何処行くか決めてなかった、パチンコでも行こうかねぇ?」「銀さんあの・・・・・・もしよろしければ・・・・・・・」「あん?」「その・・・・・・」何て言っていいのか困っている様にあやかが正座しながらモジモジしている事に、銀時はしかめっ面を見せる。「んだよ言いたい事があんなら言えよ」「えと、嫌なら別にいいんですけど・・・・・・・」軽く頭を下げながら上目づかいであやかは銀時に向かってゆっくりと口を開いた。「私と・・・・・・デートしてもらえませんか?」「デ・・・・・・! デートォォォォォ!?」「はい・・・・・・」いきなりのあやかのデートのお誘いに銀時は死んでいた目が思いっきり開く。彼女も言った事を恥ずかしそうにしてうつむく。「ダメだったらいいんですわ・・・・・」「い、いやまあ・・・・・・何も予定入ってないし・・・・・・ヒマだから付き合ってやるよ・・・・・・」「えッ!?」頭を掻き毟りながら目を逸らす態度でデートの約束を了承する銀時。さっきまで自信なさげだったあやかの表情が一変してパッと輝きを見せる。「わ、私とデートしてくれるんですかッ!?」「ああそうだよ・・・・・・いいよな千雨」「いいんちょなら文句はねえって言ったろ、行ってこいよ、私は邪魔しないから」不安そうに尋ねて来た銀時に千雨はため息交じりにつぶやくと、立ち上がって部屋を出ようとする。「いいんちょと喧嘩しないで仲良くやれよ、銀八」最後に銀時に振り返って言葉を残し、千雨はドアを開けて部屋を出て行った。残されたメンバーは一斉に銀時に視線を向ける。特に土方とアスナは心底呆れたという表情をしながら銀時を見ている。「なんだよ・・・・・・」「「・・・・・・いや別に」」「んだよッ! 言いたい事あんなら言えよッ!」口を揃えて同時に目を背ける土方とアスナに銀時は立ち上がりながら叫ぶ。すると沖田は面白いモンを見つけたように目をキランと光らせた後、銀時に顔を近づけ「旦那、今のメガネのガキとそこの金髪のガキとはどういう関係ですかぃ?」「・・・・・・ノーコメントだ」「総悟、それは俺が話してやる、コイツはなぁ三人の小娘を同時に手込めにし・・・・・・」「オイィィィィ!! 何勝手な事説明してんだコラァッ! ていうかテメェもガキ一人手込めにしてんじゃねえかッ!」「オメェと一緒にんすんじゃねえッ!」沖田に向かって土方が冷静に話を始めようとすると銀時がすかさず怒鳴る。まあある意味事実なのだが。銀時と土方が一触即発ムードになっている。そんな彼をあやかが心配そうに見つめていると背後にやって来たアスナが声をかけて来た。「アンタも変な奴の事好きになったわよねぇ、趣味悪いんじゃない?」「フン、べ、別にあなたには関係のない事ですわ」「なあに、アンタがキスする程好きな奴なんだから、私は別に止めろとは言わないわよ」「何言ってんですか、例えあなたに止めろと言われても私はずっと銀さんの事を・・・・・・ってッ! 何で私が銀さんとキスしたの知ってるんですかッ!?」サラリと言った言葉に思わず聞き流す所だったがアスナの口から衝撃的な秘密が出て来た事にあやかは慌てて後ろに振り返る。アスナは首を傾げながらジト目で「ん? 生徒のみんなは全員知ってるわよ、そういえばいいんちょ、爆睡してて朝食の時間来なかったんだっけ? 朝食の時に朝倉の奴がみんなに言いふらしてたわよ、「昨日のゲームで銀さんとキス出来たのはいいいんちょ、だけど千雨ちゃんはなんと銀さんに告白しました~」とかなんとか、その後長谷川さんと天パにボコボコにされてたけど」「な、な、なんですってェェェェェ!!」数少ない三人の秘密を知っている和美があろうことか生徒のみんなに報告していたというのだ。確かにゲームの一環であったし、主催者の和美はそれを生徒に報告する義務はあるのだが・・・・・・「通りでなんかやけに皆さんニヤニヤしながらこっちに視線送ってくるなとは思ってましたが・・・・・・まさか千鶴さんにも?」