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No.6617の一覧
[0] ネギえもん(現実→ネギま +四次元ポケット) エヴァルート完結[YSK](2012/05/05 21:07)
[1] ネギえもん ─第2話─[YSK](2012/02/25 21:26)
[2] ネギえもん ─第3話─[YSK](2009/06/26 20:30)
[3] ネギえもん ─第4話─[YSK](2009/03/09 21:10)
[4] ネギえもん ─第5話─[YSK](2009/03/14 01:31)
[5] ネギえもん ─第6話─[YSK](2012/03/20 21:09)
[6] ネギえもん ─第7話─[YSK](2009/03/09 21:50)
[7] ネギえもん ─第8話─[YSK](2009/03/11 21:41)
[8] ネギえもん ─第9話─[YSK](2009/03/13 21:42)
[9] ネギえもん ─第10話─[YSK](2009/03/27 20:48)
[10] ネギえもん ─第11話─[YSK](2009/03/31 21:58)
[11] ネギえもん ─第12話─[YSK](2009/05/12 22:03)
[12] 中書き その1[YSK](2009/05/12 20:25)
[13] ネギえもん ─第13話─ エヴァルート01[YSK](2012/02/25 21:27)
[14] ネギえもん ─第14話─ エヴァルート02[YSK](2009/05/14 21:24)
[15] ネギえもん ─第15話─ エヴァルート03[YSK](2009/06/01 20:50)
[16] ネギえもん ─第16話─ エヴァルート04[YSK](2009/06/06 23:17)
[17] ネギえもん ─第17話─ エヴァルート05[YSK](2012/02/25 21:28)
[18] ネギえもん ─第18話─ エヴァルート06[YSK](2009/06/23 21:19)
[19] ネギえもん ─第19話─ エヴァルート07[YSK](2012/02/25 21:30)
[20] ネギえもん ─第20話─ エヴァルート08[YSK](2012/02/25 21:31)
[21] ネギえもん ─第21話─ エヴァルート09 第1部完[YSK](2009/07/07 21:36)
[22] 人物説明&質問コーナー[YSK](2009/07/06 21:39)
[23] 外伝その1 マブラヴオルタ[YSK](2009/03/13 21:11)
[24] 外伝その2 リリカルなのは[YSK](2009/06/06 21:16)
[25] ネギえもん ─番外編─  エヴァルート幕間[YSK](2012/02/25 21:09)
[26] ネギえもん ─第22話─ エヴァルート10 第2部[YSK](2012/02/25 22:58)
[27] ネギえもん ─第23話─ エヴァルート11[YSK](2012/03/03 21:45)
[28] ネギえもん ─第24話─ エヴァルート12[YSK](2012/03/10 21:31)
[29] ネギえもん ─第25話─ エヴァルート13[YSK](2012/03/20 21:08)
[30] ネギえもん ─第26話─ エヴァルート14[YSK](2012/04/07 21:34)
[31] ネギえもん ─第27話─ エヴァルート15[YSK](2012/03/26 21:32)
[32] ネギえもん ─第28話─ エヴァルート16[YSK](2012/03/26 22:10)
[33] ネギえもん ─第29話─ エヴァルート17[YSK](2012/03/29 21:08)
[34] ネギえもん ─第30話─ エヴァルート18[YSK](2012/04/07 21:30)
[35] ネギえもん ─第31話─ エヴァルート19[YSK](2012/04/14 21:12)
[36] ネギえもん ─第32話─ エヴァルート20[YSK](2012/04/14 21:20)
[37] ネギえもん ─第33話─ エヴァルート21[YSK](2012/05/05 21:03)
[38] ネギえもん ─最終話─  エヴァルート22[YSK](2012/05/05 21:06)
[39] 第2部登場人物説明兼後日談&質問コーナー[YSK](2012/05/05 21:01)
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[6617] ネギえもん ─第23話─ エヴァルート11
Name: YSK◆f56976e9 ID:a4cccfd9 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/03/03 21:45
初出 2012/03/03 以後修正

─第23話─




 彼女の位置づけは、ゲームクリア後に登場する最強の裏ボスって感じ。




──────




 カッと照りつける太陽。
 ミーンミーンと短い命を燃やしてその存在を世界に刻み付ける蝉の声。


 今はまさに夏である。


 時間はそろそろ昼といったところか。


 学園の通りを、日傘をさした、金色の美しい髪を持つ美少女と、黒髪の少年が歩いていた。


 まあ、俺とエヴァンジェリンなんだけどさ。


 ちなみにエヴァの服装はコミックス第19巻170時間目前半で着ていたのを思い浮かべるといいらしいよ。
 後半で着てたノースリーブでメガネかけてた方は丁度今コピーの方が着て、その上別荘の方では明日菜部長就任試験がとりおこなわれている時だったりもするが、こちらとは関係ない話だ(天の声より)



「さて。今日はどこへ行くか」
「そうだな。あそこはどうだ?」
 俺の質問に、エヴァが答える。
「あそこじゃわからん。ゲーセンか? ショッピングか?」
「ゲームセンターだ。先日のリベンジをしてくれる」
「買い物は?」
「今日は気分が乗らん」
「そっか。ところでアレ持ってない?」
「アレとはどれだ。ガムか? 飲み物か?」
「クレープ」
「持っているわけあるか! 私はアイスの方がいいバニラだな」
「お前も腹は減ってるのか」
「そろそろ昼だからな」
「そーいやそーだね」
「せっかくだ。出かける前に腹ごしらえして行くか?」
「そうだな。超君のところでいい?」
「かまわん」


