「侍の国」そう呼ばれていたのはもう昔の話かつては侍達が仰ぎ夢を馳せた「江戸」の空では、今は異郷の船が飛び交う。かつて侍達が肩で風を切り歩いた街には、今は異人の者がふんぞり返り歩く。そしてこの世界に、また再び異常な現象が起きていた。昼頃、江戸の歌舞伎町にあるとある焼肉店。二人の同じ服装の男が、個室の席で座っていた。「山崎、別世界ってあると思うか?」「ええ、松平のとっつぁんから聞いた事ありましたよ、何でも幕府の上層部だけが行ける、こことは違う次元の世界でしょ?」「話は早いな、お前その世界に行ってこい」「えェェェ!?」何やら不思議な話をしている、この二人。質問してきた男の名は江戸の治安を守る、武装警察『真選組』の副長、土方十四郎。山崎と呼ばれた見た目地味な男は、真撰組の密偵担当の山崎退だ。「いきなり何言ってんですかッ!? 副長ッ! 別世界になんて行けませんよッ! まず俺がそんな所にいく意味がわかりませんよッ!!」「声がデケェよ、幕府の上層組の連中に聞かれでもしたら、俺達の首が飛ぶぞ」「あ、すいません・・そんなにヤバい事なんですか・・?」山崎を疎めた土方は、ポケットからタバコを取り出し、マヨ形のライターで火を付け吸い始めた。そのままタバコを吸いながら、山崎に視線を戻した。「最近、この街に攘夷志士が少ない事に気付いているだろ?」「はい、最近は攘夷志士の連中も見かけません・・まるで、神隠しにでもあったように消えてますね・・」「その神隠しにあっている連中の居場所がわかった」「本当ですかッ!?」山崎は土方の報告を聞いて驚いた。今、真撰組が最も不可思議に思っている事。攘夷志士の出現率の低下だ。この国にとってそれは良い事なのだが、おかしすぎる。「桂小太郎」や「高杉晋作」を初めとする、攘夷志士が大量に姿を消しているのだ。あの厳重指名手配犯の二人がいなくなるとは、あまりにも不気味だ・・真選組はこの現象の正体を模索していたのだが、全く持って迷宮入りだった。しかし土方はその消えた攘夷志士の居場所を遂にわかったらしい。「奴等は別世界にいると、松平のとっつあんから聞いた、勿論極秘でな・・」「別世界ですかッ!? そんな所に攘夷志士が・・所でなんで極秘なんですか? この事は幕府の上層部にも教えた方が・・」「その上の連中が奴らを別世界に送ったんだよ」「えッ!? てことはこの現象の黒幕は俺達の上の連中ッ!?」土方の情報が再び山崎を驚かす。そんな山崎を気にせずに、土方はタバコを灰皿に入れて、テーブルの上のカツ丼を、持っていたマヨネーズで思いっきりぶっかける。そんなマヨネーズまみれのカツ丼を見て、山崎は気持ち悪そうに口を抑えた。「うぷ・・なんで上の連中はそんな事をしたんですか・・?」「どうも上の奴等、この国に邪魔だと対象にした奴等を片っ端にあっちの世界に流しているらしい、桂を罠にはめ、他の連中も強制的に飛ばしたとか・・高杉が消えたのはわからねえらしいがな・・一般人の行方不明者も巻き込れているケースもある、これは幕府の警察庁長官のとっつぁんの情報だ」「そんな大層な事をどうやってやったんですか・・?」「さすがにそれはわからねえが・・だが別世界に行くのはそんなに難しい事じゃねえらしい、現にとっつぁんは何回か遊びに行ってるらしいからな」土方はマヨネーズまみれのカツ丼を食いながら山崎と会話する。そして一気に平らげ、空になった丼をテーブルに置き、話しを続けた。「そういう事でお前の出番だ、別世界に行って、あの世界の事をピンからキリまで情報を俺達に流すんだ、そして攘夷志士の情報もな」「いやいや、何で俺が行くんですかッ!? いくら密偵でも別世界ってッ!」「松平のとっつぁんだったら別世界に行くのは簡単だがあの人は警察庁の長官、デカすぎて簡単には動けねえんだよ、だが俺達真撰組の事は、上の連中は自分の犬程度にしか思ってねえ、奴等の目は俺達には向かない、動けるのは俺達だけだ、別世界にいる攘夷志士を俺達が大量検挙して、別世界や上の連中がやっていた事を国の奴等にバラす、上の連中に赤っ恥をかかせるチャンスだ、いっとくがこれはとっつあんの案でもあるんだぜ」土方は山崎に説明した後、ニヤリと笑った。だが山崎は対照的に顔をひきつらせていた「で、俺の出番なんですか・・?」