初出 2009/03/15 以後修正
改稿 2009/03/18 以後修正
─第10話─
修学旅行二日目。
──────
二日目朝。目が覚めたら、朝でした。
さて。今日から自由行動か。
今日はネギと合流する明日菜班達は奈良公園に向かう事が幼女コピー情報からわかっているので、あとは安心だ。
というか、この日って原作でなにがあったんやっけか。
次の日が山場ってのは覚えがあるんだけど……
思い出せないって事は、ストーリー的に大きな事は起きなかったって事だろ。
「そういや、昨日ネギ先生達外に出てた?」
朝起きて、そういえばと思い、中身幼女のエドに聞いてみた。
「ほう。ぐーすか寝ていただけかと思ったが、ちゃんと察知していたのか」
まー、一応夜なにか起きるとは覚えてたからね。
「そっか。ならいいや」
「結果は聞かんのか?」
「近衛このかが誘拐されそうになったけど、無事取り戻せた。だろ?」
「わかっているのか。つまらん」
「どーせ君も見てただけなんだろ?」
「あの程度になんで私が手助けしてやらねばならん」
本当に大ピンチになってたら飛びこんでたんだろうけどなー。
「ま、君はそうだろうね」
「お前はなにもしてやらんのか?」
「藪をつついて蛇は出したくないからね。俺が関わる事によって過剰な反応が返ってきたら本末転倒だろ」
「……案外バカじゃないようだな」
「なんでもかんでも手助けしたら育つものも育たないしな」
本音は関わりたくねー。だがな。
「それに、子供の喧嘩に大人が出て行ってどうするよ。向こうも大人が出てきたら考えるけどね」
「東西の争いを子供の喧嘩あつかいか。ははは、面白い」
「そんなわけで、基本傍観という事で」
「うむ。では行くぞ!」
「おー」
今日の自由行動は、ネギのクラスと鉢合わせしなければ好きにしていいと、幼女の行きたいところにお任せしてある。
他の班員も、幼女の熱弁を受け、一任していた。旅行に行ける事が嬉しいのか、張り切ってたからな。もっとも他の彼等来ていないけど。
ちなみにナギの住居探索は三日目以降の予定。そもそも流れ通りなら、4日目に幼女はネギと一緒に行けるからね。
旅館を出ようとしたところで、俺の携帯がなった。
半デコちゃんからだった。
シィット! そんな巻きこまれ手段があったか!
そしたら幼女に奪われて、電源を切られようとしたが、きり方がわからなかったのか、そのまま真っ二つにされた。
「おいぃぃぃぃい!」
「これは今日終わるまで預かっておく」
「預かるじゃねえよ! 叩き壊してるじゃねーか!」
「知らんな」
「知らないのは電源の切り方だろこのハイテクオンチが」
きりきりと頭を握る。
「うるさい! ちょっと力をこめすぎただけじゃないか!」
「素直に謝る事も知らんひねくれっ子め!」
すぱっと奪い返す。
「ったく。今日の自由行動中一応これ使うんだからな?」
「う……」
そう。担任とかに連絡をしたり使うのだ。
迷子になった時とか、定期連絡とか。
最近は便利になったよね。
「まあ。相手が俺でよかったよ」
『復元光線~』
あーら不思議。この光を当てると壊れたものを壊れる前の状態に直してくれます。
『タイム風呂敷』でも同じ事は出来るが、これは壊れる前以前には戻らないし、壊れた後に進める事も出来ない。
あくまで直すだけ。だが照射するだけなので、どれだけ大きなものにも使える。
「ぴかっとな」
真っ二つだった携帯が時を巻き戻すように直ってゆく。
「また出鱈目な事を」
「というわけで、許してやる」
「だが断る」
「……」
「電源を切れば許してやる」
「なぜお前が許す方向に話が進むのか、俺には理解できないのだが。俺が言ってた事、聞いてたか?」
「うるさい。今日は私が決めた日程だ。他の誰にも邪魔はさせん。大体貴様も関わらないと言ったばかりではないか」
「いや、そうなんだけどね。つーか、俺昨日ネギに見つかったんだよ。俺修学旅行は北海道と言ってあるから、それ関係の説明くらいさせてくれてもいいんじゃない?」
お前が勝手に行き先変えたからな。
「そんなもの旅行が終わってからでかまわないだろう!」
「んじゃあせめて電話とか出来ないってメールくらいは送らせてくれ」
「……め、めーる? これで手紙も送れるのか?」