「聞いた瞬間、すっごい喜んでたわね」「ハァ~・・・・・・」アスナの話を聞いてあやかは肩を落としてため息を吐く。なんというか一番知られて欲しくない人に知られてしまったような気がする。そうあやかが考えながらうなだれていると、アスナが急に彼女のおでこに向かってデコピン「イタッ!」「とりあえず言っとくわ、優勝おめでとう」「あなたに言われても馬鹿にされてるとしか思えませんわね・・・・・・」「別に馬鹿にはしてないわよ」「・・・・・・」「ま、あの長谷川さんだって告白できたんだし、いいんちょも出来るわよきっと」赤くなったおでこをおさえながらあやかは眉をひそめる。昔から仲の悪いアスナにそんな事言われて自信が湧いてきた、そんな自分自身に少し腹が立ったのだ。「・・・・・・まさかアナタみたいな野蛮人に元気づけられるとは不覚ですわね」「誰が野蛮人よ」目の前で遂に銀時が土方と殴り合いを始めてしまっているのを眺めながらアスナはあやかに即座に返す。幼馴染には幼馴染なりの勇気付けがあるのだ。「ところでアンタさ、天パとデートするのはわかるけど何処へ行くの? そこまであいつに任せてたらデート場所がパチンコにされるかもしれないわよ」「ご安心を、すでに行く所は決まってますわ、江戸に住んでいた銀さんならきっと気にいる所です」「そんな所あったけ?」アスナが首を傾げるとあやかは口に小さな笑みを作って答えた。「シネマ村ですわ」部屋であやかとアスナが会話している頃、部屋から出て行った千雨は一人で廊下を歩いていた。「いいんちょの奴デートの約束なんかして・・・・・・告白する前にまた気絶するんじゃねえか?」独り言を呟きながら千雨があやかの事を少し心配する。真っ昼間から生徒達が京都中を歩き回っているのにもし見られでもしたらそのまま銀時の前で倒れるかもしれない。「隠れて見に行こうかな・・・・・・いやさすがにそれはマズイか?」「およ? 銀さんはどうしたの千雨ちゃん?」「うわ、お前かよ・・・・・・」廊下の曲がり角でバッタリ出くわした和美に千雨は嫌そうな顔をする。「お前に用はねえって、さっさと他のクラスメイトと一緒にどっか行け」「あらら・・・・・・まだ怒ってるの? でも良いじゃんどうせバレるモンだったんだし」「そういう問題じゃねえよバカ」和美のおかげで自分が銀時に告白した事が生徒達の間に広まってしまった。それにより千雨は和美に対してはすっかり機嫌が悪い。そんな彼女をなだめるように「まあまあ」と和美が千雨の肩に手を乗せる。「そんな事よりさ、銀さんとは一緒じゃなかったの? 恋人同士じゃん」「だ、誰が恋人同士だッ!」 和美に恋人同士と言われた途端、急に顔を真っ赤にした千雨は照れているのを隠す為に大きな声で「銀八はいいんちょと一緒にデートするんだよッ!」「ええッ! やっぱいいんちょの奴キスした途端少し積極的になってきたねぇ・・・・・・どうする千雨ちゃん?」「いやどうもこうもしねえって・・・・・・」「千雨ちゃんも一緒に行けばいいのに、三人でデート、楽勝じゃん」他人事なので随分と簡単な事を言う和美。千雨はそんな彼女に頭を掻き毟りながら呟く「いいんちょはこのデートで銀八に告白するんだろ? そこに私がいたら邪魔じゃねえか」「う~ん別に遠慮しなくてもいいのに・・・・・・」「話は済んだか? じゃあ私は部屋に戻って寝っから」「あ、待ってよ千雨ちゃん」観光地を巡るとかそういうのに興味が無い千雨が部屋へと戻ろうとしたその時、慌てて和美が彼女の肩を強く引っ張る。「暇なら私と一緒にどっか行かない?」「はぁ? なんでお前と・・・・・・」「とりあえず千雨ちゃんが銀さんに告白出来た記念に、私が面白い所に連れてってあげる」「なんか嫌な予感が・・・・・・面白い所って何処だよ」千雨が疑っている目つきで和美を見ていると、彼女は口元に笑みを広げて行く場所を発表した。「シネマ村」