昼過ぎ、銀時は生徒である千雨とあやかを連れ、とあるそば屋にてかつての戦友、桂小太郎と謎の魔法使いクウネル・サンダース、本名、アルビレオ・イマと個室で対談を始めようとしているのだが「久しぶりだな銀時、風の噂によるとお前はこの世界で教師をやっているらしいな、この不景気で教師などという職務を全うするなど不可能に近い、今すぐ俺の所に来い」「いいです」親友にあった第一声が相変わらずいつもの攘夷志士、テロリストへの勧誘なので銀時はすぐに拒否する。それに対して桂はフンと面白くなさそうに鼻を鳴らした「それでも侍か銀時、侍なら侍らしく刀を持ち、国を護る事に命をかけるべきだ、そう俺の様に」「あなたが言っても全く説得力ありませんね」「何を言う俺は常に天人の手から国を救おうと常に考えている、飯を食べる時も、風呂に入ってる時も、厠に入ってでもだ、つまり肛門からウンコを捻り出しながら頭からアイディアも捻り出してるのだ」「おいヅラ、もう下ネタ発言は前回散々“コイツ”がやったから止めろ」隣に座っているアルに向かって話しかけている桂に銀時が親指で自分の左に座っている千雨を指さす。彼女はそんな彼を細い目で睨みつける「ほとんどお前のせいだろ・・・・・・!」「ところで銀時、何故俺との対談におなごを二人も連れて来ているのだ? 嫌がらせか? 女性と全く絡みのない俺への嫌がらせと取っていいのか?」「連れて来たわけじゃねえよ勝手について来ただけだ」腕を組みながら質問してきた桂に銀時はダルそうに答える。すると桂の隣にいるアルが「ほう」と縦に頷いて見せた。「昨日の夜もご一緒だったですものね、失礼ですがどあなたとその二人のお嬢さんはどのような関係なんです?」「え~とその・・・・・・!」「“ただの”教師と生徒、上司と部下だよ、妙な事考えてるとそのニヤけたツラに蹴り入れるぞコラ」「・・・・・・」質問されてちょっと慌てふためくあやかをよそにイラついた調子で銀時はアルに返す。彼のそのキッパリとした発言には少しあやかも残念そうな顔を浮かべた。そんな彼女をよそに千雨はというと銀時に向かって囁くように「銀八・・・・・・」「何?」「こいつら本当に大丈夫なのか? なんかバカっぽいぞ?」「大丈夫だよバカだから、まともな奴よりバカの方が信用出来るモンだぜ実際、つーか俺の知り合いだしよ」銀時が千雨に向かって囁いた言葉にすかさすアルが楽しそうに反応した。「おや私の事ですか?」「お前じゃねえよヅラだよ、なんでお前になるんだよ」「何言ってるんですか、私とあなたは同じ団員じゃないですか」「おいヅラ、“古泉”がうるさいからさっさと話を始めようぜ」危なげな発言をするアルにすぐに銀時がウンザリした表情で桂の方へ話しかける。だが桂はというと・・・・・・「それで銀時と出会ったのは何時頃なのだ?」「ほんの数か月前です・・・・・・」「ほほう、それで一体銀時は週何回ぐらい顔を合わせている仲なのだ」「え、えと・・・・・・ほぼ毎日です・・・・・・教室とか万事屋で・・・・・・」「プライベートの時間でも会う時があるのか?」「あんまりないですけどたまに一緒に出かけたりとか・・・・・・ごく稀に街の中で会う時が・・・・・・」「ふむ」顔を少し赤らめて説明するあやかになるほどと桂は頷く、なんとなく彼女のその反応に何かに気付いたのだ。そしていきなり目を光らせ「では単刀直入に言うがお主は今銀時の事どう思ってる」「え、ええッ!?」「あいつももう結婚する年だ、幼馴染の俺としてはそろそろ結婚してあのちゃらんぽらんな性格を修正・・・・・・どはぁッ!」「何してんだボケェェェェ!!」本人そっちのけで勝手に結婚話をあやかに持ちかける桂の顔面に、額に青筋を浮かべた銀時が投げた茶碗がヒット。「俺がいつ結婚しようが俺の勝手だろうが、何勝手に人の生徒に俺への縁談をさせようとしてんだテメェは、 俺よりもお前のその性根を修正しろや、つーかお前も結婚する年・・・・・・いや無いかお前は、だってヅラだし」「ないない、桂さんには絶対に無いです」ため息と同時に呟いた銀時の言葉にアルも賛同するように頷く。すると桂は顔面をさすりながら立ちあがり「お前等それはどういう意味だッ! 俺だって相手ぐらいすぐ見つけられるぞッ! ただ俺が惚れた相手はいつも結婚しているから実らないだけだッ!」「それ人妻じゃねえかッ! なんちゅー歪んだ性癖してんだアンタッ!」「歪んでないッ! 歪んでるのはこの腐った世界だッ! 人妻が好きで何が悪いッ!」「いやアンタの頭の方が腐ってるッ! ていうか腐り果ててるッ!」桂の雄叫びに千雨がすぐにツッコミを入れると初めて千雨に気付いたように立ったままジーッと見つめる「な、なんだよ・・・・・・」「お主・・・・・・」「だから何・・・・・・うわッ!」いきなり顔面を近づけて来た桂に千雨は驚く。すると桂はそんな彼女の目を見ながら「お主でもいい、あのちゃらんぽらんの嫁になってくれ」「は、はいぃぃぃぃぃ!?」「今は一人身でも問題ないが、このまま何十年もそれが続くと末はきっとその辺で野垂れ死にな・・・・・・あづぅぅぅぅぅッ!」「テメェに俺の老後を心配なんてされたくねえェェェェェ!!!」今度は千雨にも催促しようとしている桂だが、わけがわからず混乱している様子の彼女の隣では銀時が茶の入ってるあやかの茶碗を奪い、熱いお茶を桂に向かって盛大にぶっかけるのであった。