深夜零時、山崎は双子とのどかと夕映を連れて人気のいない旅館を走り回っていた。左手に姉の風香、右手に妹の史伽を脇に抱きかかえている山崎はしんどそうに呟く。「ハァ~まさか俺がこんな事をやるハメになるなんて・・・・・・」「ジミーさっきカッコ良かったよッ! 僕がお嫁さんになって上げようかッ!?」「ダメですお姉ちゃんッ! 私がジミーのお嫁さんになるんですぅッ!」『おおーっとッ! ここでジミーこと山崎さんが双子のフラグを立てたかぁッ!?』 「いやあのね・・・・・・」風香と史伽の発言に山崎は戸惑った表情を浮かべる。双子の発言が冗談なのかマジなのかはどうでもいいとして、とりあえず山崎は後ろに振り返って夕映に尋ねる「夕映ちゃん、後ろから沖田隊長来てるかわかる?」「ほう、あなたごときの身分で私に命令ですか? いい度胸です」「さっきからどんだけ俺のこと下に見てんだよッ! 俺光ってたじゃんッ! 地味なりに頑張ってたじゃんッ!」走りながらやや反抗的な態度を取る夕映に山崎は振り返りながら叫ぶ。美砂に襲われる寸前の双子を助け、更にこうやってのどかと夕映を連れて逃げている事は、我ながら凄い事をやっているなと実感している山崎だったが、どうにも彼女は認めていないらしい「何言ってるんですか、そもそも近藤さんとあの人(土方)の部下であるあなたがのどかと私を助ける事は当たり前です、のどかはあの人の嫁確定ですし、実を言うと将来的には私もあなた達の姐・・・・・・」「夕映ッ! 後ろからッ!」「ん?」山崎に向かって語りかける夕映の話を中断させて、慌ててのどかが後ろに振り返りながら指をさす。「シャァァァァァァ!!!」「くおらぁぁぁぁぁ!! 待ちやがれのどかぁぁぁぁぁ!!」「お、沖田さんとリッ・・・・・・柿崎さんが追いついて来ちゃったッ!」「のどか、今柿崎さんの事リッカーって言いそうになったでしょう?」珍しくボケをするのどかに夕映が静かにツッコんでいると、こちらに向かって走って来ている美砂と沖田は完全に目が血走っている状態でどんどん近づいてくる。。「メス豚ァッ! さっさと宮崎のどかを捕獲しろッ!」「はい、ご主人様ッ!」沖田に吠えられるとすぐさま美砂は行動を移す。目の前で必死に逃げているのどかに標準を合わせると、彼女は走りながら壁を・・・・・・「にゃぁぁぁぁぁ!!」「ひぃぃぃぃッ!!」『出たァァァァ!! リッカー柿崎の四足壁走り走行ッ! もうダメだあの子人間に戻れない・・・・・・』壁に両手両足をついてそのまま壁を走り出す美砂。のどかは逃げながらそれを見て思わず悲鳴を上げる、ホラーゲームに出て来そうな今の彼女は、ある意味沖田より怖い物を持っている。二人の距離は近づいて行き「逃がさないわよッ! おらッ!」「ああッ!」『のどか選手が遂に捕まったッ! やっぱリッカーからは逃げられないか・・・・・・』捕まえる範囲に入って来たのどかに向かって美砂は飛びかかる。見事に捉え、そのままのどかは彼女の下敷きになってしまった。「うう~クラクラするですぅ~」「のどかッ!」「のどかちゃんッ!」「御主人様ッ! 宮崎のどかをこのメス豚が捕まえましたッ!」下敷きにされたショックで目を回しながらのどかはフラフラする、彼女の後ろ襟を掴み、美砂は勝利だと言わんばかりにのどかを片手でそのまま掲げた。そんな彼女に沖田はニタリと笑いながら指でクイクイと指示する。「よくやったメス豚、早くこっちに持ってこい」「はいご主人様ッ! おらさっさと自分で立ちなさいよッ!」「うう~・・・・・・」のどかを床に下ろして乱暴に手を引っ張って歩かせようとする美砂だが、急にのどかに顔を近づけて睨みながらそっとささやく。「言っとくけどあんたがご主人様のお気に入りだからって私は容赦しないわよ・・・・・・」「いや・・・・・・あの人も私に対して容赦しなさそうなんだけど・・・・・・」「口答えすんじゃないわよッ! 大体なんでアンタなんかがご主人様のお気に入りなのよッ! どうして私じゃないのよッ! この泥棒猫ッ!」「く、首がグラグラするから止めて~・・・・・・」「さっさとのどか持って来いつってんだろメス豚。殺すぞ」『柿崎ッ! ご主人様を放置してのどかと昼ドラ開始だぁッ!』