「当たりめぇだ、密偵のお前が一番の適任だろ今日中に行って来い」「き、今日中ッ!? いきなりすぎですよッ!」「うるせぇ、何事も早めにやっとけばすぐに済むんだ、今から屯所に行くぞ、身支度したら、すぐに別世界だ」「そんな急展開イヤですよッ! しかも俺一人ってッ!」山崎がもう抗議するが土方はまったく聞かない。そんな事をしていると、ふすまがガララッと開いた。「ここにいたんですかぃ土方さん、近藤さんが呼んでますよ、何でもとっつぁんが拝借してきた転送装置の行き先の準備が完了したらしいです」ふすまから顔を出してきたのは真撰組、随一の剣の使い手である沖田総悟。数少ない土方ときさくに話せる・・いや完璧になめている人物だ。ルックスは爽やかだが、腹の中は真っ黒だ。「総悟か、山崎を取り押さえろ、コイツを別世界に飛ばす」「やっぱり山崎ですか、まあ予想してあっちの世界でも使える、山崎用の身分証明書は作ってますんで」「ちょッ! 何作ってんですかッ!? 俺を向こうに飛ばす気満々ですかッ!? そういう準備はしているのに、俺にはアポ無しッ!?」「お前を喜ばすためのドッキリハプニングだ」「全然喜べないんですけどォォォォォ!! 待ってくださいッ! まだ心の準備・・あァァァァァァ!!」山崎の抵抗むなしく、両肩を二人の上司につかまれ、店の中で絶叫しながら、真撰組の屯所へ向かうのであった。第十五訓 驚いた事があっても全く動じないのがスパイの基本山崎は数時間後、とある学校の職員室に来ていた「山崎・・ん? これ何て読むのかな?」「退(さがる)です山崎退」目の前にいかにも厳しそうな先生といった感じの教師が、普段着(と言ってもあくまで江戸の普段着なので袴姿だ)を着て立っている山崎の面接をしていた「松平先生の教え子で、やりたいのは清掃員か・・ついでに私は学園広域生活指導員と現代国語を担当している、新田だ、よろしく」「あ、はい・・あの所でここで一番偉い人って何処にいるんでしょうか? 一応挨拶しようと思ってんですけど・・」「ジジ・・学園長は昼寝中でね、だから私が代わりに君の面接をしているのだよ、実際あんなジジ・・いやあの学園長より、私達一般教師の方が働いてるんだけどね」「よくそんな人の場所に来ましたね・・?」新田先生が自分用の椅子に座り、立っている山崎に、ブツブツと学園長の文句を言っていたが、しばらくして自分の事務机に置いてあった、電話で誰かと通話を始めた「あ~私だ、誰?って、私だよ、先週教師のみんなで一緒に飲みに行っただろ・・いや源先生なわけないだろ、女性の声がこんな低音だったら引くよ、とにかく職員室に来てくれ、君をウチに来て面接をしている子と会わせておくんだよ、採用する前に君の存在の事を知っておかないと、いきなり君とでくわした瞬間、逃げる可能性があるから・・いやめんどいって、君ね・・先週ジャンプ代貸しただろ、チャラにするから早く来なさい」新田先生は電話相手と長話しをした後、電話を切った、軽く疲れた調子でため息をついて、再び山崎に首を戻した。「すまないが、君に会わせておく人物がいる」「え? 誰です? 学園長ですか?」「あんなジジィ知らねぇ」「ってあれ? キャラ変わりました・・? 新田先生・・?」いきなり本性表したかのように、タバコを吸い始める新田先生に、山崎は若干戸惑った・・「そういえば君は松平先生の教え子と聞いたが、松平先生は元気かね?」「松平のとっつ・・松平先生は健康体そのものですね、むしろちょっと体悪くなった方がいいんじゃね?ってぐらいパーフェクトボディです」「ハハハハ、相変わらず元気らしいな、今度ここに来たら是非また一緒に飲みに行こう、キャバクラに」「あの新田先生、本当に教師?」突然、松平のとっつぁんの事を新田先生に聞かれたので、山崎はとっつぁんがこの世界で使っている『世界で一番スゴ~イ学校のエラ~イ教師』というなんとも頭の悪そうな偽装の職業を聞いていたので、上手く新田先生に返した。(大樹の根元に転送された時は最初驚いたが・・とっつぁんの言う通りならこの『麻帆良学園』っていう学校は、色々と情報が集まりやすいとか・・でも案外普通な所なんだよな・・江戸と違うといったら、天人がいない事と建物の雰囲気が違うぐらいかな・・?)