第四十二訓 侍ってのは高倉健の様に不器用な生き物銀時達が桂達と店の中でドタバタしているその頃、何も知らないネギはアスナ達と一緒にとあるゲームセンターに足を運んでいた。「ぶち抜けッ! ブラックフェザードラゴンの攻撃ッ!」「ってうわッ! 負けちゃいましたッ!」新幹線でやっていたカードゲームのゲーセン版なのであろうか、巨大なモニターではネギの出したモンスターが相手側のモンスターに破壊されている。対戦相手は背の低いオレンジ髪のやたら逆立った髪型をした見知らぬ男だった。「凄い強いんですねッ!」「へッ! お前もちっこい割には中々の腕前だったぜ」「自分だってちっこいじゃない」「うるせえッ! 俺はまだ成長期が来てねえんだよッ!」「あっそ」ネギと一緒にいたアスナに気にしてる事を言われたのが癪にさわったのか男は両腕を振って怒鳴る。そんな男をアスナが呆れたように見つめていると刹那がボーっとした表情で彼女に近づいてきた。「アスナさん・・・・・・」「どうしたのよ、天パ見たいな目になってるじゃない、死んでるわよ目が」「のどかさん、もしくは土方さんからデート終わったって連絡来てませんか?」「なんで私にそんな連絡があるのよ、来てるわけないでしょ」ガックリした表情で「そうですか・・・・・・」とため息まじりに呟く。珍しく土方と別行動してるこの時間なのだが、ずっと元気のない様子の彼女、アスナはダルそうにそんな刹那に話しかける「別にいいじゃないデートなんて、修学旅行ってのは各々楽しむ為のイベントなんだから」「違うんです、別に土方さんが誰とデートしようが構わないんですけど、なんかイライラするというか・・・・・・何処か納得のいかないというか・・・・・・」「いやあのね・・・・・・」「あぁぁぁぁぁぁ!! アスナさんちょっと殴っていいですかッ!? なんか殴りやすそうな顔してるのでッ! 何かに八つ当たりしないと腹立ってくるんでッ!」「その前にカウンター決め込むわよ・・・・・・! 完璧小姑気分じゃない、少し落ち着きなさいよ」 イライラしたように頭を両手で掻き毟っている刹那をアスナがなだめていると、突然刹那がハッとした表情で顔を上げる「根本的な問題ののどかさんを仕留めればこの腹の中から出てくる感情も消えるかも・・・・・・」「それヤンデレな妹的解決方法ッ! アンタそれだけは絶対にやめなさいッ! マヨに間違いなく殺されるからッ!」「すみませんアスナさん、ちょっと携帯でのどかさんがいる場所を聞いてのどかさんだけを人気のない所に誘って下さい、大丈夫ですアスナさんには迷惑かけませんから・・・・・・」「完璧殺る気でしょアンタッ! ネギッ! 今すぐこのキングオブバカどうにかしてッ!」遂に犯罪に身を染めようと考えている刹那にツッコんだ後、アスナが助けを求めるようにネギの方へ振り向く。だが「王者の鼓動、今ここに列を成すッ! 天地鳴動の力を見るがいいッ! シンクロ召喚ッ! わが魂、レッド・デーモンズ・ドラゴンッ!」「うわッ! なんか強そうなドラゴンがッ!」「大人げねえなジャック・・・・・・相手は子供だぞ」「クロウ、相手が子供と言えど全力でデュエルするのがこの俺だ、散るがいいッ! アブソリュート・パワーフォースッ!」「あ、聖なるバリアミラーフォースで破壊します」「なにぃぃぃぃぃ!!!」「オイィィィィ!! まだやってんのアンタッ!」さっきの男とは違い、白いライダージャケットを着た、背も高く獅子の様な金色の髪をした男とカードゲームを再開しているネギにアスナが叫ぶ。すっかり教師の責務を忘れているらしい「教師のクセに変な奴等とカードゲームでエキサイティングしてんじゃないわよッ!」「変な奴じゃないジャック・アトラスだッ!」「どうでもいいわよそんな事ッ!」 「ん~? こんな所で何やってるんや子供先生?」「え?」何処かで一度聞いた声がこちらに向かって聞こえて来た。アスナがそちらに振り返るとそこにいたのは「狙われてるネエちゃんほっといてゲーセンで遊ぶのはちと不用心やないかい?」「あッ! アンタ昨日、ウザったるい長髪と変な生物と一緒にいたガキンチョッ!」見た目はネギと変わらなそうな年、ニット帽と黒い制服を着た男の子の姿を見てアスナが慌てて指をさす。昨日の夜、本能寺にて会った少年だ。少年は不機嫌そうにアスナに言葉を返す「犬上小太郎や、ガキ言うなや」「さっき偶然会ったんよ、なんか一人でブラブラ歩いてたから」「木乃香、拾った犬は持ち主に返してきなさい」「誰が犬やッ!」小太郎と名乗った少年の背後から木乃香が陽気そうに戻って来た。アスナがすぐに彼女に指図すると小太郎はすぐに叫ぶ。「ったく・・・・・・で? こんな所でアンタ等何やっとるんや?」「それはこっちのセリフよ、ねえ刹那さん」「こんチクショーがッ!」「モグラたたきやってる・・・・・・」アスナと小太郎が会話している隙に刹那は溜まったイライラを解消する為かゲーセンの定番であるモグラたたきに勤しんでいた。なんというかモグラを叩く威力が半端ない「どうしてッ! いつもッ! のどかさんがいる時はッ! 私の事をッ! ハブくんですかあの人はッ!!」