無表情でドスの聞いた言葉を出す沖田も無視して美砂はのどかの体を激しく揺さぶる。どうやらさっきからずっと彼女には激しい嫉妬感を抱いていたらしい。「ムキィィィィィ!! アンタなんかにメス豚の座は渡さないんだからァァァァ!!」「い、いや~・・・・・・・!」「おいメス豚、マジで斬り殺されてえのかさっさと来い」「別にのどかちゃんは沖田隊長のメス豚になりたいとは思ってないと思うんだけど・・・・・・」「当たり前です、あれはどうみても痛すぎる柿崎の痛すぎる妄想です」『・・・・・・』沖田の声も聞いてなく、悔しそうにのどかを横にブンブン振る美砂に、両手に双子を抱きかかえてる山崎と夕映が哀れ身の視線を送る。実況している和美も彼女の姿に言葉が出なくなってしまう。「どうする? 今の隙にのどかちゃんを助けれるかもしれないよ?」「あなた如き地味男がバイオ化してる柿崎に勝てるんですか?」「いや、さすがに勝てはしないと思うけど俺が行けば足止め程度には・・・・・・」「その必要はないわよ、え~と山崎さん」「え?」「む?」どうやってのどかを救出するか山崎と夕映が相談をしていると、意外な人物の声が聞こえたので二人はそちらに振り返る。親友の早乙女ハルナがニヤケ顔で立っていた「ハルナ? どうしたんですかこんな所で?」「このままだとのどか捕まっちゃうと思ってね、ルールとか無視して呼んで来ちゃった」「と、言いますと?」「だからのどかを一番大切にしてる人を呼んで来て上げたのよ」「・・・・・・まさか」誇らしげに言うハルナに向かって山崎はただ首を傾げ、彼女が誰を呼んだのか察知する夕映。そして彼女の予想通り、“その男”はもう既に柿崎に襲われているのどかの近くに立っていた。「おい」「何よッ! 男のクセにあっち行きなさいよッ!」「あッ!」柿崎に体を揺さぶられる中、のどかは彼がそこに立っていたのがわかった。いつも着ている服装。いつも腰に差してる刀。いつも口にくわえてるタバコ「そいつに何やってんだテメェ・・・・・・!」「は? ひでぶッ!」「きゃあッ!」柿崎がふと男に向かってそちらに顔を向けた瞬間、彼の思いっきり振るった鞘を付けた状態の刀が彼女の顔面を直撃。そのまま沖田の所まで美砂は回転しながら吹っ飛ばされてしまう。「女だろうがガキだろうが・・・・・・こいつに牙向ける奴は殺すぞ・・・・・・!」「土方さんッ!」「副長ッ! 来てくれたんですねッ!」『のどかのピンチに土方さんの登場だァァァァァ!!!』真撰組副長、土方十四郎がのどかの危機を聞きつけてここまでやって来たのだ。「ハルナ、あなたがあの人をここまで?」「「のどかがドSに襲われてるよ~」って言ったら一発で」「なるほど、あの人らしいです」「副長ッ! じ、実は沖田隊長がッ!」「説明はいらねえ、ハルナから聞いた・・・・・・!」「え?」ハルナの説明に夕映が納得していると、土方は山崎の話も聞かずに前方にいるのが“敵”と確認する。「総悟~・・・・・・! テメェこいつに何やってたんだ・・・・・・? 俺が分かるように説明しろ・・・・・・!」「へ~思ったより早かったじゃないですかぃ・・・・・・元副長の土方さん」恐怖で思わず自分の腰に抱きついているのどか、彼女の頭に手を置きながら、土方はタバコをくわえた状態で目の前でほくそ笑む沖田に恐ろしい形相でガンを飛ばす。まもなく沖田最終戦スタート第四十七訓 なんだかんだで両想い遂に沖田の所に上司である土方がやって来た。恐ろしい形相で睨みつけてくる土方に対し沖田は涼しげな表情で目を合わせている。その距離3M、すぐにでも相手に突っ込んで斬り合いに転じれる間合いだ。『か弱い少女のピンチにヒーローが参戦ッ! これはドSどう打って出るかッ!?』「どうしたんですかぃ土方さん、そんな鬼の様な顔して、瞳孔も開きまくってますよ」とぼけたように話しかける沖田に、土方はくわえていたタバコを携帯灰皿に戻しながら口を開く。「テメェの態度が怪しいと思っていたが、まさかコイツを狙ってとはな・・・・・・」「ヘヘ、安心してくだせえ土方さん、俺はまだのどかちゃんに何の手も出してないんで、まだですけどね・・・・・・」「ひぃッ!」最後の言葉に念を押しながら沖田は土方の腰にしがみついているのどかに視線を動かす、その瞬間のどかは縮こまって土方の背後に逃げる。