山崎がそんな事を考えていると、職員室の扉が開いて、一人の男が入ってきた。山崎はそちらに振り向き驚愕する、そこには予想だにしない意外な人物がいた。眼鏡の奥に死んだ魚のような目と、腰に差している木刀、服装は何故かスーツに白衣という姿で背中に野太刀を差しているが、あの目立つ銀髪天然パーマをの男は!「何か用すか~? 俺~ジジィが寝ている隙に部屋の家具全部奪おうとしていたんすけど~?」「そんなことしたら、あのジジィ怒るぞ」「いや~、万事屋の家具って八割ジジィの所からパクってんのに、あのジジィ「誰かに盗まれたァァァ!! ごっそり部屋の家具ほとんど持ってかれてるゥゥゥ!!」って言っただけっすよ、ジジィが万事屋に来たらバレますが、あんなエイリアン俺の部屋には絶対入れないし、もし入った瞬間上の毛から下の毛まで燃やしますわ」「普通犯人は君だと最初は疑うと思うんだけどね、ジジィどんだけボケてんだか、所で坂田君、そんなジジィはほっといて、この青年がここで働きたいと言っている山崎君だ、山崎君、この人は一応教師という職業になっている坂田先生だ、うかつに近付かない方が良いよ、噛みつくから」「人を猛獣扱いにしないでくんない? 何俺? 定春?」山崎は硬直して声が出なかった、目の前で新田先生と話している男は、よく知っている人物だったのだ。そしてその男が山崎の方に目を初めて向けた。「噛みつかねえから安心しろ、俺が手を出す相手は基本決まって・・ってお前って真選組の・・」「あァァァァァ!! すいません新田先生ッ! この人から色々とここの事聞きたいんで、おいとましますッ! 清掃員の仕事は明日やるんでッ! ではッ!」その男こと銀八が、山崎を見て気付いた時、慌てて山崎は銀八の口をおさえて、新田先生に用事を伝え、銀八を引きずったまんま職員室から走って出て行った。残った新田先生は手に持っていたタバコをスゥーと吸い始めた「まだ採用すると言ってないんだけどな」山崎と銀八は誰もいない、屋上に来ていた。ようやく山崎の手から解放された銀八は、人が落ちないように設置している、フェンスにもたれかけて、あくびをしていた。そうしてしばらくすると、銀八は山崎に質問した。「で? 何でテメェがここにいんだよ?」「それはこっちの台詞ですよッ! まさか旦那もこっちの世界に来てるなんてッ!」「色々あってな、ここで教師やってんだよ、お前は?」「え~と話すと長いんですけど・・周りに人の気配は無いな・・この事はくれぐれも、ここの世界の住人には言ったりしないようにして下さいよ・・」人差し指を自分の手に当て、山崎は声を潜ませる。もしここの世界の住人にでも聞かれたら、せっかくの計画に支障が起きる確率がある、山崎は銀八に近付いて、ヒソヒソと江戸の怪奇現象の説明をした。「今、俺達の世界・・江戸では大量の行方不明事件が起きているんですよ・・特に攘夷志士の消失が・・」「行方不明・・?」「はい、んで俺達が調べた所どうやら幕府の上層部の一角が、この世界を檻代わりにして攘夷志士を閉じ込めているようなんですよ・・しかも少数ですが一般人の行方不明者もいます・・どうやらあいつ等、江戸を自分の思い通りの世界に変えようとしているらしいですよ・・」「なるほどねぇ・・江戸には良い事だが、こっちの世界の奴等にとってはいい迷惑だ、攘夷志士の連中がここで大人しくしているってのは考えられねえしな・・過激な攘夷志士だったら、こっちでウサ晴らしで意味の無いテロ活動でもおっ始める可能性があるかもしれねぇ・・」「そこで密偵の俺の出番です、この世界の情報を知って、俺達の世界の真撰組に流す、そしてここにいる攘夷志士の情報も調べて、その後幕府の連中に突然の大義名分の面目を立てて真撰組をここに導入して、一気に捕まえる。こんなことしたら上の連中も黙ってませんが、あいつらのおかげで俺達、真撰組が大手柄を取るチャンスでもあるんですよ・・」山崎の事情を聞いた後、銀八はしばらく黙り込み下を向いていた。「・・江戸でそんなことが起こってんのか・・考えてみれば、俺はここに来てから江戸の事すっかり忘れてたな・・」「え? 旦那何か言いました?」「何でもねえよ・・所でお前ここにどうやって来たんだよ?」