土方達がドタバタと騒いでいた頃、銀時に会いに行く為に千雨とあやかは、新田先生や教師達に見つからないようにひっそりと廊下を歩いていた。「銀さんの部屋って何処なんでしょうか・・・・・・」「今更かよ・・・・・・」あやかの突然の疑問に千雨は呆れる。会いに行くのならば彼の部屋ぐらい熟知しておくのが常識である。「ここでしょうか?」「おいッ! 一般の客もいるのにノックもせずにドア開けちゃ・・・・・」あやかが非常識にも適当にある部屋の一室をノックもせず開けると「俺って実は甘い物とか嫌いなんだよな、そもそもホワイトデーになったら三倍返しにして返すんだろ? か~めんどくせぇ、女からチョコ貰わなくて良かったぜ」「なるほど、バレンタインデーチョコを貰えない哀れな男がする定期的な言い訳だな、ところでクロウ、何泣いてるんだ?」「泣いてねぇぇぇぇぇ!!」銀時ではない男が二人で揉めていたので、あやかはすぐにバタンとしめる。「間違えましたわ」「当たり前だろ、銀八の部屋だという保障もねえのに勝手に開けるな・・・・・・」「隣の部屋はどうでしょうか?」「っておいッ!」有無も言わずに今度は隣の部屋を開けようとするあやか。千雨の話も聞いちゃいない。あやかがすぐにドアを開けてみると「何か用かしら?」「きゃあッ!」「し、しずな先生・・・・・・」ドアを開けた瞬間、麻帆良の教師であるしずな先生が浴衣姿で優雅に微笑んで目の前に立っていた。いきなりの教師出現に、あやかは思わず短い悲鳴を上げる。「な、なんで私達がドアを開ける前にそこに立ってたんですか・・・・・・?」「え? ドアの前に人の気配を感じたからに決まってるでしょ?」「どこの殺し屋だ・・・・・・」しずな先生の底知れぬ能力に千雨がボソリと呟いていると、しずな先生はふとあやかと千雨に向かって首を傾げる「ところであなた達、何か私に用でもあるの?」「え?」「こんな時間に来るんだから余程大事な事?」思わぬしずな先生の質問にあやかは呆気に取られてしまう。「あ、あの・・・・・・私達の事を捕まえないんですか? こんな夜遅くまで旅館を徘徊しているのに・・・・・・」「あら捕まりたいの?」「い、いえッ!」笑いながら尋ねて来たしずな先生に、あやかは慌てて首を横に振る。彼女は自分達の学校の教師だ、本来ならこんな夜遅くまで部屋を出ているあやか達を、新田先生の様に厳しく取り締まる筈なのだが「子供達が夜中大人の目を掻い潜って旅館を探検。私、そういうスリリングなの好きよ」「しずな先生って教師だよな・・・・・・」「この人の考えは私達のレベルじゃ到底理解出来ないと思いますわ・・・・・・」捕まえる気がサラサラないと言うしずな先生に、千雨とあやかが小声で会話していると。あやかはふと何かに気付いたのか、しずな先生の方へ顔を戻す。「しずな先生、そういえば銀さんの部屋ってわかりますか? 教師のしずな先生ならわかると思うんですけど・・・・・」「ああ、坂田先生の部屋が知りたいのね、それならここからまっすぐ右に行って一番奥の部屋よ」「あ、ありがとうございますッ!」(やけにすぐ教えてくれたな・・・・・・どうせしずな先生の事だから変な事で追及してくると思ったのに・・・・・・)意外にあっさりと銀時の部屋の場所を教えてくれたしずな先生にあやかは頭を下げる。後ろにいる千雨も軽く彼女に会釈した。「ウフフ、お礼はいいから早く坂田先生に会いに行ったら?」「え?」ふとしずな先生は二人の方に顔を近づけてくる。そしてクスりと笑い「あなた達、恋してる顔になってる」「は、はいッ!?」「!!」「フフ、頑張ってね」謎の言葉を残して、しずな先生はこちらに手を振りながらドアをパタンと閉めて行った。残された二人は、ゆっくりとお互いの顔を合わせる。「私の顔・・・・・恋してる顔なんですか・・・・・・?」「いや私が知るかよ・・・・・・」自分の顔を触りながら紅潮しているあやかに千雨は素っ気ない態度で返す。