「一発一発の重みが凄い事になってるわね・・・・・・」「せっちゃん凄~い新記録やって~」「ハァ・・・・・・ハァ・・・・・・あ、お嬢様何時の間に・・・・・・あ」「よう、なんかムカつく事でもあったんか? モグラ殺す勢いでやっとったけど」木乃香がパチパチと拍手しながら称賛を送ってきた所で初めて刹那は彼女の存在に気付き、そして小太郎の存在にも気付いた。「あなたは確か昨日の夜、攘夷志士の桂小太郎と一緒にいた・・・・・・」「犬上小太郎や、なんやよく見たらヅラに助けられてたネエちゃんか」「助けられた・・・・・・まあ一応そうなるんでしょうね・・・・・・」桂に助けられたと言われて刹那は少々苦い表情を浮かべる。彼女自身、高杉の件や土方が言っている事もよく聞いていたので「攘夷志士」というのに嫌悪感を持っているのだ。桂も例外ではなく助けられた恩はあるものの、あの男の事はあまり信用していない「・・・・・・桂小太郎とは一緒じゃないんですか?」「いや知り合いの男と会う言うてどっか俺になんも言わずにどっか行ってしもうたわ・・・・・・ヅラのクセに・・・・・・」「知り合いの男・・・・・・?」「そういえば俺も聞きたいんやけど、昨日いたヤンキーみたいなニイちゃんはここにいないんか?」「・・・・・・・」不意に質問された事に押し黙ってしまう刹那の代わりに木乃香が近づいてきて答えてあげた。「土方さんはここにおらへんよ、あの人とは今別行動やから」「そうかそりゃあ良かったわ、あのニイちゃんどうやら向こうの世界でヅラ追ってた連中らしいし、ヅラの仲間の俺も捕まえようとするかもしれへんしあんま会いたくないんや」両肩をすくめてそんな世間話を言う小太郎に木乃香は「う~ん」と首を捻る。「なんで土方さん、桂さん捕まえようとすんのかな~」「テロリストやからな一応、アホやけどあいつも犯罪者だからそりゃあ捕まえようとするでネエちゃん」「でもウチら助けてくれたエエ人よ」「まあ悪い奴やないな、なんやネエちゃんわかっとるやないかい」「そりゃそうよ、せっちゃんやみんなの事助けてくれた恩人やもん」「そうかそうか」木乃香が笑って桂の事を良く評価してくれるので小太郎も嬉しそうに笑っている。だがその反面、刹那はムッとした表情で二人に近づいてきた。「お嬢様あまり楽観的にあの男を評価しないで下さい。桂小太郎という男は昔から爆破テロ等を繰り返し国家転覆を企んでいる危険人物だって土方さんが言ってました。そんな男に助けられたからといって簡単に信用しないで下さい」「せっちゃんそういう事言うの止めてよぉ・・・・・・」「ああ? なんやアンタあのニイちゃん派? 攘夷志士はみんな敵だ~とか思うてる人間かい、うわめんどくさ、ああいう物騒な奴が一番めんどくさいねん」木乃香に言われても、しかめっ面を浮かべてる小太郎に言われても、刹那の表情は相変わらず不機嫌そうだった。「良い人だろうが悪い人だろうが攘夷志士は全員敵です、確かにあの時はあの男に助けられましたがそれとは別、今度会ったら桂小太郎は捕まえます」「恩知らずなやっちゃな~、まあヅラがアンタみたいな奴に捕まえられる訳ないんやけどな、見た目はああやけど、実力は化け物クラスやであいつ」「御心配なく土方さんがいるので」「あのニイちゃんでも無理やって、あの時一回ヅラと刀を交えとってたけど、完璧ヅラに翻弄されてたで、力の差が見えとったな」「あの時はあの人も疲れてたからです、本気になればあんな男すぐに仕留められます」「もう二人共止めてえな仲良くしよう、な?」マズイ雰囲気に陥っている刹那と小太郎の間に木乃香が慌てて割って入る。だがそんな彼女に言われようとも二人は未だ険悪の状態だ「今は敵同士やないんやからここは手を取り合って仲良くいこうな」「俺は別に仲良くしてもええんやで? けどこのネエちゃんがヅラの文句ばっか言うから腹立つねん」「そっちだって土方さんをバカにしてる様な事を発言している気がするんですが? それに私の言ってる事は文句じゃありません、事実です」「どアホ何処が事実じゃ、攘夷志士だけの理由でヅラの文句延々言ってるだけやないかい。にしてもヅラに命救われてこの態度、こんなアホな奴だとは思わなかったわ、フン、これじゃあアンタが買ってるニイちゃんも対した事無さそうやな」「なッ! 言わせておけば・・・・・・!!」「あ~もう止めてよ~ッ! ネギ君、アスナ~、なんとかして~ッ!」火花散らしてメンチを切り合っている刹那と小太郎の間で木乃香が泣きそうに叫ぶ。だが助けを求められたネギとアスナはというと「小僧もう一度デュエルだッ! 今度こそ誇り高きレッドデーモンズの力を見せてやるッ!」「望む所ですッ!」「遊星の奴はアキと二人で楽しんでる筈なのに、なんで俺はジャックと二人でこんな所にいんだろうなぁ・・・・・・」「それは私の台詞よ、ハァ~・・・・・・・修学旅行なんだから色んな所で遊びたい・・・・・・」「ネギ君、アスナ・・・・・・その人達誰・・・・・・・?」ネギとカードゲームですっかり熱くなっている背の高い金髪の男と、アスナと一緒にジュースを飲みながら遠い目で虚空を見つめている背の低いオレンジ髪の男を、刹那と小太郎がギャーギャー言い始めているのも聞こえずただ呆然と木乃香は眺めていた。ネギパーティが小太郎と+変な連中と会っているその頃、桂達と銀時達は話しあいを続けていた。