「あ、俺はコレを使ったんですよ」銀八が顔を上げて山崎に質問して、彼はポケットから手の平サイズの物を出した。細長い体に二本の割り箸のような手をつけて、目には生気がない人形を銀八の前に差し出す。「いや・・何この小学生の工作みたいな人形・・?」「アレですよ、旦那、『ジャスタウェイ』に決まってるでしょ?」「いやジャスタウェイって爆弾だろ・・?」「これは爆弾のジャスタウェイじゃないんですよ、こんな小さくてもコレって転送装置なんですよ、名前は確か『ジャスタウェイ・レクイエム』」「何レクイエムって? ジョジョとかコードギアスのスタンドみたいに、レクイエムってワード付ければカッコ良くなると思ってんの?」銀八は文句を言いながら山崎からジャスタウェイ・レクイエムを取って、片手でクルクル回しながら観察する。そしてふと気付いたように、山崎に視線を戻した。「これ俺が使ったら俺も戻れるの?」「いや、それって最初使った人じゃないと機能しないんですよ・・そのジャスタウェイに個人設定を打ち込んで、その人のみが使える簡易小型転送装置なんです、だからその俺用のジャスタウェイを無くしたり、壊したりしちゃったら、俺、元の世界に戻れないかも・・」「ふ~ん・・ほらよ」「ちょ! 言ってるそばから乱暴に投げないで下さいよッ!」いきなり乱暴にジャスタウェイを投げてきた銀八に、山崎はツッコむが、銀八はなにか考えている表情だ。山崎はそれを見て、銀八の様子が不自然に思えた。いつもの彼なら自分に掴みかかるでもして「ふざけんなッ! さっさと俺を元の世界へ帰しやがれ税金泥棒ッ!」とか悪態をついてくると思ったのだが、帰れないと知ってもノーリアクションだ・・そんな事を山崎が考えていると銀八は、フェンスにもたれかけるのを止めて、歩き出した「もう帰りのH・Rの時間だ、オメーも早く住む場所でも探すんだな」「え! ちょっと待ってくださいよ旦那ッ!」山崎は銀八の肩を掴んで引き止める、色々と質問したいことがあるのだ「旦那はどうやってここに来たんですかッ!?」「俺は幕府の奴等に飛ばされたんじゃねえよ、この世界には魔法使いって奴がいてな、俺はそいつにここに口寄せさせられたんだよ、今はその魔法使いの家に住んでここで教師やってる」「魔法使い・・そんなのいるんですか、ここッ!? 変わった行き方もあるんですね・・アレ? でもどうやって元の世界に帰るんですか?」「知らねえよ、だから困ってんだろ、じゃあな、また遅れると同僚のチビッ子先生に怒られる」自分の肩を掴んでいる山崎の手を払い、銀八は屋上から下りる階段へと歩き始めた。そんな銀八の背中を見て山崎は、自分が考えている事を質問してみた。「旦那・・もしかして帰る気が無いとかありませんよね・・?」「・・なわけねえだろうが、さっさと俺も帰れる情報を仕入れて来い、仕事しろこの税金泥棒」銀八は山崎に顔を向かず、歩きながら答えを返した。だがその声はトーンが下がっていた(旦那にしてはいつもの乱暴な調子じゃないな・・もしかして旦那は帰りたくないとか・・いやそんなことないはずだと思うんだけど・・)山崎がそんな事を考えていると、いつのまにか銀八は屋上から姿を消えていた。「あの人まさか、ここで女作ったとか無いよね・・あの人ふしだらな恋愛しかしてなさそうだし、別世界の人でもOK的な・・」「いやいや、確かに銀八殿は女性との交流は多い方だが、手は出してないと思うでござるよ」「なッ!」独り言をしている山崎の背後から突然声が聞こえ、驚いた山崎は後ろを振り向く。みるとそこには銀八がもたれていた所に何時の間にか、この学園の制服を着た糸目の女性が立っていた。山崎はそれを見て絶句する、人の気配が無かったのに何故こんな所にいるんだッ!? 自分の洞察能力に疑問を持ったが、慌てて普通の態度に戻して、その女性に向かって口を開いた。「え~と、ここの学校の生徒ですか・・?」「当たり前でござる、この制服を見れば一目瞭然、麻帆良学園中等部3年A組の長瀬楓という者でござるよ」「へ~そんな年でも学校って行けるもんなんですね~ここって」「年って、拙者はまだ14才でござるよ」「はいッ!?」楓の発言に山崎は驚く、そして改めて山崎は彼女を見てみて、もう一度質問する「いやどうみても、14才じゃないでしょッ!? どんだけ成長早いんですかッ!? コスプレか何かでしょッ!?」