初出2009/03/05 以後修正
─第6話─
今回はエヴァ編後始末。これにてエヴァンジェリン編完結。
──────
無事エヴァンジェリン戦も終わり、その翌日。
エヴァはその日ふてくされて学校休んだ。
───エヴァンジェリン───
ベッドの中で、私は昨日の事を思い出した。
たった一人でチャチャゼロを退け、私をも圧倒したあの男。
正面から堂々と戦い、私を圧倒し、破ったという点ではあの『サウザンドマスター』にも出来なかった事だ。
アイツはやらなかっただけかもしれんが。
めんどくさいとかいう理由で。
落とし穴ー。にんにくー。登校地獄ー。
……思い出しても腹立たしい。
だが、昨日の事を思い出しても、不思議と腹は立たなかった。
むしろ、すがすがしかった。
ひょっとすると私は、ずっと願っていたのかもしれない。
自分より強い者に、正面から戦い、倒されるという事を……
自分より強い者に、私を裁いて欲しかったのかもしれない……
ただ、約束してしまった。
もう2度と、彼にはかかわらない事を……
……それが、なぜか、無性に悲しい。
なぜなのだろう……?
なんなんだろう。この気持ちは。
そんな事を思いつつ、ベッドでグダグダ(モンモンと)していると。
「うーっす」
奴が突然、私の家を襲撃してきた──
ちょっ!
「き、貴様! もう係わり合いになりたくないとか言っておきながら、なんの用だ!」
「俺は付き添いだよ」
──ネギを連れて。
むかっ。
「どうして授業に出てくれないんですかー」
「なんで私に負けた貴様の言う事を聞かねばならんのだ」
「そんなー!」
「まーまーネギ先生、今日くらいは許してやれよ。昨日俺にボコボコにされて今実は足腰立たないだけなんだから」
「そ、そうなんですか?」
「んなわけあるか!」
「もしくは俺の事を考えてモンモンしてベッドから起きられなかったとか?」
「なっ!? そ、そっちのがあるか!」
ちょっ、なんでそれを!? モンモンはしてないぞ! モンモンは!
「まあいいや。ちょうど俺もお前にやり忘れた事があったからな。ネギ先生の頼みと一緒にしかたなーく来てやった。感謝しろよ」
「するか!」
だから全然うれしくもない!
ないんだからな!!
……忘れ物?
「……な、なにをする気だ? か、体なら許さんぞ!」
「誰がンな事望むか!」
一瞬にして否定されてしまった。
「おいネギ。なんでお前もそっちに逃げる」
「え? いや、あはははは」
「そこのオコジョの入れ知恵か?」
「あは、あはははは」
今度は小動物が乾いた笑いをあげた。
「ったく。そうじゃなくて、お前の嫌だと思った事をしたワビを入れていなかった事を思い出してな」
「は?」
ま、まさか……
「つまり、呪いを解く道具を貸してやると言ってる」
「ほ、本当かー!?」
思わず身を乗り出した。
はっきり言って馬鹿にしたワビならば、破格といってもいいじゃないか!
昨日のあの言葉は戦いの駆け引きかと思ったが、本気だったとは。
少しだけ見直したぞ。
「ああ。ほれこれだ」
奴が取り出したその『道具』に思わず飛びついた。
「おっと」
ひょいっと目先からそれが消え、私は床に激突する。
「ぐぐぐぐぐ……」
「だが、一つ条件がある」
「なんだ! 呪いから開放されるならば、なんだろうか気にしないぞ! 金か? 魔道書か? 私か!?」
「ネギに『サウザンドマスター』の事を教えてやってくれ」
「なっ!?」
「本当は授業に出ろって言いに来たんだけど、呪いが解けたらそもそも学園からいなくなる可能性があるからな。だから授業に無理して出ろとは言わない。その代わりにだ」
そりゃ、呪いが解けたら即効でこんな場所出て行ってやるが。
「これでいいかな? ネギ先生?」
奴がネギに言う。
それが、この小娘ためというのが少し気に入らん。
「え? え、あ、でも、どうして僕が『サウザンドマスター』について知りたいという事を?」
「それは秘密だ。ただ、子供が親に会いたいと思うのは、当然の事だろう?」
親に会いたい。か。ふん。なにも知らないのだな。
奴ならすでに。10年前、死んだよ。
「それとも迷惑だったかな?」
「い、いえ! あ、ありがとうございます! 」
「それに、こいつ案外優しいから卒業までいてくれるかもしれないしな」
「そうだと僕もうれしいです!」
笑顔で私を見るな小娘僧ども。
「そ、それで、これどう使うんだ?」
ネギの期待の視線に耐えられなくなった私は、ヤツの手にあるその『道具』を見る。
……なんだこれ。ただの、布? 風呂敷?
いや、こいつの持ち物だ。
こいつと同じく魔力などなく平然と『奇跡』を起こすのかもしれん。
「せかすなよ。一度使い方を見せてやるから。茶々丸さん。適当な種。あと鉢植えに土を入れて持ってきてください」
「……おい、なんで茶々丸だけに敬語なんだ?」
「敬うべき存在だから」
「敬うべき者ならむしろ私の方だろうが!」
「敬われたいなら敬われるほどの威厳を見せろこの幼女」
「貴様ー!!」
こら、頭を抑えるな!
この! このー!
「仲いいんですね~」
「もって来ました」
「ありがと」
こ、こいつらぁぁぁ!