「ではまず自己紹介から始めよう、俺の名は桂小太郎、日本の明日を担う攘夷志士だ」頭から盛大に被ったお茶をおしぼりで拭いながら桂は名乗る。銀時に対してではなく初対面の千雨とあやかに向かって喋っているらしい。だが千雨はそんな彼にしかめっ面を向ける。「攘夷志士ねぇ・・・・・・」千雨は攘夷志士については江戸出身の銀時からも少し聞いたことある。天人を江戸から排除しようとする考えを持っている人、昨日の騒動に関係している高杉という男も攘夷志士であると聞いたが、目の前の男も高杉と同じだというのがどうもしっくりこない千雨がそんな印象を覚えてると今度は隣にいるアルの方へ顔を向けて桂が紹介する。「今ここにいないが一人子犬のような少年もいてな、後さっきお主等をここまで送ったのは俺の昔からの友であるエリザベス、そして俺の隣にいるのが昨日会ったと思うが俺の同志であるアル殿だ」「クウネル・サンダースです」「アル殿だ」「クウネル・サンダースです」「アル殿だ」「クウネル・サンダースです」「アル殿だ」「クウネ・・・・・・・アルでいいです」何度訂正してもすぐさま本名をバラす桂に遂にアルは折れてため息をついた。桂はお構いなしに更に話を続けていく「アル殿は腕利きの魔法使いでな、なんでも昔は『サウザンドマスター』とかいう伝説の魔法使いと一緒に行動していたらしい」「サウザンドマスター?」桂の紹介を聞いて銀時は「ん?」と首を傾げる。サウザンドマスター・・・・・・たまに聞く名だ「・・・・・・もしかしてあのトリ頭か? 」「おや、あなたナギの事知ってるんですか?」「知り合いにやたらアイツの事を知ってる奴がいるんでね」「へ~まあ彼は魔法使いでは誰でも知ってる英雄ですからね」「あ、そう」髪を掻き毟りながら銀時は興味無さそうに答える。彼にとってナギが昔凄い魔法使いだったという話など本当にどうでもいい、だが初耳だったあやかは銀時に向かって少し首を傾げる。「サウザンドマスターなんて魔法使い、何処で聞いたんですか?」「チビだよ、アイツから色々と聞いたことある、ついでにサウザンドマスターって奴はネギの親父だ」「ええッ! その凄い魔法使いがネギ先生のお父様ッ!?」「そうだよ、息子はよく出来てるけど親父は全然ダメダメなんだよ、まるでダメダメな親父、略してマダオだな」「へ~そりゃあネギ先生も災難ですわね、自分の父親がマダオなんて」二人でナギの事をそんな風に会話している姿にアルは面白そうに微笑を浮かべる。「まああながち間違ってませんけどね・・・・・・あなたとそっくりですし」「アル殿どうかしたか?」「いえいえ、なんでもないですよ」桂に向かってアルはごまかすように手を振る。その事に別に桂は気にせずに「そうか」と今度は銀時達の方へ向き直る。「それで? そちらにいるおなご二人はなんという名なのだ?」「あ、はい、雪広あやかです、初めまして桂さん、銀さんかよく聞いていましたわ」「うむ、それでお主は?」「長谷川千雨・・・・・・」緊張しながらも銀時の幼馴染である桂にほがらかにニコッと笑って挨拶するあやかとは対照的に、千雨は無愛想に目をそらしてポツリと自分の名を言っただけだ。そんな彼女の態度に桂は「?」と首を傾げる「こちらは機嫌が悪いようだが、何かあったのか銀時?」「バカかお前察しろよ、思春期のガキがイライラするってのは“あの日”に決まってんだろ」「ちげえよッ!」「そうか、それはすまなかった、俺は男だからわからんが聞く所によると、かなりイライラするらしいな“あの日”は」「だからちげえよバカッ!」女性に対してデリカシーのない発言をする銀時に千雨がすぐに否定する。銀時は隣ではあやかが少し軽蔑するような眼差しで見つめてくるにも関わらず桂に向かって口を開いた。「自己紹介も済ませたんだ、とりあえず俺に話があるんだろ? それさっさと言えよ」「そうだなこれ以上“女の子の日”で会話を広めるのも不謹慎だしな」「お前等が勝手に広めまくってるだけだろッ! ていうか違うからなッ! 本当に違うからなッ!」「千雨さんそんな激しく否定されると返って本当にそうかと疑ってしまいますわよ・・・・・・」違うのはわかってるのに必死に何度も否定する千雨をあやかがうとめていると銀時がほっといて桂とアルに話を進め始めた。「で? 早速聞くが高杉のヤローは今何処にいるんだ?」「悪いがそこまでは知らん、だが今回の件には奴が関わっているのは事実、関西呪術協会の者、春雨の団員、全て奴によって動かされているのは過言ではない」「その根拠は何処にあんだ?」銀時の意見にすぐさま桂は返事をする。「実はさっき俺の仲間と言った子犬の様な少年がいると言っていたであろう、実は元々あちら側にいた人物だったのだが、どうやら俺側に着く事を決めたらしい、それによって向こうの情報を手に入れることに成功したのだ」「元々敵側の奴を自分の所に引き入れたって事か」「桂さんって凄いんですわね・・・・・・」「フハハハ、そうだろ俺のカリスマ性はどんな輩でも惹きつけれるのだぞ」感心している千雨とあやかに桂は満足そうに笑みを浮かべるとすぐさま、大人組の銀時とアルが小突く「何がカリスマだ、お前の回りなんてロクなもんしか集まんねえじゃねえか、エリザベスとそいつがいい例じゃねえか」「どんな輩でも惹きつけるって自分を追いかけてくる連中も惹きつけたら本末転倒じゃないですか桂さん、昨日の夜も命狙われたとかなんとか」「フ、カリスマの高い人間は常に昔から危険と隣り合わせなのだ、これがカリスマたる俺の宿命か・・・・・・」「中二ぶってんじゃねえよただのバカだろお前」「バカじゃないカリスマだ」目の前にいる銀時と隣にいるアルに言われて桂はいつもの調子で言葉を返すと、アルの言葉で思いだしたのか、すぐに銀時の方へ口火を切る。