初出 2009/03/13 以後修正
─第9話─
ついに修学旅行編突入。
──────
修学旅行出発数日前。
───学園長───
学園長。近衛近右衛門は、一つの報告書を読んでいた。
『彼』の調査書である。
神話級の龍。『ヤマタノオロチ』をたった一人で召喚した者。
一体どれほどの者かと思ったが、結果は、ただの『一般人』以外ありえないという答えだった。
なにをどう調べても、ただの中学3年生。生まれも育ちもただの少年。
魔力もなければ、気も使えないただの少年。
根も葉もない噂──何人もの女性を泣かせたや100人の不良を倒した──があるが、調べてみればそのような事実もなく、授業態度は良好。成績も普通。ただし、現在はその噂のせいでクラスでは少々浮き気味。
それを除けば、たんなる中学3年生の少年。
唯一不審な所があるとすれば、現在『記憶喪失』である点だけ。
だが、この記憶喪失の理由。痛ましい事だが、なぜこうなってしまったのかは、納得がいく。
現在のひどい噂も、これの余波である可能性もある。
むしろそのような噂や事態におちいっても学校を休まない強さを見ると、好感を覚えたくなる子であった。
100人の者が調べても、100人が一般人と断言するほどの『一般人』。ただの、中学生。
しかし、一方で彼が『記憶喪失』として発見された時の日付は、記憶があった。
桜咲刹那君が、報告した正体不明の存在。
誰もが一蹴したあの報告。
今ならば、あの報告が事実だったと理解できる。
今ならば、確信する。
彼女が見た存在は、彼だったのだ。
ここから考えられる仮説は、いくつかある。
あの日、彼は、別の『彼』に入れ替わっていた可能性もある。
前世の記憶が蘇ったという可能性もあるだろう。
元々力を隠していたという可能性もある。
ひょっとすると、その日とは全然関係ないのかもしれない。
ただ桜咲刹那を助けただけなのかもしれない。
様々な可能性が思い浮かぶが、そのどれも、証拠は皆無。
ただわかるのは、彼が人知を超えた力を有しているという事。
得体の知れない何者かが、この麻帆良に入りこんでいるという事実。
だが、自分は確信していても、これでは駄目だ。
誰も信じられない事。それは真実でも、事実ではないのだ。
彼は一般人。
これは、彼の本当の力を見ていない者への事実。
完全なる隠蔽。なんという擬態能力。
自分もあの日、あの時、彼がわざわざエヴァンジェリンの場所へ現れ、その実力を示さねば彼という存在に気づかなかったであろう。
しかもそれを知れたのは、当事者達以外では自分のみ。
他の者は、自らの正気を保つため、あの事実を、認識すらさせてもらえなかった。
ただ、彼がエヴァンジェリンと戦ったのは、彼女が彼の平穏を脅かしたからだ。という。
彼女によれば、こちらから手を出さねば、無害なのだそうだ。
彼は、平穏に生活する事を望んでいる。
その平穏を乱すものには、容赦はしない。
すなわち、あの時わざわざ『ヤマタノオロチ』を召喚したのは、ワシが見ている事を察知し、警告の意味をこめてだったのかもしれない。
自らに手を出すとこうなるという事を、学園最強ともいえる真祖の吸血鬼を倒す事によって宣言したとも言える。
あの『闇の福音』をメッセンジャー代わりにするとは、なんと大胆な事か。
だがしかし、それをはいそうですか。と受け入れるわけにはいかない。
それはあまりに無法だからだ。
力があれば、なにをしても良い。それを認めてしまう事になるからだ。
仮に、平穏が本心としても、違うにしても、こちらから接触する事は慎重を期さねばならない。
藪をつついて龍が出てくる可能性がある以上は。
だが、先延ばしにして、事態を悪化させる事はさけなければならない。
今年は、世界樹の件もあれば、ネギ嬢ちゃんの件もある。