「失敬な、正真証明のピチピチの14才でござる、ほら学生証」「嘘ォォォォォォ!!」楓が持っている学生証を山崎はまじまじと見た。確かにこの学園の3年生の14才だ、山崎は一人思考を巡らした。(ありえなくねッ!? 見た目からして、大人に近いだろッ! 俺より身長デカいよこの人ッ! つーか何もかもがデケェよッ! 何食ったらそんなにデカくなんだよッ! 牛乳と煮干しをどんぐらい食ったらそんなに色々とデカくなれんだよッ!?)山崎は一歩下がって自分より身長の高い楓の体を見ていたが(特に一番驚いたのが胸のデカさ)、そんな山崎の様子を気にせずに楓は山崎に近付く。「ところで、さっき面白い事を耳にしたのでござるが、なんでも別世界が存在するとか・・」「でッ!!」「まさか別世界が存在するとは、しかも銀八殿も別世界の住人・・驚いたでござるな~」「でェェェェェ!!」やはり、楓は先ほどの銀八と山崎の会話を聞いていた。山崎は驚きを隠さず、思いっきり叫んでいる所を見て、楓は確信したかのように頷く。「そのリアクションからして本当らしいでござるな、用心深くしていたのにも関わらず、拙者がいる事に気付かないとは・・それで密偵とはまだまだ未熟」「何で俺が密偵だって知ってるんですかッ!? あ、言っちゃったァァァ!!」「銀八殿とお主の会話、「ここの世界の人間には言ったりしないようにして下さい」って言ってた所からずっと観察しておった」一番タイミングの悪い時から聞かれていた・・山崎は自分の取り返しのつかないミスに呆れ、その場に頭を押さえて座りこむ(ちくしょォォォォ!! ここに来て数時間でこの世界の住人にもうバレたァァァァ!! どうするッ!? 口止め料なんて、俺ここの通貨とっつぁんから少ししか貰ってねえしッ! ていうか何でこの人の気配わからなかったんだ俺ッ!? どんだけこの人気配を隠すの上手えんだよッ! こうなったら何とかしてこの事は黙ってもらうしかないッ!)山崎が座りこみながら考えていたら、相変わらずニコニコした表情の楓に、恐る恐る山崎は顔を上げて頬を引きつらせながら質問してみる。「あの~出来れば他の人には黙ってもらえませんか・・? 色々と俺困っちゃうんで・・」「う~む、他人の秘密は言わない方でござるが、さっきの話しは面白かったので、クラスメイトと盛り上がりそうな話しだったし喋っていいでござるか?」「日本語わかるでござるかァァァァ!?」思わずツッコむ時に楓の口癖がついてしまう山崎。クラスの全員になんか知られたら、色々とヤバい・・最悪、副長がこっちに来たら任務失敗ということで切腹を命令されそうだ・・「頼みますよ本当ッ! お願いします、本当この通りッ! なんでもやりますんでッ」山崎は自分よりずっと年下の楓に床にこすりつけるように土下座する。山崎は普段の悲劇の連続体験により、いかなる時でも必死に謝れるという能力を持っているのだ。「じゃあ色々と銀八殿とお主の事が知りたいのでござるが」「それはちょっと・・」「クラスのみんなに、さっきの事・・」「旦那の事ならよく知っていますッ! あっちの世界では色々と世話になったんでッ!」三秒で前言撤回する山崎だが、ある事に気付き山崎は疑問を浮かばせる「そういえば・・さっきからどうして、旦那の事を「銀八」って言うんですか?」「ん?「銀八」が本名では無いのでござるか?」「え~と確か「坂田銀時」ですよ旦那の本名は」「おお、その名前はクーフェイと戦っていた時に使っていた名、あっちが本名でござったか、いや~やっぱりお主詳しいでござるな~」「いえ・・そこまで詳しくは・・あの人俺達の世界でも、あんまり自分の事話さないし・・」楓は山崎の情報を聞いてふむふむと頭を頷き、相変わらず座っている山崎を見下ろした。「所でお主の名は?」「あ、山崎退です・・」「山崎殿、この世界に住む所があるでござるか?」「いや、まだ決めてませんね・・とりあえずここで仕事やりながら色々と情報を探そうと思っていただけで、住む所なんか考えていませんでしたね・・」山崎が頭の後頭部を掻きながら、自分の住む場所は決まってないと答えた。それを聞いて「そうでござるか」と何処か満足そうに表情を喜ばしていた。