 というわけで、超包子へ行く事も決まり、てこてこと歩きはじめました。


「……」
 でも、ただ歩くだけじゃつまらないです。

「なあ」
「なんだ?」

「手、つないでいいか?」
 そう手を差し出したら……


「ぶっ!」
 エヴァに噴出された。


「なにいきなり噴出してんだよ」
「い、いや。なんというかだな……」

「恥ずかしいか」
 人前だから。


「……ふん」


 あ、すねた。
 でもそのすねた顔が見れただけで俺は満足です。


「まぁ、今夏だし暑いしなぁ」
「そうだ。暑い。こうして日傘がなくてはか弱い私は倒れてしまうほどだ」

「ならちょうどいいや。実は俺、個人用のクーラーをつけてんだよ。手をつなげば、一緒に適温になるぞ?」


『うでくうらあ』
 腕時計型のクーラー。腕にはめると涼しくなる。
 類似品に『腕こたつ』がある。
 これ、超便利。超涼しい。超快適。


「……お前、図ったな」


 にらまれちった。


 だって、ホントはお前、魔力で体温調節とか出来るんだろ? 氷の魔法使い。
 人間戻ったから学園長に魔法解禁しても怒られないようになったはずだし。


「あー、夏って暑いよなー。でも俺涼しいなー。ちらちら」
「わざとらしく口でちらちら言うな! 大体お前こういう事に力使わないんじゃなかったのか!」」


 うん。そういえば昔そんな事言った覚えあるね(第11話修学旅行の病気で)


「はっはっは。これはお前をおちょくるためだからまったく問題ない!」
「よし。そのクーラーを私によこせ。それで万事解決だ。誰が手などつないでやるかこのアホ!」


 こ、こいつ、なんという解決方法を! 百点満点の切りかえしじゃないか!


「ひどい! ちょっとしたお茶目なのに! 人前で手をつなぐ理由を作ってあげただけなのに!」
 めそめそと両手で顔をおおって泣いたフリ。

「馬鹿な事を大声で言うな! お前、アルと出会ってから性格悪くなったな」

「それはクウネルさんのおかげじゃなくて、好きな子をいじめたいという思春期独特の精神状態のせい」
 キリッと無意味にキメ顔で語ってみる。


 そういえばクウネルはんもエヴァをいじるの、原作中ではそう呼ばれていたから、あの人を例えに出されるのはある意味当然かも……
 それ以前に恋人になってからエヴァいじりはじめたのがあの人と一緒にやった時からって事からかもしれないが。


「思春期とか言うような精神年齢でもないだろうに」
「男はいつまでも少年なのさ」

「少年ならば人前で少女と手をつなぐ事に羞恥を持て」
「残念だが可愛い彼女を周囲に見せびらかしたいという欲求のが大きいのだ」

「……」
 エヴァが無言で目を見開いて俺を見てきた。

「どした?」

「この、アホ」
(ふ、不意打ちで可愛いとか言うな!)

「目をそらしつつ赤面して言われても嬉しいだけです」
「あほ」


「つーわけで手をつなごうぜ」


「……」

「デートなんだから。な?」


「……ふん。お前がそこまで言うのなら仕方がないな」

「ん。ありがとよ」


 そう、手を伸ばす。



 手と手がつながれようとしたその時……



「見つけましたわー!」


 俺達の背後から声がかかった。



 ……すんでのところでつなげないのは、お約束。
 ちゃんちゃん。


 ってしまった。今はもう無視してつないでしまうという行動も出来たではないか!
 次回にはこの反省を生かしていきたいと思います。



 二人で振り返ってみると、そこにいたのは委員長こと雪広あやかお嬢さん。
 そういえば、彼女と会うのは学園祭以来か。


「や、ひさしぶり」
 エヴァの手を取ろうとした方の手を上げて挨拶。

「おひさしぶりですわね」
 あっちも挨拶。

 その後ろにはいまだ存在する対俺用と思われる黒服執事さん達。前より増えたような減ったような屈強になったようななっていないような。
 というか黒スーツで暑くないのかしら。プロだから?

 そうチラッと見たら、黒服執事さんにうなずかれたので、プロだからと納得しておく。


「それで、なんの用だ雪広あやか」
 ちょっと不機嫌になったエヴァがあやかなお嬢に声を返す。
 お前、ホントは手ぇつなぎたかったんだな。


「お二人で居るところ申し訳ございませんけど、お聞きたい事がありまして」

「それで俺を探していたの?」

「はい。なかなか機会がなくて今日になりましたが」


 あー、学際の後は期末テストもあったしね。相変わらずテストは鬼門なネギクラスだったみたいだし。


「……だったら電話とかしてくれればよかったのに」
 俺の携帯番号まで調べあげて把握してるのだから。

「……」
 その言葉を聞いて、お嬢さん固まる。


「?」


「気づきませんでしたわっ……!」


「……」
「……」
 あきれる俺とエヴァ。


 この子、頭はいいんだけど、どこか抜けてますよね。

 ちなみにちらっと黒服の人見たら顔ごと(サングラスだから)視線をそらされた
 あんたら気づいてただろ!

 視線でそう送ったら、おっさん達がいっせいにてへぺろした。すがすがしいくらいにキモイよ!


「? どうしましたの?」

「いえ、ナンデモアリマセン」

 背後で行われた謎コミュニケーションなんて知らなくていいです。お嬢様は純粋培養で居てください。


「それで、聞きたい事とは?」
 俺と黒服のバットコミュニケーションを見てあきれていたエヴァがさっさと不毛な会話を終わらせるため質問を聞きおった。


「そうですわね。本題に入りましょう。一つ解せませんので質問をさせていただきますわ」


「はいはい。なにが聞きたいの?」
 ホントなんだろう。

「エヴァンジェリンさんには少し不愉快な思いをさせてしまいますかもしれませんので、先に謝っておきます」
「まあいいだろう」


「どうして、貴方が選んだのは、エヴァンジェリンさんなのですか?」


「あー」
 ああ。そうか。そういえば、彼女はちづるさんと同室だった。その上ちづるさんの事を応援もしていたし、俺とエヴァとエドの間にあった因縁とか関係も知るはずがない。
 そんな俺とエヴァが良い仲になったとなれば、唐突過ぎて納得がいかないのもあたりまえだろう。

 千鶴と同室でかつ失恋の時胸まで貸した彼女ならば、当然と言えた(胸を貸した事は彼は知らないが)


「エヴァンジェリンさんは日本の方ではございません」

 そりゃぁ、エヴァンジェリンなんだから日本の子じゃありませんよ。

「体の方だって、十歳と言っても納得のいく発育具合。知らない方が見れば、趣味を疑われる事間違いのないほどに」
 まあ、実際10歳の身体だしなぁ。
 普通に考えれば、スタイル抜群のちづるさんを選ぶわなぁ。