「いまどき珍しい人種もいたものですね」
実演という事で半デコちゃんに今日は返事が出来ないのですまないと回答。
メールの返事で、昨日の事は事故だったと知りました。という謝罪メールが来たので、許すと回答しておいた。
あと、北海道から京都に変更になった経緯も説明。ネギに伝えておいてくれとも送っておきましたとさ。今回の件について協力とかそういう話題は出てこなかったので、そのまま知らんフリした。
めるめる。
「おおー。これがめーるか。最近は便利なものだな」
「文明開化の音がしたね」
「う、うるさい! 別にそんなものなくとも、魔法があれば同じ事が出来る!」
「そんなんだから文明に取り残されるんだ。せっかくだからエド名義あたりで携帯持ったらどうだ?」
「む……?」
「今なら俺のアドレスと電話番号がおまけについてきます」
「……考えておこう」
そんな事がありつつ、二日目の自由行動。幼女主導での京都観光がはじまりました。
───エヴァンジェリン───
修学旅行二日目。
私は奴と、ふた、二人きりで、京都観光へ行く事となった。
べ、別に全然意識などはしていないぞ! ないんだぞ!!
だが、二人で出発となった時、桜咲刹那から奴に電話がかかってきた。
奴が電話に出ようとする。
むかっ。
おいこら。なんのためにあの小娘のクラスとかち合わないよう行き先を決めたと思っているんだ! このアホが!
電話を強引に奪い、電源を切ろうとしたが、切り方がわからず、力を入れすぎて壊してしまった。
あ……
す、すまない。
そう言葉に出したいが、素直にはなれない。
どうしても、憎まれ口が出てしまう。
だが、奴はそんな私を見透かしてか、あっさりとそれを修理してみせた。
相変わらず出鱈目な奴め!
少しでも悪いと思った私がバカみたいじゃないか!
「というわけで、許してやる」
「だが断る」
それで私が感謝するとは思うな! 感謝なんてしていないからな!
だが、電話が直ったという事は、また桜咲刹那からの連絡を受けられてしまう。
奴は、電話を受けられないとめーるを送ると言った。
めーるに関して実演を受ける。
これは便利かもしれないな。うん。
今度携帯電話という物を持とう。
私は心に決めた。
決して奴の電話番号が知りたいとかではないからな!
桜咲刹那が知っているからというわけではないからな!
携帯とやらが便利だからだ!
再び奴の携帯の電源を切り、我々は出発となった。
観光をしていると、奴の行動が一つ気になった。
誰もいないところ。風景をわざわざ写真に残しているのだ。
「なにしているんだ?」
「写真を撮ってるんだよ。今日来れなかった彼等に、これと一緒になにがあったか話してやろうと思ってさ」
「はぁ?」
修学旅行に来れなかったあの3人のため、だと?
「中学の修学旅行ってのは、基本的に一生に1度だからな。来れなかった彼等に、少しでもそれが伝えられたらいいと思って」
なんだ、それは? なんだその自分のせいで来れなかったとでもいうような顔は。
奴等は貴様の噂など関係なく楽しみにしていた。
あの3人が来れなかったのはあくまで偶然だ。誰のせいでもない!
なのになぜ、貴様が気に病んでいるのだ!
「言っておくがな、奴等が来れなかったのは偶然だぞ! 私がなにかしたわけでも、お前がなにかしたわけでもない。奴等の体調管理が悪いだけだ!」
「ははは」
少しびっくりしたような顔をして、奴は笑顔となり、私の頭をなでてきた。
「それでも、してやりたいのさ。おせっかいだとしてもな」
なんなんだこいつは。戦いの時、敵にはまったく容赦をしないくせに、こういった者達への配慮は欠かさない。
クラスでも根も葉もない噂で浮いているくせに、それを気にしたそぶりはまったく見せない。
それどころか逆に、クラスの奴等へ気を使っているほどだ。
ただの嫌な奴かと思っていたのに、変に優しいところもある。
ガキのクセに、妙に大人びたところがある。
一緒にいればいるほど、ワケがわからなくなるよ。
ますますお前の内面を、知りたいと思ってしまうじゃないか……
「ふん!」
「ぐえっ!」
思わずボディブローをかましてしまった。
……だ、誰がこんな奴の事を知りたいと思うか!!