「ひ、土方さん、あの人私の事を狙っていて・・・・・・・」「もうちょっと早く言っとけば良かったな、あのサディスティック星の王子は恐らくお前が生涯会う人間の中で危険人物1位とランクインされる男だ。永久的にそうなるだろうな」「やっぱり恐い人なんだ・・・・・・」「言いがかりはよして下さいよ土方さん、俺はちょいとのどかちゃん達と遊んでただけですぜ、おっと、首輪が落ちちまったぜ」「嘘付けェェェェ!! なんだその首輪ッ!? それで何する気だッ!? それでどういう事する気だったんだッ!?」沖田がポロっと服の内側からワザとらしく落とした頑丈そうな首輪に土方は指をさしてツッコむと沖田はそれを拾い上げながらしらっとした表情で「変な誤解しないで下せえ、これは土方さんへのプレゼントです、ほら、前に江戸にいる時に「俺はカワイイ女の子に首輪を付けられて、人が群がっている所の中で引きずられる事が夢なんだ」とか言ってたじゃないですかぃ」「言ってねぇぇぇぇぇ!!! 何処の世界の俺だそいつはッ!」「ひ、土方さんの夢ってそういうの・・・・・・」「お前も真に受けるんじゃねえッ!」言葉を真に受けてしまっている様子ののどかに土方が即座に否定する。もちろん沖田のでまかせである。「ったく、こんなくだらねえ事やりにわざわざ江戸からここに来たのかお前は・・・・・・」「土方さんこんなくだらねえ事とはなんですかいッ! 俺にとって宮崎のどかを思いっきりサドりたい事がくだらないなんて酷過ぎやしませんかッ!?」「酷過ぎるのはお前の頭だッ! つかやっと本性現しやがったなサディストッ!」怒ったように叫ぶ沖田に土方がツッコミを入れる。だがまあ沖田にとってそれがここに来た本来の目的なのだが「バレちまったらしょうがねえ、やっぱりアンタを倒してのどかちゃんをゲットするのが一番手っとり早い方法ですね、元副長の土方さんよ」「ほざいてろ、何でテメェがこいつにそんなに入れ込んでいるのかは知らねえが、こいつに指一本でも触れてみろ、一片の欠片も残さず切り刻むぞ・・・・・・!」『ドSと土方さんが腰の刀に手を置いて・・・・・・え、マジで?』互いに腰に差す刀に手を置いて戦う姿勢を取る沖田と土方。そして「下がってろ宮崎ッ!」「そこでくたばってろメス豚ッ!」「土方さんッ!」「は、はいご主人様・・・・・・」同時に刀を抜いて土方は後ろにいるのどかに指示して、沖田はその場でKOされている美砂に言葉を残して、両者は刀をぶつける。刀と刀のぶつかる激しい音が廊下で鳴り響く 『なんという展開ッ! ドSと土方さんの一騎打ちッ! まるでアクション映画みたいなバトルが始まったァァァァ!!』「死ね土方ァァァァァ!!」「テメェがくたばりやがれェェェェ!!」一歩も引かずに相手を殺す気満々で刀を何度もぶつけ合う沖田と土方。刀同士の衝突の度に火花が散るその戦いにのどかは土方の指示通り、夕映やハルナ、山崎の達の所まで離れて見守っていた。「ど、どうしよう夕映ッ! あれ? ハルナが何でここに?」「ああ、私が土方さん呼んだのよ。アンタの事言ったら表情一変してのどかを探す為、旅館中走り回ってたのよあの人」「そうなんだ・・・・・・」ハルナが言った経緯にのどかがじっと考え込む表情をすると、山崎に抱きかかえられていた風香と史伽が床に降りて彼女に向かい「愛の力だッ!」「愛の力です~ッ!」「あ、あ、愛ッ!?」「はいはい双子ちゃん、のどかちゃんを茶化さないで」 双子に言われた事に思わずのどかが顔をカァと赤くすると、山崎がすぐに双子を彼女から引き離す。のどかは顔を赤らめながらふと土方の方へ目を向ける。「くたばれ総悟ォォォォォ!!!」「生憎まだこの世に未練があるんで死ねません」「うっせぇさっさと地獄落ちろォォォォ!!」「あ~地獄に落ちるのはいいかもしれませんね、地獄少女に会えますから結果的にのどかちゃんに・・・・・・」「やっぱ地獄落ちんな天国逝けェェェェ!!」沖田に向かって怒鳴りながら刀を振っている。彼は何のために戦っているのだろうか・・・・・・・のどかがそんな事を考えているのを表情で読み取ったのか隣に立ってる夕映が彼女に向かって呟く。「あなたが大事な人だからでしょ」「え?」