しずな先生の言った言葉がやけに引っ掛かるのだ。『“あなた達”、恋してる顔になってる』「・・・・・・」「千雨さん行きましょう」「あ、そうだな・・・・・・」あやかに言われて千雨は我に返り、彼女と一緒に廊下を歩きだす。ラブラブキッス大作戦の終わりが刻々と迫って来た。第四十八訓 三つの愛 一つの運命「あそこが銀さんの部屋ですわね」「ここまで来るのに時間かかったな・・・・・・」「ええ」あやかがふと指差した方向にある一室が銀時が止まっている部屋。二人は遂に銀時の部屋の前へと着いたのだった。「殿方の部屋に入るのってなんかドキドキしますわね・・・・・・」「銀八・・・・・・」「今度はちゃんとノックしますわよ」「ま、待てよッ! 心の準備ってのがまだッ! あッ!」落ち着こうと胸をおさえている千雨をよそに、銀時の部屋のドアをノックしてしまうあやかに彼女は思わず声を上げる。だがドアをノックしても彼の返事が返って来ない。「こんな夜中にすみません、私と千雨さんです、起きてますか銀さん?」今度はドアの前で叫んでみるがやはり返ってこない。「銀さん」またノック、だが返ってこない「坂田銀時さん」もう一度ノック、やはり返ってこない「杉田さ~ん、平野さんが呼んでますよ~」「中の人で呼ぶな中の人で」4度ほどノックを繰り返したがやはりダメだった。恐らく銀時は部屋にいない、もしくは「もう寝ちゃったのでしょうか・・・・・・」「さすがにこんな時間だしな・・・・・・」「あ、ドアに鍵かけてませんわね」「ってお前・・・・・・!」ふとドアには鍵がかかってない事に気付いたあやかは、慌てる千雨を置いて銀時の部屋のドアを開けてしまう。部屋の電気が点けっぱなしだが、人の気配は無い。「どうやら何処かへ出かけてるらしいですわね、では失礼します」「バカッ! 勝手に部屋に入ったらマズイだろッ!」玄関に入ってそそくさとスリッパを脱いで部屋に上がっていくあやかに、慌てて千雨が止めようとする。だが彼女は千雨に振り返って平然と「別に銀さんの部屋なんですから大丈夫ですわよ、千雨さんは部屋に入らないんですか? 一人で班の所に帰ってもいいですけど?」「ひ、一人で帰れるわけねえだろ新田がいるのに・・・・・・! 私も入る・・・・・・」観念したのか千雨もスリッパを脱いで部屋の中へと入る。銀時はネギと一緒に止まっているので部屋の中は二人分の個室。畳の上には銀時が寝る為に用意した布団が一枚置かれている。「銀さんのお布団・・・・・・」「何考えてんだお前・・・・・・・ところで銀八がいないこの部屋で何するんだよ、待ち伏せでもする気か?」銀時の布団を凝視しているあやかに、千雨は傍にあった座布団の上に座りながら問いかけた。するとあやかは悩んだような表情をした後、すぐに手を叩いて「まず押し入れに入りましょう」「は?」「千雨さん早く入って」「い、いや、頭どうかしたのかお前?」部屋にある一つの押し入れにあやかが無理矢理下の段に千雨を入れる。混乱している彼女をよそに、あやかも押し入れの中へと入って急いで襖を閉める。「アスナさんと違って私の頭は優秀ですわ、プランBでいきましょう」「プランBどころかプランAも知らねえんだけど私・・・・・・とりあえず作戦名は?」「何言ってんですか千雨さん、ここは「押し入れで銀さんが帰ってくるまで待機して、もしあの人が帰って来て布団に入ったら、こっそり押し入れから出て眠りにつこうとしている銀さんを二人がかりで夜這いする作戦」に決まってます」「作戦内容全部入ってるだろそれッ! しかもあらゆる視点で危険過ぎるじゃねえかプランBッ! 出来るわけねえだろそんなスネークイーター作戦ッ!」説明してくれたあやかに、千雨は暗闇の押し入れの中ですかさずツッコむ。だがあやかは少し頬を赤く染めながら「私だって大胆になる時はなるんです・・・・・・! 