「日本の方ではなく、そのうえ十歳の子でもよろしいというのなら、なぜなのです!」


 そりゃ、エヴァは色々例外だから……って、ん? なんか言い方に違和感が……




「なぜ、ネギ先生ではないのです!!」

 それは、絶叫。
 絶叫であった。



 思わずずるっとずっこけるかと思った。
 隣でエヴァもがくんと肩を落としている。


「エヴァンジェリンさんでOKだというのなら、なぜネギ先生を選ばないのです!! それを答えていただきたいですわ!」


 とりあえず、頭を抱えた。


「え、えーっと、なんでそこでネギ? 今までの流れ的にネギじゃねーだろ。ちづるさんはどうしたんだよ。大体ネギとそんな関係になるの許さねーくせに」

「ええ許しませんよ。ですけどエヴァンジェリンさんを選ぶ貴方ならば、ネギ先生のあの可憐さ。あのかぐわしさ。あの優雅さ。それらすべてをあわせもったネギ先生を愛してしかるべきではありませんか!」
 くわっと無意味に集中線が彼女に集まったのが見えた気がした。


 そういえばそうだった。

 この子、ネギの事になると人外のパワーを発揮するけど、凄いアホの子になったりもするんだった。
 どおりで電話に気づかないわけだ……


「いや、万一愛しちゃったりしたら、交際許してくれんの?」
「当然許しません! そんな感情を持つ事すらも!」


「君は俺にどうさせたいんだー!」


「え?」
「おい。そこでなぜわかりませんのこのお馬鹿さんは。的な顔をするな」
 ものすごいきょとんとした顔されたよ今!


 頭をひねるお嬢。
「貴方まさか、ネギ先生の事が、お嫌いなの!?」


「い、いや、好きか嫌いかで言えば、好きな部類に入るよ」
「ならばなぜネギ先生ではなくエヴァンジェリンさんなのですか!」
「意味がわからない!」


「あきらめろ雪広あやか」
 今まで口を挟まなかったエヴァが、くちばしを挟んできた。

「お前がこいつの魅力をきちんと理解しているようだから、許してやる。だから、諦めろ。こいつはもう、私のモノだ。ふさわしいと認めてしまっていても、それはかなわぬ願いだ。こいつはすでに、私のモノなのだから」

 大切な事なので、2度言われました。
 ……あ、俺このフレーズ好きなのか? まあいい。


「……あぁ、つまり、俺は一応、ネギと付き合うにふさわしい男と認めてもらえてはいたってわけね」


「そ、そんな認めるなんてありません。絶対ありませんから!」

「だが、お前の口はそう言っている」
 エヴァがきっぱりと断言する。

「ぐぬぬ」


 そっか。一応俺は、彼女の中で(認めたくはないのだろうけど)は、ネギと釣り合いが取れそうな男カテゴリに入っていたって事か。

「……ありがとな」
「なんのことだかさっぱりですわ」

 ぷんと、視線を外されてしまいましたわ。


「ま、さっぱりならそれでいいけどな。ただ、エヴァの言うとおり、俺はもうこいつのモンのようなもんだから、ネギとそういう関係になる事はないよ」


「え?」
 なにをバカな事をって顔されたー!


「なにを言っているのです。じゃあネギ先生はどうするんですか?」


「こいつぅ」
「認めたくないくせに認めているから逆にやっかいだな」
「まったくだ。困ったな」

 当然黒服さん達は役に立たないのだろうし。


 そうやって、黒服さん達を見たその時。


「あやか」


 よく知る声が、黒服さん達の後ろから聞こえてきた。


 お嬢さんが振り向くと……



 ざっ。


 黒服が二つに割れて、そこから一人の女性が姿を現す。

 ……ちづるさん。なんで黒服さんとそんなにナイスコンビネーションなんです?
 むしろ黒服さん達の趣味ですか? 活き活きしてますモンね趣味ですよね。


「千鶴さん……」

「もう、あやかったら。エヴァンジェリンさんとお付き合いする事が決まったんですから、わがままを言って困らせてはいけないわ」

 にっこりと、まるで母のように彼女は微笑んだ。


「……そう、ですわね」
 なんとか納得したように、彼女も矛を収めてくれた。



 ふう。これで一件落……



「ちなみに私は諦めていませんけどね」

「さっそく困る事を!」



 ……着しなかった!



「だって、約束しましたのに……」
 憂うように、頬に手を当て、彼女は目を伏せる。


 約束。
 高校を出るまで手は出さないというあの約束の事ですね。


「私には卒業まで待てとおっしゃったくせに……」


 ほろり。

 その瞳には涙が……



 うぐっ。泣くのはずるいです……



「ばかもの。女の涙に騙されるな。まだ14、5とはいえこいつも女。愛のためならそのくらいやってくるぞ」
「あらあら。バレましたか」

 エヴァの言葉に、けろりと涙を止めるちづるさん。


「それにあの約束は手を出さないという事であって、それを守れば付き合う事に問題ないという事だ」

「あら、そうでしたね」

「ふふふ」
「うふふ」



 びしっ。



 一瞬にして周辺の温度が下がった気がします。凍った気がします。
 俺今クーラーつけて適温快適状態なのに、なぜか寒気したよ。

 あやかお嬢さんと黒服さん達は俺の背後でがたがたしてますし。



 ちづるさん。しばらく前まではかまってほしくて、ただわがままを言っていた女の子だったのに……



 ……おんなのひとってこわいね。



 あの、だから、背中をぐいぐい押さないでください。
 わかってますお嬢様。

 これ、俺が止めなきゃならない事くらい。

 だから、執事さんをアメフトみたいにスクラム組ませて押させないでください。
 俺を押さないでください。

 ちょっと勇気出るまで時間をください。


 時間をくださいー!



 ぽーんと二人の間に放りこまれた。



「骨は拾って差し上げますわ!」
 背後で不穏な言葉が聞こえる。
 というか遺影とか準備しないでお金持ち!


 そして、突き刺さるのは絶対零度なエヴァの視線と、温かいはずなのに冷たく感じるにこにこしたちづるさんの視線。



 ぞくぅ。



 二つに挟まれ、未来の道具をつけているはずなのに、どんどん寒くなるのを感じる。
 未来道具すら無視させるプレッシャー。これがしゅらばってやつか……


「……」
 ふう。と、勇気を生み出すために息を吐く。

 生まれろ。

 生まれろ勇気!