「あ、ネギ。悪いんだが、ここから先は企業秘密になるから、むこうで茶々丸さんと遊んでいてくれないか?」
奴がそう言い、ネギと茶々丸は素直に一度階段を降りていった。
「とりあえず、確認してくれ。これ、なんでもない種と鉢植えだね?」
「ああ」
「はいそれではお立会い。この風呂敷。それをこの上に乗せてみます」
やはり風呂敷だったのか。
なんだ? 手品か?
「まあ、見てなさい」
むく。むくむくむく。
「っ!?」
なんだ? 風呂敷の下で、なにかがうごめいている!?
「そういえば、これなんの種なんだろ」
知るか。
むくむくむくむくむくー!
風呂敷を押しのけ、向日葵が現れた。
「わぉ。向日葵だ」
「なんだ、急成長させただけじゃないか。この程度なら並の魔法使いでも出来るぞ」
詠唱や魔力をまったく必要としないというのは驚異的だが。
「ま、本番はこれから。それでは、これをさかさまにしてかぶせますよ~」
「……ま、まさか!?」
「そのまさかで~す」
そのまさかだと!?
しゅるしゅるしゅるしゅるしゅる~。
まるで、時間を巻き戻すかのように、向日葵が鉢植えへと戻ってゆく。
そして奴は土を掘り返し、また種を取り出した。
「大変よく出来ました~」
「バ、バカな……!」
「そ。正確に言えば、これは、成長させているわけじゃない。時間を進めたり、戻したりしているんだ。つまり、これを使えば、君の力が封印される前の状態にまで戻れるって事。その気になれば、人間にも戻れるよ」
「なっ……!?」
絶句! も、もう、言葉も、出ん。
こいつは、時を止めるだけではなく、進める、戻すまでこんなにお手軽感覚で出来るのか!
な、なんなんだコイツは。どこまで、どこまで出鱈目なのだ!
私が、人間にすら、戻れるだと!?
……だが、デメリットもすぐ気づく。
そうも都合よくはいかない話のようだな。
「……一つ聞くぞ」
「はい、なんですか?」
……なんでいつの間にか先生みたいな格好になってるんだ貴様は。
「体が15年前に戻るという事は、記憶もか?」
「そういう可能性もありますね」
あっさりと肯定したか。
くそっ、この男!
「……それは、茶々丸の事も、忘れるという事か?」
「その可能性もありますね」
「……少し考えさせろ」
「はーい」
肉体は元々不老不死だ。15年程度戻ってもなんの問題もない。
ただ……
ただ。
……茶々丸。
馬鹿騒ぎする、クラスメイト……
15年分の……
──────
いきなりネギに呼ばれました。
幼女がふてくされて授業をサボタージュしたそうです。
知恵を貸してくださいと言われましたとです。
……ネギ君。いや幼女その2。確か原作だと君は人に頼る事を知らない少年だったと思うが、いきなり俺に頼るような幼女になるとはさすがに予想GUYだよ。
まあ。人に頼らないってのは協力者が自分の生徒ばっかりだからってのもあるんだろうけど。そりゃ先生が自分の生徒に頼るのって字ズラだけで考えるとまずいよな。
ネギの場合はそこに10歳という例外がくっつくんだけど。
つか、合流した時オコジョとネギしかいなかったから、俺を誘ったのはオコジョあたりの入れ知恵かもしれんな。
仮契約とかはOKOTOWARIだからな。
でもまあ。なんとか原作の流れに持っていくためにも、最後のフォローくらいはしておかねばなるまい。
よく覚えていないが、勝ったからこそ『サウザンドマスター』の情報を得られたはず。
だが今回はネギが負けちゃってるから、幼女にその話を聞いておかなきゃならない。
彼はそう考えているが、原作では次の日カフェテリアでばったり遭遇して、そこからの会話から話題として発展しただけであって、勝敗自体は大きく関係なさそうだったりする。
ま、主役の君達との絡みもこれで最後。
残念だが俺が手助けするのはここまでだ。修学旅行以降はモブ1になるのだ。
わかったな!!