こんな奴ただの下僕候補1にしか過ぎん!
「て、てめえ……」
「うるさい!」
全部、全部。私のペースが狂うのは、全部お前が悪い!
──────
一方その頃。
ネギ先生は本屋ちゃんに告白されていた。
──────
無事帰ってこれた。
もうこの幼女の行動はホントに読めない。
突然ボディーブローとかなんやねん。
……入ってすぐ、ロビーでもだえるネギ先生がおりました。
「……なにしているんだアイツは」
中身幼女もあきれています。
……あ、思い出した。そういえば、本屋ちゃんの最初の告白って修学旅行中だったか。
てことは、今日ネギとの仮契約になるんだな。
つか、本屋ちゃんマジ百合なのね。
───ネギ───
み、宮崎さんに、告白されちゃった……
ま、まって。僕、これでも女です。スーツとか服装はズボンが多かったり、動きやすい格好が多いけど、女なんです。
なのに宮崎さんが、僕を好きだって。
でも宮崎さんは女の人で、僕も女で、しかも先生と生徒で……
「ううー。あああー」
ロビーでごろごろと、転げまわって悩みます。
そもそも。そもそも僕は……
「責任は全部俺が取るから」
はわー! なんでこんな時にあの人の顔がー!?
───3-Aの面々───
「どうしたのかな、ネギ先生?」
「なにやらただ事ではないご様子」
ごろごろ転がるネギ先生は、生徒に心配されていた。
「なんか風の噂だけど、ネギ先生告白されたとかって聞いたよ?」
誰かわからないが、そう声を上げた。
「な、なんですってー!?」
ネギ先生LOVEな委員長。雪広あやかが声を上げる。
一体、誰が!?
「まさか、3-Aの誰かが!?」
「あ、いいんちょ!」
佐々木まき絵がネギの方を指差した。
そこには、旅館に戻ってきた、男子生徒二人の姿があった。
ごろごろ転がったネギが、そのままロビーに入ってきた男子生徒の一人の足に激突する。
当然、ぶつかった相手は、『彼』である。
「……ネギ先生、なにやってんの?」
「はわっ!」
その男子生徒の顔を見た瞬間。
彼女は顔を真っ赤にして、飛び起きた。
「知り合い、ですの……?」
そして、あわあわとあせり。うつむいて、ぼそぼそと、なにかをつぶやき、そのままその男子生徒の前から、逃げ出してしまう。
その姿はまるで……
「どうしたんだろうね?」
「私が知るか」
そう言って、男子生徒二人は去っていった。
「なななななー!? な、なんなんですのあれはー!!」
「いいんちょいいんちょ! 落ち着いて! 落ち着いてー!」
「あの二人意外とかっこよかったね~」
「金髪の方すごい美形だったー」
その他のクラスメイトの声。
髪の長い金髪美男子を連れた男……
「あ、でもさっきのあの人、私知ってるかも」
「そうなのですか!?」
「あ、私も知ってる~」
「あ、私も~」
その『彼』の噂を、みんなで上げていく。
出るわ出るわ出るわ。
中学生を妊娠させたとか。
小学生と路上で抱き合っていたとか。
女性の家に入り浸っているとか。
男子ともねんごろになっているとか。
その被害者100人だとか。
それらの事は記憶喪失となって、すべてなかった事にしたとか。
出るわ出るわ出るわ。
そんな人間が、ネギ先生をたぶらかそうとしている?
「それは、本当なのですかー!?」
「本当にその人かは知らないよー」
麻帆良のパパラッチこと朝倉に確認に行く。告白の件についても、聞くためだ。
まさか彼が、その噂の彼?