少なくとも、彼が本当に平穏を望んでいるのかくらいは確かめなくてはならない。
唯一の救いは、彼が向かう修学旅行先が、北海道であるという事。
これを見る限り、平穏を望んでいるというのは確からしいと察せる。
念のため、この修学旅行中に彼を観察し、どのような人間なのかを見極めるとしよう。
本当に平穏を望んでいるようならば、そのまま大人しくしているだろう。違うならば、対策を立てればいい。
「いやはや。困ったもんじゃのう。『彼の目的を明らかにせねばならない』のと『学園を危険にさらしてはならない』。この両方をやらねばならないとは、責任者のつらいところじゃの」
その後ため息をつきつつ、こちらこそ平穏がほしいわい。とつぶやくのであった。
「……せっかくこれほどの者なんじゃ。いっそこのかを守ってくれんかのう」
さらに、報告書にはもう一つの記述があった。
彼の血縁の中。そこに、魔法世界出身者が、いるのだ。
遠縁も遠縁で、ほぼ他人だが、彼にもその者の血が流れている。
最も、そんな遠縁を気にしだしたら、ほとんどの人間に対し注意を払わなくてはならなくなるが。
深い意味はないはずだが、なぜかこれが、気になった。
しかし、老人は知らない。
今確認している予定と、実際の予定が、変更されていた事に。
エヴァンジェリンの催眠術によって、彼のクラスの行き先が京都に変わっていた事に。
それはわざわざ、それに気づく可能性のある学園長まで上らないよう、細工されていた事に。
彼に注目していたが故、他の者への注意がおろそかになったとしても、それは仕方のない事だろう。
そもそもエヴァンジェリンに魔力が戻って、彼の隣にいるなど、想像の斜め上を行っているのだから。
予想外の幸運と、不運により、彼は何事もなく、修学旅行へと出発する。
より、誤解を招く事となる、修学旅行へと。
──────
俺は、全力を尽くした。
修学旅行でネギ先生一行とかち合わないために。
そこで絶対にまきこまれないために!
幼女という情報提供者(主に茶々丸経由だが)から得た情報を吟味し、彼女も説得。
どうでもいいけど、コピーロボの見てる事リンクして自分もわかるようにしてあるんだって。科学と魔法の融合ですよ。すごいですね。そもそも茶々丸は動力が魔力で他が科学なんだってさ。作者は当然あの子達。コピーは科学100パーセントですよ。
さすが『人形使い』。俺よりも道具を使いこなしてるよ。
く、悔しくなんてないんだからね!
まあ。おかげでネギクラスの情報をスムーズに手に入れられたから、結果オーライなんだが。
ちなみに茶々丸→幼女コピー→幼女本体→俺と情報が流れた。
そして、その努力は見事実り、日程上はまったくかち合うことはなくなった!
今回は幼女の時とは違って、俺が目標とかではないから、あいつ等とかち合わない限りは巻きこまれる可能性はないはずだ!
自分から近づかない限りは巻きこまれないはずだ!
……だが、まさか、ホテルが一緒だとは、盲点だたね。
いや、同じ学園だから、十分可能性はあったけどさ。これだけのマンモス校なら男女とか学校、学部とかで別になると思ってたんだよ。
普通そう思うだろ? 俺もそう思ってたよ。
困ったもんだね。
でもね。今度は修学旅行以外のところで、大ピンチになっているんだ。
すでに修学旅行1日目の夜。
俺が風呂をびばのんのと堪能しようと思って部屋を出発したあと。
ちなみにエドこと中身幼女は大浴場には行かず、俺達が泊まっている部屋に備え付けてある風呂に入っている。さすがに男湯に入るのは抵抗あるんだろうね。
あと、俺等の泊まっているところは洋室。確かネギ達は原作だと和室に泊まってた気がする。
しかも、聞いて驚け! なんと俺の班は俺と中身幼女のエドしかいないのだ!
他のメンバーはなぜか当日に欠席をしやがったのだ! 噂か!? 噂のせいか!? 俺がいるせいなのか!?