「そういえば昨日の夜、高杉の仲間と思われる少女に命を狙われてな」「少女? てことはオイ高杉の仲間にガキが混じってるのか?」「そう言う事だな、赤髪のツインテールをしたまだ年も小学生ぐらいの年齢であろう、おかしな刀を持って俺に襲いかかって来た」「小学生ぐらいの子供が・・・・・・・」「マジかよ・・・・・・」敵側に年も自分達よりいっていないであろう少女がいる話を聞いてあやかと千雨の表情が曇る。もし銀時が彼女と会ったらどうするのだろうか・・・・・・二人が同時にそんな事を考えてる間に桂は話を続けた。「その少女と共に現れた春雨の幹部と名乗った男が妙な事を言っていてな」「妙な事?」「「鬼退治する前に揃うといいな」と奴は言っていた、銀時、この意味がわかるか?」「はぁ? 鬼退治?」桂の言葉に銀時は何の事だかさっぱりわからないように首を捻る。「なんだよ鬼退治の前に何か揃えばいいのか? ドラゴンボール的なモンでも集めればいいのか?」「鬼退治ならきび団子とかじゃないですか?」「そうかきび団子か、よし千雨、今すぐきび団子を作る作業に入れ」「作らねえし違うだろ間違いなく」銀時とあやかの意見にすぐに千雨は仏頂面で否定する。三人でそんな事をしているとアルが突然会話に入って来た。「実は私達は『鬼退治』という意味だけは理解できたんですよ、この地域にはある強力な“モノ”が封印されてましてね、恐らく鬼とはそれを指しているのかと私は予感しています」「モノ? ヘヘ、シェンロン的ななんか? 7つのきび団子で出てくるのそいつ?」銀時がテーブルに膝をついて茶化すようにヘラヘラ笑っているとアルもニコッと笑って答える「いえ文字通り「鬼」です、「大鬼神・リョウメンスクナノカミ」、その辺の魔物とは比べられないほどのデカくて強大な力と魔力を兼ね備えた化け物です」「・・・・・・・マジ?」「マジですよぉ」楽しそうに話をするアルの言葉を聞いて銀時の表情が固まる。つまり鬼退治という意味はその化け物と戦って勝つという意味なのだろうか「てことはつまり・・・・・・」「ええ、恐らく高杉さんはその鬼神を木乃香さんの膨大な魔力で封印を解こう計画しているんだと思います」「オイオイオイオイオイ、それで昨日の夜、木乃香の事を狙った連中が現れたって事か?」「木乃香さんが狙われてるんですかッ!?」敵の狙いが木乃香だと知ってあやかは慌てたように叫ぶ。アルと桂が同時に頷き彼女に説明を始めた。「木乃香さんは並の魔法使いより尋常じゃない魔力を持っているとあの人の父親から聞いてましてね、リョウメンスクナノカミを復活させるには恐らく彼女の魔力が必要なのでしょう」「それに相手はあの高杉だ、もし木乃香殿があの男に捕まったら恐らくあの娘はただではすまん、下手をすれば封印を解いた後、用済みになった彼女を殺す、もしくは死ぬまでその魔力を利用しようとしてるのかもしれんな」「そんな・・・・・・」「マジかよそんな事になっているなんて・・・・・・・」二人の説明、とくに桂の最後の話にはあやかと千雨が愕然としていた。平凡な人生を歩んできた彼女達にとってはそんな非現実的な事に打ちのめされ理解するのに手間取った。だがそんな二人をほっといて桂は立ち上がり、さっきから黙ったまま何かを考えている銀時を見下ろす。「そこで俺が考えた、銀時、俺はこの話をする為にお前をここに誘った」「なんだよ」腰に差す刀の入った鞘を抜いて桂は銀時の視線に合わせる様に上げる。「俺と一緒に高杉を止めれくれんか、お前の力が欲しい、俺と一緒に剣を取り、高杉達の野望を食い止めるため、共に戦って欲しいのだ」「「!!」」「俺の力・・・・・・ね」桂の放った言葉にあやかと千雨は同時に驚いた表情で彼を見る。一方銀時はなんのリアクションも取らず首をコキコキと鳴らすだけだ。「俺がいないとあいつをぶっ飛ばせねえのか?」「私や桂さん達だけでは戦力的に差があるんです、関西呪術協会の連中だけではなく強力な手だれの春雨の幹部も数人いると聞きます、ですがあなたは桂さんが言うにはかなりの腕前を持つ剣豪だと聞きました、あなたがいればもしかしたら高杉さんの野望を止めれるかもしれない、そう思って今日あなたをここへ誘ったんです」「銀時、かつて攘夷戦争で「白夜叉」と呼ばれ敵味方から恐れられたお前の力で、一緒にかつての俺達と同じ戦友であった高杉を止めてくれないか」「・・・・・・」「木乃香殿の命もかかってるこの戦い、逃げる事は出来んぞ」アルと桂両方に頼まれても銀時は依然押し黙ったままだ。本当はそういう面倒事はごめんだ、だが自分の生徒の命がかかってる事を知った今・・・・・・・「仕方ねえな・・・・・・・」銀時はゆっくりと口を開いて答えを返そうとする。その時だった「・・・・・・くだらねえ」「なんだと?」不意に飛んできた声、桂がそちらへ向くと。怒ったように睨みつけてくる千雨がそこにいた。「俺と一緒に戦えだ? 