糸目なのであんまり表情はわからないが・・「では、色々と話しをしようと思うのでござるが・・放課後にまた屋上で会えるでござるか?」「ええ、明日仕事するって言いましたから、そういえば採用かどうか聞いてなかったな・・まあなんとかなるか、ここで待ってればいいんですよね?」「うむ、その方が助かる、では拙者はこれにて、また会おう山崎殿」そのまま楓は屋上から銀八が使った階段を降りて、消えて行く。「・・何話すんだ? また旦那の事か? それとも俺の話し? あの人に嘘ついても、バレそうな気がするんだよな・・ていうか嘘あんまり上手くないしな俺、原作でも結局正体がバレる事がたびたびあるんだよな・・正直に話すしか無いか・・とにかく別世界の存在を言わないようにしてもらおう、それさえしてもらえれば、まだ俺は副長に切腹命令されないはず・・」山崎は空を眺めながら、自分の心配事をつぶやいていた、少なくとも彼女が黙っててくれれば、一安心だ。そう思い山崎は寝っ転がる。「とりあえず、あの人が来るのを待ってるか・・まさか何処かに連れて行って、俺を脅して一生コキ使うとか無いよな、アハハハ」相変わらず独り言を続ける山崎、その一言が危険フラグだというのがわからないのであろうか数十分後、山崎は麻帆良学園の女子寮の中のにある部屋に来ていた「じゃあ、新しいルームメイト兼この部屋の家事全部をする事になった、山崎退殿でござるよ」「かえで姉が言ってた、ボク達の部屋の家事全部やってくれる人ってこの人ッ!? なんか地味だね~」「本当にお姉ちゃんの言う通り地味だね~でも地味でもここのお掃除とかしてくれるなら歓迎だよ~」「山崎殿、ツリ目の方が姉の鳴滝風香、お団子頭の方が妹の史伽でござる、わかると思うけど二人は双子、ルームメイトなら区別出来るようになるでござるよ」「いや、いきなりの展開に対処出来ないんですけどォォォォ!!」話しを戻すと、山崎は放課後に、楓に半ば無理矢理にここまで連れてこられた。そして山崎は部屋の玄関で、目の前にいるチビッ子双子と隣りに立っている楓を交互に見て、汗をしたらせながら落ち着こうと必死になっていたが、楓は相変わらずの調子で山崎に説明する。「山崎殿が話していたあの話は、バレてしまったら色々とマズイのでござろう? それで拙者が山崎殿の秘密を隠す代わりに、ここの家事を山崎殿に担当してもらう事にするでござる。な~に可愛い女の子に囲まれて、しかも家と飯付き、文句は無いでござろう?」「「無いでござろ~?」」楓の口癖を双子が楽しそうに真似している所を呆然と見ながら、山崎は固まってしまった。(まあ、家事やるだけで飯は食えるし寝床が見つかったのは良いけど・・結局この人がバラす事はあるって事ッ!? ヤバイ、この人に逆らえねぇッ!! 真撰組のみんなッ! 俺、中学生に捕まっちゃったッ! 所でこの双子は何者ッ!? 小学生っすかッ!?)「あの~二人ともいくつ・・?」「「14!」」「What!?」「あ~ジミー信じられないって顔してる~」「酷いよジミー、これでもかえで姉と同い年なんだよ、私達小さいのコンプレックスに感じているんだから~難しい年頃なんだよ」「いや信じる方が難しいからッ! つーか『ジミー』って俺ッ!? それはもしかして『地味』から来ているのかッ!?」風香と史伽があの楓と同い年だという事に山崎は疑問ありありなので、信じるかどうか考えていたが楓が「部屋に入った方が良いのでは?」と促してきたので、一旦考えるのを止めて、自分の靴を脱いで部屋に入った。そこまで広くは無いが、まあ4人ぐらいなら住める部屋でもある。だがやっぱり気になるのは山崎の周りを「「ジミージミー!」」とはしゃぎながら回っている、双子の存在だ(この小ささで14ッ!? ありえねェェェェ!! マジで小っせえよッ! 何処のホビット族だッ!? もしくはもののけ姫の言霊ッ!?)心の中で相変わらず自分の周りをぐるぐる回っている双子に山崎がツッコミを入れていたとき、楓が山崎に近よってきた「ところで山崎殿、寝る所は何処がいいでござるか?」「まあ、俺も一応男としてのプライドがあるんで、ここは女性と一緒の部屋は勘弁ですね・・天井裏にでも寝かせてもらいますよ」「出た! ジミーのプライドッ!」「略してジミライドッ!」