それとも本当にただの偶然で病欠なのか!? 気になるが、そっちよりなぜか中身幼女と二人で班行動する事に決定しました事の方が疑問です。
あれですね。隔離ってヤツですね。目から汁出していいですか? あのわがまま娘と二人きりって、みんなヒドス。
あと、えーっと……
えーっと……
……はい。現実逃避乙ですね。現実に目を戻しますよ。
風呂を行くために歩いていると、あのカンフー娘に見つかって、捕まって、彼女の班のところまで連れてこられたんだ。
たぶん忍者の子とかに紹介する気なんだろ。とか思ってたんだけど……
ロビーにつれてこられてさ。そしたらさ、いたんだよ。カンフー少女の班に。
学園祭に大事件を引き起こす。
未来から来た火星人。
俺の未来道具に唯一対抗出来うる可能性を持つ存在。
超鈴音。
彼女が。
カンフー娘と出会ったのは武道会参加フラグじゃなかったのかよぉぉぉぉぉぉ!!!
修学旅行中ネギに関わらず済むー。と思ってたらこの仕打ちかよ!
神様って本当に俺の事嫌いなんだな!
うわ、見てる。めっちゃ見てる。茶々丸から情報とか回ってたら、未来道具の事いくつかバレてんのかな。だったら嫌だな。でも俺君の方にも関わるつもりないから。
とりあえず、あれだよ。微笑んでおくよ。
僕は敵じゃないヨ(味方でもないけど)
人間笑顔が一番だヨ。
でもまあ、彼女の目的は人類殲滅とかでもないから、目をつけられてもあんまり怖くない。
……この時の俺は、そう思ってたんだ。
そりゃね。正体不明の人物と、学園が要注意指定している人物が仲良さそうに会話していたらね。
警戒もされるよね。
つーか、まさか俺が、超以上の危険人物と思われていたとかね。
もうね。
ありえないヨ。
───超鈴音───
彼本人に会ったのは、この時がはじめてだたネ。
情報としては知てたけど、まさかクーがここで連れて来るのはワタシも予想外ヨ。
彼の方も、ワタシと会うのは予想外だたようネ。
つまり、偶然。
いや、彼の場合は演技かもしれない事を考慮に入れないといけないネ。
なにせ相手はあの超一流、エヴァンジェリンを実力で圧倒する存在。
……直接会ても、本当に、またくそうは見えないネ。
でも、その擬態が彼の恐ろしさ。
茶々丸からデータとして情報をもらてなければ、確実に見落としていたヨ。
ただ、データを見て、いくつかわかた事はある。
エヴァンジェリン戦で見せた、彼女を助けたあの動き。
あれは、瞬間移動などではない。
あれは、時間停止。
そしてそれは、『時計』の起動時間ともタイミングがあう。
さらに、魔法の道具とは違う、奇跡とも言える事象を可能とする道具。
見たところ、彼はどちらかといえば、『こちら』側の人間。ワタシと同じ側の人間ヨ。
魔法ではなく、科学で魔法と同じ事を成す人間。
ただ、まさか、魔力の補助もなく、時空を操る人間がいるなんてネ。
私の科学の一部は、魔力に頼るところがある。
魔力は、科学より簡単に物理的限界を超える事が出来るからだ(例をあげるなら飛行)
一部、『時計』のように世界樹クラスの魔力補助がなければ使えないという制限もあるが、あくまで一部。
それで魔力を使わない理由にはならない。
だが、彼は違う。魔力を使わず、あの事象を実現させている。
魔力を使い、物理的限界を超えた技術より、なお難しいハードルを超えた、その先にある技術を。
どこかの誰かが言ていたネ。
高度に発達した科学は、魔法と区別がつかない。と。
きっと彼は、その高度に発達した、科学という名の魔法を使う存在ヨ。
この言葉を、そのまま体現した存在ヨ。
彼は茶々丸の前で、『サウザンドマスター』と名乗たネ。
彼が自身では魔法を使えないと言たのも収集済み。
それはつまり、『千の科学を操る男』。これが、その真の意味。
しかし、見れば見るほど、ただの一般人にしか見えないネ。
「!?」
あちらを見た瞬間、微笑まれた。
彼は、私を知らないはず。
エヴァンジェリンが教えた? それはない。彼女にそれをする利も、意味もない。
今の段階で警戒されるような事はしていない。
それなのに、すべてを見透かされているような気がしたヨ。
まさか、『サウザンドマスター』は私にあてたメッセージだたトカ?