「だからこそ、ああやって必死に戦ってるんです」「そう、なのかな・・・・・・?」 「それ以外に無いでしょう、あの人単純ですし」「・・・・・・」夕映の土方に対しての観点にのどかは深く黙りこむ。彼にとっての自分は何か、自分にとっての彼とは何か性格も全然対照的だし年齢差もある。一緒にいる期間も長くはないし住む世界も違う。しかも一回彼には振られてる。けど「わたしはそんな土方さんが・・・・・・」「オラァァァァ!!」「!」のどかが思考に集中していると、ふと大声が聞こえたのでハッと顔を上げる。土方が沖田と激しいつばぜり合いを始めていたのだ。互いの刀が擦れ合っている中、土方は目の前の沖田に向かって睨みつける。「おい・・・・・・さっさと斬り殺されてくんねえか総悟・・・・・・!」「土方さんやっぱ刀一本だとキツイですかぃ? いつもみたいに刀6本持って英語叫びながら戦うのがスタイルですもんね」「Don't worry・・・・・・! テメェなんざ一本の刀あれば十分だ・・・・・・! Let' partyッ!!」『伊達政宗ッ! じゃなかった土方さんの猛攻開始ッ!』額に青筋を浮かべながら土方は沖田に連続攻撃を始める。あらゆる場所から飛んでくる斬撃、だが沖田は全く慌てずに流暢に流しながら「感情だけで戦っても俺には勝てませんぜ、よっと」「チィッ!」土方の攻撃を掻い潜って沖田は刀で一突き、それに舌打ちをしながら土方は始めて後ろに下がった。「やっぱ相手が総悟だと一筋縄じゃいかねえか・・・・・・」「そろそろ終まいとしますかぃ、安心してくだせぇ、俺はいつでも土方さんが死んでもいいように土方専用の墓石買っておいて上げてますから」「バカ言うな、テメェの買った墓石なんかの下で眠りたくねえ」悪態をつきながら刀を構え戻す土方。沖田も刀を構える。「Final roundだ・・・・・・! Are you ready?」「まだ独眼竜になってたんですかぃ、OKに決まってんでしょう筆頭」『互いに刀を構えて相手を睨みつける二人・・・・・・私、侍同士のガチ決闘初めて見た・・・・・・』お互い最後の一撃だと握った刀に力を込める土方と沖田。方や守るため、方やサドる為、己の信念のまま両者は一歩も譲らず一本の刀に託す。そして「総悟ォォォォォ!!!」「土方ァァァァァ!!!」『おおっと遂に決着だァァァァッ!!』全身全霊を込めた刀で相手をぶった斬る為に土方と沖田は走る。もうすぐどちらかが勝者となるか決まる。だがその時「すみませ~ん、ウチのあやか知りませんか~?」・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・「「は?」」いきなり間の抜けた言葉に土方と沖田は刀を持った状態で固まる。声がした方へ思わず同時に振り向くと。「すみません、あやかの事知らないですか? 私あの子の事助けに来たんだですけど何処にもいないのよ~、困ったわねぇ・・・・・・」『あ・・・・・・』本当に困ってるのかと疑問を感じるぐらいのほほんとした表情と口調で、何時の間にか二人の近くに立っていた女性。3年A組の姉的(?)存在の那波千鶴がそこにいた。とりあえずお互い刀を下ろして一旦戦いを止める沖田と土方。「土方さん・・・・・・この空気の読めない女は誰ですかぃ?」「ツラは何度か見たことあるがどんな奴だったか覚えてねえな・・・・・・おい山崎、この女知ってるか?」目の前でニコニコ笑ってる千鶴を指さして土方は山崎の方へ向く。そこにいたメンバーも彼女が突然現れた事に戸惑ってる様だ「千鶴さん・・・・・・ですね、旦那の所の生徒です、一応」「何であの人がここにいるのよ?」「どうせハルナと似た理由でいいんちょでも助けに行こうとしたんでしょ、それで迷ってここまで」「でも千鶴さん、あそこにいたら危険じゃ・・・・・・」夕映の推理を聞ながらのどかは心配そうに千鶴の方へ顔を向ける。土方はともかく沖田は女性にとって一番の危険人物だ。当然彼女にも容赦などという文字は無い筈・・・・・・のどかが早く彼女がそこから逃げるようにと伝えた方がいいかと考えていると、山崎の説明を聞いた土方は千鶴の方へ口を開く。「万事屋の所の生徒か、ここは今お取り込み中だ。さっさとどっか行って欲しいんだが」「ねえ、金髪の女の子とメガネを付けた女の子見ませんでしたか?」