「ああ。その噂の当人なら、そうだね~」
「なっ、なんという事でしょう!」
「ただ、その噂、全部噂でウラの取れてるのは一個もないから、デマって事も」
「ですが火のない所に煙は立ちませんわ!」
実際妊娠事件は目撃者多数だし。
男子とねんごろもかなり信憑性は高く。
記憶喪失も事実。
事実をふくんでいるため、この噂は彼にとって悪い方向で性質が悪かった。
ちなみに昔桜咲刹那と噂にあがった事は忘れ去られているようだ。
だが、確定情報ではない。
「あらあら。それなら、直接聞いてみたらどうかしら?」
「それですわ!!」
「一応、こっちでも告白の件とかウラとってみるね~」
こうして、彼女達は一度解散した。
この後は原作の流れどおり、朝倉魔法バレが発生し、カモとパパラッチが同盟を組む事となりましたとさ。
──────
……あの、いきなりですけど、なんでしょう。これ?
今俺、なぜか3-Aの子達の部屋のある階の廊下で、正座させられています。
夜、飲み物を買いに出てきてみたら、こうなってます。
目の前には、3-Aの子達。
ほら、ショタLOVEの委員長とその他あんまり主要じゃないネギクラスの面々てやつ?
いや、こっちだとネギ女の子だから……まいっか。LOVEは変わってないようだし。
「さて、話していただきましょうか」
「えーっと、なにをでしょう?」
「とぼけないでください! 多くの女性では飽き足らず、ネギ先生までその毒牙をかけようとしたのでしょう!! ネタは上がっているのですよ! こうなったら雪広財閥の全権力をかけ、社会的に葬ってもよいのですよ!」
えええええー!? なにそれ!? 俺なにしたのー!?
「心当たりがおありでしょう!?」
こうやって囲まれて、尋問される、心、あたり……?
しかも、ネギ関係……?
……昨日の、温泉の一件を思い出した。
「いや、昨日のアレは……」
「昨日のおぉぉぉぉ!!!?」
委員長が、驚いている。
周囲の子達はきゃー。じゃあネギ先生それでーとか声が上がった。
え? 違う、の……?
「昨日!? 昨日もあなたはネギ先生にナニカしたんですか!? したんですね!?」
ひえー。藪を突いて般若が出てきたー。
「まさか、やましい事をネギ先生にしたんじゃないでしょうね! どうなんですか!?」
……
……し、しました。特大の事を。
事故だからと言っても、そんな事知られたら、それこそ万死に値するクラスの事を……
「あ、え、い、いや……」
事故とはいえ、女の子の裸を見た俺は、その問いに答えを返せなかった。
やばい。この態度はやばい。
これじゃ俺はナニカしましたと言っているようなものだ。
だが、この瞬間。
「ちょーっと待ったー!」
そこにパパラッチが現れた。
結論から言おう。
原作にもあったネギの唇争奪戦。それが開催される事となった。
……俺も、参加する事となって。
なんかよくわからんが、巧みな話術でみんな乗せられたようだ。
しかし、幸運だった。彼女がやってきたために、俺のあの態度が誰にもばれていなかった。となると、昨日の件がばれるのを防ぐため、オコジョが行動を起したという事か。
借りが出来てしまったな。だから参加はしてやろう。仮契約はしてやらんが。
ところで、もしネギ先生が受け入れるなら拒否する権利は誰にもない。とか言ってたけど、このゲーム自体ネギの唇を奪うゲームだよね。
拒否とか意味なくね?
「あなたのような馬の骨には決して負けませんからね!」
委員長さんに言われました。
ちょう敵視されてます。
まあ。君から見れば俺明らかに危険人物だもんね。あんな噂漂う奴をネギに近寄らせたくないよね。
安心してください。ネギに変な事とかするつもりはないから。
でも、これだけ想われているネギはある意味幸せ者だよね。
他の人達はワリとあきれた目で見てます。
むしろ俺VSいいんちょの対戦が見ものみたいです。
やめてよね。俺が本気を出した彼女にかなうわけないじゃない。
準備期間中に逃げようかと思ったけど、3-A武道派少女が見張りにいて逃がしてもらえませんでした。
「ふっふっふ。楽しみアル」
「その実力、見せてもらうでござる」
……格闘少女ズが原作よりやる気があふれているのは俺と戦えるからですか?