「そこの双子黙ってくんないッ!? ジミライドって何ッ!? 俺の必殺技みたいに言わないでくれるッ!?」双子にツッコミを入れている山崎に、楓は「うむ、あいわかった」と了承する。「山崎殿が天井裏が好きならわかったでござる、上に昇るのはこの梯子を使えばいいでござる」「別に好きじゃないんだけど・・ていうか何で天井裏に行くための梯子があるんですか・・?」「いや拙者が時々天井裏で寝たい時があるから」「どんな欲求にかられて天井裏で寝ること決意したのッ!?」山崎が楓の奇行に質問するが、彼女は「アハハハ」と軽く笑って、「それは女の秘密でござる」と言って答えようとしなかったが、山崎は「いや女の秘密になんで天井裏があるんだよッ!」とツッコミを入れた。山崎が作った夕食を食べた三人は(双子曰く地味に美味い)、皿洗いを終えて、ちゃぶ台にもたれて一息ついてる山崎に質問をしてきた。「山崎殿はこの麻帆良学園の事はあまり知らないのでござろう?」「まあ、初めてですね女子校だというも初耳だったし・・そういえばここ女子寮ですよね? 俺、住んで大丈夫ですか?」山崎は自分が男で、ここは女子寮だという事に気付いた。普通女子寮は男子禁制では・・?だがすぐに自称中学生、見た目小学生の双子が疑問に答えた。「心配ないよ~ジミー、ここには男の子のネギ先生っていうボク達の担任の教師も住んでるんだから」「へ~そうなんだ・・って! 男の子ッ!? 子供が教師やってるんすかここッ!?」「ジミー、ネギ先生はね、子供でも、私達よりずっと頭良いんだよ~、見た目は子供、頭脳は大人なんだよッ!」「だからって教師出来るのここッ? ・・本当にこの学園は変な事ばっかだな・・そういえば旦那を教師にしてる事自体おかしいし・・」自分がとんでもない所に来てしまったと、改めて痛感した山崎だったが、そんな山崎に楓は「ハハハ」と笑って励ました。「すぐに慣れるでござるよ」「慣れません・・ていうか慣れたくありません・・」「これだけで驚いてたら、ここで生活出来ないでござるよ?」「まだいるんですか、貴方方みたいなびっくり人間が・・?」「うむ、無双シリーズが一本作れるぐらいいるでござるよ」「コーエーにでも頼んで作って貰ったらいいんじゃないですか・・?」山崎は力なくツッコミを入れて、ちゃぶ台に頬杖をついた。自分はこの世界ではやっていけそうにない・・早く任務を終わらせて、このカオスな学園から脱出したい・・そんな事を山崎が考えていると、ふと自分が懐に入れていた物が無くなっている事に気付いた。「あれ・・ジャスタウェイ・レクイエムが無いッ! マジでッ!?」「何でござるか? そのルルーシュの超必殺技みたいな名前は?」「俺がここに来るために使った転送装置ですよッ! ヤバいッ! あの人形が無いと俺は元の世界に帰れないッ!」山崎が必死に自分の服をチェックして探していたが、楓はふと双子が何かを引っ張って取り合っている事に気付いた。「風香、史伽何をしてるでござるか?」「ボクがこの部屋で最初に見つけたんだからッ!」「お姉ちゃんズルイッ! 最初に拾ったの私だよッ! このふざけた顔をしている人形は私のッ!」楓は双子に手のようなのを引っ張られている人形をみた。あんな物この部屋にあったか・・?」「山崎殿、もしかしてアレでは・・?」「え? あッ! 何してんのォォォォ!! それ俺のジャスタウェイッ!」必死に服を調べ上げていた山崎に、楓は双子が持っている人形を指差して、聞いてみた。山崎は人形を見た瞬間、思いっきり慌てた。「ジミーのじゃないよッ! これはボクのジャスタウェイだよッ!」「違うよ、私のだよッ! マイジャスタウェイだよッ!」「何言っての君達ッ!? ていうかジャスタウェイの手を引っ張ないでッ! それまだ試作品なんだから壊れやすいって、とっつぁんが言ってたんだからッ! 壊れたらそれ・・!」山崎が言い終わるウチに双子に引っ張られているジャスタウェイはミシミシッと音を立ててバキンッ!双子の力でジャスタウェイはバラバラに壊れた・・・・・・・「ジャスタウェイ死んじゃった・・可哀想・・」「お墓を作ってあげなきゃね」「二人とも優しいでござるな」「「うん!」」「うんじゃねェェェェェ!!!! 俺のジャスタウェイィィィィ!!」