今日こそは本気で銀さんとの関係を進歩させようと・・・・・・!」「進ませ過ぎだッ! 間違いなくオーバーランだし天元突破するッ!!」興奮したように千雨に説明するも、千雨はやめるようにとあやかに叫ぶ。どうやらマジで今夜決めようとしているらしいが、展開が早すぎる。だが心拍数を上がっているあやかは聞いちゃいない。「ところでどちらが先に銀さんとチョメりましょう・・・・・・あ、じゃあどちらが先にするかを決める為にジャンケンでもしますか・・・・・・!? 恨みっこなしですわよ・・・・・・!」「チョメってなんだよッ! やらねえよバカッ! とりあえず落ち着けっていいんちょッ!」今のあやかの姿には千雨は呆気にとられるが、なんとか落ち着かせようと千雨は彼女の両肩を掴む。「・・・・・・いいんちょちょっと頭冷やせ、銀八と会う前に興奮しすぎて頭パーンになってる」「わ、わかりました・・・・・・!」「ただでさえ狭いのにお前の熱気のせいで暑い・・・・・・もう押し入れから出ようぜ意味ねえし」未だ興奮が冷めないあやかが息を荒げているおかげで押し入れの中が暑い。耐えきれずに千雨は顔を赤くさせているあやかの手を取って、襖を開けて押し入れから出ようとするが・・・・・「あ~何処にもいやしねえじゃねえかコノヤロー」ドアが開く音と男の声がした時、千雨は押し入れの中でビクッと反応して外に出ようとするのを止める。ここで出たらなんで人の部屋に勝手にいるのか、そして押し入れの中に何故入ってたのか深く追及されそうだからだ。坂田銀時が部屋に戻って来たのだ「やば・・・・・・! 銀八の奴が来ちまった・・・・・・!」「そ、そんな・・・・・・! 千雨さん私・・・・・・頭がパーンしそうですわ・・・・・・!」「わかったから静かにしろ・・・・・・! それと息を荒げるなよ・・・・・・!」銀時が帰って来た事に心拍数が更に上昇し始めたあやかを静かにさせながら、千雨はそっと押し入れの隙間から部屋に入って来た銀時を見た。さっき千雨が座っていた所にあぐらを掻きながら、いつもの銀髪天然パーマで死んだ目をしている男、坂田銀時が欠伸を掻いていた。「ファ~・・・・・・眠ぃしもう寝るか? いやでもまだ来るかもしれねえしな・・・・・・」(何を待ってんだあいつ・・・・・・?)「ハァ・・・・・ハァ・・・・・・!」「静かにしろバカ・・・・・・」布団に入ろうかどうか迷っている銀時を押し入れの中で観察しながら、一緒に隙間から覗いて息を荒げているあやかの口をおさえて黙らせる。(ったく・・・・・・どんだけいいんちょの奴ムラムラしてるんだか・・・・・・)「それにしても今日はマジで疲れたな~・・・・・・けど」(?)だるそうにしながら銀時が独り言を言った最後に付け足した言葉に、千雨が首を傾げると彼はゆっくりこちらの方に振り返って「まだネズミ駆除が残ってんだよな・・・・・・」「!」こちらに刺す様な視線をぶつけてくる銀時。千雨が驚いてる隙に、彼は置いてあった木刀をすぐに持って「こんの賊がァァァァ!!」「「ひぃッ!」」千雨が気が付いた時には、目の前には彼が押し入れの襖に向かって突き出した木刀が。木刀が刺さった場所はちょうどあやかがいる所だったので、彼女はその場で予想外の事にビビったのか震えている。「まさか“探し物”が自分の部屋にあったとはな」「あ、あ・・・・・・・」「ぎ、銀八・・・・・・・」「ったく」しかめっ面で銀時は襖に刺さった木刀を抜いて、押し入れに近づき開ける。「ぎ、銀さん・・・・・・」「い、いきなり木刀突き刺してくんなよバカ・・・・・・!」「こんばんはお嬢さん方、今夜は随分と暴れしていた様ですね」銀時にとって生徒の中でも特別な存在である雪広あやかと長谷川千雨が、腰を抜かした状態で押し入れの中に入っていた。銀時は自室に無断侵入してきた千雨とあやかを捕まえて、畳の上で正座させ、自分は布団の上であぐらを掻いている。