こっちもやめてください。枕オンリーといっても、勝てる気しません。
ちなみにこれ、約束の1回と数えないそうです。一対一の勝負じゃないからってさ。とほほ。
あと、彼女達メインキャラは争奪戦開催決定後にやってきたため、さっきのやりとりは聞いてない。
ところで。俺の枕ないんだけど。
「ハンデです」
俺一人なんだけど。
「ハンデです」
男なんだからこの程度の困難切り抜けろだって。
花嫁さらいに行く花婿じゃないんだから。
……まあ、いいや。
はじまったらさっさとスタコラサッサすりゃいいんだから。
今後の展開に影響が出ないように。
戻ったらまた幼女怒ってんだろうな~。
まだ飲み物も買ってないしな~。
時間になり、ラブラブキッス大作戦が、はじまった。
「さあ、いくアルよ!」
「ござるな」
俺の目の前で、見張りをしていた格闘少女ズが、枕をかまえる。
「おーけーおーけー」
俺は、ぺろりと指を舐め、逃げる体勢に入った。
───雪広あやか───
あの時、私以外の誰も気づいてはいませんでしたが、私は、見逃しませんでした。
私が「やましい事をネギ先生にしたのか?」と言った時の、彼の動揺を。
あの動揺。あれは、明らかに、ナニカをしていた態度だった。
あれは、まさに、その身が語っていました!
『私は、ネギ先生に、君には話せないような、後ろめたい事を、しました』
と。
最初は噂の真偽を確認し、ネギ先生にふさわしい男かを見るつもりでしたが、もう別問題です。
むしろ確認できました。噂なんて生ぬるいじゃないですか!
まさか、昨日すでに、ネギ先生に後ろめたい事をしているなんて!
私達3-Aの宝物。
そのネギ先生に!
この時点で、私は。雪広あやかが。彼をネギ先生に近づけてはいけない。と、確信したのも、当然でしょう。
これ以上、ネギ先生をたぶらかせてなるものですか!
その上、飛び入りでネギ先生の唇を奪おうなど、断じて許してなるものか!
ネギ先生の唇を奪うなど、万死に値します!!
彼女は、本能的に感じ取っていた。
彼が、自分の人生、最大のライバルになるであろうと。
ここで、2度とネギ先生に近づかないようにしておかなければ、大変な事となると、確信していた。
彼女は、ネギに、すでに失われてしまった妹の姿を見ていた。
それゆえ、彼女の幸せを願っている。
幸せを願っているがゆえ、『やましい事』をしたなどという不埒者を、許してはおけなかった。
それは、姉として、当たり前の事だった。
彼女がもし、昨日の顛末を知ったら、彼に万死を与えるどころじゃすまなかっただろう。
そういう意味では、彼は、まだ幸運だったのかもしれない……
……え? どの道万死だからそれ以上ないって? そーかもねー。
───長谷川千雨───
ったく、くっだらねー。
なんで私がこんな事を。那波に村上にピエロめ逃げやがって。
「つべこべいわず援護なさいな。ネギ先生は私が守るのですから! あの不埒者に万死を与えてやります!」
「枕で?」
ただのゲームだろコレ。ついでに先生に男の友達がいてもいいじゃねーか。
「安心なさい。こんな事もあろうかと、枕にショットガンを仕込んでおきましたの!」
……
「なに。ちゃんとゴム弾ですから死にはしませんわ。ついでにいざとなったら当家が責任を持ってもみ消しますので。おほほほほほほ」
……オイオイ、マジかよ。なんでそんなに怒ってんだよ。
そんなにあの子供先生大事なのか?
そういやなんかすげー悪い噂のある奴だとか言ってたっけ。
だからってそこまでするか普通?
「いや、やりすぎだろ……」
「なにをおっしゃいますか! あの方はネギ先生になにか後ろめたい事をしたのは確実なんですよ! あのネギ先生を狙っているんですよ! 即座に排除しなくてはネギ先生が汚されてしまいますわ!」
「別に手を出したわけでもないのにそこまでするか?」
「ですから手を出す前にどうにかするんじゃないですか!!」
ああー。なっと……く?
いやいやいや、納得しちゃ駄目だろ。
納得するって事はこいつらの考えに染まるって事だ。
それは断固お断りしなくては。
「やっぱいいんちょ。私やっぱかえっちゃ……」
その時。
「ふー。なんとかまいたか……」
そんな声と共に、いいんちょの目標であるあの男が、この場に現れた。
「見つけましたわー!!」
「げっ……」
な、なんて間の悪い奴……
「格闘少女ズの次は君か……」
あの男がげんなりとしている。
そもそもあの二人相手にこっちまで逃げて来ていたのが驚きだ。
ただの一般生徒にしか見えねーのに、意外にすごい奴なのか?