そんな事はない……とは言い切れないのが恐ろしいネ。
なにせ彼は、私の知る歴史の中にも存在しないイレギュラー。
正直、敵に回したくはないネ。
魔法使い達より、私と『同じ側の徒』である彼の方が強敵かもしれないからネ。
もし、本当に彼が『科学の申し子』ならば、個人的資質に大きく頼る魔法使いより、科学の本質。
『誰でも平等にその効果が発揮出来る』
をたやすく実現させてしまうから。
これならば、彼が一般人並の雰囲気しかもっていない事にも説明がつく。
そしてそれは、一般人が『サウザンドマスター』クラスの力を持てるという証明にもなる。
……これほど恐ろしい力はないネ。
彼が敵に回り、誰かと手を組まれたら、正直勝ち目はない。
なら、簡単な話。彼を、敵に回さなければよい。それだけの話ネ。
彼が味方についてくれればよい。それだけで計画成功の可能性も飛躍的に高まるネ。
彼がいれば、実現するヨ。
中立に徹してくれるなら、それでかまわない。
例え味方にならなくても、敵に回さない方法はいくらでもあるネ。
敵の敵にしてしまえばよいわけヨ。
私の計画の、邪魔だけはさせないヨ。
これは、絶対に成功させなくてはならない。
私の、夢のためにも、ネ。
しかしその後、私はとんでもない思い違いをしていた事に気づかされる。
彼を見誤ていたネ。『千の科学を操る男』。彼は、自分は『違う』とは言ったが、『使えない』とは一言も言っていない。『違ければ使えない』。その先入観に囚われてしまうとは、私もまだまだ甘いということカ。
これで、『闇の福音』を最後、どう圧倒したのかも納得がいたヨ。
彼は本当の意味でも、『サウザンドマスター』だたネ。
私で御しきれる存在ではなかったヨ。
彼の存在は、危険すぎる。
───学園長───
修学旅行初日の夜。
ワシは、京都で超の引率観察をしていた瀬流彦先生からの連絡を受け、愕然とした。
超と、彼には初見の一般生徒。つまり、『彼』が接触していると報告を受けたからだ。
バカな! 『彼』は今、北海道にいるはずでは!?
あとでわかった事だが、書類のミスで、学園長側に回る方の表記が間違っていた事が発覚する。
あちらの学校側ではちゃんと処理されているので滞る事はないが、学園長側のみが把握出来ていなかった状態になっていたのだ。
これは別に、マンモス校であるこの学園ならばさして珍しい事でもなかった。
学校ごとにちゃんと機能しているなら、細かいミスは学園長にわざわざ報告する必要はない。
すべてを学園長まで報告させ、チェックしていたら、それこそ一番上は情報でパンクしてしまうからだ。
そう。これは、よくあるミス。
問題にもならない、些細なミス。
だが、この時ワシは、どんな些細な事も報告するようさせていた。おかげで実務でパンクするかと思ったほどだ。
それなのに、その報告はあがってこなかった。
それはつまり、誰かが意図的に差し止めたという事になる。
しかも、この急な変更にしても、それによる不満は誰も言ってこなかった。これは、何者かが、一般生徒、先生を扇動したか、なんらかの力によって、操った証明ともいえる。が、証拠は当然ない。
さらに、この変更は彼のクラスメイト全員の申し出であり、こちらに上がらなかったのはただの書類ミス。おまけに彼一人のみが変更反対という念の入れよう。
どこの誰が見ても、クラスの総意で決まり、報告はただの書類ミスにしか見えない。これで、誰が誰を疑おうか!