願わくば『ネギま』との関わりはこれで終わりますように。
「いやー、しかし、ダンナはすごいっすね」
幼女の家に向かう途中、オコジョが話しかけてきた。
「ちなみにネギと仮契約とかはお断りだぞ?」
「ぐっ、い、いや……」
やっぱ考えてやがったか。
「それと、魔法の師匠とかも却下。そもそも俺は魔法使いじゃない」
「え? 魔法使いじゃないんですか?」
「で、でもよ、昨日の夜はすげーの召喚してたじゃねーか!」
「アレは他人に教えて出来るものじゃないし、他の事も人に教えられるものじゃない。今回は忘れ物があるからつきあうけど、次はもうない。俺は平穏に暮らしたいんだ」
「そっすか~」
オコジョがっくり。
ネギは実際にそれを見ていないから、そこまで俺に注目はしていないようだ。むしろ幼女をどうやったら授業に引っ張れるかを考えているらしい。
ただ、ここでネギ側の話が聞けて、流れの確定情報が手に入ったのは助かった。
昨日会った時は、ネギが女だって事実に脳がバーストして聞く事も聞けなかったし。
どうやらネギが女である以外は俺の知る流れと一緒で、唯一違ったのが、俺が関わってしまった今回の敗北のみ。
つまり、俺が関わらなければ変わらなかった。と。
……ごめんなぁ。これに関してはちゃんと最後までフォローするけん。
そんなわけで、俺はネギと一緒に幼女の家にやってきた。
入ったらすげー驚かれた。
そりゃ、まあ、もうちょっかいかけるなと言った方から来たら驚くわなぁ。
とりあえず、情報の餌として呪い解除の方法を提供する。
『タイム風呂敷』
まあ、有名だから説明は不要だろ。
これを使えば、力が封印される前に時間を戻す事も楽勝なわけで。
ただ、さすがにこれを今、ネギには見せられないので退出させる。
石化を解けるアイテムなんて流れ崩壊にもほどがある。
これ以上俺のせいで剥離しないでくれ。
石化解除ならお嬢様がいるからさ。
ちなみにこの時、幸運にも、茶々丸を追い出す事にも成功したので、茶々丸の映像記録にも『タイム風呂敷』の事は残らない。珍しく彼の行動が彼に味方した瞬間であった。
後々見せておけばよかったとなる可能性も否定は出来ないが。
でも、俺は素直に彼女の呪いを解こうとは思っていない。
だって呪い解けちゃったら、修学旅行での学園長との取引がなくなり、勝利がなくなっちゃうもん。
『タイム風呂敷』の事を説明する。
時間を進めたり戻したり~。
「体が15年前に戻るという事は、記憶もか?」
うん。そこ疑問に思うよね。
「そういう可能性もありますね」
しれっと言う。
本当は記憶がそのままで、子供になったり大人になったり出来る。
肉体の成長。という点を無視するなら、不老を可能にする道具でもあるのだ(記憶はそのままだから、体で覚えた事も忘れないのかもしれないが、実験していないので不明)
だが、それは伝えない。
「……それは、茶々丸の事も、忘れるという事か?」
「その可能性もありますね」
言わなければ、誰もが思いついてしまう、この可能性。
たぶん。この子はこれで呪いを解かないだろう。原作を見ていた限り、なんとなく、そう思う。
まあ、だからこそ、記憶は無事って事は秘密にしたんだが。
このリスクがあるからこそ、彼女は、この方法で呪いを解かない。
だから俺もこれを提示した。
つかどーせそのうちネギが成長して呪いはとかれんだろ。
だから俺は気にしなーい。
俺の知ってる原作ではまだまだ実現しなさそうだったけど。
「……少し考えさせろ」
「はーい」
計画通り。
どこかの新世界の神っぽいイメージで。
くくくくく。
どうした幼女。たかだか15年の記憶だろう?
屈辱の記憶だろう?
一緒に捨ててしまえばよいではないか!
ふはははは。
なぜか枕をぶつけられた。
声に出していたらしい。
おかげで誰が使ってやるものか! と言われた。
おかしい。なんか予定と違う気がする。
「誰が貴様の手など借りるか! 誰が『サウザンドマスター』の事など教えるか!」
……うん。良いですか皆さん。
こうした、ちょっとした心の緩みが、大きな落とし穴となるんですよ。
家の戸締り。ガスの元栓。勧誘電話。
ちゃんと気をつけましょう。
皆さんわかりましたね~。
じゃねぇぇぇぇえ!!
「おいこら幼女。人が善意で提案してやったのにどっちも破るってのはどういう了見じゃコラ。それを使うか使わないかはお前の自由だが、『サウザンドマスター』の事は話してもらうぞ」
あぁん?
「ふん。こんな不良品を渡すお前に問題がある。受け取り拒否なのだから当然だろうが」
ごらぁ!
俺と幼女でにらみ合う。
「というかなぜあの娘のためにお前がそんな事をする!」
アホか! ここで京都の事を知らないと修学旅行編がはじまらねーだろうが!
京都やめね。そーですね。ってなったらどうする!
そんな事もわからんのか!
とは口が裂けてもいえないが。
「ま、あれだ。せっかくネギが探しているんだ。協力くらいしてやってもいいだろ」
「……」
あ、なんかじとーっと見られてる。
ちょっと苦しかったかな。
(……なぜあんな小娘にそんな気を使うのだ。なんか、気に入らんぞ)
「ならば余計に言いたくなくなった!」
くそ、このわがまま頑固幼女が!
いっそ実力行使すんぞ。
泣かすぞ。
今完全に幼女なんだから素の俺にも負けるクセに。
がるるるるるー。
しばらくにらみ合うが、どちらも……というか幼女がひこうとしない。
はー。仕方ない。
ここは三十路直前である大人の俺がひいてやろう。
「わがままなやっちゃな。しかたない」
と、俺は懐から一つの人形を取り出した。
『コピーロボット~』
てけてれってて~。
『コピーロボット』。鼻を押すと本人そっくりになるロボットの事です。
「なんだそれは?」
「俺にどうにかされるのが嫌だって言うわがまま幼女のために用意する代替え案だよ」
「ほう」
俺が折れたからか、少しだけ機嫌が良くなったようだ。
ったく手間のかかる幼女だ。
「もっとも、これがあるからって呪いが解けるわけじゃないし、どうなるんだかはわからないからな」
「どういう事だ?」
確か、修学旅行の最後は呪いの精霊を勘違いさせる方法を取っていたはずだ。
コピーロボを使い、それと似たような事。呪いの軽減くらいは出来るのでは?