 俺の勇気!!


「エヴァンジェリン」
「なんだ? 今忙しい」
 視線は俺の方へは向けず、声だけの返答だ。


「知ってる」
 彼女の方へと向かい、そのまま答えを聞かず、問答無用で彼女を抱きかかえる。


 お姫様抱っこだ。


「なっ!?」

 驚くエヴァを抱きかかえ、振り返り、ちづるさんをそのまままっすぐ見る。



「ちづるさん」
「はい」


「そこまで俺を好きでいてくれてありがとう。でも、ごめん。君の気持ちは嬉しいけど、俺の心は、もうこいつのモノだから。こいつの事は裏切れない。だから、君とはそういう関係になる事はないよ」

 さっきあやかお嬢さんに言った事とほぼ同じ内容を、言う。


 ただ、この場の空気に熱がともるほどの意思をこめて!



 この状況を見て、雪広あやかは後に語る。
「彼の言葉は、そこにあった絶対零度の領域を一瞬にして溶かしてしまうほどの熱さを持っていたかのように感じました。風などふいてもいないのに、私はその場で、熱風が吹き荒れたと感じたほどに……」

 堂々と愛する人を抱きかかえ、その気持ちを抱えるのはその人のみだと真剣な顔で発せられたその一言は、まさに魂へ直接響く言葉であった……

「これほどの愛を感じさせられると、女として、少し嫉妬してしまいますわね」
 ふふっ。と、笑う。
 だがその言葉とは裏腹に、どこかさわやかな表情であった。

「ですけど、恐ろしいのは、彼だけでは、ございませんの……」
 その視線が見る先には……



「はい。でも、諦めません。むしろ惚れ直しました」

 そう、ちづるさんに笑顔で切り返されました。


「……そっか強敵だね」

「負けませんよ」

「わかった。強敵のようだから、今日のところは撤退させてもらうよ」

「はい。次は逃がしません」

「いつか、諦めるんだよ」


 俺はそう言って、エヴァを抱えたまま、その場を離れるのであった。
 両手が使えないので、心でしゅっといつものポーズをイメージして。
 ちなみにエヴァは俺の手の中で真っ赤になって沈黙したままだ。




「うふふ」
 千鶴はそのまま、彼の背中を見送った。

「もう」
 恐怖の絶対零度空間から開放されたあやかが、二人を見送る千鶴へ声をかける。

「あらあやか」

「千鶴さんもあの時諦めたんじゃありませんでしたの? そう言っていたではありませんか」
 麻帆良祭二日目の夜、エヴァの為にはっきり振られた彼女は、そう言っていたのだ。


 だからあやかは、千鶴の事を彼に質問したりするつもりはなかった。


「あやか。私思うの。三人で幸せになるっていうのも素敵だなって」

「……わたくし、あなたの事がたまによくわからなくなりますわ」

「あやかも恋をすればわかるようになるわよ。あ、でもあの人はダメよ」

「当たり前です!」

「うふふ」


 去ってゆく二人の背中を、彼女は結局、優しく見つめていた。
 だって彼女は、あの二人が一緒に居るのを見るのも、大好きなのだ。




───エヴァンジェリン───





 一つだけ言うぞ。






 惚れ直すだろうがあぁぁぁぁぁ!





──────




 エヴァを抱えて超包子までやってきた。

 なんというか、あれです。
 エヴァオーバーヒートしちゃったみたいで、動かなくなったのでそのまま運んできたのです。
 なに話しかけても「ああ」としか答えが返ってきません。ちょっと面白くありません。


「いらっしゃいませネー」
 超が出迎えてくれた。


 麻帆良祭最終日の大人しめとなった火星ロボ決戦で敗北したので、彼女は中学卒業まで、ここにいる事が決まっている。
 はい。現状確認終わり。


「おや、ラブラブネ」
「はっはっは。可愛いだろ俺の彼女」
 抱きかかえたままなので、今のうちに自慢する。


 多分目が覚めたらアッパー食らうだろう。でもいいのさ! むしろ満足さ!


「知てるヨ。こういうのバカップル言うネ」
「知ってるネ。バカップル楽しいヨ」


「……少し性格軽くなタ?」
「調子に乗っていると言ってほしいな」

「アナタは相変わらず読めない人ヨ」
 楽しそうに笑われちまったい。照れるぜ。


「とりあえず、席二つ空いてる? 今は一つでいいけど」

「バッチリ空いてるネ。夏休みなので帰省してる子も多いカラ暇ヨ」


 ……この学園って帰省せずに残ってる人多そうだけど、まあ、今だけかもだから気にしないでおこう。


「帰省といえば、渡した『タイムベルト』がどうなったか聞きたいところだけど、今なら人前でこのエヴァにあーんが実現出来そうだからさっそくスプーンで食べさせられるものを持ってきてください」

「わかたネ。杏仁豆腐おススメヨ」

「あ、いや、バニラアイスをカップグラスにお願い」
「承りましたネ!」


 すちゃっと席について待つ。
 膝の上にまだオーバーヒートしてるエヴァを乗せる。

 こうしてみると、人形みたいだ。
 でもいい匂いするし、人形にはない温かさがある。
 首筋のところとかに顔をうずめてくんかくんかしたいが、さすがにソレは色々マズいので我慢する。我慢する!


 迅速に超がバニラアイスを持ってきてくれた。


 テーブルに置かれたスプーンに手を伸ばす。
 指ではじき、無駄にかっこよく片手でくるくるとスプーンを回し、キャッチ!

 きらーんと太陽の光をスプーンが反射した気がした(超包子は基本オープンカフェ営業)

 そのままの勢いで、優しくアイスを掬う!


「さ、エヴァンジェリン。あー……」

「って、なにしてるかー!」

「っぱー!」



 お約束である。



 ぐったりとテーブルの間に倒れる俺を無視し、エヴァは俺が注文したアイスをパクついている。
 俺のアイスぅ。

「このアホ。しね」
 言葉に力がない。まだまだアイスで熱を覚まさないと本調子にならないZO!