「いや人の話聞けよ」「私、早くあやかに会わないと行けないの、あの子が先生に会う事が出来ればいいんだけど、そこに長谷川さんいたらはっきり言って邪魔じゃない? だから私があやかの代わりに長谷川さんを池に沈めて・・・・・・」「人の話聞かない上にヘラヘラ笑いながらバイオレンスな話始めやがったッ! 何コイツ絡み辛いッ! 絡み辛い上に恐いッ!」『だぁぁぁぁぁ!! 千鶴さんといいハルナといいルールわかってんのかなッ!? 特に千鶴さんッ! それマジにやったらアンタを沈めるよッ! 無理だと思うけどッ!』笑顔で色々と恐ろしげな言葉を放つ千鶴に思わず叫ぶ土方(とモニター室にいる和美)。隣に立ってる沖田はすっかり彼女に翻弄されている彼にため息をついた。「何やってんですかぃ、女という生き物はガツンと言ってやりゃあ、すぐに尻尾巻いて逃げまさぁ、おい女」「あら、私の事ですか?」「テメェに決まってんだろがボケ、邪魔だからさっさと消えな、消えねえとここに来た事をトラウマになるぐらい後悔させてやるぜ」「ガツンどころじゃねえだろそれッ! メッタ刺しじゃねえかッ!」『初対面の千鶴さんにいきなりサドったァァァァァ!! 相手が誰であろうと容赦ないドSッ! いたいけな少女にこれは酷いッ! 悪魔の様な所業だッ!』いきなりサディスティックな言葉を連発する沖田に土方はすぐにツッコむ。だが沖田は全く罪悪感など持っていない。大抵の女性はこれで恐怖に震えるに違いない。そう沖田は考えていたのだが「ダメですよ女の子に対してそんな言葉使っちゃ」「え?」「人はね、誰からでもそんな事言われるのイヤなの、もっと人と接するときは優しくならなきゃダメですよ」・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・千鶴が依然変わらぬ笑顔、更に言葉を返して来た事に沖田の表情は凍りついた。土方を初め少し遠い所から見ているのどか達も驚いている。「・・・・・・テメェどうやら俺の事ナメてるらしいな、ちょいと痛い目見ねえとわかんねえんのか、あ?」だがそんな状況でも沖田は今度こそと彼女を睨みつけてドスの聞いた口調で言葉を発する。だが千鶴はやはり「別にあなたの事舐めてませんよ、舐めるんならアイスクリームとかの方が好きです」「いや、そういう事じゃなくて・・・・・・」「美味しいのよアイスクリーム、バニラとかチョコとか色々・・・・・・あら、想像したら食べたくなってきちゃった、部屋に戻ったら夏美に買って来て貰いましょう」「・・・・・・」ドSワードがまったく効いちゃいない、これには沖田も思わず驚愕した表情で額から汗を流す。(なんだこの女・・・・・・俺のサド攻撃に笑顔で受け流すだと・・・・・・)今までこんな事が無かったので沖田は動揺を隠せないでいると、千鶴は今度は土方に向かって話しかけている。「そういえば、ん~と土方さんでしたっけ? ここで何してたんですか?」「ん? いやその・・・・・・コイツと喧嘩してた」「あらあら」土方も彼女と喋るのが苦手なのか言葉少なめに説明する。だがそれを聞いた千鶴は両手で口を隠して驚いた様なリアクション。「せっかくの楽しい修学旅行なのに喧嘩なんてダメですよ~、そこの人もこんな綺麗な旅館に来てるんだから、喧嘩しないで楽しみましょうね」「ぐッ!」「なッ! どうした総悟ッ!」千鶴に優しい言葉をかけられた瞬間、まるでボディブローを食らったように腹をおさえる沖田。これには土方もどうしたもんだと慌てて近づく。「おいどうした、腹でも痛えのか?」「い、いや・・・・・・あの女に話しかけられると・・・・・・」「どうしたんですか? もしかしてお体の調子が悪いんですか? 私で良かったら助けになりましょうか?」「ぐわぁッ!」「オイィィィィ!! どうした総悟しっかりしろッ!」『突然ドSがダウンだァァァァァ!! コレは一体どういう事だァッ!!』今度は胸をおさえてその場に倒れ、苦しがる沖田。何がどうなってるんだと土方が彼を抱き起こしながら混乱していると、遠くで見ていたのどか達も混乱する。「ど、どうしたんだろ沖田さん・・・・・・」「千鶴さんが来てからなんかヤケに苦しそうだけど・・・・・・」「なんかの病気とかじゃないですか?」