こんな感じの理由であとは自力でどうにかしろ。とうながしてみようと思う。
実際出来る事を例えに出すんだから、餌にはなるだろ。
本当に出来るのかはしらん。
それっぽい事を言って情報を引き出すための方便だから。
「これを使って自力でどうにかしろって事だ」
ぽいっと幼女に『コピーロボット』を放り投げ、使い方を説明する。
「鼻を押してみ?」
「こうか?」
幼女が二人に増えました。
「なにいぃぃぃぃ!!?」
本体と思われる方がすっげー驚いてる。
そんなに大声上げんな。
耳がキーンとするじゃないか。
「ど、どうしたんですか!?」
幼女の悲鳴を聞き、茶々丸とネギ&肩にオコジョが部屋に駆け上がってきた。
「マスターが、二人?」
「えええええー!?」
ネギも茶々丸も驚いてる。
「バ、バカな。私が、もう一人? しかも、そっくりそのままだと!?」
めっちゃカオス。
「魔力とかどう?」
俺が混乱する彼等を無視して一番聞きたかった事を聞く。
どこまで再現されるのかなー。
「はい。オリジナルと同等の能力を持っています。なにかお見せいたしましょうか?」
おぉ。さすが未来道具。すげー。
あ、本体があんぐり口をあけてる。
「口調が一緒なら、見分けつかねーな」
これはオコジョの言葉。
「なんなら見分けをつかなくしてやろうか? 小動物?」
「おおおおおー!?」
「冗談です」
当然その気になれば同じになる。今そうしないのは混乱を最低限にする配慮か? 『コピーロボット』すげぇな。
「あ、あ……」
あ、茶々丸が判別出来なくて本物見たりコピー見たりでおろおろしてる。茶々丸にも見分けつかないのか。ちょっと迷惑な道具だな。
「ちなみにオリジナルには逆らわないから。本体に成り代わるとかはないので安心しろ。ついでに解除しなければ変身しっぱなしだから」
そう言い、『コピーロボット』を一度人形に戻す。
「あ、ああ……」
「お前確か『人形使い』とか呼ばれてたよな。それで呪いの身代わりとか作ってみたらどうだ?」
「むっ……」
まあ。このくらいの餌があれば、今度こそ話してくれるだろ。
「ちなみにこれで拒否すれば実力行使もありえる」
「半分脅迫じゃないか!」
「もうワビのついでとか、そういうのめんどくさくなった。さっさとしゃべれ」
「……貴様は性格も『サウザンドマスター』に似ているな。憎たらしいところがそっくりだ」
「言っとくが別人だからな?」
「そんな事はわかってる!」
「ならいい」
「そんなわけだ。今度こそ話してもらうぞ」
「ちっ、しかたがないな」
幼女がどっかりとベッドに腰をおろし、ネギの方へ向き直った。
「そもそもだ。探していると聞いたが、奴は10年前に死んだぞ」
「はい。皆そう言います。でも僕は、会ったことがあるんです」
「……なんだと?」
「6年前のあの雪の夜。僕は確かに、あの人に、会ったんです」
その時にもらったのが今ネギが持ってるその杖なんだよな。確か。
「そんな、奴が、『サウザンドマスター』が生きているだと?」
わー。幼女ちょっと涙ぐんでるよ。やっぱ好きな人が生きてるってのはうれしいんやろなー。
「でも、手がかりはこの杖の他にはなにひとつないんですけどね」
「京都だな」
「え?」
「京都に行ってみるといい。どこかに奴が一時期住んでいた家があるはずだ。奴の死が嘘だというなら、そこになにか手がかりがあるかもしれん」
「き、京都!? あの有名な、えーっと、どこでしたっけ。でも困ったな。休みも旅費もないし……」
あ、なんかこのやりとり覚えがある。原作再現成功って奴か!?
とりあえず、修学旅行で行き先の中に京都があったぞ。クラスの選択どうなってる? とか聞いたら、茶々丸が「京都です」とフォローしてくれて、ネギは飛び上がって喜んでいた。
ふう。というわけで、無事『サウザンドマスター』情報をネギに引き渡す事に成功した。
引き渡した場所が違う気がするけど、まあ平気だろ。
未来道具でお父ちゃん探してやればいいだろ。とか思う人もいるかもだけど、それやるとその後の予定(原作)が滅茶苦茶になるので平穏を望む俺はやれない。
というか基本的に俺が干渉しなけりゃ大きな被害もなく結果オーライで進むんだしさ。
関わって今回みたいにネギ敗北とかなったら今度こそ取り返しつかないだろ。
特に修学旅行編に関しては。
だからヘタレとか腰抜けとか言われてもかまわないから、絶対に手は出さない。
それで俺は平穏。ネギの物語も安泰なのだから文句なしだ。
「それじゃ、お礼にこれお前にやるよ」
『コピーロボット』を金髪幼女に渡す。
あんまり道具を人には渡したくないが、さすがにあげると言ってしまったし。
「あ、……ありがとう」
「ん? なんか言ったか?」
「な、なんでもない!!」
今度はぬいぐるみを顔面に食らいました。
俺なにかした?
『コピーロボット』。
どうせ、これがあってもどうしようもないと思ってたんだ。
だって、作品最強である『サウザンドマスター』の呪いだよ。
どうにか出来るワケがない。
出来ちゃいけない。
それに、この方法じゃ呪いは解けないし、上手くいって短時間なら学園の外へ出られるようになるくらいだろう。
それくらいならいいよな。
そのくらいの認識だったんだ。
でもね。俺は、『人形使い』と呼ばれた真祖の吸血鬼をなめてたんだ。
まさか、あんな事になるなんて……
──────
その後適当にお茶して、解散となりました。
お茶美味しかったです。
あー、つっかれた。
これでもう、学園祭までは確実に本編には関わらないで済むー。
思いっきり伸びをする。
ん? なんでそう断言できるかって?