銀八をわざわざここに呼び付けた理由がそんなくだらねえ理由だったのかよ」「千雨さんッ!」「いや待たれよあやか殿」桂に対して失礼なことを言う千雨にあやかが叫ぶが、桂はそれを制止して立ったまま腕を組み、真面目な表情で千雨の目を覗く「千雨殿、それはどういう意味だ」「意味も何もそのまんまだよ、銀八はもうとっくに戦いから身を引いてる人間なんだろ、何でそんな奴を無理矢理戦いに引きずり降ろそうとしてんだよテメェは」「銀時は確かに攘夷戦争が終わったと共に戦いから一線を引いている、だがこの男は腐っても俺と同じ侍だ、侍は侍のまま生き、侍のまま死ぬ、この時に侍が戦わずにしていつ戦うのだ」「侍とかそんなのどうでもいいんだよッ! そんなクソッタレな事で死ぬかもしれない戦いに銀八を誘ってんじゃねえッ!」遂に千雨も立ちあがり心配そうにあやかが見つめてる中、桂に向かって怒鳴りつける。だが彼はそんな彼女も見据えたまま冷静に返す「侍は恥じて死すより戦って死ぬ事を選ぶ、お主の様に何も知らずごく平凡な人生を送って来た人間にはわからない事であろう、だが俺や銀時はお主等とは文字通り「違う世界の住人」なのだ、何かを護る為なら自分の身を盾にして戦う、俺達はそういう人生を歩んでいる、昔も今もな」「わけわかんねえ理屈述べやがって・・・・・・! 銀八もう帰ろうぜッ! こんな奴等と話してもなんもねえよッ!」もう限界だという風に千雨は桂からそっぽを向いて、テーブルに頬杖を付いてずっと自分と桂の会話を聞いていた銀時に向かって進言する。だが銀時は彼女をチラッと見た後、すぐに桂の方へ顔を向けてしまった「銀八・・・・・・?」「高杉のヤロウはマジでここで寝てる化け物起こす為に目覚まし時計代わりになる木乃香を狙ってるんだよな」「そうだ、アル殿と、少年が関西呪術協会の者から聞いた情報を合わせると間違いなくその線が正しい」「おい銀八・・・・・・」「めんどくせえ事企みやがって相変わらず・・・・・・しょうがねえな」「お前まさか・・・・・・・!」ハッとした表情で千雨は銀時を見る。すると彼は桂の方へ向いたまま「協力してやるよ、ただし俺は自分から高杉を探す事なんてしねえからな、そういうのはお前等でやっとけ、俺は木乃香を護る為に行動する、お前等は高杉を探せ、んで見つけたら一緒にぶっ飛ばしてやるよ」「本当か銀時ッ! さすが俺と同じ侍だッ!」「良かったですね桂さん、私も白夜叉と言われたあなたの力を是非拝見したいと思ってます」「んな事言われてたけどそれから何年も経ってるんだぜ? 相当ブランクがあるんだから銀さんに過激な重労働押しつけんなよ」銀時が了承した時、桂とアルは嬉しそうにリアクションを取っている。銀時もそんな二人に笑いかけながら冗談を言っているがその反面、二人の少女は凍りついていた。「どうして・・・・・・」「千雨さん・・・・・・」「どうして乗るんだよ銀八・・・・・・・死ぬかもしれねえんだぞ・・・・・・」両膝をガクッと付いて千雨は銀時の両肩を掴み、震えた表情で口を開く。銀時は彼女の視線をただ見つめるだけ「高杉なんてコイツ等に任せればいいじゃねえか・・・・・・もう戦わなくていいじゃねえか・・・・・・戦いから逃げてもいいじゃねえか・・・・・・」「・・・・・・大丈夫だって問題ねえ」「え?」「何度も言ってんだろ、俺は死なねえ、今まで生きた中で何度も死にかけてんだけどな、日頃の行いがいいのかねぇ、この通りピンピンしてんだぜ俺、だから今回の戦いも死なねえよ」「お前・・・・・・!」「大体心配し過ぎなんだよお前は、もうちょっと気軽に生きようぜ、な? ハプニングなんて俺はとっくに慣れっこなんだよ、イチイチ俺の事をそんな心配なんてしてたらお前の身が持たな・・・・・・」パシンッ! という快音が突然個室に響き渡った。その瞬間部屋の中にいたメンバーは静寂に包まれる銀時の頬に千雨の平手打ちが飛んだのだ。「ハァ・・・・・・ハァ・・・・・・!」「千雨・・・・・・」「人がどれだけお前の事心配してると思って・・・・・・!」千雨に叩かれてほんのり赤くなった頬をさすりもせずにただ呆然と銀時は彼女を見る。息も荒く完全に怒っている表情で千雨は彼を睨みつけた後、スクッと立ち上がる「ここまでわからず屋だとは思わなかった・・・・・・」「千雨さん待って・・・・・・!」戸を開けて出て行こうとする千雨に、ようやく目の前の出来事に理解できたのか我を取り戻したあやかが呼び止めようとする。が、千雨は最後に銀時の方へ向いて一言「もう何も言わねえよ、勝手に戦って勝手に死にやがれ・・・・・・!」そう言って戸をピシャリと閉めて千雨は出て行ってしまった。残された部屋の者は更に静かになり物音も立てない、しばらくしてあやかがようやくポツリと呟く。「銀さん・・・・・・」「・・・・・・ん?」「さっき言ってた事・・・・・・本当に最低でしたわ」「・・・・・・そうかい」真顔でこちらを向き、正直に意見を述べるあやかの言葉に銀時はため息をしながら頭をポリポリと掻く。「こういう時の女の扱いは下手なんだよ俺は・・・・・・」「言い訳になってません」冷淡な口調で銀時の言い訳をピシャリと斬るあやか。桂とアルも居心地が悪そうに黙っていると突然銀時がスクッと立ち上がった。