発見した時、完璧すぎて、腹が立つほどだった。
知っている者が見れば、あまりに不自然。だが、疑われても、それがどうした。と言わんばかりの完璧さ。
学園側の決めたルールを、こちらの用心を逆手とり、見事にそれを上回ったのだ。
そして、学園のナンバーワン要注意生徒、超鈴音。
彼女との接触に、京都はこれほど適した場所はない。
こちらの力も、監視もおよばない。関西呪術協会の膝元。
しかも、今そこにはネギ先生もこのかもいる。
なにかを起すにはうってつけの状態だ。
平穏に生活したい? なんと白々しい!!
すべてはこの接触のためのブラフであったか!
もしものために誰か魔法先生を送る? いや、駄目だ。今魔法先生を送るなど、関西呪術協会との関係悪化が目に見えている。
それに、凄腕数人は念のため『彼』対策(観察)として、別任務と称し北海道へ送ってしまった。
いっそ関西呪術協会に彼の事を……どう説明しろというのだ! 一般人にしか見えない彼の危険性。それを他者に説明の出来るならば、ワシがすでに他の魔法先生に理解させておるわ!
彼の擬態、それはこのためだったというわけか!
京都には正体秘密の魔法先生。瀬流彦先生はいるが、彼は超を見ていなければならない。しかも、正直彼は若く、影も薄い……のは関係ないが、『彼』に太刀打ち出来るレベルとは到底思えない。
藪を突いて龍を出してしまうのがせいぜい。逆効果だ。
つまり、彼はこの京都の中で、関西呪術協会も、こちらの監視もなく、自由に動けるというわけである。
事情を察したワシは、もうただ指をくわえ、『彼』がなにもせず戻ってくる事を祈るしか出来ない。
なんという事だ。魔法ではなく、ただの謀で破れるとは。
若い彼に、これほどの謀が行えるとは思いもしなかった。
ワシはまだ、彼を侮っていたという事なのだろう。
学園の要注意人物超との接触。
それは、なにをたくらむという事なのだ。彼は一体、この学園でなにをしようというのだ。
それとも、京都の地で、なにかを引き起こそうというのか!?
無事、生徒達が戻る事を祈るしか出来ないとは。
よかろう。ならば君への考えを改めよう! 若造などとは決して思わん! この屈辱は、ワシの心に刻みつけよう!
もしワシのかわいい生徒を誰か傷つけてみよ。ワシがこの命を賭してでも貴様を成敗する!
この瞬間、『彼』の危険度は、学内一だった超鈴音の上へと移動される事となった。
……いやー。偶然から生み出される誤解って、こえーなー。
──────
カンフー娘&未来少女班の自己紹介を受け、軽く話したあと、開放された。
ちなみにいたのはカンフー娘と未来少女に博士の人と料理の人でした。忍者の子はいなかったとさ。
どうにも肉まんをご馳走したかったらしいらしい。『超包子』をお勧めされました。
肉まんはとてもおいしかったです。
もうこの子等と知り合いになったから彼女等の経営するところに行こうかな。いやでも、他の子と鉢合わせする可能性もあるから、自重しよう。
というわけで、当初の目的通り、お風呂にやってきました。
原作でネギは混浴に入っていた覚えがあったので、ちゃんと男湯女湯が別れている場所を確認済みですよ。
ここで言うのもなんだが、俺は風呂が好きだ。
特に温泉サイコー! 岡崎、サイコー!
あとプールとかで泳ぐのも好き。ただし風呂で泳ぐ。テメーは駄目だ。
風呂はのんびりと入る場所だ。遊び場じゃない。戦場なんだ! 油断は死を招くぞ!
それほど風呂に価値はあるのだ!
ゆえに危険があろうとも安全に安全のシミュレーションを重ね。もう完璧に安全な場所を選択して入りに来たのだ。
まさにパーフェクト!