はっはっはー。だってウチのクラス、修学旅行は北海道に決まっているのだ!
すでに決まっているこればっかりはさすがに、絶対どうがんばってもひっくり返る事はない。よって俺が修学旅行編に関わる事はない!
北海道に行く俺が京都の方に関われるはずがないのだ!
絶対にないのだ!!
だからこうして原作との齟齬を埋める努力をしたのだ!
俺みたいな異物がいなければ、あとは原作通りの流れとなるだろう。
いやー。よかったよかった。
そして学園祭は実質危険はない! この時期さえ潜り抜けてしまえば、俺はもう安泰! 完璧。完璧よ!
あーっはっはっはっは。あーっはっはっはっはっはっは。
──────
帰りの際。
どんな気まぐれか幼女が茶々丸と一緒に扉のところまで俺達を送り出しに来た。
「ああそうだ。あれ使って授業を身代わりさせるなんてセコイ事すんなよ」
「誰がするか!」
「じゃあ、エヴァンジェリンさんがちゃんと出てきてくれるんですね!」
「出るか!!」
「えー」
「ネギ先生。ネギ先生が怖くて授業に出るのも怖いからこうやって言っているんだよ」
「そんなわけないだろうがー!」
「と、いうわけで、授業に出てこなかったら逃げたと馬鹿にしてやれ」
「ぐぐぐ、貴様~」
「なんだ幼女? 逃げ幼女?」
なんというか、幼女反応が面白くてどうしてもおちょくってしまう。
「や、やめてください~」
おちょくってったらおろおろしたネギに止められた。
お茶の時からのパターンである。
いい子や。ネギ先生。
つーか原作でもあの後ってちゃんと授業出てたのかな。
記憶にないからわからんね。
というかこれからは俺の領分じゃないからしーらね。
別れを告げ、去ろうとした時、幼女が俺に声をかけてきた。
「そうだ、最後に一つ聞いていいか?」
「なにかなー?」
「貴様は、何者だ?」
「は?」
「私と戦った時、お前は確かに私と同じ吸血鬼だった。だが、今は違う。今の貴様は明らかに人間だ。もう一度聞く。お前は、何者なのだ?」
「人間だけど?」
「そういう意味ではない」
「ただの一般人だけど?」
「まだ言うか……」
幼女が怒りマークを浮かべとります。
え? そういう意味じゃないの? じゃあ、どういう意味だ? アレか? 『人形使い』とか『闇の福音』とか『金色の戦士』とか『宇宙刑事』とかか?
ならさすがに『一般人』とかはあの後じゃもうアレか。
こうなったらもう空気を読みつつ開き直って厨ニ的な名乗りをするべきだな。
俺を象徴するもの。それはこの未来道具。確か、全部で千種類以上入ってたはず。
……ん? 千?
千。
せん。か。
「そうだな。あえて言うなら、俺も『サウザンドマスター』だ」
そう。俺のポケットには1000種以上の未来道具がある。『千の未来道具を持つ男』! ゆえに俺もこの名を名乗る資格がある!
「なっ、なにぃぃぃぃぃ!?」
「えええええええー!?」
幼女二人がすッげー驚きやがった。
耳がきーんとしたよ。
「ちなみに種族は人間な。吸血鬼化は弱点も吸血鬼になるからあんまりやりたくないのが本音だ」
つーか幼女と違って俺の場合太陽も弱点になりそうだし。
ちなみに『ヴァンパイアセット』の弱点とはその能力が使えなくなるだけで、灰になるとか苦しむとかはではないのでヨロシク。
……なんか返事が返ってこない。
ちょっとしたジョークだったんだけど、なんかまた調子に乗りすぎたか?
いや、だって丁度千種類の道具だし。すっげえ偶然だけど、ここまでくると名乗ってみたくならね?
「す……」
畜生は無視。
「ひっでえ!」
うん。OK。今のうちに撤退をしよう。
「それじゃ、俺は帰る。この話は忘れてくれ。じゃーなー」
呆然とする幼女二人とオコジョを置いて、俺はすたこらさっさとその場から去る。
茶々丸がお辞儀してくれた。
あの子はいい子や。
もう関わる事もないけどさ。
お別れに響鬼のポーズでさようなら。しゅっ!
───エヴァンジェリン───
ネギの小娘と私は、奴が去ってゆくのを呆然と見ているしかなかった。
貴様は何度私を驚かせれば気が済むのだ。
まさか、もう一人の『サウザンドマスター』を名乗るとは。
その実力は『ヤマタノオロチ』などを召喚したのだから、納得するしかないが。
しかし、わかればわかるほど、奴の存在がわからなくなる。
あの『サウザンドマスター』クラスの事を成しながら、感じる力は一般人。
ただの一般人にしか見えないのに、神話級の龍を召喚できる力を持つ。
そういう意味では、トンでもない力を持ちながら、呪文は5、6個と言ったアイツと同じで出鱈目の塊だ。
まったく、貴様は憎たらしいほど、あの『女』に似ているよ。
実は血縁とかいう事はないだろうな?
───ネギ───
今日もエヴァンジェリンさんが授業を休みました。
聞いたところによると、またサボタージュのようです。
どうにかしないと!