「俺もう帰るわ、もう話終わったんだろ、行くぞあやか」「失礼します・・・・・・」戸を開けて自分達も後にしようと出て行く銀時、あやも桂達に一礼して銀時の後から個室へ出る、そんな二人の後姿に桂がゆっくりと口を開いた「銀時、俺は千雨殿に何か悪い事をしてしまったな・・・・・・」「オメーが気にすんなバカ」「根本的な問題は全部この人のせいですから気にしないで下さい」「俺、お前にまで怒られたら面目丸潰れなんだけど?」「もうとっくに潰れてますわ」あやかもどうやらさっきの銀時の態度に怒っているようだ。どうしたもんかと困ったように首を捻った銀時は店を後にしようと一歩前に出る。するとすぐに後ろからアルに呼び止められた「そういえばこんな時になんですが、もう一つあなたに伝えなきゃいけない事あるんでした」「なんだよ、こっちはあいつにどう対応していいのか困ってるのに・・・・・・」めんどくさそうに銀時は部屋の中にいるアルに振り返る「昨日の夜、あなたを襲った人物についてです。彼女が何者かあなたに一応教えとこうと思いまして」「鳳仙に旦那を殺された女だろ?」「それだけじゃないんです、あの人は昔、私と一時期行動していた事があるんです、特にサウザンドマスターと呼ばれたナギ・スプリングフィールドと」「・・・・・・どういう意味だ?」昨日の夜襲ってきた謎の女の話を聞いて銀時は隣に立っているあやかと一緒にいるジッと聞く。そして・・・・・・「彼女の本名はアリカ・アナルキア・エンテオフュシア、だが結婚して姓が変わりましてね、今の彼女の本名はアリカ・スプリングフィールド」「!! おいまさか・・・・・・!」「ええ、そうです彼の夫の名前は正真正銘ナギ・スプリングフィールド、つまり」あまりにも意外な事に銀時は口を開けて驚く。そしてアルは最後の言葉を付け足した「あなたと一緒にいるナギの息子、ネギ・スプリングフィールド君の母親なんです」「「!!!!」」銀時と、共にいたあやかもその衝撃的な事実に目を見開くしかなかった。「いやぁ、すっかりゲーセンに長居しちゃってましたね」「ほとんどアンタのせいだけどね、なんか色んな奴等とゲームしてたわね・・・・・・」ネギ達は今、ようやくゲーセンから抜け出して街中をブラブラと散歩していた。先頭は楽しげに歩いてるネギとしかめっ面のアスナ、そしてその後ろは「おいネエちゃん、ちょっとツラ貸せや、俺ヅラを悪く言う奴はこの手でシメるって決めてるねん」「いいですよ、いつでも戦りますよ」まだピリピリしている刹那と小太郎、その少し後ろからついて行ってるのは二人の仲を心配している木乃香「もう仲良くしてホンマにッ! 会った時からずっとずっとケンカしてぇッ!」「自分、不器用ですから」「高倉健でごまかさんといてよせっちゃんッ!」「よ、よく知ってましたね・・・・・・・」昭和のネタにすぐにツッコんできた木乃香に刹那が驚いてると、前で歩いてるネギは不意に歩きながら彼女達の方へ向く。「そういえば今日は昨日の様に敵が襲って来ませんね、僕はてっきり毎時、怒涛の如くやってくると思ってたんですけど」「怖いわよ」「敵もそんな数が多いわけやないねん、連中も今は疲れて休んで、俺等が油断した所を突いてこのネエちゃんを攫おうとしてんのやろ」「敵が多くないってどうしてわかるのよ?」「そりゃ決まってるやろ、元々俺はあっち側についてたんやから」「えッ! それ本当・・・・・・アダッ!」小太郎の言った事にネギが我が耳を疑っていると突然前から猛スピードで来た何かとドンッ!と当たって吹っ飛ぶ。まあ前方を見ずに歩いてたネギが悪いのだが「イタタタタ・・・・・・」「ちゃんと前見て歩きなさいよ、ねえ木乃香、今走ってきたの千雨ちゃんよね?」「なんか怖い顔で走ってたけどなんかあったんかな?」その場で尻もち付いたネギにアスナが注意しながら近づき、さっき走って来たのが同じ生徒である千雨だと気付く、木乃香も彼女の顔を見たらしいが、なんであんなに怒った顔しているのかサッパリだった。「千雨さん僕等に気付かなかったんですかね・・・・・・」「なんか何も見えてない状態だったわね、天パと痴話喧嘩でもやったのかしら」「銀さんならありうることですね」「おぬし、そこで座ってたら他の通行人に邪魔じゃぞ」「え? ああ、すみません」地べたに座ってアスナと会話しているネギに後ろから不意に飛んできた注意にネギは慌てて立ち上がり、声がした方向へ振り向く。そこにいたのは純白の服装が似合う金髪の綺麗な女性。だがネギを見た瞬間、彼女は驚いたような顔を見せる「お、おぬしまさか・・・・・・・!」「え? 僕の事知ってるんですか?」「い、いや人違いのようじゃ・・・・・・すまん・・・・・・」女性は慌てたようにネギからすぐに目を逸らしてすぐに走り去ってしまう。残されたネギは何事かと彼女の走り去る後ろ姿を眺める。「なんだろう・・・・・・あの人の顔が一瞬懐かしく・・・・・・」「どうしたんすか兄貴?」「ああ、なんでもないよ・・・・・・気のせいだったのかな・・・・・・」急に思いにふけった顔をしてネギが呆然としていとローブの下からピョコっと使い魔であるカモが顔を出してくる。ネギは髪を掻き毟りながら「う~ん」と考えた後、またアスナ達と一緒に前に向かって歩き出した。「ハァ・・・・・・ハァ・・・・・・ハァ・・・・・・!」金髪の女は髪を揺らしながら街の中を疾走していた。そしておもむろに人が近寄りたがらないような路地裏を見つけ、急いで中に入る。