わは。わはは。わははははは。
おっと。温泉が近くてテンションアゲアゲだぜ。
さー。のんびり入るぞー。
──────
からからからー。
彼がスキップ気分で男湯ののれんをくぐった後……
すっごいいたずらな風が吹いて、男湯と女湯ののれんが吹き飛ぶのであった。
そして、ばっちゃん従業員がやってきて、それを直してゆく。
当然、男女を逆にして、だ!!
あとは、わかるな?
──────
はーびばのん。
いい湯だね~。貸切だぜ~。
カンフー娘に捕まっていたせいで逆に人がいなくなっていてラッキーだぜ~。
もうぐったりびばのんだぜ~。
ぐで~。
温泉、サイコー。
からからから~。からからから~。ぴしゃ。
あ、誰か入ってきた。
貸切じゃなくなるのは残念だが、裸の付き合いって奴も温泉の醍醐味だ。「いい湯ですね~」「まったくですな~」とか。
首だけをくてっと向けて、入ってきた人を確認。
「わ~、すごいね~。これが露天風呂っていうんだ~」
「そっすね~」
……
え゛?
入ってすぐの湯船に寄りかかって大の字状態でいる俺の逆さまになった目と、入ってきたその子の目が、ばっちりあった。
そこにいたのは、ネギ。それと、オコジョだった。
俺、思考停止。
「え? ええええええー!?」
ネギは、俺の姿を見て、パニックを起した。
手をばたばたさせて、バランスを崩し、そのまま濡れた床に下りて。
丁度そこに、まるで図ったかのように、バランスを崩したネギから落ちたオコジョがいて……
「ぐべっ!」
つるっ。
「え゛?」
ネギが、滑ってそのまま、俺の方へ突撃してきた。
「はわ。あわわっわわわ!」
「ちょっ、まー!?」
俺はそのまま、ネギ突撃ダイビングの直撃を食らった。
どぼーん。
本能的に思わず、後ろに逃げようとしたのがまずかった。
俺はネギを受け止めきれず、あおむけに湯船へ沈む事になる。
「がぼ、がぼがぼがー!」
お、俺の顔に。なにか、やわらかいものが! ネギか!? ネギという名の重しかー!?
し、死ぬ! 死ぬから!! 早く、早くどいてー!
「ががぼー!」
「きゃっ、ふあっ! や、やめ、やめてくださいー!」
ちょっ、こら、頭を、なにか手のようなもので押さえるなー!
息が! 死ぬ! 死ぬ死ぬ死ぬ!
「い、息が、だ、だめれす、ひゃうっ!!」
俺の方が限界だー!
もう出させろー!!
どういう風にネギが彼の顔にのしかかっているのかは、ご想像にお任せいたします。
「はー、はー、死ぬかと思った」
「ぼ、僕もです……」
二人でぐったり。
ネギの方はなぜぐったりしてるんだ……?
君、頭は湯船の外にあっただろ……?
おかしい。なぜここにネギが入ってくる。
アイツは混浴の方に入ってハプニングが起きたんじゃないのか……?
「……って、あれ?」
ここ、男湯のはず。
考えていた事の矛盾に気づき、思わずネギの体をじーっと見てしまった。
女の子なのに、なんでここに……
「あ」
「あ」
下から上に移動したら、ネギと目が合った。
「きゃー!」
ネギはオコジョボムを投げた!
魔法の力で水の抵抗を無効化した!
パオーンに大・命・中!!
俺は死んだ。
「かっ、こっ、こ、こけーっ……」
こ、これは、女の子、には、絶対わから、ない、ダメー死゛……
「パオーんが……ぱおーが迫ってせま、せま、せままままま……」
オコジョも精神ダメージがマックスだ。
「せ、責任をとってくださーい!」
「あ、アホか、か! こ、れで、責任取らなきゃ、なら、なかった、ら。お前が橋で、エヴァンジェ、を、裸にひん剥いた、時、に、あれを、娶らにゃ、ならんだろう、が!」
湯船の縁から上半身を床に倒れふしながらも、俺は反論をする。
あ、あんなわがまま幼女を娶るなんてお断りだ!