「う~ん・・・・・・もしかすると、もしかするかな?」のどか達が疑問に思っていると後ろから山崎は頬を引きつりながら近づく。沖田の事は彼女達よりは知っている彼にとってあくまで仮定だが理由がなんとなくわかった。「沖田隊長って、女の人から優しい言葉かけられるのほぼ無いんだよね・・・・・・」「それがどうしたんですか?」「俺達が住んでる江戸にいる女の人って基本ガサツで乱暴者が多いからさ、あの沖田隊長が相手でも噛みつくんだよ、それに普通の女の子でも隊長のドSには大体抵抗を見せる、もしくはあの人に従う、君とあの子見たいに別れるだろ?」「はぁ・・・・・・」のどかと目を合わせた後、山崎はそこに倒れてる美砂を指さす。つまり沖田に対する女性は基本、噛みつく、嫌がる、従うの3つに分かれるのだ。だが千鶴は・・・・・・「あの人はどの分類にも入ってない、噛みつきもせず、嫌がりもせず、従いもせず、温和な態度で沖田隊長に声をかけてくれる。そんな事今まで実姉のミツバさんしかいなかったし、だから動揺してるんだ」「なるほど、その3つのカテゴリーに入らない千鶴さんに対してはあのドS隊長も手も足も出ない、と言う事ですね」山崎の説明を理解したように夕映が頷いていると、沖田はやっとこさ自力で立ち上がる。表情はかなり苦しそうだ。「チィ・・・・・・俺の心に響くこのダメージは一体なんでぃ・・・・・・」「どうしたんですか苦しそうにして・・・・・・? やっぱり何処か痛いんじゃ」「うっせえななんでもねえよ・・・・・・つうか話しかけんな」「なんでもないわけないでしょッ! 私って確かに見た目通り中学生だけど、役に立つ事だってきっと出来る筈ですッ! 何処が痛いんですかッ!?」「がはぁッ!」(いやどうみても見た目中学生じゃねえだろお前)また叫び声をあげて倒れた沖田に近づいていく千鶴に、土方が心の中でツッコミを入れる。初めて見る人によっては大学生クラス、もしくはそれ以上だ。「何処が痛いんですか? 救急車呼びましょうか?」「うぐッ! 何処も痛くねえから俺に近づくんじゃねえ・・・・・・」「私に心配かけさせない為にそんな事言ってるの? 優しい人なんですよね」「おごッ! 今入ったッ! 思いっきりヘッドショット入ったッ!」「え? 頭痛いんですか?」思いっきり苦しそうに悶えている沖田に、彼が苦しんでいる理由の張本人である千鶴は彼を抱き上げながらう~んと考え、そして「熱でもあるんじゃないかしら?」「おい止め・・・・・・!」嫌な予感を感じて必死に抵抗しようとする沖田に。千鶴は無理矢理おでことおでこをくっつけて熱があるのか確認。その瞬間沖田の中の時が止まる。「熱はないようね」「・・・・・・ごふ」「総悟ォォォォォ!!!」『ド、ドSが死んだァァァァァ!!!』数秒間白目をむいた後、沖田は口からダラダラだと血を吐く。どうやらあまりにも女性に優しくされたので、サドれないストレスであっという間に胃に穴でも空いたらしい。土方が慌てて彼から千鶴を引き離し沖田の状態確認。「おい総悟ッ! 大丈夫かしっかりしろッ!」「大変ッ! この人いきなり口から血を吐いたわッ! 急いで手当てしましょうッ!」「いやもう来なくていいッ! 俺がやるからッ! お前の優しさは十分わかったからッ! ちょっとあっち行ってくれッ! 頼むからッ!」とりあえず千鶴に離れろと土方は沖田を抱きかかえながら慌てて指示、すると沖田は息絶え絶えに彼に話しかける。「ひ、土方さん・・・・・・」「総悟ッ! まさかお前にこんな弱点があるとは・・・・・・!」「ええ、俺も初めて知りやした・・・・・・よもやこんな世界にこんな化け物が潜んでるとは・・・・・・」化け物とは当然千鶴の事である。沖田にとって唯一優しく接してくれた女性は今は亡き姉のミツバのみ。彼女以外に初めて優しさくされた事に、沖田は気が動転して一気に瀕死の状態にまで陥れられたのだ。「どうやらここは俺の負けの様ですね土方さん・・・・・・」「いやあいつは俺達とは全く関係のねえ奴だぞ・・・・・・」「結果は結果です・・・・・・あんたが立って俺が倒れた・・・・・・ここはとりあえず認めてやりまさぁ、あんたとのどかちゃんを・・・・・・」「もう喋るな総悟・・・・・・真撰組と近藤さんを支える柱の一本であるお前がここで死ぬ様な男じゃねえ筈だ・・・・・・」『いやさっき斬り殺そうとしたじゃん』和美のツッコミが入る中、土方は沖田の身を案ずる。