「ハァ・・・・・・ハァ・・・・・・! なんでじゃ・・・・・・!」女は息を荒げ混乱している様に独り言を呟く。彼女の中で長年忘れていた感覚が再び目覚め始めて来たのだ。「なんであの子がここに・・・・・・! なんでわらわの近くにあの子が・・・・・・・!」「あれ? 慌てた様子でどうしたの?」「はッ!」自分一人だけだと思っていたが突然暗い路地裏からコツコツと足音が聞こえる、そこにいたのは女が春雨の一員となった頃から近づいてくる唯一の人物。「神威・・・・・・!」「そんな必死な顔して何かあったのかなぁ? 同じ組織の一員として相談に乗ってあげるよ、俺」闇に包まれるように現れたのは中国風の服装とサーモンピンクの髪色、そして後ろで一本に髪を束ねている髪型とニッコリ笑ってる笑顔。彼女と同じ春雨の幹部の一人である神威の姿だった。「神威・・・・・・貴様前に一人の少年を鍛えていると言っていたな・・・・・・それってまさかわらわとナギの・・・・・・」「ああそれ覚えてたんだ、そうだよ、アンタの子供だけど?」「!!」「やっぱアンタとサウザンドマスターの子供は覚えが早いね、もしかしたら昔の俺より早いかもしれない、すぐに強くなれるよあの子は」「くぅッ!!」笑顔を崩さずに楽しげに話す神威の姿に女は目を見開いて体中から殺意を放つように彼に近づく。「どうしてわらわに何も・・・・・・!」「だってアンタ、もう『母親』を捨ててるんだろ? アンタはもうあの子とは関係ない、あの子はもう『俺のモン』だヨ」「ハァ・・・・・ハァ・・・・・・!」「何? もしかしてあの子の母親としての自分の感情が今更戻って来たの?」「だ、黙れ・・・・・・・!」「ハハハハ、図星だったかな~?」「黙れッ!」自分を茶化すように話しかけてくる神威に女は荒々しく言葉を叫ぶと、ハッとある事に気付いた。そういえば前にこの男から・・・・・・「禁術じゃ・・・・・・」「ん?」「前に、鍛えてる少年に一つの禁術を学ばせたとか言ってたがお主“何を”あの子に教えたのじゃ・・・・・・!」「何? 知りたいの? フフ、過保護だねぇ“お母さん”」「早く言えッ!」「急かさないでよ、え~とどういう名前だったかな、確かあの女から一回聞いたんだけど・・・・・・」荒い口調で話しかけてくる女にも神威はわざとらしく顎に手を当て悩む仕種をする。そしてしばらくして「あ、そうだ思い出した」と楽しげにポンと手を叩く。「『夜王再臨』」「!!!!」「これって習得するのに高い魔力が必要でね、あの子は親の血をよく受け継いでるから割とラクに習得できたよ、まあ、“うっかり”するとあの子死んじゃうんだけどね・・・・・・」目を開き、口元に笑みを浮かべながら、神威は女の反応を見る。悪寒が走ってる様に体全身を震わせ、その禁術の正体を知っている様だった。「あの子はあの鳳仙によって人生を引き裂かれたのじゃ・・・・・・! そんなあの子にまだ鳳仙の鎖を繋ぐつもりかッ!」「そういえばそうだね、鳳仙によって親と引き離され、鳳仙によって住んでる村を滅ぼされた子、そして今は鳳仙の“孫弟子”になってるわけだ、そして禁術によってあの子の体には今・・・・・・」女は神威が何かを言う前に突然彼の首を掴んで壁に叩きつける。全身から来る怒り、彼女の目はもう完全に人を殺る目だ。「どうしてお前達はわらわ達をそこまで・・・・・・!」「あの子が俺の弟子になった事、禁術を学んだことはあの子の意志だ」「貴様・・・・・・・!」「もっともあの子は俺の正体なんか知らないけどね、よもや自分の師が自分の人生を何もかもメチャクチャにした人物の関係者なんてあの子が知ったらどう反応するか、フフ、想像するだけで楽しくなってきたヨ」「この場で貴様を殺しても構わんのだぞ・・・・・・!」「止めときなって、俺はアンタに殺される程甘くはないよ?」神威は自分の首を絞めてくる女の手を乱暴に振り払って彼女を軽く突き飛ばす。依然ずっと笑ったままの彼に女は沸々と怒りがこみ上げてくる。そんな彼女に神威は話を続けた「そういえば昨日、俺のお気に入りのお侍さんを殺そうとしたでしょ? 止めてよね、あれは俺の“獲物”なんだ」「坂田・・・・・・銀時か・・・・・・」「アンタが殺したくて殺したくてしょうがなかった夜王鳳仙を倒した男、俺はあのお侍さんに惚れたんだよ、人間でありながら夜兎と匹敵する魂と実力を兼ね備えた男、俺にとって最高級の獲物だ」「そうか・・・・・・なら」神威の話を一見静かに聞いていた女だったが、突然壁を拳で思いっきり叩いて彼を睨みつける。「ならば私が坂田銀時をお前より先に殺してやるッ!」「へえ・・・・・・そう出るか」「これ以上貴様の楽しみに付き合ってられん・・・・・・!」「ふ~ん」女の目から放ってくる巨大な殺意に神威は怯まずに笑顔を浮かてるだけだ。元々昔から仲が悪いのでこういう揉め事は日常茶飯事だが、今回のは少し違うようだ。「俺の獲物を奪おうなんていい度胸だネ、まあいいややってみなよ、アンタを倒した後のお侍さんを殺すのも面白そうだ、きっと更に強くなってるだろうし」「フン、わらわがあいつを殺したら貴様はどうするつもりじゃ」「ハハハハ、そんなの決まってんじゃないか」挑戦とも言うべき女の言葉に神威は笑い飛ばした後、ゆっくりと目を見開いた。「アンタを殺す」