三人のルームメイトに山崎は、この世界に来て一番大きな声で怒鳴り声を上げた後、見事にバラバラになっているジャスタウェイを見て、山崎は体の全身から汗を出した。「どうやって直せばいいんだよ・・再起不能ってレベルじゃないぞコレ・・ジョルノか丈助呼ばなきゃいけねえよ・・コレがなかったら俺どうやって帰れば・・」「まあまあ、壊れてしまったらしょうがない、もう寝る時間でござるし一旦寝て、明日考えればいいでござろう」「かえで姉とジミーおやすみ~」「ジミー、明日ジャスタウェイのお墓作るの手伝うからね」「いや待てやッ! そこの双子実行犯ッ! 何ッ!? 俺の物壊してスルーッ!?」何時の間にかパジャマ姿の双子に、山崎はツッコミを入れるが、双子は「「どんまい!」」と親指を立てて、そのまま一緒のベッドで寝てしまった。「何がどんまいだチクショォォォォォ!! 俺のジャスタウェイを返せェェェェ!!!」「山崎殿、これお客用の布団でござる、天井裏で使うと良い」「布団貰ったワ~イッ! って誰が喜ぶかァァァァ!!!」楓から布団を貰った山崎はノリツッコミをして、部屋の中で大声で叫んだのであった・・副長・・俺はどうやらここまでらしいです・・深夜坂田銀時は、同居人のエヴァの家の屋根に座って空を眺めていた。江戸と変わらない夜空、違いといったらUFOが飛んでないぐらいだ、それ以外は自分の故郷と何ら変わり無い。「眠れないのか? 銀時」「・・何だテメェか」銀時がボーっと空を眺めているときにエヴァが屋根の上に昇ってきた。エヴァに気付いた銀時はそっちに目をやるが、すぐに夜空に目を戻した。銀時の隣りにエヴァは座って一緒に空を見た。「何か見えるのか?」「いや・・俺の世界と何も変わってねえ空だと思ってよ」「・・・・・・そうか・・」エヴァは相変わらず空を見ている銀時を見た。今まで見たことが無い表情だ・・「お前は・・元の世界に帰れる事が出来たら・・どうするんだ・・?」「・・・あっちでは俺を待っている奴らがいるんだよ」「じゃあ帰るのか・・?」「・・・・・・」「帰るな・・」「抱きつくな、暑苦しいんだよ・・」空を見ていた銀時は、いきなり腰に抱きついてきたエヴァに顔を向ける。表情は見えないが小さな背中が震えていた。「お前までどっかに行ってしまったら・・私は・・」「・・・・・・・・」「銀時、帰らないと言ってくれないか・・?」「無理だ、帰らなきゃ行けねんだよ、俺は本来ここの人間じゃねえ、俺がいるべきはあっちの世界・・江戸なんだよ」「イヤだ・・帰らないでくれ・・ずっと一緒にいたい・・」「お前な・・」嗚咽をもらしているエヴァの頭を銀時は優しく撫でた。彼女は一層強く抱きしめてきた。そんな様子のエヴァに銀時はため息をついて、再び空を見上げた。「もし帰るとしたら・・お前も連れて行ってやる」「お前の世界・・?」「悪い世界じゃねえぞ、まあ宇宙人がいるけどな、あと個性が強い歌舞伎町の住人もいる、お前の呪いを解いて帰れる手段見つけたら・・まあ、来るかどうかはお前次第だがな」「行くに決まってる・・死ぬまで一緒だ・・」「そうかい」自分の涙を拭いて、エヴァは顔を上げて笑みを浮かべて銀時を見る。そんな予想通りの彼女に銀時はフッと笑った。「長谷川千雨と雪広あやかは誘うなよ、特に雪広あやか」「別に連れて行っていいんじゃね?」「駄目だ、奴等と一緒に行きたくない」エヴァは凄みのある声を出して二人が江戸へ行く事を拒否する。「私以外の女を連れて行くのは許さん」「そういえばお前って女だったね」「え・・貴様ッ! もしかして私を女として見たこと無いのかッ!?」「お前みたいなチビガキをどうすれば女に見えるんだよ? ちっさい=ガキだよ、悔しかったら牛乳と煮干しを死ぬほど食いまくってなさい」「もうキレたッ! 600年生きる『闇の福音』をよくも怒らせたなッ! もう容赦せんッ!」屋根の上で銀時とエヴァは暴れている所を、下から茶々丸と彼女の肩に乗っかっているチャチャゼロは、二人が掴みかかっているのを優雅に眺めていた。「止めた方がよろしいのでしょうか?」「ケッケッケ、ゴ主人嬉シソウダシ、ホッタラカシニシトイタ方ガ良イト見タ」「了解です姉さん」茶々丸とチャチャゼロは屋根の上で喧嘩をしている二人が疲れて下りてくるまで、お茶を作って、ずっと眺めていた。