「あほ」

「まぁ、エヴァにはしばらくアイスで熱さましをしてもらうとして」


 立ち上がり一度店を出て服についたほこりを落とし、戻ってきて席に着く。


「超君いいかな?」
 休憩として席に呼んで、ちょっと座ってもらう。

「なにカ?」

「さっきの疑問の答えと、もう一つ」

「ふむ。とりあえず、アナタにもらたタイムマシンのおかげで、ワタシはいつでも故郷へ帰れるネ。まあ、それを実行するのは卒業後になるガ」

「それはよかった」

「ちなみに空間移動の方も前回の騒動のおかげで科学のみでいけそうヨ」
「あー」

 前回の騒動とは、鉄人兵団との戦いの事だ。
 リルルの使ったワープを参考に、同じものの再現を試していると聞いている。


 ただし、このワープ技術は超の趣味実験にすぎない。
 『タイムベルト』は確かに基本時間移動しか出来ない。空間移動の装置はついておらず、長時間の時間跳躍を行うと、石の中に居るなんて事もありえる道具である。
 だが、その欠点は魔法の空間転移の応用を云々で解決している。
 帰る準備自体はすでに出来ているのは先ほど超が言ったとおりである。

 とはいえ、俺はそのワープ、『どこでもドア』でやれちゃうのは、秘密だ。
 まあ、伝えても研究止めるとは思えないけど。
 進歩がなくなっちゃうからね!


「まだ実験段階だがネ。まあ、それはイイとして」
「あいあい」

「もう一つトハ?」

「ん。超君はさ、ネギ達と一緒に行く気?」
 場所が場所なので、一応魔法世界という言葉の明言は避けます。

「一応ワタシは留守番の予定ネ」

「そっか。じゃあ、念のため来てもらえないかな?」

「なぜネ?」

「俺も別件で行く事になったから。なんというか、保険?」

「……フム。保険。カ」

「ああ。保険だ」


 クウネルが言っていた。
 俺は、これから起きるであろう魔法世界編に大変関わりあいのありえる『造物主』となにか関係があるかもしれないと(彼の知識は魔法世界編の拳闘大会終了後あたりまでである)
 超がこの時代に来た理由となっている鉄人兵団のような件もある。

 エヴァンジェリンと同じく、保険はあるにこしたことはない。


「そう。わかたネ。でも、エヴァンジェリンに悪いヨ。せかくの二人きりの旅行二」

「俺とじゃなくてネギ達とだから。わざわざ顔赤らめる演技とかいらねーから」

 つかエヴァが行く事はまだ言ってないヨ。
 いや、わかりきってる事なんだろうけど。

「知てるヨ」
 からりと笑顔でいわれたヨ。

「つかそのからかいはあとで俺がエヴァにボコられるから勘弁」
 確かに一緒に行こうと誘ってはいるのだが。

「知てるヨ」
 同じ言葉を同じ笑顔で二度言われましたヨ。

「まあいいや。一緒にゴーOK?」

「OKネ。彼女達の旅にご一緒させてもらうヨ」

「それはありがとさん」

「そもそも貴方の頼み、断れるわけがナイ」


 助かるよ。



 今回起きるだろうイベントは俺とエヴァがどうにかするだろうから、そっちは頼んだよ。
 たぶん、なにもないだろうけど。



「……ふん。私がいれば、なんの問題もない。だから、来なくても問題ないぞ」
 アイスも食べ終わり、熱も冷まし一息ついたエヴァが会話に加わってきた。

「うん。それは信用してる。でも、お前は俺と一緒に来るからさ。ネギの方に保険をってやつ」

「まったくお前は。過保護もいいところだ」

「その分お前が厳しく鍛えているからバランスとれているさ。ところで別荘では今なにしてる?」

「今神楽坂明日菜のアホが部長試験を受けている。下手すれば死ぬな」

「そっか。じゃんじゃん厳しくしてやってくれ。頼んだぞ」

「なにも言わないのか」
「言わなくてもわかるからな」

「……ふん」
(そこまで私を、そしてあいつらを信頼しているという事か。嬉しい事を言ってくれる)



 ……このせいかどうかはわからないが、雪山で七日間生き残るのが本来の部長試練であったが、生き残る+雪山の獣。雪だるまっぽい魔法生物に襲撃されるというサプライズがプラスされてしまったりした。
 が、明日菜はそれでも、アホがアホのままそれを乗り切った。




───エヴァンジェリン───




 部長試験初日。雪山で吼える明日菜を、コピーの知覚から認識するエヴァンジェリンは思う。


 すべての過去を置き去りにして手に入れた平穏と幸福。
 魔法世界へ行けば、お前は、それを手放す事になるかもしれんぞ?


 ……昔の私ならば、そんなお前を見て、嫌悪感を催しただろうな。


 だが、今の私は知ってしまった。すべての過去を受け入れたまま、未来も手に入れられると……



 闇の中にも、必ず光がさしこんでくると……



 ならばお前は、アホのまますべてを乗り切り、その過去を、すべてを受け入れ、未来を手に入れろ。
 ネギと共に。
 仲間と共に。


 ……ふん。私もずいぶんと丸くなったものだ。


 こうなったら、ネギともども私(コピー)が直々に鍛えてあげてやる!



 とりあえず、修行中の服は常にゴスロリ服だな!!




──────




 当初の目的であった昼食を食べつつ、ふと思った事を超に質問した。


「ところで、君はこれからの事、知っているのか?」
 この世界、鉄人兵団なんてものがやってきていたりするから、俺の知識がそのまままるっきり使えるとは限らない。ならば、この世界の未来と情報をすりあわせ、別のなにかが起きる可能性を洗い出してみようと思った。