その顔はいささか不機嫌なのが見える「どうして先生がこんなに怒ってると思いますか? それは馬鹿な生徒のおかげでせっかくの計画がおじゃんになった事です、あなた達にはこの責任を取ってもらう義務があります、OK?」「なあ銀八・・・・・・」「んだよメガネ」話してる時に突然口を開いてきた千雨に銀時はだるそうな表情で彼女を見る「なんで私達がこの部屋にいるってわかったんだ・・・・・・?」「は? 玄関にご丁寧に二人分のスリッパがあったからに決まってんだろボケ」「あ~そういえばそうだな・・・・・・」「不覚でしたわ・・・・・・」銀時に言われて初めて知った失念に、千雨とあやかは呟きながらうなだれる。今は銀時しかいない筈のこの部屋で、彼がいない時に二人分のスリッパが玄関にあったら中に誰かいるってのは明白だ。「とりあえずこれから色々と言いたい事があるんだけどよ、まずはこれを言っとくわ」そう言って銀時は首を伸ばしてさっきから黙っている千雨とあやかに向かって睨みつける。「どこの港に沈められてえんだ・・・・・・?」「すみません銀さん、私・・・・・・」「ていうかあやかさんあなた学級委員長ですよね? こんな時間に生徒さんと一緒に何やってるんですか? 委員長としての責務はなんですか? こんな時間にウロつく生徒を止めることですよね? そうですよね?」「すみません・・・・・・」「すみませんで済んだら織田祐二も柳葉敏郎必要ねえんだよコノヤロー、俺の有意義な時間を潰しやがって・・・・・・」わざとらしい敬語を使った後恐る恐る謝って来たあやかに、銀時は即座に切り捨てる。どうやらしずな先生と夜を過ごせなかった事でかなり腹が立ってるらしい。「それとメガネ、お前がこういうテンション上がって生徒達が夜な夜な旅館を走り回ってバカ騒ぎするイベントなんぞに参加するとは銀さん思わなかったよ、いつからそういう柄でもない事やるキャラになったんだ“ちうちう”?」「・・・・・・」「おい千雨、シカトぶっこいてんじゃねえよ」「銀さん、まだ千雨さんと喧嘩してるの忘れたんですか?」「あ・・・・・・」「・・・・・・」ジト目であやかに睨まれたことで銀時はふと千雨とは少し前に喧嘩していた事を思い出した。彼女も銀時より先に思い出していたのか、ブスっとした表情でそっぽを向く。そんな態度の千雨に銀時は髪をポリポリと掻き毟りながらブツブツと「ったく意味わかんね、なんで喧嘩中の相手の部屋に来るわけ? しかもアポなしで無断侵入? 本当何がしたいの?」「銀さん・・・・・・」「あらあら、また不機嫌モードですかあやかさん、でも今回は絶対テメェ等の方が悪いんだからな、生徒はもうとっくに寝る時間なのに勝手に教師の部屋に上がり込んで来るのはぶっちぎりアウトだからな」「銀さんが教師らしい事言っても全然説得力ありませんわ」「チッ、うるせえよガキ・・・・・・」ネチネチと言い合う銀時とあやか。最後に銀時が舌打ちしてあやかに悪態を突いた後、長い沈黙が生まれる。千雨も何も言わずにただ銀時から顔を背けるだけで動こうとしない。一方銀時もそんな彼女に話しかけようともしない。あやかはあやかで本来は二人の中を戻す為に仲介役に来たにも関わらず、千雨にそっけない銀時の態度に思わず怒ってしまってから、彼に目も合わせようとしない。部屋の中、3人で顔や目も合わせず、しばし長い沈黙が流れた。無音の時間が10分は経った頃「・・・・・・」「・・・・・・」「・・・・・・」「・・・・・・ハァ~」気まずい雰囲気が流れる中で最初に沈黙を破ったのは銀時のため息だった。この空気の居心地の悪さを感じ、ウンザリした表情で目の前にいる二人に顔を向ける。「もういいわかった、あやか、どうすりゃあコイツと仲直り出来るんだ?」「自分の言いたい事を伝えて、相手の言いたい事も受け止める、常識ですわそんな事」 「知るかよんな事・・・・・・」「今度は私と喧嘩するつもりですか?」