いや、なんか違う気がする。でも痛みで頭まわんない!
「ですけどー!」
「はっ! ちょっと待て!」
思い出した。ネギがここにいるということは、下手すると半デコ少女も入ってくる!?
そんな事になったら、もう俺は死んでお詫びするしかなくなる!
12歳以上は銭湯的ルールでアウトだ!!
「え?」
激痛を我慢し、俺は、言う!
「もういろんな不運が重なったと俺は納得して、責任は全部俺が取るから!! 俺が悪いでかまわんから! ここでこれ以上会話するのはまずい! 他に人が入って来る前に一度ここを出……」
からからからー。
扉が開く音が響いた。
俺、オワル!!
「あ、ネギせんせ……い?」
入ってきたのは、半デコちゃんだった。
ネギは入ってきた彼女を見て固まっている。
俺は、とりあえずパオーンが痛くて動けないけど、湯船から上半身出して床に突っ伏しつつ目はつぶって、誓って半デコちゃんは見てない。
「え、えーっと……」
ネギがなにかを言おうとしているが、なにもいえない状態になっているようだ。
「……」
半デコちゃんはたぶんフリーズしているんじゃないかな。入り口のところで。
音から判別しただけなんだけど。
は、ははは。もうね。俺の人生、ここで終わってもおかしくないよね。
今まで生きてきて一番悪い事をしている気分だヨ。
必殺ジャスティスボンバーで今の俺なら確実に車田飛びできるね。
『宇宙刑事』失格だよね。
「ひゃああ~!」
今度はなによ!?
「はっ! この悲鳴はこのかさん!?」
「このかお嬢様!?」
あ、そういえば、そんな展開だったっけ。
「お嬢様!」
「あ、刹那さん!!」
ネギと半デコちゃんが脱衣所へと走ってゆく。
俺は、必死に腰を叩く。
ぴょんぴょん跳ねたいけど、ここでそれをやったら確実にアレでソレで叩ききられそうなので自重!
ちなみに近くの湯船には小動物がぶつぶつ言いながらぷかぷか浮いてマス。
その後俺の頭の上をサルとお嬢様が飛び越えて、半デコちゃんがずんばらりんして助けてたようです(音的に)
「なんかよーわからんけど、助けてくれたん?」
「あ、いや……」
「ひゃっ」
ばしゃーんと誰かが落下した音。
ばしゃばしゃと誰かが逃げた音。
「あ……」
「ちょっ、なによ今のー」
「こ、このかさん! あの、刹那さんて……!」
「その前に、ちょっとええか?」
「はい?」
「その人、誰なん?」
「……」
うん。俺ですね。
裸の少女達の真ん中に俺、爆現!!
て感じで、彼女達の中心に、倒れふした俺がいます。
ひくっ、少女達の顔が引きつった。
「ストーップ!!!!」
突然俺は大声を上げ、いきなり立ち上がる(腰にタオルは巻いてるよ!)