どぱぁん!
廊下にあった花瓶が爆砕した……
ちょっ!
奴もびっくりしている。
そりゃ、枕からゴム弾が出たら驚くだろうし、花瓶が粉砕される威力なんて足も止まるよ。
「次は外しませんわ!!」
いいんちょが、男に枕を向ける。
「ちょまー!」
体をひねり、散弾をかわす男。
オイオイ。あんたも散弾をかわすって何者だよ……
そして、そのままこちら。
「すばしっこいですわね!」
枕を向けようとしているいいんちょに向かって走ってくる。
って、はやっ!
なんだこの動きとスピード!
それはまるで、稲妻みてーだ!
一瞬にして、いいんちょの横を通り抜けた。
それでも、いいんちょも負けないくらい超反応して、振り返り、そのまま動く男に標準を定め、枕ショットガンの引き金を……
……って? え?
位置が入れ替わったせいか、いつの間にか、アイツと、ショットガンの銃口の後ろに、私がいる事に気づいた。
図にするとこう。委員長=男=私。
もし、奴が、ゴム弾をかわしたら……?
そもそもあれ、散弾じゃ……?
「もらいましたわ!」
いいんちょの奴、熱くなりすぎて私が見えてねぇ!
それとも、私は男の影になっていて見えないのか!?
「くっ!」
だぁん!!
発砲音。
ついで来る、衝撃……
……は、なかった。
……え?
あのゴム弾は、花瓶を爆砕させるほどの威力。
あんなもの、誰も当たりたくはないだろう。
その威力を、あの男は、知っているのに……
それなのに。
私の目の前に、その、男がいた。
私には一発のゴム弾も来ていない。それはつまり、彼が、銃弾すべてを浴びたと言ってもいい。
この男は、弾丸をかわせるはずなのに。
その威力を、知っているのに……
「迷惑かけて悪かったな」
男は、そう言って、私の頭に一度手をぽんとのせ、微笑えんだ。とても、優しい声で。
……なんであんたは、こんな馬鹿みたいな状況で、笑っているんだ?
そのまま彼は、いいんちょの方を振り向き。
いいんちょも、私がいた事に気づいて一瞬驚き。彼もそれに頷き返した。
グッジョブ!
そんな感じで二人は親指を立て。
いいんちょは、一人親指を、下にむけた。
その瞬間。
『ジャッジメント!!』
「うぼぁー」
変な空耳が響いて、なぜか奴が真上に吹っ飛んでいった。
そのまま、床に落下……
「正義は、勝つ!!」
委員長がポーズを決めると、床に落下した男が、ピンク色の爆発に包まれた。
「うぉい!!」
思わず叫んだ。
なんじゃそりゃー!!
「しまった! 逃げられた!?」
しかも、煙がなくなったら、男は消え失せていた。
な、なんなんだ今の……?
ここまで来ると、あのショットガンも完全に演出のようにしか見えない。
多分カメラで観戦している奴等は大興奮大喝采だろう。
まるで特撮かなにかだ。
つーかおかしいと思ってるの私だけか!?
この場合私がおかしいのかー!?
「おまちなさーい!」
いいんちょは一人、どこかへ駆けて行った。
「……や、やっぱついていけねぇ」
この3-Aのノリは、やっぱり苦手だ……
「……このままズラからせてもらうか。ホームページの更新もあるしな」
彼女がげんなりしつつ歩き、角を曲がったところで、そこを、監視の新田先生が通りかかった。
が、すでに通り過ぎた彼女を発見するにはいたらなかった。
ほんの少しの幸運が、彼女に舞い降りた瞬間である。
それと補足だが、近衛このかは、昨日彼の背中しか見ていないので、この彼と昨日の彼が同一人物だとは気づかなかった(顔は明日菜にボコボコにされ判別不能)
───カモ───
「へっへっへ。予想外だったが、まさかダンナまで巻きこめるとは思わなかったぜ」
「あの人ってなんなの?」
本日俺の相棒となった朝倉の姉さんが聞いてくる。
「すげー人さ。あの人から仮契約をもぎ取れりゃ、最高だぜ!」
アネさん達は頑なに力を借りようとしねえが、仮契約さえしちまえば、もう身内も同然。力を貸してくれるに違いねえ!