「はいはいわ~ったよッ!」あやかがの目がどんどん鋭くなって来たので銀時は不満そうに頷く。それからしばらくして、銀時は思い切って千雨に話しかけてみる。「ったくめんどくせえな・・・・・・おい千雨」「・・・・・・」「そりゃあ銀さんだって戦いたくねえよめんどくせえし、けどな、色々と込み入った事情があんだよ」「・・・・・・知るか」「ハァ~・・・・・・どうしたもんかねぇ~」何を言っても通用しなさそうな千雨の素っ気ない態度に銀時はまたため息をつく。あやかに心配そうに見られてる中、銀時はそっと千雨の近くに移動した。「なあ千雨よぉ」「・・・・・・」「・・・・・・俺が悪かったよ」「銀八・・・・・・」銀時の口から素直に謝罪の言葉が出た事に思わず千雨は彼の方へ振り向く。思いもよらぬ事態に千雨と、二人を見守っていたあやかも驚いていた。「お前が俺の事を一番心配してるのはあやかから聞いた、俺が戦って死んじまうのがイヤなんだろ?」「当たり前じゃねえか・・・・・・バカ」銀時に問いかけれた質問に千雨はすぐに答えた。「どんだけ心配してるのかわかってんのか・・・・・?」千雨は苛立つようにギロっと睨みつけるすると銀時は少し口に笑みを浮かべて「そこまで心配してくれるイイ女を残して、俺が死ぬわけねえだろ?」「!!」「心配してくれてあんがとよ」銀時に不意に言われた事に千雨は思わず顔を赤面させる。熱くなった顔を手で触りながら、千雨は銀時の顔を直視できなくなってしまった。心の中で眠っていた“あの感情”が湧きあがってくる。「銀八・・・・・・」「ん?」顔を赤面させてうつむき、口をゆっくりと開く千雨に銀時は反応する。すると彼女は自分の荒くなっていく息をおさえながら、顔を上げる。「何で私がこんなにお前の事心配してるかわかるか・・・・・・?」「誰だって知り合いが死にそうになったら、心配ぐらいするだろ普通」「お前は私にとって知り合いなんて存在じゃねえよ・・・・・・」湧きあがってくる感情を隠しながら、千雨は徐々に銀時の方へ近寄って行く。「私がお前と知り合って結構経つよな・・・・・・」「そうだな」「最初会った時、私はお前が嫌いだった・・・・・・・」いきなり自分のクラスの副担任としてやってきた銀髪天然パーマの男、坂田銀八。死んだ魚の様な目をしたその男は自分の生徒に対して無愛想に、だるそうに、時には生徒より子供になって接する彼の態度に千雨にとって彼の印象は最悪だった。「けどお前と初めて付き合う仲になった時、面白い奴だと思ってた・・・・・・」色々なトラブルがあったきっかけで銀時とよく行動するようになった時、彼の奇抜な生き方に何時の間にか惹かれていく。いつしか彼の背中を追うようになっていた。「お前の万事屋で働くようになったのも、お前と一緒にいる事も、楽しいからいつもいるんだと思ってた、でもそれだけじゃなかった・・・・・・」「千雨・・・・・・?」千雨が喋っていく度に彼女の目が段々赤くなってる事に銀時は気付く。だが彼女は腕を目を拭った後、声を震わせながら話を続けた。「外出用の服なんて全然興味もなかったし買おうともしなかった・・・・・・けどお前といつも一緒にいるうちに、興味が無かった筈のファッション雑誌とか調べて、いつの間にか一人で他の生徒の奴等にバレないよう隠れて流行りモンの服とか買ってた・・・・・・おかげで金欠になった・・・・・・」「・・・・・・」「やった事もないのに、ネットで料理の作り方とかを見て・・・・・・初めて一人で料理を作ってみようと思った・・・・・・部屋がちょっとしたボヤ騒ぎになった・・・・・・」「・・・・・・」「いつも付けてる伊達メガネを取って化粧とかして、思い切ってこれで万事屋に行ってみようかなとか考えたけど・・・・・・こればっかりはさすがに出来なかった・・・・・・」語り続ける度に声が震えたり嗚咽が少しずつ入る。