と思っていたら、カモ君があの人に相談してみたらいいと言ってきました。
僕は気絶していて見てはいなかったのだけど、あの人はあのエヴァンジェリンさんを軽くあしらったとんでもない実力者なんだそうです。
一見するとただの一般人にしか見えないそうなんですが、エヴァンジェリンさんですら見破れない擬態をしていて、そこからもすごい実力者である事がわかるんだよアネさん!
とカモ君が興奮してました。
昨日エヴァンジェリンさんと仲良く話していた事もありますし、あの人なら、エヴァンジェリンさんを授業に出すための良い知恵を貸してくれるかもしれません。
でも、エヴァンジェリンさんに会ったあの人は、僕の想像もしていなかった事を言い出しました。
「つまり、呪いを解く道具を貸してやると言ってる」
「その代わり、『サウザンドマスター』の事をネギに教えてやれ」
ええええええー!?
呪いを解けるというのも驚きだけど、『サウザンドマスター』の事を教えてくれなんて。確かに、呪いが解けたらエヴァンジェリンさん学園からいなくなっちゃうだろうけど……
……でも、どうして僕にそこまでしてくれるんですか?
それは、僕が『サウザンドマスター』の娘だからですか?
英雄の忘れ形見だからですか?
「子供が親に会いたいと思うのは当然の事だろう?」
あの人の答えた理由は、とてもシンプルな理由。
それは、とても簡単な答え……
他の大人の人は、生きていると言っても信じてくれなかったのに。
みんな、『サウザンドマスター』は死んだと言って、教えてくれなかったのに。
この人は、話してもいないのに、僕の心を当然だと考えてくれている……?
僕はそれを、信じていいですか?
「それとも迷惑だったかな?」
「い、いえ! あ、ありがとうございます! 」
そうだよね。
人の善意を無為にしちゃいけないよね!
呪いを解く方法は詳しく教えてもらえなかったけど、エヴァンジェリンさんが二人になっていたのには驚きました。
あれが呪いを解くための道具なのかな?
その後、本当に教えてもらいました。
京都です。
京都に手がかりがあります。
しかも、修学旅行の行き先が京都です。
これはもう、運命と言うしかありません!!
ただ、あの人の修学旅行の行き先は北海道でした。
もし一緒ならうれしかったんですけど、残念です。
なぜかその時エヴァンジェリンさんは笑ってました。
その後お茶いただいて、解散となりました。
帰る際、『分身』を作る人形を使って授業はサボってはいけませんと注意しようと考えてたら、その前にあの人に注意されてしまいました。
でも、僕が注意するよりも効果がありそうです。
ちゃんと明日から授業に出てくれるといいんだけど。
封印が解けて、学園から自由になったとしても。
最後の別れ際、エヴァンジェリンさんがあの人に、「何者か?」と問いかけていました。
それは、僕も気になります!
あの人は最初はぐらかしていましたけど、少し悩んでから、こう言いました。
「そうだな。あえて言うなら、俺も『サウザンドマスター』だ」
「なっ、なにぃぃぃぃぃ!?」
「えええええええー!?」
衝撃の事実。としか言いようがありません。
びっくりしている間に、あの人は去っていってしまいました。
『サウザンドマスター』。僕の探している『母さん』と同じ称号。
僕の生徒の皆さんと同じくらいの年にしか見えないのに。
そんなに、すごい人だったなんて……
……あれ? でもあの人、自分は魔法使いじゃないって言ってなかったっけ。
じゃあ、魔法以外の千?
それとも、魔法使いじゃないという言葉が嘘?
真偽の程は、わかりません。
この事は忘れろと言われたけど、忘れられそうにありません。
たぶん黙っておけという意味なので、僕の胸にしまっておこうと思います。
───エヴァンジェリン───
「……」
私は、驚いていた。
「……まさか、本当に成功するとはな」
確認するように、私は両の手を見る。
「ケケケケケ」
「チャチャゼロか」
チャチャゼロがここの場に現れたという事。
それは、これが本当に成功したという証明。
「体の方はどうだ?」
「アア、驚イタ事ニソノママクッツキヤガッタゼ」
バラバラになったチャチャゼロの体は、断面(?)を合わせるとそのまま接合。機能を取り戻した。つけ直してみれば、完全な無傷。
チャチャゼロの体は、壊されたのではなく、分解された。というのが正しい状態だったらしい。
まったく、アイツのやる事は不可解でいかん。
「ソーダ御主人」
「なんだ?」
「クダラネー話ダガヨ」
くだらないならするなと言いたいところだが、この従者が「くだらない」という事は、その逆の意味である事が多い。
「俺、アイツニ、バラバラニサレタンダケドナ」
「ああ」
「アイツ、ソノ時俺ニトドメ刺サネーデ、人ノ家族勝手ニ奪ッチャ駄目トカ言ッテタゼ」
「っ! なんだと?」
「殺ソウトシタ奴ニ向カッテヨ」
「……」
「アイツ、俺等ノ事知ッテイルハズナノニヨ」
あいつは初見で、私の名を平然と言い放った。
つまり、私が元600万ドルの賞金首であった事を知っているはずだ。
私が何者で、なにをしてきたか知っているはずだ。
それなのにあいつは、そんな事を言ったのか。
チャチャゼロを、私の、家族。と。
……私の、家族、か。
「……」
そして、この呪いの件。
ひょっとして、あの布もなにか他に意味があったのか?