すると最後に沖田はニヤリと笑って「二人共・・・・・・幸せになってくだ・・・・・・せぇ・・・・・・」「総悟? おい総悟、どうしたんだ起きろ。こんな所で寝てんじゃねえよ」「・・・・・・・」ゆっくりを瞼を閉じて手をパタリと床に落とした沖田。そんな彼に数秒間固まった後、土方は肩を震わし、そして「総悟ォォォォォォォ!!!!」「一体誰があの人に酷い事したのかしらねぇ・・・・・・」『「「アンタだよッ!!」」』絶叫している土方の後ろでは千鶴がのどか達に向かって他人の様な一言、ハルナと山崎、そして実況の和美のツッコミがすかさず同時に入った。「沖田さん大丈夫だったんですか?」「とりあえず新田先生が生徒シゴいてる一階のロビーのソファで寝かせて来た、明日になれば復活すると思うが・・・・・・まさか総悟が中学生の女にやられるとはな・・・・・・」場所変わってここは土方の部屋。和美の仕掛けたビデオカメラはここには存在せず、部屋の中にいるのは土方とのどかだけ。電気も付いておらず明りはベランダからさしこむ月の光だけだ。他のメンバーは何処に行ったのかは二人共知らない。「お前も今日は大変だったな、ほれ飲むか?」「あ、ありがとうございます・・・・・・」緊張しながらソファに座っているのどかに土方は冷蔵庫から取り出した中見入りの缶を一本渡す。ジュースかなんかだろうと思い、のどかは缶のフタを開けてグイッと飲むと「うぐッ! こ、これってもしかしてッ!?」「なんだ酒も飲んだ事無いのか?」「み、未成年にお酒なんて飲ませないで下さいッ!」飲んだ瞬間、クラっとしたのですぐに酒だとわかったのどかは、ちょっとしか飲んでないお酒を目の前のソファに座った土方に返す。返されたお酒をなんの抵抗も見せずに飲みながら、土方はそんな彼女に口を開く。「未成年でも酒の一つや二つぐらい飲めるだろ。俺がまだ十代で近藤さんや総悟と一緒に田舎道場で剣を磨いてた時には、もう酒グイグイ飲んでたぞ、誰かのおかげでな」「誰ですか未成年にお酒なんて進める人って・・・・・・」「なんかフラ~とよく俺達の道場に遊びに来てたオッサンだ、筋肉ムキムキのデッカイゴリラみたいなオッサン」「ゴ、ゴリラみたいなオッサン・・・・・・?」「ありゃあ近藤さんなんか比べ物にならないゴリラだったぜ・・・・・・そういえば近藤さんあのオッサンとすげえ仲良かったな、あのオッサンのせいで近藤さんもゴリラ似になったのか?」昔話をしながら土方はのどかから貰った酒を一気に飲み干してテーブルに置いた後、深いため息をつく。「そん時はまさか江戸で悪党退治に精を出したり、こうやって小娘共と仲良くするなんて想像もしなかったけどな」「・・・・・・」胸ポケットからタバコを取り出し、ライターでを火を付けてタバコを口に咥える土方。そんな彼の姿をボーっとのどかが眺めていると、おもむろに彼は立ち上がった。「今日はお前も色々疲れただろ、さっさと部屋に帰って寝とけ。俺が部屋まで送ってやる」のどかに背中を見せて土方は口からタバコの煙を吐く。こっちを見ようとしない土方にのどかはどう言っていいのか困っている様な表情をした後、決意したようにスクッと立ちあがる。「部屋に戻る前にどうしても今日、土方さんに伝えたい事があります・・・・・・」「・・・・・・」「一回振られてるのにこんな事言うのもなんですけど・・・・・・まだ私、土方さんの事・・・・・・」「・・・・・・宮崎」「え? あ、はいッ!」想いを伝える前にまたもや土方がストップ。こちらに振り返りもしない土方の態度に、「またダメか」とのどかがネガティブに考えていると「お前、“男が死ぬ覚悟”が出来るか?」「え?」「ある男は常に生死を分ける戦いに赴きながらも、今まで生き長らえて来ている、だがそれも何年までかはわからねえ・・・・・・一年後に死ぬのか、三ヶ月後に死ぬのか、一週間後に死ぬのか、明日死ぬのか、それもわかんねえまま男はそうやって生きている」「土方さん・・・・・・」「宮崎、もしお前がそんな男に惚れて、そいつが死んでもお前は立っていられるか? 