千雨のこんな姿を銀時は今まで見た事無い。傍にいるあやかも真剣な表情で彼女を見ている。「なんでだと思う・・・・・・?」目頭が熱くなっている事を感じながら千雨は顔を上げた。銀時は真面目な顔で彼女のその目を見る。「なんでだろうな私・・・・・・ファッションとか料理とか全然ダメな奴だったのに・・・・・・お前と出会ってから鏡見て私服をチェックしたり、料理本持ってフライパン焦がしたり・・・・・・ヒック・・・・・・バカみたい・・・・・・」「千雨・・・・・・」「け、けど・・・・・・わ、私気が付いたんだよやっと・・・・・・ヒック・・・・・・・」最後に大きな嗚咽をした後、千雨は目を潤わせながら苦笑する。彼女にはどうしても銀時に伝えたい事がある。「銀八ィ・・・・・・」今まで彼と一緒にいても気が付かなかった「私・・・・・・わ、私は・・・・・・」けど彼と少し離れた間、ある感情が自分の中にあると知った。「ぎ、銀八の事が・・・・・・」自分でも気が付かない内に彼の事がずっと・・・・・・「ずっとずっとッ! 好きだったんだよ~ッ!」銀時に想いをぶつけた瞬間、千雨の目からは涙がポロポロと滴になって落ちる。仲間としての好きではない、“女として”銀時を好きになっていたのだ。「少しは立派な女になる為にファッションとか料理とか調べたり練習したりしてッ! いつか銀八に見せようと思ってたッ! 一杯褒めて貰いたかったッ!」「・・・・・・」「だってお前の事が・・・・・・大好きだから・・・・・・! 一秒たりとも忘れた事が無いほどお前の事ばっか考えてたから・・・・・!」「お前・・・・・・」「銀八~・・・・・・! 銀八~・・・・・・!」泣きながら彼女は目の前に座ってる銀時に抱きつく。彼女の涙で濡れた頬が銀時も頬も濡らしていく。「好きだからお前の事こんなに心配してるんだよ~ッ! お前が死んじゃったら私もう生きていけないんだよ~ッ!」「ああ・・・・・・」「私が好きな人は一生お前だけ・・・・・・最初で最後・・・・・・」「ああ・・・・・・」「絶対に離れたくない・・・・・・お前から絶対に離れたくない・・・・・・銀八といつも一緒にいたいよぉ・・・・・・なんでもする・・・・・・なんでもするから私の前からいなくなったらヤダよぉ・・・・・・」「・・・・・・ああ」泣いてる彼女に返事をしながら強く彼女を抱きしめる。これが千雨の全力の告白。彼女の想いを全て受け取った銀時は彼女が泣きやむまでずっと抱きしめていた。「静かになったと思ったら寝やがったよコイツ・・・・・・」「もう真夜中ですし、今日は本当に色々会って疲れてたんでしょ・・・・・・」数十分後、思い切り泣いていた千雨は、銀時に抱かれながら静かな寝息を立てて眠ってしまった。あやかも一安心するかのように彼女の寝顔を眺める。「やっぱり千雨さん好きだったんですね、銀さんの事が」「お前知ってたのか?」「大体感づいてました、銀さんって鈍いですわね」「マジか」あやかの頬笑みに、千雨の頭を撫でながら銀時は目をぱちくりさせる。普段は勘のいい所があるのに恋愛に関しては本当に鈍感、それが坂田銀時。「本当に鈍いんですわね・・・・・・こんなに愛されてるのに」「まさか千雨があんな事言うなんて想像も出来ねえだろ普通、この仏頂面のツッコミ娘から告白だよ?」「ふふ」だるそうに千雨の寝顔を覗きながら話す銀時に、あやかはクスッと笑った後、彼に近づいて行く。「少し聞きたい事があるんですけどいいですか?」「んだよ、言っとくけど今の俺冷静そうに見えるけど、頭はかなりこんがらがってんだぞ、わかってると思うが天然パーマの事じゃねえからな」「私があなたの事をどう思っているか知りたいですか?」「は?」突然の質問に銀時は口をへの字に曲げる。そんな事考えた事が無い。そう思っているうちにあやかはどんどん顔に接近してくる。