びっくりしてフリーズしている少女達を尻目に、湯船から脱出し、脱衣所で服(ジャージ)を着る。
「OK屍はロビーにさらしておいてくれればいい。やってくれ」
彼女達に背を向けたまま、入り口に立って親指を立てた。
ガシ、ボカ。俺は倒れた。スリープ。
これから俺は、風呂にも『スペアポケット』をタオルに貼り付けてでも持っていこうと心に決め、意識を失うのであった。
「……なぜお前はこんなところで寝ている」
その後俺は、無事ロビーに放置されていたのを探しに来た変身幼女に発見され、ずるずる引きずられ、部屋へと戻るのであった。
こうしてそのまま、俺の修学旅行一日目は無事終了する。
ちなみにこの後、事故で男湯と女湯が入れ替わっていた事を知り、彼女達は悪い事をしたと反省する事となる。
ロビーへ謝りにやってきたが、その時すでに彼はエドに回収され、部屋に戻っていた。
その時、「彼は北海道に行くはずだったのに、今ここにいるのはおかしい。彼も関西呪術協会の関係者なのでは?」とカモに疑われたが、刹那とネギが違うと擁護する事となった。
明日菜の「そもそもエヴァンジェリンを倒すだけの実力があるんだからこんな小細工する必要ないでしょ」ってのが決め手で疑いは晴れたが。
エヴァを倒したという事実には、刹那が驚きつつも、納得していた。
(でもどうやら、彼の正体を正確に知っているのは私だけのようですね)
ネギ達は彼を魔法使いかもしくは刹那のような武芸者のような認識のようであった。
自分だけが本当の正体を知っている。それが少し嬉しい刹那であった。
力を借りる事に関しては、あの人は関係ないし、平穏に過ごしたいと聞いていたので、黙っていようという事になった。
そもそも明日菜が再起不能(リタイヤ!)になるほどボコった後でもあるし。刹那もネギも、親書を運ぶくらい自分で出来ないでどうする。という気持ちもあったのだろう。
それは、彼等の美点ではあるが、欠点でもある。
ただ、北海道にいるはずなのに、なぜ京都にいるのかは確認しないとわからないので、謝る時に聞こうと相談は終わったのだった。
彼が巻きこまれない。それは、彼にしては非常に幸運な事だが、それが、本当に幸運な事なのかは、今はまだわからない。
「ところでネギ。あの人なんであんなに弱ってたの?」
「え? いや、あはは」
「あひゃひゃひゃひゃひゃひゃー」
「うわっ、あんたどうしたの!?」
明日菜の質問に、ネギが真っ赤になって、カモが狂ったように笑い出したのが印象的でした。
ちなみにカモは正気を保つため、この時の記憶を封印する事にした。
(責任、取るって、言われちゃった)
ぴこーん。
『なんかもう死ねばいいよ』フラグが立ちました。
───おまけ───
ふ、二人きり……
他の班員はなぜか病欠となり、意図せず奴と二人だけの班行動になってしまった。
しかも、今日からしばらくはこの部屋には二人きり……
となると、この部屋ならわざわざ変身している必要はない!?
では元の姿でヤツと……
い、いやいや。なにを考えているんだ私は!
そわそわ。
ベッドが、並んで、二つ……
いやいやいや。別にただ並んでいるだけだ。
全然深い意味はない。
私の家にあるベッドより全然小さいではないか。せいぜい、その気になっても、二人で寝れるサイ……
ぎゃわー!!
そわそわ。
ふ、風呂にも入った。
下着も新しい物を……
ま、待て待て。なんでこんなに緊張する?
「いざとなったら、俺がどうにかしてやるよ」
ほわー! な、なぜ今そんな言葉を思い出す!!
なぜだ!? 私はこんなキャラじゃなかったはずだ!
まて。こういうときは元素を数えて。すいへーりーべ……
……
そわそわ。
遅い。いつまで待たせる気だ!?
し、しかたがない。探しに行ってやろう。
探しに行ったらロビーでぶっ倒れていた。
のぼせたのかこのバカめ。
……本当に、この、ばかが。
─あとがき─
学園長には状況から危険視され、クーフェイが縁で超鈴音と出会いました。そう。あの出会いはこれが狙い!
んで、ネギ相手に『もう死ねばいいよ』フラグ発生。
……おかしいな。
修学旅行開始でシリアスのはずが、なんか、微妙に、イチゴの香りもする。
おかしいな。
前半シリアス風の分後半がアレでソレなのは反動です。
反動蹴速迅砲ってヤツです。孔明の罠でもいい。
敵ばかりの彼に、ちょっとしたプレゼントです。
ただし死亡フラグが同伴出勤。
とりあえず、彼は世界にも人にもほおっておいてもらえません。
悪い意味で。
彼が逆に関わらないというのは、本当に彼にとって良い事なのか、それとも悪い事なのか。
もうしばらくしたらわかると思うので、のんびりお待ちください。
あ、そういえば今回未来道具一個も登場してない。
まあ、そんな回も1回くらいはあるよね。