 が……


「知ているネ。でも、それは誰にも言わないヨ。知ているからこそ、判断を誤る事があるカラ」

 ふっと過去を思い出すように、沈んだ声が耳に届いた。


 あー、しもうた。そういえば超はそれで俺が死ぬ隙を作ってたんやった。
 いやな事思い出させてすまん。


 ホントにすまん。


「ごめん」
 悪いと思うので、ちゃんと声に出して謝ります。


「ふふ。すまないと思うなら、未来に帰た私を嫁にすれば許すネ」


 ……今日はこのネタ多いな。何度目だプロポーズ。


「残念ながら不老化する予定はないので、エヴァンジェリンと二人で幸せに暮らして死ぬよ。子孫に期待しなさい」
「わかたアル。予約するヨ」
 スパッと即答された。


「……マジなの?」
 てっきりさっきまでやってた冗談だと思ってたよ。


「1割冗談ネ」

「ほぼ本気じゃん」
「ワタシ火星人アルから」
「火星関係ないと思うヨ」
「火星人ウソつかない」
「それならしかたがない」


 うんうん納得。


「……納得、するのか?」
 つっこみいれてくれたのは横で聞いてたエヴァンジェリン。

「まあいいじゃないか。未来の子供達の嫁ぎ先が決まったわけだし」
「その時代のそれが男ならな。女の可能性もありえるぞ?」


「「あー」」
 俺と超二人が思わず声を上げてしまった。


「まあ、それはそれだ。たくさん残しとけばいい」
「……お前」
 にっこり微笑んだら、少し赤くなってふてくされたように、嫁が俺の視線から逃げるよう顔を背けた。

「なら安心ネ」


「ただあともう一つあったわ。君が俺とエヴァの子孫として生まれている可能性もあったわ」

「……あ」

 彼女も、この可能性に気づいたようだ。


 ドラえもん原作一番最初にこういう話がある。
 ドラえもんは主人公であるのび太の結婚相手を変えるために過去へとつかわされた。
 だが、それでは送り込んだのび太の子孫は消えてしまうのではないか? と当然の疑問があがる。
 それにのび太の子孫は、のび太が将来どんな人と結婚しても、結局自分は生まれてくるのだと答えた。
 この理論を採用するなら、ネギの子孫である超という存在は必ず生まれてはくる。だが、鉄人兵団撃退で未来が変わった今、俺とエヴァの子孫がネギの子孫と結婚して、超が生まれるという可能性も十分ありえるのだ。


「それは盲点だたネ。まいたヨ」
「その時は諦めな」

「大丈夫ヨ。その時はまた過去を変えればイイ!」
「わーお。そいつは盲点。やるね!」


「「はははははは」」


「お前達は本当になにがしたいのだ」
 エヴァがあきれていた。

「ちょっとしたジョークじゃん」
「またくネ」


 そもそも超が帰ったところで、そこが俺達が変えた、俺達の子供が居る未来とは限らないんだから。


「というかそのネタはもう食傷気味だ。いい加減にしろ」

「はーい」
 おこらりちった。


「私は自分の子孫をあんな小娘の子孫にやる気はないからな」

「……お前もしっかり乗ってんじゃん」

「……」

 そっぽむいてテーブルをこつこつ叩いてごまかしてやがる。


「まあ一応言っておくと、子孫の自由意志にお任せするから、本当に興味があったら探して惚れさせてみておくれ」
「わかたヨ」
 許婚というモノにも少し憧れるが、さすがに100年は遠いので約束は出来ないな。
 いや、道具を使っておけば約束強制出来るけど、さすがにそこまでしても。ねぇ? そもそも以下略だし。


「……あ」
 エヴァのこつこつがとまった。

「そうだ超鈴音」

「ム?」

「ネギま部(仮)の事は聞いていたはずだな?」
「ああ。聞いてるヨ」
 俺がさっき確認してたしネ!

「なら話が早い。そうだな。バッジでも作るから、その手伝いをしろ」

「バッジ?」
 なにそれ? と超が疑問をあげる。

「あー」
 思わず納得の声を上げてしまった俺。
 そーいや用意してたね。ネギま部(仮)あらため、『白き翼』のバッジ。つかこんな早くから作ろうと考えていたんかい。
 もーエヴァちゃんてば友達思いなんだからー。


「ぶべっ」

 なんて考えていたら。後頭部をはたかれた。


「な、なぜわかったし……」
「にやにやするな」
 してないし。微笑ましい目でエヴァを見ただけだし。

「にやにや」
 机に突っ伏しながら言葉で答えます。



 後頭部から煙をふいて意識を飛ばす事になりましたとさ……



 今日は、エヴァの事いじりすぎたようだヨ……


 目を覚ますとバッジの件の話は終わったようでした。




──────




「あら、偶然ですね」


 超包子を出たら、ちづるさんウィズ黒服達。じゃなくてちづるさん+あやかお嬢様と黒服執事軍団がいた。


「どこが偶然だ」
 エヴァがつっこみした。

 まあ、明らかに待ってた感じだものね。


「偶然ですよ~」
「あくまでそう言うつもりか」

「偶然ですから」
 にっこり微笑んでます。


「いくぞ」
 エヴァに左手を引かれた。


「はい。また偶然お会いしましたらよろしくお願いします」


 俺達の歩みが止まった。

 いかん。これは行く先々に『偶然』出現するパターンじゃないか?


「ですから、どうです? ここはみんなで一緒に遊びませんか? 偶然一緒になった事ですし」

 エヴァが手を取る反対側。
 俺の右腕に、彼女は腕を絡ませてきた。

 なんと流れるような自然な動作。
 そこに自分がいるのは自然であるかのように。

 とめる事すら出来なかった!



 そしてエヴァにつかまれた左手が砕けんばかりに痛いぃ。



「ちづるさん。うれしいけど、それはダメです」

「はい」

「例えエヴァとお付き合いしても、あの約束はたがえる事は出来ません」
 なのでその手は離してください。


「そうですね。でも、先ほどから見ていましたけど、節度あるお付き合い、ちょっと逸脱していますよね」


「……」
 冷や汗が出てきた。


 ちづるさんと約束した事の全容は、高校を卒業するまで彼女に指一本も触れず、友人として節度あるおつきあいをするという事だ(返事はその時まで保留)
 卒業前に恋人になってはいけないという条件はなく、あくまで、節度あるという事なのだ。

 ……抱きしめるというのは節度あるお付き合い的にはセーフじゃないかな? うん。
 あれはどちらかというとコント的な色合いが強いと思うし。うん。
 あーんとか出来ないとわかってやってるから。あれネタだから。うん。


 だから無問題!



 ……



 ……すんません。彼女出来て調子乗ってました。
 確かに大人の意味で手は出さないとはいえ、少しハメ外していたみたいです。


 だから、笑いながらハンターみたいな雰囲気出すの止めてください。ちょっと怒ってますかー!?