「鈍感なあなたはずっと気付いてないと思いますけど」「あの、その・・・・・・顔近くね?」もはや鼻が当たるか当たらないかの距離、何故あやかがここまで近づいて来ているのか銀時は理解出来ていない。「私も千雨さんの様にずっとずっと前から・・・・・・」「え?」あやかの両目に自分の顔が映っているのがわかる。それぐらい顔が近づいてる事に銀時が戸惑っていると、急に彼の顔をあやかは両手で触る。「銀さん」「あ、あの・・・・・・あやかさん・・・・・・?」両頬をあやかに触られてこんがらがってる頭が更にこんがらがる銀時。そんな彼に向かってあやかは優しく微笑んだ「とりあえずコレだけ受け取って下さい・・・・・・」「は・・・・・・? んッ!」「ん・・・・・・」あやかは両手で彼の首に手を回し、目をつぶって自分の唇を銀時の唇に強く押し当てた。突然の出来事に銀時は千雨を抱きしめながらパニック状態。だがあやかは顔を真っ赤にしながらも彼と絶対に離れないようとしない。彼女のファーストキスの瞬間だったキスを始めて3分ぐらい経ったのだろうか。あやかはようやく銀時の唇から自分の唇を離した。恥ずかしそうにうつむいた後、上目づかいで銀時に向かって小さな声を出す。「ファーストキスです・・・・・・案外柔らかいんですわね、銀さんの唇って・・・・・・」「ど、ど、ど、どういう事コレ・・・・・・?」「こ、告白はまた日を改めてやりますわ・・・・・・」「こ、こ、こ、告白・・・・・・!? ウ、ウソ・・・・・・え? マジ? お、お、お、おおおお前も・・・・・・!?」衝撃的な事実に銀時は額から大量の汗、全然気づきもしなかった。まさかエヴァや千雨どころか彼女も自分の事を・・・・・・その事に銀時が初めてわかったという風に声も出せず驚いていると、あやかは突然立ち上がって、もう帰ろうと玄関まで歩いて行く。「今日はもう遅いんで帰りますわ・・・・・・朝になったらまた会いましょうね銀さん」「い、いや俺の思考回路がショート寸前なんですけど・・・・・・ちょ、ちょっと待て・・・・・・! 聞きたい事がすんげえ残って・・・・・・! あ」何もかもがこんがらがってまだ状況が上手く掴めていない銀時を置き。あやかは最後にこちらに微笑んだ後、ドアを開けて出て行ってしまった。残された銀時が手を伸ばした状態で固まっていると、ふと抱きかかえている千雨を見る。銀時がこんな目にあっているのも知らずに幸せそうに寝息を立てていた。「・・・・・・そういえばコイツ」あやかがいなくなる前にもっと早く気付けばよかったこの少女を何処に寝かせればいいのだろうか・・・・・・銀時の部屋から出ていた後、あやかは一人でトボトボと廊下を歩いていた。「わ、私ったら・・・・・・! なんてはしたない事を・・・・・・! しかも千雨さんが寝てる隙に銀さんとキ、キ、キ・・・・・・!」頭を思いっきり掻き毟りながらあやかは顔を真っ赤にして歩く。自分でやった事が信じられなかった。まさか真夜中の旅館で銀時と唇を合わせる事になろうとは「あそこまで私が積極的になれたなんて・・・・・・やはり千雨さんの告白に釣られてついあんな事を・・・・・・明日、銀さんにどんな顔で会ったらいいのか・・・・・・」「おお、いいんちょ発見」「はい?」ブツブツと困ったように独り言を呟いているあやかの所に思わぬ人物がやって来た。このゲームの主催者である朝倉和美がこちらに手を振りながら現れたのだ。「銀さんに会えたの?」「ええ・・・・・それより朝倉さん、あなたゲーム主催者なのになんでこんな所に?」「いや実はドSが死んだ辺りでさ、新田の奴に各場所に設置してたビデオカメラがバレてあの人に全部破壊されたんだよね・・・・・・」「は?」「いつ新田の奴がビーダマン持ってモニター室に来るかわかんないから、途中で実況と映像を打ち切って命からがらここまで逃げて来たのよん。