「なんなのだろうな、あいつは」
「シラネー」
本当に腹の立つ男だ。
これほど私を腹立たせたのは、あの女。ネギの母親であり、奴と同じ『サウザンドマスター』だけだ。
しかし、ナギと同じく、とても興味深い。
……だが、もう奴と会う事もない。
ちょっかいは出さないと、約束してしまったから。
「マアイイヤ。調子ハドーヨ?」
「……悪くないな」
奴からもらった、私そっくりと成る存在。いわゆる『分身』を作る分類不明の道具(魔法の道具なのか、アーティファクトなのかすらわからない)
私は奴の言ったとおり、それを呪いの精霊に私と誤認させ、私の『分身』に呪いを肩代わりさせる事に成功した。
あまりにも、あっさりと。拍子抜けするほどに。それほど『それ』は、私そっくりだったのだ。
これにより、『分身』がきちんと学園にいるならば、私は学園の外に出る事も、魔力を使う事も可能となったのだ。
ただし、その魔力は本来よりもだいぶ制限しなければならない。
一定以上の魔力を持ってしまうと、呪いが『分身』に騙されず、本体である私を再び捕らえてしまうからだ。呪いの方もそこまで無能ではないわけだ。
まあ、この制限は腹立たしいが、全然使えなかった今までよりはマシだろう。
それでも並の魔法使いなどには負けないがな。強さのクラスで言えばAほどは楽にある。
もっとも学園内では逆に魔力を隠さねばならないが。私が自由に動けるようになったという事は当然秘密なのだ。
監視されるのもまっぴらだからな。
だが、魔力の制限など今は大きな問題ではない。
『分身』に雑務をすべて任せれば、私自身は学園の外へ出られるのだ。
再び自由を手に入れたのだ!
これほど、うれしい事はない!!
さて。どうしてくれよう。
この自由の身で、どうしてくれよう!
だが、そこで、ぴたりと止まってしまう。
……困った。外に出られるようになったからといってなにをすればいいのかさっぱりわからなかったのだ。
あまりに唐突すぎて、やりたい事が思い浮かばない。
とりあえず、ナギの足跡でも探してみるか。
だとすれば、私も京都へ行って奴の情報を集めてもいいだろう。
だが、当然3-Aとして修学旅行へはいけない。
となると、単身で京都へ行かねばならなくなる。
行くのはいい。
飛んでゆけばいいのだからな。
問題は、ナギの住んでいた住居の正確な位置がわからない。という事だ。
しかも京都は魔都であり、関西呪術協会の膝元でもある。魔法を使って派手には動けない。
となると、移動は公共の交通手段などを使わねばならないが、15年間学園に引きこもっていた私は、切符の買い方などがさっぱりわからないときている(地名も変わっているところもあるだろうし)
茶々丸が使えれば、そのような事問題もないが、この場合茶々丸を連れていけるわけもない。
ちっ、こんな事ならなんでも茶々丸任せにせず、覚えておけばよかったよ。
どうしたものか……
「アイツ誘ッテ案内シテモラエバイージャネーカ」
「っ、ばっ! あ、アイツは、あいつは……」
確かにアイツはこの事情をすべて理解している、私の唯一の協力者となれる存在だ。
だが、あいつと約束をした。
私はもう、あいつにちょっかいをかけないと。
約束してしまった。
「破ッチマエバイーダロ」
「約束を違えるのは私のプライドが許さん」
『悪い魔法使い』だからこそな。
「ンジャ、シャーネエナ。カワリニ俺ガ遊ンデ来ルカ」
そりゃ貴様はちょっかいをださないと約束などしていな……
「それだー!!」
「ハ?」
それだ! 面白い余興と、さらに些細な復讐にもなる!
これだけの魔力が回復すれば、問題なくやれるだろう。
「ふふふふふふ。ふはは。はーっはっはっはっはっはっは」
「イ、イッタイナンナンダヨ」
──────
あれから数日。
平穏な日々が続いていた。
もう俺はご機嫌である。
あの戦いの次の日は、幼女とねんごろになったとか噂が新しく広まっていて、さらにひどい状況になりかけたが、俺の努力もあって、少しずつ誤解は解けてきている。
避けるクラスメイトへ、めげずに声をかけたかいがあったというものだ。
そろそろ修学旅行だし、班行動なので、どうしても彼等のどこかに俺が入らなければならない。
俺が入って子供達に嫌な思いをさせるのはちょっと遠慮したかったので、その努力も実ってきてうれしい限りだ。
ちなみに修学旅行をサボるとかも考えたが、ここでも両親への配慮によって却下となった。そもそも俺と級友の関係が良好なら問題ないのだから。
今日は、挨拶を返してくれる子も増えた。
幼女の件でどこかから呼び出しをくらう様子もない。
ふー。最初はどうなるかと思ったが、幼女の一件が終わってから、俺にもやっと運が向いてきたようだぜ。
これからはずっと俺のためのターン!
……そう思っていた時期が、俺にもありました。
「えー、まず最初に。修学旅行の行き先ですが」
担任が、入ってきたとたんそう口を開いた。
「このクラスの行き先は、皆さんの希望通り、無事京都へ変更となりました」
「なにぃぃぃぃぃ!?」
俺思わず絶叫。
「はーい」
クラスメイトは全員素直に返事。
ええええええー!?
なんだそれ!? 昨日まで行き先は北海道だったろ! てか驚いたの俺だけ!? なんでみんないきなりOKなの!? なにこれ!? なんのドッキリ!?
「それと、こんな時期ですが、転校生を紹介します」
俺の絶叫をさっくり無視して、担任は話を進める。
完全に俺無視ですかあぁぁぁー!