……ところで、もっと確実なネタあった気がすんだが、思い出せねえんだよな……(正気を保つため忘れた)
「へー。噂じゃかなりアレな人だけど、いいの?」
「そりゃ仮初の姿って奴だ。情報に踊らされてるぜ」
「そっか。それじゃこれでウラが取れたと。と」
「これでダンナとも仮契約が出来て、カード一枚につき5万オコジョドル儲かるから大金持ちだぜー!」
「ひゅーひゅー!」
「さあダンナ! ネギのアネさんの唇をぶちゅーっと!」
「え? でもあの人、負けちゃったよ」
いいんちょジャッジメントを食らって、床にぼてりと落ちたダンナが見えた。
「なにいぃぃぃぃぃぃ!? なんでダンナが!? ダンナをもってすれば、こんな勝負楽勝じゃねーか!」
「あっさり負けちゃったねぇ」
「ん? いや……いない?」
『おまちなさーい!』
委員長がダンナを探して走り抜けていく。
「ダ、ダンナはどこ行っちまったんだ?」
「ここだよ」
ダンナの声が、入り口から響いた。
「ひゃぁ!?」
朝倉の姉さんびっくり。
「あ、そっちは俺に気にせず解説続けて」
「は、はあ」
「ダ、ダンナ……?」
「ああ。棄権しにきたんだ。さっきので失格になったとしておいてくれ」
「は、はあ」
「悪いな。俺に助け舟を出す意味もあって、こんな事を企画してくれたんだろ? 期待には答えられないが、助かったよ。ありがとう」
ぽふぽふと、あの人は、オレッチの頭を撫でた。
オ、オレッチはただ、仮契約のためにやっただけだってのに。自分のためにやったってのにダンナってば……
オレッチは、いつも誰かに叱られて生きてきた。やる事は必ず怒られた。今回も怒られると覚悟してた。それなのに……
それなのに……
そんなオレッチに、ありがとうなんて……
アタイ、ダンナになら、操をささげてもいいかも。
「このクラスはいいクラスだね。ネギ先生がすごく慕われているのはわかった。それじゃ、俺もう帰るから」
「はーい。意外と、悪い人じゃないって伝えておいてもいいけどー?」
「いやいや。噂どおりの悪人のままでいいよ。下手に話を広げると、今度はネギに迷惑がかかる。このまま俺みたいな奴の事は忘れてもらってけっこう」
そう言って、ダンナは、いつもの敬礼にもよくにて、その後手首を返すポーズをとってオレ達のいる部屋から出て行った。
そのままもう、ダンナをカメラで捕らえる事は出来なくなっちまった。さすがすげぇぜ。
「案外いい人だね」
「むしろダンナいい人過ぎるんだよ。今回もそれで損したに違いねぇ」
得もないのに、ネギのアネさんのため、エヴァンジェリンに『サウザンドマスター』の事を教えて欲しいと頼むとか。
さっきの、アネさんに迷惑がかからないように自分が悪くてかまわないとか。
昨日も、悪くもないのに、自分が悪いと言っ……昨日? きのうー?
「そっかー。珍しい人もいたもんだねぇ」
「そうなんだ……よ?」
……ん?
「なあ、姉さん」
「何よ?」
ふとカメラを見て、気づいた。
「ネギのアネさんが、5人いるように見える……」
「え……?」
なんじゃこりゃあぁぁぁぁぁ!?