 ……って。



「というか見てたって言った! 見てたって白状しちゃってますよ!」

「あらあら」


 どちらも追求すると色々まずいので、ここでこの話題は明後日の方向へと飛ばす事が視線で決議されました。



「というわけですから」

「はい?」

「ご一緒させていただきます」
 にっこり。


「え? なんで?」
 脈絡なくない?


「だって言ったじゃありませんか。次に会ったら逃がさない。って」


「……え?」

「言いましたよね? 私」


 リフレイン。


『「わかった。強敵のようだから、今日のところは撤退させてもらうよ」』
『「はい。次は逃がしません」』

『次は逃がしません』

 逃がしません。ません。せん。せん。せん。


 言ってたー!!



 大魔王が現れた!



 勇者は逃げ出した!
 しかし腕を捕まれまわりこまれた!

 勇者は逃げ出した!
 しかしまわりこまれた!

 勇者は逃げ出したい!!
 まわりこまれる以前に足がすくんで動けない!


 ……しっているかい?
 大魔王からは逃げられないんだぜ。


 右手に年不相応に成長した少女。
 左手に年不相応に成長してない少女。


 ただしどっちも美少女。
 正に両手に華!


 すげぇな俺。人生のモテキってやつだ!


 どちらも素敵なトゲを持っているけれど。
 即死級の毒もってるかもしれないけど!



 あのー、あやかお嬢様?

 なんでハンカチもって涙拭いて見送ってくれてますの?
 まるで船出のような雰囲気出さないでくださいまし。

 遺影を掲げないでくださいまし。いえーい。



 その後の記憶はあいまいだ。




 かゆ、うま……




──────




 かぽーん。


 おっす。オラ生きてっぞ。

 調子に乗ってエヴァをいじり倒していたら、いつの間にか大魔王と闇の福音が現れて寿命が何年か縮んだ気がするけど。



 ──自業自得です。※天の声



 大丈夫。清い体は死守してるから。服とか選んでもらって、ちょっと気の使いすぎで寿命が縮んだだけだから。
 これからきっと自重するから。たぶん。きっと。
 ……自信ないけど。


 みんな、約束は、守らないとだめだよ……



 かぽーん(それはさておき的な音)



 さて、と。
 再び深夜の大浴場です。


 なんだか知らないけど、また学園長に呼び出されました。

 昨日と同じくタオル一枚(スペアポケット付)で湯船にぷかぷかしてます。


 今度はなんの話じゃろ? 二度も王子の話をするような事ないと思うんじゃけど。
 それとも他の事かな。

 それは現れた学園長に聞けばいいや。

 今は、この広い風呂を独り占めしよう。
 この密会のいいところは、このひろーい風呂を独り占め出来る事だね。

 のちじじいと二人風呂になるのはアレだけど。



 ちゃぷん。



 背後で誰かが湯船に入った音が聞こえる。

「あ、こんばん……」
 体を起こし振り返った俺は、そのまま固まった。



 しっとりと湿気に濡れ、艶やかさの増えた綺麗な金髪。
 真っ白い、まるで真っ白な陶磁器を思わせる端正な肌。
 まだまだ未熟なラインではあるが、小さく膨らんだ……


「……なぜに、お前が?」

 そこには、俺を見ていたずらが成功したとでも言いたげに笑う、エヴァンジェリンが居た。


「ふっ、じじいの代理だ」

「代理ってお前……」


 どう考えても代理じゃなくてお前が仕組んだ事だろう。
 なんだお前。学園長とお風呂入ったから嫉妬でもしたのか?
 そんなに俺と、お風呂入りたかったのか?


 そうしながら、ゆっくりと不自然じゃないように視線を外し、体をさらに半回転させ、エヴァに背を向ける。


 にやりと、俺を笑うエヴァンジェリンが背後にいるのを感じた。


「どうした? 私の体、もう見なくていいのか? 昔は興味がないと言って平気だったくせに、どんな心境の変化だ?」

「ぐっ……」


 気づかれた。


 やばい。完全にペースを握られた。
 こうなると形成の逆転が難しい。


「いいから水着を着ろ。もしくはタオルで隠せ。俺に肌を見せるな。白い肌にさしたその頬の赤や濡れて艶っぽくなったその表情もダメだ」

「昔は平気だっただろう?」

 にやにやした声が聞こえる。
 出会ってすぐの頃橋の上で裸にマントのエヴァを逆さ吊りにした時の事か。


 あの時とは違うんだよちくしょうがー。


「ああ。今だって凹凸のない身体には興味はねぇよ」

「ならばなんの問題もあるまい」


 ざぶざぶと近づいてきているのがわかる。まずい。
 それ以上近づかれるのはまずい。理性がまずい。本能がまずい。


「でもな、お前は別なんだよ。凹凸があるないに関わらず、お前ならいけちまうから問題なんだよ。好きになった人を愛したいのはある意味本能なんだよ」


 テンパってきている俺は、そのまま本音をぶちまけてしまった。


「はっきり言えばお前にだけしか今欲情しないんだよ。俺にしてみると、お前が今一番魅力的なんだよ。正直いつでも押し倒したいくらいだよ」


 言葉として意識すると、やはり恥ずかしい。
 自身の頬が赤くなっているのを自覚する。

 だが、言ってしまったのだ。ならば、最後まで突っ走るしかない!