さすがにこっちはクラスメイトもざわついた。
おかげで俺も少し冷静になる。
しかし、この時期に転校生とは、随分中途半端な時期だな。
……この時期に転校できるって事は、案外本気で転校考えれば、転校できたのか?
とか考えたが、そういうのは入ってきた転校生のおかげで全部吹っ飛んだ。
「エド・マグダエルです。皆さんよろしくお願いします」
どこかで見た事のある金髪美男子がそこにいた。
面影があるどころじゃない。
長い金髪に、あの幼女を思わせるパーツ。あの挑発的な笑み。
なにより、俺に目をあわせて、声は出さずに俺を呼びやがった。
「ちょっ! おま!」
思わず立ち上がる。
「あら、知り合い?」
「はい。先日少し」
エドと呼ばれた、明らかに中身幼女のアイツが担任に答える。
「あらそう。知り合いなら、エド君のお世話お願いね」
「……あんぐり」
……まさか、本気で呪いの身代わりを作って、魔力取り戻しやがったのかよ。成功したのかよ。
ほんの少しの時間とかじゃなくて、完全に独立して動けるようになってんのかよ。
原作じゃ学園長死ぬほど苦労してなかったか? それなのにこっちは平気なのかよ?
すげぇな幼女。
おじさん、予想外だよ。
でもそれで、男装(幻術なんだろうが)して転校してくるとか、ねーよ。
なんだよその本体そのままの長い髪。男でそれねーだろ。漫画でしか見た事ねーよ。お前はどこの漫画の登場人物だ。
あ、『ネギま』か。
俺、呆然。当然呆然。
奴、俺の隣に着席。
「よく一発で見破った」
「いや、そんだけヒントがあればいくらなんでも気づくだろ……」
俺はもう、うめくしか出来ない。
ニヤニヤすんな。
(……しかしまさか、ひと目で幻術を見破られるとは。こいつほどでもないが、このまま学園長のじじいに会っても見破られないほど擬態には自信があったのだが。やはりこの男、伊達に『サウザンドマスター』を名乗っただけはないな)
「てめーもう俺には関わらないって言ったじゃねーか」
「知らんな。私はエドであり、お前の約束した美しく、たおやかな淑女の事などまったく知らん」
屁理屈だぞそれ!
「つまり、行き先を京都に変更したり、それをクラスメイトが不思議に思わなかったのはお前のせいというわけか」
「さてな」
しれっと答えやがって。
そういやお前催眠術とか使えたな。それでか?
「3-Aの方はどうしたんだよ」
「ちゃんと通っているさ。呪われている『私』がな」
コピーは通わせんなって言っただろうが!
ごめんよネギ先生。今そっちに行ってるのコピーだわ。
「恩を仇で返しやがって……」
「貴様の方こそ呪いを解けるとか言ってまるで役に立たん手段だったではないか」
あぁん?
「ちゃんと解けるだろ。呪いは」
ごらぁ!
デコがぶつかり合うくらいの距離でにらみ合う。
「本音は嫌がらせだろ? 嫌がらせなんだろ?」
「当たり前だ。私をあそこまでコケにしてただで済ますはずがないだろうが」
うわ、すっげーいい笑顔。
嫌がらせですかそうですか。
『コピーロボット』あげた恩をそのまま仇で返しますか。さすがですね悪の魔法使い。
そんなに俺が嫌いですか。そうですか。
あとで泣かす! 絶対泣かす!! 覚えとけ!
とうとうデコ激突。
ごつごつ。
「ふふふふふふ」
「ふふふふふふ」
「せんせー。二人の笑いが怪しいでーす」
「無視して授業はじめますよー」
「はーい」
えーっと、つまりこれで、また原作に齟齬が生まれたわけですね。
また俺の余計な事で、余計な心配が生まれたわけですね。
とりあえず、幼女はそう簡単に正体を他に現せないわけだから、原作に関わりそうにないのが救いかな。
呪いが解けていないから、修学旅行ラストは問題ないと思うけど。
ただ、俺が京都に行く事になったのがネックだけどね。
つーか、生身で京都行けるようになったから、俺への嫌がらせもかねてここに来たんだろうね。
幼女この先京都行けるなんて知らないだろうから。
なんつー迷惑。
まあ、どの道ネギに迷惑はかけないようにしないと……
修学旅行編は負けられない戦いだからなぁ。
下手すりゃ死んじゃうし。絶対関わりたくもねぇ。
はぁ。これで関わりなくなったと思ったのに。
せんせー。俺、平穏な生活が欲しいでーす。
──MU☆RI★DA☆NE!!
……久しぶりに天の声が聞こえた。
─あとがき─
彼の自業自得生活は、まだはじまったばかりだ!!
第一章完! という感じで、主人公が何者なのかが明かされてみたりしました。
千の未来道具を持つ男で『サウザンドマスター』。もうやっちまった感バリバリですね。こうして調子に乗って大変な目にあうというのに。
この男、後悔はしても反省はしない。本当に駄目な男だとおじさん思うヨ。
そしておじさんは反省も後悔もしないからバランス取れてるヨ。
あと、皆様すでにご理解のほどとは思いますが、彼はナギの事を男と思ってます。
だって『ネギま』原作じゃそうだから!
ちなみに未来道具ことドラえもんのヒミツ道具は総数約2000個ほどあるらしい。
本編とは関係ないけど思いついたネタ。というかタイトル
『とある科学の秘密道具』
……イける!!