──────
はじまった瞬間、カンフー&忍者少女に襲撃を受けたけど、ポケットの中に用意しておいた『デンコーセッカ』を服用し、逃げ出した。
武器が枕のみだったのが幸いでした。投げたのをかわしたら拾いに行かなきゃならないからな。
『デンコーセッカ』
薬剤。服用すると電光石火の速さで動き回ることができる。瓶入り液体であり、この際はポケットの中で蓋を開け、指で舐めとる形で服用。当然効果時間は短くなるが、服用の早さという点を優先した。
ちなみに四次元ポケットの中は上下はないので、蓋を開けたままでもこぼれるような心配はない。
でも、逃げた先には委員長がいました。
こっちは装備が反則です。
枕の中にショットガンですか。ネギのタメに俺を排除する気満々ですね。
という事は、あの動揺、彼女にはバレたって事か。さすがネギラブっ子鋭すぎる。
でもそういう手段を選ばないお金持ち。おじさん嫌いじゃないです。
対象が自分なのは困ったものだけど。
即効逃げようとしたけど、立ち居地を失敗。
名前覚えてないけど、メガネちゃんを巻きこんでしまいました。
というか、委員長さん反応力高すぎです。『デンコーセッカ』に反応できるって、どれだけ超反応ですか?(単に効果が薄くなってきていただけ)
つまりそれだけ怒ってるという事ですね。ネギを守る事が力になった。愛は強し。わかります。
幸い『デンコーセッカ』を服用中だったから、弾丸は止まったように見えた。
もう、覚悟を決めて、『ウルトラくすり』を服用。
こっちは飲むと体が鉄のように硬くなるので、ダメージ自体はなし。メガネちゃんがちょっとびっくりしてたけど、説明するのも面倒なので、笑ってごまかしつつ、そのまま決着。
ちなみに薬はカメラとかには写らないよう影にして飲んだので誰にも見られてはいないと思う。
ジャッジメント爆発は、多分委員長が用意したんだろ。俺は知らね。
ショットガンの弾になにかあったんじゃね?
煙にまぎれて俺は撤退。
この後小動物に棄権を伝えて、俺は『石ころ帽子』を被ってこっそり本屋ちゃんの方を確認しに行った。
俺が関わったから、またこれで原作に齟齬が生まれてもらっては困るから。
ちなみに『石ころ帽子』は監視カメラに写っていてもかぶっている『俺』は認識できないので俺とばれる事はないので安心だ(カメラには写っていても人は俺がいるとわからない)
「友達からはじめましょう」
「はい!」
別に俺がなにかをせずとも、本屋ちゃんは本物のネギと出会えてました。
無事、仮契約終了。
ふー。よかったよかった。
俺が関わって仮契約失敗。明日俺がどうにかしないと! なんて展開を期待した奴もいるかもしれんが、そんな事なかったぜ!
やっぱり、『俺』がメインキャラに絡まれなければ、原作と変わらず進むんだよ。
そう、俺は確信した。
だから悪いな。
正座させられる君達は見捨てねばならん。
本当に、すまない。
しゅっと『石ころ帽子』を被ったまま、いつものポーズでロビーのネギ達に別れを告げた。
「……それで? 言い訳は?」
「ございません」
部屋に戻ると、予想通り怒りマックスの幼女に叱られました。
二日連続でなにやってるんだって。
ロビーのネギ達と同じように。俺も部屋で、正座&説教を食らいました。
「大体だな貴様は──!!」
「すみませーん」
ぺこぺこ。
こうして俺の修学旅行二日目は、終わりを告げる。
───おまけ───
クーの話に出てきていた御仁と枕が武器ながら、戦う機会を得た。
昨日他の班員に紹介したらしいのだが、丁度拙者は席をはずしていたので、この時が初対面でござった。
勝負がはじまり、あの御仁が構える。
この方、でき……
……ない!! とんでもないシロートでござる!
だが、その認識は一瞬にして覆された。拙者がそう油断した瞬間、あの御仁は我等をまいてしまったのだから。
その速さ、まさに電光石火。
実戦であったならば、あの油断は致命的。あの速度。気づいた瞬間に死んでいてもおかしくはない。
いやはや、これが百聞は一見にしかず。でござるか。
これが、クーの言っていた、あの御仁の怖さ。
世の中は広いものでござるな。
─あとがき─
主人公、3-Aの子達と出会うの巻。
噂の確認で召集されたのに、一人で勝手に自爆。おかげでネギの守護者に目をつけられてしまいました。
警戒するではなくてすでに危険人物指定です。
そりゃあネギにやましい事をしたなんて知ったら仕方もありません。
真実が知られたらどうなる事やら。
キスイベントでキスをする側で参加する主人公は珍しいと思う。
いや、それだけですが。
ちなみに『ジャッジメント』はショットガンの弾丸に仕掛けがしてあったんです。多分。
気になる人は彼と道具が空気を読んだという事で(第1話で『ひらりマント』発動したみたいに……あれ? これのがありそうじゃね?)
それでも納得いかない方は、彼の帰りを待つエヴァの姿でも想像していればいいさ。