「でも、お前を抱くのは結婚式の後って決めているんだ。この手を出さないという宣言だけは、守るって決めているんだ。だから、卒業まで手を出さないという約束だけは、守らせろ」


 真の本音。今日みたいな事&ソレを破って弱みを……は嫌だというのはナイショだ。


「なっ……」
 背後で、エヴァが立ち止まったのがわかる。


 ふぅ。なんとか形勢をイーブンにする事が出来たか……


「意味がわかったんなら俺にその姿を見せるな。新婚初夜味わいたければ動くな。見せたら襲うぞ。イイって言ったら我慢するぞ再起不能になっちゃうぞ」
 主に俺のぞうさんが。



 ちゃぷん。

 お湯が揺れる音が感じられる。



 そして、背中に現れる。やわらかい圧力。
 幸いなのは、それは彼女の背中である事がわかった事。


「この場なら簡単にお前から一生優位に立てる弱みを手に入れられるかもしれないが、今は許してやる。私の優しさにむせび泣くがいい」

「はっ、ここで俺を見逃した事を、あとで大いに満足させてやる。結婚初夜。覚えとけ」
「ふっ、期待せずに待っていよう」

「はは」
「ふふふふふ」


 風呂に俺達の笑い声がこだまする。



 背と背はあわせたままだが、その手と手は、湯船の底でしっかり重ねられていました。




───エヴァンジェリン───




 やはり、最大の敵は那波千鶴に間違いない。


 性格もかくや、あの圧倒的な肉体は、脅威だ。
 あと数年もすれば私も成長し、その差もなくなるだろうが、今は違う。


 比べるまでもなく、素の私では、勝ち目はない。


 なにより、この世には既成事実というモノがある。
 あいつは変なところにこだわりを持つから、私に対しては結婚するまで本当になにもしてこないだろう。
 凹凸のない体には興味はないとはっきり宣言もしていたしな。


 だが、女は違う。


 その愛を手に入れるのなら、己の体すら武器にするのもいとわない生き物だ。

 いかに鋼の理性を持つ彼でも無敵ではない。
 人間であるから、罠にはめられ、なにか間違いを犯させられても不思議はない。


 そうなれば、彼は『責任』をとる事もいとわないだろう。そういう男だ。


 あの娘は、彼を手に入れるために、そのくらいやってきてもおかしくない雰囲気がある。
 恋は女を強くするというが、その通りとしか言いようがないな。


 本当に恐ろしい娘だ。


 本当に14、5なのか? 実ははた……いや、なんか背筋が凍った。そこはスルーしよう。



 ともかく危険な娘が一人居るのは間違いない!



 ならば先手を打つ!



 という事で、少しじじいの名を騙らせてもらった。
 約束に律儀というのは美点でもあるが、欠点でもあるな。


 計画としてはこうだ。子供の姿を見せ、そこから大人の体へと魔法で変化。そのギャップを使い、誘惑する!
 結婚式後の……という甘い夢が失われるのが痛いが、彼そのものを失う事よりはましだ!


 大人の私の魅惑のボディならば、風呂という特殊な状況とあいまって魅力倍増!
 子供からのギャップで倍、さらにお風呂で2倍の3倍の回転までかけて魅力は1200万パワーだ!


 ふふ、完璧。完璧だな!



 だが、実行しようと湯船におもむいて私は、混乱する事になった。
 彼が、素の私の体を見て、動揺したのだ。


 子供の体など、鼻で笑われると思っていた。


 だって、昔はそうだったではないか。


「いいから水着を着ろ。もしくはタオルで隠せ。俺に肌を見せるな。白い肌にさしたその頬の赤や濡れて艶っぽくなったその表情もダメだ」

 私に背を向けた彼は、その耳までも真っ赤だ。


「昔は平気だっただろう?」
 動揺を抑え、平静を装い、声をかける。
 だが少し声に嬉しさがにじんでいる気がする。


 冷静に、冷静にだ。


「でもな、お前は別なんだよ。凹凸があるないに関わらず、お前ならいけちまうから問題なんだよ。好きになった人を愛したいのはある意味本能なんだよ」


 だが、予想を超えた答えが、帰ってきた。


「はっきり言えばお前にだけしか今欲情しないんだよ。俺にしてみると、お前が今一番魅力的なんだよ。正直いつでも押し倒したいくらいだよ」


 思わず、進む足が止まる。


「でも、お前を抱くのは結婚式の後って決めているんだ。この手を出さないという宣言だけは、守るって決めているんだ。だから、卒業まで手を出さないという約束だけは、守らせろ」


 ……あなたは、私の不安を、いつもかき消してくれる。


 う、うれしい……

 こんなにもはっきりと私を求められたのは、初めての経験だ。


 吸血鬼としての力でもなく、闇の魔法使いである私でもない。
 魔法で姿を変えた大人の私でもない。


 彼は、エヴァンジェリンとしての私をすべて愛してくれているのだ。
 ありのままの、私を。



 それが、はっきりとわかったから。



 私が一番。か。


 そうだ。なにを不安になっていたんだ。
 彼はいつでも私を選んでくれたではないか。

 いつでも、堂々と、臆する事もなく。
 私だけを選んでくれたじゃないか。


 それを、信じなくてどうする。


 彼ならば、やってくれるはずだ。
 どんな罠にかかろうとも、どんなに間違いを犯させようとされても。

 なにせ彼は、私を闇から救い上げてくれた。死すら乗り越えて、助けに来てくれた、不可能を可能にする男なのだから。


「意味がわかったんなら俺にその姿を見せるな。新婚初夜味わいたければ動くな。見せたら襲うぞ。イイって言ったら我慢するぞ再起不能になっちゃうぞ」

 そうだな。お前は本当にやってしまいそうで怖いよ。
 再起不能。それは、本当に困る。



 だから……



 無言で、彼の背中にあわせて、体を湯に沈めた。
 その背に、自分の背中を預ける。


 ……広いな。まだまだ少年の体だが、やはり男の体だ。
 小さな私の背中など、簡単に支えてくれる。


 安心する。



「この場なら簡単にお前から一生優位に立てる弱みを手に入れられるかもしれないが、今は許してやる。私の優しさにむせび泣くがいい」

「はっ、ここで俺を見逃した事を、あとで大いに満足させてやる。結婚初夜。覚えとけ」
「ふっ、期待せずに待っていよう」

「はは」
「ふふふふふ」


 私達二人の笑い声が、この広い大浴場にこだました。



 背と背はあわせたまま、私は湯船の底にある彼の手に、自分の手を重ねさせてもらった。






─あとがき─

 爆発しろおおぉぉぉぉ!!!
 はい、皆さんもご一緒に。

 爆発しろおぉぉぉぉぉぉ!!!

 皆さんのおうちの壁は大丈夫ですか? おじさんの家は平気です。もう壁ないから!


 次は夏祭り。
 バッジの争奪戦です。


 しかし千鶴さん。ルート上かませなのに全然そんな雰囲気ない。おそろしい子!


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