明日になったら生徒のみんなにボコされるかも・・・・・・」どうやらラブラブキッス大作戦の実況をしている途中、旅館を徘徊していた新田先生に隠しカメラの存在がバレてしまったらしい。カメラ全てを問答無用でビーダマンで破壊していくので、自分のいるモニター室に来るのではないかと恐れた和美はすぐにその場から退散したと言うのだ。だがあやかはもっと気になっている事がある(ドSってなんですか・・・・・?)和美の言う『ドS』に疑問を抱くあやか、だがそんな彼女を見て和美はふとある違和感に気付いた。「それよりいいんちょ、ちょっと気になった事あるんだけど?」「なんですか? もう私かなり疲れてるので手短にお願いします」腕を組んで話を聞く体制になったあやかに和美は即座に尋ねる。「千雨ちゃん何処?」「あ・・・・・・」彼女の質問に初めてあやかは気付いた。そういえば千雨を銀時の部屋に置いてきたままだ「銀さんの部屋にいますわきっと・・・・・・」「ええッ! もしかして千雨ちゃん、いいんちょを先に帰らせて銀さんと二人で・・・・・・!」「違いますッ! 千雨さんでしたら銀さんの部屋で疲れて寝てますッ!」変な誤解をする和美にあやかがムキになったように否定する。それを聞いて和美も「な~んだ」と笑いながら頷いた。「じゃあ千雨ちゃんは銀さんと仲直り出来たんだよね?」「モチロンですわ」「よかったよかった、ギスギスした二人なんて見たくないしね」「ええ、それに仲直りするどころか告白まで・・・・・・はッ!」会話の途中でつい口が滑ったのであやかが慌てて口をおさえる。だが時すでに遅し。和美はあやかの口から洩れた衝撃的な情報に目を光らせていた。「告白ッ!? 千雨ちゃん銀さんに告白しちゃったのッ!?」「い、いやその・・・・・・!」あやかはどう言っていいのか困ったように頬を引きつる。だが和美は嬉しそうにフッと笑って頭を掻き毟る。「やっと自分の想いにぶつかれたんだね、千雨ちゃん」「あ・・・・・・」「このゲームって実は千雨ちゃんを後押しする作戦だったんだよね・・・・・・」「・・・・・・やはりそうだったんですか」このゲームの本来の目的は千雨が銀時と真正面から向き合わせる為だった。それを見事に彼女がやってくれたと聞いて、和美は安心するように頷いた。「本当に良かった」「朝倉さん・・・・・・」満足そうに頷いている彼女を見てあやかは複雑そうな顔をする。千雨は銀時に告白できた、だが自分は・・・・・・「てことはラブラブッキス作戦の優勝者は千雨ちゃんでいいんだよね?」「え?」ニヤニヤしながら不意に言った和美の言葉にあやかは思わず目を見開く。「キスはしてないけど告白は出来たんでしょ? だったらもう優勝だよ優勝、朝になったら生徒のみんなに報告でも・・・・・・ダメかな? いや結局バレるモンなんだからさっさとみんなに教えとくか」「ま、待って下さいッ!」「ん?」やっぱダメなのか? 和美がそんな事を考えながらあやかの方に振り向くと、彼女は声を震わせながら「朝倉さん・・・・・・確かに千雨さんは銀さんに告白しました、けど優勝したのは・・・・・・私になるんです」「え? それってどういう・・・・・・あッ!」あやかの言った言葉に和美が一瞬理解出来なかったがすぐに我に返る。「ま、まさかッ!」「千雨さんが寝てる時に・・・・・・私、銀さんとキスしましたの・・・・・・」「・・・・・・マ、マジ?」思いもよらぬ新事実に和美はぎこちない動きであやかに近づく。するとあやかは一瞬躊躇を見せたが、申し訳なさそうに「・・・・・マジですわ」コクンと頷いた。・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・「ウソォォォォォォォ!!!!」あやかのぶっちゃけによってその場一帯に和美の叫び声が響き渡った。午前1時47分。ラブラブキッス大作戦終了優勝者・雪広あやか