剣しか能のねえバカなその男が、死ぬかもしれねえ戦いに行くのをお前は覚悟出来るか?」「・・・・・・」こちらに顔も合わせないように土方はのどかに問いかける。自分はいつ死んでもおかしくない身、そんな自分がいつ死んでもその時を覚悟出来るのか。土方が知りたかったのはそれだった。彼が質問を問いかけた後、お互い無言になり、時計の針のみがカチッカチッと鳴り響く。それが5分ぐらい経ったのだろうか、ようやく黙っていたのどかがゆっくりと顔を上げてそっと口を開いた。彼女なりの答えを「その人が死ぬ覚悟なんて私は出来ません」「・・・・・・」「でも」のどかは背中を見せる土方の方に一歩一歩と近づいて行き。そっと彼を背中から抱きしめた。「その人が死なないよう“祈る覚悟”は出来てます・・・・・・」「宮崎・・・・・・」「死ぬかもしれないなんて言わないで・・・・・・どんな事になろうとも絶対生きて帰る事だけを考えて・・・・・・私がずっと待ってますから・・・・・・あなたが生きて帰ってくれるよう祈って待ってますから・・・・・・」「・・・・・・お前」それが彼女なりの覚悟だった。土方は背中から抱きしめてくれたのどかを優しく離した後、振り返ってのどかと目を合わせる。一瞬だけ、今は亡き自分がかつて惚れた女とのどかの姿がダブったように見えた。「・・・・・・もう俺は間違えねえ」「土方さん・・・・・・」「本当に待ってくれるのか? そんなバカでどうしようもねえ男でも・・・・・・見守ってくれるのか?」土方の最後の質問、それにのどかはクスリと笑った。答えは決まってるのだから「たとえどんな人でも、私は土方さん・・・・・・十四郎さんをずっと見守ります、誰よりも私は・・・・・・あなたの事が好きだから」「・・・・・・ああ」「!」のどかの想いを真正面から受け止めた土方は、彼女を不意に抱きしめる。彼の胸に驚いた表情で顔をうずめながら、のどかはふと彼の口に咥えてるタバコの匂いが鼻に入る。思えば出会った時からずっと彼が愛用しているタバコの匂いは、いつしか彼女の好きな匂いになっていた。「例えどんな事があっても、俺は生き続けてやるよ・・・・・・」「はい・・・・・・」「これが俺の返事だ・・・・・・のどか」「・・・・・・はい」月の光が部屋の中を照らす中二人の男と少女はしばらく無言のまま抱きしめ合った。「良かったですねのどか・・・・・・」「ほ、ほ、ほ、本当に良かった~ッ! グスンッ!」「ふ、副長~・・・・・・!」「何泣いてるんですかあなた達・・・・・・」二人を除いたメンバーがいた場所、それは二人がいる部屋のドアの前だった。どうやら全員でドアに耳を当てながら土方とのどかの会話を盗み聞きしていたらしい。のどかの告白が無事に終わってホッとする夕映の両隣りには、嗚咽するほど涙を流してるハルナと、ハンカチで涙を拭きながらドアに耳を当てる山崎がいた。「うう・・・・・・! のどか、アンタ遂に恋を実らせて・・・・・・おめでとう、私も応援してて良かった・・・・・あ、鼻水出て来ちゃった」「ばっちいです、私に近寄らないで下さい」「俺わかったよ・・・・・・例え他の隊士の奴が認めなくても、俺はのどかちゃんを姐さんと認めるッ!」「それはいいから鼻から出る汁を止めて下さい、両方の穴から流れ出てます」「クシュンッ! ああ~鼻水出た~」「お姉ちゃん風邪ですかぁ?」「もはやのどかと何の関係も無いじゃないですか」自分の周りにいる連中に夕映がツッコんでいると、そこにもう一人女性がいるのがわかった。「本当に良かったわねぇ~」ドアの前で号泣しているハルナと山崎を眺めながら、千鶴も嬉しそうに微笑む。だが彼女は二人が泣いてる意味を知らない・・・・・・「それにしてもここ何処? あやかは?」嗚咽と鼻水をすする音が周り一帯に聞こえる中、千鶴はこの状況で首を傾げて困っているようだ。そんな彼女を見て夕映は一言「もう部屋に帰ったらどうですか?」「それもそうね、そろそろ夏美が心配するし」意外にもあっさり夕映の提案を受け入れる千鶴。彼女の性格から察するにもう疲れて眠りたいのかもしれない「それじゃあおやすみ」最後に手を振って千鶴はどっかへ行ってしまった。数分後、新田先生に会ってそのまま連行されたのは言うまでもない。